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特許7195829液体吐出ヘッド及び液体吐出装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20221219BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 613
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018169215
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020040284
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】岡信 圭祐
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240136(JP,A)
【文献】特開平08-330339(JP,A)
【文献】特開2016-159523(JP,A)
【文献】特開2018-176580(JP,A)
【文献】特開平11-188883(JP,A)
【文献】特開2003-080713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための素子を備える複数の基板と、前記基板を支持する支持面を備える支持部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記支持部材における前記支持面の側の面の、複数の前記基板に対応する複数の第1領域のそれぞれに樹脂剤を配置する工程と、
平坦な面を備える平坦化部材と前記支持部材との間で前記複数の第1領域のそれぞれに配置された前記樹脂剤を一括で潰して、前記複数の第1領域において前記支持面を互いに平坦な面として平坦化する工程と、
前記基板を把持する把持面と、突き当て部と、を備えた把持手段を用い、前記突き当て部と前記第1領域とを当接させた状態で、接着剤を介して前記支持面に前記基板を配置する工程を複数回行い、前記複数の基板を前記支持面にそれぞれ配置する工程と、を有し、
前記樹脂剤を配置する工程では、前記支持面、および前記平坦化部材が前記樹脂材と接する面の平面度の合計値よりも、前記樹脂剤の高さを高くして配置することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記支持部材は、複数の前記基板が前記素子の配列方向に並べられるように構成された長尺形状であり、前記液体吐出ヘッドはライン型である、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記複数の基板は、前記支持面の上で互いに隣接する第1基板と第2基板とを含み、
前記基板を配置する工程では、前記第1基板を配置する際に前記突き当て部に当接された少なくとも一つの前記第1領域と前記突き当て部を当接させた状態で、前記第2基板を配置する、請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤は熱により硬化する接着剤であり、
前記基板を配置する工程では、加熱部を備えた前記把持手段を用い、前記加熱部から前記基板を介して前記接着剤を加熱する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂剤は熱により硬化する材料であり、
前記平坦化する工程では、前記平坦化部材と前記支持部材との間で前記樹脂剤とを潰した状態で、前記樹脂剤を加熱して硬化する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂剤と前記接着剤とは、同じ材料を用いる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記平坦化する工程では、撥水面と前記樹脂剤とを接触させて前記樹脂剤を潰す、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記平坦化する工程では、前記第1領域または前記第1領域の近傍に設けられた凹部から前記樹脂剤が突出するように前記樹脂剤を配置する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記基板を配置する工程では、前記支持面と前記基板との間は前記接着剤を介して離れている、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記基板を配置する工程では、前記把持面と前記突き当て部とが、前記支持面に沿う方向において離れた位置に設けられた前記把持手段を用いる、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド及び液体吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの構成として、液体を吐出するための素子および吐出口が設けられた記録素子基板と、記録素子基板に液体を供給するための流路が設けられ、記録素子基板を支持および固定する支持基板と、を備えるものが知られている。このような液体吐出ヘッドは、記録素子基板と支持基板とが接着剤等を介して接合されている。
【0003】
この液体吐出ヘッドの製造工程において支持基板を高さ方向(液体の吐出方向)の基準として記録素子基板と支持基板とを接合する場合、基準とされる支持基板の領域の平坦性が悪いと、高さ方向において記録素子基板を精度よく接合できなくなる恐れがある。その結果、液体吐出ヘッドを液体吐出装置本体に搭載した際に、記録素子基板からメディアまでの距離がばらつき、液体の着弾精度が低下して、記録品質が低下する恐れがある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、支持基板を研削やラッピングのような機械加工技術を用いて平坦化することで、高さ方向において記録素子基板を精度良く接合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-86742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような方法では、機械加工の精度が記録素子基板の高さ方向の位置精度となるため、加工精度よりも高い精度で記録素子基板を接合することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、高さ方向における記録素子基板の位置精度を向上し、記録品質を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出するための素子を備える複数の基板と、前記基板を支持する支持面を備える支持部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、前記支持部材における前記支持面の側の面の、複数の前記基板に対応する複数の第1領域のそれぞれに樹脂剤を配置する工程と、平坦な面を備える平坦化部材と前記支持部材との間で前記複数の第1領域のそれぞれに配置された前記樹脂剤を一括で潰して前記複数の第1領域において前記支持面互いに平坦な面として平坦化する工程と、前記基板を把持する把持面と、突き当て部と、を備えた把持手段を用い、前記突き当て部と前記第1領域とを当接させた状態で、接着剤を介して前記支持面に前記基板を配置する工程を複数回行い、前記複数の基板を前記支持面にそれぞれ配置する工程と、を有し、前記樹脂剤を配置する工程では、前記支持面、および前記平坦化部材が前記樹脂材と接する面の平面度の合計値よりも、前記樹脂剤の高さを高くして配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高さ方向における記録素子基板の位置精度を向上し、記録品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図および断面図
図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造工程を示す図
図3】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造フローを示す図
図4】高さ方向における記録素子基板の位置を説明するための図
図5】高さ方向における記録素子基板の位置を説明するための図
図6】第1の実施形態に係る支持基板の平坦化工程を説明するための図
図7】第1の実施形態に係る支持基板の平坦化工程を説明するための図
図8】第1の実施形態に係る支持基板の平坦化工程を説明するための図
図9】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図および断面図
図10】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造工程を示す図
図11】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図および製造工程を示す図
図12】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図および製造工程を示す図
図13】第3の実施形態に係る支持基板の平坦化工程を示す図
図14】記録素子基板と支持基板との接合工程を示す図
図15】第4の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図および製造工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
[1.液体吐出ヘッドの構成]
図1(a)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド100の斜視図である。液体吐出ヘッド100は、液体を吐出するための素子および吐出口を備えた記録素子基板10(「基板」とも称する)と、記録素子基板10を支持する支持基板30(「支持部材」とも称する)と、を有している。本実施形態においては、図1(b)のように支持基板30に接着剤20を塗布し、記録素子基板10と支持基板30とを接着剤20を介して接合する。
【0013】
図1(c)は、図1(a)に示す液体吐出ヘッド100のA-A断面図である。記録素子基板10は吐出口形成部材11と基板13とを有している。吐出口形成部材11は、例えば感光性樹脂を使用して液体を吐出するための吐出口12がフォトリソプロセス等で高精度に形成される。なお、その材料およびプロセスは、要求される記録品質によって適宜選択可能である。基板13はSi等から形成され、内部にはエッチング等で形成された流路14を備える。さらに、基板13は各吐出口12に対応した位置に液体を吐出するための素子(不図示)を有し、この素子が外部からの電気信号によって選択的に作動し、記録画像を得る。本実施形態ではサーマル式の素子(発熱素子)を使用するが、例えばピエゾ素子を用いてもよく、吐出方式は不問である。なお、記録素子基板10を平面視した際の形状は特に限定されず、矩形、内角が直角でない平行四辺形、台形といった形状など、適宜選択できる。
【0014】
支持基板30は例えば樹脂材料を用いて射出成形によって形成される。樹脂材料は記録素子基板10との熱膨張差を小さくするため、フィラーを約50%以上含有する樹脂を使用することが好ましい。樹脂材料を選択するとコスト面で有利であるが、アルミナ等の別の材料を使用してもよい。支持基板30の内部には、記録素子基板10に液体を供給するための支持基板流路31が設けられている。
【0015】
液体吐出ヘッド100は、支持基板30の上面32(支持面)と記録素子基板10の下面15とが接着剤20を介して接着されて構成されている。不図示の液体供給ユニットから支持基板流路31、流路14を通って供給された液体は、記録素子基板10の素子から吐出エネルギーを受けて、吐出口12から液体が吐出される。なお、本明細書では、説明がある場合を除き、液体吐出ヘッド100における液体が吐出される側を「上」、その裏面側を「下」として説明する。すなわち、記録素子基板10においては、記録素子基板10の吐出口12が設けられた吐出口面は記録素子基板10の上面であり、その裏面が記録素子基板10の下面15である。また、図1(c)に示すz方向が高さ方向であり、液体吐出方向と略同じ方向である。
【0016】
[2.液体吐出ヘッドの製造工程]
次に、液体吐出ヘッドの製造工程について説明する。図3は本実施形態における液体吐出ヘッド100の製造工程を示すフローであり、図3(a)は支持基板30の当接領域の平坦化工程P1を示し、図3(b)は記録素子基板10と支持基板30との接合工程P2を示す。
【0017】
[2.1 記録素子基板と支持基板との接合工程]
まず、記録素子基板10と支持基板30とを接着剤20を介して接合する方法について図2図3(b)を用いて説明する。なお、実際の製造工程では接合工程P2より前に平坦化工程P1を行うが、便宜上、本明細書では先に接合工程P2について説明する。
【0018】
接合の際に記録素子基板10を把持する把持手段として、図2(a)に示す吸着加熱治具60を用いる。この吸着加熱治具60は、記録素子基板10を把持する把持面としての把持部63と、記録素子基板10を支持基板30にマウントする際に支持基板30に当接する突き当て部としての治具脚61とを有している。把持部63と治具脚61とは、把持面に沿う方向(支持基板30の上面32に沿う方向)において離れた位置に設けられている。また、吸着加熱治具60は、記録素子基板10を介して接着剤20を加熱するための加熱部としてのヒータ(不図示)を有している。
【0019】
まず、接着剤20を支持基板30の上面32に塗布する(S20(図3(b)))。なお、接着剤20は記録素子基板10の下面15に塗布しても構わない。ここで、塗布される接着剤20の高さは、記録素子基板10の下面15の平面度と支持基板30の上面32の平面度とを考慮することが求められる。また、記録素子基板10の厚みばらつきも考慮することが求められる。すなわち、これらの平面度や厚みのばらつきよりも接着剤20の高さを高く(厚みを大きく)して、これらの平面度や厚みのばらつきを接着剤20の厚みで吸収することが好ましい。例えば、記録素子基板10の下面15の平面度は0.01mm程度、支持基板30の上面32の平面度は0.05mm程度、記録素子基板10の厚みばらつきは±0.02mmである場合、0.1mm以上の塗布高さで接着剤20を塗布することが好ましい。なお、接着剤20の所望の高さを得るために接着剤20の塗布をディスペンス方式で行うことができる。
【0020】
そして、図2(a)のように、吸着加熱治具60で記録素子基板10を吸着把持し、上面32に接着剤20が塗布された支持基板30をベース治具62に乗せた状態とする。
【0021】
次に、図2(b)のように、吸着加熱治具60を降下させて記録素子基板10と接着剤20とを当接させ、支持基板30の上面32の記録素子基板10の搭載領域に記録素子基板10を配置する(S21(図3(b)))。この際、記録素子基板10と支持基板30は接着剤20を介して離れており、両部材は接触していない。また、図2(b)の矢視図である図2(c)に示すように、治具脚61が支持基板30の上面32に当接した状態となり、吸着加熱治具60の降下が停止される。すなわち、記録素子基板10の支持基板30に対する高さ方向の位置は、治具脚61が支持基板30の上面32に突き当たることで決定される。そのため、治具脚61と当接する支持基板30の領域の平坦性が低い(平面度が大きい)と、記録素子基板10の高さ方向における位置精度が低下する可能性がある。したがって、高さ方向において記録素子基板10を精度よく支持基板30に接合するために、支持基板30における治具脚61との当接領域は平坦性が高いことが求められる。
【0022】
そこで、本実施形態では、支持基板30における治具脚61との当接領域は樹脂40(樹脂剤)を用いて平坦化する工程を行い、この樹脂40によって平坦化された当接領域に治具脚61を突き当てて、支持基板30に記録素子基板10を接合する。なお、この平坦化工程の詳細については後で説明する。
【0023】
図2(c)に示す状態で、吸着加熱治具60のヒータから記録素子基板10を介して接着剤20に熱を与え、接着剤20を仮硬化させる(S22(図3(b)))。その後、接着剤20の本硬化を行い(S23(図3(b)))、液体吐出ヘッド100を得る。なお、吸着加熱治具60による加熱で本硬化を行う場合、後の本硬化は行わなくてもよい。
【0024】
本実施形態では、熱による仮硬化で高さ位置を決定するため、接着剤20として熱硬化型の接着剤を使用することができる。例えば、160℃に昇温した吸着加熱治具60で記録素子基板10を把持し、昇温された記録素子基板10を接着剤20に7秒間当接させ、接着剤20を仮硬化させる。なお、ここで仮硬化とは、その後の工程で精度ずれが生じない程度の強度まで硬化させることをいう。例えば本実施形態においては5N以上のせん断力を有するように条件を設定する。なお、本実施形態では、吸着加熱治具60から接着剤20に対して熱を与える構成であるが、仮硬化が可能であれば伝熱の方式は不問である。また、接着剤20は、仮硬化が可能であればUV硬化型や湿気硬化型等、適宜選択可能である。
【0025】
なお、上述のような支持基板30の上面32に記録素子基板10が配置される構成ではなく、図2(d)に示す変形例のように、支持基板30に設けられた凹部35の内部に記録素子基板10が配置されていてもよい。すなわち、記録素子基板10が配置される支持基板30の凹部35の底面35aと、樹脂40を用いて平坦化された当接領域が設けられる上面32との間に段差があってもよい。このような構成においては、樹脂40を用いて平坦化された上面32の領域に対して治具脚61を当接させて、記録素子基板10を支持基板30の凹部35の底面35aに対して接着剤20を介して配置する。これにより、高さ方向において記録素子基板10を精度よく支持基板30に接合することができる。
【0026】
[2.2 記録素子基板と支持基板との接合工程における課題]
次に、記録素子基板10を支持基板30へ搭載する際の課題について説明する。
【0027】
液体吐出ヘッド100を液体吐出装置本体200(以下、「本体」とも称する)に搭載した状態を図4(a)に示す。支持基板30の上面32と本体200とが当接しており、すなわち、液体吐出ヘッド100は支持基板30の上面32を基準に本体200に搭載される。この支持基板30の上面32からメディア300までの距離dは、本体200によって一定に保たれている。したがって、液体の着弾精度に影響する記録素子基板10とメディア300との距離hは、支持基板30の上面32と記録素子基板10の上面(吐出口面)との距離tによって決まる。
【0028】
この距離tは、記録素子基板10の厚み公差と支持基板30の面精度とに起因するばらつきが生じる。このため、記録素子基板10と支持基板30とを突き当てて(突き当て方式と呼ぶ)接着する場合、図4(b)に示すように、距離t(t1、t2)は厚み交差と支持基板の平面度によってばらつきΔt1が生じ、液体の着弾精度が低下する恐れがある。例えば、記録素子基板10の厚み公差は±0.02mm程度、支持基板30の上面32の平面度は0.05mm程度である場合、距離hは最大でΔt1=0.09mm程度のばらつきが生じる恐れがある。
【0029】
一方で、図4(c)に示すように、記録素子基板10と支持基板30とを当接させずに距離tを一定として接着剤20を介して記録素子基板10と支持基板30とを接着する(フローティング方式と呼ぶ)方式もある。この方式では、記録素子基板10の厚み公差と支持基板30の面精度によらず距離t(図4(c)ではt=t3)を一定とすることができる。
【0030】
しかし、本実施形態では、記録素子基板10と支持基板30とを接合する際に接着剤20を加熱して仮硬化するため、吸着加熱治具60から記録素子基板10と接着剤20とを介して支持基板30へと熱が伝わる。この熱により、図4(d)に示すように、支持基板30は熱膨張や熱変形を生じ、この状態で接着剤20が仮硬化されてしまう。一方で、記録素子基板10は、その線膨張率が支持基板30よりも小さいため、支持基板30よりも熱による変形量が小さい。その後、図4(e)に示すように、支持基板30が常温に戻って熱による変形が元の状態へと戻ると、支持基板30の形状変化に伴って記録素子基板10が引っ張られて変形してしまう。すると、距離tは、t3からt4へ変化してしまう。例えば、支持基板30の材料として線膨張係数30ppm、厚さ20mmの樹脂を使用する場合、支持基板30が100℃程度まで昇温すると0.05mm程度熱膨張する。また、支持基板30は熱により0.05mm程度反りあがってしまう。したがって、距離tはΔt2=0.1mm程度変化する恐れがある。支持基板30の材料のロットや支持基板30の成形条件などによる支持基板30の線膨張率のばらつきに伴って、熱に起因する距離tの変化量にもばらつきが生じる恐れがある。なお、このような課題は、本実施形態で説明するような吸着加熱治具60を用いた加熱に限らず、加熱炉を用いた雰囲気加熱や支持基板30の側にヒータを設けて加熱する場合にも生じる。
【0031】
このように、上述した突き当て方式とフローティング方式では、距離tがばらつくことによってメディア300までの距離hがばらつき、液体の着弾精度を低下させる恐れがある。そのため、本実施形態では、図2(c)で説明したように、治具脚61を支持基板30の上面32に突き当てた状態、かつ記録素子基板10と支持基板30とが当接しない状態で接着剤20を介して接着を行う。支持基板30が加熱されて変形した状態において治具脚61が支持基板30の上面に当接して距離tが決定されるため、支持基板30が常温の状態になって変形が戻り、これに伴って記録素子基板10が変形しても、距離tの変化はほぼ抑えられる。これにより、記録素子基板10の厚み公差と支持基板30の熱変形の影響が抑えられ、記録素子基板10の高さの位置精度を向上することができる。
【0032】
したがって、本実施形態では、治具脚61が当接される支持基板30の当接領域の平坦性が求められる。図5は、支持基板30の当接領域の平坦性と記録素子基板10の高さ方向の位置精度を説明するための模式図である。図5(a)は、記録素子基板10と支持基板30とを接着する際の、治具脚61と支持基板30の上面32とが当接する状態を示す斜視図であり、図5(b)~図5(d)は図5(a)の矢視図である。図5(b)に示すように支持基板30における治具脚61との当接領域の平坦性が高い場合、上述した距離tは略一定(t=t5)となり、記録素子基板10の高さ方向の位置精度を確保することができる。一方で、図5(c)に示すように支持基板30における治具脚61との当接領域の平坦性が低い場合、記録素子基板10の高さ方向の位置精度が低下する恐れがある。例えば、所望の距離tをt5とした場合に、Δt3=t5-t6の距離のばらつきが生じる。特に、支持基板30を樹脂材料で形成する場合、支持基板30はその表面に凹凸が生じており平坦性が低くなりやすいため、支持基板30の当接領域を平坦化することが求められる。ここで、特許文献1のような研削等の機械加工で平坦化すると、機械加工精度が記録素子基板の高さ方向の位置精度となるため、加工精度よりも高い精度で記録素子基板を接合することは困難である。また、機械加工の際に生じるゴミにより、記録素子基板の吐出口が閉塞されて記録品質が低下する恐れもある。また、高精度な機械加工のための加工費やゴミ除去のための洗浄費等によってコストアップにつながる恐れもある。
【0033】
そこで、本実施形態では、樹脂40を使用して支持基板30における治具脚61との当接領域の平坦化を図り、図5(d)に示すように、樹脂40と治具脚61とを当接させて記録素子基板10を支持基板30の上に設ける。これにより、平坦性が小さい(平面度が大きい)支持基板30を用いた場合においても、距離tを所望のt5との差の小さいt7とすることができ、距離tのばらつきを抑えることができる。
【0034】
[2.3 支持基板の当接領域の平坦化工程]
樹脂40を用いた支持基板30の当接領域の平坦化工程について、図3(a)、図6を用いて説明する。図6は、支持基板30の上面32における治具脚61との当接領域を平坦化する工程を説明するための図である。図6に示すように支持基板30の上面32は凹凸があり平坦性が低い。
【0035】
まず、図6(a)に示すように、支持基板30における治具脚61との当接領域(第1領域)に樹脂40を塗布する(S10(図3(a)))。この当接領域は、記録素子基板10が接合される領域の近傍に位置している。なお、樹脂40は、当接領域内における1箇所でもよくまたは複数箇所に配置されてもよい。または、支持基板30の全面に樹脂40を塗布しても構わない。
【0036】
次に、図6(b)のように、樹脂40を塗布した支持基板30を上下逆転させ、平坦化部材としての定盤50に押し付けて固定する(S11(図3(a)))。この際、樹脂40は定盤50ないしテフロン(登録商標)シート51に押されて変形する。定盤50と樹脂40が直接触れると、樹脂40の硬化後の剥離が困難であるため、定盤50と樹脂40との間に撥水面を有するテフロンシート51を挟むことが好ましい。テフロンシート51を使用する代わりに、定盤50上に撥水処理を施して撥水面を形成してもよい。
【0037】
その後、支持基板30を固定したまま樹脂40を硬化させる(S12(図3(a)))ことで、図6(c)のように支持基板30の上面32における当接領域が平坦化され、この当接領域は平坦な面とされる。支持基板30を矯正した状態で別部材と接着するような工程がある場合には、その工程の際に平坦化工程を合わせて行うことも可能である。なお、本明細書では、上記のような工程を行う前と比べ、支持基板30の治具脚61との当接領域における平面度を小さくすることを「平坦化」と称する。
【0038】
当接領域に設けられた樹脂40は記録素子基板10と支持基板30との接着の際に治具脚61を突き当てられるため、樹脂40はその硬化後の硬度が高い方が精度の観点から有利である。例えば、樹脂40として25℃において弾性率2.0E+03程度の熱硬化型樹脂を使用し、100℃、3時間で樹脂を硬化させる。なお、樹脂40は、接着剤20と同じ材料を用いてもよい。また、定盤50は、例えばSUS303で形成されたものを使用し、樹脂40に押圧される面の平面度は0.005mm以下と平坦性の高い面を備えるものを使用することが好ましい。また、テフロンシート51は、必要な大きさに切削加工を行い、平面度は0.015mm以下で作成することが好ましい。
【0039】
樹脂40はテフロンシート51に当接して押し当てられて変形するため、支持基板30の上面32、定盤50およびテフロンシート51の平面度を考慮した高さで塗布することが求められる。すなわち、これらの平面度を樹脂40の高さで吸収するために、これらの平面度よりも樹脂40の高さを高く(厚みを大きく)することが好ましい。例えば、支持基板30の上面32の平面度が0.05mm程度、定盤50の平面度が0.005mm程度、テフロンシート51の平面度が0.015mm程度である場合、0.07mm以上の塗布高さで樹脂40を塗布することが好ましい。この際、塗布後の時間経過によって樹脂40の高さが低くなることを考慮し、十分な高さで樹脂40を塗布することが好ましい。例えば、25℃において180Pa・s程度の粘度を有する樹脂を使用し、塗布高さ0.07mm以上を確保できるような条件で、樹脂40を塗布することが好ましい。
【0040】
また、樹脂40が支持基板30の凸部に塗布されると、定盤50とテフロンシート51とで樹脂40を潰した際に樹脂40の厚みが薄くなる。この際、使用する樹脂に含有される物質の粒径が大きいと、図6(d)に示すように樹脂40の含有物質Mが凸部上に残り、支持基板30の当接領域の平坦性が低下する恐れがある。したがって、樹脂40は含有物の粒径が小さい方が好ましく、具体的には最大粒径0.005mm以下の樹脂を使用することが好ましい。
【0041】
次に、支持基板30の上面32の凹凸形状が異なる場合における樹脂40を用いた当接領域の平坦化について図7を用いて説明する。図7(a)は支持基板30の上面32の凹部に樹脂40が塗布された場合を示しており、図7(a)のような凹部から突出するような高さで樹脂を塗布する。図7(b)は支持基板30の上面32の凸部に樹脂40が塗布された場合、図7(c)は凹凸の少ない支持基板30の上面32に樹脂40が塗布された場合をそれぞれ示している。上述したように定盤50を用いて樹脂40を潰すことで樹脂40が広がる。具体的には、図7(a)では樹脂40が凹部の中に広がり、図7(b)では樹脂40が凸部から逃げてその周囲や周囲に形成された凹部の中に広がり、図7(c)では樹脂40が周囲に広がる。このように樹脂40を用いることで、支持基板30の凹凸形状に関わらず当接領域の平坦化が可能である。
【0042】
図7は治具脚61との当接領域となる樹脂40の塗布領域に特に加工を施していない支持基板30の凹凸形状を説明したが、樹脂40の塗布領域やその近傍に溝を設けるような加工を施して、樹脂40の広がる領域を規定してもよい。図8(a)のように、樹脂40の塗布領域の外側に溝33を形成することで、樹脂40が潰されて溝33の中に入るため、樹脂40が広がる領域を規定することができる。また、図8(b)のように、樹脂40の塗布領域に溝34を設け、溝34の内側で樹脂40を留めることもできる。この場合、溝34から突出するような高さで樹脂40を塗布しておく。なお、溝33や溝34の内側で樹脂40を留めるために、溝33や溝34の体積よりも小さい体積の樹脂40を塗布することが好ましい。いずれの方法においても溝33、溝34の形成方法やタイミングは不問である。
【0043】
なお、これまでは支持基板30の凹凸形状や凹凸量に関わらず、樹脂40を一定量で塗布する方法を述べたが、支持基板30における当接領域の平面度を測定し、平面度に応じて決定された塗布量を塗布してもよい。この方法によっても、樹脂40を所定の範囲に留めることができる。なお、平面度の測定方法としては、レーザ変位計や接触式の高さセンサ等を用いることができる。
【0044】
以上のように、樹脂40を塗布し潰して硬化させることで、支持基板30の治具脚61との当接領域の平坦化を行うことができる。そして、この樹脂40が塗布された当接領域に治具脚61を当接し、この領域を高さ方向の基準として記録素子基板10を支持基板30に接着する。これにより、支持基板30の表面の平坦性が低い場合であっても、支持基板30の上面32と記録素子基板10の上面(吐出口面)との距離tのばらつきを抑えることができる。すなわち、図4(a)に示した吐出口面からメディアまでの距離hのばらつきを抑えることができ、液体の着弾精度を向上することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図9(a)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド101の斜視図である。液体吐出ヘッド101は、記録素子基板10と、記録素子基板10を支持する補助支持基板80と、記録素子基板10ならびに補助支持基板80を支持する支持基板30と、を有している。図9(b)のように、液体吐出ヘッド101は、記録素子基板10と補助支持基板80とが第2の接着剤70を介して接着された記録素子ユニット400と、支持基板30とが接着剤20を介して接着されている。本実施形態は、上述の実施形態の記録素子基板10に代わり、記録素子ユニット400を支持基板30に接着する構成である。記録素子ユニット400を支持基板30に接着する際に、樹脂40を用いて平坦化された支持基板30の当接領域を基準として用いる。その他の構成や製造工程は上述の実施形態と同様である。なお、本実施形態のような記録素子基板10と補助支持基板80とを合わせた記録素子ユニット400を「基板」と称してもよい。
【0046】
図9(c)は、図9(a)に示す液体吐出ヘッド101のB-B断面図である。記録素子基板10と支持基板30の構成は、上述の実施形態と同様である。補助支持基板80は例えばアルミナを用いて形成することができる。この補助支持基板80を記録素子基板10と支持基板30との間に設けることで、記録素子基板10と支持基板30との間の熱膨張差を軽減し、熱膨張差に起因する記録素子基板10の割れの発生を抑えることができる。補助支持基板80の内部には記録素子基板10に液体を供給するための補助支持基板流路81が設けられており、この流路81は、支持基板流路31と記録素子基板10内の流路14とを連通している。
【0047】
記録素子基板10と補助支持基板80との接着を接着する方法について図10を用いて説明する。まず、図10(a)のように、吸着加熱治具67で記録素子基板10を吸着把持する。次に、第2の接着剤70が塗布された補助支持基板80をベース治具62に乗せる。第2の接着剤70は記録素子基板10の下面に塗布しても良い。第2の接着剤70の高さは、記録素子基板10の下面15の平面度と補助支持基板80の上面82の平面度を考慮した塗布高さとすることが好ましい。例えば、記録素子基板10の下面15の平面度が0.01mm程度、補助支持基板80の上面82の平面度が0.02mm程度である場合、接着剤70を0.03mm以上の塗布高さとすることが好ましい。なお、塗布はディスペンス方式で行うことができる。
【0048】
次に、図10(b)、図10(c)(図10(b)の矢視図)のように、吸着加熱治具67を降下させて、記録素子基板10と第2の接着剤70を当接させる。このとき記録素子基板10と補助支持基板80は当接していてもよい。この状態で吸着加熱治具67から記録素子基板10を介して第2の接着剤70に熱を与えて仮硬化させる。その後必要に応じて本硬化を行い、記録素子ユニット400を得る。なお、仮硬化の詳細は上述の第1の実施形態と同様である。
【0049】
その後、記録素子ユニット400と支持基板30とを接着剤20を用いて接着する。接着剤20の高さは、補助支持基板80の下面83と支持基板30の上面32の平面度を考慮することが好ましい。また、記録素子ユニット400の厚みばらつきも考慮することが好ましい。すなわち、これらの平面度や厚みのばらつきよりも接着剤20の高さを高く(厚みを大きく)して、これらの平面度や厚みのばらつきを接着剤20の厚みで吸収することが好ましい。例えば、補助支持基板80の下面83の平面度は0.02mm程度、支持基板30の上面32の平面度は0.05mm程度、記録素子ユニット400の厚みばらつきは±0.04mmである場合を考える。この場合、接着剤20を0.15mm以上の塗布高さで接着剤20を塗布することが好ましい。以降の工程については、記録素子基板10を記録素子ユニット400に置き換えれば、上述の実施形態と同様である。すなわち、樹脂40を用いて平坦化された支持基板30の当接領域を基準にして記録素子基板10を支持基板30に接着する。
【0050】
(第3の実施形態)
図11(a)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド102の斜視図である。本実施形態は、複数の記録素子基板10が吐出口の配列方向に並べられたライン型のヘッドである。液体吐出ヘッド102は、複数の記録素子基板10と、複数の記録素子基板10を支持する支持基板30と、を有している。本実施形態においては、図11(b)のように支持基板30に接着剤20を塗布し、複数の記録素子基板10を支持基板30に接着していく。なお、特に説明しない限り、本実施形態においても上述の実施形態と同様の構成や製造方法を用いることができる。
【0051】
本実施形態のようなライン型の液体吐出ヘッド102は、支持基板30も長尺であるため、支持基板30の上面32の平面度は大きくなりやすく(平面性は低下しやすく)、特に支持基板30を樹脂材料で形成した場合に平面度が大きくなりやすい。また、複数の記録素子基板10が搭載される支持基板30上の位置によって、接着剤20の加熱に伴う支持基板30の変形量のばらつきが生じやすい。さらに、吸着加熱治具60を用いて一枚ずつ記録素子基板10を支持基板30へ搭載すると、徐々に熱の影響を受けるため、支持基板30の変形量のばらつきが生じる可能性もある。このように、複数の記録素子基板10が支持基板30の長手方向に沿って配設されたライン型の液体吐出ヘッド102では、複数の記録素子基板10の間で高さ方向における位置精度のばらつきが生じやすい。また、配設方向において隣接する記録素子基板10同士のつなぎ部分において記録素子基板10の高さ方向の位置がずれていると、記録品質の低下が生じてしまう。
【0052】
図11(b)は、液体吐出ヘッド102の製造途中を示す斜視図であり、吸着加熱治具60を用いて接着剤20が塗布された支持基板30に記録素子基板10を接合する様子を示している。図11(c)は図11(b)の矢視図であり、上述の実施形態と同様に、樹脂40を用いて平坦化された支持基板30の当接領域に治具脚61を当接させて記録素子基板10を支持基板30の上に搭載する。これを複数回行うことで複数の記録素子基板10を接着剤20を介して支持基板30の上に接合する。図11(a)に示すように、複数の記録素子基板10の接合領域にそれぞれ対応して樹脂40が配置されている。また、この樹脂40によって平坦化された当接領域は、記録素子基板10と支持基板30とが接合された液体吐出ヘッド1の状態において露出している。
【0053】
なお、第2の実施形態のように、記録素子基板10と補助支持基板80とが接合された複数の記録素子ユニット400を支持基板30の上に設けて長尺のヘッドを構成してもよい。図12(a)はこのような液体吐出ヘッド103の構成を示す斜視図であり、図12(b)は記録素子ユニット400を支持基板30の上に接合する様子を示す図である。また、図12(c)は図12(b)の矢視図である。
【0054】
上述の実施形態と同様に、記録素子基板10(記録素子ユニット400)を支持基板30に接合する工程の前に、接合工程の際の基準となる支持基板30の当接領域を平坦化する。本実施形態では、長尺の支持基板30に対して搭載される複数の記録素子基板10の接合領域に対応して複数の当接領域が設けられている。
【0055】
図13は、本実施形態における樹脂40を用いた支持基板30の当接領域の平坦化工程を示している。まず、図13(a)に示すように、支持基板30の複数の当接領域にそれぞれ樹脂40を塗布する。次に、図13(b)に示すように、上述の実施形態と同様に定盤50とテフロンシート51とを用いて樹脂40を一括で押し潰して複数の当接領域を平坦化する。したがって、図13(c)に示すように複数の当接領域は互いに平坦な面として構成される。これにより、複数の当接領域間での平坦性を確保することができるため、高さ方向における複数の記録素子基板10の位置精度を確保することが可能となる。したがって、隣接する記録素子基板10の間での高さ方向における位置ばらつきに起因する記録品質の低下を抑えることができる。
【0056】
(第4の実施形態)
図14に示すように、第3の実施形態において吸着加熱治具60が斜傾していると、隣接する記録素子基板10の間に段差sが生じる恐れがある。段差sが大きいと、特に隣接する記録素子基板10のつなぎ部における記録品質の低下が生じる恐れがある。また、記録素子基板を複数枚配列して構成されたヘッドでは、隣接する記録素子基板同士の段差が大きくなることで、記録素子基板の吐出口面をワイピングする際に段差部分の近傍において液体の拭き残りが生じる恐れが高まる。また、記録素子基板の吐出口面をワイピングする際にワイパーが記録素子基板の吐出口面側の端部に当接して摩耗する恐れもある。本実施形態はこれを解決するためのものである。
【0057】
図15(a)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド104の斜視図である。本実施形態は、複数の記録素子基板10が吐出口の配列方向に並べられたライン型のヘッドである。図15(b)は、液体吐出ヘッド104の製造途中を示す斜視図であり、吸着加熱治具64を用いて接着剤20が塗布された支持基板30に記録素子基板10を接合する様子を示している。図15(c)、(d)は図15(b)の矢視図であり、樹脂40を用いて平坦化された支持基板30の当接領域に治具脚を当接させて記録素子基板10を支持基板30の上に搭載する。
【0058】
本実施形態においては、治具脚が当接する支持基板30の当接領域を隣接する記録素子基板10同士で共有する。そこで、隣接する記録素子基板10の間に対応する領域に樹脂40を配置する。この際、隣接する記録素子基板10の間から記録素子基板10の端部に沿って延びる延長線の上を含むように樹脂40を配置することが好ましい。また、支持基板30の両端部に搭載される記録素子基板10の支持基板30の端部近傍に樹脂40を配置する。なお、その後の樹脂40を用いた当接領域の平坦化工程は上述の実施形態と同様である。
【0059】
また、本実施形態では、吸着加熱治具64は、図15(c)の矢印方向に自由に回転可能なイコライズ機構を有している。また、吸着加熱治具64は、樹脂40に対応する位置に2本の治具脚65、66が設けられている。
【0060】
そして、このような吸着加熱治具64を用い、支持基板30に対して複数の記録素子基板10を順次搭載する。記録素子基板10を支持基板30へ搭載する際に治具脚65、66がともに樹脂40に当接するため、吸着加熱治具64が傾いていた場合であっても、吸着加熱治具64を平坦化された樹脂40に倣わせることができる。この状態で接着剤20の仮硬化を行うことで、記録素子基板10を支持基板30の上面32に沿って略平行に接合することができる。
【0061】
さらに、支持基板30の上で隣接する記録素子基板10(10a、10b)を搭載する際に、記録素子基板10a、10bの間に対応する領域に配置された樹脂40の当接領域を共有する。すなわち、記録素子基板10aを搭載する際に治具脚66を樹脂40に当接し(図15(c))、この樹脂40に対して治具脚65を当接させて、記録素子基板10aと隣接するように記録素子基板10bを搭載する(図15(d))。これにより、隣接する記録素子基板10の間で高さ方向における基準(当接部)を共通化することができるため、隣接する記録素子基板10において、支持基板30の上面32と記録素子基板10の上面との距離tのばらつきをより抑えることができる。
【0062】
以上のように、本実施形態によると、隣接する記録素子基板10間の段差sの発生を抑え、支持基板30に対して高さ方向における位置精度よく記録素子基板10を搭載することができる。これにより、吐出口面からメディアまでの距離hのばらつきをより抑えることができ、記録品質の低下をより抑えることができる。また、ワイパーの摩耗の発生を抑え、ワイパーの耐久性の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 記録素子基板
20 接着剤
30 支持基板(支持部材)
40 樹脂(樹脂剤)
50 定盤(平坦化部材)
60 吸着加熱治具(把持手段)
61 治具脚(突き当て部)
100 液体吐出ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15