(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】与信審査装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/02 20120101AFI20221219BHJP
【FI】
G06Q40/02 300
(21)【出願番号】P 2018174012
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2020-05-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598049322
【氏名又は名称】株式会社三菱UFJ銀行
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】谷茶 和人
【審査官】貝塚 涼
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032062(JP,A)
【文献】特開2007-172141(JP,A)
【文献】特開2013-246480(JP,A)
【文献】特開2001-319060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0081522(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
債権者の電子債権に関する明細情報を取得する取得部と、
前記明細情報の履歴から所定の条件を充足する前記債権者の電子債権を抽出し、前記抽出した電子債権の債権額に基づき前記債権者に対する融資枠を決定する融資枠決定部と、
を有
し、
前記所定の条件は、前記債権者と債務者との間に所定の閾値回数、所定の閾値頻度及び/又は所定の閾値金額以上の電子債権の登録及び/又は支払の完了があったことである、
与信審査装置。
【請求項2】
前記融資枠決定部は、
前記債務者毎に抽出した電子債権の債権額の総額に基づき前記債権者に対する融資枠を決定する、請求項1記載の与信審査装置。
【請求項3】
前記融資枠決定部は更に、前記抽出した電子債権の債権額に基づき前記債権者の電子債権に対する割引率を決定する、請求項
1又は2記載の与信審査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子記録債権システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、手形、売掛債権等の記録及び管理の安全のため、全銀電子債権ネットワーク(通称、でんさいネット)などの電子記録債権システムが利用されている。典型的な電子記録債権システムでは、ある企業(納入企業)が物品等を他の企業に販売又は納入すると、販売又は納入を受けた企業(支払企業)は、納入企業に対する支払債務(電子債権)を取引金融機関を介し電子記録債権システムに記録する。支払期日が到来すると、支払企業の取引金融機関から納入企業の口座を有する金融機関に資金が送金され、電子債権が現金化される。あるいは、支払期日前に電子債権の全額又は一部を現金化したい場合、納入企業は、金融機関等に対して電子債権を割引してもらい、支払期日前に現金化することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-091126号公報
【文献】特開2015-167000号公報
【文献】特開2015-149027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したでんさいネットでは、金融機関による電子債権の割引(期日前資金化)は、当該電子債権の債権者に対する融資という位置付けになっている。このため、電子債権の割引を申し込まれると、金融機関は、債権者の信用状況等に基づき当該電子債権の割引の可否を判断する。
【0005】
しかしながら、従来の電子債権に対する与信審査は人手によって行われており、より迅速且つ効率的な与信審査が望まれていた。また、従来の電子債権に対する与信審査は、電子債権が架空取引などの実際の商取引に基づくものでない不正な取引に対するものであるかについて、ほとんど考慮されなかった。
【0006】
本発明の課題は、取引状況を考慮した電子債権に対する迅速且つ効率的な与信審査を実現する与信審査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、債権者の電子債権に関する明細情報を取得する取得部と、前記明細情報の履歴に基づき、前記債権者に対する融資枠を決定する融資枠決定部とを有する与信審査装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、電子債権の割引可否判定の迅速化及び効率化を図ると共に、実際の商取引に基づかない不正取引などを考慮した電子債権に対する与信審査が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による電子記録債権システムを示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施例による与信審査装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施例による与信審査装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施例による融資枠決定処理を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施例による融資枠決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
以下の実施例では、電子債権の割引のための与信審査装置が開示される。後述される実施例を概略すると、与信審査装置は、電子債権記録機関から、例えば、所定の期間内における債権者の電子債権に関する明細情報を取得し、取得した明細情報の履歴に基づき債権者に対する融資枠を決定する。
【0012】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施例による電子記録債権システムを説明する。
図1は、本発明の一実施例による電子記録債権システムを示す概略図である。
【0013】
図1に示されるように、電子記録債権システム10は、電子債権記録機関50、ユーザ端末60及び与信審査装置100を有する。
【0014】
電子債権記録機関50は、例えば、加盟金融機関等がアクセス可能な全銀電子債権ネットワーク(通称、でんさいネット)であり、債務者によって発行された債権者に対する手形、売掛債権等を電子債権として保持する。例えば、企業が別の企業から物品やサービスを購入すると、購入した企業(債務者)は、その対価として物品やサービスを提供した企業(債権者)に対して取引金融機関を介し電子債権を発行し、支払期日が到来すると、債権者は、取引金融機関を介し債権額の支払を受けることができる。また、債権者が、支払期日前に電子債権を現金化したい場合、金融機関等に当該電子債権の割引を依頼することによって、当該債権額の全額又は一部を現金化することが可能である。
【0015】
ユーザ端末60は、典型的には、与信審査装置100に各種指示及び/又はデータを提供するための端末であり、例えば、パーソナルコンピュータなどの通信機能を備えた何れかの情報処理装置であってもよい。
【0016】
与信審査装置100は、以下で詳細に説明されるように、電子債権記録機関50とやりとりすることによって、電子債権の割引に対して債権者の与信審査を実行する。
【0017】
与信審査装置100は、典型的には、サーバにより実現され、例えば、
図2に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、与信審査装置100は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU(Central Processing Unit)104、インタフェース装置105及び通信装置106を有する。
【0018】
与信審査装置100における後述される各種機能及び処理を実現するプログラムを含む各種コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体107によって提供されてもよい。プログラムを記憶した記録媒体107がドライブ装置101にセットされると、プログラムが記録媒体107からドライブ装置101を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体107により行う必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータなどを格納する。メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムやデータを読み出して格納する。プロセッサとして機能するCPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムやプログラムを実行するのに必要なパラメータなどの各種データに従って、後述されるような与信審査装置100の各種機能及び処理を実行する。インタフェース装置105は、ネットワーク又は外部装置に接続するための通信インタフェースとして用いられる。通信装置106は、外部装置と通信するための各種通信処理を実行する。しかしながら、与信審査装置100は、上述したハードウェア構成に限定されるものでなく、他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよい。
【0019】
次に、
図3~5を参照して、本発明の一実施例による与信審査装置100を説明する。
図3は、本発明の一実施例による与信審査装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0020】
図3に示されるように、与信審査装置100は、取得部110及び融資枠決定部120を有する。
【0021】
取得部110は、債権者の電子債権に関する明細情報を取得する。具体的には、債権者から電子債権の割引の申し出が金融機関にされ、当該金融機関の担当者のユーザ端末60から当該債権者に対する電子債権の割引のための融資枠決定処理の実行要求を受信すると、取得部110は、電子債権記録機関50から所定の期間(例えば、直近数ヵ月~数年間など)における当該債権者の電子債権に関する明細情報を取得する。明細情報としては、例えば、各電子債権の取引先(債務者)、記録日(発行日又は振出日)、債権額及び支払期日等が含まれうる。取得部110は、取得した明細情報の履歴を
図4に示されるようなデータ形式で保持する。ここで、所定の期間としては、債権者と債務者との間の取引の継続性を判断するのに適した何れかの期間が選択される。
【0022】
融資枠決定部120は、明細情報の履歴に基づき、債権者に対する融資枠を決定する。具体的には、融資枠決定部120は、債務者毎に抽出した電子債権の債権額の総額に基づき債権者に対する融資枠を決定してもよい。例えば、
図4に示されるような債権者の明細情報の履歴について、債権者がA社から3ヵ月後を支払期日とする3百万円の電子債権を毎月受け取っているとすると、融資枠決定部120は、A社からの電子債権に対して9百万円(3百万円×3ヵ月)を限度額とする融資枠を設定してもよい。また、債権者がB社から4ヵ月後を支払期日とする5百万円の電子債権を毎月受け取っているとすると、融資枠決定部120は、B社からの電子債権に対して20百万円(5百万円×4ヵ月)を限度額とする融資枠を設定してもよい。同様に、債権者がC社から2ヵ月後を支払期日とする1百万円の電子債権を毎月受け取っているとすると、融資枠決定部120は、C社からの電子債権に対して2百万円(1百万円×2ヵ月)を限度額とする融資枠を設定してもよい。この結果、融資枠決定部120は、A社、B社及びC社の電子債権に対して、31百万円(9百万円+20百万円+2百万円)を総額とする融資枠を当該債権者に設定する。このようにして、融資枠決定部120は、電子債権の明細情報が収集された所定の期間の期中における電子債権の債権額の最大残高に基づき融資枠を設定してもよい。しかしながら、本発明は、これに限定されず、例えば、融資枠決定部120は、電子債権の明細情報が収集された所定の期間の期中における電子債権の債権額の平均残高に基づき融資枠を設定してもよい。
【0023】
なお、融資枠の決定は、上述した債権額の残高に基づくものに限定されず、例えば、債権者及び/又は債務者の信用状況に基づき決定されてもよい。具体的には、債権者が当該金融機関からすでに融資を受けている場合、融資枠決定部120は、融資判定に利用された債権者の信用情報及び/又は融資枠を援用して、電子債権の割引に対する債権者の融資枠を決定してもよい。また、融資枠決定部120は、債務者の信用状況に基づき電子債権の割引に対する債権者の融資枠を決定してもよい。あるいは、融資枠決定部120は、上述した電子債権の債権額の総額、債権者及び債務者の信用状況等の何れかの組み合わせに基づき、債権者の融資枠を決定してもよい。
【0024】
一実施例では、融資枠決定部120は、明細情報の履歴から所定の条件を充足する債務者に対する債権者の電子債権を抽出し、抽出した電子債権の債権額に基づき債権者に対する融資枠を決定してもよい。一例として、当該所定の条件は、債権者と債務者との間の取引の継続性に関するものであってもよい。すなわち、取得部110によって取得された所定の期間内における電子債権の明細書の履歴のうち、債権者と債務者との間に所定の閾値回数、所定の閾値頻度及び/又は所定の閾値金額以上の電子債権の登録及び/又は支払の完了があった場合に、債権者と債務者との間に継続的な取引があったと判断されてもよい。このような場合、債権者と債務者との間には実際の商取引があったと推認することができ、債権者と債務者との間の取引が架空取引である可能性は低いと判断できる。融資枠決定部120は、このような取引の継続性を示す条件を充足する債務者によって発行された電子債権の債権額に基づき、上述した融資枠算出方法に従って融資枠を決定してもよい。本実施例によると、継続的な取引のみの電子債権に基づき債権者の融資枠を決定することができ、実際の商取引に基づかない電子債権の割引を回避することができる。
【0025】
なお、実際の取引では、単発の正常取引に基づく電子債権も発生しうる。このような所定の条件を充足しない電子債権については、与信審査装置100は、個別に与信審査を実行し、電子債権の割引可否を判断してもよい。
【0026】
また、一実施例では、融資枠決定部120は更に、債権者の電子債権に対する割引率を決定してもよい。具体的には、融資枠決定部120は、債権者の電子債権の明細情報の履歴に基づき、債権者に対する電子債権の割引に関する融資枠と共に割引率を決定してもよい。
【0027】
例えば、融資枠決定部120は、発行日から支払期日までの期間の長さに応じて融資枠及び/又は割引率を決定してもよい。典型的には、融資枠決定部120は、相対的に長い期間の電子債権に対して、短い期間の電子債権より相対的に大きな融資枠と相対的に高い割引率とを設定してもよい。
図4に示された具体例において、融資枠決定部120は、C社による2ヵ月の電子債権には限度額が増加し、及び/又は割引率が減少するよう重み付けをし、B社による4ヵ月の電子債権には限度額が減少し、及び/又は割引率が増加するよう融資枠及び/又は割引率を重み付けをしてもよい。
【0028】
また、融資枠決定部120は、債権者及び/又は債務者の信用状況に応じて融資枠及び/又は割引率を決定してもよい。典型的には、融資枠決定部120は、相対的に高い信用力を有する債権者及び/又は債務者の電子債権に対して、信用力の低い債権者及び/又は債務者の電子債権より相対的に大きな融資枠と相対的に低い割引率とを決定してもよい。例えば、債権者の信用力が十分とは言えない、あるいは、取引実績があまりない場合、融資枠決定部120は、
図4に示された具体例において算出した限度額が減少し、及び/又は割引率が増加するよう融資枠及び/又は割引率を重み付けをしてもよい。本実施例によると、個別の事案に応じて柔軟な融資枠及び/又は割引率の設定を行うことが可能になる。
【0029】
図5は、本発明の一実施例による融資枠決定処理を示すフローチャートである。当該融資枠決定処理は、与信審査装置100、特に与信審査装置100のプロセッサによって実行される。
【0030】
図5に示されるように、ステップS101において、与信審査装置100は、債権者の電子債権の明細情報を取得する。すなわち、与信審査装置100は、電子債権記録機関50から、所定の期間における融資枠決定対象の債権者の電子債権の明細情報を取得及び保持する。
【0031】
ステップS102において、与信審査装置100は、取得した明細情報から、所定の条件を充足する電子債権の明細情報を抽出してもよい。例えば、与信審査装置100は、債権者と債務者との間で継続的な取引が行われている電子債権の明細情報を抽出してもよい。具体的には、与信審査装置100は、電子債権記録機関50から取得された所定の期間内における電子債権の明細情報の履歴のうち、債権者と債務者との間に所定の閾値回数、所定の閾値頻度及び/又は所定の閾値金額以上の電子債権の登録及び/又は支払の完了があった場合に、債権者と債務者との間に継続的な取引があったと判断し、当該債務者から当該債権者に発行された電子債権の明細情報を融資枠決定処理に利用するデータとして抽出してもよい。あるいは、与信審査装置100は、信用力が高い債務者(例えば、上場企業など)から当該債権者に発行された電子債権の明細情報を融資枠決定処理に利用するデータとして抽出してもよい。
【0032】
ステップS103において、与信審査装置100は、抽出した明細情報に基づき債権者に対する融資枠を決定してもよい。具体的には、与信審査装置100は、上述した所定の期間の期中における電子債権の債権額の残高を算出し、算出した残高を融資枠として設定してもよい。
【0033】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 電子記録債権システム
50 電子記録債権機関
60 ユーザ端末
100 与信審査装置
110 取得部
120 融資枠決定部