(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】パーキングロック装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20221219BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20221219BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20221219BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20221219BHJP
F16H 61/22 20060101ALI20221219BHJP
F16H 63/48 20060101ALI20221219BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20221219BHJP
B60T 15/36 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B60T7/12 A
F16H63/34
F16H61/28
F16H59/08
F16H61/22
F16H63/48
B60T1/06 G
B60T15/36 Z
(21)【出願番号】P 2018176951
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】嵩 聖矢
(72)【発明者】
【氏名】辻 太一
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 拓磨
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-257093(JP,A)
【文献】特開2008-126962(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047413(WO,A1)
【文献】特開2015-190606(JP,A)
【文献】特開2008-128444(JP,A)
【文献】特表2009-520163(JP,A)
【文献】特開2017-161021(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014017172(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 15/00-17/22
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/36
F16H 61/66-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングギヤ及びパーキングポールを有し、該パーキングポールがパーキングギヤに噛み込むことにより該パーキングギヤをロックして車両をパーキング状態にするパーキング機構と、
エンジンによって駆動されるオイルポンプにより昇圧された油圧の供給が停止されたときに、前記パーキングギヤをロックし、油圧が供給されたときに、該油圧による押力により前記パーキングポールを駆動して前記パーキングギヤのロックを解除するロック状態切替手段と、
通電時に、前記ロック状態切替手段を、前記パーキングギヤのロックが解除された状態で保持し、非通電時に該保持を停止するロック解除状態保持手段と、
シフトレンジを選択する操作を受け付けるセレクト手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記エンジンによって前記オイルポンプが駆動されているときに、パーキングレンジが選択された場合には前記ロック状態切替手段に対する油圧の供給を停止し、パーキングレンジ以外のシフトレンジが選択された場合には前記ロック状態切替手段に対して油圧を供給する切替制御手段と、
運転者の操作を含む、所定の作動条件が満足された場合に、電動アクチュエータを駆動して車両を制動する電動パーキングブレーキと、
パーキングレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフされた場合に、車速がゼロの状態が所定時間継続しておらず、かつ、前記電動パーキングブレーキが作動していないときには、前記ロック解除状態保持手段に
対する通電を保持して、前記パーキングギヤのロックが解除された状態を保持し、車速がゼロの状態が所定時間継続したとき、又は、前記電動パーキングブレーキが作動したときには、前記ロック解除状態保持手段に対する通電を停止して、前記パーキングギヤのロックが解除された状態の保持を停止する保持制御手段と、を備えることを特徴とするパーキングロック装置。
【請求項2】
前記電動パーキングブレーキは、イグニッションがオンの状態でのみ解除可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のパーキングロック装置。
【請求項3】
前記ロック状態切替手段は、軸方向に移動可能に設けられ、外周面に、凹部が形成されたピストンを有し、
前記ロック解除状態保持手段は、通電されたときに外部に突出して前記ピストンの凹部と嵌合するプランジャを有する電磁ソレノイドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパーキングロック装置。
【請求項4】
前記ロック状態切替手段は、前記ピストンの一方の端部側に設けられた油室と、前記ピストンの他方の端部側に配設されたスプリングと、を有し、前記油室に供給される油圧による押力と、前記スプリングの付勢力とのバランスにより、前記ピストンが軸方向に移動することにより、前記パーキングギヤのロック状態を切り替えることを特徴とする請求項3に記載のパーキングロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングロック装置に関し、特に、シフトバイワイヤ機構が採用された車両のパーキングロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動変速機では、P(パーキング)レンジが選択されたときには、自動変速機の出力軸に嵌合されたパーキングギヤがロックされるパーキングロック機構を備えている。また、近年、運転者が選択したシフトレンジをスイッチ等によって検出し、その検出結果に基づいて、例えば油圧式のアクチュエータを駆動することにより、自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤ(SBW)機構を備えた自動変速機が実用化されている。
【0003】
油圧式のシフトバイワイヤ機構(油圧式のアクチュエータを用いたパーキングロック機構)では、例えば、Pレンジが選択されると、油圧の供給が停止され、パーキングポールが揺動して、パーキングギヤがロックされる。一方、Pレンジ以外のシフトレンジが選択されると、油圧が供給され、パーキングギヤのロックが解除される。ここで、運転者が意図しないときに(走行中などに)、例えば、エンジンストールなどにより油圧が低下して、パーキングギヤがロックされることを防止するために、油圧が供給されパーキングギヤのロックが解除された状態のときに、その解除状態を保持するための電磁ソレノイドを駆動し、油圧が低下したとしてもパーキングギヤがロックされることを防止する機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のロッキング装置は、ハウジングの中で軸方向に移動し得るように配置され、所定の軸方向位置でロックすることができるピストンユニット、及び、ピストンユニットのロック位置で自動的に作動し、ピストンユニットを保持するラッチ機構を有している。ラッチ機構は、電磁ソレノイドにより駆動され、ピストンユニットのロック位置でピストンユニットと結合されるスプリングアームを備えている。スプリングアームは、電磁ソレノイドによって駆動されることにより、ピストンユニットの掛合区域とロック位置で当接する。
【0005】
特許文献1に記載のロッキング装置によれば、油圧が供給されパーキングギヤのロックが解除されている状態のときに、ピストンユニットを保持するためのラッチ機構を駆動(すなわち電磁ソレノイドを駆動)することにより、運転者が意図していないにもかかわらず、パーキングギヤがロックされてしまうことを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したようなパーキングロック機構を有するSBWシステム搭載車では、運転者によるパーキングロックのかけ忘れを防止する目的で、パーキングレンジ以外でイグニッションがオフ(すなわちエンジンが停止)された場合、自動的にパーキングロックを作動させる(すなわち上記電磁ソレノイドをオフする)機能が付加されたものが知られている。ただし、パーキングロック機構は、ピストン(ピストンユニット)の作動に高圧のオイルを用いるため、一度パーキングロックされてしまうと、パーキングロックを解除するためにはエンジンを再始動させる必要がある。そのため、例えば、洗車機の利用等でエンジンを停止したまま車両をN(ニュートラル)レンジにしたいというニーズに対し、Nレンジでのイグニッション・オフ操作や、特定の操作パターン後のイグニッション・オフ操作では、自動パーキングロック制御を作動させない(電磁ソレノイドをオフしない)ようにした車両が知られている。
【0008】
このような場合、ニュートラル状態は、ピストン(ピストンユニット)の移動を規制する電磁ソレノイドによって保持されるため、バッテリ上がりを防止するなどの観点から、例えば、車両停止状態が所定時間継続された場合には、運転者に車両移動の意思がないと判断して、自動的にパーキングレンジに切替える(電磁ソレノイドをオフする)ものが知られている。
【0009】
しかしながら、上記所定時間は、一時的な停止(例えば、上述した洗車機利用などの停止)と、継続して車両移動の意思がないこととを間違いなく区別するために、比較的長い時間を確保する必要がある。そのため、運転者に車両移動の意思がなかった場合には、その間(すなわち、上記所定時間の経過を待つ間)における電磁ソレノイドの電力消費が無駄になってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、パーキングレンジ以外でイグニッションがオフされた場合に、所定の条件が満たされたときには、自動的にパーキングロックする機能(自動パーキングロック機能)を有するパーキングロック装置において、運転者に車両移動の意思があるときには、その意思を妨げることなく(すなわち、非パーキングロック状態を保持でき)、運転者に車両移動の意思がない場合には、パーキングギヤがロックされていない状態(非パーキングロック状態)を保持するために消費される消費電力を低減することが可能なパーキングロック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るパーキングロック装置は、 パーキングギヤ及びパーキングポールを有し、該パーキングポールがパーキングギヤに噛み込むことにより該パーキングギヤをロックして車両をパーキング状態にするパーキング機構と、エンジンによって駆動されるオイルポンプにより昇圧された油圧の供給が停止されたときに、パーキングギヤをロックし、油圧が供給されたときに、該油圧による押力によりパーキングポールを駆動してパーキングギヤのロックを解除するロック状態切替手段と、通電時に、ロック状態切替手段を、パーキングギヤのロックが解除された状態で保持し、非通電時に該保持を停止するロック解除状態保持手段と、シフトレンジを選択する操作を受け付けるセレクト手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、エンジンによってオイルポンプが駆動されているときに、パーキングレンジが選択された場合にはロック状態切替手段に対する油圧の供給を停止し、パーキングレンジ以外のシフトレンジが選択された場合にはロック状態切替手段に対して油圧を供給する切替制御手段と、運転者の操作を含む、所定の作動条件が満足された場合に、電動アクチュエータを駆動して車両を制動する電動パーキングブレーキと、パーキングレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフされた場合に、車速がゼロの状態が所定時間継続しておらず、かつ、電動パーキングブレーキが作動していないときには、ロック解除状態保持手段に通電して、パーキングギヤのロックが解除された状態を保持し、車速がゼロの状態が所定時間継続したとき、又は、電動パーキングブレーキが作動したときには、ロック解除状態保持手段に対する通電を停止して、パーキングギヤのロックが解除された状態の保持を停止する保持制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るパーキングロック装置によれば、パーキングレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフされた場合に、車速がゼロの状態が所定時間継続しておらず、かつ、電動パーキングブレーキが作動していないときには、ロック解除状態保持手段に通電して、パーキングギヤのロックが解除された状態が保持され、車速がゼロの状態が所定時間継続したとき、又は、電動パーキングブレーキが作動したときには、ロック解除状態保持手段に対する通電が停止されて、パーキングギヤのロックが解除された状態の保持が停止される。ここで、イグニッション・オフ時に電動パーキングブレーキによって車両が制動されている場合、運転者に車両を移動させる意図がないと推測できる。そのため、電動パーキングブレーキの作動状態を条件とすることで、運転者の車両移動意思の確認時間を短縮することができる。その結果、運転者に車両移動の意思があるときには、その意思を妨げることなく(すなわち、非パーキングロック状態を保持でき)、運転者に車両移動の意思がない場合には、パーキングギヤがロックされていない状態(非パーキングロック状態)を保持するために消費される消費電力を低減することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るパーキングロック装置では、上記電動パーキングブレーキが、イグニッション・オンの状態でのみ解除可能に構成されていることが好ましい。
【0014】
この場合、電動パーキングブレーキが、イグニッション・オンの状態でのみ解除可能に構成されている。すなわち、イグニッション・オフの状態では電動パーキングブレーキを解除することができない。よって、イグニッション・オフの状態で電動パーキングブレーキが作動されている場合、確実に、運転者に車両移動の意思のないと推認することができる。
【0015】
本発明に係るパーキングロック装置では、ロック状態切替手段が、軸方向に移動可能に設けられ、外周面に、凹部が形成されたピストンを有し、ロック解除状態保持手段が、通電されたときに外部に突出してピストンの凹部に嵌合するプランジャを有する電磁ソレノイドであることが好ましい。
【0016】
この場合、ロック解除状態保持手段(電磁ソレノイド)に通電されたときにプランジャが外部に突出して、該プランジャがピストンの凹部に嵌合される。そのため、パーキングギヤのロックが解除された状態を確実に保持することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るパーキングロック装置では、ロック状態切替手段が、ピストンの一方の端部側に設けられた油室と、ピストンの他方の端部側に配設されたスプリングとを有し、油室に供給される油圧による押力と、スプリングの付勢力とのバランスにより、ピストンが軸方向に移動することにより、パーキングギヤのロック状態を切り替えることが好ましい。このようにすれば、適確に、パーキングギヤのロック状態を切り替えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動パーキングロック機能を有するパーキングロック装置において、運転者に車両移動の意思があるときには、その意思を妨げることなく(すなわち、非パーキングロック状態を保持でき)、運転者に車両移動の意思がない場合には、パーキングギヤがロックされていない状態(非パーキングロック状態)を保持するために消費される消費電力を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るパーキングロック装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るパーキングロック装置を構成するシフトバイワイヤ・アクチュエータ及びパーキング機構の構成を示す図である。
【
図3】実施形態に係るパーキングロック装置によるパーキングロック処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
まず、
図1及び
図2を併せて用いて、実施形態に係るパーキングロック装置1の構成について説明する。
図1は、パーキングロック装置1の構成を示すブロック図である。
図2は、パーキングロック装置1を構成するシフトバイワイヤ・アクチュエータ11及びパーキング機構110の構成を示す図である。
【0022】
パーキングロック装置1が適用される自動変速機10は、例えば、ロックアップクラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ、及び、変速ギヤ列とコントロールバルブ(油圧機構)を含むトランスミッション部を有して構成され、コントロールバルブにより自動変速可能に構成された有段自動変速機や無段変速機(CVT)などである。なお、本実施形態では、CVTを採用した。自動変速機10は、エンジン70の出力軸に接続され、該エンジン70からの駆動力を変換して出力する(なお、
図1では自動変速機10とエンジン70とを模式的に分離して示した)。
【0023】
自動変速機10は、シフトバイワイヤ・コントロールユニット(以下「SBW-CU」という)40によって駆動が制御され、該SBW-CU40からの制御信号(駆動信号)に応じて油圧を制御して、自動変速機10のシフトレンジを切り替える油圧式のシフトバイワイヤ・アクチュエータ(以下「SBWアクチュエータ」という)11を備えている。
【0024】
例えば、車両のセンターコンソール等には、運転者によるシフト操作(自動変速機10のシフトレンジを選択するための操作)を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)21が設けられている。シフトレバー21には、シフトレバー21の選択位置を検出して、選択位置に応じた選択情報を出力するシフトレンジセンサ20が取り付けられている。シフトレンジセンサ20は、SBW-CU40に接続されており、検出されたシフトレバー21の選択位置(選択情報)が、SBW-CU40に読み込まれる。なお、シフトレバー(セレクトレバー)21は、非操作時に自動的にH(ホーム)ポジションに戻るモーメンタリ式のものでもよい。また、Pレンジの選択は、例えば、プッシュスイッチ(Pスイッチ)で行うものであってもよい。
【0025】
SBW-CU40は、選択情報に基づいて自動変速機10のシフトレンジを切り替える。なお、シフトレバー21では、例えば、4つのシフトレンジ、すなわち、駐車レンジ(パーキング(P)レンジ)、後進走行レンジ(リバース(R)レンジ)、中立レンジ(ニュートラル(N)レンジ)、及び、前進走行レンジ(ドライブ(D)レンジ)を選択的に切り換えることができる。シフトレバー21及びシフトレンジセンサ20は、特許請求の範囲に記載のセレクト手段として機能する。
【0026】
また、自動変速機10は、Pレンジが選択されたときに、車輪15が回転しないよう自動変速機内部で回転をロックするパーキング機構110を備えている。
図2に示されるように、パーキング機構110は、パーキングギヤ114及びパーキングポール113を有し、パーキングポール113がパーキングギヤ114に噛み込むことによりパーキングギヤ114をロックして自動変速機10をパーキング状態にする。
【0027】
より具体的には、SBW-CU40により駆動されるSBWアクチュエータ11を構成するパーキングピストン111の出力軸には、パーキングロッド112が軸方向に進退可能に接続されている。一方、自動変速機10の出力軸には、パーキングギヤ114がスプライン嵌合されている。また、該パーキングギヤ114と噛み合うことができるように、パーキングポール113が揺動可能に設けられている。
【0028】
Pレンジが選択された場合には、パーキングピストン111のピストン111aが図面(
図2)右側に移動して、パーキングロッド112が軸方向に進出する。そして、該パーキングロッド112によってパーキングポール113が背面から押されて揺動し、パーキングギヤ114と噛み合う。これにより、自動変速機10の回転がロックされる。
【0029】
ここで、パーキングピストン111には、その一方の端部において、オイルが供給される油路23が接続されている。パーキングピストン111は、その内部に、ピストン(スプールバルブ)111aを軸方向に摺動自在に収容している。このピストン111aの他方の端部にはスプリング111cが配設されており、油圧による押力(油圧×受圧面積)と、スプリング111cのバネ力(付勢力)とのバランスに応じてピストン111aが軸方向に駆動される。その結果、パーキングロッド112、及び、パーキングポール113が駆動される。
【0030】
パーキングピストン111では、スプリング111cのバネ力が、油室111bの油圧による押力よりも大きい場合(すなわち、油圧の供給が停止された場合)に、パーキングポール113を揺動してパーキングギヤ114をロックするように、ピストン111aが図面(
図2)右側に移動(摺動)する。よって、パーキングピストン111に対する油圧の供給が停止されたときには、パーキングポール113が駆動(揺動)されて、パーキングギヤ114がロック(すなわち、パーキング状態に)される。
【0031】
一方、パーキングピストン111では、スプリング111cのバネ力が、油室111bの油圧による押力未満の場合(すなわち、油圧が供給された場合)に、パーキングポール113を揺動してパーキングギヤ114のロックを解除するように、ピストン111aが図面左側に移動(摺動)する。よって、パーキングピストン111に対して油圧が供給されたときには、パーキングポール113の駆動(揺動)が停止されて、パーキングギヤ114のロックが解除(すなわち、非パーキング状態に)される。パーキングピストン111は、特許請求の範囲に記載のロック状態切替手段として機能する。
【0032】
ここで、油路23は、エンジン70によって駆動され、オイルを昇圧して吐出するオイルポンプ22と直接的又は間接的に接続されている。また、油路23には、油路23を開閉して、パーキングピストン111に対する油圧(オイル)の供給を実行又は停止するための電磁バルブ24が介装されている。電磁バルブ24はSBW-CU40に接続されており、電磁バルブ24の駆動はSBW-CU40によって制御される。すなわち、SBW-CU40は、電磁バルブ24の開閉を制御することにより、パーキングピストン111に対する油圧の供給を実行又は停止する。
【0033】
上述したパーキングピストン111を構成するピストン111aには、その外周面に、例えば、軸線方向に対して略垂直方向に凹部111d(例えば穴や溝など)が形成されている。ピストン111aに形成された凹部111d(例えば穴や溝など)は、パーキングピストン111に油圧が供給された状態(すなわち、パーキングギヤ114のロックが解除された状態)において、当該ピストン111aをロック(動きを規制)するように、後述するロック解除状態保持ソレノイド115のプランジャ115aが嵌合可能に形成されている。
【0034】
ロック解除状態保持ソレノイド(ロックソレノイド)115は、例えば電磁ソレノイドであり、通電されたときにプランジャ(可動鉄芯)115aが突出して、該プランジャ115aが上記ピストン111aの凹部111d(例えば穴や溝など)に嵌合可能に配設されている。一方、非通電にはプランジャ115aが退出し、ピストン111aとの嵌合が解除される。すなわち、ロック解除状態保持ソレノイド115は、通電時に、パーキングピストン111(ピストン111a)を、パーキングギヤ114のロックが解除された状態(非パーキング状態)で保持し、非通電時に当該保持を停止する(すなわち、非保持状態にする)。ロック解除状態保持ソレノイド115は、特許請求の範囲に記載のロック解除状態保持手段として機能する。
【0035】
また、SBW-CU40は、CAN100を介して、トランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)50、エンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)60、ビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)80、及び、電動パーキングブレーキ・コントロールユニット(以下「電動パーキングブレーキCU」という)90等と通信可能に接続されている。
【0036】
ここで、各コントロールユニットについて説明する。まず、TCU50は、自動変速機10の変速制御を司る。TCU50には、自動変速機10に設けられた各種センサ等が接続されている。また、TCU50は、CAN100を通して、ECU60から送信されたエンジン回転数やアクセルペダル開度等の情報、及びSBW-CU40から送信された自動変速機10のシフトレンジ等の情報を受信する。
【0037】
TCU50は、取得したエンジン回転数、アクセルペダル開度、車速、及び、シフトレンジ等の各種情報に基づいて、コントロールバルブ51を構成するソレノイドバルブを駆動し、自動変速機10の変速制御等を行う。ここで、コントロールバルブ51は、自動変速機10を変速させるための油圧をコントロールする。より具体的には、コントロールバルブ51は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて油路を開閉することで、オイルポンプ22で発生した油圧を、例えば、ドライブプーリやドリブンプーリ等に供給する。なお、TCU50は、自動変速機10の各種情報を、CAN100を介して、SBW-CU40に送信する。
【0038】
ECU60は、各種センサから入力される検出信号に基づいて、エンジン回転数、吸入空気量、混合気の空燃比、アクセルペダル開度等の各種情報を取得し、取得した各種情報に基づいて、インジェクタ(燃料噴射量)、点火プラグ(点火時期)、及び、電子制御式スロットルバルブ62(吸入空気量)などの各種アクチュエータ等を制御することによりエンジン70を総合的に制御する。ここで、ECU60には、エンジン70のクランクシャフトの回転位置を検出するクランク角センサ61が接続されており、ECU60では、該クランク角センサ61の出力からエンジン回転数が求められる。
【0039】
VDCU80には、ブレーキアクチュエータ83のマスタシリンダ圧力を検出するブレーキ油圧センサ81、及び、車輪15に取り付けられ、該車輪15の回転速度、すなわち、車両の速度(車速)を検出する車速センサ82(特許請求の範囲に記載の車速検出手段に相当)等が接続されている。なお、車速センサ82としては、例えば磁気ピックアップ等が好適に用いられる。
【0040】
VDCU80は、運転者のブレーキ操作量(ブレーキペダルの踏込み量)に応じてブレーキアクチュエータ83(ブレーキ85)を駆動して車両を制動する。また、VDCU80は、車両挙動を各種センサ(例えば車速センサ82、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジンのトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。VDCU80は、ブレーキング情報(制動操作情報)や車速情報等を、CAN100を介して、SBW-CU40に送信する。
【0041】
ここで、ブレーキ85は、VDCU80により駆動制御され、車輪15を制動する。本実施形態では、ブレーキ85として、ディスクブレーキを採用した。ブレーキ85は、車両の車輪15に取り付けられたブレーキディスク86と、ブレーキパッド及びホイールシリンダを内蔵したブレーキキャリパ87を有して構成されている。ブレーキ時(制動時)には、油圧によりブレーキパッドがブレーキディスク86に押圧され、ブレーキディスク86と連結されている車輪15が摩擦力によって制動される。なお、本実施形態で用いられているブレーキ85は、ディスクブレーキであるが、摩擦材をドラムの内周面に押し付けて制動するドラムブレーキ等を用いてもよい。
【0042】
電動パーキングブレーキCU90は、運転者の操作(電動パーキングブレーキスイッチ91のオン操作)を含む、所定の作動条件が満足された場合に、電動パーキングブレーキ(電動アクチュエータ)95を駆動して、車両を制動し、車両の停止状態を保持する。電動パーキングブレーキCU90は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0043】
電動パーキングブレーキ95は、電動パーキングブレーキCU90により駆動制御される、例えば電動モータなどの電動アクチュエータを有しており、車両の停車状態を保持する。電動パーキングブレーキ95は、イグニッション・オン状態でのみ解除可能に構成されている。すなわち、電動パーキングブレーキ95は、イグニッション・オフ時には解除不能とされている。なお、本実施形態では、電動パーキングブレーキ95として、ハブ内にパーキングブレーキ用の小型のドラムブレーキを内蔵したインナードラム式(ドラムインディスク)を採用したが、他の形式のものを用いてもよい。
【0044】
SBW-CU40は、シフトレンジセンサ20により検出されたシフトレンジ、VDCU80から受信した車速情報、TCU50から受信した各種入力情報、及び、電動パーキングブレーキCU90から受信した電動パーキングブレーキ95の作動情報等に基づいて、制御信号を生成して出力し、SBWアクチュエータ11を駆動することにより自動変速機10のシフトレンジを切り替える。ここで、SBW-CU40は、運転者に車両移動の意思があるときには、その意思を妨げることなく(すなわち、非パーキングロック状態を保持し)、運転者に車両移動の意思がない場合には、パーキングギヤ114がロックされていない状態(非パーキングロック状態)を保持するために消費される消費電力を低減する機能を有している。
【0045】
そのため、SBW-CU40は、切替制御部41、及び、保持制御部42を機能的に備えている。SBW-CU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、電磁バルブ24やロック解除状態保持ソレノイド115を駆動するドライバ回路等を含む入出力I/F等を有して構成されている。SBW-CU40では、EEPROMなどに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、切替制御部41、及び、保持制御部42の機能が実現される。
【0046】
切替制御部41は、エンジン70によってオイルポンプ22が駆動されているときに、選択されたシフトレンジに基づいて、パーキングピストン111に対する油圧の供給を制御(すなわち、パーキングピストン111に対して油圧を供給するか否かを制御)する。より具体的には、切替制御部41は、Pレンジ以外のシフトレンジが選択された場合(選択情報が出力された場合)に、電磁バルブ24を開弁して、パーキングピストン111に油圧を供給する。一方、切替制御部41は、Pレンジが選択された場合(選択情報が出力された場合)に、電磁バルブ24を閉弁して、パーキングピストン111に対する油圧の供給を停止する。すなわち、切替制御部41は、特許請求の範囲に記載の切替制御手段として機能する。
【0047】
保持制御部42は、Pレンジ以外のシフトレンジが選択された(選択情報が出力された)場合に、ロック解除状態保持ソレノイド115に通電して、パーキングギヤ114のロックが解除された状態(非パーキング状態)を保持する。
【0048】
ただし、保持制御部42は、Pレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフ(レディオフ)されて、エンジン70が停止された場合に、車両停止の状態が所定時間継続(すなわち、車速がゼロになってから所定時間経過)したとき、又は、電動パーキングブレーキ95が作動したときには、ロック解除状態保持ソレノイド115に対する通電を停止して、自動的に、パーキングギヤ114のロックが解除された状態の保持を停止する(すなわち、パーキングロック状態にする)。
【0049】
一方、保持制御部42は、Pレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフ(レディオフ)されて、エンジン70が停止された場合に、車両停止の状態が所定時間継続(すなわち、車速がゼロになってから所定時間経過)しておらず、かつ、電動パーキングブレーキ95が作動していないときには、ロック解除状態保持ソレノイド115に通電して、パーキングギヤ114のロックが解除された状態を保持する。すなわち、保持制御部42は、特許請求の範囲に記載の保持制御手段として機能する。
【0050】
次に、
図3を参照しつつ、パーキングロック装置1の動作について説明する。
図3は、パーキングロック装置1によるパーキングロック処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主として、SBW-CU40において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
【0051】
ステップS100では、Pレンジ以外のシフトレンジ(例えばNレンジ)の状態で、イグニッションがオフ(エンジン70が停止)されているか否かについての判断が行われる。ここで、シフトレンジがPレンジ以外であり、かつ、イグニッションがオフ(エンジン70が停止)されている場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、双方又はいずれか一方の条件が満足されていないときには、ステップS104に処理が移行する。
【0052】
ステップS102では、車両が停止(停車)しているか否か(すなわち、車速がゼロ(km/m)であるか否か)についての判断が行われる。ここで、車両が停止していない場合には、ステップS104に処理が移行する。一方、車両が停止しているときには、ステップS106に処理が移行する。
【0053】
ステップS104では、車両が停止してからの経過時間を計時するタイマ(又はカウンタ)がリセット(又はクリア)される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0054】
ステップS106では、車両が停止してからの経過時間を計時するタイマ(又はカウンタ)がカウントアップされる。その後、ステップS108に処理が移行する。
【0055】
ステップS108では、電動パーキングブレーキ95が作動中(制動中)であるか否かについての判断が行われる。ここで、電動パーキングブレーキ95が作動中である場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、電動パーキングブレーキ95が作動中でないときには、ステップS110に処理が移行する。
【0056】
ステップS110では、車両の停車継続時間(すなわち、車両が停止してからの経過時間を計時するタイマ(又はカウンタ)の値)が、所定時間以上となったか否かについての判断が行われる。ここで、車両の停車継続時間が所定時間以上となっていない場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、車両の停車継続時間が所定時間以上となったときには、ステップS112に処理が移行する。
【0057】
ステップS112では、ロック解除状態保持ソレノイド115に対する通電が停止されて、パーキングギヤ114のロックが解除された状態の保持が停止される。すなわち、自動的にパーキングロック状態とされる(パーキングレンジに切替えられる)。その後、本処理から一旦抜ける。
【0058】
ステップS114では、ロック解除状態保持ソレノイド115に対する通電が保持されて、パーキングギヤ114のロックが解除された状態が保持される。すなわち、非パーキングロック状態が保持される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0059】
以上、説明したように、本実施形態によれば、パーキングレンジ以外のシフトレンジで、イグニッションがオフされた場合に、車両停止(車速がゼロ)の状態が所定時間継続しておらず、かつ、電動パーキングブレーキ95が作動していないときには、ロック解除状態保持ソレノイド115に通電して、パーキングギヤ114のロックが解除された状態が保持され、車両停止(車速がゼロ)の状態が所定時間継続したとき、又は、電動パーキングブレーキ95が作動したときには、ロック解除状態保持ソレノイド115に対する通電が停止されて、パーキングギヤ114のロックが解除された状態の保持が停止される。ここで、イグニッション・オフ時に電動パーキングブレーキ95によって車両が制動されている場合、運転者に車両を移動させる意図がないと推測できる。そのため、電動パーキングブレーキ95の作動状態を条件とすることで、運転者の車両移動意思の確認時間を短縮することができる。その結果、運転者に車両移動の意思があるときには、その意思を妨げることなく(すなわち、非パーキングロック状態を保持でき)、運転者に車両移動の意思がない場合には、パーキングギヤがロックされていない状態(非パーキングロック状態)を保持するために消費される消費電力を低減することが可能となる。
【0060】
本実施形態によれば、電動パーキングブレーキ95が、イグニッション・オンの状態でのみ解除可能に構成されている。すなわち、電動パーキングブレーキ95は、イグニッション・オフの状態では解除できない。よって、イグニッション・オフの状態で電動パーキングブレーキ95が作動されている場合、確実に、運転者に車両移動の意思のないと推認することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、ロック解除状態保持ソレノイド115に通電されたときにプランジャ115aが外部に突出して、該プランジャ115aがピストン111aの凹部111d(例えば穴や溝など)に嵌合される。そのため、パーキングギヤ114のロックが解除された状態を確実に保持することが可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態によれば、パーキングピストン111が、ピストン111aの一方の端部側に設けられた油室111bと、ピストン111aの他方の端部側に配設されたスプリング111cとを有し、油室111bに供給される油圧による押力と、スプリング111cの付勢力とのバランスにより、ピストン111aが軸方向に移動することにより、パーキングギヤ114のロック状態が切り替えられるため、適確に、パーキングギヤ114のロック状態を切り替えることができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態のシステム構成は一例であり、本発明のシステム構成は上記実施形態には限られない。例えば、SBW-CU40とSBWアクチュエータ11を一体にしてもよい。また、SBW-CU40とTCU50とを一つのユニットとしてもよい。
【0064】
また、パーキングギヤ114がロックされていない状態(非パーキング状態)を保持するための構成(構造)は、上記実施形態で示した構成、すなわち、通電時にプランジャ115aが突出して、ピストン111aの凹部111d(例えば穴や溝など)に嵌合する構成には限られない。
【0065】
本発明は、自動変速機を搭載していない車両(例えば、電動モータなどで車輪を直接駆動するEV(電気自動車)や、FCV(燃料電池自動車)や、SHEV(シリーズハイブリッド自動車)など)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 パーキングロック装置
10 自動変速機
11 シフトバイワイヤ・アクチュエータ
111 パーキングピストン
111a ピストン(スプールバルブ)
111d 凹部
112 パーキングロッド
113 パーキングポール
114 パーキングギヤ
115 ロック解除状態保持ソレノイド
20 シフトレンジセンサ
21 シフトレバー(セレクトレバー)
22 オイルポンプ
40 シフトバイワイヤ・コントロールユニット(SBW-CU)
41 切替制御部
42 保持制御部
50 トランスミッション・コントロールユニット(TCU)
60 エンジン・コントロールユニット(ECU)
70 エンジン
80 ビークルダイナミック・コントロールユニット(VDCU)
81 ブレーキ油圧センサ
82 車速センサ
83 ブレーキアクチュエータ
85 ブレーキ
86 ブレーキディスク
87 ブレーキキャリパ
90 電動パーキングブレーキ・コントロールユニット(EPB-CU)
91 電動パーキングブレーキスイッチ
95 電動パーキングブレーキ(電動アクチュエータ)
100 CAN