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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】糖化蛋白質の測定
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/28 20060101AFI20221219BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20221219BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20221219BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C12Q1/28
C12Q1/37
G01N33/72 A
C12Q1/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018185144
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2019062891
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017192867
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】笠井 拓歩
(72)【発明者】
【氏名】米原 聡
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147309(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/072941(WO,A1)
【文献】国際公開第02/021142(WO,A1)
【文献】特開2015-158515(JP,A)
【文献】国際公開第2017/117468(WO,A1)
【文献】特表平06-503424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素法による糖化蛋白質の測定に使用する試薬であって、
ロイコ型色素を含み、
さらに、前記ロイコ型色素の安定化をするために有効量の下記式(I)の化合物を含
前記ロイコ型色素が、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、N,N,N',N',N'',N''-ヘキサ(3-スルフォプロピル)-4,4',4''-トリアミノトリフェニルメタン、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、又はこれらの塩であり、
前記糖化蛋白質は、糖化ヘモグロビン又は糖化アルブミンである、試薬。
【化1】
式(I)において、Rは、炭素数8-17の炭化水素鎖を表す。
【請求項2】
糖化蛋白質が、糖化ヘモグロビンある、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
糖化蛋白質が、ヘモグロビンA1cである、請求項1又は2に記載の試薬。
【請求項4】
前記式(I)の化合物の含有量は、0.1~50g/Lであり、
前記ロイコ型色素に対する前記式(I)の化合物の含有量比は、50以上で且つ5000以下である、請求項1から3のいずれかに記載の試薬。
【請求項5】
ペルオキシダーゼを含む試薬と、該試薬とは別の試薬として請求項1からのいずれかに記載の試薬とを備える、糖化蛋白質を酵素法により測定するためのキット。
【請求項6】
下記(1)から(5)を含むヘモグロビンA1cの測定方法であって、
試料と請求項1からのいずれかに記載の試薬とを混合することを含む、測定方法。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンとプロテアーゼと反応によりN末端糖化ペプチドを生成させること。
(3)N末端糖化ペプチドとフルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(4)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(5)発色シグナルを測定してヘモグロビンA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【請求項7】
下記(1)から(4)を含むヘモグロビンA1cの測定方法であって、
試料と請求項1からのいずれかに記載の試薬とを混合することを含む、測定方法。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンと糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(3)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(4)発色シグナルを測定してヘモグロビンA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糖化蛋白質の測定に関し、より具体的には、ロイコ型色素の安定化を含む糖化蛋白質の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
血中のグルコースと種々の蛋白質との反応産物である糖化蛋白質の濃度は、中長期にわたる血糖レベルの指標である。特に、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、グリコアルブミン、フルクトサミン等は臨床検査において頻繁に測定される物質であり、糖尿病の診断や、治療状態の監視に広く用いられている。β鎖N末端が糖化されたヘモグロビンであるHbA1cの全ヘモグロビンに対する比率HbA1c%は、血糖レベルの監視に用いられるほか、糖尿病の診断に関わる重要な検査項目である。
【0003】
HbA1c%の測定は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、ボロン酸アフィニティ法、免疫比濁法、酵素法などにより行われる。その中で酵素法試薬は、最も安価にHbA1c%を測定できる方法論として社会的に注目されている。
【0004】
酵素法試薬を用いたHbA1c%の測定の1例として、下記(1)~(4)の工程を含む方法が挙げられる。
(1)ヘモグロビンを変性させ、吸光度法により定量する工程、
(2)プロテアーゼによりHbA1cの糖化されたN末端付近を加水分解する工程、
(3)酵素により、加水分解により生じた糖化されたN末端をもつオリゴペプチドを酸化して過酸化水素を生成する工程、
(4)過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応で発色基質であるロイコ型色素を発色させ、HbA1cを吸光度法により定量する工程。
【0005】
HbA1cのような微量成分の測定には、高感度発色剤であるロイコ型色素:DA-64やDA-67が用いられる。これらの発色剤は優れた感度を有する一方で酸素、光、水などに曝露することにより着色するという欠点も有している。特に、測定試薬が乾燥試薬ではなく溶液試薬である場合、こうした劣化は顕著である。この課題を解決するために、特許文献1-3において発色剤の酸化を防ぐ目的で発色剤溶液に還元剤を添加し安定化を図る技術が開示されている。また、特許文献4において界面活性剤の添加により発色剤の安定化を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5274590号公報
【文献】特許第3604198号公報
【文献】特開2013-104007号公報
【文献】特許第5616498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、一態様において、糖化蛋白質の酵素法測定に適し、ロイコ型色素を安定化できる化合物を含有する試薬、及びそれを用いた糖化蛋白質の測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、糖化蛋白質の酵素法による測定に使用する試薬であって、ロイコ型色素を含み、さらに、下記式(I)の化合物を含む試薬に関する(以下、「本開示に係る試薬」ともいう)。
【0009】
【化1】
式(I)において、Rは、炭素数8-17の炭化水素鎖を表す。
【0010】
本開示は、他の一態様において、ペルオキシダーゼを含む試薬と、該試薬とは別の試薬として本開示に係る試薬とを備える、糖化蛋白質を酵素法により測定するためのキットに関する。
【0011】
本開示は、他の一態様において、下記(1)から(5)を含むHbA1cの測定方法であって、試料と本開示に係る試薬とを混合することを含む測定方法に関する。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンとプロテアーゼと反応によりN末端糖化ペプチドを生成させること。
(3)N末端糖化ペプチドとフルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(4)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(5)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【0012】
本開示は、他の一態様において、下記(1)から(4)を含むヘモグロビンA1cの測定方法であって、試料と本開示に係る試薬とを混合することを含む測定方法に関する。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンと糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(3)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(4)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ロイコ型色素の安定性が向上するから、糖化蛋白質の測定、例えば、HbA1cの測定において、精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、テスト化合物の、加熱処理によるロイコ型色素の自然発色の抑制効果を評価したグラフである。
図2図2は、テスト化合物の加熱処理によるロイコ型色素の自然発色抑制効果の濃度依存性を評価したグラフである。
図3図3は、テスト化合物のヘモグロビン変性能を評価したグラフである。
図4図4は、テスト化合物のプロテアーゼ反応促進能を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、糖化蛋白質の酵素法測定に用いるロイコ型色素の安定性が、所定の炭素数のアルキル基を有するスルホベタインの存在下で向上する、という知見に基づく。本開示によれば、試薬溶液中のロイコ型色素の安定性を向上できる。
【0016】
本開示において、糖化蛋白質の測定とは、一実施形態において、糖化蛋白質量を測定することを含み、その他の一実施形態において、糖化蛋白質量及び蛋白質量を測定することを含み、さらにその他の一実施形態において、糖化蛋白質量及び蛋白質量を測定してそれらの比を求めることを含みうる。
【0017】
本開示に係る測定方法において測定する糖化蛋白質は、フルクトサミン、糖化アルブミン、糖化ヘモグロビンなどが挙げられ、一実施形態において、糖化アルブミン又は糖化ヘモグロビンである。
糖化ヘモグロビンとしては、以下のものが挙げられる。
HbA1c:Hbβ鎖N末端が糖化されたもの
GHbLys:HbのLysのアミノ基が糖化されたもの
GHbα:Hbのα鎖N末端が糖化されたもの
【0018】
[ロイコ型色素の安定化能を有する化合物]
本開示に係る試薬は、ロイコ型色素及び下記式(I)の化合物を含有する。下記式(I)の化合物は、ロイコ型色素を安定化することができる。よって、本開示に係る試薬は、一又は複数の実施形態において、下記式(I)の化合物を、ロイコ型色素を安定化するのに有効量、含有する。
【0019】
【化2】
式(I)において、Rは、炭素数8-17の炭化水素基を表す。
【0020】
式(I)において、Rの炭素数は、糖化蛋白質の酵素法測定を阻害しない観点及びロイコ型色素の安定性向上の観点から、12から16が好ましく、14がより好ましい。Rの炭化水素基は、同様の観点から、アルキル基が好ましく、直鎖アルキル基が好ましい。Rは、同様の観点から、ドデシル基及びテトラデシル基が好ましく、テトラデシル基がより好ましい。
【0021】
本開示に係る試薬における式(I)の化合物の含有量は、糖化蛋白質の酵素法測定を阻害しない観点及びロイコ型色素の安定性向上の観点から、一又は複数の実施形態において、0.1g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましく、5g/L以上がさらに好ましく、10g/L以上がさらにより好ましく、20g/L以上がさらにより好ましい。また、式(I)の化合物の含有量は、例えば、50g/L以下、又は40g/L以下である。
【0022】
[ロイコ型色素]
本開示におけるロイコ型色素としては、微量検出に使用できる高感度なものが好ましい。一又は複数の実施形態において、フェノチアジン系色素、トリフェニルメタン系色素、ジフェニルアミン系色素、o-フェニレンジアミン、ヒドロキシプロピオン酸、ジアミノベンジジン、テトラメチルベンジジン等が挙げられ、ロイコ型色素の安定性向上の観点から、フェノチアジン系色素が好ましい。
フェノチアジン系色素としては、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン又はその塩が挙げられ、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(DA-67)が挙げられる。
トリフェニルメタン系色素としては、N,N,N',N',N'',N''-ヘキサ(3-スルフォプロピル)-4,4',4''-トリアミノトリフェニルメタン又はその塩が挙げられ、N,N,N',N',N'',N''-ヘキサ(3-スルフォプロピル)-4,4',4''-トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム(TPMPS)が挙げられる。
ジフェニルアミン系色素としては、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン(DA-64)が挙げられる。
【0023】
本開示に係る試薬におけるロイコ型色素の含有量は、十分な測定感度の確保の観点から、一又は複数の実施形態において、0.005mmol/L以上が好ましく、0.01mmol/L以上がより好ましく、0.03mmol/L以上がさらに好ましい。また、ロイコ型色素の含有量は、ロイコ型色素の安定性向上の観点から、2mmol/L以下が好ましく、0.5mmol/L以下がより好ましい。
【0024】
本開示に係る試薬におけるロイコ型色素に対する式(I)の化合物の含有量比(モル比、式(I)の化合物の物質量/ロイコ型色素の物質量)は、十分な安定化効果を得る観点から、一又は複数の実施形態において、5以上が好ましく、50以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。また、ロイコ型色素の含有量比は、十分な測定感度の確保の観点から、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましい。
【0025】
本開示に係る試薬は、溶液試薬の形態であってもよく、乾燥試薬の形態であってもよい。溶液試薬の場合、本開示に係る試薬pHは、一又は複数の実施形態において、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。本開示に係る試薬pHは、一又は複数の実施形態において、9以下が好ましく、8以下がより好ましい。なお、pHは、25℃の温度でpHメータにて測定した値である。
【0026】
本開示に係る試薬によれば、一又は複数の実施形態において、試薬の保存期間を長くできる。また、その他の一又は複数の実施形態において、感度変化を小さくすることで校正の回数を減らすことができる。さらにその他の一又は複数の実施形態において、試薬を高い温度(例えば、2~50℃)での保存も可能となる。
【0027】
本開示に係る試薬を用いた糖化蛋白質の測定におけるロイコ型色素の発色シグナルからHbA1c等の糖化蛋白質量やヘモグロビン等の蛋白質量の算出は、一又は複数の実施形態において、公知の方法により行うことができる。
【0028】
[実施形態A]
本開示に係る試薬は、限定されない実施形態Aにおいて、下記(1)から(5)を含むHbA1cの測定方法において、試料に混合される試薬として使用されうる。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンとプロテアーゼと反応によりN末端糖化ペプチドを生成させること。
(3)N末端糖化ペプチドとフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)との反応により過酸化水素を生成させること。
(4)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼ(POD)との反応によりロイコ型色素を発色させること。
(5)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【0029】
なお、本開示において、試薬の「試料との混合」とは、試料へ試薬を添加すること、及び、試薬へ試料を添加することを含む。
本開示に係る試薬は、本実施形態Aの一又は複数の実施形態において、少なくとも、上記(4)のロイコ型色素を供給するために、試料に混合される。すなわち、上記(1)から(5)を含むHbA1cの測定方法におけるロイコ型色素は、本開示に係る試薬に含まれるものが使用される。本開示に係る試薬は、本実施形態Aのその他の一又は複数の実施形態において、少なくとも、上記(4)においてロイコ型色素を発色させるために、試料に混合される。
【0030】
実施形態Aが2試薬系で行われる場合、一般的に、試料に、第1試薬及び第2試薬の2つの試薬がこの順で添加されるか、又は試料とこれらの試薬とが混合される。限定されない一又は複数の実施形態において、第1試薬の添加又は混合によって、上記(1)のヘモグロビンの変性が行われ、第1試薬の添加又は混合後かつ第2試薬の添加又は混合前にヘモグロビン量測定のための吸光度が測定される。第1試薬の組成によっては、第1試薬の添加によって上記(1)及び(2)が行われ、第2試薬が添加されるか又は第2試薬と混合されることで(1)から(4)すべてが進行する。よって、HbA1c量測定のための吸光度の測定は、第2試薬の添加又は混合直前又は直後と第2試薬の添加又は混合一定時間経過後に測定される。吸光度の変化値に基づきHbA1c量が算出される。
【0031】
限定されない一又は複数の実施形態において、本開示に係る試薬は下記構成A1及びA2の第2試薬、下記構成A3及びA4の第1試薬として使用されうる。但し、本開示に係る試薬は、これらの実施形態には限定されない。第1試薬及び第2試薬は、さらにその他の成分(例えば、さらなる緩衝剤、変性剤、又はロイコ型色素安定剤など)を含んでもよい。
構成A1
第1試薬:FPOX、POD、変性剤、緩衝剤
第2試薬:プロテアーゼ、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
構成A2
第1試薬:プロテアーゼ、POD、変性剤、緩衝剤
第2試薬:FPOX、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
構成A3
第1試薬:FPOX、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
第2試薬:プロテアーゼ、POD、緩衝剤
構成A4
第1試薬:プロテアーゼ、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
第2試薬:FPOX、POD、緩衝剤
【0032】
したがって、本開示に係る試薬は、さらに、緩衝剤、プロテアーゼ、及びフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)の少なくとも1つを含みうる。
【0033】
実施形態Aにおける緩衝剤としては、中性付近に調整でき、反応系を損なわないものが使用できる。緩衝剤の限定されない例として、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)、3-Morpholinopropanesulfonic acid(MOPS)、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid (TES)、2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)、N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine(TRICINE)、Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)、Piperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid) dehydrate(POPSO)、炭酸、リン酸、ホウ酸、グリシン、アラニン、ロイシン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、タウリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ヒドロキシプロリン、プロリン、トレオニン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、バリン、システイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、オルニチン、トリプトファン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N-メチルアミノエタノール、クレアチニン、イミダゾール、バルビタール、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0034】
実施形態Aにおけるプロテアーゼとしては、中性付近で活性をもち、糖化ヘモグロビンと反応してN末端糖化ペプチド(本開示において、糖化アミノ酸を含む)を生成できるものを使用できる。産生生物種や酵素ファミリーは特に限定されない。プロテアーゼの限定されない例として、セリンプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、グルタミックプロテアーゼ、アスパラティックプロテアーゼ、メタロプロテアーゼなどが挙げられる。エンドプロテアーゼよりエキソプロテアーゼの方が好ましい。
【0035】
実施形態Aにおけるフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)は、N末端糖化ペプチド(糖化アミノ酸を含む)を基質とし、検出可能な中間生成物である過酸化水素を産生するものを使用できる。産生生物種などは特に限定されない。アマドリアーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼと呼ばれるものも使用でき、本開示において、FPOXに含まれうる。
【0036】
実施形態Aにおけるペルオキシダーゼ(POD)は、過酸化水素と反応して発色基質であるロイコ型色素を発色させるものを使用できる。産生生物種などは特に限定されない。限定されない例として、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼが挙げられる。
【0037】
実施形態Aにおける変性剤は、ヘモグロビンを変性でき、第1試薬に含まれる酵素の活性を大きく損なわないものを使用できる。変性剤の限定されない例として、下記(1)から(8)が挙げられる。なお、(1)~(7)は亜硝酸塩と併用してもよい。
(1)3-ラウリルジメチルアミノ酪酸
(2)3-ミリスチルジメチルアミノ酪酸
(3)ラウリルジメチルアミノプロパンスルホン酸
(4)ミリスチルジメチルアミノプロパンスルホン酸
(5)ラウリルアミドプロピルジメチルアミノ酪酸
(6)ミリスタミドプロピルベタイン
(7)n-ドデシル-βD-マルトシド
(8)WST-3
あるいは、実施形態Aにおける変性剤は、上記(1)から(8)に替えて、式(I)の化合物であってもよい。式(I)の化合物は、ヘモグロビンを変性でき、また、プロテアーゼの反応を促進することができる。
【0038】
実施形態Aにおける測定対象試料は、ヘモグロビン及び糖化ヘモグロビンを含む試料が挙げられる。測定対象試料は、限定されない一又は複数の実施形態において、全血、血球等の赤血球を含む試料や、該試料を溶血させた試料が挙げられる。測定対象試料が赤血球を含む試料である場合、第1試薬で溶血してもよく、第1試薬とは別の手段で溶血させて溶血試料としてもよい。赤血球の溶血は既存の方法で実施できる。例えば、浸透圧を用いる方法(例、水)、界面活性剤を用いる方法、凍結する方法、超音波を用いる方法などがある。
【0039】
本開示において発色シグナルとしては、一又は複数の実施形態において、吸光度、反射率及び透過率等が挙げられる。
【0040】
HbA1c量の算出は、一又は複数の実施形態において、測定により得られた発色シグナルを、所定の換算要素に基づきHbA1c量に換算することを含む。所定の換算要素に基づくHbA1c量の換算は、一又は複数の実施形態において、測定により得られた吸光度等の発色シグナルを、下記(i)~(iv)のいずれかの換算ルールに基づいてHbA1c量に換算することにより行うことができる。(iv)は、(i)~(iii)と組み合わせて行ってもよい。
(i)試料中にある既知の検量物質に基づき検量線を求め、HbA1c由来の吸光度を検量線に基づきHbA1c量に換算すること
(ii)ロイコ型色素を検量物質(校正用物質)とし、ロイコ型色素の検量線を求め、ロイコ型色素の吸光度を該ロイコ型色素の検量線に基づきHbA1c量に換算すること
(iii)異なる波長で求めた吸光度比をとって、吸光度比に対する検量線に基づきHbA1c量に換算すること
(iv)試料と試薬との混合直後及び混合から所定の時間経過後に測定した吸光度の差を取って吸光度変化量を求め、吸光度変化量に対する検量線に基づきHbA1c量に換算すること
(i)における既知の検量物質としては、一又は複数の実施形態において、既知量のHbA1cを含む校正用標準物質が挙げられる。既知量のHbA1cを含む校正用標準物質としては、一又は複数の実施形態において、全血又は血球の凍結品、それらを精製したHbA1cを含むHb溶液、又はそれらに緩衝液組成物及びHbの安定剤等を含む物質等が挙げられる。既知の検量物質としては、一又は複数の実施形態において、公的機関が提供している一次標準物質又は常用標準物質、キットに付属している校正物質等が挙げられる。
(iv)における混合直後としては、一又は複数の実施形態において、試料と試薬との混合から5秒~30秒程度が挙げられる。所定の時間経過後としては、一又は複数の実施形態において、試料と試薬との混合から1分~3分程度が挙げられる。
なお、上記形態では、発色シグナルが吸光度である場合の一例であって、吸光度以外の反射率及び透過率であっても同様に行うことができる。
【0041】
[実施形態B]
本開示に係る試薬は、限定されない実施形態Bにおいて、下記(1)から(4)を含むHbA1cの測定方法において、試料に混合される試薬として使用されうる。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンと糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼ(直接型FPOX)との反応により過酸化水素を生成させること。
(3)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(4)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【0042】
本開示に係る試薬は、本実施形態Bの一又は複数の実施形態において、少なくとも、上記(3)のロイコ型色素を供給するために、試料に混合される。すなわち、上記(1)から(4)を含むHbA1cの測定方法におけるロイコ型色素は、本開示に係る試薬に含まれるものが使用される。本開示に係る試薬は、本実施形態Bのその他の一又は複数の実施形態において、少なくとも、上記(3)においてロイコ型色素を発色させるために、試料に混合される。
【0043】
実施形態Bは、実施形態Aにおけるフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)が糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼ(直接型FPOX)となり、プロテアーゼが反応系に不要となった形態である。
【0044】
限定されない一又は複数の実施形態において、本開示に係る試薬は下記構成B1及びB2の第2試薬、並びに下記構成B3及びB4の第1試薬として使用されうる。但し、本開示に係る試薬は、これらの実施形態には限定されない。第1試薬及び第2試薬は、さらにその他の成分を含んでもよい。
構成B1
第1試薬:POD、変性剤、緩衝剤
第2試薬:直接型FPOX、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
構成B2
第1試薬:直接型FPOX、変性剤、緩衝剤
第2試薬:POD、式(I)の化合物、ロイコ型色素、緩衝剤
構成B3
第1試薬:POD、式(I)の化合物、ロイコ型色素、変性剤、緩衝剤
第2試薬:直接型FPOX、緩衝剤
構成B4
第1試薬:直接型FPOX、式(I)の化合物、ロイコ型色素、変性剤、緩衝剤
第2試薬:POD、緩衝剤
【0045】
構成B1の場合、限定されない一又は複数の実施形態において、第1試薬の添加によって、上記(1)のヘモグロビンの変性が行われ、第1試薬の添加後かつ第2試薬の添加前にヘモグロビン量測定のための吸光度が測定される。第2試薬が添加されることで(2)及び(3)が進行する。よって、HbA1c量測定のための吸光度の測定は、第2試薬の添加直前又は直後と第2試薬の添加一定時間経過後に測定される。吸光度の変化値に基づきHbA1c量が算出される。
【0046】
したがって、本開示に係る試薬は、さらに、糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼ(直接型FPOX)を含みうる。
【0047】
実施形態Bにおける緩衝剤、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ(POD)、変性剤、測定対象試料、発色シグナル及びHbA1cの算出方法は、実施形態Aと同様である。
【0048】
実施形態Bにおける糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼ(直接型FPOX)は、改良されたFPOXであって、糖化ヘモグロビンに基質特異性を有する(糖化ヘモグロビンに直接作用する)FPOXである(WO2015-005257及びWO2015-060429)。
【0049】
[キット]
本開示は、その他の態様において、ペルオキシダーゼを含む試薬と、該試薬とは別の試薬として本開示に係る試薬とを備える、糖化蛋白質を酵素法により測定するためのキットに関する。
本開示に係るキットは、糖化蛋白質の酵素法測定用の2試薬系のキットであってもよく、3試薬系のキットであってもよい。2試薬系のキットの構成としては、限定されない一又は複数の実施形態において、上記構成A1からA4、及びB1が挙げられる。
【0050】
[測定方法]
本開示は、その他の態様において、下記(1)から(5)を含むHbA1cの測定方法であって、少なくとも下記(4)のロイコ型色素を供給するために、本開示に係る試薬を混合することを含む測定方法に関する。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンとプロテアーゼと反応によりN末端糖化ペプチドを生成させること。
(3)N末端糖化ペプチドとフルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)との反応により過酸化水素を生成させること。
(4)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼ(POD)との反応によりロイコ型色素を発色させること。
(5)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【0051】
本開示は、その他の態様において、下記(1)から(4)を含むHbA1cの測定方法であって、少なくとも下記(3)のロイコ型色素を供給するために、本開示に係る試薬を混合することを含む測定方法に関する。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンと糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼ(直接型FPOX)との反応により過酸化水素を生成させること。
(3)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(4)発色シグナルを測定してHbA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【0052】
本開示に係る測定方法については、上記実施形態A及びBで説明したとおりである。
【0053】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 酵素法による糖化蛋白質の測定に使用する試薬であって、
ロイコ型色素を含み、
さらに、下記式(I)の化合物を含む、試薬。
【化3】
式(I)において、Rは、炭素数8-17の炭化水素鎖を表す。
〔2〕 糖化蛋白質が、糖化ヘモグロビン又は糖化アルブミンである、〔1〕に記載の試薬。
〔3〕 糖化蛋白質が、ヘモグロビンA1cである、〔1〕又は〔2〕に記載の試薬。
〔4〕 前記試薬は、式(I)の化合物を、少なくとも、前記ロイコ型色素の安定化剤として含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の試薬。
〔5〕 前記ロイコ型色素が、10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン、N,N,N',N',N'',N''-ヘキサ(3-スルフォプロピル)-4,4',4''-トリアミノトリフェニルメタン、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、又はこれらの塩である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の試薬。
〔6〕 ペルオキシダーゼを含む試薬と、該試薬とは別の試薬として〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の試薬とを備える、糖化蛋白質を酵素法により測定するためのキット。
〔7〕 下記(1)から(5)を含むヘモグロビンA1cの測定方法であって、
試料と〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の試薬とを混合することを含む、測定方法。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンとプロテアーゼと反応によりN末端糖化ペプチドを生成させること。
(3)N末端糖化ペプチドとフルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(4)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(5)吸光度を測定してヘモグロビンA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
〔8〕 下記(1)から(4)を含むヘモグロビンA1cの測定方法であって、
試料と〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の試薬とを混合することを含む、測定方法。
(1)試料中のヘモグロビンを変性させること。
(2)試料中の糖化ヘモグロビンと糖化蛋白直接型フルクトシルペプチドオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させること。
(3)生成した過酸化水素とペルオキシダーゼとの反応によりロイコ型色素を発色させること。
(4)吸光度を測定してヘモグロビンA1c量及びヘモグロビン量を算出すること。
【実施例
【0054】
以下の実施例で、下記化合物を使用した。
オクチルスルホベタイン(スルホベタインC8):N-オクチル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
デシルスルホベタイン(スルホベタインC10):N-デシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
ラウリルスルホベタイン(スルホベタインC12):N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
テトラデシルスルホベタイン(スルホベタインC14):N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
ヘキサデシルスルホベタイン(スルホベタインC16):N-ヘキサデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
オクタデシルスルホベタイン(スルホベタインC18):N-オクタデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸(東京化成工業社製)
DA-67(ロイコ型色素):10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム(東京化成工業社製)
【0055】
[ロイコ型色素の安定化評価1]
本実験は、ロイコ型色素の安定化に寄与するスルホベタインを確認するために行なった。100mmol/LのTris-PIPESバッファ(pH6.8)にロイコ型色素(DA-67)を0.045mmol/Lとなるように溶解し、この溶液20mLに表1に示す安定化剤を添加して試薬を調製し、調製した試薬を25℃24時間の加熱処理を行った。その後、生化学自動分析装置(JCA-BM-6010、日本電子社製)を用いて、以下の測定パラメータにより精製水を検体として測定することにより試薬の着色量を測定した。25℃24時間の加熱処理前の試薬についても同様の着色量の測定を行い、加熱処理前と加熱処理後の着色量の差から加熱処理による、この吸光度の変化の大きさからロイコ型色素に対する安定化能力を評価した。その結果を、表1及び図1に示す。
<第1試薬>
PIPESバッファ(pH6.4)
<第2試薬>
プロテアーゼ(商品名NEP-209、東洋紡社製):2U/mL
DA-67:45μmol/L
表1に示すスルホベタイン:1g/L
PIPESバッファ(pH6.8)
試薬着色量の評価に用いた測定パラメータは以下の通りである。
測定主波長:658nm
測定副波長:694nm
検体(精製水)分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:17-19
第2測光ポイント:21
【0056】
【表1】
【0057】
図1及び表1に示すとおり、実施例1-5では、比較例1に比べて着色率が低減された。特に実施例3-5における着色率の低減が顕著であった。
【0058】
[ロイコ型色素の安定化評価2]
本実験は、スルホベタインの濃度に依存してロイコ型色素の安定性が向上することを確認するため行なった。100mmol/LのTris-PIPESバッファ(pH6.8)にロイコ型色素(DA-67)を0.045mmol/Lとなるように溶解し、この溶液5mLに表2に示す安定化剤を添加して試薬を調製し、調製した試薬を、25℃24時間の加熱処理を行った。その後、生化学自動分析装置(JCA-BM-6010、日本電子社製)を用いて、以下の測定パラメータにより精製水を検体として測定することにより試薬の着色量を測定した。25℃ 24時間の加熱処理前の試薬についても同様の着色量の測定を行い、加熱処理前と加熱処理後の着色量の差から加熱処理による、この吸光度の変化の大きさからロイコ型色素に対する安定化能力を評価した。その結果を、表2及び図2に示す。
【0059】
試薬着色量の評価に用いた測定パラメータは以下の通りである。
測定主波長:658nm
測定副波長:694nm
検体(精製水)分注量:8μL
第一試薬分注量:96μL
第二試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:17-19
第2測光ポイント:21
その結果を表2及び図2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図2及び表2に示す通り、スルホベタインC12及びスルホベタインC14の添加量が多いほど、ロイコ型色素に対して発色抑制を示した。すなわち、ロイコ型色素を安定化させた。
【0062】
[ヘモグロビンA1c(HbA1c)の測定1]
本実験は、スルホベタインを添加した酵素試薬により、HbA1c%が高精度に測定可能であることを示すために行なった。糖尿病患者由来の血球検体(37検体)を、市販の測定試薬、及び、実施例13-20の安定化剤を添加した試薬(下記第1試薬及び第2試薬)で測定し、測定値を相関分析することにより、これら実施例の臨床検査への実用可能性を評価した。結果を下記表3に示す。
なお、ヘモグロビン濃度及びヘモグロビンA1c濃度は、異なる波長(測定主波長及び測定副波長)で求めた吸光度比をとって、吸光度比に対する検量線に基づき換算して求めた。
<試料>
糖尿病患者由来の血球検体(37検体)
<校正用試料>
市販のHbA1cキャリブレータ(アークレイ社製)
<第1試薬>
西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ:15U/mL
フルクトシルペプチドオキシダーゼ(商品名FPO-302、東洋紡社製):3U/mL
第2試薬と同じスルホベタイン(各種):3g/L
PIPESバッファ(pH6.4)
<第2試薬>
プロテアーゼ(商品名NEP-209、東洋紡社製):2U/mL
DA-67:45μmol/L
スルホベタインC12/C14(下記表3の濃度)
PIPESバッファ(pH6.8)
<測定方法1:ヘモグロビン濃度>
測定主波長:596nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:17―19
<測定方法2:ヘモグロビンA1c濃度>
測定主波長:658nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:21
第2測光ポイント:40-42
<測定方法3:HbA1c値(NGSP)の算出>
測定方法1と測定方法2により測定したヘモグロビン濃度をCHb、ヘモグロビンA1c濃度をCHbA1cとするとき、
HbA1c=CHbA1c/CHb×0.915×100+2.15
により算出した。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すとおり、同一の検体(37検体)について、市販の測定キットによるHbA1c値の測定値と、実施例13-20の安定化剤添加条件によるHbA1c値の測定値との相関分析の結果は、良好な相関性を示した。
【0065】
[ヘモグロビンA1c(HbA1c)の測定2]
本実験は、前記とは異なる構成の試薬でも、前記と同様の測定性能が得られることを示すために行った。その結果、下記の構成の試薬は、前記の構成の試薬と同等の性能であることが確かめられた。
<校正用試料>
市販のHbA1cキャリブレータ(アークレイ社製)
<第1試薬>
DA-67:10μmol/L
プロテアーゼ(商品名NEP-209、東洋紡社製):8U/mL
スルホベタイン(C12又はC14):30g/L
PIPESバッファ(pH6.8)
<第2試薬>
西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ:60U/mL
フルクトシルペプチドオキシダーゼ(商品名FPO-302、東洋紡社製):12U/mL
PIPESバッファ(pH6.4)
<測定方法1:ヘモグロビン濃度>
測定主波長:596nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:17―19
<測定方法2:ヘモグロビンA1c濃度>
測定主波長:658nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
第1測光ポイント:21
第2測光ポイント:40-42
<測定方法3:HbA1c値(NGSP)の算出>
測定方法1と測定方法2により測定したヘモグロビン濃度をCHb、ヘモグロビンA1c濃度をCHbA1cとするとき、
HbA1c=CHbA1c/CHb×0.915×100+2.15
により算出した。
【0066】
[スルホベタインのヘモグロビン変性能及びプロテアーゼ反応促進能の評価]
HbA1c%を酵素法試薬で測定するためには、ヘモグロビンの精確な定量のために、また、プロテアーゼによる加水分解を促進するために、ヘモグロビンが適切に変性されることが好ましい。そこで、本実験は、スルホベタインC12及びC14について、下記条件でHb変性能及びプロテアーゼ反応促進能を評価するために行なった。
<ヘモグロビン変性能の評価方法>
生化学自動分析装置(JCA-BM-6010、日本電子社製)を用いて、検体分注後、第2試薬が分注されるまでの5分間のヘモグロビンの吸光度変化を観察した。測定結果を図3に示す。
<測定パラメータ>
測定主波長:596nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24μL
<試料>
健常人全血を精製水により23倍に希釈した検体
<第1試薬>
西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ:15U/mL
フルクトシルペプチドオキシダーゼ(商品名FPO-302、東洋紡社製):3U/mL
スルホベタイン(C12または14):3g/L
PIPESバッファ:50mmol/L(pH6.4)
<第2試薬>
プロテアーゼ(商品名NEP-209、東洋紡社製):2U/mL
DA-67:45μmol/L
第1試薬と同じスルホベタイン:3g/L
PIPESバッファ:100mmol/L(pH6.8)
<プロテアーゼ反応促進能の評価方法>
生化学自動分析装置(JCA-BM-6010、日本電子社製)と、プロテアーゼ律速であるような測定試薬を用いて、検体分注後、第二試薬が分注されるまでの発色試薬由来の吸光度変化を観察した。測定結果を図4に示す。
<測定パラメータ>
測定主波長:658nm
測定副波長:694nm
検体分注量:8μL
第1試薬分注量:96μL
第2試薬分注量:24 μL
<試料>
健常人全血を精製水により23倍に希釈した検体
<第1試薬>
西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ:15U/mL
フルクトシルペプチドオキシダーゼ(商品名FPO-302、東洋紡社製):3U/mL
スルホベタイン(C12/C14):3g/L
PIPESバッファ:50mmol/L(pH6.4)
<第2試薬>
プロテアーゼ(商品名NEP-209、東洋紡社製):2U/mL
DA-67:45μmol/L
第1試薬と同じスルホベタイン:3g/L
PIPESバッファ:100mmol/L(pH6.8)
【0067】
図3及び図4に示すとおり、スルホベタインC12とC14はHb変性能及びプロテアーゼ反応促進能を有することが示された。
図1
図2
図3
図4