(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 50/14 20200101AFI20221219BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20221219BHJP
【FI】
B60W50/14
B60W40/10
(21)【出願番号】P 2018186662
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】浦脇 浩二
(72)【発明者】
【氏名】川端 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】野尻 隆宏
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-192028(JP,A)
【文献】特開2008-012975(JP,A)
【文献】特開2013-250144(JP,A)
【文献】特開2007-126086(JP,A)
【文献】特開平11-183593(JP,A)
【文献】特開2018-073010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
G01C 21/26~21/36
G08G 1/00~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動作を制御する車両制御システムであって、
前記車両の現在位置を判定する車両位置判定装置、
前記車両の運転者に対して情報を提示する提示装置、
を有し、
前記車両位置判定装置は、
前記車両の現在位置を推定するとともにその推定結果の推定精度を算出する演算部
、
GNSSから前記車両の現在位置を取得する絶対位置推定部、
前記GNSSを用いて取得した前記車両の現在位置を基準とした前記車両の移動量と前記移動量の確度を算出する相対位置推定部、
道路の座標を記述した地図データを格納する地図記憶部、
前記車両の現在位置の推定結果と前記地図データとを比較することにより前記車両が現在存在している道路を特定するとともにその特定結果の確度を算出するマッチング部、
を備え、
前記絶対位置推定部、前記相対位置推定部、および、前記マッチング部は、前記車両の現在位置をそれぞれ推定するとともに、その推定結果の精度をそれぞれ算出し、
前記演算部は、前記絶対位置推定部、前記相対位置推定部、および、前記マッチング部がそれぞれ算出した前記精度を乗算するかまたは計算式に対して代入することにより、前記推定精度を算出し、
前記提示装置は、前記推定精度が所定閾値未満である場合は、その旨を示唆する情報を前記運転者に対して提示する
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記GNSSの位置精度を取得するとともに、前記位置精度を用いて前記推定精度を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記車両位置判定装置はさらに、前記車両に対して作用している加速度を計測する加速度センサを備え、
前記演算部は、前記加速度センサの計測精度を取得するとともに、前記計測精度を用いて前記推定精度を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記相対位置推定部は、前記車両の現在速度、前記車両の操舵角、および前記加速度を用いて前記移動量を算出し、
前記演算部は、前記移動量の確度を用いて前記推定精度を算出する
ことを特徴とする請求項3記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記地図データの精度を用いて前記推定精度を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記特定結果の確度を用いて前記推定精度を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の車両制御システム。
【請求項7】
前記車両は、ディスプレイを有するカーナビゲーション装置を備え、
前記提示装置は、前記情報を前記ディスプレイ上に表示する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項8】
前記車両は、計器類を表示するメーターパネルを備え、
前記提示装置は、前記情報を前記メーターパネル上に表示する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項9】
前記車両は、画像を表示するヘッドアップディスプレイとして構成されているフロントガラスを備え、
前記提示装置は、前記情報を前記ヘッドアップディスプレイ上に表示する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動作を制御する車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両を自動運転する技術が盛んに開発されている。自動運転においては、車両の現在位置を判定することが重要である。車両の現在位置は一般に、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)によって車両の現在座標を特定し、さらにセンサによって車両の方位を特定することにより、判定することができる。
【0003】
下記特許文献1は、車両が走行しているレーンを認識する技術を記載している。同文献は、『撮影画像内に複数レーンの全体が写らない状況でも走行レーンを正しく認識できる「走行レーン認識装置および走行レーン認識方法」を提供する。』ことを課題として、『撮影画像の中から検出した車両の左右にあるレーンマークと、地図データに記憶されている道路の中心線の座標および道路のレーン数と、システムメモリ9に記憶されている衛星測位受信機2bの取付位置および衛星測位誤差範囲の情報とに基づいて、衛星測位の可能性がある座標の範囲をレーン毎に推定して、衛星測位受信機2bの衛星測位により得られた座標が、レーン毎に推定された衛星測位範囲のどこに入っているかに基づいて車両の走行レーンを判定することにより、撮影画像内に複数レーンの全体が写らないことがあっても、撮影画像内から少なくとも車両の左右にあるレーンマークを検出すれば、走行レーンを特定することができるようにする。』という技術を開示している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような従来の車両制御装置においては、車両の現在位置を推定した結果に基づき、例えば走行レーン認識や自動運転などを実施する。これらの処理は、自車位置の推定結果が正しいことを前提として実施される。しかし車両の周辺環境など様々な要因により、自車位置の推定精度が一時的に低下する場合もある。そのとき、自車位置の推定結果が正しい前提の下でその他の処理を継続することは望ましくないと考えられる。また低い推定精度にしたがって車両が動作することにより、運転者が想定していない車両挙動が生じる可能性があり、運転者に対して何らかの影響が及ぶことが考えられる。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、自車位置の推定精度が一時的に低下したことにともなって、運転者に対して想定外の影響を与える可能性を抑制する車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両制御システムは、車両の現在位置を推定するとともにその推定精度を算出し、推定精度が低下したときはその旨を運転者に対して提示する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両制御システムによれば、車両の現在位置の推定精度が一時的に低下した場合であっても、運転者はそのことを認識することができる。これにより、推定精度が低下したことに起因する状況が発生したとしても、運転者に対して与える影響を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る車両位置判定装置100の構成図である。
【
図2】車両1が搭載している車両制御システム10の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1:装置構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る車両位置判定装置100の構成図である。車両位置判定装置100は、後述する車両1の現在位置を判定する装置であり、車両1内に搭載されている。車両位置判定装置100は、演算部110、GNSSチューナ120、加速度センサ130、高精度地
図140を備える。演算部110は、絶対位置推定部111、相対位置推定部112、マッチング部113、位置補正部114を有する。
【0011】
GNSSチューナ120は、GNSSシステムから車両1の位置座標を取得する。この位置座標は車両1自身の状態や周辺情報を用いずに取得した位置座標であるので、絶対位置と呼ぶ場合がある。加速度センサ130は、車両1の加速度を計測する。高精度地
図140は、GNSSチューナ120が取得する絶対位置よりも位置精度が高い地図情報であり、あらかじめ車両位置判定装置100が備える記憶装置に格納されている。例えば道路やレーンの座標を高精度地
図140として格納することができる。
【0012】
絶対位置推定部111は、GNSSチューナ120が取得した絶対位置座標に基づき、車両1の現在の絶対位置を推定する。相対位置推定部112は、加速度センサ130が取得した加速度や車両1の車速・操舵角などの情報を用いて、絶対位置を基準とする車両1の移動量とこれに基づく相対位置を推定する。すなわち相対位置は、絶対位置よりも精度の高い車両位置を表すとともに、GNSSを介して間欠的に取得する座標を補完する役割も有している。マッチング部113は、車両1の絶対位置および相対位置と高精度地
図140を比較することにより、車両1が現在存在している道路やレーンを特定する。位置補正部114は、車両1の周辺画像をカメラなどの撮影デバイスから取得し、その周辺画像に基づき、車両1の絶対位置・相対位置を補正する。例えばレーン線の画像を取得し、自車がレーン線の左右いずれを走行しているかを判定することにより、自車位置を補正することができる。演算部110は、以上によって算出した車両1の現在位置を出力する。
【0013】
<実施の形態1:自車位置の推定精度について>
演算部110が推定する車両の現在位置は、様々な要因によって変動する。そこで演算部110は、車両の現在位置を推定するとともに、その推定精度を算出する。以下では推定精度を算出する手順についてさらに説明する。
【0014】
GNSSチューナ120は、例えば受信電波強度などにしたがって、測定結果の精度を取得することができる。絶対位置推定部111は、GNSSチューナ120による測定結果の精度をGNSSチューナ120から取得し、その精度にしたがって、絶対位置の推定精度を算出することができる。例えば測定精度そのものを推定精度としてもよいし、適当な計算式にしたがって推定精度を算出してもよい。
【0015】
加速度センサ130のなかには、測定精度を出力する機能を有するものがある。相対位置推定部112は、その測定精度を加速度センサ130から取得し、その精度にしたがって、相対位置の推定精度を算出することができる。例えば測定精度そのものを推定精度としてもよいし、適当な計算式にしたがって推定精度を算出してもよい。
【0016】
相対位置推定部112が相対位置を算出する際に、車両の加速度/車速/操舵角それぞれの値によっては、推定精度が変動する。例えばこれらの時間変化率が大きいとき、相対位置の推定精度は低下すると考えられる。相対位置推定部112は、例えばこれらの時間変化率が所定閾値以上であるときは、相対位置の推定精度が低いとみなすことができる。その他適当な手法にしたがって推定精度を算出してもよい。
【0017】
高精度地
図140は、精度の高い地図データを提供するが、例えば地図提供サーバが更新版の地図データを配信しているとき、その更新版地図データを車両位置判定装置100が取得するまでの期間は、一時的に古い地図データを用いることになる。高精度地
図140の鮮度(すなわち最新版から見てどの程度古いか)は、高精度地
図140の精度とみなすことができる。マッチング部113は、高精度地
図140の鮮度を用いて、マッチング精度を算出することができる。例えば高精度地
図140のバージョンが最新版よりも古ければその程度に応じてマッチング精度を減算する、などが考えられる。
【0018】
マッチング部113は、自車位置と高精度地
図140とを比較することにより、車両の正確な位置(例えば走行レーン)を特定する。このとき、自車位置と高精度地
図140との間のマッチング確度を算出することができる。例えば車両がレーン1上を走行している確率が80%、レーン2上を走行している確率が20%であり、自車位置の第1候補としてレーン1を出力する場合、マッチング確度は80%とみなすことができる。その他適当な手法によりマッチング確度を算出してもよい。
【0019】
演算部110は、絶対位置推定部111/相対位置推定部112/マッチング部113がそれぞれ算出した推定精度を用いて、車両位置の推定精度を算出することができる。例えば各部が算出した推定精度を乗算することにより車両位置の推定精度を算出してもよいし、その他適当な計算式にしたがって算出してもよい。
【0020】
<実施の形態1:システム構成>
図2は、車両1が搭載している車両制御システム10の模式図である。車両1は、フロントガラス2とメーターパネル3を備える。フロントガラス2は、画像を表示するヘッドアップディスプレイとして構成されている。メーターパネル3は、車両1の速度計などの計器類を表示する。
【0021】
車両制御システム10は、車両位置判定装置100、提示装置200、自動運転ECU300、カーナビゲーション装置400を備える。自動運転ECU300は、例えばカーナビゲーション装置400から車両1の走行予定経路を取得し、その走行予定経路に沿って走行するように、車両1を制御する。自動運転ECU300は、車両位置判定装置100が出力する車両位置を用いて、車両1を制御する。
【0022】
提示装置200は、車両位置判定装置100が出力する推定精度を取得する。提示装置200は、推定精度が所定閾値未満であるとき、その旨を表す情報を運転者に対して提示する。提示手段としては例えば以下のようなものが考えられる。これらの提示手段を併用することもできる。
【0023】
提示装置200は、推定精度が低下したことを表す画像やメッセージをフロントガラス2上に表示することができる。ただし運転者の視界を妨げない位置に表示することが望ましい。提示装置200は、同様のメッセージや画像をメーターパネル3上に表示することもできる。さらには、カーナビゲーション装置400が備えるディスプレイ上に表示することもできる。提示装置200は画像やメッセージ以外の手段によって推定精度を提示することもできる。例えば推定精度が低下したことを表す報知音を出力してもよい。
【0024】
提示装置200は、フロントガラス2/メーターパネル3/カーナビゲーション装置400に対して推定精度を表示するよう指示する装置として構成することもできるし、これらデバイスと一体になった装置として構成することもできる。例えばメーターパネル3を提示装置200と一体の装置として構成した場合、メーターパネル3は車両位置判定装置100から推定精度を取得し、その推定精度を表す画像などを表示する。
【0025】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る車両制御システム10は、車両1の現在位置の推定精度が低下すると、その旨を運転者に対して提示する。これにより、推定精度が低下したことにともなって車両1の挙動が変わるなどの状況が発生したとしても、運転者に対して違和感などをあまり与えないようにすることができる。さらには、運転者は例えばいつでもマニュアル運転に移行できるように手をハンドルにかけるなどの準備動作をすることができる。
【0026】
<実施の形態2>
車両位置判定装置100が出力する推定精度は、これを運転者に対して提示する以外の用途に用いることもできる。本発明の実施形態2では、それらの用途の例について説明する。
【0027】
自動運転ECU300は、車両1の現在位置を用いて車両1を制御するので、現在位置の推定精度が低下すると自動運転を実施できないか、または自動運転の安全性が低下する可能性がある。そこで自動運転ECU300は、推定精度が所定閾値未満に低下したときは、自動運転を一時的に中断してもよい。
【0028】
車両位置の推定精度が低下したとき、車両1の状態を段階的に変化させてもよい。例えば推定精度が閾値未満に達すると、まず電動ステアリングシステムをマニュアル操作モードに移行し、さらに時間が経過すると自動運転ECU300による自動運転を解除する、などの手順により、車両1を段階的にマニュアル操作へ移行させることが考えられる。その他、車両1の車内環境(車内照明、空調など)を段階的に移行して、運転者に対して段階的に注意を促すなどの動作も考えられる。
【0029】
<本発明の変形例について>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0030】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0031】
演算部110は、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置を用いて構成することができる。演算部110が備える各機能部は、その機能を実装した回路デバイスを用いて構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算部110が実行することにより構成することもできる。演算部110が備える各機能部は、演算部110の一部として構成することもできるし、別の機能部として構成することもできる。
【0032】
加速度センサ130その他のセンサは、車両位置判定装置100が備えることもできるし、車両位置判定装置100の外にそれらセンサを配置して計測結果のみ車両位置判定装置100が取得することとしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1:車両
10:車両制御システム
100:車両位置判定装置
110:演算部
111:絶対位置推定部
112:相対位置推定部
113:マッチング部
114:位置補正部
120:GNSSチューナ
130:加速度センサ
140:高精度地図
200:提示装置