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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221219BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20221219BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/18
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/14 611
B41J2/16 507
B41J2/16 501
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018195929
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020062808
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】平本 篤司
(72)【発明者】
【氏名】手島 隆行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 環樹
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056906(JP,A)
【文献】特開2011-037262(JP,A)
【文献】特開2018-047634(JP,A)
【文献】特開2017-174985(JP,A)
【文献】米国特許第09168743(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面および該第1の面と反対側の第2の面を有する基板と、前記基板の前記第2の面の側に設けられ、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記基板と前記吐出口形成部材との間に設けられた配線層とを備え、前記基板に、該基板を貫通する第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、前記第1の貫通孔が、前記吐出口に連通して該吐出口に液体を供給するための供給路を構成し、前記第2の貫通孔の内面に、前記配線層に電気的に接続された貫通電極が形成されている、液体吐出ヘッドであって、
前記第1の貫通孔が、前記第1の面に第1の開口部を有する第1の孔部と、前記第2の面に第2の開口部を有し、前記第1の孔部に連通する第2の孔部とを有し、
前記第2の貫通孔が、前記第1の面に第3の開口部を有する第3の孔部と、前記第2の面に第4の開口部を有し、前記第3の孔部に連通する第4の孔部とを有し、
前記第1の開口部の重心を通り前記第1の面に平行な直線に沿った前記第1の開口部の最小幅をD1、前記第2の開口部の重心を通り前記第2の面に平行な直線に沿った前記第2の開口部の最小幅をD2、前記第3の開口部の重心を通り前記第1の面に平行な直線に沿った前記第3の開口部の最小幅をD3、前記第4の開口部の重心を通り前記第2の面に平行な直線に沿った前記第4の開口部の最小幅をD4としたとき、
D1>D2、D3>D4、D1>D3、および、D4>D2
の関係を満たす、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の孔部の内面と前記第1の面とのなす第1の角度、前記第2の孔部の内面と前記第2の面とのなす第2の角度、前記第3の孔部の内面と前記第1の面とのなす第3の角度、および、前記第4の孔部の内面と前記第2の面とのなす第4の角度が、それぞれ直角または鈍角である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第3の角度と前記第4の角度がそれぞれ直角である、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第3の開口部が、前記最小幅D3を直径とする円周以上の周長を有し、前記第4の開口部が、前記最小幅D4を直径とする円周以上の周長を有する、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第3の開口部が、前記最小幅D3を一辺の長さとする正方形であり、前記第4の開口部が、前記最小幅D4を一辺の長さとする正方形である、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第3の孔部が円筒状に形成され、前記第4の孔部が、前記第3の孔部と同軸の円筒状に形成されている、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第3の孔部の深さをL3、前記第4の孔部の深さをL4、前記貫通電極の抵抗率をρ、前記貫通電極の厚みをt、前記第2の貫通孔の半径をrとし、
前記最小幅D3を直径とする円を底面とし前記最小幅D4を直径とする円を頂面とする円錐台の側面を前記頂面の側に延長した仮想円錐の頂角を2θ、前記仮想円錐の頂点から前記頂面までの距離をH1、前記頂点から前記底面までの距離をH2、前記頂点から前記底面に下ろした垂線に沿った前記頂点からの距離をHとしたとき、
【数1】
の関係を満たす、請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1の角度と前記第2の角度がそれぞれ直角である、請求項2から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1の孔部の深さをL1、前記第2の孔部の深さをL2、前記第3の孔部の深さをL3、前記第4の孔部の深さをL4としたとき、
L1/L2≧L3/L4
の関係を満たす、請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記基板が、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に設けられた中間層とを有し、
前記第1の基板に、前記第1の孔部と前記第3の孔部が形成され、前記第2の基板と前記中間層に、前記第2の孔部と前記第4の孔部が形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第1の孔部が、前記第1の面に溝状に形成され、前記第1の孔部の底面に、複数の前記第2の孔部が形成されている、請求項1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記基板の厚みが400μm以上である、請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記吐出口と前記供給路とを連通する流路を有し、前記流路の内部の液体が前記流路と外部との間で循環される、請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記第1の面の側から前記基板に前記第1の孔部と前記第3の孔部を形成する工程と、
前記第1の孔部と前記第3の孔部を形成した後、前記第2の面の側から前記基板に前記第2の孔部と前記第4の孔部を形成する工程とを含む、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記第1の孔部と前記第3の孔部が同時に形成され、前記第2の孔部と前記第4の孔部が同時に形成される、請求項14に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記第1の孔部と前記第3の孔部が反応性イオンエッチングにより形成され、前記第2の孔部と前記第4の孔部が反応性イオンエッチングにより形成される、請求項14または15に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吐出口からインクなどの液体を吐出して記録媒体に画像を記録する液体吐出ヘッドが知られている。近年、液体吐出ヘッドには画像の高画質化が強く求められており、そのためには、液滴を記録媒体上の本来着弾すべき位置に高精度に着弾させることが重要になる。液滴の着弾精度を向上させるためには、液体吐出ヘッドの吐出口が開口する吐出口面と記録媒体との距離をできるだけ短くすることが好ましい。しかしながら、熱エネルギーを利用して液体を吐出するサーマル方式の液体吐出ヘッドでは、エネルギー発生素子に電気信号や電力を供給するための配線としてボンディングワイヤが用いられているため、吐出口面と記録媒体との距離を短くするには限界がある。すなわち、ボンディングワイヤとそれをインクから保護するための封止材が吐出口面から記録媒体側に突出しているため、この部分が記録媒体に干渉しないだけの距離を吐出口面と記録媒体との間に確保する必要がある。
そこで、エネルギー発生素子に電気信号や電力を供給する構成として、液体吐出ヘッドにおいても、3次元実装技術で採用されている貫通電極(基板を貫通する電極)を用いることが考えられる。このような貫通電極により、基板の表面(液体吐出ヘッドの吐出口に対向する面)側に設けられた配線層を基板の裏面側に引き回すことができ、吐出口面と記録媒体との距離を短くすることの妨げとなるボンディングワイヤを表面側に設けずに済む。
【0003】
特許文献1には、液体吐出ヘッド用の基板に貫通電極を形成する方法が記載されている。この方法では、基板の表面側に金属スパッタリングにより下部配線を形成した後、基板の裏面側からエッチングを行い、貫通電極用の貫通孔と液体供給路用の貫通孔を形成する。そして、金属めっきにより、基板の裏面と貫通電極用の貫通孔の内面にそれぞれ上部電極と貫通電極を形成し、貫通電極を介して上部配線と下部配線を導通させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-51110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板の小型化(チップシュリンク)に伴い、基板には回路や配線が密に形成されているが、貫通電極用の貫通孔は、それらに干渉しないようにできるだけ小さい径で形成されることが好ましい。ただし、貫通孔の径が小さくなると、その内面に形成される貫通電極の配線抵抗が大きくなり、エネルギー効率が低下してしまう。したがって、貫通電極用の貫通孔としては、配線抵抗の低減とチップシュリンクとのバランスを考慮して形成されることが好ましい。一方、液体供給路用の貫通孔としては、吐出口の高密度配置のためには、基板の表面側ではできるだけ小さく開口させることが好ましいが、基板の裏面側では、流抵抗を小さくして液体を迅速に供給するために、表面側よりも大きく開口させることが好ましい。
このように、貫通電極用の貫通孔と液体供給路用の貫通孔には、それぞれの機能に適した形状・寸法がある。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、基板の裏面側から同じ深さの貫通孔を2つ形成するため、それぞれの貫通孔の開口幅は、表面側で同じになり、裏面側でも同じになる。すなわち、特許文献1に記載の方法では、それぞれの貫通孔に最適な形状・寸法を同時に実現することは困難である。
そこで、本発明の目的は、基板の小型化を実現しながら貫通電極の配線抵抗の低減と液体供給路の流抵抗の低減を両立する液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドは、第1の面および第1の面と反対側の第2の面を有する基板と、基板の第2の面の側に設けられ、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、基板と吐出口形成部材との間に設けられた配線層とを備え、基板に、基板を貫通する第1の貫通孔および第2の貫通孔が形成され、第1の貫通孔が、吐出口に連通して吐出口に液体を供給するための液体供給路を構成し、第2の貫通孔の内面に、配線層に電気的に接続された貫通電極が形成されている、液体吐出ヘッドであって、第1の貫通孔が、第1の面に第1の開口部を有する第1の孔部と、第2の面に第2の開口部を有し、第1の孔部に連通する第2の孔部とを有し、第2の貫通孔が、第1の面に第3の開口部を有する第3の孔部と、第2の面に第4の開口部を有し、第3の孔部に連通する第4の孔部とを有し、第1の開口部の重心を通り第1の面に平行な直線に沿った第1の開口部の最小幅をD1、第2の開口部の重心を通り第2の面に平行な直線に沿った第2の開口部の最小幅をD2、第3の開口部の重心を通り第1の面に平行な直線に沿った第3の開口部の最小幅をD3、第4の開口部の重心を通り第2の面に平行な直線に沿った第4の開口部の最小幅をD4としたとき、D1>D2、D3>D4、D1>D3、および、D4>D2の関係を満たしている。
また、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、上記に記載の液体吐出ヘッドの製造方法であって、第1の面の側から基板に第1の孔部と第3の孔部を形成する工程と、第1の孔部と第3の孔部を形成した後、第2の面の側から基板に第2の孔部と第4の孔部を形成する工程とを含んでいる。
このような液体吐出ヘッドおよびその製造方法では、第1の貫通孔において、第1の孔部の開口幅(最小幅)をできるだけ大きくしながら、第2の孔部の開口幅(最小幅)をできるだけ小さくすることができる。一方、第2の貫通孔において、第3の孔部の開口幅(最小幅)をできるだけ小さくしながら、第4の孔部の開口幅(最小幅)をできるだけ大きくすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基板の小型化を実現しながら貫通電極の配線抵抗の低減と液体供給路の流抵抗の低減を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す概略図である。
図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの基板を示す概略断面図である。
図3】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの第2の貫通孔を示す概略図である。
図4】第1の実施形態の貫通電極の配線抵抗を説明するための概略断面図である。
図5】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を示す概略断面図である。
図6】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの概略平面図であり、基板の裏面側から見た図である。図1(b)は、図1(a)のA―A線に沿った概略断面図である。
【0011】
液体吐出ヘッド30は、シリコンからなる基板1と、流路形成部材2と、吐出口形成部材3と、エネルギー発生素子4と、配線層5と、絶縁保護膜6とを有している。
基板1は、裏面(以下、「基板裏面」ともいう)1aと表面(以下、「基板表面」ともいう)1bを有し、基板表面1bに、絶縁保護膜6を介して流路形成部材2と吐出口形成部材3がこの順に設けられている。吐出口形成部材3には、液体を吐出する複数の吐出口7が形成され、記録媒体に対向する面(基板1に対向する面と反対側の面)には、吐出性能を向上させるために撥液層(図示せず)が形成されている。流路形成部材2には、複数の吐出口7に連通する複数の流路20が形成されている。エネルギー発生素子4は、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するものであり、各流路20内の吐出口7に対向する位置に設けられている。エネルギー発生素子4としては、電気熱変換素子(ヒータ)やピエゾ素子などが挙げられる。配線層5は、基板1と流路形成部材2との間に設けられ、エネルギー発生素子4に電気信号や電力を供給するためにエネルギー発生素子4に電気的に接続されている。エネルギー発生素子4が発生する熱エネルギーにより、流路20内の液体を発泡させて吐出口7から吐出することができる。絶縁保護膜6は、基板1と配線層5とを絶縁するために設けられている。絶縁保護膜6と流路形成部材2との間には、それらの密着を強固にするための密着層(図示せず)が設けられている。
【0012】
基板1には、基板1を貫通する2種類の貫通孔が形成されている。第1の貫通孔8は、吐出口7に連通して吐出口7に液体を供給するための液体供給路を構成し、第2の貫通孔11は、配線層5に電気的に接続された貫通電極14をその内周面(内面)に形成するために設けられている。
第1の貫通孔8は、第1の孔部9と、第1の孔部9に連通する複数の第2の孔部10とから構成されている。第2の孔部10は、流路20を介して吐出口7に連通して吐出口7に液体を供給するための個別供給路を構成し、第1の孔部9は、複数の個別供給路(第2の孔部)10に液体を供給するための共通供給路を構成する。こうして、共通供給路(第1の孔部)9を流れる液体を、個別供給路(第2の孔部)10を介して各流路20に供給することができる。第1の孔部9は、共通供給路として複数の吐出口7に液体を供給するために、基板裏面1aにおいて、吐出口7の配列方向(図1(a)の上下方向)に沿った細長い溝状に形成されていることが好ましい。第1の孔部9は、吐出口7の配列方向に垂直な方向(図1(a)の左右方向)に並列に複数設けられ、それぞれの第1の孔部9の底面に、複数の第2の孔部10が吐出口7の配列方向に沿って2列に配置されている。第2の孔部10は、1つの流路20に対して2つずつ設けられている。
第2の貫通孔11は、第3の孔部12と、第3の孔部12に連通する第4の孔部13とから構成されている。第2の貫通孔11の内周面には、絶縁層15を介して貫通電極14が設けられている。貫通電極14は、配線層5と基板裏面1aに設けられた電極パッド(図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。電極パッドは駆動電源(図示せず)に電気的に接続され、これにより、貫通電極14を通じて駆動電源からエネルギー発生素子4に電気信号や電力を供給することができる。第2の貫通孔11は、吐出口7の配列方向に沿って複数設けられている。
【0013】
ここで、図2(a)を参照して、本実施形態の基板の構成、特に2つの貫通孔の構成について詳細に説明する。図2(a)は、図1(b)に示す液体吐出ヘッドの基板の概略断面図である。
【0014】
第1の貫通孔8において、第1の孔部9は、基板裏面(第1の面)1aに第1の開口部8aを有し、第2の孔部10は、基板表面(第2の面)1bに第2の開口部8bを有している。また、第2の貫通孔11において、第3の孔部12は、基板裏面1aに第3の開口部11aを有し、第4の孔部13は、基板表面1bに第4の開口部11bを有している。第1および第2の貫通孔8,11は、これら第1から第4の開口部8a,8b,11a,11bが
D1>D2、D3>D4、D1>D3、および、D4>D2
の関係を満たすように、基板1に形成されている。
ここで、D1は、第1の開口部8aの最小幅であり、第1の開口部8aの重心を通り基板裏面1aに平行な直線に沿って測定した第1の開口部8aの幅のうち最小の幅を意味する。D2は、第2の開口部8bの最小幅であり、第2の開口部8bの重心を通り基板表面1bに平行な直線に沿って測定した第2の開口部8bの幅のうち最小の幅を意味する。D3は、第3の開口部11aの最小幅であり、第3の開口部11aの重心を通り基板裏面1aに平行な直線に沿って測定した第3の開口部11aの幅のうち最小の幅を意味する。D4は、第4の開口部11bの最小幅であり、第4の開口部11bの重心を通り基板表面1bに平行な直線に沿って測定した第4の開口部11bの幅のうち最小の幅を意味する。なお、本実施形態では、最小幅D1は、矩形である第1の開口部8aの短辺の長さに相当し、最小幅D2は、正方形である第2の開口部8bの一辺の長さに相当する。また、最小幅D3,D4はそれぞれ、円形である第3の開口部11aおよび第4の開口部11bの直径に相当する。ただし、第1から第4の開口部8a,8b,11a,11bの形状は、後述するように、これらの形状に限定されるものではない。
【0015】
以上を要約すると、第1の貫通孔8は、基板裏面1aと基板表面1bで異なる開口幅(最小幅)D1,D2を有し、第2の貫通孔11も、基板裏面1aと基板表面1bで異なる開口幅(最小幅)D3,D4を有している。また、第1の貫通孔8と第2の貫通孔11は、基板裏面1aにおいて、異なる開口幅(最小幅)D1,D3を有し、基板表面1bにおいても、異なる開口幅(最小幅)D2,D4を有している。したがって、第1の貫通孔8では、第1の孔部(共通供給路)9の開口幅(最小幅)D1をできるだけ大きくしながら、第2の孔部(個別供給路)10の開口幅(最小幅)D2をできるだけ小さくすることができる。一方、第2の貫通孔11では、第3の孔部12の開口幅(最小幅)D3をできるだけ小さくしながら、第4の孔部13の開口幅(最小幅)D4をできるだけ大きくすることができる。
このため、第1の貫通孔8では、液体の流抵抗の低減を実現しながら、吐出口7の高密度化ひいては基板1の小型化を実現することができ、第2の貫通孔11では、貫通電極14の配線抵抗の低減を実現しながら、基板1の小型化を実現することができる。その結果、基板1の小型化を実現しながら、貫通電極14の配線抵抗の低減と液体供給路9,10の流抵抗の低減を両立することができる。さらに、詳細は後述するが、上述した構成により、第1および第2の貫通孔8,11を形成するためのコストや工数を削減することも可能になる。
【0016】
さらに、第1の孔部9の内面と基板裏面1aとのなす第1の角度φ1、および第2の孔部10の内面と基板表面1bとのなす第2の角度φ2は、それぞれ直角である。すなわち、第1の貫通孔8は、第1および第2の角度φ1,φ2が直角であることで、第1の開口部8aの径方向外側にはみ出していない。また、第3の孔部12の内面と基板裏面1aとのなす第3の角度φ3、および第4の孔部13の内面と基板表面1bとのなす第4の角度φ4も、それぞれ直角である。すなわち、第2の貫通孔11は、第3および第4の角度φ3,φ4が直角であることで、第3の開口部11aの径方向外側にはみ出していない。これにより、第1の貫通孔8および第2の貫通孔11をより高密度に配置することが可能になり、基板1をさらに小型化することが可能になる。
なお、基板1の小型化という観点では、第1の貫通孔8および第2の貫通孔11は、それぞれ第1の開口部8aおよび第3の開口部11aの径方向外側にはみ出していなければよく、第1から第4の角度φ1~φ4の少なくとも1つは鈍角であってもよい。例えば、図2(b)に示すように、第1の角度φ1が鈍角であってもよく、その場合、第1の孔部9は、深さが深くなるにつれて開口径が小さくなるテーパ状となる。また、図2(c)に示すように、第3および第4の角度φ3,φ4が共に鈍角であってもよい。その場合、第2の貫通孔11は、第3の孔部12の深さが深くなるにつれて開口径が小さくなり、かつ第4の孔部13の深さが深くなるにつれて開口径が小さくなるテーパ状となる。
【0017】
ただし、第1の開口部8aの最小幅D1が同じであるとすると、第1の角度φ1が鈍角の場合に比べて、第1の角度φ1が直角の場合には、基板1の厚み方向における第1の孔部9の断面積を増加させることができる。また、第2の開口部8bの最小幅D2が同じであるとすると、第2の角度φ2が鈍角の場合に比べて、第2の角度φ2が直角の場合には、基板1の厚み方向における第2の孔部10の断面積を増加させることができる。その結果、第1の貫通孔8を液体供給路として用いる際に生じる液体の流抵抗を低減することができ、その機能を向上させることができる。同様に、第3の開口部11aの最小幅D3が同じであるとすると、第3の角度φ3が鈍角の場合に比べて、第3の角度φ3が直角の場合には、基板1の厚み方向における第3の孔部12の断面積を増加させることができる。また、第4の開口部11bの最小幅D4が同じであるとすると、第4の角度φ4が鈍角の場合に比べて、第4の角度φ4が直角の場合には、基板1の厚み方向における第4の孔部13の断面積を増加させることができる。その結果、後述するように、第2の貫通孔11の内面に形成される貫通電極14の配線抵抗を低減することができ、その機能を向上させることができる。
このような理由から、第1および第4の角度φ1~φ4はいずれも直角であることが好ましい。なお、ここで「直角」とは、厳密に90°の他、加工精度の範囲内で直角からわずかにずれた角度も含む。
【0018】
第1の貫通孔8が基板1を貫通して液体供給路用の貫通孔として機能すれば、第1および第2の開口部8a,8bの形状に特に制限はない。例えば、第2の開口部8bは、矩形であってもよく、あるいは円形であってもよい。同様に、第2の貫通孔11が基板1を貫通して貫通電極用の貫通孔として機能すれば、第3および第4の開口部11a,11bの形状に特に制限はない。本実施形態では、図3(a)および図3(b)に示すように、第3の孔部12が円筒状に形成され、第4の孔部13が、第3の孔部12と同軸の円筒状に形成されている。そのため、第3の開口部11aは、最小幅D3を直径とする円形であり、第4の開口部11bは、最小幅D4を直径とする円形であるが、他の幾何学的形状であってもよい。この点について、貫通孔の内面に形成された配線(貫通電極)の配線抵抗Rは、配線の抵抗率ρ、長さをl、断面積をSとすると、R=ρ(l/S)で表される。したがって、配線の厚みと長さがそれぞれ同じである場合、断面積を大きくすることで配線抵抗を小さくすることができる。このため、第3の開口部11aは、最小幅D3を直径とする円周以上の周長を有する形状であることが好ましく、第4の開口部11bは、最小幅D4を直径とする円周以上の周長を有する形状であることが好ましい。そのような形状としては、図3(c)に示すように、最小幅D3,D4をそれぞれ一辺の長さとする正方形が挙げられ、あるいは、最小幅D3,D4をそれぞれ短辺の長さとする矩形が挙げられる。
【0019】
本実施形態の第2の貫通孔11では、テーパ状の内周面を有する従来の貫通孔の場合に比べて、その内周面に形成される貫通電極14の配線抵抗を低減することができる。以下、図4を参照して、このことについて説明する。図4(a)は、本実施形態の第2の貫通孔の概略断面図であり、図4(b)は、テーパ状の内周面を有する従来の貫通孔の概略断面図であり、いずれも貫通孔の中心軸を含む断面を示している。
【0020】
図4(a)に示す本実施形態では、第2の貫通孔11の内周面に形成された貫通電極14の配線抵抗Rは、第2の貫通孔11の半径をr、第3の孔部12の深さをL3、第4の孔部13の深さをL4としたとき、以下のように表すことができる。
【数1】
一方、図4(b)に示す従来の貫通孔111は、第3の開口部11aと同じ直径D3の円形の裏面開口部111aと、第4の開口部11bと同じ直径D4の円形の表面開口部111bとを有するテーパ状の貫通孔であるとする。このような貫通孔111の内周面に形成された貫通電極114の配線抵抗Rは、以下のように表すことができる。
【数2】
ここで、2θは、裏面開口部111aを底面とし表面開口部111bを頂面とする円錐台の側面を表面開口部111bの側に延長した仮想円錐の頂角である。また、H1およびH2はそれぞれ、当該仮想円錐の頂点Oから表面開口部111bおよび裏面開口部111aまでの距離であり、Hは、頂点Oから裏面開口部111aに下ろした垂線に沿った頂点Oからの距離である。
したがって、図4(a)に示す本実施形態の第2の貫通孔11では、以下の関係を満たすように第3の孔部12の深さL3を調整することで、従来と比べて、その内周面に形成される貫通電極14の配線抵抗を低減することができる。
【数3】
【0021】
本実施形態では、流路20に供給される液体は、1つの第1の孔部(共通供給路)9から2つの第2の孔部(個別供給路)10を通って1つの流路20に流入するようになっているが、流路20への液体の供給方法はこれに限定されるものではない。例えば、第1の孔部9を吐出口7の配列方向に垂直な方向(図1(a)の左右方向)に2つに分割し、一方の孔部を、一方の第2の孔部10を介して流路20に連通させ、他方の孔部を、他方の第2の孔部10を介して流路に連通させてもよい。これにより、一方の第2の孔部10から流路20に液体を供給し、他方の第2の孔部10から流路20内の液体を回収することで、流路20内に液体の強制的な流れ(循環流)が生じさせることもできる。すなわち、流路20の内部の液体を流路20と外部との間で循環させることもできる。このことは、吐出口7の近傍での水分蒸発による液体の増粘が抑制され、吐出速度が低下したり色材濃度が変化したりする可能性が低減されることで、記録画像の品質低下を抑制することができる点で有利である。
【0022】
次に、図5を参照して、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。図5は、本実施形態の製造方法の各工程における液体吐出ヘッドの概略断面図であり、図1(b)に対応する図である。
【0023】
まず、図5(a)に示すように、エネルギー発生素子4と配線層5と絶縁保護膜6と密着層(図示せず)を表面1bに有し、シリコンからなる基板1を用意する。エネルギー発生素子4は、後述する工程において吐出口7が形成される位置に対向する領域に配置され、配線層5や密着層は、後述する工程において第1の貫通孔8および第2の貫通孔11が形成されない領域に配置されている。
【0024】
次に、図5(b)に示すように、基板裏面1aに、第1の孔部9と第3の孔部12を形成するための第1のエッチングマスク16を形成する。第1のエッチングマスク16は、例えば、基板裏面1aにエッチング耐性に優れたレジストを塗布し、露光・現像することで形成される。レジストとしては、例えば、ノボラック樹脂誘導体やナフトキノンジアジド誘導体を用いることができる。また、レジストの塗布方法としては、例えばスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法などを用いることができるが、平坦な基板1に対する均一性を考慮すると、スピンコート法を用いることが好ましい。レジストが塗布された基板1へのパターンの露光には、例えば、プロキシミティー露光、プロジェクション露光またはステッパ露光等を用いることができる。パターンを現像する際には、例えばディッピング方式やパドル方式、スプレー方式などを用いて現像液に浸漬させることができる。
【0025】
次に、図5(c)に示すように、第1のエッチングマスク16を用いて、基板裏面1aをエッチングし、第1の孔部9と第3の孔部12を形成する。基板1のエッチング方法としては、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、レーザ加工、結晶異方性エッチングなどを用いることができるが、加工異方性と加工精度を考慮すると、RIEを用いることが好ましい。その中でも、高アスペクト比の孔部の形成には、SF6ガスによるエッチングとC4F8ガスによる側壁保護膜堆積を交互に行うBoschプロセスが適している。
次に、第1のエッチングマスク16を形成したときと同様に、絶縁保護膜6をエッチングして配線層5を露出するためのエッチングマスクを形成し、ドライエッチングを行うことで絶縁保護膜6を除去し、配線層5を露出させる。
【0026】
次に、図5(d)に示すように、第1の貫通孔8と第2の貫通孔11を形成する。具体的には、まず、第2の孔部10と第4の孔部13を形成するための第2のエッチングマスク17を形成する。そして、この第2のエッチングマスク17を用いて、基板表面1bから基板1を加工し、第2の孔部10と第4の孔部13を形成してそれぞれ第1の孔部9と第3の孔部12と連通させ、第1の貫通孔8と第2の貫通孔11を形成する。このとき、第2のエッチングマスク17の形成と表面1bからの基板1の加工は、第1のエッチングマスク16の形成と裏面1aからの基板1の加工と同様に行うことができる。
なお、基板裏面1aに2つの孔部9,12を形成する際には、同時にエッチングを開始し、一度のエッチングでそれらを形成することが好ましい。また、基板表面1bに2つの孔部10,13を形成する際には、同時にエッチングを開始し、一度のエッチングでそれらを形成することが好ましい。基板裏面1aからのエッチングと基板表面1bからのエッチングをそれぞれ一度で実施できると、工程を削減でき、エッチングマスクやエッチング自体のコストも低減することができる。また、基板表面1bと基板裏面1aからそれぞれエッチングを行うことは、加工する孔部のアスペクト比を小さくすることができ、エッチング時間短縮と形状制御が容易になる点で好ましい。一般に、開口幅が広いほどエッチングレートが速い。そのため、第1から第4の開口部8a,8b,11a,11bの開口幅(最小幅)をD1>D3、およびD4>D2の関係を満たすよう設定することで、第1および第2の貫通孔8,11をそれぞれ同時に連通させることができる。なお、このとき、第1から第4の孔部9,10,12,13の深さL1~L4は、L1/L2≧L3/L4の関係を満たしている。また、ここで「同時」とは、厳密に同時である場合の他、ローディング効果などの面内分布によりタイミングがずれる場合も含む。このようにして、機能の異なる2つの貫通孔8,11を同時に精度良く形成することができる。
【0027】
次に、図5(e)に示すように、第1および第2のエッチングマスク16,17を除去する。なお、RIEなど、上述した基板1の加工方法によっては、基板1の側壁に反応生成物が付着する場合があるため、この前後で、必要に応じてそれらを除去してもよい。
【0028】
次に、図5(f)に示すように、第1の貫通孔8の内面と第2の貫通孔11の内面と第3および第4の開口部11a,11bの近傍を除いて絶縁層マスク18を形成し、絶縁層マスク18から露出した部分に絶縁層15を成膜する。絶縁層マスク18としては、ドライフィルム化したレジストを用いることができる。レジストは、ドライフィルム化可能なレジストであれば特に制限はないが、第1の貫通孔8を封止できるテンティング性の高いドライフィルムレジストが好ましい。絶縁層15としては、貫通電極14と基板1との間を絶縁可能なものが選択され、SiOやSiNなどのケイ素化合物やTiO、AlOなどの酸化物を用いることができる。絶縁層15の成膜方法としては、例えば化学気相成長(CVD)法や原子層堆積(ALD)法、スパッタリング法などを用いることができる。その中でも、絶縁層マスク18から露出した部分への成膜均一性を考慮すると、ALD法を用いることが好ましい。第1の貫通孔8の内面に成膜した絶縁層15は、インクなどのアルカリ性液体の接液による第1の貫通孔8の内面(シリコン)の溶解を低減させる保護膜として機能する。
次に、絶縁層マスク18をウェット処理により除去する。絶縁層マスク18上に成膜された絶縁層15は、絶縁層マスク18が除去される際にリフトオフされて同時に除去される。
【0029】
次に、図5(g)に示すように、配線層5と基板裏面1aとを電気的に接続する貫通電極14を形成する。具体的には、第2の貫通孔11の内面と第3および第4の開口部11a,11bを除いて電極マスク19を形成し、電極マスク19から露出した部分に貫通電極14となる電極材料を成膜する。電極マスク19は、上述した絶縁層マスク18と同様の方法で形成することができる。電極材料としては、電気的特性や機械的特性に優れ、ワイヤボンディング可能な金属を選択する。貫通電極14の成膜方法としては、CVD法、真空スパッタリング法、真空蒸着、めっきなどが挙げられる。
なお、めっきで貫通電極14を成膜する場合、第2の貫通孔11の内面と第3および第4の開口部11a,11bの近傍にシード層を成膜する必要がある。シード層の成膜方法としては、スパッタリング法やCVD法を用いることができる。シード層は、電極マスク19を形成する前に形成することもできる。また、電極マスク19としては、めっき液耐性のあるレジストをドライフィルム化したものを用いることができる。
【0030】
次に、図5(h)に示すように、基板表面1bの側に流路形成部材2と吐出口形成部材3を形成する。具体的には、まず、電極マスク19を除去した後、基板表面1bの側に、ドライフィルムレジストを転写する。流路形成部材2として用いられるこのドライフィルムレジストは、ネガ型感光性樹脂であることが好ましい。ネガ型感光性樹脂としては、例えば、ビスアジド化合物を含有する環化ポリイソプレンやアジドピレンを含有するクレゾールノボラック樹脂、あるいはジアゾニウム塩やオニウム塩を含有するエポキシ樹脂などが挙げられる。次に、フォトマスクを介して、ドライフィルムレジストを選択的に露光し、露光後の熱処理(PEB)を行うことにより、硬化部と未硬化部を決定する。この硬化部が、流路形成部材2の流路壁に相当する。次に、吐出口形成部材3を形成する。吐出口形成部材3の形成方法に特に制限はないが、流路形成部材2と吐出口形成部材3の感度を調整する観点から、流路形成部材2の場合と同様に、ドライフィルムレジストの転写とフォトリソグラフィによる方法を用いることが好ましい。その後、流路形成部材2と吐出口形成部材3の未露光部(未硬化部)を溶解可能な液体を用いて、各未露光部を溶解除去し、現像する。こうして、未露光部が除去されることで、流路20および吐出口7が形成される。
【0031】
以上、本実施形態の製造方法によれば、基板1の裏面1aと表面1bから、異なる開口幅(最小幅)D1,D2で2つの孔部9,10を形成し、それらを連通させて第1の貫通孔8を形成する。同様に、基板1の裏面1aと表面1bから、異なる開口幅(最小幅)D3,D4の2つの孔部12,13を形成し、それらを連通させて第2の貫通孔11を形成する。このとき、裏面1aに開口する2つの孔部9,12では、開口幅(最小幅)D1,D3も異ならせ、表面1bに開口する2つの孔部10,13でも、開口幅(最小幅)D2,D4を異ならせる。こうして、開口径の異なる高アスペクト比の貫通孔8,11を複数形成することができる。このような製造方法により、同じ厚みの基板に貫通孔を形成する場合でも、それぞれに要求される機能に適した形状・寸法の貫通孔を同時に形成することができる。このため、本実施形態の製造方法は、基板の厚みが400μm以上と厚い場合に特に好適である。
【0032】
(第2の実施形態)
図6(a)は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造に用いられる基板の概略断面図であり、図6(b)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの概略断面図である。なお、第1の実施形態の液体吐出ヘッドと同様の構成については説明を省略する。
本実施形態では、図6(a)に示すように、シリコンからなる第1の基板21と、シリコンからなる第2の基板22と、第1の基板21と第2の基板22との間に設けられた中間層23とからなる基板1が用いられる。中間層23は、第1の基板21における第1の孔部9と第3の孔部12のエッチングを止めるとともに、第2の基板22における第2の孔部10と第4の孔部13のエッチングを止めるために設けられている。中間層23の材料としては、感光性樹脂材料などの樹脂材料、シリコン酸化物、シリコン窒化物、炭化シリコン、シリコン以外の金属、またはその金属酸化物あるいは金属窒化物などが挙げられる。その中でも、中間層23としては、形成が容易であることから、感光性樹脂層やシリコン酸化膜を用いることが好ましい。
開口幅の異なるパターンを同時にエッチングして孔部を形成する場合、エッチングレートが異なるため、同じ時間だけエッチングを行っても、孔部の深さが異なる。さらに、同じパターンでも、ウエハ面内での疎密やローディング効果により、孔部の深さに面内で分布が生じる。孔部の深さに分布が生じると、液体の吐出特性や貫通電極の成膜バラツキなどによる電気特性が異なってしまう現象が起こる可能性がある。このような懸念を解消するために、上述の中間層23としては、ドライエッチングのストップ層として有効であるシリコン酸化膜を用いることがより好ましい。したがって、本実施形態の基板1としては、SOI(Silicon on Insulator)基板を用いることが好ましい。
【0033】
基板1としてSOI基板を用いて2つの貫通孔8,11を形成する場合、まず、第1の基板21に第1の孔部9と第3の孔部12を形成する。このとき、マイクロローディング効果により、エッチングレートが速い箇所(第1の孔部9)は先に中間層23に到達するが、その中間層23でエッチングは停止される。そのため、後から中間層23に到達するエッチングレートが遅い箇所(第2の孔部12)と深さを揃えることができる。その後、第2の基板22を第2の孔部10と第4の孔部13のパターンでエッチングし、同様に中間層23でエッチングをストップさせる。そして、第1の孔部9と第2の孔部10との間、および第3の孔部12と第4の孔部13との間にある中間層23を除去して貫通させることで、第1の貫通孔8と第2の貫通孔11が形成される。こうして、孔部の深さ分布を抑制することができ、安定的に形状制御できる液体吐出ヘッド30の作製が可能になる。
SOI基板以外の基板としては、第1の基板21に第1の孔部9と第3の孔部12を形成し、第2の基板22に第2の孔部10と第4の孔部13を形成した後、接着剤を介してそれらを接合したものを用いることもできる。
【0034】
(実施例)
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
本実施例では、図5に示す製造方法により基板1に貫通電極14を形成し、その配線抵抗を測定した。
【0035】
まず、図5(a)に示す工程では、シリコンからなる基板1の表面1bに、エネルギー発生素子4と配線層5を形成し、その上に、プラズマCVD法によってSiOおよびSiNを成膜して絶縁保護膜6を形成した。その後、絶縁保護膜6上に、ポリエーテルアミド樹脂からなる密着層(図示せず)を形成した。形成された密着層の厚みは2μmであった。
次に、図5(b)に示す工程では、基板裏面1aにフォトレジスト(商品名「iP5700(東京応化工業社製)をスピンコートで7μm塗布した。そして、投影露光装置(商品名「UX-4258」、ウシオ電機社製)を用いて、露光量400mJ/cmで開口形状が200μm×20mmの矩形の第1の孔部9と直径115μmの円形の第3の孔部12のパターンに露光した。その後、2.38%のテトラメチルハイドロオキサイド水溶液(商品名「NMD-3」、東京応化工業社製)を用いて現像を行い、第1のエッチングマスク16を形成した。
【0036】
次に、図5(c)に示す工程では、シリコンドライエッチング装置(商品名「Pegasus、SPPテクノロジーズ社製)を用いたBoschプロセスにより、基板裏面1aの異方性エッチングを60分間行い、第1の孔部9と第3の孔部12を形成した。第1の孔部9の深さの中心値は475μm、第3の孔部12の深さの中心値は395μmであった。
【0037】
次に、図5(d)に示す工程では、第1のエッチングマスク16と同様の形成方法で、基板表面1b側に、直径40μmの円形の第2の孔部10と直径80μmの円形の第4の孔部13のパターンの第2のエッチングマスク17を形成した。その後、ドライエッチング装置(商品名「APS」、SPPテクノロジーズ社製)を用いて、露出した絶縁保護膜6のSiOおよびSiNのエッチングを行い、配線層5を露出させた。さらに、基板裏面1a側のエッチングと同様に、シリコンドライエッチング装置を用いて、異方性エッチングを60分間行い、第2の孔部10と第4の孔部13を形成し、第1の孔部9と第3の孔部12にそれぞれ連通させた。第1の孔部9の深さの中心値は150μm、第4の孔部13の深さの中心値は235μmであった。
次に、図5(e)に示す工程では、エッチングマスク16,17と貫通孔8,11の内面に堆積したBoschプロセスの反応生成物を、剥離液(商品名「EKC2255」、EKCテクノロジー社製)に60℃で30分間浸漬させることで除去した。
【0038】
次に、図5(f)に示す工程では、基板1の表裏両面1a,1bにテンティングしたドライフィルムレジスト(商品名「PMER CY-1000」、東京応化工業社製)をパターニングし、第1の貫通孔8と第2の貫通孔11の内面に絶縁層15を成膜した。レジストは転写装置(商品名「VTM-200」、タカトリ社製)で基板1に転写し、第3および第4の開口部11a,11bの開口径(開口幅)よりそれぞれ60μm大きい開口径を有するパターンに露光・現像し、厚み30μmの絶縁層マスク18を形成した。そして、前駆体としてトリメチルアルミニウムを用い、ALD装置(Picosun社製)により、基板1に厚み300nmのAlO膜を成膜した。さらに、剥離液(商品名「EKC2255」、EKCテクノロジー社製)を用いたディップ処理により、レジストとレジスト上に成膜したAlO膜を除去した。こうして、第1の貫通孔8の内面と第2の貫通孔11の内面と第3および第4の開口部11a,11bの近傍のみに絶縁層15を形成した。
【0039】
次に、図5(g)に示す工程では、絶縁層マスク18と同様の形成方法で、第3および第4の開口部11a,11bの開口径(開口幅)よりもそれぞれ100μm大きい開口径を有するめっきマスクを形成した。その後、スパッタ装置(商品名「SDH10311」、神港精機社製)を用いて、基板1の表裏両面1a,1bから、それぞれ表面の膜厚が400nmと500nmとなるようにチタンと銅を成膜してシード層を形成した。そして、無電解銅めっき液(商品名「エピタスPHP」、上村工業社製)にて60℃で無電解銅めっきを20分間行い、第2の貫通孔11の内面に厚みが約1.7μmの銅めっき層を形成した。マスクを剥離液(商品名「MICROPOSIT REMOVER 1112A」、ロームアンドハース電子材料社製)にて除去した後、シード層の銅を混酸(商品名「Cu-30」、関東化学社製)によるエッチングで除去した。そして、シード層のチタンをバッファードフッ酸(商品名「110U」、ダイキン工業社製)によるエッチングで除去し、配線層5に電気的に接続する貫通電極14が形成された。
このときの貫通電極14の配線抵抗は0.0408Ωであった。一方で、第2の貫通孔の孔径が深さ方向で一定(85μm)であること以外、上述したのと同様の手順で貫通電極を形成したところ、その配線抵抗は0.0478Ωであった。したがって、本実施例では、貫通電極の配線抵抗を15%程度低減することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 基板
2 吐出口形成部材
5 配線層
8 第1の貫通孔
11 第2の貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6