(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】放射線モニタ及び放射線の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G01T1/20 J
G01T1/20 H
(21)【出願番号】P 2018204672
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 修一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】名雲 靖
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝広
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敬介
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114392(JP,A)
【文献】特開2014-211380(JP,A)
【文献】実開昭62-003083(JP,U)
【文献】特開2017-110952(JP,A)
【文献】特開昭62-003684(JP,A)
【文献】特開昭61-164177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線が入射すると光子を生成して発光する放射線検出素子と、前記放射線検出素子を収容するハウジングとを有する放射線検出部と、
前記放射線検出部で生成された光子1個1個を電気信号に変換する光検出部と、
前記電気信号の計数率に基づいて、放射線の線量率を算出する測定装置と、
前記放射線検出
部を加熱する加熱部と、
を備えた放射線モニタであって、
前記測定装置は、前記加熱部に電圧を印加したときに第1の計数率を算出し、前記放射線検出部に放射線が入射したときに第2の計数率を算出し、前記第2の計数率から前記第1の計数率を引いた第3の計数率を放射線の線量率に換算する
ことを特徴とする放射線モニタ。
【請求項2】
電圧を印加して前記加熱部の温度を変化させる電圧制御装置と、
前記加熱部に印加する電圧と前記第1の計数率の関係を記録するデータベースとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線モニタ。
【請求項3】
前記放射線検出
部の温度を測定する温度測定部を備え、
前記温度測定部が測定した温度の測定値と前記第1の計数率の関係を記録するデータベースとを備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線モニタ。
【請求項4】
前記測定装置は、前記加熱部に印加する電圧を0としたときの第4の計数率を算出し、
前記データベースに記録された前記第1の計数率と前記第4の計数率の差分により、前記データベースに記録された前記加熱部に印加する電圧または前記温度測定部が測定した温度の測定値と前記第1の計数率との関係を校正する
ことを特徴とす
る請求項3に記載の放射線モニタ。
【請求項5】
放射線発光素子が発光する光の波長と異なる波長の光を、前記放射線発光素子に照射する照射装置と、
前記照射装置に照射された光によって前記放射線発光素子が生成する波長の光を透過する波長選択フィルタを備える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の放射線モニタ。
【請求項6】
前記測定装置は、前記加熱部で加熱する前、加熱開始するとき、加熱中、加熱を停止するとき、加熱停止後の少なくともいずれかの光子1個1個の計数率の変化から、前記放射線検出部が気中にあるか、水中にあるかを判定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の放射線モニタ。
【請求項7】
前記加熱部は、生成したレーザ光を光ファイバを通して前記放射線検出部に照射することで前記放射線検出部を加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に放射線モニタ。
【請求項8】
前記加熱部は、放射線検出部に照射するレーザ光の強度またはレーザ光の照射時間を変化させることで、前記放射線検出部の温度を変化させることを特徴とする請求項7に放射線モニタ。
【請求項9】
放射線発光素子は、側面を第1の熱放射率の金属で覆い、第1の熱放射率の金属の外側から第1の熱放射率よりも大きい第2の熱放射率の金属で覆うことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の放射線モニタ。
【請求項10】
放射線発光素子に放射線が入射すると光子を生成して発光するステップと、
前記放射線
発光素子で生成された光子1個1個を電気信号に変換するステップと、
前記電気信号の計数率に基づいて、放射線の線量率を算出するステップと、
を備えた放射線の測定方法であって、
前記放射線発光素子が加熱されたときに第1の計数率を算出し、前記放射線発光素子に放射線が入射したときに第2の計数率を算出し、前記第2の計数率から前記第1の計数率を引いた第3の計数率を放射線の線量率に換算する
ことを特徴とする放射線の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の線量率を測定する放射線モニタおよび放射線の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの荷電粒子検出器としては、ガス検出器、シンチレーション検出器、及び、半導体検出器などが知られている。
【0003】
ガス検出器は、ガスを封入した容器内に金属ワイヤーを設置した構造のものである。荷電粒子が検出器内のガスを電離することによって電子を生成し、その電子を金属ワイヤー近傍の高電界領域で増幅することによって電気信号として測定する。
【0004】
シンチレーション検出器は、シンチレーション素子に荷電粒子が入射するとシンチレーション素子が発光し、その発光を光電子増倍管等を用いて電気信号に変換し、その電気信号をもとに荷電粒子を測定する。荷電粒子が1個入射した時に、多数の光子が生成し、生成した光子の個数が入射した荷電粒子のエネルギに比例することから、生成した光子の個数に比例するパルス状の電気信号の波高値を測定することで、入射した荷電粒子のエネルギを測定する。
【0005】
半導体検出器は、p型とn型の半導体を接合した接合面を中心に形成される電子や正孔がほとんど存在しない領域(空乏層)において、荷電粒子による電離によって生じた電子正孔対が、それぞれp型、n型に移動することによって生じる電気信号をもとに荷電粒子を検出する検出器である。荷電粒子が1個入射した時に、多数の電子正孔対が生成し、生成した電子正孔対の個数が入射した荷電粒子のエネルギに比例することから、生成した電子正孔対の個数に比例するパルス状の電気信号の波高値を測定することで、入射した荷電粒子のエネルギを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-15662号公報
【文献】特開2016-114392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの荷電粒子線検出器を高線量環境下で用いる場合、以下のような課題がある。
【0008】
ガス検出器の場合は、ガス検出器に入射してくるガンマ線と、ガスや検出器容器材料とのコンプトン散乱による電子を数多く測定してしまうことから、荷電粒子との弁別が困難である。
【0009】
シンチレーション検出器の場合は、多数のガンマ線が同時にシンチレーション素子に入射してしまい、パルス状の電気信号が重なり合ってしまうことから、荷電粒子を正しく測定することが困難である。それを防ぐために、シンチレーション素子の周囲を鉛等の放射線遮蔽体で覆ってしまうと、荷電粒子が検出器内に入射することができなってしまうため、使用は困難である。
【0010】
半導体検出器の場合は、多数のガンマ線が同時に半導体素子に入射してしまい、パルス状の電気信号が重なり合ってしまうことから、荷電粒子を正しく測定することが困難である。それを防ぐために、半導体素子の周囲を鉛等の放射線遮蔽体で覆ってしまうと、荷電粒子が検出器内に入射することができなってしまうため、使用は困難である。
【0011】
中性子線を検出する検出器に関しては、荷電粒子検出器と同様に、ガス検出器、シンチレーション検出器、半導体検出器などが知られている。しかし、上記の荷電粒子検出器と同様に、高線量率環境下における測定が困難だった。
【0012】
これに対し、高線量率環境下で測定可能な放射線モニタとして、例えば特許文献1や特許文献2に記載の技術がある。これらの文献には、放射線検出素子から発せられた光を光ファイバで伝送し、光子1個1個の計数率をもとに線量率を測定する技術について記載されている。
【0013】
しかしながら、放射線モニタを高温環境下で使用する場合は、輻射によるバックグラウンドが存在することから、その補正方法が必要となっている。特許文献1には複数の波長を用いて補正する方法が記載されているが、複数の波長の光子1個1個を測定するシステムが必要となり、システムが複雑化してしまう。また、プラント運転中における放射線モニタの劣化等による輻射によるバックグラウンドの変化を確認し評価する技術については記載されていない。
【0014】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、高温及び高線量率環境下においても、高精度に線量率を測定する放射線モニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の一つは、「放射線が入射すると光子を生成して発光する放射線検出素子と、放射線検出素子を収容するハウジングとを有する放射線検出部と、放射線検出部で生成された光子1個1個を電気信号に変換する光検出部と、電気信号の計数率に基づいて、放射線の線量率を算出する測定装置と、放射線検出部またはその近傍を加熱する加熱部と、を備えた放射線モニタであって、測定装置は、加熱部に電圧を印加したときに第1の計数率を算出し、放射線検出器に放射線が入射したときに第2の計数率を算出し、第2の計数率から第1の計数率を引いた第3の計数率を放射線の線量率に換算することを特徴とする放射線モニタ。」としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温及び高線量率環境下においても、正しい線量率を示す放射線モニタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1に係る放射線モニタの構成図である。
【
図2】熱放射(輻射)による光子1個1個の計数率と光子の波長との関係の説明図である。
【
図3】線量率を一定とした場合における、光子1個1個の計数率と加熱部に印加する電力の関係の説明図である。
【
図4】熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出する方法の説明図である。
【
図5】本発明の実施例2に係る放射線モニタの構成図である。
【
図6】温度の測定値に対する光子1個1個の計数率の一例。
【
図7】本発明の実施例3に係る放射線モニタの構成図である。
【
図8】加熱部に与える電力に対する光子1個1個の計数率の経時変化の説明図である。
【
図9】放射線発光素子部が水中または気中にある場合の光子1個1個の計数率の時間変化と加熱部への電力印加の関係の説明図である。
【
図10】本発明の実施例6に係る放射線モニタの構成図である。
【
図11】本発明の実施例7に係る放射線モニタの構成図である。
【
図12】本発明の実施例7に係る放射線検出部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施に好適な実施例について説明する。尚、下記はあくまでも実施の例に過ぎず、下記具体的内容に発明自体が限定されることを意図する趣旨ではない。
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例1を
図1乃至
図3に基づいて説明する。
【0021】
まず、本実施例に係る放射線モニタの構成について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る放射線モニタの構成図である。
【0022】
本実施例に係る放射線モニタ1は、放射線が入射すると発光する放射線検出部10と、放射線検出部10を加熱する加熱装置20と、光ファイバ40と、光検出部70と、測定装置80と、解析・表示装置90を備える。
【0023】
放射線検出部10は、セラミック母材に希土類元素を添加した部材からなる放射線発光素子11と、放射線発光素子11を収容する検出器ハウジング12を備える。放射線検出部10は、放射線を測定する測定エリアに設置される。
【0024】
放射線発光素子11は、セラミック母材としての透明イットリウム・アルミ・ガーネットなどの光透過性材料と、この光透過性材料中に含有されたイッテルビウム、ネオジム、セリウム、プラセオジウムなどの希土類元素とにより形成されている。放射線発光素子11(例えばイットリウム・アルミ・ガーネットは、ネオジムを含有させた材料であるYAG:Nd)の光減衰時間は、従来の放射線検出器に用いられるNaI、BGO、プラスチックシンチレータと比較して長いものを選択している。
【0025】
加熱装置20は、加熱部21と、電線22と、電圧制御装置23とを備える。
【0026】
加熱部21は、例えばヒータ等であり、放射線検出部10または加熱部21の近傍に設置される。
【0027】
電圧制御装置23は、加熱部21に印加する電圧を制御する。
【0028】
光ファイバ40は、放射線検出部10と光検出部70を接続する。より具体的には、光ファイバ40の一端が放射線発光素子11に接続され、光ファイバ40の他端が光検出部70に接続される。なお、光ファイバ40が放射線発光素子11に「接続」されるという事項には、光ファイバ40の一端が放射線発光素子11に密接される構成の他、光ファイバ40の一端が放射線発光素子11に近接している構成も含まれる。
【0029】
光検出部70は、光ファイバ40を介して、自身に導かれる光(パルス光)を電気信号に変換する(光検出処理)。より具体的には、光検出部70に1つの光子が入射すると、光電変換によって1つの電気信号(パルス信号)が生成されるようになっている。このような光検出部70として、例えば、光電子増倍管やフォトダイオードを用いることができる。
【0030】
測定装置80は、光検出部70から入力される電気信号の計数率を測定する装置であり、配線k1を介して光検出部70に接続されている。測定装置80は、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行する。
【0031】
解析・表示装置90は、配線k2を介して測定装置80に接続されている。図示はしないが、CPU、ROM、RAM、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成される。解析・表示装置90は、測定装置80ら入力される電気信号の計数率に基づいて、放射線の線量率を算出し(解析処理)、その算出結果を表示する。なお、電気信号の計数率と、放射線の線量率と、は比例関係にあり、その比例係数が解析・表示装置90に予め記憶されている。
【0032】
次に、本実施例に係る放射線モニタの測定原理と動作について説明する。
【0033】
放射線検出素子11に入射する放射線の線量率と、放射線検出素子11で生成される単位時間当たりの光子の個数と、は比例関係にあることが分かっている。すなわち、放射線検出素子11に入射する放射線の線量率と、光検出部70で変換された電気信号(パルス信号)の計数率と、は比例関係にある。そこで、本実施例では、このような比例関係に基づき、光検出部70から測定装置80に出力される電気信号の単位時間当たりの個数(計数率)を、放射線の線量率に換算し、線量率を算出する。以下、詳細に説明する。
【0034】
放射性発光素子11に放射線又は光が入射すると、放射線発光素子11内の電子または希土類原子がエネルギ準位の高い励起状態に遷移する。その高い励起状態から、エネルギ準位の低い励起状態または基底状態に遷移するときに光子が生成される。
【0035】
放射線発光素子11で生成された光子は、光ファイバ40を通って光検出部70で検出される。光検出部70では、光子1個1個を検出し、電気信号(パルス信号)に変換する。
【0036】
なお、放射線検出素子11で単位時間あたりに生成される光子の個数が(合計の個数)が、光検出部70で光電変換が可能な上限値を超える場合、すなわち光検出部70に光子が多数入射し、複数の光子を1つの電気信号に変換してしまう場合には、光減衰フィルタ(図示せず)を追加で設けてもよい。例えば、光検出部70の前段に光減衰フィルタを設けてもよい。また、光減衰フィルタが不要となるように、放射線検出素子11の種類やハウジング12の材料・厚さを適宜に選択してもよい。これにより、光検出部70が入射した1個1個の光子を、1個1個の電気信号に変換することができる。
【0037】
また、光検出部70の前段に波長選択部を設置することで、特定の波長のみの光子を透過させることが可能となる。波長選択部には、一枚または複数枚の波長選択フィルタを用いても良いし、分光器を用いても良い。
【0038】
光検出部70で電気信号に変換した後、この電気信号の計数率を測定装置80で測定する。放射線検出部10における線量率とこの電気信号の計数率には、比例関係がある。解析表示装置90は、事前に測定した線量率と計数率の比例係数を用いて、計数率から線量率を導出する。
【0039】
ここで、放射線検出部10の設置環境温度が高くなると、放射線検出部10の構成部材から熱放射(輻射)による光子の生成が起こる。
図2は、熱放射(輻射)による光子1個1個の計数率と光子の波長の関係の説明図である。図中には、放射線による発光も合わせて示している。熱放射(輻射)による光子の生成率は、設置環境温度が高いほど大きく、光子の波長が長いほど大きい。設置環境温度が高くなるに従って、熱放射(輻射)による光子であるバックグラウンドが高くなり、放射線の照射により発光する波長の光子を正確に測定できなくなる。このとき、放射線による線量率を導出するためには、熱放射(輻射)による光子の影響を補正する必要がある。
【0040】
そこで本実施例に係る放射線モニタは、次に説明する方法により、熱放射により生成された光子の影響を除いた計数率を導出する。
【0041】
まず、加熱部21が放射線検出部10を加熱する。このとき、電圧制御装置23が加熱部21に印加した電圧に従って、放射線検出部10から光子が生成される。光検出部70は、生成された光子を検出して電気信号に変換する。測定装置80は、変換された電気信号の計数率を測定する。
【0042】
図3は、放射線による線量率を一定とした場合における、光子1個1個の計数率と加熱部21に印加する電力との関係の説明図である。熱放射(輻射)による光子の生成率が放射線検出部10の温度に依存し、放射線検出部10の温度が加熱部21に印加する電力に依存することから、放射線検出部10を加熱部21で加熱したとき、電圧制御装置23からの印加電力の変化に従って変化する光子の計数率は、例えば
図3のようになる。このときの光子の計数率と印加電圧の関係、すなわち熱放射(輻射)による光子の生成率と印加電圧の関係を、事前に例えば解析表示装置90に記憶しておき、これを用いて測定値を次のように補正する。
【0043】
図4は、実際に放射線環境下かつ高温環境下で測定した場合における、熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出する方法の説明図である。放射線環境下かつ高温環境下の計数率の測定値には、放射線による計数率と熱放射による計数率が含まれる。そこで、解析表示装置90は、計数率の測定値から、熱放射による計数率を差分することで、放射線による計数率を導出する。ここで、熱放射による計数率は、事前に記憶した、または外部の入力装置(図示しない)等を用いて入力した値を用いる。そして、事前に測定した線量率と計数率の比例係数を用いることで線量率に変換し、熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出することができる。
【0044】
図4は、放射線による計数率が一定の場合を示したが、放射線による計数率が変化する場合も同様に、放射線及び高温環境下での計数率から、熱放射(輻射)による計数率を差分することで放射線による計数率を測定し、熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例2は、放射線モニタが、温度計側部と、信号線と、温度測定制御装置と、データベースとを備える点が、実施例1とは異なる。また本実施例では、放射線モニタを放射線の測定に使用する前に、温度測定値に対する光子1個1個の計数率の値を測定してデータベースに記録する点が、実施例1とは異なる。なお、その他については実施例1と同様である。したがって、実施例1とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0046】
図5は、本発明の実施例2に係る放射線モニタの構成図である。
【0047】
本実施例に係る放射線モニタ1は、温度計側部24と、信号線25と、温度測定制御装置26と、データベース27をさらに備える。
【0048】
温度測定部24は、温度を測定するセンサなどであり、放射線検出部10の近傍に設置される。設置される位置はハウジング12の内部であっても良いし、ハウジング12の外部であっても良い。温度測定部24で測定された温度は、温度計側部24と温度測定制御装置26とを接続する信号線25を通して、温度測定制御装置26に送信される。
【0049】
データベース27は、温度計側部24で測定した温度の測定値と、測定装置80で測定される熱放射(輻射)による光子1個1個を変換した電気信号の計数率の関係を記録する。
【0050】
図6に温度の測定値に対する光子1個1個の計数率の一例を示す。
【0051】
放射線モニタ1を放射線測定に使用する前の段階で、加熱部21を用いて放射線検出部10を加熱する。電圧制御装置23は、加熱部21に印加する電圧を変化して加熱部21の温度を変化させ、温度計側部24は放射線検出部10または加熱部21の近傍の温度を測定する。
【0052】
温度計側部24が測定する放射線検出部10または加熱部21の近傍の温度の測定値が上昇するに従って、測定装置80で測定される熱放射(輻射)による光子1個1個を変換した電気信号の計数率が増加する。
【0053】
データベース27は、温度計側部24で測定された温度の測定値に対する光子1個1個の計数率を記録する。
【0054】
本実施例に係る放射線モニタは、事前に放射線検出部10近傍の温度測定値に対する光子1個1個の計数率を測定して記録しておくことで、放射線モニタで放射線を測定中に温度を測定し、温度の測定値からデータベースに記録されたデータを用いて熱放射(輻射)による計数率を導出できる。
【0055】
これにより、計数率の測定値から、熱放射による計数率を差分することで、放射線による計数率を導出し、事前に測定した線量率と計数率の比例係数を用いることで線量率に変換し、熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出することができる。
【実施例3】
【0056】
実施例3は、放射線モニタが、光照射装置、光照射制御装置、光分岐部、光分岐用光学フィルタを備える点が、実施例1とは異なる。なお、その他については実施例1と同様である。したがって、実施例1とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0057】
図7は、本発明の実施例3に係る放射線モニタの構成図である。
【0058】
本実施例に係る放射線モニタ1は、光照射装置50、光照射制御装置51、光分岐部60、光分岐用光学フィルタ61、をさらに備える。
【0059】
光照射装置50は、放射線モニタ1が正常に機能しているか否かの判定を行う際に用いられる半導体レーザである。なお、光照射装置50としてLED(Light Emitting Diode)を用いてもよい。光照射装置50は、放射線検出素子11の発光波長とは異なる波長の光を発するようになっている。
【0060】
光分岐部60は、放射線検出部10からの光を光照射装置50及び光検出部70に向けて分岐させる。
【0061】
光照射制御装置51は、光照射装置50の発光強度、及び、連続発光またはパルス発光の時のパルス長と発光周波数等を制御する装置であり、配線を介して光照射装置50に接続されている。光照射制御装置51は、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。光照射制御装置51が実行する処理については後記する。
【0062】
放射線検出部10は、光ファイバ及び光ファイバの後段に設置した光分岐部60を通して、光照射装置50及びに光検出部70それぞれ接続される。
【0063】
次に、本実施例に係る放射線モニタの動作を説明する。
【0064】
光照射装置50を用いて照射する光の波長を、放射線発光素子11に光を照射することによって生成する光の波長と異なる波長に設定する。光照射装置50で発光した光を、光ファイバ及び光分岐部60を介して、放射線発光素子11に照射すると、放射線発光素子11は、照射された光の強度に比例した個数の光子が生成される。この生成された光子と、照射した光が放射線検出部10内で反射及び散乱された光子が合わさって、光ファイバ及び光分岐部60を介して、波長選択部に入射する。
【0065】
波長選択部では、放射線発光素子11で発光した波長の光子のみが、光検出部70に入射される。
【0066】
光検出部70は、検出した光子を電気信号に変換する。
【0067】
測定装置80は、光検出部70から出力された電気信号の計数率を測定する。事前に測定した発光部からの光の強度と計数率の関係を用いて、放射線モニタの動作確認及び校正を行う。
【0068】
放射線モニタ100Gの点検時には、光照射装置50の光強度や、電気パルスの計数率に基づいて、解析・表示装置90が所定の処理を実行するようになっている。すなわち、解析・表示装置90は、光照射装置50が劣化したのか、それとも、他の部品(放射線検出素子11や光ファイバ40等)が劣化したのかを判定し、その判定結果を表示する。これにより、放射線モニタ1の信頼性を従来よりも高めることができる。
【実施例4】
【0069】
実施例4は、放射線モニタの計数率の経時変化を校正する点が実施例2と異なる。なお、その他については実施例2と同様である。したがって、実施例2とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0070】
図8に加熱部に与える電力に対する光子1個1個の計数率の経時変化の一例を示す。
【0071】
放射線モニタ1を放射線測定に使用する前に、電圧制御装置23から加熱部21に印加する電圧に対する光子1個1個の計数率のデータベースを作っていても、使用中に加熱部21に与える電力に対する光子1個1個の計数率が変化する可能性がある。
【0072】
そこで本実施例では、例えば放射線モニタ1のメンテナンスをするときに、加熱部21に印加する電圧を変化させたときの光子1個1個の計数率の測定値から、熱放射(輻射)が無いまたは非常に少ない電量の範囲における光子1個1個の計数率を差分することで、加熱部21に印加する電圧を変化させたときの熱放射(輻射)による計数率を導出し、データベース27に保存する。
【0073】
これにより、最新のデータベースをもとに、放射線による計数率を導出し、この計数率と、事前に測定した線量率と計数率の比例係数を用いることで線量率に変換することで、経時劣化した場合においても熱放射(輻射)による計数率を精度良く補正できる。
【実施例5】
【0074】
実施例5は、放射線検出部の計数率から放射線モニタが水中又は気中のいずれにあるかを判定する点が実施例2と異なる。なお、その他については実施例2と同様である。したがって、実施例2とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0075】
図9に、放射線検出部10が水中または気中にある場合の光子1個1個の計数率の時間変化と加熱部21への電力印加の関係の一例を示す。
【0076】
本実施例では、事前に、放射線検出部10を水中及び気中のそれぞれに設置した場合において、加熱部21に電圧印加開始前、印加開始、印加中、印加停止及び印加停止後の光子1個1個の計数率の変化を測定し、データベース27に保存しておく。
【0077】
加熱部21に電力印加前、印加開始、印加中、印加停止及び印加停止後の光子1個1個の計数率の変化を測定した場合、放射線検出部10が水中にある場合は、気中の場合と比較して、放射線検出部10の周囲の熱伝達率が高いため、光子1個1個の計数率の上昇率が遅く、最大計数率も低くなる。また、印加停止後の計数率の下降率も遅くなる。
【0078】
この光子1個1個の計数率の上昇率、最大計数率、及び、計数率の下降率の測定データと、事前に測定したデータベースをもとに、放射線検出部10が水中または気中のいずれかの状態にあるかを判定できる。
【実施例6】
【0079】
実施例6は、加熱部21をレーザー加熱装置とする点が実施例2と異なる。
【0080】
図10は、本発明の実施例6に係る放射線モニタの構成図である。
【0081】
本実施例では、加熱部21としてレーザ加熱装置を用いる。レーザ加熱装置は、放射線検出部10と光ファイバ40で接続される。
【0082】
レーザ加熱装置で生成したレーザ光を、光ファイバ40を通して放射線検出部10に照射する。ここで、照射されるレーザ光が、放射線検出部10と光分岐部70を光学的に接続する光ファイバに入射しない構造とする。放射線検出部10に照射するレーザ光の強度及びレーザ光の照射時間を変化させることで、放射線検出部10の温度を変化させる。温度計側部24は放射線検出部10の近傍の温度を測定する。データベース27は、温度計側部24で測定した温度の測定値と、測定装置80で測定される熱放射(輻射)による光子1個1個を変換した電気信号の計数率の関係を記録することで、事前に熱放射による放射線の計数率を記録しておく。
【0083】
これにより、計数率の測定値から、熱放射による計数率を差分し、放射線による計数率を導出し、事前に測定した線量率と計数率の比例係数を用いることで線量率に変換し、熱放射により生成された光子の影響を除いた線量率を算出することができる。
【実施例7】
【0084】
実施例7は、放射線検出部の構造が実施例6と異なる。なお、その他については実施例2と同様である。したがって、実施例2とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0085】
図11は本発明の実施例7に係る放射線モニタの構成図、
図12は本発明の実施例7に係る放射線検出部の構成図である。
【0086】
本実施例では、光ファイバ40に接続していない放射線発光素子11の側面を、熱放射(輻射)率の小さい金属等で覆う。これを内面とする。また、放射線発光素子11の側面を熱放射(輻射)率の小さい金属等の外側から熱放射(輻射)率の大きい物質で覆う。これを外面とする。なお、本実施例では、光ファイバ40と接している放射線発光素子11の面を底面、その他の面を側面と称する。
【0087】
放射線発光素子11には、放射線発光素子11が発光して生成する光子を光検出部70に伝送するための光ファイバと、レーザ加熱装置(加熱部21)で放射線発光素子11を加熱するための光ファイバと、温度測定部24で温度を測定するための光ファイバが接続される。
【0088】
加熱部21であるレーザ加熱装置からのレーザ光を、放射線発光素子11の外面に照射する。このとき、熱放射(輻射)率の大きい物質に照射することで、加熱効率が向上するとともに、熱放射(輻射)率の小さい金属等の内面による光の遮蔽により、外面からの熱放射(輻射)が放射線発光素子11内に入り混まない。また、熱放射(輻射)率の小さい金属等の内面からの熱放射(輻射)は小さいことから、放射線測定における熱放射(輻射)のバックグラウンドを小さく抑えることができる。また、温度測定部24は、放射線測定素子11の外面からの熱放射(輻射)率を温度測定用光ファイバを通して測定する。熱放射(輻射)率の大きい既知の物質からの熱放射(輻射)強度を測定することで、精度良く温度を測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0089】
10…放射線検出部、11…放射線発光素子、12…検出器ハウジング、20…加熱装置、21…加熱部、22…電線、23…電圧制御装置、24…温度測定部、25…信号線、26…温度測定制御装置、27…データベース、40…光ファイバ、50…光照射装置、51…発光部制御装置、60…光分岐部、61…光分岐用光学フィルタ、70…光検出部、80…測定装置、90…解析・表示装置