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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】定着部材、および加熱定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20221219BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G03G21/00 510
G03G15/20 535
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018204730
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020071342
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】覚張 光一
(72)【発明者】
【氏名】北川 応樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛人
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-031836(JP,A)
【文献】特開2019-184951(JP,A)
【文献】特開2015-108764(JP,A)
【文献】特開2017-054039(JP,A)
【文献】特開2017-138427(JP,A)
【文献】特開2001-147614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能で、記録材上のトナー像と接し前記トナー像を加熱する第一回転体と、
前記第一回転体と当接する第二回転体と、
前記第二回転体は前記第一回転体とともにニップ部を形成し、前記ニップ部で熱と圧力とを前記トナー像に与えることで記録材にトナー像を定着し、
前記第一回転体の内周面に塗布されたオイルと、
前記第一回転体と前記第二回転体の少なくとも一方を回転させる駆動手段と、を有し、
前記駆動手段のトルクに関する情報を取得する検知部と、
前記検知部が検知する情報が第一の閾値以下の場合定着動作を許可し、
前記検知部が検知する情報が前記第一の閾値より大きい場合定着動作を許可せず、前記検知部は第一の情報と、第二の情報と、を検知し、
前記第一の情報が検知されたときの前記第一回転体の温度は、前記第二の情報が検知されたときの前記第一回転体の温度よりも高く、
前記第一の情報と前記第二の情報の差が第二の閾値以下の場合、前記第一回転体の交換を促す報知を行い、前記差が前記第二の閾値よりも大きい場合、前記第二回転体の交換を促す報知を行う報知部を有する、ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記第一の情報と前記第二の情報の差が第二の閾値以下の場合、前記第一回転体の交換を促す表示を行い、前記差が前記第二の閾値よりも大きい場合、前記第二回転体の交換を促す表示を行う表示部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記駆動手段はモータを有し、
前記検知部は、前記モータに流れる電流を検知することを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式、静電記録方式等を採用する画像形成装置に具備される画像加熱装置(以下、定着装置と呼ぶ)においては、いわゆる熱ローラ方式の定着装置が広く用いられてきた。熱ローラ方式の定着装置は、未定着トナー像を担持した記録材を、互いに圧接して回転する定着ローラと加圧ローラとで形成されるニップ部を通過させることにより記録材上に固着画像として定着させるものである。
【0003】
しかし、近年では省エネルギー推進の観点から、熱伝達効率が高く、装置の立ち上がりが速いオンデマンド方式として、熱容量の小さい定着フィルム(無端ベルト)を介して加熱するフィルム加熱方式の定着装置、すなわちフィルム定着装置が提案され実用化されている。このフィルム加熱方式の定着装置では、ポリイミド等の耐熱性フィルムの外面にフッ素樹脂等の離型層が積層されたシームレスの定着ベルトが用いられている。
【0004】
上記構成においては、無端ベルトの内周側に加圧パット等の圧力部材を設けて、この圧力部材により無端ベルトと加圧ローラ(もしくは定着ロール)に向かって押圧することで、無端ベルトと加圧ローラ(もしくは定着ロール)とを圧接させる。この無端ベルトと加圧ローラ(もしくは定着ロール)との間の加圧された加圧領域に記録媒体を通過させることで、記録媒体上の未定着トナーを記録媒体に定着させている。無端ベルトと圧力部材との間には、フッ素系やシリコーン系の耐熱性グリスやシリコーンオイル等の潤滑材を介在させることにより、摩擦抵抗を低く抑え、滑らかに無端ベルトが回転可能(移動可能)となる。
【0005】
一方、定着装置の稼働時間の経過に伴い、潤滑剤の経時劣化や内面摺動部への異物混入、ベルト内面の摩耗、ニップ形成部材表面・ベルト内面の変質等が起こることで、摺動負荷は徐々に増加していく。定着装置の摺動負荷が増加し続けると、画像不良の発生や摺動に伴う異音が発生する他、ベルト破損、ギア破損等のトラブルが生じる場合もある。
【0006】
そのため、定着装置交換の必要性を予測し、サービスマンが定着装置のメンテナンスに行けるような仕組みが求められる。従来はこの仕組みを実現するために、通紙枚数やベルト走行距離等のカウンタを活用する方法が主に用いられてきた。
【0007】
しかしながら、ユーザーごとの装置の設置環境や使用頻度、使用する紙種等の多様化に伴って、定着装置が寿命を迎える要因は様々なケースに分類されるようになってきており、従来の通紙枚数やベルト走行距離等のカウンタによる判断のみでは、適正な交換時期より早い段階で交換されてしまう場合も多い。
【0008】
そこで、定着装置の寿命を予測する手段として、以下のような提案がなされている。特許文献1では、駆動手段に流れる電流を検出する電流検出手段と、検出された電流(摺動負荷、トルク)に基づいて定着装置の交換時期を判定する交換時期判定手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-005353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の構成では、定着装置の交換時期を判定し、交換することは可能だが、摺動負荷上昇の要因まではわからない。よって対応としては定着装置を交換することになり、定着装置内の交換が不要な部品まで交換することとなり、コストアップにつながっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、ヒータと、前記ヒータにより加熱される定着回転体と、前記定着回転体の内面と圧接してニップ部を形成するニップ形成部材と、前記定着回転体を介してニップ形成部材と共にニップ部を形成する加圧回転体と、前記定着回転体または前記加圧回転体の少なくとも一方を回転させる駆動手段と、を有し、記録材をニップ部に挟持搬送し、記録材をニップ部で加熱加圧し定着する定着装置であって、前記駆動手段の回転トルク情報を取得するトルク情報検知手段を設けた構成において、トルクアップ要因を診断することができる画像形成装置である。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記診断手段が、複数の温度条件でトルクを取得し、前記取得したトルク情報の差分が所定値以上であるか否かで判断することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る画像形成装置によれば、摺動負荷上昇の要因を切り分けることで定着装置内の交換対象となる部品を明確にすることが可能となり、対象部品のみの交換で済むことによってコストダウンにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の画像形成装置を説明する模式図である。
図2】本発明における定着装置の断面模式図である。
図3】本発明における定着装置の長手模式図である。
図4】本発明におけるブロック図である。
図5】摺動負荷上昇した場合のトルクの温度依存性を示す図である。
図6】基油(オイル)単体の動粘度特性の温度依存性を示す図である。
図7】定着装置における摺動負荷(トルク)の温度依存性を示す図である。
図8】潤滑剤有無でのトルクの温度依存性を示す図である。
図9】フィルムユニット要因で周動負荷上昇が発生した場合のトルクの時系列推移を示す図である。
図10】加圧ローラ要因で周動負荷上昇が発生した場合のトルクの時系列推移を示す図である。
図11】トルクアップ要因の特定動作と判断フローに関して説明する図である。
図12】表示装置にて表示する表示例を示す図である。
図13】摺動負荷が上昇する要因を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。
【0016】
[画像形成装置]
図1は本実施例の画像形成装置であるプリンタ1の断面図である。プリンタ1は画像形成部10において、感光ドラム11に形成したトナー画像を記録材Pに転写した後、定着装置40で記録材Pに画像を定着する画像形成装置である。
【0017】
図1に示すように、プリンタ1は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、Bk(ブラック)の各色のトナー画像を形成する画像形成部(画像形成ステーション)10を備えている。画像形成部10は図1の左側から順にY、M、C、Bkの各色に対応した4つの感光ドラム11(11Y、11M、11C、11Bk)を備えており、駆動源(不図示)によって矢印方向に回転駆動する。
【0018】
各感光ドラム11の周囲には、帯電器12、露光装置13、現像装置14、一次転写ブレード17、クリーナ15が配置される。以下では、Bk色のトナー画像を形成する手順について説明を行うが、他色のトナー画像を形成する手順も同様である。
【0019】
まず、記録材P上にトナー画像を形成するまでの手順について説明する。感光ドラム11の表面は帯電器12によって均一に帯電された後、露光装置13によって画像情報に応じて露光されることで、感光ドラム11上に静電潜像が形成される。そして、現像装置14によって露光装置13により得られた静電潜像上にトナーが現像され、感光ドラム11上にトナー画像が形成される。この時、他の色についても同様の工程が行われる。
【0020】
各感光ドラム11上のトナー画像は、一次転写ブレード17によって中間転写ベルト31に一次転写され、感光ドラム11に残ったトナーはクリーナ15によって除去される。こうして、感光ドラム11は次の画像形成が可能な状態となる。
【0021】
一方、給送カセット20またはマルチ給送トレイ25に置かれた記録材Pは、給送機構(不図示)によって1枚ずつ送り出されてレジストローラ対23に送り込まれる。レジストローラ対23は記録材Pを一旦止めて、記録材Pが搬送方向に対して斜行している場合はその向きを真っ直ぐに直し、中間転写ベルト31上のトナー画像と同期を取って、記録材Pを中間転写ベルト31と二次転写ローラ34、35との間に送り込む。二次転写ローラ35は中間転写ベルト31上のトナー画像を記録材Pに転写する。
【0022】
トナー画像が転写された記録材Pは定着装置40へ搬送され、加熱及び加圧処理によって記録材P上に固着したトナー画像が形成される。
【0023】
次に、定着装置40について説明する。図2に定着装置40の断面図、図3に定着装置40の正面図を示す。記録材P上の画像を加熱するフィルムユニット60は、可撓性を有する薄肉の定着フィルム603を、内面に接触するヒータ600により加熱する構成である。図2のように、定着フィルム603はヒータ600と加圧ローラ70との圧着によりニップ部Nが形成され、ニップ部Nに給送された記録材Pを挟持搬送する。この時、ヒータ600で発生した熱は定着フィルム603を介して記録材Pに付与され、記録材P上のトナー画像Tは記録材Pに溶融定着される。
【0024】
フィルムユニット60は、記録材P上の画像を加熱加圧する為のユニットで、加圧ローラと平行となるように設けられ、ヒータ600、ヒータホルダ601、支持ステー602、定着フィルム603から成る。
【0025】
定着フィルム603は、ニップ部Nが所定の幅となるように加圧ローラ70方向に押圧される。またヒータ600は、基板610と基板610上に抵抗発熱体620を備え、ヒータホルダ601の下面の凹部に固定されている。尚、本実施例では基板610の裏面側(定着フィルム603と当接しない側)に発熱体620を設けているが、これに限定されるものでは無く、表面側(定着フィルム603と当接する側)に設けても良い。
【0026】
基板610の表面には定着フィルム603とヒータ600との摺擦負荷を低減するために、固体成分(コンパウンド)と基油成分(オイル)からなる半固形状潤滑剤(以下、グリス)が塗布され、ヒータ600と定着フィルム603、及びヒータホルダ601と定着フィルム603との摺動性を確保している。グリスのコンパウンドとしては、グラファイトや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、酸化亜鉛やシリカなどの金属酸化物、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂などが挙げられる。またグリスのオイルとしては、シリコーンオイルやフルオロシリコーンオイルなど耐熱性のある高分子樹脂オイルが挙げられる。本実施例では、コンパウンドとしてPTFE粉体微粒子(粒径3μm)、オイルとしてフルオロシリコーンオイルを用いたグリスを使用している。
【0027】
定着フィルム603は記録材上のトナー画像をニップ部Nにて加熱加圧するための円筒状のフィルムである。本実施例では、基材603a上に弾性層603bと離型層603cを設け、基材603aの内面には内面摺動層603dを設けている。具体的に、基材603aとしては外径が30mm、長さが340mm、厚みが30μmのニッケル合金から成る円筒形状の部材を使用している。更に、基材603a上には弾性層603bとして厚みが400μmのシリコーンゴム層を形成し、更に弾性層603b上には離形層603cとして厚みが約20μmのフッ素樹脂チューブを被覆している。更に、内面摺動層603dとして厚みが約10μmのポリイミド層(PI層)を使用している。
【0028】
ヒータホルダ601(以後、ホルダ601)は、ヒータ600が定着フィルム603に向かって押圧された状態を保持する部材である。また、ホルダ601は断面形状が半円弧形状であり、定着フィルム603の回転軌道を規制する機能を備えている。ヒータホルダ601には高耐熱性の樹脂等が用いられ、本実施例ではデュポン社のゼナイト7755(商品名)を使用している。
【0029】
支持ステー602はヒータホルダ601を介してヒータ600を支持する部材である。支持ステー602は大きな荷重をかけられてもたわみにくい材質であることが望ましく、本実施例においてはステンレス鋼(SUS304)を使用している。
【0030】
図3のように、支持ステー602はその長手方向の両端部において、フランジ411a、411bにより支持されている。フランジ411a、411bを総称してフランジ411と呼ぶ。フランジ411は定着フィルム603の長手方向の移動、及び周方向の形状を規制している。フランジ411には耐熱性の樹脂等が用いられ、本実施例ではポリフェニレンサルファイド(PPS)を使用している。フランジ411と加圧アーム414との間には加圧バネ415が縮められた状態で設けられる。上記構成により、フランジ411、支持ステー602を介して、加圧バネ415の弾性力がヒータ600に伝わる。そして、定着フィルム603が加圧ローラ70に対して所定の押圧力で加圧され、所定幅のニップ部Nが形成される。本実施例に於ける加圧力は一端側が約156.8N、総加圧力が約313.6N(32kgf)である。
【0031】
また、コネクタ500はヒータ600に電圧を印加するためにヒータ600と電気的に接続される給電部材であり、ヒータ600の長手方向片端側に着脱可能に取り付けられる。
【0032】
図2のように、加圧ローラ70は定着フィルムユニット60に加圧されることでニップ部Nを形成する部材である。加圧ローラ70は金属の芯金71上に弾性層72を設け、更に、弾性層72上に離型層73を設けた多層構造である。芯金71としてはステンレス鋼(SUS)、硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材(SUM)、アルミニウムを用いることができる。弾性層72としてはシリコーンゴム、スポンジゴム、あるいは弾性気泡ゴムを用いることができる。離型層73としてはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂材料を用いることができる。本実施例の加圧ローラ70はステンレス製の芯金71と、シリコーンゴムの弾性層72と、PFAチューブの離型層73からなり、外径は約25mm、弾性層の長手長さは330mmである。
【0033】
図3のように、加圧ローラ70の芯金71は側板41と軸受け42a、42bを介して回転可能に保持され、芯金71の一方側の端部にはGが設けられて、定着駆動モータM93の駆動力を芯金71に伝達する。図2のように、定着駆動モータM93により駆動される加圧ローラ70は矢印方向に回転駆動し、ニップ部Nにて定着フィルム603に駆動力を伝達して従動回転させる。尚、本実施例では加圧ローラ70の表面速度が200mm/secとなるように、定着駆動モータM93が制御回路部90によって制御される。図2に示す温度検知手段であるサーミスタ(TH)630はヒータ600の裏面側に設けられ、ヒータ600の温度を検知する温度センサである。サーミスタ630はA/Dコンバータ80を介して制御回路部90に接続され、検知した温度に応じた出力を制御回路部90に送信する。制御回路部90は各種制御に伴う演算を行うCPUとROM等の不揮発媒体を備えた回路である。このROMにはプログラムが記憶されており、CPUがこれを読み出して実行することで各種制御は実行される。
【0034】
制御回路部90は電源の通電を制御するように電源と電気的に接続される。また、制御回路部90はサーミスタ630から取得した温度情報を電源の通電制御に反映させ、ヒータ600へ供給する電力を制御している。本実施例では電源出力に対して波数制御または位相制御を行うことで、ヒータ600の発熱量を調整する方式を用いており、記録材上のトナーを定着する際、ヒータ600は所定の温度に維持される。
【0035】
[定着駆動モータの電流検知手段]
図3、4に示す通り、モータ電流検知手段94(トルク情報検知手段)は定着駆動モータM93に流れる電流を検知する。検知した電流値は制御回路部90に摺動負荷情報として入力される。本発明では、定着駆動モータM93としてブラシレスDCモータを採用しているので、モータの駆動電流とトルクが比例する特性を利用し、モータ電流値によってトルクの判断が行われる。この電流値に基づいて、定着装置40の中から交換対象となる部品を特定することになる。本特許において、トルク情報検知手段としてモータ電流検知方式を用いたが、この方式に限るものではなく、トルクゲージ等のトルク情報検知手段を用いてもよい。
【0036】
図4は画像形成装置における回転駆動制御系の構成を示すブロック図である。
【0037】
制御回路部90は、定着動作時(通紙時)に、温度検知手段630によって検出された定着フィルム603の温度に基づいて、ヒータ通電回路部92を駆動し、制御することで、定着フィルム603の温度を所定の定着温度に近づくように制御する温度制御手段としての機能を備えている。また制御回路部90は、温度検知手段630によって検出される定着フィルム603の温度に基づいて、定着駆動モータ93の回転駆動を制御することで、定着フィルム603及び加圧ローラ70の回転駆動を制御する駆動制御手段としての機能を備えている。
【0038】
さらに制御回路部90は、判定手段による判定結果を、報知部を介してユーザーに報知する機能も備えている。報知部としては、例えば画像形成装置の表示パネルにメッセージを表示することによる報知や、電子ブザーのようなブザー音による報知、さらには音声合成による内部スピーカからの音声メッセージによる報知などが考えられる。
【0039】
[摺動負荷上昇(トルクアップ)の要因とトルクの温度依存性]
図13に摺動負荷が上昇する要因を示す。大別するとフィルムユニット60要因と加圧ローラ70要因になる。以下、各々に関して詳細に説明する。
【0040】
フィルムユニット60要因としては、グリスの劣化と削れ粉(磨耗粉)の混入である。グリスの劣化とは、グリスを構成している基油成分(オイル)の損失のことであり、グリスが長期間高温にさらされることによって起こり、基油(オイル)の蒸発もしくは分解によって損失が促進されることになる。グリスの劣化が促進されると、定着フィルム603とヒータ600間に介在する油膜厚が薄くなり、定着フィルム603の内面とヒータ600の接触する頻度が多くなる。すると、フィルム内面の磨耗が促進され、定着フィルム603とヒータ600の間に介在するグリス中に、削れ粉(磨耗粉)が混入することになる。削れ粉(磨耗粉)は定着フィルム603とヒータ600間の油膜形成を阻害する要因となるので、摺動負荷上昇(トルクアップ)につながってしまう。
【0041】
一方、加圧ローラ70要因としては、定着装置40の稼働時間の経過に伴う弾性層72の軟化劣化に伴う硬度ダウンと加圧ローラ70の軸削れと軸受け削れに伴う、加圧ローラ軸と軸受けへの磨耗粉の混入である。
【0042】
図5に摺動負荷上昇した場合のトルクの温度依存性を示す。通常(摺動負荷上昇なしの正常時)の温度依存性に対して、フィルムユニット60要因で摺動負荷上昇した場合、トルクの絶対値上昇に加えて、グラフ形状が水平に近づいていることから温度依存性が減少する傾向になることがわかる。詳細は後述する。一方、加圧ローラ70要因で摺動負荷上昇した場合、通常(摺動負荷上昇なしの正常時)のグラフ形状と同様の傾向を維持したまま絶対値が上昇していることがわかる。
【0043】
本発明は、この現象に着目し、これを元にトルクアップ要因特定動作を実施することで交換部品の特定を行うことを特徴としている。詳細の判断フローに関しては後述する。
【0044】
[オイル粘度の温度依存性、トルクの温度依存性(潤滑剤の有無)]
図6に基油(オイル)単体の動粘度特性の温度依存性を示す。動粘度とは粘度を密度で割った値である。図6より、温度の上昇に伴って、動粘度が減少していくことがわかる。この影響が定着装置40における現象として顕在化してくるのは摺動負荷(トルク)である。図7に定着装置40における摺動負荷(トルク)の温度依存性を示す。縦軸の摺動負荷はモータ軸上の電流値をトルクに換算した値である。温度の上昇に伴って、トルクが減少していくことがわかり、図6に図示した基油の動粘度特性と同様の傾向があることがみてとれる。次に、図8にグリス有無でのトルクの温度依存性を示す。グリス無しの状態とは、前述したグリスの劣化した状態と削れ粉の混入を模した状態である。グリスが無い場合、温度の上昇に伴って、トルクが減少していく傾向が見られず、温度依存性の少ない、平らなグラフになっている。これは、グリスがないために、基油(オイル)単体の動粘度特性の影響を受けないことが原因である。
【実施例1】
【0045】
[トルクアップ要因特定動作と判断フロー]
図9図10に摺動負荷の時系列推移の概略図を示す。図9はフィルムユニット60要因で摺動負荷上昇が発生した場合の概略図、図10は加圧ローラ70起因で摺動負荷上昇が発生した場合の概略図である。温度とは、ヒータ温度のことであり、低温(120℃)条件と通常(200℃)条件の2水準のデータである。図9図10に示されている特徴を検出することで交換部品を特定する。すわなち、図9はフィルムユニット60要因のトルクアップであるため、温度依存性が少なく、図10は加圧ローラ70要因のトルクアップであるため温度依存性が大きいといった特徴を検出することになる。図11を用いて、トルクアップ要因の特定動作と判断フローに関して説明する。
【0046】
ジョブが開始されると、まず通電+駆動が開始される(S001)。次に、モータ電流値Aが所定値以上か否かの判断を行う(S002)。所定値以下の場合、定着装置40の使用に関しては問題がない状態であると判断し、通紙ジョブを実行後(S003)、通電停止(S009)して終了となる。
【0047】
一方、モータ電流値Aが所定値以上の場合、通紙ジョブ実行は行わず、温度変更後(S004)、モータ電流値Bを取得する(S005)。次に、モータ電流値Bとモータ電流値Aの差分が所定値以上か否かを判断する(S006)。所定値以上の場合、摺動負荷上昇の要因が加圧ローラ70であると判断し、加圧ローラユニット70交換を報知し(S008)、通電停止(S009)して終了となる。モータ電流値Bとモータ電流値Aの差分が所定値以下の場合、摺動負荷上昇の要因がフィルムユニット60であると判断し、フィルムユニット60交換を報知し(S007)、通電停止(S009)して終了となる。
前述したステップの(S002)、(S004)、(S005)、(S006)を実施することで、トルクアップの要因を診断している。
【0048】
(S001)から(S009)までの処理は制御回路部90が実行することにより実現される。また表示装置(不図示)によってユーザーへの指示をUIに表示し、入力からユーザーおよびサービスマン等の指示を受け付ける。
【0049】
上記判定結果を表示装置(不図示)にて表示する表示例を図12に示す。図12はフィルムユニット60要因のトルクアップに伴ってフィルムユニット交換が必要な場合の例を示しており、ユーザーおよびサービスマン等がわかるように具体的な文言としてメッセージと、コード化した情報を表示している。このように、具体的な情報で交換部品の内容がわかるため、ユーザーおよびサービスマン等が容易に対象部品を交換することができる。
【0050】
なお、本実施例では摺動負荷上昇の結果および交換すべきユニットを表示手段に表示して、ユーザーおよびサービスマンに周知する構成であるが、これに限定されるものでは無い。例えば、ネットワークを介してサービスマンに周知する方法を採用しても良く、この場合、サービスマンが事前に交換すべきパーツを知ることができるので、交換すべきパーツを確実に携帯してメンテナンスを行うことができる。
【0051】
[実施例1の効果]
以上説明したように、定着装置40の中から摺動負荷上昇に伴う交換部品を特定することができ、特定部品のみを交換すればよいためコストダウンにつなげることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 画像形成装置、40 定着装置、60 フィルムユニット、
70 加圧ローラ、90 制御回路部、92 ヒータ通電回路部、
93 定着駆動モータ、94 モータ電流検知手段、603 定着フィルム
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