(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】現地気圧に基づく体調管理支援装置
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20221219BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/00 M
(21)【出願番号】P 2018209995
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】595156665
【氏名又は名称】株式会社 ポーラ
(73)【特許権者】
【識別番号】397039919
【氏名又は名称】一般財団法人日本気象協会
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】平泉 浩一
(72)【発明者】
【氏名】曽根 美幸
(72)【発明者】
【氏名】前川 知士
(72)【発明者】
【氏名】山川 弓香
(72)【発明者】
【氏名】大場 愛
(72)【発明者】
【氏名】管 千帆子
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-067403(JP,A)
【文献】特許第6259147(JP,B1)
【文献】特開2013-140523(JP,A)
【文献】特開2002-015184(JP,A)
【文献】吉川 拓伸,ウェルネスのためのICT 5 ディジタル・ビューティー,情報処理,日本,一般社団法人情報処理学会 Information Processing Society of Japan,2015年01月15日,第56巻 第2号 ,第159-164ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者が存する地域の現地気圧情報を取得する気圧情報取得手段と、
現地気圧と、
未病領域に属する体調及び/又は肌調子
の評価値との
相関関係を示す単回帰式を含む相関情報を記憶する記憶手段と、
前記単回帰式に対象者が存する地域の現地気圧を代入して前記対象者の体調及び/又は肌調子の推定値を算出する処理手段と、
前記推定値に基づいて、対象者の体調及び/又は肌調子に関する情報を表示する表示手段と、を備える体調管理支援システム。
【請求項2】
前記体調が、自律神経に関するものであることを特徴とする、請求項1に記載の体調管理支援システム。
【請求項3】
前記体調が、むくみやすさ、貧血、寝つき及び風邪の引きやすさ、から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の体調管理支援システム。
【請求項4】
前記肌調子が、くすみであることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の体調管理支援システム。
【請求項5】
前記体調及び/又は肌調子に関する情報が、前記体調及び/又は肌調子の、予防及び/又は改善情報を含むことを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の体調管理支援システム。
【請求項6】
前記気圧情報取得手段が、ユーザーの位置情報に対応した現地気圧情報を取得することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の体調管理支援システム。
【請求項7】
前記処理手段が、前記相関情報に基づいて、将来の現地気圧から、将来の体調及び/又は肌調子の推定値を算出することを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の体調管理支援システム。
【請求項8】
体調管理システムを使用して、対象者の体調及び/又は肌調子を推定する方法であって、前記体調管理システムが、現地気圧と、
未病領域に属する体調及び/又は肌調子の
評価値との相関関係
を示す単回帰式に、対象者が存する地域の現地気圧を
代入して、対象者の体調及び/又は肌調子の
推定値の算出を実行することを特徴とする、推定方法。
【請求項9】
前記体調が、むくみやすさ、貧血、寝つき及び風邪の引きやすさから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項8に記載の推定方法。
【請求項10】
前記肌調子が、くすみであることを特徴とする、請求項8又は9に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現地気圧と体調及び/又は肌調子の相関情報に基づいて、現在、又は将来の体調及び/又は肌調子を推定する、体調管理支援装置、及びその推定方法に関する。
また、本発明は、体調及び/又は肌調子に影響を与える気象因子を推定する推定方法、及び、現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子の探索方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、気象病と呼ばれる、気象の変化によって症状が出現する、あるいは悪化する疾患が認知されつつある。
【0003】
気象病の典型的なものとしては、「低気圧になると頭痛が発生する」という、低気圧性頭痛、又は気圧変調性頭痛が知られている。
【0004】
気象病は自然現象に起因する疾患であるため、いくら注意をしていたとしても完全に防げるものではない。したがって、気象病の対策としては、予めどのような症状が出現するのかを推定した上で、自身の行動に気を配る方法が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、対象者のバイオリズムと、対象者が過去に所定の体調不良となったときの気象条件情報等を用いて、体調を予測する体調予測システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、気象病はその存在が認知されつつあるが、気象の影響により現れる具体的な症状については、まだ知られていないことが多く存在する。
逆に言えば、慢性的、突発的に現れる所定の症状の原因が、気象の変化によるものである可能性が存在している。
【0008】
気象因子としては、一般的に温度、湿度、日照時間及び気圧が挙げられる。
気象病は、これらの気象因子が単独で、又は複合的に影響して発症すると考えられるが、所定の症状に特に影響を与える気象因子を特定しなければ、適切な予防又は改善を行うことは困難である。
【0009】
したがって、本発明は体調、及び/又は肌の調子に影響を与える気象因子を推定する方法を提供することを課題の一つとする。
【0010】
また、温度、湿度及び日照時間は、ヒトが知覚しやすい気象因子であるため、体調、又は肌調子の悪化の原因として感覚的に結びつけやすい。
一方で、気圧は、一般的にヒトが知覚しにくい気象因子であるため、自身の症状が気圧によるものであると結びつけるのは困難である。
【0011】
したがって、本発明は、気圧による体調、又は肌の調子への影響を探索する方法を提供することを課題の一つとする。
【0012】
さらに、本発明は、上述した推定方法、及び探索方法により得られた知見に基づいて、気象により影響を受ける体調、又は肌の調子に関する有益な情報を提供可能なシステムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、
対象者が存する地域の現地気圧情報を取得する気圧情報取得手段と、
現地気圧と、体調及び/又は肌調子との相関情報を記憶する記憶手段と、
前記相関情報に基づいて、取得した前記現地気圧情報から、体調及び/又は肌調子の推定値を算出する処理手段と、
前記推定値に基づいて、対象者の体調及び/又は肌調子に関する情報を表示する表示手段と、
を備える体調管理支援システムである。
【0014】
本発明によれば、対象者に、現地気圧に影響を受ける体調及び/又は肌の調子に関する情報を提供することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記体調が、自律神経に関するものである。
また、本発明の好ましい形態では、前記体調が、むくみやすさ、貧血、寝つき及び風邪の引きやすさ、から選ばれる1種又は2種以上である。
本発明によれば、対象者に、従来知られていなかった気圧に影響を受ける体調に関する情報を提供することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記肌調子が、くすみである。
本発明によれば、対象者に、従来全く知られていなかった、気圧により影響を受ける肌調子に関する情報を提供することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記体調及び/又は肌調子に関する情報が、前記体調及び/又は肌調子の、予防及び/又は改善情報を含む。
本発明によれば、対象者に、気圧による影響を受ける症状に関して、発症、又は悪化を予防、或いは改善する情報を提供することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、
前記気圧情報取得手段が、ユーザーの位置情報に対応した現地気圧情報を取得する。
【0019】
本発明によれば、リアルタイムで現地気圧を取得することができ、より正確な症状に関する情報を提供することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、
前記処理手段が、前記相関情報に基づいて、将来の現地気圧から、将来の体調及び/又は肌調子の推定値を算出する。
【0021】
本発明によれば、対象者に、将来、発症又は悪化する可能性ある症状に関する情報を提供することができる。
【0022】
また、前記課題を解決する本発明は、
現地気圧と、体調及び/又は肌調子の相関関係に基づいて、対象者が存する地域の現地気圧を指標として、対象者の体調及び/又は肌調子を推定する推定方法である。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記体調が、むくみやすさ、貧血、寝つき及び風邪の引きやすさから選ばれる1種又は2種以上である。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記肌調子がくすみである。
【0025】
また、前記課題を解決する本発明は、対象者が存する地域の気象情報と、対象者の体調及び/又は肌調子に基づいて、体調及び/又は肌調子に影響を与える気象因子を推定することを特徴とする、推定方法である。
本発明によれば、各症状において、どの気象因子が特に影響を与えるものであるのか推定することができる。
【0026】
また、前記課題を解決する本発明は、
現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子の探索方法であって、
体調及び/又は肌調子を目的変数とし、現地気圧を説明変数とした相関分析を行う相関分析工程と、
現地気圧と相関がある体調及び/又は肌調子を判断する判断工程を備える、探索方法である。
【0027】
本発明によれば、従来知られていなかった、気圧による影響を受ける症状を探索することができる。
【0028】
本発明の好ましい形態では、
さらに、前記判断工程において現地気圧と相関があると判断された体調及び/又は肌調子を目的変数とし、現地気圧、気温、絶対湿度、及び日照時間から選ばれる1種又は2種以上を説明変数とした回帰分析を行う回帰分析工程を含み、
気温、絶対湿度及び/又は日照時間と相関があり、現地気圧と疑似相関である体調及び/又は肌調子を、現地気圧と相関があると判断された体調及び/又は肌調子から除斥する除斥工程を備える。
【0029】
本発明によれば、気温、絶対湿度及び/又は日照時間の影響を多分に受ける症状を除斥し、気圧による影響がある、又は影響が大きい症状を探索することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、各症状の発症、又は悪化の要因となる気象因子、あるいは、気圧による影響を受ける症状を推定することができ、推定した知見に基づき、対象者に有益な情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子の探索方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る判断工程を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係る除斥工程を示すフローチャートである。
【
図4】本発明に係る体調管理支援システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<1>本発明の現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子の探索方法
本発明は、目的変数を体調及び/又は肌調子とし、現地気圧を説明変数とした分析を行うことで、現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子を探索する方法である。
【0033】
一般に、天気図で使用されている気圧情報は、観測地点における気圧を、海抜0mにおける気圧に補正(海抜補正)した値であるが、本発明で規定する「現地気圧」とは、観測地点における気圧を意味する。
また、本明細書において「現地気圧情報」とは、常法により、測定又は推算される過去・現在・未来の現地気圧の情報である。
【0034】
図1は、本発明に係る現地気圧の影響を受ける体調及び/又は肌調子の探索方法を示すフローチャートである。これを参照して、前記探索方法について詳細に説明する。
【0035】
(1)相関分析工程
まず、ステップS10にて、目的変数を体調及び/又は肌調子とし、現地気圧を説明変数とした相関分析を行うことで、相関係数rを算出する。
【0036】
目的変数として設定する体調及び/又は肌調子は、特に限定されないが、いわゆる未病領域に属する体調及び/又は肌調子であることが好ましい。
【0037】
体調及び/又は肌調子としては、被験者が主観的に評価する自らの体調及び/又は肌の調子についての評価値を用いることができる。一般的には、被験者自身が日常的に経験する体調及び/又は肌状態のうち、評価時点の体調、及び/又は肌調子がどこに位置しているかを示す指標といえる。
【0038】
体調としては、例えば、疲れやすい、朝すっきり起きられない、風邪を引きやすい或いは治りにくい、寝つきが悪い或いは睡眠が浅い、イライラする、貧血、生理不調、冷えを感じやすい、肩や首がこりやすい、物忘れしやすい、唇が渇きやすい或いはあれやすい、不規則な便通、鼻や目のかゆみ、むくみやすさ、及び汗をかきやすい等が挙げられる。
【0039】
肌調子としては、にきび、吹き出物、肌荒れ、カサつき、しみ・そばかす、くすみ、しわ、くま、たるみ、及びむくみ等が挙げられる。
【0040】
体調及び/又は肌調子の評価値としては、例えば、上述したような体調及び/又は肌調子を感じるか否かを評価し、発症、又は悪化を感じると評価した場合を「1」とし、感じないと評価した場合を「0」とした、二値変数を用いることができる。
【0041】
探索の精度を上げたい場合には、ビジュアルアナログスケール(VAS)等の間隔尺度を用いて、体調及び/又は肌調子の評価値を取得することもできる。
【0042】
また、体調及び/又は肌調子の評価値として、常法により測定、又は観察可能な、客観性を有する定量的、又は定性的な評価値を用いることもできる。
例えば、肌調子においては、水分量や水分保持率等の肌のうるおいの度合い、メラニンの量、キメの乱れの度合い、及びコラーゲンの糖化量、又は糖化の度合い等を評価し、その評価値を目的変数として設定してもよい。
【0043】
現地気圧は、常法により測定することができる。
説明変数としては、日単位、月単位及び年単位等の単純平均値、加重平均値、中央値、及び最大値と最小値との差等の代表値を用いることができる。
【0044】
相関係数の算出は、求める精度に応じて分類毎に算出することができる。
例えば、地方別、都道府県別、市町村別に、日別、月別及び年別等に分類し、それぞれ相関係数を算出することができる。
【0045】
(2)判断工程
次にステップS11にて、相関係数を算出した体調及び/又は肌調子が、現地気圧との相関を有するか否かを判断する。
図2は、判断工程を示すフローチャートである。
【0046】
ステップS21にて、相関係数rを確認する。次いで、ステップS22にて、相関係数rが、所定の基準を満たしている場合には、当該相関係数を有する体調及び/又は肌調子は、現地気圧と相関がある群に分類する。
一方で、相関係数rが、所定の基準を満たさない場合には、当該相関係数を有する体調及び/又は肌調子は、現地気圧と相関がない群に分類する。
【0047】
所定の基準は、求める探索精度に応じて適宜設定することができる。
例えば、相関係数rの絶対値を基準として、現地気圧と相関がある群、及びない群に分類することができる。
すなわち、相関係数rの絶対値が0.2以上を基準とした場合には、0.2以上のものは相関がある群に分類し、0.2未満のものは相関がない群に分類する。
探索精度を向上させたい場合には、絶対値の基準を高い値に設定する。
【0048】
また、同一の体調及び/又は肌調子に対して、地域別に複数の相関係数を算出する場合には、上記絶対値の基準の他に、相関係数rの符号を基準とすることができる。
例えば、算出した複数の相関係数rが全て正の値、又は全て負の値である場合には、相関がある群に分類し、正の値と負の値が両方存在する場合には、相関がない群に分類する。
【0049】
目的変数として設定した全ての変数について相関の有無を判断したら、判断工程を終了する。
【0050】
本発明の探索方法は、上述した判断工程を終えた時点で、探索を終了してもよい。
さらに、探索の精度を向上させる場合には、ステップS12の回帰分析工程に移行する。
【0051】
(3)回帰分析工程
ステップS12にて、ステップS11にて現地気圧と相関がある群に属する体調及び/又は肌調子を目的変数とし、現地気圧、温度、及び湿度を説明変数とした回帰分析を行う。また、肌調子を目的変数とした場合には、さらに日照時間を説明変数として加えた回帰分析を行う。
【0052】
温度、湿度及び日照時間は、常法により測定することができ、(1)で説明した現地気圧と同様に、日単位、月単位及び年単位等における代表値を用いることができる。
【0053】
回帰分析は、常法により行うことができ、いわゆる重回帰分析を行う
【0054】
(4)除斥工程
ステップS13にて、ステップS11にて現地気圧と相関がある群に属する体調及び/又は肌調子について、相関がある群から除斥するか否かを決定する。
図3は、除斥工程のフローチャートである。
【0055】
ステップS31にて、偏回帰係数及び/又はp値を確認する。次いで、ステップS32にて、所定の条件を満たしている場合には、当該相関係数を有する体調及び/又は肌調子を、現地気圧と相関がある群から除斥する。
一方で、所定の条件を満たしていない場合には、当該相関係数を有する体調及び/又は肌調子を、現地気圧と相関がある群から除斥しない。
【0056】
所定の条件として具体的には、気温、絶対湿度及び日照時間等の気圧以外の気象因子と相関があり、気圧との関係において疑似相関がある場合である。
【0057】
除斥工程を行うことで、現地気圧以外に、温度、湿度及び日照時間の影響を大きく受ける、若しくは気圧の影響がほとんどない体調及び/又は肌調子を除外することができ、現地気圧の影響がある、又は影響が大きい体調及び/又は肌調子を探索することができる。
【0058】
気圧と、体調及び/又は肌調子とが疑似相関を有しているか否かの判断手法は、特に限定されない。
例えば、各説明変数について偏回帰係数を求め、相関係数を算出することで、気温、絶対湿度及び/又は日照時間と、体調及び/又は肌調子との相関が高く、気圧と体調及び/又は肌調子との相関が低い場合には、当該気圧と体調及び/又は肌調子は疑似相関を有していると判断することができる。
また、各説明変数についてp値を求め、気温、絶対湿度及び/又は日照時間の影響が有意であり、気圧の影響が有意でないと判断できる場合には、その体調及び/又は肌調子と、気圧とは疑似相関を有していると判断することができる。
【0059】
<2>体調及び/又は肌調子に影響を与える気象因子の推定方法
<1>にて説明した事項については省略しつつ、本発明の気象因子の推定方法について説明する。
【0060】
本発明の気象因子を推定する推定方法は、対象者が存する地域の気象情報と、対象者の体調及び/又は肌調子に基づいて、体調及び/又は肌調子に影響を与える気象因子を推定する。
【0061】
気象情報と体調及び/又は肌調子との相関関係は、<1>で述べた方法と同様の方法を用いて探索することができる。
【0062】
気象情報としては、気圧、現地気圧、温度、絶対湿度、日照時間の他に、晴れ、雨、曇り、雪等の天気に関する情報を用いることができる。
【0063】
気象情報は、<1>で述べた現地気圧と同様に、日単位、月単位及び年単位等の代表値を用いることができる。
【0064】
対象者が存する地域の分類は、特に限定されず、地方、県、市町村等で分類することができる。
【0065】
また、本発明の気象因子の推定方法は、各地域における気象情報と、体調及び/又は肌調子との相関係数r、及びp値を予め算出し、気象情報と、体調及び/又は肌調子との相関関係をまとめたビッグデータに基づいて、対象者の体調及び/又は肌調子に影響を与える気象因子を推定してもよい。
【0066】
本発明に推定方法によれば、例えば、北海道において、絶対湿度と肌のくすみとの間に相関関係があるとの結果が得られている場合、肌のくすみを自覚している北海道在住の対象者に対して、肌のくすみの原因は絶対湿度にあると推定することができる。
【0067】
<3>対象者の体調及び/又は肌調子を推定する推定方法
<1>及び<2>にて説明した事項については省略しつつ、本発明の体調及び/又は肌調子の推定方法について説明する。
【0068】
本発明の体調及び/又は肌調子の推定方法は、現地気圧と、体調及び/又は肌調子の相関関係に基づいて、対象者が存する地域の現地気圧を指標として、対象者の体調及び/又は肌調子を推定する。
【0069】
本発明において対象者が存する地域とは、対象者が在住する地域であってもよく、推定方法の適用時に対象者が実際に存する地域であってもよい。
【0070】
推定のためには、予め複数の対象についての解析により得られた体調及び/又は肌調子と、現地気圧との相関関係を利用する。
すなわち、統計的に有意な数の対象に対し、<1>で説明した方法により、体調及び/又は肌調子の評価値、各対象者が存する地域の現地気圧を取得しておき、得られた前記評価値と現地気圧との間で解析を行い、相関関係を求めておく。
対象者が存する地域の現地気圧を、前記相関関係に照合することで、対象者の体調及び/又は肌調子を推定することができる。
【0071】
本発明の推定方法は、未病領域に属する体調及び/又は肌調子に関して推定する方法であることが好ましい。
また、本発明の推定方法は、自律神経に関する体調及び/又は肌調子に関して推定する方法であることが好ましい。
具体的には、体調として、風邪をひきやすさ、治りにくさ、寝つき、睡眠の浅さ、貧血、及びむくみやすさに関して推定する方法であることが好ましい。
肌調子としては、肌のくすみに関して推定する方法であることが好ましい。
【0072】
例えば、相対的に現地気圧が高いほど、対象者は風邪を引きにくく、又は治りにくく(正の相関)、相対的に現地気圧が低いほど、寝つきが悪く、又は眠りが浅く、貧血気味であり、顔や足がむくやすい(負の相関)と推定することができる。
また、相対的に現地気圧が低いほど、肌がくすむと推定できる。
【0073】
本発明の推定方法の他の態様では、常法により取得される将来の現地気圧を、前記相関関係に照合することで、対象者の将来の体調及び/又は肌調子を推定することができる。
【0074】
<4>体調管理支援システム
本発明の体調管理システムの例を示す。
本発明の体調管理システムは、対象者が存する地域の現地気圧情報を取得する気圧情報取得手段と、
現地気圧と、体調及び/又は肌調子との相関情報を記憶する記憶手段と、
前記相関情報に基づいて、取得した前記現地気圧情報から、体調及び/又は肌調子の推定値を算出する処理手段と、
前記推定値に基づいて、対象者の体調及び/又は肌調子に関する情報を表示する表示手段を備える。
【0075】
以下、
図4を参照して、本発明の体調管理システムの一形態について説明する。
【0076】
本発明の体調管理システムは、気圧計及び気圧センサー等の気圧測定装置、並びに、現地気圧情報が記憶された主記憶装置(内部記憶装置)及び補助記憶装置(外部記憶装置)等から、現地気圧情報を取得する現地気圧情報取得手段110を備える。
現地気圧情報取得手段110は、例えば、気圧測定装置から送信された現地気圧情報を受信する手段であってもよく、記憶装置に記憶された現地気圧情報を読み取る手段であってもよい。
【0077】
現地気圧情報は、計量単位としての気圧の他に、気圧配置図等の情報を含んでいてもよい。
【0078】
本形態の体調管理システムは、<3>で説明した相関情報を記憶する相関情報記憶手段121を備える、記憶部120を有する。
また、記憶部120は、現地気圧情報取得手段110により取得した現地気圧情報を蓄積する、現地気圧情報蓄積手段122を備える。
【0079】
処理手段130は、現地気圧情報取得手段110が取得した現地気圧情報、又は現地気圧情報蓄積手段122に蓄積された現地気圧情報、及び相関情報記憶手段121に記憶された相関情報を用いて、対象者の体調及び/又は肌調子の推定値を算出する。
【0080】
推定値は、現地気圧と体調及び/又は肌調子との相関関係を示す単回帰式、又は重回帰式に、目的変数である対象者が存する地域の現地気圧を代入することで、算出することができる。
【0081】
対象者が存する地域に関する情報は、例えば、全地球測位システム(GPS)等の位置情報計測システムを用いて取得し、本発明にシステムに入力する形態とすることができる。
また、アンケート等を用いて、対象者に在住する地域を記載してもらうことで対象者が存する地域の情報を取得することもできる。この場合、外部入力機器を用いて、対象者が存する地域の情報を本発明のシステムに入力する。
また、主記憶装置及び補助記憶装置等に、予め各地域の情報が記憶されており、当該地域の情報から、対象者が在住している地域、又は実際に存する地域を選択し、読み取る形態であってもよい。
【0082】
次いで、本発明の体調管理システムは、前記推定値を、体調及び/又は肌調子に関する情報に変換し、ディスプレイ等の表示装置に表示可能とする、表示手段140を備える。
【0083】
体調及び/又は肌調子に関する情報とは、前記推定値に紐付けられた体調及び/又は肌調子の評価が挙げられる。
例えば、予め作成した相関関係から、推定値の大小に応じた5段階のランクを設定しておき、算出した推定値を、表示手段140が設定したランクに変換し、表示装置に表示する。
【0084】
例えば、「肌のくすみ」の推定方法において、推定値が「1」であれば、「肌のくすみが気にならない」との評価を表示し、推定値が「5」であれば、「肌のくすみがかなり気になる」との評価を表示する。
【0085】
また、予め作成した相関関係から、各推定値にスコアを設定しておき、算出した推定値を、表示手段140が設定したスコアに変換する形態であってもよい。
【0086】
また、体調及び/又は肌調子に関する情報として、前記体調及び/又は肌調子の評価に対する、予防及び/又は改善情報を含むことが好ましい。
例えば、「肌のくすみがかなり気になる」との評価を表示する場合、肌のくすみを予防・改善する有効成分に関する情報や、くすみを抑える化粧方法に関する情報等を表示する。
【0087】
本形態の体調管理システムは、前記相関関係に基づいて、将来の現地気圧を指標として、将来の対象者の体調及び/又は肌調子を推定することも可能である。
【実施例】
【0088】
<試験例1>現地気圧と、体調及び肌調子との相関関係
現地気圧は、各都道府県別に48ヶ月間測定を行った。
体調及び肌調子に関する情報は、前記現地気圧の測定と同期間、健常女性を対象に、以下の項目について自覚の有無を評価してもらうことで、評価値を取得した。
【0089】
(アンケート内容)
項目1.疲れやすい
項目2.朝すっきり起きられない
項目3.風邪をひきやすい、治りにくい
項目4.寝つきが悪い、ぐっすり眠れない
項目5.イライラすることがある
項目6.貧血気味
項目7.生理不調がある
項目8.冷えを感じやすい
項目9.肩や首がこりやすい
項目10.物忘れしやすい
項目11.唇が乾きやすい、あれやすい
項目12.便通が不規則
項目13.季節の変わり目に、鼻や目がむずむずする
項目14.顔や足がむくみやすい
項目15.汗をかきやすい
項目16.肌のくすみが気になる
【0090】
上記項目の全てに対し、各都道府県における、現地気圧の各測定月の平均値を用いて、相関解析を行った。結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
ほぼ全ての都道府県において、相関係数rが正の値であった項目3、8、11、15は、現地気圧と正の相関を有していると判断できる。
また、ほぼ全ての都道府県において、相関係数rが負の値であった項目1、4、6、14及び16は、現地気圧と負の相関を有していると判断できる。
一方で、複数の都道府県において、相関係数rの正負が異なっていた項目2、5、7、9、10、及び12は、現地気圧と相関を有していないと判断できる。
【0093】
以上の結果から、本発明の探索方法により、現地気圧と相関を有する体調の項目が明らかとなった。
【0094】
また、項目16(肌のくすみ)に関し、以下の各項目について、常法によりそれぞれ測定を行い、各項目の評点(くすみ値)を目的変数として、上述の方法と同様に都道府県毎に現地気圧との相関係数を算出したところ、上記肌のくすみの自覚(主観的観点)から得られた相関関係と同等の相関関係が得られた。
【0095】
(項目1´)うるおい
(項目2´)メラニン
(項目3´)キメの乱れ
(項目4´)コラーゲンの糖化
【0096】
<試験例2>現地気圧と疑似相関する体調及び肌調子の除斥
試験例1により、現地気圧と相関する群に属すると判断した、項目1、3、4、6、8、11、14、及び15を、それぞれ目的変数とし、現地気圧、温度及び絶対湿度を説明変数として、それぞれ重回帰分析を行い、各目的変数の各説明変数に対するp値を算出した。
また、項目16を目的変数として、現地気圧、温度、絶対湿度及び日照時間を説明変数として、同様にp値を算出した。
次いで、温度、絶対湿度及び/又は日照時間との関係において、各都道府県毎に算出したp値のうち、20個が0.05を下回る項目を、現地気圧と相関する群から除斥した。結果を表2に示す。
【0097】
【0098】
以上の結果から、本発明の探索方法により、気圧と相関を有している項目は、項目3、4、6、14、及び16であることが探索できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、気象病の予防、改善方法として有用である。