(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】振動波モータ及びそれを有する電子機器
(51)【国際特許分類】
H02N 2/12 20060101AFI20221219BHJP
B25J 19/00 20060101ALI20221219BHJP
G03B 17/56 20210101ALI20221219BHJP
【FI】
H02N2/12
B25J19/00 A
G03B17/56 A
(21)【出願番号】P 2018225865
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】末藤 啓
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010254(JP,A)
【文献】特開2018-185005(JP,A)
【文献】特開2018-108016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/12
B25J 19/00
G03B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、
前記振動体に接触する接触体と、
前記接触体と固定された軸体と、
前記接触体と前記軸体を、前記軸体側から固定する固定部材と、を有
し、
前記接触体の一部は、前記軸体の軸方向における位置を前記軸体に対して位置決めする位置決め部材を有するとともに、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置のうち、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置が共に前記軸体に対して固定されており、
前記接触体の他の一部は、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置のうち、前記軸体の周方向における位置のみが前記軸体に対して固定されており、
前記位置決め部材は、前記接触体の一部に設けられた第1の凹部の底面に接触するように、前記第1の凹部に収納されていることを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記接触体の一部は、前記接触体の他の一部が前記振動体に接触するように、前記接触体の他の一部を、前記軸体の軸方向に加圧する加圧部材を有し、
前記加圧部材は、前記接触体の他の一部に設けられた第2の凹部の底面に接触するように、前記第2の凹部に収納されていることを特徴とする請求項
1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記固定部材は、前記加圧部材の端面よりも前記振動体の側で、前記接触体と前記軸体を固定することを特徴とする請求項
2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記接触体の一部は、弾性部材を有し、
前記加圧部材は、前記弾性部材を介して、前記第2の凹部の底面に接触していることを特徴とする請求項
3に記載の振動波モータ。
【請求項5】
中空部と周方向に延在する外周面とを有し軸方向に延在する軸体と、
前記軸体が貫通される第1の穴部が設けられた環状の振動体と、
前記軸体が貫通される第2の穴部が設けられ前記振動体と接触する環状の接触部と、前記軸体が配置される第3の穴部を形成する内周面を有するとともに前記接触部を前記軸方向において前記振動体の側に加圧する環状の加圧部と、を含む環状の接触体と、
前記中空部の側から前記軸体に螺合されるとともに前記軸体の前記外周面から突出した先端が前記加圧部の前記内周面に当接することで前記軸方向の所定位置において前記加圧部と前記軸体とを固定する固定部材と、を有する振動波モータ。
【請求項6】
前記固定部材は、前記軸方向における前記加圧部と前記軸体との固定位置が調整可能なように前記内周面に当接されることで、前記加圧部と前記軸体とを固定する請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記固定部材は、前記軸体の周方向に複数設けられためねじ部に螺合され、前記軸体から前記径方向外側に向けて前記加圧部を当接することで、前記加圧部と前記軸体とを固定する請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記外周面と前記内周面とは、はめあいの関係をみたして配置され、
前記固定部材は、前記径方向外側に向かって前記外周面を超えて前記内周面を当接する請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項9】
前記加圧部は、前記振動部を加圧する加圧ばね部と、前記加圧ばね部と固定されるとともに前記内周面を含むばね規制部と、を有する請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項10】
前記固定部材は、前記ばね規制部が備える前記内周面と当接することで、前記軸方向における所定位置に前記加圧部を固定する請求項9に記載の振動波モータ。
【請求項11】
前記振動体の振動によって、前記接触体が前記軸体の周方向に回転されると共に、前記軸体が軸回転されることを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項12】
前記軸体は中空部を有し、
前記固定部材は、前記接触体と前記軸体を、前記中空部側から固定することを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項13】
少なくとも2つのリンク部材と、
請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の振動波モータによって、前記2つのリンク部材の交差角度を変更することができる第1のジョイント部材と、を有することを特徴とするロボットアーム。
【請求項14】
リンク部材と、
把持部材と、
請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の振動波モータによって、前記把持部材を前記リンク部材に対して軸回転することができる第2のジョイント部材と、を有することを特徴とするロボットアーム。
【請求項15】
撮像装置を支持する支持部材と、
前記支持部材を駆動する、請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の振動波モータと、を有することを特徴とする雲台装置。
【請求項16】
被駆動部材と、
前記被駆動部材を駆動する、請求項1乃至
15のいずれか1項に記載の振動波モータと、を有する、ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータ及びそれを有する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波モータは、進行性の振動波(以下、単に「進行波」という)が形成される振動体と、振動体に(加圧)接触する接触体と、を有する。そして、進行波により、振動体と接触体を摩擦駆動(接触による摩擦力を利用して動力を伝達する方式)させることにより、駆動力を得る。このように、振動波モータは、構造が簡素で薄型であると共に、高精度で静粛な駆動が可能である。そのため、振動波モータは、雲台装置などの旋回駆動装置や、FAなどにおける生産装置、OA機器などにおいて使用されるモータとして使用される(たとえば、特許文献1参照)。この種の振動波モータの一例を、
図10に示す。
【0003】
図10において、土台901に固定された振動体902は円環状をしており、弾性体902bの上部には複数の突起902fが、振動体902の全周にわたって設けられている。圧電セラミックス902aは、弾性体902bの底面に接着剤にて接着され、モータ駆動時に不図示の駆動回路により位相差を有する2つの交流電圧が印加されることにより進行波を発生させる。
【0004】
903,904,905を有する接触体のうち、接触部材903は、弾性部材で形成された円環状の本体部903aと、支持部903bと、振動体902の突起902fに摩擦接触する摩擦面を有する接触部903cを有している。支持部903bと接触部903cは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体902に対して安定した接触が可能となっている。
【0005】
接触部材903の上面には制振部材904、加圧ばねゴム(弾性部材)905cを介して加圧ばね(加圧部材)905bが取付けられている。制振部材904は、制振ゴム904aと円環状のばね受け部材904bから構成されている。これにより、接触部材903に発生する不要な振動を防止し、騒音の発生や効率の低下を抑えている。
【0006】
加圧ばね905bの内周部は、出力部(軸体)908に固定されたばね規制部材905aに取り付けられており、接触部材903の駆動力を軸体908に伝達している。軸体908は、2つの転がり軸受49a,49bによって、軸回転可能に支持されている。ばね規制部材905aには、止めねじ(固定部材)907が螺合されている。
【0007】
ばね規制部材905aは、接触部材903を振動体902に適切な力で加圧接触させるために必要な加圧ばね905bの変位量が得られる軸方向の位置で、軸体908に対して固定部材907で固定されている。これにより、回転方向にガタなく駆動が伝達でき、振動波モータの高精度な駆動が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記
図10に示す従来例のような振動波モータにおいては、つぎのような課題を有している。
【0010】
すなわち、ばね規制部材905aは、止めねじ(固定部材)907をばね規制部材905aの外径から出力軸(軸体)908に向かって螺合することで、軸体908に対して固定されている。そのため、ばね規制部材905aには、固定部材907が螺合するためのめねじ部が設けられている。
【0011】
したがって、ばね規制部材905aの軸方向の大きさは、固定部材907の径に対応するめねじの径と、そのめねじをばね規制部材905aに設けるために必要な肉厚分だけ大きくなる。そして、その結果、振動波モータが大型化する、特に、出力軸(軸体)が長軸化するという課題が生じる。特に、振動波モータの高トルク化に伴って加圧ばね905bの加圧力を増すと、その分だけ軸保持力が必要となり、大きな固定部材907を用いることになるため、さらに振動波モータが大型化するという課題が生じる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、振動波モータの小型化、特に、軸体の短軸化が可能になる振動波モータ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る振動波モータは、振動体と、前記振動体に接触する接触体と、前記接触体と固定された軸体と、前記接触体と前記軸体を、前記軸体側から固定する固定部材と、を有し、前記接触体の一部は、前記軸体の軸方向における位置を前記軸体に対して位置決めする位置決め部材を有するとともに、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置のうち、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置が共に前記軸体に対して固定されており、
前記接触体の他の一部は、前記軸体の周方向における位置及び前記軸体の軸方向における位置のうち、前記軸体の周方向における位置のみが前記軸体に対して固定されており、
前記位置決め部材は、前記接触体の一部に設けられた第1の凹部の底面に接触するように、前記第1の凹部に収納されていることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態に係る振動波モータは、中空部と周方向に延在する外周面とを有し軸方向に延在する軸体と、前記軸体が貫通される第1の穴部が設けられた環状の振動体と、前記軸体が貫通される第2の穴部が設けられ前記振動体と接触する環状の接触部と、前記軸体が配置される第3の穴部を形成する内周面を有するとともに前記接触部を前記軸方向において前記振動体の側に加圧する環状の加圧部と、を含む環状の接触体と、前記中空部の側から前記軸体に螺合されるとともに前記軸体の前記外周面から突出した先端が前記加圧部の前記内周面に当接することで前記軸方向の所定位置において前記加圧部と前記軸体とを固定する固定部材と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動波モータの小型化、特に、軸体の短軸化が可能になる振動波モータ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る振動波モータを示す斜視図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る振動波モータを示す断面図。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る振動波モータの振動体に励起される振動モードを示す斜視図。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る振動波モータを示す断面図の一部を拡大した拡大断面図。
【
図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係る振動波モータを示す断面図。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る振動波モータを示す断面図。
【
図7】本発明の第2の実施形態の変形例に係る振動波モータを示す(a)斜視図と(b)分解斜視図。
【
図8】本発明の各実施形態に係る振動型モータによって駆動するロボットの概略構成を示す斜視図。
【
図9】本発明の各実施形態に係る振動型モータによって駆動する雲台装置の概略構成を示す(a)正面図と(b)側面図。
【
図10】従来例における振動波モータを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、以下の実施形態により説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
第1の実施形態として、本発明を適用した回転型の振動波モータの構成例について、
図1,2,3を用いて説明する。
【0018】
図1に、第1の実施形態に係る振動波モータの斜視図を示す。本実施形態の振動波モータは、
図1(斜視図)に示すように、円環状に形成されており、出力部(軸体)8を構成する出力取出部8iが、不図示の駆動対象(被駆動部材)と連結し、被駆動部材を回転運動させる。
【0019】
図2に、
図1(斜視図)に示す振動波モータの断面図を示す。なお、中心軸L1は、振動波モータの回転中心軸である。
図3に、
図1(斜視図)に示す振動波モータの振動体に励起される振動モードの斜視図を示す。
【0020】
図2において、振動体2は、電気量を機械量に変換する電気-機械エネルギー変換素子である圧電素子2aと、この圧電素子2aと結合された弾性体2bから構成されている。そして、圧電素子2aに駆動電圧(交流電圧)を印加し、公知の技術により、振動体2に進行波により楕円運動を生じさせる。そして、これにより、振動体2に接触する、接触部材3、ばね受け部材4、加圧部材5を有する接触体と振動体2を摩擦駆動させることにより、駆動力を得る(接触体と振動体2が相対的に移動する)。
【0021】
本実施形態では、
図3に示すように、中心軸L1(
図1参照)方向に屈曲する面外の振動で、回転方向に9次の成分を持つ面外9次振動で接触部材3を駆動している。なお、
図3では、理解を容易にするために、変位量を強調して表示している。
【0022】
図2において、弾性体2bは、基部2cと、基部2cから延出し、弾性体2bをハウジング1に固定するためのフランジ部2eから構成されている。フランジ部2eは、固定ねじ1cによって円環状に形成されたハウジング1のベース部材1aに締結されている。基部2cの接触部材3側の面が、接触部材3との摺動面2dとなっている。弾性体2bは、金属製の弾性部材である。本実施形態では、弾性体2bは、ステンレス鋼で形成されている。さらに、耐久性を高めるための硬化処理として、接触部材3との摺動面2dを窒化処理している。
【0023】
図2において、接触部材(接触体、接触体の他の一部)3は、弾性部材で形成された円環状の本体部3aと、振動体2と摩擦接触する摺動面を有する接触部3bから構成されている。本実施形態では、接触部材3は、焼入処理したステンレス鋼で形成されている。接触部3bは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体2に対して安定した接触が可能となっている。
【0024】
接触部材3の上面には、ばね受け部材(接触体、接触体の他の一部)4、加圧部材(接触体、接触体の一部)5が取付けられている。ばね受け部材(接触体、接触体の他の一部)4は、振動減衰部材である制振ゴム4aと、錘部材4bを有している。
【0025】
制振ゴム4aは円環状であり、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等で形成されている。錘部材4bは円環状の弾性部材であり、本実施形態では真鍮で形成されている。制振ゴム4aと錘部材4bにより、振動波モータの駆動中に発生する接触部材3の不要な振動の発生を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
【0026】
加圧部材(接触体、接触体の一部)5は、ばね規制部材5aと、加圧ばね5bと、加圧ばねゴム(弾性部材)5cを有している。
【0027】
加圧ばね5bは、放射状の板ばねで、加圧力に対して耐力を超えない範囲で十分に変位を確保できる板厚で形成されている。そのため、円板状の板ばねなどに比べ大きな変位をとることができ、振動体2や接触部材3の摩耗などの経年変化による加圧力の変化が少ない。
【0028】
加圧ばね5bは、軸体8に、後述する止めねじ(固定部材)7により固定された円環状のばね規制部材5aに取付けられている。これにより、振動体2の振動により得られた接触部材3の駆動力を、軸体8に伝達している。また、それにより、接触部材3、ばね受け部材4、加圧部材5を有する接触体が、軸体8の周方向に回転されると共に、軸体8が軸回転されるように構成されている。
【0029】
また、加圧ばね5bは、錘部材4bに設けられた凹部(第2の凹部4c。
図4参照)の底面に接触するように、第2の凹部4cに収納されている。これにより、加圧ばね5bの軸体8の中心軸L1の軸方向(以下、「軸体8の軸方向」、「軸方向」ともいう)への突出を抑え、軸体8の短軸化が可能になっている。
【0030】
接触体の一部である、加圧部材5は、固定部材7により直接的に、軸体8の周方向における位置及び軸体8の軸方向における位置のうち、軸体8の周方向における位置及び軸体8の軸方向における位置が共に前記軸体に対して固定されている。
【0031】
また、接触体の他の一部である、接触部材3、ばね受け部材4は、固定部材7により間接的に、軸体8の周方向における位置及び軸体8の軸方向における位置のうち、軸体8の周方向における位置のみが軸体に対して固定されている。ここで、「間接的」とは、他の部材を介して、の意味である。本実施形態では、接触部材3、ばね受け部材4は、加圧部材5を介して、上記のように固定されている。
【0032】
本実施形態においては、加圧ばね5bとばね規制部材5aはねじにより締結されているが、接着等により固着してもよい。また、回転伝達できる構成にしていれば、当接しているだけの構成でもよい。いずれの場合においても、ばね規制部材5aと加圧ばね5bの当接部は、軸方向において一体的に移動可能となっている。
【0033】
加圧部材5(加圧ばね5b)は、弾性部材5cを介して、第2の凹部4c(
図4参照)の底面に接触している。弾性部材5cは、ブチルゴムやクロロプレンゴム等で形成されている。弾性部材5cの弾性変形により、錘部材4bの弾性部材5cが設けられている面の平面度の影響を緩和している。そのため、弾性部材5cと軸方向において当接している加圧ばね5bからの加圧力が接触部材3に回転方向のムラなく均一に付与され、振動体2と接触部材3の安定した接触が保たれている。
【0034】
軸体8は、軸受取付部8cを有する出力軸8aと、出力軸8aと螺合する内周部を備える軸受与圧部材8bから構成されている。
【0035】
出力軸8aは、中空状に形成されている。軸体8は、軸受取付部8cの外周部に嵌合した内輪を有する2つの転がり軸受9によって、中心軸L1を回転中心軸にして軸回転可能に支持されている。本実施形態においては、転がり軸受9はアンギュラ玉軸受により構成されている。
【0036】
転がり軸受9の外輪は、ハウジング1のベース部材1aとホルダ部材1bに嵌合し、ハウジング1に固定されている。なお、2つの転がり軸受9の間にはスペーサー1dが設けられている。
【0037】
転がり軸受9の内輪は、軸受与圧部材8bを出力軸8aに適切な締付トルクで螺合することで予圧がかけられている。これにより、転がり軸受9の径方向のがたが抑制され、出力軸8aの径方向の振れを抑えることができる。
【0038】
図4に、
図2(断面図)に示す振動波モータの拡大断面図を示す。
【0039】
図4において、出力軸8aは、中空内周部8dと、軸外周固定部8eと、2つのめねじ部8fを有している。
【0040】
軸外周固定部8eは、加圧部材5のばね規制部材5aの規制部材内周部5dと当接している。本実施形態では、軸外周固定部8eと規制部材内周部5dとは、いわゆるすきまばめの関係となって当接するような径方向の寸法公差で形成されている。そのため、振動波モータの組立時に、出力軸8aに容易にばね規制部材5aを挿入することが可能となっている。また、ばね規制部材5aの径方向での位置が出力軸8aによって規制され、接触部材3の中心軸と軸体8の中心軸L1との径方向におけるずれを許容範囲内に納めることができる。
【0041】
なお、径方向の公差の関係はすきまばめに限定されるものではなく、組立性や駆動性能を考慮したはめあいの関係になっていればよい。また、出力軸8aとばね規制部材5aの径方向のすき間が大きくなると、固定部材7を螺合した際にすき間分だけ螺合方向にガタ寄せされる。しかし、弾性部材5cの変形により、接触部材3への影響を緩和することが可能となっている。
【0042】
2つのめねじ部8fは、出力軸8aの回転方向において60度の間隔で設けられており、2つのめねじ部8fにはそれぞれ固定部材7が螺合している。なお、2つのめねじ部8fの角度は60度に限定されるものではなく、45度や30度などの任意の角度でよい。まためねじ部8fの数も2つに限定されるものではなく、加圧力や伝達トルクに応じて個数を増減して設ければよい。
【0043】
固定部材7は、先端が平先形状の六角穴付き止めねじであり、出力軸8aの中空内周部8dから(軸体8の内側から)軸外周固定部8eに向かって螺合している。つまり、出力軸8aの中空部の内径から外径に向かって螺合している(接触部材3、ばね受け部材4、加圧部材5から構成される接触体と軸体8を、軸体8の内側から固定している)。
【0044】
また、固定部材7の先端部は、ばね規制部材5aの規制部材内周部5dと当接し、ばね規制部材5aの軸方向の位置を固定している。ばね規制部材5aの軸方向の位置は、振動波モータの加圧力が所望の値となる加圧ばね5bの変形量が得られる位置となっている。
【0045】
2つの固定部材7の軸保持力より、接触部材3の駆動力を出力軸8aに伝達しているため、ガタ等がなく振動波モータの高精度な駆動が実現できる。
【0046】
固定部材7の螺合は、出力軸8aの中空部に挿入した締め付け工具により行う。そのため、固定部材7は、出力軸8aの中空部の任意の軸方向の範囲に設けることが可能となっている。本実施形態の固定部材7は、中心軸L1の軸方向において、加圧部材5の
図4中の上面(加圧ばね5bの端面)よりも振動体2の側に位置している。つまり、固定部材7は、軸方向において、振動体2の底面と加圧部材5の上面(加圧ばね5bの端面)の間に位置している。
【0047】
これにより、振動波モータの大きさの軸方向への増大を抑えつつ、固定部材7によりばね規制部材5aを出力軸8aに固定することが可能となっている。よって、従来構造では止めねじ(固定部材)を設けるディスクの分だけ振動波モータが軸方向に大型化する課題があった。しかし、本実施形態のように固定部材7を出力軸8aの中空部の内径部から螺合する構造にすることで、振動波モータの薄型化を実現することが可能となる。
【0048】
また、固定部材7の長さは、出力軸8aの中空部の径方向の厚み、つまり中空内周部8dと軸外周固定部8eとの距離よりも短くなっており、固定部材7は螺合時に中空内周部8dよりも内径側に飛び出さないようになっている。
【0049】
そのため、軸体の中空領域に振動波モータの被駆動部材への駆動源供給のための電気配線やエアー配管を通したり、反対に被駆動部材からのセンサ信号線等を通したりする場合も、駆動中に配線や配管に固定部材7が接触しない。また、配線等の損傷を防ぐことができる。
【0050】
また、従来構造では径方向においても止めねじ(固定部材)のねじ長さ分だけディスクの径を大きくする必要があり、振動波モータの上部にセンサを設けたりケーブルを配置したりする場合には、ディスクの大きさの分だけ回避して設ける必要があった。
【0051】
これに対して、本実施形態では、固定部材7は出力軸8aに設けられているため、振動波モータの上部にスペースが空き、センサ等を容易に配置することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、固定部材7の螺合の際に加圧部材5の加圧反力を測定しながら加圧部材5の軸方向の位置を調整して固定できるため、振動波モータの加圧力のばらつきによる出力のばらつきを抑えることができる。そして、焼ばめによる固定に比べ、組立装置が簡素であり、組立工数も少なくなるため、生産性を向上させることができる。
【0053】
さらに、生産時の再調整による組み直しや、長時間駆動後のメンテナンスにおける接触部材3の交換などの際にも、固定部材7の螺合を解放するだけで加圧を解除することが可能である。そのため、専用の解除工具が必要な焼ばめの場合に比べてメンテナンスが容易となる。
【0054】
なお、本実施形態において振動体の駆動振動を面外9次としていたが、これに限定されるものではなく、次数や屈曲方向は適宜選択できるものである。
【0055】
さて、本実施形態では、固定部材7のみで軸体8の出力軸8aにばね規制部材5aを固定していたが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。そこで次に、軸体8とばね規制部材5aの変形例について説明する。
【0056】
図5は、本実施形態の第1の変形例に係る振動波モータの断面図を示す。11はハウジングである。加圧部材15は、キー溝部15eが設けられたばね規制部材15aと、加圧ばね15bと、加圧ばねゴム(弾性部材)15cと、抑え環(位置決め部材)15fを有している。
【0057】
ばね規制部材15aのキー溝15eには、軸体18(出力軸18a)のキー溝部18gに設けられたキー18hが挿入されている。
【0058】
位置決め部材15fは円環状であり、内径部はめねじが形成されており、出力軸18aと螺合し、位置決め部材15fの下面が、ばね規制部材15aの上面(第1の凹部15gの底面)に接触するように、第1の凹部15gに収容されている。これにより、位置決め部材15fの軸体8の軸方向への突出を抑え、軸体8の短軸化が可能になっている。
【0059】
振動波モータの組立時には、位置決め部材15fを出力軸18aに対して螺合し、位置決め部材15fを軸体8の軸方向において振動体12側に移動させていく。ばね規制部材15aが所望の加圧力が得られる位置まで移動したら、止めねじ(固定部材)17を螺合しばね規制部材15aを固定する。組立時の加圧力の管理は、位置決め部材15fの締付トルクで行う。これにより、ばね規制部材15aの軸体18の軸方向における位置が、軸体18に対して固定される。
【0060】
ただし、あらかじめばね規制部材15aを所望の加圧力で押し込んでから位置決め部材15fを螺合して組み立ててもよい。いずれの場合においても、固定部材17を螺合する前にばね規制部材15aの軸方向の位置が定まっているため、位置決め部材15fにより固定部材17の螺合が容易となり、振動波モータの組立性を向上できる。
【0061】
また、キー18hにより、ばね規制部材15aは出力軸18aに対して相対的に回転できない。そのため、組立時に位置決め部材15fを回して螺合しても、ばね規制部材15aは回転せず安定して組み立てることが可能となっている。
【0062】
なお、キー18hとばね規制部材15aのキー溝15eは回転方向において多少のすき間を有している。同様に、キー18hと主力軸18aのキー溝18gも回転方向において多少のすき間を有している。しかし、キー18hのみで回転伝達を行わず、2つの固定部材17の軸保持力により接触部材13の駆動力を、ばね受け部材14、加圧部材15を介して、出力軸18aに伝達しているため、ガタ等がなく振動波モータの高精度な駆動を実現している。
【0063】
ばね規制部材15aは固定部材17だけでなく、位置決め部材15fによっても軸方向の位置が固定されている。そのため、高所からの落下など、激しい外力が振動波モータに作用して固定部材17の螺合が緩んでしまっても、位置決め部材15fによりばね規制部材15aの軸方向の位置は保持される。その結果、振動波モータの加圧力の変化を抑制できる。また、キー18hのみでの回転伝達も可能であるため、前述のように固定部材17が緩んでも、振動波モータの回転駆動は可能となっている。
【0064】
(第2の実施形態)
第2の実施形態として、第1の実施形態とは異なる形態の振動波モータの構成例について、
図6を用いて説明する。本実施形態は、第1の実施形態に対して、振動体や接触部材、出力部を
図6に示す構造とした点において相違する。本実施形態のその他の要素は、上述した第1の実施形態の対応するものと同一なので、図番の末尾をそろえることにより説明を省略する。
【0065】
図6において、21はハウジングである。振動体22は、圧電素子22aと、この圧電素子22aと結合された弾性体22bから構成されている。振動体22の弾性体22bは、基部22cと、基部22cから弾性体の上面に形成された突起部22fと、基部22cから延出したフランジ部22eから構成されている。弾性体22bにおいて、突起部22fは、基部22cの外周に沿って弾性体22bの中心軸に対して同心円状に設けられている。
【0066】
突起部22fの上面である接触部材23側の面が、接触部材23と摩擦接触する摺動面となる。突起部22fにより、公知の技術で発生させた振動体22の進行性の振動波による楕円運動の回転方向の振幅が拡大され、接触部材23を高速に回転させることができるようになる。
【0067】
接触部材23の上面には加圧ばねゴム(弾性部材)25cが設けられている。弾性部材25cは円環状であり、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等で形成されており、振動波モータの駆動中に発生する接触部材23の不要な振動の発生を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
【0068】
また、弾性部材25cの弾性変形により、接触部材23の弾性部材25cが設けられている面の平面度の影響を緩和している。そのため、加圧ばね25bからの加圧力が接触部材23に回転方向のムラなく均一に付与され、振動体22と接触部材23の安定した接触が保たれている。
【0069】
軸体28aは、軸受取付部28cと、出力取出部28iと、中空内周部28dと、軸外周固定部28eと、めねじ部28fを有している。軸体28aは、一部が中空状に形成されている軸であり、軸受取付部28cと出力取出部28iは中実状に形成され、反対にめねじ部28f付近は中空状に形成されている。出力取出部28iが不図示の被駆動部材とカップリング等で連結され、被駆動部材を回転運動させる。
【0070】
軸外周固定部28eは、加圧部材25のばね規制部材25aの規制部材内周部25dと当接している。本実施形態では、軸外周固定部28eと規制部材内周部25dとは、いわゆるすきまばめの関係となって当接するような径方向の寸法公差で形成されている。
【0071】
2つのめねじ部28fは、軸体28aの回転方向において60度の間隔で設けられており、2つのめねじ部28fにはそれぞれ止めねじ(固定部材)27が軸体28aの中空内周部28dから軸外周固定部28eに向かって螺合している。つまり、軸体28aの中空部の内径から外径に向かって螺合している。また、固定部材27の先端部は、ばね規制部材25aの規制部材内周部25dと当接し、振動波モータの加圧力が所望の値となる加圧ばね5bの変形量が得られる位置にばね規制部材25を固定している。
【0072】
本実施形態においても、固定部材27は、中心軸L1の軸方向において、加圧部材25の
図6中の上面側よりも振動体22側に位置している。つまり、固定部材27は、軸方向において、振動体22の底面と加圧部材25の上面の間に位置している。よって、固定部材27を軸体28aの中空部の内径部から螺合する構造にすることで、振動波モータの薄型化を実現することが可能となっている。
【0073】
また、本実施形態では錘部材が無く、接触部材23は弾性部材25cを介して直接加圧する構造となっている。さらに、固定部材27が中心軸L1の軸方向において、振動体22の底面と接触部材23の上面の間に位置している。よって、振動波モータのさらなる薄型化が可能となっている。
【0074】
本実施形態では、振動体22に進行性の振動波を発生させて駆動する構成としていたが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。例えば、
図7(a)に示すような円環状の接触部材43を、ベース部材41aの上に載置された3つの振動体ユニットS1、S2、S3で駆動するように、振動体と接触部材を構成してもよい。
【0075】
図7(b)は、振動体及び接触部材を示す斜視図であり、振動体ユニットS1を分解して示している。1つの振動体42は、弾性体42bと、弾性体42b(平板部42c)の一方の面に設けられた2つの突起部42fと、弾性体42bにおいて突起部42fが設けられている面の反対側の面に設けられた圧電素子42aとを有する。
【0076】
圧電素子42aに公知の技術(例えば特開2017-70115等の特許文献)により、振動体42に2つの振動モードの振動を励起し、2つの突起部42fを結ぶ方向と突起部2fの突出方向とを含む面内での楕円運動を突起部42fに生じさせる。これにより、突起部42fは接触部材43を摩擦駆動し、接触部材43の中心軸を回転中心として、接触部材43を回転させることができる。
【0077】
接触部材43の上面に不図示の加圧ばねゴム、加圧部材を本実施形態と同様に構成することで、振動波モータの薄型化を実現することができる。
【0078】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、上述した各実施形態に係る振動波モータを備える装置(機械)の一例としての産業用ロボットの構成について説明する。
【0079】
図8は、振動波モータを搭載したロボット(ロボットアーム)100の概略構造を示す斜視図であり、ここでは、産業用ロボットの一種である水平多関節ロボットを例示している。振動波モータは、ロボット(ロボットアーム)100において、アーム関節部(第1のジョイント部材)111やハンド部112に内蔵される。第1のジョイント部材111は、2本のアーム(リンク部材)120が交差する角度を変えることができるように、2本のアームを接続する。
【0080】
ハンド部112は、リンク部材120と、リンク部材120の一端に取り付けられる把持部材121と、リンク部材120と把持部材121とを接続するハンド関節部(第2のジョイント部材)122を有する。振動波モータは、リンク部材120同士の角度(交差角度)を変化させる第1のジョイント部材111や、把持部材121を、所定角度、回転(軸回転)させる第2のジョイント部材122に用いられる。
【0081】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、上述の実施形態の振動波モータを少なくとも2つ以上備える装置の一例として、雲台装置(電子機器)の構成について説明する。なお、電子機器は、雲台装置に限られず、被駆動部材と、当該被駆動部材を駆動する振動波モータとして、上述の実施形態の振動波モータを有するあらゆる電子機器が含まれる。
【0082】
図9(a)は、雲台装置(電子機器)200の外観正面図、
図9(b)は雲台装置(電子機器)200の内部を示す側面図である。
【0083】
雲台装置(電子機器)200は、ヘッド部(支持部材、被駆動部材)210と、ベース部220と、Lアングル(支持部材、被駆動部材)230と、撮像装置240と、を有する。
【0084】
ヘッド部(支持部材、被駆動部材)210の内部に上述の実施形態の振動波モータが2つ配置されている。
【0085】
パン用の振動波モータ280は、出力部がベース部220と連結され、振動波モータ280の回転駆動により、ヘッド部(支持部材、被駆動部材)210をベース部220に対して相対的にパン動作させる。チルト用の振動波モータ270は、出力部がLアングル(支持部材)230と連結され、振動波モータ270の回転駆動により、Lアングル(支持部材)230をヘッド部(支持部材、被駆動部材)210に対して相対的にチルト動作させる。
【0086】
Lアングル(支持部材、被駆動部材)230に取り付けられた撮像装置240は、動画や静止画撮影用のカメラであり、撮影を行いながら2つの振動波モータの駆動によりパン及びチルト動作が可能となっている。また、振動波モータは無通電時にも摩擦力により姿勢を維持することができるため、雲台の姿勢を決めた後には無通電にし、消費電力を抑制した状態で撮影を続けることが可能となる。なお、本実施形態の雲台装置(電子機器)200は、Lアングル(支持部材、被駆動部材)230に撮像装置240を搭載していたが、搭載物はこの構成に限定するものではなく、適宜変更できる。
【0087】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。さらに、上述した各実施形態は本発明の一実施形態を示すものにすぎず、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0088】
2,12,22 振動体
3,13,23 接触部材(接触体、接触体の他の一部)
4,14 ばね受け部材(接触体、接触体の他の一部)
5,15,25 加圧部材(接触体、接触体の一部)
8,18,28 出力部(軸体)
7,17,27 止めねじ(固定部材)