(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】シート給送装置、画像読取装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B65H 3/06 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
B65H3/06 340F
(21)【出願番号】P 2018233664
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓也
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080129(JP,A)
【文献】特開平11-199070(JP,A)
【文献】特開2014-043315(JP,A)
【文献】特開2008-100824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートが積載されるシート積載部と、
前記シート積載部を、前記シート積載部にシートを積載するための積載位置と、前記シート積載部上のシートを給送するための前記積載位置より上方の給送位置と、に昇降させる昇降手段と、
前記昇降手段を駆動させる駆動源と、
前記シート積載部の上方に配置され、前記シート積載部に積載されたシートを給送する給送部材と、
前記給送部材を保持
する保持部材であって、
前記シート積載部が前記給送位置に位置する状態で、前記シート積載部上のシートの積載量に応じて、前記給送部材が前記シート積載部上のシートに当接する第1位置と、前記第1位置より下方で前記給送部材が前記シート積載部上のシートに当接する第2位置と、の間で前記給送部材を移動可能とする保持部材と、
前記保持部材に当接する当接部を有し、回動軸を中心に回動するレバー部材と、
前記レバー部材に接続され、前記レバー部材を介して前記保持部材を
前記第1位置に向けて付勢する弾性部材と、
前記シート積載部に積載されたシートの上面の位置を検知するために前記保持部材の一部を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づいて、前記駆動源を制御する制御部と、
を備え、
前記レバー部材の前記回動軸の軸方向から
視たとき、前記給送部材が
第1位置に位置するときの前記回動軸から前記弾性部材が前記レバー部材に加える力の作用線までの距離が
、前記給送部材が
前記第2位置に位置するときの前記回動軸から前記作用線までの距離に比べて短くなるように、前記弾性部材が配置されている、
ことを特徴とするシート給送装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記シート積載部に積載されたシートの上面が検知位置以上の高さにあることを検知するように構成され、
前記制御部は、前記シート積載部に積載された複数枚のシートからなるシート束を前記給送部材によって1枚ずつ給送する給送動作の実行中に、前記シート束の上面が前記検知位置より低いことを前記検知部が検知した場合、前記シート束の上面が前記検知位置よりも所定の距離分上方の位置に移動するまで前記昇降手段に前記シート積載部を上昇させ、前記給送動作を続行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシート給送装置。
【請求項3】
前記シート束の上面が前記検知位置と前記検知位置より前記所定の距離分上方の位置との間で上下する場合に前記給送部材が移動する範囲の全域において、前記給送部材が下降するほど前記回動軸から前記作用線までの距離が長くなる、
ことを特徴とする請求項2に記載のシート給送装置。
【請求項4】
前記検知部は、前記保持部材の位置に反応して検知結果が変化するフォトインタラプタであり、
前記保持部材は、前記給送部材が前記検知位置に位置する場合に前記フォトインタラプタを遮光し、前記給送部材が前記検知位置より低い場合に前記フォトインタラプタを遮光しないフラグ部を有する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のシート給送装置。
【請求項5】
前記レバー部材の前記回動軸の軸方向から視たとき、前記給送部材が前記第1位置に位置するときの前記回動軸から前記作用線までの距離が、前記給送部材が前記第1位置より上方の第3位置に位置するときの前記回動軸から前記作用線までの距離に比べて長くなるように、前記弾性部材が配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項6】
前記弾性部材は、一方の端部が前記レバー部材の取付部に取り付けられ、他方の端部が固定された引っ張りバネであり、
前記給送部材が前記第1位置から前記第2位置に下降するときに縮み、前記給送部材が前記第2位置から前記第1位置に上昇するときに伸びるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項7】
前記レバー部材の前記回動軸の軸方向から
視て、前記給送部材が前記
第1位置に
位置する場合の前記取付部の位置を通り、前記レバー部材が回動する際に前記取付部が描く円に接する接線に対して、前記弾性部材の前記他方の端部が前記回動軸と同じ側に位置する、
ことを特徴とする請求項
6に記載のシート給送装置。
【請求項8】
前記弾性部材の前記他方の端部が前記レバー部材の前記回動軸より下方に
位置し、かつ、前記給送部材が前記
第1位置に
位置する場合の、前記作用線の水平面に対する角度が30度以下である、
ことを特徴とする請求項
6に記載のシート給送装置。
【請求項9】
前記給送部材を前記
第1位置から変位させるときの、前記回動軸から前記作用線までの前記距離の変化率が、前記弾性部材が前記レバー部材に加える力の変化率に対して、-2.0以上-0.5以下の比である、
ことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項10】
前記弾性部材が前記レバー部材に加える力の大きさと、前記回動軸から前記作用線までの前記距離との積が、前記給送部材が移動可能な範囲の内側に極値を持つ、
ことを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項11】
上下方向から
視て、前記レバー部材は、
前記保持部材に対する前記当接部から前記回動軸に向かって前記給送部材によるシート給送方向に
垂直な幅方向に延びており、
前記シート給送方向において、前記レバー部材の前記当接部が前記保持部材に当接する位置と、
前記シート給送方向における前記給送部材の位置とが重なっている、
ことを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載のシート給送装置。
【請求項12】
前記シート給送方向における前記給送部材の下流でシートを搬送する搬送ローラと、
前記搬送ローラの回転軸線上に設けられ、前記搬送ローラ及び前記給送部材に駆動力を供給する駆動軸と、をさらに備え、
前記レバー部材及び前記駆動軸は、前記搬送ローラ、前記給送部材及び前記保持部材を含む給送ユニットに対して、前記幅方向において同じ側に配置される、
ことを特徴とする請求項11に記載のシート給送装置。
【請求項13】
前記シート積載部を支持するフレームと、
前記フレームにより回動可能に支持され、前記給送部材によって給送されるシートの搬送路を開閉可能なカバー部材と、をさらに備え、
前記レバー部材及び前記弾性部材は、前記カバー部材に取り付けられ、
前記給送ユニットは、前記レバー部材及び前記弾性部材が前記カバー部材に取り付けられている状態において、前記カバー部材に対して取り付け及び取り外しが可能である、
ことを特徴とする請求項12に記載のシート給送装置。
【請求項14】
前記カバー部材は、前記レバー部材及び前記弾性部材の少なくとも一部を覆う覆い部を有する、
ことを特徴とする請求項13に記載のシート給送装置。
【請求項15】
請求項1乃至
14のいずれか1項に記載のシート給送装置と、
前記シート給送装置から給送されるシートから画像情報を読み取る画像読取手段と、を備える、
ことを特徴とする画像読取装置。
【請求項16】
請求項1乃至
14のいずれか1項に記載のシート給送装置と、
前記シート給送装置から給送されるシートに画像を形成する画像形成手段と、を備える、
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを給送するシート給送装置、シートから画像情報を読み取る画像読取装置、及びシートに画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、複合機等の画像形成装置において記録材又は原稿として用いられるシートを給送するシート給送装置は、シートをトレイから送り出す給送部材と、1枚ずつシートが搬送されるようにシートを分離する分離部材とを備えている。一般に、シートの給送を安定して行うためには、給送部材のシートに対する加圧力が、設計上の値に近い一定の範囲に収まっていることが好ましい。給送部材のシートに対する加圧力が高すぎると、例えば、給送部材が当接している最上位シートの下に重なる次のシートまで分離部材に向けて移動し、分離部材に当接して撓むことで、次のシートに折れが生じる可能性が高まる。給送部材の加圧力が低すぎると、給送部材がシートを搬送しようとする力に比べてシートが受ける搬送抵抗の方が大きくなり、搬送不良が発生しやすくなる。
【0003】
特許文献1には、シートの搬送不良や重送の発生を検知するセンサの検知信号に基づいて、ピックアップローラを下方に付勢する圧縮バネの長さをカム機構によって変更することで、ピックアップローラの加圧力を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された構成では、カム機構やカム機構の動作を制御するための制御回路を設けることで装置が複雑化し、コストの増加につながる。
【0006】
そこで、本発明は、簡素な構成で、安定したシートの給送を実現することが可能なシート給送装置、画像読取装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、シートが積載されるシート積載部と、前記シート積載部を、前記シート積載部にシートを積載するための積載位置と、前記シート積載部上のシートを給送するための前記積載位置より上方の給送位置と、に昇降させる昇降手段と、前記昇降手段を駆動させる駆動源と、前記シート積載部の上方に配置され、前記シート積載部に積載されたシートを給送する給送部材と、前記給送部材を保持する保持部材であって、前記シート積載部が前記給送位置に位置する状態で、前記シート積載部上のシートの積載量に応じて、前記給送部材が前記シート積載部上のシートに当接する第1位置と、前記第1位置より下方で前記給送部材が前記シート積載部上のシートに当接する第2位置と、の間で前記給送部材を移動可能とする保持部材と、前記保持部材に当接する当接部を有し、回動軸を中心に回動するレバー部材と、前記レバー部材に接続され、前記レバー部材を介して前記保持部材を前記第1位置に向けて付勢する弾性部材と、前記シート積載部に積載されたシートの上面の位置を検知するために前記保持部材の一部を検知する検知部と、前記検知部の検知結果に基づいて、前記駆動源を制御する制御部と、を備え、前記レバー部材の前記回動軸の軸方向から視たとき、前記給送部材が第1位置に位置するときの前記回動軸から前記弾性部材が前記レバー部材に加える力の作用線までの距離が、前記給送部材が前記第2位置に位置するときの前記回動軸から前記作用線までの距離に比べて短くなるように、前記弾性部材が配置されている、ことを特徴とするシート給送装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡素な構成で、安定したシートの給送を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る画像形成装置の概略図。
【
図4】原稿給送動作の制御方法を示すフローチャート。
【
図5】カバーユニットを開いた状態の画像読取装置を示す概略図。
【
図7】給送ユニットが取り外されたカバーユニットの斜視図。
【
図8】給送ユニットが取り付けられたカバーユニットの斜視図。
【
図9】給送ユニットが取り付けられたカバーユニットの、他の方向から見た斜視図。
【
図10】加圧バネの配置について説明するための図。
【
図12】
図11の配置例における、給送ローラの変位に対する加圧力の変化について説明するためのグラフ(a~i)。
【
図13】加圧バネの配置条件について説明するための図(a、b)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示的な実施形態にについて、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る画像形成装置300の概略図である。画像形成装置300は、画像形成部301と、画像形成部301の上方に配設される画像読取部200と、画像読取部200の上に載置される原稿搬送装置(Auto Document Feeder、以下ADFとする)100とを備える。画像形成部301は、外部PCから入力された画像情報や画像読取部200が原稿から読取った画像情報に基づいて、記録媒体として用いられるシートPに画像を形成する。記録媒体又は原稿として用いられるシートには、用紙及び封筒等の紙、オーバーヘッドプロジェクタ用のプラスチックフィルム、並びに布が含まれる。
【0013】
画像形成部301は、4つの画像形成ステーションPY,PM,PC,PKと、中間転写ベルト31と、定着装置40とを含む、中間転写方式の電子写真ユニット10を有する。各画像形成ステーションPY~PKは、電子写真プロセスにより感光ドラム11の表面にトナー像を形成する。即ち、画像形成ステーションPY~PKに対してトナー像の形成が要求されると、感光体である感光ドラム11が回転駆動され、帯電装置が感光ドラム11の表面を一様に帯電させる。露光装置13は、画像情報に基づくレーザ光を感光ドラム11に照射してドラム表面を露光し、感光ドラム11に静電潜像を書き込む。現像装置14は、感光ドラム11に帯電したトナー粒子を供給して静電潜像をトナー像として現像する。画像形成ステーションPY~PKによって形成された各色のトナー像は、一次転写ローラ17により、感光ドラム11から中間転写ベルト31に一次転写される。感光ドラム11に残留したトナー等の付着物は、ドラムクリーナ15によって除去される。
【0014】
中間転写体である中間転写ベルト31は、二次転写内ローラ34、テンションローラ38、及び張架ローラ32に巻き回されており、図中反時計回り方向に回転駆動される。中間転写ベルト31に担持されたトナー像は、二次転写内ローラ34に対向する二次転写ローラ35と中間転写ベルト31との間のニップ部である二次転写部T2においてシートPに二次転写される。中間転写ベルト31に残留したトナー等の付着物は、ベルトクリーナ36によって除去される。
【0015】
トナー像を転写されたシートPは、定着装置40へ受け渡される。定着装置40は、シートPを挟持して搬送する定着ローラ40a及び加圧ローラ40bと、定着ローラ40aを加熱するハロゲンヒータ等の熱源とを有する。定着装置40は、シートPを搬送しながらトナー像に熱及び圧力を付与することによりトナーを溶融させ、その後トナーが固着することで、シートPに画像が定着する。
【0016】
このような画像形成プロセスに並行して、カセット20からシートPが1枚ずつ給送される。給送部材の例である給送ローラ21によってカセット20から送り出されたシートPは、分離ローラ又は分離パッド等の分離部材によって他のシートから分離された状態で給送され、引抜ローラ24を介して搬送される。その後、プレレジストレーションローラ22によって停止状態のレジストレーションローラ23にシート先端を突き当てられることで、シートPの斜行が補正される。レジストレーションローラ23は、電子写真ユニット10による画像形成プロセスの進捗に合わせたタイミングでシートPを二次転写部T2に送り込む。二次転写部T2及び定着装置40を通過することで画像を形成されたシートPは、搬送ローラ42,43を介して排出ローラ41に搬送され、画像形成部301の上部に設けられた排出トレイ49に排出される。
【0017】
以上の説明において、電子写真ユニット10は画像形成手段の一例であり、感光体からシートPにトナー像を直接的に転写する直接転写方式の電子写真ユニットや、インクジェット方式又はオフセット印刷方式の画像形成ユニットを用いても良い。
【0018】
(画像読取装置)
本実施形態のシート給送装置であるADF100と、ADF100と共に本実施形態の画像読取装置を構成する画像読取部200について、
図2を用いて説明する。
【0019】
画像読取部200は、プラテンガラス218と、原稿台ガラス219と、読取ユニット201と、を有している。読取ユニット201は、ランプ202及びミラー203が、原稿台ガラス219の下方で副走査方向(図内左右方向)に移動可能なキャリッジ204に搭載されたものである。ランプ202は、原稿Sに画像面に光を照射する光源である。原稿Sからの反射光は、ミラー203,205,206を介して結像レンズ207に導かれて、撮像素子としての電荷結合素子208に結像する。電荷結合素子208は、光電変換を行うことで入射した光を電子的な画像情報に変換する。
【0020】
画像読取部200の読取ユニット201は、固定読み及び流し読みの2つのモードで画像読取動作を行うことができる。固定読みとは、読取ユニット201が副走査方向に移動しながら、原稿台ガラス219に静置された静止原稿から画像情報を読み取る動作である。流し読みとは、読取ユニット201がプラテンガラス218の下方に位置決めされている状態で、ADF100によって搬送される移動原稿の一方のシート面から画像情報を読み取る動作である。
【0021】
ADF100は、読取ユニット124、原稿トレイ111、給送ユニット143、レジストレーションローラ対(以下、レジローラ対とする)121、搬送ローラ対122,123,125、排出ローラ対116及び排出トレイ119を備えている。
【0022】
読取ユニット124は、ADF100によって搬送される移動原稿の他方のシート面から画像情報を読み取る。つまり、画像読取部200の読取ユニット201及びADF100の読取ユニット124は、いずれもシートから画像情報を読み取る画像読取手段の例である。本実施形態では、読取ユニット124としてコンタクトイメージセンサを用いており、読取ユニット124には光源となるランプ、等倍光学系を構成するレンズアレイ、及びCMOS等の撮像素子が配置されている。
【0023】
本実施形態のシート積載部である原稿トレイ111には、画像の読み取りを行う原稿Sが載置される。原稿トレイ111に載置された原稿Sの幅方向の位置は、幅方向に移動可能なサイド規制板110によって規制される。また、原稿トレイ111の下面は昇降手段の一例であるリフト板145に支持されている。リフト板145は、駆動源であるトレイ昇降モータ181(
図3)に駆動されて回動することで、原稿トレイ111のリフトアップ及びリフトダウンを行う。
【0024】
給送ユニット143は、給送ローラ101と、搬送ローラ103と、分離ローラ104とを有する。給送ローラ101は、原稿トレイ111の上方に配置され、原稿Sをトレイから送り出す。搬送ローラ103は、給送ローラ101から原稿Sを受け取ってレジローラ対121へ向けて搬送する。
【0025】
分離ローラ104は、固定軸にトルクリミッタを介して接続されたローラであり、搬送ローラ103と分離ローラ104との間の分離ニップに入った原稿Sに摩擦力を付与することで原稿Sを分離する。分離ニップに1枚の原稿Sが進入したときは、トルクリミッタが滑って分離ローラ104が搬送ローラ103に従動回転する。一方、分離ニップに複数枚の原稿が進入したときは、分離ローラ104は回転せず、搬送ローラ103に接触している最上位シート以外のシートの搬送を制止する。分離ローラ104は分離部材の一例であり、トルクリミッタを介してシートの搬送に逆らう方向の回転が入力されるリタードローラや、パッド状の摩擦部材を用いてもよい。
【0026】
分離ニップを通過した原稿Sは停止状態のレジローラ対121に突き当てられて斜行補正された後、レジローラ対121及び搬送ローラ対122,123により、U字状に湾曲した搬送路を介して読取ユニット124へ向けて搬送される。そして、読取ユニット124のプラテンガラス118と画像読取部200のプラテンガラス218との間を原稿Sが通過する際に、原稿Sの一方及び他方の面から読取ユニット124,204によって画像情報が読み取られる。その後、原稿Sは搬送ローラ対125を介して排出ローラ対116に受け渡され、排出ローラ対116によって排出トレイ119に排出される。
【0027】
(制御系)
図3を用いてADF100を制御するための構成について説明する。ADF100を制御するための制御手段は、少なくとも1つのプロセッサを有する制御回路からなる。本実施形態の制御手段である制御部50は、中央処理装置(CPU)51と、不揮発性の記憶媒体の例である読取専用メモリ(ROM)52と、揮発性の記憶媒体の例であるランダムアクセスメモリ(RAM)53とを含む。CPU51は、ROM52等に格納されたプログラムを読み出して実行し、ADF100及び画像読取部200の動作を制御する。RAM53は、CPU51がプログラムを実行する際の作業スペースとなる。なお、以下で説明する制御部50の各機能は、ASIC等の独立したハードウェアとして制御部の回路上に実装してもよく、CPU51又は他の処理装置が実行するプログラムの機能単位としてソフトウェア的に実装してもよい。
【0028】
ADF100には、装置の状態を検知するための各種センサが設けられている。給送位置センサ191は、原稿トレイ111に積載され原稿の上面が、給送ローラ101によって給送可能な位置にあることを検知するためのセンサである。重送検知センサ192は、分離ニップに複数枚の原稿が進入している重送状態を検知する。具体的には、シート給送方向において分離ニップとレジローラ対121の間で原稿を検知するセンサを重送検知センサ192として用いることができる。原稿検知センサ193は、原稿トレイ111における原稿の有無を検知するセンサである。上記各センサ191~193としては、原稿に押圧されて揺動するフラグによって遮光される光電センサ(フォトインタラプタ)を用いることができる。例えば、原稿検知センサ193は、原稿検知フラグ129(
図2)が原稿Sに押圧されて回動したときに遮光されるように配置される。
【0029】
CPU51は、ドライバ54に駆動指令を送ることで、ADF100の駆動源である各モータ181~183の動作を制御する。トレイ昇降モータ181は、上述のリフト板145を駆動する。給送モータ182は、給送ユニット143の給送ローラ101及び搬送ローラ103を駆動する。給送ローラ昇降モータ183は、給送ローラ101を原稿トレイ111に積載された原稿に当接可能な位置と、原稿に接触しないように退避した位置との間で移動させることができる。本実施形態において、これらのモータ181~183はステッピングモータを用いている。CPU51は、ドライバ54が各モータ181~183に流す励磁パルスのパルス数及び周波数を指定することで、モータの回転量及び回転速度を制御することができる。また、ドライバ54は、各モータ181~183を逆方向に回転させることも可能である。
【0030】
制御部50は、通信IC59を介して画像形成部301に搭載された本体制御部350に接続されている。本体制御部350は、少なくとも1つのプロセッサを有する制御回路からなり、電子写真ユニット10による画像形成動作や記録材であるシートPの搬送動作を制御する。本体制御部350は、画像読取装置によって読み取られた画像情報を受け取り、当該画像情報に基づいてシートPに複写画像を形成させるジョブを実行する。また、本体制御部350は画像形成装置300を統括制御する制御部を兼ねており、例えば操作部を介してユーザから与えられた指示に基づいて制御部50に指令を送って画像読取装置の動作を制御する。
【0031】
図4は、ADF100による原稿給送動作の制御方法を示すフローチャートである。本体制御部350から制御部50に画像情報の読み取りを指令する指令信号(読取開始指令)が送られると(S1:Y)、CPU51は原稿トレイ111のリフトアップを開始する(S2)。つまり、CPU51からドライバ54に対してトレイ昇降モータ181の駆動開始を指示する駆動指令が送られ、ドライバ54がトレイ昇降モータ181に励磁パルスを流すことで、トレイ昇降モータ181を回転させる。これにより、リフト板145が回動して原稿トレイ111を持ち上げる。
【0032】
原稿トレイ111に積載された原稿の上面が給送ローラ101に当接してアーム102が持ち上げられると、アーム102の一部(後述のフラグ部190)が給送位置センサ191を遮光する(S3:Y)。つまり、原稿の上面が所定の高さ(以下、給送位置センサ191の検知位置とする)に到達したことを給送位置センサ191が検知する。給送位置センサ191が原稿を検知した後、トレイ昇降モータ181の駆動は所定パルス数継続され(S4)、その後、停止する(S5)。
【0033】
原稿トレイ111のリフトアップが終わると、給送モータ182の駆動が開始され、給送ローラ101によって原稿トレイ111から原稿が送り出されて原稿の給送が始まる(S6)。原稿の給送によってトレイ上の原稿が少なくなると、給送ローラ101及びアーム102の位置が下がることにより、給送位置センサ191が原稿を検知していない状態に切り替わる場合がある(S7:Y)。この場合、S2に戻って再びトレイ昇降モータ181の駆動が開始され、検知位置から所定パルス数の分、上方の位置まで原稿トレイ111がリフトアップされ、原稿の給送が継続される。原稿検知センサ193がトレイ上の原稿がなくなったことを検知すると(S8:Y)、CPU51はトレイ昇降モータ181を逆方向に回転させて原稿トレイ111をリフトダウン(S9)させ、処理を終了する。
【0034】
以上の制御方法において、原稿の上面が給送位置センサ191の検知位置を超えても原稿トレイ111のリフトアップを所定パルス数継続するのは、ADF100の騒音を低減するためである。即ち、給送位置センサ191が原稿を検知した直後に原稿トレイ111のリフトアップを終了すると、少数の原稿を給送する度に原稿トレイ111のリフトアップが繰り替えされてモータの駆動音やトレイの移動音が発生する。これに対し、原稿の上面位置が僅かに変化したとしても、給送ローラ101による給送への影響が現れない程度に変化の幅が小さければ、給送動作を問題なく続行することができる。従って、原稿トレイ111を給送位置センサ191の検知位置より一定の距離だけ上方までリフトアップしておくことにより、騒音を低減することができる。
【0035】
(給送ユニット)
ADF100の給送ユニット143の構成について、
図5~
図9を用いて詳しく説明する。
図5は、給送ユニット143が支持されているカバーユニット140を開いた様子を示している。カバーユニット140のカバー本体141は、ADF100のフレーム144に回動軸146を介して支持され、回動軸146を中心に回動することで開閉可能である。カバーユニット140には、給送ユニット143、レジローラ対121及び搬送ローラ対122の片側のローラ、並びに原稿の搬送路を形成するガイドが設けられている。カバーユニット140は、給送ユニット143の交換や清掃を行う場合、或いはADF100の内部で詰まった原稿を除去する場合に開放される。また、カバーユニット140は所定の角度で開いた状態をストッパによって維持することが可能であり、給送ユニット143はカバー本体141から図中右方向(矢印D1)に取り外すことができる。
【0036】
図6は給送ユニット143の斜視図である。本実施形態の給送部材である給送ローラ101は、アーム102に取り付けられたシャフト113に支持されている。本実施形態の保持部材であるアーム102は、搬送ローラ103を保持するシャフト105を中心にして、カバーユニット140が閉じた状態において給送ローラ101を上下に移動させるように回動可能である。給送ローラ101及び搬送ローラ103は、プーリ108,109及びこれらのプーリに張架されたタイミングベルト107を介して連結されている。また、シャフト105の端部には、駆動力を入力するためのピン147が設けられている。ピン147を介してシャフト105に入力された回転は、給送ローラ101及び搬送ローラ103に分配される。なお、タイミングベルト107を有するベルト駆動は伝動機構の一例であり、例えばアーム102に保持されるギア列によってシャフト105と給送ローラ101とを連結してもよい。
【0037】
シャフト5の軸方向における搬送ローラ103の両側において、シャフト5には軸受部148a,148bが嵌合している。また、アーム102には、給送位置センサ191を遮光するフラグ部190と、後述のレバー部材によって押圧される押圧部163とが設けられている。
【0038】
図7は、給送ユニット143が取り外された状態のカバーユニット140を示す斜視図(
図5における矢印D1の下流側から見た図)である。給送ユニット143に駆動力を伝達する駆動軸150はカバー本体141に保持され、駆動軸150の一端に入力ギア149が取付けられ、駆動軸150の他端にカップリング151が設けられている。カバー本体141には、給送ユニット143の軸受部148a,148bに対応する位置決め溝152a,152bが設けられている。また、軸受部148aに対応する位置には、樹脂製のユニット保持部153が設けられ、給送位置センサ191の付近にはアーム102のフラグ部190を受け入れるための凹部156が設けられている。
【0039】
給送ユニット143を取り付ける場合、
図8に示すようにピン147が所定位置に収まるようにシャフト105をカップリング151に挿し込むと共に、ユニット保持部153を撓ませて軸受部148aをユニット保持部153に嵌めこむ。このとき、給送ユニット143の軸受部148a,148bがカバーユニット140の位置決め溝152a,152bに係合することで、シート給送方向における給送ユニット143の位置が定まる。また、アーム102のフラグ部190は凹部156に収容される。
【0040】
なお、
図9に示すようにアーム102に設けられた凸部157がカバー本体141の開口部158に係合することで、装着状態における給送ユニット143の軸方向(原稿の幅方向)の位置が定まる。凸部157及び開口部158は、アーム102の回動範囲を制限するストッパの役割も有している。ただし、
図9は給送ユニット143が取り付けられた状態のカバーユニット140を
図8の裏側から見た様子を表し、カバー本体141の一部の図示を省略している。
【0041】
給送ユニット143がカバー本体141に取り付けられた状態でカバーユニット140を閉じると、搬送ローラ103が分離ローラ104に当接して押圧される。すると、給送ユニット143の軸受部148a,148bはカバー本体141の位置決め溝152a,152bの最深部に突き当たり、給送ユニット143の高さ方向の位置が定まる。
【0042】
(加圧レバー)
ここで、給送ローラ101を原稿に対して加圧するための構成について説明する。本実施形態では、
図9に示すように、加圧バネ155に接続された加圧レバー154がアーム102を押圧することで、原稿トレイ111に積載された原稿に給送ローラ101を圧接させる。言い換えると、弾性部材の例である加圧バネ155の付勢力が、給送ローラ101を保持するアーム102に対して直接には作用せず、レバー部材の例である加圧レバー154を介して作用するように構成されている。
【0043】
図7に示すように加圧レバー154及び加圧バネ155はカバー本体141に保持されており、給送ユニット143が取り外された状態であってもカバーユニット140に残る。この構成は、給送ユニット143を交換する際に、例えばアーム102に直接接続されているバネ部材の取り付け及び取り外しを必要とする構成に比べて、交換作業を容易にできる点で有利である。また、加圧レバー154及び加圧バネ155は、アーム102に対する加圧レバー154の当接部である加圧レバー154の先端部162のみが露出するように、カバー本体141の保護板141aによって覆われている。
【0044】
図9に示すように、加圧レバー154は回動軸164を介してカバー本体141のレバー保持部159a,159bに保持され、回動軸164を中心にして回動する。回動軸164は、給送ローラ101によって給送される原稿の厚さ方向(カバーユニット140を閉じた状態の略鉛直方向)に見て、給送ローラ101による原稿の給送方向D2に平行に延びている。加圧レバー154は、回動軸164から給送方向D2の交差する方向(特に、原稿の幅方向)に延び、先端部162においてアーム102の押圧部163に当接している。給送方向D2における先端部162及び押圧部163の当接位置は、給送方向D2における給送ローラ101の範囲と重なっている。
【0045】
本実施形態の加圧バネ155は引っ張りコイルバネであり、一方の端部(自由端155a)が加圧レバー154のレバー側取付部160に取り付けられ、他方の端部(固定端155b)がカバー本体141のカバー側取付161に取り付けられている。自由端155aとレバー側取付部160との接触部は、加圧バネ155から加圧レバー154に作用する力の作用点であり、加圧レバー154の回動に伴って回動軸164を中心とする円弧に沿って移動する。一方、固定端155bは、フレーム144と共にADF100の筐体を構成するカバー本体141に対して固定されている。自由端155aと固定端155bの間隔が加圧バネ155の長さである。
【0046】
加圧バネ155は、加圧レバー154にアーム102を下方に押圧させる方向(図中時計回り方向)に加圧レバー154を引っ張ることで、加圧レバー154を介してアーム102を下方に付勢する。また、加圧バネ155は、給送ローラ101と原稿の上面とが当接したときの衝撃による給送ローラ101のバウンドを、取付部160,161との接触部における摩擦で散逸させ、給送動作の開始に間に合うように加圧力を速やかに安定させる機能がある。給送ローラ101の原稿に対する加圧力は、主に、加圧レバー154がアーム102を下方に押圧する力と、給送ローラ101及びアーム102等の重量によって給送ユニット143に作用する重力とによって定まる。給送ローラ101の加圧力は、例えば140gf~160gfの範囲に入るように設定される。
【0047】
加圧力の下限値は、上折れ原稿への対応能力を考慮して決定されている。上折れ原稿とは、原稿の端部が上方へ折れ曲がった、又は湾曲した状態のシートであり、給送ローラ101以外の位置でガイド等に接触することで通常より大きな搬送抵抗を受けやすい。給送ローラ101の加圧力が不足していると、給送ローラ101と原稿との間で発生する摩擦力が、原稿が受ける搬送抵抗より小さい状態となって、給送不良につながる給送ローラ101のスリップが発生しやすくなる。
【0048】
一方、加圧力の上限値は、原稿がダメージを受けないように決定される。加圧力が高過ぎるとき、給送ローラ101が当接している最上位の原稿の下に重なる原稿(次の原稿)まで分離ニップに向けて移動してしまい、分離ニップと給送ローラ101との間で次の原稿が撓んだ状態となる。その後、次の原稿が給送される際に、撓んでいた部分が分離ニップで押し潰されることで原稿の折れ等のダメージが生じる。このようなダメージは、原稿が薄紙等の剛性が低いシート材である場合に生じやすいため、加圧力の上限値は、原稿として使用されるシート材の中で最も柔らかいシート材のダメージを回避できるように設定される。
【0049】
なお、アーム102の押圧部163は、アーム102の上面の内、給送ローラ101の軸方向において給送ローラ101とは重なる範囲の外側に設けられ、アーム上面の給送ローラ101と重なる範囲に比べて低い位置に設けられている。特に、押圧部163を給送ローラ101の上端位置より下方に設けると好適である。これにより、加圧レバー154及び給送ユニット143が占有する上下方向の範囲が小さくなり、加圧レバー154をカバー本体141の内側に(つまりADF100の天井付近に)無理なく配置することが可能である。
【0050】
シート給送方向に関して、押圧部163と加圧レバー154の当接位置は、給送ローラ101の位置(シート給送方向におけるローラの上流側の端部位置から下流側の端部位置までの範囲)と重なっている。また、給送ローラ101の軸方向に関して、押圧部163と加圧レバー154の当接位置は給送ローラ101に可能な限り近い位置であることが好ましい。当接位置が給送ローラ101から離れていると、アーム102が変形することで給送ローラ101の原稿に対する当接圧が不均一となることが懸念されるが、これらの特徴は、当接圧を安定させることに貢献する。
【0051】
(加圧バネの配置)
ここで、給送ローラ101の加圧力の変動を抑制するための加圧レバー154及び加圧バネ155の配置について説明する。
図10は、加圧レバー154の回動軸164の軸方向に見た加圧レバー154、加圧バネ155及びアーム102の位置関係を示している。
【0052】
原稿Sに対する給送ローラ101の加圧力Kの大きさを規定する要素の中で、給送ローラ101等の自重で発生する重力は略一定である。これに対し、加圧レバー154がアーム102を押圧する押圧力Jの大きさは、加圧レバー154の角度に応じて変動し得る量である。
【0053】
押圧力Jに関して、次の関係が成立する。
M=J・I=F・H ・・・(式1)
ただし、Mは、加圧バネ155の復元力Fによって加圧レバー154に作用する図中反時計回り方向のモーメントを表す。Iは、加圧レバー154の回動軸線から加圧レバー154とアーム102の当接位置までの距離を表す。Hは、加圧レバー154の回転軸線から復元力Fの作用線Gまでの距離(つまり、モーメントMの腕の長さ)である。復元力Fの作用線Gは、加圧バネ155の自由端155aを通って復元力Fの方向に引いた直線である。
【0054】
式1を書き換えると、次のようになる。
J=F・H/I ・・・(式2)
上の式から分かるように、押圧力Jの変動を抑制するためには、加圧レバー154の回動に対するモーメントM(=F・H)の変化を小さくするように構成することが重要である。
【0055】
以下、給送ローラ101が原稿を給送することが可能な所定位置(つまり、シートの給送を適切に行うことができるように予め定められた狙い位置)にある状態を基準にして、給送ローラ101が上下に変位したときのモーメントMの変化を考える。本実施形態における狙い位置とは、給送位置センサ191の検知位置と、リフトアップが終了する位置(検知位置から所定パルス分、さらにリフトアップされた位置)との間の予め設定された位置を指す。言い換えると、給送位置センサ191の検知位置や給送動作における上述の所定パルス数の値は、予め設定された狙い位置に合わせて設定されている。
【0056】
給送ローラ101が狙い位置から上方に変位すると、給送ローラ101が狙い位置にある場合に比べて加圧バネ155の復元力Fは大きくなる。一方、給送ローラ101が狙い位置から下方に変位すると、給送ローラ101が狙い位置にある場合に比べて加圧バネ155の復元力Fは小さくなる。従って、復元力Fの変化を相殺するように加圧バネ155を配置することにより、給送ローラ101が狙い位置から変位したときのモーメントMの変化を抑制することが可能である。
【0057】
図11(a)~(c)は、加圧バネ155の配置に関する条件を説明するための図である。
図11(a)の配置(例1)では、固定端155bが基準線T0に対して加圧レバー154の回動軸164とは反対側に位置する。ただし、基準線T0は、加圧レバー154の回動に伴ってレバー側取付部160が描く円Cの、給送ローラ101が狙い位置にある場合のレバー側取付部160の位置を通る接線である。
図11(b)、(c)の配置(例2、例3)では、固定端155bが基準線T0に対して加圧レバー154の回動軸164と同じ側に位置する。ただし、例2と例3では、固定端155bの位置が異なっており、基準線T0と復元力Fの作用線Gとがなす角θ1,θ2の値が異なる(0<θ1<θ2<π/2)。
【0058】
図12は、例1~例3の配置の下で、給送ローラ101を狙い位置から変位させたときの加圧バネ155の長さL、回動軸164から復元力Fの作用線Gまでの距離H、及び加圧レバー154の押圧力Jを計算により求めた結果を表すグラフである。(a、d、g)の列は
図11(a)の例1に対応し、(b、e、h)の列は
図11(b)の例2に対応し、(c、f、i)の列は
図11(c)の例3に対応する。各図の横軸は共通であり、狙い位置に対する給送ローラ101の変位量(単位:mm)を、上方への変位を正の符号として表したものである。また、加圧バネ155の長さLは、自然長L0と伸び量L1の和(L=L0+L1)である。
【0059】
ここでは、原稿に対する給送ローラ101の加圧力Kの狙い値を150gfとし、給送ローラ101等の自重によって発生する加圧力を65gfとする。従って、加圧レバー154の押圧力Jが、85gfに近い値に維持されることが好ましい。
【0060】
例1~例3に共通して、給送ローラ101が狙い位置から上方に変位すると加圧バネ155の伸び量が大きくなって長さLは増大し、給送ローラが狙い位置から下方に変位すると加圧バネの伸び量が小さくなって長さLは減少する(
図12(a~c))。つまり、給送ローラ101が狙い位置から上方に変位すると加圧バネ155の復元力Fは大きくなり、給送ローラ101が狙い位置から下方に変位すると加圧バネ155の復元力Fは小さくなる。
【0061】
例1では、給送ローラ101の変位に対する距離Hの増減の傾向は、加圧バネ155の長さLの増減の傾向と一致している(
図12(d))。すると、(式2)で示したように、押圧力Jは復元力Fと距離Hの積に比例するから、給送ローラ101の変位に対する距離Hの変化は、給送ローラ101の変位に対する押圧力Jの変動幅を大きくする方向に作用する。
図12(g)に示すように、例1の構成では給送ローラ101が狙い位置から±4[mm]変位する間に、押圧力Jが±11gf程度の幅で変動していた。
【0062】
これに対し、固定端155bが基準線T0に対して回動軸164と同じ側に位置する例2、例3では、給送ローラ101の変位に対する距離Hの増減の傾向は、加圧バネ155の長さLの増減の傾向に相反するものとなる(
図12(e、f))。つまり、給送ローラ101が狙い位置から上方に変位すると距離Hは小さくなり、給送ローラ101が狙い位置から下方に変位すると距離Hは大きくなる。このような距離Hの変化は、給送ローラ101の変位に対する復元力Fの変化を相殺して、押圧力Jの変動幅を抑える方向に作用する。
図12(h、i)に示すように、例2、3の構成で給送ローラ101が狙い位置から±4[mm]変位する間の押圧力Jの変動幅は、それぞれ±0.2gf程度、±9gf程度であった。
【0063】
固定端155bが基準線T0に対して回動軸164と同じ側にある配置により、復元力Fの増減と距離Hの増減とが相反するものになることは、次のように説明することができる。
【0064】
図13(a)、(b)は、加圧レバー154の回動に伴う距離Hの変化を説明するための模式図である。
図13(a)は固定端155bが基準線T0に対して回動軸164と同じ側にある場合、
図13(b)は固定端155bが基準線T0に対して回動軸164とは反対側にある場合を表している。
【0065】
物理的な干渉を無視して考えた場合、
図13(a)において加圧バネ155の自由端155aが円Cの上を点P1から点P0に向かって移動するとき、回動軸164から作用線Gまでの距離Hは単調に増加することが分かる。ただし、点P0は、作用線Gが加圧レバー154の回動軸線を通る場合の自由端155aの位置であり、このとき距離Hが最小(H=0)となる。また、点P1は、作用線Gが円Cに接戦となる場合の自由端155aの位置であり、このとき距離Hは最大(回動軸164から自由端155aまでの距離)となる。
【0066】
固定端155bが基準線T0に対して回動軸164と同じ側にある配置では、給送ローラ101が狙い位置にある場合の自由端155aが点P1から点P0までの間に位置する。ただし、点P1から点P0までの間とは、点P1から、給送ローラ101を下方に付勢する方向(つまり、図中時計回り方向)に向かって点P0に至るまでの円Cの円弧を指す。また、固定端155bは、給送ローラ101が狙い位置にある場合の自由端155aと回動軸164とを結ぶ直線Nに対して、アーム102を下方に押圧する方向に加圧レバー154を付勢するように(つまり、直線Nに対して図中下側に)配置されるものとする。
【0067】
給送ローラ101が狙い位置にあるときに加圧レバー154を実線で表し、このときの回動軸164から作用線G1までの距離Hの値を「H1」とする。給送ローラ101が狙い位置より下方に変位して加圧レバー154が一点鎖線の位置に移動すると、加圧バネ155の自由端155aは距離Hが最小となる点P0に近付くため、距離Hの値が小さくなる(H0<H1)。一方、給送ローラ101が狙い位置より上方に変位して加圧レバー154が破線の位置に移動すると、加圧バネ155の自由端155aは距離Hが最大となる点P1に近付くため、距離Hの値は小さくなる(H2>H1)。
【0068】
これに対し、
図13(b)に示すように固定端155bが基準線T0に対して回動軸164とは反対側にある場合には、距離Hが最小となる点P0と最大となる点P1の位置関係が逆転する。つまり、加圧レバー154が図中反時計回りに回動するとき、
図13(a)の場合とは反対に距離Hが単調に減少する。そのため、給送ローラ101が狙い位置より下方に変位して加圧レバー154が一点鎖線の位置に移動すると、加圧バネ155の自由端155aは距離Hが最大となる点P0に近付くことになり、距離Hの値は大きくなる(H0>H1)。一方、給送ローラ101が狙い位置より上方に変位して加圧レバー154が破線の位置に移動すると、加圧バネ155の自由端155aは距離Hが最小となる点P1に近付くことになり、距離Hの値は小さくなる(H2<H1)。つまり、給送ローラ101が第1位置に位置している場合には、第1位置よりも下方の第2位置に位置している場合よりも、距離Hが小さい構成となっている。
【0069】
(本実施形態の効果)
ところで、加圧バネ155のように給送ローラのシートに対する加圧力を付与するための弾性部材は、一般的に、給送ローラが狙い位置にある状態で設計値上の加圧力に対応する復元力を付与するように設計される。しかしながら、製造公差に関する理由及び給送動作の制御方法に関する理由を含む種々の要因により、弾性部材が実際に付与する復元力の大きさは、目標とする値からずれる場合がある。このような復元力の変動によって給送ローラの加圧力が大きく変動すると、シートの折れや搬送不良を発生させる可能性がある。
【0070】
製造公差に関する理由とは、給送ローラと弾性部材との間に介在する部材の公差や、給送ローラの保持構成、さらに給送ローラを狙い位置に位置決めするためのセンサ構成に関する公差が、累積的に作用して復元力の大きさを変動させること指す。例えば、本実施形態の原稿トレイ111及び給送ユニット143の各部の公差、カバーユニット140とADFのフレーム144の位置決め精度は、給送動作を開始する際の押圧部163の高さのずれの生じさせる要素である。
【0071】
また、給送動作の制御方法に関する理由とは、給送動作の実行中にシートの上面が狙い位置からずれることを指す。例えば、
図4を用いて説明したように、本実施形態の給送動作では、原稿の上面が給送位置センサ191の検知位置と、検知位置より上方のリフトアップ終了位置との間で変動することを許容している。このとき、従来の構成では、原稿高さの変化に伴う弾性部材の復元力の変動が、給送ローラ101の加圧力の変動に直接的に反映されてしまっていた。
【0072】
これに対し、本実施形態の例2又は例3の構成では、給送ローラ101が狙い位置から変位するときの加圧バネ155の復元力Fの増減を相殺する加圧バネ155の配置を採用している。これにより、給送ローラ101の変位に対する復元力Fと距離Hの積F・H(モーメントM)の変化が小さくなるため、加圧レバー154のアーム102に対する押圧力Jの変動が抑制される。つまり、製造公差や給送動作の制御方法に関する要因によって加圧レバー154の回動角度が多少変動したとしても、給送ローラ101の原稿に対する加圧力Kを安定させて、安定したシートの給送を実現するができる。また、本実施形態では、加圧力Kが機械的構成によって自動的に調整される構成としたため、カム機構等のアクチュエータを用いて加圧力を制御する構成に比べて、簡素な構成で、安定したシートの給送を実現するができる。
【0073】
図12(h)に示すように、加圧力Kをさらに安定させるためには、通常の使用状態で給送ローラ101が移動可能な範囲内で復元力Fと距離Hの積F・Hが極値(極大値及び極小値のどちらでもよい)を持つようにすると好適である。通常の使用状態で給送ローラ101が移動可能な範囲とは、本実施形態の場合、給送動作において原稿の上面の高さが変動し得る範囲(つまり、給送位置センサ191の検知位置からリフトアップ終了位置までの範囲)である。
【0074】
また、復元力Fと距離Hの変動がバランスよく相殺するように、給送ローラ101が狙い位置から変位する際の距離Hの変化率が、復元力Fの変化率に対して-2.0以上-0.5以下の範囲にあると好適である。復元力F及び距離Hの変化率とは、給送ローラ101の変位量に対する復元力F及び距離Hの変動量の比率を、給送ローラ101が狙い位置にある状態の復元力F及び距離Hの値で正規化したパラメータを指す。言い換えると、例えば復元力Fが1%増加(加圧バネ155の伸び量が1%増加)するように給送ローラ101を狙い位置から変位させたときに、距離Hが0.5%~2%減少するような関係であればよい。給送ローラ101が狙い位置から変位する際の復元力F及び距離Hの変化率は、例えば、変位量を0mm、±1mmとして測定したF,Hの値から数値微分の公式に当てはめて算出することができる。
【0075】
なお、本実施形態のように加圧レバー154の下方に加圧バネ155を配置する場合、給送ローラ101が狙い位置にある状態を基準として、鉛直方向に垂直な水平面に対する作用線Gの角度が30度以下となるようにすると好適である。このような配置により、原稿の厚さ方向における加圧バネ155の占有範囲が小さくなり、ADF100の小型化に貢献する。
【0076】
(変形例)
上記実施形態では弾性部材として引っ張りコイルバネである加圧バネ155を使用し、回動軸164からアーム102に向かって延びる棒状の加圧レバー154を使用しているが、本実施形態と同様の効果が得られる限り、これらの配置は変更可能である。例えば、
図14(a)に示すように、レバー部材として、アーム102を押圧する部分と加圧バネ155に接続される部分とが枝分かれしたL字状の加圧レバー254を用いてもよい。この場合、加圧バネ155の姿勢が上記実施形態と異なり、復元力Fは鉛直方向上向きの成分を含んでいてもよい。このような構成であっても、基準線T0に対して加圧バネ155の固定端155bが加圧レバー254の回動軸164と同じ側に配置されていれば、給送ローラ101が上方/下方に変位したときに距離Hはそれぞれ減少/増大する。つまり、給送ローラ101の変位に対する復元力Fの増減を相殺するように距離Hが増減する構成が実現されている。
【0077】
また、
図14(b)に示すように、引っ張りバネに代えて圧縮バネ255を弾性部材として用いてもよい。
図14(b)において、圧縮バネ255の自由端255aは加圧レバー154を押圧し、固定端255bはカバー本体141に支持されている。このとき、固定端255bが基準線T0に対して回動軸164とは「反対側」に配置されていれば、給送ローラ101が上方/下方に変位したときに距離Hはそれぞれ減少/増大する。つまり、給送ローラ101の変位に対する復元力Fの増減を相殺するように距離Hが増減する構成が実現されている。
【0078】
加圧バネ155として引っ張りバネを用いる利点として、圧縮バネを用いる場合に比べて使用時の長さと自由長さとの差を確保しやすいことが挙げられる。つまり、圧縮バネに比べてバネ定数が小さいものを用いることができるため、加圧レバー154の回動に対する復元力の変動幅を抑えることが可能となる、給送ローラ101の加圧力を安定させやすい。
【0079】
その他、弾性部材としてコイルバネ以外のもの(例えばゴムや空気ばね)を用いてもよい。また、弾性部材の端部がレバー部材と直接接続される構成に代えて、レバー部材に引っ掛けられたワイヤーをねじりコイルバネによって引っ張る構成のように、弾性部材の復元力が中間部材を介してレバー部材に作用するようにしてもよい。
【0080】
また、復元力によって給送ローラ101の加圧力を生み出す弾性部材に加えて、他の構成で生み出される力を給送ローラ101の加圧力に加えるようにしてもよい。例えば錘となる部材を追加して、錘の重量が加圧力に加算されるようにしてもよい。また、給送ユニット143のシャフト105(
図6)とアーム102の間にバネクラッチを配置し、給送モータ182の回転に伴って一定の力がバネクラッチを介してアーム102に伝達され、給送ローラ101の加圧力に加算されるようにしてもよい。
【0081】
また、加圧レバー154の配置を変更し、例えば給送ローラ101の軸方向に平行な回動軸からシート給送方向に沿った方向に延びる加圧レバーを用いてもよい。加圧レバー154及び加圧バネ155を、給送ローラ101に対して
図10における左側に移動させてもよい。また、加圧レバー154及び加圧バネ155を2組配置して、給送ローラ101の軸方向に対して対称な構成としてもよい。
【0082】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、画像読取装置において原稿を給送するためのシート給送装置であるADF100に本技術を適用した場合について説明したが、他のシート給送装置に対しても適用可能である。例えば画像形成部301(
図1)において記録材として用いられるシートPを給送するためのシート給送装置(20,21)に本技術を適用することができる。
【0083】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0084】
10…画像形成手段(電子写真ユニット)/101…給送部材(給送ローラ)/102…保持部材(アーム)/111…シート積載部(原稿トレイ)/124,201…画像読取手段(読取ユニット)/154,254…レバー部材(加圧レバー)/155,255…弾性部材(加圧バネ)/162…当接部(加圧レバーの先端部)/164…回動軸/300…画像形成装置/F…弾性部材がレバー部材に加える力(加圧バネの復元力)/G…力の作用線/H…回動軸から力の作用線までの距離