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特許7195910遊離残留塩素濃度算出方法、遊離残留塩素濃度算出システム、及び空間洗浄システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】遊離残留塩素濃度算出方法、遊離残留塩素濃度算出システム、及び空間洗浄システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/06 20060101AFI20221219BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20221219BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20221219BHJP
   C11D 7/54 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G01N27/06 Z
A61L9/14
A61L9/01 F
C11D7/54
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018234721
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094986
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000104973
【氏名又は名称】クリナップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】小井戸 文彦
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-227183(JP,A)
【文献】特開平09-225468(JP,A)
【文献】特開平03-293093(JP,A)
【文献】特開平04-036650(JP,A)
【文献】特開平03-258394(JP,A)
【文献】特開2002-349913(JP,A)
【文献】特開平11-316083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 27/416
A61L 9/00-9/22
C11D 7/00-7/60
C02F 1/00-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中のシリカ、カルシウム、マグネシウムを含む溶解物質及び固体不純物を除去又は低減する不純物低減工程と、
前記不純物低減工程で不純物を低減した前記水溶液に塩素成分を添加する塩素成分添加工程と、
前記塩素成分添加工程の前後において前記水溶液中の電気伝導率を計測する電気伝導率計測工程と、
前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行う前の前記水溶液中の電気伝導率から次式1の切片Aを求め、前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行った後の前記水溶液中の電気伝導率yを切片Aが求められた次式1に代入して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出して確認する遊離残留塩素濃度算出工程と、を備えること
を特徴とする水溶液中の遊離残留塩素濃度算出方法。
電気伝導率y(μS/cm)=1.4×遊離残留塩素濃度x(ppm)+A・・・式(1)
【請求項2】
前記遊離残留塩素濃度算出工程での算出結果に基づいて塩素成分を添加して前記水溶液中の遊離残留塩素濃度を調整する濃度調整工程を備えること
を特徴とする請求項1に記載の水溶液中の遊離残留塩素濃度算出方法。
【請求項3】
前記塩素成分添加工程では、塩素成分として次亜塩素酸ナトリウムを添加すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の水溶液中の遊離残留塩素濃度算出方法。
【請求項4】
水溶液中へ塩素成分を添加する塩素成分添加手段と、
塩素成分添加前後の前記水溶液の電気伝導率を計測する電気伝導率計測手段と、
前記塩素成分添加手段で塩素成分を添加する前に、前記水溶液中のシリカ、カルシウム、マグネシウムを含む溶解物質及び固体不純物を除去又は低減する不純物低減手段を備え、
前記塩素成分添加手段で塩素成分を添加する前に前記電気伝導率計測手段で計測した電気伝導率から次式1の切片Aを求め、前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行った後の前記水溶液中の電気伝導率yを切片Aが求められた次式1に代入して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出して確認すること
を特徴とする遊離残留塩素濃度算出システム。
【請求項5】
前記電気伝導率計測手段で計測した電気伝導率から前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出した算出結果に基づいて前記塩素成分添加手段を制御して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を調整する濃度調整手段を備えること
を特徴とする請求項4に記載の遊離残留塩素濃度算出システム。
【請求項6】
前記電気伝導率計測手段は、前記水溶液の水面レベルを検知する水位検知手段であること
を特徴とする請求項4又は5に記載の遊離残留塩素濃度算出システム。
【請求項7】
前記塩素成分添加手段では、塩素成分として次亜塩素酸ナトリウムを添加すること
を特徴とする請求項4ないしのいずれかに記載の遊離残留塩素濃度算出システム。
【請求項8】
水道水などの水溶液を散布して周囲の空間を洗浄する空間洗浄システムであって、
前記請求項4ないし7のいずれかに記載の遊離残留塩素濃度算出システムにより、前記水溶液からシリカ成分などの不純物を低減して遊離残留塩素濃度を調整した処理水を周囲の空間に散布する散布手段を備えること
を特徴とする空間洗浄システム。
【請求項9】
前記空間内を乾燥させる乾燥手段をさらに備えること
を特徴とする請求項に記載の空間洗浄システム。
【請求項10】
前記空間は、浴室であること
を特徴とする請求項又はに記載の空間洗浄システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌の増殖を抑制するために塩素成分を水液中に添加した後の遊離残留塩素濃度を検出して当該濃度を確認する遊離残留塩素濃度算出方法、遊離残留塩素濃度算出システム、及び空間洗浄システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、循環式浴槽やプールなどの水を循環して用いる施設の循環水や、家庭用の浴室洗浄システムの洗浄水などでは、水道水(上水)などの水溶液に、塩素成分である次亜塩素酸ナトリウムを添加して、殺菌消毒して水溶液中の雑菌の増殖を抑えることが行われている。
【0003】
また、塩素成分の添加後の水溶液中の遊離残留塩素濃度が濃すぎると人体に悪影響を及ぼすおそれがあり、一方、薄すぎると雑菌の増殖を抑えることができないため、水溶液中の遊離残留塩素濃度を測定して管理する必要がある。
【0004】
水溶液中の遊離残留塩素濃度を測定する方法としては、比色DPD法や電流滴定法が知られている。比色DPD法は、試薬ジエチルパラフェニレンジアミンを添加すると、塩素による酸化で発色するという反応を利用し、比色管内で呈色した色濃度を残留塩素標準比色列と比べて、比色定量して測定する方法である。
【0005】
また、電流滴定法は、試薬ヨウ化カリウムを添加すると、塩素による酸化で遊離してヨウ素などの酸化性物質が生じて電流が流れやすくなり、これに電流が流れなくなるまで還元剤を添加して、添加量から残留塩素濃度を測定する方法である。
【0006】
つまり、比色DPD法や電流滴定法は、いずれも試薬が必要であり、測定のために試薬が混入された水溶液は、本来の用途である循環水や洗浄水としては使用できず、廃棄する必要があるという問題があった。
【0007】
それに加え、比色DPD法や電流滴定法は、色比較や試薬添加の工程を自動化するには、構造が複雑となり、遊離残留塩素濃度算出システムなどの全体のシステムが高価なものとなってしまうという問題もあった。
【0008】
試薬を用いないで遊離残留塩素濃度を測定する方法としては、特許文献1に、遊離残留塩素濃度の測定方法が開示されている。特許文献1に記載の遊離残留塩素濃度の測定方法は、作用極、対極、参照極を被測定水に浸漬し、作用極に被測定水中の次亜塩素酸の還元電流が流れる際の予め測定した参照極に対する作用極の電位に作用極の電位が同じになるように作用極と対極間に印加する電圧を制御したときの作用極と対極との間の電流から被測定水の遊離残留塩素濃度を推定する3電極ポーラログラフ法を用いた遊離残留塩素濃度の測定方法において、被測定水の塩化物イオン濃度を検出するセンサを備え、当該センサが検出する塩化物イオン濃度に基づいて予め測定した参照極に対する作用極の電位を補正するものである(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0029]~[0055]、図面の図1等参照)。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の遊離残留塩素濃度の測定方法は、細かな電圧調整や電流計測を行うため、電極は精密な構造が要求され、高額になってしまうという問題があった。それに加え、極めて精密な精度が要求されるため、電極の感度を良好な状態に維持するために、洗浄機構や定期的なメンテナンスが必要となるという問題もあった。
【0010】
そこで、本願の発明者は、添加する塩素成分以外の外因の影響を小さくすることにより、塩素成分の添加量と電気伝導率との間に直線的な相関関係を得られることに着目し、本発明を完成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-7508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、水溶液中の遊離残留塩素濃度を、簡易的且つ濃度調整を自動化可能な方法で検出して、菌の増殖を抑制するために最適な遊離残留塩素濃度の確認を行う遊離残留塩素濃度算出方法、遊離残留塩素濃度算出システム、及びその菌増殖抑制機能付き空間洗浄システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係る遊離残留塩素濃度算出方法は、水溶液中のシリカ、カルシウム、マグネシウムを含む溶解物質及び固体不純物を除去又は低減する不純物低減工程と、前記不純物低減工程で不純物を低減した前記水溶液に塩素成分を添加する塩素成分添加工程と、前記塩素成分添加工程の前後において前記水溶液中の電気伝導率を計測する電気伝導率計測工程と、前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行う前の前記水溶液中の電気伝導率から次式1の切片Aを求め、前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行った後の前記水溶液中の電気伝導率yを切片Aが求められた次式1に代入して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出して確認する遊離残留塩素濃度算出工程と、を備えることを特徴とする。
電気伝導率y(μS/cm)=1.4×遊離残留塩素濃度x(ppm)+A・・・式(1)
【0014】
第2発明に係る遊離残留塩素濃度算出方法は、第1発明において、前記遊離残留塩素濃度算出工程での算出結果に基づいて塩素成分を添加して前記水溶液中の遊離残留塩素濃度を調整する濃度調整工程を備えることを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る遊離残留塩素濃度算出方法は、第1発明又は第2発明において、前記塩素成分添加工程では、塩素成分として次亜塩素酸ナトリウムを添加することを特徴とする。
【0016】
第4発明に係る遊離残留塩素濃度算出システムは、水溶液中へ塩素成分を添加する塩素成分添加手段と、塩素成分添加前後の前記水溶液の電気伝導率を計測する電気伝導率計測手段と、前記塩素成分添加手段で塩素成分を添加する前に、前記水溶液中のシリカ、カルシウム、マグネシウムを含む溶解物質及び固体不純物を除去又は低減する不純物低減手段を備え、前記塩素成分添加手段で塩素成分を添加する前に前記電気伝導率計測手段で計測した電気伝導率から次式1の切片Aを求め、前記電気伝導率計測工程で計測した塩素成分添加工程を行った後の前記水溶液中の電気伝導率yを切片Aが求められた次式1に代入して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出して確認することを特徴とする。
【0017】
第5発明に係る遊離残留塩素濃度算出システムは、第4発明において、前記電気伝導率計測手段で計測した電気伝導率から前記水溶液の遊離残留塩素濃度を算出した算出結果に基づいて前記塩素成分添加手段を制御して前記水溶液の遊離残留塩素濃度を調整する濃度調整手段を備えることを特徴とする。
【0019】
発明に係る遊離残留塩素濃度算出システムは、第4発明又は第5発明において、前記電気伝導率計測手段は、前記水溶液の水面レベルを検知する水位検知手段であることを特徴とする。
【0020】
発明に係る遊離残留塩素濃度算出システムは、第4発明ないし第発明のいずれかにおいて、前記塩素成分添加手段では、塩素成分として次亜塩素酸ナトリウムを添加することを特徴とする。
【0021】
発明に係る空間洗浄システムは、水道水などの水溶液を散布して周囲の空間を洗浄する空間洗浄システムであって、前記請求項4ないし7のいずれかに記載の遊離残留塩素濃度算出システムにより、前記水溶液からシリカ成分などの不純物を低減して遊離残留塩素濃度を調整した処理水を周囲の空間に散布する散布手段を備えることを特徴とする。
【0022】
発明に係る空間洗浄システムは、第発明において、前記空間内を乾燥させる乾燥手段をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
10発明に係る空間洗浄システムは、第発明又は第発明において、前記空間は、浴室であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
第1発明~第発明によれば、水溶液中の遊離残留塩素濃度を簡易的且つ濃度調整を自動化可能な方法で検出することができる。このため、水溶液中の菌の増殖を抑制するために最適な遊離残留塩素濃度になっているか否かを自動で確認することができる。
また、第1発明~第7発明によれば、水溶液が使用されて乾燥した際に、水溶液に含まれるシリカ、カルシウム、マグネシウム等の溶解物質や溶解していない固形不純物などの不純物が水垢汚れとして表出することを防止することができる。
【0025】
特に、第2発明及び第5発明によれば、何らかの事情で水溶液中の菌の増殖を抑制するために最適な遊離残留塩素濃度でなかった場合に、次亜塩素酸ナトリウムを添加して水溶液中の遊離残留塩素濃度を自動で調整することが可能となる。
【0027】
特に、第発明によれば、電気伝導率計測手段が水溶液の水面レベルを検知する水位検知手段を兼用しているので、前記作用効果に加え、電極数及びそれらを制御する制御機構の部品点数を削減して、システム機器全体の製造コストを低減することができる。
【0028】
発明によれば、空間洗浄システムにおいて、使用する洗浄水の菌の増殖を自動で低減することが可能となる。その上、皮脂や埃、石鹸等の付着による一般的な汚れ(第1原因)、水道水中のシリカ等の溶解物質などの不純物による水垢汚れ(第2原因)、入室者や空気の流れによって空間(浴室)内に運ばれてくる微生物に基づくカビ等の汚れ(第3原因)の汚れ(特に、浴室)の主な3つの原因全てを取り除くことができる。しかも、洗浄動作を全てシステム側が自動的に実行することができることから、ユーザによる洗浄労力の負担を軽減することが可能となる。
【0029】
特に、第発明によれば、乾燥手段をさらに備えるので、前記作用効果に加え、洗浄後直ぐに空間(特に、浴室)内を乾燥させることができ、さらに、微生物に基づくカビ等の汚れを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】水溶液中の遊離残留塩素濃度と水溶液の電気伝導率との関係を示すグラフである。
図2】逆浸透膜を通して電気伝導率が1.7(μS/cm)となった水に次亜塩素酸ナトリウムを添加していく場合の遊離残留塩素濃度と電気伝導率との関係を示すグラフである。
図3】本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システムを模式的に示す構成説明図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システムを模式的に示す構成説明図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システムを模式的に示す構成説明図である。
図6】本発明の実施形態に係る空間洗浄システムを適用した浴室を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態に係る空間洗浄システムの構成を模式的にブロック図として示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を適用した遊離残留塩素濃度算出システム及びその遊離残留塩素濃度算出システムを適用した空間洗浄システムを実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
<遊離残留塩素濃度の算出の原理>
先ず最初に、遊離残留塩素濃度算出システムにおける遊離残留塩素濃度の算出の原理について説明する。塩素成分である次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を水(H2O)に添加すると、反応して、次亜塩素酸(HClO)と水酸化ナトリウム(NaOH)となる。
NaClO+H2O⇔HClO+NaOH
【0033】
この次亜塩素酸は不安定な化合物であり、分解して酸素を放出し、塩酸に変わる。
HClO(+H2O)⇔HCl+O(+H2O)
さらに、この次亜塩素酸は、水溶液中で次亜塩素イオン(ClO-)と水素イオン(H+)とに解離する。
HClO⇔ClO-+H+
【0034】
一定の温度環境(例えば、常温)下では、これらの2つの反応は、略一定の割合で生じる。次亜塩素酸ナトリウムを添加した水溶液中の遊離残留塩素濃度は、次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンの量で決まるので、次亜塩素酸ナトリウムの添加量と遊離残留塩素濃度の増加分は、略比例する。
【0035】
一方、水溶液中においては、イオンが電気を運ぶので、次亜塩素酸イオンや水素イオンが多いほど電気伝導率は大きくなる。菌の増殖を抑制するために、水道法で定められている基準は、遊離残留塩素濃度が0.1(ppm)以上であり、上限としては水質管理目標として1.0(ppm)以下と定められている。このような塩素濃度が非常に低い領域においては、次亜塩素酸ナトリウムの添加量と電気伝導率(の増加分)との関係は、1次関数で表せる略直線的な比例関係(線形)となる。したがって、菌の増殖抑制のために、水溶液(水)に次亜塩素酸ナトリウムを添加する場合、電気伝導率(の変化分)と遊離残留塩素濃度(の変化分)との関係も、1次関数で表せる略直線的な比例関係(線形)が成立する。
【0036】
比例関係(線形)が成立する要件は、具体的には、(1)対象の水溶液からほとんどの(イオン性物質を含む)溶解物質を除去すること。(2)添加する次亜塩素酸ナトリウムの上限が1ppm程度の極わずかであること。(3)次亜塩素酸ナトリウムの添加の前後で電気伝導率を測定するにあたり、比較的短時間(例えば、何時間も経過していない)で計測を終えること。以上の3つの条件を満たすことと考えられる。なお、水中の遊離残留塩素濃度を増加させる塩素成分としては、次亜塩素酸ナトリウムのほか、液化塩素、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌル酸などが挙げられる。
【0037】
図1は、水溶液中の遊離残留塩素濃度と水溶液の電気伝導率との関係を示すグラフである。図1に示すように、実際に、遊離残留塩素濃度が0(ppm)(検出可能な範囲以下)で電気伝導率の異なる水(逆浸透膜を通した水)に、次亜塩素酸ナトリウムを添加して、遊離残留塩素濃度を1.0(ppm)まで上昇させた場合、前記の条件を満たすため、途中の濃度と電気伝導率との関係は、図1のグラフのように、傾きが略等しい直線となる。この結果から、次亜塩素酸ナトリウム添加前の水溶液中の遊離残留塩素濃度と、次亜塩素酸ナトリウム添加前後の電気伝導率の増加量(変化量)が分かれば、添加後の遊離残留塩素濃度が算出できることとなる。
【0038】
図2は、逆浸透膜を通して電気伝導率が1.7(μS/cm)となった水に次亜塩素酸ナトリウムを添加していく場合の遊離残留塩素濃度と電気伝導率との関係を示すグラフである。図2に示すように、遊離残留塩素濃度と電気伝導率との間には、次式1が成立する。式1・・電気伝導率y(μS/cm)=1.4×遊離残留塩素濃度x(ppm)+A
【0039】
先ず、次亜塩素酸ナトリウム添加前の電気伝導率の測定により、次式1の切片であるAが特定される。図示する場合は、切片Aは、1.7であった。このため、次亜塩素酸ナトリウム添加後の電気伝導率の測定により、その電気伝導率の差(増分)から次亜塩素酸ナトリウム添加後の水溶液の遊離残留塩素濃度が特定されることとなる。
【0040】
1.98(μS/cm)=1.4×0.2(ppm)+1.7
2.26(μS/cm)=1.4×0.4(ppm)+1.7
【0041】
つまり、遊離残留塩素濃度を0.2~0.4(ppm)の範囲としたい場合は、電気伝導率が1.98~2.26(μS/cm)の範囲になるように、次亜塩素酸ナトリウムを添加すればよいことが分かる。
【0042】
以上のように、次亜塩素酸ナトリウム添加前後の水溶液の電気伝導率を計測することにより、計測した電気伝導率の差(増分)から水溶液中の遊離残留塩素濃度を算出することができることとなる。
【0043】
<遊離残留塩素濃度算出システム>
[第1実施形態]
次に、図3を用いて、本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1の各構成について説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1を模式的に示す構成説明図である。
【0044】
図3に示すように、本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1は、水溶液Rへ塩素成分である次亜塩素酸ナトリウムを添加する次亜塩素酸ナトリウム添加手段2と、次亜塩素酸ナトリウム添加前後の水溶液Rの電気伝導率を計測する電気伝導率計測手段3と、を備えている。
【0045】
また、遊離残留塩素濃度算出システム1は、これらの次亜塩素酸ナトリウム添加手段2及び電気伝導率計測手段3に電気的に接続され、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2を制御して液中の遊離残留塩素濃度を調整する濃度調整手段4を備えている。
【0046】
ここで、遊離残留塩素濃度算出システム1を適用して菌の増殖を抑制する水溶液Rは、一般的には、後述の給水手段などから供給される水道水であり、井戸水などの他の上水や循環式浴槽やプールなどで用いられる循環水であってもよい。要するに、添加する次亜塩素酸ナトリウム以外の外因の影響を小さくすることにより、次亜塩素酸ナトリウム添加量と電気伝導率との間に直線的な相関関係を得られ、前述の遊離残留塩素濃度の算出の原理が適用可能となっている水溶液には、本発明を適用することができる。
【0047】
なお、後述のように、この濃度調整手段4は、電気伝導率計測手段3に電気的に接続され、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2で次亜塩素酸ナトリウムが添加された水液中の離残留塩素濃度が菌の増殖を抑制するために最適な濃度になっているか否かを判断できれば足りる。即ち、濃度調整手段4は、必ずしも次亜塩素酸ナトリウム添加手段2に電気的に接続されている必要はなく、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2を制御して再度次亜塩素酸ナトリウムを添加しなくてもよい。特に、不具合がなければ、添加した次亜塩素酸ナトリウムの量で水溶液R中の離残留塩素濃度を調整可能であるからである。
【0048】
(次亜塩素酸ナトリウム添加手段:塩素成分添加手段)
次亜塩素酸ナトリウム添加手段2は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの所定濃度の水溶液を貯留するボトルタンク(図示せず)と、そのボトルタンクから次亜塩素酸ナトリウム水溶液を流量調整可能に圧送するポンプ(図示せず)等を備えている。また、このポンプは、連通管2aを介して、前述の水溶液Rが流通するパイプP内に連通している。このため、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2は、次亜塩素酸ナトリウムの所定濃度の水溶液を必要量だけ添加可能に構成されている。勿論、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2は、後述の濃度調整手段4の制御により、水溶液R中に次亜塩素酸ナトリウムを所定量だけ添加可能であれば、どのような構成であっても構わない。
【0049】
(電気伝導率計測手段)
電気伝導率計測手段3は、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2より矢印で示す水溶液Rの流通方向下流側のパイプP内に突設され、所定距離離間した所定表面積からなる通電可能な一対の電極30を有している。電気伝導率計測手段3は、この電極30が水溶液Rに浸漬された状態で電極30に交流電流を流して抵抗を測定することにより電気伝導率を計測する。電気伝導率の測定方式としては、交流2電極方式、交流4電極方式、電磁誘導方式など、一般的な既知の測定方式で構わない。
【0050】
(濃度調整手段)
濃度調整手段4は、例えば、メモリに予め記憶させたプログラムに基づいて、CPU(Central Processing Unit)等の処理により、電気伝導率計測手段3からの電気信号を基に、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2を制御する一般的な構成の制御手段である。濃度調整手段4は、前述の遊離残留塩素濃度の算出の原理に従って、電気伝導率計測手段3で計測した電気伝導率と次亜塩素酸ナトリウム添加前の遊離残留塩素濃度から水溶液Rの遊離残留塩素濃度を算出して確認する。濃度調整手段4は、前述のように、目標とする遊離残留塩素濃度の範囲から逆算される電気伝導率の範囲内に達していると判断した場合は、追加の濃度調整は行わない。
【0051】
しかし、濃度調整手段4は、何らかの不具合により、電気伝導率計測手段3で計測される電気伝導率から、水溶液Rの遊離残留塩素濃度が目標値から外れていると判断した場合は、追加の遊次亜塩素酸ナトリウムの添加や水溶液Rの供給を行う。つまり、濃度調整手段4は、離残留塩素濃度が設定範囲の濃度となるように、電気伝導率計測手段3で計測される電気伝導率に基づいて次亜塩素酸ナトリウム添加手段2をフィードバック制御して濃度調整を行う。
【0052】
具体的には、濃度調整手段4は、電気伝導率計測手段3で計測された電気伝導率と次亜塩素酸ナトリウム添加前の遊離残留塩素濃度から水溶液Rの現在の遊離残留塩素濃度を算出し、算出された値が予め設定された目標値に達していない場合は、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2で次亜塩素酸ナトリウムを追加する。
【0053】
そして、濃度調整手段4は、前述のように、目標とする遊離残留塩素濃度の範囲から逆算される電気伝導率の範囲内に達した場合は、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2での次亜塩素酸ナトリウムの添加を停止する。逆に、濃度調整手段4は、電気伝導率計測手段3で計測された電気伝導率が目標とする電気伝導率の範囲内を超えている場合は、水溶液Rを供給するなどして濃度調整を行う。
【0054】
つまり、濃度調整手段4は、電極30を介して電気伝導率計測手段3で水溶液Rの電気伝導率を計測しながら目標値に達していることを確認する。そして、目標値から外れている場合は、濃度調整手段4は、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2等を制御・操作して目標値に達するまで次亜塩素酸ナトリウムを添加又は水道水等を供給して遊離残留塩素濃度の濃度調整を行う。
【0055】
以上説明した本発明の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1によれば、電気伝導率計測手段3により、水溶液R中の遊離残留塩素濃度の増加量を、簡易的且つ濃度調整を自動化可能な方法で検出することができる。このため、濃度調整手段4により、水溶液R中の菌の増殖を抑制するために最適な遊離残留塩素濃度の濃度調整を自動で行うことができる。
【0056】
また、第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1によれば、試薬を使用することなく、水溶液R中の遊離残留塩素濃度を検出することができる。このため、従来の比色DPD法や電流滴定法のように、試薬が混入した水溶液Rを廃棄する必要がなく本来の使用目的に水溶液Rをそのまま使用することができる。
【0057】
その上、第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1によれば、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2で次亜塩素酸ナトリウムを添加して、電極30を介して電気伝導率計測手段3で水溶液Rの電気伝導率を計測して確認するという簡単な構成で、水溶液Rの菌の増殖を抑制することができる。このため、システム全体を安価でコンパクトな構成とすることができ、様々な装置やシステムにおいて菌増殖抑制の機能を組み込むことが可能となる。
【0058】
また、第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1によれば、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2で添加した次亜塩素酸ナトリウムが目標とする遊離残留塩素濃度になっていない場合は、追加の次亜塩素酸ナトリウムを添加したり、水溶液Rを増量したりして自動で濃度調整を行うことができる。
【0059】
[第2実施形態]
次に、図4を用いて、本発明の第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’の各構成について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’を模式的に示す構成説明図である。前述の第1実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1と、第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’とが相違する点は、主に、不純物低減手段が追加されている点である。そのため、その点について主に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0060】
第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’は、前述の次亜塩素酸ナトリウム添加手段2と、電気伝導率計測手段3と、濃度調整手段4と、を備えている。それに加え、本実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’は、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2で次亜塩素酸ナトリウムを添加する前の水溶液Rの通水方向の上流位置において、水溶液R中の溶解物質の濃度や水溶液R中の溶解していない固体不純物などの不純物を低減する不純物低減手段5を備えている。
【0061】
(不純物低減手段)
不純物低減手段5は、逆浸透膜やイオン交換樹脂、活性炭(図示せず)などを備え、これらに水溶液Rを流通(通水)することで、シリカ、カルシウム、マグネシウム等の水溶液R中の溶解物質や固体不純物などの不純物を除去・低減する機能を有している。水溶液Rが、例えば、洗浄水として使用されて乾燥した際に、水溶液Rに含まれるシリカ、カルシウム、マグネシウム等の溶解物質等の不純物が水垢汚れとして表出することを防止するためである。
【0062】
例えば、不純物低減手段5は、ゴミや汚れなどの水溶液中に未だ溶解していない固体の不純物を除去できるのに加え、水道水中のシリカ成分の濃度が0.4ppm以下になるまで低減することができる。勿論、本発明に係る不純物低減手段は、水道水等の水溶液Rの流通前後で一定程度溶解物質などの不純物を低減することができればよいことは云うまでもない。
【0063】
また、不純物低減手段5は、一般的に、処理能力を上げようとすると、逆浸透膜やイオン交換樹脂などが多量に必要となり高額になってしまう。このため、本実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’では、不純物低減手段5として処理能力が小さいものを使用して時間をかけて処理した処理水(水溶液R)を溜めて使用するため、不純物低減手段5に加え、貯留部6を備えている。
【0064】
この貯留部6には、電磁弁等からなる弁開閉手段7が連通され、この弁開閉手段7を開閉して貯留部6に貯留した、不純物低減手段5で処理済みの処理水(水溶液R)を種々の目的で使用する仕組みとなっている。
【0065】
また、不純物低減手段5は、逆浸透膜やイオン交換樹脂などの働きにより、水溶液R中の遊離残留塩素濃度も低減する。一般的には、水道水を逆浸透膜等に通水した場合は、処理水中の遊離残留塩素濃度は、検出可能な範囲以下、即ち0.0(ppm)まで低減してしまう。このため、本実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’と組み合わせて、菌増殖抑制の機能を組み込むことは、極めて有用である。
【0066】
例えば、貯留部6に貯留する水溶液Rに、何らかの原因で菌が入り込んだ場合、不純物低減手段5により水溶液Rの遊離残留塩素濃度が、略0.0(ppm)となっているため、菌の増殖を抑制することができない。このため、水溶液Rを使用する際に、菌に汚染された状態となってしまうという問題が生じる。
【0067】
遊離残留塩素濃度算出システム1’では、前述と同様に、貯留部6において水溶液Rに浸漬されている電極30を有する電気伝導率計測手段3により、貯留部6に溜められた現在の水溶液Rの電気伝導率が計測されて、濃度調整手段4に送られる。
【0068】
濃度調整手段4では、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2の次亜塩素酸ナトリウム添加による遊離残留塩素濃度の範囲が適正であるか否かを確認する。そして、遊離残留塩素濃度目標とする遊離残留塩素濃度の範囲から逆算される電気伝導率の範囲内になるまで、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2等を制御して、次亜塩素酸ナトリウムを添加又は不純物を取り除いた水溶液Rを増量する。これにより、遊離残留塩素濃度算出システム1’では、貯留部6に貯留されている水溶液Rの遊離残留塩素濃度を、菌の増殖を抑制することができるとともに人体に影響の無い範囲とすることができる。
【0069】
以上説明した第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’によれば、不純物低減手段5を備えるので、前記作用効果に加え、水溶液Rが使用されて乾燥した際に、水溶液Rに含まれるシリカ、カルシウム、マグネシウム等の溶解物質などの不純物が水垢汚れとして表出することを防止することができる。
【0070】
その上、高価な逆浸透膜やイオン交換樹脂等を有する不純物低減手段5を小型で安価なものとすることができるだけでなく、貯留部6で水溶液Rを溜めて使用しても、菌の増殖を自動で抑制することができる。
【0071】
[第3実施形態]
次に、図5を用いて、本発明の第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”の各構成について説明する。図5は、本発明の第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”を模式的に示す構成説明図である。前述の第2実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1’と、第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”とが相違する点は、主に、電極30が2セット設けられている点だけである。そのため、その点について主に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0072】
第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”は、前述の次亜塩素酸ナトリウム添加手段2と、濃度調整手段4と、不純物低減手段5と、貯留部6及び弁開閉手段7を備えている。
【0073】
また、第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”の電気伝導率計測手段3”は、前述の電気伝導率計測手段3と略同構成であるが、同構成の電極30が2セット設けられている。これら2セットの電極30の一方のセンサ31”は、貯留部6の上部に設けられた満水センサ31”であり、他方のセンサ32”は、貯留部6の下部に設けられた空センサ32”である。
【0074】
即ち、本実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”の電気伝導率計測手段3”は、不純物低減手段5で処理した処理水(水溶液R)の液面レベルを検知する水位検知手段を兼用している。
【0075】
満水センサ31”は、貯留部6に溜まった処理水(水溶液R)が満水になったことを検知するセンサであり、不純物低減手段5で処理した処理水(水溶液R)が所定量溜まったことを報知して、洗浄水等として使用可能になったことを知らせるセンサである。
【0076】
一方、空センサ32”は、貯留部6に貯留していた処理水(水溶液R)がほとんど無くなったことを知らせて、弁開閉手段7を閉鎖して処理水(水溶液R)の供給を停止するタイミングを報知するセンサである。
【0077】
勿論、電気伝導率計測手段3”は、前述と同様の電気伝導率計測手段としての機能も有しており、貯留部6に溜められた現在の処理水(水溶液R)の電気伝導率も計測する。そして、濃度調整手段4では、遊離残留塩素濃度の範囲が適正であるか否かを確認する。また、適正でない場合は、濃度調整手段4は、目標とする遊離残留塩素濃度の範囲から逆算される電気伝導率の範囲内になるまで、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2等を制御して、次亜塩素酸ナトリウムを添加又は不純物を除去した水溶液Rを増量する。これにより、遊離残留塩素濃度算出システム1”でも、貯留部6に貯留されている処理水(水溶液R)の遊離残留塩素濃度を、菌の増殖を抑制することができるとともに人体に影響の無い範囲とすることができる。
【0078】
以上説明した第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1”によれば、電気伝導率計測手段3”が、満水センサ31と空センサ32の機能、即ち、処理水の液面レベルを検知する水位検知手段を兼用している。このため、遊離残留塩素濃度算出システム1”によれば、前記作用効果に加え、遊離残留塩素濃度算出システムにおける電極数及びそれらを制御する制御機構の部品点数を削減して、システム機器の製造コストを低減することができる。
【0079】
以上、本発明の第1実施~第3実施形態に係る遊離残留塩素濃度算出システム1~1”について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたって具体化した一実施の形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0080】
<空間洗浄システム>
次に、図6図7を用いて、前述の遊離残留塩素濃度算出システム1~1”を他の機器に組み込んだ場合の一例として、遊離残留塩素濃度算出システム1”を本発明の実施形態に係る空間洗浄システムとして浴室洗浄システムに組み込んだ場合を例示して説明する。図6は、本発明の実施形態に係る空間洗浄システムである浴室洗浄システム10を適用した浴室を示す斜視図であり、図7は、浴室洗浄システム10の構成を模式的にブロック図として示す構成説明図である。
【0081】
(浴室)
図6に示すように、浴室洗浄システム10を適用して洗浄する浴室100は、浴槽101と、浴槽101に隣接する洗い場104とを備えている。また、浴室100には、浴槽101と洗い場104の上部空間を囲って内空部に浴室100を形成する内壁102と、天井103とが設けられている。それに加え、少なくとも一の内壁102には、シャワー105及び水栓106が設けられている。
【0082】
また、天井103には、後述の第1散布ユニット11及び第2散布ユニット12の散布口である第1散布口11aと、第2散布口12aとが下方に向け突設されているとともに、浴室100内を乾燥するための後述の乾燥機13の吹出し口13aが設けられている。第1散布口11aと、第2散布口12aには、洗浄水を浴室100内の浴槽101、洗い場104、内壁102、天井103等の広範な範囲で散布できるように噴射式ノズルが設けられている。なお、浴室洗浄システム10は、浴室洗浄システム10を制御する後述の制御部14と通信可能に構成され、ユーザが所望の操作をボタンにより選択操作するコントローラーC1も設けられている。
【0083】
本実施形態に係る浴室洗浄システム10は、図7に示すように、浴室100に洗浄水を散布して洗浄する第1散布ユニット11及び第2散布ユニット12と、浴室100内を乾燥させる乾燥手段である乾燥機13と、これらを制御する制御部14など、を備えている。
【0084】
また、第1散布ユニット11には、洗浄水として水道水を給水するための給水手段である給水源15が接続されている。この給水源15は、分岐部16を介して給水路17が分岐され、一方がシャワー105及び水栓106に接続され、他方が第1散布ユニット11に接続されている。
【0085】
(第1散布ユニット)
第1散布ユニット11は、不純物を低減した処理水を浴室に散布する第1散布手段(散布手段)であり、前述の遊離残留塩素濃度算出システム1”と、この遊離残留塩素濃度算出システム1”と連通する第1散布部19と、を備えている。遊離残留塩素濃度算出システム1”は、制御弁18を介して給水路17に接続されている。
【0086】
第1散布部19は、制御弁18を通過した後、遊離残留塩素濃度算出システム1”内において、溶解物質などの不純物が低減されて、さらに遊離残留塩素濃度を、菌の増殖を抑制することができるとともに人体に影響の無い範囲に調整された処理水を浴室100内に散布するための噴射機構が設けられている。
【0087】
制御弁18は、制御部14からの制御信号に基づき、給水路17から供給されてくる水道水の給水又は止水の制御を行うための弁である。
【0088】
なお、前述の遊離残留塩素濃度算出システム1”は、前述の遊離残留塩素濃度算出システム1や遊離残留塩素濃度算出システム1’とすることもできる。但し、遊離残留塩素濃度算出システム1の場合には、制御弁18を通って供給される水道水の遊離残留塩素濃度が極めて低く(1.0(ppm)以下)、濃度が明らかである必要がある。また、遊離残留塩素濃度算出システム1’や遊離残留塩素濃度算出システム1”であれば、不純物低減手段5を備えており、水道水に含まれる溶解物質などの不純物が水垢汚れとして表出することを防止できる点で有利である。その上、遊離残留塩素濃度算出システム1”であれば、遊離残留塩素濃度算出システムにおける電極数及びそれらを制御する制御機構の部品点数を削減して、システム機器の製造コストを低減することができる点でさらに有利である。
【0089】
ここで、遊離残留塩素濃度算出システム1”の不純物低減手段5には、制御弁18を通過した水道水が供給されてくる。この不純物低減手段5は、前述のように、イオン交換樹脂や逆浸透膜等が設けられ、シリカ、カルシウム、マグネシウム等の溶解物質などの不純物を除去することができる。不純物低減手段5では、例えば、シリカ成分の濃度が0.4ppm以下、少なくとも供給される水道水のシリカ成分等の溶解物質濃度より低減させるようにする。このようなシリカ成分の濃度を0.4ppm以下まで低減させた水をシリカ除去水という(以下、同じ)。
【0090】
不純物低減手段5を構成するイオン交換樹脂、逆浸透膜は、溶解物質の除去方法が異なるため、シリカ除去水に残留する成分も異なる。即ち、イオン交換樹脂は、水中で電離してイオン化している溶解物質を、イオン交換樹脂を用いて吸着するものであるため、電離する溶解物質の除去に適している。一方、逆浸透膜は、膜を透過できない溶解物質を除去するしくみであるため、サイズの大きな溶解物質や固体不純物を除去するのに適している。水溶液中のシリカ成分の状態は、イオン化しているものもあるが、コロイド粒子として分散しているものも多い。イオン交換樹脂と、逆浸透膜を組み合わせることで、効率よく水中のシリカ等の溶解物質を低減することができる。このため、本実施形態に係る不純物低減手段5には、イオン交換樹脂と、逆浸透膜を組み合わせたものを採用することが好ましい。
【0091】
不純物低減手段5における溶解物質の除去方法としては、供給される水道水を電気分解する方法も含まれる。例えば、陽極にアルミニウムを使用すると、アルミニウムイオンとして溶解し、陰極側から発生する水酸化イオンと結びついて、水酸化アルミニウムが生成されることが知られている。水酸化アルミニウムには強い凝集作用があり、一般的に浄水場において廃液中の微粒子や浮遊物を吸着して、沈澱させる工程で使用されている。溶解物質や固体不純物などの不純物を吸着・沈澱するので、水道水中から不純物が除去される。
【0092】
(第2散布ユニット)
第2散布ユニット12は、制御弁20を通して、給水路17からの水道水を散水する水道水散水ユニット(第2散布手段)である。
【0093】
(乾燥機)
乾燥機13は、乾燥手段として制御部14による制御の下で、浴室100内に温風を送風する。乾燥機13は、外部空間から空気を吸い込んで熱を溜め込み、その熱を利用して浴室100内に温風を送風するいわゆるヒートポンプ方式、又は内部で熱を作り出して浴室100内に温風を送風する電気ヒーター方式等を採用するものであってもよい。乾燥機13から温風を送風することにより、浴室100内の水分を蒸発させて乾燥させることが容易となる。なお、この乾燥機13は、換気扇により浴室100内から高湿な空気を排出するものも含まれる。
【0094】
(制御部)
制御部14は、遊離残留塩素濃度算出システム1”の濃度調整手段4を兼用するとともに、制御弁18,制御弁20の開閉、第1散布部19の噴射機構、乾燥機13による乾燥開始又は乾燥停止等を制御する。制御部14は、コントローラーC1から操作信号を受信した場合には、当該操作信号に反映されているユーザの意思に基づき、各種制御を行う。制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)による制御の下で、予め記憶させたプログラムに基づいてこれらの制御を行うようにしてもよい。制御部14は、例えば、制御弁18の開弁時間及び乾燥機13による乾燥時間を時系列的に制御するようにしてもよい。
【0095】
コントローラーC1は、浴室100外に設置された操作パネルを有するリモートコントローラ等で構成されており、制御部14に対して操作信号を有線通信又は無線通信を通じて送信可能なデバイスである。コントローラーC1は、ユーザにより浴室100内の洗浄を開始する旨の入力が行われた場合に、これを反映させた操作信号を制御部14に送信する。
【0096】
次に、本実施形態に係る浴室洗浄システム10による浴室100内の洗浄動作について説明をする。
【0097】
ユーザが、浴室100内に在室している間などのコントローラーC1を介して洗浄開始の指示を行う前は、操作信号が生成されないため、制御弁18は閉弁状態となっている。このため、給水源15から供給されてくる水道水は、分岐部16を介してシャワー105及び水栓106のみから出射可能となる。ユーザが浴室100から退出後、コントローラーC1を介して浴室の洗浄開始の指示が行われる。コントローラーC1はかかる洗浄開始の指示を受けた場合に、これを反映させた操作信号を生成し、制御部14へ送信する。なお、ユーザによるコントローラーC1の操作を経ることなく、ユーザが浴室の終了を自動的に検知して上述した操作信号を生成し、これを制御部14へ送信するようにしてもよい。
【0098】
制御部14は、かかる操作信号を受信し、浴室100内の洗浄処理を開始する。制御部14は、先ず制御弁18を開弁するための制御を行う。その結果、給水源15からの水道水は、給水路17及び制御弁18を通過して、遊離残留塩素濃度算出システム1”へと到達することとなる。なお、浴室100内の洗浄処理の開始時は、ユーザによる浴室100の使用後であることから、水道水が分岐部16を介して分岐されてシャワー105等から出射されるケースは少ない。
【0099】
遊離残留塩素濃度算出システム1”に到達した水道水は、前述のように、不純物低減手段5でシリカ、カルシウム、マグネシウム等の溶解物質が除去・低減されて、そのシリカ除去水が貯留部6に貯留される。
【0100】
次に、制御部14は、満水センサ31”により貯留部6に溜まったシリカ除去水が満水になった旨の報知信号を受信した場合は、空センサ32”が設けられている電気伝導率計測手段3”で、シリカ除去水の電気伝導率を計測しながら、次亜塩素酸ナトリウム添加手段2を制御する。次亜塩素酸ナトリウム添加手段2により、次亜塩素酸ナトリウムを添加し、菌の増殖を抑制することができるとともに人体に影響の無い範囲に、遊離残留塩素濃度を調整し、遊離残留塩素濃度を調整した処理水(以下、単に処理水という)とする。
【0101】
次に、制御部14は、遊離残留塩素濃度が調整された貯留部6に溜まっている処理水を第1散布部19により第1散布口11aから浴室100内に散布する。この処理水は、浴槽101、洗い場104、内壁102、天井103等、浴室100全体に亘り散布されることとなる。その結果、この処理水で浴室100内の内壁102や洗い場104等を洗い流すことができる。散布される処理水は、水道水に含まれている水垢の原因となる溶解物質等が低減されているので、水垢汚れの発生を抑えることができる。
【0102】
制御部14は、この第1散布部19による処理水の散布を所定時間に亘り継続させた後、制御弁18を閉弁する。これにより第1散布部19による処理水の散布が終了する。
【0103】
なお、第1散布ユニットを介して、処理水を散布する前に、第2散布ユニットの制御弁20を介して、給水源15から水道水を給水して散布するようにしても構わない。
【0104】
また、第1散布ユニット11と第2散布ユニット12を下流で合流させ、1つの散布口から交互に散布するようにしても構わない。その上、散布口を設けず、シャワー105等から水道水を散布し、その後、処理水を散布するようにすることもできる。
【0105】
また、制御部14は、制御弁18、制御弁20の開閉及び前述の乾燥機13による乾燥開始又は乾燥停止を制御する。制御部14は、コントローラーC1からの操作信号を基に、当該操作信号に反映されているユーザの意思に基づき、各種制御を行う。
【0106】
以上説明した本実施形態に係る浴室洗浄システム10によれば、皮脂や埃、石鹸等の付着による一般的な汚れ(第1原因)、水道水中のシリカ等の溶解物質などの不純物による水垢汚れ(第2原因)、入室者や空気の流れによって浴室内に運ばれてくる微生物に基づくカビ等の汚れ(第3原因)の浴室汚れの主な3つの原因を全て取り除くことができる。しかも、本実施形態に係る浴室洗浄システム10によれば、洗浄動作を全てシステム側が自動的に実行することができることから、ユーザによる洗浄労力の負担を軽減することが可能となる。
【0107】
また、浴室洗浄システム10によれば、不純物低減手段5により、水道水中のシリカ等の溶解物質などの不純物による水垢汚れを防止した上、濃度調整手段4により、水道水中の菌の増殖を抑制するために最適な遊離残留塩素濃度の濃度調整を自動で行うことができる。
【0108】
それに加え、浴室洗浄システム10によれば、試薬を使用することなく、水道水中の遊離残留塩素濃度を検出することができる。このため、従来の比色DPD法や電流滴定法のように、試薬が混入した水を廃棄する必要がなく、そのまま洗浄水として使用することができる。
【0109】
浴室洗浄システム10によれば、第2散布ユニット12により散布した水は、シリカ等の溶解物質が含まれているため、放置しておくとこれが蒸発乾燥し、シリカ等が水垢として付着してしまう。しかし、この第2散布ユニット12により散布した水が蒸発する前に、第1散布部19を介して第1散布ユニット11によりシリカ除去水(処理水)が散布される。その結果、シリカ等の溶解物質を含む水をシリカ除去水(処理水)によって洗い流すことが可能となる。
【0110】
以上、本発明の空間洗浄システムとして例示した浴室洗浄システム10について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたって具体化した一実施の形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0111】
1,1’,1”:遊離残留塩素濃度算出システム
2:次亜塩素酸ナトリウム添加手段(塩素成分添加手段)
2a:連通管
3:電気伝導率計測手段
30:電極
31”:満水センサ
32”:空センサ
4:濃度調整手段
5:不純物低減手段
6:貯留部
7:弁開閉手段
P:パイプ
R:水溶液
10:浴室洗浄システム(空間洗浄システム)
11:第1散布ユニット(第1散布手段:散布手段)
11a:第1散布口
12:第2散布ユニット(第2散布手段)
12a:第2散布口
13:乾燥機(乾燥手段)
13a:吹出し口
14:制御部
15:給水源
16:分岐部
17:給水路
18:制御弁
19:第1散布部
20:制御弁
100:浴室
101:浴槽
102:内壁
103:天井
104:洗い場
105:シャワー
106:水栓
C1:コントローラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7