(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20221219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2018238579
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102280638(CN,A)
【文献】特開2017-157414(JP,A)
【文献】特開2018-060611(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053201(WO,A1)
【文献】特表2013-525975(JP,A)
【文献】特開2018-181750(JP,A)
【文献】特表2016-527693(JP,A)
【文献】特開昭63-143750(JP,A)
【文献】特開2017-069063(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102479944(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)、(B)又は(C):
LiFe
aMn
bM
cPO
4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、
0.1≦a≦
0.9、
0.1≦b≦
0.9、及び0≦c≦0.3を満たし、a及びbは同時に0ではなく、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
LiFe
d
Mn
e
N
f
SiO
4・・・(B)
(式(B)中、
Nは
Ni、Co、Al、Zn、V又はZrを示す。
d、e及び
fは、
0.09≦
d≦
0.6、
0.1≦
e≦1、及び0≦
f≦0.3を満たし、
d及び
eは同時に0ではなく、かつ2
d+2
e+(
Nの価数)×
f=2を満たす数を示す。)
NaFe
gMn
hQ
iPO
4・・・(C)
(式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、0≦i<1、及び2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数を示す。)
で表される酸化物に、植物性タンパク質を炭化してなる粒子であって炭素、窒素及び硫黄を含有する植物性タンパク質由来の粒子が担持してな
り、かつ植物性タンパク質由来の粒子の炭素の含有量が0.5質量%~7質量%である二次電池用正極活物質の製造方法であって、
リチウム化合物又はナトリウム化合物を含むスラリー水Qに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Qを得る工程(I)、
得られた複合体Q、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Rを水熱反応に付して、複合体Rを得る工程(II)、
得られた複合体R、植物性タンパク質を含むスラリー水Sを
超音波により撹拌した後、乾燥して複合体Sを得る工程(III)、並びに
得られた複合体Sを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程(IV)
を備える二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
二次電池用正極活物質において、植物性タンパク質由来の炭素が窒素及び硫黄とともに二次電池用正極活物質粒子表面の一部に存在し、かつ式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物粒子により形成されるパッキング構造の粒子間空隙を充填してなる、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
工程(III)において、超音波による撹拌時間が、0.5分~6分間である、請求項1又は2に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において、水熱反応の温度が130℃~180℃であり、かつ圧力が0.3MPa~0.9MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
二次電池用正極活物質において、植物性タンパク質由来の粒子の窒素の含有量が、二次電池用正極活物質中に0.01質量%~5質量%である
、請求項1
~4のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質
の製造方法。
【請求項6】
二次電池用正極活物質において、植物性タンパク質由来の粒子の硫黄の含有量が、二次電池用正極活物質中に0.01質量%~5質量%である
、請求項1~
5のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質
の製造方法。
【請求項7】
植物性タンパク質が、大豆由来の植物性タンパク質、又は麦由来の植物性タンパク質である
、請求項1~
6のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性タンパク質由来の粒子が担持されてなる二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電子機器、ハイブリッド自動車、電気自動車等に用いられる二次電池の開発が行われており、特にリチウムイオン二次電池は広く知られている。こうしたなか、Li(Fe、Mn)PO4等のリチウム含有オリビン型リン酸金属塩は、資源的な制約に大きく左右されることがなく、しかも高い安全性を発揮することができるため、高出力で大容量のリチウムイオン二次電池を得るのには最適な正極材料となる。しかしながら、これらの化合物は、結晶構造に由来して導電性を充分に高めるのが困難な性質を有しており、またリチウムイオンの拡散性にも改善の余地があるため、種々の技術開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、正極活物質の粒子表面に、セルロースナノクリスタル由来の炭素を担持させることにより、電池の高出力化を図っている。
さらに、リチウムは希少有価物質であることから、リチウムイオン二次電池に代えてナトリウムを用いたナトリウムイオン二次電池等についても種々検討されている。例えば、特許文献2には、オリビン型構造を有するリン酸遷移金属ナトリウムを含む正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-157414号公報
【文献】特開2011-34963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、二次電池の充放電に伴って正極活物質を構成する酸化物は膨張収縮を繰り返すため、正極活物質の粒子表面に担持された炭素は、その構造が徐々に破壊されて、次第に炭素中の導電経路が経たれ、二次電池のサイクル特性が経時的に低下してしまうおそれがある。そして、担持された炭素の導電性が低いほどサイクル特性の低下が大きく、グラファイトやカーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体に比べて導電性が低いセルロースナノクリスタル由来の炭素を用いた上記特許文献1に記載の技術では、依然として充分なサイクル特性を発現する二次電池を実現するに至っていない。
このように、リチウムイオン二次電池においても、また特許文献2にも記載されるナトリウムイオン二次電池についても、優れたサイクル特性を有効かつ充分に発現することが強く望まれている。
【0006】
したがって、本発明の課題は、優れたサイクル特性を実現することのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質又はナトリウムイオン二次電池用正極活物質、並びにこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、特定の式で表される酸化物に、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなる正極活物質であれば、一層優れたサイクル特性を発現する二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(A)、(B)又は(C):
LiFeaMnbMcPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、及び0≦c≦0.3を満たし、a及びbは同時に0ではなく、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
LiFeaMnbMcSiO4・・・(B)
(式(B)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、及び0≦c≦0.3を満たし、a及びbは同時に0ではなく、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
NaFegMnhQiPO4・・・(C)
(式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、0≦i<1、及び2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数を示す。)
で表される酸化物に、炭素、窒素及び硫黄を含有する植物性タンパク質由来の粒子が担持してなる二次電池用正極活物質を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記二次電池用正極活物質の製造方法であって、
リチウム化合物又はナトリウム化合物を含むスラリー水Qに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Qを得る工程(I)、
得られた複合体Q、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Rを水熱反応に付して、複合体Rを得る工程(II)、
得られた複合体R、植物性タンパク質を含むスラリー水Sを乾燥して複合体Sを得る工程(III)、並びに
得られた複合体Sを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程(IV)
を備える二次電池用正極活物質の製造方法等を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二次電池用正極活物質によれば、リチウム含有オリビン型リン酸金属塩、リチウム含有オリビン型ケイ酸金属塩又はナトリウム含有オリビン型リン酸金属塩である上記特定の式で表される酸化物に、植物性タンパク質由来の粒子が堅固に担持してなり、かかる粒子は炭素、窒素及び硫黄を含有するため、簡易な方法によって得られるものであるにもかかわらず、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池におけるサイクル特性及びレート特性を充分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のポリアニオン正極活物質のTEM像を示す。
【
図2】実施例1のポリアニオン正極活物質のSTEM像及び元素分布を示す。具体的には、
図2(a)はSTEM像、
図2(b)はP分布、
図2(c)はC分布、
図2(d)はS分布、
図2(e)はN分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる酸化物は、下記式(A)、(B)又は(C):
LiFeaMnbMcPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、及び2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数を示す。)
Li2FedMneNfSiO4・・・(B)
(式(B)中、NはNi、Co、Al、Zn、V又はZrを示す。d、e及びfは、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f<1、及び2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数を示す。)
NaFegMnhQiPO4・・・(C)
(式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、0≦i<1、及び2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数を示す。)
のいずれかの式で表される。
これらの酸化物は、いずれもオリビン型構造を有しており、少なくとも鉄又はマンガンを含む。上記式(A)又は式(B)で表される酸化物を用いた場合には、リチウムイオン二次電池用正極活物質が得られ、上記式(C)で表される酸化物を用いた場合には、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質が得られる。
【0013】
上記式(A)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。式(A)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。aは、0≦a≦1であって、好ましくは0.01≦a≦0.99であり、より好ましくは0.1≦a≦0.9である。bは、0≦b≦1であって、好ましくは0.01≦b≦0.99であり、より好ましくは0.1≦b≦0.9である。cは、0≦c≦0.2であって、好ましくは0≦c≦0.1である。そして、これらa、b及びcは、2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数である。上記式(A)で表されるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物としては、具体的には、例えばLiFe0.9Mn0.1PO4、LiFe0.2Mn0.8PO4、LiFe0.15Mn0.75Mg0.1PO4、LiFe0.19Mn0.75Zr0.03PO4等が挙げられ、なかでもLiFe0.2Mn0.8PO4が好ましい。
【0014】
上記式(B)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物である。式(B)中、Nは、Ni、Co、Al、Zn、V又はZrを示し、好ましくはCo、Al、Zn、V又はZrである。dは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦d<1であり、より好ましくは0.1≦d≦0.6である。eは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦e<1であり、より好ましくは0.1≦e≦0.6である。fは、0≦f<1であって、好ましくは0<f<1であり、より好ましくは0.05≦f≦0.4である。そして、これらd、e及びfは、2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数である。上記式(B)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物としては、具体的には、例えばLi2Fe0.45Mn0.45Co0.1SiO4、Li2Fe0.36Mn0.54Al0.066SiO4、Li2Fe0.45Mn0.45Zn0.1SiO4、Li2Fe0.36Mn0.54V0.066SiO4、Li2Fe0.282Mn0.658Zr0.02SiO4等が挙げられ、なかでもLi2Fe0.282Mn0.658Zr0.02SiO4が好ましい。
【0015】
上記式(C)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属ナトリウム化合物である。式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。gは、0≦g≦1であって、好ましくは0<g≦1である。hは、0≦h≦1であって、好ましくは0.5≦h<1である。iは、0≦i<1であって、好ましくは0≦i≦0.5であり、より好ましくは0≦i≦0.3である。そして、これらg、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、及び0≦i<1、2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数である。上記式(C)で表されるオリビン型リン酸遷移金属ナトリウム化合物としては、具体的には、例えばNaFe0.9Mn0.1PO4、NaFe0.2Mn0.8PO4、NaFe0.15Mn0.7Mg0.15PO4、NaFe0.19Mn0.75Zr0.03PO4、NaFe0.19Mn0.75Mo0.03PO4、NaFe0.15Mn0.7Co0.15PO4等が挙げられ、なかでもNaFe0.2Mn0.8PO4が好ましい。
【0016】
本発明の二次電池用正極活物質は、上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物に、植物性タンパク質を炭化してなる、炭素と窒素、及び硫黄を含有する植物性タンパク質由来の粒子が担持してなる。かかる植物性タンパク質は、炭化されて粒子状の焼成物と化し、炭素のみならず窒素及び硫黄をも含有する粒子となって、上記酸化物に堅固に担持してなる。
【0017】
本発明において、上記酸化物に担持させるために用いる植物性タンパク質とは、1種類又は数種類のアミノ酸がペプチド結合によって重合した、植物を構成する分子量が5000以上のポリマーであって数100アミノ酸単位~数1000アミノ酸単位程度までのペプチドであり、アミノ酸の構成原子である炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リン、ハロゲンからなる。植物性タンパク質を構成するアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが挙げられる。また、本発明において用いる植物性タンパク質は、水への良好な分散性を有していることを要する。したがって、大豆ペプチド等の水溶性を示すポリマーは、植物性タンパク質と同様にポリペプチドに分類されるが、本発明で用いる植物性タンパク質には含まれない。
本発明において用いる植物性タンパク質としては、具体的には、大豆たんぱくやおから等の大豆由来の植物性タンパク質、又は小麦たんぱく等の麦由来の植物性タンパク質が好ましい。これら植物性タンパク質として、市販品や豆腐の製造において発生する産業廃棄物を用いてもよい。
【0018】
植物性タンパク質は炭化されることによって、粒子状を呈した状態で上記酸化物に担持されることとなり、植物性タンパク質の主たる構成原子であった炭素とともに窒素及び硫黄がこの粒子に含有され、本発明の二次電池用正極活物質中に存在することとなる。植物性タンパク質が炭化してなる粒子は、炭素のみならず窒素及び硫黄を含有することによって、炭化してなる結晶質炭素が格子欠陥を有することとなり、また炭化してなる非晶質炭素においても価数の異なる元素の存在によって特異な電子構造を呈することとなり、こうした粒子が担持されてなる正極活物質であることが、得られる電池における性能を有効に高めるのに大きく寄与するものと考えられる。
【0019】
植物性タンパク質が炭化してなる、炭素、窒素及び硫黄を含有する粒子における炭素の含有量は、本発明の二次電池用正極活物質中に、好ましくは0.3質量%~15質量%であり、より好ましくは0.4質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~7質量%である。
なお、二次電池用正極活物質中での、植物性タンパク質由来の粒子における炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いた測定により求めることができ、また、植物性タンパク質の炭素原子換算量を算出し、その値を二次電池用正極活物質中の炭素原子換算量に換算して求めることもできる。
【0020】
また、植物性タンパク質が炭化してなる、炭素、窒素及び硫黄を含有する粒子における窒素の含有量は、本発明の二次電池用正極活物質中に、好ましくは0.01質量%~5質量%であり、より好ましくは0.02質量%~3質量%であり、さらに好ましくは0.03質量%~2質量%である。
なお、二次電池用正極活物質中での、植物性タンパク質由来の粒子における窒素の含有量は、窒素分析装置を用いた測定により求めることができる。また、植物性タンパク質の窒素原子換算量を算出し、その値を二次電池用正極活物質中の窒素原子換算量に換算して求めることもできる。
【0021】
さらに、植物性タンパク質が炭化してなる、炭素、窒素及び硫黄を含有する粒子における硫黄の含有量は、本発明の二次電池用正極活物質中に、好ましくは0.01質量%~5質量%であり、より好ましくは0.02質量%~3質量%であり、さらに好ましくは0.03質量%~2質量%である。
なお、二次電池用正極活物質中での、植物性タンパク質由来の粒子における硫黄の含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いた測定により求めることができる。また、植物性タンパク質の硫黄原子換算量を算出し、その値を二次電池用正極活物質中の硫黄原子換算量に換算して求めることもできる。
【0022】
そして、本発明の二次電池用正極活物質に担持してなる、炭素、窒素及び硫黄を含有する粒子の担持量は、本発明の二次電池用正極活物質中に、好ましくは0.3質量%~20質量%であり、より好ましくは0.4質量%~15質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0023】
本発明の二次電池用正極活物質に担持してなる、植物性タンパク質由来の、炭素、窒素及び硫黄を含有する粒子は、植物性タンパク質の形状を保持した粒子状のまま、上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物粒子間の間隙を充填するように存在する。すなわち、本発明の二次電池用正極活物質は、植物性タンパク質由来の炭素が、窒素及び硫黄も介在するなか、正極活物質の粒子表面の一部に存在して、酸化物粒子が形成するパッキング構造の粒子間空隙を充填してなる。
本発明の二次電池用正極活物質は、このような特徴的な構造を有する炭素が、散在する窒素及び硫黄とともに、正極活物質のパッキング密度が増大する状態で酸化物粒子間の導電パスを形成しているため、優れた充放電特性が発現されると考えられる。
【0024】
本発明の二次電池用正極活物質は、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含むスラリー水Qにリン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して得られた複合体Qと、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Rとの水熱反応物である複合体Rと植物性タンパク質を含む、スラリー水Sを乾燥して得られた複合体Sの還元雰囲気下焼成物又は不活性雰囲気下焼成物である二次電池用正極活物質(H)、リチウム化合物又はナトリウム化合物と植物性タンパク質を含むスラリー水Tにリン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して得られた複合体Tと、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Uとの水熱反応物である複合体Uの還元雰囲気下焼成物又は不活性雰囲気下焼成物である二次電池用正極活物質(H')であるか、或いは上記酸化物と植物性タンパク質を含むスラリー水Vを乾燥して得られた複合体Vの、還元雰囲気下焼成物又は不活性雰囲気下焼成物である二次電池用正極活物質(H'')であるのが好ましい。
【0025】
本発明の二次電池用正極活物質が上記二次電池用正極活物質(H)である場合、二次電池用正極活物質(H)の製造方法は、具体的には、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含むスラリー水Qに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Qを得る工程(I)、
得られた複合体Q、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Rを水熱反応に付して、複合体Rを得る工程(II)、
得られた複合体R及び植物性タンパク質を含むスラリー水Sを乾燥して複合体Sを得る工程(III)、並びに
得られた複合体Sを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程(IV)
を備える。
【0026】
工程(I)は、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含むスラリー水Qに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Qを得る工程である。
【0027】
リチウム化合物又はナトリウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、NaOH)、炭酸化物、硫酸化物、酢酸化物が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。スラリー水Qにおけるリチウム化合物又はナトリウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは7質量部~45質量部である。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、スラリー水Qにおけるリチウム化合物又はナトリウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは10質量部~45質量部である。また、ケイ酸化合物を用いた場合、スラリー水Qにおけるリチウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5質量部~40質量部であり、より好ましくは7質量部~35質量部である。
【0028】
スラリー水Qにリン酸化合物又はケイ酸化合物を混合する前に、予めスラリー水Qを撹拌しておくのが好ましい。かかるスラリー水Qの撹拌時間は、好ましくは1分間~15分間であり、より好ましくは3分間~10分間である。また、スラリー水Xの温度は、好ましくは20℃~90℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
【0029】
リン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。かかる工程(I)では、スラリー水Qにリン酸を混合するにあたり、スラリー水Qを撹拌しながらリン酸を滴下するのが好ましい。スラリー水Qにリン酸を滴下して少量ずつ加えることで、スラリー水Q中において良好に反応が進行して、複合体Qがスラリー水Q中で均一に分散しつつ生成され、かかる複合体Qが不要に凝集するのをも効果的に抑制することができる。
【0030】
リン酸の上記スラリー水Qへの滴下速度は、好ましくは15mL/分~50mL/分であり、より好ましくは20mL/分~45mL/分であり、さらに好ましくは28mL/分~40mL/分である。また、リン酸を滴下しながらのスラリー水Qの撹拌時間は、好ましくは0.5時間~24時間であり、より好ましくは3時間~12時間である。さらに、リン酸を滴下しながらのスラリー水Qの撹拌速度は、好ましくは200rpm~700rpmであり、より好ましくは250rpm~600rpmであり、さらに好ましくは300rpm~500rpmである。
なお、スラリー水Qを撹拌する際、さらにスラリー水Qの沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20℃~60℃に冷却するのがより好ましい。
【0031】
ケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、非晶質シリカ、ナトリウム塩(例えばメタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、Na4SiO4・H2O)等が挙げられる。
【0032】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Qは、リン酸又はケイ酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.0モル~4.0モル含有するのが好ましく、2.0モル~3.1モル含有するのがより好ましく、このような量となるよう、上記リチウム化合物又はナトリウム化合物と、リン酸化合物又はケイ酸化合物を用いればよい。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、リン酸化合物を混合した後のスラリー水Qは、リン酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.7モル~3.3モル含有するのが好ましく、2.8モル~3.1モル含有するのがより好ましく、工程(I)においてケイ酸化合物を用いた場合、ケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Qは、ケイ酸1モルに対し、リチウムを2.0モル~4.0モル含有するのが好ましく、2.0モル~3.0モル含有するのがより好ましい。
【0033】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Qに対して窒素をパージすることにより、かかるスラリー水Q中での反応を完了させて、上記(A)~(C)で表される酸化物の前駆体である複合体Qをスラリーとして得る。窒素がパージされると、スラリー水Q中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる複合体Qを含有するスラリーの溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程で添加する金属塩の酸化を抑制することができる。かかる複合体Qを含有するスラリー中において、上記(A)~(C)で表される酸化物の前駆体は、微細な分散粒子として存在する。かかる複合体Qは、例えば上記式(A)で表される酸化物の場合、リン酸三リチウム(Li3PO4)として得られる。
【0034】
窒素をパージする際における圧力は、好ましくは0.1MPa~0.2MPaであり、より好ましくは0.1MPa~0.15MPaである。また、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Qの温度は、好ましくは20℃~80℃であり、より好ましくは20℃~60℃である。例えば上記式(A)で表される酸化物の場合、反応時間は、好ましくは5分間~60分間であり、より好ましくは15分間~45分間である。
また、窒素をパージする際、反応を良好に進行させる観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Qを撹拌するのが好ましい。このときの撹拌速度は、好ましくは200rpm~700rpmであり、より好ましくは250rpm~600rpmである。
【0035】
また、より効果的に複合体Xの分散粒子表面における酸化を抑制し、分散粒子の微細化を図る観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後のスラリー水Q中における溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とするのが好ましく、0.2mg/L以下とするのがより好ましい。
【0036】
工程(II)は、工程(I)で得られた複合体Q、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Rを水熱反応に付して、複合体Rを得る工程である。上記工程(I)により得られた複合体Qを、スラリーのまま、上記(A)~(C)で表される酸化物の前駆体として用い、これに少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を添加してスラリー水Rとして用いるのが好ましい。これにより、極めて微細な粒子であって正極活物質として非常に有用な二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0037】
金属塩は、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含み、さらにこれら鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属(M、N又はQ)塩を含んでいてもよい。鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。また、マンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
【0038】
金属塩として、鉄化合物及びマンガン化合物を用いる場合、その使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、リチウム化合物を用いた場合、好ましくは99:1~51:49であり、より好ましくは95:5~70:30であり、さらに好ましくは90:10~80:20であり、ナトリウム化合物を用いた場合、好ましくは100:0~51:49であり、より好ましくは100:0~60:40であり、さらに好ましくは100:0~70:30である。また、これら金属塩の合計添加量は、スラリー水R中に含有されるリン酸イオン又はケイ酸イオン1モルに対し、好ましくは0.99モル~1.01モルであり、より好ましくは0.995モル~1.005モルである。
【0039】
鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属(M、N又はQ)塩を用いてもよい。金属(M、N又はQ)塩におけるM、N及びQは、上記式(A)~(C)中のM、N及びQと同義であり、かかる金属塩として、硫酸塩、ハロゲン化合物、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩を用いるのがより好ましい。
これら金属(M、N又はQ)塩を用いる場合、鉄化合物、マンガン化合物、及び金属(M、N又はQ)塩の合計添加量は、上記工程(I)において得られた水溶液中のリン酸又はケイ酸1モルに対し、好ましくは0.99モル~1.01モルであり、より好ましくは0.995モル~1.005モルである。
【0040】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属塩の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水R中に含有されるリン酸又はケイ酸イオン1モルに対し、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。より具体的には、スラリー水R中に含有されるイオンがリン酸イオンの場合、水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、好ましくは10モル~30モルであり、より好ましくは12.5モル~25モルである。また、スラリー水R中に含有されるイオンがケイ酸イオンの場合、水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。
【0041】
工程(II)において、鉄化合物、マンガン化合物及び金属(M、N又はQ)塩の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属塩を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることにより上記式(A)~(C)で表される酸化物の生成が抑制されるのを防止する観点から、鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩の合計1モルに対し、好ましくは0.01モル~1モルであり、より好ましくは0.03モル~0.5モルである。
【0042】
鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩を添加し、必要に応じて酸化防止剤等を添加することにより得られるスラリー水R中における複合体Qの含有量は、好ましくは10質量%~50質量%であり、より好ましくは15質量%~45質量%であり、さらに好ましくは20質量%~40質量%である。
【0043】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1時間~48時間が好ましく、さらに0.2時間~24時間が好ましい。
得られた複合体Rは、上記式(A)~(C)で表される酸化物であり、ろ過後、水で洗浄することによりこれを単離できる。
【0044】
工程(III)は、工程(II)で得られた複合体R、植物性タンパク質を含むスラリー水Sを乾燥して複合体Sを得る工程である。上記工程(II)により得られた複合体Rを、スラリーのまま、上記(A)~(C)で表される酸化物として用い、これに植物性タンパク質を添加してスラリー水Sとして用いるのが好ましい。なお、ここで用い得る植物性タンパク質は、上記と同様である。
【0045】
スラリー水Sにおける植物性タンパク質の含有量は、その炭素原子換算量が、本発明の二次電池用正極活物質中に上記含有量となるような量であるのが望ましい。具体的には、スラリー水Sにおける植物性タンパク質の含有量は、例えば水100質量部に対し、植物性タンパク質の炭素原子換算量で、好ましくは0.5量部~35質量部であり、より好ましくは0.7質量部~30質量部であり、さらに好ましくは0.9質量部~20質量部である。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、スラリー水Sにおける植物性タンパク質の含有量は、水100質量部に対し、植物性タンパク質の炭素原子換算量で、好ましくは0.5量部~30質量部であり、より好ましくは0.7質量部~20質量部であり、さらに好ましくは0.9質量部~15質量部である。また、ケイ酸化合物を用いた場合、スラリー水Sにおける植物性タンパク質の含有量は、水100質量部に対し、植物性タンパク質の炭素原子換算量で、好ましくは0.9量部~35質量部であり、より好ましくは1.1質量部~30質量部であり、さらに好ましくは1.3質量部~20質量部である。
【0046】
スラリー水Sは、植物性タンパク質を充分に拡散させて、複合体Rと植物性タンパク質を均一に分散させる観点から、分散機(ホモジナイザー)を用いた処理を行うことにより、凝集している植物性タンパク質を解砕することが好ましい。かかる分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。なかでも、分散効率の観点から、超音波攪拌機が好ましい。スラリー水Sの分散均一性の程度は、例えば、UV・可視光分光装置を使用した光線透過率や、E型粘度計を使用した粘度で定量的に評価することもでき、また目視によって白濁度が均一であることを確認することで、簡便に評価することもできる。分散機で処理する時間は、好ましくは0.5分間~6分間であり、より好ましくは2分間~5分間である。このように処理されたスラリー水Sは、植物性タンパク質の良好な分散状態を数日間保持することができるので、予め調製し、保管しておくことも可能となる。
【0047】
上記スラリー水Sは、未だ凝集状態にある植物性タンパク質を有効に取り除く観点から、さらに、湿式分級することが好ましい。湿式分級には、篩や市販の湿式分級機を使用することができる。篩の目開きは、作業効率の観点から、140μm~160μmであるのが好ましい。
【0048】
次いで、得られたスラリー水Sを乾燥して、複合体Sを得る。スラリー水Sの乾燥法は、スラリー水S中の植物性タンパク質が熱変性などによる変質を生じない方法であれば特に限定されず、恒温乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が用いられる。乾燥して得られる複合体Sは、複合体Rの表面に粒子状の植物性タンパク質が付着した複合体である。
【0049】
工程(IV)は、工程(III)で得られた複合体Sを、還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程である。これにより、複合体Sに存在する植物性タンパク質を炭化させ、炭素のほか窒素及び硫黄を含有した粒子状のままで、上記式(A)~(C)で表される酸化物の粒子表面に堅固に担持してなる二次電池用正極活物質を得ることができる。焼成条件は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で、好ましくは400℃以上、より好ましくは400℃~800℃で、好ましくは10分間~3時間、より好ましくは0.5時間~1.5時間とするのがよい。
【0050】
本発明の二次電池用正極活物質が上記二次電池用正極活物質(H')である場合、二次電池用正極活物質(H')の製造方法は、具体的には、リチウム化合物又はナトリウム化合物と、植物性タンパク質を含むスラリー水Tに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Tを得る工程(I')、
得られた複合体T、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Uを水熱反応に付して、複合体Uを得る工程(II')、
得られた複合体Uを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程(III')
を備える。
【0051】
工程(I')は、リチウム化合物又はナトリウム化合物と、植物性タンパク質を含むスラリー水Tに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Tを得る工程である。工程(I')のスラリー水Tは、上記工程(I)でスラリー水Qを得た方法において、上記工程(III)のスラリー水Sに植物性タンパク質を添加した方法を組み合せることによって得ることができ、その後は上記工程(I)と同様にすればよい。
なお、ここで用い得る植物性タンパク質は、上記二次電池用正極活物質(H)の製造方法において用いるものと同様である。
【0052】
工程(II')は、工程(I')で得られた複合体T、及び少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Uを水熱反応に付して、複合体Uを得る工程である。この工程(II')は、上記工程(II)と同様にすればよい。
【0053】
工程(III')は、工程(II')で得られた複合体Uを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程である。この工程(III')は、上記工程(IV)と同様にすればよい。これにより、複合体Vに存在する植物性タンパク質を炭化させ、植物性タンパク質由来の粒子が上記式(A)~(C)で表される酸化物の粒子表面に堅固に担持されてなる二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0054】
本発明の二次電池用正極活物質が上記二次電池用正極活物質(H'')である場合、二次電池用正極活物質(H'')の製造方法は、具体的には、上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物と植物性タンパク質を含むスラリー水Vを得る工程(I'')、
得られたスラリー水Vを乾燥して、複合体Vを得る工程(II'')、並びに
得られた複合体Vを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程(III'')
を備える。
【0055】
工程(I'')は、上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物と、植物性タンパク質が、共に充分に分散してなるスラリー水Vを得る工程である。
上記酸化物は、上記二次電池用正極活物質(H)又は上記二次電池用正極活物質(H')の製造方法のように、合成反応に付して得られるものであり、かかる合成反応に付す方法としては、固相法(焼成法、溶融-アニール法)と湿式法(水熱法)に大別されるがいずれの方法であってもよく、さらに合成反応に付した後に粉砕又は分級してもよい。なかでも、粒径が小さく、かつ粒度が揃った酸化物が得られる観点から、水熱反応に付すことにより得られる酸化物であるのが好ましい。
なお、水熱反応に付して上記酸化物を得る方法は、具体的には、上記二次電池用正極活物質(H)又は上記二次電池用正極活物質(H')の製造方法において、植物性タンパク質を用いないこと以外、上記工程(I)~(II)を経ることにより複合体Rを得る方法、或いは上記工程(I')~(II')を経ることにより複合体Uを得る方法と同様である。
スラリー水Vにおける酸化物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは10質量部~400質量部であり、より好ましくは30質量部~210質量部である。
【0056】
スラリー水Vにおける植物性タンパク質の含有量は、その炭素原子換算量が、本発明の二次電池用正極活物質中に上記含有量となるような量であるのが望ましい。具体的には、スラリー水Vにおける植物性タンパク質の含有量は、例えば水100質量部に対し、植物性タンパク質の炭素原子換算量で、好ましくは0.5量部~35質量部であり、より好ましくは0.7質量部~30質量部である。
用い得る植物性タンパク質は、上記二次電池用正極活物質(H)又は(H')の製造方法と同様である。
【0057】
スラリー水Vは、植物性タンパク質を均一に分散させる観点から、分散機(ホモジナイザー)を用いた処理を行うことにより、凝集している植物性タンパク質を解砕することが好ましい。かかる分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。なかでも、分散効率の観点から、超音波攪拌機が好ましい。スラリー水Vの分散均一性の程度は、例えば、UV・可視光分光装置を使用した光線透過率や、E型粘度計を使用した粘度で定量的に評価することもでき、また目視によって白濁度が均一であることを確認することで、簡便に評価することもできる。分散機で処理する時間は、好ましくは0.5分間~6分間であり、より好ましくは2分間~5分間である。このように処理されたスラリー水Vは、酸化物及び植物性タンパク質の良好な分散状態を数日間保持することができるので、予め調製し、保管しておくことも可能となる。
【0058】
上記スラリー水Vは、未だ凝集状態にある植物性タンパク質を有効に取り除く観点から、さらに、湿式分級することが好ましい。湿式分級には、篩や市販の湿式分級機を使用することができる。篩の目開きは、作業効率の観点から、150μm前後であるのが好ましい。
【0059】
工程(II'')は、工程(I'')で得られたスラリー水Vを乾燥に付して、複合体Vを得る工程である。スラリー水Vの乾燥法は、スラリー水V中の植物性タンパク質が熱変性などによる変質を生じない方法であれば特に限定されず、恒温乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が用いられ、噴霧乾燥であるのが好ましい。乾燥して得られる複合体Vは、酸化物の表面に粒子状の植物性タンパク質が付着した複合体である。
【0060】
工程(III'')は、工程(II'')で得られた複合体Vを還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成する工程である。これにより、複合体Vに存在する植物性タンパク質を炭化させ、炭素のほか窒素及び硫黄を含有した粒子状のまま、炭素を式(A)~(C)で表される酸化物に堅固に担持させてなる二次電池用正極活物質を得ることができる。焼成条件は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で、好ましくは400℃以上、より好ましくは400℃~800℃で、好ましくは10分間~3時間、より好ましくは0.5時間~1.5時間とするのがよい。
【0061】
本発明の二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極を適用できる、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池である二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0062】
ここで、負極については、リチウムイオン又はナトリウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、ナトリウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムイオン又はナトリウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、二種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0063】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池の電解液として用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0064】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、リチウムイオン二次電池の場合、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。また、ナトリウムイオン二次電池の場合、NaPF6、NaBF4、NaClO4及びNaAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、NaSO3CF3、NaC(SO3CF3)2及びNaN(SO3CF3)2、NaN(SO2C2F5)2及びNaN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0065】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0066】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性又は高いナトリウムイオン電導性を示すものである。たとえば、リチウムイオン二次電池の場合、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4を、ナトリウムイオン二次電池の場合、Na0.51Li0.34TiO2.94、Na1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Na7La3Zr2O12、50Na4SiO4・50Na3BO3、Na2.9PO3.3N0.46、Na3.6Si0.6P0.4O4、Na1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Na1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Na10GeP2S12、Na3.25Ge0.25P0.75S4、30Na2S・26B2S3・44NaI、63Na2S・36SiS2・1Na3PO4、57Na2S・38SiS2・5Na4SiO4、70Na2S・30P2S5、50Na2S・50GeS2、Na7P3S11、Na3.25P0.95S4を用いればよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、植物性タンパク質由来の粒子の炭素含有量(植物性タンパク質が炭化されてなる炭素量)は、炭素・硫黄分析装置(EMIA-220V2、株式会社堀場製作所製)を使用した非分散赤外吸収法によって定量した。
【0068】
[合成例1:酸化物Aの合成]
[試験体1]
Li2CO3 7.39g、Mn(CH3COO)2・4H2O 19.61g、Fe (CH3COO)2 3.48g、NH4H2PO4 11.50g、及びエタノール50gを混合した後、遊星型ボールミルを用いて、400rpmで6時間混合粉砕を行った。次いで、得られたスラリー水を、80℃で3時間温風乾燥して、複合体を得た。得られた複合体を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で6時間焼成して、酸化物a(LiFe0.2Mn0.8PO4、平均粒径2μm)を得た。
【0069】
[合成例2:セルロースナノクリスタルの合成]
[試験体2]
セルロースナノファイバー 500g(セリッシュFD-200L、ダイセルファインケム株式会社製)を、49%硫酸5000gに投入した後、当該硫酸スラリーを6時間攪拌した。攪拌後の硫酸スラリーを10倍希釈し、ろ過した後、水による洗浄を行い、含水率80質量%のセルロースナノクリスタル(CNC)を得た。
【0070】
[実施例1]
LiOH・H2O 12.72g、水 90gを混合してスラリー水a1を得た。次いで、得られたスラリー水a1を、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液 11.53gを35mL/分で滴下し、続いて12時間、400rpmの速度で撹拌することにより、複合体b1を含有するスラリー水c1を得た。かかるスラリー水c1は、リン1モルに対し、2.97モルのリチウムを含有していた。
【0071】
次に、得られたスラリー水c1に対し、FeSO4・7H2O 5.56g及びMnSO4・5H2O 19.29gを添加して、スラリー水d1を得た。
次いで、得られたスラリー水d1をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄してケーキe1を得た。
【0072】
洗浄して得られたケーキe1に、植物性タンパク質(ボディウイング株式会社製、純度89%)0.8g及び水 30gを混合した後、超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間撹拌して、スラリー水f1を得た。
次いで、得られたスラリー水f1を、-50℃で12時間凍結乾燥して、複合体g1を得た。
【0073】
得られた複合体g1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質A(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素の含有量=1.8質量%)を得た。
得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質AのTEM像を
図1に、STEM像及び元素分布を
図2に示す。
【0074】
[実施例2]
LiOH・H2O 4.28g、Na4SiO4・nH2O 13.97gに水 40gを加えて混合してスラリー水a2を得た後、スラリー水a2に、FeSO4・7H2O 3.92g、MnSO4・5H2O 7.93g、及びZr(SO4)2・4H2O 0.53gを添加、混合してスラリー水b2を得た。
次いで、スラリー水b2をオートクレーブに投入し、150℃で3時間水熱反応を行った。オートクレーブの圧力は0.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄してケーキc2を得た。
得られたケーキc2に、植物性タンパク質(同上)1.13g及び水 30gを超音波攪拌機(同上)を用いて1分間撹拌して、スラリー水d2を得た。次に、スラリー水d2を、-50℃で12時間凍結乾燥して、複合体e2を得た。
得られた複合体e2を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、650℃で1時間焼成して、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質B(Li2Fe0.09Mn0.85Zr0.03SiO4、炭素の含有量=5.0質量%)を得た。
【0075】
[実施例3]
上記酸化物a(LiFe0.2Mn0.8PO4)15.7g、植物性タンパク質(同上)0.8g及び水 30gを超音波攪拌機(同上)で1分間撹拌して、全体が均一な白濁度を有するスラリー水a3を得た。
得られたスラリー水a3を、-50℃で12時間凍結乾燥して、複合体b3を得た。得られた複合体b3を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質C(LiFe0.2Mn0.8PO4、炭素の含有量=1.8質量%)を得た。
【0076】
[実施例4]
NaOH 6.00g及び水 90gを混合してスラリー水a4を得た。次いで、得られたスラリー水a4を、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液 5.77gを35mL/分で滴下し、続いて12時間、400rpmの速度で撹拌することにより、複合体b4を含有するスラリー水c4を得た。かかるスラリー水c4は、リン1モルに対し、3.00モルのナトリウムを含有していた。
次に、得られたスラリー水c4に対し、窒素ガスをパージして溶存酸素濃度を0.5mg/Lに調整した後、FeSO4・7H2O 1.39g、MnSO4・5H2O 9.64g、MgSO4・7H2O 1.24gを添加して、スラリー水d4を得た。
次いで、得られたスラリー水d4を窒素ガスでパージしたオートクレーブに投入し、200℃で3時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、1.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄してケーキe4を得た。得られたケーキe4に、植物性タンパク質(同上)0.4g及び水 30gを超音波攪拌機(同上)で1分間撹拌して、スラリー水f4を得た。
次いで、得られたスラリー水f4を、-50℃で12時間凍結乾燥して、複合体g4を得た。得られた複合体g4を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなるナトリウムイオン二次電池用正極活物質D(NaFe0.1Mn0.8Mg0.1PO4、炭素の含有量=1.7質量%)を得た。
【0077】
[比較例1]
植物性タンパク質 0.8gの代わりに上記セルロースナノクリスタル 0.72gを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノクリスタル由来の炭素が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質E(LiFe0.2Mn0.8PO4、炭素の含有量=1.8質量%)を得た。
【0078】
[比較例2]
植物性タンパク質 1.13gの代わりに上記セルロースナノクリスタル 1.02gを用いた以外、実施例2と同様にしてセルロースナノファイバー由来の炭素が担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質F(Li2Fe0.09Mn0.85Zr0.03SiO4、炭素の含有量=5.0質量%)を得た。
【0079】
[比較例3]
植物性タンパク質 0.4gの代わりに上記セルロースナノクリスタル 0.36gを用いた以外、実施例4と同様にしてセルロースナノファイバー由来の炭素が担持してなるナトリウムイオン二次電池用正極活物質G(NaFe0.1Mn0.8Mg0.1PO4、炭素の含有量=1.7質量%)を得た。
【0080】
《窒素、硫黄量の評価》
実施例1~4及び比較例1~3で得られた正極活物質を用い、各正極活物質中における窒素の含有量は、酸素・窒素分析装置(堀場製作所社製EMGA-920)、硫黄の含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所社製EMIA-220V2)を用いて測定した。
得られた分析結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
《充放電特性の評価》
実施例1~4及び比較例1~3で得られた正極活物質を用い、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた正極活物質、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを重量比75:15:10の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記の正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6(リチウムイオン二次電池の場合)もしくはNaPF6(ナトリウムイオン二次電池の場合)を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を製造した。
【0083】
製造した二次電池を用いて、以下の条件で定電流密度での充放電試験を行った。なお、環境温度は全て30℃とした。
LiFe0.2Mn0.8PO4を用いたリチウムイオン電池は、充電条件を電流0.5CA(85mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を0.5CA(85mA/g)、終止電圧2.0Vの定電流放電として、0.5CAにおける放電容量を求めた。
Li2Fe0.09Mn0.85Zr0.03SiO4を用いたリチウムイオン電池では、充電条件を電流0.5CA(165mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を0.5CA(165mA/g)、終止電圧1.5Vの定電流放電として、0.5CAにおける放電容量を求めた。
NaFe0.1Mn0.8Mg0.1PO4を用いたナトリウムイオン電池では、充電条件を電流0.5CA(77mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を0.5CA(77mA/g)、終止電圧2.0Vの定電流放電として、0.5CAにおける放電容量を求めた。
さらに、上記充放電条件での20サイクル繰り返し試験を行い、下記式(X)により容量保持率(%)を求めた。
容量保持率(%)=(20サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)
×100 ・・・(X)
得られた放電容量の結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
上記結果より、植物性タンパク質由来の粒子が担持してなる正極活物質である実施例1~4は、優れたレート特性及びサイクル特性を発揮できることがわかる。