(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面の抗腐食前処理のための改善された方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/48 20060101AFI20221219BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C23C22/48
C23C28/00 C
C23C28/00 Z
(21)【出願番号】P 2018567669
(86)(22)【出願日】2017-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2017065186
(87)【国際公開番号】W WO2017220632
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-19
(31)【優先権主張番号】102016211152.3
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ビルケンホイアー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヘッカー,カリナ
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー,オリファー
(72)【発明者】
【氏名】シャッツ,ダニエル
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015225185(DE,A1)
【文献】特開2010-150588(JP,A)
【文献】特表2016-501986(JP,A)
【文献】特表2016-505707(JP,A)
【文献】特表2001-526324(JP,A)
【文献】特開2001-192852(JP,A)
【文献】米国特許第05282905(US,A)
【文献】米国特許第05641542(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101018888(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1950543(CN,A)
【文献】特表2014-522915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C23C 28/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面を抗腐食前処理するための方法であって、金属表面を、
a)交互構成において、i)少なくとも1個のカルボン酸基、ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を含むモノマー単位と、ii)酸基を含まないモノマー単位とを含む、少なくとも1種のコポリマーを0.01から0.5g/l(固体添加として算出)
含む水性組成物Aと接触させ、
金属表面を、
b1)チタン、ジルコニウム、およびハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物
を含む酸性水性組成物Bと接触させ、
ここで、金属表面を、
最初に組成物A、次いで組成物B
と接触させる、方法。
【請求項2】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)において、少なくとも1個のカルボン酸基、ホスホン酸基、および/またはスルホン酸基を含むモノマー単位i)、ならびに酸基を含まないモノマー単位ii)が、アルキレン、スチレン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、ビニルエーテル、エチレンイミン、(メタ)アクリル酸エステル、および/または(メタ)アクリルアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物A中のa)において、モノマー単位i)が、2個のカルボン酸基を有し、モノマー単位ii)が、ビニルエーテルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)が、交互構成の2種のモノマー単位に基づいて、25から5,700の範囲の重合度を有し、および/または5,000から1,000,000g/molの範囲の数平均分子量を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物BのpHが2から5.5の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組成物Bが、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン、およびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物b2)を追加的に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
組成物B中、b2)の濃度が1から200mg/l(ケイ素として算出)の範囲であり、b1)の濃度が0.05から4g/l(ヘキサフルオロジルコン酸として算出)の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組成物B中のb2)が、それぞれの場合、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位当たり少なくとも1個のアミノ基、尿素基、イミド基、イミノ基、および/またはウレイド基を有する、少なくとも1種のオルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン、および/またはポリオルガノシロキサンである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
組成物B中のb1)が、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの複合フッ化物からなる群から選択される少なくとも1種の複合フッ化物を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組成物B中の遊離フッ化物の含有量が、0.015から0.15g/lの範囲である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法
。
【請求項11】
組成物Bが、b3)少なくとも1種のカチオンを追加的に含み、前記カチオンが、ランタニド、クロム、鉄、カルシウム、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタル、イットリウム、バナジウム、リチウム、ビスマス、亜鉛
、スズ
、およびセリウムのカチオンからなる群から選択される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組成物Bが、b3)として、亜鉛カチオン、銅カチオンおよび/もしくはセリウムカチオ
ンを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
組成物Bが、b3)として、0.1から5g/lの亜鉛カチオン、5から50mg/lの銅カチオン、および/もしくは5から50mg/lのセリウムカチオ
ンを含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
金属表面が鋼および/または亜鉛メッキ鋼を含む、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
鉄道車両のための、航空宇宙産業
のための、装置建設
のための、機械工学
のための、建築業
のための、家具産業
のための、
ガードレール、ランプ、外装材の生産のための、
車体又は車体部品の生産のための、
自動車産業または航空業界
のための、
請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法により被覆された金属基板を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面の抗腐食前処理のための改善された方法に関する。さらには、このような金属表面の抗腐食前処理を改善するための組成物、この組成物を生成するための濃縮物、それに応じて被覆される金属表面、およびそれに応じて被覆される金属基板を使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノアルコキシシラン、その加水分解および/または縮合生成物、ならびにさらなる成分を含む水性組成物による金属表面の被覆は知られている。
【0003】
表面被覆のようなさらなる層の粘着性において特定の改善ができるので、処理した金属基板の腐食防止は、形成された被覆によって達成することができる。
【0004】
前述の組成物への特定の耐酸性ポリマーの添加もまた、先行技術において開示されている。形成される層の特性はこの方法で改善することができる。
【0005】
しかしながら、腐食層間剥離に関する問題は、言及されるポリマーを使用する方法によってこれまで満足する解決がなされておらず、特に鋼または亜鉛メッキ鋼を含む表面の場合において、いまだに発生している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術の欠点を克服し、鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面の抗腐食前処理のための改善された方法を提供することが本発明の目的であり、その方法によって、鋼製基板の腐食防止を、特に、同時に優れた粘着性で改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本目的は、請求項1に記載の方法、請求項18に記載の水性組成物、請求項19に記載の濃縮物、請求項20に記載の金属表面、および請求項21に記載の金属基板を使用する方法によって達成される。
【0008】
鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面を抗腐食前処理するための本発明の方法において、金属表面を、
a)交互構成において、i)少なくとも1個のカルボン酸基、ホスホン酸基および/またはスルホン酸基を含むモノマー単位と、ii)酸基を含まないモノマー単位とを含む、少なくとも1種のコポリマーを0.01から0.5g/l(固体添加として算出)
含む水性組成物Aと接触させ、
b1)チタン、ジルコニウム、およびハフニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物
を含む酸性水性組成物Bと接触させ、
ここで、金属表面を、
i)最初に組成物A、次いで組成物B、
ii)最初に組成物B、次いで組成物A、ならびに/または
iii)同時に組成物Aおよび組成物B
と接触させる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本発明の目的では、「水性組成物」は、溶媒/分散媒体として水を含むだけではなく、溶媒/分散媒体の総量に対して、50質量%未満の他の有機溶媒/分散媒体を含む、組成物を含む。
【0010】
本発明の目的では、「ヘキサフルオロジルコン酸として算出」とは、組成物B中の成分b1)のすべての分子がヘキサフルオロジルコン酸分子、すなわちH2ZrF6であるという架空の状況を示す。
【0011】
「複合フッ化物」は脱プロトン化した形状だけでなく、それぞれモノプロトン化した、または多プロトン化した形態を包含する。
【0012】
「金属表面を、
i)最初に組成物A、次いで組成物B、
ii)最初に組成物B、次いで組成物A、ならびに/または
iii)同時に組成物Aおよび組成物B
と接触させる」という表現は、以下の実施形態もまた包含されるという意味として解釈されるべきである。
【0013】
金属表面を、第1の組成物A、組成物Bおよび第2の組成物Aと連続して接触させ、ここで、第1および第2の組成物Aは化学的に同一であってもよい。
【0014】
「金属表面を(・・・)iii)同時に組成物Aおよび組成物Bと接触させる」という表現は、金属表面を、成分a)、b1)および任意にb2)すべてを含む酸性水性組成物である単一組成物とも接触させることができるという意味として解釈されるべきである。
【0015】
金属表面は、好ましくは鋼または亜鉛メッキ鋼、特に好ましくは亜鉛メッキ鋼および特に非常に好ましくは溶融亜鉛メッキ鋼を含む。特にこれらの材料の場合には、腐食層間剥離に関する問題がこれまでに起こっているが、これらは本発明によって満足のいく解決がなされた。
【0016】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)は、少なくともpH6以下のサブレンジにおいて好ましくは安定である。このことは、金属表面を、上述したように、成分a)、b1)および任意にb2)すべてを含む酸性水性組成物である単一組成物と接触させることになっている場合に必要である。
【0017】
本発明に記載の少なくとも1種のコポリマーa)の追加により、形成される被覆の特性、特に腐食防止を著しく改善することが可能になる。
【0018】
金属表面を酸性水性組成物Bで処理する間、表面の酸洗および、その結果、表面方向へのpH上昇でpH勾配の形成が起こる。
【0019】
本発明に記載の使用されるコポリマーは、表面の高いpHで少なくとも部分的に解離する酸基を含む。これがコポリマーに負の電荷を導き、順に、金属表面および/または成分b1)からの金属酸化物、および任意に成分b2)および任意に成分b3)へ、コポリマーの静電付着を導く。付着したコポリマーは、腐食性塩の金属表面への拡散または移動に対する、堆積層のバリア作用を増加させる。これによって、形成される層の特性は改善される。
【0020】
組成物A中の少なくともコポリマーa)のモノマー単位i)は、少なくとも1個のカルボン酸基、ホスホン酸基、および/またはスルホン酸基を含むが、例えば、(メタ)アクリル酸、ビニル酢酸、イタコン酸、マレイン酸、ビニルホスホン酸、および/またはビニルスルホン酸である。
【0021】
これらのモノマー単位は、好ましくはそれぞれが少なくとも1個のカルボン酸基を有する。さらに好ましくはそれぞれが少なくとも2個のカルボン酸基を有する。特に好ましくは、正確に2個のカルボン酸基を有する。本明細書では特に非常に好ましくはマレイン酸である。
【0022】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)が、モノマー単位としてマレイン酸を含む場合、これは、部分的に無水物の形で存在してもよい。これは、組成物A、またはこの組成物を生成するための濃縮物へ添加されたコポリマーがマレイン酸を含み、組成物A中または濃縮物中で、マレイン酸への完全加水分解がまだ行われていない場合である。
【0023】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)のモノマー単位ii)は、酸基を含まないが、無極性または極性のどちらであってもよい。しかし、少なくとも1種のコポリマーa)は、酸基を含まないモノマー単位として、無極性および極性モノマー単位の混合物を含んでもよい。
【0024】
可能な無極性モノマー単位は、特にアルキレン、例えばエチレン、プロピレンおよび/またはブチレン、および/またはスチレンである。
【0025】
可能な極性モノマー単位は、特にビニルアルコールおよび/もしくは酢酸ビニルおよび/もしくはビニルエーテル、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、および/もしくはブチルビニルエーテル、ならびに/またはアルキレンオキシド、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、および/もしくはブチレンオキシド、および/もしくはエチレンイミン、および/もしくは(メタ)アクリルエステル、および/もしくは(メタ)アクリルアミドである。
【0026】
酸基を含まないモノマー単位ii)中の炭化水素鎖の長さは、得られるこれらのモノマーの疎水性によって、したがって、得られるコポリマーの水溶性によって単に制限されているにすぎない。
【0027】
酸基を含まないモノマー単位ii)は、好ましくはビニルエーテルである。本明細書でさらに好ましくは、メチルビニルエーテル、および/またはエチルビニルエーテル、特に好ましくはメチルビニルエーテルである。
【0028】
好ましい実施形態では、組成物Aは、コポリマーa)としてポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を含む。
【0029】
組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)は、交互構成の2種のモノマー単位に基づいて、好ましくは25から5,700、さらに好ましくは85から1,750、特に好ましくは170から1,300、および特に非常に好ましくは225から525の重合度を有する。この数平均分子量は、好ましくは5,000から1,000,000g/mol、さらに好ましくは15,000から300,000g/mol、特に好ましくは30,000から225,000g/molおよび特に非常に好ましくは40,000から90,000g/molである。
【0030】
特に非常に好ましい実施形態では、組成物Aは、少なくとも1種のコポリマーa)として、40,000から60,000g/molの範囲、好ましくは、約48,000g/molの数平均分子量を有するポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を含む。
【0031】
さらに特に非常に好ましい実施形態では、組成物Aは、少なくとも1種のコポリマーa)として、70,000から90,000g/molの範囲、好ましくは、約80,000g/molの数平均分子量を有するポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を含む。
【0032】
これらの交互コポリマーは、例えば、Ashland(Gantrez 119AN)またはSigma-Aldrichから入手できる。
【0033】
好ましい実施形態では、金属表面を、i)最初に組成物A、次いで組成物Bと接触させ、組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)の濃度は、0.01から0.5g/l、好ましくは0.05から0.3g/l(固体添加として算出)の範囲である。
【0034】
さらに好ましい実施形態では、金属表面を、iii)同時に組成物Aおよび組成物Bと接触させ、組成物A中の少なくとも1種のコポリマーa)の濃度は、10から500mg/l、好ましくは20から200mg/l、さらに好ましくは20から150mg/l、さらに好ましくは30から100mg/l、および特に非常に好ましくは40から60mg/l(固体添加として算出)の範囲である。
【0035】
組成物Bは、好ましくは0.5から5.5、さらに好ましくは2から5.5、特に好ましくは3.5から5.3、および特に非常に好ましくは4.0から5.0の範囲のpHを有する。このpHは好ましくは、硝酸、炭酸アンモニウムおよび/または炭酸ナトリウムによって設定される。
【0036】
組成物Bは好ましくは、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン、およびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される、少なくとも1つの化合物b2)を追加的に含む。
【0037】
組成物B中の成分b2)の少なくとも1種の化合物に関して、接頭辞「オルガノ」は、炭素原子を介してケイ素原子に直接結合しており、したがって、後者から加水分解により分割できない少なくとも1個の有機基を意味する。
【0038】
本発明の目的では、「ポリオルガノシロキサン」は少なくとも2種のオルガノシラノールから縮合させることができ、ポリジメチルシロキサンを形成しない化合物である。
【0039】
組成物Bにおいて、b2)の濃度は、好ましくは1から200mg/l、さらに好ましくは5から100mg/l、特に好ましくは20から50mg/l、特に非常に好ましくは25から45mg/l(ケイ素として算出)の範囲である。
【0040】
組成物Bにおいて、b1)の濃度は、好ましくは0.05から4g/l、さらに好ましくは0.1から1.5g/l、さらに好ましくは0.15から0.57g/l、特に好ましくは0.20から0.40g/l、特に非常に好ましくは約0.25g/l(ヘキサフルオロジルコン酸として算出)の範囲である。
【0041】
成分b1)、b2)、およびb3)の含有量(下記参照)は、金属表面の処理中に、ICP-OES(誘導結合プラズマによる光学的放出分光測定法)によって、または光度分析的に近似するものとして監視できるので、個々の成分または複数の成分のさらなる量の導入が必要であれば実施できる。
【0042】
組成物Bは好ましくは、成分b2)として、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位あたり少なくとも1個のアミノ基、尿素基、イミド基、イミノ基、および/またはウレイド基を有する、少なくとも1種のオルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン、および/またはポリオルガノシロキサンを含む。さらに好ましくは、成分b2)は、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位あたり少なくとも1個の、特に1個または2個のアミノ基を有する、少なくとも1種のオルガノアルコキシシラン、オルガノシラノール、ポリオルガノシラノール、オルガノシロキサン、および/またはポリオルガノシロキサンである。
【0043】
特に好ましくは、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位として、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、またはビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、またはこれらの組合せである。特に非常に好ましくは、オルガノアルコキシシラン/オルガノシラノール単位として、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、またはビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、またはこれら2個の組合せである。
【0044】
組成物Bは好ましくは、成分b1)として、チタン、ジルコニウム、およびハフニウムの複合フッ化物からなる群から選択される、少なくとも1種の複合フッ化物を含む。
【0045】
本明細書においてさらに好ましくは、ジルコニウム複合フッ化物である。本明細書で、ジルコニウムは硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、または硝酸ジルコニウムとして、好ましくは硝酸ジルコニルとしても添加できる。これは同様にチタンおよびハフニウムの場合にも適応する。
【0046】
少なくとも1種の複合フッ化物の含有量は、好ましくは0.05から4g/l、さらに好ましくは0.1から1.5g/l、特に好ましくは約0.25g/lの範囲である。(ヘキサフルオロジルコン酸として算出)
【0047】
好ましい実施形態では、組成物Bは、成分b1)として、少なくとも2個の異なる複合フッ化物、特に2個の異なる金属カチオンの複合フッ化物、および特に好ましくはチタン、ジルコニウムの複合フッ化物を含む。
【0048】
組成物Bは加えて好ましくは成分b3)を含み、これは、ランタニドを含む遷移群1から3および5から8の金属およびまた元素周期表の主要群2の金属、およびまたリチウム、ビスマスおよびスズのカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオン、ならびに/または少なくとも1種の対応する化合物である。
【0049】
成分b3)は好ましくは、セリウムおよび、さらにはランタニド、クロム、鉄、カルシウム、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタル、イットリウム、バナジウム、リチウム、ビスマス、亜鉛およびスズのカチオンからなる群から選択される少なくも1種のカチオンならびに/または少なくとも1種の対応する化合物である。
【0050】
組成物Bはさらに好ましくは成分b3)として、亜鉛カチオン、銅カチオン、および/もしくはセリウムカチオン、ならびに/または少なくとも1種のモリブデン化合物を含む。
【0051】
組成物Bは特に好ましくは成分b3)として、亜鉛カチオン、特に非常に好ましくは、亜鉛カチオンおよび銅カチオンを含む。
【0052】
組成物B中の濃度は好ましくは以下の通りである、
- 亜鉛カチオン:0.1から5g/l
- 銅カチオン:5から50mg/l
- セリウムカチオン:5から50mg/l
- モリブデン化合物:10から100mg/l(モリブデンとして算出)
【0053】
組成物Bは、特定の要件と状況により、任意にさらなる成分b4)を含む。これはpH、有機溶剤、水溶性フッ素成分およびコロイドに影響する物質からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0054】
組成物Bは本明細書で、好ましくは0.1から20g/lの範囲の成分b4)の含有量を有する。
【0055】
pHに影響する物質は好ましくは、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、フッ化水素酸、アルモニウム/アンモニア、炭酸ナトリウム、および水酸化ナトリウムからなる群から選択される。本明細書においてさらに好ましくは、硝酸塩、アンモニウムおよび/または炭酸ナトリウムである。
【0056】
有機溶剤は好ましくは、メタノールおよびエタノールからなる群から選択される。実際には、メタノールおよび/またはエタノールは処理槽内でオルガノアルコキシシラン加水分解の反応生成物として存在する。
【0057】
水溶性フッ素化合物は好ましくは、フッ化物含有化合物およびフッ化物アニオンからなる群から選択される。
【0058】
組成物B中の遊離フッ化物の含有量は、好ましくは0.015から0.15g/l、さらに好ましくは0.025から0.1g/l、および特に好ましくは0.03から0.05g/lの範囲である。
【0059】
コロイドは、好ましくは金属酸化物粒子、さらに好ましくはZnO、SiO2、CeO2、ZrO2、およびTiO2からなる群から選択される金属酸化物粒子である。
【0060】
組成物Bは好ましくは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオン、ならびに対応する化合物を追加的に含む。それは好ましくはナトリウムイオン、および/またはアンモニウムイオンを含む。
【0061】
組成物Bはまた、リン酸塩および/またはホスホン酸塩のようなリン含有および酸素含有化合物を含む。加えて、硝酸塩も含むことができる。
【0062】
しかし、硫黄含有化合物、特に硫酸塩の含有量は、好ましくはできるだけ小さく保たれるべきである。硫黄含有化合物の含有量は特に好ましくは硫黄として算出して100mg/l以下である。
【0063】
処理される金属表面は、任意に予め清掃および/または酸洗されているが、どちらの場合にも組成物Aおよび/もしくは組成物Bを噴霧しても、この中に漬けるまたは浮かせてもよい。処理される金属表面に、ワイピング、ブラッシングまたは、ロールもしくはローラー(コイル被覆方法)によってそれぞれの組成物を手動で塗布することもできる。加えて、処理される金属表面のそれぞれの組成物の電解蒸着もできる。
【0064】
パーツの処理における処理時間は、好ましくは15秒から20分、さらに好ましくは30秒から10分、および特に好ましくは45秒から5分の範囲である。処理温度は、好ましくは5から50℃、さらに好ましくは15から40℃、および特に好ましくは25から35℃の範囲である。
【0065】
本発明の方法は、ストリップ(コイル)の被覆にも適している。この場合の処理時間は、好ましくは2、3秒から数分の範囲、例えば1から1000秒の範囲である。
【0066】
本発明の方法は、様々な被覆される金属材料の同じ槽中での混合(マルチメタル機能として周知)を可能にする。
【0067】
処理される金属表面は、好ましくは鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含み、さらに好ましくは鋼、および/または亜鉛メッキ鋼、特に好ましくは鋼を含む。
【0068】
鋼を含む金属表面の場合には、特に、陰極電気泳動被覆(CEC)の後の非常に改善された腐食防止が、本発明の方法によって被覆された後に観察された。
【0069】
本発明は、上述の、鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含む金属表面の抗腐食前処理を改善するための水性組成物Aもまた提供する。
【0070】
加えて、本発明は、水による希釈および任意にpHを設定することによって、本発明に記載の組成物Aが生成できる濃縮物も提供する。
【0071】
本発明の組成物Aを含む処理槽は、濃縮物を、水および/または水溶液で、好ましくは1:5,000から1:10、さらに好ましくは1:1,000から1:10、特に好ましくは1:300から1:10および特に好ましくは約1:100の倍率で希釈することによって得ることがでる。
【0072】
加えて、本発明は、鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、マグネシウム、および/または亜鉛-マグネシウム合金を含み、本発明の方法で被覆された金属表面を提供し、形成される被覆はXRF(X線蛍光分析)によって
i) 成分b1)のみに対して、5から500mg/m2、好ましくは10から200および特に好ましくは30から120mg/m2(ジルコニウムとして算出)、および任意に
ii) 成分b2)のみに対して、0.5から50mg/m2、好ましくは1から30および特に好ましくは2から10mg/m2(ケイ素として算出)
と測定された層質量を有する。
【0073】
本発明の方法によって生成される被覆は、腐食防止だけではなく、さらなる被覆の接着剤としても作用する。
【0074】
したがって、これらはさらに少なくとも1種のプライマー、表面被覆、接着剤および/または被覆のような有機組成物で簡単に被覆することができる。本明細書で、少なくとも1種のこれらのさらなる被覆は好ましくは加熱および/または照射によって硬化することができる。
【0075】
本発明の方法により生成された被覆は、金属表面から過剰なポリマーおよび妨害するイオンを除去するために、さらなる処理を行う前にすすぐのが好ましい。最初のさらなる被覆はウエットインウエット方法で塗布することができる。
【0076】
表面被覆として、好ましくは、エポキシドおよび/または(メタ)アクリレートに対する、陰極電気泳動被覆(CEC)の塗布である。
【0077】
最後に、本発明は、自動車産業、鉄道車両、航空宇宙産業、装置建設、機械工学、建築業、家具産業、ガードレール、ランプ、プロファイル、外装材または小さな部品の生産、車体や車体部品、個々のコンポーネント、プレインストールされたまたは接続された要素の生産において、好ましくは、自動車産業または航空業界、装置やプラントの生産、特に、国産家電、制御装置、試験装置または建築要素において、本発明の方法により被覆された金属基板を使用する方法も提供する。
【0078】
好ましくは、自動車産業における車体や車体部品、個々のコンポーネントおよびプレインストールされたまたは接続された要素の生産のための、被覆された金属基板を使用する方法である。
【0079】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは制限を与えるものとして解釈されるものではない。
【実施例】
【0080】
i)基板と前処理
基板:
溶融亜鉛メッキ鋼(HDG)でできているシート(10.5×19cm)を基板として使用した。
【0081】
クリーニング:
すべての実施例において、Gardoclean(登録商標)S5176(Chemetallより;リン酸塩、ホウ酸塩、および界面活性剤を含む)を弱アルカリ性浸漬クリーナーとして使用した。この目的で、50lの槽内で15g/lとし、60℃まで加熱し、基板は10.0から11.0の範囲のpHで3分間スプレーすることによってきれいにした。続いて、基板を水道水および脱イオン水ですすいだ。
【0082】
予備洗浄(本発明による):
予備洗浄は、本発明に従って、200mg/l(固体添加として算出)のポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)(Mn=80,000;Sigma-Aldrichより)を任意に添加した脱イオン水を使用して行った。(表1「Polym.」参照)
【0083】
基板の予備洗浄は20℃で120秒、中程度の撹拌で行った。
【0084】
変換槽(本発明による):
変換槽として、Oxsilan(登録商標)添加物9936(Chemetallより;フッ化物およびジルコニウム化合物を含む)および任意にOxsilan(登録商標)AL0510(Chemetallより;2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランおよびビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンを含む、表1「シラン」参照)を、100mg/lのジルコニウム濃度および30mg/lのシラン濃度(Siとして算出)になるような量で、50lのバッチに添加した。槽の温度は30℃に設定した。希炭酸水素ナトリウム溶液および希フッ化水素酸(5%の強さ)を添加することによって、pHおよび遊離フッ化物含有量をそれぞれ、pH=4.8または30から40mg/lに設定した。
【0085】
希硝酸を連続的に添加することによって、pHを調整した。
【0086】
本発明に従って、50または200mg/l(固体添加として算出)のポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)(Mn=80,000;Sigma-Aldrichより)を任意に槽に添加した。(表1:「Polym.」参照)
【0087】
硫酸銅形状の銅8mg/lもまた、本発明に記載の槽に任意に添加うぃた。(表1:「Cu」参照)
【0088】
基板が通過する前に、槽内での化学平衡の確立を確実にするため、完成した槽は少なくとも12時間、熟成させた。変換処理は120秒、中程度の撹拌で行った。続いて、水道水および脱イオン水で洗浄した。
【0089】
ii)分析、被覆、接着強度および腐食防止
X線蛍光分析:
前処理された基板のmg/m2当たりの層質量(LW)を、X線蛍光分析(XRF)によって測定した。ここで、塗布したジルコニウムの量を計測した。
【0090】
表面被覆:
前処理された基板をCECによって被覆した。Cathoguard(登録商標)800(BASFより)をこの目的として使用した。続いて、増強被覆が施された。これはダイムラーブラックであった。表面被覆層の厚さは、DIN EN ISO2808(バージョン2007)に従って、層厚測定器によって測定した。その厚さは90から110μmの範囲であった。カタプラズマ試験(下記参照)では、増強被覆は施さなかった。ここで、CECによる層の厚さは20から25μmの範囲であった。
【0091】
腐食試験:
加えて、5種の異なる腐食試験を行った:
1) フォルクスワーゲン仕様 PV1210(バージョン2010-02)に記載の腐食サイクル試験 60ラウンド以上
2) VDA試験シート621-415に記載の、およびDIN EN ISO20567-1(バージョン1982;方法C)に記載の腐食サイクル試験 10ラウンド以上
3) DIN EN ISO4628-8(バージョン2013-03)に記載の腐食サイクル試験 Meko S試験
4) DIN EN ISO6270-2 CH(バージョン2005)に記載の結露水試験、ならびに
5) カタプラズマ試験 PSA D47 1165(バージョン2014)
【0092】
層間剥離:
腐食試験1)から3)の場合、それぞれの場合、腐食層間剥離をDIN EN ISO4628-8(バージョン2012)によってmm単位で測定した。(表1:「CD」参照)
【0093】
ストーンインパクト:
腐食試験1)および2)の場合、DIN EN ISO20567-1(バージョン1982;方法C)に記載のストーンインパクトを追加的に実施し、評価した。(表1:「SIT」参照)
【0094】
クロスカット試験:
腐食試験4)および5)の場合、金属シートは室温で24時間(結露水試験)または1時間(カタプラズ試験)保存した。DIN EN ISO2409(バージョン2013)に従って、クロスカットを、「0」を最善値、「5」を最悪値として実施した。(表2:「C-C」参照)
【0095】
iii)結果と考察
表1は、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を変換槽で使用すると、予備洗浄で使用するときよりも、より良好な腐食防止が達成されることを示す(E1に比べてE2、E3に比べてE4)。それでも、本発明による予備洗浄を行った場合の結果もまだ満足いくものである。
【0096】
この点において、表2の結果もまた参照してもよく、これは特にシランを添加した場合の、クロスカットの良好な結果を示す(E1およびE3、下記の段落も参照)。
【0097】
さらには、表1から、変換槽へのシラン添加は腐食防止結果にさらなる改善をもたらすことがわかる(E1に比べてE3およびE2に比べてE4)。このことは、同様に変換槽への銅の添加にも当てはまる(E4に比べてE5)。さらには、銅の添加は基板上へのジルコニウムの沈着の増加を促す。
【0098】
最後に、変換槽中でポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)の濃度を50から200mg/lに増加させると、腐食防止結果に何らかの悪化が見られる(E5に比べてE6)。
【0099】
【0100】