(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】動力工具
(51)【国際特許分類】
B23B 31/06 20060101AFI20221219BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B23B31/06
B23Q3/12 D
(21)【出願番号】P 2019026642
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 史雄
(72)【発明者】
【氏名】横山 聡哉
(72)【発明者】
【氏名】藤森 崇太
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕之
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 淳
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-062770(JP,A)
【文献】特開平11-077470(JP,A)
【文献】特開2004-009284(JP,A)
【文献】特開2003-266221(JP,A)
【文献】特開平07-009211(JP,A)
【文献】特開平04-300128(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026601(WO,A1)
【文献】実開昭52-160182(JP,U)
【文献】特開昭56-089404(JP,A)
【文献】実開平05-026211(JP,U)
【文献】特開平10-225879(JP,A)
【文献】特開2004-106099(JP,A)
【文献】特開2009-184038(JP,A)
【文献】特開2013-180374(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099100(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0115554(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0222600(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23B 31/00-33/00
B23B 35/00-49/06
B23Q 3/00-3/154
B25D 1/00-17/32
B25F 1/00-5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ及びステータを有し、該ロータと該ステータとのうちの一方が有する永久磁石の磁力を利用して該ロータを回転させるようにされた永久磁石モータと、
該永久磁石モータの回転出力軸に駆動連結された減速機構と、
先端工具が挿入される挿入孔を有し、該減速機構を介して該永久磁石モータの該回転出力軸に駆動連結された工具取付軸と、
該工具取付軸に該工具取付軸の径方向で変位可能に保持され、該挿入孔内に突出して該挿入孔に挿入された先端工具を係止する係止位置と、該係止位置から径方向外側に変位して該先端工具に対する係止を解除する係止解除位置との間で変位可能とされた施錠子と、
該工具取付軸の外周面上において該工具取付軸の長手軸線の周りで回転可能に配置され、該施錠子を該係止位置に保持する連結位置と、該施錠子が該係止解除位置に変位することを許容する連結解除位置との間で回転可能とされたスリーブと、を備え、
該永久磁石モータのディテントトルクTdと、先端工具の装着時又は取外し時に該スリーブを該連結位置と該連結解除位置との間で回転させるのに要する操作トルクTmと、該減速機構の減速比Rとの関係が、
Td×R>Tm
となるようにされた、動力工具。
【請求項2】
該工具取付軸と該スリーブとの間に設定されて該スリーブを該連結位置に向かって付勢するスプリングを更に備え、該操作トルクTmが該スリーブを該連結位置から該連結解除位置にまで該スリーブの付勢力に抗して回転させるのに要するトルクである、請求項1に記載の動力工具。
【請求項3】
ロータ及びステータを有し、該ロータと該ステータとのうちの一方が有する永久磁石の磁力を利用して該ロータを回転させるようにされた永久磁石モータと、
該永久磁石モータの回転出力軸に駆動連結された減速機構と、
先端工具が挿入される挿入孔を有し、該減速機構を介して該永久磁石モータの該回転出力軸に駆動連結された工具取付軸と、
を備え、
先端工具を該挿入孔内に挿入した状態で該工具取付軸に対して該工具取付軸の長手軸線の周りで回転させることで、該先端工具が該工具取付軸に対して連結及び連結解除されるようにされており、
該永久磁石モータのディテントトルクTdと、先端工具の装着時又は取外し時に該先端工具を該工具取付軸に対して回転させるのに要する操作トルクTnと、該減速機構の減速比Rとの関係が、
Td×R>Tn
となるようにされた、動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動源とし、先端工具が着脱可能に取り付けられるようにされた動力工具に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源としてドリル刃や環状カッターなどの先端工具を回転させることにより被加工物に対して種々の加工を行うようにした動力工具が知られている。例えば特許文献1には、ハウジング内に内蔵するモータによって切削工具を回転駆動することにより被加工物を穿孔加工するドリルが開示されている。このドリルは、複数のギヤを介してモータに駆動連結されているスピンドルを有し、切削工具はスピンドルに着脱可能に装着されるようになっている。切削工具をスピンドルに装着する際には、切削工具をスピンドルの孔内に挿入した状態でスピンドルに対して回転させて、スピンドルに取り付けられたピンを切削工具の溝に係合させる。これにより、切削工具がスピンドルに対して固定されるようになっている。また、切削工具をスピンドルから取り外す際には、切削工具を工具取付軸に対して装着時とは逆向きに回転させてピンと溝との係合を解除するようにする。すなわち、このドリルにおいては、切削工具をスピンドルに対して回転させることにより、切削工具の着脱が行われるようになっている。特許文献2に示す穿孔装置においては、環状カッターを筒状の工具取付軸内に挿入すると、工具取付軸に保持された施錠部材が環状カッターの係止凹部に係止して、環状カッターを保持するようになっている。これにより、工具取付軸に対する環状カッターの装着は完了する。工具取付軸の先端には施錠部材を係止凹部に係止した状態に保持するためのスリーブが設けられており、環状カッターを取り外す際には、このスリーブを工具取付軸に対して回転させることにより施錠部材による係止を解除してから、環状カッターを工具取付軸から引き抜くようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-266221号公報
【文献】特開平7-9211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の動力工具においては、切削工具をスピンドルに対して回転させることにより切削工具を着脱するようになっている。また特許文献2の動力工具においては、スリーブを工具取付軸に対して回転させることにより環状カッターを工具取付軸から取り外せる状態とするようになっている。すなわち、上述の動力工具においては、先端工具の着脱の際に先端工具またはスリーブを回転させることによって工具取付軸に回転方向でのトルクが作用することになる。通常、先端工具の着脱時にはモータには電力が供給されておらずロータが容易に回転できる状態になっているため、工具取付軸に作用する回転トルクがある程度以上に大きくなると、工具取付軸がギヤやモータのロータと共に回転してしまう。そのような場合には、工具取付軸を手で押さえながら先端工具やスリーブを回転させる必要があり、先端工具の着脱操作が煩雑になる。
【0005】
そこで本発明は、先端工具の装着時又は取外し時に工具取付軸が回転することを防止して、工具取付軸に対する回転操作を伴う先端工具の着脱操作を容易に行えるようにした動力工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
ロータ及びステータを有し、該ロータと該ステータとのうちの一方が有する永久磁石の磁力を利用して該ロータを回転させるようにされた永久磁石モータと、
該永久磁石モータの回転出力軸に駆動連結された減速機構と、
先端工具が挿入される挿入孔を有し、該減速機構を介して該永久磁石モータの該回転出力軸に駆動連結された工具取付軸と、
該工具取付軸に該工具取付軸の径方向で変位可能に保持され、該挿入孔内に突出して該挿入孔に挿入された先端工具を係止する係止位置と、該係止位置から径方向外側に変位して該先端工具に対する係止を解除する係止解除位置との間で変位可能とされた施錠子と、
該工具取付軸の外周面上において該工具取付軸の長手軸線の周りで回転可能に配置され、該施錠子を該係止位置に保持する連結位置と、該施錠子が該係止解除位置に変位することを許容する連結解除位置との間で回転可能とされたスリーブと、を備え、
該永久磁石モータのディテントトルクTdと、先端工具の装着時又は取外し時に該スリーブを該連結位置と該連結解除位置との間で回転させるのに要する操作トルクTmと、該減速機構の減速比Rとの関係が、
Td×R>Tm
となるようにされた、動力工具を提供する。
【0007】
当該動力工具においては、永久磁石モータのディテントトルクTdと、スリーブを回転させるのに要する操作トルクTmと、減速機構の減速比Rとの関係が、Td×R>Tmとなるようになっている。ディテントトルクTdは減速機構を介してR倍に増幅されるため、減速機構を介して永久磁石モータのロータに駆動連結されている工具取付軸を回転させるためには最低でもTd×Rのトルクが必要になる。すなわち当該動力工具においては、工具取付軸を回転させるのに要する最小トルク(Td×R)がスリーブの操作トルクTmよりも大きくなっているため、スリーブを回転操作したときに工具取付軸が一緒に回転することが防止される。そのため、先端工具の着脱操作を容易に行うことが可能となる。
【0008】
また、該工具取付軸と該スリーブとの間に設定されて該スリーブを該連結位置に向かって付勢するスプリングを更に備え、該操作トルクTmが該スリーブを該連結位置から該連結解除位置にまで該スリーブの付勢力に抗して回転させるのに要するトルクであるようにすることができる。
【0009】
また本発明は、
ロータ及びステータを有し、該ロータと該ステータとのうちの一方が有する永久磁石の磁力を利用して該ロータを回転させるようにされた永久磁石モータと、
該永久磁石モータの回転出力軸に駆動連結された減速機構と、
先端工具が挿入される挿入孔を有し、該減速機構を介して該永久磁石モータの該回転出力軸に駆動連結された工具取付軸と、
を備え、
先端工具を該挿入孔内に挿入した状態で該工具取付軸に対して該工具取付軸の長手軸線の周りで回転させることで、該先端工具が該工具取付軸に対して連結及び連結解除されるようにされており、
該永久磁石モータのディテントトルクTdと、先端工具の装着時又は取外し時に該先端工具を該工具取付軸に対して回転させるのに要する操作トルクTnと、該減速機構の減速比Rとの関係が、
Td×R>Tn
となるようにされた、動力工具を提供する。
【0010】
当該動力工具においても同様に、工具取付軸を回転させるのに要する最小トルク(Td×R)が先端工具を装着時又は取外し時に工具取付軸に対して回転させるのに要する操作トルクTnよりも大きくなっているため、先端工具を回転させたときに工具取付軸が一緒に回転することが防止される。そのため、先端工具の着脱操作を容易に行うことが可能となる。
【0011】
以下、本発明に係る動力工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動力工具の側面図である。
【
図2】
図1の動力工具の断面図である。ただし、本体カバー及びバッテリー等は省略してある。
【
図3】
図2の状態から環状カッターを下降させたときの動力工具の断面図である。
【
図4】環状カッターを装着した状態での工具取付軸の拡大断面図である。
【
図6】環状カッターと取外した状態での工具取付軸の拡大断面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る動力工具1は、
図1に示すように、工具本体10と、工具本体10の下側に取り付けられた固定部12と、工具本体10の後方に着脱可能に取り付けられたバッテリー14と、環状カッター16(先端工具)を上下動させるためのレバー18とを備えた穿孔工具である。固定部12は、電磁石を内蔵した電磁石部20と、電磁石部20から後方に延びるスタビライザー22とからなる。固定部12の電磁石部20により鉄などの磁性体に磁気吸着して工具本体10を被削材に対して固定し、スタビライザー22により穿孔加工中に環状カッター16が受ける反力により固定部12が浮き上がるのを防止して工具本体10の姿勢をより安定させるようになっている。
【0014】
工具本体10の本体カバー24の内側には、
図2に示すように、永久磁石モータ26と、減速機構28と、減速機構28を介して永久磁石モータ26の回転出力軸30に駆動連結された工具取付軸32とが設けられている。永久磁石モータ26は、ロータ34が永久磁石を有し、ステータ36がコイルを有するブラシレスDCモータである。バッテリー14(
図1)の電力をステータ36のコイルに供給することによりステータ36の周囲に磁界が生じ、ロータ34は永久磁石とステータ36のコイルとの間に生じる磁力によって回転する。減速機構28は、永久磁石モータ26の回転出力軸30と工具取付軸32との間に配置されている。具体的には、減速機構28には、永久磁石モータ26の回転出力軸30に固定された第1ベベルギヤ28aから順に、第2ベベルギヤ28b、サンギヤ28c、プラネタリーギヤ28d、インターナルギヤ28e、第1スパーギヤ28f、第2スパーギヤ28g、及び第3スパーギヤ28hが配置されている。これらのギヤを介して、永久磁石モータ26の回転出力を減速して工具取付軸32に伝達するようになっている。工具取付軸32は、減速機構28の第3スパーギヤ28hが固定された第1軸38と、第1軸38の外側に同軸状に配置された筒状の第2軸40と、第2軸40の外側に同軸状に配置された第3軸42とからなる。第3軸42の先端には環状カッター16を取り付けるための工具取付部44が設けられている。第2軸40は、第1軸38に対して回転方向では固定され、長手軸線Lの方向では摺動可能となっている。同様に第3軸42は、第2軸40に対して回転方向では固定され、長手軸線Lの方向では摺動可能となっている。よって、減速機構28を介して第1軸38に加わる回転力は、第2軸40を介して第3軸42にまで伝わる。本体カバー24の内側にはさらに、レバー18(
図1)に固定されたピニオンギヤ46と、ピニオンギヤ46に噛み合うラックギヤ48とが設けられている。レバー18を回転操作することにより、ピニオンギヤ46及びラックギヤ48を介して工具取付軸32の第3軸42が
図2の上端位置と
図3の下端位置との間で移動するようになっている。これに伴い、工具取付軸32の第3軸42に取り付けられた環状カッター16が被削材に対して上下動する。
【0015】
図4及び
図5に示すように、工具取付軸32の第3軸42の工具取付部44は、環状カッター16が挿入される挿入孔50を有する筒状部52と、筒状部52に形成された施錠子保持孔54内に保持された球状の施錠子56と、筒状部52の外周面52a上において長手軸線Lの周りで回転可能に取り付けられたスリーブ58と、第3軸42の内側で長手軸線Lの方向に変位可能に配置されたスライド部材60及び弁体61とを有する。環状カッター16が装着された状態では、施錠子56は、挿入孔50内に突出して環状カッター16に設けられた係止凹部62に係合することにより環状カッター16を係止した係止位置となっている。また、スリーブ58は、その内周面58aが施錠子56に径方向外側から係合して、施錠子56を係止位置に保持する連結位置となっている。
図5に示すように、施錠子56は周方向で等間隔に3つ設けられており、環状カッター16の係止凹部62も同様に3つ設けられている。球状の施錠子56が円錐状の係止凹部62に係合することにより、環状カッター16は工具取付軸32に対して回転方向及び長手軸線Lの方向で係止されている。
図4に示すように、スライド部材60は、外周に取り付けられて第3軸42の内周面42aと密封係合する摺動シール部材64と、下面に取り付けられた端面シール部材66とを有している。スライド部材60は、弁体61を介してスプリング68によって環状カッター16の上端面16aに押し付けられており、これにより端面シール部材66が環状カッター16の上端面16aに密封係合している。工具取付軸32の内側には第1軸38の上部の給油口38aから切削油が供給される。環状カッター16を下降させてセンターピン69が被削材にあたり環状カッター16に対して相対的に上方に変位すると、弁体61が上方に押されて、弁体61とスライド部材60との間の密封係合が解除される。そうすると、切削油が弁体61とスライド部材60との隙間から環状カッター16の側に流れ、さらにセンターピン69に沿って流れて環状カッター16の先端にまで至る。スライド部材60に設けられた摺動シール部材64及び端面シール部材66により、切削油が環状カッター16と第3軸42との間から漏れないようになっている。第3軸42の筒状部52とスリーブ58との間にはスプリング70が配置されており、スリーブ58を連結位置に向かって
図5で見て反時計回りに付勢している。
【0016】
環状カッター16を取り外す際には、スリーブ58をスプリング70の付勢力に抗して
図5で見て時計回りに回転させて
図7の連結解除位置とする。そうするとスリーブ58の内周面58aに形成された3つの収容凹部72が周方向で施錠子56と整合した位置となり、各施錠子56が径方向外側に変位可能な状態となる。この状態で環状カッター16を工具取付軸32の挿入孔50から引き抜くようにすると、施錠子56は係止位置から径方向外側に変位して環状カッター16に対する係止が解除される係止解除位置となる。環状カッター16が挿入孔50から引き抜かれると、
図6に示すように、スライド部材60がスプリング68の付勢力によって施錠子56に径方向内側から係合する位置にまで変位して、施錠子56を径方向内側から支持して係止解除位置に保持する。またスリーブ58は、係止解除位置に保持された施錠子56に対して収容凹部72が周方向で係合して、連結解除位置に保持される。
【0017】
環状カッター16を装着する際には、環状カッター16を工具取付軸32の挿入孔50内に挿入する。そうすると、スライド部材60が環状カッター16の上端面16aに押されて上方に変位する。環状カッター16の係止凹部62が長手軸線Lの方向で施錠子56に整合する位置になると、施錠子56は、スプリング70によって周方向に付勢されているスリーブ58によって径方向内側に押圧されて係止凹部62に係合した係止位置となる。それと同時にスリーブ58はスプリング70の付勢力によって回転されて連結位置となる。これにより
図4及び
図5の装着状態となる。
【0018】
上述のように当該動力工具1においては、環状カッター16の取り外し時にスリーブ58を連結位置から連結解除位置にまで変位させる際に、スプリング70の付勢力に抗してスリーブ58を回転させる必要がある。また、環状カッター16には重力及びスプリング68の付勢力により下方への力が作用しているため、施錠子56は係止凹部62によって径方向外側に押圧されてスリーブ58の収容凹部72に押し付けられた状態となっている。そのため、スリーブ58と施錠子56との間には摩擦力が生じている。したがって、スリーブ58を連結位置から連結解除位置にまで回転させる際には、スプリング70の付勢力や施錠子56などとの間の摩擦力を超える大きさの操作トルクTmをスリーブ58に加える必要がある。
【0019】
永久磁石モータ26は、電力を供給していない状態においても、ロータ34の永久磁石とステータ36との間には磁力が作用していて、ロータ34はステータ36に対してある程度の大きさの力で回転方向で保持されている。このときに磁力による保持力に抗してロータ34を回転させるのに必要なトルクをディテントトルクTdという。ここで、工具取付軸32を減速機構28及び永久磁石モータ26のロータ34とともに回転させるのに要するトルクが、スリーブ58を回転させるのに要するトルクよりも小さい場合には、スリーブ58を回転させたときに工具取付軸32も一緒に回転してしまうことになる。そうするとスリーブ58を工具取付軸32に対して連結解除位置にまで回転させることができなくなってしまう。
【0020】
ここで当該動力工具1においては、ディテントトルクTdと、操作トルクTmと、減速機構28の減速比Rとの関係が、Td×R>Tmとなるように設計されている。永久磁石モータ26のディテントトルクTdは、減速比Rの減速機構28を介して工具取付軸32にはR倍となって伝達されることになり、その大きさはTd×Rと表せる。すなわち、永久磁石モータ26に電力が供給されていない状態で工具取付軸32を永久磁石モータ26のロータ34とともに回転させるのに最低限必要なトルクはTd×Rとなる。そして、その最小トルク(Td×R)が操作トルクTmよりも大きくなっていることにより、スリーブ58を連結位置から連結解除位置に回転させる際に、工具取付軸32が減速機構28を介して永久磁石モータ26により十分な力で保持されて回転しないようになる。これにより、環状カッター16の取り外し時におけるスリーブ58の操作を容易に行うことが可能となる。なお、実際には、減速機構28などの可動部分における摩擦があるため、工具取付軸32を回転させるのに要するトルクは最小トルク(Td×R)よりも通常は大きくなる。そのため、スリーブ58の操作トルクTmがTd×Rよりも若干大きくても工具取付軸32が回転しない場合もある。しかしながら、摩擦の大きさは使用状態や使用期間などによって変化して安定しないため、当該動力工具1では、スリーブ58の操作によって工具取付軸32が回転することをより確実に防止するために、Td×R>Tmとなるように設計されている。
【0021】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、永久磁石モータとして、ブラシレスDCモータ以外の、ステッピングモータなどの他の形態のモータを利用してもよいし、ステータが永久磁石を有するようなDCモータとしてもよい。工具取付軸に取り付けられるのは、環状カッター以外の例えばドリル刃などの他の先端工具としてもよい。したがって、穿孔工具以外の例えばドリル工具などの他の動力工具とすることができる。また、上記実施形態においては、環状カッター(先端工具)の取り外し時にスリーブを回転させるようになっているが、装着時にスリーブを回転操作するような構成とすることもできる。または、スリーブを使用しない着脱形態とすることもできる。そのようなものとして例えば、先端工具を工具取付軸の挿入孔に挿入した状態で、先端工具を工具取付軸に対して回転させることで先端工具が工具取付軸に対して装着及び取外しがされるようになっているものが考えられる。そのような場合には、先端工具の装着時や取り外し時に先端工具を工具取付軸に対して回転させるのに要する操作トルクTnが工具取付軸に作用することになる。そのため、永久磁石モータのディテントトルクTdと、操作トルクTnと、減速機構の減速比Rとの関係をTn×R>Tdとすることにより、上記実施形態と同様に、先端工具の装着時や取外し時に工具取付軸が先端工具と共に回転してしまうことが防止することが可能となる。減速機構として複数のギヤを用いた機構ではなくベルトやチェーンを利用して減速するような他の形態の減速機構を用いることもできる。
【符号の説明】
【0022】
1 動力工具
10 工具本体
12 固定部
14 バッテリー
16 環状カッター(先端工具)
16a 上端面
18 レバー
20 電磁石部
22 スタビライザー
24 本体カバー
26 永久磁石モータ
28 減速機構
28a 第1ベベルギヤ
28b 第2ベベルギヤ
28c サンギヤ
28d プラネタリーギヤ
28e インターナルギヤ
28f 第1スパーギヤ
28g 第2スパーギヤ
28h 第3スパーギヤ
30 回転出力軸
32 工具取付軸
34 ロータ
36 ステータ
38 第1軸
38a 給油口
40 第2軸
42 第3軸
42a 内周面
44 工具取付部
46 ピニオンギヤ
48 ラックギヤ
50 挿入孔
52 筒状部
52a 外周面
54 施錠子保持孔
56 施錠子
58 スリーブ
58a 内周面
60 スライド部材
61 弁体
62 係止凹部
64 摺動シール部材
66 端面シール部材
68 スプリング
69 センターピン
70 スプリング
72 収容凹部
L 長手軸線