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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】前後進操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 11/11 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
B63H11/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019033113
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020138559
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】清藤 結記
(72)【発明者】
【氏名】早田 功司
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136993(JP,A)
【文献】実開平5-94094(JP,U)
【文献】特表2005-523841(JP,A)
【文献】米国特許第3089454(US,A)
【文献】米国特許第3138922(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108263588(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 11/11
B63H 11/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の進行方向の後方に水を噴射するノズルと、
鉛直方向に平行な旋回軸の軸線周りに旋回可能となるように前記ノズルに接続され、前記進行方向の後方の端部及び前記鉛直方向の下部にそれぞれ後方開口部及び下方開口部を有し、前記ノズルから噴射された水を内部に流通させて前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替えて流出させる操舵ダクトと、
前記操舵ダクトの内部に流通する水の流出先を、前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替える前後進切替バケットと、
記前後進切替バケットを切り替える駆動力を与える駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、進行方向に直交し、かつ水平方向の第1回転軸に設けられる横軸と、鉛直方向の第2回転軸に設けられる縦軸と、をそれぞれ回転中心とする2自由度の二軸継手により折れ曲げ可能に設けられ、
前進時の前記縦軸は、前記操舵ダクトの旋回軸の延長線上に重なるように配置されている前後進操舵装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、
一端が前記船体のうち前記ノズル側に連結され、他端が前記二軸継手に連結され伸縮可能な第1駆動ロッドと、
前記二軸継手及び前記前後進切替バケットに連結された第2駆動ロッドと、を有し、
前記第1駆動ロッドの伸縮させることで前記前後進切替バケットを前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替える請求項1に記載の前後進操舵装置。
【請求項3】
一端が前記二軸継手に連結され、他端が前記前後進切替バケットに連結された連結アームが設けられた請求項1又は2に記載の前後進操舵装置。
【請求項4】
前記ノズルが接続される船体後壁には、前記駆動装置が挿通可能な支持開口が形成され、
前記駆動装置は、船内側から前記支持開口に挿通された状態で前記船体後壁に支持され、
前記駆動装置のロッド先端は、前記支持開口よりも小さい断面形状である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の前後進操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後進操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウォータージェット推進型の船舶は、例えばウォータージェットポンプにより海水を汲み上げて船体の噴射部分から噴射し、その反力を推進力として前後進する。このような船舶の前進、後進及び旋回を制御する装置として、前後進操舵装置が知られており、例えば、特許文献1に示されるような、噴射部分から噴射された水を船体の進行方向の後方に噴射するノズルと、旋回可能でありノズルから噴射された水を内部に流通させ、後方開口部と下方開口部との間で切り替えて流出させる操舵ダクトと、下方開口部から流出する水を進行方向の前方に向けて流すルーバ翼と、を備えている。
【0003】
特許文献1に記載されるような前後進操舵装置では、船体を前進させる場合において、ノズルから噴射される水の流出先を後方開口部とする。この場合、船体は後方に水が流出する際の反力を推進力として前進する。また、前後進操舵装置は、前後進用シリンダを伸縮駆動させることにより、操舵ダクトを旋回させて後方開口部から流出する水の流出方向を切り替える。つまり、前後進用シリンダが縮減している際には、前後進切替バケットが操舵ダクトの後方開口部を開放して操舵ダクトの下部開口部を閉塞することで、ウォータージェットが後方へと流れ、これにより船体が前進する。
【0004】
また、船体を後進させる場合において、前後進操舵装置は、ノズルから噴射される水の流出先を下方開口部に切り替える。これにより、下方開口部から流出する水がルーバ翼によって整流され前方に流出する。この場合、船体は、前方に水が流出する際の反力を推進力として後進する。つまり、前後進用シリンダを伸長させることで、前後進切替バケットが操舵ダクトの後方開口部を閉塞して下部開口部が開放し、ウォータージェットが下方かつ前方側に流れ、これにより後進する。
【0005】
前後進用シリンダ(駆動ロッド)の両側には操舵用シリンダが設けられ、これら操舵用シリンダを伸縮させることにより操舵ノズルが左右に旋回する。例えば、前後進切替バケットが進行方向の左側に傾いているときは、左側にウォータージェットが噴出されて船体は左旋回となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-136993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の前後進操舵装置では、以下のような問題があった。
すなわち、図9(a)、(b)に示す従来の前後進操舵装置100において、左右一対の操舵用シリンダ103、104を用いて操舵ダクト101を旋回させると、旋回前の中立位置にある前後進用シリンダ102のシリンダ長(第1シリンダ長L1)と、旋回後の前後進用シリンダ102のシリンダ長(第2シリンダ長L2)と、の長さが変わる。つまり、第2シリンダ長L2が第1シリンダ長L1よりも短くなることによって、前後進切替バケットに引張等の負荷がかかり、ばたつきが生じるという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、前進時における前後進切替バケットのばたつきを抑えることができる前後進操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る前後進操舵装置は、船体の進行方向の後方に水を噴射するノズルと、鉛直方向に平行な旋回軸の軸線周りに旋回可能となるように前記ノズルに接続され、前記進行方向の後方の端部及び前記鉛直方向の下部にそれぞれ後方開口部及び下方開口部を有し、前記ノズルから噴射された水を内部に流通させて前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替えて流出させる操舵ダクトと、前記操舵ダクトの内部に流通する水の流出先を、前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替える前後進切替バケットと、記前後進切替バケットを切り替える駆動力を与える駆動装置と、を備え、前記駆動装置は、進行方向に直交し、かつ水平方向の第1回転軸に設けられる横軸と、鉛直方向の第2回転軸に設けられる縦軸と、をそれぞれ回転中心とする2自由度の二軸継手により折れ曲げ可能に設けられ、前進時の前記縦軸は、前記操舵ダクトの旋回軸の延長線上に重なるように配置されている。
【0010】
上記態様に係る前後進操舵装置によれば、前後進切替バケットを切り替えるための駆動装置が二軸継手の縦軸によって第2回転軸を回転中心として折り曲げることができ、さらに縦軸が操舵ダクトの旋回軸の延長線上に重なる位置に配置されているので、二軸継手より後方の駆動装置は操舵ダクトの旋回軸とほぼ同じ回転中心により旋回させることができる。そのため、駆動装置の一端に連結されている前後進切替バケットも操舵ダクトの旋回と連動して同じ軌道で旋回させることができる。
このように、駆動装置の長さ方向の中間部に旋回軸が設けられる場合には、本態様の前後進操舵装置のように駆動装置に二軸継手を設けることで、中立時と旋回時で駆動装置の長さの差を小さく抑えることができる。そのため、操舵ダクトの旋回時に前後進切替バケットを駆動する駆動装置に作用するモーメントを小さくすることができ、かつ中立時と旋回時における駆動装置の長さの差が大きいときのように前後進切替バケットに負荷がかかることがなくなり、前進時における前後進切替バケットのばたつきを抑えることができ、船体の振動や騒音を防止できる。
【0011】
また、上記の前後進操舵装置は、前記駆動装置は、一端が前記船体のうち前記ノズル側に連結され、他端が前記二軸継手に連結され伸縮可能な第1駆動ロッドと、前記二軸継手及び前記前後進切替バケットに連結された第2駆動ロッドと、を有し、前記第1駆動ロッドの伸縮させることで前記前後進切替バケットを前記後方開口部と前記下方開口部との間で切り替える構成としてもよい。
【0012】
この場合には、第2駆動ロッドは旋回軸の延長線上に重なる縦軸を回転軸として旋回し、第1駆動ロッドの伸縮によって第2駆動ロッドを介して前後進切替バケットの切り替えをスムーズに行うことができる。
【0013】
また、上記の前後進操舵装置は、一端が前記二軸継手に連結され、他端が前記前後進切替バケットに連結された連結アームが設けられた構成としてもよい。
【0014】
この場合には、切り替え動作をする前後進切替バケットを駆動ロッドのみでなく連結アームによって支持することができる。そのため、切り替え時の前後進切替バケットの振れやばたつきを抑制した安定した支持力が得られる利点がある。
【0015】
また、上記の前後進操舵装置は、前記ノズルが接続される船体後壁には、前記駆動装置が挿通可能な支持開口が形成され、前記駆動装置は、船内側から前記支持開口に挿通された状態で前記船体後壁に支持され、前記駆動装置のロッド先端は、前記支持開口よりも小さい断面形状である構成としてもよい。
【0016】
この場合には、船体後壁より後方に配置されるロッド先端が船体後壁に形成される支持開口よりも小さい断面形状となるので、駆動装置を支持開口より船内側に引き抜くことが可能となる。そのため、駆動装置を取り外してメンテナンスすることを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の前後進操舵装置によれば、前進時における前後進切替バケットのばたつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による前後進操舵装置の一部を破断した部分縦断面図であって、前進動作時の状態を示す図である。
図2】前後進操舵装置の一部を破断した部分縦断面図であって、後進動作時の状態を示す図である。
図3】前後進操舵装置の側面図である。
図4】前後進操舵装置を上方から見た平面図である。
図5図4に示す前後進操舵装置において、一対の操舵用シリンダを使用して操舵ダクトを旋回させる状態を一部破断した要部拡大図である。
図6】操舵ダクトの旋回動作を模式的に示した図であって、(a)は中立位置、(b)は左旋回位置、(c)は右旋回位置である。
図7図4に示す前後進操舵装置の駆動装置の要部拡大図である。
図8】旋回軸と駆動装置の二軸継手の縦ピンとの位置関係を示した図である。
図9】従来の操舵ダクトの旋回動作を模式的に示した図であって、(a)は中立位置、(b)は左旋回位置である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による前後進操舵装置について、図面に基づいて説明する。かかる実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0020】
図1乃至図3に示すように、本実施形態による前後進操舵装置1は、ウォータージェット推進型の船舶に用いられ、前進及び後進の切り替え制御や、旋回制御などを行うためのものである。前後進操舵装置1は、例えば船尾に配置されるウォータージェットポンプなど、船体から後方に水が噴射される噴射部分10に取り付けられる。
前後進操舵装置1は、ノズル2と、操舵ダクト3と、前後進切替バケット4と、駆動装置5と、を備えている。
【0021】
ここで、以下の説明において、前方及び後方と表記する場合は、船舶の進行方向に対する方向を指す。上下方向について表記する場合は、鉛直方向における上方及び下方を指す。また、進行方向に沿う方向を前後方向X1とし、上方から見て前後方向X1に直交する方向を左右方向X2として、以下説明する。
【0022】
ノズル2は、船体の進行方向の後方に水を噴射する。ノズル2は、船体から噴射される水を導入する導入口2aと、導入された水を噴射する噴出口2bとを有している。ノズル2は、導入口2aの径に対して噴出口2bの径が小さくなるように形成されている。ノズル2の導入口2a側には、例えばウォータージェットポンプを構成するインペラ等、船体側の構造の一部が配置される。導入口2aの径は、ノズル2内に配置される当該インペラ等の寸法に応じて設定される。
【0023】
ノズル2は、船内外を区画する船体後壁11の後面11aに固定されている。具体的には、ノズル2の前端外周縁から径方向の外側に突出するフランジ21が設けられ、このフランジ21を船体後壁11の後面11aに当接させてボルト締結されている。
【0024】
操舵ダクト3は、例えば直管状に形成され、ノズル2の噴出口2b側に接続される。操舵ダクト3は、ノズル2から噴射された水を内部に流通させる。操舵ダクト3は、後方開口部3a及び下方開口部3bを有している。後方開口部3aは、操舵ダクト3のうち船体の進行方向の後方に形成されている。後方開口部3aは、操舵ダクト3の内部を流通する水を後方に向けて流出する。下方開口部3bは、操舵ダクト3のうち鉛直方向の下方に形成されている。下方開口部3bは、操舵ダクト3の内部を流通する水を下方に流出する。
【0025】
操舵ダクト3は、図1及び図2に示すように、上軸部材31及び下軸部材32を介してノズル2に連結されている。上軸部材31は、ノズル2及び操舵ダクト3の上部を連結する。下軸部材32は、ノズル2及び操舵ダクト3の下部を連結する。上軸部材31及び下軸部材32は、例えば円柱状に形成され、鉛直方向に中心軸が一致するように配置される。操舵ダクト3は、上軸部材31及び下軸部材32の中心軸に一致する旋回軸C1の軸線周りに旋回可能に支持されている。
【0026】
また、操舵ダクト3には、図4に示すように、旋回用の駆動装置5である左右一対の操舵用シリンダ51、52が接続されている。これら操舵用シリンダ51、52は、操舵ダクト3を旋回軸C1の軸線周りに回動させるための駆動源である。操舵用シリンダ51、52は、操舵ダクト3を旋回軸C1の軸線周りに回動させることにより、操舵ダクト3の後方開口部3a又は下方開口部3b(図1参照)から流出する水の流出方向を制御することが可能となっている。
【0027】
操舵ダクト3には、図1乃至図3に示すように、後方突出部33及び下方突出部34が設けられている。後方突出部33は、進行方向の両側方の壁部が後方開口部3aから後方に突出した状態に形成されている。また、下方突出部34は、進行方向の両側方の壁部が下方開口部3bから下方に突出した状態に形成されている。図1及び図2では、奥側の後方突出部33及び下方突出部34のみが図示されているが、手前側においても同様に後方突出部33及び下方突出部34が設けられている。
【0028】
下方突出部34には、整流部35が設けられている。整流部35は、下方開口部3bから流出する水が船体の進行方向の前方に向けて流れるように整流する。整流部35は、複数のルーバ翼36を有する。ルーバ翼36は、下方開口部3bに進行方向に所定の間隔を空けて並んで配置される。各ルーバ翼36は、操舵ダクト3の下方突出部34に固定されている。 隣り合うルーバ翼36、36の間の空間は、下方開口部3bから流出する水の流路となる。
【0029】
前後進切替バケット4は、操舵ダクト3の内部に流通する水の流出先を、後方開口部3aと下方開口部3bとの間で切り替える。前後進切替バケット4は、フラップ部材41と、連結部材42と、を有している。フラップ部材41は、板状に形成され、後方開口部3a及び下方開口部3bを閉塞可能な寸法に形成される。
【0030】
連結部材42は、フラップ部材41と操舵ダクト3とを連結している。連結部材42は、軸部材43を介して操舵ダクト3の各後方突出部33に連結される。図3に示すように、後方突出部33には、軸部材43を介して連結部材42が連結されている。各軸部材43は、例えば円柱状に形成され、船体の進行方向に直交し、かつ水平方向に平行な方向に中心軸が一致するように配置される。連結部材42は、軸部材43の中心軸に一致する回動軸C2(図3参照)の軸線周りに回動可能に支持されている。
【0031】
前後進切替バケット4は、図3及び図4に示すように、操舵ダクト3に対して連結アーム6によって左右両側から連結されている。連結アーム6は、駆動装置5の前後進用シリンダ53による前後進切替バケット4の第1位置P1と第2位置P2の切り替え動作を補助するために設けられている。連結アーム6は、駆動装置5に支持される第1アーム61と、第1アーム61及び前後進切替バケット4を連結支持する第2アーム62と、を備えている。
【0032】
第1アーム61は、一対の縦部材63、63と、一対の縦部材63の上部同士を連結する横部材64と、を有している。横部材64は、操舵ダクト3の上方を横断するように左右方向X2に延びて配置されている。横部材64の長さ方向の中心部には、中立位置T0における操舵ダクト3の旋回軸C1と同軸線上に駆動装置5の二軸継手7が設けられている。二軸継手7には、後述する前後進用シリンダ53のロッド先端53aが連結されている。
【0033】
一対の縦部材63、63は、上端が横部材64の長さ方向の端部に固定され、下端が操舵ダクト3の後方突出部33の両側面に設けられる第1連結軸6aに回転可能に支持されている。第1アーム61は、前後進用シリンダ53の伸縮駆動によって第1連結軸6aを中心として回動する。つまり、第1アーム61は、前後進用シリンダ53が縮減したときには第1連結軸6a回りに前方に傾斜し、伸長したときには第1連結軸6a回りに後方に傾斜する。
【0034】
第2アーム62におけるアーム長方向の中間部には、操舵ダクト3の後方突出部33の両側面に前後方向X1に延びる案内ガイド(図示省略)に摺動可能に支持される摺動係合部37(図4参照)が設けられている。第2アーム62は、案内ガイドに案内されて前後方向X1にスライド可能に設けられている。第2アーム62は、前端62aが第1アーム61の縦部材63の下端に第1連結軸6aを介して回動可能に連結され、後端62bが前後進切替バケット4の連結部材42の長さ方向の中間部に第2連結軸6bを介して回動可能に連結されている。第1連結軸6aと第2連結軸6bの各回転中心は、互いに平行、かつ前後方向X1に直交する方向で一致している。
【0035】
駆動装置5は、図4に示すように、左右一対で設けられる操舵用シリンダ51、52と、操舵用シリンダ51、52の間の中央に配置される前後進用シリンダ53(駆動ロッド、第1駆動ロッド)と、前後進用シリンダ53のロッド先端53aが連結される二軸継手7と、二軸継手7を介して前後進用シリンダ53に連結されるリンクロッド54(駆動ロッド、第2駆動ロッド)と、を備えている。
【0036】
後方突出部33の前端上部の左右両側には、左右の操舵用シリンダ51、52のロッド先端51a、52aのそれぞれを支持する支持片38が設けられている。
操舵用シリンダ51、52と前後進用シリンダ53は、図5に示すように、左右方向X2に配列され、船体後壁11を貫通する支持開口11bを船内側から挿通された状態で支持されている。各ロッド基端部51b、52b、53bは、船体後壁11に対して球面座55aを有するロッド支持板55を介して回動自在に支持されている。ロッド基端部51b、52b、53bは、船体後壁11の船内側に配置されている。また、各ロッド先端51a、52a、53aは、支持開口11bよりも小さい断面形状で設けられている。
【0037】
操舵用シリンダ51、52のロッド先端51a、52aは、それぞれ操舵ダクト3の前端上部の支持片38に連結されている。操舵用シリンダ51、52のロッド先端51a、52aの各連結部56A、56Bは、中立位置T0で旋回しない状態で左右方向X2において旋回軸C1を挟んで左右対称となる位置に設けられている。駆動装置5では、図5及び図6(a)~(c)に示すように、操舵用シリンダ51、52のいずれか一方を伸長し、他方を縮減して左右のロッドの長さを変えることで、操舵ダクト3を旋回軸C1回りに旋回させることができる。ここで、操舵ダクト3において、中立位置T0に対して左旋回した位置を左旋回位置T1といい、右旋回した位置を右旋回位置T2という。
また、操舵用シリンダ51、52は、球面座55aを介して船体後壁11に支持されているので、操舵ダクト3とともに旋回移動するロッド先端51a、52aが連結位置(支持片38の連結位置)に合わせて、この球面座55aを中心にして回動可能に設けられている。
【0038】
前後進用シリンダ53は、連結部材42の上方に接続されている。前後進用シリンダ53は、連結部材42を回動軸C2の軸線周りに回動させるための駆動源である。駆動装置5は、連結部材42を回動軸C2の軸線周りに回動させることにより、フラップ部材41の位置を、下方開口部3bを閉塞する第1位置P1と、後方開口部3aを閉塞する第2位置P2とに切り替えて配置させることが可能となっている。
【0039】
前後進用シリンダ53のロッド先端53aは、図7に示すように、後述する横ピン71が挿通可能な貫通孔53cが形成され、連結アーム6に設けられる二軸継手7に連結されている。前後進用シリンダ53のロッド先端53aの連結部は、二軸継手7の後述する横ピン71である。前後進用シリンダ53を伸縮させことで、二軸継手7とともに連結アーム6の位置を前後方向X1に移動させることができる。
【0040】
また、前後進用シリンダ53は、図4に示すように、球面座55a(図5参照)を有するロッド支持板55を介して船体後壁11に支持されている。そのため、前後進用シリンダ53は、操舵ダクト3とともに旋回移動し、かつ連結アーム6とともに上下方向に移動するロッド先端53aが連結位置(横ピン71の位置)に合わせて球面座55aを中心にして回動可能に設けられている。
【0041】
二軸継手7は、図7に示すように、左右方向X2を回転中心とする第1回転軸C3と、第1回転軸C3に対して直交する方向を回転中心とする第2回転軸C4と、を有する。二軸継手7は、前後進用シリンダ53のロッド先端53aを連結し、第1回転軸C3に設けられた横ピン71(横軸)を備えた第1継手72と、連結アーム6の第1アーム61に固定され、第1継手72に対して第2回転軸C4に設けられた縦ピン73(縦軸)を備えた第2継手74と、を備えている。
【0042】
第1継手72は、横ピン71を挿通可能な挿通孔72aを有して互いに間隔あけて配置される一対の係止片721、721を有する横ピン継手部72Aと、縦ピン73を挿通可能な挿通孔72bを有する縦ピン継手部72Bと、を備えている。第1継手72は、上面視でU字形状をなし、自由端側の一端に横ピン継手部72Aを備え、他端に縦ピン継手部72Bを備えている。一対の係止片721、721同士の間に前後進用シリンダ53のロッド先端53aが嵌入され、それぞれの挿通孔を同軸にした状態で横ピン71が挿入されている。これにより、ロッド先端53aと第1継手72とは、横ピン71(第1回転軸C3)を回転中心にして相対的に回動可能に設けられている。
【0043】
第2継手74は、一端が連結アーム6における第1アーム61の横部材64の前面64aにボルトで固定され、他端に縦ピン73が挿通可能な挿通孔74aを有する上下一対の連結片741、741(図1参照)を有している。一対の連結片741、741同士の間に第1継手72の縦ピン継手部72Bが嵌入され、それぞれの挿通孔72b、74aを同軸にした状態で縦ピン73が挿入されている。これにより、第1継手72と第2継手74とは、縦ピン73(第2回転軸C4)を回転中心にして相対的に回動可能に設けられている。
【0044】
縦ピン73の位置は、図8に示すように、前進時の縦ピン73を旋回軸C1と重なる範囲Rとなるように配置されている。つまり、旋回軸C1の延長線上に縦ピン73が配置される。この範囲Rは、図8において、前後方向X1で縦ピン73の最後端部73aと最前端部73bとの間の領域となる。
【0045】
リンクロッド54は、前端部54aが連結アーム6における第1アーム61の横部材64の後面64bに左右方向X2を回転中心として回動可能に第1ピン541で連結され、後端部54bが前後進切替バケット4における連結部材42の前端部42aに左右方向X2を回転中心として回動可能に第2ピン542で連結されている。
【0046】
次に、上記のように構成された前後進操舵装置1の動作について、図面を用いて説明する。
図1及び図3に示す前後進操舵装置1を備えたウォータージェット推進型の船舶は、例えば海水を汲み上げてウォータージェットポンプにより船体の噴射部分10から噴射し、その反力を推進力として前後進する。船舶を前進させる場合には、前後進操舵装置1においてフラップ部材41を第1位置P1に配置させる。この場合、噴射部分10から噴射された水は、ノズル2から操舵ダクト3内に噴出され、操舵ダクト3内を流通して後方開口部3aから流出する。このため、水が後方に流出する際の反力を推進力として前進する。
【0047】
また、操舵ダクト3を旋回させ、後方開口部3aから流出する水の流出方向を切り替えることにより、船体を左右方向X2に旋回させることができる。
船体を左右方向X2に旋回させる場合には、図6(a)~(c)に示すように、駆動装置5の左右一対の操舵用シリンダ51、52を伸縮することにより行うことができる。すなわち、図6(b)に示すように、船体を進行方向に向かって左旋回する場合には、図6(a)に示す中立位置T0に対して、左側の操舵用シリンダ51を縮減するとともに、右側の操舵用シリンダ52を伸長することで、操舵ダクト3を船体に対して進行方向の左向きに旋回させる(左旋回位置T1)。一方、船体を右旋回する場合には、図6(c)に示すように、左側の操舵用シリンダ51を伸長するとともに、右側の操舵用シリンダ52を縮減することで、操舵ダクト3を船体に対して進行方向の右向きに旋回させる(右旋回位置T2)。
【0048】
このとき、操舵ダクト3及び前後進切替バケット4の旋回とともに二軸継手7に連結アーム6(第1アーム61)を介して連結されるリンクロッド54も縦ピン73の第2回転軸C4を回転中心にして旋回することになる。つまり、リンクロッド54は、前後進用シリンダ53のロッド軸方向に対して二軸継手7の縦ピン73の位置で左右方向X2に折れ曲がった状態となる。
【0049】
次に、船舶を後進させる場合には、図2及び図3に示すように、前後進操舵装置1においてフラップ部材41を第2位置P2に配置させる。これにより、操舵ダクト3の後方開口部3aがフラップ部材41及びルーバ翼36によって閉塞された状態となる。
【0050】
この状態で噴射部分10から水が噴射されると、図2に示すように、ノズル2から水流が操舵ダクト3内に噴出される。この水流W1は、操舵ダクト3内を流通してフラップ部材41によって下方開口部3b側へ案内され、下方開口部3bから流出する。そして、整流部35の流路を流れて水流W2として前方に流出する。このため、水流W2が前方に流出する際の反力を推進力として後進する。
【0051】
次に、上述した前後進操舵装置の作用について、図面に基づいて具体的に説明する。
本実施形態による前後進操舵装置1では、図4に示すように、前後進切替バケット4を切り替えるための前後進用シリンダ53が二軸継手7の縦ピン73によって第2回転軸C4を回転中心として折り曲げることができ、さらに縦ピン73が操舵ダクト3の旋回軸C1の延長線上に重なる位置に配置されているので(図8参照)、二軸継手7より後方のリンクロッド54は操舵ダクト3の旋回軸C1とほぼ同じ回転中心により旋回させることができる。そのため、図4及び図6(a)~(c)に示すように、リンクロッド54の一端に連結されている前後進切替バケット4も操舵ダクト3の旋回と連動して同じ軌道で旋回させることができる。
【0052】
このように、本実施形態では、前後進用シリンダ53とリンクロッド54との間に二軸継手7を設けることで、中立時と旋回時でロッド長さ(本実施形態では前後進用シリンダ53の基端部53bからリンクロッド54の後端部54bまでの長さ)の差を小さく抑えることができる。
そのため、本実施形態では、操舵ダクト3の旋回時に前後進切替バケット4を駆動する前後進用シリンダ53とリンクロッド54に作用するモーメントを小さくすることができ、かつ中立時と旋回時における駆動ロッドの長さの差が大きいときのように前後進切替バケット4に負荷がかかることがなくなり、前進時における前後進切替バケット4のばたつきを抑えることができ、船体の振動や騒音を防止できる。
【0053】
また、本実施形態による前後進操舵装置1では、リンクロッド54は旋回軸C1の延長線上に重なる縦ピン73を回転軸として旋回し、前後進用シリンダ53の伸縮によってリンクロッド54を介して前後進切替バケット4の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0054】
さらに本実施形態では、切り替え動作をする前後進切替バケット4をリンクロッド54のみでなく連結アーム6によって支持することができる。そのため、切り替え時の前後進切替バケット4の振れやばたつきを抑制した安定した支持力が得られる利点がある。
【0055】
また、本実施形態では、図1及び図4に示すように、船体後壁11より後方に配置される前後進用シリンダ53のロッド先端53aが船体後壁11に形成される支持開口よりも小さい断面形状となるので、前後進用シリンダ53を支持開口より船内側に引き抜くことが可能となる。そのため、前後進用シリンダ53を取り外してメンテナンスすることを容易に行うことができる。
【0056】
このように本実施形態による前後進操舵装置1では、前進時における前後進切替バケット4のばたつきを抑えることができる。
【0057】
以上、本発明による前後進操舵装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0058】
例えば、本実施形態では、二軸継手7が連結アーム6における第1アーム61の横部材64に設けられているが、この部材であることに限定されることはなく、操舵ダクト3の他の部位に設けられていてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、一端が二軸継手7に連結され、他端が前後進切替バケット4に連結された連結アーム6を設ける構成としているが、連結アーム6を省略することも可能である。連結アーム6を省略した場合には、例えば操舵ダクト3の上部に二軸継手7を設け、その二軸継手7に対してリンクロッド54を連結する構成にできる。
【0060】
さらに二軸継手7の縦ピン73の位置は、前進時の縦ピン73が旋回軸C1と重なる範囲Rであればいずれの位置であってもかまわない。
【0061】
さらに、本実施形態では、操舵用シリンダ51、52、及び前後進用シリンダ53のロッド先端51a、52a、53aが船体後壁11に形成された支持開口11bよりも小さい断面形状に設定されているが、これに限定されることはない。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 前後進操舵装置
2 ノズル
3 操舵ダクト
3a 後方開口部
3b 下方開口部
4 前後進切替バケット
5 駆動装置
6 連結アーム
7 二軸継手
31 上軸部材
32 下軸部材
33 後方突出部
34 下方突出部
35 整流部
41 フラップ部材
42 連結部材
51、52 操舵用シリンダ
51a、52a ロッド先端
53 前後進用シリンダ(駆動ロッド、第1駆動ロッド)
53a ロッド先端
54 リンクロッド(駆動ロッド、第2駆動ロッド)
55 ロッド支持板
55a 球面座
71 横ピン(横軸)
72 第1継手
73 縦ピン(縦軸)
74 第2継手
C1 旋回軸
C2 回動軸
C3 第1回転軸
C4 第2回転軸
T0 中立位置
T1 左旋回位置
T2 右旋回位置
P1 第1位置
P2 第2位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9