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特許7195980超伝導磁石装置、サイクロトロン、および超伝導磁石装置の再起動方法
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  • 特許-超伝導磁石装置、サイクロトロン、および超伝導磁石装置の再起動方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】超伝導磁石装置、サイクロトロン、および超伝導磁石装置の再起動方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/04 20060101AFI20221219BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20221219BHJP
   H05H 13/00 20060101ALI20221219BHJP
   H01L 39/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01F6/04
H05H7/04
H05H13/00
H01L39/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019042679
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020145371
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴留 武尚
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-252380(JP,A)
【文献】特開平8-125241(JP,A)
【文献】特開2018-71962(JP,A)
【文献】特開2002-200055(JP,A)
【文献】国際公開第2015/79921(WO,A1)
【文献】特開2004-138283(JP,A)
【文献】特表2012-526358(JP,A)
【文献】特開2000-249055(JP,A)
【文献】特開2005-308632(JP,A)
【文献】特開2019-4028(JP,A)
【文献】特開2016-25059(JP,A)
【文献】特開平6-221496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 22/00 -22/04
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/28 -33/64
H01F 6/00 - 6/06
H01L 39/02 -39/04
H01L 39/14 -39/16
H01L 39/20
H05H 3/00 -15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを伝導冷却により冷却する極低温冷凍機を備え、前記超伝導コイルを収容するクライオスタットと、
前記クライオスタットを真空排気する真空排気系と、
前記極低温冷凍機によって冷却される部位の測定温度または前記クライオスタット内の測定圧力を示す測定信号を生成するセンサと、
前記超伝導コイルの動作停止中に前記測定信号に基づいて前記クライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化を検知し、検知された前記クライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化に応答して、前記クライオスタットを真空排気するように前記真空排気系に制御信号を出力する制御部と、を備えることを特徴とする超伝導磁石装置。
【請求項2】
前記測定信号は、前記極低温冷凍機によって冷却される部位の測定温度を示すものであり、
前記制御部は、前記測定温度を第1温度しきい値と比較し、前記測定温度が前記第1温度しきい値より高い場合に前記クライオスタットの真空排気を開始するように前記真空排気系を制御することを特徴とする請求項1に記載の超伝導磁石装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記測定温度を第2温度しきい値と比較し、前記測定温度が前記第2温度しきい値より低い場合に前記クライオスタットの真空排気を終了するように前記真空排気系を制御し、前記第2温度しきい値は、前記第1温度しきい値より低いことを特徴とする請求項2に記載の超伝導磁石装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の超伝導磁石装置を備えることを特徴とするサイクロトロン。
【請求項5】
超伝導磁石装置の再起動方法であって、前記超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、前記超伝導コイルを伝導冷却により冷却する極低温冷凍機を備え、前記超伝導コイルを収容するクライオスタットと、前記クライオスタットを真空排気する真空排気系と、前記極低温冷凍機によって冷却される部位の測定温度または前記クライオスタット内の測定圧力を示す測定信号を生成するセンサと、を備えており、前記再起動方法は、
前記超伝導コイルの動作停止中に前記測定信号に基づいて前記クライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化を検知することと、
検知された前記クライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化に応答して、前記クライオスタットを真空排気するように前記真空排気系に制御信号を出力することと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石装置、サイクロトロン、および超伝導磁石装置の再起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導磁石装置は、例えばサイクロトロンなどの加速器、そのほか種々の装置に搭載され利用されている。超伝導磁石装置は動作させるために極低温に冷却されるが、大きく2つの冷却方式がある。1つは、超伝導コイルを液体ヘリウムなどの極低温冷媒に浸して冷却するものであり、浸漬冷却とも称される。もう1つの方式では、極低温冷媒は使用されない。超伝導コイルは、たとえばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機などの極低温冷凍機で直接冷却される。これは、伝導冷却とも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-69030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、超伝導磁石装置の再起動について検討したところ、以下の課題を認識するに至った。超伝導磁石装置が励磁電源の偶発的な遮断など何らかの異常により動作を停止した場合、その原因が解消されれば、超伝導磁石装置は再起動される。伝導冷却式の超伝導磁石装置の再起動にあたって、超伝導コイルは極低温冷凍機を用いて目標冷却温度に再冷却される。しかしながら、このとき、超伝導コイルの再冷却にかなり長い時間を要するか、または、超伝導コイルを目標冷却温度まで冷却できず、超伝導磁石装置の再起動を完了できないケースが起こりうることを本発明者らは見出した。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導磁石装置の再起動を容易にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルを伝導冷却により冷却する極低温冷凍機を備え、超伝導コイルを収容するクライオスタットと、クライオスタットを真空排気する真空排気系と、極低温冷凍機によって冷却される部位の測定温度またはクライオスタット内の測定圧力を示す測定信号を生成するセンサと、超伝導コイルの動作停止中に測定信号に基づいてクライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化を検知し、検知されたクライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化に応答して、クライオスタットを真空排気するように真空排気系に制御信号を出力する制御部と、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、サイクロトロンは、上述の超伝導磁石装置を備える。
【0008】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置の再起動方法が提供される。超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルを伝導冷却により冷却する極低温冷凍機を備え、超伝導コイルを収容するクライオスタットと、クライオスタットを真空排気する真空排気系と、極低温冷凍機によって冷却される部位の測定温度またはクライオスタット内の測定圧力を示す測定信号を生成するセンサと、を備える、再起動方法は、超伝導コイルの動作停止中に測定信号に基づいてクライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化を検知することと、検知されたクライオスタット内の温度上昇または真空度の劣化に応答して、クライオスタットを真空排気するように真空排気系に制御信号を出力することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超伝導磁石装置の再起動を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る超伝導磁石装置およびサイクロトロンを示す概略断面図である。
図2】実施の形態に係る超伝導磁石装置の再起動方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係る超伝導磁石装置およびサイクロトロンを示す概略断面図である。サイクロトロン100は、荷電粒子を加速して荷電粒子ビームを出力する円形加速器である。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)、電子などが挙げられる。荷電粒子は、イオン源(図示せず)から供給される。サイクロトロン100は、例えば荷電粒子線治療用の加速器として用いられる。
【0014】
サイクロトロン100は、超伝導磁石装置10、ヨーク102、一対のポール104を備える。超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12と、極低温冷凍機16を有するクライオスタット14と、励磁電源装置(以下、単に電源ともいう)18と、真空排気系20と、センサ22と、制御部24とを備える。
【0015】
以下の説明では、サイクロトロン100の中心軸(すなわち超伝導磁石装置10の中心軸)Cが上下方向に延在する姿勢(横置きの姿勢)で配置された例について説明する。構成要素どうしの位置関係を説明するために、「上」、「下」、「左」、「右」といった表現を使用することがあるが、これはサイクロトロン100が特定の姿勢で配置されなければならないことを意味しない。サイクロトロン100は、例えば中心軸Cが水平方向に延在する姿勢(縦置きの姿勢)で配置されてもよい。
【0016】
超伝導コイル12は、円環状の形状を有し、その中心軸を中心軸Cと一致させるようにしてクライオスタット14内に配置されている。超伝導コイル12は、二個の空芯コイルと金属製のコイル支持枠13を有する。二個の空芯コイルは中心軸Cの方向に並置され、それぞれコイル支持枠13に取り付けられて一体的に支持されている。コイル支持枠13は、上側の空芯コイルの上部に取り付けられた上部フランジと、二個の空芯コイルに挟まれた中央フランジと、下側の空芯コイルに下部に取り付けられた下部フランジとを有する。また、超伝導コイル12は、一対の支持体26によってクライオスタット14に支持される。一対の支持体26は、超伝導コイル12を挟むように上下に配置され、それぞれコイル支持枠13の上部フランジと下部フランジに取り付けられている。
【0017】
クライオスタット14は、超伝導コイル12を超伝導状態とするための環境を提供する真空容器である。クライオスタット14は、中空円環状の形状を有し、中心軸Cと同軸配置され、内部に超伝導コイル12を収容する。
【0018】
ヨーク102は、中空の円盤型ブロックであり、その内部にクライオスタット14が配置される。ヨーク102内におけるクライオスタット14の位置は、クライオスタット14が配置された穴を塞ぐように差し込まれたブロック体102aにより維持される。また、一対のポール104は、クライオスタット14の空芯部位(超伝導コイル12の空芯部位)に配置される。一対のポール104間の空間Gには、図示しない一対のディー電極(加速電極)が配置される。
【0019】
極低温冷凍機16は、クライオスタット14に設置され、超伝導コイル12を伝導冷却により冷却するように超伝導コイル12に熱的に結合されている。例えば、極低温冷凍機16の低温部がコイル支持枠13(例えば下部フランジ)に直接取り付けられ、または適宜の伝熱部材を介して接続されており、極低温冷凍機16は、超伝導コイル12が直接的に冷却する。超伝導磁石装置10においては、超伝導コイル12の冷却に液体ヘリウムなどの極低温冷媒は使用されない。クライオスタット14には典型的に、複数台の極低温冷凍機16が設置されるが、図においては簡単のため1台のみを示している。
【0020】
極低温冷凍機16は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機16の冷凍サイクルが構成され、それにより低温部が所望の極低温に冷却される。極低温冷凍機16は、一例として、単段式または二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0021】
電源18は、電流導入ライン19を介して超伝導コイル12に接続される。電流導入ライン19は、超伝導材料からなる超伝導電流リード、および例えば銅などその他の導電部材を有する。電源18は、制御部24に通信可能に接続されている。
【0022】
真空排気系20は、クライオスタット14を真空排気するように構成されている。真空排気系20は、真空ポンプ20a、真空バルブ20b、真空計20cを有し、クライオスタット14の接続ポート21に接続されている。接続ポート21は、真空バルブ20bとは別の真空バルブを有してもよい。超伝導磁石装置10の動作時には、接続ポート21の真空バルブが閉鎖され、それによりクライオスタット14内部の真空が保持されてもよい。
【0023】
真空ポンプ20aは、ポンプ制御信号S1に従って動作するように構成されている。真空ポンプ20aは、制御部24に通信可能に接続され、ポンプ制御信号S1は、制御部24から真空ポンプ20aに入力される。例えば、真空ポンプ20aは、ポンプ制御信号S1を受け、それに応じて動作を開始し、または動作を停止する。すなわち、ポンプ制御信号S1は、真空ポンプ20aのオンとオフを切り替えるものであってもよい。真空ポンプ20aは、例えば、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ、またはそのほか適切な真空ポンプであり、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0024】
真空バルブ20bは、バルブ制御信号S2に従って動作するように構成されている。真空バルブ20bは、制御部24に通信可能に接続され、バルブ制御信号S2は、制御部24から真空バルブ20bに入力される。例えば、真空バルブ20bは、オンオフバルブであってもよく、バルブ制御信号S2を受け、それに応じて開放され、または閉鎖される。したがって、真空排気系20は、真空ポンプ20aと真空バルブ20bが両方ともオンのときクライオスタット14の真空排気をすることができる。
【0025】
真空計20cは、真空排気系20の圧力を測定するように構成されている。真空計20cは、例えば、真空ポンプ20aを真空バルブ20bに接続する真空排気流路または真空配管に設置され、その圧力を測定することができる。ただし、真空計20cは、例えば真空バルブ20bを接続ポート21に接続する真空排気流路または真空配管、または真空排気系20のその他の場所に設置されてもよい。あるいは、真空計20cは、クライオスタット14の内部に設置され、クライオスタット14の内部の圧力を測定してもよい。
【0026】
必要とされる場合には、真空計20cは、測定圧力(例えば、真空排気系20の圧力、またはクライオスタット14内の圧力)を示す測定信号を生成し、当該測定信号を制御部24に出力してもよい。
【0027】
センサ22は、クライオスタット14の内部状態を示す測定信号S3を生成するように構成されている。センサ22は、測定信号S3を制御部24に出力するように制御部24に通信可能に接続されている。
【0028】
一例として、センサ22は、温度センサであってもよく、測定信号S3は、極低温冷凍機16によって冷却される部位の測定温度を示すものであってもよい。センサ22は、超伝導コイル12の表面に取り付けられ、または超伝導コイル12の内部に埋め込まれていてもよい。例えば、センサ22は、コイル支持枠13の表面に取り付けられている。
【0029】
センサ22の設置場所は、極低温冷凍機16によって冷却される部位であれば、種々ありうる。例えば、センサ22は、極低温冷凍機16の低温部、または低温部を超伝導コイル12に接続する伝熱部材に設置されてもよい。センサ22は、クライオスタット14に設置されてもよく、例えば、超伝導コイル12を包囲するクライオスタット14の熱シールド板に取り付けられてもよい。
【0030】
制御部24は、センサ22からの測定信号S3を受け、測定信号S3に基づいて真空排気系20を制御するように構成されている。制御部24は、測定信号S3に基づいて、ポンプ制御信号S1、バルブ制御信号S2、またはその両方を生成し、制御信号を真空排気系20に出力する。
【0031】
制御部24は、電源18の状態を監視するように構成されていてもよい。電源18は、電源状態信号S4を生成し、電源状態信号S4を制御部24に出力してもよい。電源状態信号S4は、電源18の電圧異常及び/または電源18の遮断を示すものであってもよい。また、制御部24は、電源18を制御するように構成されていてもよい。電源18は、制御部24からの指令に従って超伝導コイル12に電流を流し、それにより超伝導コイル12は磁場を発生させる。
【0032】
制御部24は、入力信号S5を受け、入力信号S5に基づいて超伝導磁石装置10(およびサイクロトロン100)を制御するように構成されていてもよい。入力信号S5は、ユーザからの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段がユーザによって操作されることによって生成され、及び/または、制御部24と通信可能に接続された他の機器によって生成されうる。
【0033】
例えば、入力信号S5は、超伝導磁石装置10の再起動を指示する制御信号であってもよい。何らかの異常により超伝導磁石装置10が動作停止した場合、その原因が解消されたとき例えばユーザの操作に基づいて入力信号S5が制御部24に入力されてもよい。制御部24は、入力信号S5に応答して、超伝導磁石装置10の再起動を開始してもよい。
【0034】
また、制御部24は、超伝導磁石装置10(およびサイクロトロン100)の制御に関連するデータを記憶するよう構成され、例えば、半導体メモリまたはその他のデータ記憶媒体を備えてもよい。
【0035】
制御部24は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0036】
超伝導磁石装置10においては、真空状態のクライオスタット14内の超伝導コイル12が極低温冷凍機16により冷却され、超伝導コイル12に電源18から電流を流すことにより強力な磁場が形成される。サイクロトロン100には、イオン源(不図示)から荷電粒子が供給され、荷電粒子は一対のポール104及びディー電極(不図示)の働きにより加速される。それにより、サイクロトロン100から荷電粒子ビームが出力される。
【0037】
ところで、超伝導コイル12が電源18の偶発的な遮断など何らかの異常により動作を停止した場合、超伝導コイル12およびこれを収容したクライオスタット14の温度が上昇しうる。昇温の一因は、とりわけ伝導冷却式の超伝導磁石装置10では、極低温冷凍機16も同様に動作を停止し、超伝導コイル12が冷却源を喪失しうることにある。加えて、電源遮断の瞬間には急激に電流が変動し、超伝導コイル12内部の金属部材(例えばコイル支持枠13)に渦電流が発生し、その結果ジュール熱が発生しうる。これも超伝導コイル12およびクライオスタット14を昇温させうる。
【0038】
超伝導コイル12の動作中にはクライオスタット14は極低温に冷却されているから、クライオスタット14内の各部にガス分子が吸着され捕捉されている。超伝導コイル12の動作停止後にクライオスタット14の温度が(例えば50K以上に)上昇すれば、吸着されていたガス分子が放出されてクライオスタット14内の真空度が低下しうる。
【0039】
伝導冷却式の超伝導磁石装置10の再起動にあたって、超伝導コイル12は、動作の再開が許容される目標冷却温度まで極低温冷凍機16を用いて再冷却される。しかし、クライオスタット14内の真空度が低下したとすると、超伝導コイル12は再冷却されにくくなる。なぜなら、真空度の低下はクライオスタット14の真空断熱性能を低下させ、それにより周囲環境からクライオスタット14内部の入熱が増加しうるからである。そのため、超伝導コイル12の再冷却にかなり長い時間を要することになるかもしれない。あるいは、外部からの入熱が極低温冷凍機16の冷凍能力を超えてしまったとすると、超伝導コイル12を目標冷却温度まで冷却することができず、超伝導磁石装置10の再起動を完了できない可能性もある。
【0040】
そこで、本実施の形態に係る超伝導磁石装置10の再起動では、制御部24は、超伝導コイル12の動作停止中におけるクライオスタット14の内部状態に基づいて、クライオスタット14の真空度を回復させるように真空排気系20を制御する。例えば、制御部24は、超伝導コイル12の動作停止中に測定信号S3に基づいてクライオスタット14内の温度上昇または真空度の劣化を検知し、検知されたクライオスタット14内の温度上昇または真空度の劣化に応答して、クライオスタット14を真空排気するように真空排気系20に制御信号(S1,S2)を出力する。
【0041】
図2は、実施の形態に係る超伝導磁石装置の再起動方法を示すフローチャートである。まず、超伝導磁石装置10の再起動の準備として、電源18が復旧し正常に動作可能であることが確認される。制御部24は、電源状態信号S4に基づいて、電源18が正常に動作可能であることを確認してもよい。また、極低温冷凍機16による超伝導コイル12の冷却が再開される。超伝導コイル12は、依然として動作停止中である。
【0042】
図2に示されるように、超伝導磁石装置10の再起動処理が開始されると、クライオスタット14内の温度が測定される(S10)。センサ22は、その設置場所の温度を測定し、測定温度を示す測定信号S3を生成し制御部24に出力する。制御部24は、測定信号S3を取得する。
【0043】
次に、制御部24は、測定信号S3に基づいて測定温度を第1温度しきい値T1と比較する(S12)。第1温度しきい値T1は、クライオスタット14内の温度上昇の有無を判定するために設定された温度値である。例えば、第1温度しきい値T1は、クライオスタット14内に吸着されたガス分子が再放出されうる温度(例えば約50K)またはそれより高い温度に設定される。第1温度しきい値T1は、例えば、50Kから60Kの範囲から選択されてもよい。このようにして、超伝導コイル12の動作停止中に測定信号S3に基づいてクライオスタット14内の温度上昇が検知される。
【0044】
制御部24は、測定温度が第1温度しきい値T1より高い場合(S12のY)、クライオスタット14の真空排気を開始するように真空排気系20を制御する(S14)。制御部24は、真空ポンプ20aをオンにするポンプ制御信号S1を生成し、真空ポンプ20aに出力する。また、制御部24は、真空バルブ20bをオンにする(すなわち開く)バルブ制御信号S2を生成し、真空バルブ20bに出力する。こうして、真空排気系20は、クライオスタット14の真空排気を開始する。
【0045】
クライオスタット14内の温度が再び測定される(S16)。制御部24は、測定信号S3に基づいて測定温度を第2温度しきい値T2と比較する(S18)。第2温度しきい値T2は、第1温度しきい値T1より低い温度値とされ、例えば、10Kから40Kの範囲から選択されてもよい。
【0046】
測定温度が第2温度しきい値T2より高い場合(S18のN)、クライオスタット14の真空排気は継続される。すなわち、真空ポンプ20aと真空バルブ20bはともにオンのままとされる。
【0047】
制御部24は、測定温度が第2温度しきい値T2以下の場合(S18のY)、クライオスタット14の真空排気を終了するように真空排気系20を制御する(S20)。制御部24は、真空ポンプ20aをオフにするポンプ制御信号S1を生成し、真空ポンプ20aに出力する。また、制御部24は、真空バルブ20bをオフにする(すなわち閉じる)バルブ制御信号S2を生成し、真空バルブ20bに出力する。こうして、真空排気系20は、クライオスタット14の真空排気を終了する。
【0048】
なお、第1温度しきい値T1および第2温度しきい値T2は、予め設定され、制御部24に保存されている。これら温度しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0049】
一方、測定温度が第1温度しきい値T1以下の場合(S12のN)、制御部24は、真空排気系20を作動させない。この場合、クライオスタット14内の温度上昇は、クライオスタット14内に吸着されたガス分子が再放出されるほど大きくない。よって、クライオスタット14の真空排気を行う必要がない。
【0050】
クライオスタット14の真空排気が終了すると、制御部24は、超伝導コイル12およびクライオスタット14が目標冷却温度に冷却されるまで待機する。例えば、超伝導コイル12は、約4Kから6Kの目標冷却温度に冷却される。制御部24は、センサ22からの測定信号S3に基づいて目標冷却温度まで再冷却されたことを確認し、電源18を再び動作させ、超伝導コイル12に磁場を発生させる。こうして、超伝導磁石装置10の動作は再開され、再起動は完了する。
【0051】
以上説明したように、超伝導磁石装置10の再起動方法は、超伝導コイル12の動作停止中に測定信号S3に基づいてクライオスタット14内の温度上昇を検知することと、検知されたクライオスタット14内の温度上昇に応答して、クライオスタット14を真空排気するように真空排気系20に制御信号(S1,S2)を出力することと、を備える。
【0052】
したがって、実施の形態によれば、超伝導コイル12が電源18の偶発的な遮断など何らかの異常により動作を停止した場合に、超伝導コイル12およびクライオスタット14の温度が上昇したとしても、クライオスタット14の真空排気と超伝導コイル12の再冷却を自動的に行って、超伝導磁石装置10の再起動を完了することができる。
【0053】
サイクロトロン100のように放射線の発生源となりうる装置に関しては、その設置場所および周囲に人の立ち入りを禁止または制限するエリアが定められ、超伝導磁石装置10はそうしたエリア内に配置されうる。このような場合、超伝導磁石装置10を復旧させるために作業者が安易に超伝導磁石装置10にアクセスできず、手動で超伝導磁石装置10を再起動させることができないかもしれない。
【0054】
しかしながら、実施の形態によれば、超伝導磁石装置10の再起動を自動的に実行することができるので、超伝導磁石装置10が立入制限エリアに設置されていても、復旧させることが容易であり、便利である。
【0055】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0056】
上述の実施の形態では、センサ22は、温度センサであるが、これに代えて、センサ22は、クライオスタット内の測定圧力を示す測定信号S3を生成する真空計または圧力センサであってもよい。制御部24は、超伝導コイル12の動作停止中にセンサ22からの測定信号S3に基づいてクライオスタット14内の真空度の劣化を検知し、検知されたクライオスタット14内の真空度の劣化に応答して、クライオスタット14を真空排気するように真空排気系20に制御信号(S1,S2)を出力してもよい。
【0057】
制御部24は、センサ22による測定圧力を第1圧力しきい値と比較し、測定圧力が第1圧力しきい値より高い場合にクライオスタット14の真空排気を開始するように真空排気系20を制御してもよい。制御部24は、測定圧力を第2圧力しきい値と比較し、測定圧力が第2圧力しきい値より低い場合にクライオスタット14の真空排気を終了するように真空排気系20を制御してもよい。第2圧力しきい値は、第1圧力しきい値より低くてもよい。
【0058】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0059】
10 超伝導磁石装置、 12 超伝導コイル、 14 クライオスタット、 16 極低温冷凍機、 20 真空排気系、 22 センサ、 24 制御部、 100 サイクロトロン、 S1 ポンプ制御信号、 S2 バルブ制御信号、 S3 測定信号。
図1
図2