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特許7195993パルス波形探索装置、パルス波形探索方法、パルスアーク溶接装置、及びパルスアーク溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】パルス波形探索装置、パルス波形探索方法、パルスアーク溶接装置、及びパルスアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20221219BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/095 501A
B23K9/095 515B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019060339
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157347
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】大根 努
(72)【発明者】
【氏名】和田 尭
(72)【発明者】
【氏名】石崎 圭人
(72)【発明者】
【氏名】矢野 猛
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-028775(JP,A)
【文献】特開2018-147087(JP,A)
【文献】特開2018-138308(JP,A)
【文献】特開2012-236267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/09
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を探索する装置であって、
前記パルス波形を表す波形情報を生成する生成処理を実行する生成部と、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得処理を実行する取得部と、
データを保存するための記憶部と、
前記生成部および前記取得部に、前記生成処理および前記取得処理を、この順番で繰り返して実行させ、前記生成処理で生成された前記波形情報と前記取得処理で取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて前記記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理部と、
を備え、
前記生成部は、前記生成処理において前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理部は、所定の終了条件が満たされると、前記生成処理および前記取得処理の実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力する、
パルス波形探索装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記生成処理毎に、前記波形情報を前記設計変数とし、前記スパッタ量を応答変数とし、前記応答変数が確率分布で表される関数からなる第1予測モデルを機械学習により求め、前記第1予測モデルにより前記スパッタ量の予測値を求める、
請求項1に記載のパルス波形探索装置。
【請求項3】
前記生成部は、ベイズ最適化により前記第1予測モデルから第1獲得関数を求め、前記第1獲得関数に基づき、前記スパッタ量が低減される前記波形情報を表す設計変数を探索する、
請求項2に記載のパルス波形探索装置。
【請求項4】
前記生成部は、さらに、前記パルスアーク溶接が実行されたときのビード形状を表す形状情報を求め、
前記繰返し処理部は、
前記保存処理では、前記波形情報と前記スパッタ量と取得された前記形状情報とを互いに対応付けて前記記憶部に保存し、
前記所定の終了条件が満たされると、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、所定の形状条件を満たす前記形状情報に対応付けられた波形情報のなかで最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力する、
請求項に記載のパルス波形探索装置。
【請求項5】
前記生成部は、前記生成処理毎に、さらに、前記波形情報を前記設計変数とし、前記形状情報を応答変数とし、前記応答変数が確率分布で表される関数からなる第2予測モデルを機械学習により求め、前記第2予測モデルに基づき求められる前記形状情報が所定の形状条件を満たす確率と前記第1獲得関数とから構成される第2獲得関数をベイズ最適化に
より求め、前記第2獲得関数に基づき前記設計変数を探索する、
請求項4に記載のパルス波形探索装置。
【請求項6】
パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を探索する方法であって、
前記パルス波形を表す波形情報を生成する生成ステップと、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得ステップと、
前記生成ステップおよび前記取得ステップを、この順番で繰り返して実行させ、前記生成ステップで生成された前記波形情報と前記取得ステップで取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理ステップと、
を備え、 前記生成ステップは、前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理ステップは、所定の終了条件が満たされると、前記生成ステップおよび
前記取得ステップの実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、
最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力する、
パルス波形探索方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のパルス波形探索装置と、
所定材料の溶接ワイヤを用いて前記パルスアーク溶接を実行する溶接部と、
を備え、
前記取得部は、前記溶接部により前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を計測して取得する、
パルスアーク溶接装置。
【請求項8】
パルスアーク溶接により溶接するパルスアーク溶接方法であって、
前記パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を表す波形情報を生成する生成ステップと、
所定材料の溶接ワイヤを用いて前記パルスアーク溶接を実行する溶接ステップと、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記溶接ステップで前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得ステップと、
前記生成ステップおよび前記取得ステップを、この順番で繰り返して実行させ、前記生成ステップで生成された前記波形情報と前記取得ステップで取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理ステップと、
を備え、
前記取得ステップは、前記溶接ステップで前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を計測して取得し、
前記生成ステップは、前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理ステップは、所定の終了条件が満たされると、前記生成ステップおよび前記取得ステップの実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力する、
パルスアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスアーク溶接におけるパルス波形を求める技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスアーク溶接では、溶接ワイヤのスパッタ量を低減して安定した溶接を行うために、スパッタ量が低減されるようなパルス波形を生成することが望まれている。パルス波形は、例えば、ピーク電流値、ピーク時間、ベース電流値及びベース時間によって特定することができる。例えば特許文献1に記載の技術では、スパッタ量が低減されるようなピーク電流値、ピーク時間、ベース電流値及びベース時間の範囲が、それぞれ求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3300157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、多数の実験を行いながら、熟練の作業によって、スパッタ量が低減されるパルス波形が求められている。このため、スパッタ量が低減されるパルス波形を求めるために、非常に大きな労力(工数)が必要となっている。
【0005】
また、上記特許文献1に記載の技術では、スパッタ量が低減されるようなピーク電流値、ピーク時間、ベース電流値及びベース時間の範囲として、それぞれ、比較的広い範囲が求められている。ここで、実際に溶接を実行する際には、上記範囲から選択された特定の値に固定されることになる。しかしながら、上記範囲が比較的広いため、この範囲内でパルス波形を変化させると、スパッタ量は少なからず増減する。そのなかから、スパッタ量が低減するパルス波形を一意に選び出すためには、熟練の作業が必要となる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、スパッタ量が、より低減されるようなパルス波形を探索する工数の低減が可能なパルス波形探索装置、パルス波形探索方法、パルスアーク溶接装置、及びパルスアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様は、
パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を探索する装置であって、
前記パルス波形を表す波形情報を生成する生成処理を実行する生成部と、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得処理を実行する取得部と、
データを保存するための記憶部と、
前記生成部および前記取得部に、前記生成処理および前記取得処理を、この順番で繰り返して実行させ、前記生成処理で生成された前記波形情報と前記取得処理で取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて前記記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理部と、
を備え、
前記生成部は、前記生成処理において前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理部は、所定の終了条件が満たされると、前記生成処理および前記取得処理の実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力するものである。
【0008】
本発明の第2態様は、
パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を探索する方法であって、
前記パルス波形を表す波形情報を生成する生成ステップと、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得ステップと、
前記生成ステップおよび前記取得ステップを、この順番で繰り返して実行させ、前記生成ステップで生成された前記波形情報と前記取得ステップで取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理ステップと、
を備え、
前記生成ステップは、前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理ステップは、所定の終了条件が満たされると、前記生成ステップおよび前記取得ステップの実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力するものである。
【0009】
この第1態様及び第2態様では、パルス波形を表す波形情報が生成され、生成された波形情報により表されるパルス波形を用いてパルスアーク溶接が実行され、溶接実行時に発生したスパッタ量が取得される。パルス波形の生成およびスパッタ量の取得が、この順番で繰り返され、生成された波形情報と取得されたスパッタ量とが、互いに対応付けられて記憶部に、繰り返して保存される。波形情報が新たに生成される際に、既に記憶部に保存されている波形情報をそれぞれ設計変数としたときのスパッタ量の予測値が求められ、求められた予測値からスパッタ量が低減するような波形情報を表す設計変数が探索され、探索された設計変数で表される波形情報が生成される。所定の終了条件が満たされると、パルス波形の生成およびスパッタ量の取得が終了し、記憶部に保存されている波形情報のうち、最小のスパッタ量に対応付けられた波形情報が抽出されて出力される。このように、既に記憶部に保存されている波形情報をそれぞれ設計変数としたときのスパッタ量の予測値から、スパッタ量が低減するような波形情報を表す設計変数が探索されているため、スパッタ量が、より低減されるパルス波形を探索する工数の低減が可能になる。
【0010】
上記第1態様において、例えば、
前記生成部は、前記生成処理毎に、前記波形情報を前記設計変数とし、前記スパッタ量を応答変数とし、前記応答変数が確率分布で表される関数からなる第1予測モデルを機械学習により求め、前記第1予測モデルにより前記スパッタ量の予測値を求めてもよい。
【0011】
この態様では、生成処理毎に、波形情報を設計変数とし、スパッタ量を応答変数とし、応答変数が確率分布で表される関数からなる第1予測モデルが機械学習により求められ、第1予測モデルによりスパッタ量の予測値が求められる。したがって、この態様によれば、機械学習により求められた第1予測モデルを用いることによって、その時点までに取得されたスパッタ量より少ないスパッタ量となる波形情報を求めることが可能になる。
【0012】
上記第1態様において、例えば、
前記生成部は、ベイズ最適化により前記第1予測モデルから第1獲得関数を求め、前記第1獲得関数に基づき、前記スパッタ量が低減される前記波形情報を表す設計変数を探索してもよい。
【0013】
この態様では、ベイズ最適化により第1予測モデルから第1獲得関数が求められ、第1獲得関数に基づき、スパッタ量が低減される波形情報を表す設計変数が探索される。このため、この態様によれば、生成処理および取得処理の繰り返し回数を低減することができる。
【0014】
上記第1態様において、例えば、
前記生成部は、さらに、前記パルスアーク溶接が実行されたときのビード形状を表す形状情報を求め、
前記繰返し処理部は、
前記保存処理では、前記波形情報と前記スパッタ量と取得された前記形状情報とを互いに対応付けて前記記憶部に保存し、
前記所定の終了条件が満たされると、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、所定の形状条件を満たす前記形状情報に対応付けられた波形情報のなかで最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力してもよい。
【0015】
この態様では、取得処理において、さらに、パルスアーク溶接が実行されたときのビード形状を表す形状情報が取得される。保存処理では、生成された波形情報と取得されたスパッタ量と取得された形状情報とが、互いに対応付けられて記憶部に保存される。所定の終了条件が満たされると、記憶部に保存されている波形情報のうち、所定の形状条件を満たす形状情報に対応付けられた波形情報のなかで最小のスパッタ量に対応付けられた波形情報が抽出されて出力される。単に、最小のスパッタ量に対応付けられた波形情報では、良好に溶接されない波形情報も含んでしまう可能性がある。これに対して、この態様によれば、形状情報が所定の形状条件を満たすという制約が付加されているので、形状情報が所定の形状条件を満たさない波形情報、つまり良好に溶接されない波形情報を除外することができる。
【0016】
上記第1態様において、例えば、
前記生成部は、前記生成処理毎に、さらに、前記波形情報を前記設計変数とし、前記形状情報を応答変数とし、前記応答変数が確率分布で表される関数からなる第2予測モデルを機械学習により求め、前記第2予測モデルに基づき求められる前記形状情報が所定の形状条件を満たす確率と前記第1獲得関数とから構成される第2獲得関数をベイズ最適化により求め、前記第2獲得関数に基づき前記設計変数を探索してもよい。
【0017】
この態様では、生成処理毎に、さらに、波形情報を設計変数とし、形状情報を応答変数とし、応答変数が確率分布で表される関数からなる第2予測モデルが機械学習により求められ、第2予測モデルに基づき求められる形状情報が所定の形状条件を満たす確率と第1獲得関数とから構成される第2獲得関数がベイズ最適化により求められ、第2獲得関数に基づき設計変数が探索される。したがって、この態様によれば、生成処理および取得処理の繰り返し回数を低減することができる。
【0018】
本発明の第3態様は、
上記態様のパルス波形探索装置と、
所定材料の溶接ワイヤを用いて前記パルスアーク溶接を実行する溶接部と、を備え、
前記取得部は、前記溶接部により前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を計測して取得するものである。
【0019】
本発明の第4態様は、
パルスアーク溶接により溶接するパルスアーク溶接方法であって、
前記パルスアーク溶接に用いられるパルス波形を表す波形情報を生成する生成ステップと、
所定材料の溶接ワイヤを用いて前記パルスアーク溶接を実行する溶接ステップと、
生成された前記波形情報により表されるパルス波形を用いて前記溶接ステップで前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を取得する取得ステップと、
前記生成ステップおよび前記取得ステップを、この順番で繰り返して実行させ、前記生成ステップで生成された前記波形情報と前記取得ステップで取得された前記スパッタ量とを互いに対応付けて記憶部に保存する保存処理を繰り返して実行する繰返し処理ステップと、
を備え、
前記取得ステップは、前記溶接ステップで前記パルスアーク溶接が実行されたときに発生したスパッタ量を計測して取得し、
前記生成ステップは、前記波形情報を新たに生成する際に、既に前記記憶部に保存されている前記波形情報をそれぞれ設計変数としたときの前記スパッタ量の予測値を求め、求めた前記予測値から前記スパッタ量が低減するような前記波形情報を表す設計変数を探索し、探索された設計変数で表される波形情報を生成し、
前記繰返し処理ステップは、所定の終了条件が満たされると、前記生成ステップおよび前記取得ステップの実行を終了させ、前記記憶部に保存されている前記波形情報のうち、最小の前記スパッタ量に対応付けられた波形情報を抽出して出力するものである。
【0020】
この第3態様及び第4態様によれば、所定材料の溶接ワイヤに適切なパルス波形を用いて、スパッタ量が、より低減されたパルスアーク溶接を実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スパッタ量が、より低減されるようなパルス波形を探索する工数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態におけるパルスアーク溶接装置の構成例を概略的に示すブロック図である。
図2】パルスアーク溶接装置の外観例を概略的に示す図である。
図3】カメラにより撮像された画像の一例を概略的に示す図である。
図4】パルス波形を表す波形情報の一例を概略的に示す図である。
図5図4の波形情報によって表されるパルス波形を概略的に示すタイミングチャートである。
図6】パルス波形生成部のベイズ最適化を概略的に示し、説明する図である。
図7】パルス波形生成部のベイズ最適化を概略的に示し、説明する図である。
図8】本実施形態のパルスアーク溶接装置の動作手順例を概略的に示すフローチャートである。
図9】パルスアーク溶接装置の異なる動作手順を概略的に示すフローチャートである。
図10】パルス波形の探索が進む過程を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施の形態)
以下、本発明の一実施の形態が、図面を参照しながら説明される。なお、各図面において、同じ構成要素については同じ符号が用いられ、適宜、詳細な説明は省略される。
【0024】
図1は、本実施形態におけるパルスアーク溶接装置の構成例を概略的に示すブロック図である。図2は、パルスアーク溶接装置の外観例を概略的に示す図である。図3は、カメラにより撮像された画像の一例を概略的に示す図である。
【0025】
図1図2に示されるように、パルスアーク溶接装置10は、パルス波形探索装置100、溶接ロボット20、カメラ30を備える。溶接ロボット20は、溶接電源40及びロボット制御部50を備える。パルス波形探索装置100は、図1に示されるように、ディスプレイ110、入力部120、制御回路130を備える。制御回路130は、メモリ140、中央演算処理装置(CPU)150、及び周辺回路(図示省略)を含む。図1図2に示されるパルス波形探索装置100は、例えば、デスクトップ型、ノート型、タブレット型等のパーソナルコンピュータで構成されてもよい。
【0026】
ディスプレイ110は、例えば液晶ディスプレイパネルを含む。ディスプレイ110は、CPU150により制御されて、例えば、探索されたパルス波形を表す波形情報を表示する。なお、ディスプレイ110は、液晶ディスプレイパネルに限られない。ディスプレイ110は、有機エレクトロルミネセンス(EL)パネルなどの他のパネルを含んでもよい。
【0027】
入力部120は、例えばマウス又はキーボードを含む。入力部120は、ユーザにより操作されると、その操作内容を表す操作信号を制御回路130に出力する。なお、ディスプレイ110がタッチパネル式ディスプレイの場合には、マウス又はキーボードに代えて、タッチパネル式ディスプレイが入力部120を兼用してもよい。
【0028】
メモリ140(記憶部の一例に相当)は、例えばハードディスク又は半導体不揮発性メモリ等によって構成される。メモリ140は、例えばリードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、電気的に消去書き換え可能なROM(EEPROM)などを含む。メモリ140の例えばROMは、本実施形態の制御プログラムを記憶する。制御プログラムは、例えば、スパッタ量を計測するスパッタ量計測プログラム、パルス波形を生成するパルス波形生成プログラム、繰返し処理を行う繰返し処理プログラム等を含む。メモリ140の例えばRAMは、溶接履歴情報141(後述)を記憶する。
【0029】
CPU150は、メモリ140に記憶された本実施形態の制御プログラムに従って動作することにより、スパッタ量計測部151、パルス波形生成部152、繰返し処理部153として機能する。CPU150の各部の機能は、後述される。
【0030】
図2において、溶接ロボット20(溶接部の一例に相当)は、溶接電源40に電気的に接続された溶接トーチ60を備える。溶接電源40は、パルス波形探索装置100から入力されるパルス波形に従って動作する。ロボット制御部50は、溶接電源40及び溶接トーチ60を制御して、平板状の溶接ワーク70の上をビードオンプレートで連続的に溶接する。溶接を行うとスパッタが発生する。パルス波形探索装置100は、スパッタ量が、より低減されるパルス波形を、より低減された工数で探索する。
【0031】
カメラ30は、溶接トーチ60の周辺を含む溶接ワーク70の画像31(図3)を撮像する。カメラ30は、撮像した画像31をパルス波形探索装置100に出力する。図3に示されるように、この画像31には、スパッタによる光の粒32が捉えられる。
【0032】
CPU150のスパッタ量計測部151(取得部の一例に相当)は、画像31に基づき、スパッタ量を計測する。スパッタ量計測部151は、例えば、画像31をメッシュに切って、光の粒32が属する面積をカウントして積算することで、スパッタ量を計測する。例えば図3における光の粒32aは、メッシュ1個分に相当し、光の粒32bは、メッシュ4個分に相当する。スパッタ量の計測手法は、画像31をメッシュに切る方法に限られない。スパッタ量計測部151は、スパッタ量として、例えば、スパッタによる光の粒32に対応する画素の面積を算出し積算してもよく、スパッタによる光の粒32に対応する画素の数を算出し積算してもよい。
【0033】
スパッタ量計測部151は、所定時間T1に亘って、所定時間T2毎に画像31を取得してスパッタ量を計測し、複数の計測値の平均値をスパッタ量として求めてもよい。例えば、T1=20[秒]、T2=0.1[秒]であれば、200個の計測値の平均値がスパッタ量として求められることとなる。なお、スパッタ量計測部151は、溶接トーチ60の直下で光っているアーク部分33(図3)については、スパッタとして計測しない。
【0034】
図4は、パルス波形を表す波形情報の一例を概略的に示す図である。図5は、図4の波形情報によって表されるパルス波形を概略的に示すタイミングチャートである。図4図5を用いて、パルス波形を表す波形情報が説明される。
【0035】
溶接ロボット20の溶接電源40を動作させるパルス波形を表す波形情報400は、図4に示されるように、ピーク電流値Ip[A]、ピーク時間Tp[ms]、ベース電流値Ib[A]、ベース時間Tb[ms]を含む。ピーク電流値Ipは、パルス波形におけるピーク電流の値である。ピーク時間Tpは、ピーク電流値Ipの継続時間である。ベース電流値Ibは、パルス波形におけるベース電流の値である。ベース時間Tbは、ベース電流値Ibの継続時間である。図5の波形番号PW1,PW2に示されるように、パルス波形は、図4の波形情報400によって特定することができる。波形番号PW1,PW2のパルス波形は、乱数を用いてランダムに発生された例を示す。
【0036】
図6図7は、パルス波形生成部152のベイズ最適化を説明する図である。図8は、本実施形態のパルスアーク溶接装置10の動作手順例を概略的に示すフローチャートである。図6図7を参照しつつ、図8に従って、パルスアーク溶接装置10の動作が説明される。
【0037】
図8のステップS1000において、パルス波形生成部152(生成部の一例に相当)は、パルス波形の初期値を生成する。パルス波形生成部152は、例えば乱数を用いてランダムに生成したパルス波形をパルス波形の初期値としてもよい。パルス波形生成部152は、例えば、図4に示される波形番号PW1又は波形番号PW2のパルス波形を、パルス波形の初期値としてもよい。
【0038】
ステップS1005において、パルス波形生成部152は、生成したパルス波形(例えば図4の波形番号PW1の波形情報)を溶接ロボット20の溶接電源40に出力する。ステップS1010において、溶接ロボット20は、出力されたパルス波形に従って溶接電源40を動作させてパルスアーク溶接を所定時間T1実行する。また、スパッタ量計測部151は、パルスアーク溶接により発生したスパッタ量を所定時間T1計測する。
【0039】
ステップS1015において、繰返し処理部153は、溶接に使用されたパルス波形を表す波形情報と、溶接中に発生して計測されたスパッタ量と、を対応付けてメモリ140に溶接履歴情報141として保存する。ステップS1020において、繰返し処理部153は、ステップS1010で計測されステップS1015で保存されたスパッタ量が所定値以下であるか否か(終了条件の一例に相当)を判定する。スパッタ量が所定値を超えていれば(ステップS1020でNO)、処理はステップS1025に進む。
【0040】
ステップS1025において、パルス波形生成部152は、スパッタ量を確率的に予測する予測モデル(第1予測モデルの一例に相当)である関数f(X)を機械学習により生成する。パルス波形生成部152は、この関数f(X)により、スパッタ量の予測値を求める。関数f(X)は、ベイズ最適化のガウス過程に相当する。模式的には、「一般的な関数f(x)では、あるxに対してスカラーf(x)が返されるが、ガウス過程では、あるXにおけるfの値f(X)が従う正規分布(つまり平均及び分散)が返される」と言うことができる。すなわち、図6に概略的に示されるように、予測モデルである関数f(X)は、スカラーではなくて、正規分布P[f(X)]に従う。
【0041】
パルス波形生成部152は、メモリ140の溶接履歴情報141に保存されている波形情報400を設計変数Xとし、スパッタ量を応答変数Yとして、スパッタ量の予測モデルである関数Y=f(X)を機械学習により生成する。例えばメモリ140の溶接履歴情報141に、1番目からt番目までの設計変数X1,X2,・・・,Xt及びスパッタ量Y1,Y2,・・・,Ytが保存されている場合、(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(Xt,Yt)を機械学習の学習データとして、関数Y=f(X)が求められる。ここで、設計変数Xは、波形情報400であるので、図4から分かるように、ベクトル値である。
【0042】
図8のステップS1030において、パルス波形生成部152は、ベイズ最適化の獲得関数(第1獲得関数の一例に相当)を全ての設計変数Xについて算出する。本実施形態では、パルス波形生成部152は、獲得関数として、改善量の期待値(EI)を用いる。ステップS1035において、パルス波形生成部152は、改善量の期待値(EI)が最大値のときの設計変数Xを、次のパルス波形を表す波形情報として生成する。その後、処理はステップS1005に戻る。
【0043】
例えば、スパッタ量が所定値を超える状態(ステップS1020でNO)が繰り返されて、メモリ140の溶接履歴情報141には、1番目からt番目までのスパッタ量と波形情報とが対応付けられて保存されているとする。この場合、図8のステップS1025では、1番目の(X1,Y1)からt番目の(Xt,Yt)までの設計変数及び応答変数によって、図6に示されるt番目の予測モデルである関数ft(X)が求められる。図8のステップS1030では、この関数ft(X)が用いられる。
【0044】
1番目からt番目までのスパッタ量Y1~Ytのうち最小値をYminとし、予測モデルである関数をf(X)とすると、改善量I(X)は、以下の(式1)で定義され、改善量I(X)の期待値E[I(X)]は、以下の(式2)で与えられる。
I(X)=max{0,Ymin-f(X)} (式1)
【0045】
【数1】
【0046】
そして、(式2)に従って、改善量の期待値E[I(X)]が、全ての設計変数Xについて算出される。ここで、「全ての設計変数X」として、上限値、下限値及び刻み幅が、予め設定されている。すなわち、改善量の期待値は、上限値から下限値まで刻み幅毎の設計変数Xについて算出される。算出された改善量の期待値E[I(X)]のうちで、最大値は図6の斜線領域となる。したがって、図8のステップS1035では、このときの設計変数Xt+1である波形情報によって表されるパルス波形が生成される。
【0047】
なお、本実施形態では、上述のように、パルス波形生成部152は、設計変数Xの探索範囲をグリッドで区切って、全てのグリッド点で、改善量の期待値E[I(X)]を計算し、改善量の期待値E[I(X)]が最大となるグリッド点(つまり設計変数X)を求めているが、これに限られない。パルス波形生成部152は、例えば、粒子群最適化(PSO)等の最適化手法を用いて、改善量の期待値E[I(X)]が最大となる設計変数Xを求めてもよい。
【0048】
そして、次のステップS1010(図8)では、設計変数Xt+1である波形情報により表されるパルス波形を用いてパルスアーク溶接が実行され、図7に示されるスパッタ量Yt+1が計測される。また、ステップS1025では、1番目の(X1,Y1)からt+1番目の(Xt+1,Yt+1)までの設計変数及び応答変数の組を機械学習の学習データとして、図7に示されるt+1番目の予測モデルである関数Y=ft+1(X)が求められる。
【0049】
一方、ステップS1020において、スパッタ量が所定値以下であれば(ステップS1020でYES)、処理はステップS1040に進む。ステップS1040において、繰返し処理部153は、メモリ140の溶接履歴情報141に保存されている波形情報のうち、スパッタ量が最小の波形情報(本実施形態では、ステップS1020で所定値以下と判定されたスパッタ量に対応付けられている波形情報)を、探索されたパルス波形としてディスプレイ110に表示して、図8の動作を終了する。
【0050】
以上説明されたように、本実施形態では、ベイズ最適化により、パルス波形が求められている。すなわち、パルス波形生成部152は、パルス波形を表す波形情報を設計変数Xとし、計測されたスパッタ量を応答変数Yとして、正規分布を表す予測モデルである関数Y=f(X)を求め、獲得関数として改善量の期待値E[I(X)]を求め、改善量の期待値が最大値のときの設計変数Xを、次のパルス波形を表す波形情報として生成する。したがって、本実施形態によれば、スパッタ量が、より低減されるパルス波形を自動的に探索することができる。また、多数の実験及び熟練の作業を必要とすることがなく、従来に比べて工数を低減することができる。
【0051】
(その他)
(1)上記実施形態では、スパッタ量を確率的に予測する予測モデルである関数f(X)のみが用いられて、スパッタ量が低減されるパルス波形が求められているが、これに限られない。パルス波形生成部152は、ビードの形状を表す形状情報を確率的に予測する予測モデルである関数をさらに生成し、この関数も用いて、スパッタ量が低減されるパルス波形を求めてもよい。
【0052】
図9は、パルスアーク溶接装置10の異なる動作手順例を概略的に示すフローチャートである。図10は、パルス波形の探索が進む過程を概略的に示す図である。図10の縦軸はスパッタ量を表し、横軸はパルス波形の平均電圧[V]を表す。
【0053】
図9図10の実施形態では、ビード形状を表す形状情報として、パルス波形の平均電圧が用いられている。パルス波形の平均電圧が所定範囲内であれば、ビードの形状が良好になって高品質の溶接を実現できることが知られている。そこで、図9図10の実施形態では、メモリ140には、パルス波形の波形情報と平均電圧との対応関係が、予め保存されている。
【0054】
図9のステップS1000~S1010は、それぞれ、図8のステップS1000~S1010と同じである。ステップS1010に続くステップS1100において、繰返し処理部153は、ステップS1005で出力されたパルス波形を表す波形情報から、メモリ140に保存されているパルス波形の波形情報と平均電圧との対応関係を用いて、パルス波形の平均電圧を求める。繰返し処理部153は、スパッタ量とパルス波形を表す波形情報とパルス波形の平均電圧とを対応付けて、メモリ140に溶接履歴情報141として保存する。
【0055】
ステップS1105において、繰返し処理部153は、ステップS1015で保存された平均電圧が所定範囲Vr内であって、かつ、ステップS1015で保存されたスパッタ量が所定値以下であるか否か(終了条件の一例に相当)を判定する。平均電圧が所定範囲Vr外であれば、又は、スパッタ量が所定値を超えていれば(ステップS1105でNO)、処理はステップS1025に進む。ステップS1025は、図8のステップS1025と同じである。
【0056】
ステップS1110において、パルス波形生成部152は、メモリ140の溶接履歴情報141に保存されている波形情報400を設計変数Xとし、平均電圧を応答変数Zとして、平均電圧を確率的に予測する予測モデル(第2予測モデルの一例に相当)である関数g(X)を機械学習により生成する。パルス波形生成部152は、この関数g(X)により、平均電圧の予測値を求める。例えば、メモリ140の溶接履歴情報141に、1番目からt番目までの設計変数X1,X2,・・・,Xt及び平均電圧Z1,Z2,・・・,Ztが保存されている場合、(X1,Z1),(X2,Z2),・・・,(Xt,Zt)を機械学習の学習データとして、関数Z=g(X)が求められる。
【0057】
ステップS1115において、パルス波形生成部152は、平均電圧が所定範囲内に入る確率と、スパッタ量の改善量の期待値(第1獲得関数の一例に相当)とから構成される獲得関数(第2獲得関数の一例に相当)を全ての設計変数Xについて算出する。ステップS1120において、パルス波形生成部152は、ステップS1115で算出された獲得関数が最大値のときの設計変数Xを、次のパルス波形を表す波形情報として生成する。その後、処理はステップS1005に戻る。
【0058】
一方、ステップS1105において、平均電圧が所定範囲Vr内であって、かつ、スパッタ量が所定値以下であれば(ステップS1105でYES)、処理はステップS1040に進む。ステップS1040は、図8のステップS1040と同じである。
【0059】
図9図10の実施形態によれば、図10に示されるように、パルス波形の探索が進むにつれて、平均電圧が所定範囲Vr内であって、かつ、スパッタ量が、より低減されたパルス波形を求めることができる。したがって、スパッタ量が、より低減されつつ、より高品質のパルスアーク溶接を実行可能なパルス波形を求めることができる。
【0060】
図9図10の実施形態において、ビードの形状を表す形状情報は、パルス波形の平均電圧に限られない。ビードの形状を表す形状情報として、直接、ビードの幅及び高さを用いてもよい。この場合、レーザ光を出射し、出射したレーザ光がビードで反射した反射波を受信するレーザセンサを備え、レーザセンサによりビードの幅及び高さを測定してもよい。
【0061】
また、図9図10の実施形態において、パルス波形生成部152は、予測モデルである関数g(X)を求めているが、関数g(X)を求めなくてもよい。この場合、パルス波形生成部152は、例えば、パルス波形を表す波形情報のうち、平均電圧が所定範囲Vr(図10)に入らない波形情報を設計変数Xから除外してもよい。
【0062】
また、例えば、図8の動作手順に従って動作しつつ、ステップS1020の判定ステップをステップS1105に代えてもよい。この動作でも、平均電圧が所定範囲Vr(図10)に入らない限り、ステップS1105でYESとならないので、図9図10の実施形態と同様に動作させることができる。
【0063】
(2)上記実施形態では、図8のステップS1020において、スパッタ量が所定値以下となる(終了条件が満たされる)と、処理はステップS1040に進んだ後、図8の動作は終了する。また、上記図9図10の実施形態では、図9のステップS1105において、平均電圧が所定範囲Vr内であって、かつ、スパッタ量が所定値以下となる(終了条件が満たされる)と、処理はステップS1040に進んだ後、図9の動作は終了する。しかし、終了条件は、スパッタ量が所定値以下であるか否かという条件に限られない。
【0064】
例えば、繰返し処理部153は、図8のステップS1035からステップS1005に戻る回数をカウントしておき、ステップS1020において、カウント値が所定回数(例えば100回)に達したか否かを判定し、カウント値が所定回数に達すると、ステップS1040に進んでもよい。例えば、繰返し処理部153は、図9のステップS1120からステップS1005に戻る回数をカウントしておき、ステップS1105において、カウント値が所定回数に達したか否かを判定し、カウント値が所定回数に達すると、ステップS1040に進んでもよい。
【0065】
図8又は図9の動作では、スパッタ量が所定値以下にならない限り、動作が終了しないので、パルス波形の探索時間が過大になる可能性がある。これに対して、この実施形態によれば、探索回数が所定回数に達すると終了するので、パルス波形の探索時間が過大になるのを未然に防止することができる。
【0066】
(3)上記実施形態において、獲得関数は、改善量の期待値(EI)に限られず、改善の確率(PI)又は信頼限界の下限(LCB)でもよい。また、獲得関数を用いずに、スパッタ量の予測モデルである関数f(X)が最小となる設計変数Xを探索してもよい。しかし、ベイズ最適化により獲得関数を求めた方が、繰返し回数を低減できるため、好ましい。
【0067】
(4)上記実施形態において、波形情報400は、図4に示される4個の情報に限られず、パルス波形を特定できる情報を含んでいればよい。例えば、ピーク時間(又はベース時間)に代えて、パルス周波数又はパルス周期を用いてもよい。この場合、パルス周波数の逆数又はパルス周期から、例えばベース時間を減算するとピーク時間が求まるので、パルス波形を特定することができる。
【0068】
また、ピーク電流値(又はベース電流値)に代えて、平均電流値を含んでもよい。この場合、例えば、平均電流値と、他の3つの情報(つまりベース電流値、ピーク時間及びベース時間)とから、ピーク電流値が求まるので、パルス波形を特定することができる。
【0069】
また、図4図5のパルス波形では、ベース電流値からピーク電流値への立上り時間及びピーク電流値からベース電流値への立下り時間は固定とされているが、立上り時間及び立下り時間も、パラメータとして、波形情報(つまり設計変数)に含まれてもよい。すなわち、ピーク電流値、ピーク時間、ベース電流値、ベース時間に加えて、立上り時間、立下り時間の6つの情報が、波形情報に含まれてもよい。
【0070】
また、パルスアーク溶接で汎用されるアーク長制御が用いられる場合、例えばベース時間を幅変調制御することによりアーク長制御が行われる場合には、ベース時間を設計変数から除外すればよい。
【0071】
また、上記実施形態では、パルス波形は、矩形波とされているが、これに限られず、台形波形、三角波形、第1パルスと第2パルスとからなる2つのパルスピークを持つ波形でもよい。
【0072】
(5)上記実施形態では、スパッタ量計測部151は、カメラ30によって撮像された画像31に基づきスパッタ量を計測しているが、これに限られない。例えば、溶接ビード71(図2)から飛散したスパッタを収容する箱状の収容部を設けるとともに、この収容部の重量を計測する重量計を設けてもよい。そして、スパッタ量計測部151は、重量計によって計測された重量に基づき、スパッタ量を計測してもよい。
【0073】
(6)図8図9のステップS1000において、パルス波形の初期値を1つとせずに、複数(例えば10個)のランダムな設計変数を初期値としてもよい。例えば図8において、初期値が複数(例えば10個)の場合には、ステップS1005、S1010、S1015をそれぞれの初期値で実行しておき、複数(例えば10個)の溶接履歴情報がある状態から、ステップS1025以降が実行されてもよい。例えば図9において、初期値が複数(例えば10個)の場合には、ステップS1005、S1010、S1100をそれぞれの初期値で実行しておき、複数(例えば10個)の溶接履歴情報がある状態から、ステップS1025以降が実行されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 パルスアーク溶接装置
20 溶接ロボット
100 パルス波形探索装置
140 メモリ
141 溶接履歴情報
151 スパッタ量計測部
152 パルス波形生成部
153 繰返し処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10