(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20221219BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20221219BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221219BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20221219BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 280
B01D53/94 222
B01D53/94 245
F01N3/10 A
F01N3/28 Q
(21)【出願番号】P 2019061779
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
(72)【発明者】
【氏名】岩井 桃子
(72)【発明者】
【氏名】松下 大和
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005590(JP,A)
【文献】特開2010-029752(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087872(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204008(WO,A1)
【文献】特開平09-057098(JP,A)
【文献】特開2010-179204(JP,A)
【文献】特開2001-079402(JP,A)
【文献】特開2013-119075(JP,A)
【文献】特開2015-006660(JP,A)
【文献】特開2017-104823(JP,A)
【文献】特開昭63-084635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される
メタンを含む排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒であって、
排ガスが流通するセルを区画する基材と、
前記基材の表面に設けられた触媒層と、
を備え、
前記触媒層は、
前記セルの排ガスが流入される側の端部である第1端部から排ガスが流出される側の端部である第2端部に向けて延設され、パラジウムを含むパラジウム層と、
前記第2端部から前記第1端部に向けて延設され、プラチナを含むプラチナ層と、
前記パラジウム層と前記プラチナ層の両方に積層され、ロジウムを含むロジウム層と、
を含
み、
前記パラジウム層、前記プラチナ層、および前記ロジウム層に含まれる金属触媒は、それぞれ80質量%以上がPd、Pt、およびRhであり、
前記排ガスの流れ方向に沿った前記ロジウム層の長さは、前記基材の排ガスの全長を100%としたときに、80%以上の長さである、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記パラジウム層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、80%以下の領域に備えられている、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記ロジウム層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、前記第1端部から
80%以上100%以下の領域に備えられている、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記プラチナ層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、前記第2端部から30%以上80%以下の領域に備えられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記基材の前記第1端部から前記第2端部に向かう長さ方向に沿って前記パラジウム層が備えられている部分の前記基材について、単位体積あたりに含まれる前記パラジウムのモル量Aと、前記長さ方向に沿って前記プラチナ層が備えられている部分の前記基材について、単位体積あたりに含まれる前記プラチナのモル量Bとの比A/Bは、1.2以上2.8以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記ロジウム層は、前記パラジウム層と前記プラチナ層との上面の一部または全部を覆うように備えられている、請求項1~5のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
天然ガスを燃料とする内燃機関から排出される排ガスを浄化するために用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記排ガスの流れ方向に沿った前記ロジウム層の長さは、前記基材の全長を100%としたときに、100%の長さである、請求項1~7のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンを含む排ガスの浄化に用いられる排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両などの内燃機関(エンジン)から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害な気体成分とともに、炭素を主成分とする粒子状物質(Particulate Matter:PM)が含まれる。これらの有害ガスやPMの排出量を規制する排ガス規制は年々強化されている。そのため、内燃機関およびその周辺技術においては、車両等からの有害ガスやPMの排出量を低減するための研究が進められている。
【0003】
一例として、近年の車両には、内燃機関からのCO2排出量の抑制を目的として、“Fuel Cut”(以下、F/Cと記す。)や、“Idling Stop”(車両の停車時に内燃機関をの運転を停止すること。以下、I/Sと記す。)等の燃料の消費自体を抑える内燃機関の駆動制御が行われ、これらの制御が行われる頻度も増加している。また、ハイブリッド車のように、内燃機関が頻繁に停止と再始動とを繰り返す車両も増加している。さらに、単位距離あたりのCO2排出量が低いことから、天然ガスを燃料とする天然ガス内燃機関を利用する車両についても注目されている。これとは別に、内燃機関で低減しきれなかった有害ガスやPMについては、排ガスが車両等から排出されるまでの間に、排ガス浄化用触媒によって無害化または捕集され、除去されている。排ガス浄化用触媒に関連する先行技術としては、例えば、特許文献1,2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-255378号公報
【文献】特開昭59-041706号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、排ガス浄化用触媒が機能するのは、排ガスによって貴金属触媒が活性化される温度にまで温められてからである。また、内燃機関から排出されるHCとしては、アロマ,オレフィン等の比較的低温で燃焼が容易な成分のほかに、低温では分解され難いパラフィンが含まれ、その中でもメタン(CH4)は特に化学的に安定である。したがって、I/S制御やハイブリッド車等において、内燃機関から排出される排ガスの温度が低下しやすい環境においては、内燃機関の冷間始動時の排出ガスからのメタンの浄化は困難であり、浄化されないメタンが大気に放出される。このことは、単位距離あたりのCO2排出量は低いものの、90質量%以上がメタンからなる天然ガスを燃料とする天然ガス内燃機関において、特に重要な問題となり得る。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、化学的に安定なメタンの浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【0007】
本発明により、内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒が提供される。この排ガス浄化用触媒は、排ガスが流通するセルを区画する基材と、前記基材の表面に設けられた触媒層と、を備える。この触媒層は、パラジウム(Pd)層と、プラチナ(Pt)層と、ロジウム(Rh)層と、を含む。Pd層は、前記セルの排ガスが流入される側の端部である第1端部から排ガスが流出される側の端部である第2端部に向けて延設され、Pdを含む。Pt層は、前記第2端部から前記第1端部に向けて延設され、Ptを含む。Rh層は、前記Pd層と前記Pt層の両方に積層され、Rhを含む。
【0008】
上記排ガス浄化用触媒では、PdとPtとRhとを別々の層に独立して設けるようにしている。これにより、排ガス浄化用触媒の長期の使用に際しても、個々の貴金属触媒のメタン浄化性能をより良く発揮させることができる。上記構成において、パラジウム層を排ガス流入側の端部に設けることにより、内燃機関の制御によって変動するさまざまな排ガス条件(例えば、リーン環境)においても高いメタン浄化率を達成することができる。また、上記構成において、プラチナ層を排ガス排出側の端部に設けることにより、ロジウム層によって緩和された(例えばストイキ環境に近い)排ガス条件においてプラチナ層が極めて高いメタン浄化性能を発揮することができる。また、上記構成において、ロジウム層をパラジウム層とプラチナ層とに接するように設けることにより、パラジウム層とプラチナ層とを単独で形成する場合と比較して、メタン浄化性能をより一層高めることができる。
【0009】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、上記パラジウム層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、80%以下の領域に備えられている。このことにより、排ガス排出側のプラチナ層に送る排ガス条件を好適に整えると共に、プラチナ層の割合を抑制して、高いメタン浄化率を達成することができる。
【0010】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、前記ロジウム層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、前記第1端部から60%以上100%以下の領域に備えられている。このことにより、高いメタン浄化率を達成することができる。また、排ガス中のNOxを良好に浄化することができる。
【0011】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、前記プラチナ層は、前記基材の前記第1端部から前記第2端部までを100%としたとき、前記第2端部から30%以上80%以下の領域に備えられている。これにより、プラチナ層の割合を抑制しつつ高いメタン浄化率を達成することができる。
【0012】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、前記基材の前記第1端部から前記第2端部に向かう長さ方向に沿って前記パラジウム層が備えられている部分の前記基材について、単位体積あたりに含まれる前記パラジウムのモル量Aと、前記長さ方向に沿って前記プラチナ層が備えられている部分の前記基材について、単位体積あたりに含まれる前記プラチナのモル量Bとの比A/Bは、1.2以上2.8以下である。このような構成によると、パラジウムおよびプラチナの合計の使用量が同じ場合であっても、メタン浄化性能をより高めることができる。
【0013】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、前記ロジウム層は、前記パラジウム層と前記プラチナ層との上面の一部または全部を覆うように備えられている。このような構成によると、パラジウム層と排ガスとの接触効率が高まり、パラジウム層による高いメタン浄化率およびNOx浄化率を達成することができる。また、プラチナ層に送る排ガス条件を好適に整えることができる。
【0014】
本技術の排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、天然ガスを燃料とする前記内燃機関から排出される排ガスを浄化するために用いられる。内燃機関が天然ガスを燃料とする場合、排ガスに含まれるHCの80質量%以上がメタンとなり得る。本技術の排ガス浄化用触媒は、このようなメタン含有率の高い排ガスの浄化に適用された場合に、上述した効果をより好適に発揮するために好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る排ガス浄化システムの構成を示す模式図である。
【
図2】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【
図3】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒における触媒層の構成を模式的に示す部分断面図である。
【
図4】(a)単独の触媒層と(b)積層した触媒層とについて、模擬排ガスにおける還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合(λ)とメタン浄化率との関係を示したグラフである。
【
図5】各例の触媒層の構成を模式的に説明する部分断面図である。
【
図6】各例の触媒体のメタン排出率を示したグラフである。
【
図7】各例の触媒体のNOx排出率を示したグラフである。
【
図8】他の実施形態に係る排ガス浄化用触媒における触媒層の構成を模式的に示す部分断面図である。
【
図9】各例の触媒体のPd/Pt比とメタン排出率との関係を示したグラフである。
【
図10】各例の触媒体のPd層長さとメタン排出率との関係を示したグラフである。
【
図11】各例の触媒体のPt層長さとメタン排出率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、「A以上B以下」を意味する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る排ガス浄化システム1を示す模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NO
xを浄化するとともに、排ガスに含まれるPMを捕集する。この排ガス浄化システム1は、内燃機関2と排気経路とを備えている。本実施形態に係る排ガス浄化システム1は、内燃機関2と、排気経路と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、センサ8とを備えている。本技術における排ガス浄化用触媒は、この排ガス浄化システム1の一構成要素として内燃機関2の排気経路に設けられている。そして排気経路の内部を、排ガスが流通する。図中の矢印は排ガスの流れ方向を示している。なお、本明細書において、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠ざかる側を下流側という。
【0018】
内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させることで発生した熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。内燃機関2に供給される酸素と燃料ガスとの比率は、ECU7によって制御される。燃焼された混合気は排ガスとなって排気経路に排出される。
図1に示す構成の内燃機関2は、天然ガスを燃料とした内燃機関を主体として構成されている。
【0019】
内燃機関2は、図示しない排気ポートにおいて排気経路と接続される。本実施形態の排気経路は、エキゾーストマニホールド3と排気管4とにより構成されている。内燃機関2は、エキゾーストマニホールド3を介して、排気管4に接続されている。排気経路には、典型的には、触媒体5とフィルタ体6とが備えられている。例えば、触媒体5は、本技術における排ガス浄化用触媒の一例である。触媒体5は、例えば、二元触媒や、HC選択還元型NOx触媒やNOx吸蔵還元触媒、尿素選択還元型NOx触媒などの他の触媒を備えていてもよい。フィルタ体6は必須の構成ではなく、必要に応じて備えることができる。フィルタ体6を備える場合、その構成については従来と同様でよく、特に限定されない。フィルタ体6は、例えば、微小なPMを補足してその排出個数を低減させるパティキュレート・フィルタ(Particulate Filter:PF)や、これに二元または三元触媒等を担持させて触媒浄化機能を付与した触媒パティキュレート・フィルタ等であってよい。なお、触媒パティキュレート・フィルタにおける触媒の配置が、本技術による排ガス浄化用触媒と同じである場合、フィルタ体6は触媒体5の一例となる。触媒体5とフィルタ体6とは、その配置は任意に可変であって、触媒体5とフィルタ体6とは独立して単数または複数個が設けられてもよい。
【0020】
ECU7は、内燃機関2とセンサ8とに電気的に接続されている。ECU7は、内燃機関2の運転状態を検出する各種センサ(例えば、酸素センサや、温度センサ、圧力センサ)8から信号を受信し、内燃機関2の駆動を制御する。ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えば、プロセッサや集積回路である。ECU26は、例えば、車両等の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。また、ECU7は、例えば受信した情報に応じて、内燃機関2に対する燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を実施する。
【0021】
図2は、一実施形態に係る触媒体5の斜視図である。図中のXは、触媒体5の第1方向である。触媒体5は、第1方向が排ガスの流れ方向に沿うように排気管4に設置される。便宜上、排ガスの流れに着目したときに、第1方向Xのうちの、一の方向X1を排ガス流入側(上流側)といい、他の方向X2を排ガス流出側(下流側)という。また、触媒体5については、一の方向X1をフロント(Fr)側、他の方向X2をリア(Rr)側という場合がある。
図3は、一実施形態に係る触媒体5を、第1方向Xに沿って切断した断面の一部を拡大した模式図である。ここに開示される触媒体5は、例えば、ストレートフロー構造の基材10と、触媒層20とを備えている。以下、基材10、触媒層20の順に説明する。
【0022】
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。基材10は、典型的には、いわゆるハニカム構造を有している。この基材10は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたはステンレス等の合金等に代表される、高耐熱性でかつ急激な温度変化に対する耐性の高い材料からなる基材を好適に採用することができる。基材10の外形は特に制限されず、一例として円柱形状(本実施形態)の基材が挙げられる。ただし、基材全体の外形については、円柱形の他に、楕円柱形、多角柱形、無定形、ペレット形等を採用してもよい。本実施形態では、円柱形の基材10の柱軸方向が第1方向Xに一致している。基材10の一の方向X1の端部は第1端部10aであり、他の方向X2の端部は第2端部10bである。かかる本明細書において、基材10等の構成要素についての第1方向Xに沿う寸法を長さという。
【0023】
基材10には、ハニカム構造におけるセル(空洞)12が第1方向Xに延びている。セル12は基材10を第1方向Xに貫通する貫通孔であり、排ガスの流路となる。基材10には、セル12を区画する隔壁14が含まれる。セル12の第1方向Xに直交する断面(以下、単に「断面」という。)における形状、換言すれば、セルを仕切る隔壁14の構造は特に制限されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってよい。セル12の形状、大きさおよび数等は、触媒体5に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適設に設計することができる。
【0024】
隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12を区切っている。隔壁14の厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、薄い方が基材10の比表面積を増やすことができ、また、軽量化、低熱容量化にも繋がるために好ましい。隔壁14の厚みは、例えば1mm以下、0.75mm以下、0.5mm以下、0.1mm以下等とすることができる。その一方で、隔壁14が適度な厚みを有することで触媒体5の強度および耐久性が高められる。かかる観点から、隔壁14の厚みは、例えば0.01mm以上、0.025mm以上であってよい。本実施形態の触媒体5において、隔壁14の内部に触媒層20は形成されない。したがって、隔壁14は多孔質体であり得るものの、その気孔率は小さく(例えば30%以下)てもよい。実施形態における基材10は、いわゆるストレートフロー型等と呼ばれる形状であってよく、この点においていわゆるウォールフロー型の基材と区別することができる。隔壁14のX方向の長さ(全長)Lwは特に限定されないが、概ね50~500mm、例えば100~200mm程度であるとよい。なお、本明細書において、基材10の体積とは、基材の見掛け体積をいう。したがって、基材10の体積には、骨格たるハニカム構造体(隔壁14を含む)の実質的な体積に加えて、セル12容積を含む。
【0025】
触媒層20は、
図3に示すように、パラジウム(Pd)層21と、プラチナ(Pt)層22と、ロジウム(Rh)層23とを含む。これらの触媒層20は、いずれも隔壁14の表面に配置されている。Pd層21は、貴金属触媒としてのパラジウム(Pd)およびPdを主体とする合金を含む。Pt層22は、貴金属触媒としてのプラチナ(Pt)およびPtを主体とする合金を含む。Rh層23は、貴金属触媒としてのロジウム(Rh)およびRhを主体とする合金を含む。これらの触媒層20は、上述した貴金属触媒の他に、他の金属触媒を含んでいてもよい。このような金属触媒としては、Rh、Pd、Pt、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)およびこれらの合金である白金族触媒や、これら白金族元素に加えて、あるいは上記白金族にかえて、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属元素を含む金属またはその合金等が挙げられる。しかしながら、Pd層21、Pt層22、およびRh層23に含まれる金属触媒は、それぞれ80質量%以上がPd、Pt、およびRhであるとよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%がそれぞれPd、Pt、およびRhであるとよい。当然のことながら、不可避的に混入される他の金属触媒の含有は許容される。
【0026】
Pd層21およびPt層22は、特に酸化触媒としての活性が高く、触媒体5においては、排ガス中の有害成分のうち、特にCOおよびHCについて高い酸化作用を示す。Rh層23は、特に還元触媒としての活性が高く、触媒体5においては、排ガス中の有害成分のうち、特にNOxに対しする高い還元作用を示す。触媒体5は、これらPd層21、Pt層22、およびRh層23を備えることにより、三元触媒としての機能を備え得る。
なお、白金族触媒(Platinum Group Metals:PGM)は、酸化雰囲気に晒されると容易に酸素と結合し、触媒活性を失う。これを「酸素被毒」といい、例えばPd、Pt、およびRhは、酸化物(PdO、PtO、およびRhO)となって安定化される。被毒したPd、Pt、およびRhは、雰囲気が再び平衡ないしは還元雰囲気に戻る等して還元されることで、その活性が回復する。そのため、三元触媒は、主として、理論空燃比であるストイキ状態で燃焼する方式の内燃機関2の排ガスに対する浄化に用いられる。
【0027】
しかしながら、ストイキ方式の内燃機関2であっても、F/C制御等が行われた場合には、空燃比が上昇して排ガスに酸素が過剰に含まれ、触媒体5中の触媒は容易に被毒する。また、上述の通り、I/S制御やハイブリッド車等においては内燃機関2の運転が頻繁に停止されるため、触媒体5に送られる排ガスの温度が低下しやすく、触媒体5中の触媒は活性が低下し得る。
【0028】
また、例えば、ガソリンを燃料とする内燃機関から排出されるHCは、アロマ,オレフィン,パラフィン等の比較的低温で燃焼が容易な成分が主成分である。そのため、ガソリンを燃料とした内燃機関2に用いられる排ガス浄化触媒においては、HCを容易に酸化できる。例えばF/C制御が行われた場合であっても、排ガスが約300℃以上になることで被毒された白金族触媒の酸素をHCが消費しながら分解されるため、白金族触媒は早期に活性の高い状態(金属状態)に回復され得る。これに対し、例えば、天然ガスを燃料としたストイキ方式の内燃機関2では、排ガス中のHCとして、化学的に安定で分解され難いメタンが80%以上も含まれる。そのため、F/C制御が行われた場合には、たとえ排ガスが約300℃程度に加熱されてもHC(メタン)は分解されず、浄化されないメタンが大気に放出される。また、被毒された白金族触媒の回復も滞り得る。このことは、単位距離あたりのCO2排出量が低いことから近年注目されている天然ガス自動車(CNG自動車)の普及に際して重要な問題となり得る。
【0029】
そこで、本技術では、Pd層21、Pt層22、およびRh層23の特徴を詳細に検討し、これらの触媒層20によるメタンの浄化特性について以下を知見した。すなわち、Pt層22は、理論空燃比であるストイキ状態で燃焼された内燃機関から排出された排ガス中のメタンに対して、特に高い浄化性能を示し得る。Pd層21は、Pt層22と比較して、ストイキ状態からリーン状態までの広い条件で燃焼された内燃機関2からの排ガスに対して高いメタン浄化性能を示し得る。また、Pd層21は、リーン状態の排ガスを酸化反応によって好適にストイキ状態に整え得る。また、Rh層23は、Pd層21やPt層22と積層することで、これらPd層21やPt層22の浄化性能を高め得る。以上のことから、本技術では、Pd層21、Pt層22、およびRh層23の基材10への配置を、以下のとおりに規定している。
【0030】
Pd層21は、基材10の排ガスが流入される側の端部である第1端部10aから、排ガスが流出される側の端部である第2端部10bに向けて延設される。Pd層21は、隔壁14の表面に直接設けられていてもよいし、例えばRh層23やPt層22等の他の層の上に設けられていてもよいし、Rh層23やPt層22等の他の層の下に設けられていてもよい。なお、積層について言う「上」「下」とは、隔壁14の表面に垂直な方向において、隔壁14に近づく方向を「下」、隔壁14から離れる方向を「上」とする。触媒体5のフロント側にPd層21が配置されることにより、内燃機関2の運転条件の変動によって触媒体5のメタンの浄化性能が受ける悪影響を低減することができ、かつ、リア側の雰囲気をよりストイキ状態に近づけることができる。Pd層21の長さL21は、上記作用を十分に発揮させるためには、基材10の全長Lwを100%としたときに、第1端部10aから25%以上の長さであるとよく、30%以上、35%以上、典型的には40%以上、例えば45%以上であるとよい。しかしながら、過剰なPd層21の設置は、Pt層22が十分に機能を発現する妨げとなり得る。したがって、Pd層21の長さL21は、第1端部10aから概ね85%以下とするとよく、80%以下、75%以下、典型的には70%以下、65%以下、例えば60%以下である。
【0031】
なお、Pd層21におけるPdの量は特に制限されないが、例えば、第1方向Xに沿ってPd層21が形成されている部分の基材の体積1リットル(L)当たりの量(以下、触媒についての「濃度」という。)として、0.1g/L以上が適切であり、0.5g/L以上が好ましく、例えば1g/L以上、特に2g/L以上であるとよい。過剰なPdの含有は、Pdの移動や凝集を招き得るために好ましくない。Pdの濃度は、8g/L以下が適切であり、7g/L以下が好ましく、例えば6g/L以下であるとよい。
【0032】
Pt層22は、基材10の排ガスが流出される側の端部である第2端部10bから、排ガスが流入される側の端部である第1端部10aに向けて延設される。Pt層22は、隔壁14の表面に直接設けられていてもよいし、例えばRh層23やPd層21等の他の層の上に設けられていてもよい。上記のとおりフロント側にPd層21が配置されていることにより、ストイキ状態により近づくように調整されたリア側にPt層22を配置することで、その高いメタン浄化性能を如何無く発揮させることができる。Pt層22の長さL22は、本質的には制限されない。しかしながら、フロント側にPd層21を適量配置するとの観点から、基材10の全長Lwを100%としたときに、第2端部10bから概ね90%以下とするとよく、85%以下、80%以下、典型的には75%以下、例えば70%以下である。その一方で、Pt層22は、ストイキ状態で高いメタン浄化性能を発現するためにできるだけ多く配置することが望まれる。したがって、Pt層22の長さL22は、第2端部10bから、20%以上の長さであるとよく、25%以上、30%以上、35%以上、典型的には40%以上、例えば45%以上、好ましくは50%以上(50%超過)であるとよい。
【0033】
なお、Pt層22におけるPtの量は特に制限されないが、例えば、Pt濃度は、0.1g/L以上が適切であり、0.5g/L以上が好ましく、例えば1g/L以上、特に2g/L以上であるとよい。過剰なPtの含有は、Ptの移動や凝集を招き得るために好ましくない。Ptの濃度は、8g/L以下が適切であり、7g/L以下が好ましく、例えば6g/L以下であるとよい。
【0034】
なお、上記のとおり、Pt層22に対し、Pt層22によりもフロント側に配置されるPd層21の作用は、Pt層22の機能を好適に発揮させる上で重要である。かかる観点から、基材10の単位体積あたりに含まれるPdのモル量Aと、基材10の単位体積あたりに含まれるPtのモル量Bと、の比A/Bは、凡そ1以上であるとよく、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、例えば1.75以上や2以上であってよい。しかしながら、比A/Bが大きすぎると、単位体積あたりに含まれるPdのモル量AとPtのモル量Bとのバランスが崩れ、PdとPtが好適に協働できないために好ましくない。かかる観点から、比A/Bは、凡そ3以下とすると良く、2.8以下が好ましく、例えば2.5以下や、2.3以下であってよい。
【0035】
Pd層21とPt層22とは、少なくとも一方の層が、第1方向Xに沿って基材10の全長Lwにわたって備えられているとよい。換言すると、Pd層21の長さL21とPt層22の長さL22との合計(L21+L22)は、100%×Lw以上であることが好ましい。これにより、基材10を余すことなく利用してメタンを浄化することができる。Pd層21とPt層22との重なり(L21+L22-Lw)は、基材10の全長Lwを100%としたときに、2%以上が好ましく、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が特に好ましい。これにより、Pd層21とPt層22とをより良く協働させることができる。しかしながら、過剰な重なりは、Pd層21の過剰な配置に繋がり得る点において好ましくない。また、過剰な触媒層20の設置は、触媒層20の量に応じたメタン触媒性能の向上が得られず、軽量化と低コスト化を妨げる傾向にあるため好ましくない。したがって、Pd層21とPt層22との重なり(L21+L22-Lw)は、例えば、50%以下程度とするとよく、45%以下や40%以下とするとよい。
【0036】
Rh層23は、Pd層21とPt層22の両方に積層されるように配置される。Rh層23は、Pd層21とPt層22とに厚み方向(上下方向)で積層されている限り、その他の条件は特に制限されない。Rh層23は、隔壁14の表面に直接設けられていてもよいし、例えばPd層21やPt層22等の他の層の上に設けられていてもよいし、Pd層21やPt層22等の他の層の下に設けられていてもよい。Rh層23がPd層21とPt層22の両方に一部でも積層していることで、Pd層21とPt層22のメタン浄化性能をより一層高めることができる。例えば、空燃比がややリッチな状態において、メタン浄化率を80%以上、好ましくは90%以上、例えば100%にまで高めることができる。とりわけPt層22は、Rh層23と組み合わせて配置されることで、より広い空燃比条件で高いメタン浄化性能(例えば、メタン浄化率100%)を発揮することができる。Rh層23の長さL23は、上記作用を十分に発揮させ、かつ、Pd層21とPt層22とに接合性よく備えられるために、基材10の全長Lwを100%としたとき、凡そ50%以上の長さであるとよく、55%以上、60%以上、典型的には65%以上、70%以上、例えば80%以上であるとよい。Rh層23の長さL23の上限は特に制限されず、例えば100%であってよく、100%以下や、95%以下、90%以下などとしてもよい。
【0037】
なお、Rh層23におけるRhの量は特に制限されないが、例えば、Rh濃度は、0.01g/L以上が適切であり、0.03g/L以上が好ましく、例えば0.05g/L以上、0.1g/L以上であるとよい。過剰なRhの含有は、Rhの添加量に応じたメタン触媒性能の向上が得られず、低コスト化を妨げる傾向にあるため好ましくない。Rhの濃度は、例えば3g/L以下が適切であり、2g/L以下が好ましく、例えば1g/L以下であるとよい。
【0038】
触媒層20には、Pd層21、Pt層22、およびRh層23のそれぞれが含有する貴金属触媒の他に、これらの触媒を担持する担体を含むことができる。このような担体としては、従来この種の用途に使用し得ることが知られている担体(典型的には粉体)を適宜採用することができる。例えば、担体の好適例としては、アルミナ(Al2O3)、希土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)などの金属酸化物や、これらの固溶体、例えばセリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物:CeO2-ZrO2)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、アルミナおよびCZ複合酸化物の少なくとも一方を使用することが好ましい。担体は、多結晶体または単結晶体であってよい。
【0039】
担体の形状(外形)は特に制限されず、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状のものが好ましく用いられる。例えば、担体の平均粒子径(レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径)は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下、例えば7μm以下が好ましい。上記担体の平均粒子径が大きすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。上記平均粒子径は、例えば5μm以下、典型的には3μm以下であってもよい。一方、担体の平均粒子径が小さすぎると、該担体からなる担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。したがって、通常は平均粒子径が凡そ0.1μm以上、例えば0.5μm以上の担体を用いることが好ましい。
【0040】
上記担体における貴金属触媒の担持量は特に制限されない。例えば、担体の全質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲(例えば0.05質量%~8質量%)とすることが適当である。上記触媒金属の担持量が少なすぎると、触媒金属により得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、触媒金属の担持量が多すぎると、触媒金属が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。また、担体に貴金属を担持させる方法としては特に制限されない。例えば、アルミナやCZ複合酸化物を含む担体粉末を、貴金属触媒元素を含む塩(例えば硝酸塩)や貴金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0041】
触媒層20には、それぞれ、貴金属触媒や該貴金属触媒の担体の他に、適宜に任意成分を含んでもよい。かかる任意成分としては、例えば、金属触媒が担持されていない助触媒、酸素吸蔵能を有する酸素吸蔵材(OSC材:oxygen storage capacity)、NOx吸蔵能を有するNOx吸着剤、安定化剤などが挙げられる。助触媒としては、例えば、アルミナやシリカが挙げられる。OSC材としては、例えば、セリアや、セリア含有複合酸化物、例えば、CZ複合酸化物などが挙げられる。
【0042】
安定化剤としては、例えば、ランタン(La)、イットリウム(Y)などの希土類元素、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類元素、その他遷移金属元素などが挙げられる。これらの元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層内に存在する。中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。かかる担体は、多結晶体または単結晶体であり得る。触媒層20のうち、酸化触媒を含むPd層21には、安定化剤、例えばバリウム元素を含むことが好ましい。これにより、酸化触媒の被毒が好適に抑えられ、触媒活性を向上することができる。また、酸化触媒の分散性が高められて、酸化触媒の粒成長をより高いレベルで抑制することができる。
【0043】
Pd層21、Pt層22、およびRh層23の、それぞれのコート量は特に限定されない。隔壁14の排ガスの流通性を高くして、圧損を低減するとの観点からは、基材の体積1L当たりについて、各層それぞれ概ね200g/L以下、好ましくは180g/L以下、例えば150g/L以下とするとよい。一方、メタンおよび他の排ガス浄化性能をより良く向上する観点からは、基材の体積1L当たりについて、各層それぞれ概ね10g/L以上、好ましくは30g/L以上、例えば50g/L以上とするとよい。上記範囲を満たすことにより、圧損の低減と排ガス浄化性能の向上とをさらに高いレベルで両立することができる。また、Pd層21、Pt層22のコート量の比は特に限定されないが、圧損をより良く低減する観点からは、例えば、Pd層:Pt層=30~70:70~30とするとよい。ここに開示される技術では、基材の体積1L当たりの触媒層のコート量が同じであるにもかかわらず、従来に比して浄化性能を向上させることができる。なお、触媒層20についてのコート量とは、単位体積あたりの基材に含まれる触媒層20の質量をいう。ただし、基材の体積は、第1方向Xに沿って当該触媒層20が形成されている部分の基材についてのみ考慮し、当該触媒層20が形成されていない部分の基材については考慮しない。
【0044】
なお、上述したような構成の触媒体5は、例えば以下のような方法で製造することができる。先ず、基材10と、触媒層20を形成するためのスラリーを用意する。スラリーは、Pd層形成用スラリーと、Pt層形成用スラリーと、Rh層形成用スラリーとを用意する。これらの触媒層形成用スラリーは、相互に異なる金属触媒成分(典型的には金属触媒をイオンとして含む溶液)を必須の成分として含み、それぞれ、その他の任意成分、例えば担体、助触媒、OSC材、バインダ、各種添加剤などを含み得る。なお、バインダとしては、アルミナゾル、シリカゾルなどを採用し得る。またスラリーの性状(粘度や固形分率など)は、使用する基材10のサイズや、セル12(隔壁14)の形態、触媒層20の所望の性状などによって適宜調整するとよい。
【0045】
例えば、スラリー中の粒子の平均粒子径は凡そ1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上とすることができ、凡そ30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることができる。
【0046】
次に、調製した触媒層形成用スラリーを基材10の端部からセル12に流入させ、X方向に沿って所定の長さまで供給する。Pd層21を形成する場合は、第1端部10aからスラリーを流入させ、X2方向に向かって長さL21まで供給する。Pt層22を形成する場合は、第2端部10bからスラリーを流入させ、X1方向に向かって長さL22まで供給する。Rh層23を形成する場合は、第1端部10aと第2端部10bのいずれからスラリーを流入させてもよく、所望の長さL23まで供給する。このとき、スラリーを反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風して余分なスラリーを排出させてもよい。その後、一つのスラリーを供給するごとに、スラリーを供給した基材10を所定の温度および時間で乾燥し、焼成する。このことにより、粒子状の原料が焼結されて、多孔質な触媒層20が形成される。乾燥や焼成の方法は従来の触媒層形成時と同様でよい。Pd層21、Pt層22、およびRh層23は、後述の試験例に示すように、目的の触媒層構造が得られるように、例えば下に配置される層から、順に形成することができる。これにより、触媒層20を、基材10の隔壁14の表面に形成することができる。
【0047】
以上のような構成の触媒体5によると、内燃機関2から排出された排ガスが、基材10の第1端部10aからセル12に流入する。セル12に流入した排ガスは、隔壁14の表面に形成された触媒層20を通過して、第2端部10bから排出される。ここで、触媒層20の上流側には、少なくともPd層21が配置されている。またPd層21の少なくとも一部には、Rh層23が積層されている。そのため、排ガスが例えばストイキ状態から外れた場合であっても、Pd層21を通過する間に、排ガス中からメタンを含む有害成分が除去されるとともに、その雰囲気がストイキ状態に近づけられる。また、Rh層23が積層されたPd層21を通過した排ガスは、Rh層23が積層されたPt層22を通過する。このPt層22およびRh層23に到達した排ガスは、ストイキ状態に近づけられているため、Rh層23が積層されたPt層22を通過する間に、排ガス中からメタンを含む有害成分は高い浄化率で浄化される。また、Rh層23が存在することにより、排ガス中のNOx成分も浄化される。これにより、排ガスは、有害成分が除去された状態で、排ガス流出側の端部10bから触媒体5の外部へと排出される。
【0048】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
[参考例]
PGMを単体で含む触媒層を備える触媒体を用いてメタン(CH
4)の浄化を行うことで、各貴金属触媒を含む触媒層ごとのメタン浄化性能を確認した。
まず基材として、
図2に示すような、オープンフロー(ストレートハニカム)タイプのコージェライト製基材(外径120mm、全長115mm、嵩体積1.3L、セル数600cpsi(セル/in
2))を用意した。
【0050】
また、この基材に触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層を形成するためのスラリーを調製した。具体的には、硝酸パラジウム水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Pdスラリーを調製した。また、硝酸白金水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Ptスラリーを調製した。硝酸ロジウム水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Rhスラリーを調製した。
【0051】
次いで、コージェライト基材の端面から、調製したPdスラリー、Ptスラリー、またはRhスラリーのいずれかを供給したのち、同じ端面から所定の風速で吸引することにより、基材の隔壁の表面の全体(長さ方向の全長)にスラリーをウォッシュコートした。次いで、コート層を100℃で乾燥させた後、500℃で焼成することにより、Pd層、Pt層、またはRh層を単独で備える触媒体を作製した。なお、触媒体のPGM濃度は、Pd層3.0g/L、Pt層3.0g/L、Rh層0.15g/Lとなるように、スラリー組成および触媒コート量を調整した。
【0052】
また、コージェライト基材にPdスラリーまたはPtスラリーを上記と同様にウォッシュコートし、乾燥・焼成することにより、隔壁の表面の全体にPd層またはPt層を形成した。次いで、それぞれの基材に更にRhスラリーを上記と同様にウォッシュコートし、乾燥・焼成することにより、Pd層-Rh層またはPt層-Rh層を備える触媒体をそれぞれ作製した。なお、触媒体のPGM濃度は、Pd層またはPt層が3g/L、Rh層が0.15g/Lとなるように調整した。
【0053】
(排ガス浄化性能の評価)
用意した各触媒体について、触媒評価装置を用い、天然ガス(CNG)車両の模擬排ガスにおけるメタン浄化率を調べた。この触媒評価装置は、マスフローコントローラ、加熱炉、O
2センサー、エンジン排ガス分析計を備え、エンジン排ガスを模擬的に発生させるとともに、触媒体への流入ガスおよび触媒体からの流出ガスの成分を分析することができる。具体的には、以下の表1に示すガス成分を所定の割合で触媒評価装置にて混合し、CNG車両の排ガスを模擬的に発生させた。模擬排ガスは、表1に示すように酸素濃度を変化させることで、還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合(λ)をリッチ(0.9)からリーン(1.1)まで変化させた。なお、還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合は、λ=1がストイキであり、酸化ガスが還元ガスに対して等量であることを示す。そして上記ガスを500℃で触媒体に供給し、触媒体のメタン浄化率を測定した。メタン浄化率は、触媒体に流入する模擬排ガスのメタン濃度P1と、触媒体から流出する模擬排ガスのメタン濃度P2とを測定し、これらから次式:メタン浄化率(%)=[(P1-P2)/P1]×100;により算出した。その結果を
図4(a)、(b)に示した。
【0054】
【0055】
図4(a)は、Pd層、Pt層、Rh層をそれぞれ単独で備える触媒体について、模擬排ガスにおける還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合(λ)とメタン浄化率との関係を示すグラフである。メタン浄化に関して、Pd層、Pt層、Rh層は浄化特性が異なることが確認できた。すなわち、Pt層は概ねストイキ状態(λ=1.0)で高いメタン浄化性能を示すが、リッチ状態やリーン状態ではメタン浄化性能が低い。これに対し、Pd層は、リッチ状態ではメタン浄化性能が低いものの、ストイキ状態に加えてリーン状態で高いメタン浄化性能を示す。また、Rh層は、リーン状態ではメタン浄化性能が低いものの、ストイキ状態からリッチ状態で高いメタン浄化性能を示すことがわかった。
【0056】
図4(b)は、Pd層-Rh層およびPt層-Rh層をそれぞれ備える触媒体について、模擬排ガスにおける還元ガス成分に対する酸化ガス成分の割合(λ)とメタン浄化率との関係を示すグラフである。メタン浄化に関して、Pd層、Pt層、Rh層は、それぞれを単独で用いるよりも、Pd層-Rh層やPt層-Rh層のように組み合わせて積層させることで、メタン浄化性能が高められることがわかった。Pd層-Rh層およびPt層-Rh層は、ストイキ状態では概ね100%のメタン浄化率を達成し得ることが確認された。特に、Pt層-Rh層についてはλ=0.96~1.0のより広い条件で約100%の高いメタン浄化性能を示し、Pd層-Rh層については、リーン状態でのメタン浄化性能に優れることが確認できた。
【0057】
排ガス浄化用触媒は、フロント側に比べてリア側の方が、エンジンの運転条件による雰囲気の変動が大きい。例えば、ストイキ直噴車であっても、エンジンのF/C制御、I/S制御などによって、フロント側はリーン雰囲気に晒されることが多い。また、リア側は、フロント側に配置される触媒層による触媒反応の進行によって、雰囲気変動が緩和されたり、よりストイキ状態に近い雰囲気に整えられることが多い。このため、排ガス浄化用触媒のフロント側にPd層-Rh層を、リア側にPt層-Rh層を配置することが、より広い雰囲気条件でより高いメタン浄化性能を発現できると言える。
【0058】
[試験例1]
触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層の、触媒金属の使用量は同一としたまま、配置を異ならせた触媒体を用いてメタン(CH4)の浄化を行うことで、各触媒層の配置によるメタン浄化性能の違いを確認した。
まず基材として、参考例と同じ、オープンフロー(ストレートハニカム)タイプのコージェライト製基材(外径120mm、全長115mm、嵩体積1.3L、セル数600cpsi(セル/in2))を用意した。
【0059】
また、この基材に触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層を形成するためのスラリーを調製した。具体的には、硝酸パラジウム水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Pdスラリーを調製した。また、硝酸白金水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Ptスラリーを調製した。硝酸ロジウム水溶液と、アルミナ粉末(γ-Al2O3)と、セリアジルコニア複合酸化物粉末(CZ)と、アルミナゾルとを、イオン交換水中で混合して、Rhスラリーを調製した。
【0060】
次に、触媒層としてのPd層、Pt層、およびRh層を、
図5と下記の表2に示すように、配置を異ならせて形成することで、例1-1~1-7の触媒体を作製した。Pd層、Pt層、およびRh層は、いずれも上記の参考例と同様の吸引法によって、各層ごとにウォッシュコートし、乾燥・焼成することで形成した。
【0061】
【0062】
(例1-1)
すなわち、基材のフロント側の端面から半分の長さ(1/2×Lw)までPdスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPd層を形成した。次いで、基材のリア側から半分の長さ(1/2×Lw)までPtスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPtコート層を形成した。そして、基材のフロント側から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、二層目のRhコート層を形成した。これにより、例1-1の触媒体を得た。一層目のPd層とPt層とにおける基材の単位体積あたりの触媒の濃度は3g/Lとした。二層目のRhコート層について、基材の長さ方向でRh層が形成された部分の基材の単位体積あたりの触媒の濃度は0.15g/Lとした。表2において、「Rh*」と表記してある位置には、Rh層が30%/50%しか形成されていないことを意味している。以下、特筆しない限り、吸引法による触媒層の形成条件は、本例と同様とした。
【0063】
(例1-2)
一層目で基材のフロント側に供給するスラリーをPtスラリーに、リア側に供給するスラリーをPdスラリーに変え、その他は例1-1と同様にして、例1-2の触媒体を得た。
(例1-3)
一層目で基材のフロント側に供給するスラリーとリア側に供給するスラリーの両方をPdスラリーとし、その他は例1-1と同様にして、例1-3の触媒体を得た。
(例1-4)
一層目で基材のフロント側に供給するスラリーとリア側に供給するスラリーの両方をPtスラリーとし、その他は例1-1と同様にして、例1-4の触媒体を得た。
【0064】
(例1-5)
用意したPdスラリーとPtスラリーとを等量ずつ混合し、Pd・Pt混合スラリーを用意した。そして、一層目で基材のフロント側に供給するスラリーとリア側に供給するスラリーの両方をPd・Pt混合スラリーとし、その他は例1-1と同様にして、例1-5の触媒体を得た。
【0065】
(例1-6)
基材のフロント側の端面から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、一層目のRh層を形成した。次いで、基材のフロント側から半分の長さ(1/2×Lw)までPdスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、二層目のPd層を形成した。そして、基材のリア側から半分の長さ(1/2×Lw)までPtスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、二層目のPt層を形成した。これにより、例1-6の触媒体を得た。この触媒体において、一層目のRh層は全長に亘って二層目のPd層とPt層とに積層されている。また、理解を容易にするため
図5には反映させていないが、二層目のPt層は、リア側から20%の長さに相当する部分が一層目にRh層と並んで配置されている。
【0066】
(例1-7)
基材のフロント側から50%の長さ(1/2×Lw)までPdスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、一層目のRd層を形成した。次いで、基材のフロント側から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、Rh層を形成した。さらに、基材のリア側から半分の長さ(1/2×Lw)までPtスラリーを供給し、乾燥・焼成することにより、Ptコート層を形成した。これにより、例1-7の触媒体を得た。この触媒体において、Rh層は全長に亘ってPd層とPt層とに積層されている。また、理解を容易にするため
図5には反映させていないが、Rh層は、リア側から30%の長さに相当する部分が一層目にPd層と並んで配置されている。すなわち、表2の二層目フロント側の「
Rh」と一層目リア側の「
Rh
*
」とは同一層であって連続している。またPt層は、表2において「Pt
*」と表記しているが、フロント側の約30%の長さに相当する部分が二層目のRh層に、リア側の約20%の長さに相当する部分が一層目にRh層と並んで配置されている。
【0067】
(排ガス浄化性能の評価)
用意した各例の触媒体について、天然ガス(CNG)車両でメタンガスの浄化性能を評価した。具体的には、理論空燃比で燃焼する方式の筒内直接噴射天然ガスエンジン搭載車(ストイキCNG直噴車、1.5L)の排気経路に各例の触媒体をそれぞれ設置した。そして、この車両を、WLTC(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)で走行させたときの、メタンおよびNOxの排出量(mg/km)を測定した。メタンおよびNOxの排出量は、触媒体から排出された排ガス中のメタン濃度およびNOx濃度の測定結果から、次式に基づき算出した。その結果を、下記の表3と、
図6および
図7とに示した。
【0068】
メタン排出量(mg/km)=排ガス中のメタン濃度(mg/L)×排ガス量(L)÷走行距離(km)
NOx排出量(mg/km)=排ガス中のNOx濃度(mg/L)×排ガス量(L)÷走行距離(km)
【0069】
【0070】
Pd層はリーン状態でも高いメタン浄化性能を示すのに対し、Pt層はごく限られたストイキ状態でメタン浄化性能が高くなる。そのため、表3および
図6の例1-1と例1-2の比較から明らかなように、メタン排出量を削減するとの観点からは、Pd層とPt層とは、フロント側にPd層をリア側にPt層を配置するのが好ましいことが確認できた。また、例1-1と例1-3の比較から明らかなように、フロント側をPd層にした場合は、リア側の環境が概ねストイキ状態に改善される。そのため、リア側にはPd層ではなく、Pt層を備えることが、メタン浄化性能を高めるために好ましいことが確認できた。
【0071】
なお、例1-4に示されるように、リア側にPt層を備えても、フロント側にPd層を備えない場合は、リア側のPt層までもメタン浄化に有効に機能しないことがわかる。また、例1-5に示されるように、Pd層とPt層とは、混合層として形成すると、エンジンの運転中に触媒金属であるPdとPtとが反応して触媒活性が低下し、一層目にPdのみを用いた例1-3よりもメタン浄化性能が低下してしまう。このことから、三元触媒であるPd、Pt、Rhは、異なる層に分けて配置することが好ましいことが確認できた。
【0072】
例1-6および例1-7に示されるように、Pd層、Pt層、およびRh層をそれぞれを独立した層とし、Pd層をフロント側、Pt層をリア側に配置し、かつ、Pd層およびPt層にRh層を接するように配置していれば、その他の配置は特に制限されないことがわかった。つまり、例1-6に示されるように、Rh層が一層目であって、Pd層およびPt層が2層目であっても、例1-1と同等の高いメタン浄化性能が得られることが確認できた。また例1-7に示されるように、Pd層とPt層とが実質的にRh層で隔離されていても、フロント側にPd層が配置されていることでリア側の環境が改善し、リア側のPt層が有効に機能することが確認された。この結果は、たとえリア側であってもPt層が表面に露出していることから排ガスに直接接触する可能性があるにも関わらず、Pt層がメタン浄化に十分に寄与し得ている点で、予想外の結果である。しかしながら、表3および
図7に示されるように、NOx排出量は、例1-1、例1-7、例1-6の順に低くなることがわかった。すなわち、NOxの浄化性能に優れるRh層については、フロント側であってもリア側であっても、表面(二層目)に備えられていることがNOxとの接触効率が高くなり、NOx浄化性能が高められると考えられる。以上のことから、メタン浄化性能とNOx浄化性能とを高いレベルで両立するには、Pd層およびPt層を一層目とし、Rh層を二層目とすることが好ましいことがわかった。
【0073】
[試験例2]
触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層の配置と、触媒金属の総使用量については一定にし、Pd層とPt層に含まれる触媒金属量(濃度)を変更した触媒体を用いてメタン(CH4)の浄化を行うことで、メタン浄化性能の違いを確認した。基材は、試験例1と同じ、オープンフロー(ストレートハニカム)タイプのコージェライト製基材(外径120mm、全長115mm、嵩体積1.3L、セル数600cpsi(セル/in2))を用意した。
【0074】
また、この基材に触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層を形成するためのスラリーを調製した。具体的には、Rhスラリーは、試験例1と同様に調製した。PdスラリーとPtスラリーについては、Pd層とPt層の基材へのコート長さを試験例1と同じにしたときに、触媒の濃度が平均3g/Lで一定となり、下記の表4に示した量となるように、それぞれ硝酸パラジウム水溶液におけるPd濃度と硝酸白金水溶液におけるPt濃度とを変化させた。すなわち、試験例1におけるPdスラリーとPtスラリーとにおいて、Pdスラリーで増/減させたPd量(質量)と同じ量のPt量(質量)をPtスラリーにおいて減/増させるようにした。これにより、例2-1~2-6のPdスラリー、Ptスラリー、およびRhスラリーを調製した。
【0075】
次に、触媒層としてのPd層、Pt層、およびRh層を、
図8に示す配置で形成した。Pd層、Pt層、およびRh層は、いずれも上記の試験例1と同様の吸引法によって、各層ごとにウォッシュコートし、乾燥・焼成することで形成した。
すなわち、基材のフロント側の端面から半分の長さ(1/2×Lw)までPdスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPd層を形成した。次いで、基材のリア側から半分の長さ(1/2×Lw)までPtスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPtコート層を形成した。そして、基材のリア側から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、二層目のRhコート層を形成した。これを各例のPdスラリー、Ptスラリー、およびRhスラリーを用いて行うことで、例2-1~2-6の触媒体を得た。
【0076】
(排ガス浄化性能の評価)
用意した各例の触媒体について、試験例1と同様に、天然ガス(CNG)車両でメタンガスの浄化性能を評価した。具体的には、理論空燃比で燃焼する方式の筒内直接噴射天然ガスエンジン搭載車(ストイキCNG直噴車、1.5L)の排気経路に各例の触媒体をそれぞれ設置した。そして、この車両を、WLTC(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)で走行させたときの、メタンの排出量(mg/km)を測定した。その結果を、下記の表4と、
図9とに示した。
【0077】
【0078】
図9に示すように、トータルの貴金属触媒の使用量(質量)は変わらないものの、Pd層におけるPd濃度とPt層におけるPt濃度とを変化させることで、メタン排出量に大きな変化が見られることが確認された。メタン排出量は、Pd層におけるPd濃度とPt層におけるPt濃度との比(Pd/Pt比)に一定の相関を示し、Pd/Pt比が大きくなりすぎたり小さくなりすぎるとメタン排出量が高くなることがわかった。Pd/Pt比は、例えば1以上となるように調整するとよく、1.2以上や、1.5以上がより好ましいと言える。Pd/Pt比は、例えば2.8以下となるように調整するとよく、2.5以下、2以下がより好ましいと言える。
【0079】
[試験例3]
触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層の配置と、触媒金属の濃度とについては一定にし、Pd層とPt層の基材長さ方向のコート長を変化させた触媒体を用いてメタン(CH4)の浄化を行うことで、メタン浄化性能の違いを確認した。基材は、試験例1と同じ、オープンフロー(ストレートハニカム)タイプのコージェライト製基材(外径120mm、全長115mm、嵩体積1.3L、セル数600cpsi(セル/in2))を用意した。また、触媒層としてのPd層、Pt層、Rh層を形成するためのPdスラリー、Ptスラリー、およびRhスラリーは、試験例1と同様に調製した。
【0080】
そして触媒層としてのPd層、Pt層、およびRh層を、
図3に示す配置とし、Pd層およびPt層のコート長が以下の表5に示す長さとなるように形成した。Pd層、Pt層、およびRh層は、いずれも上記の試験例1と同様の吸引法によって、各層ごとにウォッシュコートし、乾燥・焼成することで形成した。
【0081】
すなわち、例3-1~3-6では、まず基材のリア側の端面から67%の長さ(0.67×Lw)までPtスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPt層を形成した。次いで、表5に示すように、基材のフロント側から35~90%の長さ(0.35~0.90×Lw)までPdスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPd層を形成した。そして、基材のフロント側から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、二層目のRhコート層を形成した。これにより、例3-1~3-6の触媒体を得た。
【0082】
例3-7~3-10では、まず表5に示すように、基材のリア側の端面から35~90%の長さ(0.35~0.90×Lw)までPtスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPt層を形成した。次いで、基材のフロント側の端面から67%の長さ(0.67×Lw)までPdスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、一層目のPd層を形成した。そして、基材のフロント側から80%の長さ(0.8×Lw)までRhスラリーを供給したのち、所定の風速で吸引し、100℃で乾燥させたのち500℃で焼成することで、二層目のRhコート層を形成した。これにより、例3-7~3-10の触媒体を得た。
【0083】
(排ガス浄化性能の評価)
用意した各例の触媒体について、試験例1と同様に、天然ガス(CNG)車両でメタンガスの浄化性能を評価した。具体的には、理論空燃比で燃焼する方式の筒内直接噴射天然ガスエンジン搭載車(ストイキCNG直噴車、1.5L)の排気経路に各例の触媒体をそれぞれ設置した。そして、この車両を、WLTC(Worldwide harmonized Light duty Test Cycle)で走行させたときの、メタンの排出量(mg/km)を測定した。その結果を、下記の表5と、
図10および
図11とに示した。
【0084】
【0085】
図10は、例3-1~例3-6の触媒体について、Pd層のコート長さとメタン排出量との関係を示したグラフである。
図10に示すように、Pt層の長さを一定にしてPd層の長さを変化させると、メタン排出量に変化が見られることが確認された。メタン排出量は、Pd層のコート長さが短すぎても長すぎても高くなることがわかった。Pd層のコート長さは、Pt層を良好に機能させるためには凡そ30%以上となるように調整するとよく、35%以上や、40%以上がより好ましいと言える。しかしながら、Pd層のコート長さが長すぎるとPt層と排ガスとの接触効率が低下して、メタン浄化効果も低下すると考えられる。Pd層のコート長さは、例えば85%以下となるように調整するとよく、80%以下や、70%以下がより好ましいと言える。
【0086】
図11は、例3-7~例3-10の触媒体について、Pt層のコート長さとメタン排出量との関係を示したグラフである。
図11に示すように、Pd層の長さを一定にしてPt層の長さを変化させると、Pd層の長さを変化させた場合と比較して、メタン排出量には殆ど変化が見られないことが確認された。Pt層のコート長さは、30%程度から85%程度までのいずれの長さでもよいと言える。しかしながら、Pd層のコート長さが短すぎるとメタン浄化効果も低下すると考えられる。Pd層のコート長さは、例えば20%以上となるように調整するとよく、25%以上や、30%以上がより好ましいと言える。
【0087】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0088】
例えば、上述した実施形態では、Rh層23が基材10の全長Lwの80%に形成されていたが、Rh層23の長さL23はこれに限定されない。例えば試験例1,3では、Rh層23はフロント側から形成され、試験例2ではリア側から形成されている。このことからわかるように、Rh層23は、Pd層21とPt層22とに接している限りその詳細な位置は限定されず、第1端部10aから第2端部10bまでLwの100%(つまりL23は80~100%)に形成することができる。また、Rh層23によるPd層21およびPt層22の補助効果が薄れる可能性があるものの、Rh層23の長さL23は80%より短くすることもできる。
【0089】
また例えば、上述した実施形態では、内燃機関2がCNGエンジンであったが、内燃機関2は、理論空燃比で燃焼する方式の筒内直接噴射ガソリンエンジン、筒内直接噴射ディーゼルエンジンなどであってもよい。これらの内燃機関2は、ECU7によって、F/C制御、I/S制御などが行われるように構成されていてもよい。さらに、これらの内燃機関2は、車両駆動用電源を備えるハイブリッド車に搭載されるエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 排ガス浄化システム
2 内燃機関
5 触媒体
10 基材
12 セル
14 隔壁
20 触媒層
21 パラジウム(Pd)層
22 プラチナ(Pt)層
23 ロジウム(Rh)層