(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】金属箔‐CFRP積層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20221219BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B32B15/08 M
C08J5/04 CES
C08J5/04 CEW
C08J5/04 CFG
(21)【出願番号】P 2019076970
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 宗丈
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-043526(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182038(WO,A1)
【文献】特開2016-119181(JP,A)
【文献】特開2016-088039(JP,A)
【文献】特開平07-097465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFRPシート(1)と金属箔(2)とが接着剤層を介さず直接、融着一体化されて成る金属箔-CFRP積層シートであって、
前記CFRPシート(1)が、連続繊維状の炭素繊維を長さ方向に向きを揃えて配列したUDシートであり、かつ、炭素繊維間に含浸させるマトリックス樹脂として、金属接着性を有する樹脂が使用されて
おり、
CFRPシート(1)の平均厚みが5μm~50μmであることを特徴とする金属箔-CFRP積層シート。
【請求項2】
CFRPシート(1)と金属箔(2)とが接着剤層を介さず直接、融着一体化されて成る金属箔-CFRP積層シートであって、
前記CFRPシート(1)が、連続繊維状の炭素繊維を長さ方向に向きを揃えて配列したUDシートであり、かつ、炭素繊維間に含浸させるマトリックス樹脂として、金属接着性を有する樹脂が使用されており、
金属箔が銅箔であることを特徴とする金属箔-CFRP積層シート。
【請求項3】
CFRPシート(1)が、繊維シート材の片面にマトリックス樹脂となる樹脂フィルムを重ね合わせたものを加熱加圧して、溶融した前記樹脂フィルムを繊維シート材に含浸又は半含浸させて一体化したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔-CFRP積層シート。
【請求項4】
CFRPシート(1)に使用される繊維シート材が薄層の開繊繊維束から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の金属箔-CFRP積層シート。
【請求項5】
CFRPシート(1)と金属箔(2)とが接着剤層を介さず直接、融着一体化されて成る金属箔-CFRP積層シートであって、
前記CFRPシート(1)が、連続繊維状の炭素繊維を長さ方向に向きを揃えて配列したUDシートであり、かつ、炭素繊維間に含浸させるマトリックス樹脂として、金属接着性を有する樹脂が使用されており、
電極板に使用されることを特徴とする金属箔-CFRP積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔-CFRP積層シートの改良、詳しくは、接着強度に優れるだけでなく接着剤が不要で、更に異なる物性を持つ積層シートとして様々な用途に利用できる金属箔-CFRP積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、強化繊維材料である炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」と記載)が、その優れた機能性(曲げ強度や引張り強度、軽量性等)から工業分野や建築分野などの多くの分野で利用が進んでいる。特にCFRPシートは、他の材料に貼り合わせて使用できるため、様々な用途に利用できる。
【0003】
また上記CFRPと他の材料を一体化した複合材料に関しては、従来、CFRPと金属材料を熱硬化性樹脂系(エポキシ樹脂等)の接着剤により一体化したものが公知となっているが(特許文献1参照)、熱硬化性樹脂系の接着剤を使用すると塗布してから硬化するまでに時間がかかるため、短時間で製造を行うことが難しいという欠点がある。
【0004】
またCFRPと金属材料を積層一体化するための接着剤として、熱可塑性樹脂系のものを使用することも考えられるが、接着剤の硬化時間は短くて済むものの、どちらにせよCFRPまたは金属材料の表面に接着剤を塗布する工程と両者を貼り付ける工程が必要となるため、工程数が増えて効率的に製造を行えないという問題がある。
【0005】
また従来においては、CFRPのマトリックス樹脂に様々な熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂等)や熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂やポリプロピレン等)を使用する技術は知られていたものの、金属接着性の観点からフッ素系樹脂やオレフィン系エラストマーをマトリックス樹脂に使用する技術は一般的に知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、接着強度に優れるだけでなく接着剤が不要で、更に異なる物性を持つ積層シートとして様々な用途に利用できる金属箔-CFRP積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、CFRPシート1と金属箔2とが接着剤層を介さず直接、融着一体化されて成る金属箔-CFRP積層シートにおいて、前記CFRPシート1を、連続繊維状の炭素繊維を長さ方向に向きを揃えて配列したUDシートとし、かつ、炭素繊維間に含浸させるマトリックス樹脂として、金属接着性を有する樹脂を使用した点に特徴がある。
【0010】
また上記CFRPシート1については、繊維シート材Cの片面にマトリックス樹脂となる樹脂フィルムFを重ね合わせたものを加熱加圧して、溶融した前記樹脂フィルムFを繊維シート材Cに含浸又は半含浸させて一体化したものを使用することが好ましい。
【0011】
また上記CFRPシート1に使用される繊維シート材Cについては、薄層の開繊繊維束を使用するのが好ましい。また上記CFRPシート1の平均厚みは5μm~50μmとするのが好ましい。また上記金属箔2には銅箔を使用するのが好ましい。
【0012】
また上記マトリックス樹脂に用いる金属接着性を有する樹脂としては、フッ素系樹脂またはオレフィン系エラストマーまたはポリアミド系樹脂を使用するのが好ましく、フッ素系樹脂としては、ETFEまたはEFEPを使用するのが好ましい。また上記積層シートS中の炭素繊維の繊維体積含有率は1%~60%とするのが好ましい。また上記金属箔-CFRP積層シートについては電極板に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、CFRPシートの炭素繊維束間に含浸させるマトリックス樹脂として、金属接着性を有する樹脂を使用したことにより、加熱ロールで挟み込むだけでこれらを熱圧着により積層一体化してCFRP-金属箔積層シートを製造することが可能となる。またCFRPシートと金属材料の接着強度も改善できる。
【0014】
また本発明のCFRP-金属箔積層シートは、物性の異なるCFRPシートと金属箔を一体化して構成しているため、電極板や建築材料、産業資材、工業部品等の様々な用途に利用することができ、本発明の実用的利用価値は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態の金属箔-CFRP積層シートを表す全体断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態の金属箔-CFRP積層シートを表す概略断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態の金属箔-CFRP積層シートの製造方法を説明するための装置説明図である。
【
図4】本発明の第一実施形態の金属箔-CFRP積層シートの製造方法を説明するための工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
『第一実施形態』
本発明の第一実施形態について
図1に基づいて説明する。なお図中、符号1で指示するものは、CFRPシートであり、符号2で指示するものは、金属箔である。符号Sで指示するものは、積層シートである。
【0017】
「金属箔-CFRP積層シートの構成」
[1]金属箔-CFRP積層シートの基本構成について
本実施形態の金属箔-CFRP積層シートの基本構成について説明する。本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、CFRPシート1と金属箔2とを接着剤層を介さずに直接、融着一体化して積層シートSを構成している。またCFRPシート1には、連続繊維状の炭素繊維を長さ方向に向きを揃えて配列したUDシートを使用すると共に、UDシートの炭素繊維間に含浸させるマトリックス樹脂として金属接着性を有するフッ素系樹脂を使用している。
【0018】
上記の構成により、物性の異なるCFRPシート1と金属箔2とを、高い接着強度を維持したままマトリックス樹脂以外の樹脂材料を介さずに一体化することができるため、電極板等の用途で積層シートSを好適に使用できる。
【0019】
[2]CFRPシートについて
[2-1]炭素繊維の材料
次に上記積層シートSの各構成要素について説明する。まず本実施形態では、CFRPシート1として炭素繊維束の向きを同じ方向に揃えたUDシートを使用している。また本実施形態では、フィラメント径が3~12μm(好ましくは5~7μm)の炭素繊維を5000~50000本(好ましくは12000~24000本)束ねた炭素繊維束を使用しているが、炭素繊維の本数は炭素繊維束の太さに応じて適宜変更できる。また本実施形態では、PAN系の炭素繊維を使用しているが、ピッチ系の炭素繊維を使用することもできる。
【0020】
[2-2]炭素繊維のサイジング剤
また本実施形態では、上記炭素繊維束にアミノ基を有するサイジング剤を塗布したものを使用している。なおサイジング剤に関しては、炭素繊維束とマトリックス樹脂の結合強度を調節する役割や加工時に炭素繊維束の損傷を抑制する役割があり、好ましくはポリアミド系樹脂を使用することでCFRPシート1の曲げ強度や引張り強度を向上させることができる。なおサイジング剤としては、熱可塑性樹脂を好適に使用できるが、エポキシ樹脂系やビニルエステル樹脂系のものを使用することもできる。
【0021】
[2-3]炭素繊維の繊維体積含有率
また上記CFRPシート1における炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)に関しては、炭素繊維の含有率が低過ぎると充分な機能性が得られず、また炭素繊維の含有率が高過ぎると樹脂の割合が少なくなって炭素繊維束内への樹脂の含浸性が悪化して物性低下を招くうえ、金属接着性も低下するため、Vf35%~60%の範囲内で調整するのが好ましい。また積層シートS中における繊維体積含有率(以下、「Vf」と区別するために「LVf」と呼称)に関しては、繊維体積含有率が低過ぎるとCFRPシート1に孔空きが生じ、積層シートSの厚さ方向に炭素繊維が存在しない部分が生じてしまい、また繊維体積含有率が高過ぎるとCFRPシート1の樹脂含浸性の悪い部分が発生し、その部分が起点となって金属箔2との接合強度が低下するため、LVf1%~60%の範囲内で調整するのが好ましい。
【0022】
[2-4]マトリックス樹脂
また上記CFRPシート1のマトリックス樹脂に関しては、本実施形態では、フッ素系樹脂としてTFEに基づく重合単位の割合が50~80mol%、かつ、エチレンに基づく重合単位の割合が50~80mol%のETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)を使用しているが、ETFE以外のEFEP等のフッ素系樹脂を使用することもできる。また上記マトリックス樹脂には、フッ素系樹脂以外の金属接着性を有するオレフィン系エラストマーやポリアミド系樹脂、これらのポリマーアロイを使用することもできる。
【0023】
[3]金属箔について
また上記金属箔2の材料としては、本実施形態では銅箔を使用しているが、金属材料としてはこれに限らず他の金属材料(例えば、アルミニウムや鉄、チタン、ステンレス等の材料等)を使用することもできる。また金属箔2の厚みや形状についても積層シートSの用途に応じて適宜変更することができる。
【0024】
「金属箔-CFRP積層シートの製造方法」
[1]繊維シート材の製造方法について
次に本実施形態の積層シートSの製造方法について説明する。まずCFRPシート1に使用する炭素繊維束の繊維シート材については、複数本の繊維束を幅方向に一定間隔で並べた後、これらの繊維束を幅広く、薄く開繊してシート状に形成している。この開繊処理に関しては、特許第4813581号公報、特許第4740131号公報や特許第5326170号公報、特許第5553074号公報等に記載されている方法を好適に採用できる。
【0025】
また上記繊維シート材に関しては、繊維束中に流体を通過させることで繊維を撓ませながら幅方向に移動させて開繊する流体開繊工程と、搬送される前記繊維束に対して接触部材を接触させながら前記繊維束の一部を押し込んで緊張状態とした後、緊張状態の前記繊維束から接触部材を離間させて前記繊維束を一時的に弛緩状態とする変動動作を繰り返し与える縦振動付与工程と、開繊された前記繊維束を幅方向に往復振動させる横振動付与工程とを含む開繊方法を採用することで、品質の良い繊維シート材Cが得られる。
【0026】
[2]CFRPシートの製造方法について
[2-1]基本工程
次にCFRPシート1の製造方法に関しては、上記炭素繊維束を面状に配列した繊維シート材Cの片面に、マトリックス樹脂となる樹脂フィルムFを重ね合わせた状態でこれらを加熱加圧して、溶融した樹脂フィルムFを繊維シート材Cに含浸させている。また上記樹脂フィルムFの含浸方法については、本実施形態では、繊維シート材Cの炭素繊維束同士が結合一体化される程度に半含浸させているが、繊維シート材Cの全ての炭素繊維束がマトリックス樹脂中に埋もれるように完全含浸させることもできる。
【0027】
また本実施形態の製造方法についてより詳細に説明すると、
図3に示すように、繊維シート材C、樹脂フィルムF、及び金属箔2を加熱ロールR
1・R
1に導入し、これらを重ね合わせた状態で挟み込み加熱加圧して積層一体化している。そして、積層一体化した積層シートを冷却ロールR
2・R
2で冷却固化し、それを引き取りロールR
3・R
3で引き取っている。
【0028】
なお上記の際、CFRPシート1の平均厚みが5μm~50μmとなるように繊維シート材Cと樹脂フィルムFの一体化を行うのが好ましい。またCFRPシート1の厚さを調整する手段としては、装置の加熱温度や加圧力、引き取り速度を調整する手段や、開繊幅の変更やフィルムの厚みを変更する手段を採用できる。
【0029】
[2-2]樹脂フィルムの送り出し工程
また本実施形態においては、上記樹脂フィルムFを加熱ロールR
1・R
1に送り出す方法として、
図3に示すように、成形された樹脂フィルムFを巻出装置にセットしたボビンから送り出しロールR
4により供給する方法を採用している。なおその他の方法としては、押出成形装置のTダイから樹脂フィルムを押し出し、この樹脂フィルムをフィルム冷却ロールで冷却固化した後、回転刃を備えたスリット用切断ロールとスリット用受けロールに導入して、樹脂フィルムの両端をスリットする方法を採用することもできる(図示せず)。
【0030】
[2-3]繊維シート材・樹脂フィルム・金属箔の積層工程
また本実施形態では、
図3及び
図4に示すように、繊維シート材Cと樹脂フィルムFを積層一体化する際に、繊維シート材C及び樹脂フィルムFよりも幅が広い金属箔2を使用している。これにより、搬送用ベルトや搬送用シートに溶融樹脂が付着し難くなりCFRPシート1を安定して製造できる。また搬送用ベルトまたは搬送用シートを使用する場合でも、各種ローラの表面に溶融樹脂が付着することを抑制できる。
【0031】
また本実施形態では、加熱ロールR1・R1による熱圧着を加熱温度180~280℃、加圧力0.1~1MPaの条件下で行い、繊維シート材C、樹脂フィルムF及び金属箔2を積層一体化している。これにより加熱ロールR1・R1によるによる熱圧着だけで簡単に積層シートSを製造することができる。なお熱圧着の条件となる加熱温度や加圧力に関しては、炭素繊維の繊維体積含有率やCFRPシート1に使用するマトリックス樹脂の材料に応じて適宜調整できる。
【符号の説明】
【0032】
1 CFRPシート
2 金属箔
S 積層シート
C 繊維シート材
F 樹脂フィルム
R1 加熱ロール
R2 冷却ロール
R3 引き取りロール
R4 送り出しロール