(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】キャニスタ
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
F02M25/08 311A
F02M25/08 311E
F02M25/08 311Z
(21)【出願番号】P 2019119976
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永柳 政雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 和穂
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-035812(JP,A)
【文献】特開2007-002709(JP,A)
【文献】特開2009-287395(JP,A)
【文献】特開2010-168908(JP,A)
【文献】特開2012-007503(JP,A)
【文献】特開2013-036416(JP,A)
【文献】特表2016-533454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクポート、パージポート、大気ポートが形成されたケーシングと、
前記ケーシング内部において、前記大気ポートから前記パージポートまで延在するパージ流路に沿って形成され、かつ吸着材が充填された複数の吸着室と、を備えるキャニスタであって、
前記複数の吸着室のうち、前記大気ポートの最も近くに位置
し前記大気ポートから直接空気が流入する第1吸着室よりも前記パージポート側に位置
し少なくとも前記第1吸着室を通過した空気が流入する第2吸着室以降の吸着室の少なくとも一つの吸着室には、前記ケーシングの周壁から離隔しつつ当該一つの吸着室を占有する占有部を有する占有部材が配設されており、
該占有部材は、前記第1吸着室には配設されておらず、
前記占有部材の前記占有部の熱伝導率は、前記キャニスタの前記ケーシングの熱伝導率より小さくされているキャニスタ。
【請求項2】
請求項1に記載のキャニスタであって、前記占有部材は中空状に形成されている、キャニスタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のキャニスタであって、前記タンクポートから前記大気ポートまで延在する吸着流路は、前記パージ流路に沿って形成された前記複数の吸着室の各々の少なくとも一部を、前記パージ流路と共用しており、
前記一つの吸着室の前記吸着材が充填された領域は、前記吸着流路に直交する断面の面積が、前記大気ポートに向けて減少するよう形成されている、キャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、キャニスタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の蒸発燃料処理装置は、蒸発燃料を吸着及び脱離可能な吸着材が充填されたキャニスタを有する。これにより、燃料タンク内で発生した蒸発燃料は、キャニスタ内の吸着材に吸着される。そして、吸着材に吸着された蒸発燃料は、車両の走行時、すなわち内燃機関の稼働時に、内燃機関へ通じる吸気通路に向けて脱離される。
【0003】
ところで、吸着した蒸発燃料の脱離は吸熱反応であるため、脱離時における吸着室内の温度は低下する傾向にある。しかしながら、吸着材の脱離性能は低温になるほど低下するため、吸着室内の脱離に伴う温度変化を抑えることが望ましい。特許文献1では、キャニスタ内で取り得る温度を融点に有する物質を封入して構成される蓄熱材のカプセルを吸着室に収容することが開示されている。該カプセルに封入された物質が凝固する際に放出する潜熱によって、蒸発燃料の脱離時における吸着室の温度変化が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、好適な融点を有する物質、該物質を封入する容器の材料及び該容器寸法の選定並びに蓄熱材カプセルの製造等に、多大なコストを要する。
【0006】
而して、本明細書に開示の技術が解決しようとする課題は、上述した点に鑑みて創案されたものであって、コストの増加を抑制しつつ、蒸発燃料を脱離する際の温度低下を抑制したキャニスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本明細書に開示のキャニスタは次の手段をとる。
【0008】
第1の手段は、タンクポート、パージポート、大気ポートが形成されたケーシングと、前記ケーシング内部において、前記大気ポートから前記パージポートまで延在するパージ流路に沿って形成され、かつ吸着材が充填された複数の吸着室と、を備えるキャニスタであって、前記複数の吸着室のうち、前記大気ポートの最も近くに位置する第1吸着室よりも前記パージポート側に位置する第2吸着室以降の吸着室の少なくとも一つの吸着室には、前記ケーシングの周壁から離隔しつつ当該一つの吸着室を占有する占有部を有する占有部材が配設されており、前記占有部材の前記占有部の熱伝導率は、前記キャニスタの前記ケーシングの熱伝導率より小さくされているキャニスタである。
【0009】
上記第1の手段によれば、大気ポート側に位置する吸着室での蒸発燃料の脱離により低温の空気が流入しがちな第2吸着室以降の吸着室の少なくとも一つの吸着室において、温度が低下することによる吸着材の脱離性能の低下を抑制することができる。
【0010】
第2の手段は、第1の手段のキャニスタであって、前記占有部材は中空状に形成されている、キャニスタである。
【0011】
上記第2の手段によれば、特殊な材料を用いることなく、占有部の全体としての熱伝導率を低く設定することができる。
【0012】
第3の手段は、タンクポート、パージポート、大気ポートが形成されたケーシングと、前記ケーシング内部において、前記大気ポートから前記パージポートまで延在するパージ流路に沿って形成され、かつ吸着材が充填された複数の吸着室と、を備えるキャニスタであって、前記複数の吸着室のうち、前記大気ポートの最も近くに位置する第1吸着室よりも前記パージポート側に位置する第2吸着室以降の吸着室の少なくとも一つの吸着室を規定する、前記ケーシングの周壁の一部は、当該一つの吸着室の内方に向かう凹形状を形成している、キャニスタである。
【0013】
上記第3の手段によれば、第1の手段と同様の効果を得ることができる。
【0014】
第4の手段は、上記第1乃至第3の手段のいずれかのキャニスタであって、前記タンクポートから前記大気ポートまで延在する吸着流路は、前記パージ流路に沿って形成された前記複数の吸着室の少なくとも一部を、前記パージ流路と共用しており、前記一つの吸着室の前記吸着材が充填された領域は、前記吸着流路に直交する断面の面積が、前記大気ポートに向けて減少するよう形成されている、キャニスタである。
【0015】
上記第4の手段によれば、蒸発燃料濃度の低下による吹き抜けを、効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書に開示のキャニスタは、上述の手段をとることにより、コストの増加を抑制しつつ、蒸発燃料を脱離する際の温度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態に係るキャニスタの断面図である。
【
図4】第2の実施形態に係るキャニスタの吸着室を示す斜視図である。
【
図5】第1の実施形態の変形例に係るキャニスタに配設される占有部材の一例である。
【
図6】第1の実施形態の変形例に係るキャニスタに配設される占有部材の他例である。
【
図7】第2の実施形態の変形例に係るキャニスタの吸着室を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係るキャニスタの実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1乃至3を参照して、第1の実施形態に係るキャニスタ1の構成を説明する。
図1に示すキャニスタ1は、自動車等の内燃機関(本実施形態ではガソリンエンジン)を有する車両に搭載される。便宜上、
図1を基準としてキャニスタ1の上下、左右方向を定める。また、紙面前後方向を前後方向とする。これらの方向は車両に搭載された際の方向とは必ずしも一致しない。座標系には、右手系の直交座標を採用し、左右方向をX軸に、前後方向をY軸に、上下方向をZ軸にそれぞれ対応づける。
【0020】
図1に示すように、キャニスタ1は、例えばPA66ナイロン樹脂等の樹脂製のケーシング10を備えている。ケーシング10は、下面を開口する有天筒状のケーシング本体12と、ケーシング本体12の下面開口部を閉鎖するケーシング蓋14とにより構成されている。ケーシング本体12は、周壁部12Aと周壁部12Aの上端を閉鎖する天板部12Bとからなる。ケーシング本体12の天板部12Bには、燃料タンクに通じるタンクポート16、内燃機関の吸気通路に連通するパージポート18及び大気に連通する大気ポート20がそれぞれ形成されている。ケーシング本体12の天板部12Bの下面には、下方に向かって隔壁22が延在しており、ケーシング10の内部を左右の2つの空間に分割している。左側の空間には吸着室24が規定されており、右側の空間には、吸着室26及び28が規定されている。なお、吸着室28は、本明細書中の第1吸着室に相当し、吸着室26は、本明細書中の第2吸着室に相当する。そして、周壁部12Aは、本明細書中の周壁に相当する。
【0021】
(吸着室及び連通路の構成)
上述した吸着室24、26及び28と、連通路64の構成について説明する。吸着室24は、活性炭粒子からなる吸着材30が充填されている。吸着材30と、天板部12Bとの間には、通気性を有するシート状のフィルタ32及び34が介在している。フィルタ32及び34は、例えば、不織布からなる。吸着室24内の吸着材30はその下方から通気性を有するウレタンシート36により支持されている。ウレタンシート36の下方には、ベース部38及びベース部38の上に形成された中空円錐形状の占有部40を有する樹脂製の占有部材42が配設されている。占有部40は吸着材30に埋没している。ウレタンシート36には、占有部40がそこから上方へ突出する孔が形成されている。なお、占有部材42の構造については、
図2を参照して後述する。占有部材42のベース部38とケーシング蓋14の天板部との間にはコイルスプリング44が圧縮状態で介装されており、ベース部38を上方へ付勢している。また、吸着室24内部において、ケーシング本体12の天板部12Bの下面には部分壁46が下方に向かって延在しており、吸着室24の上部を、左右の分室に分割している。
【0022】
吸着室26にも、吸着材30が充填されている。吸着室26内の吸着材30はその下方から通気性を有するウレタンシート48により支持されている。ウレタンシート48の下方には、樹脂製の多孔板50が配設されている。多孔板50とケーシング蓋14の天板部との間にはコイルスプリング52が圧縮状態で配設されており、多孔板50を上方へ付勢している。吸着室26の上部には、ベース部54及びベース部54の上面に形成された中空円錐台形状の占有部56を有する樹脂製の占有部材58が、そのベース部54を上に位置させた状態で配設されている。占有部材58の占有部56は吸着材30に埋没している。なお、占有部材58の構造については、
図3を参照して後述する。
【0023】
吸着室28にも、吸着材30が充填されている。吸着材30と天板部12Bの間には、通気性を有するシート状のフィルタ60が介在している。フィルタ60は例えば、不織布からなる。吸着室26と吸着室28の間には、通気性を有する樹脂製の仕切り部材62が介装されている。該仕切り部材62により、ケーシング10内における隔壁22より右側の空間が吸着室26及び28に分割されている。つまり吸着室26内の吸着材30と吸着室28内の吸着材30は互いに離隔している。また、ケーシング本体12の周壁部12Aの下部、ケーシング蓋14の天板部、占有部材42のベース部38及び多孔板50により、連通路64が規定されている。吸着室24と吸着室26とは、連通路64を介して連通している。吸着室24、連通路64、吸着室26、吸着室28は、略U字形状の流体通路66を構成している。
【0024】
(占有部材)
図2に、占有部材42の斜視図を示す、占有部材42のベース部38は、吸着室24の横断面と略同一形状の矩形の平板形状を有している。ベース部38の、占有部40の基端及びその周辺を除く部分には格子が形成されており、該格子により占有部材42は通気性を有している。占有部40は円錐形状を有しており、点線にて示すように中空に形成されている。
【0025】
図3に、占有部材58の斜視図を、
図1に示す向きとは上下方向に関して逆向きにして示す。占有部材58のベース部54は、吸着室26の横断面と略同一形状の矩形の平板形状を有している。ベース部54の、占有部56の基端及びその周辺を除く部分には格子が形成されており、該格子により占有部材58は通気性を有している。占有部56は円錐台形状を有しており、点線にて示すように中空に形成されている。なお、第1実施形態において、占有部材42及び占有部材58は、いずれもケーシング10を形成する樹脂と同じ樹脂によって形成されていてよい。
【0026】
(キャニスタの組み立て)
キャニスタ1は、以下の工程により組み立てられる。まずケーシング本体12の向きを、各ポートが下に来るように、すなわち、
図1に示す向きとは上下方向を逆にして、維持する。天板部12Bの上に、フィルタ32、34及び60をそれぞれ載置する。そして、フィルタ32、34及び60の上に吸着材30を充填する。ケーシング本体12の隔壁22に区画された空間のうち、天板部12Bにタンクポート16及びパージポート18が形成されている側の空間に充填された吸着材30の上に、ウレタンシート36を載置し、ウレタンシート36の孔に占有部40を挿入しつつ占有部材42を載置する。また、ケーシング本体12の隔壁22に区画された空間のうち、天板部12Bに大気ポート20が形成されている側の空間に充填された吸着材30の上に仕切り部材62を載置し、仕切り部材62の上に占有部材58を、ベース部54が仕切り部材62の側に来るようにして載置する。再び吸着材30を充填し、吸着材30の上にウレタンシート48、多孔板50をこの順に載置する。占有部材42のベース部38に対してコイルスプリング44を、多孔板50に対してコイルスプリング52を固定し、ケーシング本体12の開口部をケーシング蓋14で覆う。その後、ケーシング本体12とケーシング蓋14を溶着により結合する。
【0027】
(蒸発燃料の流れ)
キャニスタ1内の蒸発燃料の流れについて、
図1を参照して説明する。キャニスタ1を搭載している車両では、例えば、駐車時において、燃料タンク内で蒸発燃料が発生する。発生した蒸発燃料は、燃料タンクとキャニスタ1のタンクポート16を連通するベーパ通路を通り、タンクポート16を介して吸着室24内に流入する。吸着室24内に流入した蒸発燃料は、吸着室24、連通路64、吸着室26、吸着室28の順に流体通路66を流れつつ、各吸着室内の吸着材30により吸着される。そして、蒸発燃料を含有しない、又は極僅かに含有する空気が、大気ポート20より大気へ放出される。なお、タンクポート16、流体通路66及び大気ポート20が、本明細書中の吸着流路に相当する。
【0028】
一方、車両の走行時、すなわち内燃機関の稼働時には、パージポート18と吸気通路を連通するパージ通路に配設されたパージポンプにより、ケーシング10内部は、パージポート18を介して吸引される。すると、大気ポート20からケーシング10内へと空気が流入し、流体通路66を、吸着室28、吸着室26、連通路64、吸着室24の順に流れ、パージポート18からパージ通路へと流出する。この際、各吸着室内に充填されている吸着材30に吸着されている蒸発燃料は、吸着材30から脱離し、空気とともに流体通路66をパージポート18に向かって流れる。なお、大気ポート20、流体通路66及びパージポート18が、本明細書中のパージ流路に相当する。
【0029】
(第1の実施形態の利点)
一般に、吸着した蒸発燃料の脱離は吸熱反応である。そして、蒸発燃料の脱離時には、上述したように、流体通路66を、吸着室28、吸着室26、連通路64、吸着室24の順に流れる。その際、大気ポート20から流入した空気の温度は、流体通路66をパージポート18に向かって流れるにつれて、徐々に低下していく。つまり、蒸発燃料の脱離時において、吸着室26、吸着室24内の温度は、吸着室28内の温度に比して低くなるため、これらの吸着室に充填されている吸着材30の脱離性能もまた、吸着室28内の吸着材30に比して低下する。
【0030】
第1の実施形態では、大気ポート20の最も近くに位置する吸着室28よりもパージポート18側に位置する吸着室26及び吸着室24内部には、それぞれ占有部56を有する占有部材58、占有部40を有する占有部材42が配設されている。占有部40は周壁部12Aから離隔して配設されており、同様に占有部56も周壁部12Aから離隔して配設されている。そして、占有部40及び占有部56は中空とされている。その結果、占有部40、占有部56の熱伝導率は、ケーシング10よりも低くなっている。なお、占有部40の熱伝導率は、占有部40の各部分の熱伝導率の平均値を指す。すなわち、占有部40の樹脂部分の体積と当該樹脂の熱伝導率の積と、中空部分の体積と空気の熱伝導率の積との和を、樹脂部分の体積と中空部分の体積との和で除して得られる値を指す。占有部56の熱伝導率も同様にして求められる。
【0031】
主に周壁部12Aを介して、吸着室内の空気や吸着材30と外気との間では、熱伝導が生じる。そのため、吸着室内に外気よりも低温の空気が流入した場合、周壁部12A近傍の領域にある吸着材30は、流入した空気による温度の低下が比較的抑えられるが、ケーシング本体12の周壁部12Aから離隔した領域にある吸着材30は温度の低下が著しくなる。しかし、本実施形態では、吸着室24及び吸着室26において、ケーシング本体12の周壁部12Aから離隔した領域に、それぞれ占有部材42、占有部材58が配設されている。これらにより、吸着室24、吸着室26において、ケーシング本体12の周壁部12Aから離隔した領域の少なくとも一部には、吸着材30は充填されない。すなわち吸着室24、吸着室26内には、主に、比較的外気との間で熱伝導が生じやすい領域に吸着材30が充填されている。更に、占有部材42、占有部56は中空に形成されておりケーシング10よりも熱伝導度が低くされているため、温度が低下しにくい。以上のことから、低温の空気が流入しがちな吸着室(本実施形態では、吸着室24、吸着室26)において、温度が低下することによる吸着材30の脱離性能の低下を抑制することができる。
【0032】
また、占有部40は円錐形状を有しており、占有部40の、流体通路66に直交する横断面の面積は、流体通路66上において、大気ポート20に向けて増加している。同様に、占有部56は円錐台形状を有しており、占有部56の、流体通路66に直交する横断面の面積は流体通路66上において、大気ポート20に向けて増加している。言い換えると、吸着室の吸着材が充填された領域の、蒸発燃料の流れ方向と直交する断面積は、大気ポート20に向けて減少している。
【0033】
タンクポート16から流入した蒸発燃料は、流体通路66を大気ポート20に向かって流れる間に、各吸着室内に充填された吸着材30により吸着されるため、吸着されていない蒸発燃料の濃度は大気ポート20に向かって低下していく。一般に、蒸発燃料の濃度が低下するほど、吸着材に吸着される蒸発燃料の割合は低下するため、所謂吹き抜けが起こりやすくなる。一方、本実施形態では、各占有部(占有部40、占有部56)の形状を、上述の如く形成している。そのため、占有部が配設された吸着室(吸着室24、吸着室26)の、吸着室における蒸発燃料の流れ方向の長さをLとし、吸着室の吸着材が充填された領域の、蒸発燃料の流れ方向と直交する断面積と同等の面積となる円の直径をDとした際のL/D値が、大気ポート20に向かって徐々に増加する。一般に、L/D値が大きくなるほど、吹き抜けが抑制される。以上のことから、占有部が配設された吸着室において、蒸発燃料濃度の低下による吹き抜けを、効果的に抑制することができる。
【0034】
[第2の実施形態]
図4を参照して、第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同じ構成を有する部位については説明を省略する。また、第1の実施形態と対応するが異なる形状を有する構成要素についても第1の実施形態と同じ符号を付し、異なる点についての説明を行う。
【0035】
第1の実施形態では、吸着室24及び吸着室26にそれぞれ占有部材42及び占有部材58を配設していた。第2の実施形態では、吸着室に占有部材を配設することに代えて、吸着室を規定する、ケーシング本体12の周壁部12Aの一部を、該吸着室の内方に向かう凹形状とした。
図4に示す吸着室26では、ケーシング本体12の周壁部12Aのうち、吸着室26の右側の壁面に相当する部分が、吸着室26の内方に向かう凹形状をなしている。
【0036】
(第2の実施形態の利点)
第2の実施形態では、流体通路66上において大気ポート20の最も近くに位置する吸着室28よりもパージポート18側に位置する吸着室26を規定する、ケーシング本体12の周壁部12Aの一部が吸着室26の内方に向かう凹形状を形成している。つまり、第2の実施形態では、吸着室26において、ケーシング本体12の周壁部12Aからの距離が大きくなる領域が除去されている。そのため、吸着室26内の吸着材30の大部分では、周壁部12Aを介した大気との間での熱伝導が起こりやすくなるので、低温の空気が吸着室28から流入しても、温度の低下を抑えることができる。以上のことから、第2の実施形態においても、低温の空気が流入しがちな吸着室(本実施形態では、吸着室26)において、温度が低下することによる吸着材30の脱離性能の低下を抑制することができる。
【0037】
[変形例]
本明細書に開示のキャニスタは、上記した実施形態に限定されるものではなく、その他の形態に変更が可能である。第1の実施形態において、吸着室24、吸着室26に配設される占有部材の形状は、それぞれ占有部材42、占有部材58の形状には限定されない。
吸着室24に占有部が円錐台形状を有する占有部材を配設してもよいし、吸着室26に占有部が円錐形状を有する占有部材を配設してもよい。また、吸着室24、吸着室26の少なくとも一方に、
図5に示すように占有部が中空の円柱形状を有する占有部材を配設してもよい。或いは、
図6に示すように、占有部として複数(
図6では3つ)の中空の円柱を有する占有部材を配設してもよい。占有部材は占有部を有していれば、必ずしもベース部を有していなくてもよい。その場合は、占有部に、吸着室内での位置決めをするための、任意の位置決め手段を設けることが望ましい。占有部は、中空に形成されていなくてもよい。その場合、占有部を、ケーシング10を形成する樹脂よりも熱伝導率が低い材料により形成することが好ましい。
【0038】
占有部材は吸着室24及び吸着室26のうち一方にのみ配設してもよい。また、キャニスタが4つ以上の吸着室を有する場合は、占有部材は、流体通路上において大気ポートの最も近くに位置する吸着室よりもパージポート側に位置する吸着室以降の吸着室の少なくとも一つの吸着室に配設されていればよい。
【0039】
第2の実施形態において、吸着室26に代えて吸着室24について、あるいは吸着室24と吸着室26の両方について、吸着室を規定する、ケーシング本体12の周壁部12Aの一部を、該吸着室の内方に向かう凹形状としてもよい。また、吸着室の形状は、
図4に示す形状に限定されない。例えば
図7に示すように、吸着室(ここでは吸着室26を例に図示する)の横断面の断面積が、流体通路上において大気ポートに向かって減少するように形成してもよい。これにより、大気ポートに向けてL/Dを増加させることができ、吹き抜けを効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 キャニスタ
10 ケーシング
12A 周壁部(ケーシングの周壁)
16 タンクポート
18 パージポート
20 大気ポート
24 吸着室
26 吸着室(第2吸着室)
28 吸着室(第1吸着室)
30 吸着材
40,56 占有部
42,58 占有部材