(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20221219BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2019121068
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】加納 邦泰
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 浩太
(72)【発明者】
【氏名】神吉 伸通
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-186725(JP,A)
【文献】特開2006-330202(JP,A)
【文献】特開2009-014820(JP,A)
【文献】特開2004-004806(JP,A)
【文献】特開2019-008185(JP,A)
【文献】特開2016-218448(JP,A)
【文献】特開2007-199300(JP,A)
【文献】特開2007-003666(JP,A)
【文献】特開2016-090852(JP,A)
【文献】特開2003-248340(JP,A)
【文献】特開2005-091707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを80モル%以上含むアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物及び非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物である非晶質ポリエステル樹脂A、及びワックスを含有する静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
非晶質ポリエステル樹脂Aが、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを80モル%以上含むアルコール成分と非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物に、酸変性物Aが重縮合した重縮合物である、請求項1記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aの重量平均分子量が、500以上5,000以下である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びこれらの酸の無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種の酸により変性された酸変性物である、請求項1~3いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の片末端が酸により変性された酸変性物である、請求項1~4いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
ワックスが、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びエステルワックスからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1~5いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
ワックスの融点が、80℃以上130℃以下である、請求項1~6いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンターの小型化、高速化、及び高画質化の促進とともに、高信頼性及び省エネルギーの観点から、トナーの耐ホットオフセット性、耐久性、保存性の向上が強く求められている。また、環境意識の高まりにより、トナー用結着樹脂の原料モノマーとして脂肪族モノマーが注目されている。
しかし、脂肪族モノマーはワックスと比べて親水的であるため、トナー中に配合する疎水的なワックスを分散することが困難であり、耐ホットオフセット性と耐久性の両立が困難である。また、脂肪族モノマーは吸湿性が高いため保存性が悪くなる傾向がある。
【0003】
特許文献1には、脂肪族ジオールとポリカルボン酸成分が重縮合されてなるトナー用ポリエステル樹脂において、ポリオール成分のモル平均凝集エネルギーが7.0×104~1.4×105Jであって、150℃における貯蔵弾性率が2.5×103Pa~5×106Paの1種以上のポリエステル樹脂(A1)を20~100重量%含有することを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂が開示されている。
【0004】
特許文献2には、トナーバインダー(A)、ワックス(B)、着色剤(C)からなるカラートナーにおいて、(A)が炭素数8以上の炭化水素基を1~50重量%含有する樹脂(D)からなり、かつ、(A)のヘイズ値が70以下であることを特徴とするカラートナーが開示されている。
【0005】
特許文献3には、少なくともポリエステルからなるバインダー樹脂とワックスとを含有するトナーにおいて、ポリエステルとワックスとを相溶化させる相溶化剤であって、ポリエステルと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンとを反応させてなることを特徴とする相溶化剤を含有することを特徴とするトナー用ポリエステル系樹脂組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、ポリエステル樹脂由来の構成部位、及び、カルボン酸基又は無水カルボン酸基を有する変性ポリプロピレン系重合体A由来の構成部位を有し、前記ポリエステル樹脂由来の構成部位と前記変性ポリプロピレン系重合体A由来の構成部位とが、共有結合により連結している、非晶性ポリエステル系樹脂を含有するトナー用結着樹脂組成物であって、前記重合体Aは、不飽和結合を有するカルボン酸化合物又はその無水物により末端変性されたポリプロピレン系重合体であり、前記ポリエステル系樹脂中、前記重合体A由来の構成単位の量が、ポリエステル樹脂由来の構成部位を形成するアルコール成分とカルボン酸成分の合計量100質量部に対して、8質量部以上30質量部以下である、トナー用結着樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-154686号公報
【文献】特開2000-250264号公報
【文献】特開2005-316378号公報
【文献】特開2019-008185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、脂肪族ジオールとポリカルボン酸成分が重縮合されてなるポリエステル樹脂を使用することで、耐ホットオフセット性は向上するが保存性が悪化する虞がある。また、特許文献2では、短鎖の疎水モノマーを組み込むことで低温定着性と耐ホットオフセット性は良化するが、トナーのガラス転移温度の低下により保存性が悪化する虞がある。また、特許文献3では、炭素数2又は3のα-オレフィン重合体のような結晶性のワックス相溶化剤を用いると、耐ホットオフセット性は向上するが耐久性が悪化する虞がある。また、特許文献4では、結晶性のポリプロピレン重合体を用いると、特許文献2と同様に、耐ホットオフセット性は向上するが耐久性が悪化する虞がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、耐ホットオフセット性、耐久性及び保存性に優れる静電荷像現像用トナーの提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを80モル%以上含むアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物及び非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物である非晶質ポリエステル樹脂A、及びワックスを含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーは、耐ホットオフセット性、耐久性及び保存性において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の静電荷像現像用トナーは、非晶質ポリエステル樹脂とワックスを含有し、非晶質ポリエステル樹脂が、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが用いられた非晶質ポリエステル樹脂Aであることに1つの特徴を有する。非晶質ポリエステル樹脂A中の酸変性物Aに由来する部位がワックスと相溶しやすいため、ワックスの配合量を増加してもポリエステル樹脂中に高分散させることができ、耐ホットオフセット性と耐久性の両立が可能となる。
【0013】
また、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物は、カルボン酸基又は無水カルボン酸基を有する変性ポリプロピレン系重合体のような結晶性のα-オレフィンの重合体の酸変性物に比べて、非晶質であり濡れ広がるためポリエステル樹脂中での分散が良好であり、その結果としてワックス分散が向上し、耐ホットオフセット性と耐久性の両立ができる。結晶性を有する酸変性物の場合、結晶由来の凝集性の高さのためポリエステル樹脂中での分散が悪く、その結果としてワックス分散が不十分となり耐ホットオフセット性と耐久性を両立することが困難であるものと推察される。
酸変性物の結晶性は、後述の樹脂の結晶性と同様に結晶性指数([軟化点/吸熱の最高ピーク温度])によって表わされる。非晶質の酸変性物は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。また、吸熱の最高ピーク温度が検出されないものも非晶質であると判断する。
【0014】
非晶質ポリエステル樹脂Aは、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含むアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物及び非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物である。
【0015】
アルコール成分は、低温定着性の観点から、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含む。炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中では、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、又はネオペンチルグリコールが好ましく、エチレングリコール又はネオペンチルグリコールがより好ましく、エチレングリコールとネオペンチルグリコールの組み合わせがさらに好ましい。エチレングリコールとネオペンチルグリコール(エチレングリコール/ネオペンチルグリコール)のモル比は、好ましくは15/85以上、より好ましくは20/80以上であり、そして、好ましくは60/40以下、より好ましくは50/50以下である。
【0016】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0017】
炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール以外のアルコール成分としては、例えば、1,8-オクタンジオール等の炭素数7以上の脂肪族ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等の芳香族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。他のアルコールの含有量は、アルコール成分中、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。
【0018】
カルボン酸成分に含まれる炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aにおいて、α-オレフィンの炭素数は、4以上であり、そして、18以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、さらに好ましくは4である。
【0019】
炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体としては、ポリイソブテン系重合体、ポリ1-ブテン系重合体、ポリ1-ペンテン系重合体、ポリ1-ヘキセン系重合体、ポリ1-オクテン系重合体、ポリ4-メチルペンテン系重合体、ポリ1-ドデセン系重合体、1-ヘキサデセン系重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体等が挙げられ、これらの中では、ポリイソブテン系重合体が好ましい。前記α-オレフィン重合体は、前記α-オレフィンの単独重合体であってもよく、前記α-オレフィンから選ばれる2種以上の共重合体であってもよく、前記α-オレフィンとその他のオレフィンとの共重合体であってもよい。また、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0020】
ポリイソブテン系重合体としては、ポリイソブテン、イソブテンとその他オレフィンとの共重合体等が挙げられる。その他のオレフィンは、例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、2-エチルヘキセンが挙げられる。共重合体である場合、イソブテンの割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%未満である。
【0021】
一方、酸変性物Aとしては、ポリエステル樹脂との反応性の観点から、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びこれらの酸の無水物からなる群より選ばれた少なくとも1種の酸により変性された酸変性物が好ましく、無水マレイン酸で変性された酸変性物がより好ましい。また、酸変性物としては、前記α-オレフィン重合体に酸がランダムにグラフトされ変性されたランダムグラフト型の酸変性物や、前記α-オレフィン重合体の末端が酸により変性された末端変性型の酸変性物等が挙げられるが、本発明では、低温定着性及び保存性の観点から、末端変性型の酸変性物が好ましく、炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の片末端が酸により変性された片末端変性型の酸変性物がより好ましい。
【0022】
ランダムグラフト型の酸変性物は、好ましくは重合体1分子中に1個以上の酸がグラフト化され変性されている。酸によって変性されているかは、一般的なスペクトル測定によって規定できる。例えば、無水マレイン酸によるランダムグラフト型酸変性物の場合、無水マレイン酸によって変性されると、無水マレイン酸の二重結合が単結合に変化するのでそのスペクトル変化を測定することで規定できる。
【0023】
ランダムグラフト変性型の酸変性物は、例えば、α-オレフィン重合体の分子内にラジカルを発生させ、不飽和結合を有するカルボン酸化合物又はその無水物と反応させることで得られる。
【0024】
末端変性型の酸変性物は、好ましくは重合体1分子中に1個(片末端)又は2個(両末端)の酸によって変性される。酸によって変性されているかは、一般的なスペクトル測定によって規定できる。例えば、無水マレイン酸による片末端型酸変性物の場合、無水マレイン酸によって変性されると、無水マレイン酸の二重結合が単結合に変化するのでそのスペクトル変化を測定することで規定できる。またα-オレフィンの重合体側の被連結部分も結合前後でスペクトル変化を起こすのでこれを測定することで規定できる。
【0025】
片末端型の酸変性物は、例えば、片末端に不飽和結合を有する前記α-オレフィン重合体に、酸をEne反応させることで得られる。片末端に不飽和結合を有する前記α-オレフィン重合体は、公知の方法により得られるが、例えば、バナジウム系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム系触媒等を用いて製造することができる。
【0026】
以上より、α-オレフィン重合体の酸変性物Aとしては、片末端が無水マレイン酸で変性されたポリイソブテン無水コハク酸が好ましい。
【0027】
酸変性物Aの重量平均分子量は、保存性の観点から、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、さらに好ましくは900以上、さらに好ましくは1,100以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0028】
酸変性物Aの含有量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の合計量100質量部に対して、耐ホットオフセット性及び耐久性の観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは12質量部以上であり、そして、耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは23質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0029】
カルボン酸成分は、さらに、保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物を含有している。
【0030】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、低温定着性の観点から、テレフタル酸又はイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0031】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、α-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分中、保存性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。
【0032】
酸変性物A及び芳香族ジカルボン酸系化合物以外のカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸系化合物、3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0033】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0034】
3価以上のカルボン酸系化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルエステル等が挙げられ、これらの中では、トリメリット酸系化合物が好ましい。
【0035】
3価以上のカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下である。
【0036】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0037】
非晶質ポリエステル樹脂Aは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0038】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、t-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分と酸変性物A以外のカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0039】
非晶質ポリエステル樹脂Aは、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含むアルコール成分と芳香族ジカルボン酸系化合物及び非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aを含むカルボン酸成分との重縮合物であっても、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含むアルコール成分と非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物に、当該酸変性物Aが重縮合した重縮合物であってもよいが、保存性の観点から、後者の重縮合物が好ましい。
【0040】
後者の重縮合物を得る場合には、例えば、炭素数2以上6以下の脂肪族ジオールを含むアルコール成分と炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物A以外のカルボン酸成分との重縮合物と、酸変性物Aとを、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは190℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で反応させて製造することができる。
【0041】
なお、本発明において、非晶質ポリエステル樹脂Aは、実質的にその特性を損なわない程度に酸以外で変性されたポリエステル樹脂であってもよい。酸以外で変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0042】
ポリエステル樹脂Aは非晶質樹脂である。樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0043】
非晶質ポリエステル樹脂Aの軟化点は、保存安定性の観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
【0044】
非晶質ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、保存安定性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0045】
非晶質ポリエステル樹脂Aの酸価は、低温定着性の観点から、好ましくは15mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、さらに好ましくは30mgKOH/g以上であり、そして、耐吸湿性の観点から、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。
【0046】
本発明の静電荷像現像用トナーには、結着樹脂として、非晶質ポリエステル樹脂A以外のポリエステル樹脂や、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、これらの樹脂を2種以上含む複合樹脂等が含有されていてもよいが、非晶質ポリエステル樹脂Aの含有量は、結着樹脂中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0047】
ワックスとしては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス又はそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。これらの中では、耐久性の観点から、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びエステルワックスからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、離形性及び耐熱性の観点から、フィッシャートロプシュワックスがより好ましい。
【0048】
フィッシャートロプシュワックスの25℃における針入度は、耐久性の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、さらに好ましくは1.5以下であり、そして、ワックス分散の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上である。
【0049】
ワックスの融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
【0050】
ワックスの含有量は、耐ホットオフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上であり、そして、保存性及び耐久性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。本発明では、ワックスの分散性が高いため、比較的高含量で、トナー中に配合することができる。
【0051】
本発明の静電荷像現像用トナーには、結着樹脂及びワックス以外に、着色剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0052】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0053】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0054】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0055】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0056】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0057】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0058】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性やワックスの分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、ワックス、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0059】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0060】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0061】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下、さらに好ましくは90nm以下である。
【0062】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0063】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0064】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0066】
〔酸変性物の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。吸熱の最高ピーク温度が検出されないものは非晶質であり、検出される場合は樹脂と同様の方法により軟化点を測定して、結晶性指数(軟化点/吸熱の最高ピーク温度)を算出して判断する。
【0067】
〔α-オレフィン重合体の酸変性物の重量平均分子量(Mw)〕
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業(株)製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量分布測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製のA-500(Mw 5.0×102)、A-1000(Mw 1.01×103)、A-2500(Mw 2.63×103)、A-5000(Mw 5.97×103)、F-1(Mw 1.02×104)、F-2(Mw 1.81×104)、F-4(Mw 3.97×104)、F-10(Mw 9.64×104)、F-20(Mw 1.90×105)、F-40(Mw 4.27×105)、F-80(Mw 7.06×105)、F-128(Mw 1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー(株)製)
【0068】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0069】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0070】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0071】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0072】
〔ワックスの融点〕
示差走査熱量計「DSC Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度をワックスの融点とする。
【0073】
〔ワックスの針入度〕
JIS K2235に従って測定する。
【0074】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0075】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター(株)製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマン・コールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマン・コールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0076】
樹脂製造例1
表1、2に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表1、2に示すテレフタル酸を添加し、130℃まで昇温し、表1、2に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、185℃まで昇温し、185℃で5時間反応させた後、220℃まで5℃/hの速度で段階的に昇温を行った。その後220℃にて反応率が90%以上に到達したのを確認した後、160℃まで冷却し、表1、2に示す酸変性物を添加し、再度、220℃まで昇温し、220℃で5時間重縮合反応させた。その後、200℃まで冷却し、表1、2に示す無水トリメリット酸を添加し、200℃で1時間重縮合反応させ、さらに200℃、8.0kPaにて表1、2に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A1~A5、A7~A9)を得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0077】
樹脂製造例2
表2に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表2に示すテレフタル酸を添加し、130℃まで昇温し、表2に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、185℃まで昇温し、185℃で5時間反応させた後、220℃まで5℃/hの速度で段階的に昇温を行った。その後220℃にて反応率が90%以上に到達したのを確認した後、200℃まで冷却し、表2に示す炭素数10~14のアルケニル基で置換されたアルケニル無水コハク酸及び無水トリメリット酸を添加し、200℃で1時間重縮合反応させ、さらに200℃、8.0kPaにて表2に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A6)を得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0078】
樹脂製造例3
表2に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表2に示すテレフタル酸を添加し、130℃まで昇温し、表2に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、185℃まで昇温し、185℃で5時間反応させた後、220℃まで5℃/hの速度で段階的に昇温を行った。その後220℃にて反応率が90%以上に到達したのを確認した後、さらに220℃、8.0kPaにて表2に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A10)を得た。
【0079】
樹脂製造例4
表2に示すアルコール成分を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、100℃に昇温した後、表2に示すテレフタル酸を添加し、130℃まで昇温し、表2に示すエステル化触媒とエステル化助触媒を添加し、185℃まで昇温し、185℃で5時間反応させた後、220℃まで5℃/hの速度で段階的に昇温を行った。その後220℃にて反応率が90%以上に到達したのを確認した後、160℃まで冷却し、表2に示す酸変性物を添加し、再度、220℃まで昇温し、220℃で5時間重縮合反応させた。その後、200℃まで冷却し、表2に示す無水トリメリット酸を添加し、200℃で1時間重縮合反応させ、さらに200℃、8.0kPaにて表2に示す軟化点に到達するまで反応させて、非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A11)を得た。
【0080】
【0081】
【0082】
実施例1~11及び比較例1~3
表3に示す結着樹脂及びワックスと、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、フタロシアニンブルー(P.B.15:3))3.0質量部及び荷電制御剤「ボントロンE-304」(オリエント化学工業(株)製)0.5質量部を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間攪拌した後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0083】
〔溶融混練条件〕
同方向回転二軸押出機「PCM-30」((株)池貝製、軸の直径 2.9cm、軸の断面積 7.06cm2)を使用した。運転条件は、バレル設定温度 120℃、軸回転数 200r/min(軸の回転の周速 0.30m/sec)、混合物供給速度 10kg/h(軸の単位断面積あたりの混合物供給量 1.42kg/h・cm2)であった。
【0084】
得られた混練物を冷却し、粉砕機「ロートプレックス」(ホソカワミクロン(株)製)により粗粉砕し、目開きが2mmのふるいを用いて体積中位粒子径が2mm以下の粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、DS2型気流分級機(衝突板式、日本ニューマチック(株)製)を用いて体積中位粒径が8.0μmになるように粉砕圧を調整して微粉砕した。得られた微粉砕物を、DSX2型気流分級機(日本ニューマチック(株)製)を用いて体積中位粒径が6.5μmになるように静圧(内部圧力)を調整して分級を行い、トナー粒子を得た。
【0085】
得られたトナー粒子100質量部と、外添剤として、疎水性シリカ「アエロジル R-972」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)0.8質量部、及び疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル(株)製、疎水化処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径:40nm)1.2質量部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製)を用いて回転数2100r/min(周速度29m/sec)で3分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0086】
試験例1〔耐ホットオフセット性〕
未定着画像を取れるように改造した、プリンター「OKI MICROLINE 5400」(沖データ社製)にトナーを充填し、2cm角のベタ画像の未定着画像を印刷した。「OKI MICROLINE 3010」(沖データ社製)を改造した外部定着装置を使用して、定着ロールの回転速度150mm/secにて、定着ロールの温度を100℃から200℃まで5℃ずつ上昇させながら、各温度でこの未定着画像の定着処理を行い、定着画像を得た。得られた100~200℃の定着画像を目視で確認し、ホットオフセットの発生が見られない定着ロールの最高温度を最高定着温度とした。結果を表3に示す。得られた温度が高いほど耐ホットオフセット性に優れる。
【0087】
試験例2〔耐久性〕
現像ローラを目視で見ることができるように改造した沖データ社製のIDカートリッジ「ML-5400用、イメージドラム」にトナーを実装し、温度30℃、湿度50%の条件下で、70r/min(36ppm相当)で空回し運転を行った。現像ローラフィルミングを目視にて観察し、フィルミング発生までの時間を耐久性の指標とした。結果を表3に示す。現像ローラフィルミング発生までの時間が長いほど、耐久性に優れることを示す。
【0088】
試験例3〔保存性〕
20mL容のポリプロピレン製の容器に、5gのトナーを入れた。トナーの入った容器を、50℃、の恒温恒湿槽に入れ、容器の蓋をあけた状態で、24時間保存した。放置後のトナーの凝集度を測定し、耐熱保存性の指標とした。結果を表3に示す。この数値が小さいほど、耐熱保存性に優れる。
【0089】
<凝集度>
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン(株)製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを5g載せ、1mmの振動幅で60秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量を測定し、下記の計算式を用いて凝集度の計算を行う。
【0090】
【0091】
【0092】
以上の結果より、実施例1~11のトナーは、非晶質ポリエステル樹脂とワックスを含有し、非晶質ポリエステル樹脂が、非晶質である炭素数4以上18以下のα-オレフィン重合体の酸変性物Aが用いられた非晶質ポリエステル樹脂Aであるので、耐ホットオフセット性、耐久性及び保存性のいずれもが良好であることが分かる。
なお、実施例1~4の対比から、上記酸変性物の増量とともに、ワックスの分散性が向上し、耐ホットオフセット性と耐久性をより高いレベルで両立できることが分かる。また、実施例3で使用したフィッシャートロプシュワックスは、実施例5で使用したエステルワックスと比べて、耐ホットオフセット性、保存性及び耐久性をより向上することが分かる。また、実施例3、6、7の対比から、ワックスを増量することで耐ホットオフセット性が向上し、ワックス分散も良好であるため、耐久性及び保存性が向上することが分かる。また、実施例8のように、上記酸変性物を増量した非晶質ポリエステル樹脂を、酸変性物を用いていない非晶質ポリエステル樹脂と混合できることが分かる。また、非晶質ポリエステル樹脂の脂肪族ジオールを変更した実施例3、9から11のトナーでは、非晶質ポリエステル樹脂とワックスの相溶性を制御することで、ワックスの分散性を制御し、耐ホットオフセット性、耐久性及び保存性がとても良好であることが分かる。
これに対して、上記酸変性物を使用していない比較例1では、ワックスとの相溶化剤がないためか、ワックスの分散性が悪く、耐ホットオフセット性及び耐久性に劣ることが分かる。また、上記酸変性物の代りに、アルケニル無水コハク酸を使用した比較例2では、α-オレフィンの重合体ではなく分子量が小さくポリエステル部位と相溶するためか、実施例3と比べて、熱的に弱いためか、耐ホットオフセット性、耐久性及び保存性が悪化することが分かる。また、結晶性を有する酸変性物を使用した比較例3では、結晶性を有する酸変性物のポリエステル中での分散が悪いためか、実施例3と比べると、ワックスの分散性が不十分であるためか、耐ホットオフセット性と耐久性が悪化することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の静電荷像現像用トナーは、静電荷像現像法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるものである。