(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】スイッチング電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
H02M3/155 C
(21)【出願番号】P 2019161370
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行川 敏正
(72)【発明者】
【氏名】松尾 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】田中 克征
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-016066(JP,A)
【文献】特開2018-078687(JP,A)
【文献】特開2019-056982(JP,A)
【文献】特開2011-030376(JP,A)
【文献】特開2007-336748(JP,A)
【文献】特開2018-133915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照電圧と出力電圧の帰還電圧を比較して、前記出力電圧を前記参照電圧に応じて制御するスイッチング電源回路において、
出力電流が所定の設定電流を超えた場合に前記参照電圧の電位を低下させ
、
前記出力電流が前記所定の設定電流を超えた場合に、前記参照電圧を固定電圧から前記出力電流に応じて変化する電圧に切換え、
前記スイッチング電源回路は、
前記出力電流が前記所定の設定電流を超えた回数に応じて充放電が制御される容量を有し、前記出力電流に応じて変化する電圧を生成する積分器、をさらに備えることを特徴とするスイッチング電源回路。
【請求項2】
前記参照電圧と前記帰還電圧を比較して、その差電圧に応じた制御電圧を出力する差動増幅回路を備え、
前記出力電流に応じて変化する電圧は、第1の補償回路を介して前記差動増幅回路の第1の入力端に供給され、
前記帰還電圧は第2の補償回路を介して前記差動増幅回路の第2の入力端に供給されることを特徴とする請求項
1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
直流入力電圧が印加される入力端子と前記出力電圧を供給する出力端子間に主電流路が接続されるスイッチングトランジスタと、
前記スイッチングトランジスタと前記出力端子間に接続されるインダクタと、
前記差動増幅回路が出力する制御電圧に応じてデューティ比が変化するPWM信号を生成するPWM信号生成回路と
を備え、
前記PWM信号生成回路が生成する前記PWM信号によって前記スイッチングトランジスタのオン/オフが制御され、
前記出力電流は、前記スイッチングトランジスタから前記インダクタに供給されるインダクタ電流であることを特徴とする請求項
2に記載のスイッチング電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、スイッチング電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帰還電圧が参照電圧に等しくなるように電圧フィードバック制御を行うスイッチング電源回路において、過電流保護機能を備えた構成が知られている。過電流保護は、例えば、過負荷状態において過電流を検出した時に、電圧フィードバック制御によりスイッチングトランジスタをオフさせる。しかしながら、過電流保護時に電圧フィードバック制御を停止させた場合には出力電圧が不安定になる為、その出力電圧が供給される機器の動作も不安定になる。この為、過電流保護動作中においても安定した出力電圧を供給することができ、また、過負荷状態が解消された時には、定常状態に瞬時に復帰できるスイッチング電源回路が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの実施形態は、過負荷状態において安定した出力電圧を供給することができると共に、過負荷状態が解消した時に出力電圧を定常状態に瞬時に復帰させることができる過電流保護機能を備えたスイッチング電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態によれば、スイッチング電源回路は、参照電圧と出力電圧の帰還電圧を比較して前記出力電圧を前記参照電圧に応じて制御し、出力電流が所定の設定電流を超えた場合に前記参照電圧の電位を低下させ、前記出力電流が前記所定の設定電流を超えた場合に、前記参照電圧を固定電圧から前記出力電流に応じて変化する電圧に切換え、前記スイッチング電源回路は、前記出力電流が前記所定の設定電流を超えた回数に応じて充放電が制御される容量を有し、前記出力電流に応じて変化する電圧を生成する積分器、をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態のスイッチング電源回路の構成を示す図。
【
図2】第1の実施形態のスイッチング電源回路の動作を概略的に示す波形図。
【
図3】第2の実施形態のスイッチング電源回路の構成を示す図。
【
図4】第2の実施形態の電流帰還ループの伝達特性を示す図。
【
図5】第3の実施形態のスイッチング電源回路の構成を示す図。
【
図7】第4の実施形態のスイッチング電源回路の構成を示す図。
【
図8】第4の実施形態のスイッチング電源回路の動作を概略的に示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかるスイッチング電源回路を詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のスイッチング電源回路の構成を示す図である。本実施形態のスイッチング電源回路は、過電流保護機能を備える降圧型スイッチング電源回路である。直流の入力電圧V
INが入力端子20に供給され、直流の出力電圧V
OUTが出力端子21から出力される。
【0009】
エラーアンプ1は、反転入力端(-)に帰還電圧VFBが電圧ループ位相補償器6を介して供給され、非反転入力端(+)に参照電圧信号VREFXが供給される。エラーアンプ1は、帰還電圧VFBを参照電圧信号VREFXに追随させる電圧フィードバック制御を行う。エラーアンプ1は、参照電圧信号VREFXと帰還電圧VFBとの差電圧に応じた指示電圧VDをパルス幅変調器2に出力する。
【0010】
パルス幅変調器2は、所定周波数のクロック信号CLKpに応答して鋸波信号を生成し、鋸波信号と指示電圧VDを比較してパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)により駆動信号DRVpを生成する。駆動信号DRVpは、ドライバ回路3に供給される。駆動信号DRVpのデユーティ比は、指示電圧VDに応じて変化する。例えば、指示電圧VDの値が大きくなると、駆動信号DRVpのHi期間が短くなる。
【0011】
ドライバ回路3は、入力電圧VINが印加される入力端子20と接地GND間に接続され、ノードSWを介して電流をローパスフィルタ4に供給する。ドライバ回路3は、駆動信号DRVpによってオン/オフが制御されるスイッチングトランジスタ(図示せず)とダイオード(図示せず)の直列回路を有する。
【0012】
ローパスフィルタ4は、ノードSWと接地GND間に直列に接続されるインダクタLoと出力容量Coを有する。インダクタLoと出力容量Coの接続点は出力端子21に接続される。インダクタLoには、インダクタ電流ILが流れる。ドライバ回路3から出力される電流は、インダクタ電流ILが平滑されて、出力端子21から負荷電流Iloadとして出力される。便宜的に、ドライバ回路3が出力する電流、インダクタ電流IL、および負荷電流Iloadの総称として出力電流の用語を用いる場合がある。
【0013】
抵抗分圧器5は、出力電圧VOUTの出力端子21と接地GND間に接続され、抵抗Rfb1と抵抗Rfb2の直列回路を有する。抵抗分圧器5は、抵抗Rfb1、Rfb2によって出力電圧VOUTが分圧された帰還電圧VFBを生成し、電圧ループ位相補償器6に供給する。帰還電圧VFBは、出力電圧VOUTと、抵抗Rfb1、Rfb2の抵抗比で定まる。
【0014】
負荷7は、一端が出力端子21に接続され、他端が接地GNDに接続される。負荷7には、負荷電流Iloadが供給される。例えば、負荷7の抵抗値の変化により負荷電流Iloadが変化する。
【0015】
本実施形態は、ドライバ回路3に流れる電流を検知する過電流検知器8を有する。ドライバ回路3に流れる電流を検知することで、負荷電流Iloadの状態を検知することができる。過電流検知器8は、ドライバ回路3に流れる電流を検知する電流センサ18からの出力信号と所定の設定電流値を比較して、電流センサ18からの出力信号が設定電流値を超えた時に過電流状態であることを示すHiの過電流検知信号OCDpを過電流保護回路9に出力する。
【0016】
過電流保護回路9は、クロック信号CLKpと過電流検知信号OCDpが供給される積分器10と、差動増幅器11と、電流ループ位相補償器12と、比較回路13と、ラッチ回路14と、選択スイッチ15とを有する。
【0017】
積分器10は、クロック信号CLKpと過電流検知信号OCDpが供給され、過電流検知信号OCDpの所定期間でのクロック信号CLKpの個数に応じて変化する積分信号VINTを生成する。積分器10は、例えば、過電流検知信号OCDpがHi期間のクロック信号CLKpの個数に応じて電圧が低下し、Low期間のクロック信号CLKpの個数に応じて電圧が上昇する積分信号VINTを出力する。
【0018】
差動増幅器11は、積分信号VINTと固定参照電圧VREFの電位差を増幅して保護電圧VLMTを出力する。保護電圧VLMTは、電流ループ位相補償器12、比較回路13、および、選択スイッチ15に供給される。保護電圧VLMTを、電流ループ位相補償器12を介して差動増幅器11の反転入力端(-)に帰還させることにより、差動増幅器11は、保護電圧VLMTが積分信号VINTに等しくなる様に動作する。
【0019】
比較回路13は、非反転入力端(+)に保護電圧VLMTが印加され、反転入力端(-)に固定参照電圧VREFが供給される。比較回路13は、保護電圧VLMTが固定参照電圧VREFよりも高くなるとリセット信号RSTpを出力する。
【0020】
ラッチ回路14は、リセット端子Rにリセット信号RSTpが供給され、セット端子Sに過電流検知信号OCDpが供給される。ラッチ回路14は、過電流検知信号OCDpによってセットされてHiとなり、リセット信号RSTpによってリセットされLowとなる過電流保護信号OCLpを選択スイッチ15に出力する。
【0021】
選択スイッチ15は、過電流保護信号OCLpがHiのとき保護電圧VLMTを選択し、過電流保護信号OCLpがLowのとき固定参照電圧VREFを選択して、参照電圧信号VREFXとして出力する。参照電圧信号VREFXは、エラーアンプ1の非反転入力端(+)に供給される。
【0022】
図2は、第1の実施形態のスイッチング電源回路の動作波形を概略的に示す図である。横軸を時間とし、夫々、以下の動作波形を示す。
【0023】
最上段は、負荷7(=1/RL)を示す。便宜的に、負荷7が抵抗負荷である場合を示す。負荷7は、比較的軽い状態から時間の経過と共に重くなり、重い状態を一定時間保ったのち、同じ速度で再び軽い状態に戻る。
【0024】
次段に、負荷電流Iloadの増減の様子を示す。負荷電流Iloadは、負荷7が重くなるのに従い増加する。ところが、予め設定される制限電流ILMTに達すると、負荷電流Iloadは制限電流ILMTを超えないように制御される。その後、負荷7が軽くなると負荷電流Iloadが減少する。
【0025】
次段に、過電流検知信号OCDpを示す。過電流検知信号OCDpは負荷電流Iloadが予め設定された制限電流ILMTより大きくなるとHiになるロジック信号である。過電流検知信号OCDpは、ドライバ回路3のスイッチングトランジスタ(図示せず)のスイッチングサイクル毎にHiまたはLowとなるパルス信号である。スイッチングトランジスタのスイッチングサイクルは、クロック信号CLKpの周波数によって制御される。
【0026】
次段に、参照電圧信号VREFXを示す。参照電圧信号VREFXは、定常状態の固定参照電圧VREF(一点鎖線)から、過電流状態の時に負荷電流Iloadに応じて変化する保護電圧VLMT(実線)に切換えられる。保護電圧VLMTは、出力電流が設定値を超える回数に応じて低下する。過電流検知信号OCDpがHiとなる頻度は負荷の増減速度に比例し、負荷が増加するときHiとなる頻度が高くなり、負荷が減少するときHiとなる頻度が低くなる。その頻度に応じて、保護電圧VLMTの電位が変化する為、参照電圧信号VREFXの電位が変化する。
【0027】
次段に、過電流保護信号OCLpを示す。過電流保護信号OCLpは、過電流検知信号OCDpがHiになるとHiにセットされ、保護電圧VLMTが固定参照電圧VREFより高くなるとLowにリセットされる。
最下段に出力電圧VOUTを示す。出力電圧VOUTは、電圧フィードバック制御により、参照電圧信号VREFXに追随して変化する。
【0028】
本実施形態によれば、過電流保護信号OCLpがHiの時、すなわち、ドライバ回路3を流れる電流が過電流状態の場合には、エラーアンプ1の非反転入力端(+)に供給される電圧は、固定参照電圧VREFから保護電圧VLMTに切換えられる。この為、エラーアンプ1を含む電圧帰還制御ループは、帰還電圧VFBを参照電圧信号VREFXに追随させて低下させる制御を行う。すなわち、出力電圧VOUTを低下させる制御が行われる。この制御により出力電流が抑制される為、過電流状態が継続する状態を回避することができる。
【0029】
過電流保護は、過電流保護信号OCLpがHiになるタイミングで開始し、Lowになるタイミングまで継続する。が、保護期間においても電圧フィードバック制御は常に動作している為、出力電圧VOUTが安定する。これにより、出力電圧VOUTが供給される機器の動作が安定する。また、過電流状態が解消した場合には、参照電圧信号VREFXは固定参照電圧VREFに瞬時に切り替わる為、出力電圧VOUTが固定参照電圧VREFを超えて異常に高くなるオーバーシュートを生じさせるような不具合は発生しない。
【0030】
本実施形態のスイッチング電源回路は、負荷電流Iloadが予め設定される制限電流を超えないように、過電流制御が作用して出力電圧VOUTを低下させるように制御する。保護電圧VLMTに追随させる電圧制御を行うことにより出力電流を抑制することができる為、過電流保護機能を持たせることができる。また、この過電流保護において電圧フィードバック制御が継続して動作するため、出力電圧VOUTが安定すし、また、オーバーシュートすることがない。
【0031】
また、過電流検知信号OCDpは、二値のデジタル信号である。積分器10により、デジタル信号の過電流検知信号OCDpをアナログ信号の積分信号VINTに変換する構成とすることにより、アナログフィルタで構成される電流ループ位相補償器12および差動増幅器11を備えることができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態のスイッチング電源回路を示す図である。第1の実施形態に対応する構成には、同一符号を付し、重複した記載は必要な場合にのみ行う。以降、同様である。本実施形態のスイッチング電源回路は、電圧ループ位相補償器6と積分器10と電流ループ位相補償器12のより詳細な構成を示す。
【0033】
帰還電圧VFBは、電圧ループ位相補償器6を介してエラーアンプ1の反転入力端(-)に供給される。電圧ループ位相補償器6は、3つの抵抗RV1、RV2、RV3と2つの容量CV1、CV2により構成される2ポール2ゼロ型のアナログフィルタである。
【0034】
積分器10は、過電流保護信号OCLpの反転信号OCLnを生成するインバータ10-1を有する。反転信号OCLnは、NMOSトランジスタ10-3のゲートに供給される。NMOSトランジスタ10-3は、ソースに電圧源10-2が接続され、ドレインに容量10-4の一端が接続される。容量10-4の他端は接地GNDされる。NMOSトランジスタ10-3は、固定参照電圧VREFに対してヒステリシス電圧Vhysだけ低い電圧を、反転信号OCLnに応答して出力する。積分器10の積分信号VINTは、差動増幅器11の非反転入力端(+)に供給される。
【0035】
フリップフロップ10-6は、セット端子Sに過電流検知信号OCDpが供給され、データ入力端子Dは接地GNDされ、クロック端子にクロック信号CLKpが遅延回路10-5を介して供給される。遅延回路10-5は、短時間の遅延をクロック信号CLKpに付加して遅延クロック信号CLKpxを出力する。フリップフロップ10-6は、過電流検知信号OCDp及び遅延クロック信号CLKpxに基づいて、出力端子Qから過電流検出同期信号OCDpxを出力する。過電流検出同期信号OCDpxは、遅延クロック信号CLKpxがHiのときにデータ入力端子Dの接地GNDの電位に応じてLowとなり、セット端子Sに供給される過電流検知信号OCDpがHiになるとHiとなる。
【0036】
積分器10は、充電パルス生成器10-7を有する。充電パルス生成器10-7は、過電流検出同期信号OCDpxがLowのとき、クロック信号CLKpがHiに遷移するタイミングでHiとなり、遅延クロック信号CLKpxがHiに遷移するタイミングでLowとなる充電パルス信号UPnを生成する。
【0037】
充電パルス信号UPnは、PMOSトランジスタ10-10のゲートに供給される。PMOSトランジスタ10-10は、ソースに充電定電流源10-9の出力が接続され、ドレインに容量10-4が接続される。充電定電流源10-9の他端は、電源ライン10-14に接続される。
【0038】
積分器10は、放電パルス生成器10-8を有する。放電パルス生成器10-8は、過電流検出同期信号OCDpxがHiのとき、クロック信号CLKpがHiに遷移するタイミングでHiとなり、遅延クロック信号CLKpxがHiに遷移するタイミングでLowとなる放電パルス信号DNpを生成する。すなわち、放電パルス信号DNpは、過電流状態が検知され、過電流検知信号OCDpがHiの時にHiとなる。
【0039】
放電パルス信号DNpは、NMOSトランジスタ10-12のゲートに供給される。NMOSトランジスタ10-12は、ドレインに容量10-4が接続され、ソースに放電定電流源10-11の出力が接続される。放電定電流源10-11の他端は、接地GNDされる。
【0040】
PMOSトランジスタ10-10がオンの時、容量10-4は充電定電流源10-9によって充電され、NMOSトランジスタ10-12がオンの時、容量10-4の電荷が放電定電流源10-11によって放電される。放電パルス信号DNpがHiになる頻度は、過電流検知信号OCDpがHiになる頻度に比例する。積分器10は、過電流検知信号OCDpがHiになる回数を積分し、その結果に応じて変化する積分信号VINTを生成して出力する。積分信号VINTは、容量10-4が充電されることによって上昇し、放電されることによって低下する。従って、既述した実施形態に限らず、過電流状態において過電流検知信号OCDpのカウント数に応じて参照電圧信号VREFXを変化させる種々の構成とすることができる。
【0041】
電流ループ位相補償器12は、3つの抵抗RA0、RA1、RA2と2つの容量CA1、CA2により構成される2ポール1ゼロ型のアナログフィルタである。電流ループ位相補償器12は、積分器10と合わせて、3ポール1ゼロ型のフィルタを構成する。
【0042】
図4に、過電流制御システムのオープンループ伝達周波数特性を表すBode線図を示す。左側上段は参照電圧信号V
REFXから過電流検知信号OCDpに至る電流出力段の伝達特性を示す。左側下段は、電流ループ位相補償器12を含む過電流検知信号OCDpから参照電圧信号V
REFXに至る電流制御段の伝達特性である。左側上段および左側下段に示す伝達特性を合成して、同図右側に示される電流制御オープンループ伝達特性を得ることが、ここでの設計目標である。
【0043】
右側の実線で設計目標となる過電流制御システムのオープンループ伝達関数のゲイン特性を示し、破線でその位相特性を示す。過電流制御時の出力電圧を安定させるため、このオープンループ伝達特性がユニティゲイン周波数fAuでゲインが0dBとなる一次ローパス増幅器に見えるように電流ループ位相補償器12と積分器10を設計する。
【0044】
まず、メインポール周波数fApとDCゲインGADCの積は、ユニティゲイン周波数fAuと等しくなるように設定する(式(1))。
fAu=GADC・fAp ・・・・ (1)
【0045】
ここで、過電流状態を検知した際、制限電流ILMTを超えないようにインダクタ電流ILを瞬時に制御する必要がある。そのため、ユニティゲイン周波数fAuを電圧制御ユニティゲイン周波数fVuとほぼ同じか、やや大きい値に設定することを目指す。ただし、スイッチング動作に伴うサンプリング効果による位相遅れの影響により制御が不安定にならないように、ユニティゲイン周波数fAuをスイッチング周波数fSWより充分に低く設定しなければならない。また、位相余裕qAmがあらゆる動作条件において45度以上で100度以下の範囲に収まるように、位相余裕qAmのターゲットを72度とする。
【0046】
左側上段の実線で出力段のゲイン特性を示し、破線で出力段の位相特性を示す。ここで、出力段の伝達特性を得るため、過電流検知器8を仮にアナログ電流電圧増幅器とみなし、そのゲインをVREF/ILMTに設定する。
【0047】
過電流制御効果を含む参照電圧信号V
REFXから過電流検知信号OCDpに至る出力段の伝達特性には、出力容量Coと負荷抵抗R
Lによるゼロと電圧制御段のポールが現れる。その出力段のゼロ周波数f
Az0は出力容量Coと負荷抵抗R
Lで表される(式(2))。それより低い周波数における出力段の低周波ゲインG
A0は抵抗分圧器5の分圧比βと負荷抵抗R
Lと過電流検知器8のゲイン(=V
REF/I
LMT)で表される(式(3))。
f
Az0=1/2π・Co・R
L ・・・ (2)
【数1】
【0048】
たとえば、出力容量Co=220μFと分圧比β=1/3の抵抗分圧器5を接続し、VREF=1.1Vの参照電圧を印加して出力電圧VOUT=3.3Vの電圧の出力電圧VOUTを得るとき、制限電流ILMT=5Aを超えるような負荷抵抗RL(=VOUT/5A=660mΩ)を接続すると、出力段のゼロ周波数fAz0は1.1kHzとなり、低周波ゲインGA0は1、すなわち0dBとなる。また、出力段の伝達特性に現れるポールは電圧フィードバック制御によるもので、その電圧制御ユニティゲイン周波数fVuは18kHzとなる。
【0049】
左側下段に、実線で電流制御段のゲイン特性を示し、破線で電流制御段の位相特性を示す。この図を用いて、電流制御段の設計手順を説明する。まず、メインポールを設ける。ユニティゲイン周波数f
Auが電圧制御ユニティゲイン周波数f
Vuとほぼ等しくなるように、メインポール周波数f
ApにおけるゲインG
Apを定める。ここで、電流制御段のメインポール周波数f
Apから第一ポール周波数f
Ap1までの利得帯域幅積は一定となるため、電流制御段のメインポール周波数f
ApとそこでのゲインG
Apを定める代わりに、第一ポール周波数f
Ap1とそこでのゲインG
Ap1を定める(式(4))。
【数2】
【0050】
たとえば、降圧型スイッチング電源回路において、出力段のゼロと同じ周波数に制御段の第一ポール周波数fAp1を出力段のゼロ周波数fAz0に等しい1.1KHzのように設定し、制御段のポール周波数におけるゲインGAp1をfAu/fAp1/GA0=18kHz/1.1kHz/1=16.4=24.3dBに設定する。
【0051】
このように、ユニティゲイン周波数fAuが電圧制御ユニティゲイン周波数fVuとほぼ等しくなるよう設定することにより、急激な負荷変動に対して、瞬時に反応し、過負荷状態が継続した場合においても安定して動作し、通常状態に復帰した場合においても出力電圧がオーバーシュートすることがない安全な過電流保護機能を構成することができる。
【0052】
ところで、過電流検知器8の出力である過電流検知信号OCDpは、スイッチング周波数fSWでサンプリングされ、過電流状態のときHiとなり、それ以外のときLowとなる二値のデジタル信号である。このようなデジタル信号をアナログフィルタである電流ループ位相補償器12および差動増幅器11は扱うことはできない。
【0053】
そこで、積分器10により、デジタル信号の過電流検知信号OCDpをアナログ信号の積分信号V
INTに変換する。その際、遅延回路10-5のクロック遅延時間t
CKDと充電定電流源10-9の充電電流I
upと放電定電流源10-11の放電電流I
dnと容量10-4の容量値C
intにより、積分器10の利得帯域幅GB
intを設定する(式(5))。
【数3】
【0054】
たとえば、降圧型スイッチング電源回路において、スイッチング周波数fSWを500kHz、クロック遅延時間tCKDを1.1nS、充電電流Iupと放電電流Idnを1μA、 容量値Cintを0pFで構成すると、積分器10の利得帯域幅GBintは50Hzとなる。
【0055】
次に、電流制御段を構成する電流ループ位相補償器12にポールとゼロを設けて、出力段のゼロとポールをそれぞれ相殺する。電流制御段の第一ポール周波数fAp1を出力段のゼロ周波数fAz0とほぼ同じ値に設定し(式(6))、電流制御段の第一ゼロ周波数fAz1を出力段の電圧制御ユニティゲイン周波数fVuとほぼ同じ値に設定する(式(7))。
fAp1=fAz0 ・・・ (6)
fAz1=fVu ・・・ (7)
【0056】
さらに、電流フィードバック制御がスイッチング動作に伴うノイズにより不安定にならないように、第二ポール周波数fAp2を、電流フィードバック制御ループのユニティゲイン周波数fAuより高く、スイッチング周波数fSWより低い値に設定する(式(8))。
fAu<fAp2<fSW ・・・ (8)
【0057】
ここまで準備ができたところで、電流ループ位相補償器12を構成する3つの抵抗RA0、RA1、RA2と2つの容量CA1、CA2を定める。抵抗RA1と容量CA1の積により、制御段の第一ポール周波数fAp1を設定する(式(9))。
1/2πRA1・CA1=fAp1 ・・・ (9)
【0058】
また、制御段の第一ポール周波数f
Ap1でのゲインG
Ap1、第一ポール周波数f
Ap1と積分器10の利得帯域幅GB
intおよび出力段の低周波ゲインG
A0により、二つの抵抗の比(R
A1/R
A0)が定まる(式(10))。
【数4】
【0059】
そして、抵抗RA2と容量CA2により、制御段の第一ゼロ周波数fAz1を設定する(式(11))。
1/2π・RA2・CA2 = fAz1 ・・・ (11)
【0060】
最後に、2つの抵抗R
A1、R
A2と容量C
A2により、第二ポール周波数f
Ap2を設定する(式(12))。
【数5】
【0061】
5つのパラメータ(RA0、RA1、RA2、CA1、CA2)に対して、関係式が4であるため、自由度が一つ余る。そこで、集積回路に実装することを想定して、例えば、容量CA1を0pFに定める。これにより、式(9)から、抵抗RA1の抵抗値(便宜的にRA1を用いる)はRA1=1/(2π×50pF×1.1kHz)=3MΩのように定まる。
【0062】
また、式(10)から、抵抗RA0の抵抗値(便宜的にRA0を用いる)はRA0=3MΩ×1×50Hz/18kHz=8.3kΩとなる。そして、式(11)から、3つ目の抵抗値RA3がRA3=1/(2π・50pF×18kHz)=180kΩとなり、最後に、式(12)により、第二ポール周波数fAp2を100kHzとするならば、二つ目の容量CA2がCA2=1/(2π×100kHz×(3MΩ||180kΩ)=9.4pFに定まる。
【0063】
このように、電流フィードバック制御ループにおいて、積分器10と電流ループ位相補償器12を構成する素子の最適な定数を計算により求めることができる。
【0064】
例えば、過電流保護動作において電圧制御ループをオフにする制御の場合、過電流保護機能が動作したときの出力電源電圧の振舞を予測することが困難であった。それに対して、本実施形態では、過負荷状態のときの出力電圧VOUTは安定であり、その電圧は負荷に応じて定まるため、その値を予測することが可能である。また、負荷が通常の状態に戻ったとき、出力電源電圧は予め設定された電圧に速やかに復帰し、復帰後オーバーシュートすることもない。尚、電圧フィードバック制御ループについても同様に、電圧ループ位相補償器6を構成する素子の最適な値を計算により求めることができる。
【0065】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態のスイッチング電源回路を示す図である。過電流保護回路9は、位相補償デジタルフィルタ16とD/A変換器17を有する。
【0066】
位相補償デジタルフィルタ16は、過電流検知器8が出力する1ビットのデジタル信号である過電流検知信号OCDpを受け、クロック信号CLKpのタイミングで内部のレジスタを更新する。位相補償デジタルフィルタ16は、12ビットから16ビット程度の参照電位デジタル信号をD/A変換器17に出力する。
【0067】
位相補償デジタルフィルタ16は、IIR(Infinite Impulse Response)デジタルフィルタと呼ばれるものであり、その構成例を
図6に示す。
図6は三次のフィルタであり、1ビットの過電流検知信号OCDpからNビットのデジタル信号V
LMTp[N]を積和演算により求めて、出力する。
【0068】
位相補償デジタルフィルタ16は、加算器60-1~60-6と、係数a1~a3を有する積算器70-1~70-3と、レジスタ80-1~80-3と、係数b0~b3を有する積算器90-1~90-4を有する。レジスタ80-1~80-3は、クロック信号CLKpの立上のタイミングでデータを取り込み、出力する。係数a1~a3、b0~b3の値を設定することにより、様々な特性のフィルタを実現することができる。
【0069】
ここで、第2の実施形態の積分器10と電流ループ位相補償器12で構成される過電流保護回路9の伝達関数G
A(s)は式(13)のように表される。
【数6】
ここで、ω
Ap はメインポール周波数f
Apの角度周波数であり、ω
Ap=2π・f
Apとなる。同様に、ω
Ap1=2π・f
Ap1であり、ω
Ap2=2π・f
Ap2であり、ω
Az1=2π・f
Az1である。また、T
SWはクロック信号CLKpのスイッチング周期であり、T
SW=1/f
SWである。
【0070】
つぎに、双一次変換を適用して、sをzで置き換える(式(14))。
【数7】
【0071】
すると、第2の実施形態の過電流保護回路9の伝達関数G
A(s)と等価な特性となる係数a1、a2、a3、b0、b1、b2、b3の値を求めることができる(式(15))。
【数8】
【0072】
このように、出力容量Co、制限電流ILMT、出力電圧VOUT、固定参照電圧VREF、電圧制御ユニティゲイン周波数fVuおよびスイッチング周波数fSWが定まるならば、それに最適な位相補償デジタルフィルタ16を設計することができる。
【0073】
条件によっては第一ポール周波数fAp1が1kHzを下回ることがある。この場合、アナログ回路では電流ループ位相補償器12を構成する容量と抵抗が大きくなる為、集積回路の実装面積が大きくなりコストの増加を招く。位相補償デジタルフィルタ16ならば、演算器のビット数を増やすことにより対応が可能であり、アナログフィルタを用いる場合に比べて、コストの増加を抑制することができる。
【0074】
本実施形態によれば、過電流検知信号OCDpに応じて変化する保護電圧VLMTを位相補償デジタルフィルタ16とD/A変換器17により生成し、過電流保護機能を備えたスイッチング電源回路を、コストを抑制して構成することができる。尚、IIR型デジタルフィルタに限らず、FIR(Finite Impulse Response)型デジタルフィルタにより電流ループ位相補償器12を構成しても良い。
【0075】
(第4の実施形態)
図7は、第4の実施形態のスイッチング電源回路を示す図である。本実施形態は、昇降圧型スイッチング電源回路である。本実施形態は、入力電圧V
INが印加される入力端子20と接地GND間にPMOSトランジスタ3-1と整流ダイオード3-2が直列に接続された降圧用ドライバ回路31を有する。降圧用ドライバ回路31の構成は、既述した降圧型スイッチング電源回路のドライバ回路3の構成として用いることができる。
【0076】
PMOSトランジスタ3-1は、ソースに入力端子20が接続され、ドレインにノードSWが接続される。また、PMOSトランジスタ3-1は、ゲートに降圧用パルス幅変調器2-1からの降圧ドライブ信号DRVBKnが印加され、オン/オフが制御される。降圧用パルス幅変調器2-1は、クロック信号CLKpと降圧指示電圧VDBKに応答して降圧ドライブ信号DRVBKnを生成する。
【0077】
昇圧用のドライバ回路32は、出力端子21と接地GND間に直列に接続された整流ダイオード3-4とNMOSトランジスタ3-3で構成される。NMOSトランジスタ3-3は、ソースが接地GNDされ、ドレインにインダクタLoの一端が接続される。また、NMOSトランジスタ3-3は、ゲートに昇圧用パルス幅変調器2-2からの昇圧ドライブ信号DRVBTpが印加され、オン/オフが制御される。昇圧用パルス幅変調器2-2は、クロック信号CLKpと降圧指示電圧VDBKからギャップ電圧源2-3を介して供給された昇圧指示電圧VDBTに応答して昇圧ドライブ信号DRVBTpを生成する。整流ダイオード3-4は、アノードにインダクタLoの一端が接続され、カソードに出力端子21が接続される。
【0078】
PMOSトランジスタ3-1の主電流路であるソース・ドレイン路は、インダクタLo、整流ダイオード3-4を介して、入力端子20と出力端子21間に直列に接続される。
【0079】
検知回路81は、PMOSトランジスタ3-1のソース・ドレイン電圧を検知して、過電流状態を検知する。PMOSトランジスタ3-1のソース・ドレイン電圧は、オン抵抗によりドレイン電流に比例した電圧となる。検知回路81は、PMOSトランジスタ3-1のソース・ドレイン間電圧が所定の閾値を超えた時にHiの過電流検知信号OCDpを出力する。
【0080】
ラッチ回路14は、過電流検知信号OCDpに応答して過電流保護信号OCLpをHiにセットし、保護電圧VLMTが固定参照電圧VREFを超えるとLowにリセットする。過電流保護信号OCLpがHiになると、選択スイッチ15は過電流検知信号OCDpの回数に応じて電圧が変化する積分器10の保護電圧VLMTを選択してエラーアンプ1に供給する。これにより、保護電圧VLMTに応じてエラーアンプ1が出力する降圧指示電圧VDBKの電位が低下する為、昇圧指示電圧VDBTの電位も低下し、出力電圧Voutが低下する。これにより、スイッチング電源回路は出力電圧VOUTを低下させ、定電流動作に入る。過電流保護信号OCLpがLowの場合は、選択スイッチ15は固定参照電圧VREFを選択してエラーアンプ1に供給する。この選択動作により、スイッチング電源回路は、定電圧動作となる。
【0081】
図8は、第4の実施形態の動作を説明する概略波形を示す図である。最上段に負荷(1/R
L)を示す。便宜的に、通常負荷状態から、ある時点で突然に過負荷状態になり、その後、通常負荷状態に戻る場合を示す。
【0082】
次段にスイッチング動作の元となるクロック信号CLKpを示す。次段に降圧指示電圧VDBK(実線)、および、それよりVgapだけ電位が低い昇圧指示電圧VDBT(破線)を示す。また、クロック信号CLKpの立上のタイミングに同期する鋸波信号(点線)示す。降圧指示電圧VDBKと昇圧指示電圧VDBTの電位は、電圧フィードバック制御ループの作用により、通常負荷時には鋸波信号の振幅範囲に保たれる。しかし、過負荷状態になると、出力電圧VOUTの電位が若干下がることを検知して、降圧指示電圧VDBKと昇圧指示電圧VDBTの電位は僅かに上昇する。過負荷状態が検知された後にインダクタ電流ILが減少すると、インダクタ電流ILの値が制限電流ILMTに保たれるように、降圧指示電圧VDBKと昇圧指示電圧VDBTの電位は安定する。
【0083】
次段に、降圧ドライブ信号DRVBKnを示し、さらに次段に昇圧ドライブ信号DRVBTpを示す。降圧ドライブ信号DRVBKnのデューティ比は降圧指示電圧VDBKの制御を受け、昇圧ドライブ信号DRVBTpのデューティ比は昇圧指示電圧VDBTの制御を受けて、スムーズに変化する。降圧指示電圧VDBKと昇圧指示電圧VDBTの電位が上昇することにより、降圧ドライブ信号DRVBKnのHi期間が短くなり、Low期間が長くなる。この為、PMOSトランジスタ3-1のオン時間が長くなり、インダクタ電流ILが増加する。昇圧指示電圧VDBTの電位が、鋸波信号のボトム電位より低くなると、降圧ドライブ信号DRVBKnによる降圧スイッチング動作のみとなる。
【0084】
次段に、実線でインダクタ電流ILを示し、その平均値を破線で示す。インダクタ電流ILはスイッチング動作に伴い増減するが、その平均値は負荷の大きさに応じて常に安定している。また、過負荷状態のときは、電流フィードバック制御ループの作用により、インダクタ電流ILを制限電流ILMTに制限する制御が行われる。
【0085】
次段に、過電流検知信号OCDpを示す。過電流検知信号OCDpはスイッチング動作中にインダクタ電流ILが制限電流ILMTを超えるとHiになるパルス信号である。その発生頻度は、電流フィードバック制御ループの作用によるスイッチング動作の僅かな揺らぎに反応し、インダクタ電流ILが制限電流ILMTを超える度にHiとなる。従って、過電流検知信号OCDpは、インダクタ電流ILが増加し制限電流ILMTに近い値になると多くなり、インダクタ電流ILが減少し制限電流ILMTに対して余裕がある場合には少なくなる。
【0086】
次段に、過電流保護信号OCLpを示す。過電流保護信号OCLpは過電流検知信号OCDpがHiになるとHiにセットされ、保護電圧VLMTが固定参照電圧VREFを超えるとLowにリセットされる。
【0087】
次段に、参照電圧信号VREFXを示す。参照電圧信号VREFXは、インダクタ電流ILが制限電流ILMTを超え過電流状態となると固定参照電圧VREFから負荷電流Iloadに応じて変化する保護電圧VLMTに切換えられ、インダクタ電流ILが減少して通常負荷状態になると固定参照電圧VREFに復帰する。
【0088】
最下段に入力電圧VINを破線で示し、出力電圧VOUTを実線で示す。昇降圧型スイッチング電源回路は入力電圧VINの電位に対して、出力電圧VOUTの電位は若干高く設定されている。通常負荷状態では、出力電圧VOUTはその設定値に保たれる。
【0089】
過負荷状態になると、過電流検知信号OCDpの検出回数に応じてエラーアンプ1に印加される参照電圧信号VREFXが低下する電圧フィードバック制御により、数回のスイッチング動作の後、出力電圧VOUTの電位は降下しはじめる。出力電圧VOUTの低下によりインダクタLoに流れるインダクタ電流ILが減少する。インダクタ電流ILと制限電流ILMTとの比較動作に基づく電圧フィードバック制御により、過負荷状態における出力電圧を保護電圧VLMTに等しくする制御が行われ、出力電圧VOUTは一定に保たれる。その後、負荷が軽くなり、通常負荷状態になると、過電流保護動作は終了して出力電圧VOUTは上昇し、帰還電圧VFBを固定参照電圧VREFに等しくする電圧フィードバック制御が行われる。
【0090】
本実施形態によれば、過負荷状態になり出力電圧VOUTが低下すると、エラーアンプ1が応答して、出力電圧VOUTを上げようと降圧指示電圧VDBKおよび昇圧指示電圧VDBTの電位が上昇する。その後に、過電流検知器8が過電流状態を検知すると、電流フィードバック制御により、参照電圧信号VREFXの電位が降下する。参照電圧信号VREFXの電位の降下にエラーアンプ1が応答して、降圧指示電圧VDBKおよび昇圧指示電圧VDBTの電位が降下する。
【0091】
出力電圧VOUTが低下することにより負荷電流Iloadが減少する。そして、インダクタ電流ILのピーク値が制限電流ILMTと等しくなる状態で電流フィードバック制御ループは安定する。このとき、電圧フィードバック制御ループも動作しており、出力電圧VOUTも安定する。その後、負荷が通常状態に戻ると、出力電圧VOUTの制御は、保護電圧VLMTに基づく制御から固定参照電圧VREFに基づく制御に切り替わり、出力電圧VOUTは上昇する。その際にも、電流フィードバック制御ループの作用により上昇速度は安定している。さらに、出力電圧VOUTが設定値に達すると、速やかに定電圧動作に切り替わり、設定値を大きく超えることはない。これは、過電流保護動作時においても出力電圧VOUTを参照電圧信号VREFXにより制御する電圧フィードバック制御ループが常に動作しているため、過電流保護の状態から通常動作に切り替わる際に電圧制御ループを復帰させる制御が必要ないためである。
【0092】
また、本実施形態では、過負荷状態になると、前述のように、電流フィードバック制御ループの作用により、インダクタ電流ILのピーク値が制限電流ILMTと等しくなるように出力電圧VOUTが制御され、安定する。この際、電圧フィードバック制御ループの作用により、出力電圧VOUTが安定するように降圧ドライブ信号DRVBKnと昇圧ドライブ信号DRVBTpのデューティ比が制御される。
【0093】
昇降圧型スイッチング電源回路の場合、出力電圧VOUTと入力電圧VINの電位関係に応じて、昇圧動作から昇降圧動作へ、さらには、降圧動作へとスイッチング動作が変化する。本実施形態の昇降圧型スイッチング電源回路は、過負荷状態のとき出力電圧VOUTの電位変化に応じて、昇圧動作または昇降圧動作または降圧動作に適切に移行する。したがって、負荷が極端に重い場合、出力電圧VOUTは入力電圧VINより低くなり、降圧動作となる。このとき、負荷電流Iloadは制限電流ILMTとほぼ等しくなる。負荷が通常状態に戻り出力電圧VOUTを固定参照電圧VREFに追随させる制御に移行する際、インダクタ電流ILのピーク値は、電流フィードバック制御ループの作用により制限電流ILMTと等しくなるように制御される。この時、本実施形態の電源回路のスイッチング動作は、電圧フィードバック制御ループの作用により出力電圧VOUTに応じて制御され、最大の電流効率が得られるように保たれる。また、電圧フィードバック制御ループが常に動作する為、負荷が通常状態に戻ったときに出力電圧VOUTがオーバーシュートしない上、通常状態に瞬時に復帰する。また、本実施形態では、インダクタ電流ILは各スイッチングサイクルで増減するが、そのリップル電流は小さく抑えられ、安定している。
【0094】
この様に、本実施形態によれば、過負荷状態のときも安定して動作し、通常負荷状態への復帰動作も最適に制御される安全な昇降圧型スイッチング電源回路を提供することができる。
【0095】
なお、以下の付記に記載されているようなスイッチング電源回路が考えられる。
(付記1)
前記出力電流に応じて変化する電圧が前記固定電圧よりも高くなった場合に、前記参照電圧を前記固定電圧に切換えることを特徴とする請求項2に記載のスイッチング電源回路。
【0096】
(付記2)
前記出力電流が前記所定の設定電流を超えたことを示す検知信号に応答するデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタの出力をアナログ信号に変換するD/A変換回路を備え、前記D/A変換器は前記出力電流に応じて変化する電圧を出力することを特徴とする請求項2または3に記載のスイッチング電源回路。
【0097】
(付記3)
前記スイッチングトランジスタのソース・ドレイン間の電圧降下が所定の閾値を超えた時に前記参照電圧の値を低下させる請求項5に記載のスイッチング電源回路。
【0098】
(付記4)
前記インダクタから前記出力端子に向けて順方向に接続される第2の整流ダイオードと、
前記第2の整流ダイオードのアノードと接地間に接続される第2のスイッチングトランジスタと、
前記第2のスイッチングトランジスタのゲートに、前記差動増幅回路が出力する制御電圧に応じてデューティ比が変化する第2のPWM信号を生成する第2のPWM信号生成回路と
を具備することを特徴とする請求項5に記載のスイッチング電源回路。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
1 エラーアンプ、2 パルス幅変調器、3 ドライバ回路、4 ローパスフィルタ、5 抵抗分圧器、6 電圧ループ位相補償器、7 負荷、8 過電流検知器、9 過電流保護回路、10 積分器、11 差動増幅器、12 電流ループ位相補償器、13 比較回路、15 選択スイッチ、16 位相補償デジタルフィルタ。