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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
   A01D 67/00 20060101AFI20221219BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20221219BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20221219BHJP
【FI】
A01D67/00 M
A01B69/00 303B
A01B69/00 303Z
G05D1/02 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019215927
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021083390
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 友彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 脩
(72)【発明者】
【氏名】川畑 翔太郎
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-124149(JP,A)
【文献】特開平11-235119(JP,A)
【文献】特開2019-64542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 67/00
A01B 63/10
A01B 69/00
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部に設けられ、圃場の作物を刈り取る刈取部と、
前記刈取部をローリングさせて前記刈取部の左右の傾きを変更可能な刈取傾斜変更機構と、
左右方向において前記刈取部のどの領域に作物が入ってくるかを判定する作物領域判定部と、
前記作物領域判定部によって作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態が判定されると、前記刈取部のうちの作物が入ってこない左右他方側の部分の高さ位置を、前記刈取部のうちの前記左右一方側の部分の高さ位置よりも高くするように、前記刈取傾斜変更機構に前記刈取部の左右の傾きを変更させる傾斜制御が可能な傾斜制御部と、が備えられ
前記傾斜制御部は、前記刈取部において作物が入ってこない範囲が広いほど、前記刈取部における前記左右他方側の部分の高さ位置を高くし、かつ、作物が入ってこない範囲の拡大または縮小に対応して前記左右一方側の部分の高さ位置に対する前記左右他方側の部分の高さ位置を変更させるコンバイン。
【請求項2】
前記刈取部が、条刈り可能に構成され、
前記作物領域判定部は、前記刈取部の前方に存在する作物の条数に基づいて、前記刈取部において作物が入ってこない範囲の広さを判定する請求項に記載のコンバイン。
【請求項3】
機体前部に設けられ、圃場の作物を刈り取る刈取部と、
前記刈取部をローリングさせて前記刈取部の左右の傾きを変更可能な刈取傾斜変更機構と、
左右方向において前記刈取部のどの領域に作物が入ってくるかを判定する作物領域判定部と、
前記作物領域判定部によって作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態が判定されると、前記刈取部のうちの作物が入ってこない左右他方側の部分の高さ位置を、前記刈取部のうちの前記左右一方側の部分の高さ位置よりも高くするように、前記刈取傾斜変更機構に前記刈取部の左右の傾きを変更させる傾斜制御が可能な傾斜制御部と、
車速を検出可能な車速検出部と、が備えられ、
前記傾斜制御部は、前記刈取傾斜変更機構の作動開始タイミングを、前記車速に応じて変更するように構成されているコンバイン。
【請求項4】
左右の走行装置と、前記左右の走行装置の夫々に対する機体本体の高さ位置を変更して前記機体本体をローリングさせることが可能な昇降装置と、が備えられ、
前記刈取傾斜変更機構は、前記昇降装置によって構成され、
前記刈取部は、前記昇降装置による前記機体本体のローリング動作と一体的にローリングするように、前記機体本体に支持されている請求項1から3の何れか一項に記載のコンバイン。
【請求項5】
前記偏り状態において、前記傾斜制御部は、前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分が、前記刈取部の予め設定された刈高さよりも高くなるように前記傾斜制御を行う請求項1から4の何れか一項に記載のコンバイン。
【請求項6】
航法衛星の測位信号に基づいて機体の位置情報を検出可能な位置検出部と、前記位置情報に基づいて圃場における作業走行済みである既刈領域と未作業である未刈領域とを検出する作業状況検出部と、が備えられ、
前記作物領域判定部は、前記作業状況検出部によって進行方向前方に前記既刈領域及び前記未刈領域が存在することが検出されると、前記偏り状態であると判定する請求項1からの何れか一項に記載のコンバイン。
【請求項7】
前記刈取部の刈高さを設定する刈高さ設定部が備えられ、
前記傾斜制御部は、前記刈高さ設定部で設定された刈高さを基準として前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分の高さ位置が変化するように前記傾斜制御を行う請求項1からの何れか一項に記載のコンバイン。
【請求項8】
前記傾斜制御を行う際の前記刈取傾斜変更機構の動作量を設定する変更量設定部が備えられ、
前記傾斜制御部は、前記動作量に基づいて前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分の高さ位置が変化するように前記傾斜制御を行う請求項1からの何れか一項に記載のコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されたコンバインでは、コンバインが外周領域よりも内側における内側領域(文献では「作業対象領域」)を往復走行しながら作物を刈り取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-110762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンバインが作物を刈り取った後の既刈領域には、脱穀処理後にコンバインから排出された藁屑等が散乱している。このため、刈取部が既刈領域にはみ出した状態で、刈取部による作物の刈り取りが行われると、既刈領域に散乱した藁屑等が刈取部によって拾われる場合が考えられる。こうなると、この藁屑等が刈取穀稈と一緒に搬送装置によって脱穀装置へ搬送され、脱穀処理される穀粒に藁屑等が混ざったり、脱穀処理の負荷が不必要に増大したりする虞がある。
【0005】
本発明の目的は、刈取部が出来るだけ既刈領域の藁屑等を拾うことなく、脱穀効率が向上したコンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるコンバインでは、機体前部に設けられ、圃場の作物を刈り取る刈取部と、前記刈取部をローリングさせて前記刈取部の左右の傾きを変更可能な刈取傾斜変更機構と、左右方向において前記刈取部のどの領域に作物が入ってくるかを判定する作物領域判定部と、前記作物領域判定部によって作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態が判定されると、前記刈取部のうちの作物が入ってこない左右他方側の部分の高さ位置を、前記刈取部のうちの前記左右一方側の部分の高さ位置よりも高くするように、前記刈取傾斜変更機構に前記刈取部の左右の傾きを変更させる傾斜制御が可能な傾斜制御部と、が備えられ、前記傾斜制御部は、前記刈取部において作物が入ってこない範囲が広いほど、前記刈取部における前記左右他方側の部分の高さ位置を高くし、かつ、作物が入ってこない範囲の拡大または縮小に対応して前記左右一方側の部分の高さ位置に対する前記左右他方側の部分の高さ位置を変更させることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、刈取部のうちの左右一方側の部分の高さ位置と、刈取部のうちの左右他方側の部分の高さ位置と、が各別に変更可能に構成されている。作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態では、刈取部が既刈領域にはみ出しながらコンバインの刈取走行が行われている可能性が高いと考えられ、既刈領域に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞がある。このことから、この偏り状態が作物領域判定部によって判定されると、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が、作物が左右一方側に偏って入ってくる部分よりも高くなるように、傾斜制御部によって制御される。このため、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が圃場の地面から離れ、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分の下方に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞が軽減される。これにより、脱穀処理される穀粒に藁屑等が混ざることなく、脱穀処理の精度が向上する。また、脱穀装置の負荷が既刈領域の藁屑等によって不必要に増大することなく、脱穀効率が向上する。つまり、出来るだけ既刈領域の藁屑等が刈取部によって拾われることなく、脱穀効率が向上したコンバインが実現される。
また、藁屑等は、脱穀処理後にコンバインの左右中央部分から多く排出されるため、既刈領域のうち未刈領域との境界付近の領域には藁屑等が少なく、未刈領域から離れるほど藁屑等が多く堆積する。本構成によると、刈取部において作物が入ってこない範囲が広いほど、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が高く上昇する。このため、刈取部が既刈領域側に大きくはみ出す場合であっても刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が圃場の地面から離れ、既刈領域に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞が一層軽減される。
【0008】
本発明において、左右の走行装置と、前記左右の走行装置の夫々に対する機体本体の高さ位置を変更して前記機体本体をローリングさせることが可能な昇降装置と、が備えられ、前記刈取傾斜変更機構は、前記昇降装置によって構成され、前記刈取部は、前記昇降装置による前記機体本体のローリング動作と一体的にローリングするように、前記機体本体に支持されていると好適である。
【0009】
左右の走行装置の夫々に対する機体本体の高さ位置を変更して機体本体をローリングさせることが可能な昇降装置は、従来からコンバインに用いられている。本構成であれば、既存の昇降装置が刈取傾斜変更機構として活用されることによって、刈取部に対する新たなローリング装置をコンバインに実装する必要がなくなる。これにより、刈取部をローリングさせて刈取部の左右の傾きを変更可能な刈取傾斜変更機構が安価に実現される。
【0010】
本発明において、前記偏り状態において、前記傾斜制御部は、前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分が、前記刈取部の予め設定された刈高さよりも高くなるように前記傾斜制御を行うと好適である。
【0011】
本構成によると、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が、刈取部の予め設定された刈高さよりも高くなるように、傾斜制御が行われる。このため、刈取部のうちの作物が入ってこない部分が、圃場の地面から予め設定された刈高さ以上に必ず離れ、既刈領域に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞が一層軽減される。これにより、脱穀処理の精度が一層向上する。
【0012】
本発明において、航法衛星の測位信号に基づいて機体の位置情報を検出可能な位置検出部と、前記位置情報に基づいて圃場における作業走行済みである既刈領域と未作業である未刈領域とを検出する作業状況検出部と、が備えられ、前記作物領域判定部は、前記作業状況検出部によって進行方向前方に前記既刈領域及び前記未刈領域が存在することが検出されると、前記偏り状態であると判定すると好適である。
【0013】
本構成であれば、例えば刈取部に作物を検知する装置を設けたりしなくても、刈取部のうちの既刈領域と重複する領域の識別が可能となる。これにより、部品コストが増すことなく、傾斜制御部による傾斜制御が可能となる。
【0014】
【0015】
【0016】
本発明において、前記刈取部が、条刈り可能に構成され、前記作物領域判定部は、前記刈取部の前方に存在する作物の条数に基づいて、前記刈取部において作物が入ってこない範囲の広さを判定すると好適である。
【0017】
本構成であれば、作物の条数が作物領域判定部によって把握され、刈取部が前方の作物に対して左右方向において好適に位置合わせされるため、刈取部による刈取精度が向上するとともに脱穀処理の精度が向上する。
【0018】
本発明によるコンバインは、機体前部に設けられ、圃場の作物を刈り取る刈取部と、前記刈取部をローリングさせて前記刈取部の左右の傾きを変更可能な刈取傾斜変更機構と、左右方向において前記刈取部のどの領域に作物が入ってくるかを判定する作物領域判定部と、前記作物領域判定部によって作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態が判定されると、前記刈取部のうちの作物が入ってこない左右他方側の部分の高さ位置を、前記刈取部のうちの前記左右一方側の部分の高さ位置よりも高くするように、前記刈取傾斜変更機構に前記刈取部の左右の傾きを変更させる傾斜制御が可能な傾斜制御部と、車速を検出可能な車速検出部と、が備えられ、前記傾斜制御部は、前記刈取傾斜変更機構の作動開始タイミングを、前記車速に応じて変更するように構成されていることを特徴とする
【0019】
本発明によると、刈取部のうちの左右一方側の部分の高さ位置と、刈取部のうちの左右他方側の部分の高さ位置と、が各別に変更可能に構成されている。作物が前記刈取部に対して左右一方側に偏って入ってくる偏り状態では、刈取部が既刈領域にはみ出しながらコンバインの刈取走行が行われている可能性が高いと考えられ、既刈領域に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞がある。このことから、この偏り状態が作物領域判定部によって判定されると、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が、作物が左右一方側に偏って入ってくる部分よりも高くなるように、傾斜制御部によって制御される。このため、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分が圃場の地面から離れ、刈取部のうちの作物が入ってこない側の部分の下方に散乱した藁屑等が刈取部によって拾い上げられる虞が軽減される。これにより、脱穀処理される穀粒に藁屑等が混ざることなく、脱穀処理の精度が向上する。また、脱穀装置の負荷が既刈領域の藁屑等によって不必要に増大することなく、脱穀効率が向上する。つまり、出来るだけ既刈領域の藁屑等が刈取部によって拾われることなく、脱穀効率が向上したコンバインが実現される。
また、本構成によって、昇降装置による機体本体の高さ位置の変更タイミングが、車速に応じて適切に調整されるため、車速が速い場合であっても、昇降装置の動作遅れが生じることなく好適な傾斜制御が行われる。
【0020】
本発明において、前記刈取部の刈高さを設定する刈高さ設定部が備えられ、前記傾斜制御部は、前記刈高さ設定部で設定された刈高さを基準として前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分の高さ位置が変化するように前記傾斜制御を行うと好適である。
【0021】
刈取部の好適な刈高さは、例えば湿田と乾田との違いや、作物の品種等によって異なる。本構成であれば、刈高さ設定部で設定された刈高さを基準に傾斜制御が実行されるため、作物の品種や圃場の状況等に適した傾斜制御が可能となる。
【0022】
本発明において、前記傾斜制御を行う際の前記刈取傾斜変更機構の動作量を設定する変更量設定部が備えられ、前記傾斜制御部は、前記動作量に基づいて前記刈取部のうちの前記左右他方側の部分の高さ位置が変化するように前記傾斜制御を行うと好適である。
【0023】
本構成であれば、オペレータが傾斜制御における刈取傾斜変更機構の動作量を自由に設定できるため、既刈領域に散乱した藁屑等の状況に適した傾斜制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】コンバインの左側面図である。
図2】制御部に関する構成を示すブロック図である。
図3】圃場の外周領域におけるコンバインの刈取走行を示す図である。
図4】圃場の外周領域におけるコンバインの刈取走行を示す図である。
図5】圃場の外周領域におけるコンバインの刈取走行を示す図である。
図6】圃場の内側領域におけるコンバインの刈取走行を示す図である。
図7】傾斜制御の処理の流れを示すフローチャート図である。
図8】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図9】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図10】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図11】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図12】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図13】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図14】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図15】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図16】傾斜制御によって刈取部が傾斜する状態を示す図である。
図17】制御部に関する別実施形態の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、図面に基づき説明する。なお、以下の説明においては、特に断りがない限り、図1に示す矢印Fの方向を「前」、矢印Bの方向を「後」とする。
【0026】
〔コンバインの全体構成〕
図1に示されるように、本発明の自動走行制御システムを適用可能なコンバインの一形態である自脱型のコンバイン1は、左右一対に構成されたクローラ式の走行装置11,11、運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14、刈取部H、穀粒排出装置18、衛星測位モジュール80を備えている。
【0027】
走行装置11は、コンバイン1における下部に備えられている。また、走行装置11は、エンジン(不図示)からの動力によって駆動する。そして、コンバイン1は、走行装置11によって自走可能である。
【0028】
左右の昇降装置29,29が左右の走行装置11,11の夫々に設けられている。昇降装置29は、通称『モンロー』とも呼ばれ、左右の走行装置11,11の夫々に対する機体本体の高さ位置を各別に変更可能に構成されている。このことから、昇降装置29,29は、左右の走行装置11,11の夫々に対する機体本体の高さ位置を変更して機体本体をローリングさせることを可能に構成されている。本実施形態では、昇降装置29によって、本発明の『刈取傾斜変更機構』が構成されている。
【0029】
運転部12、脱穀装置13、穀粒タンク14は、走行装置11よりも上側に備えられている。運転部12には、コンバイン1の作業を監視するオペレータが搭乗可能である。なお、オペレータは、コンバイン1の機外からコンバイン1の作業を監視していても良い。
【0030】
穀粒排出装置18は、穀粒タンク14に接続している。また、衛星測位モジュール80は、運転部12を覆うキャビンの屋根部に取り付けられている。
【0031】
刈取部Hは、コンバイン1における機体前部に備えられ、圃場の作物、具体的には植立穀稈を刈り取る。刈取部Hは、バリカン型の切断装置15、及び、搬送装置16を有する。なお、本実施形態では6条刈りの刈取部Hが備えられている。
【0032】
切断装置15は、圃場の作物の株元を切断する。そして、搬送装置16は、切断装置15によって切断された穀稈を後側へ搬送する。この構成によって、刈取部Hは、圃場の作物を刈り取る。コンバイン1は、刈取部Hによって圃場の作物を刈り取りながら走行装置11によって走行する刈取走行が可能である。
【0033】
搬送装置16によって搬送された穀稈は、脱穀装置13において脱穀処理される。脱穀処理によって得られた穀粒は、穀粒タンク14に貯留される。穀粒タンク14に貯留された穀粒は、必要に応じて、穀粒排出装置18によって機外に排出される。
【0034】
また、運転部12には、通信端末4(図2参照)が配置されている。通信端末4は、種々の情報を表示可能に構成されている。本実施形態において、通信端末4は、運転部12に固定されている。しかし、本発明はこれに限定されず、通信端末4は、運転部12に対して着脱可能に構成されていても良いし、通信端末4は、コンバイン1の機外に位置していても良い。
【0035】
ここで、コンバイン1は、図3乃至図6に示されるように圃場における外周領域SAで穀物を収穫しながら周回走行を行った後、内側領域CAで刈取走行を行うことによって、圃場の穀物を収穫するように構成されている。
【0036】
また、運転部12には、主変速レバー19(図2参照)が設けられている。主変速レバー19は、人為操作可能である。コンバイン1が手動走行しているとき、オペレータが主変速レバー19を操作すると、コンバイン1の車速が変化する。即ち、コンバイン1が手動運転しているとき、オペレータは、主変速レバー19を操作することによって、コンバイン1の車速を変更することができる。
【0037】
なお、オペレータは、通信端末4を操作することによって、エンジンの回転速度を変更することができる。
【0038】
作物の状態によって、適切な作業速度は異なる。オペレータが通信端末4を操作し、エンジンの回転速度を適切な回転速度に設定すれば、作物の状態に適した作業速度での作業が可能となる。
【0039】
〔制御部に関する構成〕
コンバイン1は、圃場の外周領域SA(図3等参照)を周回走行しながら作物を刈り取った後、外周領域SAよりも内側における内側領域CA(図6等参照)を往復走行しながら作物を刈り取る。このコンバイン1のための自動走行制御システムに関する制御ブロックが図2に示されている。
【0040】
本実施形態におけるコンバイン1の制御系は、多数のECUと呼ばれる電子制御ユニットと、各種動作機器、センサ群やスイッチ群、それらの間のデータ伝送を行う車載LANなどの配線網から構成されている。コンバイン1に制御ユニット20が備えられ、制御ユニット20は当該制御系の一部として構成されている。制御ユニット20に、自車位置算出部21、圃場データ取得部22、走行経路設定部23、自動走行制御部24、傾斜制御部25、作物領域判定部27、車速設定部31、刈高さ設定部32、等が備えられている。
【0041】
衛星測位モジュール80は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)で用いられる航法衛星からの測位信号を受信する。そして衛星測位モジュール80は、受信した測位信号に基づいて、コンバイン1の自車位置を示す測位データを自車位置算出部21へ送る。
【0042】
自車位置算出部21は、衛星測位モジュール80によって出力された測位データに基づいて、コンバイン1の位置座標を経時的に算出する。自車位置算出部21は本発明の『位置検出部』に相当する。なお、コンバイン1の位置座標は、コンバイン1の機体の位置を示している。算出されたコンバイン1の経時的な位置座標は、走行経路設定部23と、自動走行制御部24と、作業状況検出部26と、へ送られる。
【0043】
走行軌跡算出部21Aは、コンバイン1の経時的な位置座標に基づいて、圃場の外周側における周回走行でのコンバイン1の走行軌跡を算出する。算出された走行軌跡は、走行経路設定部23と、自動走行制御部24と、作業状況検出部26と、へ送られる。
【0044】
車速検出部21Bは、コンバイン1の経時的な位置座標に基づいて単位時間当たりの位置座標の変化量を算出し、当該変化量からコンバイン1の車速を検出する。車速検出部21Bによって検出された車速は、自動走行制御部24及び傾斜制御部25へ送られる。
【0045】
圃場データ取得部22は、管理コンピュータ5から通信部30を介して圃場形状データ及び作物植付情報等を取得する。これら圃場形状データ及び作物植付情報等は、圃場データ取得部22から走行経路設定部23へ送られる。
【0046】
圃場データ取得部22に、条情報取得部22Aが備えられている。条情報取得部22Aは、圃場形状データ及び作物植付情報等に基づいて作物の条に関する条情報(例えば条方向や条位置、条間隔等)を取得する。条情報は、条情報取得部22Aから作物領域判定部27へ送られる。作物領域判定部27に関しては後述する。
【0047】
例えば、図3乃至図5に示されるように、コンバイン1は、最初に外周領域SAにおいて渦巻き状の周回走行を行いながら刈取走行を行う。その後、コンバイン1は、図6に示されるように、外周領域SAよりも内側の内側領域CAにおいて、平行走行経路LSに沿って前進しながら行われる刈取走行と、外周領域SAにおけるUターンによる方向転換と、を繰り返す。これにより、コンバイン1は、外周領域SA及び内側領域CAの全体を網羅するように作物を刈り取る。本実施形態では、前進しながらの刈取走行と、方向転換と、を繰り返す走行を、「往復走行」と称する。
【0048】
図3乃至図5において、圃場のうちの外周側における周回走行のためのコンバイン1の走行経路が矢印で示されている。図3乃至図5に示す例では、コンバイン1は、3周の周回走行を行う。そして、この走行経路に沿った刈取走行が完了すると、圃場は、図6に示す状態となる。
【0049】
作業状況検出部26は、自車位置算出部21によって算出されたコンバイン1の位置情報や、走行軌跡算出部21Aによって算出されたコンバイン1の走行軌跡に基づいて、圃場における作業走行済みである既刈領域と未作業である未刈領域とを検出する。
【0050】
具体的には図3乃至図5に示されるように、作業状況検出部26は、コンバイン1が作物を刈り取りながら周回走行した圃場の外周側の領域を既刈領域SA1,SA2,SA3として検出する。また、作業状況検出部26は、検出された既刈領域SA1,SA2,SA3よりも圃場内側の領域を、未刈領域として検出する。そして、図2に示されるように、作業状況検出部26による検出結果は、作物領域判定部27へ送られる。
【0051】
車速設定部31は、主変速レバー19の操作量に基づいて走行装置11が駆動する速度、即ち車速を設定する。設定車速は車速設定部31から自動走行制御部24へ送られる。
【0052】
走行経路設定部23は、圃場データ取得部22から圃場形状や条情報を受け取り、自動走行用の走行経路を設定する。走行経路設定部23は、圃場形状データに基づいて外周領域SAと内側領域CAとを区切り、外周領域SAを周回走行しながら作物を刈り取る周回走行経路と、内側領域CAを往復走行しながら作物を刈り取る平行走行経路LSと、を設定する。なお、周回走行経路と平行走行経路LSとを総称する場合、単に『走行経路』と称する。
【0053】
走行経路設定部23に、周回走行経路設定部23Aと、平行走行経路設定部23Bと、が備えられている。周回走行経路設定部23Aは、外周領域SAに自動走行用の周回走行経路を設定可能に構成されている。平行走行経路設定部23Bは、内側領域CAに互いに平行な複数の平行走行経路LSを設定可能に構成されている。複数の平行走行経路LSは、内側領域CAを往復走行する自動走行用の経路である。
【0054】
因みに、走行経路設定部23は、走行軌跡算出部21Aによって算出されたコンバイン1の走行軌跡データを受け取り可能に構成され、当該走行軌跡データに基づいて周回走行経路及び平行走行経路LSを変更できる。
【0055】
自動走行制御部24は、走行装置11を制御可能に構成されている。そして、自動走行制御部24は、自車位置算出部21から受け取ったコンバイン1の位置座標と、走行経路設定部23から受け取った走行経路と、車速設定部31から受け取った設定車速と、に基づいて、コンバイン1に周回走行経路と複数の平行走行経路LSとに沿って自動走行を行わせる。より具体的には、自動走行制御部24は、図4乃至図6に示されるように、走行経路に沿った自動走行によって刈取走行が行われるように、コンバイン1の走行を制御する。即ち、コンバイン1は、自動走行可能である。
【0056】
コンバイン1の進行方向前方の左右一方側に未刈領域が存在し、コンバイン1の進行方向前方の左右他方側に既刈領域が存在すると、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる。作物領域判定部27は、作業状況検出部26の検出結果に基づいて、左右方向において刈取部Hのどの領域に作物が入ってくるかを判定する。このことから、作物領域判定部27は、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる状態を判定できる。本実施形態では、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる状態を、『偏り状態』と称する。つまり、作物領域判定部27は、作業状況検出部26によって進行方向前方に既刈領域及び未刈領域が存在することが検出されると、偏り状態であると判定する。作物領域判定部27の判定結果は、傾斜制御部25へ送られる。
【0057】
傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈高さを基準として昇降装置29に対する制御を行う。刈取部Hの刈高さは、設定操作具33の人為操作に基づいて刈高さ設定部32で設定される。詳細に関しては後述するが、傾斜制御部25は、作物領域判定部27の判定結果に基づいて、昇降装置29に機体本体の高さ位置を変更させることを可能に構成されている。
【0058】
〔周回走行経路について〕
図3乃至図6に、台形状に形成された圃場が示され、外周領域SAを周回走行する自動走行用の周回走行経路の一例として周回走行経路L1~L8が示されている。矩形状の外周形状S0よりも外側、即ち圃場の外周部に外周領域SAが設定されている。また、外周形状S0よりも内側、即ち外周領域SAよりも内側に内側領域CAが設定されている。図3乃至図6に示される圃場では、内側領域CAにおける作物の条方向が紙面上下方向に沿っている。換言すると、外周形状S0における左右の縦辺が作物の条方向に沿っている。条情報取得部22Aによって取得された条情報に条方向が含まれている。
【0059】
図3に示されるように、コンバイン1は、圃場の畦際に沿って周回走行しながら圃場の作物を刈り取る刈取走行を行う。このときの刈取走行は手動走行によって行われる。コンバイン1の刈取走行が一周完了すると、外周領域SAのうち、コンバイン1の周回走行の刈取軌跡として既刈領域SA1が形成され、既刈領域SA1よりも圃場内側に未刈領域の外周形状S1が形成されている。
【0060】
なお、外周領域SAの幅をある程度広く確保するために、オペレータは、コンバイン1を二周または三周に亘って手動で操作しても良い。この場合、既刈領域SA1の幅は、コンバインの作業幅の二倍から三倍程度の幅となる。
【0061】
外周形状S1よりも内側の破線が内側領域CAの外周形状S0であって、外周領域SAと内側領域CAとが走行経路設定部23(図2参照)によって予め区切られている。
【0062】
未刈領域の外周形状S1のうち、紙面上下方向に延びる二辺が、紙面上側ほど紙面左右中央側に位置するように傾斜し、紙面横方向に延びる二辺が互いに平行である。つまり、未刈領域の外周形状S1は台形状に形成されている。
【0063】
内側領域CAの外周形状S0を構成する辺のうち平行走行経路LSに対して左右外一方側に位置する辺が条方向に沿うように、周回走行経路設定部23Aは周回走行経路を設定する。平行走行経路LSに対して左右外一方側に位置する辺とは、図3乃至図6において紙面上下方向に延びる左右の少なくとも何れかの縦辺である。図3に示されるように、未刈領域の外周形状S1の左右の縦辺は、条方向に沿っておらず、内側領域CAの外周形状S0の紙面上下方向に延びる左右の縦辺と平行ではない。このため、周回走行経路設定部23Aは、コンバイン1が周回走行する際に、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる割合が、コンバイン1の前進に伴って増加または減少するように、周回走行経路L1~L8を設定可能に構成されている。
【0064】
図4では、既刈領域SA1よりも内側の作物が周回走行によって刈り取られる。このときの周回走行は自動走行によって行われ、自動走行用の周回走行経路L1~L4が周回走行経路設定部23Aによって設定される。
【0065】
周回走行経路L1は、既刈領域SA1の外周形状S1のうちの紙面右縦辺部分を刈取走行するための自動走行経路である。また、周回走行経路L3は、既刈領域SA1の外周形状S1のうちの紙面左縦辺部分を刈取走行するための自動走行経路である。周回走行経路L2,L4の夫々は、既刈領域SA1の外周形状S1のうちの上下二辺の部分を刈取走行するための自動走行経路である。なお、周回走行経路L1~L4の夫々の経路間の角部では、コンバイン1は『αターン』と呼ばれる前進と後進とを伴うスイッチバック式の旋回走行を行うが、他の旋回手法が用いられても良い。
【0066】
コンバイン1は、周回走行経路L1~L4に沿って自動的に周回走行しながら作物を刈り取る。周回走行経路L1に沿ってコンバイン1が前進する際の進行方位は、外周形状S1のうちの紙面右縦辺に沿う方向よりも進行方向右側に方位ずれしている。このため、コンバイン1が周回走行経路L1に沿って刈取走行する際に、コンバイン1の刈取部Hのうちの既刈領域SA1と重複する部分がコンバイン1の前進に伴って増加する。このとき、刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる作物の割合が、コンバイン1の前進に伴って減少する。
【0067】
また、周回走行経路L3に沿ってコンバイン1が前進する際の進行方位は、外周形状S1のうちの紙面左縦辺に沿う方向よりも進行方向左側に方位ずれしている。このため、コンバイン1が周回走行経路L3に沿って刈取走行する際に、コンバイン1の刈取部Hのうちの既刈領域SA1と重複する部分がコンバイン1の前進に伴って減少する。このとき、刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる作物の割合が、コンバイン1の前進に伴って増加する。
【0068】
周回走行経路L1~L4に沿って自動走行制御によるコンバイン1の刈取走行が行われると、外周領域SAのうち既刈領域SA1よりも内側におけるコンバイン1の刈取走行の刈取軌跡として、台形状の既刈領域SA2が形成される。また、既刈領域SA2よりも圃場内側に未刈領域の外周形状S2が形成される。
【0069】
未刈領域の外周形状S2は、台形状に形成された外周形状S1よりも矩形形状に近づいた形状となっている。しかし、図4に示されるように、未刈領域の外周形状S2の左右の縦辺は、条方向に沿っておらず、内側領域CAの外周形状S0の左右の縦辺と平行ではない。この場合、図5に示されるように、周回走行経路設定部23Aは、コンバイン1が周回走行する際に、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる割合が、コンバイン1の前進に伴って増加または減少するように、周回走行経路L5~L8を設定する。
【0070】
図5では、既刈領域SA2よりも内側の作物が周回走行によって刈り取られる。このときの周回走行は自動走行によって行われ、自動走行用の周回走行経路L5~L8が周回走行経路設定部23Aによって設定される。周回走行経路L5は既刈領域SA2の外周形状S2のうちの紙面右縦辺部分を刈取走行するための自動走行経路であって、周回走行経路L7は既刈領域SA2の外周形状S2のうちの紙面左縦辺部分を刈取走行するための自動走行経路である。周回走行経路L5,L7の夫々に沿ってコンバイン1が前進する際の進行方位は紙面上下方向に沿っている。なお、周回走行経路L5~L8の夫々の経路間の角部でも、周回走行経路L1~L4の夫々の角部の場合と同様に、コンバイン1はαターンを行う。
【0071】
コンバイン1は、周回走行経路L5~L8に沿って自動的に周回走行しながら作物を刈り取る。周回走行経路L5,L7に沿ってコンバイン1が前進する際の進行方位は紙面上下方向に沿っている。このため、コンバイン1が外周形状S2の当該右縦辺に沿って刈取走行する際に、コンバイン1の刈取部Hのうちの既刈領域SA2と重複する部分がコンバイン1の前進に伴って増加する。このとき、刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる作物の割合が、コンバイン1の前進に伴って減少する。
【0072】
また、コンバイン1が外周形状S2の当該左縦辺に沿って刈取走行する際に、コンバイン1の刈取部Hのうちの既刈領域SA2と重複する部分がコンバイン1の前進に伴って減少する。このとき、刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる作物の割合が、コンバイン1の前進に伴って増加する。
【0073】
周回走行経路L5~L8に沿って自動走行制御によるコンバイン1の刈取走行が一周完了すると、外周領域SAのうち既刈領域SA2よりも内側におけるコンバイン1の刈取走行の刈取軌跡として既刈領域SA3が形成され、既刈領域SA3よりも圃場内側に未刈領域の外周形状S3が矩形状に形成されている。外周形状S3は、内側領域CAの外周形状S0と同一形状であって、周回走行経路設定部23Aは、内側領域CAの実際の外周形状が矩形となるように周回走行経路L1~L8を設定する。図5に示された周回走行が完了すると、外周領域SAにおける作物の刈り取りが完了する。
【0074】
このように、周回走行経路設定部23Aは、周回走行を重ねるごとに作物を刈り取った後の未刈領域の外周形状が内側領域CAの矩形状の外周形状S0に近付くように外周領域SAに複数の周回走行経路を設定する。換言すると、圃場形状を構成する辺のうち平行走行経路LS(図6参照)に対して少なくとも左右外一方側に位置する辺が平行走行経路LSと平行でない場合に、周回走行経路設定部23Aは、内側領域CAの外周形状S0を構成する辺のうち平行走行経路LSに対して当該左右外一方側に位置する辺が、コンバイン1が周回走行経路を刈取作業しながら走行することによって、平行走行経路LSと平行となるように、周回走行経路を設定する。
【0075】
自動走行制御部24は、周回走行経路設定部23Aによって設定された周回走行経路に沿って、外周領域SAにおけるコンバイン1を渦巻き状に前進させながら刈取走行させるように制御信号を出力する。外周形状S3の左右の縦辺は、内側領域CAにおける作物の条方向に沿っている。
【0076】
図4及び図5に示された周回走行経路L1,L5に沿って刈取走行が行われる場合、周回走行経路L1,L5の始端では刈取部Hが作物を6条分刈り取り、周回走行経路L1,L5の終端では刈取部Hが作物を左端の1条分だけ刈り取るが、これに限定されない。周回走行経路L1,L5の始端では刈取部Hが作物を左側の5条分以下で刈り取っても良いし、周回走行経路L1,L5の終端では刈取部Hが作物を左側の2条分以上で刈り取っても良い。
【0077】
図4及び図5に示された周回走行経路L3,L7に沿って刈取走行が行われる場合、周回走行経路L3,L7の始端では刈取部Hが作物を左端の1条分だけ刈り取り、周回走行経路L3,L7の終端では刈取部Hが作物を6条分刈り取るが、これに限定されない。周回走行経路L3,L7の始端では刈取部Hが作物を左側の2条分以上で刈り取っても良いし、周回走行経路L3,L7の終端では刈取部Hが作物を左側の5条分以下で刈り取っても良い。
【0078】
このように、外周領域SAにおける未刈領域の外周形状のうち、平行走行経路LSに対して左右外側に位置する辺が条方向に沿っていない場合、周回走行経路設定部23Aは、コンバイン1が前記周回走行する際に、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入ってくる割合が、コンバイン1の前進に伴って増加または減少するように、周回走行経路L1~L8を設定可能に構成されている。
【0079】
周回走行経路においてコンバイン1によって刈取走行が行われている間、上述の通り、切断装置15によって刈り取られた刈取穀稈は、搬送装置16によって脱穀装置13へ搬送される。そして、刈取穀稈は脱穀装置13で脱穀処理される。また、周回走行経路でコンバイン1の周回走行が重ねられることによって、往復走行が行われる際に外周領域SAで方向転換(例えばUターン旋回用の経路)を可能なスペースが確保される。
【0080】
〔平行走行経路について〕
図6に示されるように、平行走行経路設定部23Bは、内側領域CAを往復走行する自動走行用の複数の平行走行経路LSを、左右の縦辺の延びる方向、即ち条方向に沿うように設定する。即ち、自動走行制御部24は、渦巻き状に圃場を周回する刈取走行の後に往復走行に移行するように、コンバイン1の走行を制御する。往復走行では、コンバイン1は、内側領域CAにおいて平行走行経路LSに沿って前進しながら行われる刈取走行と、外周領域SAにおける方向転換と、を交互に繰り返す。
【0081】
コンバイン1における左右一対の走行装置11,11のうち、左側の走行装置11が、右側の走行装置11よりも機体横内側に偏倚している場合が多い。このため、機体左側部よりも左側に未刈領域があり、かつ、機体右側部よりも右側に既刈領域がある状態で刈取走行が行われると、未刈領域の作物が走行装置11によって踏まれ難くなる。
【0082】
本実施形態では、平行走行経路設定部23Bは、機体右側部が出来るだけ既刈領域と隣接するように平行走行経路LSを設定する。つまり、往復走行では、未刈領域の外周形状のうち、条方向に沿って延びる一対の辺部分をコンバイン1が交互に刈取走行し、コンバイン1は図6の紙面反時計回りに走行する。
【0083】
図6において、内側領域CAが部分作業領域CA1,CA2,CA3で区切られている。コンバイン1は、部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々の紙面左右両端部の平行走行経路LSから紙面左右内側の平行走行経路LSに向かって順番に刈取走行する。このため、コンバイン1が最初の平行走行経路LSから2番目の平行走行経路LSへ移動する際の距離が長くなると、コンバイン1の空走距離が長くなって作業効率が悪くなる。また、コンバイン1が部分作業領域CA1,CA2,CA3を刈取走行している途中で穀粒タンク14が満杯になって、コンバイン1が穀粒の排出のための平行走行経路LSを途中で離脱すると作業効率が悪くなる。このため、平行走行経路設定部23Bは、内側領域CAの外周形状S0のうちの条方向に沿って延びる一対の辺の対向する離間距離や、穀粒タンク14の容量等を勘案して、部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々の広さや作業対象条数を算出する。
【0084】
本実施形態では6条刈りの刈取部Hが備えられている。部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々の作業対象条数が6の倍数であれば都合が良いが、作業対象条数が6の倍数でない場合、図13に示されるように、刈取部Hの右端部の1条分だけ既刈領域と重複する状態で刈取走行が行われる。この1条分だけ既刈領域と重複する刈取走行は、作業対象条数を刈取部Hの仕様刈取条数で割った余りに応じて1回または複数回行われる。
【0085】
刈取部Hが既刈領域の藁屑等を拾い上げる不都合を出来るだけ回避するため、本実施形態では、平行走行経路LSにおいて刈取部Hが既刈領域と重複する左右の範囲は、左右1条分ずつの領域に制限されている。部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々における最後の平行走行経路LSで、刈取部Hのうちの左右何れかの2条分以上の領域が既刈領域と重複してしまうと不都合である。このため、平行走行経路設定部23Bは、部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々における最後の平行走行経路LSの前の平行走行経路LSで刈取部Hの刈り取り条数を調整するように平行走行経路LSを設定する。換言すると、平行走行経路設定部23Bは、条位置及び条間隔に基づいてコンバイン1の刈取条数に対応するように複数の平行走行経路LSを設定する。これにより、部分作業領域CA1,CA2,CA3の夫々における最後の平行走行経路LSで刈取条数が少なくなり過ぎて、刈取部Hのうちの左右何れかの2条分以上の領域が既刈領域と重複してしまう虞が回避される。
【0086】
平行走行経路LSにおいてコンバイン1によって刈取走行が行われている間、上述の通り、切断装置15によって刈り取られた刈取穀稈は、搬送装置16によって脱穀装置13へ搬送される。そして、刈取穀稈は脱穀装置13で脱穀処理される。
【0087】
〔刈取走行における傾斜制御について〕
例えば、図4及び図5に示された周回走行経路L1,L3,L5,L7に沿って刈取走行が行われている場合、コンバイン1の刈取部Hのうちの既刈領域SA1または既刈領域SA2へはみ出る部分がコンバイン1の前進に伴って増加する。このため、刈取部Hの左右何れかの端部が既刈領域SA1,SA2へはみ出た状態で、刈取部Hによる作物の刈り取りが行われると、作物が刈取部Hに対して左右一方側に偏って入り、刈取部Hのうちの左右他方側の部分に作物が入ってこない。
【0088】
一方、刈取部Hのうちの作物が入ってこない当該左右他方側の部分の前方は既刈領域SA1,SA2であって、既刈領域SA1,SA2には刈取後の藁屑等が散乱している。このため、これら散乱した藁屑等が刈取部Hによって拾われる場合が考えられる。こうなると、この藁屑等が刈取穀稈と一緒に搬送装置16(図1参照)によって脱穀装置13(図1参照)へ搬送され、穀粒タンク14に貯留される穀粒に細かな藁屑等が混ざったり、脱穀装置13の脱穀負荷が不必要に増大したりする虞がある。このような不都合を回避するため、本実施形態では、傾斜制御を可能な傾斜制御部25(図2参照、以下同じ)が備えられている。
【0089】
傾斜制御は、作物領域判定部27(図2参照、以下同じ)によって偏り状態が判定されると、刈取部Hのうちの作物が入ってこない側の部分の高さ位置を、刈取部Hのうちの作物が入ってくる側の部分の高さ位置よりも高くするように、刈取傾斜変更機構としての昇降装置29に刈取部Hの左右の傾きを変更させる制御である。
【0090】
図2に基づいて上述したように、昇降装置29は、左右の走行装置11,11の夫々に対する機体本体の高さ位置を変更して機体本体をローリングさせることを可能に構成されている。刈取部Hは、昇降装置29による機体本体のローリング動作と一体的にローリングするように、機体本体に支持されている。このことから、刈取傾斜変更機構としての昇降装置29は、刈取部Hをローリングさせて刈取部Hの左右の傾きを変更可能なように構成されている。
【0091】
また、上述したように、作物領域判定部27は、作業状況検出部26の検出結果に基づいて偏り状態を判定できる。また、作物領域判定部27は、条情報取得部22Aから条情報を取得可能に構成され、条情報には作物の条間に関する情報も含まれている。このことから、作物領域判定部27は、刈取部Hの前方に存在する作物の条数に基づいて、刈取部Hにおいて作物が入ってくる範囲の広さと、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲の広さと、を判定する。
【0092】
図7に基づいて、傾斜制御部25による傾斜制御の流れを説明する。コンバイン1が周回走行経路L1~L8または平行走行経路LSに沿って圃場の作物を刈り取りながら前進走行を開始する際、最初に傾斜制御部25は、刈取部Hの前方における作物の条数を取得する(ステップ#01)。そして作物領域判定部27は、取得した作物の条数が刈取部Hの刈取可能な最大条数未満であるかどうかを判定することによって、偏り状態を判定する(ステップ#02)。例えば、刈取部Hが6条刈り仕様で、かつ、取得した作物の条数が5条以下であれば、ステップ#02の判定はYesとなる。
【0093】
作物領域判定部27から取得した作物の条数が、刈取部Hの刈取可能な最大条数と同じであれば、作物領域判定部27が偏り状態であると判定せず、ステップ#02の判定がNoとなって、後述のステップ#06に処理が移行する。作物領域判定部27が偏り状態であると判定すれば、ステップ#02の判定がYesとなって、傾斜制御部25は、刈取部Hの前方の作物の条数に応じて、既刈領域側の昇降装置29の動作量を算出する(ステップ#03)。
【0094】
既刈領域側の昇降装置29の動作量は、刈取部Hのうちの作物が入ってこない側の部分の高さ位置が既刈領域の藁屑等を拾い上げない程度に十分で、かつ、刈取部Hのうちの作物が入ってくる側の部分の高さ位置が不必要に高くならない程度に算出される。なお、刈取部Hの左右両端に作物が入ってこない部分が存在すると、傾斜制御部25は左右両方の昇降装置29,29の動作量を算出する。
【0095】
昇降装置29の動作量の算出が完了すると、傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈取部Hの現在の刈高さを取得する(ステップ#04)。そして傾斜制御部25は、この刈高さを基準に刈取部Hのうちの作物が入ってこない側の高さ位置が変化するように、既刈領域側の昇降装置29を上昇させる(ステップ#05)。なお、機体左右両側が既刈領域である場合、傾斜制御部25は左右両方の昇降装置29,29の両方を上昇させる。
【0096】
ステップ#01~#05の処理は、コンバイン1が一つの走行経路に沿って圃場の作物を刈り取りながら前進走行を開始するときに実行される。ここで、「開始するとき」とは、開始前であっても良いし、開始する瞬間であっても良い。ステップ#06以降の処理は、コンバイン1が一つの走行経路に沿って圃場の作物を刈り取りながら前進走行を行っている間に実行される。
【0097】
コンバイン1の刈取走行中に、傾斜制御部25は、一つの走行経路の終端にコンバイン1が到達したかどうかを判定する(ステップ#06)。コンバイン1が一つの走行経路の終端に到達していれば(ステップ#06:Yes)、傾斜制御部25による傾斜制御は終了する。
【0098】
コンバイン1が一つの走行経路の終端に到達していなければ(ステップ#06:No)、傾斜制御部25は、刈取部Hの前方における作物の条数を取得する(ステップ#07)。作物の条数は作物領域判定部27によって判定され、傾斜制御部25は、例えば刈取部Hの前方10メートルの範囲における作物の条数を取得する。そして傾斜制御部25は、刈取部Hの前方における作物の条数が途中で変化するかどうかを判定する(ステップ#08)。
【0099】
当該範囲における作物の条数を取得して、作物の条数が全範囲で同じであれば(ステップ#08:No)、ステップ#06に移行し、傾斜制御部25による傾斜制御がステップ#06から繰り返される。作物の条数が途中で変化している場合(ステップ#08:Yes)、図4及び図5の周回走行経路L1,L3,L5,L7に例示されるように、当該走行経路の終端までに、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲が、コンバイン1の前方ほど拡大または縮小している場合が考えられる。そして傾斜制御部25は、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲の拡大または縮小に対応して、以下の傾斜制御を実行する。
【0100】
昇降装置29を作動させる前に、傾斜制御部25は、コンバイン1の現在の位置座標及び車速を取得する(ステップ#09)。コンバイン1の現在の位置座標は自車位置算出部21によって算出され、コンバイン1の現在の車速は車速検出部21Bによって算出される。
【0101】
続いて傾斜制御部25は、コンバイン1の現在の位置座標及び車速に基づいて、昇降装置29の作動タイミングが遅れないように昇降装置29が作動を開始するべき開始座標を算出する(ステップ#10)。車速が早いほど、開始座標は作物の条数の変化地点から走行経路の始端側へ離れるように設定され、車速が遅いほど、開始座標は作物の条数の変化地点に近づくように設定される。即ち、傾斜制御部25は、刈取傾斜変更機構としての昇降装置29の作動開始タイミングを、車速に応じて変更するように構成されている。そして傾斜制御部25は、コンバイン1が開始座標に到達したかどうかを判定する(ステップ#11)。
【0102】
コンバイン1が開始座標に到達していなければ(ステップ#11:No)、ステップ#09及びステップ#10の処理が繰り返される。この構成によって、コンバイン1の車速が変化した場合であっても、傾斜制御部25はコンバイン1の車速の変化に対応してリアルタイムに開始座標を変更できる。
【0103】
コンバイン1が開始座標に到達すると(ステップ#11:Yes)、傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈取部Hの現在の刈高さを取得する(ステップ#12)。そして傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈高さを基準として刈取部Hのうちの既刈領域側の部分の高さ位置が変化するように傾斜制御を行う。即ち、傾斜制御部25は、既刈領域側の走行装置11に対する機体本体の高さ位置を変更するように昇降装置29を上昇または下降させ、機体本体をローリングさせる(ステップ#13)。なお、機体左右両側に既刈領域が隣接する場合、傾斜制御部25は左右の昇降装置29,29のうち、作物の条数が変化する側の昇降装置29を上昇または下降させ、機体左右両側で作物の条数する場合には左右両方の昇降装置29,29を上昇または下降させる。
【0104】
当該走行経路の終点まで、ステップ#06~#13の処理が繰り返される。これにより、作物の条数の変化地点が複数箇所で存在する場合であっても、コンバイン1が当該走行経路における最後の変化地点を通過するまで、傾斜制御部25による傾斜制御が実行される。
【0105】
図示はしないが、ステップ#05及びステップ#13において傾斜制御部25が既刈領域側の昇降装置29を上昇させる際、傾斜制御部25は、オペレータによって設定された所定の上限上昇量Δvmaxに基づいて傾斜制御を実行する。上限上昇量Δvmaxは、通信端末4の画面に表示可能であって、オペレータは通信端末4のタッチパネルを操作することによって上限上昇量Δvmaxを変更できる。なお、通信端末4の画面には、上限上昇量Δvmaxが数値として表示されていなくても良く、例えば、「大」、「中」、「小」、「なし」、等の複数段階で表示されても良い。また、オペレータが通信端末4の画面で「なし」を選択した場合、傾斜制御部25による傾斜制御は行われない。
【0106】
〔傾斜制御のパターンの詳細〕
図8乃至図10に、図4及び図5に示された周回走行経路L1,L5に沿って刈取走行が行われる場合が模式的に示されている。図8乃至図10に示される刈取走行が行われている時点で、図7に示されたステップ#01~#05の処理は完了し、ステップ#06以降の処理が行われている。なお、本実施形態では6条刈りの刈取部Hが備えられている。刈取部Hの刈高さは、刈高さ設定部32によって第一刈高さV1に設定されている。
【0107】
本発明における『左右一方側』は、図8乃至図13では未刈領域の位置する側であって、本発明における『左右他方側』は、図8乃至図13では既刈領域の位置する側である。このため、本発明において、刈取部Hのうちの左右一方側の部分は、図8乃至図13に示された刈取部Hのうちの未刈領域側の部分であって、刈取部Hのうちの左右他方側の部分は、図8乃至図13に示された刈取部Hのうちの既刈領域側の部分である。即ち、作物は刈取部Hに対して未刈領域の位置する側に偏って入ってくる。
【0108】
図8では、6条分の作物が刈取部Hによって刈り取られ、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲が刈取部Hから前方へ離れるほど拡大している。図8に示された状態からコンバイン1が前進走行すると、図9に示されるように、刈取部Hの進行方向右部分が1条分だけ既刈領域へはみ出し、刈取部Hのうちの左側5条分の作物が刈り取られる。コンバイン1の進行方向右方の既刈領域に、刈り取られた後の藁屑等が散乱している。
【0109】
図8では、コンバイン1は走行経路の終端に到達していないため、図7におけるステップ#06の判定はNoとなってステップ#07の処理が実行される。図8では、刈取部Hの前方における作物の条数が途中で6条から5条に変化するため、図7におけるステップ#08の判定はYesとなる。そして傾斜制御部25は、図7におけるステップ#09~#13の処理に基づいて傾斜制御を実行する。
【0110】
そして、傾斜制御部25による傾斜制御の結果、図9に示されるように、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、昇降装置29によって第一刈高さV1よりもΔv1だけ高く上昇する。傾斜制御部25は、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分が、刈取部Hの予め設定された第一刈高さV1よりも高くなるように傾斜制御を行う。
【0111】
Δv1は、オペレータによって設定された上限上昇量Δvmaxと刈取部Hの刈取条数とに基づいて算出される。具体的には、傾斜制御部25が既刈領域側の昇降装置29を上昇させる際の上昇量をΔvとすると、
『Δv=N×Δvmax/(Hmax-1)』
という数式によってΔvが算出される。この数式における『N』とは、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲の条数を意味する。また、この数式における『Hmax』とは、刈取部Hの刈取条数の仕様値を意味する。本実施形態では、刈取部Hの刈取条数は6条仕様である。また、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲は1条分であるため、Nの値は1となる。このため、Δv1は、上限上昇量Δvmaxを5で割った値、即ちΔvの算出値である。
【0112】
このように、作物が刈取部Hに対して未刈領域の位置する側に偏って入ってくる状態、即ち偏り状態が作物領域判定部27によって判定されると、傾斜制御部25は、刈取部Hの作物が入ってこない既刈領域の位置する側の部分の高さ位置を、刈取部Hのうち作物が入ってくる未刈領域の位置する側の部分の高さ位置よりも高くするように、昇降装置29に刈取部Hの左右の傾きを変更させる傾斜制御を行う。
【0113】
図9に示された状態からコンバイン1が更に前進走行すると、図10に示されるように、刈取部Hの進行方向右部分が2条分だけ既刈領域へはみ出し、刈取部Hのうちの左側4条分の作物が刈り取られる。既刈領域に散乱する藁屑等は、この領域で刈取走行が行われたときに、コンバイン1の機体後部の左右中央領域から排出されたものであるため、コンバイン1の走行軌跡の左右中央寄りに集中し易い。このことから、既刈領域に散乱する藁屑等は、未刈領域から離れる側ほど高く堆積しがちである。このため、図9で示されたコンバイン1の傾斜姿勢のままでは、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分で藁屑等が拾われる虞がある。このため、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分が更に既刈領域へはみ出すのに対応して、傾斜制御部25は更に傾斜制御を実行する。
【0114】
傾斜制御部25による傾斜制御の結果、図10に示されるように、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、昇降装置29によって第一刈高さV1よりもΔv2だけ高く上昇する。刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲は2条分であるため、上述したNの値は2となる。このため、Δv2は、上限上昇量Δvmaxを5で割った値に対して2を掛けた値、即ち上述のΔvの算出値である。つまり、Δv2はΔv1の2倍に設定されている。
【0115】
図11及び図12に、図4及び図5に示された周回走行経路L3,L7に沿って刈取走行が行われる場合が模式的に示されている。周回走行経路L3,L7の走行開始時に、刈取部Hの前方における作物の条数は6条未満であるため、図7におけるステップ#02はYesの判定となり、傾斜制御部25は、図7におけるステップ#03~#05の処理に基づいて傾斜制御を実行する。図11及び図12に示される刈取走行が行われている時点で、図7に示されたステップ#01~#05の処理は完了し、ステップ#06以降の処理が行われている。
【0116】
図11では、4条分の作物が刈取部Hによって刈り取られ、刈取部Hの進行方向右部分が2条分だけ既刈領域へはみ出している。刈取部Hの刈高さは、刈高さ設定部32によって第一刈高さV1に設定されている。また、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の既刈領域へのはみ出し度合いに対応して、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、昇降装置29によって第一刈高さV1よりもΔv3だけ高く上昇している。刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲は2条分であるため、上述したNの値は2となる。このため、Δv3は、上限上昇量Δvmaxを5で割った値に対して2を掛けた値、即ち上述のΔvの算出値である。つまり、Δv3の値と、図10に示されたΔv2の値と、は同じである。
【0117】
図11では、刈取部Hにおいて作物が入ってくる範囲が刈取部Hから前方へ離れるほど拡大している。図11に示された状態からコンバイン1が前進走行すると、図12に示されるように、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分における既刈領域へのはみ出し度合いが2条分から1条分に減少し、刈取部Hのうちの左側5条分の作物が刈り取られる。
【0118】
図11では、コンバイン1は走行経路の終端に到達していないため、図7におけるステップ#06の判定はNoとなってステップ#07の処理が実行される。図11では、刈取部Hの前方における作物の条数が途中で4条から5条に変化するため、図7におけるステップ#08の判定はYesとなる。そして傾斜制御部25は、図7におけるステップ#09~#13の処理に基づいて傾斜制御を実行する。
【0119】
傾斜制御部25による傾斜制御の結果、図12に示されるように、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、第一刈高さV1よりもΔv3だけ高い状態から、第一刈高さV1よりもΔv4だけ高い状態に下降する。この下降動作は昇降装置29によって行われる。刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲は1条分であるため、Nの値は1となる。このため、Δv4は、上限上昇量Δvmaxを5で割った値、即ち上述のΔvの算出値である。つまり、Δv4はΔv3の半分の値に設定され、Δv4の値と、図9に示されたΔv1の値と、は同じである。
【0120】
このように、傾斜制御部25は、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲が広いほど、刈取部Hにおける既刈領域の位置する側の部分の高さ位置を高くする。
【0121】
図13に、図6に示された複数の平行走行経路LSのうちの一つに沿って刈取走行が行われる場合が模式的に示されている。図13に示される例では、平行走行経路LSの走行開始時に、刈取部Hの前方における作物の条数は5条である。このため、図7におけるステップ#02はYesの判定となり、傾斜制御部25は、図7におけるステップ#03~#05の処理に基づいて傾斜制御を実行する。そして、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、昇降装置29によって第一刈高さV1よりもΔv1だけ高く上昇する。
【0122】
図13に示される刈取走行が行われている時点で、図7に示されたステップ#01~#05の処理は完了し、ステップ#06以降の処理が行われている。図6に示される平行走行経路LSの場合、作物の条数が途中で変化しないため、図13に示される刈取走行が継続する間においては、通常であれば図7におけるステップ#08の判定は常にNoとなる。そして、そのまま平行走行経路LSの終端で図7におけるステップ#06の判定がYesとなって、傾斜制御部25による傾斜制御が終了する。
【0123】
図14に、図6に示された複数の平行走行経路LSのうち、部分作業領域CA1,CA2,CA3の何れかにおける最後の平行走行経路LSに沿って刈取走行が行われる場合が模式的に示されている。図14に示される例では、平行走行経路LSの走行開始時に、刈取部Hの前方における作物の条数は4条であって、刈取部Hの左右夫々の1条分の部分に作物が入ってこない領域が存在する。このため、ステップ#02はYesの判定となり、傾斜制御部25は、図7におけるステップ#03~#05の処理に基づいて傾斜制御を実行する。そして、刈取部Hの全体の走行装置11に対する高さ位置が、左右両方の昇降装置29,29によって第一刈高さV1よりもΔv1だけ高く上昇する。
【0124】
図14に示される刈取走行が行われている時点で、図7に示されたステップ#01~#05の処理は完了し、ステップ#06以降の処理が行われている。図13に基づいて上述したように、図14に示される刈取走行が継続する間においては、通常であれば図7におけるステップ#08の判定は常にNoとなる。そして、そのまま平行走行経路LSの終端でステップ#06の判定がYesとなって、傾斜制御部25による傾斜制御が終了する。
【0125】
図15及び図16に、図4及び図5に示された周回走行経路L1,L5に沿って刈取走行が行われる場合が模式的に示されている。図8及び図9にも、周回走行経路L1,L5に沿って刈取走行が行われる場合が示されており、図15及び図16における図8及び図9との相違点として、圃場が湿田であること等によって走行装置11が圃場表面よりも下側に埋まり込みながら走行している。このため、刈取部Hの刈高さは、刈高さ設定部32によって第一刈高さV1よりも高い第二刈高さV2に設定されている。
【0126】
図15乃至図16に示される刈取走行が行われている時点で、図7に示されたステップ#01~#05の処理は完了し、ステップ#06以降の処理が行われている。図15では、6条分の作物が刈取部Hによって刈り取られ、刈取部Hにおいて作物が入ってこない範囲が刈取部Hから前方へ離れるほど拡大している。図8及び図9に基づいて上述したように、傾斜制御部25は、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分が、刈取部Hの予め設定された第二刈高さV2よりもΔv1だけ高くなるように傾斜制御を行う。
【0127】
傾斜制御部25による傾斜制御の結果、図16に示されるように、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の走行装置11に対する高さ位置が、昇降装置29によって第二刈高さV2よりもΔv1だけ高く上昇する。このΔv1の値は、図9に示されたΔv1の値と同じである。
【0128】
図9では、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分が第一刈高さV1からΔv1だけ上昇し、図16では、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分が第二刈高さV2からΔv1だけ上昇している。図9図16との相違点は、刈取部Hの刈高さが第一刈高さV1に設定されているか、刈取部Hの刈高さが第二刈高さV2に設定されているか、の違いだけであって、図9図16との何れにおいても、刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の上昇量はΔv1で共通する。
【0129】
つまり、傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈高さを基準として刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の高さ位置が変化するように傾斜制御を行う。これにより、作物の品種や圃場の状況等に適した傾斜制御が可能となる。
【0130】
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0131】
(1)上述の実施形態では、傾斜制御部25が作物領域判定部27の判定結果を取得して、当該判定結果に基づいて傾斜制御を行う構成となっているが、この実施形態に限定されない。例えば、図17に示されるように、作物領域判定部27の判定結果が自動走行制御部24へ送られ、自動走行制御部24は、当該判定結果に基づいて傾斜制御部25へ傾斜制御の指令を出力する構成であっても良い。この場合、自動走行制御部24は、刈取部Hの前方に存在する作物の条数の変化に応じて、傾斜制御部25に傾斜制御を指示するように構成されても良い。また、自動走行制御部24は、車速を勘案して傾斜制御部25に傾斜制御を指示するように構成されても良い。
【0132】
(2)上述の実施形態では、刈取傾斜変更機構は、昇降装置29によって構成されているが、この実施形態に限定されない。刈取傾斜変更機構は専用の機構として刈取部Hに設けられ、当該専用の機構が機体本体に対してローリングする構成であっても良い。
【0133】
(3)上述の実施形態では、6条刈り仕様の刈取部Hが備えられているが、刈取部Hは、5条刈り仕様であっても良いし、4条刈り仕様であっても良い。
【0134】
(4)上述の実施形態では、作業状況検出部26は、航法衛星の測位信号に基づいて検出された機体の位置情報に基づいて未刈領域と既刈領域とを検出可能に構成されているが、この実施形態に限定されない。例えば、刈取部Hに、条ごとに刈取部Hに入ってくる穀稈を検出可能な穀稈センサが備えられ、作業状況検出部26は当該穀稈センサの検出結果に基づいて未刈領域と既刈領域とを検出可能に構成されても良い。
【0135】
(5)上述の実施形態では、図9に示されるように刈取部Hの進行方向右部分が1条分だけ既刈領域へはみ出すと傾斜制御部25は傾斜制御を実行する。そして、図10に示されるように刈取部Hの進行方向右部分が2条分だけ既刈領域へはみ出すと傾斜制御部25は更に傾斜制御を実行する。本発明は、図9及び図10に示される実施形態に限定されない。例えば、刈取部Hのうち作物が入ってこない部分が既刈領域の位置する側の1条分だけである場合、傾斜制御部25は傾斜制御を実行しない構成であっても良い。この場合、刈取部Hのうち作物が入ってこない部分が既刈領域の位置する側の2条分以上であれば、傾斜制御部25は傾斜制御を実行する構成であっても良い。
【0136】
(6)上述の実施形態では、図7のステップ#09~#11に示されるように、傾斜制御部25は、刈取傾斜変更機構としての昇降装置29の作動開始タイミングを、車速に応じて変更するように構成されているが、この実施形態に限定されない。例えば、昇降装置29は昇降する際のストローク速度を変更可能なように構成され、傾斜制御部25は、車速に応じて昇降装置29のストローク速度を変更する構成であっても良い。また、ステップ#10,#11に示されるような、昇降装置29の開始座標が算出される構成に限定されず、例えば、昇降装置29の作動を開始させるためのタイマが設けられ、傾斜制御部25は、車速に応じて当該タイマの長さを変更する構成であっても良い。
【0137】
(7)上述の実施形態において、傾斜制御部25は、刈高さ設定部32で設定された刈高さを基準として刈取部Hのうち既刈領域の位置する側の部分の高さ位置が変化するように傾斜制御を行う。刈高さ設定部32は、例えば図9にΔv1で示された刈取部Hの上昇量を変更可能に構成されても良い。即ち、傾斜制御を行う際の昇降装置29の動作量を設定する変更量設定部が刈高さ設定部32であって、設定操作具33の人為操作に基づいて昇降装置29の動作量が変更可能なように構成されても良い。また、設定操作具33とは別の操作具の人為操作に基づいて、刈高さ設定部32とは別の変更量設定部が傾斜制御を行う際の昇降装置29の動作量を設定する構成であっても良い。そして、傾斜制御部25は、当該動作量に基づいて刈取部Hのうちの未刈領域の位置する側の部分の高さ位置が変化するように傾斜制御を行う構成であっても良い。
【0138】
(8)上述した実施形態では、Δv2はΔv1の2倍に設定されているが、Δv2の値がΔv1の値よりも高ければ、Δv2の値は適宜変更可能である。また、Δv4はΔv3の半分の値に設定されているが、Δv4の値がΔv3の値よりも低ければ、Δv4の値は適宜変更可能である。
【0139】
(9)上述した実施形態では、傾斜制御部25が既刈領域側の昇降装置29を上昇させる際の上昇量をΔvとし、
『Δv=N×Δvmax/(Hmax-1)』
という数式によってΔvが算出される構成を上述したが、この実施形態に限定されない。例えば、上限上昇量Δvmaxが、刈取部Hにおいて作物が入ってこない1条分の単位上昇量として定義されても良い。つまり、刈取部Hにおいて作物が入ってこない領域が1条ごとに変化すると、
『Δv=N×Δvmax』
という数式によってΔvが算出される構成であっても良い。この場合、上述のΔv1,Δv4は上限上昇量Δvmax(単位上昇量)と同じであって、上述のΔv2,Δv3は上限上昇量Δvmax(単位上昇量)に対して2を掛けた値となる。
【0140】
なお、上述の実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、条刈り可能な自脱型コンバインや、刈取穀稈の全稈を脱穀装置に投入可能な普通型コンバインに適用可能である。
【符号の説明】
【0142】
11 :走行装置
21B :車速検出部
25 :傾斜制御部
26 :作業状況検出部
27 :作物領域判定部
29 :昇降装置(刈取傾斜変更機構)
32 :刈高さ設定部
H :刈取部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17