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特許7196070基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20221219BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221219BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20221219BHJP
   H05B 3/86 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C03C27/12 M
C03C27/12 D
B32B15/08 D
H05B3/20 339
H05B3/86
H05B3/20 355B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019527984
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2018025684
(87)【国際公開番号】W WO2019009409
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017133887
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】磯上 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】保田 浩孝
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/080406(WO,A1)
【文献】特開平11-163587(JP,A)
【文献】特開昭63-195150(JP,A)
【文献】特表2017-505505(JP,A)
【文献】特表2016-539905(JP,A)
【文献】特表2015-513487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 15/08
B32B 17/10
B60S 1/02
H05B 3/20
H05B 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(1);該樹脂層(X)上に導電構造体を形成して、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを得る工程(2);および得られた基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去する工程(6)を含む、導電構造体含有フィルムの製造方法であって、前記樹脂層(X)の厚さは20μm以上、350μm以下である、方法
【請求項2】
金属箔の片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(3);該樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする工程(4);金属箔を加工して導電構造体を形成して、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを得る工程(5);および得られた基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去する工程(6)を含む、導電構造体含有フィルムの製造方法
【請求項3】
前記工程(1)または前記工程(3)において、熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布する方法が、熱可塑性樹脂組成物(A)を溶融して塗布する方法によるものである、請求項1または2に記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)または前記工程(3)において、熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布する方法が、熱可塑性樹脂組成物(A)の溶液または分散液を塗布する方法によるものである、請求項1または2に記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項6】
ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、前記ポリビニルアセタール樹脂の濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度が200mPa・sより大きい、請求項5に記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて0~20質量%の可塑剤を含む、請求項5または6に記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて80質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項1~7のいずれかに記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記導電構造体が少なくとも2本のバスバー構造を有する、請求項1~8のいずれかに記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記導電構造体が少なくとも2本のバスバー構造の間に金属細線構造を有する、請求項9に記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)または前記工程(5)において、金属箔をエッチングして前記導電構造体を形成する、請求項1~10のいずれかに記載の導電構造体含有フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の製造方法により得られる導電構造体含有フィルムを少なくとも2枚のガラスの間に挟みラミネートする工程(7)を含む、合わせガラスの製造方法。
【請求項13】
前記工程(7)において、前記導電構造体含有フィルムとガラスとの間に、少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟む、請求項12に記載の合わせガラスの製造方法。
【請求項14】
前記樹脂層(Y)が、前記熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれる熱可塑性樹脂と同一の熱可塑性樹脂を含む、請求項13に記載の合わせガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法に関する。また、本発明は、前記製造方法に基づいて得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルム、該フィルムから得られる導電構造体含有フィルムおよびその製造方法、該導電構造体含有フィルムを用いた合わせガラスおよび加熱部材、並びに該合わせガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物または乗物におけるガラスの着氷や曇りを除去する方法、例えば自動車用途においてはフロントガラス等の着氷や曇りを除去する方法が必要とされている。この解決策としてガラスに熱風を当てる方法が知られているが、この方法には十分な前方視認性を得るのに時間がかかる等の問題がある。特に着氷や曇りの除去にガソリン燃料の燃焼熱を利用できない電気自動車においては、電気で空気を加熱し、ガラスに熱風を当てる方法では効率が悪く、航続距離の低下に直結するといった問題がある。
【0003】
そこで、ガラスに設置した電熱線に通電することで着氷や曇りを除去する方法が提案されている。特許文献1には、2枚の透明なプレートと少なくとも1枚のシートAおよび少なくとも1枚のシートBとを接着して、導電構造体とを有する合わせガラスを製造する方法であって、シートAはポリビニルアセタールPAと可塑剤WAとを含有し、かつ導電構造体を有し、シートBはポリビニルアセタールPBと可塑剤WBとを含有する方法が記載されている。一方で特許文献2には、電磁波遮蔽を目的とする合わせガラスの製造方法であって、接着膜を介して金属箔を担体樹脂に貼り合わせて金属箔をエッチングにより金属メッシュとし、該金属メッシュの上から接着膜を介して第1のガラス板を貼り合わせ、その後担体樹脂を剥離して、担体樹脂の剥離面に接着膜を介して第2のガラス板を貼り合わせることを特徴とする合わせガラスの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-539905号公報
【文献】特開2000-119047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、シートAの厚みむらを極めて小さくする必要があり、またシートAの導電構造体を形成する面は、極めて平滑に仕上げておかないと、金属箔の接着むらによって、得られる導電構造体に断線が生じやすくなるため、高精度の製膜装置が必要となる。また、導電構造体を有するシートAを複数枚重ねたりロール状に巻き取ったりすると、重ね合った部分で導電構造体がシートAの導電構造体を持たない面にくっつきやすく、合わせガラスの作製前の段階で運搬したり保管したりすることが困難である。また、特許文献2に記載された製造方法では接着膜としてフィルムを用いているため、接着膜を介して金属箔を担体樹脂に貼り合わせる際に、金属箔と接着膜との間や接着膜と担体樹脂との間に気泡等の欠陥が生じやすい。また、予め接着膜を作製した後に、金属箔および担体樹脂と重ね合わせ加熱して接着するため、工程数が多くなるという課題もある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、高精度の製膜設備を必要とすることなく、導電構造体の変形や断線、および気泡等の欠点が少ない基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを、高い生産効率及び生産収率で製造し得る方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の課題は、上記製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルム、該フィルムから得られる導電構造体含有フィルム並びにその製造方法、該導電構造体含有フィルムを用いた合わせガラス並びに加熱部材、および該合わせガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を重ね、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]基材フィルムの片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(1);および該樹脂層(X)上に導電構造体を形成する工程(2);を含む、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[2]金属箔の片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(3);該樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする工程(4);および金属箔を加工して導電構造体を形成する工程(5);を含む、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[3]前記工程(1)または前記工程(3)において、熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布する方法が、熱可塑性樹脂組成物(A)を溶融して塗布する方法によるものである、前記[1]または[2]に記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[4]前記工程(1)または前記工程(3)において、熱可塑性樹脂組成物(A)を塗布する方法が、熱可塑性樹脂組成物(A)の溶液または分散液を塗布する方法によるものである、前記[1]または[2]に記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[5]前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[6]ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、前記ポリビニルアセタール樹脂の濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度が200mPa・sより大きい、前記[5]に記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[7]前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて0~20質量%の可塑剤を含む、前記[5]または[6]に記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[8]前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の総質量に基づいて80質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、前記[1]~[7]のいずれかに記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[9]前記導電構造体が少なくとも2本のバスバー構造を有する、前記[1]~[8]のいずれかに記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[10]前記導電構造体が少なくとも2本のバスバー構造の間に金属細線構造を有する、前記[9]に記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[11]前記工程(2)または前記工程(5)において、金属箔をエッチングして前記導電構造体を形成する、前記[1]~[10]のいずれかに記載の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの製造方法。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルム。
[13]前記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去する工程(6)を含む、導電構造体含有フィルムの製造方法。
[14]前記[13]に記載の製造方法により得られる、導電構造体含有フィルム。
[15]前記[13]に記載の製造方法により得られる導電構造体含有フィルムを少なくとも2枚のガラスの間に挟みラミネートする工程(7)を含む、合わせガラスの製造方法。
[16]前記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの基材フィルムを有さない面にガラスを重ねラミネートして積層体を得る工程(8)、および該積層体から基材フィルムを除去し、ガラスを有さない面にさらにガラスを重ねてラミネートする工程(9)を含む、合わせガラスの製造方法。
[17]前記工程(7)において、前記導電構造体含有フィルムとガラスとの間に、少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟む、前記[15]に記載の合わせガラスの製造方法。
[18]前記工程(8)において基材フィルム付き導電構造体含有フィルムとガラスとの間に、および/または前記工程(9)において基材フィルムを除去した後の積層体とガラスとの間に、少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟む、前記[16]に記載の合わせガラスの製造方法。
[19]前記樹脂層(Y)が、前記熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれる熱可塑性樹脂と同一の熱可塑性樹脂を含む、前記[17]または[18]に記載の合わせガラスの製造方法。
[20]前記[15]~[19]のいずれかに記載の製造方法により得られる合わせガラス。
[21]前記[14]に記載の導電構造体含有フィルムを用いた、加熱部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高精度の製膜設備を必要とすることなく、導電構造体の変形や断線、および気泡等の欠点が少ない基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを、高い生産効率及び生産収率で製造できる。また、該フィルムから得られる導電構造体含有フィルムが得られるほか、該導電構造体含有フィルムを用いて合わせガラスおよび加熱部材を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、基材フィルムの片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(A)(以下において、「樹脂組成物(A)」と略記することもある)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(1);および該樹脂層(X)上に導電構造体を形成する工程(2);を含む。また、本発明の製造方法の別の態様は、金属箔の片面に、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物(A)を塗布して樹脂層(X)を形成する工程(3);該樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする工程(4);および金属箔を加工して導電構造体を形成する工程(5);を含む。
本発明のこれらの製造方法により、基材フィルム/樹脂層(X)/導電構造体の積層構成を有する基材フィルム付き導電構造体含有フィルムが製造される。基材フィルム付き導電構造体含有フィルムにおいて、基材フィルムと樹脂層(X)、および樹脂層(X)と導電構造体は、互いに接合または一体化されている。
【0010】
<工程(1)、工程(3)>
<樹脂組成物(A)>
工程(1)および工程(3)で用いる樹脂組成物(A)は、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む。中でも、樹脂組成物(A)がポリビニルアセタール樹脂および/またはアイオノマー樹脂を含むことが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい。
【0011】
<ポリビニルアセタール樹脂>
樹脂組成物(A)がポリビニルアセタール樹脂を含む場合、樹脂組成物(A)中のポリビニルアセタール樹脂の含有量は、樹脂組成物(A)の総質量に基づいて50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。
【0012】
樹脂組成物(A)は、1種類のポリビニルアセタール樹脂を含んでいても、粘度平均重合度、アセタール化度、アセチル基量、水酸基量、エチレン含有量、アセタール化に用いられるアルデヒドの分子量、および鎖長のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含んでいてもよい。
【0013】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマー等のポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化によって製造される。例えば次の方法によって製造できるが、これに限定されない。まず、濃度3~30質量%のポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールコポリマーの水溶液を80~100℃の温度範囲で保持した後、10~60分かけて徐々に冷却する。温度が-10~30℃まで低下したところでアルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら30~300分間アセタール化反応を行う。次に、反応液を30~200分かけて20~80℃の温度まで昇温し、30~300分保持する。その後、反応液を、必要に応じて濾過した後、アルカリ等の中和剤を添加して中和し、濾過、水洗および乾燥することにより、ポリビニルアセタール樹脂が製造される。
【0014】
上記アセタール化反応に用いる酸触媒は特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれも使用できる。上記酸触媒としては、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸および塩酸等が挙げられる。中でも、酸の強度および洗浄時の除去のしやすさの観点から、塩酸、硫酸および硝酸が好ましい。
【0015】
ポリビニルアセタール樹脂の製造に使用されるアルデヒドは、2~10個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状または環状のアルデヒドであることが好ましく、2~10個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルデヒドであることがより好ましく、2~10個の炭素原子を有する直鎖状の脂肪族アルデヒドであることがさらに好ましく、n-ブチルアルデヒドであることが特に好ましい。上記アルデヒドを用いると、好適な破断エネルギーを有するポリビニルアセタール樹脂が得られやすい。n-ブチルアルデヒドの使用量は、アセタール化反応に使用するアルデヒドの総質量に対して50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。また、単独のアルデヒドを用いても、複数のアルデヒドの混合物を用いてもよい。
【0016】
ポリビニルアセタール樹脂の原料となるポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は100以上が好ましく、300以上がより好ましく、400以上がより好ましく、600以上がさらに好ましく、700以上が特に好ましく、750以上が最も好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度が上記下限値以上であると、合わせガラスの作製時に導電構造体の変形および断線が抑制されやすく、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象が防止されやすい。上記ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2500以下がさらに好ましく、2300以下が特に好ましく、2000以下が最も好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度が上記上限値以下であると良好な製膜性が得られやすい。ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、例えば、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定できる。
ポリビニルアセタール樹脂の好ましい粘度平均重合度は、原料となるポリビニルアルコール系樹脂の上記粘度平均重合度と同一である。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1種類のポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度が前記下限値以上かつ前記上限値以下であることが好ましい。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂の、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準としたアセチル基量、即ち、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準としたときの酢酸ビニル単位の含有量は、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.5~3モル%または5~8モル%である。原料のポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を適宜調整することにより、アセチル基量は前記範囲内に調整できる。アセチル基量はポリビニルアセタール樹脂の極性に影響を及ぼし、それによって樹脂層(X)の可塑剤相溶性および機械的強度が変化し得る。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1種類のポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が上記範囲内であることが好ましい。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は特に限定されないが、40~86モル%が好ましく、45~84モル%がより好ましく、50~82モル%がより好ましく、60~82モル%がさらに好ましく、68~82モル%が特に好ましい。本発明において「アセタール化度」とは、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準とした、アセタールを形成する上記単位の量である。ポリビニルアルコール系樹脂をアセタール化する際のアルデヒドの使用量を適宜調整することにより、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は前記範囲内に調整できる。上記アセタール化度が前記範囲内であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が低下しにくく、本発明の製造方法で得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの機械的強度が十分なものになりやすい。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1種類のポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が上記範囲内であることが好ましい。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂の、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準とした水酸基量、即ち、ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコール系樹脂中の主鎖の炭素2個からなる単位(例えば、ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位、エチレン単位等)を一繰返し単位とし、その一繰返し単位を基準としたビニルアルコール単位の含有量は、好ましくは6~26質量%、より好ましくは12~24質量%、より好ましくは15~22質量%、特に好ましくは18~21質量%であり、遮音性能を付与する目的の場合は好ましくは6~20質量%、より好ましくは8~18質量%、さらに好ましくは10~15質量%、特に好ましくは11~13質量%である。ポリビニルアルコール系樹脂をアセタール化する際のアルデヒドの使用量を調整することにより、水酸基量は前記範囲内に調整できる。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1種類のポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が上記範囲内であることが好ましい。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、通常、アセタール基単位、水酸基単位およびアセチル基単位から構成されており、これらの各単位量は、例えば、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」または核磁気共鳴法(NMR)によって測定できる。
【0021】
ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、前記ポリビニルアセタール樹脂の濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度は、好ましくは200mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s超、さらに好ましくは240mPa・s以上、特に好ましくは265mPa・s以上である。粘度平均重合度の高いポリビニルアルコール系樹脂を原料または原料の一部として用いて製造したポリビニルアセタール樹脂を使用または併用することにより、ポリビニルアセタール樹脂の前記粘度を前記下限値以上に調整できる。樹脂組成物(A)が複数のポリビニルアセタール樹脂の混合物からなる場合、かかる混合物の前記粘度が前記下限値以上であることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の前記粘度が前記下限値以上であると、合わせガラスの作製時に導電構造体の変形および断線が抑制されやすく、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象が防止されやすい。前記粘度は、良好な製膜性が得られやすい観点から、好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは800mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下、特に好ましくは450mPa・s以下、最も好ましくは400mPa・s以下である。
【0022】
<可塑剤>
樹脂組成物(A)は、樹脂組成物(A)の総質量に基づいて0~20質量%の可塑剤を含むことが好ましい。樹脂組成物(A)中の可塑剤の含有量はより好ましくは0~19質量%、さらに好ましくは0~15質量%、特に好ましくは0~10質量%、最も好ましくは0~5質量%である。可塑剤の含有量が前記範囲内であると、本発明の基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去した後の導電構造体含有フィルムが取扱い性に優れる傾向にあり、該導電構造体含有フィルムを用いた合わせガラスの作製時に導電構造体の変形および断線が抑制されやすく、その結果、良好な通電性が得られやすい。
【0023】
可塑剤としては例えば下記の化合物が挙げられる。可塑剤は1種類を単独で使用しても複数種を使用してもよい。
・多価の脂肪族または芳香族酸のエステル。例えば、ジアルキルアジペート(例えば、ジヘキシルアジペート、ジ-2-エチルブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペート、ノニルアジペート、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート);アジピン酸とアルコール若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル(例えば、ジ(ブトキシエチル)アジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート);ジアルキルセバケート(例えば、ジブチルセバケート);セバシン酸と脂環式若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル;フタル酸のエステル(例えば、ブチルベンジルフタレート、ビス-2-ブトキシエチルフタレート);および脂環式多価カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル)が挙げられる。
・多価の脂肪族若しくは芳香族アルコールまたは1つ以上の脂肪族若しくは芳香族置換基を有するオリゴエーテルグリコールのエステルまたはエーテル。例えば、グリセリン、ジグリコール、トリグリコール、テトラグリコール等と、直鎖状若しくは分岐状の脂肪族若しくは脂環式カルボン酸とのエステルが挙げられる。さらに具体的には、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノエート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジプロピレングリコールベンゾエートが挙げられる。
・脂肪族または芳香族のエステルアルコールのリン酸エステル。例えば、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェート、およびトリクレジルホスフェートが挙げられる。
・クエン酸、コハク酸および/またはフマル酸のエステル。
・多価アルコールと多価カルボン酸とからなるポリエステルまたはオリゴエステル。末端はヒドロキシ基またはカルボキシル基であっても、エステル化若しくはエーテル化されていてもよい。
・ラクトン若しくはヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルまたはオリゴエステル。末端はヒドロキシ基またはカルボキシル基であっても、エステル化若しくはエーテル化されていてもよい。
【0024】
<アイオノマー樹脂>
樹脂組成物(A)がアイオノマー樹脂を含む場合、樹脂組成物(A)中のアイオノマー樹脂の含有量は、樹脂組成物(A)の総質量に基づいて50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。樹脂組成物(A)は、1種類のアイオノマー樹脂を含んでいてもよく、α,β-不飽和カルボン酸の種類、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有割合、中和のための金属イオンの種類、α-オレフィンの種類、α-オレフィンの構成単位の含有割合、α,β-不飽和カルボン酸のエステルなどに代表されるその他の共重合可能なモノマーの種類およびその含有割合等のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2種類以上のアイオノマー樹脂を含んでいてもよい。
【0025】
上記アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレン由来の構成単位およびα,β-不飽和カルボン酸由来の構成単位を有し、α,β-不飽和カルボン酸の少なくとも一部が金属イオンによって中和された樹脂が挙げられる。金属イオンとしては、例えばナトリウムイオンやマグネシウムイオンが挙げられる。ベースポリマーとなる、即ち金属イオンによって中和される前の、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体において、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有割合は2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のアイオノマー樹脂を含む場合、少なくとも1種類のアイオノマー樹脂について、上記したα,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有割合が上記下限値と上記上限値との範囲内であることが好ましい。アイオノマー樹脂を構成するα,β-不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などが挙げられ、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。入手のしやすさの点から、アイオノマー樹脂としては、エチレン-アクリル酸共重合体またはエチレン-メタクリル酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部がナトリウムまたはマグネシウムイオンで中和された樹脂が特に好ましい。
【0026】
<エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂>
樹脂組成物(A)がエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含む場合、樹脂組成物(A)中のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂の含有量は、樹脂組成物(A)の総質量に基づいて50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。樹脂組成物(A)は、1種類のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含んでいてもよく、酢酸ビニル構成単位の含有割合、その他の共重合可能なモノマー、例えば酢酸ビニル以外のビニルエステルや炭素数3以上のα-オレフィンなどの種類およびその含有割合等のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2種類以上のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含んでいてもよい。
【0027】
上記エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂において、エチレン単量体および酢酸ビニル単量体の合計に対する酢酸ビニル単量体の割合は50モル%未満が好ましく、30モル%未満がより好ましく、20モル%未満がさらに好ましく、15モル%未満が特に好ましい。エチレン単量体および酢酸ビニル単量体の合計に対する酢酸ビニル単量体の割合が上記上限値未満、例えば50モル%未満であると、機械的強度と柔軟性がバランスよく発現される傾向にある。エチレン単量体および酢酸ビニル単量体の合計に対する酢酸ビニル単量体の割合は、1モル%以上であってもよく、3モル%以上であってもよく、7モル%以上であってもよい。樹脂組成物(A)が異なる2種類以上のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含む場合、少なくとも1種類のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂について、上記した酢酸ビニル単量体の割合が上記した上限値と下限値との範囲内であることが好ましい。
【0028】
<添加剤>
樹脂組成物(A)は、水、紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着調整剤、増白剤若しくは蛍光増白剤、安定剤、色素、顔料、加工助剤、有機若しくは無機ナノ粒子、焼成ケイ酸、表面活性剤等の可塑剤以外の添加剤を含んでいてもよい。樹脂層(X)上に形成された導電構造体の腐食を抑制するために、樹脂組成物(A)が腐食防止剤を含有してもよい。樹脂組成物(A)中の腐食防止剤の含有量は、樹脂組成物(A)の総質量に基づいて、好ましくは0.005~5質量%である。腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物または置換基を有するベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。
【0029】
<樹脂層(X)>
樹脂層(X)は、樹脂組成物(A)を基材フィルムまたは金属箔の片面に塗布する方法により形成される。かかる方法を採用することにより、樹脂組成物(A)からなるフィルムと基材フィルムまたは金属箔とをラミネートする方法に比べ、樹脂組成物(A)を製膜する工程が不要なため生産性が高く、また樹脂層(X)と基材フィルムとの間および樹脂層(X)と金属箔との間に気泡等の欠陥が生じにくい。樹脂組成物(A)を基材フィルムまたは金属箔の片面にコートする方法は特に限定されないが、樹脂組成物(A)を溶融して塗布する方法、または樹脂組成物(A)の溶液または分散液を塗布する方法が好ましい。
【0030】
樹脂組成物(A)を溶融して塗布する方法としては、樹脂組成物(A)を均一に混練し溶融物とした後、基材フィルムまたは金属箔の片面に溶融物を押出する方法、またはナイフで溶融物を塗布する方法;樹脂組成物(A)を基材フィルムまたは金属箔の片面に吹き付け塗装してこれを溶融させる方法;などの公知の方法が採用できる。
【0031】
樹脂組成物(A)の溶液または分散液を塗布する方法としては、樹脂組成物(A)を溶媒に溶解または均一に分散させ、得られた溶液または分散液を、基材フィルムまたは金属箔の片面に塗布または吹き付け塗工し、必要に応じて溶媒を除去する方法など、公知の方法が挙げられる。
【0032】
樹脂組成物(A)を溶解または分散させる際に使用する溶媒は特に制限されず、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル等の酢酸エステル;メチレンクロライド、プロピレンクロライド、エチレンクロライド、クロロホルム等の塩化物;ジメチルスルホキシド、酢酸、テルピネオール、ブチルカルビトール等が挙げられる。中でも、樹脂組成物(A)がポリビニルアセタール樹脂を含む場合には、溶媒除去の容易性と樹脂の溶解性の観点から、エタノール、プロパノール、ブタノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等の低級アルコールが好ましい。また、これらの2種以上を併用してもよいし、製膜性を損なわない範囲で、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの上述した溶媒以外の溶媒を併用してもよい。さらに、ポリビニルアセタール樹脂に用いられる前述の可塑剤を含んでいてもよい。一方、樹脂組成物(A)がアイオノマー樹脂またはエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含む場合は、トルエン、キシレン、ベンゼン、トリクレン、四塩化炭素、ミネラルスピリット、テトラヒドロフラン等が好ましい。上記溶液または分散液における樹脂組成物(A)の濃度は特に制限されないが、溶液または分散液の総質量に対して5~30質量%が好ましく、8~20質量%がより好ましい。
【0033】
上述の樹脂組成物(A)を基材フィルムまたは金属箔の片面に塗布する方法の中でも、特に押出機を用いて溶融した樹脂組成物(A)を塗布する方法が好適に採用される。この場合、押出時の樹脂組成物(A)の温度は、樹脂組成物(A)が溶融する温度である限り特に制限されないが、例えば樹脂組成物(A)がポリビニルアセタール樹脂を含む場合、押出時の樹脂組成物(A)の温度は150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎるとポリビニルアセタール樹脂が分解を起こし、揮発性物質の含有量が多くなる。一方で温度が低すぎる場合にも、揮発性物質の含有量は多くなる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から、減圧により揮発性物質を除去することが好ましい。
【0034】
<厚さ>
上記工程(1)および上記工程(3)における樹脂層(X)の厚さは好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上である。樹脂層(X)の厚さが前記値以上であると、樹脂層(X)の収縮または変形に起因する導電構造体の歪等が生じにくい。樹脂層(X)の厚さは好ましくは350μm以下、より好ましくは330μm以下、より好ましくは270μm以下、さらに好ましくは250μm以下、特に好ましくは150μm以下、最も好ましくは100μm以下である。樹脂層(X)の厚さが前記値以下であると、後述する、ポリビニルアセタール樹脂および可塑剤を含む樹脂層(Y)を積層する場合に、樹脂層(Y)から樹脂層(X)への可塑剤移行量が少なくなり、樹脂層(Y)中の可塑剤量の低下が抑制されるため、導電構造体含有フィルムを用いた乗物用合わせガラスの頭部衝撃指数が小さくなりやすい。樹脂層(X)の厚さは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0035】
<基材フィルム>
本発明に用いられる基材フィルムを構成する樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂;ポリイミド樹脂;トリアセチルクロライド(TAC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)などが使用できる。上記基材フィルムは樹脂層(X)との適度な接着性を有していること、具体的には、工程(2)においては樹脂層(X)から剥がれず、かつ合わせガラス作製などに使用される際には樹脂層(X)から剥離させるなどの手段により除去可能であり、加熱時や工程(2)における各種薬剤との接触時にも収縮等による変形などを起こさないものであることが好ましい。かかる観点から、基材フィルムを構成する樹脂はポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂が好ましく、PETが特に好ましい。基材フィルムの厚さは、コストと強度の観点から、10~250μmが好ましく、20~150μmがより好ましく、30~100μmが特に好ましい。
【0036】
<金属箔>
工程(3)で用いる金属箔は導電性を有する金属を含む限り特に限定されず、例えば銅箔、銀箔が挙げられ、中でも銅箔が好ましい。
【0037】
<工程(4)>
本発明の製造方法の一態様は、金属箔の片面に樹脂層(X)を形成する前記工程(3)後、該樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする工程(4)を含む。樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする方法は特に制限されないが、樹脂層(X)が溶融する温度以上の温度で、圧着ロール、加熱ロール、プレス機、真空ラミネーターなどを用いてラミネートする公知の方法が挙げられる。中でも、生産性の高いロール・トゥ・ロール方式に適用しやすい圧着ロールを用いる方法が特に好ましい。圧着ロールを用いる方法において、圧着時の樹脂層(X)の温度は樹脂組成物(A)のガラス転移温度(Tg)以上が好ましく、Tg+30℃以上がより好ましく、Tg+50℃以上がさらに好ましく、Tg+70℃以上が特に好ましい。圧着時の樹脂層(X)の温度の上限値は特に制限されない。圧着時の樹脂層(X)の温度は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下が特に好ましい。圧着時の樹脂層(X)の温度が上記下限値より高いと、金属箔と樹脂層(X)との間の接着力および樹脂層(X)と基材フィルムとの間の接着力が十分となりやすく、上記上限値より低いと、樹脂層(X)の熱分解や発泡、および樹脂組成物(A)の流出による樹脂層(X)の厚みの低下などの問題が生じにくい。また、加熱ロールを用いる方法において、加熱ロールの表面温度の下限値は、圧着ロールを用いる方法における樹脂層(X)の好ましい温度として上述した温度よりも高いことが好ましく、かかる温度より10℃以上高いことがより好ましく、かかる温度より20℃以上高いことが特に好ましい。
【0038】
工程(4)で用いる基材フィルムの好ましい態様は、前述した工程(1)で用いる基材フィルムの好ましい態様と同様である。工程(4)で用いる基材フィルムが存在することにより、後述の工程(5)(金属箔を加工して導電構造体を形成する工程)においてシワの発生を抑制できる。また、工程(4)で用いる基材フィルムが存在することにより、後述の工程(5)の後にロール状にする際に、導電構造体が樹脂層(X)の導電構造体を有さない側と接触するのを防ぐことができる。
【0039】
工程(3)および工程(4)は同時に行ってもよい。工程(3)と工程(4)を同時に行う方法としては、基材フィルムと金属箔の間に樹脂組成物(A)の溶融物、溶液または分散液を挿入する方法が挙げられる。
【0040】
<工程(5)>
本発明の製造方法の一態様は、金属箔の片面に樹脂層(X)を形成する前記工程(3)、および該樹脂層(X)に基材フィルムをラミネートする工程(4)後に、金属箔を加工して導電構造体を形成する工程(5)を含む。金属箔を加工して導電構造体を形成する方法に特に制限はないが、例えば金属箔をエッチングして導電構造体を形成する方法が挙げられる。より具体的には、工程(3)および工程(4)により得られた金属箔/樹脂層(X)/基材フィルムからなる積層フィルムの金属箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成し、次いで、エッチング抵抗パターンが付与された積層フィルムを銅エッチング液に浸漬して導電構造体を形成した後、公知の方法により残存するフォトレジスト層を除去することによって導電構造体を形成する方法が挙げられる。上記金属箔をエッチングして導電構造体を形成する方法は、所望の形状の導電構造体を簡便かつ容易に、効率的に形成できる。
【0041】
<工程(2)>
本発明の製造方法の別の態様は、基材フィルムの片面に樹脂層(X)を形成する工程(1)後に、該樹脂層(X)上に導電構造体を形成する工程(2)を含む。樹脂層(X)上に導電構造体を形成する方法に特に制限はないが、(i)樹脂層(X)上に金属箔をラミネートし、上述の方法により金属箔をエッチングして導電構造体を形成する方法;(ii)樹脂層(X)上に蒸着等により金属層を形成し、上述の方法により金属箔をエッチングして導電構造体を形成する方法;(iii)樹脂層(X)上に導電ペーストを印刷して導電構造体を形成する方法;(iv)樹脂層(X)上に金属ワイヤーを配置する方法;等が挙げられる。中でも、前方視認性に優れる合わせガラスの作製に適する基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを製造する観点から、(i)および(ii)の方法が好ましく、製造コストの観点から(i)の方法がより好ましい。(i)の方法で用いる金属箔の好ましい態様は、前述した工程(3)で用いる金属箔の好ましい態様と同様である。(i)の方法における金属箔をラミネートする方法は特に制限されず、樹脂層(X)が溶融する温度以上の温度で、圧着ロール、加熱ロール、プレス機、真空ラミネーターなどを用いてラミネートする公知の方法を適用できる。圧着ロールを用いる方法における圧着時の樹脂層(X)の好ましい温度、および加熱ロールを用いる方法における加熱ロールの好ましい表面温度は、工程(4)の好ましい態様として上述した温度と同様である。
【0042】
<導電構造体>
工程(2)および工程(5)において形成された導電構造体の厚さは、光の反射低減および必要な発熱量が得られやすい観点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~20μm、さらに好ましくは3~15μm、特に好ましくは3~12μmである。導電構造体の厚さは、厚み計またはレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0043】
導電構造体は、エッチングの容易性および入手容易性の観点から、好ましくは銅または銀で構成される。
【0044】
導電構造体は、少なくとも2本のバスバー構造を有することが好ましい。バスバー構造を形成する方法としては、金属箔テープ、導電性粘着剤付き金属箔テープ、導電ペースト等の当技術分野において通常使用されているバスバーを用いる方法;上述の方法により金属箔をエッチングして導電構造体を形成する際に金属箔の一部を残すことによりバスバーを形成する方法;が挙げられる。少なくとも2本のバスバーに給電線をそれぞれ接続し、各給電線を電源に接続することで、電流を導電構造体に供給できる。
【0045】
導電構造体は、上記少なくとも2本のバスバー構造の間に金属細線構造を有することが好ましい。本明細書において金属細線構造とは、線幅が1~100μmである導電構造体を意味する。金属細線構造の線幅は好ましくは1~30μm、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは3~12μm、特に好ましくは3~9μmである。導電構造体の線幅が前記範囲内であると、十分な発熱量が確保されやすく、かつ所望の前方視認性が得られやすい。
【0046】
本発明の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムも本発明のひとつである。
【0047】
<工程(6)、基材フィルムの除去>
上述の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去する工程(6)を含む、基材フィルムを有さない導電構造体含有フィルム(以下、単に「導電構造体含有フィルム」と称する)の製造方法も本発明のひとつである。また、かかる製造方法により得られる導電構造体含有フィルムも本発明のひとつである。本発明の製造方法により得られる基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去する方法に特に制限はなく、基材フィルムと樹脂層(X)との界面で機械的に剥離する方法等が挙げられる。
【0048】
<合わせガラス>
本発明の製造方法により得られた基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを用いて合わせガラスを製造する方法、およびかかる製造方法により得られる合わせガラスも、本発明のひとつである。基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを用いた合わせガラスの製造方法としては、例えば(i)基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去した導電構造体含有フィルムを少なくとも2枚のガラスの間に挟みラミネートする工程(7)を含む製造方法;(ii)基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの基材フィルムを有さない面にガラスを重ねラミネートして積層体を得る工程(8)、および該積層体から基材フィルムを除去し、ガラスを有さない面にさらにガラスを重ねてラミネートする工程(9)を含む製造方法;(iii)基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを少なくとも2枚のガラスの間にラミネートする工程を含む製造方法;(iv)基材フィルムとしてPET等の有機ガラスを用い、基材フィルム付き導電構造体含有フィルムの導電構造体を有する面に必要に応じて別の層を介した上でさらにガラスを載せてラミネートする方法;等が挙げられる。中でも、得られる合わせガラスの透明性の観点から(i)の製造方法または(ii)の製造方法が好ましい。
【0049】
前記ガラスは、透明性、耐候性および機械的強度の観点から、無機ガラス;メタクリル樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート、ポリスチレン系樹脂シート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂シート、ポリシクロオレフィン系樹脂シート等の有機ガラス;が好ましい。中でも、無機ガラス、メタクリル樹脂シートまたはポリカーボネート樹脂シートが好ましく、無機ガラスが特に好ましい。無機ガラスとしては特に制限されないが、フロートガラス、強化ガラス、半強化ガラス、化学強化ガラス、グリーンガラスまたは石英ガラス等が挙げられる。
【0050】
前記合わせガラスの製造方法において、少なくとも2枚のガラスの間にさらに少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟んでもよい。具体的には、前記工程(7)において、導電構造体含有フィルムとガラスとの間に少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟んでもよく、前記工程(8)において基材フィルム付き導電構造体含有フィルムとガラスとの間に、および/または前記工程(9)において基材フィルムを除去した後の積層体とガラスとの間に、少なくとも1層の樹脂層(Y)を挟んでもよい。
【0051】
樹脂層(Y)は、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、少なくとも1種のポリビニルアセタール樹脂を含むことがより好ましい。また、樹脂層(X)との接着性、および樹脂層(X)との接着界面での光の反射や屈折などを起こしにくくする観点からは、樹脂組成物(A)に含まれる熱可塑性樹脂と同一の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0052】
樹脂層(Y)が少なくとも1種のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、該ポリビニルアセタール樹脂の、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準としたアセチル基量は特に限定されないが、好ましくは0.1~20モル%、より好ましくは0.5~3モル%または5~8モル%である。該ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は特に限定されないが、好ましくは40~86モル%、より好ましくは45~84モル%、さらに好ましくは50~82モル%、特に好ましくは60~82モル%、最も好ましくは68~82モル%である。該ポリビニルアセタール樹脂の、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準とした水酸基量は特に限定されないが、好ましくは6~26質量%、より好ましくは12~24質量%、より好ましくは15~22質量%、特に好ましくは18~21質量%であり、遮音性能に優れる合わせガラスを得る観点からは好ましくは6~20質量%、より好ましくは8~18質量%、さらに好ましくは10~15質量%、特に好ましくは11~13質量%である。ここで、上記のアセチル基量、アセタール化度および水酸基量は、先の<ポリビニルアセタール樹脂>の段落において述べた意味と同じ意味を有する。樹脂層(Y)が異なる2種類以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1種類のポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量、アセタール化度および水酸基量が上記範囲内であることが好ましい。
【0053】
樹脂層(Y)は可塑剤を含有することが好ましい。樹脂層(Y)中の可塑剤の含有量は、耐衝撃性に優れる合わせガラスを得る観点からは、樹脂層(Y)の総質量に基づいて、好ましくは16.0質量%以上、より好ましくは16.1~36.0質量%、さらに好ましくは22.0~32.0質量%、特に好ましくは26.0~30.0質量%であり、遮音性能に優れる合わせガラスを得る観点からは、好ましくは30質量%以上、より好ましくは30~50質量%、さらに好ましくは31~40質量%、特に好ましくは32~35質量%である。可塑剤としては、例えば、<可塑剤>の段落において上述した可塑剤が挙げられる。
【0054】
樹脂層(Y)の製造方法は特に限定されず、樹脂層(Y)を構成する樹脂組成物を均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等、公知の製膜方法により作製したフィルムを用いることができる。また、市販の合わせガラス用中間膜を用いてもよい。
【0055】
上記基材フィルム付き導電構造体含有フィルムを用いた合わせガラスの製造方法においてラミネートする方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。例えば、工程(7)において、ガラスの上に基材フィルム付き導電構造体含有フィルムから基材フィルムを除去した導電構造体含有フィルムおよび任意の枚数の樹脂層(Y)を重ねて配置し、その上にさらにガラスを重ねたものを、予備圧着工程として温度を高めることで導電構造体含有フィルムおよび樹脂層(Y)をガラスに全面または局所的に融着させ、次いでオートクレーブで処理することでラミネートできる。また、前記導電構造体含有フィルムおよび任意の枚数の樹脂層(Y)をあらかじめ接着させた上で少なくとも2枚のガラスの間に配置して高温で互いに融着させることによりラミネートしてもよい。
【0056】
上記予備圧着工程としては、過剰の空気を除去したり隣接する層同士の軽い接合を実施したりする観点から、バキュームバッグ、バキュームリング、真空ラミネーター等の方法により減圧下に脱気する方法;ニップロールを用いて脱気する方法;高温下に圧縮成形する方法;等が挙げられる。例えば、EP 1235683 B1に記載されたバキュームバッグ法またはバキュームリング法により、約2×10Paおよび130~145℃の条件で脱気する方法が挙げられる。真空ラミネーターは、加熱可能かつ真空可能なチャンバーからなり、このチャンバーにおいて、約20分~約60分の時間内に積層体(合わせガラス)が形成される。通常は1Pa~3×10Paの減圧および100℃~200℃、特に130℃~160℃の温度が有効である。真空ラミネーターを用いる場合、温度および圧力に応じて、オートクレーブでの処理を行わなくてもよい。オートクレーブでの処理は、例えば約1×10Pa~約1.5×10Paの圧力および約100℃~約145℃の温度で20分間~2時間程度実施される。
【0057】
自動車のフロントガラスは、ガラスの上部がいわゆるカラーシェード領域を有することも多い。そのため、樹脂層(X)および/または樹脂層(Y)は、相応に着色されたポリマー溶融物と一緒に押出されるか、または樹脂層(X)および樹脂層(Y)のうちの少なくとも1つが部分的に異なる着色を有していてよい。
【0058】
樹脂層(Y)は、くさび形の厚さプロファイルを有していてもよい。これにより、本発明の積層体は、樹脂層(X)の厚さプロファイルが平行平面である場合でも、くさび形の厚さプロファイルを有することができ、自動車用フロントガラスにおいてヘッドアップディスプレイ(HUD)に使用できる。
【0059】
本発明の合わせガラスは、建物または乗物における合わせガラスとして使用できる。例えば、汽車、電車、自動車、船舶、航空機等のフロントガラス、リアガラス、ルーフガラス、サイドガラス等に使用できる。
【0060】
本発明の製造方法により得られた基材フィルム付き導電構造体含有フィルムは、合わせガラスの他に、鏡、カーブミラー、信号機、交通標識などの着雪対策や防曇対策のための加熱部材;自動車用窓ガラスにおけるカメラやセンサーなどの誤作動防止のための加熱部材;電磁波送受信、センサー、電磁波シールド、タッチパネル、防犯ガラス、ディスプレイなどに使用する機能性部材;等においても使用できる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0062】
<熱可塑性樹脂組成物(A)>
表1に示すポリビニルブチラール(PVB)樹脂を表2に記載の質量比で混合し、熱可塑性樹脂組成物(A)を得た。ブルックフィールド型(B型)粘度計を用いて20℃、30rpmで測定された、熱可塑性樹脂組成物(A)の濃度10質量%のトルエン/エタノール=1/1(質量比)溶液の粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
<導電構造体の状態の評価>
実施例および比較例で得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態を、ルーペで目視観察し、配線の変形および断線の有無を下記基準で評価した。
A 変形および断線は認められなかった。
B 部分的に変形は認められたが、断線は認められなかった。
C 僅かに断線が認められた。
D 一部に重大な断線がみられた。
E 断線が顕著であった。
【0066】
[製造例1および2]
<ポリビニルブチラール樹脂フィルムの作製>
表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIを、Tダイを備えた押出機を用いてダイ温度220℃で製膜し、ポリビニルブチラール樹脂フィルムを作製した。当該フィルムを、製造例1では平均厚さ約50μmに調整し、製造例2では平均厚さ約52μmに調整した。
【0067】
[実施例1]
<工程(1)>
表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIをエタノールに溶解し、12質量%の溶液を調製した。得られた溶液を、コンマ方式(ナイフコート方式の一種)の小型塗工試験機を用いて、ロールから巻き出した厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、乾燥ゾーンで50~120℃の熱風により溶媒(エタノール)を除去した後、A4サイズに切り取って、真空乾燥(50℃、12時間)を行い、PETフィルムの片面に樹脂層(X)を形成した。樹脂層(X)の厚さは32μmであった。
<工程(2)>
工程(1)で得られた樹脂層(X)の上に、片面が黒化処理された厚さ7μmの銅箔を、黒化処理面と樹脂層(X)とが接するような向きで重ね、真空ラミネーターを用いて140℃で15分間減圧(5kPa)し、上チャンバーを常圧に戻し3分間加圧して接着し、基材フィルム/樹脂層(X)/銅箔の積層構成からなる積層体(A)を得た。得られた積層体(A)の銅箔上に、ドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成した。次に銅エッチング液に浸漬して導電構造体を形成した後、常法により、残存するフォトレジスト層を除去し、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(a)を得た。導電構造体は、線幅7μmの銅線が500μm間隔で波線状に並んだ構造を有し、その各波線の両端が、10cmの間隔で設けられた長さ11cm幅5mmの2本のバスバー構造と接続された構造を有していた。また、導電構造体の断線は見られなかった。
<合わせガラスの作製(工程(6)、工程(7))>
得られた基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(a)を、導電構造体の端部から0.5cm程度外側(縦12cm、横12cm)で切り出した。続いてPETフィルムを剥離除去し、得られた導電構造体含有フィルム(a’)を縦15cm、横15cm、厚さ3mmのガラスの上に配置した。このとき、導電構造体含有フィルム(a’)の導電構造体を有さない面がガラスと接する向きで、かつ導電構造体がガラスの中央付近にくるように配置した。次に、導電構造体の両端部にある各々のバスバー(5mm幅銅線)に、電極(導電性粘着剤付き銅箔テープ)を、ガラスから外へ各電極端部がはみ出すように貼り付けた。その上に、樹脂層(Y)としての縦15cm、横15cm、厚さ0.76mmの自動車フロントガラス用(合わせガラス用)中間膜〔ポリビニルブチラール樹脂(水酸基量20.0質量%、原料としたポリビニルアルコールの粘度平均重合度1700)含有量72質量%、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)(以下、3GOと称する)含有量28質量%〕1枚を重ね、さらに縦15cm、横15cm、厚さ3mmのガラスを重ねて配置した。これを真空バッグに入れ、真空ポンプを用いて室温で15分間減圧した後、減圧したまま100℃で60分間加熱した。降温後、常圧に戻し、プレラミネート後の合わせガラスを取り出した。その後、これをオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理し、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0068】
[実施例2]
実施例1の<合わせガラスの作製(工程(7))>において樹脂層(Y)としての縦15cm、横15cm、厚さ0.76mmの自動車フロントガラス用中間膜1枚を配置した代わりに、導電構造体含有フィルム(a’)の両面に、樹脂層(Y)としての縦15cm、横15cm、厚さ0.38mmの自動車フロントガラス用中間膜〔ポリビニルブチラール樹脂(水酸基量20.0質量%、原料としたポリビニルアルコールの粘度平均重合度1700)含有量72質量%、3GO含有量28質量%〕を1枚ずつ配置したこと以外は実施例1と同様にして、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0069】
[実施例3]
樹脂層(X)の厚さを20μmとしたこと以外は実施例1と同様にして工程(1)および工程(2)を行い、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(b)を得た。
<工程(8)>
基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(b)を、導電構造体の端部から2cm程度外側(縦15cm、横15cm)で切り出し、導電構造体の両端部にある各々のバスバー(5mm幅銅線)に、電極(導電性粘着剤付き銅箔テープ)を、外へ各電極端部がはみ出すように貼り付けた。次に、縦15cm、横15cm、厚さ3mmのガラスの上に、製造例1で作製したポリビニルブチラール樹脂フィルムを縦15cm、横15cmに切り出して重ね、その上に、上記で得られた電極を貼り付けた基材フィルム付き導電構造体フィルム(b)を、PETフィルムが最外層となるように重ねた。これを真空バッグに入れ、真空ポンプを用いて室温で15分間減圧にした後、減圧したまま100℃で60分間加熱し、降温後、常圧に戻した。
<工程(9)>
次いで、PETフィルムを剥離除去し、PETフィルムが接着していた面に、樹脂層(Y)としての縦15cm、横15cm、厚さ0.76mmの自動車フロントガラス用中間膜〔ポリビニルブチラール樹脂(水酸基量20.0質量%、原料としたポリビニルアルコールの粘度平均重合度1700)含有量72質量%、3GO含有量28質量%〕1枚を重ね、さらに縦15cm、横15cm、厚さ3mmのガラスを重ねて配置した。これを真空バッグに入れ、真空ポンプを用いて室温で15分間減圧にした後、減圧したまま100℃で60分間加熱した。降温後、常圧に戻し、プレラミネート後の合わせガラスを取り出した。その後、これをオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理し、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0070】
[実施例4]
実施例3の<工程(8)>において使用した製造例1で作製したポリビニルブチラール樹脂フィルム、および<工程(9)>で使用した厚さ0.76mmの自動車フロントガラス用中間膜の代わりに、厚さ0.38mmの自動車フロントガラス用中間膜〔ポリビニルブチラール樹脂(水酸基量20.0質量%、原料としたポリビニルアルコールの粘度平均重合度1700)含有量72質量%、3GO含有量28質量%〕をそれぞれ用いたこと以外は実施例3と同様にして、合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0071】
[実施例5]
実施例1の<工程(2)>において真空ラミネーターを用いて140℃で15分間減圧(5kPa)し、上チャンバーを常圧に戻し3分間加圧して接着した代わりに、140℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させて接着したこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(c)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0072】
[実施例6]
熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIの代わりに熱可塑性樹脂組成物(A)-IVを用いたこと、および熱可塑性樹脂組成物(A)のエタノール溶液の濃度を12質量%に代えて10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(d)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0073】
[実施例7]
熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIの代わりに熱可塑性樹脂組成物(A)-Iを用いたこと、および熱可塑性樹脂組成物(A)のエタノール溶液の濃度を12質量%に代えて15質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(e)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に部分的に変形は認められたものの、断線は認められなかった。
【0074】
[実施例8]
熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIの代わりに熱可塑性樹脂組成物(A)-Vを用いたこと、および熱可塑性樹脂組成物(A)のエタノール溶液の濃度を12質量%に代えて8質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(f)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に部分的に変形は認められたものの、断線は認められなかった。
【0075】
[実施例9]
<工程(3)>
表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIをエタノールに溶解し、12質量%の溶液を作製した。得られた溶液をコンマ方式(ナイフコート方式の一種)の小型塗工試験機を用いて、片面が黒化処理された厚さ7μmの銅箔の黒化処理面に塗布し、乾燥ゾーンで50~120℃の熱風により溶媒を除去した後、A4サイズに切り取って、真空乾燥(50℃、12時間)を行い、銅箔の片面に樹脂層(X)を形成した。樹脂層(X)の厚さは31μmであった。
<工程(4)>
工程(3)で得られた樹脂層(X)の銅箔を有さない面に、厚さ50μmのPETフィルムを重ね、真空ラミネーターを用いて140℃で15分減圧(5kPa)し、上チャンバーを常圧に戻し3分加圧して接着し、銅箔/樹脂層(X)/PETフィルムの積層構成からなる積層体(G)を得た。
<工程(5)>
得られた積層体(G)の銅箔上に、ドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いてエッチング抵抗パターンを形成した。次に銅エッチング液に浸漬して導電構造体を形成した後、常法により、残存するフォトレジスト層を除去し、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(g)を得た。導電構造体は、線幅7μmの銅線が500μm間隔で波線状に並んだ構造を有し、その各波線の両端が、10cmの間隔で設けられた長さ11cm幅5mmの2本のバスバー構造と接続された構造を有していた。また、導電構造体の断線は見られなかった。
次に、実施例1の<合わせガラスの作製(工程(6)、工程(7))>と同様にして、導電構造体含有フィルムおよび合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0076】
[比較例1]
厚さ50μmのPETフィルムと厚さ7μmの銅箔の黒化面の間に、製造例2で得られた厚さ52μmのポリビニルブチラール樹脂フィルムを挟み、真空ラミネーターを用いて140℃でラミネートして、基材フィルムと銅箔を備えたポリビニルブチラール樹脂フィルム(H)を得た。
次に、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(c)の代わりに前記ポリビニルブチラール樹脂フィルム(H)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(h)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラス中の導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体の一部に導電細線がはがれたような断線がみられた。
【0077】
[実施例10]
<工程(3)>
100質量部の表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-Iに対し、酸化防止剤としてのTINUVIN326(BASF製)を0.15質量部、紫外線(UV)吸収剤としてのトリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)を0.04質量部、並びに接着調整剤としての酢酸マグネシウム・4水和物0.03質量部および酢酸カリウム0.02質量部を添加して混合した。得られた混合物を、押出機(ダイ設定温度:240℃)を用いて、ロールから巻き出した、片面が黒化処理された厚さ7μm、幅30cmの銅箔の黒化処理面上に押出して塗布し、銅箔の片面に樹脂層(X)を形成した。樹脂層(X)の厚さは35μmであった。
なお、本実施例10では、樹脂層(X)を構成する材料として、表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-Iに対して、酸化防止剤などの添加剤が添加された混合物を使用した。この場合は当該混合物が、本発明における熱可塑性樹脂組成物(A)となる。後述の実施例11~13および比較例2~3においても同様である。
<工程(4)>
工程(3)で得られた樹脂層(X)の銅箔を有さない面の上に、厚さ50μm、幅30cmのPETフィルムを載せ、140℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させて、銅箔/樹脂層(X)/PETフィルムの積層構成からなる積層体(I)を得、ロール状に巻き取った。
A4サイズの積層体(G)の代わりにロールから巻き出した積層体(I)を用いたこと以外は実施例9の<工程(5)>と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(i)を作製し、ロール状に巻き取った。基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(a)に代えて、ロールから巻き出した基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(i)を用いたこと以外は実施例1の<合わせガラスの作製(工程(6)、工程(7))>と同様にして、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に部分的に変形が認められたものの、断線は認められなかった。
【0078】
[実施例11]
熱可塑性樹脂組成物(A)-Iの代わりに熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIを用い、100質量部の熱可塑性樹脂組成物(A)-IIIに対して10質量部の3GOをさらに添加したこと、および樹脂層(X)の厚さを28μmとしたこと以外は実施例10と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(j)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に明確な変形や断線は見られなかった。
【0079】
[実施例12]
<工程(1)>
100質量部の表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-Iに対し、酸化防止剤としてのTINUVIN326(BASF製)を0.15質量部、UV吸収剤としてのトリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)を0.04質量部、並びに接着調整剤としての酢酸マグネシウム・4水和物0.03質量部および酢酸カリウム0.02質量部を添加して混合し、得られた混合物を、押出機(ダイ設定温度:240℃)を用いて、厚さ50μm、幅30cmのPETフィルムに押出して塗布し、PETフィルムの片面に樹脂層(X)を形成した。樹脂層(X)の厚さは36μmであった。
<工程(2)>
工程(1)で得られた樹脂層(X)のPETフィルムを有さない面の上に、片面が黒化処理された厚さ7μm、幅30cmの銅箔の黒化処理面を載せ、140℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させて、PETフィルム/樹脂層(X)/銅箔の積層構成からなる積層体(K)を得、ロール状に巻き取った。
得られた積層体(K)を用いたこと以外は実施例10と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(k)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に部分的に変形が認められたものの、断線は認められなかった。
【0080】
[実施例13]
100質量部の表2に示した熱可塑性樹脂組成物(A)-Iに対し、酸化防止剤としてのTINUVIN326(BASF製)を0.15質量部、UV吸収剤としてのトリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)を0.04質量部、並びに接着調整剤としての酢酸マグネシウム・4水和物0.03質量部および酢酸カリウム0.02質量部を添加して混合した。得られた混合物を、押出機(ダイ設定温度:240℃)を用いて、ロールから巻き出した、片面が黒化処理された厚さ7μm、幅30cmの銅箔の黒化処理面上に押出して塗布し、樹脂層(X)を形成した。PETフィルムが樹脂層(X)に接するように、圧着ロールを通して厚さ50μmのPETフィルムを貼り合わせて、銅箔/樹脂層(X)/PETフィルムの積層構成からなる積層体(L)を得、ロール状に巻き取った。樹脂層(X)の厚さは34μmであった。
得られた積層体(L)を用いたこと以外は実施例10と同様にして、基材フィルム付き導電構造体含有フィルム(l)、導電構造体含有フィルム、および合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に部分的に変形が認められたものの、断線は認められなかった。
【0081】
[比較例2](基材フィルムなし)
<工程(4)>を行わなかったこと、および樹脂層(X)の厚さを31μmとしたこと以外は実施例10と同様にして、導電構造体含有フィルムおよび合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体の一部に断線がみられた。銅箔の熱圧着時に生じたシワが原因であると推定される。
【0082】
[比較例3](基材フィルムなし;可塑剤入り)
<工程(4)>を行わなかったこと、および樹脂層(X)の厚さを31μmとしたこと以外は実施例11と同様にして、導電構造体含有フィルムおよび合わせガラスを作製した。得られた合わせガラスにおける導電構造体の状態をルーペを用いて観察した結果、導電構造体に顕著な断線がみられた。導電構造体含有フィルムをロールから巻き出す際に、隣接する樹脂層(X)に付着していた導電構造体の一部が剥がれ落ちたことが主な原因であった。
【0083】
実施例1~13および比較例1~3の概要を表3に示す。
【0084】
【表3】