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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】安定化ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/06 20060101AFI20221219BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20221219BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08L101/06
C08K5/13
H01G4/32 511L
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019560094
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018060828
(87)【国際公開番号】W WO2018202562
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】100186
(32)【優先日】2017-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペテション, リネア
(72)【発明者】
【氏名】ヒルボリ, ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】ジャムベック, ヨアキム
(72)【発明者】
【氏名】チャン, カン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ティー.シー. マイク
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】富澤 哲生
【審判官】細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-37636(JP,B1)
【文献】特公昭49-37635(JP,B1)
【文献】特開昭47-5908(JP,A)
【文献】特公昭48-38463(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/06
C08K 5/13
C09K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ポリマーマトリックス;
b) ポリマーマトリックスと相溶性であり、ペンダントフェノール酸化防止剤部分を含むポリマー酸化防止剤であって、ポリプロピレンヒンダードフェノール共重合体であるポリマー酸化防止剤;および
c) 単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤
を含み、
ポリマーマトリックスが、ポリプロピレン(PP)を含み、
ポリプロピレンヒンダードフェノール共重合体は、以下の式(I)で表される構造を有する、ポリマー組成物。
【化1】
【請求項2】
ポリマーマトリックスおよびポリマー酸化防止剤が、共結晶化できる、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
ポリマー酸化防止剤が、0.2から10mol%までのペンダントフェノール酸化防止剤部分を含む、請求項1または請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤が、2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールおよびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert.ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチル-ベンジル)-4-メチル-フェノールおよび2-tert-ブチル-6-[(3-tert-ブチル-5-エチル-2-ヒドロキシフェニル)メチル]-4-エチルフェノール、三官能性の1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ならびにそれらの組合せから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤が、同一のヒンダードフェノール構造要素を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から90重量%までのポリマー酸化防止剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から5重量%までの単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
ポリマー組成物の全重量に対して算出される、5重量%から99.8重量%までのポリマーマトリックスを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む誘電体を備えたフィルムコンデンサ。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む絶縁体を備えた電力システムコンポーネント。
【請求項11】
前記ポリマー酸化防止剤を前記ポリマー組成物の2重量%から50重量%含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化ポリマー組成物に関する。本発明はさらに、そのような安定化ポリマー組成物を含む、フィルムコンデンサおよび電力システムコンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン類は、世界的に、最も一般的に生成されているポリマーであり、ポリエチレンが、最も一般的に生成されているポリマーであり、ポリプロピレンが、二番目に多い一般的に生成されているポリマーである。それらは、コンデンサ、電線、包装、織物、建設資材、および自動車部品などの、極めて種々様々な用途で使用される。しかしながら、これらのポリマーは、熱および紫外線への曝露が原因で、酸化を経て分解する傾向がある。これはとりわけ、ポリマー骨格に結合された第三級炭素結合水素原子を有するポリプロピレンの場合である。そのような水素原子は、比較的低いC-H結合解離エネルギーを有し、したがって、とりわけ酸化プロセスの間に酸素中心フリーラジカルにより抽出される傾向がある。
【0003】
加工および使用の間にポリオレフィン類の酸化的分解反応を防止するために、多量の酸化防止剤が、一般的に、製造の間にポリオレフィン類に添加される。これらの酸化防止剤は、酸化連鎖反応を遮断し、それによりさらなる分解からポリオレフィンを保護するために、ポリオレフィンの酸化ストレスの間に形成されるペルオキシルラジカルと反応可能である。
【0004】
ポリオレフィン類に加えて、広範囲の他のポリマー類は、一般的に、酸化防止剤を使用して安定化される。これらは、アクリル類;ポリスチレン;ABS、MBS、およびSBSなどのスチレン共重合体類;ポリアセタール類;ポリアミド類;ポリカーボネート類;ポリエステル類;ポリウレタン類;PVC、ならびにポリビニルブチラールを含む。
【0005】
ポリマー類中で最も一般的に使用される酸化防止剤は、立体障害フェノールタイプである。そのような酸化防止剤の一般的な特徴は、低いO-H結合解離エネルギーを有する、オルト置換されたフェノール部分の存在である。そのようなフェノールは、ペルオキシルラジカルにフェノール性水素原子を犠牲的に供与し、それによって、過酸化物およびフェノキシルラジカルを形成し、ならびにペルオキシルラジカルがポリマー骨格から水素原子を抽出するのを防止する。生成されるフェノキシルラジカルは、最終的に無害な非ラジカル生成物を与えるために、不均化、さらなるペルオキシルラジカルとの反応、および/または二量体化の組合せにより、さらに反応する。このように、酸化ラジカル連鎖反応の拡大は断ち切られる。
【0006】
ポリオレフィン類に対して最も広く使用されている市販の酸化防止剤は、単官能性の2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール(BHA)、およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert.ブチル(tert.butyl)-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート(Irganox 1076);二官能性の2-tert-ブチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチル-ベンジル)-4-メチル-フェノール(Cyanox 2246)、および2-tert-ブチル-6-[(3-tert-ブチル-5-エチル-2-ヒドロキシフェニル)メチル]-4-エチルフェノール(Cyanox 425);三官能性の1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(Ethanox 330)、および1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン(Topanol CA);ならびに、四官能性のペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox 1010)などの、比較的低分子量の単官能性またはオリゴ官能性の立体障害フェノールである。
【0007】
しかしながら、安定化ポリオレフィン生成物の安定性、性能、および特性を限定するような小分子の酸化防止剤の使用に対して、いくつかの短所が存在する。フェノール酸化防止剤は比較的極性であり、したがって、無極性のポリオレフィンマトリックス中で難溶型である。これは、ポリオレフィンマトリックス中の酸化防止剤の不均一な分布を引き起こし、ポリマーの酸化を防止するには不十分なマトリックス中酸化防止剤濃度をもたらす可能性がある。この不均一な分布のさらなる結果は、ポリオレフィンが、熱、溶媒、および強い電界に曝露される場合、酸化防止剤の移行および浸出、ならびに酸化防止剤損失の加速である。したがって、ポリマーマトリックス中の酸化防止剤の限定的な溶解度は、ポリオレフィン生成物の耐用寿命を限定し、酸化防止剤の浸出が原因で健康および環境の問題を引き起こし、ならびにポリマー類の適用分野を限定する。その上、酸化防止剤は、ポリオレフィン材料の誘電損失を増大させることもあり、したがって、誘電体における酸化防止剤量の減少は、この理由のため望ましいこともある。
【0008】
典型的な、小分子の立体障害フェノール酸化防止剤に関連する欠陥を改善するために、ポリマー結合酸化防止剤の開発が探究されてきた。そのような研究のねらいは、ポリオレフィンマトリックスとの相溶性が改善され、浸出または移行する傾向が減少したポリマー酸化防止剤を生産することであった。
【0009】
Zhangら(Zhang,G.,Li,H.,Antensteiner,M.,& Chung,T.M.(2015).Synthesis of functional polypropylene containing hindered phenol stabilizers and applications in metallized polymer film capacitors.Macromolecules,48(9),2925-2934)は、ポリプロピレン骨格、およびいくつかのペンダントヒンダードフェノール基を含むポリマー安定剤(PP-HP)のファミリーの合成を開示する。いくつかのPP-HP共重合体類は、本来のポリプロピレン(PP)および商業的に安定化されたPP生成物よりも高い熱酸化安定性を示した。改善された酸化安定性は、PP/PP-HPブレンドにおいても観察された。PP-HPポリマー安定剤の有効性は、PP単独重合体との相溶性および共結晶化に起因し、ヒンダードフェノール部分の均一分布をもたらす。
【0010】
安定化ポリマー組成物を改良する必要性が残る。
【発明の概要】
【0011】
本発明の発明者らは、先行技術の安定化ポリマー組成物のいくつかの欠陥を特定した。市販の単官能性およびオリゴ官能性の立体障害フェノール酸化防止剤は、安価で、広範に入手可能である。しかしながら、そのような酸化防止剤は、とりわけポリマーが半結晶性である場合に、ポリマーマトリックス中で比較的不溶性であり、不十分な酸化防止剤の濃度、移行、および浸出の問題を生じる。ポリマー結合酸化防止剤は、そのような問題を克服するために開発されてきたが、ポリマー結合酸化防止剤自体は、とりわけポリマーマトリックスを十分に保護するのに必要な量では、製造が従来の酸化防止剤より厄介で、現在広範には入手できず、したがって高価である。
【0012】
本発明は、酸化的分解反応に対して優れた耐性を有し、酸化防止剤を浸出または滲出させる傾向が低く、費用対効果の良いポリマー組成物を提供することを目的とする。そのようなポリマー組成物は、安定化ポリマー組成物の名で知られている可能性もあるが、それは、酸化防止剤を含まない対応するポリマー組成物よりも、酸化的分解反応に対して高い耐性を有するポリマー組成物を意味する。
【0013】
本発明の目的は、添付された特許請求の範囲に記載のポリマー組成物により得られる。ポリマー組成物は:
a) ポリマーマトリックス;
b) ポリマーマトリックスと相溶性であり、ペンダントフェノール酸化防止剤部分を含むポリマー酸化防止剤;ならびに
c) 単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤
を含む。
【0014】
そのような組成物中のポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックスと、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤との間で相溶化剤として作用する。したがって、組成物への比較的少量のポリマー酸化防止剤の添加は、ポリマーマトリックス中の従来の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤の分散の大幅な改善を可能とする。これは、酸化防止剤がポリマー組成物中に残り、移行および/または浸出する傾向がより少ないことを意味する。マトリックス中によく分散された酸化防止剤の濃度がより高いと、ポリマー組成物が大幅に改良された耐酸化性を有することを意味する。誘電特性などのポリマー組成物の他の特性は、誘電率を増大させるためにポリマー酸化防止剤を使用し、および/または浸出および移行の減少のためにより少量の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を使用する可能性のために、調整し得る。
【0015】
ポリマーマトリックスは、ポリオレフィン、天然ゴム、アクリル、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、PVC、およびポリビニルブチラールのうちの1つまたは複数を含む。これらのポリマー類のすべては、一般的に、フェノール系酸化防止剤を使用して安定化される。ポリマーマトリックスは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブテン-1(PB-1)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)から選択されるポリオレフィンであってもよい。そのようなポリオレフィン類は、それに限定されるものではないが、LDPE、LLDPE、VLDPE、HDPE、XLPE、MDPE、UHMWPE、およびBOPPを含む。ポリプロピレンは、低い極性を有し、および/または半結晶性であり、そのことは、従来の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤が、そのようなポリマーマトリックスとの特に低い相溶性を有することを意味する。本発明は、この問題を解決する。
【0016】
ポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックスと同じモノマー単位を含んでもよい。これは、ポリマー酸化防止剤が、ポリマーマトリックス中に存在するモノマー単位、ならびにペンダントフェノール酸化防止剤部分を含むモノマー単位のすべてを含む共重合体であってもよいことを意味する。ポリマーマトリックスおよびポリマー酸化防止剤は、互いと共結晶化可能であってもよい。
【0017】
ポリマー組成物は、ポリマーマトリックスとしてのポリオレフィン、およびポリマー酸化防止剤としてのポリオレフィン共重合体を含んでもよい。
【0018】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分は、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、アミノ、N-アルキルアミノ、およびN,N’-ジアルキルアミノから選択される、1つまたは2つのオルト置換基を含むフェノール基を含んでもよい。オルト置換基は、フェノールのOH結合解離エネルギーを低下させ、その酸化防止効果を増大させる。
【0019】
ポリマー酸化防止剤は、0.2から10mol%までのペンダントフェノール酸化防止剤部分を含んでもよい。これは、ポリマー酸化防止剤が、ポリマーマトリックスと酸化防止剤相との間で相溶化剤として作用するのに十分である。
【0020】
単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールおよびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert.ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチル-ベンジル)-4-メチル-フェノールおよび2-tert-ブチル-6-[(3-tert-ブチル-5-エチル-2-ヒドロキシフェニル)メチル]-4-エチルフェノール、三官能性の1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ならびにそれらの組合せから選択されてもよい。そのような酸化防止剤は、大量生産されており、容易に利用可能であり、安価で、ポリマー用途において十分に証明されている。
【0021】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、一致するヒンダードフェノール構造要素を有してもよい。これは、ペンダントフェノール酸化防止剤部分の一部、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤の一部が、一致する化学構造を有してもよいことを意味する。例えば、ペンダントフェノール酸化防止剤部分、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤の両方が、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート構造要素を含んでもよい。これは、ポリマー組成物の全体的な相溶性をさらに改善し得る。
【0022】
ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から90重量%までのポリマー酸化防止剤を含んでもよい。ポリマー酸化防止剤がポリマーマトリックスと相溶性であるので、それは、いかなる用途においても必要とされる酸化保護をするために調整される、広範囲の濃度で使用されてもよい。
【0023】
ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から5重量%までの単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含んでもよい。これにより、十分な酸化防止剤の添加が可能となり、酸化的分解反応に対する優れた保護がなされる。
【0024】
ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、5重量%から99.8重量%までのポリマーマトリックスを含む。酸化的分解反応に対する優れた耐性は、ポリマー組成物が主にポリマーマトリックスから構成される場合にも得られることもある。
【0025】
ポリマー組成物はさらに、安定剤、修飾剤、または充填剤などの、1つまたは複数のさらなるポリマー添加剤を含んでもよい。
【0026】
一実施形態に従って、ポリマーマトリックスは、ポリプロピレンであってもよく、ポリマー酸化防止剤は、ポリプロピレン共重合体であってもよい。
【0027】
本発明の別の態様に従って、本発明の目的は、添付された特許請求の範囲に記載のフィルムコンデンサによって達成される。フィルムコンデンサは、本明細書に記載されるようなポリマー組成物を含む誘電体を含む。そのようなフィルムコンデンサは、良好な誘電特性と相まって、酸化的分解反応に対する優れた耐性のために、より高い温度で動作し得る。
【0028】
本発明のさらなる態様に従って、本発明の目的は、添付された特許請求の範囲に記載の電力システムコンポーネントによって達成される。電力システムコンポーネントは、本明細書に記載されるようなポリマー組成物を含む絶縁体を含む。電力システムコンポーネントは、電線、ケーブル継手、ブッシング、またはケーブル端末であってもよい。酸化的分解反応に対する優れた耐性は、電力システムコンポーネントを、より高い温度および/または電圧で動作し得ることを意味する。
【0029】
本発明のさらなる目的、利点、および新規な特徴は、以下の詳細な説明から当業者に明白となるであろう。
【0030】
本発明、ならびにそのさらなる目的および利点をより完全に理解するために、以下に提示された詳細な説明は、添付の図面と共に読まれるべきであり、そこでは、同じ参照表記は、様々なダイヤグラムにおいて同様な項目を表す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】ペンダント3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート部分を含むポリプロピレン共重合体を概略的に例示する。
図2】ポリプロピレン、ポリマー酸化防止剤PP-HP、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含む組成物の熱重量分析を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、ポリマー酸化防止剤が、従来の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤と比較して、ポリマーマトリックスとのより良い相溶性を単に有するだけでなく、それらがまた、ポリマーマトリックス中のそのような従来の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール系酸化防止剤の相溶性を改善可能であるという、本発明者らによる発見に基づく。したがって、ポリマーマトリックス、ポリマー酸化防止剤、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含む三成分ブレンド中で、ポリマー酸化防止剤は、相溶化剤として作用し、ポリマーマトリックスと、単官能性またはオリゴ官能性の酸化防止剤との間の相溶性を増大させる。
【0033】
相溶化剤としてポリマー酸化防止剤を使用する場合、従来の酸化防止剤がポリマーマトリックス中でより均一に分散できるので、マトリックス中の従来の酸化防止剤の有効濃度は、使用される従来の酸化防止剤の量を通常のポリマー/酸化防止剤二成分ブレンドと比較して増大させない場合でさえ、より高くなる。これは、通常のポリマー/酸化防止剤二成分ブレンド中で、酸化防止剤が、マトリックス内でクラスターを形成するか、または低い相溶性が原因でマトリックスの表面に移行し、したがって事実上「失われる」ためである。これはとりわけ、ポリオレフィン類、ポリアセタール類、ポリアミド類、およびポリエステル類などの、半結晶性および/または非極性ポリマー類;特に半結晶性ポリオレフィン類、より具体的にはポリプロピレンおよびポリエチレンの場合である。
【0034】
従来の酸化防止剤とポリマーマトリックスとの間の相溶性を改善するためにポリマー酸化防止剤を使用することによって、従来の酸化防止剤の高くかつ効果的でさえあるマトリックス中濃度のために、いくつかの有益な効果を得ることができる。ポリマー組成物の酸化安定性は、劇的に改善されるが、このことは、ポリマー酸化防止剤の組み入れにより、組成物中に存在する少量の追加の酸化防止剤部分だけでは説明できない。その上、マトリックス/酸化防止剤のより良い相溶性のために、酸化防止剤の移行および浸出に関する問題は改善し得る。電気用途にこのポリマー組成物を使用すると、酸化防止剤が電界中で移行する傾向が弱まることもある。最終的には、このポリマー組成物中の酸化防止剤の、高く、均一に分散した濃度が、改善された誘電特性をもたらし得る。これは、通常のポリマー/酸化防止剤二成分組成物では、酸化防止剤の相分離およびクラスター形成は、酸化防止剤が組成物の誘電率(ε)を増大させることにあまり寄与しないことを意味するからである。同時に、酸化防止剤とマトリックスドメインとの間の界面は、組成物(tanδ)の誘電損失を増大させる。マトリックス酸化防止剤濃度を増大させ、ドメイン界面相(domain interphases)の及ぶ範囲を減少させることにより、低い誘電損失を維持しながら、誘電率を増大させることができる。
【0035】
本発明に記載のポリマー組成物は:
a) ポリマーマトリックス;
b) ポリマーマトリックスと相溶性であり、ペンダントフェノール酸化防止剤部分を含むポリマー酸化防止剤;ならびに
c) 単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤
を含む。
【0036】
ポリマーマトリックス
ポリマーマトリックスは、一般的にポリオレフィン類、アクリル類、ポリスチレン、ABS、MBSおよびSBSなどのスチレン共重合体類、ポリアセタール類、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリウレタン類、PVC、ならびにポリビニルブチラールなどの酸化防止剤による安定化が必要である、あらゆるポリマーであってもよい。しかしながら、本発明は、半結晶性および/または非極性ポリマー類などの、従来の酸化防止剤との乏しい相溶性を有するポリマー類に対して最も有益である。そのようなポリマー類は、ポリアミド66およびポリアミド11などのポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル類;ポリオキシメチレン(POM)などのポリアセタール類;ならびにポリプロピレン(PP)およびポリエチレンなどのポリオレフィン類を含む。ポリマーマトリックスは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブテン-1(PB-1)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)から選択されるポリオレフィンであることが好ましい。これは、LDPE、LLDPE、VLDPE、HDPE、XLPE、MDPE、UHMWPE、およびBOPPなどのポリオレフィン類を含む。
【0037】
ポリマーマトリックスは、混和性ポリマーブレンドであってもよい。ポリマーマトリックスは、例えばPET/PBTブレンドなどの単独重合体-単独重合体ブレンドであってもよいか、または例えばPP/EPDMブレンドなどの単独重合体-共重合体ブレンドであってもよい。
【0038】
ポリマー酸化防止剤
ポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックスと相溶性であり、ペンダントフェノール酸化防止剤部分を含む。ポリマーマトリックスと相溶性があるとは、ポリマー酸化防止剤が、ポリマーマトリックスと均一なブレンドを形成するか、または巨視的に均一な物理的特性を示す分散ブレンドを形成することを意味する。ポリマーマトリックスおよびポリマー酸化防止剤が半結晶性である場合、ポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックスと共結晶化することもある。
【0039】
ポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックス中のポリマーの骨格と同じか、または同様である骨格を有してもよい。ポリマー骨格は、コモノマーの場合にポリマー鎖中のモノマーの正確な分布が異なることがあっても、それらが同じモノマーに由来する場合は同じであると見なされる。ポリマー骨格は、それらが同じ官能基を含むが、官能基を分離するスペーサーが異なる場合は、同様であると見なされる。例えば、PETおよびPBTは、同様な骨格を有すると見なされる。
【0040】
ポリマー酸化防止剤は、ポリマーマトリックスと同じか、または同様なモノマーで、主に構成されてもよい。例えば、ポリマーマトリックスがポリプロピレンである場合は、ポリマー酸化防止剤は、プロピレンモノマーから主に構成されたポリプロピレン共重合体であってもよい。ポリマー酸化防止剤は、オレフィン類のエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、メチルペンテン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、およびビニルノルボルネンから選択されるモノマー単位に主として基づき得る。好ましくは、ポリマー酸化防止剤は、ポリプロピレン共重合体である。
【0041】
ポリマー酸化防止剤は、0.5から5mol%までのペンダントフェノール酸化防止剤部分などの、0.2から10mol%までのペンダントフェノール酸化防止剤部分を含んでもよい。ポリマー酸化防止剤中のペンダントフェノール酸化防止剤部分のmol%は、ポリマー酸化防止剤中の全モノマー単位に対する、ペンダントフェノール酸化防止剤部分を有する共重合体中のモノマー単位のmol%として定義される。これは、例えば、ポリマー酸化防止剤の定量1H NMRスペクトル分析により決定されてもよい。
【0042】
ポリマー酸化防止剤中のペンダントフェノール酸化防止剤部分の量は、mol%または重量%で表現されてもよく、これらの単位は、容易に相互交換できる。3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸(HP)に由来するペンダントフェノール酸化防止剤部分を有するポリプロピレン(PP)共重合体の例でいえば、PP部分は、およそ42g/molの単位重量を有する(ポリプロピレンの骨格から延びるリンカー基Lは考慮に入れない)。3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸は、およそ278g/molの分子量を有する。したがって、1mol%のペンダントフェノール酸化防止剤部分を含むポリプロピレン共重合体は、およそ6.3wt%の3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート基を有する。
【0043】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分は、2,6-二置換フェノール部分などの、立体障害フェノール部分を含んでもよい。そのような2,6-二置換フェノール部分は、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン部分、または3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート部分であってもよい。
【0044】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分は、リンカーにより、ポリマー酸化防止剤の骨格に接続されてもよい。このリンカーは、例えば、2から15個までの炭素原子を含むn-アルキル鎖であってもよい。
【0045】
ポリマー酸化防止剤の製造
ペンダントフェノール酸化防止剤部分を有するポリマー酸化防止剤は、当該技術分野で公知のあらゆる手段により製造されてもよい。例えば、ポリマー酸化防止剤は、フェノール酸化防止剤を用いる、適切な共重合体の後官能化により製造されてもよい。
【0046】
例えば、ヒドロキシ官能基を有するポリオレフィン共重合体は、ヒドロキシ官能化オレフィン、またはそれらのマスクもしくは保護された誘導体との、オレフィンの共重合によって製造されてもよい。ヒドロキシ官能化オレフィンは、例えば、二重結合から最も遠方の炭素原子上に単一のヒドロキシ基を有する直鎖アルファC-C20オレフィンであってもよい。適切なヒドロキシ官能化オレフィンは、それに限定されるものではないが、10-ウンデセン-1-オール、9-デセン-1-オール、8-ノネン-1-オール、7-オクテン-1-オール、6-ヘプテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1-オール、およびアリルアルコールを含む。組成物のポリマー酸化防止剤成分に伴う誘電損失は、二重結合から最も遠方の炭素原子上に単一のヒドロキシ基を有する直鎖アルファC-C10オレフィンを使用することにより減少させ得る。その後、ヒドロキシ官能基を有するポリオレフィン共重合体は、カルボン酸官能基を有する酸化防止剤、またはその同等物とカップリングされてもよい。このカップリングは、例えば、Zhang,G.,Li,H.,Antensteiner,M.,& Chung,T.M.(2015);”Synthesis of functional polypropylene containing hindered phenol stabilizers and applications in metallized polymer film capacitors”,Macromolecules,48(9),2925-2934に開示されているような、カップリング試薬EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、およびDMAP(N,N’-ジメチルアミノピリジンを使用して実施されてもよい。しかしながら、カップリングの他の手段およびカップリング試薬は、当該技術分野で公知である。
【0047】
あるいは、ポリマー酸化防止剤は、Wilen,C.E.,Luttikhedde,H.,Hjertberg,T.,& Nasman,J.H.(1996):”Copolymerization of Ethylene and 6-tert-Butyl-2-(1,1-dimethylhept-6-enyl)-4-methylphenol over Three Different Metallocene-Alumoxane Catalyst Systems”,Macromolecules,29(27),8569-8575に記載されているような、フェノール系酸化防止剤部分を組み込むモノマーを使用する共重合により調製されてもよい。
【0048】
しかしながら、ポリマー酸化防止剤を調製する他の手段も考えられる。例えば、適切な共重合体の後官能化は、ペプチドカップリング、遷移金属媒介カップリング反応、およびHuisgen銅触媒「クリック」[3+2]環化付加などの環化付加反応などの、任意の適切なカップリング化学を使用して実施されてもよい。
【0049】
単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤
使用される単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、当該技術分野で公知のそのようなあらゆるフェノール酸化防止剤であってもよい。単官能性またはオリゴ官能性とは、酸化防止剤が、酸化防止活性を有する1つまたは複数のフェノール部分を含むことを意味する。そのようなフェノール部分は、一般的に、メチルまたはt-ブチルなどの1つまたは複数のオルト置換基を有するフェノールである。オリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、最大6つのフェノール部分、例えば最大5つのフェノール部分または最大4つのフェノール部分を有することもある。単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、典型的には、2kDa未満、例えば1.2kDa未満の分子量を有する。酸化防止剤が本明細書において従来の酸化防止剤と呼ばれる場合、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤という意味である。
【0050】
最も広く使用されているもののうち、ポリオレフィン類用の市販の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、単官能性の2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール(BHA)およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert.ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート(Irganox 1076);二官能性の、2-tert-ブチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチル-ベンジル)-4-メチル-フェノール(Cyanox 2246)および2-tert-ブチル-6-[(3-tert-ブチル-5-エチル-2-ヒドロキシフェニル)メチル]-4-エチルフェノール(Cyanox 425);三官能性の1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(Ethanox 330)、および1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン(Topanol CA);ならびに、四官能性のペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox 1010)である。
【0051】
ペンダントフェノール酸化防止剤部分、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、各々が異なる立体障害フェノール構造を有してもよく、または各々が同じ立体障害フェノール構造を有してもよい、すなわちそれらの両方が一致する立体障害フェノール構造を有してもよい。例えば、ポリマー酸化防止剤が3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート部分を含む場合、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤は、例えば、Irganox 1076またはIrganox 1010であってもよく、その両方はまた、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート構造を所有する。
【0052】
ポリマー組成物
ポリマー組成物の組成は変化させることができる。ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から90重量%まで、例えば1重量%から70重量%まで、2重量%から50重量%、または5重量%から30重量%までのポリマー酸化防止剤を含んでもよい。ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、0.1重量%から5重量%まで、例えば0.2重量%から2重量%までの単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含んでもよい。ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に対して算出される、5重量%から99.8重量%まで、例えば10重量%から99重量%まで、30重量%から98重量%、または50重量%から90重量%までのポリマーマトリックスを含んでもよい。
【0053】
ポリオレフィン組成物はさらに、それに限定されないが、スコーチ遅延剤、顔料、色素、充填剤、紫外線吸収剤、核形成剤、および難燃剤を含む、当該技術分野で公知の添加剤を含むことがある。
【0054】
用途
誘電特性、機械的特性、および酸化的分解反応に対する耐性は、ポリマー組成物を、電気用途での使用に十分に適切なものとする。ポリマー組成物を含むフィルムは、フィルムコンデンサ中で誘電体として使用されてもよい。そのようなフィルムは、二軸延伸されるか、および/または金属化されてもよい。例えば、誘電体フィルムは、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムであってもよい。ポリマー組成物は、より低いレベルの誘電損失を有する絶縁材料または誘電体を必要とする他の電気用途において使用されてもよい。そのような用途は、電力ケーブル、ケーブル継手、ブッシング、およびケーブル端末用の絶縁材料を含む。
【実施例
【0055】
1mol%のペンダント3,5-ビス(tert-ブチル)-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート基を有するポリプロピレン共重合体を含むポリマー酸化防止剤を、Zhang,G.,Li,H.,Antensteiner,M.,& Chung,T.M.(2015):Synthesis of functional polypropylene containing hindered phenol stabilizers and applications in metallized polymer film capacitors.Macromolecules,48(9),2925-2934に記載されているように合成した。このポリマー酸化防止剤を、PPHP(すなわちポリプロピレンヒンダードフェノール共重合体)と表し、その構造を、図1に例示する。
【0056】
ポリプロピレン(PP)ポリマーマトリックス、ポリマー酸化防止剤(PPHP)、および単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤(AO)の三成分ブレンドを、上記のPPHPを、市販のPPに基づくポリプロピレン組成物と混合させることにより調製した。市販のPPは、0.5wt%の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含むポリプロピレン単独重合体(コンデンサグレード)である。この0.5wt%の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤組成物を、以後PP(0.5wt%)と表す。1:1のPP(0.5wt%):PPHPから、200:1のPP(0.5wt%):PPHPw/wまでの比率を用意し、試験した。参照物質として、純粋な市販のPP組成物(0.5wt%の単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を含む)を試験し、さらなる市販のポリプロピレン組成物(コンデンサグレードのPPではないPP-Normalとして表す)を試験した。
【0057】
実施した試験において、様々な試料を以下のように表した:
【0058】
熱重量分析
調製した組成物の酸化安定性を、空気中で、190℃の一定温度で、各組成物の試料の熱重量分析を実施することにより試験した。分単位の加熱時間に応じる初期重量に対する各試料の重量%を図2に示し、試料は上に示されるように表されている。
【0059】
市販の安定化ポリプロピレン組成物であるPP-Normal(ライン1)およびPP(0.5wt%)(ライン3)の両方は、190℃で限定的な耐久時間を示し、PP-Normalは、50分未満後に著しい重量損失を実証し、PP(0.5wt%)は、250分未満後に重量損失を実証することがわかる。しかしながら、PP/PPHP/AO三成分ブレンドのすべては、著しくより高い安定性を示す。50:1以上のPP(0.5wt%):PPHPの重量比を有する三成分ブレンドは、190℃で1000分後に検出可能な重量損失をほとんど示さない。200:1と同じくらいの高さのPP(0.5wt%):PPHP比率(およそ0.5wt%のPPHP)にも関わらず、明らかな重量損失前の加熱時間が、550分を超えており、それはPP(0.5wt%)に匹敵する加熱時間の長さの2倍よりも高く、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤を用いるだけで安定化される。
【0060】
PPHPからの、ポリマー組成物へのフェノール酸化防止剤部分の少量の添加では、熱/酸化安定性の劇的な増大を説明できない。理論にこだわるつもりはないが、PPHP共重合体が、ポリプロピレンマトリックスと、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤との間で界面剤として働くことにより、ポリプロピレンマトリックス中に単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤が分子分散した均一なモルフォロジーを形成すると思われる。ポリマー組成物中の約2重量%以上のPPHP濃度が、単官能性またはオリゴ官能性のフェノール酸化防止剤の試験濃度で完全に均一なモルフォロジーを得るのに十分であるように思われる。
【0061】
酸化誘導時間(OIT)
いくつかの試料のOITを、ASTM D3895-14標準方法を使用して決定した。これは、酸素中で、190℃で試料を加熱する場合に、熱流を、示差走査熱量測定を使用して決定し、時間の関数として応答を測定することを伴う。その結果を以下の表に示す。
【0062】
少量のポリマー酸化防止剤(およそ0.5wt%)の添加でさえ、OITの著しい改善をもたらし、添加されるポリマー酸化防止剤が多いと、得られるOITの改善がより大きくなることがわかる。
図1
図2