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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】車両構造用の接続部材
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20221219BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20221219BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B62D25/20 N
B32B5/28 A
B62D29/04 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020047385
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021146837
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛子
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/031360(WO,A1)
【文献】特開平09-111010(JP,A)
【文献】特開2013-122285(JP,A)
【文献】特開2005-271875(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025573(WO,A1)
【文献】特開2016-005955(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0346811(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B32B 5/28
B62D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構造で使用され当該車両構造内の適宜な部位と接続する少なくとも2以上の接続部を具備した車両構造用の接続部材であって、繊維体を複数積層した積層体にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成た積層構造部を有し、前記繊維体として、一方向に引き揃えた炭素繊維束を熱融着性繊維で織成したものを採用し、前記炭素繊維束は複数の炭素繊維を撚らずに収束したものであり、前記熱融着性繊維の織り密度は1-5本/25mmであり、また、前記繊維体として、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して平行となる0度に設定された第一繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する+45度に設定された第二繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する-45度に設定された第三繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する90度に設定された第四繊維体を採用したことを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項2】
車両構造で使用され当該車両構造内の適宜な部位と接続する少なくとも2以上の接続部を具備した車両構造用の接続部材であって、繊維体を複数積層した積層体にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成た積層構造部を有し、前記繊維体として、一方向に引き揃えた炭素繊維束を熱融着性繊維で織成したものを採用し、前記炭素繊維束は複数の炭素繊維を撚らずに収束したものであり、前記熱融着性繊維の織り密度は1-5本/25mmであり、また、前記繊維体として、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して平行となる0度に設定された第一繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する+45度に設定された第二繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する-45度に設定された第三繊維体と、前記炭素繊維束の長手方向が前記積層構造部の長手方向に対して交差する90度に設定された第四繊維体を採用し、また、前記接続部は前記積層構造部に固着された金属体により構成されていることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項3】
請求項2記載の車両構造用の接続部材において、前記金属体は、本体の周面に鍔状部を設けたもので、この金属体が前記積層構造部に貫通状態に設けられる構成であり、この貫通状態で設けられた前記金属体の鍔状部の表面及び前記本体の周面には前記繊維体が重ね合わせされていることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項4】
請求項1~いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体は、前記繊維体の積層方向に貫通する糸で止着されていることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体は、厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に前記第四繊維体、前記第三繊維体、前記第二繊維体、前記第一繊維体の順番で対称に積層された平板形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項6】
請求項1~4いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体は、厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に前記第四繊維体、前記第二繊維体、前記第三繊維体、前記第一繊維体の順番で対称に積層された平板形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項7】
請求項1,2いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体は、前記第一繊維体を巻回して設けられる第一層部と、前記第二繊維体及び前記第三繊維体を重ね合わせた状態で前記第一層部の周囲に巻回して設けられる第二層部と、前記第四繊維体を前記第二層部の周囲に巻回して設けられる第三層部と、前記第二繊維体及び前記第三繊維体を重ね合わせた状態で前記第三層部の周囲に巻回して設けられる第四層部と、前記第一繊維体を前記第四層部の周囲に巻回して設けられる第五層部とを有する棒形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項8】
請求項記載の車両構造用の接続部材において、前記第一層部を構成する前記第一繊維体と、前記第二層部を構成する重ね合わせた前記第二繊維体及び前記第三繊維体とは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第二層部を構成する重ね合わせた前記第二繊維体及び前記第三繊維体と、前記第三層部を構成する前記第四繊維体とは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第三層部を構成する前記第四繊維体と、前記第四層部を構成する重ね合わせた前記第二繊維体及び前記第三繊維体とは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第四層部を構成する重ね合わせた前記第二繊維体及び前記第三繊維体と、前記第五層部を構成する前記第一繊維体とは巻回方向が逆向きに設定されていることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【請求項9】
請求項1~いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材は、リンクロッド,タワーバー若しくはアンダーカバーであることを特徴とする車両構造用の接続部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両構造用の接続部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車やバイクなどの車両における電動化や低燃費化の開発が進められ、それに伴う車両全体の軽量化が要求される中、この車両を構成する各種部品において金属製であったものを炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製としたものが種々提案されている。
【0003】
ところで、近年、このCFRPの成形方法として、従来からあるオートクレーブ成形法、プレス成形法に加え、予め金型に樹脂含浸前の繊維基材を所望の様態に積層して金型を閉じ、その閉じられた空間にエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの複合材料のマトリックス樹脂を送り込むRTM(Resin Transfer Molding)成形法や、この閉じられた空間の空気を真空吸引しながらマトリックス樹脂を送り込むVARTM(Vacuum Aided Resin Transfer Molding)成形法が用いられるようになってきている。
【0004】
特に、自動車部材のような高い剛性及び耐久性が要求される立体形状の部材(肉厚部材)の場合は、成形品の全ての部位に圧力をかけられるオートクレーブ成形法がCFRPの品質面(外観、機械的特性など)では最も適するが、RTM成形法やVARTM成形法の方が、時間当りの成形品の出来高を上げることができるため、コストの観点からRTM成形法、VARTM成形法が注目を集めている。
【0005】
また、CFRPは、金属のような等方性材料(例えば、平板のどの角度から引っ張ったり、曲げたりしても大きく物性の変わらない材料)ではなく、異方性材料(例えば、平板の一方向(12時-6時の方向)への引張・曲げは強靭だが、他方向(3時-9時)の方向への引張・曲げは極めて脆弱になる特性の材料)であり、そして、CFRPの機械的特性を最大にするためには、可能な限り炭素繊維が屈回せず、ある一方向に向かって(例えば、平板の12時-6時の方向に向かって)炭素繊維が直線であって、さらにCFRPの炭素繊維含有率はできるだけ高い方が、CFRPの機械的強度を高くできるメリットがある。
【0006】
前述したRTM成形法やVARTM成形法は、マトリックス樹脂が含浸されていない一方向の炭素繊維を所望の形状に切断してオス型かメス型に沿わせ、炭素繊維を配しながら積層することになるが、炭素繊維が積層状態でバラバラにならないようにするため、炭素繊維同士をバインダー(糊の役割)で塗布しつつ積層するか、積層した炭素繊維の束を縫い糸のような細い炭素繊維で束ねるなどして、炭素繊維が所望の位置に静置されるような作業が必要となる。
【0007】
しかしながら、RTM成形法やVARTM成形法では、前述の工程の後に炭素繊維の束をうまく型に沿わせたとしても(型に賦形したとしても)、その後、型を閉じ注入されるマトリックス樹脂の流動により一方向に配された炭素繊維の束がバラバラになり、一方向性が失われ、所望の機械的特性の得られないCFRPが出来上がってしまうことが多々ある。
【0008】
この他にも、例えば一方向の炭素繊維の束をバインダーで収束させる方法があるが、このバインダーを多く塗布することで炭素繊維の束がバラバラになることを防ぐことは出来るが、バインダーが炭素繊維と炭素繊維の間に付着していたり、炭素繊維がバインダーに覆われていたりして、RTM成形法やVARTM成形法で賦形後に型内に送り込まれるマトリックス樹脂が炭素繊維に十分に浸透(含浸)しないというCFRPとして不十分な成形品が出来てしまうデメリットがある。
【0009】
従って、従来、前述した炭素繊維の流動や含浸の課題を解決するために、RTM成形法やVARTM成形法では、炭素繊維の繊維基材を一方向材ではなく、経糸と緯糸が交錯したCloth(織布)、もしくは、特許文献1のように、一方向の炭素繊維を縦方向、横方向、斜め45度方向に積層してステッチ糸により貫層方向に縫い合わせたNCF(Non Crimp Fabric)が用いられる。
【0010】
Clothは、経糸と緯糸が交錯しているため、NCFは、貫層方向をステッチ糸で縫っているため、炭素繊維を型に沿わせる際やマトリックス樹脂が流れる際に炭素繊維束がバラバラになることがない利点がある。
【0011】
しかしながら、Clothは、経糸と緯糸がその交錯部で屈回しているため、どうしても炭素繊維の一方向の直線性が損なわれてしまう欠点がある(CFRPにおいて炭素繊維の直線性が損なわれると、所望の機械的特性が得られなくなってしまうことは良く知られている。)。
【0012】
また、炭素繊維に限らずFRPにおいては、繊維束がまっすぐに整然と直線になっていることで高い機械的強度(引張、曲げ、圧縮の強度や弾性率)が得られるが、NCFの場合、Clothと違い、経糸と緯糸(これに±45度方向の糸があっても良い)が交錯していないため、Clothのような経糸と緯糸の炭素繊維の屈回はないが、ステッチ糸が貫層方向に経糸層と緯糸層の炭素繊維を束にして縛りこんでしまう構造になるため、樹脂含浸の過程では特にステッチ糸近傍で炭素繊維束の中に樹脂が浸透しにくくなり、CFRPで大切なマトリックス樹脂の含浸が不十分になってしまう(マトリックス樹脂があるのに、炭素繊維が縛りこまれている状態なので、マトリックス樹脂が炭素繊維の中に浸み込んでいきにくい)。
【0013】
そして、NCFは、前述の通り、ステッチ糸近傍で経糸と緯糸の炭素繊維がステッチ糸により縛られている態様になるため、ステッチ糸近傍では炭素繊維束が密に、ステッチ糸とステッチ糸の間では経糸と緯糸にすき間ができるため炭素繊維束が疎になっており、RTM成形法やVARTM成形法において、金型を閉じてマトリックス樹脂を注入すると、この疎になった炭素繊維束のすき間に樹脂が流れ込んでいき易く、この炭素繊維が疎の空間(スペース)に多量の樹脂が流れ込んでCFRPが形作られてしまうために、Clothを繊維基材してCFRPを成形する時よりも、NCFを繊維基材にCFRPを成形する時の方が、樹脂含有率が多くなり、よって、炭素繊維が疎の部分に樹脂が多く流れ込むため、繊維含有率を上げることが難しくなり所望の機械的特性のCFRPを作ることができない欠点がある。
【0014】
ちなみに、本発明者等は、Clothで2mm厚さのCFRPを成形する時に樹脂量を少なくしていき、樹脂含有率を20wt%(繊維含有率で80wt%)にまで少なくできたが、NCFで2mm厚さのCFRPを成形する場合は、樹脂含有率を30wt%(繊維含有率で70wt%)にまでしかできなかった。これは前述したNCFの疎になった炭素繊維束のすき間に樹脂が流れ込んでいくためで、NCFが繊維基材の場合、強制的に樹脂量を少なくしていくと、表層に凹みやアバタのようなマトリックス樹脂の欠落部分が生じてしまうからである。つまり、CFRPの機械的特性を向上させるためには、樹脂含有率を少なくして繊維含有率を上げることが望ましいが、NCFを繊維基材にしたCFRPは樹脂含有率が多くなり、繊維含有率が少なくなるため、CFRPとしての機械的特性に限界が生じてしまうことを経験している。
【0015】
また、前述の一方向に配された(引き揃えた)炭素繊維束がバラバラにならないようにするための方策として、マトリックス樹脂を繊維基材に含浸し半硬化させたもの(プリプレグ)を用いる方法がある。このプリプレグは、あらかじめ繊維基材に樹脂が含浸されているので、前述のRTM成形法やVARTM成形法ではなく、主にオートクレーブ成形法やプレス成形法に用いられている。
【0016】
即ち、RTM成形やVARTM成形に用いるマトリックス樹脂は、時間当りの成形サイクルを向上させるため(時間当りの出来高を上げるため)、半硬化の過程を経ない樹脂配合が適用されているところ、一般的には、RTM成形法やVARTM成形法には樹脂含浸前の繊維基材を金型に賦形し、その後、マトリックス樹脂を型内に注入するため、あらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグを用いないが、あえてプリプレグをRTM成形法やVARTM成形法に用いるとすれば、プリプレグの樹脂とRTM成形法やVARTM成形法に用いる樹脂の相溶性の配慮が必要となってしまう。多くの場合、プリプレグに適用するマトリックス樹脂は保存寿命が長く、硬化のスピードが遅いもの、RTM成形法やVARTM成形法に用いるマトリックス樹脂は保存寿命が短く、硬化のスピードが速いものになるため、これらのマトリックス樹脂同士の相溶は難しいものになる。
【0017】
例えば、RTM成形法やVARTM成形法の樹脂が先に硬化しひとつのFRP相を形成し、その後にプリプレグの樹脂が硬化し、もうひとつのFRP相を形成する。同一材料なのに2つのFRP相ができてしまう。この2つの相と相との間は異材相の境界となり、2つの相の相溶(接着)が十分にならないため、一般的には、プリプレグをRTM成形法やVARTM成形法に用いないことが多い。
【0018】
この点、プリプレグを用いるオートクレーブ成形法やプレス成形法では、その成形前にあらかじめ所望の量の樹脂を繊維基材の含浸させておき(例えば、樹脂含有率で20-35wt%)、RTM成形法やVARTM成形法のようにマトリックス樹脂を注入することはない。また、このプリプレグのマトリックス樹脂は一方向に引き揃えられた繊維と繊維を粘着させる働きがあるため、成形するための所望の形状が扇形であっても、外部から引き裂くような力をかけなければ、扇形の円弧部分が繊維の束から離れていくことはない(このプリプレグを、一方向材のUni-Directionの頭文字を取ってUDプリプレグと言う)。
【0019】
よって、オートクレーブ成形法やプレス成形法では、マトリックス樹脂があらかじめ含浸されているCF(Carbon Fiber)・UDプリプレグを所望の形状に切断してオス型かメス型に沿わせ、例えば、1層目は長さ方向、2層目は幅方向のように、層ごとに繊維を配しながら積層することになるが、マトリックス樹脂が粘着剤のように繊維と繊維を粘着させているため、積層時に無理に繊維を引き裂く方向に力をかけなければ炭素繊維の一方向材の繊維束が積層状態でバラバラになるようなことはない。
【0020】
但し、積層し、賦形したCF・UDプリプレグは、マトリックス樹脂(例えば、エポキシ樹脂)が、オートクレーブ成形法やプレス成形法の過程で加熱されると、その硬化の過程(例えば100℃未満の領域)で樹脂粘度が下がり、積層した一方向CFプリプレグの炭素繊維の積層体が加圧された圧力と低下した樹脂粘度により、あらぬ方向へマトリックス樹脂が流れてしまい、炭素繊維がこの樹脂の流れに乗って繊維は一方向性が損なわれるリスクがある。例えば、CF・UDプリプレグを0度方向(12時-6時の方向)に積層してプレス成形すると、ビヤ樽のように、炭素繊維の長さ方向の一端と他端がビヤ樽の上下のフタに位置するような(ビヤ樽の上下のフタが12時-6時の位置するような)形に炭素繊維が流れてしまう。
【0021】
特に自動車部材のような高い剛性及び耐久性が要求される立体形状の部材(肉厚部材)の場合は、高さ方向への形状の変化部位(立上がり部や屈回部)で、炭素繊維がビヤ樽型に流れて所望の繊維配向が崩れたり、この樹脂の流れに炭素繊維がのってしまい、その流れに炭素繊維が広がって望まない方向に繊維が配置されたりすることがある。
【0022】
また、樹脂が金型のフロー穴に向かって流れ出し繊維基材の外に樹脂が流れてしまって樹脂枯れが生じることがある。
【0023】
この成形時の繊維流れによる繊維配向の不具合を避けることができる成形方法がオートクレーブ成形法で、成形時に成形品内をフィルム(バッギングフィルム)で閉空間を作り、この閉空間を真空引きし、加圧することで樹脂の粘度低下による炭素繊維の流れを抑えている。一方向材の炭素繊維束からなるプリプレグ(UDプリプレグ)はオートクレーブ成形法には適したプリプレグであるが、プレス成形法やRTM成形法、VARTM成形には不向きな材料である。
【0024】
以上のように、自動車部材のような高い剛性及び耐久性が要求される立体形状の部材(肉厚部材)を、一方向材の炭素繊維束から成る部材で構成された炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製とする場面において、前述したオートクレーブ成形法,プレス成形法,RTM成形法及びVARTM成形法などの既存の成形法において良好に製造し得る材料(構造)の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特開2002-227066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、既存の成形法で良好に製造することができ、しかも、軽量であることに加え、車両構造内に設ける部材として要求される高い剛性及び耐久性を有するなど、従来に無い極めて実用的な車両構造用の接続部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0028】
車両構造で使用され当該車両構造内の適宜な部位と接続する少なくとも2以上の接続部2を具備した車両構造用の接続部材であって、繊維体3を複数積層した積層体4にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成た積層構造部1を有し、前記繊維体3として、一方向に引き揃えた炭素繊維束5を熱融着性繊維6で織成したものを採用し、前記炭素繊維束5は複数の炭素繊維を撚らずに収束したものであり、前記熱融着性繊維6の織り密度は1-5本/25mmであり、また、前記繊維体3として、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定された第一繊維体3Aと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定された第二繊維体3Bと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定された第三繊維体3Cと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定された第四繊維体3Dを採用したことを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0029】
また、車両構造で使用され当該車両構造内の適宜な部位と接続する少なくとも2以上の接続部2を具備した車両構造用の接続部材であって、繊維体3を複数積層した積層体4にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成た積層構造部1を有し、前記繊維体3として、一方向に引き揃えた炭素繊維束5を熱融着性繊維6で織成したものを採用し、前記炭素繊維束5は複数の炭素繊維を撚らずに収束したものであり、前記熱融着性繊維6の織り密度は1-5本/25mmであり、また、前記繊維体3として、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定された第一繊維体3Aと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定された第二繊維体3Bと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定された第三繊維体3Cと、前記炭素繊維束5の長手方向が前記積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定された第四繊維体3Dを採用し、また、前記接続部2は前記積層構造部1に固着された金属体7により構成されていることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0030】
また、請求項2記載の車両構造用の接続部材において、前記金属体7は、本体7aの周面に鍔状部7bを設けたもので、この金属体7が前記積層構造部1に貫通状態に設けられる構成であり、この貫通状態で設けられた前記金属体7の鍔状部7bの表面及び前記本体7aの周面には前記繊維体3が重ね合わせされていることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0031】
また、請求項1~いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体4は、前記繊維体3の積層方向に貫通する糸8で止着されていることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0032】
また、請求項1~4いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体4は、厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に前記第四繊維体3D、前記第三繊維体3C、前記第二繊維体3B、前記第一繊維体3Aの順番で対称に積層された平板形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0033】
また、請求項1~4いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体4は、厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に前記第四繊維体3D、前記第二繊維体3B、前記第三繊維体3C、前記第一繊維体3Aの順番で対称に積層された平板形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0034】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材において、前記積層体4は、前記第一繊維体3Aを巻回して設けられる第一層部4Aと、前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cを重ね合わせた状態で前記第一層部4Aの周囲に巻回して設けられる第二層部4Bと、前記第四繊維体3Dを前記第二層部4Bの周囲に巻回して設けられる第三層部4Cと、前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cを重ね合わせた状態で前記第三層部4Cの周囲に巻回して設けられる第四層部4Dと、前記第一繊維体3Aを前記第四層部4Dの周囲に巻回して設けられる第五層部4Eとを有する棒形状であることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0035】
また、請求項記載の車両構造用の接続部材において、前記第一層部4Aを構成する前記第一繊維体3Aと、前記第二層部4Bを構成する重ね合わせた前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cとは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第二層部4Bを構成する重ね合わせた前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cと、前記第三層部4Cを構成する前記第四繊維体3Dとは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第三層部4Cを構成する前記第四繊維体3Dと、前記第四層部4Dを構成する重ね合わせた前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cとは巻回方向が逆向きに設定され、また、前記第四層部4Dを構成する重ね合わせた前記第二繊維体3B及び前記第三繊維体3Cと、前記第五層部4Eを構成する前記第一繊維体3Aとは巻回方向が逆向きに設定されていることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【0036】
また、請求項1~いずれか1項に記載の車両構造用の接続部材は、リンクロッド,タワーバー若しくはアンダーカバーであることを特徴とする車両構造用の接続部材に係るものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は上述のように構成したから、既存の成形法で良好に製造することができ、しかも、軽量であることに加え、車両構造内に設ける部材として要求される高い剛性及び耐久性を有するなど、従来に無い極めて実用的な車両構造用の接続部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例1を示す斜視図である。
図2】実施例1の要部の断面図である。
図3】実施例1の使用状態説明図である。
図4】実施例1の要部を示す平面図である。
図5】実施例1の要部を示す平面図である。
図6】実施例1の要部を示す平面図である。
図7】実施例1の要部を示す平面図である。
図8】実施例1の製造工程説明図である。
図9】実施例1の製造工程説明図である。
図10】実施例1の製造工程説明図である。
図11】実施例1の製造工程説明図である。
図12】実施例1の製造工程説明図である。
図13】実施例1の製造工程説明図である。
図14】実施例1の製造工程説明図である。
図15】実施例2を示す斜視図である。
図16】実施例2の要部の断面図である。
図17】実施例2の要部を示す平面図である。
図18】実施例2の要部を示す平面図である。
図19】実施例2の要部を示す平面図である。
図20】実施例2の要部を示す平面図である。
図21】実施例2の要部を示す平面図である。
図22】実施例2の製造工程説明図である。
図23】実施例2の製造工程説明図である。
図24】実施例2の製造工程説明図である。
図25】実施例2の製造工程説明図である。
図26】実施例2の製造工程説明図である。
図27】実施例2の製造工程説明図である。
図28】実施例2の製造工程説明図である。
図29】実施例2の製造工程説明図である。
図30】実施例2の製造工程説明図である。
図31】実施例2の製造工程説明図である。
図32】実施例2の製造工程説明図である。
図33】実施例2の製造工程説明図である。
図34】比較試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0040】
本発明は、車両構造内の適宜な部位51,52に接続部2を介して接続され、当該部位51,52同士間に架設状態となる。
【0041】
例えば車両の走行時に、この車両構造内の適宜な部位51,52の少なくとも一方若しくは双方に荷重が掛かった場合、この車両構造内の適宜な部位51,52間に生じる力(引っ張りや曲げ、ねじりによる力)に良好に対応する。
【0042】
ところで、本発明は、繊維体3を複数積層した積層体4にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成された積層構造部1を有し、繊維体3として、一方向に引き揃えた炭素繊維束5を熱融着性繊維6で織成したものを採用しており、この繊維体3に熱を加えることで熱融着性繊維6の融着材を融解させると、炭素繊維束5が熱融着性繊維6と織成された状態で固着(ヒートセット)される。
【0043】
即ち、予め炭素繊維束5は固定されており、その後の加工、例えば、繊維体3を切断したり、繊維体3を複数積層した積層体4にマトリックス樹脂を含浸させたり、前述したオートクレーブ成形法,プレス成形法,RTM成形法及びVARTM成形法で成形したりなど、各製造工程において材料が変形したり、型崩れしたりしない。
【0044】
従って、既存の成形法により良好に製造することができ、ひいては、設計通りの構造が得られるから、車両構造用の接続部材として適する構造、即ち、軽量であることに加え、車両構造内に設ける部材として要求される高い剛性及び耐久性を有する構造が確実に得られることになる。
【実施例
【0045】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0046】
本実施例は、車両構造で使用され当該車両構造内の適宜な部位と接続する少なくとも2以上の接続部2を具備した車両構造用の接続部材Xであって、繊維体3を複数積層した積層体4にマトリックス樹脂を含浸硬化させて構成された積層構造部1(炭素繊維複合材料:CFRP)を有し、繊維体3として、一方向に引き揃えた炭素繊維束5を熱融着性繊維6で織成したものを採用し、接続部2は積層構造部1に固着された金属体7により構成されたものである。
【0047】
尚、本実施例では、車両構造用の接続部材Xとして、図3に図示したように車両50のサスペンション51とスタビライザー52とを連結するリンクロッドに適用しているが、その他にもタワーバー(左右のサスペンション51の車体取付部同士間に架設される棒状体)や、アンダーカバー(車体の底部に架設される板状体)など、自動車やバイクなどの車両50におけるパーツ同士間に架設され荷重を受ける車両構造用の接続部材Xに広く適用し得るものである。
【0048】
また、本実施例では、積層体4を構成する繊維体3として、炭素繊維束5と熱融着性繊維6とを経糸及び緯糸として織成して構成された一方向繊維体(カーボンファイバープリプレグ、以下、「CFプリプレグ」)が採用されている。
【0049】
この繊維体3(CFプリプレグ)を構成する炭素繊維束5は、複数の炭素繊維を撚らずに収束したものである(図4参照)。
【0050】
具体的には、この炭素繊維として、東レ株式会社製の炭素繊維(トレカT800HB 6K(223TEX:TEXは1000m当りのグラム数で、223TEXは1000m当りの重さが223gの繊維であることを表す。))を採用し、この複数本の炭素繊維を撚らずに収束している。尚、この炭素繊維束5を後述する緯糸のように炭素繊維を撚って収束した構成としても良いが、繊維ひとつひとつがらせん状になるため直線性が損なわれることと、樹脂含浸をし易くする為、撚らない方が望ましい。
【0051】
繊維体3(CFプリプレグ)を構成する熱融着性繊維6は、ガラス繊維と熱融着ナイロン繊維とを撚って収束したものであり、前述した炭素繊維束5より径小のものである。
【0052】
具体的には、ガラス繊維としては、ガラス繊維(ECG225 1/0(22.5TEX)を採用し、熱融着ナイロン繊維としては、東レ株式会社製の熱融着ナイロン繊維(エルダー110dTEX(11TEX))若しくはユニチカ株式会社製の熱融着ナイロン繊維(フロールM 330T36 110dTEX(11TEX))を採用し、このガラス繊維と熱融着ナイロン繊維とをZ撚り(左撚り)で120T/m(ツイストパーメートル:1m当りの撚り数を表す。120T/mは1m当り120回ツイスト=撚られているという意味)の撚り糸としている。
【0053】
本実施例は、前述した経糸(炭素繊維束5)と緯糸(熱融着性繊維6)とで一方向繊維体3を設ける際、経糸:35本/25mm、緯糸:3.0本/25mmの織り密度で、目付けが312g/mの経糸だけが炭素繊維からなり、緯糸はEガラス繊維と熱融着繊維からなり、幅1000-1080mm、長さ100mの織布を41インチレピア織機により製織する。織機は41インチレピア織機に限らず50インチレピア織機でも、エアージェット織機でもかまわない。
【0054】
尚、経糸は、前述したトレカT800HB 6K(223TEX)の代わりに、トレカT700SC 12K(1650TEX)を5.6本/25mmの織り密度とし、目付けを600g/mとしても良い。
【0055】
また、積層構造部1(CFRP)に高い強度が必要な場合、経糸に三菱ケミカル株式会社製のMR70 12P(415TEX)を18.0本/25mmの織り密度とし、目付けを300g/mとしても良い。
【0056】
一方、積層構造部1(CFRP)に高い弾性(剛性)が必要な場合、経糸に日本グラファイトファイバー株式会社製のXN-60-60S(890TEX)を8.5本/25mmの織り密度とし、目付けを300g/mとしても良い。
【0057】
また、経糸における炭素繊維の種類については、積層構造部1(CFRP)のキャラクター(例えば、高強度か、高弾性か)によって適宜選択し、その目付けが100から800g/mになるように経糸の織り密度を設計する。100g/m以下の目付け、800g/m以上の目付けは、机上では考えられるが、100g/m以下の目付けだと、所望の厚さにするために、その後の繊維体3(CFプリプレグ)の積層工程で数多くの積層枚数を重ねる必要がある。
【0058】
一方、800g/m以上の目付けの場合は、プリプレグにするための樹脂を塗工する工程で、樹脂の含浸が十分でなくなるリスクがあり、塗工スピードをゆっくりにする(遅くする)必要がある。どちらの場合も、工数がかかることになり、技術的な面からは考えられても、経済的な面からは。目付けが100から800g/mになるように設計することが望ましい。
【0059】
また、緯糸には、Eガラス繊維と熱融着ナイロン繊維を用い、その織り密度は1-5本/25mmとなるように、適宜、織り密度を設計する。
【0060】
経糸が多くなれは、重い目付けの織布が得られる。緯糸の織り密度が1本/25mmだと、後述するようにCFプリプレグを扇形に切断する場合、その弦の長さが25mm以下の場合、扇形に切断した後に炭素繊維がバラバラになってしまうので、切断する扇形の形状により経糸の織り密度を設計する。
【0061】
緯糸の織り密度が5本/25mmより多くなると、繊維体3(CFプリプレグ)を扇形に切断しても炭素繊維がバラバラになることはなくなるが、経糸と緯糸の屈回点が多くなるので、緯糸の織り密度の上限は5本/25mm(経糸の長さ方向の5mm間隔に緯糸が1本ある程度)が望ましい。
【0062】
前述したように炭素繊維束5と熱融着性繊維6とを経糸及び緯糸として織成し、この織布に150-170℃の熱ロールに3~5分間連続的に熱圧着して熱融着ナイロン繊維(エルダー110dTEXの繊維)に周回している低融点ナイロンを融解させる。
【0063】
このようにして得られる炭素繊維基材は、経糸が低融点ナイロンにより固着(ヒートセット)され、経糸の直交方向に引き裂いても目ズレが起こらなくなる。即ち、低融点ナイロン繊維を融解させずに経糸の直交方向に引き裂くと、経糸の目ズレや目スキが生じてしまう。ヒートセットされていることで、例えば、扇形にこの織布を切断しても経糸がほつれることがなく扇形形状を維持できる。尚、本実施例のようにヒートセットされていない通常の織布もしくは一方向を束ねただけの炭素繊維基材の場合は、例えば扇形形状で織布を切断した場合、織られた繊維がほつれてしまう。一方向を束ねた炭素繊維基材は形状を維持できずバラバラになってしまう。
【0064】
また、本実施例は、緯糸にガラス繊維と熱融着ナイロン繊維を用いることで、熱融解後に残ったガラス繊維は、プリプレグ製造工程で塗工されるエポキシ樹脂と相溶性が良い(防水スプレーの織布のように水をはじかないため、相互に接着する)という利点がある。尚、緯糸に炭素繊維と熱融着ナイロン繊維を用いても良いが、炭素繊維で最も細い東レ株式会社製の炭素繊維(トレカT300 1Kであっても66TEXなので、本実施例のガラス繊維(ECG225 1/0(22.5TEX)の約3倍の太さになり、緯糸の織り密度が5本/25mmのように密になってくると、経糸の直線性が損なわれるので、緯糸に炭素繊維を適用する場合は、緯糸を1本/25mmのように緯糸の織り密度を疎にする必要がある。
【0065】
また、前述のようにして得られた炭素繊維基材に、250F(120-130℃)硬化型もしくは350F(160-180℃)硬化型のエポキシ樹脂を溶剤法(樹脂を有機溶剤に溶かしてワニスにする方法)、もしくは無溶剤法(ホットメルト法)により、エポキシ樹脂を含浸させ加熱し、適度な半硬化状態(例えば、直接手で触って樹脂が手につかない程度のベタベタさ加減)になるようエポキシ樹脂含浸の塗工条件調整し、適度な半硬化状態の繊維体3(CFプリプレグ)を得る。
【0066】
一般的に、プリプレグ製造工程時にエポキシ樹脂を塗工する場合は、無溶剤系では横型(水平方向に温度ゾーンが伸びている塗工機)が用いられ、溶剤系では縦型(鉛直方向に温度ゾーンが伸びている塗工機)が用いられることが多い。
【0067】
一方向だけの繊維基材(緯糸なし)を引き揃えて縦型で塗工すると、含浸したエポキシ樹脂が鉛直の温度ゾーンで下方に流れてしまい、適切な樹脂含有率のコントロールができない欠点がある。
【0068】
また、本実施例のような緯糸:3.0本/25mmの織り密度での炭素繊維基材であってもヒートセットされていない構造の織布では、鉛直の温度ゾーンで樹脂が下方に流れ、緯糸下方に押し流すため目ズレがおこってしまい、織布の経糸と緯糸が直交する形態をなさなくなる欠点がある。一方向の繊維基材の場合は、無溶剤法であれ、溶剤法であれ、横型の塗工機を用いられることが一般的である。
【0069】
ところが、本実施例の炭素繊維の織布は経糸と緯糸がヒートセットされているため、縦型塗工機でも横型塗工機でも緯糸が流れることなく、経糸と緯糸が同一の繊維で、概同一の織り密度の炭素繊維の織布と同様に所望の樹脂含有率をコントロールできる。
【0070】
図34は、本実施例である炭素繊維(東レ株式会社製の炭素繊維 トレカT800HB 6K)から成る二種類の一方向繊維体(0度方向材と90度方向材)の交互積層のCFRPと、同じ炭素繊維による経糸、緯糸が交錯した織布(経糸が0度方向、緯糸が90度方向に)による積層のCFRPの引張特性、曲げ特性の比較である。
【0071】
引張、曲げとも強度に大きな差はないが、本実施例は、0度方向と90度方向との繊維の交錯がなく、繊維の屈回が小さいため、引張弾性率が従来例に比して15%以上、曲げ弾性率が従来例に比して50%以上の向上できる効果がある。
【0072】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0073】
<実施例1>
車両構造で使用される横断面が矩形(方形状)のリンクロッドXの製作方法を説明する。
【0074】
このリンクロッドXは、図1に示すように全長が280mm、幅が80mmの2穴のレーストラック型で、積層構造部1(CFRP)の左右両端部に後述する金属体7から成る接続部2が設けられたハイブリッド構造としている。
【0075】
金属体7は、図1,2に図示したように適宜な金属製の部材(7075材ジュラルミン)で構成され、直径φ20mm、長さ42mmの円柱状の本体7aの周面中央部には厚さ2mm、直径φ40mmとなる形状の鍔状部7bが機械加工される。
【0076】
尚、金属体7は仕上げ加工の際にφ11mmの孔7a’が設けられ、この孔中心間の距離が200mmに設定される。
【0077】
この鍔状部7bは、後述するように積層される繊維体3(CFプリプレグ)の層間に挟み込まれることになるので、鍔状部7bの外周は、リンクロッドXに力がかかった時の応力集中を避けるために直角でなくR形状になっており、このR形状は、重ね合わせ層(オーバーレイ層)となるので、金属体7と繊維体3(CFプリプレグ)の密着力が向上することに貢献する。
【0078】
また、前述のように設けられた方形シート状のCFプリプレグ(図示省略)を、全長が280mm、幅が80mmのレーストラック型に切断しており、具体的には、後述する4種類の繊維体3(第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3D)として形成する。
【0079】
尚、CFプリプレグの切断工程は、カッターや鋏などの切断具を用いた手作業での切断の他、レーザーカットマシンやプリプレグカットマシンによって、それぞれ切断しても良い。
【0080】
第一繊維体3Aは、図4に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となるように切断するピース:0度方向材)。
【0081】
第二繊維体3Bは、図5に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩上がり45度になるように切断するピース:+45度方向材)。尚、図5中のx軸は積層構造部1の長手方向、y軸は積層構造部1の長手方向と直交する方向である。
【0082】
第三繊維体3Cは、図6に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩下がり45度になるように切断するピース:-45度方向材)。尚、図6中のx軸は積層構造部1の長手方向、y軸は積層構造部1の長手方向と直交する方向である。
【0083】
第四繊維体3Dは、図7に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して直交するように切断するピース:90度方向材)。
【0084】
また、この第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3D夫々に対して金属体7を貫通させる部位(200mmの距離、両端部から40mmの位置の中央部)に切れ目9(スリット)を設ける。
【0085】
具体的には、図4,7に図示したように第一繊維体3A及び第四繊維体3Dには、0度と90度の方向にそれぞれ25~30mmの十字の切れ目9を入れ、図5,6に図示したように第二繊維体3B及び第三繊維体3Cには、+45度と-45度の方向にそれぞれ25-30mmの十字の切れ目9を夫々左右二箇所に形成する。
【0086】
尚、第一繊維体3A及び第四繊維体3Dに+45度と-45度の方向に十字の切れ目9を入れたり、一方、第二繊維体3B及び第三繊維体3Dに0度と90度の方向に十字の切れ目9を入れたりすると、十字が交差した三角部分の繊維が分断されて、金属体7の鉛直方向への重ね合せた部分(オーバーレイさせた部分)で炭素繊維が切れてしまうところが出来てしまい、接着力の保持、強度の保持、そして剛性の保持の面から望ましい態様ではない。
【0087】
次に、前述のようにして得られた第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3Dを積層(レイアップ積層)する。
【0088】
具体的には、図8に図示したように第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3Dの4枚を1組(単位積層材Y)とし、下から第四繊維体3D(90度方向材)、第三繊維体3C(-45度方向材)、第二繊維体3B(+45度方向材)、第一繊維体3A(0度方向材)の順番に積層する。尚、第二繊維体3Bと第三繊維体3Cの積層する順番を逆にしても良いが、金属体7の鍔状部7bが中心に軸対称になるように積層する。
【0089】
本実施例では、この単位積層材Yを8組設け、この8組の単位積層材Yを積層することで積層体4を設けており、この単位積層材Yを積層して積層体4を形成する際にはその左右部位に金属体7を設けている。
【0090】
具体的には、図9に図示したように単位積層材Yの最外層となる第一繊維体3A(0度方向材)を上方に向けた状態の4組の単位積層材Yの切れ目9に、金属体7の鍔状部7bよりも上方部位を貫通させて押し付けるとともに、単位積層材Yの最外層となる第一繊維体3A(0度方向材)を下方に向けた状態の4組の単位積層材Yの切れ目9に、金属体7の鍔状部7bよりも下方部位を貫通させて押し付けることで積層する。この際、金属体7の鍔状部7bの表面及び本体7aの周面には、繊維体3における切れ目9の周辺部位が重ね合せ状態(オーバーレイ状態)となる。尚、この重ね合せ状態となった繊維体3における金属体7の上下面よりも突出する部位は該上下面と面一となるように綺麗に切断される。
【0091】
このように積層することで、積層体4は、金属体7の鍔状部7bが位置する厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に第四繊維体3D、第三繊維体3C、第二繊維体3B、第一繊維体3Aの順番で対称に積層された平板形状となり、単位積層材Yが金属体7の鍔状部7bを境界に上方側と下方側夫々4組ずつ積層された合計32層の繊維体3から成る積層構造体Y’となる。
【0092】
尚、積層する単位積層材Yの数は任意であるが、金属体7の鍔状部7bを境界に上方側と下方側夫々に積層する数は同数が望ましい。
【0093】
また、本実施例では、前述した第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3Dとは別に、積層構造体Y’を被覆する被覆材としての第五繊維体3E及び第六繊維体3Fを設けている。
【0094】
具体的には、方形状のCFプリプレグを、幅170mm、長さ290mmの矩形になるように切断して2種類の繊維体3(第五繊維体3E及び第六繊維体3F)として形成する。
【0095】
第五繊維体3Eは、図10に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となるように切断するピース:0度方向材)。
【0096】
第六繊維体3Fは、図10に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して直交するように切断するピース:90度方向材)。
【0097】
また、この第五繊維体3E及び第六繊維体3Fに対して金属体7を貫通させる部位(200mmの距離、両端部から45mmの位置の中央部)に切れ目10(スリット)を設ける。
【0098】
具体的には、第五繊維体3E及び第六繊維体3Fには、図10に図示したように0度と90度の方向にそれぞれ25~30mmの十字の切れ目10を夫々前後左右四箇所(四隅)に形成する。
【0099】
次に、前述のようにして得られた第六繊維体3Fを図10に図示したように積層構造体Y’の左方から右方に柏餅を包む(くるむ)ように積層する。この際、第六繊維体3Fの上下左右の切れ目10に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0100】
更に、第五繊維体3Eを第六繊維体3Fで包まれた(くるまれた)ものの右方から左方に柏餅をつつむ(くるむ)ようにする。この際、第五繊維体3Eの上下左右の切れ目10に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0101】
このようにして最外層が第五繊維体3E(0度方向材)と第六繊維体3F(90度方向材)とにより左右から袋綴じ状に設けられたボックス構造の積層構造体Zとなる(図11参照)。尚、この第五繊維体3E及び第六繊維体3Fは、先に第五繊維体3Eをくるんでから、第六繊維体3Fをくるむ構造でも良い。
【0102】
また、本実施例で製造されるリンクロッドXにねじり剛性が必要な場合は次の被覆材を設けても良い。
【0103】
具体的には、方形状のCFプリプレグを、幅170mm、長さ290mmの矩形になるように切断して2種類の繊維体3(図示省略の第七繊維体及び第八繊維体)として形成する。
【0104】
第七繊維体は、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩上がり45度になるように切断するピース:+45度方向材)。
【0105】
第八繊維体は、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩下がり45度になるように切断するピース:-45度方向材)。
【0106】
また、この第七繊維体及び第八繊維体に対して金属体7を貫通させる部位(200mmの距離、両端部から45mmの位置の中央部)に切れ目(スリット)を設ける。
【0107】
具体的には、第七繊維体及び第八繊維体には、+45度と-45度の方向にそれぞれ25~30mmの十字の切れ目を夫々前後左右四箇所(四隅)に形成する。
【0108】
次に、前述のようにして得られた第八繊維体を積層構造体の左方から右方に柏餅を包む(くるむ)ように積層する。この際、第八繊維体の上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0109】
更に、第七繊維体を第八繊維体で包まれた(くるまれた)ものの右方から左方に柏餅をつつむ(くるむ)ようにする。この際、第七繊維体の上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0110】
このようにして最外層が第七繊維体(+45度方向材)と第八繊維体(-45度方向材)とにより左右から袋綴じ状に設けられたボックス構造になる。尚、この第七繊維体及び第八繊維体は、先に第七繊維体をくるんでから、第八繊維体をくるむ構造でも良く、更に、第五繊維体3E,第六繊維体3F,第七繊維体及び第八繊維体の全てを積層構造体Y’に対して左方と右方から交互にくるむように積層しても良い。
【0111】
次に、積層構造体Zは繊維体3の積層方向に貫通する糸8で止着されている。
【0112】
具体的には、千吉 タタミ用サシ針(発売元:藤原産業株式会社)No.11にトレカT800HB 6K(223TEX)1本(ないし2本)を通した状態とし、図12に図示したように平面方向から見て左右の金属体7の周囲にして水平方向、垂直方向、+45度方向、-45度方向の8箇所を、上下面に表出する縫い目が放射状となるように糸8を切断することなくの貫層方向に縫いこんで行く。縫い込みの始点の糸をあまらせておいて、周状に縫い終わったら、始点の糸と終点の糸を結んでおく。
【0113】
このサシ針に通す糸(炭素繊維)は、トレカT800HB 6K(223TEX)の他、例えば、トレカT800HBよりも強度の高い三菱ケミカル株式会社製のMR70 12P(415TEX)でも良い。サシ針に通す炭素繊維は、その伸度から、ピッチ系(伸度0.4-0.8%)ではなく、PAN(パン:ポリアクリロニトリル)系(伸度1.7-1.9%)の方が望ましい。
【0114】
通常、炭素繊維の織布の経糸と緯糸の織り密度は、ほぼ同じ織り密度(例えば、東レ株式会社製の炭素繊維 トレカT300 3K(198TEX)経糸:12.5本/25mm、緯糸:12.5本/25mmの織り密度で、目付けが198g/m)であることが多く、この織布を前述した積層構造体Zのように積層すると、この積層構造体Zの糸目が密になりすぎてしまい、サシ針を貫通させることは難しい。本実施例の繊維体3(CFプリプレグ)の場合、緯糸が疎になっていてサシ針を貫通させること容易であるため、貫層方向にサシ針で縫い込んでいくことが可能となる。
【0115】
また、左右の金属体7の周囲を縫い終わった積層構造体Zにおける平面部分(金属体7同士の間)においても、千吉 タタミ用サシ針(発売元:藤原産業株式会社)No.11にトレカT800HB 6K(223TEX)1本(ないし2本)を通した状態とし、図13に図示したように積層構造体Zの長さ方向に1cm間隔で貫層方向に縫い込んでいく。平面方向から見ると、1cmの糸8が表層にあって、1cmの糸8が裏層にあるので、表層の糸が1cmの間隔で見えていることになる。これを幅80mmの全幅に渡って行い、具体的には、積層構造体Zの一端側から他端側まで縫った後は、前後方向に位置を変えた後に、他端側から一端側まで縫い、この往復する縫込み工程を複数回行うことで縫込み列が複数形成される。また、隣接する縫込み列の縫い目を合わせずに千鳥格子のように糸目をずらすことが望ましい。最終的に幅80mmの積層構造体Zの平面部分(金属体7同士の間)に7列の縫込み列が見えることになる。
【0116】
前述した縫込み工程を経て積層構造体Zは積層体4となる。
【0117】
尚、本実施例では、なみ縫いを例示しているが、縫い方は半返し縫い、本返し縫いであっても良い。半返し縫い、本返し縫いは、波縫いに比べて貫層方向への糸の密度が高くなるので、積層体4の層間剥離を抑えることができる一方、NCFのように繊維を縛ることになるので、一つ目と2つ目の半返し、本返しのピッチは、塗工されたプリプレグの樹脂の粘度や積層の枚数に応じて、適宜設定することが望ましい。
【0118】
また、本実施例では縫い込み工程を手作業で行っているが、同様な縫合形態が得られるのであれば、上糸と下糸があるミシンのような機構の縫合形態でも良い。
【0119】
次に、積層体4にエポキシ樹脂を塗布し、これを所定の金型にセットし、所定の硬化条件でオートクレーブ成形、もしくはプレス成形により圧力を加え加熱することでエポキシ樹脂の硬化が進み、CFRP部材が得られる(図14)。尚、RTM成形法及びVARTM成形法でも同様に積層、縫合することで成形は可能である。
【0120】
この得られたCFRP部材はボックス構造の積層工程で両端部が矩形になっているので、両端部を円弧状に機械加工するとともに、金属体7は中実になっているので、所定のピッチの200mmで直径φ11mmの貫通孔を形成することで仕上げ加工が施されリンクロッドXが完成する(図1参照)。
【0121】
例えば、このリンクロッドXの左端を固定し、右端を上下方向に力をかけても、縫合している炭素繊維により、曲げモーメントに対する積層構造部1の層間剥離は防止される。
【0122】
また、このリンクロッドXの左端を固定し、右端を回転させるねじり方向に力をかけても、積層構造部1の第二繊維体3B(+45度層)、第三繊維体3C(-45度層)、そして、第五繊維体3E、第六繊維体3Fのボックス構造の層により、通常の積層体よりも、ねじり剛性が向上し、さらに縫合している炭素繊維により、ねじり力による積層構造部1の層間剥離が防止されることになる。
【0123】
また、本実施例の積層構造部1は、前述したように厚さ方向中央部を境界に上方向及び下方向夫々に第四繊維体3D、第三繊維体3C、第二繊維体3B、第一繊維体3Aの順番で対称に積層されており、積層構成起因のひずみを軽減することができる。
【0124】
この横断面軸対称の積層構成で積層したCFRP材は、反り、ねじれのない成形品が得られた。積層構成による内部ひずみや成形後の硬化収縮による積層構成のひずみの増長を抑えるために、この本実施例のように枚様のプリプレグを層状に積層していく場合、横断面は軸対称に積層することが望ましい。
【0125】
本実施例は上述のように構成したから、以下の効果を奏する。
【0126】
一方向の配向の繊維の配向でありながら、プリプレグ状態でなくても(樹脂を含浸しなくても)、経糸や緯糸がバラバラにならないので、所望の形で切断し、型(金型)に賦形できる。
【0127】
また、Cloth基材による塗工機によるプレプレグ塗工も可能で、そのプリプレグ塗工では、標準のUDプリプレグに適用している横型塗工機であっても、標準のUDプリプレグには適用できない縦型塗工機(主にClothプリプレグに適用する塗工機)であっても塗工ができ、しかも、無溶剤系、溶剤系の樹脂配合のエポキシ樹脂、横型、縦型の塗工機の種類に関係なく、全ての樹脂配合、塗工機に適用でき、所望の樹脂含有率のコントロールができる。
【0128】
また、本実施例は、経糸が密、緯糸が疎のため、貫層方向に積層体4を糸8により縫合することが容易で層間剥離を防止することができる。
【0129】
即ち、CFRP材では、多くの場合、接続部2におけるボルト締結周囲の疲労と応力集中により積層体の層間剥離が発生し、ボルト締結が緩んだり、(ボルト)締結周囲のCFRP材が疲労破壊したりすることがあるが、本実施例の接続部はR形状の鍔状部7bを有する金属体7とCFRPの重ね合わせ(オーバーレイ)により応力集中を避ける構造になっている。さらに、その接続部2の周囲とその間を貫層方向に縫込むことでCFRP材の疲労部材で最も懸念される層間剥離を抑制することができる。
【0130】
また、本実施例の一方向繊維体を用いれば、ロボットハンドにより積層する場合、樹脂含浸しない炭素繊維の一方向材であっても、樹脂含浸した状態のプリプレグであっても、経糸がヒートセットされているためにロボットハンドによる握持をしても繊維がバラバラになることはない。
【0131】
また、RTM成形法、VARTM成形法に適し、プレス成形法、オートクレーブ成形法にも適用できる。
【0132】
<実施例2>
車両構造で使用される横断面が丸形(円形状)のリンクロッドXの製作方法を説明する。
【0133】
このリンクロッドXは、図15に示すように全長が250m、横断面が丸形状の胴体部と横断面が矩形形状の両端部を有しており、積層構造部1(CFRP)の左右両端部に後述する金属体7から成る接続部2が設けられたハイブリッド構造としている。
【0134】
金属体7は、図15,16に図示したように適宜な金属製の部材(7075材ジュラルミン)で構成され、直径φ15mm、長さ42mmの円柱状の本体7aの周面中央部には厚さ2mm、直径φ28mmとなる形状の鍔状部7bが機械加工される。
【0135】
尚、金属体7は仕上げ加工の際にφ8.5mmの孔7a’が設けられ、この孔中心間の距離が200mmに設定される。
【0136】
この鍔状部7bは、後述するように積層される繊維体3(CFプリプレグ)の層間に挟み込まれることになるので、鍔状部7bの外周は、リンクロッドXに力がかかった時に応力集中を避けるために直角でなくR形状になっており、このR形状は、重ね合わせ層(オーバーレイ層)となるので、金属体7と繊維体3(CFプリプレグ)の密着力が向上することに貢献する。
【0137】
また、前述のように設けた方形シート状のCFプリプレグ(図示省略)を、所定の大きさの長方形に切断しており、具体的には、後述する4種類の繊維体3(第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3D)として形成する。
【0138】
尚、CFプリプレグの切断工程は、カッターや鋏などの切断具を用いた手作業での切断の他、レーザーカットマシンやプリプレグカットマシンによって、それぞれ切断しても良い。
【0139】
第一繊維体3Aは、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となるように切断するピース:0度方向材)。
【0140】
本実施例では、第一繊維体3Aとして、図17に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ92+5/-0mm)の第一繊維体3A’と、図21に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ570+5/-0mm)の第一繊維体3A”との二種類の大きさを設けている。
【0141】
また、小さい第一繊維体3A’には、長さ92mmとなる左右端縁部に白色部11が施されている(後に、巻回して軸状とした際に横断面中央部が丸の白色部11となり、この白色部11が丸断面の中心の目印となる。)。
【0142】
第二繊維体3Bは、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩上がり45度になるように切断するピース:+45度方向材)。
【0143】
本実施例では、第二繊維体3Bとして、図18に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ138+5/-0mm)の第二繊維体3B’と、図20に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ353+5/-0mm)の第二繊維体3B”との二種類の大きさを設けている。尚、図18,20中のx軸は積層構造部1の長手方向、y軸は積層構造部1の長手方向と直交する方向である。
【0144】
また、図18,20に図示したように第二繊維体3Bと後述する第三繊維体3Cについては、2種類の同じ大きさのものを予め重ね合わせており、この各大きさの重ね合わせた第二繊維体3B及び第三繊維体3Cを2種類設けている。
【0145】
第三繊維体3Cは、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩下がり45度になるように切断するピース:-45度方向材)。
【0146】
本実施例では、第三繊維体3Cとして、図18に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ138+5/-0mm)の第三繊維体3C’と、図20に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ353+5/-0mm)の第三繊維体3C”との二種類の大きさを設けている。
【0147】
第四繊維体3Dは、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して直交するように切断するピース:90度方向材)。
【0148】
本実施例では、第四繊維体3Dとして図19に図示した大きさ(幅250+5/-0mm、長さ648+5/-0mm)の第四繊維体3Dを設けている。
【0149】
次に、前述のようにして得られた第一繊維体3A(第一繊維体3A’・第一繊維体3A”),第二繊維体3B(第二繊維体3B’・第二繊維体3B”),第三繊維体3C(第三繊維体3C’・第三繊維体3C”)及び第四繊維体3Dを巻回して積層構造体y’を得る。
【0150】
この積層構造体y’は、第一繊維体3A’を巻回して設けられる第一層部4Aと、第二繊維体3B’及び第三繊維体3C’を重ね合わせた状態で第一層部4Aの周囲に巻回して設けられる第二層部4Bと、第四繊維体3Dを第二層部4Bの周囲に巻回して設けられる第三層部4Cと、第二繊維体3B”及び第三繊維体3C”を重ね合わせた状態で第三層部4Cの周囲に巻回して設けられる第四層部4Dと、第一繊維体3Aを第四層部4Dの周囲に巻回して設けられる第五層部4Eとを有する棒形状である。
【0151】
尚、第二繊維体3B及び第三繊維体3Cにおける重ね合わせは、どちらを外側としても内側としても良い。
【0152】
具体的には、第一繊維体3A’(0度方向材)を、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行(0度)となるように巻回する(図22中(a))。この際、巻回開始時点における巻回開始端部に位置する1本目の炭素繊維束5と隣の2本目の炭素繊維束5を重ね合わせるようにし巻回して中心体を作り、この中心体をさらに次の3本目の炭素繊維束5を重ね合わせるようにして、それ以降、第一繊維体3A’のだぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)中心体の外径を大きくしていく。結果として、第一繊維体3A’により概ね直径6mmの円柱体(第一層部4A)が形成される。
【0153】
続いて、第一繊維体3A’で構成される直径6mmの第一層部4Aの巻回終了端部から2~3mm離れた位置に、重ね合わせた第二繊維体3B’(+45度方向材)及び第三繊維体3C’(-45度方向材)の巻回開始端部を、プリプレグのタック(粘着性)を利用して貼着させ、だぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)巻回すると(図22中(b))、第二層部4Bが形成される。結果として、第一繊維体3A’,第二繊維体3B’及び第三繊維体3C’により概ね直径12mmの円柱体が形成される。
【0154】
この際、図23のように、第一層部4A(第一繊維体3A’)の巻回方向と第二層部4B(第二繊維体3B’及び第三繊維体3C’)の巻回方向とは異なる方向としている。即ち、第一層部4Aの巻回方向が時計回りなら、第二層部4Bの巻回方向は反時計回りにする。
【0155】
続いて、第二繊維体3B’及び第三繊維体3C’で構成される第二層部4Bの巻回終了端部から2~3mm離れた位置に、第四繊維体3D(90度方向材)の巻回開始端部を、プリプレグのタック(粘着性)を利用して貼着させ、だぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)巻回すると(図22中(c))、第三層部4Cが形成される。結果として、第一繊維体3A’,第二繊維体3B’,第三繊維体3C’及び第四繊維体3Dにより概ね直径20mmの円柱体が形成される。
【0156】
この際、第二層部4Bの巻回方向と第三層部4Cの巻回方向とは異なる方向としている。即ち、第二層部4Bが反時計回りなら、第三層部4Cの巻回方向は時計回りにする。
【0157】
ちなみに、第一繊維体3A’(0度方向材)を巻回した層の外周に第四繊維体3D(90度方向材)を巻回する構成としても良いが、経糸に直交する方向に巻回すると(炭素繊維束5が折られる方向に巻回すると)、炭素繊維束5のスプリングバックが生じてしまい、円柱体を形成することが極めて難しい。
【0158】
このスプリングバック現象は、経糸と緯糸の密度がほぼ同Cloth材でも起こる現象で、本実施例の一方向の繊維基材の場合は、円柱体の外径が小さい場合でも、前述したように第一繊維体3A’を巻回すればスプリングバックせずに巻回が可能となる。
【0159】
そして、この経糸に直交する方向に巻回するスプリングバック現象は、外径が小さければ小さいほど顕著に発生するが、本実施例のように外径が12mmになるとプリプレグのタック(粘着性)を利用することで繊維体のだぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)中心体の外径を大きくしていくことが可能となる。本発明者等の試作においては、第四繊維体3D(90度方向材)を巻回積層する場合は、その被積層巻回体の外径は概ね10mm以上が望ましい。10mm以上であれば、プリプレグの樹脂の粘着力によってスプリングバック現象を抑えることができ、プリプレグのだぶつきもない状態で巻回積層することができる。
【0160】
続いて、第四繊維体3Dで構成される第三層部4Cの巻回終了端部から2~3mm離れた位置に、重ね合わせた第二繊維体3B”(+45度方向材)及び第三繊維体3C”(-45度方向材)の巻回開始端部を、プリプレグのタック(粘着性)を利用して貼着させ、だぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)巻回すると(図22中(d))、第四層部4Dが形成される。結果として、第一繊維体3A’,第二繊維体3B’,第三繊維体3C’,第四繊維体3D,第二繊維体3B”及び第三繊維体3C”により概ね直径26mmの円柱体が形成される。
【0161】
この際、第三層部4Cの巻回方向と第四層部4Dの巻回方向とは異なる方向としている。即ち、第三層部4Cの巻回方向が時計回りなら、第四層部4Dの巻回方向は反時計回りにする。
【0162】
続いて、第二繊維体3B”及び第三繊維体3C”で構成される第四層部4Dの巻回終了端部から2~3mm離れた位置に、第一繊維体3A”(0度方向材)の巻回開始端部を、プリプレグのタック(粘着性)を利用して貼着させ、だぶつきがないように(前層との間にすき間がないように)巻回すると(図22中(e))、第五層部4Eが形成される(図22中(f))。結果として、第一繊維体3A’,第二繊維体3B’,第三繊維体3C’,第四繊維体3D,第二繊維体3B”,第三繊維体3C”及び第一繊維体3A”により概ね直径30mmの円柱体が形成される。
【0163】
この際、第四層部4Dの巻回方向と第五層部4Eの巻回方向とは異なる方向としている。即ち、第四層部4Dの巻回方向が反時計回りなら、第五層部4Eの巻回方向は時計回りにする。
【0164】
前述のようにして得られた積層構造体y’は巻回積層された円柱体となるので、直径断面では軸対称になるが、半径断面で軸対称にしている。本実施例の巻回積層構成は、半径断面でも0度/±45度/90度/±45度/0度の軸対称になっていて、積層構成起因のひずみを軽減することができる。
【0165】
具体的には次の通りである。
【0166】
第一層部4Aは、内径0mm―外径6mmで、円柱体の長さ方向に対して0度方向の繊維配向(円柱体の長さ方向に対して繊維の配置方向が平行)である。
【0167】
第二層部4Bは、内径6mm-外径12mmで、円柱体の長さ方向に対して±45度方向の繊維配向(円柱体の長さ方向に対して繊維の配置方向が±45度)である。
【0168】
第三層部4Cは、内径12mm-外径20mmで、円柱体の長さ方向に対して90度方向の繊維配向(円柱体の長さ方向に対して繊維の配置方向が90度)である。
【0169】
第四層部4Dは、内径20mm-外径26mmで、円柱体の長さ方向に対して±45度方向の繊維配向(円柱体の長さ方向に対して繊維の配置方向が±45度)である。
【0170】
第五層部4Eは、内径26mm―外径30mmで、円柱体の長さ方向に対して0度方向の繊維配向(円柱体の長さ方向に対して繊維の配置方向が平行)である。
【0171】
前述のスプリングバック現象を避けることと、積層構成起因のひずみの軽減から中心層となる第三層部4Cに90度の繊維配向層を積層配置している。90度の繊維配向層は半径方向に軸対称になれば、本実施例のように中心層となる第三層部4Cに積層配置しなければならないということはない。
【0172】
例えば、第一層部4Aに第一繊維体3A(0度方向材)を外径で、例えば、12mmにまで巻回させ、第二層部4Bに第四繊維体3D(90度方向材)を外径で、例えば、18mmにまで巻回させ、第三層部4Cに重ね合わせた第二繊維体3B(+45度方向材)及び第三繊維体3C(-45度方向材)を外径で、例えば、22mm程度にまで巻回させ、第四層部4Dに第四繊維体3D(90度方向材)を外径で、例えば、28mm程度にまで巻回させ、第五層部4Eに第一繊維体3A(0度方向材)を外径で、例えば、30mm程度にまで巻回させるという、半径断面で0度/90度/±45度/90度/0度の半径方向の軸対称の巻回積層構成となっても良い。
【0173】
各層の厚さについては、所望の曲げ、ねじり特性に対して、CAE(Computer Aided Engineering)などのシミュレーションや試作を繰り返して最適化を行うことで定めれば良い。この半径方向の軸対称の巻回積層構成にすることで硬化後の積層構成による内部ひずみを抑えることができる。
【0174】
また、前の層が時計回りの巻回積層の場合、次の層を反時計回りの巻回積層にすることで、硬化後の積層構成による内部ひずみを抑えることができる。本発明者等は試作の時に、全てが時計回りの巻回積層構成の場合は、円柱体を成形後に反りやねじれが発生することがあった。それぞれの層を時計回り/反時計回りとすることで円柱体の反り、ねじれの発生を抑えることができた。
【0175】
次に、これらの工程を経て得られた円柱体の積層構造体y’の中心には、前述したように第一繊維体3A’の左右端縁部に付された白色により形成された白色部11がある。
【0176】
この積層構造体y’の一端部を、この白色部11を目印として、3時-9時の線でカッターにより長さ50mmまで切込み12を入れ、この切込み12の間に二つ折りの離型フィルム13を挟み、この離型フィルム13の上部の繊維の束の切込み12を入れた端部側を、45mmまで扇形状に拡げると共に、同様に離型フィルム13の下部の繊維の束を45mmまで扇形に拡げる(図24,25)。
【0177】
ちなみに、この繊維を扇形に拡げる工程は、プリプレグの流動性と粘着力を利用して拡げることになるが、最外層になっている第一繊維体3A’(0度方向材)が最も拡げ易い。もし、プリプレグの流動性が十分でない場合は、この切込み12を入れた部分をヘアードライヤー等で加温することで繊維を拡げ易くなる。
【0178】
また、前述の切込みと炭素繊維束5の扇形の拡幅を積層構造体y’の他端部についても同様に行う。他端部に切込みを入れる際には、既に切込みと拡幅を行っている一端部の3時-9時の位置と同じ線上の位置となるように位相を合わせて切込みと拡幅を行う。
【0179】
本発明者らの試作では、本実施例の直径が30mmの円柱体の積層構造体y’の場合、扇形に拡げられる繊維の束は30mmの1.5倍の45mm程度が望ましいことが分かった。直径30mmの繊維の束を50mmの長さで45mmまで拡げる場合、扇形に拡げる角度(=扇形の根元の角度)は8.5度(=Arc Tan(7.5/50))となる。この繊維の束を扇形に拡げる角度を概ね10度以下にすると45mmの幅にほぼ均等な厚さで繊維を扇形に拡げることができた。例えば、30mmの直径の円柱体の積層構造体y’を2倍の幅の60mmまで均等な厚さで扇形に拡げることは難しい。この30mmの直径の円柱体の積層構造体y’を2倍の幅の60mmにまで扇形に拡げる場合には、角度にして(Arc Tan(15/50=)16.7度になる。扇形に拡げる幅は円柱体の積層構造体y’の直径の概ね1.5倍で、その角度は10度以下が好適である。この扇形に拡げる幅と角度(=扇形の根元の角度)を考慮しつつ、切込み長さを定めることが望ましい。
【0180】
次に、図25に図示したように前述のようにして得られた扇形の部分の両端部から25mmの位置に長さ方向に対して、+45度と-45度の方向にそれぞれ25-30mmの十字の切れ目14(スリット)を夫々左右両端部に設ける。この切れ目14は、離型フィルム13を貫通させて全層を行っても良いし、二つ折りにされた離型フィルム13の層間に下敷きのようなダミー板を挟んで離型フィルム13の上側の繊維体に十字の切れ目14を入れた後、ひっくり返して離型フィルム13の下側の繊維体に十字の切れ目14を入れても良い。
【0181】
次に、図26,27に図示したように離型フィルム13を抜去し、その離型フィルム13の位置に金属体7の鍔状部7bが位置するように配置し、離型フィルム13よりも上側の繊維体の十字の切れ目14に鍔状部7bよりも上方の本体7aを貫通させ、同様に離型フィルム13よりも下側の繊維体の十字の切れ目14に鍔状部7bよりも下方の本体7aを貫通させる。
【0182】
この扇形の繊維体の十字の切れ目14部分に、貫通させた金属体7の鍔状部7bの上下面(水平面)に繊維体の十字の切れ目14のない部分を押し付け、繊維体の切れ目14部分を本体7aの周面(鉛直面)にも押し付けて重ね合わせる。この水平面から鉛直面への繊維体の繊維のつながりが、金属体7への重ね合わせ状態(オーバーレイ状態)となり、金属体7と積層構造部1(CFRP)との接着力を堅固にできる。
【0183】
また、本実施例では、前述した第一繊維体3A,第二繊維体3B,第三繊維体3C及び第四繊維体3Dとは別に、積層構造体y’を被覆する被覆材としての第五繊維体3E及び第六繊維体3Fを設けている。
【0184】
具体的には、方形状のCFプリプレグを、幅100mm、長さ200mmの矩形になるように切断して2種類の繊維体3(第五繊維体3E及び第六繊維体3F)として形成する。
【0185】
第五繊維体3Eは、図27に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となる0度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して平行となるように切断するピース:0度方向材)。
【0186】
第六繊維体3Fは、図27に図示したように炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する90度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して直交するように切断するピース:90度方向材)。
【0187】
また、この第五繊維体3E及び第六繊維体3Fに対して金属体7を貫通させる部位(200mmの距離、両端部から25mmの位置の中央部)に切れ目15(スリット)を設ける。
【0188】
具体的には、第五繊維体3E及び第六繊維体3Fには、図27に図示したように0度と90度の方向にそれぞれ20~25mmの十字の切れ目を夫々前後左右四箇所(四隅)に形成する。
【0189】
次に、前述のようにして得られた第六繊維体3Fを図27に図示したように積層構造体yの右方から左方に柏餅を包む(くるむ)ように積層する。この際、第六繊維体3Fの上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0190】
更に、第五繊維体3Eを第六繊維体3Fで包まれた(くるまれた)ものの左方から右方に柏餅をつつむ(くるむ)ようにする。この際、第五繊維体3Eの上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0191】
このようにして最外層が第五繊維体3E(0度方向材)と第六繊維体3F(90度方向材)とにより左右から袋綴じ状に設けられたボックス構造の積層構造体Zとなる(図28参照)。尚、この第五繊維体3E及び第六繊維体3Fは、先に第五繊維体3Eをくるんでから、第六繊維体3Fをくるむ構造でも良い。
【0192】
また、本実施例で製造されるリンクロッドXにねじり剛性が必要な場合は次の被覆材を設けても良い。
【0193】
具体的には、方形状のCFプリプレグを、幅100mm、長さ200mmの矩形になるように切断して2種類の繊維体3(図示省略の第七繊維体及び第八繊維体)として形成する。
【0194】
第七繊維体は、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する+45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩上がり45度になるように切断するピース:+45度方向材)。
【0195】
第八繊維体は、炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して交差する-45度に設定されている(CFプリプレグを炭素繊維束5の長手方向が積層構造部1の長手方向に対して右肩下がり45度になるように切断するピース:-45度方向材)。
【0196】
また、この第七繊維体及び第八繊維体に対して金属体7を貫通させる部位(200mmの距離、両端部から45mmの位置の中央部)に切れ目(スリット)を設ける。
【0197】
具体的には、第七繊維体及び第八繊維体には、+45度と-45度の方向にそれぞれ25~30mmの十字の切れ目を夫々前後左右四箇所(四隅)に形成する。
【0198】
次に、前述のようにして得られた第八繊維体を積層構造体y’の左方から右方に柏餅を包む(くるむ)ように積層する。この際、第八繊維体の上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0199】
更に、第七繊維体を第八繊維体で包まれた(くるまれた)ものの右方から左方に柏餅をつつむ(くるむ)ようにする。この際、第七繊維体の上下左右の切れ目に対して金属体7の上下部位を貫通させて鍔状部7b及び本体7aへの押し付けを行う。
【0200】
このようにして最外層が第七繊維体(+45度方向材)と第八繊維体(-45度方向材)とにより左右から袋綴じ状に設けられたボックス構造になる。尚、この第七繊維体及び第八繊維体は、先に第七繊維体をくるんでから、第八繊維体をくるむ構造でも良く、更に、第五繊維体3E,第六繊維体3F,第七繊維体及び第八繊維体の全てを積層構造体yに対して左方と右方から交互にくるむように積層しても良い。
【0201】
次に、積層構造体Zは繊維体3の積層方向に貫通する糸8で止着されている。
【0202】
具体的には、千吉 タタミ用サシ針(発売元:藤原産業株式会社)No.11にトレカT800HB 6K(223TEX)1本(ないし2本)を通した状態とし、図29に図示したように平面方向から見て左右の金属体7の周囲にして水平方向、垂直方向、+45度方向、-45度方向の8箇所を、上下面に表出する縫い目が周方向を向くように糸8を切断することなくの貫層方向に縫いこんで行く。縫い込みの始点の糸をあまらせておいて、周状に縫い終わったら、始点の糸と終点の糸を結んでおく。
【0203】
このサシ針に通す糸(炭素繊維)は、トレカT800HB 6K(223TEX)の他、例えば、トレカT800HBよりも強度の高い三菱ケミカル株式会社製のMR70 12P(415TEX)でも良い。サシ針に通す炭素繊維は、その伸度から、ピッチ系(伸度0.4-0.8%)ではなく、PAN(パン:ポリアクリロニトリル)系(伸度1.7-1.9%)の方が望ましい。
【0204】
通常、炭素繊維の織布の経糸と緯糸の織り密度は、ほぼ同じ織り密度(例えば、東レ株式会社製の炭素繊維 トレカT300 3K(198TEX)経糸:12.5本/25mm、緯糸:12.5本/25mmの織り密度で、目付けが198g/m)であることが多く、この織布を前述した積層構造体Zのように積層すると、この積層構造体Zの糸目が密になりすぎてしまい、サシ針を貫通させることは難しい。本実施例の繊維体3(CFプリプレグ)の場合、緯糸が疎になっていてサシ針を貫通させること容易であるため、貫層方向にサシ針で縫い込んでいくことが可能となる。
【0205】
また、左右の金属体7の周囲を縫い終わった積層構造体Zにおける断面円形状部分(金属体7同士の間である直径30mm、長さ150mmの部分)においても、千吉 タタミ用サシ針(発売元:藤原産業株式会社)No.11にトレカT800HB 6K(223TEX)1本(ないし2本)を通した状態とし、図30,31に図示したように積層構造体Zの長さ方向にして12時から6時の方向に1cm間隔で貫層方向に縫い込んでいく。この時、後でこの貫層方向に縫い込んだ糸を結ぶために100~200mmの糸8を余らせておく。
【0206】
平面方向から見ると、1cmの糸8が表層にあって、1cmの糸8が裏層にあるので、12時の表層の糸が1cmの間隔で見えていることになる。これを幅150mmの全幅に渡って行う。
【0207】
具体的には、積層構造体Z(断面円形状部)の一端側から他端側までの長さにして150mmの12時-6時の部分を縫った後は、他端側では6時から12時の方向に縫い込んだ糸8が出てくる。この糸8を切らずに3時から9時の方向に1cm間隔で貫層方向に縫い込んでいく。上方から見ると、1cmの糸8が3時の側の層にあって、1cmの糸8が9時の層にあるので、それぞれの層からは、貫通した糸が1cm間隔で見えていることになる。これを断面円形状部の150mmの全長に渡って行う。
【0208】
また、積層構造体Z(断面円形状部)の他端側から一端側に向かって、長さにして150mmの3時-9時の部分を縫い終わったら、一端側では9時から3時の方向に縫い込んだ糸8が出てくる。この糸8を切らずに、図32のように、時計の短針が4時30分の位置から10時30分の位置に向かって1cm間隔で貫層方向に縫い込んでいく。上方から見ると、1cmの糸が10時30分の短針の側の層にあって、1cmの糸が4時30分の短針の層にあるので、それぞれの層からは、貫通した糸が1cm間隔で見えていることになる。これを断面円形状部の150mmの全長に渡って行う。
【0209】
また、積層構造体Z(断面円形状部)の一端側から他端側に向かって、長さにして150mmの10時30分-4時30分の短針の位置の部分を縫い終わったら、他端側では10時30分-4時30分の方向に縫い込んだ糸が出てくる。この糸8を切らずに、図32のように、時計の短針が1時30分の位置から7時30分の位置に向かって1cm間隔で貫層方向に縫い込んでいく。上方から見ると、1cmの糸が1時の側の層にあって、1cmの糸が7時の層にあるので、それぞれの層からは、貫通した糸が1cm間隔で見えていることになる。これを断面円形状部の150mmの全長に渡って行う。
【0210】
また、積層構造体Z(断面円形状部)の他端側から一端側に向かって、長さにして150mmの1時30分-7時30分の短針の位置の部分を縫い終わったら、一端側では7時30分-1時30分の方向に縫い込んだ糸8が出てくる。この糸8を切らずに、図32のように、あらかじめ12時-6時の方向に縫い込む際に余らせておいた100-200mmの糸8と丸結びによって結び、12時-6時の方向の糸8と7時30分-1時30分の方向に縫い込んだ糸8の余剰部分を切断する。
【0211】
前述した縫込み工程を経て積層構造体Zは積層体4となる。
【0212】
尚、本実施例では、波縫いを例示しているが、縫い方は半返し縫い、本返し縫いであっても良い。半返し縫い、本返し縫いは、波縫いに比べて貫層方向への糸の密度が高くなるので、積層体4の層間剥離を抑えることができる一方、NCFのように繊維を縛ることになるので、一つ目と2つ目の半返し、本返しのピッチは、塗工されたプリプレグの樹脂の粘度や積層の枚数に応じて、適宜設定することが望ましい。
【0213】
また、本実施例では縫い込み工程を手作業で行っているが、同様な縫合形態が得られるのであれば、上糸と下糸があるミシンのような機構の縫合形態でも良い。
【0214】
次に、積層体4にエポキシ樹脂を塗布し、これを所定の金型にセットし、所定の硬化条件でオートクレーブ成形、もしくはプレス成形により圧力を加え加熱することでエポキシ樹脂の硬化が進み、CFRP部材が得られる(図33)。尚、RTM成形法及びVARTM成形法でも、前述したようにスプリングバック現象の生じ易い第四繊維体3D(90度方向材)を巻回する前段階において外径を太くしておけば、第四繊維体3D(90度方向材)を巻回してもスプリングバック現象の影響が小さくなるから、同様に積層、縫合することで成形は可能である。
【0215】
この得られたCFRP部材はボックス構造の積層工程で両端部が矩形になっているので、両端部を円弧状に機械加工するとともに、金属体7は中実になっているので、所定のピッチの200mmで直径φ8.5mmの貫通孔を形成することで仕上げ加工が施されリンクロッドXが完成する(図15参照)。
【0216】
例えば、このリンクロッドXの左端を固定し、右端を上下方向に力をかけても、縫合している炭素繊維により、曲げモーメントに対する積層構造部1の層間剥離は防止される。
【0217】
また、このリンクロッドXの左端を固定し、右端を回転させるねじり方向に力をかけても、積層構造部1の第二繊維体3B(+45度層)、第三繊維体3C(-45度層)、そして、第五繊維体3E、第六繊維体3Fのボックス構造の層により、通常の積層体よりも、ねじり剛性が向上し、さらに縫合している炭素繊維により、ねじり力による積層構造部1の層間剥離が防止されることになる。
【0218】
本実施例は上述のように構成したから、以下の効果を奏する。
【0219】
繊維体3単体だけでも例えば扇形に切断しても目ズレや繊維のほつれが起こることがなく、扇形を維持できる。
【0220】
また、巻回積層するローリングマシンを用いて、本実施例の積層構造体Zを作る場合も同様に、経糸がヒートセットされているため、ローリングマシンによる巻回積層で繊維がバラバラになることはない。
【0221】
その余は実施例1と同様である。
【0222】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0223】
1 積層構造部
2 接続部
3 繊維体
3A 第一繊維体
3B 第二繊維体
3C 第三繊維体
3D 第四繊維体
4 積層体
4A 第一層部
4B 第二層部
4C 第三層部
4D 第四層部
4E 第五層部
5 炭素繊維束
6 熱融着性繊維
7 金属体
7a 本体
7b 鍔状部
8 糸
図1
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