(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】送配電系統における電圧調整支援装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/16 20060101AFI20221219BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20221219BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H02J3/16
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
(21)【出願番号】P 2020090329
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】江頭 諒
(72)【発明者】
【氏名】佐原 隆徳
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/192993(WO,A1)
【文献】特開2000-333373(JP,A)
【文献】特開2019-221045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00-5/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧変電所から送電線、配電用変電所、配電線を介して負荷に電力を供給する送配電系統における電圧調整支援装置であって、
前記送電線における電圧を所定の適正電圧とする電圧調整を実現するための前記配電用変電所での目標電力調整量を算出する第1の手段と、
前記目標電力調整量に対して、配電線に設置された調相設備を用いて、前記配電用変電所が負担可能な電力の調整量を決定する第2の手段と、
複数の前記配電用変電所で求めた当該配電用変電所が負担可能な電力の前記調整量を用いて、前記送電線における電圧を所定の適正電圧とすることができる、複数の前記配電用変電所における電力の前記調整量の組み合わせを決定する第3の手段を備えることを特徴とする送配電系統における電圧調整支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送配電系統における電圧調整支援装置であって、
前記所定の適正電圧とする電圧は、前記送電線における複数の前記配電用変電所におけるノードの電圧であることを特徴とする送配電系統における電圧調整支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の送配電系統における電圧調整支援装置であって、
前記第3の手段は、電力調整コストを最小化する各配電線に設置された前記調相設備による電力の前記調整量を決定することを特徴とする送配電系統における電圧調整支援装置。
【請求項4】
高圧変電所から送電線、配電用変電所、配電線を介して負荷に電力を供給する送配電系統における電圧調整支援方法であって、
前記送電線における電圧を所定の適正電圧とする電圧調整を実現するための前記配電用変電所での目標電力調整量を算出し、
前記目標電力調整量に対して、配電線に設置された調相設備を用いて、前記配電用変電所が負担可能な電力の調整量を決定し、
複数の前記配電用変電所で求めた当該配電用変電所が負担可能な電力の前記調整量を用いて、前記送電線における電圧を所定の適正電圧とすることができる、複数の前記配電用変電所における電力の前記調整量の組み合わせを決定することを特徴とする送配電系統における電圧調整支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送配電系統連係の観点で、配電系統上のリソースの有効電力P、無効電力Qを制御し、配電だけでなく送電の電圧も考慮して有効電力Pと無効電力Qの調整量を決定する送配電系統における電圧調整支援装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電などの再生可能エネルギー電源(以降、再エネ電源という)の普及により送配電系統における適正電圧の維持が大きな課題となる中で、配電系統の高圧連系では再エネ電源PCSの力率一定制御の採用が普及した。再エネ電源PCSの力率一定制御で再エネ電源の有効電力P、無効電力Qを調整することにより、再エネ電源出力による電圧上昇、出力変動に伴う電圧変化が抑制され、電圧対策コストを抑えて再エネ電源を連系させることが可能となった。電圧調整への貢献が大きい無効電力制御については、配電系統だけでなく送電系統においても様々な検討がされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電力系統の潮流状態に応じて適切な電圧無効電圧制御を実施することが可能な電圧無効電力制御装置が開示されている。また、特許文献2には、再エネ電源の出力変動、電源構成や系統構成の変化、経済性も考慮した電力系統電圧無効電力監視制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-057056号公報
【文献】特開2016-208654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では機器導入による設備コストが発生し、特許文献2に記載の装置では個別装置の把握が必要なため送電系統の電圧管理で配電系統の設備まで対象に含めることが難しい。
【0006】
このように、系統に存在する設備を活用することで設備コストを抑制し、送電、配電ともに適正な電圧を維持するための手法は検討されていない。また、蓄電池や電気自動車EVの充電器なども再エネ電源PCSを介して連系されるため、今後の配電系統には有効電力Pと無効電力Qを調整できる設備は増加する。
【0007】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明を適用しない場合の従来における配電系統及び送配系統の電圧分布例を示す図である。図示の例では、高圧変電所SSHから送電線L1、配電用変電所SSL、配電線L2を介して電力が負荷に給電されている。また配電線L2には再エネ電源PCSとして、太陽光発電設備PVが設置されている。
【0008】
図1(a)の配電系統の電圧分布例によれば、点線で示すように再エネ電源PCSが設置されておらず、あるいは設置されていても再エネ出力が小さい状態では、配電用変電所SSL設置点の電位に対して遠隔地にある末端での電位が低下傾向を示すに対し、実線で示す再エネ出力が大きい状態では、末端電位が上昇することがあり、特に力率が大きい状態での末端電位上昇が大きくなる傾向にある。
【0009】
この電圧変動の改善のために従来においては、配電系統における有効電力Pと無効電力Qを、再エネ電源PCSの力率一定制御で調整することにより電圧上昇を抑制し、再エネ電源の出力変化に伴う配電線の電圧変動を抑止することが行われている。
【0010】
また
図1(b)の送電系統の電圧分布例によれば、高圧変電所SSH設置点の電位に対して配電用変電所SSL設置点の電位は、破線で示す再エネ電源PCSの出力が小さい状態に対して、実線で示す配電系統での電圧変動を抑止するために力率一定制御をしている再エネ電源PCSの出力が大きい状態では配電用変電所SSL設置点の電位低下が大きくなる可能性があり、再エネ電源の出力変化に伴う電圧変動が大きく表れることになる。
【0011】
然るに、再エネ電源PCSにおける力率一定制御などにより無効電力を調整することで、配電系統では再エネ出力、電気自動車EVの充電器や蓄電池の充放電などの変化に伴う電圧変動を小さくする運用はできても、送電系統にとって配電用変電所SSLは系統末端に位置することが多いため、配電系統の無効電力変化量の増加が送電系統での電圧変動要因となる可能性がある。また、送電系統での再エネ電源の連系状況、系統切替も送電系統での電圧変動要因となり、送電系統での運用における制約となることが増加する可能性がある。
【0012】
以上のことから本発明においては、送電系統の電圧対策コストを抑えながら送電系統、配電系統の適正電圧維持が実現可能な送配電系統における電圧調整手法の決定装置及び方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上のことから本発明においては、「高圧変電所から送電線、配電用変電所、配電線を介して負荷に電力を供給する送配電系統における電圧調整支援装置であって、送電線における電圧を所定の適正電圧とする電圧調整を実現するための配電用変電所での目標電力調整量を算出する第1の手段と、目標電力調整量に対して、配電線に設置された調相設備を用いて、配電用変電所が負担可能な電力の調整量を決定する第2の手段と、複数の配電用変電所で求めた当該配電用変電所が負担可能な電力の調整量を用いて、送電線における電圧を所定の適正電圧とすることができる、複数の配電用変電所における電力の前記調整量の組み合わせを決定する第3の手段を備えることを特徴とする送配電系統における電圧調整支援装置」としたものである。
【0014】
また本発明においては、「高圧変電所から送電線、配電用変電所、配電線を介して負荷に電力を供給する送配電系統における電圧調整支援方法であって、送電線における電圧を所定の適正電圧とする電圧調整を実現するための配電用変電所での目標電力調整量を算出し、目標電力調整量に対して、配電線に設置された調相設備を用いて、配電用変電所が負担可能な電力の調整量を決定し、複数の配電用変電所で求めた当該配電用変電所が負担可能な電力の調整量を用いて、送電線における電圧を所定の適正電圧とすることができる、複数の配電用変電所における電力の調整量の組み合わせを決定することを特徴とする送配電系統における電圧調整支援方法」としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、送電系統の電圧対策コストを抑えながら送電系統、配電系統の適正電圧維持が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1(a)】発明を適用しない場合の従来における配電系統の電圧分布例を示す図。
【
図1(b)】発明を適用しない場合の従来における送電系統の電圧分布例を示す図。
【
図2】本発明の一実施例に係る電圧調整支援装置を備えた送配電系統の概要を示す図。
【
図3】本発明の一実施例に係る電圧調整支援装置10のハード構成例を示す図。
【
図4】本発明の一実施例による電圧調整アルゴリズムを示すフローチャート。
【
図5】処理ステップS1で求めた送電系統100の必要電圧調整量の概念を示す図。
【
図6(a)】配電用変電所SSLに線路長の短い系統FCB1と線路長の長い系統FCB2が存在する場合を想定する図。
【
図6(b)】地点Aにおいて同量の有効電力Pと無効電力Qを変化させた場合の電圧変動の関係を示す図。
【
図6(c)】地点Bにおいて同量の有効電力Pと無効電力Qを変化させた場合の電圧変動の関係を示す図。
【
図6(d)】地点Cにおいて同量の有効電力Pと無効電力Qを変化させた場合の電圧変動の関係を示す図。
【
図6(e)】地点Dにおいて同量の有効電力Pと無効電力Qを変化させた場合の電圧変動の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0018】
なお本発明は、配電系統における再エネの出力変化に対して力率一定制御を適用していることによって、「配電系統は出力変化しても電圧変動は小さいが、送電系統は出力変化で電圧変動が大きい」という点について、現状は送電系統への悪影響を考慮していないが、送配電連係で考えれば改善可能である、ということに着目したものである。
【実施例】
【0019】
図2は、本発明の一実施例に係る電圧調整支援装置を備えた送配電系統の概要を示す図である。送配電系統は、送電系統100と配電系統101で構成され、これらの間に配電用変電所SSLが位置づけされている。電圧調整支援装置10には、送配電系統の各所に設置されたセンサ160、161から通信端局170、通信ネットワーク180を介して送配電系統100、101のデータが送信されている。
【0020】
送電系統100は例えば、154/66kVの高圧変電所SSHとノード(母線)120及びそれらを接続する送電線路L1、ノード120に接続される負荷150や発電機130、送電線路に設置されるセンサ160で構成される。配電系統101は例えば、配電用変電所SSLとノード(母線)121及びそれらを接続する配電線路L2、ノード121に接続される再エネ電源PCSを介して系統に連系する蓄電池などの配電設備151や発電機131、配電線路に設置されるセンサ161で構成される。なお蓄電池などの配電設備151や発電機131(風力発電機或は太陽光発電)に連係される再エネ電源PCSは、制御装置C、通信端局170、通信ネットワーク180を介して電圧調整手法の決定装置10と接続され、相互に情報を伝送しあうことにより、電圧調整支援装置10から制御可能とされる。
【0021】
センサ160及びセンサ161、さらには再エネ電源PCSにおける計測手段は、電流、力率、有効電力P、無効電力Q、ノード電圧Vなどを測定し、通信端局170、通信ネットワーク180を介して電圧調整支援装置10に情報を送る。
【0022】
図3は、本発明の一実施例に係る電圧調整支援装置10のハード構成例を示す図である。一般的には計算機装置で構成される電圧調整支援装置10は、表示装置11、キーボードやマウス等の入力手段12、コンピュータ(CPU)13、通信手段14、RAM15、及び各種データベースDBがバス線30に接続されている。データベースデータベースDBとして、潮流計算データデータベースDB21、計測データデータベースDB22、予測データデータベースDB23、調整可能設備データデータベースDB24、及びプログラムデータデータベースDB25を備える。
【0023】
コンピュータ(CPU)13は、計算プログラムを実行して表示すべき画像データの指示や、各種データベースDB内のデータの検索等を行う。RAM15は、表示用の画像データ、潮流計算結果、計測データ一覧、予測データ一覧、送電系統の目標電圧調整量及び目標PQ調整量計算結果及び配電設備のPQ調整量計算結果等の計算結果データを一旦格納するメモリである。これらのデータに基づき、CPU13によって必要な画像データを生成して、表示装置11(例えば表示ディスプレイ画面)に表示する。
【0024】
電圧調整支援装置10内のメモリには、大きく分けて5つのデータベースDBが格納される。潮流計算データデータベースDB21には、送電線L1及び配電線L2のインピーダンスを示す線路定数Z(=R+jX)、負荷・発電量、並びに系統の線路やノードの接続状況を表す系統構成データが記憶されている。
【0025】
計測データデータベースDB22には、送電系統100内のセンサ160及び配電系統101内のセンサ161で計測された各時間断面の電流、力率、有効電力P、無効電力Q、負荷や発電量、及びノード電圧Vなどの情報が格納される。
【0026】
計測データデータベースDB22には、この他に、潮流計算や状態推定計算によって求められた各時間断面の線路の電流、電流力率、有効電力P、無効電力Q、負荷や発電量、及びノード電圧Vなどの情報も格納される。
【0027】
予測データデータベースDB23には、近い将来の系統電圧の予測に必要な負荷予測、発電量予測、蓄電池やEVの充放電予測などの情報が格納される。
【0028】
調整可能設備データデータベースDB24には、有効電力Pと無効電力Qを調整可能な配電設備のPCS力率、調整単価、過去調整回数などの情報が格納される。
【0029】
プログラムデータデータベースDB25は、計算プログラムである潮流計算プログラムPg3、状態推定計算プログラムPg4、PQ必要調整量決定プログラムPg1及びPQ調整量配分決定プログラムPg2を格納する。これらのプログラムPgは、必要に応じてCPU13に読み出され、計算が実行される。またプログラムPgの実行にあたり、上記したデータベースDBの情報が参照され、また処理結果が適宜データベースDBに格納される。
【0030】
図4は、本発明の一実施例による電圧調整アルゴリズムを示すフローチャートである。この図に示す電圧調整支援装置10の計算処理内容について説明する。図には、送電系統内の電圧計算結果を基に配電系統の有効電力Pと無効電力Qの目標調整量を算出し、配電系統の適正電圧を維持しながら各配電設備の有効電力Pと無効電力Q制御量を決定する電圧調整手順の例を示している。ここに示した
図4のフローチャートの各処理の実行は、
図3に示した計算機装置(電圧調整支援装置10)におけるリソースやプログラムやデータを利用して実行される。
【0031】
以下、処理の流れを説明するが、その前提として、処理ステップS1、S2、S4、S5は、送電系統100を対象とした処理であり、処理ステップS3は配電系統101を対象とした処理を行っている。これにより処理ステップS1、S2において潮流計算プログラムPg3、状態推定計算プログラムPg4の実行により送電系統100で定まる条件を決定し、処理ステップS3においてPQ必要調整量決定プログラムPg1の実行により送電系統100で定まる条件を個々の配電系統101に適用した場合を推定し、処理ステップS4、S5においてPQ調整量配分決定プログラムPg2の実行により個々の配電系統101の状態を勘案しながら送電系統100の全体としての運用を定めていくという流れの処理を行うものである。
【0032】
図4のフローチャートではまず処理ステップS1において、送電系統100の各所で求めた計測電圧を用いて、あるいは潮流計算または状態推定計算によって各ノードの電圧を計算し、送電系統100の適正電圧を維持するための目標調整電圧ΔVobjを算出する。なおこの目標調整電圧ΔVobjは、現在時点における値以外に、想定した将来状態における値であってもよい。またこの場合に、電圧計算の対象とするノードは、配電線101を接続するノードである。
【0033】
図5は、処理ステップS1で求めた送電系統100の必要電圧調整量の概念を示す図である。
図5によれば、
図1(b)で説明したように、送電系統100の電圧分布は、高圧変電所SSH設置点の電位に対して配電用変電所SSL設置点の電位は低下傾向を示すが、例えば再エネ電源PCSがない状態での電圧分布(点線)に対して、現在時点における電圧分布が実線のように低下しているのであれば、処理ステップS1では点線の電圧分布を送電系統100の適正電圧と位置付けて、現在時点における電圧との差分を目標調整電圧ΔVobjとする。
【0034】
次に、処理ステップS2では、送電系統における目標調整電圧ΔVobの電圧調整を実現するための配電用変電所SSLでの目標PQ調整量ΔPobj、ΔQobjを算出する。同一装置内に送電系統の計算装置と配電系統の計算装置がない場合は、ΔPobj、ΔQobjを配電系統の計算装置に連係して求めるものであってもよい。
【0035】
具体的には、以下のようにして求めるのがよい。まず、高圧変電所SSHから配電用変電所SSLまでの送電線のインピーダンスをR、リアクタンスをX、基準電圧をVrateとすると目標調整電圧ΔVobは、(1)式により算出することができる。
[数1]
ΔVobj=(ΔPobj×R+ΔQobj×X)/Vrate (1)
このとき、ΔPobjとΔQobjの比率を定義しておくことで変数は1つとなり、ΔPobj(kW)、ΔQobj(Var)を求めることができる。さらに、配電系統側での制約があることを考慮すると、ΔPobjとΔQobjの比率を複数用意することで、複数のΔPobj(kW)、ΔQobj(Var)の組合せを作るのがよい。これは、インピーダンスRよりもリアクタンスXのほうが大きいため、無効電力Qの調整だけでΔVobjを達成したほうが調整する配電設備は少なくなることによる(調整コストがやすくなりやすい)。ただし、無効電力Qを調整しようとすると有効電力Pも同時に変化するケースも多いため(太陽光発電のPCS力率調整時など)有効電力Pと無効電力Qの調整としている。有効電力Pと無効電力Qの比率としては、無効電力Qの比率が大きいほうが調整コストの観点でよいが、配電設備の制約で無効電力Qは調整できないが有効電力Pは調整できるケース(力率は調整できないが太陽光発電解列により有効電力Pだけなら下げられるなど)もあるため複数のPQ比率を用意しておくのがよい。
【0036】
処理ステップS1、S2までの処理により、送電系統100において目標調整電圧ΔVobを維持するに必要な、各ノードにおける有効電力Pと無効電力Qの変動分ΔPobj(kW)、ΔQobj(Var)が、定まる。この変動分が目標調整量である。
【0037】
この目標調整量ΔPobj(kW)、ΔQobj(Var)の達成は、送電系統100側で定まる要求、条件であるが、他方において各ノードは必ずしもこの要求を満足できる状態ばかりとは言えない。例えば各ノード(配電用変電所SSL)あるいは配電線L2には、各種の調相設備(配電設備)が備えられているが、その定格容量、あるいは現時点における調整容量の大きさ、系統の運転状態などにより、要求に対してどの程度の調整量を確保できるのか、可能調整量を確認する必要がある。
【0038】
このことから次の処理ステップS3では、個々の配電用変電所SSLにおいて、配電系統の適正電圧を維持しながらΔPobj・ΔQobjに近づけるための各配電設備の制御量ΔPn、ΔQnおよび変更後の出力・力率を算出する。これらが、可能調整量に相当するものであり、例えばPQ調整量である。
【0039】
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)、
図6(d)により、処理ステップS3で求めたPQ調整量と配電系統電圧への影響の概念について説明する。ここでは、配電系統におけるPQ調整による電圧への影響は、設備の連系地点によって大きく異なることを明らかにする。
【0040】
図6(a)では、配電用変電所SSLに線路長の短い系統FCB1と線路長の長い系統FCB2が存在する場合を想定する。かつ、線路長の短い系統FCB1の変電所付近をA地点、FCB1の系統末端付近をB地点、線路長の長い系統FCB2の変電所付近をC地点、FCB2の系統末端付近をD地点とする。
【0041】
各地点A、B、C、Dにおいて同量の有効電力Pと無効電力Qを変化させた場合の電圧変動の関係が、
図6(b)~
図6(e)に示されている。この結果によれば、配電用変電所SSLからの距離が短いA地点、B地点、C地点では配電系統の電圧変化は小さいが、配電用変電所SSLからの距離が長いD地点では電圧変化が大きい。
【0042】
この関係性を利用して、送電系統の電圧調整を目的とした配電系統の調相設備(配電設備)の有効電力Pと無効電力Qの調整としては、配電用変電所SSLからの距離が短い地点の設備を優先的に調整するのが効果的である。また、需給調整への影響を考慮して有効電力Pよりも無効電力Qを優先的に調整するのがよい。配電系統の各設備の有効電力P調整量をΔPn、無効電力Q調整量をΔQnとすると、設備容量や力率の制約条件とともに(2)式から(6)式を満たす範囲内で調整量ΔPn、ΔQnを求めることができる。
【0043】
ここでΔPssは配電用変電所SSLとしてのP調整量、ΔQssは配電用変電所SSLとしてのQ調整量、εは目標PQ調整量に対する上下への許容範囲の%値、Vnは各ノードの電圧、Vnulは各ノードの上限電圧、Vnllは各ノードの下限電圧である。
[数2]
ΔPobj×(1-ε)≦ΔPss≦ΔPobj×(1+ε) (2)
[数3]
ΔQobj×(1-ε)≦ΔQss≦ΔQobj×(1+ε) (3)
[数4]
ΔPss=ΣΔPn (4)
[数5]
ΔQss=ΣΔQn (5)
[数6]
Vnll≦Vn≦Vnul (6)
このようにして求められた調整量ΔPn、ΔQnは、送電系統側からの要求(目標調整量ΔPobj(kW)、ΔQobj(Var))に対する、個々の配電用変電所SSLが協力可能な回答である。
【0044】
この複数の配電用変電所SSLからの調整量ΔPn、ΔQnについての回答群を用いて、送電系統側では再度目標調整電圧ΔVobを達成することができる組み合わせを検討する。達成できないにしても極力目標調整電圧ΔVobを極小化することができる組み合わせを検討する。
【0045】
処理ステップS4では、ΣΔPn、ΣΔQnが、ともにΔPobj、ΔQobjの目標範囲内に収まったかを確認し、収まっていない場合には、処理ステップS5において有効電力Pと無効電力Qの比率を変更してΔPobj、ΔQobjを再計算して、処理ステップS4以降の処理を条件成立まで繰り返し演算を行う。
【0046】
また、PQ調整によるコストを最小化するために、上記の条件とともに、(7)式の配電用変電所SSLとしての調整コストCOSTssが最小となる各設備の調整量(制御量)ΔPn、ΔQnの組合せを(7)式により求めるのがよい。
[数7]
COSTss=Σ(COSTnp×ΔPn+COSTnq×ΔQn) (7)
ここで、COSTnpは配電系統の各設備の有効電力Pの調整単価、COSTnqは配電系統の各設備の無効電力Qの調整である。
【0047】
各設備の制約条件などにより配電用変電所SSLとしてのP調整量、Q調整量が目標PQ調整量の条件を満たせない場合、目標PQ調整量の有効電力Pと無効電力Qの比率を変更してΔPobj、ΔQobjを再計算し、各配電設備のPQ調整量を求める。
【0048】
このように、配電系統の電圧への影響を考慮しながら、配電系統の各設備の有効電力Pと無効電力Qの調整コストを評価関数として計算することで、配電設備のPQ調整による送電系統の適正電圧維持が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
10:電圧調整支援装置
11:表示装置
12:入力手段
13:コンピュータ(CPU)
14:通信手段
15:RAM
DB21:潮流計算データデータベース
DB22:計測データデータベース
DB23:予測データデータベース
DB24:調整可能設備データデータベース
DB25:プログラムデータデータベース
30:バス線
100:送電系統
101:配電系統
SSH:高圧変電所
SSL:配電変電所
120:ノード(送電系統)
121:ノード(配電系統)
130:発電機(送電系統)
131:発電機(配電系統)
L1:送電線路
L2:配電線路
150:負荷(送電系統)
151:負荷・蓄電池・EV充電器(配電系統)
160:センサ(送電系統)
161:センサ(配電系統)
170:通信端局
180:通信ネットワーク