(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】最適化支援装置および最適化支援方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20221219BHJP
G06F 30/12 20200101ALI20221219BHJP
G06F 111/06 20200101ALN20221219BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/12
G06F111:06
(21)【出願番号】P 2020202438
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武藤 和夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 達也
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146888(JP,A)
【文献】特開2014-074994(JP,A)
【文献】特開2010-009595(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103246821(CN,A)
【文献】中山弘隆 外1名,計算知能の逐次近似多目的最適化への応用,オペレーションズ・リサーチ,公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会,2012年05月01日,第57巻,第5号,pp.270-275
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06Q 10/04
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計変数を最適化するプロジェクトにおいて、実験または数値解析を行う実験計画の作成を支援する最適化支援装置であって、
プロジェクトごとに、設計変数、当該設計変数の値の範囲、目的関数、プロジェクトの目的を含むプロジェクト情報データを記憶するプロジェクト情報記憶部と、
設計変数を最適化する対象プロジェクトについて、前記対象プロジェクトの設計変数に所定の値を設定した設計解の優劣についてのユーザの判断を示す設計解優劣データを記憶する設計解優劣記憶部と、
前記対象プロジェクトについて、前記対象プロジェクトの設計変数を所定の値として実験または数値解析を行った場合に実験または数値解析を行った設計変数の値と得られた目的関数の値とを含む実験解析結果データを記憶する実験解析結果記憶部と、
前記設計解優劣記憶部に記憶された設計解優劣データに基づき優劣モデルを作成する優劣モデル作成部と、
前記優劣モデル作成部が作成した優劣モデルと、前記実験解析結果記憶部に記憶された実験解析結果データとを用いてメタモデルを作成するメタモデル作成部と、
前記メタモデル作成部が作成したメタモデルを用いて実験計画を作成する実験計画作成部とを有する最適化支援装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記対象プロジェクトについて複数の設計解を作成し、ユーザに提示する優劣質問作成部と、
前記優劣質問作成部の提示した複数の設計解について、ユーザから前記複数の設計解の間の優劣についてのユーザの判断を受け付ける優劣入力部とを有する最適化支援装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記優劣質問作成部は、前記メタモデル作成部が作成したメタモデルを用いて前記複数の設計解を作成する最適化支援装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記実験計画作成部が作成した複数の実験計画のうち、ユーザが実際に実験または数値解析を行った実験計画に基づいて、設計解の優劣についてのユーザの判断を抽出する優劣情報作成部を有する最適化支援装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記優劣情報作成部は、前記実験計画作成部が作成した複数の実験計画について、ユーザが実際に実験または数値解析を行った実験計画に対応する設計解は、ユーザが実験および数値解析を行わなかった実験計画に対応する設計解よりも優れていると判定する最適化支援装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記プロジェクト情報記憶部に記憶されたプロジェクト情報データから前記対象プロジェクトに類似する類似プロジェクトを検索する類似プロジェクト検索部を有し、
前記優劣モデル作成部は、前記設計解優劣記憶部に記憶された、前記対象プロジェクトおよび前記類似プロジェクトの設計解優劣データに基づき優劣モデルを作成する最適化支援装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記類似プロジェクト検索部は、前記プロジェクト情報記憶部に記憶されたプロジェクト情報データの設計変数と目的関数とに基づき、プロジェクトの類似判断を行う最適化支援装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記プロジェクト情報記憶部に記憶されたプロジェクト情報データにおいて、プロジェクトの目的が目的関数の最大化または最小化として定義される最適化支援装置。
【請求項9】
設計変数を最適化するプロジェクトにおいて、実験または数値解析を行う実験計画の作成を支援する最適化支援装置を用いた最適化支援方法であって、
プロジェクトごとに、設計変数、当該設計変数の値の範囲、目的関数、プロジェクトの目的を含むプロジェクト情報データを記憶するプロジェクト情報記憶部と、設計変数を最適化する対象プロジェクトについて、前記対象プロジェクトの設計変数に所定の値を設定した設計解の優劣についてのユーザの判断を示す設計解優劣データを記憶する設計解優劣記憶部と、前記対象プロジェクトについて、前記対象プロジェクトの設計変数を所定の値として実験または数値解析を行った場合に実験または数値解析を行った設計変数の値と得られた目的関数の値とを含む実験解析結果データを記憶する実験解析結果記憶部と、を備え、
前記設計解優劣記憶部に記憶された設計解優劣データに基づき優劣モデルを作成し、
作成した優劣モデルと、前記実験解析結果記憶部に記憶された実験解析結果データとを用いてメタモデルを作成し、
作成したメタモデルを用いて実験計画を作成する最適化支援方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記対象プロジェクトについて複数の設計解を作成し、ユーザに提示し、
提示した複数の設計解について、ユーザから前記複数の設計解の間の優劣についてのユーザの判断を受け付ける最適化支援方法。
【請求項11】
請求項9において、
前記最適化支援装置が作成した複数の実験計画のうち、ユーザが実際に実験または数値解析を行った実験計画に基づいて、設計解の優劣についてのユーザの判断を抽出する最適化支援方法。
【請求項12】
請求項9において、
前記プロジェクト情報記憶部に記憶されたプロジェクト情報データから前記対象プロジェクトに類似する類似プロジェクトを検索し、
前記設計解優劣記憶部に記憶された、前記対象プロジェクトおよび前記類似プロジェクトの設計解優劣データに基づき優劣モデルを作成する最適化支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品設計を支援する技術に関し、実験や数値解析により設計変数を効率的に最適化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製品設計においては、部品寸法などを設計変数として定め、製品が所望の性能を満たすように設計変数を最適化する設計最適化が行われる。設計最適化では、複数の設計変数値を設定して、評価用製品の作成や計算機上での数値解析用の評価モデルの作成を行い、製品の性能を評価することを繰り返す。しかし、評価用製品や評価モデルの作成コスト、または実験や数値解析のコストが高いと、多くの設計変数値による評価を行うことができない。このため、効率良く所望の性能を満たす設計変数値を探査する必要がある。
【0003】
特許文献1では、遺伝的アルゴリズムを用いて実験計画を最適化することにより、設計最適化における実験や数値解析の回数を減らすことが可能なアルゴリズムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】河村 敏彦、「製品開発のための実験計画法 JMPによる応答曲面法・コンピュータ実験」、近代科学社、2018、pp. 63~72
【文献】Thomas J. Santner, Brian J. Willians, William I. Notz、「The Design and Analysis of Computer Experiment」、Springer、2003、pp. 122~161
【文献】Wei Chu, Zoubin Ghahramani、「Preference Learning with Gaussian Processes」、Proceedings of the22nd international conference on Machine learning、2005
【文献】Forrester, Alexander IJ, Andras Sobester, and Andy J. Keane、「Multi-fidelity optimization via surrogate modelling」、Proceedings of the royal society a: mathematical, physical and engineering sciences 463.2088 (2007): 3251-3269
【文献】下山幸治、鄭信圭、大林茂、「多目的最適化におけるKriging応答曲面法のためのサンプル追加指標の比較」、進化計算学会論文誌3.3 (2012): 173-184
【文献】Shahriari, Bobak, et al.、「Taking the human out of the loop: A review of Bayesian optimization」、Proceedings of the IEEE 104.1 (2015): 148-175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、実験や解析結果に基づき、メタモデルを構築し、その精度が一定の基準を満たすまで、実験や解析を繰り返すとしている。このような方法を採用する場合、設計変数の数が多かったり、最適化する製品の物理現象が複雑であったりする場合、基準を満たすメタモデルを作成するのに多くの実験や数値解析が必要になるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態である最適化支援装置は、設計変数を最適化するプロジェクトにおいて、実験または数値解析を行う実験計画の作成を支援する最適化支援装置であって、プロジェクトごとに、設計変数、当該設計変数の値の範囲、目的関数、プロジェクトの目的を含むプロジェクト情報データを記憶するプロジェクト情報記憶部と、設計変数を最適化する対象プロジェクトについて、対象プロジェクトの設計変数に所定の値を設定した設計解の優劣についてのユーザの判断を示す設計解優劣データを記憶する設計解優劣記憶部と、対象プロジェクトについて、対象プロジェクトの設計変数を所定の値として実験または数値解析を行った場合に実験または数値解析を行った設計変数の値と得られた目的関数の値とを含む実験解析結果データを記憶する実験解析結果記憶部と、設計解優劣記憶部に記憶された設計解優劣データに基づき優劣モデルを作成する優劣モデル作成部と、優劣モデル作成部が作成した優劣モデルと、実験解析結果記憶部に記憶された実験解析結果データとを用いてメタモデルを作成するメタモデル作成部と、メタモデル作成部が作成したメタモデルを用いて実験計画を作成する実験計画作成部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
実験・解析回数の低減、およびそれに伴うコスト削減可能な最適化支援装置、最適化支援方法を提供する。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】最適化支援装置のハードウエア構成を示す図である。
【
図2】実施例1の最適化支援装置の機能ブロック図である。
【
図3A】設計解優劣データ(設計解比較表)のデータ構造例である。
【
図3B】設計解優劣データ(設計解設計変数表)のデータ構造例である。
【
図5】実施例1の最適化支援方法のフローチャートである。
【
図6】実験計画作成部による出力装置への表示例である。
【
図8】実施例2の最適化支援装置の機能ブロック図である。
【
図9】実施例2の最適化支援方法のフローチャートである。
【
図10】実験計画作成部による出力装置への表示例である。
【
図11】実施例3の最適化支援装置の機能ブロック図である。
【
図12A】プロジェクト情報データ(プロジェクト表)のデータ構造例である。
【
図12B】プロジェクト情報データ(設計変数表)のデータ構造例である。
【
図13】実施例3の最適化支援方法のフローチャートである。
【
図14】比較例における真の設計変数とメタモデルとを示す図である。
【
図15A】実施例における優劣モデルを示す図である。
【
図15B】実施例における真の設計変数とメタモデルとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、最適化支援装置のハードウエア構成を示している。最適化支援装置は、入力装置101、演算処理装置102、出力装置103、記憶装置104を有する。
【0013】
入力装置101は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力装置であり、ユーザが演算処理装置102に対して何らかのデータを入力するために使用される。演算処理装置102は、CPU(Central Processing Unit)であり、最適化支援のための情報処理を実行する。CPUが実行するプログラム、その機能、あるいはその機能を実現する手段を、「機能」、「部」等と呼ぶ場合がある。出力装置103は、ディスプレイ装置などの出力デバイスであり、ユーザと演算処理装置102との対話的な処理のための画面を表示する。記憶装置104は、ハードディスクやソリッドステートドライブなどの記憶装置で、演算処理装置102の処理結果を記録したり、記録した処理結果を演算処理装置102に提供したりする。
【0014】
最適化支援装置は、インターネットまたはイントラネットなどのネットワークを介して他の情報処理装置と接続されてもよい。この場合、入力装置101、出力装置103に代えて他の情報処理装置との間でデータの入力や処理結果の出力を行うことができる。
【実施例1】
【0015】
図2は、実施例1の最適化支援装置の機能ブロック図である。実施例1の最適化支援装置は、優劣入力部201、設計解優劣記憶部202、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、実験解析結果記憶部205、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209、プロジェクト情報記憶部210の機能を有している。優劣入力部201、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209は、演算処理装置を用いて実行される。また、設計解優劣記憶部202、実験解析結果記憶部205、プロジェクト情報記憶部210は、記憶装置104を用いて実行される。
【0016】
プロジェクト情報入力部209は、入力装置101を介して入力されたプロジェクト情報を、プロジェクト情報記憶部210に記憶させる。ここでは、特定の設計変数の調整を繰り返しながら、製品の評価指標が要件を満たすように実験や数値解析を繰り返すことをプロジェクトといい、プロジェクト情報には、少なくともプロジェクト名、設計変数名、設計変数値の範囲、目的関数名、プロジェクトの目的(目的関数を最大化するのか、あるいは最小化するのか)についての情報を含むものとする。
【0017】
プロジェクト情報記憶部210は、プロジェクト情報入力部209から入力されたプロジェクト情報を記憶する。
図12A~Bに、プロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクト情報データの例を示す。プロジェクト表1201(
図12A)には、プロジェクトごとにプロジェクト名と、設計変数名、目的関数名、プロジェクトの目的が記録されている。プロジェクト表1201から、例えば、プロジェクトID「1」の名称は「A社向け△△の開発」であり、設計変数は2つあり、その名称がそれぞれX1、X2であること、目的関数の名称はY1であり、プロジェクトの目的は目的関数を最大化することであることが分かる。なお、プロジェクトが複数の目的関数を有していてもよい。設計変数表1202(
図12B)には、プロジェクトごとの設計変数の最小値と最大値が記憶されている。例えば、プロジェクトID「1」のプロジェクトにおける設計変数X1の最小値は0、最大値は5であることが示されている。
【0018】
優劣入力部201は、入力装置101を介して入力された設計解優劣を、設計解優劣記憶部202に記憶させる。設計解とは、設計解を表す設計変数の値の集合である。設計変数X1、X2でその設計が一意に決まる設計問題であれば、設計解とは、その設計変数に具体的な数値、例えば、X1=1.0、X2=1.0を代入したものになる。設計解優劣とは、2つの設計解を比較した時に、目的関数に対して、どちらが優れているかという情報である。同様に設計変数X1、X2でその設計が一意に決まる設計問題であって、目的関数がYであり、Yの値を最大化することがプロジェクトの目的であるとする。このとき、設計解A(X1,X2)=(1.0,1.0)の場合の目的関数Y=1.0、設計解B(X1,X2)=(2.5,1.2)の場合の目的関数Y=1.2であれば、設計解優劣は「設計解Bの方が設計解Aよりも優れている」という情報になる。
【0019】
設計解優劣記憶部202は、優劣入力部201から入力された設計解優劣を記憶する。
図3A~Bに、設計解優劣記憶部202に記憶されている設計解優劣データの例を示す。この例では、設計解優劣記憶部202は、設計解優劣データを、設計解比較表301(
図3A)と、設計解設計変数表302(
図3B)の形で記憶している。
【0020】
設計解比較表301(
図3A)には、2つの設計解を比較し、優れている設計解IDを設計解ID1のカラムに、劣っている設計解IDを設計解ID2のカラムに記憶している。例えば、プロジェクトID「1」、優劣ID「1」のレコードは、設計解ID「1」の設計解が、設計ID「2」の設計解よりも優れていることを示している。
【0021】
設計解設計変数表302(
図3B)には、設計解IDごとの設計変数の値が記憶されている。例えば、プロジェクトID「1」、設計解ID「1」のレコードは、設計解ID「1」の設計解につき、設計変数の値がX1=1.0、X2=1.0であることを示している。
【0022】
優劣モデル作成部203は、設計解優劣記憶部202に記録されている設計解優劣データ(
図3A~B)と、プロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクト情報データ(
図12A)のプロジェクトの目的に基づき、優劣モデルを作成する。
【0023】
ここで、優劣モデルとは、任意の設計変数の値を入力すると、設計解優劣記憶部202に記録されている設計解優劣データと矛盾のないスコアを出力するモデルである。例えば、プロジェクトの目的が目的関数の最大化であり、設計解優劣として、設計変数X1=1.0の設計解Aよりも、設計変数X1=1.2の設計解Bの方が優れているという情報が与えられている場合、優劣モデルはX1=1.0により近いほど小さなスコアを、X1=1.2に近いほど大きなスコアを出力する。
【0024】
実験解析結果入力部204は、入力装置101を介して入力された実験解析結果を、実験解析結果記憶部205に記憶させる。実験解析結果とは、設計変数の値と、実験や数値解析などにより得られた設計変数の値に対応する目的関数の値のペアの集合である。例えば、設計変数X1=1.0、X2=1.0のとき、目的関数がY=1.0である、といった情報である。
【0025】
図4に、実験解析結果記憶部205に記憶される実験解析結果データの例を示す。実験解析結果表401(
図4)には、例えば、プロジェクトID「1」の、設計解ID「5」の設計解は、設計変数X1=1.2、設計変数X2=1.2であり、実験や数値解析で得られた目的関数Yの値が0.8であることを示している。
【0026】
メタモデル作成部206は、優劣モデルと実験解析結果データからメタモデルを作成する。ここで、メタモデルとは、任意の設計変数値を入力として、その設計変数値に対応する目的関数の値を予測するモデルである。1つのプロジェクトにおいて、目的関数が複数ある場合は、メタモデルは目的関数ごとに作成される。
【0027】
優劣質問作成部207は、メタモデルとプロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクトの設計変数の範囲に基づき、設計解優劣に関する質問を作成し、出力装置103を介してユーザに表示する。ここで、優劣質問とは、設計変数X1=1.0、設計変数X2=1.0の設計解Aと、設計変数X1=2.5、設計変数X2=1.2の設計解Bのどちらが優れているかといった質問である。
【0028】
実験計画作成部208は、メタモデルとプロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクトの設計変数の範囲に基づき、実験計画を作成し、出力装置103を介してユーザに表示する。ここで、実験計画とは、次に実験や数値解析をすべき設計変数値の組合せである。
【0029】
実施例1の最適化支援装置により実行される最適化支援方法の処理の流れについて、
図5を用いて説明する。
【0030】
ユーザは、入力装置101を用いてプロジェクト情報をプロジェクト情報入力部209に入力する(S510)。プロジェクト情報入力部209は、入力されたプロジェクト情報をプロジェクト情報記憶部210に記憶する(S511)。
【0031】
続いて、実験計画作成部208は、ステップS511で
記憶されたプロジェクト情報の設計変数の範囲に基づき、実験計画を出力装置103に表示する(S501)。
図6に、出力装置103への表示例を示す。実験計画欄603に実験計画作成部208が作成した実験計画が表示されている。この例では、上位の候補3件が表示されるように設定されている。このとき、後に説明するメタモデルを用いて実験計画を作成した場合には、目的関数値の予測結果(予測値カラム604)や設計変数(ここでは(x
1,x
2))と目的関数(ここではy)との関係をコンター
図601などにより表示してもよい。メタモデルが作成される以前に作成した実験計画については、予測結果やコンター図は表示しない。
【0032】
実験解析結果が実験解析結果記憶部205に記憶されておらず、したがってメタモデルが作成しない場合には、実験計画作成部208は、直交表(非特許文献1)やラテン方格(非特許文献2)などを用いて、実験計画を作成することができる。
【0033】
実験解析結果が実験解析結果記憶部205に記憶されており、後述するステップS509において作成されたメタモデルが存在する場合は、実験計画作成部208はプロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクトの設計変数の範囲内でメタモデルを最適化することにより得られる複数の局所最適解の設計変数値を出力する。あるいは、Expected ImprovementやProbability of Improvement、Upper Confidence Boundなどの獲得関数(非特許文献6)を計算し、その値が大きい複数の設計変数値を実験計画として出力する。また、プロジェクトに目的関数が複数あり、したがってメタモデルが複数ある場合には、expected hypervolume improvement(非特許文献5)などの獲得関数を計算し、その値が大きい複数の設計変数値を実験計画として出力する。
【0034】
出力装置103に表示された実験計画が合理的でないなどの理由でユーザが再度実験計画をやり直したいときは、ユーザは設計解の優劣を入力する。例えば、
図6に示す表示画面において、設計解優劣入力ボタン602をクリックすることにより、設計解優劣を入力する画面に遷移する。
【0035】
ユーザが設計解優劣を入力することを選択した場合、優劣質問作成部207は、設計解の優劣に関する質問を作成し、出力装置103に表示する(S502)。これに対し、ユーザは、入力装置101を用い、設計解の優劣に関する回答を優劣入力部201に入力する(S503)。
図7に、出力装置103への表示例を示す。
図7の例では、ユーザに優劣を確認したい設計解のペア(設計解A,設計解B)を表示し、ユーザが優れていると判断する、すなわちプロジェクトの目的が目的関数yの最小化であれば、より小さな目的関数yの値が得られるとユーザが判断する設計解をマウスなどの入力装置101で選択させる。この画面を複数の設計解のペアについて表示し、各々のペアについて優れていると判断される設計解を選択させ、ユーザの入力情報に基づき優劣入力部201は設計解優劣データ(
図3A)作成する(S504)。なお、既にメタモデルが作成されている場合には、設計解のペア(設計解A,設計解B)を表示する際、目的関数値の予測結果などをあわせて表示してもよい。
【0036】
優劣質問作成部207は、メタモデルが存在しない場合には、直交表(非特許文献1)やラテン方格(非特許文献2)などを用いて、ユーザに優劣を確認したい設計解を作成する。実験解析結果が実験解析結果記憶部205に記憶されており、メタモデルが存在する場合には、プロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクトの設計変数の範囲内でメタモデルを最適化することにより得られる複数の局所最適解の設計変数値、あるいは、Expected ImprovementやProbability of Improvement、Upper Confidence Boundなどの獲得関数(非特許文献6)を計算し、その値が大きい設計変数値に対応する設計解を、ユーザに優劣を確認したい設計解として選択する。
【0037】
次に、設計解優劣記憶部202に記録されている設計解優劣データに基づき、優劣モデル作成部203は優劣モデルを作成する(S508)。優劣モデルの作成は、例えば、非特許文献3に記載のPreference Learningなどを用いて行うことができる。
【0038】
次に、実験解析結果記憶部205に記録されている実験解析結果データと優劣モデルとに基づき、メタモデル作成部206はメタモデルを作成する(S509)。メタモデルの作成は、例えば、非特許文献4に記載のco-krigingなどを用いて行うことができる。
【0039】
その後、再び、実験計画作成部208は、メタモデルとプロジェクト情報記憶部210に記憶されているプロジェクトの設計変数の範囲に基づき、実験計画を作成し、出力装置に表示する(S501)。
【0040】
ユーザが設計解優劣を入力しなかった場合、すなわちユーザが提示された実験計画に満足した場合には、ユーザは、出力装置103に表示された実験計画に基づき数値解析や実験を行い、目的関数の値を取得する(S505)。数値解析や実験により、目的関数の値が設計の目標値などの要件を満たす設計解が得られたらプロジェクトは終了する。
【0041】
そうでない場合には、ユーザは、入力装置101を用い、実験解析結果入力部204に実験や解析の結果を入力する(S506)。実験解析結果入力部204は、入力された実験や解析の結果を実験解析結果記憶部205に記憶させる(S507)。
【0042】
設計解優劣記憶部202に設計解優劣が記憶されている場合には、優劣モデル作成部203は優劣モデルを作成(S508)し、優劣モデルと実験解析結果記憶部205に記憶されている実験解析結果データに基づき、メタモデル作成部206はメタモデルを作成する(S509)。一方、設計解優劣記憶部202に設計解優劣が記憶されていない場合には、メタモデル作成部206は、実験解析結果記憶部205に記憶されている実験解析結果データに基づき、例えばGaussian Process Regressionなどの手法を用いて、メタモデルを作成する(S509)。
【0043】
本実施例の効果について
図14、
図15A~Bを用いて説明する。
図14は比較例として実験解析結果のみから設計変数xから目的関数yの値を予測するメタモデルを作成した例を示す。グラフの横軸は設計変数xであり、縦軸が目的関数yである。実際の実験解析結果により得られた目的関数yの値を黒点で表し、真の目的関数1401及びメタモデル1402の波形をそれぞれ示している。また、横軸の範囲がプロジェクトの設計変数の範囲であるとする。実験解析結果が得られている範囲では、真の目的関数1401とメタモデル1402の波形とは近似することが期待できるが、実験解析結果が得られていない領域では、
図14のように、メタモデル1402が真の目的関数1401から大きく乖離することも生じ得る。このような場合、メタモデル1402を用いて次の測定点を予測しても、メタモデルを真の目的関数に近づけるために有意義な情報を与える測定点を選択することは極めて困難である。
【0044】
本実施例では、プロジェクトの設計変数の範囲に対して、限られた実験解析結果しかない場合でも、プロジェクトの設計変数の範囲に対してユーザの有する知見に基づいて優劣モデル1501を作成する(
図15A)。
図15Aにおいて優劣質問作成部207が質問した設計解が▲で記されている。メタモデル作成部206は優劣モデル1501と実験解析結果データとを用いてメタモデルを作成することで、
図15Bに示されるように、プロジェクトの設計変数の全域にわたって、真の目的関数1401の波形により近似するメタモデル1502を得ることができる。メタモデル1502を用いて次の測定点を予測することにより、メタモデルを真の目的関数にさらに近づけるために有意義な情報を与える測定点を選択できる可能性が高くなる。
【0045】
さらに優劣モデルを作成するにあたっては、どちらの設計解が望ましいと考えるかという質問形式を採用することで、ユーザの知見を引き出しやすくしている点も重要である。例えば、ユーザに対して、プロジェクトの設計変数の範囲に対して、真の目的関数の波形はどのようなものであるか直接的に質問しても、プロジェクトの設計変数の数が増大する程、ユーザが正しく真の目的関数の波形を予測することは困難である。しかしながら、具体的な設計解同士を比較することにより、断片的な知見を組み合わせることで、結果的に真の目的関数の波形に近似する優劣モデルを作成することが可能になる。
【0046】
以下に説明する実施例においても、これらの効果を同様に有している。
【実施例2】
【0047】
図8は、実施例2の最適化支援装置の機能ブロック図である。なお、ハードウエア構成は、実施例1と同様に
図1で示される構成である。実施例2の最適化支援装置は、優劣情報作成部801、設計解優劣記憶部202、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、実験解析結果記憶部205、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209、プロジェクト情報記憶部210の機能を有している。優劣情報作成部801、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209は、演算処理装置102を用いて実行される。また、設計解優劣記憶部202、実験解析結果記憶部205、プロジェクト情報記憶部210は、記憶装置104を用いて実行される。
【0048】
以下、実施例2の機能ブロック図に関して説明するが、
図8に示した機能ブロック図の内、既に説明した
図2の機能ブロック図に示される同一の符号を付された構成と同一の機能を有する部分については、重複する説明を省略する。
【0049】
優劣情報作成部801は、入力装置101を介して入力された実験計画の選択から、設計解優劣に関する情報を作成し、設計解優劣記憶部202に記憶する。すなわち、ユーザが実験計画作成部208の作成した実験計画のうち、どの設計解、すなわち設計変数値の組合せを選択したかという情報から、設計解優劣を抽出する。例えば、実験計画として、設計変数X1=1.0、設計変数X2=1.0の設計解Aと、設計変数X1=2.5、設計変数X2=1.2の設計解Bが、実験計画作成部208により出力装置103に表示されたとして、ユーザは実験や数値解析を行う設計変数値の組合せとして設計解Aを選択したとする。この場合、優劣情報作成部801は、設計解Aは設計解Bよりも優れているという設計解優劣を抽出し、その設計解優劣を設計解優劣記憶部202に記憶する。
【0050】
実施例2の最適化支援装置により実行される最適化支援方法の処理の流れについて、
図9を用いて説明する。なお、
図9に示したフローチャートの内、既に説明した
図5に示された同一の符号を付された構成と、同一の処理を行う部分については、重複する説明を省略する。
【0051】
ユーザは、実際に実行する実験計画を、入力装置101を用いて選択し、優劣情報作成部801に入力する(S901)。
図10に、実験計画の選択画面の例を示す。
図10では、チェックボックス1001にチェックを入力することにより、実験計画作成部208が提示した提示された実験計画の内、どの設計解、すなわち設計変数値の組合せについて、実際に実験や数値解析を実行するかを選択する。
【0052】
次に、ステップS901でユーザによる設計解の選択情報に基づき、優劣情報作成部801は設計解優劣を推定し、その結果を設計解優劣記憶部202に記憶する(S902)。例えば、
図10のように、設計解a、cが選択され、設計解bが選択されなかった場合、設計解aは設計解bよりも優れている、設計解cは設計解bよりも優れている、という2つの設計解優劣が抽出でき、それらを設計解優劣記憶部202に記憶する。
【実施例3】
【0053】
図11は、実施例3の最適化支援装置の機能ブロック図である。なお、ハードウエア構成は、実施例1と同様に
図1で示される構成である。実施例3の最適化支援装置は、優劣入力部201、設計解優劣記憶部202、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、実験解析結果記憶部205、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209、プロジェクト情報記憶部210、類似プロジェクト検索部1101の機能を有している。優劣入力部201、優劣モデル作成部203、実験解析結果入力部204、メタモデル作成部206、優劣質問作成部207、実験計画作成部208、プロジェクト情報入力部209、類似プロジェクト検索部1101は演算処理装置102を用いて実行される。また、設計解優劣記憶部202、実験解析結果記憶部205、プロジェクト情報記憶部210は、記憶装置104を用いて実行される。
【0054】
以下、実施例3の機能ブロック図に関して説明するが、
図11に示した機能ブロック図の内、既に説明した
図2の機能ブロック図に示される同一の符号を付された構成と同一の機能を有する部分については、重複する説明を省略する。
【0055】
類似プロジェクト検索部1101は、プロジェクト情報入力部209から入力された実験解析対象のプロジェクト情報と、プロジェクト情報記憶部210に記憶されたプロジェクト情報とを比較し、実験解析対象のプロジェクトと類似する過去のプロジェクトを検索し、そのプロジェクトIDを類似プロジェクトIDとして出力する。例えば、
図12Aにおいて、プロジェクト情報入力部209からプロジェクトID「3」のプロジェクト情報が入力されたとき、設計変数と目的関数とが同一であることから、プロジェクトID「1」を類似プロジェクトIDとして出力する。なお、類似判定については特に限定しない。設計変数と目的関数が完全同一でなくても、実験解析対象のプロジェクトの設計変数を包含する設計変数を有するプロジェクトを類似プロジェクトと判定してもよい。また、設計変数の値の範囲も完全同一でなくても、重複する範囲を有している場合も類似プロジェクトとして判定してもよい。
【0056】
さらに、優劣モデル作成部203は、設計解優劣記憶部202に記録されている設計解優劣に基づき優劣モデルを作成するが、このとき類似プロジェクトの設計解優劣も用いて、優劣モデルを作成する。
【0057】
実施例3の最適化支援装置により実行される最適化支援方法の処理の流れについて、
図13を用いて説明する。なお、
図13に示したフローチャートの内、既に説明した
図5に示された同一の符号を付された構成と、同一の処理を行う部分については、重複する説明を省略する。
【0058】
類似プロジェクト検索部1101は、ステップS510で入力されたプロジェクト情報と類似のプロジェクトを検索し、そのプロジェクトIDを、類似プロジェクトIDとして出力する(S1301)。
【0059】
また、優劣モデル作成部203は、設計解優劣記憶部202に記録されている設計解優劣に基づき、優劣モデルを作成する(S1302)。このとき、優劣モデル作成部203は実験解析対象の設計解優劣だけでなく、類似プロジェクトIDに対応するプロジェクトの設計解優劣も用いて、優劣モデルを作成する。
【符号の説明】
【0060】
101:入力装置、102:演算処理装置、103:出力装置、104:記憶装置、201:優劣入力部、202:設計解優劣記憶部、203:優劣モデル作成部、204:実験解析結果入力部、205:実験解析結果記憶部、206:メタモデル作成部、207:優劣質問作成部、208:実験計画作成部、209:プロジェクト情報入力部、210:プロジェクト情報記憶部、301:設計解比較表、302:設計解設計変数表、401:実験解析結果表、601:コンター図、602:設計解優劣入力ボタン、603:実験計画欄、604:予測値カラム、801:優劣情報作成部、1001:チェックボックス、1101:類似プロジェクト検索部、1201:プロジェクト表、1202:設計変数表、1401:真の目的関数、1402,1502:メタモデル、1501:優劣モデル。