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特許7196154皮膚バリア機能を評価する方法及び皮膚バリア機能の程度を可視化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能を評価する方法及び皮膚バリア機能の程度を可視化する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020504073
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009541
(87)【国際公開番号】W WO2019172452
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/009329
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】海野 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】傳田 光洋
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-215945(JP,A)
【文献】SUN, Y. et al.,Multiphoton polarization and generalized polarization microscopy reveal oleic-acid-induced structura,OPTICS LETTERS,2004年09月01日,Vol. 29, No. 17,pp. 2013-2015
【文献】GOLFETTO, O. et al.,Laurdan Fluorescence Lifetime Discriminates Cholesterol Content from Changes in Fluidity in Living C,Biophysical Journal,2013年03月,Vol. 104,pp. 1238-1247
【文献】BLOKSGAARD, M. et al.,Structural and dynamical aspects of skin studied by multiphoton excitation fluorescence microscopy-b,European Journal of Pharmaceutical Sciences,2013年,Vol. 50, Issue 5,pp. 586-594
【文献】CARRER, D.C. et al.,Pig skin structure and transdermal delivery of liposomes: A two photon microscopy study,Journal of Controlled Release,2008年,Vol. 132,pp. 12-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚バリア機能を評価する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;
(3)各前記面における前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から流動度(GP)を算出し、前記最下層から前記最上層又は前記最上層から前記最下層に向かって前記流動度(GP)をプロットして流動度分布を作成し、第1極大値を決定する工程;及び
(4)前記第1極大値に隣接する第1極小値、又は前記第1極大値を含む面よりも上層の任意の面の流動度(GP)を皮膚バリア機能値として決定する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、を比較することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1極大値は、前記角層と前記顆粒層との境界付近における、最も高い値の前記流動度(GP)として定義される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記流動度(GP)が、以下:
【数1】
により算出される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(1)において、さらに細胞質染色色素を添加する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
各前記面が、前記顆粒層の任意の1細胞の任意の断面と同一面積である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
皮膚バリア機能の程度を可視化する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光及び液晶相ピーク波長の蛍光を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;及び
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光及び前記液晶相ピーク波長の蛍光を任意の色彩でそれぞれ描画し、マージした画像を出力する工程、
を含む、方法。
【請求項11】
前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、を比較することを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
皮膚バリア機能を評価する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から任意のピクセル毎に流動度(GP)を算出し、前記流動度(GP)を任意の色彩の濃淡又はグラデーションとして前記ピクセル毎に描画し、画像として出力する工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた画像の角層に相当する画像において、高GP値を示す色彩が優位であれば、バリア機能が高いと判定し、及び/又は、前記工程(3)で得られた画像の顆粒層に相当する画像において、低GP値を示す色彩が優位であれば、バリア機能が高いと判定する工程、
を含む、方法。
【請求項16】
前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、を比較することを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記流動度(GP)が、以下:
【数2】
により算出される、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚バリア機能を評価する方法及び皮膚バリア機能の程度を可視化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体内と生体外の環境を分ける体表を覆う器官である。皮膚は、物理的なバリアとして働くことによって、乾燥や有害物質が生体内へ侵入することを防止し、生命の維持に不可欠な役割を果たしている。
【0003】
高等脊椎動物の皮膚は、最外層から大別すると表皮、真皮、皮下組織の層から形成されている。表皮は、主にケラチノサイトと呼ばれる細胞から構成されており、表皮の最深部(基底層)でケラチノサイトが分裂しながら、上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へと移動し、やがて垢となって脱落する。このサイクルはヒトの場合概ね4週間で行われる。
【0004】
皮膚のバリア機能を維持させることは生命の維持に不可欠であり、加齢や損傷などによって低下したバリア機能を向上させる物質や方法の探索が行われている。皮膚のバリア機能を回復させる物質として、例えば、キシリトール、エリスリトール、リブロース、プシコース、ガラクトース、マンニトール及びフルクトースなどの物質が知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1)。
【0005】
皮膚の機能を解析するために、表皮構造及びその機能を生体外で模倣した様々な培養皮膚モデルの構築が試みられており、いくつかの製品が市販されている(例えば、特許文献2、非特許文献2参照。)。こうした培養皮膚モデルは、皮膚へ塗布する化粧品や薬剤の安全性試験や、基礎研究等で用いられており、動物を代替するモデルとして利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-103728号公報
【文献】特開2012-235921号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Denda M.,Effects of topical application of aqueous solutions of hexoses on epidermal permeability barrier recovery rate after barrier disruption.Exp. Dermatol.2011.Nov;20(11):943-944.
【文献】Bell E.,et al.,The reconstitution of living skin.J.Invest.Dermatol.1983 Jul;81(1 Suppl):2s-10s.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように皮膚のバリア機能を回復させる物質が知られているが、そのような物質が、どのようなメカニズムで皮膚バリア機能を回復させる効果をもたらすかは明らかでなかった。本発明では、皮膚バリア機能を回復させるメカニズムを明らかにするとともに、そのメカニズムを利用した皮膚バリア機能を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、皮膚バリア機能を回復させる物質は、三次元培養表皮の特定の領域、詳しくは、顆粒層の流動性を上昇させる、及び/又は角層の流動性を低下させるメカニズムを有することを見出した。また、皮膚バリア機能を破壊する物質には、逆に、三次元培養表皮の特定の領域、詳しくは、顆粒層の流動性を低下させる、及び/又は角層の流動性を上昇させるメカニズムを有することを見出した。当該メカニズムを利用することによって、新規の皮膚バリア機能を評価する方法及び皮膚バリア機能の程度を可視化する方法を発明するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0010】
[1] 皮膚バリア機能を評価する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;
(3)各前記面における前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から流動度(GP)を算出し、前記最下層から前記最上層又は前記最上層から前記最下層に向かって前記流動度(GP)をプロットして流動度分布を作成し、第1極大値を決定する工程;及び
(4)前記第1極大値に隣接する第1極小値、又は前記第1極大値を含む面よりも上層の任意の面の流動度(GP)を皮膚バリア機能値として決定する工程、
を含む、方法。
[2] 前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、を比較することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記第1極大値は、前記角層と前記顆粒層との境界付近における、最も高い値の前記流動度(GP)として定義される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記流動度(GP)が、以下:
【数1】
により算出される、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、[6]に記載の方法。
[8] 前記工程(1)において、さらに細胞質染色色素を添加する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 各前記面が、前記顆粒層の任意の1細胞の任意の断面と同一面積である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
【0011】
[10] 皮膚バリア機能の程度を可視化する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光及び液晶相ピーク波長の蛍光を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;及び
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光及び前記液晶相ピーク波長の蛍光を任意の色彩でそれぞれ描画し、マージした画像を出力する工程、
を含む、方法。
[11] 前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、[10]に記載の方法。
[12] 前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、を比較することを特徴とする、[10]又は[11]に記載の方法。
[13] 前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、[10]~[12]のいずれか1項に記載の方法。
[14] ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、[13]に記載の方法。
【0012】
[15] 皮膚バリア機能の程度を可視化する方法であって、
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;及び
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から任意のピクセル毎に流動度(GP)を算出し、前記流動度(GP)を任意の色彩の濃淡又はグラデーションとして前記ピクセル毎に描画し、画像として出力する工程、
を含む、方法。
[16] 前記工程(1)において、対象物質を添加又は塗布する、[15]に記載の方法。
[17] 前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、
前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(3)で得られる画像と、を比較することを特徴とする、[15]又は[16]に記載の方法。
[18] 前記流動度(GP)が、以下:
【数2】
により算出される、[15]~[17]のいずれか1項に記載の方法。
[19] 前記膜環境感受性色素が、Laurdanである、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
[20] ゲル相ピーク波長が440nmであって、液晶相ピーク波長が490nmである、[19]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三次元培養表皮の皮膚バリア機能を容易に評価することが可能になる。これにより、皮膚へ塗布する化粧品や薬剤の安全性試験、基礎研究に有用な最適な三次元培養表皮モデルが選択可能となる。また、本発明によれば、皮膚バリア機能を改善又は回復させる、新規の物質を容易にスクリーニング可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】三次元培養表皮の断面(X-Z平面)の蛍光顕微鏡像を示す。三次元培養表皮にLaurdan及びCell Tracker Redを添加して培養後、820nmの波長で励起させ、Laurdan440nm(青)又はLaurdan490nm(緑)の蛍光を検出した。また、Cell Tracker Redの蛍光(赤)も検出した。それらの蛍光像をマージした。最上層から順に、角層、顆粒層、有棘層、基底層を示す。
図2】三次元培養表皮の蛍光顕微鏡像、及びその流動度分布を示す。(A)三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って1.3μm毎に撮影した像を示す。最上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)各平面の流動度(GP)を右の式に従って算出し、最上層から下層に沿って0.325μm毎にプロットした流動度分布である。SC:角層、SG1:顆粒層第1層。
図3】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布を示す。(A)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SC:角層、SG1:顆粒層第1層、SG2:顆粒層第2層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。(B)X-Z面の細胞の模式図を示す。(C)(A)のグラフの任意のGP値を示す平面における蛍光像を示す。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Redの蛍光像をマージした図。
図4】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布(未処理)を示す。(A)未処理の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SG1:顆粒層第1層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。
図5】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布(水処理)を示す。(A)水処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SG1:顆粒層第1層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。
図6】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布(100mMキシリトール処理)を示す。(A)キシリトール処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SG1:顆粒層第1層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。
図7】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布(100mMフルクトース処理)を示す。(A)フルクトース処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SG1:顆粒層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。
図8】ポリオール添加による顆粒層の脂質における流動度(GP)を示す。未処理、水処理、100mMキシリトール処理、100mMフルクトース処理した場合の顆粒層の流動度(GP)の平均値±標準偏差(SD)、p値及びn数を示す。
図9】三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、Z軸に沿った顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布(アセトン/エーテル処理)を示す。(A)アセトン/エーテル処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。(B)顆粒層の一細胞に着目した場合の、0.325μm毎にプロットした流動度分布を示す。SG1:顆粒層、GPSG:GPにおける第1極小値(SG1細胞のZ軸方向の中心部分)。
図10】アセトン/エーテル添加による顆粒層の脂質における流動度(GP)を示す。未処理、水処理、アセトン/エーテル処理した場合の顆粒層の流動度(GP)の平均値±標準偏差(SD)、p値及びn数を示す。
図11】未処理、水処理、アクアインプール1407、ポリエチレングルコール1000(PEG)、又はポリプロピレングリコール1000(PPG)処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。
図12】未処理、水処理、アクアインプール1407、PEG又はPPG処理後の角層の脂質における流動度(GP)を示す。未処理、水処理、アクアインプール1407、PEG、又はPPG処理した場合の角層の流動度(GP)の平均値±標準偏差(SD)、p値及びn数を示す。
図13】PBS又は3%オレイン酸・PBS溶液で処理後の三次元培養表皮の蛍光像(X-Y平面)を、Z軸に沿って0.65μm毎に撮影した像を示す。上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。青:Laurdan440nm、緑:Laurdan490nm、赤:Cell Tracker Red。
図14】PBS又は3%オレイン酸・PBS溶液で処理後の角層の脂質における流動度(GP)を示す。PBS又は3%オレイン酸・PBS溶液で処理した場合の角層の流動度(GP)の平均値±標準偏差(SD)、p値及びn数を示す。
図15】三次元培養表皮の流動度(GP値)画像を示す。三次元培養表皮のGP値(X-Y平面)を、Z軸に沿って1.3μm毎に示した画像を示す。最上層(左上)から下層(右下)の順番に並べた。マゼンタ:高GP値、緑:低GP値。SC:角層、SG1:顆粒層第1層。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。
【0016】
本明細書において、「三次元」とは、従来の付着細胞を細胞培養皿等での培養で得られるほぼ1層の細胞層、つまり、二次元の細胞層の状態とは異なり、細胞が垂直方向へと積み重なり、又は重層化した態様をいう。例えば、本発明において用いられる三次元培養表皮は、表皮細胞が重層化されて厚みをもった三次元化した構造体をいう。
【0017】
本明細書において、「三次元培養表皮」とは、生体に生来的に備わっている皮膚組織とは区別されるものであって、細胞間の接着タンパク質を分解してバラバラにして得られた皮膚組織由来の細胞、及び/又は、多能性幹細胞から分化誘導して得られた皮膚を構成する細胞、を含む細胞群を、細胞培養容器等に播種し、細胞培養基材上で培養して再構築した三次元皮膚様組織をいう。本発明において、三次元培養表皮を構成する細胞は、表皮細胞を含んでおり、「三次元培養表皮シート」ということもできる。本発明において、三次元培養表皮又は三次元培養表皮シートは、表皮細胞以外の細胞、例えば、表皮を構成する表皮細胞以外の細胞(メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞等)及び/又は、真皮組織に含まれる細胞(線維芽細胞、神経細胞、肥満細胞、形質細胞、血管内皮細胞、組織球、meissner小体、等)が含まれていてもよい。
【0018】
本明細書において、三次元培養表皮に含まれる細胞は、いずれの動物由来であってもよいが、脊椎動物由来が好ましく、哺乳動物由来がより好ましく、ヒト由来であることが最も好ましい。
【0019】
本明細書において、「表皮細胞」とは、表皮組織を構成する分化段階の異なる全ての細胞を含む細胞をいう。表皮細胞は、主に、角化細胞又はケラチノサイトとも呼ばれる細胞から構成されている。生体において、表皮組織は、分化段階の異なる表皮細胞が層状に重なって形成されている。表皮の最深部は基底層又は基底細胞層(以下、「基底層」という。)と呼ばれ、円柱状の細胞が一層を形成し、幹細胞を含むと考えられている。基底層は真皮との境界面でもあり、その上層には有棘層が存在する。
【0020】
有棘層とは、有棘細胞層とも呼ばれ、生体組織においては2~10層程度から構成されている。この層は、互いに棘で繋がっているように見えるために有棘層と呼ばれる。基底層の細胞のみが増殖能を有しており、表皮細胞は分化段階が進むにつれて扁平な形状に変化しながら外層へと移動する。
【0021】
有棘層より分化段階が進むと、ケラトヒアリン顆粒、ラメラ顆粒を有する顆粒層(顆粒細胞層)を形成する。顆粒層は、生体組織においては2~3層程度で構成されている。
【0022】
顆粒層よりさらに分化段階が進むと、細胞核が消失し、角層(角質細胞層)を形成する。表皮組織は大別して上述の4種類の層を構成し、表皮細胞の他にも、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞等が含まれており、それぞれ紫外線が真皮へ到達することを防いだり、皮膚の免疫機能に重要な役割を果たしたり、知覚に関与したりする。本発明において用いられる、三次元培養表皮は、表皮細胞以外の細胞が含まれても良く、使用する用途に応じて適宜変更することが可能である。
【0023】
皮膚が備える「バリア機能」とは、一般に、体内の水分や生体成分の損失を防止する機能や、生体外部から生体内部へ異物(微生物、ウイルス、ホコリ等)が入ることを防止する機能をいう。本明細書において、三次元培養表皮が有するバリア機能は、経表皮水分蒸散量(Transepidermal water loss:TEWL)を調べることにより評価することができる。三次元培養表皮からの経表皮水分蒸散量、すなわち、水分透過量が少ないほど、バリア機能が高いことを示す。経表皮水分蒸散量を調べる方法は、当業者に用いられる一般的な方法を用いることができる(例えば、Kumamoto J.,Tsutsumi M.,Goto M.,Nagayama M.,Denda M.Japanese Cedar(Cryptomeria japonica)pollen allergen induces elevation of intracellular calcium in human keratinocytes and impairs epidermal barrier function of human skin ex vivo.Arch.Dermatol.Res.308:49-54,2016を参照のこと)。
【0024】
本発明において用いられる三次元培養表皮に含まれる細胞は、生体組織、特に皮膚組織を細かく刻み、コラゲナーゼ、トリプシン等のタンパク質分解酵素で処理されて得られた初代表皮細胞であってもよく、初代表皮細胞を継代操作して増殖させた表皮細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞、又はMuse細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して得られる表皮細胞を用いてもよく、株化された表皮細胞であってもよい。
【0025】
本明細書において、初代表皮細胞とは、生体組織から採取した後に細胞培養容器で一度だけ培養されて回収された表皮細胞であり、「継代回数0(又は、第1世代)」の表皮細胞ともいう。コンフルエント又はサブコンフルエントになった継代回数0の表皮細胞を、当業者にとって公知の方法により継代操作し、さらに増幅培養することが可能である。1度の継代操作により得られた表皮細胞は、「継代回数1(又は、第2世代)」の表皮細胞という。継代操作数に対応して「継代回数2、3、4・・・n(n(整数)は継代回数)(第n+1世代)」と表現することができる。市販の初代培養細胞(例えば、クラボウ社の凍結NHEK(NB)、カタログ番号:KK-4009)には、本明細書でいう継代回数0~継代回数2程度のものまでを初代培養細胞として提供されているものもあるが、この場合の継代回数は、市販の細胞に添付の書類等に記載されている継代回数又は世代数を参考にすることができる。
【0026】
三次元培養表皮を作製する場合、表皮細胞を含む細胞群を三次元化するキットが市販されており、それを購入して作製することが可能である(例えば、ケラチノサイト三次元培養スターターキット、CELLnTEC社)。
【0027】
本発明の一実施形態において使用される初代表皮細胞の継代回数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10以上であってもよい。本発明の実施形態において、使用される初代表皮細胞の動物種は、特に限定されないが、好ましくはヒト由来である。また、本発明の実施形態において、使用される初代表皮細胞は、胎児、新生児、未成年、又は成人由来等いずれのものであってもよいが、好ましくは胎児、新生児、又は未成年由来の細胞である。ヒトの未成年由来の細胞を用いる場合、例えば、20歳未満、1~19歳、1~10歳、1~5歳の細胞を用いるのが好ましい。ヒトの成人由来の細胞を用いる場合であっても、若年、例えば、20歳~29歳、30歳~39歳、40歳~49歳の細胞を用いることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態において、三次元培養表皮の平均の厚さは、20μm以上、21μm以上、22μm以上、23μm以上、24μm以上、25μm以上、26μm以上、27μm以上、28μm以上、29μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、90μm以上、95μm以上、100μm以上、105μm以上、110μm以上、115μm以上、120μm以上、125μ以上、150μm以上、175μm以上、200μm以上、225μm以上、250μm以上、275μm以上、300μm以上であってもよい。三次元培養表皮の平均の厚さの上限値は、表皮細胞の動物種、継代回数、年齢等により変化するため、特に限定されない。
【0029】
<三次元培養表皮の製造方法>
本発明の一実施形態において用いられる三次元培養表皮に含まれる表皮細胞の播種数については、公知の方法に従えばよい。例えば、表皮細胞を、0.01×106~10.0×106個/cm2、好ましくは0.05×106~5.0×106個/cm2、より好ましくは0.1×106~1.0×106個/cm2の量で播種する。表皮細胞の培養に用いられる培地(培養液ともいう)としては、通常使用される培地、例えばKG培地、EpilifeKG2(クラボウ社)、Humedia-KG2(クラボウ社)、アッセイ培地(TOYOBO社)、CnT-Prime,Epithelial culture medium(CELLnTEC社)などを用い、約37℃で0~14日間かけて培養することができる。培地としては、その他にDMEM培地(GIBCO社)又は2-0-a-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸含有KGMとDMEMを1:1混合した培地などが使用できる。表皮細胞を三次元化(重層化)するためには、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)を用いても良い。その他の公知の培地を使用してもよい。
【0030】
本発明において用いられる三次元培養表皮は、セルカルチャーインサートを含む細胞培養容器に表皮細胞を播種し、増殖培養させることによって、三次元化(重層化)し、かつ、角質化が促進される。具体的には、表皮細胞を培地に懸濁し、セルカルチャーインサート上に播種する。培地を充填したボトムウェルに、セルカルチャーインサートを浸漬させて培養する。これにより、表皮細胞の上部及び底部の両方から培地が供給される。
【0031】
セルカルチャーインサート上の表皮細胞が、コンフルエント又はサブコンフルエントになるまで数日間程度(1~6日間程度、好ましくは2~4日間程度)培養させることが好ましい。その後、細胞の三次元化(重層化)をさらに促進するために、セルカルチャーインサート内外の培地を、例えば、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)へ交換することが好ましい。これにより、さらに表皮細胞の三次元化が促進される。CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)へと培地を交換して培養後、1~36時間後、好ましくは6時間~24時間後、さらに好ましくは12時間~18時間後、セルカルチャーインサートの内部の培地のみを除去して表皮細胞の上面を気相に暴露させて培養することが好ましい。これによって、表皮細胞の三次元化及び角質化がさらに促進され、より厚い三次元培養表皮が得られる。三次元培養表皮を培養する培地、例えば、上記のCnT-Prime、3D barrier mediumには、L(+)-アスコルビン酸(ビタミンC)(例えば、50μg/mL)が添加されていることが好ましい。L(+)-アスコルビン酸(ビタミンC)が添加された培地によって、さらに三次元培養表皮の肥厚化が促進される。
【0032】
なお、本発明における各培養工程の培養温度は由来動物の体温付近であればよく、例えば、ヒト細胞の場合は、33~38℃程度が好適である。
【0033】
上記の方法によって得られる三次元培養表皮は、例えば、化学物質(例えば、化粧料、工業製品、家庭用品、薬剤、皮膚外用剤等)に対する皮膚の反応性を評価する方法に用いることができる。また、本発明の皮膚バリア機能を評価する方法に用いることができる。さらにまた、化学物質を添加することによって、皮膚バリア機能を改善及び/又は回復させる化学物質をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0034】
一実施態様において、上記方法によって作製され、本発明に用いられる三次元培養表皮は、例えば、図1のような構造を有する。三次元培養表皮に、生体膜のゲル相及び液晶相を検出するLaurdan(後述)と、細胞質を染色するCell Tracker Red(後述)とを添加して培養後、断面(X-Z面)を公知の共焦点蛍光顕微鏡を用いて撮影した結果、図1の像が得られる。角層と顆粒層との間はCell Tracker Redが蛍光する層が見られ、これにより、角層と顆粒層とを見分けることができる。蛍光像から、顆粒層の下部には有棘層及び基底層を観察することができる。
【0035】
<皮膚バリア機能を評価する方法>
一実施態様において、本発明は、皮膚バリア機能を評価する方法を提供する。本発明は、以下の工程を含む。
【0036】
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;
(3)各前記面における前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から流動度(GP)を算出し、前記最下層から前記最上層又は前記最上層から前記最下層に向かって前記流動度(GP)をプロットして流動度分布を作成し、第1極大値を決定する工程;及び
(4)前記第1極大値に隣接する第1極小値、又は前記第1極大値を含む面よりも上層の任意の流動度(GP)を皮膚バリア機能値として決定する工程。
【0037】
本明細書において、「膜環境感受性色素」とは、生体膜、例えば細胞膜やオルガネラ膜に取り込まれ、励起波長を照射した場合、膜環境の状態に応じて、異なる発光波長(ピーク波長)を生じる色素をいい、例えば、6-プロピオニル-2-(ジメチルアミノ)ナフタレン(Prodan)、6-アクリロイル-2-(ジメチルアミノ)ナフタレン(Acrylodan)、2’-ジメチルアミノ-6’-ナフトイル-4-トランス-シクロヘキサン酸(DANCA)、6-ラウロイル-2-(ジメチルアミノ)ナフタレン(Laurdan)、アニリノナフタレンスルホネート(ANS)、Bis-ANS、スチレン誘導体DCVJ、Dapoxyl誘導体などが含まれる。生体膜において、脂質分子やタンパク質分子は膜面中で側方拡散運動を行っており、その拡散運動が「膜の流動性」(すなわち、「膜の柔らかさ」)を決定している。膜環境感受性色素を用いることにより、「膜の流動性」を測定することが可能となる。
【0038】
例えば、Prodanは、無極性溶媒(中では392nmの発光波長から、水中での523nmの発光波長まで大きくシフトすることが知られている分子である。そのため、Prodanは、タンパク質の構造変化にともなうアミノ酸残基の水環境への露出度や、膜の相転移(ゲル相又は液晶相)にともなう極性度の変化の測定に用いることができる。
【0039】
例えば、Laurdanは、DPPC(ジパルミトイル フォスファチジルコリン)中において、ゲル相では、440nmに発光スペクトルのピークを示し、液晶相では、490nmに発光スペクトルのピークを示す。本発明において、膜環境感受性色素を用いて、膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を測定することにより、三次元培養表皮の生体膜の流動度(GP:Generalized Polarization)を予測することが可能となる。本発明に用いられる膜環境感受性色素として、好ましくは、Laurdanである。
【0040】
本発明者らは、上記工程(1)~(4)を実施して、三次元培養表皮における生体膜の流動度(GP)を、最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔でプロットして流動度分布を作成した結果、公知の皮膚バリア機能を向上させる物質には、三次元培養表皮の特定の領域、特に、顆粒層の流動性を上昇させる、及び/又は角層の流動性を低下させるメカニズムを有することを見出した。また、皮膚バリア機能を破壊する物質には、逆に、三次元培養表皮の顆粒層の流動性を低下させる、及び/又は角層の流動性を上昇させるメカニズムを有することを見出した。すなわち、当該メカニズムに着目することによって、本発明にかかる三次元培養表皮の皮膚バリア機能を評価する方法を完成させた。具体的な態様について、以下に説明する。
【0041】
図2及び図3では、膜環境感受性色素として、Laurdanが用いられている。一実施態様において、三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する(図2(A)及び図3(C)参照)。一実施態様において、三次元培養表皮の最下層と平行な各面における流動度(GP)を算出し、それをZ軸にプロットすることによって流動度分布(図2(B)及び図3(A)参照)が得られる。
【0042】
本明細書において、「三次元培養表皮の最下層」とは、三次元培養表皮を培養している基材の培養面と接触することにより形成された三次元培養表皮の最下層面をいう。また、本明細書において、「X-Y面」とは、三次元培養表皮を培養している基材の培養面と平行な面をいう。また、本明細書において、Z軸とは、前記X-Y面と垂直な軸をいう。
【0043】
ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)は、例えば、共焦点蛍光顕微鏡や多光子励起顕微鏡(例えば、二光子励起顕微鏡)によって撮影し、得られた画像を解析することによって検出することができる。検出するゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)は、使用する膜環境感受性色素に応じて、適宜選択される。
【0044】
一実施態様において、三次元培養表皮の最下層と平行な面の間隔は、例えば、0.01μm~50μm、好ましくは0.05μm~10μm、より好ましくは、0.1μm~5μmである。
【0045】
得られたゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から、例えば、以下の式に従って、流動度(GP)を算出することができる。
【数3】
【0046】
一実施態様において、膜環境感受性色素がLaurdanである場合、ゲル相ピーク波長が440nmであり、液晶相ピーク波長が490nmである。そのため、例えば、以下の式に従って、流動度(GP)を算出することができる。
【数4】
[式中、I440nmは、440nmにおける蛍光強度を示し、I490nmは、490nmにおける蛍光強度を示す]
【0047】
上記式によって、各面における流動度(GP)を算出し、前記最下層から前記最上層又は前記最上層から前記最下層に向かって前記流動度(GP)をプロットして流動度分布を作成することにより、例えば、図2(B)及び図3(A)のグラフが得られる。相対的に流動度(GP)が低いと、流動性が相対的に高いことを示し、相対的に流動度(GP)が高いと、流動性が相対的に低いことを示す。
【0048】
本明細書において、「第1極大値」とは、上記のように作成された流動度分布において、角層(SC)と顆粒層(特に顆粒層第1層(SG1))との境界付近における、最も高い値の流動度(GP)として定義される(図2(B)及び図3(A)参照)。顆粒層は、一般的に、2~3層の細胞から形成されており(本明細書においては、角層に近い層から、顆粒層第1層(SG1)、顆粒層第2層(SG2)、顆粒層第3層(SG3)と呼ぶ。角層(SC)と顆粒層第1層(SG1)との境界は、細胞核が消失した角層(SC)の細胞は染色しない色素、例えば、細胞質染色色素(例えば、Cell Tracker)を添加することによって、さらに明確に認識可能となる(図1参照)。
【0049】
本明細書において、「皮膚バリア機能値」とは、後述する「第1極小値」、「第2極小値」、「第3極小値」、又は「第1極大値を含む面よりも上層の任意の流動度(GP)」をいう。「皮膚バリア機能値」は、好ましくは「第1極小値」及び/又は「第1極大値を含む面よりも上層の任意の流動度(GP)」である。
【0050】
本明細書において、「第1極小値」とは、上記のように作成された流動度分布において「第1極大値」を示す流動度(GP)に隣接し、顆粒層第1層(SG1)の領域の流動度(GP)のうち最も低い値の流動度(GP)として定義される(図2(B)及び図3(A)参照)。本発明者らは、皮膚のバリア機能が、顆粒層(特に第1顆粒層(SG1)の中心部分)の流動度(GPSG)、すなわち、第1極小値と逆相関することを初めて明らかにした。換言すると、複数の三次元培養表皮において、第1極小値を比較することにより、皮膚バリア機能が高い又は低いことを評価することができる。
【0051】
本明細書において、「第2極小値」とは、上記のように作成された流動度分布において、顆粒層第2層(SG2)の領域の流動度(GP)のうち最も低い値の流動度(GP)として定義される。本明細書において、「第3極小値」とは、上記のように作成された流動度分布において、顆粒層第3層(SG3)の領域の流動度(GP)のうち最も低い値の流動度(GP)として定義される。第2極小値及び/又は第3極小値も、本発明の皮膚バリア機能を評価する方法に用いてもよいが、より明確に比較できることから、第1極小値を用いることが好ましい。
【0052】
一実施態様の本発明は、前記工程(1)において、対象物質を添加し、第1極小値の値を比較することによって、皮膚のバリア機能を改善及び/又は回復させる対象物質をスクリーニングする方法を提供することが可能となる。
【0053】
本明細書において、「第1極大値を含む面よりも上層の任意の面の流動度(GP)」は、角層における任意の面の流動度(GP)をいう。本発明者らは、皮膚のバリア機能に影響を与える物質の添加が、角層の流動度と相関することを明らかにした。換言すると、複数の三次元培養表皮において、角層(例えば、三次元培養表皮において、最上層から第1極大値を含む面の間)の流動度(GP)を比較することにより、皮膚バリア機能が高い又は低いことを評価することができる。
【0054】
また、他の実施態様の本発明では、さらに、前記工程(1)において陰性対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、前記工程(1)において対象物質を添加又は塗布した場合の、前記工程(4)において決定された前記皮膚バリア機能値と、を比較することによって、皮膚のバリア機能を改善及び/又は回復させる対象物質をスクリーニングする方法を提供することが可能となる。本実施態様において、スクリーニングの対象物質としては、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。
【0055】
また、一実施態様の本発明では、ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を検出する各面を、顆粒層の任意の1細胞の任意の断面と同一面積に限定してもよい(図3参照)。蛍光強度を検出する各面の面積は、共焦点蛍光顕微鏡や多光子励起顕微鏡(例えば、二光子励起顕微鏡)によって撮影して得られた画像を、後から、任意のプログラム(例えば、ニコンインステック社のNIS-Elements)を用いることによって限定することができる。これによって、ノイズが減少し、第1極大値と皮膚バリア機能値が明確に認識できるようになる。
【0056】
<皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第1態様)>
一実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、皮膚バリア機能の程度を可視化する方法を提供する。
【0057】
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光及び液晶相ピーク波長の蛍光を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出し、工程;及び
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光及び前記液晶相ピーク波長の蛍光を任意の色彩でそれぞれ描画し、マージした画像を出力する工程。
【0058】
なお、皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第1態様)は、上記の皮膚バリア機能を評価する方法、又は後述の皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第2態様)で説明される各要素を適用することができる。
【0059】
一実施態様において、本発明に用いられる膜環境感受性色素は、Laurdanを用いてもよい。三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光及び液晶相ピーク波長の蛍光を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で順次検出した後(工程(2))、各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光及び前記液晶相ピーク波長の蛍光を任意の色彩でそれぞれ描画し(例えば、ゲル相ピーク波長の蛍光:青、液晶相ピーク波長の蛍光:緑)、それらの画像をマージして出力することで、図2(A)が得られる(工程(3))。
【0060】
一実施態様において、マージして出力される画像の間隔は、例えば、0.01μm~50μm、好ましくは0.05μm~10μm、より好ましくは、0.1μm~5μmである。
【0061】
本発明の方法によって得られる、三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に表示される一群の画像は、皮膚バリア機能の程度を可視化している。例えば、角層に相当する画像(例えば、最上層から第1極大値を含む面の間の画像)において、ゲル相ピーク波長の蛍光が優位であると、流動性が低く、バリア機能が高いことを示す。また、例えば、顆粒層に相当する画像において、液晶相ピーク波長の蛍光が優位であると、流動性が高く、バリア機能が高いことを示す。
【0062】
一実施態様において、本発明の方法によって得られる、三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に並べられた一群の画像は、図2(A)のように全ての画像が同時に表示された画像であってもよく、例えば、各画像が最下層から最上層又は最上層から最下層の順番に経時的に表示されるものであってもよい。また、出力される画像は、モニタであってもよく、プリントアウトされたものであってもよい。
【0063】
<皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第2態様)>
他の実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、皮膚バリア機能の程度を可視化する方法を提供する。
【0064】
(1)角層と顆粒層とを有する三次元培養表皮に、膜環境感受性色素を添加して培養する工程;
(2)前記三次元培養表皮へ、前記膜環境感受性色素に対する励起波長を照射し、前記三次元培養表皮の最下層と平行な面における前記膜環境感受性色素から発光されるゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)を、前記三次元培養表皮の最下層から最上層又は最上層から最下層に向かって、任意の間隔で、順次検出する工程;及び
(3)各前記面において、検出された前記ゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び前記液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から任意のピクセル毎に流動度(GP)を算出し、前記流動度(GP)を任意の色彩の濃淡又はグラデーションとして前記ピクセル毎に描画し、画像として出力する工程。
【0065】
なお、皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第2態様)は、上記の皮膚バリア機能を評価する方法、又は皮膚バリア機能の程度を可視化する方法(第1態様)で説明される各要素を適用することができる。
【0066】
各前記面において、工程(1)及び(2)を経て検出したゲル相ピーク波長の蛍光強度(I)及び液晶相ピーク波長の蛍光強度(I)から、任意のピクセル毎に流動度(GP)を算出することができる。算出された流動度(GP)は、任意の色彩の濃淡又はグラデーションとしてピクセル毎に描画し、画像として出力することができる(工程(3))。算出された流動度(GP)を任意の色彩で描画する方法として、例えば、補色(反対色ともいう)関係にある2色の色彩のグラデーション(例えば、高GP値:マゼンダ、低GP値:緑、図15参照)を用いてもよく、3色以上のグラデーションとして表現してもよい。これにより、視覚的にGP値の高低、すなわち、流動度を認識することができる。
【0067】
得られた画像より、例えば、角層に相当する画像(例えば、最上層から第1極大値を含む面の間の画像)において、高GP値を示す色彩が優位であれば、流動性が低く、バリア機能が高いことを示す。また、例えば、顆粒層に相当する画像において、低GP値を示す色彩が優位であれば、流動性が高く、バリア機能が高いことを示す。
【実施例
【0068】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0069】
<細胞の準備>
本発明に用いられる表皮細胞は、新生児由来ケラチノサイト(以下、「ケラチノサイト」)(クラボウ社、製品名:凍結NHEK(NB)、カタログ番号:KK-4009)を使用した。継代培養は、販売会社から提供されたインストラクションに従い行った。
【0070】
<実施例1>
以下の方法によって、三次元培養表皮を作製した。
(1)12-Well Millicell Hanging Cell Culture inserts 0.4μm PET(Millipore社、以下、「セルカルチャーインサート」)に、CELLstart CTS(ThermoFisher社)をDPBS(ThermoFisher社)で50倍希釈し、1つのセルカルチャーインサートに86μL滴下し、1.5時間37℃の条件に維持した。
(2)CELLstart CTSを除去し、継代回数4の新生児由来ケラチノサイト22~25万個をCnT-Prime,Epithelial culture medium(CELLnTEC社)500μLに分散し、セルカルチャーインサート内に滴下、同じ培地(CnT-Prime,Epithelial culture medium)を1mLセルカルチャーインサート外部に滴下し、72時間37℃、CO2インキュベーターで培養した。
(3)セルカルチャーインサート内外のCnT-Prime、Epithelial culture mediumを除去し、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)で置き換え、16時間37℃、CO2インキュベーターで培養した。
(4)セルカルチャーインサート内外の培地を除去し、セルカルチャーインサート内は空気に曝露し、セルカルチャーインサート外に500μL CnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)を入れた。
(5)毎日セルカルチャーインサート外の500μL CnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)を交換しながら37℃CO2インキュベーターで7日間培養した。
【0071】
(6)インサートに新生児由来ケラチノサイトを播種してから12日目に、20μM Laurdan(ThermoFisher社)を添加したCnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)に交換した。
(7)13日目に、20μM Laurdan及び2μM Cell Tracker Red(ThermoFisher社)を添加したCnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)に交換して、培養した。
【0072】
(8-1)14日目に、バイオプシーパンチを用いて、セルカルチャーインサートと共に三次元培養表皮を直径6mmに打ち抜き、反転させてスライドガラスの上に乗せた。さらにその上に重しを乗せた。反転した状態で、二光子顕微鏡を用いて画像を取得した。なお、Laurdanは、820nmで励起させ、440nm及び490nmの発光像を検出し、Cell Tracker Redは820nmで励起させ、602nmの発光像を検出し、マージさせた。
(9-1)得られた画像を、ニコン社のNIS-Elementsを用いて解析し、流動度(GP)を算出し、流動度分布を作成した。
【0073】
図1は、X-Z面における三次元培養表皮の蛍光像を示している。図2は、三次元培養表皮の蛍光顕微鏡像、及びその流動度分布を示す。図3は、三次元培養表皮の顆粒層の一細胞に着目した場合の、顆粒層第1層(SG1)周辺の流動度分布を示す。
【0074】
図1~3に示すように、上記方法を用いることにより、三次元培養表皮の皮膚バリア機能を評価するために用いられる第1極大値及び第1極小値を決定することができた。
【0075】
<実施例2>
実施例1の(1)~(7)と同一の手順によって、三次元培養表皮を作製した。得られた三次元培養表皮に対し、さらに以下の工程を実施した。
【0076】
(8-2)14日目に、200μLの水または100mMキシリトールまたは100mMフルクトースを角層側から添加し、37℃、CO2 5%で2時間インキュベートした。2時間後に溶液を取り除き、37℃、CO2 5%で1時間インキュベートした。1時間後にバイオプシーパンチを用いて、セルカルチャーインサートと共に三次元培養表皮を直径6mmに打ち抜き、反転させてスライドガラスの上に乗せた。さらにその上に重しを乗せた。反転した状態で、二光子顕微鏡を用いて画像を取得した。なお、Laurdanは、820nmで励起させ、440nm及び490nmの発光像を検出し、Cell Tracker Redは820nmで励起させ、602nmの発光像を検出し、マージさせた。
【0077】
その後、実施例1の(9-1)を実施した。
【0078】
上記の結果を図4(未処理)、図5(水添加)、図6(100mM キシリトール)及び図7(100mMフルクトース)に示す。図4図7の第1極小値(GPSG)の値を図8に示す。結果からも明らかであるように、皮膚のバリア機能を改善する物質であるキシリトール及びフルクトースは、未処理又は水処理の場合と比較して、有意に脂質の流動性を向上させることが明らかとなった。
【0079】
<実施例3>
実施例1の(1)~(7)と同一の手順によって、三次元培養表皮を作製した。得られた三次元培養表皮に対し、さらに以下の工程を実施した。
【0080】
(8-3)14日目に、200μLの水または、皮膚のバリア機能を破壊するアセトン/エーテル(50%(v/v))を角層側から添加し、室温で3分間インキュベートし、3分後に溶液を取り除いた。これを2回繰り返した。バイオプシーパンチを用いて、セルカルチャーインサートと共に三次元培養表皮を直径6mmに打ち抜き、反転させてスライドガラスの上に乗せた。さらにその上に重しを乗せた。反転した状態で、二光子顕微鏡を用いて画像を取得した。なお、Laurdanは、820nmで励起させ、440nm及び490nmの発光像を検出し、Cell Tracker Redは820nmで励起させ、602nmの発光像を検出し、マージさせた。
【0081】
その後、実施例1の(9-1)を実施した。
【0082】
図10の結果からも明らかであるように、皮膚のバリア機能を破壊する物質であるアセトン/エーテルを添加することにより、未処理又は水処理の場合と比較して、有意に脂質の流動性を低下させることが明らかとなった。
【0083】
<実施例4>
実施例1の(1)~(5)と同一の手順によって、三次元培養表皮を作製した。得られた三次元培養表皮に対し、さらに以下の工程を実施した。
【0084】
(6-2)インサートに新生児由来ケラチノサイトを播種してから9日目に、20μM Laurdan(ThermoFisher社)を添加したCnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)に交換した。
【0085】
(7-2)10日目に、20μM Laurdan及び2μM Cell Tracker Red(ThermoFisher社)を添加したCnT-Prime、3D barrier medium(50μg/mLのL(+)-アスコルビン酸を添加)に交換して、培養した。
【0086】
(8-4)11日目に、未処理、200μLの水、皮膚のバリア機能を促進するものとして知られるアクアインプール1407(10mM(1%(w/v))、皮膚のバリア機能を促進せずアクアンプール1407と同じ分子量であるポリエチレングリコール1000(PEG)(10mM(1%(w/v))、ポリプロピレングルコール1000(PPG)(10mM(1%(w/v))を角層側から添加し、37℃、CO2 5%で30分間インキュベートした。30分後に溶液を取り除き、37℃、CO2 5%で30分間インキュベートした。バイオプシーパンチを用いて、セルカルチャーインサートと共に三次元培養表皮を直径6mmに打ち抜き、反転させてスライドガラスの上に乗せた。さらにその上に重しを乗せた。反転した状態で、二光子顕微鏡を用いて画像を取得した。なお、Laurdanは、820nmで励起させ、440nm及び490nmの発光像を検出し、Cell Tracker Redは820nmで励起させ、602nmの発光像を検出し、マージさせた。
【0087】
その後、実施例1の(9-1)を実施した。
【0088】
図11および図12の結果からも明らかであるように、アクアインプール1407を添加することにより、未処理、水処理、PEG処理又はPPG処理の場合と比較して、角層において有意に脂質の流動性を低下させることが明らかとなった。
【0089】
<実施例5>
実施例4の(1)~(5)(6-2)(7-2)と同一の手順によって、三次元培養表皮を作製した。得られた三次元培養表皮に対し、さらに以下の工程を実施した。
【0090】
(8-5)11日目に、200μLのPBS、又は脂質の配向性を緩くする働きをもつオレイン酸・PBS溶液((3%(v/v))を角層側から添加し、37℃、CO2 5%で30分間インキュベートした。30分後に溶液を取り除き、37℃、CO2 5%で30分間インキュベートした。バイオプシーパンチを用いて、セルカルチャーインサートと共に三次元培養表皮を直径6mmに打ち抜き、反転させてスライドガラスの上に乗せた。さらにその上に重しを乗せた。反転した状態で、二光子顕微鏡を用いて画像を取得した。なお、Laurdanは、820nmで励起させ、440nm及び490nmの発光像を検出し、Cell Tracker Redは820nmで励起させ、602nmの発光像を検出し、マージさせた。
【0091】
その後、実施例1の(9-1)を実施した。
【0092】
図13および図14の結果からも明らかであるように、オレイン酸を添加することにより、PBS処理の場合と比較して、角層において有意に脂質の流動性を上昇させることが明らかとなった。
【0093】
<実施例6>
実施例1の(1)~(7)(8-1)と同一の手順によって、三次元培養表皮を作製した。得られた三次元培養表皮に対し、さらに以下の工程を実施した。
【0094】
(9-2)得られた画像を、ニコン社のNIS-Elementsを用いて解析し、1ピクセル毎に流動度(GP)を算出し、高GP値をマゼンダ、低GP値を緑とするグラデーションで描画した(図15)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15