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特許7196158新規な(パー)フルオロポリエーテルポリマー及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】新規な(パー)フルオロポリエーテルポリマー及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/333 20060101AFI20221219BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20221219BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20221219BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20221219BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20221219BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08G65/333
C08G18/50 003
C08G18/79 020
C08G18/79 040
C08G18/67 095
C08F290/06
C09D171/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020511456
(86)(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018070582
(87)【国際公開番号】W WO2019042678
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】17188930.6
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フォンターナ, シモネッタ アントネッラ
(72)【発明者】
【氏名】プッポ, アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】グアルダ, ピエール アントニオ
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/002628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
C08G 18/00-18/87
C08F 290/00-290/14
C09D 171/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの鎖末端を有する少なくとも1つの(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(P)]であって、前記鎖末端のうちの少なくとも1つが少なくとも1つの式-B-(E)の基を有し、式中、
tは2以上、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~3の整数であり、
Bは、以下の式(B-I):
に従う基であり、式中、R1、R2及びR5は、互いに同じであるか異なり、1~3個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖又は分岐アルキル基で任意選択的に置換されていてもよい6個の炭素原子を含む直鎖又は環状の脂肪族基であるか、1~3個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖又は分岐アルキル基で任意選択的に置換されていてもよい6員環芳香族基であり、
R3及びR4はそれぞれ水素原子であるか、これらが一緒になって式-C(=O)-の基を形成しており、
nは、1~4、好ましくは1~2の整数であり、
記号()は前記鎖(Rpf)への結合を示し、
各記号(§)は、前記部位Eへの結合を示し、
Eは式(E-I)の部位:
(E-I) -[OCH(CH)CH-R
であり、
式中のzは1~15の整数であり、
(R)は不飽和部位である、
(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(P)]。
【請求項2】
前記ポリマー(P)が、以下の式(P-I):
(P-I) T-(R pf )-B-[(E-I)]
(式中、
(R pf )、(B)、(E-I)、及びtは、請求項1で定義されたものと同じ意味を有し、
Tは、-H、-F、-Cl、及び1~3個の炭素原子を含む直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基から選択される中性の基であるか、式(T-I):
(T-I) -D -O-(B)-[(E-I)]
の基であり、式中、
B及び(E-I)は請求項1で定義されたものと同じ意味を有し、
は、1~6個、更により好ましくは1~3個の炭素原子を含む水素化アルキレン鎖であり、アルキル鎖は、1~3個の炭素原子を含む少なくとも1個のパーフルオロアルキル基で任意選択的に置換されていてもよく、
は、tについて請求項1で定義されたものと同じ意味を有する)
に従う、請求項1に記載のポリマー(P)。
【請求項3】
前記鎖(Rpf)が、下記式:
-(CFX)z1O(R)(CFX’)z2-D-O-
の鎖であり、式中、
z1及びz2は、互いに等しいか又は異なり、1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1~3であり;
X及びX’は、互いに等しいか又は異なり、-F又は-CFであるが、
a及び/又はbが1より大きい場合には、X及びX’は-Fであることを条件とし;
Dは、1~6個、更により好ましくは1~3個の炭素原子を含む水素化アルキレン鎖であり、アルキル鎖は、1~3個の炭素原子を含む少なくとも1個のパーフルオロアルキル基で任意選択的に置換されていてもよく;
(R)は、繰り返し単位R°を含み、好ましくはそれからなり、前記繰り返し単位は独立して、
(i)-CFXO-(式中、XはF又はCFである)、
(ii)-CFXCFXO-(式中、Xは、出現ごとに等しいか又は異なり、F又はCFであり、但し、Xの少なくとも1つは、-Fであることを条件とする);
(iii)-CFCFCWO-(式中、Wのそれぞれは、互いに等しいか若しくは異なり、F、Cl、Hである);
(iv)-CFCFCFCFO-;
(v)-(CF-CFZ-O-(式中、jは0~3の整数であり、Zは一般式-O-R(f-a)-Tの基であり、R(f-a)は、0~10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、以下:-CFXO-、-CFCFXO-、-CFCFCFO-、-CFCFCFCFO-(Xのそれぞれは、独立して、F又はCFである)の中から選択され、Tは、C~Cパーフルオロアルキル基である);
からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のポリマー(P)。
【請求項4】
前記部位(R)が:
(R-I) -O-C(=O)-CR=CH
(R-II) -O-C(=O)-NH-CO-CR=CH
からなる群の中で選択され、式中、
は、H又は直鎖若しくは分岐C~Cアルキル基であり;より好ましくはH又は直鎖若しくは分岐のC~Cアルキル基である、請求項1又は2に記載のポリマー(P)。
【請求項5】
前記基(B)が、以下の式(B-I-i)~(B-I-v):
(式中、
記号()は前記鎖(Rpf)への結合を示し、
各記号(§)は、式(E-I)の基への結合を示す)
に従う、請求項1又は2に記載のポリマー(P)。
【請求項6】
(I)少なくとも1種のポリイソシアネート化合物[化合物(NCO)]を、式:
H-[OCH(CH)CH-R
(式中、Rは不飽和部位であり、zは1~15の整数であり、前記化合物(NCO)と化合物(U)の当量の比は1より大きい)
の少なくとも1種の化合物[化合物(U)]と接触させる工程;
(II)工程(I)で得られた化合物を、2つの鎖末端を有し前記鎖末端の少なくとも一方がヒドロキシ基を有する(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖を含む少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(PFPE-OH)]と接触させることで前記ポリマー(P)を得る工程;
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー(P)の合成方法。
【請求項7】
前記化合物(NCO)が、同じジイソシアネート化合物の少なくとも3分子の反応から得られ、これは一緒に反応して少なくとも3個のイソシアネート基を含む直鎖又は環状の分子を形成し、前記ジイソシアネート化合物が、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI);イソホロンジイソシアネート(IPDI);キシリレンジイソシアネート;水素化キシリレンジイソシアネート;メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体[水素化MDIとも呼ばれる]及びそれらの混合物;2,4-TDI及び2,6-TDIなどのトルエンジイソシアネート(TDI)の異性体及びそれらの混合物;2,2’-MDI、2,4’-MDI、及び4,4’-MDIなどのメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)の異性体及びそれらの混合物;トルイジンジイソシアネート;及びナフタレンジイソシアネートを含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物(NCO)が少なくとも3個のイソシアネート基、より好ましくは3又は4個のイソシアネート基を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
3個のイソシアネート基を含む前記化合物(NCO)が、以下の式(I)~(IV):
により表され、4個のイソシアネート基を含む前記化合物(NCO)が、以下の式(V):
によって表される、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物(NCO)と前記化合物(U)との間の当量比が、1.1~2、より好ましくは1.2~1.8である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(II)が、フッ素化溶媒の存在下で、好ましくはフッ素化炭化水素、ヘキサフルオロキシレン、クロロトリフルオロトルエン、トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン、及びそれらの混合物を含む群の中で選択されるフッ素化溶媒の存在下で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1種のポリマー(P)と、少なくとも1種の溶媒とを含有する組成物[組成物(C)]であって、前記溶媒が、好ましくは、例えばメチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン;例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル;ポリオキシエチレンモノエチル-エーテルアセテート、ポリオキシエチレンモノブチルエーテルアセテート、ポリオキシブチレンモノ-エチル-エーテルアセテート、ポリオキシ-ブチレンモノブチルエーテルアセテート、ポリオキシエチレンジアセテート、ポリオキシブチレン-ジアセテート、2-エトキシエチルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジアセテート、などの分子中にエステル-エーテル基を含有する有機溶媒;及びこれらの混合物;を含む群の中で選択される、[組成物(C)]。
【請求項13】
前記組成物(C)中の前記ポリマー(P)の量が、前記組成物(C)の総重量を基準として0.01~8重量%、より好ましくは0.5~5重量%となるように、前記組成物(C)が少なくとも1種のUV硬化性成分を更に含有する、請求項12に記載の組成物(C)。
【請求項14】
(i)少なくとも1つの表面を有する少なくとも1つのプラスチック基材を準備することであって、前記プラスチック基材が、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性オレフィン(TPO)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、及びポリアミド(PA)を含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択されること;
(ii)前記少なくとも1つの表面を、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー(P)又は請求項12及び13のいずれか1項に記載の組成物(C)と接触させること;及び
(iii)前記ポリマー(P)又は前記組成物(C)を前記少なくとも1つの表面上で硬化させること;
を含む、プラスチック基材の少なくとも1つの表面上に透明コーティングを付与する方法。
【請求項15】
プラスチック基材の少なくとも1つの表面上に透明コーティングを付与するための、請求項12及び13のいずれか1項に記載の前記組成物(C)又は請求項1~5のいずれか1項に記載の前記ポリマー(P)の使用であって、前記プラスチック基材が、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性オレフィン(TPO)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、及びポリアミド(PA)を含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2017年9月1日出願の欧州特許出願第17188930.6号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、新規な(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)ポリマー、それらの製造方法、及びコーティング組成物における添加剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フラットパネルディスプレイは、様々なエンターテイメント、家電、パーソナルコンピュータ、及びモバイルデバイス、並びに多くの種類の医療機器、輸送機器、及び産業機器のコンテンツ(静止画像、動画、テキスト、及び視覚資料一般)を人々が見ることができるようにするために使用される電子表示技術である。
【0004】
近年、タブレットコンピュータ、スマートフォン、及びラップトップなどのフラットスクリーンを使用するいくつかのデバイスは、タッチスクリーンを使用しており、これにより使用者はスクリーンをタッチすることで画面上のアイコンを選択したり、動作を始動(例えばデジタルビデオの再生)したりすることができる。
【0005】
タッチスクリーンは、情報処理システムの電子視覚ディスプレイの上部に通常積層される入出力デバイスであり、これにより、使用者は表示されているものと直接相互作用することができる。タッチスクリーンは、ゲームコンソール、パーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、電子投票装置、POSシステム、及びスマートフォンなどのデバイスにおいて普及している。これらは、コンピューターに接続することも、端末としてネットワークに接続することもできる。これらは携帯情報端末(PDA)や電子書籍リーダーなどのデジタル機器の設計においても重要な役割を果たす。使用者は、タッチスクリーンを使用して、特殊なスタイラス(抵抗膜式タッチスクリーン)及び/又は1本以上の指(静電容量式タッチスクリーン)で画面に触れることで、情報処理システムを入力又は制御することができる。
【0006】
これらのディスプレイの外層を保護する目的で、衝撃に対する保護として外部カバーが一般的に使用される。ポリカーボネートは、その低コストと製造の容易さのため、当初は最適な材料であった。しかしながら、化学的に強化された薄いディスプレイカバーガラスが、全体の厚さの要件を減らしながらも剛性を改善することが判明した。
【0007】
より最近では、モバイルデバイスが薄くなるのに伴い、市場でプラスチックカバーが提案されている。ガラスカバーと同様に、新しく提案されたプラスチックカバーは、より薄く、より軽く、見た目がよいものでありながらも、毎日の摩耗や破れからデバイスを保護するために、耐久性が非常に高い必要がある。また、擦り傷及び摩耗に対する耐性を改善する目的で、透明なコーティング層が前記プラスチックカバー上に設けられる。
【0008】
前記基材表面上に透明膜を付与することができるポリマー化合物及び組成物は、当該技術分野で開示されている。
【0009】
中でも、欧州特許第1411073号明細書(ダイキン工業株式会社)には、基材表面上に均一な膜、特に透明な膜を形成するとされるパーフルオロポリエーテル含有表面改質剤が開示されている。PFPE含有化合物は炭素-炭素二重結合を有しており、(A)ジイソシアネートの三量化により調製されるトリイソシアネート;並びに(B)(B-1)1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル、及び(B-2)活性水素と炭素-炭素二重結合とを有するモノマー、の少なくとも2種の化合物の組み合わせによって表されるこれらを含有する活性水素含有化合物;を反応させることによって得られる。より具体的には、成分(B)は:
(B-1)1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル、すなわち、以下の式で表される一官能性パーフルオロポリエーテル:
(式中、Y及びZはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である);
(B-2)活性水素と炭素-炭素二重結合とを有するモノマー;及び
(B-3)例えば活性ヒドロキシ基などの活性水素原子を有する任意選択的に存在していてもよい化合物;
を含む。
この特許文献には、パーフルオロポリエーテル含有化合物の混合物が:
成分(B-1)に結合しないパーフルオロポリエーテル含有化合物分子;
1分子の成分(B-1)に結合するパーフルオロポリエーテル含有化合物分子;及び/又は
2分子の成分(B-1)に結合するパーフルオロポリエーテル含有化合物分子;
を含み得ることが開示されている。
【0010】
欧州特許第1995260号明細書(ダイキン工業株式会社)には:
(A)100重量部の多官能性アクリレート;
(B)1~30重量部の脂肪族不飽和結合を有するオルガノシロキサン;
(C)1~100重量部のコロイダルシリカ;
(D)0.2~20重量部の脂肪族不飽和結合を有するフッ素化合物;
を含有する高エネルギー線硬化性組成物が開示されている。
【0011】
国際公開第2009/069974号パンフレット(LG CHEM.,Ltd.)には、UV硬化性官能基を含むバインダーと、フッ素UV硬化性官能基を含む化合物と、光開始剤と、ナノサイズの粒子とを含むコーティング組成物が開示されている。
【0012】
国際公開第2017/108901号パンフレット(Solvay Specialty Polymers Italiy S.p.A.)には、プラスチック、金属、又はガラスから選択される基材の少なくとも1つの表面に透明コーティングを付与する方法が開示されており、前記方法は、基材の少なくとも1つの表面を、2つの鎖末端を有する少なくとも1つの(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖を含む少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテルポリマーと少なくとも1種のUV硬化性成分とを含有する組成物と接触させる工程であって、少なくとも1つの鎖末端が少なくとも1つの不飽和部位を含む工程;及び前記組成物を硬化させる工程;を含む。
【0013】
しかしながら、前述した特許出願のいずれも、アセトン、酢酸エチル、及びメチルエチルケトンなどの特定の溶媒への溶解性を改善することを期待してPFPE含有ポリマーの化学構造を更に修飾するためのヒントも示唆も提供していない。
【発明の概要】
【0014】
上で引用した欧州特許第1411073号明細書に記載のポリマーは複数の有機溶媒に溶解するとされているものの、アセトン、酢酸エチル、及びメチルエチルケトンなどの溶媒への不十分な溶解性又は不溶性は、プラスチック基材上に透明コーティングを付与する組成物における添加剤としてのこれらの使用を依然として制限している。
【0015】
また、長い(パー)フッ素化鎖を含み、高分子量を有する可溶性(パー)フルオロポリエーテルポリマーを提供する必要性が依然として存在する。
【0016】
出願人は、透明コーティング用の組成物を調製するために典型的に使用される溶媒、特にアセトン、酢酸エチル、及びメチルエチルケトンに可溶であり、最終的なコーティングの透明性に影響を及ぼさない新規な(パー)フルオロポリエーテルポリマーを提供するという課題と向き合った。
【0017】
したがって、第1の態様では、本発明は、2つの鎖末端を有する少なくとも1つの(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(P)]であって、前記鎖末端のうちの少なくとも1つが少なくとも1つの式-B-(E)の基を有し、式中、
tは2以上、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~3の整数であり、
Bは、以下の式(B-I):
に従う基であり、式中、R1、R2及びR5は、互いに同じであるか異なり、1~3個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖又は分岐アルキル基で任意選択的に置換されていてもよい6個の炭素原子を含む直鎖又は環状の脂肪族基であるか、1~3個の炭素原子を有する1つ以上の直鎖又は分岐アルキル基で任意選択的に置換されていてもよい6員環芳香族基であり、
R3及びR4はそれぞれ水素原子であるか、これらが一緒になって式-C(=O)-の基を形成しており、
nは、1~4、好ましくは1~2の整数であり、
記号()は前記鎖(Rpf)への結合を示し、
各記号(§)は、前記部位Eへの結合を示し、
Eは式(E-I)の部位:
(E-I) -[OCH(CH)CH-R
であり、
式中のzは1~15の整数であり、
(R)は不飽和部位である、
(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(P)]に関する。
【0018】
第2の態様では、本発明は、上で定義したポリマー(P)の合成方法に関し、前記方法は、以下の工程:
(I)少なくとも1種のポリイソシアネート化合物[化合物(NCO)]を、式:
H-[OCH(CH)CH-R
(式中、Rは不飽和部位であり、zは1~15の整数であり、前記化合物(NCO)と前記化合物(U)の当量の比は1より大きい)
の少なくとも1種の化合物[化合物(U)]と接触させる工程;
(II)工程(I)で得られた化合物を、2つの鎖末端を有し前記鎖末端の少なくとも一方がヒドロキシ基を有する(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖を含む少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテルポリマー[ポリマー(PFPE-OH)]と接触させることで上で定義したポリマー(P)を得る工程;
を含む。
【0019】
第3の態様では、本発明は、上で定義した少なくとも1種のポリマー(P)を含む組成物[組成物(C)]に関する。
【0020】
第4の態様では、本発明は:
(i)少なくとも1つの表面を有する少なくとも1つのプラスチック基材を準備すること;
(ii)前記少なくとも1つの表面を、上で定義したポリマー(P)又は組成物(C)と接触させること;及び
(iii)前記ポリマー(P)又は前記組成物(C)を前記少なくとも1つの表面上で硬化させること;
を含む、プラスチック基材の少なくとも1つの表面上に透明コーティングを付与する方法に関する。
【0021】
第5の態様では、本発明は、前記プラスチック基材上の少なくとも1つの表面上に透明コーティングを付与するための、上で定義した前記組成物(C)又は前記ポリマー(P)の使用に関する。
【0022】
有利には、本発明による前記組成物(C)又は前記ポリマー(P)を用いて得られたコーティングは、それが塗布されるプラスチック基材に、優れた撥水性及び撥油性、洗浄しやすさ、及び汚れ除去特性、並びに耐指紋性能を更に付与する。
【0023】
携帯用電子デバイスのタッチスクリーンの保護層としてプラスチック基材が特に使用される場合、全てのこの特性は特に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の及び以下の請求項の目的のためには:
- 例えば「ポリマー(P)」のような表現などにおける、式を特定する記号又は数字周りの括弧の使用は、本文の残りから記号又は数字をより良く区別するという目的を有するにすぎず、そのため前記括弧は省略することもでき;
- 頭字語「PFPE」は、「(パー)フルオロポリエーテル」を表し、名詞として用いられる場合、文脈に応じて単数形又は複数形のいずれかを意味することが意図され;
- 用語「(パー)フルオロポリエーテル」は、完全に又は部分的にフッ素化されたポリエーテルを示すことが意図されており;
- 用語「クリアな」及び「透明な」は、同義語として使用される。
【0025】
好ましくは、前記鎖(Rpf)は、式
-(CFX)z1O(R)(CFX’)z2-D-O-
の鎖であり、式中、
z1及びz2は、互いに等しいか又は異なり、1以上、好ましくは1~10、より好ましくは1~3であり;
X及びX’は、互いに等しいか又は異なり、-F又は-CFであるが、
a及び/又はbが1より大きい場合には、X及びX’は-Fであることを条件とし;
Dは、1~6個、更により好ましくは1~3個の炭素原子を含む水素化アルキレン鎖であり、前記アルキル鎖は、1~3個の炭素原子を含む少なくとも1個のパーフルオロアルキル基で任意選択的に置換されていてもよく;
(R)は、繰り返し単位R°を含み、好ましくはそれからなり、前記繰り返し単位は独立して、
(i)-CFXO-(式中、XはF又はCFである);
(ii)-CFXCFXO-(式中、Xは、出現ごとに等しいか又は異なり、F又はCFであるが、Xの少なくとも1つは、-Fであることを条件とする);
(iii)-CFCFCWO-(式中、Wのそれぞれは、互いに等しいか若しくは異なり、F、Cl、Hである);
(iv)-CFCFCFCFO-;
(v)-(CF-CFZ-O-(式中、jは0~3の整数であり、Zは一般式-O-R(f-a)-Tの基であり、R(f-a)は、0~10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、以下:-CFXO-、-CFCFXO-、-CFCFCFO-、-CFCFCFCFO-(Xのそれぞれのそれぞれは、独立して、F又はCFである)の中から選択され、Tは、C~Cパーフルオロアルキル基である);
からなる群から選択される。
【0026】
より好ましくは、Dは-CH-である。
【0027】
好ましくは、前記鎖(R)は、以下の式に従う:
(R-I)
-[(CFXO)g1(CFXCFXO)g2(CFCFCFO)g3(CFCFCFCFO)g4]-
(式中、
- Xは、-F及び-CFから独立して選択され、
- X、Xは、互いに等しいか又は異なり、出現ごとに独立して-F、-CFであり、但しXの少なくとも1つは-Fであり;
- g1、g2、g3、及びg4は、互いに等しいか又は異なり、独立して、g1+g2+g3+g4が2~300、好ましくは2~100の範囲であるような0以上の整数であり;g1、g2、g3及びg4の少なくとも2つがゼロと異なる場合、異なる繰り返し単位は、鎖に沿って概して統計的に分布している)。
【0028】
より好ましくは、前記鎖(R)は、式:
(R-IIA) -[(CFCFO)a1(CFO)a2]-
(式中、
a1及びa2は、独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0以上の整数であり;a1及びa2は共に好ましくはゼロと異なり、比a1/a2は好ましくは0.1~10に含まれる);
(R-IIB) -[(CFCFO)b1(CFO)b2(CF(CF)O)b3(CFCF(CF)O)b4]-
(式中、
b1、b2、b3、b4は、独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0以上の整数であり;好ましくは、b1は0であり、b2、b3、b4は、0より大きく、比b4/(b2+b3)は1以上である)
(R-IIC) -[(CFCFO)c1(CFO)c2(CF(CFcwCFO)c3]-
(式中、
cw=1又は2であり;
c1、c2、及びc3は独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるように選択される0以上の整数であり;好ましくはc1、c2及びc3は全て0より大きく、比c3/(c1+c2)は概して0.2より小さい);
(R-IID) -[(CFCF(CF)O)]-
(式中、
dは、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0より大きい整数である);
(R-IIE) -[(CFCFC(HalO)e1-(CFCFCHO)e2-(CFCFCH(Hal)O)e3]-
(式中、
- Halは、各存在で等しいか異なり、フッ素原子及び塩素原子から選択されるハロゲン、好ましくはフッ素原子であり、
- e1、e2、及びe3は、互いに等しいか又は異なり、独立して、(e1+e2+e3)の和が2~300に含まれるような0以上の整数である)
の鎖から選択される。
【0029】
更により好ましくは、前記鎖(R)は、以下の式(R-III)に従う:
(R-III) -[(CFCFO)a1(CFO)a2]-
(式中、
a1及びa2は、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~500であるような0より大きい整数であり、比a1/a2は、概して0.1~10、より好ましくは0.2~5に含まれる)。
【0030】
好ましくは、前記部位(R)は、
(R-I) -O-C(=O)-CR=CH
(R-II) -O-C(=O)-NH-CO-CR=CH
からなる群の中で選択され、式中、
はH又は直鎖若しくは分岐のC~Cアルキル基であり、より好ましくはH又は直鎖若しくは分岐のC~Cアルキル基である。
【0031】
有利には、上の式(B-I)においてnが1である場合、前記基(B)は三価の基である。すなわち、これは少なくとも3つの化学結合、好ましくは前記鎖(Rpf)との1つの結合と、1つの前記式(E-I)の基との2つの結合を形成することができる。しかしながら、上の式(B-I)においてnが2~4などの1よりも大きい整数である場合、前記基(B)は4以上の原子価を有する。すなわち、これは4つ以上の化学結合、好ましくは前記鎖(Rpf)との1つの結合と、1つの前記式(E-I)の基との3つ以上の結合を形成することができる。
【0032】
好ましくは、R1、R2、及びR5は互いに同一である。
【0033】
好ましい実施形態によれば、前記基(B)は、以下の式(B-I-i)~(B-I-v)に従う:
(式中、
記号()は前記鎖(Rpf)への結合を示し、
各記号(§)は、式(E-I)の基への結合を示す)。
【0034】
したがって、好ましい実施形態によれば、前記ポリマー(P)は、以下の式(P-I)に従う:
(P-I) T-(Rpf)-B-[(E-I)]
(式中、
(Rpf)、(B)、(E-I)、及びtは上で定義されたとおりであり、
Tは、-H、-F、-Cl、及び1~3個の炭素原子を含む直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基から選択される中性の基であるか、式
(T-I) -D-O-(B)-[(E-I)]
の基であり、式中、
B及び(E-I)は上で定義されたものと同じ意味を有し、
はDについて上で定義されたものと同じ意味を有し、
は、tについて上で定義されたものと同じ意味を有する)。
【0035】
当業者に明らかなように、前記化合物(NCO)は、ジイソシアネート化合物の三量化から得られる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「ジイソシアネート化合物の三量化により得られる基」という表現は、少なくとも3つのイソシアネート基を含む直鎖又は環状の分子を形成するための、同じジイソシアネート化合物の3分子の反応から得られる基を示すことが意図されている。
【0036】
好ましくは、前記化合物(NCO)は、少なくとも3個のイソシアネート基、より好ましくは3~5個のイソシアネート基を含む。
【0037】
当業者であれば、ジイソシアネート化合物が一緒に反応して前記化合物(NCO)を形成する場合、反応が3個、4個、更にはそれ以上のイソシアネート基を含む分子の混合物を与え得ることを理解するであろう。
【0038】
好ましくは、前記ジイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI);イソホロンジイソシアネート(IPDI);キシリレンジイソシアネート;水素化キシリレンジイソシアネート;メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体[水素化MDIとも呼ばれる]及びそれらの混合物;2,4-TDI及び2,6-TDIなどのトルエンジイソシアネート(TDI)の異性体並びにそれらの混合物;2,2’-MDI、2,4’-MDI、及び4,4’-MDIなどのメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)の異性体並びにそれらの混合物;トルイジンジイソシアネート;及びナフタレンジイソシアネートを含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で、選択される。
【0039】
少なくとも3個のイソシアネート基を含む前記化合物(NCO)の好適な例は、以下の式(I)~(IV)により表される:
【0040】
少なくとも4個のイソシアネート基を含む前記化合物(NCO)の好適な例は、以下の式(V)によって表される:
【0041】
当業者であれば、重合反応を開始する前に適切な化合物(NCO)を系内で調製できること、又は市販の製品を使用できることも理解するであろう。後者の中では、以下のものが有利に使用される:Evonikから市販されているVestanat(登録商標)、CovestroからのDesmodur(登録商標)など。
【0042】
好ましくは、前記化合物(NCO)と前記化合物(U)との間の当量比は、1.1~2、より好ましくは1.2~1.8である。
【0043】
好ましくは、前記工程(I)は、加熱下で、より好ましくは約35℃~約70℃で行われる。
【0044】
好ましくは、前記ポリマー(PFPE-OH)は、2つの鎖末端を有する上で定義した1つの鎖(Rpf)を含み、少なくとも1つの鎖末端は1つのヒドロキシ基を有する。
【0045】
好ましくは、前記ポリマー(PFPE-OH)の官能価は少なくとも1.0であり、最大2.0である。官能価(F)は、例えば欧州特許出願公開第1810987A号明細書(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)に開示のとおりに計算することができる。当業者であれば、一官能性と二官能性のポリマーの混合物(PFPE-OH)が使用される場合、Tが中性基である上の式(P-I)に従うポリマー(P-I)及びTが式(T-I)の基である上の式(P-I)に従うポリマー(P-I**)を含むものが得られることを理解するであろう。
【0046】
本発明では、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商品名Fomblin(登録商標)PFPEとして市販されている(パー)フルオロポリエーテルポリマーから出発して良好な結果が得られた。
【0047】
好ましくは、前記工程(II)は、フッ素化溶媒の存在下で行われる。前記フッ素化溶媒は、好ましくは、フッ素化炭化水素、ヘキサフルオロキシレン、クロロトリフルオロトルエン、トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン、及びそれらの混合物を含む群から選択される。
【0048】
ポリマー(P)はそのまま使用されてもよいが、少なくとも1種のポリマー(P)と少なくとも1種の溶媒とを含有する組成物[組成物(C)]が好ましくは供給される。
【0049】
好ましくは、前記組成物(C)は溶液の形態である。
【0050】
前記少なくとも1種の溶媒は、好ましくは、例えばメチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン;例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル;ポリオキシエチレンモノエチル-エーテルアセテート、ポリオキシエチレンモノブチルエーテルアセテート、ポリオキシブチレンモノ-エチル-エーテルアセテート、ポリオキシ-ブチレンモノブチルエーテルアセテート、ポリオキシエチレンジアセテート、ポリオキシブチレン-ジアセテート、2-エトキシエチルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジアセテート、などの分子中にエステル-エーテル基を含有する有機溶媒;及びこれらの混合物;を含む群の中で選択される。
【0051】
酢酸エチル、メチル-エチル-ケトン、及びアセトンを使用することで良好な結果が得られた。
【0052】
好ましくは、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として、10~90重量%、より好ましくは15~50重量%の量でポリマー(P)を含む。
【0053】
好ましくは、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として、10~90重量%、より好ましくは50~85重量%の量で少なくとも1種の溶媒を含む。
【0054】
前記組成物(C)は、有利には、少なくとも1種のポリマー(P)と、上で定義した少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種のUV硬化性成分とを含有する組成物[組成物(C)]を得るために、前記組成物(C)中の前記ポリマー(P)の量が、前記組成物(C)の総重量を基準として0.01~8重量%、より好ましくは0.5~5重量%となるように、少なくとも1種のUV硬化性成分[組成物(C)]を含有する組成物に添加される。
【0055】
本発明の組成物(C)は、有利には、上で定義した組成物(C)を上で定義した前記組成物(C)と接触させ、任意選択的に混合することにより調製することができる。
【0056】
前記組成物(C)は、架橋剤、透明充填剤、光開始剤、揮発性又は不揮発性の添加剤(例えばバインダー、触媒、レベリング剤、湿潤剤、クレーター防止剤、染料、レオロジー制御剤、酸化防止剤、及び/又は光安定剤から選択されるもの)などの更なる成分を含んでいてもよい。
【0057】
その最終用途に応じて、前記組成物(C)に必要に応じて本明細書の上で列挙した更なる成分のうちの少なくとも1種が添加されてもよい。
【0058】
好適な架橋剤としては、例えば、エステル交換架橋剤、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのアミノ樹脂架橋剤;トリスアルコキシカルボニルアミノトリアジン架橋剤等が挙げられる。
【0059】
好適な透明フィラーとしては、例えば、シリカ、より好ましくはナノシリカが挙げられる。
【0060】
前記追加の成分及び添加剤のそれぞれは、好ましくは、例えば組成物(C)の総重量基準で最大8重量%、より好ましくは0.01~5重量%の量などの従来の量で使用される。
【0061】
本明細書及び添付の特許請求の範囲内で使用される「組成物(C)」という表現は、別段の規定がない限り、「組成物(C)」と「組成物(C)」の両方を含むことが意図されている。
【0062】
前記接触の工程(i)は、例えば室温で行うことができる。より入念な接触又は混合方法が使用されてもよく、これは、例えば、機械的な振盪機又は加熱の使用を必要とする。
【0063】
好ましくは、工程(i)は、例えばスプレーコーティング、ディップコーティング、ロール・ツー・ロール、スピンコーティング、キャスティングなどを含む適切な方法によって行われる。
【0064】
組成物(C)又は前記組成物(C)は、適切な基材の表面に塗布されることでクリアな(すなわち透明な)コーティング層を形成することができる。
【0065】
好適なプラスチック基材は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性オレフィン(TPO)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、及びポリアミド(PA)を含む群から、好ましくはこれらからなる群から選択される。
【0066】
好ましくは、噴霧工程後に得られる膜は、5~500μm、より好ましくは10~250μm、更により好ましくは25~175μmの厚さを有する。
【0067】
好ましくは、工程(ii)は、前記少なくとも1つの表面上に組成物(C)をUV硬化させることによって行われる。
【0068】
硬化条件は、前記組成物(C)の成分、並びにコーティング工程及び硬化工程が行われる状況に依存する。
【0069】
任意の照射源を使用することができる。照射は、使用される組成物(C)に応じて当業者が調節することができる。200~750Wの照射を行うことにより良好な結果が得られた。好ましくは、前記硬化工程がUVを使用して行われる場合、硬化時間は1~50秒、より好ましくは5~30秒である。
【0070】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0071】
本発明は、以下の実験の部に含有される実施例によってより詳細に本明細書で以下に例示されるが;実施例は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【実施例
【0072】
原材料
- VESTANAT(登録商標)HT2500/100(ヘキサメチレンジイソシアネートに基づく脂肪族ポリイソシアネート、NCO含有率23%)及びVESTANAT(登録商標)T 1890/100(イソホロンジイソシアネートに基づく脂環式ポリイソシアネート、NCO含有率17.3%)は、Evonikから入手した;
- Fluorolink(登録商標)AD1700 PFPEポリマーは、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.により製造された;
- ジブチルスズジラウレート、メチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、Darocure(登録商標)1173(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン)、2,6-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール、ポリ(プロピレングリコール)アクリレート、及び2-ヒドロキシエチルアクリレートは、SigmaAldrichから購入した;
- ヘキサフルオロキシレンは、Miteni S.P.A.から入手した;
- CN132低粘度脂肪族ジアクリレートオリゴマー及びSR339C(2-フェノキシ-アクリレート)反応性希釈剤は、Arkemaから入手した。
【0073】
シート状のPET「DuPont Teijin Films(商標)」グレードMelinex(登録商標)ST504(厚さ175μm)を、膜堆積用のプラスチック基材として使用した。
【0074】
方法
平均官能価の決定
以下の式によって定義される、出発物質として使用されるPFPE-アルコールの平均官能価(F):
平均官能価=2/(E+E
(式中、
は官能性末端基の数であり、
は非官能性末端基の数である)
は、例えば適切に改良した米国特許第5,919,614号明細書に開示されている方法などの公知の方法に従って、H-NMR及び19F-NMRによって決定した。
【0075】
膜塗布手法
配合物を含むUV硬化性のPFPEの膜は、湿膜巻線アプリケーターロッドを使用して作製した。
【0076】
膜の硬化
薄膜の熱処理のために通気型電気オーブン(Tmax=300℃)を使用した。
【0077】
膜のUV架橋のために、UVC、UVB、及びUVAを含む180nmから可視光までの完全なスペクトルを有する800ワットの高圧水銀ランプを備えたUVチャンバー「Helios Ital-Quartz」を使用した。
【0078】
膜試験
静的接触角は、平均値及び標準偏差を得るために、少なくとも5滴の液体をサンプル上に堆積させることにより、Kruess GmbH,Germanyの液滴形状分析計「KruessDSA10」を使用して測定した。
【0079】
表面自由エネルギーは、方法FAWKESに従って計算した。
【0080】
合成1-ポリマーP1の調製
メカニカルスターラー、滴下漏斗、及び冷却カラムを備えた250mlの丸底フラスコに、不活性雰囲気下で、40.0gのメチルエチルケトン(MEK)、6.0gのVestanat(登録商標)HT2500/LV、0.10gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)20%酢酸エチル溶液、3,610-3gの2,6-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を入れ、温度を55℃まで上げた。
【0081】
次いで、10.4gのポリ(プロピレングリコール)アクリレート(MW=475)をフラスコの中に滴下し、反応混合物を2時間撹拌した。
【0082】
その後、40.0gのヘキサフルオロキシレン(HFX)と、20.0gの式:
に従うパーフルオロポリエーテルアルコール(平均MW=2358;a1/a2=1.14;F=1.29となるような比のX=-F又は-CHOH)を反応器に添加し、混合物を約6時間撹拌した。変換の度合は、FTIR分析により、2250cm-1のイソシアネート吸収バンドの消失を観察することにより、並びに末端の前の-CF-が-81.3及び-83.3ppm(-CHOH基に結合している場合)から部位-CHOC(O)NH-に結合している場合の-77.5及び-79.5ppmへシフトすることを観察する19FNMR分析により両方追跡した。
【0083】
次いで、溶媒を真空下で(10-1mbar及び60℃で)蒸留し、34.2gのポリマーP1を単離した(反応の収率は94%であった)。
【0084】
合成2-ポリマーP2の調製
メカニカルスターラー、滴下漏斗、及び冷却カラムを備えた250mlの丸底フラスコに、不活性雰囲気下で、45.0gのメチルエチルケトン(MEK)、8.4gのVestanat(登録商標)T1890/100、0.11gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)20%酢酸エチル溶液、410-3gの2,6-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を入れ、温度を55℃まで上げた。
【0085】
次いで、11.0gのポリ(プロピレングリコール)アクリレート(MW=475)をフラスコの中に滴下し、反応混合物を3時間撹拌した。
【0086】
その後、45.0gのヘキサフルオロキシレン(HFX)と、20gの式:
に従うパーフルオロポリエーテルアルコール(平均MW=2155;a1/a2=1.25;F=1.25となるような比のX=-F又は-CHOH)を反応器に添加し、混合物を約8時間撹拌した。変換の度合は、FTIR分析により、2250cm-1のイソシアネート吸収バンドの消失を観察することにより、並びに末端の前の-CF-が-81.3及び-83.3ppm(-CHOH基に結合している場合)から部位-CHOC(O)NH-に結合している場合の-77.5及び-79.5ppmへシフトすることを観察する19FNMR分析により両方追跡した。
【0087】
次いで、溶媒を真空下で(10-1mbar及び60℃で)蒸留し、38.3gのポリマーP2を単離した(反応の収率は97%であった)。
【0088】
合成3-ポリマーP3の調製
メカニカルスターラー、滴下漏斗、及び冷却カラムを備えた250mlの丸底フラスコに、不活性雰囲気下で、40.0gのメチルエチルケトン(MEK)、5.0gのVestanat(登録商標)HT2500/LV、0.086gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)20%酢酸エチル溶液、3,310-3gの2,6-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を入れ、温度を55℃まで上げた。
【0089】
次いで、8.6gのポリ(プロピレングリコール)アクリレート(MW=475)をフラスコの中に滴下し、反応混合物を2時間撹拌した。
【0090】
その後、40.0gのヘキサフルオロキシレン(HFX)と、20.0gの式:
に従うパーフルオロポリエーテルアルコール(平均MW=2206;a1/a2=1.2)を反応器に添加し、混合物を約6時間撹拌した。変換の度合は、FTIR分析により、2250cm-1のイソシアネート吸収バンドの消失を観察することにより、並びに末端の前の-CF-が-81.3及び-83.3ppm(-CHOH基に結合している場合)から部位-CHOC(O)NH-に結合している場合の-77.5及び-79.5ppmへシフトすることを観察する19FNMR分析により両方追跡した。
【0091】
次いで、溶媒を真空下(10-1mbar、60℃)で蒸留し、32.4gのポリマーP3を単離した(反応の収率は96%であった)。
【0092】
比較合成4:ポリマーC-P1の調製
メカニカルスターラー、滴下漏斗、及び冷却カラムを備えた250mlの丸底フラスコに、不活性雰囲気下で、35.0gのメチルエチルケトン(MEK)、6.0gのVestanat(登録商標)HT2500/LV、0.10gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)20%酢酸エチル溶液、310-3gの2,6-ジ-ter-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を入れ、温度を55℃まで上げた。
【0093】
その後、2.5gの2-ヒドロキシエチルアクリレート(MW=116)をフラスコの中に滴下し、反応混合物を2時間撹拌した。
【0094】
その後、30.0gのヘキサフルオロキシレン(HFX)と、20.0gの式:
に従うパーフルオロポリエーテルアルコール(平均MW=2358;a1/a2=1.14;F=1.29となるような比のX=-F又は-CHOH)を反応器に添加し、混合物を約6時間撹拌した。変換の度合は、FTIR分析により、2250cm-1のイソシアネート吸収バンドの消失を観察することにより、並びに末端の前の-CF-が-81.3及び-83.3ppm(-CHOH基に結合している場合)から部位-CHOC(O)NH-に結合している場合の-77.5及び-79.5ppmへシフトすることを観察する19FNMR分析により両方追跡した。
【0095】
次いで、溶媒を真空下(10-1mbar、70℃)で蒸留し、26.1gのポリマーC-P1を単離した。これは背景技術のセクションで引用した欧州特許第1411073号明細書の教示の典型とみなされる。
【0096】
実施例1-溶解性試験
合成1~3の記載に従って調製したポリマーP1、P2、P3及び上の比較合成4の記載に従って調製したポリマーC-P1()のそれぞれを水素化溶媒に入れ、最終的なポリマー含有率を20%(w/w)にした。得られた混合物を磁気撹拌により分散させた。次いで、撹拌後及び室温で4週間静置した後、各混合物を視覚的に検査した。
【0097】
結果は次の表1に報告されている。
【0098】
溶解性の評価は以下のとおりであった:
LS=透明な溶液
SO=わずかに乳白色
NS=溶解せず、混合物は2つの相に分離
【0099】
【0100】
配合物の調製
工程(A)
メカニカルスターラーを備えた25mlの暗色ガラスフラスコに、9gの低粘度脂肪族ジアクリレートオリゴマー(CN132)、3gの2-フェノキシエチルアクリレート、及び1.2gのプロピレングリコールモノメチルエーテルを入れた。次いで、0.2gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを30分間撹拌しながら添加し、結果としてフッ素化成分を含まないブランク[配合物B()]を得た。
【0101】
工程(B)
ポリマーP1、P2、P3及び市販のFluorolink(登録商標)AD1700のそれぞれを有機溶媒に溶解し、20%w/wに等しい乾燥成分を有する対応する溶液S1、S2、S3、及びSF()を得た。
溶液S1、S2、及びSF()の調製にはメチルエチルケトンを使用し、溶液S3にはアセトンを使用した。
【0102】
工程(C)
メカニカルスターラーを備えた25mlの暗色ガラスフラスコに、9gの低粘度脂肪族ジアクリレートオリゴマー(CN132)、3gの2-フェノキシエチルアクリレート、及び1.2gのプロピレングリコールモノメチルエーテルを入れた。次いで、上の方法(B)で開示したとおりに調製した各ポリマー溶液S1、S2、S3、及びSF()1.2gを撹拌下で添加し、0.2gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを30分間撹拌しながら添加した。
【0103】
対応する各ポリマー溶液S1、S2、S3、及びSF()から、4つの配合物F1、F2、F3、及びFF()を得た。
【0104】
膜の作製
各配合物B()、F1、F2、F3、及びFF()を、PET基材上にキャストした。
【0105】
作製してすぐの膜を90℃のオーブンに3分間入れて溶媒を蒸発させた。次いで、上部が石英で作られているステンレス鋼製の容器に膜を入れ、窒素ガスラインに接続した。窒素パージを30秒行った後、UV露光下でサンプルの硬化を7秒間行い、容器内の窒素の流れを維持した。
【0106】
対応する配合物から、BLANC()、FILM1、FILM2、FILM3、及びFILMF()と名付けられた5つの膜を得た。
【0107】
FILMF()は透明ではなく、均一ではなく、そのため本発明による膜の作製には適していなかった。したがって、その特性の更なる測定は行わなかった。
【0108】
実施例2-表面特性の測定
サンプル上に少なくとも5滴の液体を付着させることにより、各膜BLANC()、FILM1、FILM2、及びFILM3上で、水及びn-ヘキサデカンに対する表面接触角の測定を行った。
【0109】
平均の結果は次の表2に報告されている。
【0110】