(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】アクリル系エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20221219BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20221219BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C08L33/08
C08F220/18
C08K5/12
(21)【出願番号】P 2020525439
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021746
(87)【国際公開番号】W WO2019239922
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018110802
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】河崎 孝史
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/112564(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/004563(WO,A1)
【文献】特開平07-102119(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099117(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/099113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/08
C08F 220/18
C08K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系エラストマー100質量部と、化学式(1)で表される可塑剤の少なくとも一種2~15質量部と、を含有し、
前記アクリル系エラストマーが、アクリル酸アルキルエステル単位100質量部に対して、架橋席モノマー単位を0.1~5質量部
及びエチレン単位を30質量部以下含有する、
ゴムホース、シール部品又は防振ゴム部品として用いられる加硫物を形成するためのアクリル系エラストマー組成物。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ炭素数4~18のアルキル基を示す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同じアルキル基でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アクリル酸アルキルエステル単位が、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位であり、アクリル系エラストマーが、アクリル酸アルキルエステル単位100質量部に対して、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位40質量部以下と、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位15質量部以下と、からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含有する、請求項
1に記載のアクリル系エラストマー組成物。
【請求項3】
アクリル系エラストマーの架橋席モノマー単位が、カルボキシ基を有する架橋席モノマー単位及びエポキシ基を有する架橋席モノマー単位から選ばれる少なくとも一種である請求項
1又は2に記載のアクリル系エラストマー組成物。
【請求項4】
炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位が、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-メチルペンチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
2に記載のアクリル系エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のアクリル系エラストマー組成物の加硫物
であって、ゴムホース、シール部品又は防振ゴム部品として用いられる加硫物。
【請求項6】
請求項
5に記載の加硫物を用いた工業用部品
であって、ゴムホース、シール部品又は防振ゴム部品である工業用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の可塑剤を含有するアクリル系エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系エラストマーやその加硫物は、耐熱老化性や耐油性、機械的特性、圧縮永久歪み特性などの物性に優れているため、自動車のエンジンルーム内のホース部材やシール部材、防振ゴム部材などの材料として多く使用されている。
【0003】
これら部材については、近年の排ガス対策やエンジンの高出力化などの影響を受け、耐熱性の向上や、圧縮永久歪の低減が望まれている。また、寒冷地などにおいてもこれらゴム部品が使用されるため、耐寒性の向上要求も強まってきている。
【0004】
一般的に、原料ゴムに可塑剤を配合することで、ゴム部品の耐寒性を向上させる効果が得られることが知られている。このため、これらの要求に対応すべく、耐寒性と耐熱性のバランスを兼ね備えたアクリル系エラストマーを原料に、種々の可塑剤を配合させた組成物が使用されている。
【0005】
可塑剤は、配合されたゴム部品の使用環境によってはその部品表面にブリードアウトするという問題があり、その選択において使用環境を考慮する必要がある。このため、耐寒性、耐熱性が要求される部品に使用されるアクリル系エラストマーには、耐熱性を低下させることなく、加工性を改善し、さらに柔軟性に富んだ製品の提供が可能な可塑剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、耐熱性に優れるアクリル系エラストマー組成物として、特定のポリテトラメチレングリコール化合物を配合させたアクリル系エラストマー組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、耐熱性に優れると共に、耐寒性、難燃性などに優れる弾性部材を製造するアクリルゴム組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-102119号公報
【文献】特開2006-036826号公報
【文献】特開2018-16766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐寒性と圧縮永久歪を維持しつつ、耐熱老化時の伸びに優れる加硫物となるアクリル系エラストマー組成物と、その加硫物及びこの加硫物を用いた工業用部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、アクリル系エラストマーに、可塑剤としてピロメリット酸エステル化合物を含有させたアクリル系エラストマー組成物によって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有する。
(1)アクリル系エラストマー100質量部と、化学式(1)で表される可塑剤の少なくとも一種2~15質量部と、を含有し、
上記アクリル系エラストマーが、アクリル酸アルキルエステル単位100質量部に対して、架橋席モノマー単位を0.1~5質量部含有する、アクリル系エラストマー組成物。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ炭素数4~18のアルキル基を示す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同じアルキル基でもよく、異なっていてもよい。)
(2)上記アクリル系エラストマーが、アクリル酸アルキルエステル単位100質量部に対して、エチレン単位30質量部以下をさらに含有する、(1)に記載のアクリル系エラストマー組成物。
(3)上記アクリル酸アルキルエステル単位が、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位であり、アクリル系エラストマーが、アクリル酸アルキルエステル単位100質量部に対して、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位40質量部以下と、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位15質量部以下と、からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含有する、(1)又は(2)記載のアクリル系エラストマー組成物。
(4)アクリル系エラストマーの架橋席モノマー単位が、カルボキシ基を有する架橋席モノマー単位及びエポキシ基を有する架橋席モノマー単位から選ばれる少なくとも一種である(1)~(3)のいずれかに記載のアクリル系エラストマー組成物。
(5)炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位が、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-メチルペンチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である、(3)又は(4)に記載のアクリル系エラストマー組成物。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載のアクリル系エラストマー組成物の加硫物。
(7)(6)に記載の加硫物を用いた工業用部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐寒性と圧縮永久歪を維持しつつ、耐熱老化時の伸びに優れた加硫物となるアクリル系エラストマー組成物と、その加硫物及びこの加硫物を用いた工業用部品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<アクリル系エラストマー>
本発明に用いるアクリル系エラストマーは、アクリル酸アルキルエステル100質量部と、架橋席モノマー0.1~5質量部と、必要に応じて、エチレン、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル及びこれらと共重合可能なモノマーを共重合させたものである。
【0013】
アクリル酸アルキルエステルは、アクリル系エラストマーの骨格となるものであり、その種類を選択することにより、得られるアクリル系エラストマー組成物の常態物性や耐寒性、耐油性などの基本特性を調整できるものである。
【0014】
アクリル酸アルキルエステルは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-メチルペンチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-デシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-オクタデシルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステルがあり、これら単体だけでなく2種類以上のものを併用してもよい。これらのアクリル酸アルキルエステルの中でも、炭素数1~8のアルキル基を有するメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-メチルペンチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートを用いると、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の耐熱性や耐寒性、耐油性が向上するため好ましい。また、これらアクリル酸アルキルエステルの配合量を調整することで、得られるアクリル系エラストマー組成物やその加硫物の、物性を調整することができる。例えば、エチルアクリレートとn-ブチルアクリレートを併用してアクリル系エラストマーを製造する場合、n-ブチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐寒性を向上させることができ、エチルアクリレートの共重合比率を多くすることで耐油性を向上させることができる。
【0015】
エチレンは、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の耐寒性を向上させるとともに、後述する可塑剤としてのピロメリット酸エステル化合物との相溶性を向上させるために共重合させるものである。
【0016】
エチレンの共重合量は、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して30質量部以下、好ましくは0.5~20質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。また、エチレンの共重合量は、アクリル系エラストマーが、後述するメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステルを含有する場合、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの合計量100質量部に対して30質量部以下(架橋席がエポキシ架橋席であった場合:1~30質量部、以下同じ)、好ましくは0~25質量部(1~25質量部)、さらに好ましくは0~20質量部(1~20質量部)である。エチレンの共重合量が30質量部を超えてしまうと、可塑剤としてのピロメリット酸エステル化合物との相溶性が低下し、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の表面に可塑剤がブリードアウトしやすくなってしまう。
【0017】
架橋席モノマーは、アクリル系エラストマー組成物を加硫物とする際に、アクリル酸アルキルエステルや後述するメタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの分子間同士を架橋させるために配合するものである。
【0018】
架橋席モノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、2-クロロエチルビニルエーテル、2-クロロエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテートなどの活性塩素基を有するもの、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn-ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn-ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;及び、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn-ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などのカルボキシ基を含有するもの、及び、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を含有するものがある。これらの化合物の中でもカルボキシ基を有する架橋席モノマーを用いると、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の耐熱性、圧縮永久歪が向上するため好ましい。
【0019】
架橋席モノマーの添加量は、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.3~4質量部、さらに好ましくは0.5~3質量部である。また、架橋席モノマーの添加量は、アクリル系エラストマーが、後述するメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステルを含有する場合、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~7質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部である。架橋席モノマーの添加量がこの範囲であると、アクリル系エラストマー組成物を効果的に架橋させるとともに、得られた加硫物が硬化してゴム弾性を失うことが少ない。
【0020】
なお、架橋席モノマーの添加量とは、1種類の架橋席モノマーを用いる場合は、当該架橋席モノマーの添加量であり、2種類以上の架橋席モノマーを用いる場合は、それらの合計量のことである。
【0021】
アクリル系エラストマーには、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルやアクリル酸アルコキシアルキルエステルを共重合させることができる。
【0022】
メタクリル酸アルキルエステルは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-メチルペンチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルがあり、これら単体だけでなく2種類以上のものを併用してもよい。これらメタクリル酸アルキルエステルの中でも、炭素数1~8のアルキル基を有するメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-メチルペンチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートを用いると、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の耐熱性が向上するため好ましい。
メタクリル酸アルキルエステルをアクリル系エラストマーに共重合させる場合、その添加量は、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。メタクリル酸アルキルエステルの添加量がこの範囲であると、アクリル系エラストマー組成物の耐熱性を向上することができる。
【0023】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、特に限定されるものではないが、例えば、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-(n-プロポキシ)エチルアクリレート、2-(n-ブトキシ)エチルアクリレート、3-メトキシプロピルアクリレート、3-エトキシプロピルアクリレート、3-(n-プロポキシ)プロピルアクリレート、3-(n-ブトキシ)プロピルアクリレートなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステルがあり、これら単体だけでなく2種類以上のものを併用してもよい。
アクリル酸アルコキシアルキルエステルをアクリル系エラストマーに共重合させる場合、その添加量は、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して、好ましくは15質量部以下、より好ましくは13質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下である。アクリル酸アルコキシアルキルエステルの添加量がこの範囲であると、アクリル系エラストマー組成物の耐油性を向上することができる。
【0024】
アクリル系エラストマーには、本発明の目的を損なわない範囲で上記のモノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合させることもできる。共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン;ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテルなどのビニル及びアリルエーテル;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどのビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルニトリル;アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、プロピオン酸ビニルなどのエチレン性不飽和化合物;がある。
【0025】
特に、アクリル系エラストマーにプロピレンを共重合させる場合には、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して30質量部以下とすることが好ましく、アクリル系エラストマーが、さらにメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステルを含有する場合には、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの合計量100質量部に対して30質量部以下とすることが好ましい。例えば、プロピレンを共重合させることによって、耐寒性を向上させたアクリル系エラストマー組成物が得られる。
【0026】
酢酸ビニルは、アクリル系エラストマー組成物及びその加硫物が熱老化した際に、その分子間を架橋させて伸びなどの機械的特性を維持させる効果があり、その配合量を調整することにより、得られるアクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の分子間架橋を調整できるものである。
【0027】
一般的に、アクリル系エラストマーは、熱や紫外線などの影響により、その主鎖が切断して引張強さや破断伸びといった機械的特性が急激に低下してしまうものである。そこで、架橋反応を起こしやすい酢酸ビニルをアクリル系エラストマーの主鎖に共重合させておくことで、アクリル系エラストマーの主鎖が切断してしまった際でも、酢酸ビニルが架橋席となって切断した分子間を再度架橋させることができる。
【0028】
酢酸ビニルを共重合させる場合には、アクリル酸アルキルエステル100質量部に対して20質量部以下とすることが好ましく、アクリル系エラストマーが、さらにメタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステルを含有する場合には、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの合計量100質量部に対して20質量部以下の割合とすることが好ましい。酢酸ビニルの共重合量がこの範囲であれば、アクリル系エラストマー組成物及びその加硫物の耐熱老化時の機械特性の低下を抑制することができる。
【0029】
アクリル系エラストマーは、上記のモノマーを乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などの公知の方法により共重合することにより得られる。
【0030】
<可塑剤>
本発明のアクリル系エラストマー組成物に用いる可塑剤は、化学式(1)で表されるピロメリット酸エステルの少なくとも一種である。
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ炭素数4~18のアルキル基を示す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同じアルキル基でもよく、異なっていてもよい。)
【0031】
ピロメリット酸エステル化合物は、炭素数が4~18、好ましくは6~12、かつ、好ましくは直鎖率が50~100%、より好ましくは90%以上である飽和脂肪族アルコールと、ピロメリット酸を原料として、通常のエステル化法によりエステル化して得られる化合物である。
R1、R2、R3及びR4であるアルキル基としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。R1、R2、R3及びR4はそれぞれ同じアルキル基でもよく、異なっていてもよいが、R1、R2、R3及びR4の全てが同じアルキル基であることが好ましい。具体的には、ピロメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、テトラヘキシルピロメリテート、テトラヘプチルピロメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ(2-エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラノニルピロメリテート、テトラデシルピロメリテート、テトライソデシルピロメリテート、テトラウンデシルピロメリテート、テトラドデシルピロメリテートなどがあり、これら単体だけでなく2種類以上のものを併用してもよい。この可塑剤の原料として用いるアルコールの炭素数が4未満では、得られる耐熱老化性は不十分になり、炭素数が18を越えると、アクリル系エラストマーに対する親和性に劣るため加工時にブリードアウトを引き起こす。また、直鎖率が50%未満では、得られる耐熱老化性は不十分になる。
【0032】
可塑剤の添加量は、アクリル系エラストマー100質量部に対して、2~15質量部であり、好ましくは2~10質量部である。可塑剤の添加量が2質量部に満たないと、可塑化効果が少なく得られるアクリル系エラストマー組成物の加硫物が耐寒性に劣るものになり、可塑剤の添加量が15質量部を超えると、得られるアクリル系エラストマー組成物又はその加硫物表面に可塑剤がブリードアウトしたり、柔らかくなりすぎたりする場合がある。
【0033】
本発明のアクリル系エラストマー組成物には、必要に応じて、ピロメリット酸エステル化合物以外の可塑剤も使用することができる。ピロメリット酸エステル化合物以外の可塑剤としては、通常のアクリル系エラストマーに使用されている可塑剤であればよく、例えば、ポリエーテルエステル系可塑剤、アジピン酸エーテルエステル系可塑剤、ポリオキシエチレンエーテル系可塑剤、トリメリテート系可塑剤などがある。これら可塑剤の添加量は、ピロメリット酸エステル系可塑剤100質量部に対して、0~100質量部までの範囲が好ましい。
【0034】
<アクリル系エラストマー組成物>
アクリル系エラストマー組成物は、上述のアクリル系エラストマーと可塑剤を有し、例えば、後述する加硫剤、加硫促進剤、その他添加剤を添加して、加硫温度以下の温度で混練して加硫物とすることができる。アクリル系エラストマー組成物は、所望する各種の形状に成形された後に加硫して加硫物としたり、加硫させて加硫物とした後に各種の形状に成形したりすることもできる。加硫温度はアクリル系エラストマー組成物の配合や加硫剤の種類によって適宜設定でき、通常は100~200℃、1~10時間で行われる。加熱する方法としては、熱プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱などのゴムの加硫に用いられる方法を使用できる。なお、本明細書において、「加硫」とは、加硫剤を添加して、架橋反応を行うことを指し、加硫剤は硫黄を含む化合物であってもよく、硫黄を含まない化合物であってもよい。
【0035】
アクリル系エラストマー組成物を混練、成型、加硫する装置、及びアクリル系エラストマー組成物の加硫物を混練、成型する装置は、通常のアクリル系エラストマーで用いるものを使用することができる。混練装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押し出し機などを用いることができる。
【0036】
加硫剤は、アクリル系エラストマーの加硫に通常用いられるものであればよく、特に限定するものではないが、架橋席モノマーとしてエポキシ基を有するものを採用した場合には、イミダゾール化合物が好ましく、架橋席モノマーとしてカルボキシ基を有するものを採用した場合には、多価アミン化合物、及び多価アミン化合物の炭酸塩が好ましく、特に、炭素数4~30の多価アミン化合物、及びその炭酸塩がより好ましい。架橋席モノマーとして活性塩素基を有するものを採用した場合には、硫黄もしくは硫黄供与体、又はトリチオシアヌル酸が好適に用いられる。なお、これらの加硫剤は、1種単独でも、2種以上を併用しても良い。
【0037】
イミダゾール化合物としては、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチル-2-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチル-5-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1-アミノエチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾ-ル、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールトリメリテート、1-シアノエチル-2-ウンデシル-イミダゾールトリメリテート、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1)’〕エチル-s-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ-(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、N,N’-ビス-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)尿素、1-(シアノエチルアミノエチル)-2-メチルイミダゾール、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-アジボイルジアミド、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-ドデカンジオイルジアミド、N,N’-〔2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル〕-エイコサンジオイルジアミド、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1)’〕-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-〔2’-ウンデシルイミダゾリル-(1)’〕-エチル-s-トリアジン、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3-ジベンジル-2-メチルイミダゾリウムクロライドなどがある。
【0038】
多価アミン化合物としては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、ビス(4-3-アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォンなどの芳香族ポリアミン化合物、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン化合物などがある。
【0039】
硫黄供与体としては、ジペンタメチレンチウラムヘキササルファイド、トリエチルチウラムジサルファイドなどがある。
【0040】
加硫促進剤としては、特に限定されないが、加硫剤として多価アミン化合物又はその炭酸塩を採用した場合には、脂肪族1価2級アミン化合物、脂肪族1価3級アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、第四級オニウム塩、第三級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩、及びジアザビシクロアルケン化合物などが好ましい。
加硫剤としてイミダゾール化合物を採用した場合には、チオ尿素化合物、第四級オニウム塩などが好ましい。
加硫剤として硫黄もしくは硫黄供与体、又はトリチオシアヌル酸を採用した場合には、カルボン酸アルカリ金属塩、チアゾール化合物、チウラム化合物、ジチオカルバミン酸塩が好ましい。
加硫促進剤には、加硫速度を調整するため、エポキシ樹脂の硬化剤、例えば熱分解アンモニウム塩、有機酸、酸無水物、アミン類、硫黄及び硫黄化合物などを、本発明の効果を減退しない範囲で添加してもよい。
【0041】
脂肪族1価2級アミン化合物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-t-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジセチルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ-シス-9-オクタデセニルアミン、およびジノナデシルアミンなどがある。
【0042】
脂肪族1価3級アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-t-ブチルアミン、トリ-sec-ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリペンタデシルアミン、トリセチルアミン、トリ-2-エチルヘキシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリ-シス-9-オクタデセニルアミン、トリノナデシルアミン、N,N-ジメチルデシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルテトラデシルアミン、N,N-ジメチルセチルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミン、N,N-ジメチルベヘニルアミン、N-メチルジデシルアミン、N-メチルジドデシルアミン、N-メチルジテトラデシルアミン、N-メチルジセチルアミン、N-メチルジオクタデシルアミン、N-メチルジベヘニルアミン、及びジメチルシクロヘキシルアミンなどがある。
【0043】
グアニジン化合物としては、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジンなどがある。
【0044】
イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどがある。
【0045】
第四級オニウム塩としては、特に制限はないがテトラn-ブチルアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニムクロリド、トリメチルステアリルアンモニムクロリド、トリメチルラウリルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、トリブチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラn-ブチルアンモニウムブロミド、メチルトリフェニルアンモニウムブロミド、エチルトリフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルフェニルアンモニウムブロミド、トリメチルベンジルアンモニウムブロミド、トリメチルステアリルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムチオシアナートなどのアンモニウム塩や、テトラn-ブチルホスホニウムクロリド、テトラn-ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、4-ブトキシベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、アリルトリブチルホスホニウムクロリド、2-プロピニルトリフェニルホスホニウムブロミド、メトキシプロピルトリブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩がある。
【0046】
第三級ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィンなどがある。
【0047】
弱酸のアルカリ金属塩としては、ナトリウム、カリウムのリン酸塩、炭酸塩などの無機弱酸塩、及びナトリウム、カリウムのステアリン酸塩、ラウリン酸塩などの有機弱酸塩がある。
【0048】
ジアザビシクロアルケン化合物としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などがある。また、これらジアザビシクロアルケン化合物は、塩を形成していてもよく、その塩を形成する化合物としては、塩酸、硫酸、カルボン酸、スルホン酸、フェノールなどがある。カルボン酸としては、たとえば、オクチル酸、オレイン酸、ギ酸、オルソフタール酸、アジピン酸などがある。また、スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などがある。これらは一種単独で、又は二種以上を併せて使用することができる。
【0049】
チオ尿素化合物としては、N,N‘-ジフェニルチオ尿素、N,N‘-ジエチルチオ尿素、N,N‘-ジブチルチオ尿素、N,N‘-ジオルトトリルチオ尿素、トリメチルチオ尿素などがある。
【0050】
カルボン酸アルカリ金属塩としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、ラウリル酸カリウムなどが、チアゾール化合物としては、メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィドなどがある。
【0051】
チウラム系促進剤としては、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。ジチオカルバミン酸塩系促進剤は、ジチオカルバミン酸類の亜鉛塩、銅塩、鉄塩およびテルル塩から選択されるものであって、亜鉛塩が好ましく、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などがある。
【0052】
加硫剤の添加量は、特に限定するものではないが、アクリル系エラストマー100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、より好ましくは0.1~10質量部、さらに好ましくは0.2~5質量部である。この範囲内にすることで必要十分な加硫処理が行える。
【0053】
加硫促進剤の添加量は、アクリル系エラストマー100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、より好ましくは0.2~15質量部、さらに好ましくは0.3~10質量部である。この範囲内にすることで必要十分な加硫処理が行える。
【0054】
アクリル系エラストマーには、実用に供するに際してその目的に応じ、充填剤、補強剤、可塑剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤、多官能モノマーなどを添加してもよい。
【0055】
充填剤、補強剤としては、通常のアクリル系エラストマーに使用されている充填剤や補強剤を添加することができ、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウムなどの充填剤、補強剤がある。これら添加剤の添加量は、合計で、アクリル系エラストマー100質量部に対して20~100質量部の範囲が好ましく、より好ましくは20~80質量部である。
【0056】
多官能モノマーとしては、通常のアクリル系エラストマーに使用されている多官能モノマーを添加することができ、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどがある。これらの多官能モノマーの添加量は、アクリル系エラストマー100質量部に対して、1~10質量部までの範囲が好ましい。
【0057】
本発明の加硫物は、工業用部品として用いられ、特に、ゴムホース;ガスケット、パッキングなどのシール部品;及び防振ゴム部品などとして好適に用いられる。
【0058】
ゴムホースとしては、例えば、自動車、建設機械、油圧機器などのトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、ドレイン系統用ホースなどがある。
【0059】
ゴムホースの構成としては、一般的に行われているように補強糸あるいはワイヤーをホースの中間あるいは、ゴムホースの最外層に設けたものでもよい。
【0060】
シール部品としては、例えば、エンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O-リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材及びラックアンドピニオンブーツ材などがある。
【0061】
防振ゴム部品としては、例えば、ダンパープーリー、センターサポートクッション、サスペンションブッシュなどがある。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0063】
下記に示す条件で、11種類のアクリル系エラストマーA~Kを作成した。
<アクリル系エラストマーAの製造>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、部分ケン化ポリビニルアルコールの4質量%水溶液17kg、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム56gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した後、エチレンを槽内上部に圧入し、圧力を3MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、別途注入口よりエチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、マレイン酸モノn-ブチル500g、t-ブチルヒドロペルオキシド0.5質量%水溶液を別々に圧入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、重合転化率95%に達するまで反応させた。
【0064】
重合液に硼酸ナトリウムの0.3質量%水溶液20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリル系エラストマーAを得た。このアクリル系エラストマーAは、エチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。これら各モノマー成分は核磁気共鳴スペクトル法で定量した。
【0065】
<アクリル系エラストマーBの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、グリシジルメタクリレート200gに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーBを得た。
【0066】
このアクリル系エラストマーBは、エチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部、グリシジルメタクリレート単位1.6質量部の共重合体組成であった。なお、アクリル系エラストマーBと、後述するアクリル系エラストマーC、D、E、F、G、H、I、J、Kについて、グリシジルメタクリレート以外のモノマー単位成分は、上記アクリル系エラストマーAと同じ方法で定量した。グリシジルメタクリレートは、得られたアクリル系エラストマー(加硫前)をクロロホルムに溶解し、過塩素酸酢酸溶液を用いた滴定法により定量した。
【0067】
<アクリル系エラストマーCの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート4kg、n-ブチルアクリレート5kg、メチルメタクリレート1kg、マレイン酸モノn-ブチル500gに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーCを得た。
【0068】
このアクリル系エラストマーCはエチルアクリレート単位40質量部と、n-ブチルアクリレート単位50質量部、メチルメタクリレート単位10質量部、エチレン単位2質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。
【0069】
<アクリル系エラストマーDの製造>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、部分ケン化ポリビニルアルコールの4質量%水溶液17kg、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム56gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、別途注入口よりn-ブチルアクリレート7.5kg、メチルメタクリレート2.5kg、マレイン酸モノn-ブチル500g、t-ブチルヒドロペルオキシドの0.5質量%水溶液を別々に投入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、重合転化率95%に達するまで反応させた。
【0070】
重合液に硼酸ナトリウムの0.3質量%水溶液20kgを添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリル系エラストマーDを得た。このアクリル系エラストマーDは、n-ブチルアクリレート単位75質量部と、メチルメタクリレート単位25質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。
【0071】
<アクリル系エラストマーEの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート2kg、メトキシエチルアクリレート1kg、マレイン酸モノn-ブチル500gに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーDと同じ条件でアクリル系エラストマーEを得た。
【0072】
このアクリル系エラストマーEはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位20質量部、メトキシエチルアクリレート10質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。
【0073】
<アクリル系エラストマーFの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、マレイン酸モノn-ブチル250gに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーFを得た。
【0074】
このアクリル系エラストマーFはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位1.0質量部の共重合体組成であった。
【0075】
<アクリル系エラストマーGの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、マレイン酸モノn-ブチル1kgに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーGを得た。
【0076】
このアクリル系エラストマーGはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位4質量部の共重合体組成であった。
【0077】
<アクリル系エラストマーHの製造>
エチレンを槽内上部に圧入し、圧力を6MPaに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーHを得た。
【0078】
このアクリル系エラストマーHはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位5質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。
【0079】
<アクリル系エラストマーIの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、マレイン酸モノn-ブチル500gに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーDと同じ条件でアクリル系エラストマーIを得た。
【0080】
このアクリル系エラストマーIはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位2質量部の共重合体組成であった。
【0081】
<アクリル系エラストマーJの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kgに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーJを得た。
【0082】
このアクリル系エラストマーJはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部の共重合体組成であった。
【0083】
<アクリル系エラストマーKの製造>
アクリル系エラストマーの原料であるモノマー成分の配合を、エチルアクリレート7kg、n-ブチルアクリレート3kg、マレイン酸モノn-ブチル1.5kgに変えた以外は、上記アクリル系エラストマーAと同じ条件でアクリル系エラストマーKを得た。
【0084】
このアクリル系エラストマーKはエチルアクリレート単位70質量部と、n-ブチルアクリレート単位30質量部、エチレン単位2質量部、マレイン酸モノn-ブチル単位7質量部の共重合体組成であった。
【0085】
上記アクリル系エラストマーA~Kと他の材料を、表1~表3の配合で8インチオープンロールを用いて混練し、実施例1~16と比較例1~9のアクリル系エラストマー組成物を得た。これらのアクリル系エラストマー組成物(未加硫)を厚さ2mmに成形し、熱プレスにて170℃×20分間加熱処理して一次加硫物とした後、熱空気(ギヤーオーブン)にて170℃×4時間加熱処理してアクリル系エラストマーの加硫物を得た。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表1~表3に用いた配合試薬は以下の通りである。
・アクリルゴム:Du pont製VAMAC-G(エチレン40質量%とメチルアクリレート60質量%の共重合体)
・滑剤A:東京化成工業株式会社製ステアリン酸
・滑剤B:カネダ株式会社製流動パラフィン
・老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製ノクラックCD
・カーボンブラックA:東海カーボン株式会社製シースト#116
・カーボンブラックB:デンカ株式会社製デンカブラック
・可塑剤A:株式会社ADEKA製アデカサイザーUL-100(ピロメリット酸混合直鎖アルキルエステル(テトラヘキシルピロメリテート及びテトラデシルピロメリテートの混合物))
・可塑剤B:株式会社ADEKA製アデカサイザーUL-80(テトラ(2-エチルヘキシル)ピロメリテート)
・可塑剤C:株式会社ADEKA製アデカサイザーRS-735(ポリエーテルエステル系)
・可塑剤D:株式会社ADEKA製アデカサイザーC-8(トリメリット酸2-エチルヘキシルエステル)
・可塑剤E:株式会社ADEKA製アデカサイザーC-880(トリメリット酸混合直鎖アルキルエステル)
・可塑剤F:株式会社ADEKA製アデカサイザーC-9N(トリメリット酸イソノニルエステル)
・加硫剤A:Du pont製Diak#1(ヘキサメチレンジアミンカーバメート)
・加硫剤B:東京化成工業株式会社製1-ベンジル-2-メチルイミダゾール
・加硫促進剤A:大内新興化学工業株式会社製ノクセラーDT(1,3-ジ-o-トリルグアニジン)
・加硫促進剤B:東京化成工業株式会社製トリメチルチオ尿素
・加硫促進剤C:東京化成工業株式会社製トリメチルステアリルアンモニウムブロミド
「VAMAC」、「ノクラック」、「シースト」、「デンカブラック」、「アデカサイザー」、「ノクセラー」、は登録商標。
【0090】
得られた加硫物(試験片)について、以下の条件で評価した。
(1)引張強さ・切断時伸び
JIS(2017)K6251に準拠してダンベル状3号形を用いて測定した。
(2)硬さ
JIS(2017)K6253-3に準拠してデュロメータ硬さ計タイプAを用いて測定した。
(3)耐寒性試験
JIS(2017)K6261に準拠してt100の温度を測定した。
(4)耐熱老化性試験
JIS(2017)K6257に準拠し、190℃×360時間の熱処理を行った後の試験片の引張強さと切断時伸びを測定した。耐熱老化性試験後の切断時伸び100%以上を満足すれば、ホース部品、シール部品用途として使用可能であり、さらに110%以上を満足すればこれら部品に好適に使用できる。
(5)圧縮永久歪
JIS(2017)K6262に準拠して、圧縮率25%にて150℃×70時間の熱処理を行い測定した。
【0091】
表1~表3から明らかなように、本発明のアクリル系エラストマー組成物は、耐寒性と圧縮永久歪を維持しつつ、耐熱老化時の伸びに優れた加硫物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の組成物は、耐寒性と圧縮永久歪を維持しつつ、耐熱老化時の伸びに優れる加硫物が得られ、その加硫物は、ホース部品、シール部品、防振ゴム部品などの工業用部品として好適に利用できる。