(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】漢方薬組成物、漢方薬配合製剤及びその調製方法と応用
(51)【国際特許分類】
A61K 36/896 20060101AFI20221219BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20221219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221219BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20221219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20221219BHJP
A61K 36/70 20060101ALI20221219BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20221219BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20221219BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221219BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K36/896
A61P31/20
A61P35/00
A61P15/02
A61P43/00 121
A61K36/54
A61K36/70
A61K36/185
A61K9/02
A61K9/06
A61K9/08
(21)【出願番号】P 2020552700
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 CN2019087286
(87)【国際公開番号】W WO2020010919
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】201810765903.7
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520371622
【氏名又は名称】江蘇正陽葯業有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】栄汝成
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108853404(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101342137(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104524465(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102908559(CN,A)
【文献】火炭母草的▼活▲用症状及使用方法,Henan SAK Health Industrial Co., Ltd.,2016年12月04日,http://www.bjsak.com/zhongyi/5683.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漢方薬組成物であり、
土茯苓30~60重量部、桂枝10~20重量部、火炭母10~20重量部、鴨跖草10~20重量部の配合量で配合した成分を含み、ヒト乳頭腫ウイルスによる感染及びそれによる上皮内癌に対する治療薬及び/又は予防薬の調製に
用いるための、漢方薬組成物。
【請求項2】
前記土茯苓30~55重量部、前記桂枝12~18重量部、前記火炭母10~18重量部、前記鴨跖草12~18重量部の配合量で配合した成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の漢方薬組成物。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載の
漢方薬組成物から調製される、ヒト乳頭腫ウイルスによる感染及びそれによる上皮内癌に対する治療及び/又は予防のための漢方薬配合製剤。
【請求項4】
前記漢方薬配合製剤がエキス剤、ゲル剤或いは座薬であることを特徴とする請求項3に記載の漢方薬配合製剤。
【請求項5】
前記漢方薬配合製剤が洗薬であることを特徴とする請求項3に記載の漢方薬配合製剤。
【請求項6】
請求項1又は2の何れかに記載
の漢方薬組成物の各成分を均一に混合し、溶出・濃縮してエキス剤を得ることを含むことを特徴とする
、ヒト乳頭腫ウイルスによる感染及びそれによる上皮内癌に対する治療及び/又は予防のための漢方薬配合製剤の調製方法。
【請求項7】
前記
漢方薬組成物の各成分を混合する工程と、
エタノール溶液を加えて煎じた後、濾液を集める工程と、
濾滓に引き続きエタノール溶液を加えて煎じる工程と、
上記方法に従って数回煎じ、すべての濾液を混合し、60℃で相対密度1.10~1.40のエキス剤になるまで濃縮する工程から成る溶出工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記エタノール溶液中のエタノール体積百分率が50%~80%で、前記エタノール溶液の用量が前記
漢方薬組成物の各成分の総重量の5~15倍であることを特徴とする請求項7に記載の
調製方法。
【請求項9】
前記
漢方薬組成物の各成分を混合する工程と、
水を加えて煎じた後、濾液を集める工程、
濾滓に引き続き水を加えて煎じる工程と、
上記方法に従って数回煎じ、すべての濾液を混合し、60℃で相対密度1.10~1.40のエキス剤になるまで濃縮する工程から成る溶出工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項10】
前記煎じる温度が50~75℃、時間が2~5時間であることを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項11】
前記方法に従って煎じる回数が2~5回で、前記濃縮温度が50~80℃であることを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項12】
前記エキス剤に補助材料を加えてゲル剤又は座薬に調製することを特徴とする請求項7~11のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】
前記エキス剤に補助材料を加えて洗薬に調製することを特徴とする請求項7~11のいずれかに記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬組成物、漢方薬配合製剤及びその調製方法と応用に関し、具体的に、ヒト乳頭腫ウイルス感染症を治療する漢方薬組成物及びその調製方法に関し、漢方医薬技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は好上皮性ウイルスであり、乳頭腫ウイルス科乳頭腫ウイルス属に属する。現在同定されたHPVタイプは100種類以上あり、およそ30~40種類のHPVが、破損した表皮や粘膜組織を経由して人体に感染することができる。ヒトHPV感染は非常に普遍的であり、海内外の文献によると、性的活発集団において約20%~80%の人がHPV感染歴を持っている。
【0003】
近年、HPVによる女性生殖器感染の発病率は年々上昇している。低リスク型HPVは女性生殖器の尖圭コンジローマの成長と密接に関連し、高リスク型HPVの持続性感染は子宮頸癌前癌病変及び子宮頸癌発症の必要条件であることが実証された。関連研究によると、子宮頸癌の約99.7%は、高リスク型HPV感染によるものである。同時に、子宮頸癌は世界保健機関により高リスク型HPV感染と100%関連があると公認された初の癌でもあり、現在すべてのヒト癌病変の中で病因が明確な唯一の癌となっている。子宮頸癌発症の典型的な臨床過程は子宮頸高リスク型HPV感染から始まり、ウイルスの持続性感染により、持続性感染を経ている或る細胞のクローンは次第に子宮頸癌前癌病変に進展していき、最後に子宮頸浸潤癌に至るまでは、平均で約10~15年ぐらいかかると考えられる。近年、予防性ワクチンが開発され、一部特定のHPVサブタイプの感染を予防することができるが、現在既承認予防性ワクチンはいずれも、特定のHPVサブタイプの感染を効果的に予防するために、HPV感染の発生前に接種しなければならず、しかも、既発生のHPV感染症を逆転や治療することができない。そのため、女性生殖器HPV感染を効果的に治療する薬品と治療ルートを求め、HPV持続性感染の発生を遮断することは、現在子宮頸病変の発生、進展を予防・遮断し、子宮頸癌の罹患率を効果的に下げるために非常に重要な臨床実践的意義と必要性がある。
【0004】
現在海内外では、女性生殖器HPV感染対策において、高リスク型HPV感染を効果的に除去する公認の治療手段或いは特効薬が欠如しており、臨床においても子宮頸癌と関連の強い高リスク型HPV長期持続感染患者に対する処置には、規範的、統一的な治療案がない。現在、臨床でHPV感染に対する主な治療方式は物理治療と化学治療であり、前者は主にレーザー、Leepメス、焼灼法などを含み、後者は主にインターフェロンによるウイルス複製の抑制である。これらの療法にはいずれもいくつかの副作用や不足点がある。
【0005】
現在海内外では、女性生殖器HPV感染対策において、高リスク型HPV感染を効果的に除去する公認の治療手段或いは特効薬が欠如しており、近年の研究者たちは漢方薬の研究を通じ、この分野における漢方薬開発の潜在力を洞察しているが、いまだに肉眼標本、マルチセンターの臨床研究が欠如しており、一部の漢方薬成分による剥離作用は投薬時、患者の痛みの原因となる上、治療効果が悪く、副作用が大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の上記課題を解決するために、本発明は、ヒト乳頭腫ウイルスへの抑制、ヒト乳頭腫ウイルス感染並びにそれによる膣炎、子宮頸管炎、子宮頸管円柱上皮エクトピーへの抑制ができる漢方薬組成物、漢方薬配合製剤及びその調製方法と応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を実現するため、本発明は主に、以下の技術的解決手段を採用する。
【0008】
本発明の一側面によれば、土茯苓30~60重量部、桂枝10~20重量部、火炭母10~20重量部、鴨跖草10~20重量部の配合量で配合し、ヒト乳頭腫ウイルス感染の治療に使用される漢方薬組成物が提供される。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、前記土茯苓30~55重量部、前記桂枝12~18重量部、前記火炭母10~18重量部、前記鴨跖草12~18重量部の配合量で配合した成分を含む前記漢方薬組成物が提供される。
【0010】
さらに、一実施形態によれば、前記漢方薬組成物から調製される漢方薬配合製剤が提供される。
【0011】
さらに、一実施形態によれば、前記漢方薬配合製剤は、エキス剤、洗薬、ゲル剤或いは座薬である。
【0012】
本発明の別の側面によれば、前記漢方薬配合製剤は、前記漢方薬組成物を粉砕し、エタノールで溶出し、低温で濃縮・乾燥することにより調製したものである。
【0013】
さらに、一実施形態によれば、前記漢方薬配合製剤は、前記漢方薬組成物を水で溶出し、マクロ孔質樹脂で精製したものである。
【0014】
さらに、一実施形態によれば、前記漢方薬配合製剤は、前記漢方薬組成物をエタノールで溶出し、マクロ孔質樹脂で精製したものである。
【0015】
さらに、一実施形態によれば、前記漢方薬組成物の各成分を均一に混合し、溶出・濃縮してエキス剤を得る漢方薬配合製剤の調製方法が提供される。
【0016】
さらに、前記溶出工程はエタノール溶液又は水で行い、濃縮工程は減圧濃縮で行う。
【0017】
さらに、本発明の別の側面によれば、前記調製方法は、好ましくはさらに次の内容を含む。
【0018】
前記溶出方法には、前記漢方薬組成物の各成分を混合する工程と、エタノール溶液を加えて煎じた後、濾液を集める工程と、濾滓に引き続きエタノール溶液を加えて煎じる工程と、上記方法に従って数回煎じ、すべての濾液を混合し、60℃で相対密度1.10~1.40のエキス剤になるまで濃縮する工程から成る抽出工程を含むことを特徴とする。
【0019】
すなわち、溶出工程には、漢方薬組成物の各成分や濾滓に対する複数回の煎じと濾過が含まれる。
【0020】
さらに、一実施形態によれば、エタノール溶液を水に置き換えてもよい。
【0021】
さらに、一実施形態によれば、前記調製方法は、前記エタノール溶液中のエタノール体積百分率が50%~80%で、前記エタノール溶液の用量又は水の用量が前記漢方薬組成物の各成分の総重量の5~15倍である。
【0022】
さらに、一実施形態によれば、前記調製方法は、前記煎じる温度が50~75℃、時間が2~5時間である。
【0023】
さらに、一実施形態によれば、前記調製方法は、前記方法に従って煎じる回数が2~5回で、前記濃縮温度が50~80℃である。
【0024】
一実施形態において、前記調製方法は、具体的には、以下の工程を含む。
【0025】
ステップ1:土茯苓、桂枝、火炭母、鴨跖草を混合、粉砕し、溶出容器に入れる。
【0026】
ステップ2:薬物重量体積比10倍の60%エタノールを加えて溶出、濾過し、濾液を収集し、引き続き濾滓に体積比10倍の60%エタノールを加えて溶出、濾過し、濾液を収集し、計2~3回で1回ごとに1~2時間で溶出を行い、濾液を合わせて混合し、濾過してから組成物濾液が得られる。
【0027】
ステップ3:ステップ2の組成物濾液を、60℃で相対密度が1.10~1.40になるまで減圧濃縮し、エキス剤を得る。
【0028】
一実施形態において、前記調製方法は、具体的には、以下の工程を含む。
【0029】
ステップ1:土茯苓、桂枝、火炭母、鴨跖草を混合し、溶出容器に入れる。
【0030】
ステップ2:薬物重量体積比12倍の水を加えて溶出、濾過し、濾液を収集し、引き続き濾滓に体積比12倍の水を加えて溶出、濾過し、濾液を収集し、毎回1~2時間で溶出を行い、濾液を合わせて混合してから組成物濾液が得られる。
【0031】
ステップ3:ステップ2の組成物濾液を、AB-8マクロ孔質樹脂で吸着し、順次、水、75%エタノールで溶離し、75%エタノール溶離液を収集する。
【0032】
ステップ4:ステップ3の75%エタノール溶離液を、60℃で相対密度が1.10~1.40になるまで減圧濃縮し、エキス剤を得る。
【0033】
一実施形態において、前記調製方法は、具体的には、以下の工程を含む。
【0034】
ステップ1:土茯苓、桂枝、火炭母、鴨跖草を混合し、溶出容器に入れる。
【0035】
ステップ2:薬物重量体積比10倍の60%エタノールを加えて溶出、濾過し、濾液を収集し、計2回で毎回1~2時間で溶出を行い、濾液を合わせて混合し、組成物濾液が得られる。
【0036】
ステップ3:ステップ2の組成物濾液を、AB-8マクロ孔質樹脂で吸着し、順次、水、75%エタノールで溶離し、75%エタノール溶離液を収集する。
【0037】
ステップ4:ステップ3の75%エタノール溶離液を、60℃で相対密度が1.10~1.40になるまで減圧濃縮し、エキス剤を得る。
【0038】
さらに、一実施形態によれば、前記溶出は還流溶出を採用し、溶出後に溶出液を収集して混合する。
【0039】
さらに、本発明の別の側面によれば、前記エキス剤に補助材料を加えてゲル剤又は座薬などの剤形に調製する。
【0040】
さらに、一実施形態によれば、例えば洗薬などの外用剤に調製してもよい。
【0041】
前記漢方薬組成物及び前記調製方法で得られる漢方薬配合製剤は、ヒト乳頭腫ウイルスによる感染に対する治療薬及び/又は予防薬の調製に応用される。
【0042】
前記漢方薬組成物及び前記調製方法で得られる漢方薬配合製剤は、膣炎、子宮頸管炎、子宮頸管円柱上皮エクトピーの治療薬及び/又は予防薬の調製に応用される。具体的には、前記漢方薬組成物及び前記調製方法で得られる漢方薬配合製剤は、ヒト乳頭腫ウイルス感染並びにそれによる膣炎、子宮頸管炎、子宮頸管円柱上皮エクトピーの治療に使用される。
【発明の効果】
【0043】
本発明の有益な効果は下記の通りである。
【0044】
従来技術と比較し、本発明で開示する調製方法で調製した薬剤は作用が温和で、使いやすく、安全性がよく、ヒト乳頭腫ウイルス及びそれによる上皮内癌(CIN1、CIN2)に対する良好な治療効果があり、副作用が少なく、患者コンプライアンスがよく、臨床検証の結果、有効率が85%を超える。
【0045】
本発明が提供する漢方薬組成物は孟河医派独自の処方箋から起源したものであり、この漢方薬組成物を合理的な溶出プロセスを経、漢方薬材中のフラボン類、アルカロイド類などの効果的な活性成分が効果的に溶出され、副作用が少ない。実証研究の結果、本発明に基づく製品はヒト乳頭腫ウイルス、ヒト子宮頸癌細胞(Hela)を殺滅し、子宮頸炎症を修復するなどの作用を有する。また、本発明に基づき調製するゲル剤の使い捨て式ボーラス剤形又は坐剤の剤形は、患者の使用が容易で、投薬アドヒアランスが強い。この漢方薬の配合製剤は性味作用が温和で、膣を直接作用し、刺激性がなく、薬物は膣内に滞在する時間が長く、粘膜ひだに浸透でき、薬物と病巣、病原因子の接触に役立ち、薬物の吸収に有利で、投薬時に痛みが感じられない。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明で開示する抗ヒト乳頭腫ウイルスの漢方薬組成物における各成分の薬理作用は以下の通りである。
【0047】
土茯苓はユリ科植物の土茯苓の乾燥根茎である。性味:甘・淡・平。帰肝・胃経。解毒、除湿、通利関節。主治:湿熱淋濁、帯下、廱腫、瘰癧、疥癬。アスチルビン、イソエンゲリチン、レスベラトロール、エピカテキンL、琥珀酸などのフラボン、タンニン酸、樹脂類を含む。
【0048】
桂枝はクスノキ科植物の肉桂の乾燥若枝である。性味:辛、甘、温。帰経:肺、心、膀胱。発汗解表、散寒止痛、通陽化気。風寒感冒、寒凝血滞の諸痛、痰飲、貯水証、心臓の動悸に使用される。桂枝シンナミルアルデヒド、桂皮酸などの揮発油を含み、フェノール類、有機酸、配糖体、クマリンなどの成分も含む。
【0049】
火炭母はタデ科植物火炭母草の乾燥地上部である。全草は薬用になる。性味:微酸、微渋、性涼。清熱解毒、利湿消滞、涼血止痒、明目退翳。下痢、消化不良、肝炎、ジフテリア、百日咳、角膜雲翳、真菌性膣炎、白帯下、フルンケル、小児膿疱、湿疹、毒蛇咬傷に使用される。インジカン、ペルシカリン、p-クマル酸、フェルラ酸、バニリン酸、プロトカテキュー酸、カフェ酸などの成分を含む。
【0050】
鴨跖草はツユクサ科の多年生草本植物であり、地上部は草全が薬用になる。性味:甘、微苦、寒。清熱、解毒、利尿。浮腫、脚気、小便不利、風邪、丹毒、耳下腺炎、黄疸肝炎、熱下痢、マラリア、鼻血、血尿、子宮異常出血、白帯下、咽喉腫痛、癰疽・疔を治療する。プロトカテキュー酸、カフェ酸、p-ヒドロキシ安息香酸、ガリシン、クリソエリオール-7-O-β-D-グルコピラノシド、イソケルセチン、イソビテキシンなどの成分を含む。
【0051】
本発明で開示する処方では、薬性が穏やかな土茯苓を君薬とし、その通絡去湿、解毒消腫の効果を活かす。辛温の桂枝を配合し、温陽化気、散寒止痛の効果を活かし、君薬に協力して利寒消滞、散結止痛をする。性涼、酸渋の火炭母を配合してその清熱涼血、利湿消滞の作用を発揮する。桂枝と火炭母は一温一涼で、配合したら「散」がなく性味の辛を活かし、「滞」がなく性味の涼を活かし、共に臣薬となる。鴨跖草:性寒、清熱解毒、利水消腫、君薬に協力して解毒、消腫の効果を発揮する。処方全体は清熱解毒、温経散寒、利湿消腫、散結止痛の効果があり、ヒト乳頭腫ウイルスによる淋濁尖圭コンジローム、寒滞癰疽、小便不利、陰痒疼痛などの症に適する。
【0052】
土茯苓の主な有効成分としてのフラボン、タンニン酸、桂枝中のシンナミルアルデヒド、桂皮酸などのフェニルプロパノイド類、火炭母中のインジカン有機酸類、鴨跖草中の有機酸及びフラボン類の諸成分から、エタノールで有効成分を溶出し、効果をよく発揮させ、しかもアレルギー反応の原因となる大分子物質(例えばタンパク、糖タンパク質)などの成分はエタノールに不溶で効果的に除去され、薬剤の安全性が高まる。
【0053】
また、水で煎じて有効成分を溶出してから、マクロ孔質樹脂による精製工程でアレルギー反応の原因となる大分子物質(例えばタンパク、糖タンパク質)などの成分を効果的に除去し、薬剤の安全性を大幅に向上させる。水による溶出の生産プロセスはコストが低く、精製後の溶出物に不純物含有量が低く、医療効果が顕著である。
【0054】
本発明を理解しやすく説明するために、具体的な実施例によって下記の通り詳しく説明する。
【実施例1】
【0055】
土茯苓40重量部、桂枝15重量部、火炭母10重量部、鴨跖草15重量部の配合量で配合した抗ヒト乳頭腫ウイルス感染の漢方薬配合製剤である。
【0056】
処方のすべての原料を混合し、原料総重量の10倍量の60%エタノールを加え、70℃で2時間煎じ、濾液を収集し、引き続き濾滓に10倍量の60%エタノールを加え、70℃で2時間煎じ、このように3回煎じ、得られる濾液を混合し、60℃で相対密度1.10~1.40のエキス剤になるまで濃縮する。
【0057】
ゲル剤の調製:ポリヘキサメチレングアニジンとカルボマーに、精製水を加えて4時間浸漬し、十分に膨潤させ、ゲル基質としておく。上記の予備した溶液、エキス剤とグリセリン、アゾンを混合し、予備しておいたゲル基質に加え、精製水を加え、トリエタノールアミンを滴下してpH7に調整し、撹拌して均一に混ぜる。
【0058】
上記のエキス剤はゲル剤の調製だけでなく、グリセリンなどの補助材料を坐剤金型に加えて坐剤やその他剤形を調製することができる。
【実施例2】
【0059】
本実施例は実施例1に基づくものであり、相違点としては、土茯苓30重量部、桂枝15重量部、火炭母10重量部、鴨跖草15重量部の配合量で配合することである。
【0060】
処方のすべての原料を混合し、原料総重量の10倍量の70%エタノールを加え、75℃で1.5時間煎じ、濾液を収集し、引き続き濾滓に10倍量の75%エタノールを加え、70℃で1.5時間煎じ、このように4回煎じ、得られる濾液を混合し、60℃で相対密度1.35のエキス剤になるまで濃縮する。
【0061】
得られたエキス剤に補助材料を加え坐剤の調製に使用される。具体的には、前記エキス剤10gに、グリセリン60g、ポリグリコール55gの補助材料を加えて溶融し、坐剤金型に加え、冷却成形し、分注し、坐剤が得られる。
【実施例3】
【0062】
本実施例の薬剤は、土茯苓55重量部、桂枝13重量部、火炭母15重量部、鴨跖草18重量部の原料からなる。
【0063】
処方のすべての原料を混合し、原料総重量の8倍量の60%エタノールを加え、55℃で4時間煎じ、濾液を収集し、引き続き濾滓に8倍量の60%エタノールを加え、55℃で3時間煎じ、このように5回煎じ、得られる濾液を混合し、60℃で相対密度1.3のエキス剤になるまで濃縮する。
【0064】
エキス剤100gに、水1L、ポリソルベート-80 30g及び安息香酸ナトリウム5gを加え、均一に混ぜてから分注すると、洗薬が得られる。
【実施例4】
【0065】
本実施例の薬剤は、土茯苓50重量部、桂枝13重量部、火炭母18重量部、鴨跖草12重量部の原料からなる。処方のすべての原料を混合し、原料総重量の8倍量の60%エタノールを加え、55℃で4時間煎じ、濾液を収集し、引き続き濾滓に8倍量の60%エタノールを加え、55℃で3時間煎じ、このように5回煎じ、得られる濾液を混合し、60℃で相対密度1.2のエキス剤になるまで濃縮する。
【0066】
上記の予備しておいたエキス剤150gとグリセリン50g、アゾン20gを混合し、予備のゲル基質に加え、精製水1000mLを加え、トリエタノールアミンを滴下してpH7に調整し、撹拌して均一に混ぜ、分注するとゲル剤が得られる。
【実施例5】
【0067】
土茯苓30重量部、桂枝15重量部、火炭母15重量部、鴨跖草15重量部の配合量で配合した抗ヒト乳頭腫ウイルス感染の漢方薬配合製剤である。
【0068】
処方のすべての原料を混合し、破砕して溶出容器に入れ、原料総重量の10倍量の60%エタノールを加えて溶出し、濾過して濾液を収集し、引き続き濾滓に濾滓重量の10倍量の60%エタノールを加えて溶出し、溶出工程は還流溶出を採用して3回で毎回2時間で行い、濾液を混合し、60℃で相対密度1.20のエキス剤になるまで濃縮する。エキス剤100gに、水1L、ポリソルベート-80 50g及び安息香酸ナトリウム5gを加え、均一に混ぜてから分注すると、洗薬が得られる。
【実施例6】
【0069】
本実施例の薬剤は、土茯苓30重量部、桂枝10重量部、火炭母10重量部、鴨跖草10重量部の原料からなる。
【0070】
処方のすべての原料を混合し、溶出容器に入れ、原料総重量の12倍量の水を加えて溶出し、濾過して濾液を収集し、濾滓を再度溶出し、濾過して濾液を収集する。また、溶出工程は還流溶出を採用して2回で毎回2時間で行なってもよく、濾過し、濾液を収集し、濾液を混合すると組成物濾液が得られ、AB-8マクロ孔質樹脂で吸着し、順次、水、75%エタノールで溶離し、75%エタノール溶離液を収集し、60℃で相対密度1.20のエキス剤になるまで溶離液を濃縮する。
【0071】
上記エキス剤は低温ベーキングオーブンを使用して60℃で乾燥した後、乾燥したエキス剤5gに、グリセリン70g、ポリグリコール50gの補助材料を加えて溶融し、坐剤金型に加え、冷却成形し、分注し、坐剤が得られる。
【実施例7】
【0072】
本実施例の薬剤は、土茯苓45重量部、桂枝10重量部、火炭母15重量部、鴨跖草10重量部の原料からなる。
【0073】
処方のすべての原料を混合し、原料総重量の10倍量の60%エタノールを加え、計2回で毎回2時間で還流溶出を行い、溶出液を混合して濾過すると、組成物濾液が得られ、AB-8マクロ孔質樹脂で吸着し、順次、水、75%エタノールで溶離し、75%エタノール溶離液を収集し、60℃で相対密度1.30のエキス剤になるまで溶離液を濃縮する。
【0074】
ゲル剤の調製:ポリヘキサメチレングアニジン15gとカルボマー3gに、精製水500mLを加えて4時間浸漬し、十分に膨潤させ、ゲル基質としておく。上記の予備した溶液、エキス剤150gとグリセリン50g、アゾン10gを混合し、予備しておいたゲル基質に加え、精製水1000mLを加え、トリエタノールアミンを滴下してpH7に調整し、撹拌して均一に混ぜ、分注するとゲル剤が得られる。
【実施例8】
【0075】
組成物によるHela細胞増殖への抑制作用
【0076】
本発明の実施例1~実施例7に基づき調製するサンプルについて、MTT法(細胞増殖及び細胞毒性検査キット)でHela細胞増殖抑制率を検出する。Hela細胞6×103個/孔を96孔培養板に接種し、細胞が壁にくっついた後、対照群に無血清培地を加え、陽性対照は精製水でシドフォビルを、濃度10μmol/mLまで溶解し、実施例1~実施例7のサンプルは精製水で溶解した生薬含有量25g/L(の溶液)をそれぞれ加え、1孔あたりの終体積が200μLになるように細胞をそれぞれ処理し、ブランク対照群には完全培地200μLのみを加え、毎群に6つの重複ウェルを設ける。24、48、72時間培養を続けた後、5g/LのMTT 20μLを加え、37℃で4時間インキュベートし、上清を捨て、1孔あたりDMSO(ジメチルスルホキシド)200μLを加え、結晶化して溶解させるまでよく振盪し、490nmの波長における吸光度(A)を測定し、細胞成長抑制率を計算する。細胞成長抑制率=(1-試験群平均A値/対照群平均A値)×100%。試験を3回繰り返し、平均値をとった結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
表2によると、本発明が提供する抗ヒト乳頭腫ウイルス感染の漢方薬組成物はHela細胞増殖への抑制作用があり、しかも経時的に抑制率が高くなり、ブランク対照群に比べて顕著な意義がある。
【実施例9】
【0079】
HPV感染治療効果評価
【0080】
本発明の実施例5~実施例7に基づき調製するサンプルを使用して下記のように効果評価を行う。高リスク型HPV陽性被験者を無作為に5群に分け、各群50人とする。ブランク対照群はブランク基質からなる坐剤を子宮頸口部に押し当て、陽性薬群はインターフェロン坐剤を子宮頸口部に押し当てる。実施例5で調製した洗薬で陰唇周囲と膣内部を洗浄する。実施例6で調制した坐剤を子宮頸口部に押し当てる。実施例7のゲル剤を子宮頸口部に押し当てる。投与12週間後、高リスク型HPV陽性被験者の治療効果を観察し、患者の自覚症状、婦人科検査及び膣分泌物鏡検査結果に基づき、高リスク型HPV陽性患者に対する薬物の臨床治療効果を分析し、HPV検査結果が陰性となった場合を顕著な有効とし、陽性ウイルス量が50%以上低下した場合を有効とし(ウイルス測定方法はHC2HPV DNA測定を採用)、逆になった場合を無効とし、具体的なデータを表2に示す。
【0081】
【0082】
表2によると、本発明が提供する抗ヒト乳頭腫ウイルス感染の漢方薬複方薬物による高リスク型HPV陽性の治療に対する有効率が86%以上で、そのうち陰性化率が68%以上である。
【0083】
国際標準化コントラストモデルと一連の試験を通じ、薬理学的と病理学的検証を行い、6ケ月間の試験過程において、本発明製品は非常に強い認識性と自主的な不活化性を示し、特に粘膜高リスク型ヒト乳頭腫ウイルスをはじめとするヒト乳頭腫ウイルスによる子宮頸癌の宿主Hela細胞に対しきわめて強い殺滅性を持っている。
【実施例10】
【0084】
臨床例
患者:氏名 黄;性別 女;年齢: 32歳。2016年5月身体検査時にHPV33陽性が示唆され、その間インターフェロンで治療したが、効果がなかった。2017年10月身体検査時に依然としてHPV33陽性のうえ、HPV18、52、56がいずれも陽性となり、膣鏡ガイド下生検(CDB)でCIN1が示唆された。2017年12月から2018年3月まで本発明の実施例5で調製した洗薬を使用し、1サイクルとして2日間おきに5日連続で投薬し、生理日を避けて9サイクル投薬した後、再検査の結果、HPV陰性化した。
【実施例11】
【0085】
臨床例
患者:氏名 林;性別 女;年齢: 62歳。2011年9月にHPV58陽性を発見して以来、6年間のほど持続性感染を経ていた。2017年9月検査時にHPV81型が追加され、2017年12月から2018年3月まで本発明の実施例6で調製した坐剤を投薬し、2018年9月に再検査したところ、HPV陰性化した。
【実施例12】
【0086】
臨床例
患者:氏名 楊;性別 女;年齢 59歳。子宮切除術後10年、半年前にHPV感染を発見し、その間、或る会社製の漢方ゲル剤を投薬したが、治療効果がなかった。その後2018年6月から8月まで本発明の実施例7で調製したゲル剤を投薬し、2018年11月に再検査した結果、HPV43、51、83はいずれも陰性化した。
【0087】
臨床試験、薬理的研究及び臨床例と結び付け、本発明で開示する漢方薬組成物がヒト乳頭腫ウイルス、ヒト子宮頸癌細胞(Hela)を殺滅し、子宮頸炎症を修復するなどの作用を有することが検証される。ヒト乳頭腫ウイルス感染並びにそれによる膣炎、子宮頸管炎、子宮頸管円柱上皮エクトピーの治療に使用することができる。また、この漢方薬の配合製剤は性味作用が温和で、刺激性がなく膣に直接作用する。ゲル剤の使い捨て式ボーラス剤形、坐剤及び洗薬の剤形は、患者が使いやすく、投薬アドヒアランスが強い。そして、薬物は膣内に滞在する時間が長く、粘膜ひだに浸透でき、薬物と病巣、病原因子の接触に役立ち、薬物の吸収に有利である。
【0088】
上記は、本発明の好ましい実施例に過ぎなく、本発明の保護範囲を限定することに用いられるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更および変形を加えることができることは、当業者にとって明らかである。しかし、本発明が提出した技術的思想に従って、本発明の請求項を基礎としてなされたすべての同等な変化又は等価な変更は、いずれも依然として本発明の請求項の保護範囲に属するものである。