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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】放熱部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20221219BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20221219BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20221219BHJP
   C22C 26/00 20060101ALI20221219BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/36 M
H01L23/12 J
C22C26/00
C22C5/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020554787
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034154
(87)【国際公開番号】W WO2020090213
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018206163
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】松儀 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岩山 功
(72)【発明者】
【氏名】田中 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】森上 英明
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105297(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/074720(WO,A1)
【文献】特開2008-004760(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035795(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/040420(WO,A1)
【文献】米国特許第5570502(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/373
H01L 23/12
C22C 26/00
C22C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドと金属相とを含む複合材料からなる基板と、
前記基板の表裏面の少なくとも一部に設けられ、窒化アルミニウムからなる絶縁板と、
前記基板と前記絶縁板との間に介在する単層の接合層とを備え、
前記金属相の構成金属は、純銀、又は銀基合金であり、
前記接合層は、AgとCuとTiとを含む合金からなり、
前記接合層における前記Tiの濃度は、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、40原子%以上95原子%以下であり、
熱伝導率が400W/m・K以上である放熱部材。
【請求項2】
前記接合層の厚さは、0.1μm以上10μm以下である、請求項1に記載の放熱部材。
【請求項3】
前記ダイヤモンドの平均粒径は、1μm以上300μm以下である、請求項1または請求項2に記載の放熱部材。
【請求項4】
前記基板中の前記ダイヤモンドの含有量は、40体積%以上90体積%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱部材に関する。本出願は、2018年10月31日に出願した日本特許出願である特願2018-206163号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体素子の放熱部材では、銀とダイヤモンドとを含む複合材料からなる基板に、銀ロウ材を用いてセラミックスからなる絶縁材が接合されることを開示する(明細書[0032])。また、特許文献1は、上記基板の表面に金属層を備えて、この金属層をロウ材の下地に利用することを開示する(明細書[0034])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/035795号
【発明の概要】
【0004】
本開示の放熱部材は、ダイヤモンドと金属相とを含む複合材料からなる基板と、前記基板の表裏面の少なくとも一部に設けられ、窒化アルミニウムからなる絶縁板と、前記基板と前記絶縁板との間に介在する単層の接合層とを備え、熱伝導率が400W/m・K以上である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A図1Aは、実施形態の放熱部材を模式的に示す部分断面図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す実施形態の放熱部材において、破線円Bで囲まれた領域を拡大して示す部分拡大断面図である。
図2図2は、試験例1において、試料の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
【0007】
電気絶縁性に優れると共に、熱伝導性により優れる放熱部材が望まれている。
【0008】
熱伝導率が高いダイヤモンドを含む複合材料は、熱伝導率が高い(例、特許文献1の請求項5)。このような複合材料からなる基板に、セラミックスからなる絶縁板を接合すれば、電気絶縁性にも優れる。また、上記基板に、例えばニッケルめっき層といった金属層を形成すれば、ロウ材がニッケルめっき層に濡れるため、強固な接合ができる(特許文献1の明細書[0058])。しかし、この場合、ダイヤモンドを含む複合材料の基板と、セラミックスの絶縁板との間に、ロウ材に基づく層に加えて、ニッケルめっき層といった金属層が介在する。ニッケルめっき層等を含む複数の金属層の介在によって熱抵抗の増大を招く。その結果、上記基板と上記絶縁板とを備える放熱部材全体の熱伝導率が低下する。
【0009】
そこで、本開示は、電気絶縁性に優れると共に、熱伝導性により優れる放熱部材を提供することを目的の一つとする。
[本開示の効果]
【0010】
本開示の放熱部材は、電気絶縁性に優れると共に、熱伝導性により優れる。
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る放熱部材は、
ダイヤモンドと金属相とを含む複合材料からなる基板と、
前記基板の表裏面の少なくとも一部に設けられ、窒化アルミニウムからなる絶縁板と、
前記基板と前記絶縁板との間に介在する単層の接合層とを備え、
熱伝導率が400W/m・K以上である。
【0011】
本開示の放熱部材に備えられる基板は、非常に高い熱伝導率を有するダイヤモンドを含む複合材料からなる。また、本開示の放熱部材に備えられる絶縁板は、セラミックスの中では高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム(AlN)からなる。このような高熱伝導率の材料を含む基板及び絶縁板を備える本開示の放熱部材は、熱伝導性に優れる。また、AlNは、電気絶縁性に優れる。そのため、AlNからなる絶縁板を備える本開示の放熱部材は、電気絶縁性にも優れる。
【0012】
特に、本開示の放熱部材では、上述の基板と上述の絶縁板との間に介在する接合層が単層である。接合層が単層であれば、上記基板と上記絶縁板との間に上述のロウ材に基づく層に加えて、ニッケルめっき層のような熱抵抗の増大を招く層が介在する場合に比較して、熱抵抗が小さいといえる。このような本開示の放熱部材は、熱伝導性により優れており、400W/m・K以上という高い熱伝導率を有する。
【0013】
ここで、本開示の放熱部材は、代表的には、上記基板と上記絶縁板とをロウ材で接合することで製造できる。ロウ材には、上記基板中の金属相を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるものを好適に利用できる。この場合、ロウ材を構成する主たる金属元素と基板の金属相を構成する主たる金属元素とが共通する。そのため、接合時、ロウ材中のベースとなる金属元素や添加元素が基板中の金属相に拡散し易い。この拡散によって、ロウ材に基づいて形成される接合層を薄くし易い。接合層が薄ければ、接合層に起因する熱抵抗の増大を低減できる。特に、接合条件を後述の特定の条件とすれば、上述の拡散を促進できて接合層をより薄くし易い。また、接合条件を後述の特定の条件とすれば、ロウ材を十分に溶融できるため、上記基板と上記絶縁板との間の介在層が単層の接合層であっても密着できる。従って、上記基板や上記絶縁板に対して、ロウ材の下地層(例、ニッケルめっき層)を省略できる。ロウ材の下地層の省略による接合層の単層化と、接合層の薄肉化とによって、熱抵抗の増大を効果的に低減できる。
【0014】
(2)本開示の放熱部材の一例として、
前記接合層は、Tiと、前記金属相を構成する主たる金属元素とを含む合金からなる形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、以下に説明するように、接合層によって基板と絶縁板とが密着すると共に、接合層が薄いため、熱伝導性により優れる。
【0016】
上記形態は、例えば、基板と絶縁板との接合に、Ti(チタン)を含み、基板中の金属相を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるロウ材を用いることで製造できる。後述するように、接合時、Tiは、基板中のダイヤモンドを構成するC(炭素)と反応すると共に、絶縁板を構成するAlNを構成するN(窒素)と反応する。これらの反応が生じることで、基板と絶縁板とが密着できる。更に、上述のように、接合時、ロウ材中の主たる金属元素や添加元素が基板の金属相に拡散して、接合層を薄くし易い。特に、後述する特定の接合条件とすれば、上述のロウ材中の構成元素における金属相への拡散と、Tiとダイヤモンド中の炭素との反応及びTiとAlN中の窒素との反応とを促進できる。そのため、基板と絶縁板とをより確実に密着できる上に、接合層をより確実に薄くできる。
【0017】
(3)本開示の放熱部材の一例として、
前記金属相の構成金属は、純銀、又は銀基合金である形態が挙げられる。
【0018】
上記形態における基板中の金属相は、金属の中では高い熱伝導率を有するAg(銀)を主体とする。従って、上記形態は、熱伝導性により優れる。なお、この形態では、製造過程で、基板と絶縁板との接合に、Agをベースとする合金からなるロウ材を用いることが挙げられる。
【0019】
(4)上記(3)の放熱部材の一例として、
前記接合層は、AgとCuとTiとを含む合金からなり、
前記接合層における前記Tiの濃度は、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、40原子%以上95原子%以下である形態が挙げられる。
【0020】
上記形態は、例えば、基板と絶縁板との接合に、Cu(銅)とTiとを含む銀基合金、代表的にはAgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金からなるロウ材を用いることで製造できる。上記ロウ材は、溶融し易く、基板の金属相等に溶け込み易い。このようなロウ材を用いることで、基板と絶縁板とが密着し易い。また、上述のようにロウ材中のAgやCuが基板中の金属相に拡散することで、接合層を薄くし易い。これらのことから、上記形態は、熱伝導性により優れる。
【0021】
特に、上記形態は、接合層におけるTiの濃度が上述の範囲を満たすため、熱伝導性により一層優れる。接合層中にTiを適量含むため、製造過程では、上述のTiとダイヤモンド中の炭素との反応及びTiとAlN中の窒素との反応が適切に生じて、基板と絶縁板との密着効果を良好に得られると考えられるからである。かつ、接合層において、Tiの過剰含有に起因する熱抵抗の増大を低減できるからである。
【0022】
[実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中、同一符号は同一名称物を意味する。
【0023】
[放熱部材]
図1Aおよび図1Bを主に参照して、実施形態の放熱部材1を説明する。
図1A図1Bは、放熱部材1において接合層3の近傍を模式的に示す部分断面図である。この断面図は、放熱部材1を基板2の厚さ方向に平行な平面で切断した図である。ここでの基板2の厚さ方向は、絶縁板4の厚さ方向に相当する。また、基板2の厚さ方向は、基板2と接合層3と絶縁板4との積層方向に相当する。図1A図1Bでは、基板2の厚さ方向は、紙面上下方向に相当する。
【0024】
(概要)
実施形態の放熱部材1は、図1Aに示すように、基板2と、基板2の表裏面の少なくとも一部に設けられる絶縁板4と、基板2と絶縁板4との間に介在する接合層3とを備える。基板2は、ダイヤモンド20と金属相25とを含む複合材料10からなる。絶縁板4は、窒化アルミニウム(AlN)からなる。
【0025】
特に、実施形態の放熱部材1では、基板2と絶縁板4との間に介在する接合層3が単層である。いわば、基板2と絶縁板4との間には、実質的に単層の接合層3のみが存在する。基板2と絶縁板4とが単層の接合層3によって接合される放熱部材1は、基板2と絶縁板4との間にニッケルめっき層等を含む場合に比較して、熱伝導性に優れる。定量的には、放熱部材1の熱伝導率は400W/m・K以上である。
以下、構成要素ごとに詳細に説明する。
【0026】
(基板)
放熱部材1に備えられる基板2には、非金属相を構成するダイヤモンド20と金属相25とを主体とする複合材料10から構成されるものを適宜利用できる。
【0027】
〈非金属相〉
《組成》
ダイヤモンド20は代表的には1000W/m・K以上といった高い熱伝導率を有する。また、ダイヤモンド20は熱伝導に関する異方性が実質的に無い。そのため、ダイヤモンド20を含む基板2を備える放熱部材1は、熱伝導性に優れる。
【0028】
複合材料10中の非金属相として、ダイヤモンド20に加えて、ダイヤモンド20以外の一種又は複数種の非金属無機材料を含んでもよい。ダイヤモンド20以外の非金属無機材料として、例えば、ダイヤモンド20以外の炭素系材料や、各種のセラミックスが挙げられる。炭素系材料の一例として、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維等が挙げられる。セラミックスは、例えば、金属又は非金属の酸化物(例、アルミナ)、炭化物(例、炭化珪素)、窒化物(例、立方晶窒化硼素)、硼化物、塩化物、珪化物等が挙げられる。その他の非金属無機材料として、珪素系材料等が挙げられる。
【0029】
《存在形態》
ダイヤモンド20等の非金属相は、図1Aに示すように粒子を含むことが挙げられる。上記非金属相が全て粒子でもよい。上記非金属相をなす複数の粒子は金属相25に分散して存在する。又は、ダイヤモンド20等の非金属相は、三次元の網目構造を有する多孔体(図示せず)を含むことが挙げられる。炭化珪素等の多孔体は、代表的には焼結体が挙げられる。金属相25は、多孔体の気孔中に充填された状態で存在する。
【0030】
ダイヤモンド20等の非金属相は、図1Bに拡大して示すように被覆粒子21を含んでもよい。被覆粒子21は、ダイヤモンド20等の非金属無機材料からなるコア粒子22と、コア粒子22の表面の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部を覆う被覆層23とを備える。なお、図1Bでは分かり易いように被覆層23を厚く示すが、実際には非常に薄い。
【0031】
被覆粒子21の一例として、コア粒子22がダイヤモンド粒子であり、被覆層23が炭化物からなるものが挙げられる。ダイヤモンド粒子の表面に炭化物層を備えると、製造過程では、溶融状態の金属に対する被覆粒子21の濡れ性を高められる。そのため、未溶浸部分の発生を抑制できて、緻密化、複合化を良好に行える。従って、ダイヤモンド20と金属相25とが密着した緻密な複合材料10にできる。このような複合材料10からなる基板2は熱伝導性に優れて好ましい。
【0032】
上述の炭化物層の構成材料は、Si(珪素),Ti,Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム),Ta(タンタル),Cr(クロム)からなる群より選択される1種以上の元素を含む炭化物が挙げられる。具体的には、SiC,TiC,ZrC,HfC,TaC,Crが挙げられる。炭化物をなすC(炭素)は、代表的にはダイヤモンド20に由来する。そのため、ダイヤモンド粒子と炭化物層とが密着する。この点からも、熱伝導性に優れる。
【0033】
その他の被覆粒子21として、コア粒子22がSiC等のセラミックスからなる粒子であり、被覆層23が酸化珪素といった酸化物等からなるものを含んでもよい。このような被覆粒子21も溶融状態の金属との濡れ性に優れる。コア粒子22及び被覆層23の少なくとも一方の組成が異なる被覆粒子21を含んでもよい。ダイヤモンド20等の非金属相が上述の多孔体を含む場合、多孔体の表面の少なくとも一部に上述の炭化物や酸化物等からなる被覆層を備えてもよい。
【0034】
《大きさ》
ダイヤモンド20等の非金属相が粒子を含む場合、粒子(被覆粒子21を含む)の平均粒径は、例えば1μm以上300μm以下が挙げられる。
【0035】
上記平均粒径が1μm以上であれば、複合材料10におけるダイヤモンド20等の非金属相の粒子による粉末粒界を低減できる。粉末粒界が少ないほど、熱伝導性に優れる。そのため、粉末粒界が少ない複合材料10からなる基板2を備える放熱部材1は、熱伝導性に優れる。上記平均粒径が大きいほど、上記粉末粒界を低減でき、熱伝導性に優れる。熱伝導性の向上等を望む場合には、上記平均粒径を5μm以上、更に10μm以上、15μm以上、20μm以上としてもよい。
【0036】
上記平均粒径が300μm以下であれば、基板2の表面2fの凸凹が小さくなり易い。製造過程で基板2に研磨等を行っても、ダイヤモンド20等の非金属相の粒子が脱落することに起因する凹部を小さくし易い。そのため、表面性状に優れる基板2にできる。また、研磨等の加工性にも優れる。上記平均粒径が小さいほど、基板2の表面2fの凸凹を小さくし易い。また、基板2の加工性に優れる。更に、基板2を薄くし易い。表面性状の向上、加工性の向上、薄型化等を望む場合には、上記平均粒径を290μm以下、更に280μm以下、270μm以下、260μm以下としてもよい。更に、上記平均粒径を100μm以下としてもよい。
【0037】
上記平均粒径が1μm以上300μm以下を満たす範囲で、相対的に微細な粒子と相対的に粗大な粒子とを含む微粗混合形態としてもよい。この場合、製造過程で、緻密化し易く、相対密度が高い基板2を得易い。緻密な基板2を備える放熱部材1は、熱伝導性に優れる。
【0038】
上記平均粒径の測定は、例えば、基板2から、ダイヤモンド20等の非金属相の粒子を抽出し、この粒子について市販の分析装置でメジアン径を測定することが挙げられる。上記非金属相の抽出は、例えば、金属相25を酸等で選択的に溶解して除去することが挙げられる。
【0039】
《含有量》
ダイヤモンド20等の非金属相の含有量(複数種の非金属無機材料を含む場合には合計含有量)は、例えば40体積%以上90体積%以下が挙げられる。
【0040】
上記含有量が40体積%以上であれば、熱伝導性に優れる複合材料10にできる。また、複合材料10の線膨張係数を金属相25よりも小さくし易い。このような複合材料10からなる基板2を備える放熱部材1は、熱伝導性に優れる上に、半導体素子及びその周辺機器の線膨張係数との整合性に優れる。従って、この放熱部材1は、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。上記含有量が多いほど、熱伝導性に優れる。熱伝導性の向上等を望む場合には、上記含有量を45体積%以上、更に50体積%以上、55体積%以上、60体積%以上としてもよい。
【0041】
上記含有量が90体積%以下であれば、複合材料10は金属相25をある程度含む。そのため、ダイヤモンド20等の非金属相が多過ぎて、複合材料10の線膨張係数が小さくなり過ぎることを防止できる。また、上記非金属相が粒子を含む場合、粒子同士を金属相25によって確実に結合できる。更に、上記含有量が90体積%以下であれば、製造過程では原料に用いるダイヤモンド等の非金属無機材料に対して溶融状態の金属を溶浸し易い。そのため、未溶浸部分の発生を抑制できて、緻密化、複合化を良好に行える。金属相25の確保、緻密化、良好な複合化等を望む場合、上記含有量を85体積%以下、更に80体積%以下としてもよい。
【0042】
ダイヤモンド20等の非金属相をなす粒子(被覆粒子21を含む)や多孔体の形状、大きさ、含有量等の仕様は適宜選択できる。上記粒子の仕様は、代表的には原料粉末の仕様を実質的に維持する。上記多孔体の仕様は、代表的には原料に用いた焼結体の仕様を実質的に維持する。複合材料10中の上記非金属相が所定の仕様となるように、原料の仕様を選択するとよい。
【0043】
〈金属相〉
金属相25を構成する金属は、例えば、純銀又は銀基合金、純銅又は銅基合金、純アルミニウム(Al)又はアルミニウム基合金、純マグネシウム(Mg)又はマグネシウム基合金が挙げられる。純金属は、合金よりも熱伝導率が高い傾向にある。そのため、金属相25の構成金属が純金属であれば、熱伝導性により優れる基板2にできる。ひいては熱伝導性により優れる放熱部材1にできる。銀基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、マグネシウム基合金において、主たる金属元素(Ag,Cu,Al,Mg)の含有量は、50質量%超である。上記主たる金属元素の含有量は、80質量%以上、更に90%以上であると、熱伝導性により優れる傾向にある。合金は、純金属よりも強度といった機械的特性に優れる傾向がある。そのため、金属相25の構成金属が合金であれば、機械的特性に優れる基板2にできる。ひいては機械的特性に優れる放熱部材1にできる。
【0044】
純銀又は銀基合金は、金属の中では高い熱伝導率を有するAgを主体とする。そのため、金属相25の構成金属が純銀又は銀基合金であれば、熱伝導性に優れる放熱部材1にできて好ましい。特に、金属相25の構成金属が純銀であれば、熱伝導性により一層優れる放熱部材1にできる。また、純銀又は銀基合金は、純アルミニウムや純マグネシウム、又はこれらの合金よりも耐熱性に優れる。そのため、耐熱性に優れる放熱部材1にできる。
【0045】
金属相25の構成金属が純銅又は銅基合金であれば、純アルミニウムや純マグネシウム、又はこれらの合金よりも熱伝導性に優れる基板2にできると共に、純銀又は銀基合金よりも軽量な基板2にできる。金属相25の構成金属が純アルミニウムや純マグネシウム、又はこれらの合金であれば、軽量な基板2にできる。
【0046】
銀基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、マグネシウム基合金は、公知の組成を利用できる。
【0047】
(外形、大きさ)
基板2の平面形状、大きさ(厚さ、平面積)等は、放熱部材1の用途等に応じて適宜選択できる。例えば、放熱部材1を半導体素子の放熱部材に用いる場合、基板2の平面形状は長方形状が挙げられる。また、この用途では、基板2の平面積は、半導体素子等の搭載部品を載置可能な面積を有することが挙げられる。基板2が薄いほど、半導体素子といった発熱体(冷却対象)の熱を冷却装置といった上記発熱体の設置対象に伝え易く好ましい。例えば、基板2の厚さが10mm以下、更に5mm以下であると、基板2が薄板であるため、熱伝導性に優れて好ましい。基板2の厚さは、例えば0.2mm以上が利用し易い。
【0048】
(絶縁板)
放熱部材1に備えられる絶縁板4は、AlNからなるものを適宜利用できる。絶縁板4は、基板2を構成する複合材料10、特に金属相25と、放熱部材1が取り付けられる半導体素子等の発熱体との間の電気絶縁性を高めるために利用される。AlNは、セラミックスの中では電気絶縁性に優れる。そのため、AlNからなる絶縁板4は、上述の基板2と半導体素子等の発熱体との間の電気絶縁材として良好に機能する。また、AlNは、セラミックスの中では高い熱伝導率を有する。そのため、AlNからなる絶縁板4による熱抵抗の増大を低減し易く、熱伝導性に優れる放熱部材1にできる。
【0049】
一つの放熱部材1は、一つ又は複数の絶縁板4を備える。絶縁板4の個数や基板2における絶縁板4の配置位置等は、放熱部材1の用途等に応じて適宜選択できる。絶縁板4は、基板2の表裏面のうち、一面にのみ設けられてもよいし、表裏面の双方に設けられてもよい。また、基板2の一面における絶縁板4の個数は、一つでも複数でもよい。基板2の表裏面で絶縁板4の個数が異なってもよい。
【0050】
絶縁板4の平面形状、平面積等は、基板2における電気絶縁が求められる領域の形状、大きさに応じて選択すればよい。代表的な絶縁板4として、平面形状が長方形状の平板が挙げられる。放熱部材1が複数の絶縁板4を備える場合、全ての絶縁板4の形状、大きさが等しくてもよいし、異なる形状の絶縁板4や異なる平面積を有する絶縁板4を含んでもよい。
【0051】
絶縁板4が厚いほど、電気絶縁性に優れる。一方、絶縁板4が薄いほど、絶縁板4による熱抵抗の増大を低減できる。ひいては、絶縁板4を含む放熱部材1の熱伝導率を高め易い。例えば、絶縁板4の厚さが0.05mm以上2mm以下であれば、良好な電気絶縁性及び電気抵抗の増大の低減という効果を得易く好ましい。
【0052】
(接合層)
放熱部材1に備えられる接合層3は、基板2と絶縁板4との間に介在し、基板2と絶縁板4とのそれぞれに直接接する。放熱部材1が複数の絶縁板4を備える場合には、基板2と各絶縁板4との間に接合層3が介在する。特に、接合層3は単層である。代表的には、接合層3は、製造過程で用いたロウ材に基づいて形成される合金からなる単層である。接合層3を構成する合金は、実質的に単一の組成と見做せる。そのため、接合層3は、ニッケルめっき層等といった複数の金属層を含む多層構造ではない。
【0053】
〈組成〉
接合層3の構成材料は、代表的には、製造過程で用いたロウ材の構成元素を含む合金である。ここで、放熱部材1の製造過程では、基板2と絶縁板4との接合にロウ材を用いることが挙げられる。特に、ロウ材には、基板2を構成する複合材料10において、金属相25を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるものが好適に利用できる。以下に説明するように、接合層3が薄くなり易いからである。上記ロウ材を構成するベースの金属元素と、基板2の金属相25を構成するベースの金属元素とが共通する。そのため、接合時、上記ロウ材を構成するベースの金属元素や添加元素が基板2の金属相25に拡散し易い。特に、後述する特定の接合条件とすれば、上記拡散を促進できる。上記ロウ材の構成元素における金属相25への拡散によって、接合層3を薄くできる。接合層3が薄いことで、熱伝導性に優れる放熱部材1にできる。
【0054】
接合層3の組成の一例として、Ag,Cu,Al,及びMgからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが挙げられる。例えば、基板2中の金属相25の構成金属が純銀又は銀基合金であれば、製造過程で、基板2と絶縁板4との接合に銀基合金からなるロウ材を利用できる。銀基合金からなるロウ材を用いることで、Agを含む接合層3を形成できる。同様に、金属相25の構成金属が純銅又は銅基合金であれば、銅基合金からなるロウ材を用いることで、Cuを含む接合層3を形成できる。Al,Mgについても同様である。
【0055】
接合層3の組成の別例として、Tiと、基板2中の金属相25を構成する主たる金属元素とを含む合金が挙げられる。上記合金からなる接合層3は、例えば、基板2と絶縁板4との接合に、Tiを含み、上述の金属相25を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるロウ材を用いることで形成できる。
【0056】
ロウ材と金属相25とでベースの金属元素が共通であれば、上述のように接合中、ロウ材の構成元素が金属相25に拡散し易い。その結果、ロウ材に基づいて形成される接合層3を薄くできる。特に、後述する特定の接合条件とすれば、上述のロウ材の構成元素における金属相25への拡散を促進して、上記接合層3をより薄くし易い。
【0057】
更に、ロウ材中のTiは、接合時、基板2中のダイヤモンド20を構成する炭素と反応してTiCを形成する。このTiCによって、溶融状態のロウ材に対するダイヤモンド20の濡れ性を向上できる。そのため、ロウ材と基板2とが密着できる。また、ロウ材中のTiは、接合時、絶縁板4を構成するAlN中の窒素と反応してTiNを形成する。このTiNによって、溶融状態のロウ材に対するAlNの濡れ性を向上できる。そのため、ロウ材と絶縁板4とが密着できる。Tiとダイヤモンド20中の炭素との反応及びTiとAlN中の窒素との反応の双方が生じることで、ロウ材に基づいて形成される接合層3によって、基板2と絶縁板4とが密着できる。特に、後述する特定の接合条件とすれば、上述の双方の反応を促進できる。その結果、上記接合層3によって、基板2と絶縁板4とをより確実に密着できる。
【0058】
上述のように、Tiを含み、金属相25を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるロウ材を用いることで、ロウ材の構成元素を含む合金からなる接合層3を薄くできる。かつ、上記合金からなる接合層3が単層であっても、基板2と絶縁板4とを密着できる。そのため、熱伝導性に優れる放熱部材1にできる。
【0059】
基板2中の金属相25の構成金属が純銀、又は銀基合金である場合、接合層3の組成の更に別例として、AgとCuとTiとを含む合金が挙げられる。この接合層3は、例えば、基板2と絶縁板4との接合に、CuとTiとを含む銀基合金からなるロウ材を用いることで形成できる。CuとTiとを含む銀基合金として、例えば、AgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金が挙げられる。上記共晶合金からなるロウ材は、溶融し易く、基板2の金属相25等に溶け込み易い。そのため、上記ロウ材を用いることで、基板2と絶縁板4とが密着し易い。また、上記ロウ材中のAgやCuは、接合時に基板2の金属相25に拡散し易い。この拡散によって、接合層3を薄くし易い。更に、上記ロウ材は、Tiを含むため、上述のTiとダイヤモンド20やAlNの構成元素との反応によって基板2と絶縁板4とがより密着し易い。その上、金属相25は、高い熱伝導率を有するAgを主体とする。これらのことから、熱伝導性に更に優れる放熱部材1にできる。
【0060】
接合層3がAgとCuとTiとを含む合金からなる場合に、接合層3の構成材料は、Ag,Cu,Ti以外の元素(以下、本段落ではその他の元素と呼ぶ)を含んでもよい。上記その他の元素は、例えば、Sn(錫),Zn(亜鉛),In(インジウム)等が挙げられる。上記その他の元素の合計含有量は、例えば5.0原子%以下が挙げられる。上記合計含有量が5.0原子%以下であれば、上記その他の元素の含有による熱抵抗の増大を低減し易い。上記その他の元素を含む接合層3は、例えば、CuとTiと上記その他の元素とを含む銀基合金からなるロウ材を用いることで製造できる。
【0061】
接合層3がAgとCuとTiとを含む合金からなる場合に、接合層3におけるTiの濃度は、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、40原子%以上95原子%以下であることが挙げられる。ここで、AgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金からなるロウ材を用いる場合を考える。このロウ材を構成する銀基合金におけるTiの濃度は、例えば、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、0.5原子%以上3.0原子%以下が挙げられる。接合時、上述のようにロウ材中のAgやCuは基板2の金属相25に拡散する。一方、接合時、上述のようにロウ材中のTiはダイヤモンド20やAlNの構成元素と反応して、基板2と絶縁板4との間の領域に留まる。そのため、上記領域におけるAgとCuとTiとの合計量に対するTiの割合が増加していく。その結果、最終的に得られる接合層3におけるTiの濃度は、比較的高くなる。なお、接合層3中のTiの少なくとも一部は、TiCやTiNとして存在すると考えられる。
【0062】
接合層3におけるTiの濃度が、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、40原子%以上であれば、接合層3中にTiを適量含む。そのため、製造過程では、上述のTiとダイヤモンド20やAlNの構成元素との反応が適切に行われて、基板2と絶縁板4とが良好に密着できると考えられる。基板2と絶縁板4との密着によって、熱伝導性により優れる放熱部材1にできる。上記Tiの濃度が高いほど、基板2と絶縁板4との密着効果をより確実に得られて、熱伝導性を高め易い。従って、上記Tiの濃度は、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、50原子%以上、更に55原子%以上、60原子%以上が好ましい。
【0063】
接合層3におけるTiの濃度が、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、95原子%以下であれば、接合層3にTiが過剰に存在しないといえる。そのため、接合層3において、Tiの過剰含有に起因する熱抵抗の増大を低減できて、熱伝導性に優れる放熱部材1にできる。上記Tiの濃度が低いほど、上述のTiの過剰含有に起因する熱抵抗の増大を低減し易く、熱伝導性を高め易い。従って、上記Tiの濃度は、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として、90原子%以下、更に85原子%以下、80原子%以下でもよい。
【0064】
接合層3の構成材料は、製造過程で用いたロウ材の組成や接合条件等の製造条件に依存する。上述のTiの濃度が上述の所定の範囲を満たすように、ロウ材の組成や製造条件を調整するとよい。
【0065】
《接合層の組成の測定》
接合層3の成分分析は、例えば、以下のように行うことが挙げられる。
放熱部材1を放熱部材1の厚さ方向(ここでは基板2、接合層3、絶縁板4の積層方向に相当する方向)に平行な平面で切断した断面をとる。
断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、基板2と絶縁板4との間に介在する領域(以下、観察領域と呼ぶ)を抽出する。即ち、観察領域として、基板2の表面2fと絶縁板4の表面4f(基板2との対向面)とに挟まれる領域を抽出する。なお、図1A図1Bでは、分かり易いように表面2f,4fを直線で示す。一つの断面から、一つ以上の観察領域を抽出する。複数の断面をとり、各断面から観察領域を抽出してもよい。
抽出した観察領域において、基板2の表面2f又は絶縁板4の表面4fの沿面方向の位置が異なる複数の地点(例、10点)を測定点として設定する。
各測定点において、上記厚さ方向の中心位置について成分分析を行う。成分分析には、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)等を利用できる。一つの測定点から検出された元素(例、Ag,Cu,Ti,上述のその他の元素等)の合計含有量を100原子%として、各元素の含有量(原子%)を求める。
複数の測定点における分析結果を用いて、各元素の含有量の平均をとる。各元素の含有量の平均値を、接合層3の構成材料における各元素の含有量とする。
【0066】
なお、接合層3が単層であることは、例えば、上述のように放熱部材1の断面をとり、この断面を顕微鏡(例、SEM、金属顕微鏡)によって観察することで確認できる。SEM観察では二次電子像を利用することが挙げられる。
【0067】
《その他の元素》
上述の分析成分に、基板2に由来する元素(例、C、金属相25を構成する主たる金属元素)や絶縁板4に由来する元素(例、Al,N)を含むことを許容する。また、上述の分析成分に含まれる「金属相25を構成する主たる金属元素」は、測定点に含まれる金属元素として扱う。
【0068】
〈厚さ〉
接合層3の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下が挙げられる。
【0069】
接合層3の厚さが10μm以下であれば、接合層3による熱抵抗の増大を低減できる。そのため、熱伝導性に優れる放熱部材1にできる。接合層3が薄いほど、接合層3による熱抵抗の増大を低減し易い。従って、接合層3の厚さは、9μm以下、更に8μm以下、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。後述する接合条件によっては、接合層3の厚さを1μm以下にできる。
【0070】
接合層3の厚さが0.1μm以上であれば、接合層3によって基板2と絶縁板4とが密着できる。また、接合層3の厚さが0.1μm以上であれば、製造過程で、接合時間が長くなり過ぎず、放熱部材1の製造性に優れる。接合層3の確保、製造性の向上等を望む場合には、接合層3の厚さは、0.3μm以上、更に0.5μm以上でもよい。
【0071】
接合層3の厚さが所定の厚さとなるように、上記ロウ材の組成、厚さ等に応じて、接合条件を調整するとよい。
【0072】
《接合層の厚さの測定》
接合層3の厚さは、例えば、以下のように測定することが挙げられる。
上述の《接合層の組成の測定》で説明したように、断面から観察領域を抽出し、観察領域から複数の異なる測定点を決定する。詳細は上述の通りである。
各測定点において、基板2の表面2fと絶縁板4の表面4fとの間の距離であって、上記厚さ方向に沿った距離を求める。
複数の測定点(例、10点)における距離の平均をとる。この平均値を、接合層3の厚さt(図1B)とする。
【0073】
(熱特性)
実施形態の放熱部材1は、絶縁板4を含めた状態での熱伝導率が400W/m・K以上である。放熱部材1は、絶縁板4を備えることで電気絶縁性に優れる上に、絶縁板4を含めた状態での熱伝導率が400W/m・K以上と高いため、熱伝導性にも優れる。放熱部材1の熱伝導率が高いほど、熱伝導性に優れて好ましい。従って、放熱部材1の熱伝導率は、410W/m・K以上、更に420W/m・K以上が好ましい。
【0074】
(用途)
実施形態の放熱部材1は、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。放熱部材1を備える半導体装置として、各種の電子機器が挙げられる。具体的には、高周波パワーデバイス(例、LDMOS)、半導体レーザ装置、発光ダイオード装置等が挙げられる。その他、各種のコンピュータの中央処理装置(CPU)、グラフィックス プロセッシング ユニット(GPU)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、チップセット、メモリーチップ等が挙げられる。特に、放熱部材1は、SiCデバイスやGaNデバイス等といった発熱が大きい半導体素子の放熱部材に適する。
【0075】
[放熱部材の製造方法]
実施形態の放熱部材1は、例えば、以下の準備工程と、以下の接合工程とを備える製造方法によって製造できる。
(準備工程)ダイヤモンド20と金属相25とを含む複合材料10からなる基板2と、AlNからなる絶縁板4とを用意する工程。
(接合工程)ロウ材(図示せず)によって、前記基板2と、前記絶縁板4とを接合する工程。
【0076】
以下、工程ごとに説明する。
(準備工程)
準備工程で用意する基板2、絶縁板4は、公知のものを利用できる。又は、基板2、絶縁板4は、公知の製造方法によって製造してもよい。例えば、基板2として、特許文献1に記載されるダイヤモンドと銀との複合材料からなる基板を利用できる。又は、特許文献1に記載される上記基板の製造方法を利用できる。
【0077】
基板2の表裏面において絶縁板4が接合される領域には、金属めっき処理やメタライズ処理、スパッタ等の被覆処理を施さず、ダイヤモンド20や金属相25が露出された状態とする。また、絶縁板4において基板2との接合領域には、上述の金属めっき処理等の被覆処理を施さず、AlNが露出された状態とする。上述の被覆処理で形成される金属層又は金属膜(例、ニッケル又はニッケル合金からなるめっき層等)は、熱抵抗の増大を招く。基板2及び絶縁板4の双方に上記被覆処理を行わないことで、基板2と絶縁板4との間に上記金属層又は金属膜が介在されず、熱伝導性に優れる放熱部材1を製造できる。
【0078】
(接合工程)
接合工程では、まず、ロウ材を用意する。ロウ材は、上述のように基板2を構成する複合材料10において、金属相25を構成する主たる金属元素をベースとする合金からなるものが挙げられる。上述のように、接合時に、ロウ材中のベースとなる金属元素や添加元素を基板2の金属相25中に拡散させ易いため、接合層3を薄くできるからである。
【0079】
例えば、基板2中の金属相25の構成金属が純銀又は銀基合金であれば、銀基合金からなるロウ材を用いることが挙げられる。銀基合金からなるロウ材の組成の一例として、Cuを25質量%以上35質量%以下含む銀基合金が挙げられる(銀基合金を100質量%とする、以下同様)。また、Tiを含む銀基合金からなるロウ材の組成の一例として、Cuを25質量%以上35質量%以下、Tiを1.0質量%以上3.0質量%以下、Agを62質量%以上74質量%以下含む銀基合金が挙げられる。Cuを上記範囲で含む銀基合金は、AgとCuとの共晶合金をベースとする合金といえる。上記共晶合金をベースとする銀基合金からなるロウ材は、溶融し易く、基板2の金属相25等に溶け込み易い。このようなロウ材を用いることで、純銀又は銀基合金からなる金属相25を含む基板2と絶縁板4とを良好に接合できる。特に、Tiを含む場合には、上述のようにTiと基板2中のダイヤモンド20を構成する炭素との反応、Tiと絶縁板4中のAlNを構成する窒素との反応によって、基板2と絶縁板4とを密着できる。
【0080】
〈接合条件〉
接合条件は、最終的に形成される接合層3ができるだけ薄くなるように調整することが好ましい。代表的には、接合層3の厚さが10μm以下となるように接合条件を調整することが挙げられる。接合層3を薄くするには、例えば、上述のようにロウ材の構成元素を基板2の金属相25中に拡散させることを促進することが挙げられる。このような条件として、加熱温度を後述する推奨条件よりも高くすると共に、加熱時間を上記推奨条件よりも長くすることが挙げられる。
【0081】
ここで、ロウ材の組成に応じて推奨される接合条件がある。例えば、上述のAgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金からなるロウ材の推奨条件として、加熱温度が800℃であり、加熱時間が5分であることが挙げられる。
【0082】
接合時、加熱温度及び加熱時間の双方を推奨条件よりも大きくすれば、ロウ材を十分に溶融できる。その結果、ロウ材が基板2の金属相25等に溶け込み易くなり、基板2と絶縁板4とが密着できる。かつ、加熱温度及び加熱時間の双方を推奨条件よりも大きくすれば、上述のロウ材の構成元素における金属相25への拡散を促進できる。その結果、接合層3をより確実に薄くできる。単層の接合層3であっても基板2と絶縁板4とが密着し、かつ接合層3を薄くできることで、熱伝導性に優れる放熱部材1を製造できる。
【0083】
上述のTiを含むロウ材を用いる場合に、加熱温度及び加熱時間の双方を推奨条件よりも大きくすれば、接合時、上述のようにTiとダイヤモンド20やAlNの構成元素との反応を促進できる。上記反応の促進によって、基板2と絶縁板4とをより密着させ易い。その結果、単層の接合層3であっても基板2と絶縁板4とがより確実に密着し、かつ接合層3を薄くできることで、熱伝導性により優れる放熱部材1を製造できる。
【0084】
《接合条件の具体例》
上述のAgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金からなるロウ材を用いる場合、上記推奨条件よりも高い加熱温度として、例えば815℃以上845℃以下が挙げられる。また、この場合、上記推奨条件よりも長い加熱時間として、例えば5分超が挙げられる。
【0085】
上述の加熱温度が上述の範囲で高いほど、ロウ材を構成するベースの金属元素や添加元素を基板2の金属相25中に拡散させ易い。その結果、接合層3をより薄くし易い。ロウ材の厚さが比較的厚い場合(例、100μm超)には、加熱温度を上記範囲で高くする、又は上記範囲よりも高くしてもよい。
【0086】
上述の加熱時間は、長いほど、上述のロウ材の構成元素における金属相25への拡散、上述のTiとダイヤモンド20やAlNの構成元素との反応を促進し易い。そのため、上記加熱時間は、10分以上、更に25分以上、更に30分以上としてもよい。加熱時間が長過ぎると製造性の低下を招く。良好な製造性等を望む場合には、上記加熱時間は60分以下にするとよい。ここでの保持時間とは、上記加熱温度に保持する時間であり、昇温過程及び降温過程を含まない。ロウ材の厚さが比較的厚い場合(例、100μm超)には、保持時間を長くしてもよい。
【0087】
(その他の条件)
接合条件は、基板2の組成や厚さ、ロウ材の組成や厚さ等に応じて適宜調整できる。その他、接合工程での加圧圧力、雰囲気は例えば以下が挙げられる。
【0088】
加圧圧力は、例えば接合中の雰囲気において1kPa以上100kPa以下程度が挙げられる。ロウ材の厚さが比較的厚い場合(例、100μm超)には、加圧圧力を高くしてもよい。
【0089】
雰囲気は、非酸化性雰囲気が好ましい。基板2、ロウ材(特にTi)の酸化を防止できるからである。非酸化性雰囲気は、真空雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気等が挙げられる。
真空雰囲気は、大気圧未満の低圧雰囲気が挙げられる。雰囲気圧力は、例えば1Pa以下が挙げられる。
不活性雰囲気は、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が挙げられる。
還元雰囲気は、水素雰囲気、水素ガスと不活性ガスとの混合雰囲気、一酸化炭素雰囲気等が挙げられる。
【0090】
[主な作用・効果]
実施形態の放熱部材1は、ダイヤモンド20を含む基板2を備えると共に、絶縁板4がAlNからなるため、熱伝導性に優れる。また、絶縁板4によって、電気絶縁性にも優れる。かつ、放熱部材1は、基板2と絶縁板4との間に介在される接合層3が単層である。そのため、基板2と絶縁板4との間の介在層に基づく熱抵抗の増大を低減できる。従って、放熱部材1は、熱伝導性により優れ、400W/m・K以上という高い熱伝導率を有する。熱伝導性に優れる点に関して、以下の試験例で具体的に説明する。
【0091】
[試験例1]
ダイヤモンドと銀相とを含む複合材料からなる基板と、AlNからなる絶縁板とをロウ材で接合して、基板と絶縁板とを備える放熱部材を作製し、放熱部材の熱伝導率を調べた。
【0092】
(基板)
複合材料の基板は、特許文献1に基づいて作製したものを用意した。ダイヤモンドは、ダイヤモンド粒子と、ダイヤモンド粒子を覆う被覆層とを備える被覆粒子である。被覆層は、TiCからなる。ダイヤモンド粒子(ここでは被覆粒子)の平均粒径は20μmである。ダイヤモンド粒子の含有量は、60体積%である。金属相である銀相は、純銀からなる。ここでの基板は、長方形の平板材である。基板の厚さは1.2mmである。
【0093】
なお、ダイヤモンド粒子(ここでは被覆粒子)の平均粒径は、メジアン粒径である。メジアン径は、市販の粒子画像分析装置を用いて測定した。市販の粒子画像分析装置は、例えば、モフォロギG3(Malvern Instruments製)が挙げられる。
【0094】
(ロウ材)
ロウ材は、AgとCuとの共晶合金をベースとし、Tiを含む銀基合金からなるシート材を用いた。ロウ材の具体的な組成は、Cuを30質量%、Tiを1.5質量%、Snを3.0質量%含有し、残部がAg及び不可避不純物である。ロウ材の溶融温度は、780℃である。シート材の厚さは50μmである。
【0095】
(絶縁板)
絶縁板は、市販のAlNからなる平板を用意した。この絶縁板の厚さは、200μmである。
【0096】
用意した複合材料の基板及び絶縁板はいずれも、金属めっき処理等の被覆処理を施していない。そのため、基板の表面はダイヤモンド及び金属相の少なくとも一方によって構成される。絶縁板の表面はAlNで構成される。これら基板と絶縁板とを用意したシート材(ロウ材)によって接合して、絶縁板を備える放熱部材を作製した。
【0097】
ここでは、図2に示すように基板2の表裏面にそれぞれロウ材61を配置する。ロウ材61、基板2、ロウ材61という中間積層体を挟むように絶縁板4をそれぞれ配置する。絶縁板4、ロウ材61、基板2、ロウ材61、絶縁板4という順に積層された積層物60をカーボン製の鋳型65に収納する。鋳型65は有底筒状である。鋳型65の深さ方向が積層物60の積層方向に平行するように、積層物60を鋳型65に収納する。この収納状態では、一方(図2では紙面下方)の絶縁板4が鋳型65の内面に接する。他方(図2では紙面上方)の絶縁板4にカーボン製の保護板66を配置する。保護板66の上に、錘67を配置する。上述の錘67による加圧状態で、以下の接合条件で基板2と絶縁板4とをロウ材61によって接合する。なお、図2では分かり易いように積層物60の各構成要素を厚く示す。
【0098】
(接合条件)
加熱温度(℃):表1
加熱時間(分):表1
雰囲気:真空雰囲気
加圧圧力(錘67の荷重):10kPa
なお、試料No.101の接合条件の加熱温度(800℃)、加熱時間(5分)は、この試験に用いるロウ材の推奨条件である。
【0099】
【表1】

【0100】
作製した試料No.1,No.101の放熱部材について、基板と絶縁板との間に介在する領域の成分を分析した。その結果を表2に示す。
【0101】
上述の基板と絶縁板との間の介在層における成分分析は、以下のように行った。
各試料の放熱部材について、基板の厚さ方向(ここでは基板と絶縁板との積層方向に実質的に等しい)に沿った平面で切断して、断面をとる。断面をSEMで観察する。上記断面のSEM像から、基板と絶縁板との間に介在する領域(観察領域)を抽出する。観察領域は、基板の表面又は絶縁板の表面の沿面方向に沿って帯状に存在する(図1Aの接合層3参照)。なお、この帯状の観察領域は、基板と絶縁板との接合層に相当する。
【0102】
上記帯状の観察領域において、上記沿面方向の位置が異なる複数の地点を測定点とする。各測定点において、上記厚さ方向の中心位置について成分分析を行った。ここでは、異なる10点の測定点について成分分析を行った。
【0103】
この試験では、各測定点で検出された元素は、Ag,Cu,Ti,Sn,C(炭素),N(窒素),Al,O(酸素)である。各測定点において、上記検出された元素の合計含有量を100原子%とし、各元素の含有量(原子%)を調べた。なお、C(炭素)は基板中のダイヤモンドに由来すると考えられる。N(窒素),Alは絶縁板のAlNに由来すると考えられる。
【0104】
10点の測定点における分析結果を用いて、各元素の含有量の平均をとった。そして、各元素の含有量の平均値を観察領域の構成材料における各元素の含有量とした。例えば、10点の測定点において、Tiの含有量(原子%)を調べて、Tiの含有量(原子%)の平均をとる。この平均値が接合層(観察領域)におけるTiの含有量(原子%)である。
【0105】
ここでは、Ag,Cu,Tiの含有量(原子%)のみを表2に示し、その他の元素の含有量の記載は省略する。また、Ag,Cu,Tiの含有量(原子%)を用いて、Agの含有量(原子%)とCuの含有量(原子%)とTiの含有量(原子%)との合計量を100原子%とするときのTiの含有量(原子%)の割合を求めた。このTiの含有量の割合(Ti/(Ag+Cu+Ti))を接合層におけるTiの濃度(原子%)とし、表2に示す。
【0106】
上述の成分分析には、SEMに付属されるEDX装置を用いた。EDX装置には、例えば、公知のシリコンドリフト検出器(SDD)を利用できる。
【0107】
また、試料No.1,No.101の放熱部材について、熱伝導率(W/(m・K))を測定した。測定結果を表2に示す。
【0108】
上述の放熱部材の熱伝導率(W/m・K)は、市販の測定装置(ここでは、NETZSCH LFA447)を用いてフラッシュ法によって測定した。測定条件は、ASTM E1461-13「Standard Test Method for Thermal Diffusivity by the Flash Method」に準拠した条件である。
【0109】
更に、試料No.1,No.101の放熱部材について、接合層の厚さ(μm)とを測定した。測定結果を表2に示す。
【0110】
上述の接合層の厚さは、上述の接合層の成分分析に用いた断面のSEM像を用いて測定した。上述のように上記断面のSEM像から、基板と絶縁板との間に介在する領域、即ち帯状の観察領域を抽出した。また、上述のように基板の表面又は絶縁板の表面の沿面方向の位置が異なる複数の地点を測定点とする。各測定点において、基板の表面と絶縁板の表面との間の距離であって、基板の厚さ方向に沿った距離を求めた。ここでは、異なる10点の測定点について距離を求めた。10点の測定点における距離の平均をとった。この平均値を接合層の厚さ(μm)とし、表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
表1に示すように試料No.1の放熱部材は、400W/m・K以上という高い熱伝導率を有する。ここでの熱伝導率は430W/m・K以上であり、より高い。熱伝導率が高い理由は、以下のように考えられる。
(a)複合材料がダイヤモンドを含むと共に、絶縁板がAlNから構成される。即ち、放熱部材の主要な構成材料が高い熱伝導率を有するものである。
(b)接合層が単層である。ここでの接合層は、主として、製造過程で用いたロウ材の構成元素(Ag,Cu,Ti)を含む合金からなる。そのため、ニッケルめっき層等の介在に起因する熱抵抗の増大を低減できる。なお、接合層が単層であることは、上述の放熱部材の断面をSEMで観察した観察像から確認した。
(c)接合層が薄い。ここでの接合層の厚さは、10μm以下、更に5μm以下、特に2μm以下である。そのため、接合層自体に起因する熱抵抗の増大を低減できる。
【0113】
更に、この試験では、試料No.1の放熱部材の熱伝導率が高い理由として、以下の理由も考えられる。
(c)複合材料の金属相の構成金属が純銀である。
(d)接合層が基板の金属相を構成する主たる金属元素(ここではAg)を含む合金からなる。このような接合層は、本試験のように、基板と絶縁板との接合に上記金属元素をベースとする合金(ここでは銀基合金)からなるロウ材を用いることで製造される。このロウ材は、接合時、ロウ材中の構成元素が基板の金属相中に拡散し易い。そのため、接合層が薄くなり易い。
(e)接合層がTiを含む合金からなる。このような接合層は、本試験のように、基板と絶縁板との接合にTiを含む合金からなるロウ材を用いることで製造される。ロウ材中のTiは、接合時、基板中のダイヤモンドを構成する炭素及び絶縁板中のAlNを構成する窒素と反応する。その結果、ロウ材と基板及び絶縁板とが良好に濡れて、基板と絶縁板とが密着できる。
【0114】
(f)特に、この試験では、接合条件を推奨条件の加熱温度よりも高く、かつ推奨条件の加熱時間よりも長くした。そのため、上述のロウ材の構成元素における金属相への拡散、及びTiとダイヤモンドやAlNの構成元素との反応をそれぞれ促進できたことで、基板と絶縁板とをより確実に密着させられる上に、接合層をより薄くできたと考えられる。
【0115】
(g)特に、接合層におけるTiの濃度が、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として40原子%以上95原子%以下を満たす。接合層においてTiを上述の範囲で含むことで、製造過程では、上述のTiとダイヤモンドやAlNの構成元素との反応が適切に生じて、基板と絶縁板とを良好に密着できたと考えられる。特に、この試験では、上記Tiの濃度が60原子%以上と高い。即ち、接合層はTiが濃化されているといえる。このTiの濃化は、以下の二つのことに起因して生じたと考えられる。一つ目は、製造過程では、上述のTiとダイヤモンドやAlNの構成元素との反応が良好に生じて、接合層中にTiが残存し易かったことが挙げられる。二つ目は、製造過程では、ロウ材中のAgやCuが基板の金属相中に拡散し易かったことが挙げられる。
【0116】
一方、試料No.101の放熱部材の熱伝導率は、340W/m・K程度であり、試料No.1の放熱部材の熱伝導率よりも低い。また、試料No.101の放熱部材では、接合層の厚さが15μm超であり、試料No.1の放熱部材の接合層よりも厚い。更に、試料No.101の放熱部材では、接合層におけるTiの濃度が、AgとCuとTiとの合計量を100原子%として32原子%程度であり、試料No.1の放熱部材の接合層よりも低い。
【0117】
同じ基板及び絶縁板、及び同じロウ材を用いていながらも、試料No.1と試料No.101とで異なる結果が得られた理由の一つとして、接合条件が異なることが考えられる。試料No.101の接合条件は、試料No.1の接合条件と比較して、加熱温度が低く、加熱時間が短い。そのため、ロウ材中のAgやCuが隣接する基板中の金属相に十分に拡散されず、接合層が厚くなり易かったと考えられる。このことは、試料No.1の接合層の厚さに比較して、試料No.101の接合層の厚さが10倍以上厚いことから裏付けられる。また、試料No.1の接合層における上述のTiの濃度に比較して、試料No.101の接合層における上記Tiの濃度が1/2未満と非常に低いことから裏付けられる。上記Tiの濃度が低いことは、AgとCuとTiとの合計量に対してAg及びCuが多いことに他ならない。接合層におけるAg及びCuの含有量が相対的に多いことは、接合時に、ロウ材中のAg及びCuが十分に拡散できなかったことを裏付けるといえる。
【0118】
以上のことから、ダイヤモンドを含む複合材料からなる基板とAlNからなる絶縁板とが単層の接合層によって接合される複合部材は、電気絶縁性に優れる上に、400W/m・K以上という高い熱伝導率を有することが示された。このような放熱部材は、半導体素子の放熱部材等に好適に利用できる。また、この放熱部材は、上記基板と上記絶縁板とロウ材とを用いて、特定の接合条件で接合することで製造できることが示された。
【0119】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、複合材料中の金属相の組成、ダイヤモンドの粒径・含有量、基板の厚さ、ロウ材の組成及び厚さ、接合条件を適宜変更できる。
【符号の説明】
【0120】
1 放熱部材、2 基板、10 複合材料、20 ダイヤモンド、25 金属相、21 被覆粒子、22 コア粒子、23 被覆層、2f 表面、3 接合層、4 絶縁板、4f 表面、60 積層物、61 ロウ材、65 鋳型、66 保護板、67 錘。
図1A
図1B
図2