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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】絶縁膜又は誘電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/56 20060101AFI20221219BHJP
   C08F 34/02 20060101ALI20221219BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221219BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20221219BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01B17/56 A
C08F34/02
C09D7/20
C09D127/12
H01B3/44 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021000999
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2021111631
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020001644
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
(72)【発明者】
【氏名】松浦 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠希
(72)【発明者】
【氏名】尾形 明俊
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】吉本 洋之
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】松永 稔
【審判官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特公昭43-029154(JP,B1)
【文献】特開2006-290779(JP,A)
【文献】国際公開第2012/161162(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010043(WO,A1)
【文献】特許第5702898(JP,B1)
【文献】斎藤善孝・塚本朗,フッ素樹脂の最近の用途,高分子,日本,1992年,41巻11月号,p.770-p.773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ポリマーを含有する、6GHz以上の高周波の伝送路用の絶縁膜又は誘電膜であって、
前記フッ素ポリマーが、式(1-11):
【化1】
で表される単量体単位を主成分として含む、
絶縁膜又は誘電膜。
【請求項2】
前記6GHz以上の高周波の伝送路用は、6GHz以上の高周波が使用される高速通信対応基板用、6GHz以上の高周波が使用される信号線の被覆材用、あるいは6GHz以上の高周波が使用される誘電体導波線路用である、請求項1に記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項3】
6GHzにおける比誘電率が1.5以上且つ2.5以下であり、
6GHzにおける誘電正接が0.00011以下である、
請求項1又は2に記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項4】
前記フッ素ポリマーがフルオロオレフィン単位をさらに含む、請求項1~のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項5】
前記フルオロオレフィン単位が含フッ素パーハロオレフィン単位、フッ化ビニリデン単位、トリフルオロエチレン単位、ペンタフルオロプロピレン単位、及び1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレン単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項に記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項6】
前記含フッ素パーハロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項に記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項7】
前記フルオロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項に記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項8】
平均膜厚が10nm以上である請求項1~のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項9】
押込み弾性率が2.5GPa以上且つ10GPa以下であり、
押込み硬さが250N/mm以上且つ1000N/mm以下であり、及び
ガラス転移温度が110℃以上である、
請求項1~のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項10】
6GHzにおける誘電正接が0.00005以上且つ0.00011以下である請求項1~のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
【請求項11】
全光線透過率が90%以上である請求項1~10のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁膜又は誘電膜、これを含む電気物品、絶縁膜又は誘電膜形成用のコーティング剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の絶縁膜又は誘電膜を備えたプリント基板、半導体基板(ウェハ)等が電子部品として又は電子部品の製造過程において使用されている(特許文献1)。絶縁膜又は誘電膜としてフッ素ポリマー製の膜も検討されているが、絶縁性、硬度、透明性等の物性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-038075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電気絶縁性及び硬度を備えたフッ素ポリマー製の絶縁膜又は誘電膜の提供を一つの目的とする。本開示は、前記絶縁膜又は誘電膜を形成するためのコーティング剤の提供を一つの目的とする。本開示は、フッ素ポリマー製の絶縁膜又は誘電膜を含む電気物品(電気製品又はこれを構成する部品)の提供を一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、次の態様を包含する。
項1.
フッ素ポリマーを含有する絶縁膜又は誘電膜であって、
前記フッ素ポリマーが、式(1):
【化1】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含む、
絶縁膜又は誘電膜。
項2.
前記フッ素ポリマーがフルオロオレフィン単位をさらに含む、項1に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項3.
前記フルオロオレフィン単位が含フッ素パーハロオレフィン単位、フッ化ビニリデン単位、トリフルオロエチレン単位、ペンタフルオロプロピレン単位、及び1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレン単位からなる群から選択される少なくとも1種である項2に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項4.
前記含フッ素パーハロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)単位からなる群から選択される少なくとも1種である項3に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項5.
前記フルオロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群から選択される少なくとも1種である項2に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項6.
平均膜厚が10nm以上である項1~5のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
項7.
6GHzにおける比誘電率が1.5以上且つ2.5以下であり、
6GHzにおける誘電正接が0.0002以下であり、
押込み弾性率が2.5GPa以上且つ10GPa以下であり、
押込み硬さが250N/mm以上且つ1000N/mm以下であり、及び
ガラス転移温度が110℃以上である、
項1~6のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
項8.
6GHzにおける誘電正接が0.00005以上且つ0.0002以下である項7に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項9.
体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上である項1~8のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
項10.
全光線透過率が90%以上である項1~9のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
項11.
電気物品用又は信号線被覆材用である項1~10のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜。
項12.
電気物品用であって、電気物品が半導体である項11に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項13.
電気物品用であって、電気物品がプリント基板である項11に記載の絶縁膜又は誘電膜。
項14.
項1~13のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜を含む電気物品。
項15.
項1~13のいずれかに記載の絶縁膜又は誘電膜形成用のコーティング剤であって、
フッ素ポリマー及び非プロトン性溶媒を含有し、
前記フッ素ポリマーが、式(1):
【化2】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含む、
コーティング剤。
項16.
前記フッ素ポリマーの含有量が、コーティング剤全質量に対して、20質量%以上且つ65質量%以下である項15に記載のコーティング剤。
項17.
前記非プロトン性溶媒が、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ環状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、及び少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である項15又は16に記載のコーティング剤。
項18.
前記非プロトン性溶媒が、ハイドロフルオロエーテルの少なくとも1種である項15~17のいずれかに記載のコーティング剤。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、絶縁性及び硬度を備えたフッ素ポリマーを含有する絶縁膜又は誘電膜を提供できる。本開示によれば、前記絶縁膜又は誘電膜を形成するためのコーティング剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の前記概要は、本開示の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本開示の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本開示のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0008】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本開示が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10℃以上且つ40℃以下の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上且つm以下であることを表す。
【0009】
本明細書中、膜について「厚み」又は単に「膜厚」と表したときは「平均膜厚」を意味する。「平均膜厚」は次のようにして決定される。
平均膜厚
平均膜厚は、マイクロメーターで厚みを5回測定した平均値である。基板等の基材上に形成された膜をはがせない場合等、膜そのものの厚みを測定することが困難なときは、膜形成前の基材の厚みと膜形成された基材の厚みをマイクロメーターで各5回測定し、膜形成後の厚みの平均値からを膜形成前の厚みの平均値を控除することにより平均膜厚を算出する。
マイクロメーターで測定できない場合は、測定対象膜の切断面のラインプロファイルを原子力間顕微鏡(AFM)で測定することにより得られる膜厚を平均膜厚とする。
具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0010】
本明細書中、単に「分子量」と表したときは「質量平均分子量」を意味する。質量平均分子量は次のようにして決定される。
質量平均分子量
質量平均分子量は、次のGPC分析方法で測定する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
GPC分析方法
<サンプル調製法>
ポリマーをパーフルオロベンゼンに溶解させて2質量%ポリマー溶液を作製し、メンブレンフィルター(0.22μm)を通しサンプル溶液とする。
<測定法>
分子量の標準サンプル:ポリメチルメタクリレート
検出方法:RI(示差屈折計)
【0011】
本明細書中、「押込み硬さ」及び「押込み弾性率」は次のようにして決定される。
押込み硬さ及び押込み弾性率
ナノテック株式会社製超微小硬さ試験機ENT-2100を用いてサンプルのインデンテーション硬さ(HIT;押込み硬さ)を測定する。また、同時に押込み弾性率の測定を行う。押込み深さは厚みの1/10以下になるように調整して試験をおこなう。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0012】
本明細書中、「比誘電率」及び「誘電正接」は次のようにして決定される。
比誘電率及び誘電正接
10GHz以上の周波数(例;10、20、28、60、80GHz)の比誘電率及び誘電正接はスプリットシリンダ共振器法で求める。スプリットシリンダとして(株)関東電子応用開発社製の各周波数に対応する共振器を使用し、ネットワークスペクトルアナライザーとしてKeysight N5290Aを用いる。測定対象のサンプルとしては、20GHz未満の場合には厚み100μm、幅62mm、長さ75mmのフィルムを、20GHz以上の場合には厚み100μm、幅34mm、長さ45mmのフィルムを使用する。測定温度は25℃とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0013】
6GHzでの比誘電率および誘電正接は(株)関東電子応用開発製の空洞共振器を用いて測定する。サンプルの形状は円柱状(2mmφ×110mm)とする。
空洞共振器により示される共振周波数の変化から複素比誘電率の実数部を求め、Q値の変化から複素比誘電率の虚数部をもとめ、下式により、比誘電率および誘電正接を算出する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【数1】
式中、ε は複素比誘電率、ε’は比誘電率、ε’’は比誘電損率、tanδは誘電正接を示す。
【0014】
1kHzでの比誘電率及び誘電正接は次のように測定して決定する値である。
真空中で膜の両面にアルミニウムを蒸着しサンプルとする。このサンプルをLCRメーターにて、25℃で、周波数1kHzでの静電容量及び誘電正接を測定する。得られた各静電容量から比誘電率を算出する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0015】
本明細書中、「体積抵抗率」は次のようにして決定される。
体積抵抗率
サンプルを恒温槽内に設置した下部電極および上部電極で挟みこみ、デジタル超絶縁/微小電流計(DSM-8104;日置電機社製)にて50V/μmの電界をフィルムに印加し、漏れ電流を計測し、25℃における体積抵抗率を算出する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0016】
本明細書中、「全光線透過率」及び「ヘーズ」は次のようにして決定される。
全光線透過率及びヘーズ測定方法
ヘーズメーターNDH 7000SPII(日本電色工業株式会社製)を使用し、JIS K7136(ヘーズ値)およびJIS K 7361-1(全光線透過率)に従い全光線透過率及びヘーズを測定する。平均膜厚100μmの膜を測定対象のサンプルとして使用する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0017】
本明細書中、各波長における「透過率」は次のようにして決定される。
各波長における透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプルの所定の波長における透過率を測定する。サンプルは平均膜厚100μmの膜とする。検出器としては積分球検知器を用いる。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0018】
本明細書中、「吸水率」は次のようにして決定される。
吸水率(24℃)
あらかじめ、十分乾燥させたサンプルの重量を測定してW0とし、W0の100質量倍以上の24℃の水中にサンプルを完全浸漬させ、24時間後の重量を測定してW24とし、次式から吸水率を求める。
吸水率(%)=100×(W24-W0)/W0
具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
吸水率(60℃)
あらかじめ、十分乾燥させたサンプルの重量を測定してW0とし、W0の100質量倍以上の60℃の水中にサンプルを完全浸漬させ、24時間後の重量を測定してW24とし、次式から吸水率を求める。
吸水率(%)=100×(W24-W0)/W0
具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0019】
本明細書中、「引張弾性率」は次のようにして決定される。
引張弾性率
アイティー計測制御社製の動的粘弾性装置DVA220でサンプル(長さ30mm、巾5mm、厚み0.1mm)を引張モード、つかみ巾20mm、測定温度25℃から150℃、昇温速度2℃/分、周波数1Hzの条件で測定し、25℃における弾性率の値を引張弾性率とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0020】
本明細書中、「引張強度」は次のようにして決定される。
引張強度
島津製作所社製のオートグラフAGS-100NXを用いて、サンプルの引張強度を測定する。サンプルはJIS K 7162記載の5Bダンベル形状に切り抜く。チャック間12mm、クロスヘッドスピード1mm/分、室温の条件で測定する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0021】
本明細書中、「熱分解温度」は次のようにして決定される。
熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社 STA7200)を用い、空気雰囲気の条件で昇温速度10℃/分の条件で、サンプルの質量減少率が0.1%および5%となった時点の温度を測定する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0022】
本明細書中、「ガラス転移温度」は次のようにして決定される。
ガラス転移温度(Tg)
DSC(示差走査熱量計:日立ハイテクサイエンス社、DSC7000)を用いて、30℃以上且つ200℃以下の温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)-降温-昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をガラス転移温度(℃)とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0023】
本明細書中、「線膨張係数」は次のようにして決定される。
線膨張係数
熱機械分析装置(TMA8310;株式会社 リガク製)を用いてサンプルを2℃/分の条件で室温から150℃へ昇温(1stUP)、室温へ降温し、さらに150℃まで昇温(2ndUP)する。2ndUPにおける25℃以上且つ80℃以下における平均線膨張率を求め、線膨張係数とする。具体的には本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0024】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシル等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルキル基を包含できる。
【0025】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。「フルオロアルキル基」は、直鎖状、又は分枝状のフルオロアルキル基であることができる。
「フルオロアルキル基」の炭素数は、例えば、1~12、1~6、1~5、1~4、1~3、6、5、4、3、2、又は1であることができる。
「フルオロアルキル基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルキル基」は、パーフルオロアルキル基を包含する。
「パーフルオロアルキル基」は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基(CF-)、ペンタフルオロエチル基(C-)、ヘプタフルオロプロピル基(CFCFCF-)、及びヘプタフルオロイソプロピル基((CFCF-)を包含する。
「フルオロアルキル基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基(CF-)、2,2,2-トリフルオロエチル基(CFCH-)、パーフルオロエチル基(C-)、テトラフルオロプロピル基(例:HCFCFCH-)、ヘキサフルオロプロピル基(例:(CFCH-)、パーフルオロブチル基(例:CFCFCFCF-)、オクタフルオロペンチル基(例:HCFCFCFCFCH-)、パーフルオロペンチル基(例:CFCFCFCFCF-)及びパーフルオロヘキシル基(例:CFCFCFCFCFCF-)等が挙げられる。
【0026】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルコキシ基」は、RO-[当該式中、Rはアルキル基(例:C1-C10アルキル基)である。]で表される基であることができる。
「アルコキシ基」の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、及びデシルオキシ等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルコキシ基を包含する。
【0027】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルコキシ基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。「フルオロアルコキシ基」は、直鎖状又は分枝状のフルオロアルコキシ基であることができる。
「フルオロアルコキシ基」の炭素数は、例えば、1~12、1~6、1~5、1~4、1~3、6、5、4、3、2、又は1であることができる。
「フルオロアルコキシ基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルコキシ基」は、パーフルオロアルコキシ基を包含する。
「パーフルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルコキシ基の例は、トリフルオロメトキシ基(CFO-)、ペンタフルオロエトキシ基(CO-)、ヘプタフルオロプロピルオキシ基(CFCFCFO-)、及びヘプタフルオロイソプロピルオキシ基((CFCFO-)を包含する。
「フルオロアルコキシ基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基(CFCHO-)、パーフルオロエトキシ基(CO-)、テトラフルオロプロピルオキシ基(例:HCFCFCHO-)、ヘキサフルオロプロピルオキシ基(例:(CFCHO-)、パーフルオロブチルオキシ基(例:CFCFCFCFO-)、オクタフルオロペンチルオキシ基(例:HCFCFCFCFCHO-)、パーフルオロペンチルオキシ基(例:CFCFCFCFCFO-)及びパーフルオロヘキシルオキシ基(例:CFCFCFCFCFCFO-)等が挙げられる。
【0028】
絶縁膜又は誘電膜
本開示の一実施態様は、所定のフッ素ポリマーを含有する絶縁膜又は誘電膜である。
絶縁膜又は誘電膜は、前記フッ素ポリマーを含有することによって、絶縁性に優れる。
絶縁膜又は誘電膜は、前記フッ素ポリマーを含有することによって、硬度が高い。
絶縁膜又は誘電膜は、前記フッ素ポリマーを含有することによって、透明性が高い。
絶縁膜又は誘電膜は、前記フッ素ポリマーを含有することによって、耐光性が高い。
【0029】
絶縁膜又は誘電膜が含有するフッ素ポリマーは、式(1):
【化3】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]で表される単量体単位(本明細書中、「単位(1)」と称することがある。)を主成分として含む。
本明細書中、「単量体単位を主成分として含む」とは、ポリマー中の全ての単量体単位における特定の単量体単位の割合が50モル%以上であることを意味する。
フッ素ポリマーを構成する単量体単位は、単位(1)の1種単独又は2種以上を含んでよい。
フッ素ポリマーの全ての単量体単位における単位(1)の割合は、例えば70モル%以上とでき、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0030】
~Rのそれぞれにおいて、フルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、C1-C2フルオロアルキル基とできる。
直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基としては直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましい。
C1-C2フルオロアルキル基としてはC1-C2パーフルオロアルキル基が好ましい。
【0031】
~Rのそれぞれにおいて、フルオロアルコキシ基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基、C1-C2フルオロアルコキシ基とできる。
直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基としては直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
C1-C2フルオロアルコキシ基としてはC1-C2パーフルオロアルコキシ基が好ましい。
【0032】
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C2フルオロアルキル基、又はC1-C2フルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C2パーフルオロアルキル基、又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルロエチル、又はトリフルオロメトキシであってよい。
【0033】
~Rは、少なくとも1つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも2つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基であってよい。
~Rは、全てフッ素原子であってよい。
【0034】
単位(1)は、下記式(1-1)で表される単量体単位(本明細書中、「単位(1-1)」と称することがある。)であってよい。
【化4】
[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
フッ素ポリマーを構成する単量体単位は、単位(1-1)の1種単独又は2種以上を含んでよい。
【0035】
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、C1-C2フルオロアルキル基、又はC1-C2フルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、C1-C2パーフルオロアルキル基、又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、又はトリフルオロメトキシであってよい。
単位(1-1)においてRは、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
単位(1-1)においてRは、C1-C2パーフルオロアルキル基であってよい。
【0036】
単位(1-1)の好ましい例は、下記式(1-11)で表される単量体単位(本明細書中、「単位(1-11)」と称することがある。)を包含する。
【化5】
【0037】
フッ素ポリマーは、単位(1)に加え、フルオロオレフィン単位を含んでもよい。
フルオロオレフィン単位は1種で使用しても、2種以上併用してもよい。
フルオロオレフィン単位の割合は、全単量体単位の50モル%以下とでき、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、0%が特に好ましい。
【0038】
フルオロオレフィン単位は、フッ素原子及び炭素-炭素間二重結合を含む単量体が重合後に形成する単量体単位である。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子、炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子、炭素原子、及び水素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、炭素原子、及び水素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子及び炭素原子のみであってよい。
【0039】
フルオロオレフィン単位は、含フッ素パーハロオレフィン単位、フッ化ビニリデン単位(-CH-CF-)、トリフルオロエチレン単位(-CFH-CF-)、ペンタフルオロプロピレン単位(-CFH-CF(CF)-、-CF-CF(CHF)-)、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレン単位(-CH-CF(CF)-)等からなる群から選択される少なくとも1種の単位を包含する。
【0040】
含フッ素パーハロオレフィン単位は、フッ素原子及び炭素-炭素間二重結合を含み、フッ素原子以外のハロゲン原子を含んでもよい単量体が、重合後に形成する単量体単位である。
含フッ素パーハロオレフィン単位は、クロロトリフルオロエチレン単位(-CFCl-CF-)、テトラフルオロエチレン単位(-CF-CF-)、ヘキサフルオロプロピレン単位(-CF-CF(CF)-)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OCF)-)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OC)-)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OCF)-)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(O(CF)-)、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)単位(-CF-CAF-(式中、Aは、式中に示された隣接炭素原子と共に形成されたパーフルオロジオキソラン環であってジオキソラン環の2位の炭素原子に2個のトリフルオロメチルが結合した構造を示す。))からなる群から選択される少なくとも1種を包含する。
【0041】
フルオロオレフィン単位は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群から選択される少なくとも1種を包含する。
【0042】
フッ素ポリマーは、単位(1)及びフルオロオレフィン単位に加え、さらにその他の単量体単位を1種以上含んでもよく、含まないことが好ましい。
このようなその他の単量体単位は、CH=CHRf(RfはC1-C10フルオロアルキル基を表す)単位、アルキルビニルエーテル単位(例:シクロヘキシルビニルエーテル単位、エチルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、メチルビニルエーテル単位)、アルケニルビニルエーテル単位(例:ポリオキシエチレンアリルエーテル単位、エチルアリルエーテル単位)、反応性α,β-不飽和基を有する有機ケイ素化合物単位(例:ビニルトリメトキシシラン単位、ビニルトリエトキシシラン単位、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン単位)、アクリル酸エステル単位(例:アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位)、メタアクリル酸エステル単位(例:メタアクリル酸メチル単位、メタクリル酸エチル単位)、ビニルエステル単位(例:酢酸ビニル単位、安息香酸ビニル単位、「ベオバ」(シェル社製のビニルエステル)単位)などを包含する。
【0043】
その他の単量体単位の割合は、全単量体単位の、例えば0モル%以上且つ20モル%以下、0モル%以上且つ10モル%以下等とできる。
【0044】
フッ素ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは110℃以上、より好ましくは110℃以上且つ300℃以下、さらに好ましくは120℃以上且つ300℃以下、特に好ましくは125℃以上且つ200℃以下である。ガラス転移温度がこれらの範囲内にあると、フレキシブル基板上に形成された絶縁膜又は誘電膜の折り曲げ耐久性の点で有利である。
【0045】
フッ素ポリマーの質量平均分子量は、例えば1万以上且つ100万以下、好ましくは3万以上且つ50万以下、より好ましくは5万以上且つ30万以下である。分子量がこれらの範囲内にあると、耐久性の点で有利である。
【0046】
フッ素ポリマーは、例えばフッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を適宜の重合法により重合することで製造できる。例えば単位(1)に対応する単量体の1種単独又は2種以上を重合することにより製造することができる。
【0047】
また、フッ素ポリマーは、単位(1)に対応する単量体の1種単独又は2種以上を、必要に応じてフルオロオレフィン及びその他の単量体からなる群から選択される少なくとも1種の単量体と重合することにより製造できる。
【0048】
当業者は、フッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を理解できる。例えば、単位(1)に対応する単量体は、式(M1):
【化6】
[式中、R~Rは、前記と同意義である。]
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1)」と称することがある。)である。
【0049】
例えば、単位(1-1)に対応する単量体は、式(M1-1):
【化7】
[式中、Rは、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-1)」と称することがある。)である。
【0050】
例えば、単位(1-11)に対応する単量体は、式(M1-11):
【化8】
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-11)」と称することがある。)である。
【0051】
前記フルオロオレフィンとしては、前記フルオロオレフィン単位に対応する単量体を使用できる。例えば、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、フッ化ビニリデン単位に対応する単量体は、各々、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、ヘキサフルオロプロピレン(CFCF=CF)、フッ化ビニリデン(CH=CF)である。したがって、フルオロオレフィンに関する詳細については、対応するフルオロオレフィン単位に関する前記記載から当業者が理解できる。
フルオロオレフィンは、例えば、含フッ素パーハロオレフィン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、及び1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。フルオロオレフィンは、好ましくは、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
前記含フッ素パーハロオレフィンは、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0052】
前記その他の単量体としては、前記その他の単量体単位に対応する単量体を使用できる。したがって、その他の単量体に関する詳細については、対応するその他の単量体単位に関する前記記載から当業者が理解できる。
【0053】
重合方法としては、フッ素ポリマーを構成する単量体単位に対応する単量体を適宜の量で、必要に応じて溶媒(例:非プロトン性溶媒など)に溶解又は分散させ、必要に応じて重合開始剤を添加し、重合(例:ラジカル重合、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、乳化重合等)する方法が挙げられる。
好ましい重合方法は、フッ素ポリマーを高濃度に溶解した液を製造できることにより歩留まりが高く、厚膜形成及び精製に有利な溶液重合である。このため、フッ素ポリマーとしては溶液重合により製造されたフッ素ポリマーが好ましい。非プロトン性溶媒の存在下で単量体を重合させる溶液重合により製造されたフッ素ポリマーがより好ましい。
【0054】
フッ素ポリマーの溶液重合において、使用される溶媒は非プロトン性溶媒が好ましい。フッ素ポリマーの製造時の非プロトン性溶媒の使用量は単量体質量及び溶媒質量の和に対し、例えば80質量%以下、80質量%未満、75質量%以下、70質量%以下、35質量%以上且つ95質量%以下、35質量%以上且つ90質量%以下、35質量%以上且つ80質量%以下、35質量%以上且つ70質量%以下、35質量%以上且つ70質量%未満、60質量%以上且つ80質量%以下などとできる。好ましくは35質量%以上且つ80質量%未満とでき、より好ましくは40質量%以上且つ75質量%以下、特に好ましくは50質量%以上且つ70質量%以下である。
【0055】
フッ素ポリマーの重合に使用される非プロトン性溶媒としては、例えば、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ環状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、及び少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0056】
パーフルオロ芳香族化合物は、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ芳香族化合物である。パーフルオロ芳香族化合物が有する芳香環はベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種の環であってよい。パーフルオロ芳香族化合物は芳香環を1個以上(例:1個、2個、3個)有してもよい。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基であり、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましい。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ芳香族化合物の例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエン、パーフルオロキシレン、パーフルオロナフタレンを包含する。
パーフルオロ芳香族化合物の好ましい例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンを包含する。
【0057】
パーフルオロトリアルキルアミンは、例えば、3つの直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基で置換されたアミンである。当該パーフルオロアルキル基の炭素数は例えば1~10であり、好ましくは1~5、より好ましくは1~4である。当該パーフルオロアルキル基は同一又は異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
パーフルオロトリアルキルアミンの例は、パーフルオロトリメチルアミン、パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリイソプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリsec-ブチルアミン、パーフルオロトリtert-ブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリイソペンチルアミン、パーフルオロトリネオペンチルアミンを包含する。
パーフルオロトリアルキルアミンの好ましい例は、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミンを包含する。
【0058】
パーフルオロアルカンは、例えば、直鎖状、分岐状、又は環状のC3-C12(好ましくはC3-C10、より好ましくはC3-C6)パーフルオロアルカンである。
パーフルオロアルカンの例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロ-2-メチルペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-2-メチルヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(メチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(ジメチルシクロヘキサン)(例:パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン))、パーフルオロデカリンを包含する。
パーフルオロアルカンの好ましい例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタンを包含する。
【0059】
ハイドロフルオロカーボンは、例えば、C3-C8ハイドロフルオロカーボンである。
ハイドロフルオロカーボンの例は、CFCHCFH、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCHF、及びCFCFCFCFCFCFCHCHを包含する。
ハイドロフルオロカーボンの好ましい例は、CFCHCFH、CFCHCFCHを包含する。
【0060】
パーフルオロ環状エーテルは、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ環状エーテルである。パーフルオロ環状エーテルが有する環は3~6員環であってよい。パーフルオロ環状エーテルが有する環は環構成原子として1個以上の酸素原子を有してよい。当該環は、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の酸素原子を有する。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基である。好ましいパーフルオロアルキル基は直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基である。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ環状エーテルの例は、パーフルオロテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-メチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-プロピルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロテトラヒドロピランを包含する。
パーフルオロ環状エーテルの好ましい例は、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフランを包含する。
【0061】
ハイドロフルオロエーテルは、例えば、フッ素含有エーテルである。
ハイドロフルオロエーテルの地球温暖化係数(GWP)は400以下が好ましく、300以下がより好ましい。
ハイドロフルオロエーテルの例は、CFCFCFCFOCH3、CFCFCF(CF)OCH3、CFCF(CF)CFOCH3、CFCFCFCFOC、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)C、(CFCHOCH、(CFCFOCH、CHFCFOCHCF、CHFCFCHOCFCHF、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCF、トリフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227me)、ジフルオロメチル1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチルエーテル(HFE-227mc)、トリフルオロメチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227pc)、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-245mf)、及び2,2-ジフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(HFE-245pf)、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CHFCFOCHCF)、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン((CFCHOCH)を含む。
ハイドロフルオロエーテルの好ましい例は、CFCFCFCFOCH3、CFCFCFCFOC、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)Cを包含する。
ハイドロフルオロエーテルは、下記式(B1):
21-O-R22 (B1)
[式中、R21は、直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロブチルであり、R22は、メチル又はエチルである。]
で表される化合物がより好ましい。
【0062】
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、その構造中に少なくとも1つの塩素原子を含むC2-C4(好ましくはC2-C3)オレフィン化合物である。少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、炭素原子-炭素原子間二重結合(C=C)を1又は2個(好ましくは1個)有する、炭素数2~4の炭化水素において、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つが塩素原子に置換された化合物である。炭素数2~4の炭化水素における炭素原子-炭素原子間二重結合を構成する2個の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子に置換された化合物が好ましい。
塩素原子の数は、1~置換可能な最大の数である。塩素原子の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個等とできる。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、少なくとも1つ(例えば、1個、2個、3個、4個、5個等)のフッ素原子を含んでもよい。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の例は、CH=CHCl、CHCl=CHCl、CCl=CHCl、CCl=CCl、CFCH=CHCl、CHFCF=CHCl、CFHCF=CHCl、CFCCl=CFCl、CFHCl=CFCl、CFHCl=CFClを包含する。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の好ましい例はCHCl=CHCl、CHFCF=CHCl、CFCH=CHCl、CFCCl=CFClを包含する。
【0063】
非プロトン性溶媒としては、使用時の環境負荷が小さい点、ポリマーを高濃度に溶解できる点から、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。
【0064】
フッ素ポリマーの製造に使用される重合開始剤の好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムを包含する。
重合開始剤のより好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウムを包含する。
【0065】
重合反応に用いる重合開始剤の量は、例えば、反応に供される全ての単量体の1gに対して、0.0001g以上且つ0.05g以下とでき、好ましくは0.0001g以上且つ0.01g以下、より好ましくは0.0005g以上且つ0.008g以下であってよい。
【0066】
重合反応の温度は、例えば、-10℃以上且つ160℃以下とでき、好ましくは0℃以上且つ160℃以下、より好ましくは0℃以上且つ100℃以下であってよい。
【0067】
重合反応の反応時間は、好ましくは、0.5時間以上且つ72時間以下、より好ましくは、1時間以上且つ48時間以下、さらに好ましくは3時間以上且つ30時間以下であってよい。
【0068】
重合反応は、不活性ガス(例:窒素ガス)の存在下又は不存在下で実施され得、好適には存在下で実施され得る。
【0069】
重合反応は、減圧下、大気圧下、又は加圧条件下にて実施され得る。
【0070】
重合反応は、重合開始剤を含む非プロトン性溶媒に単量体を添加後、重合条件に供することで実施され得る。また、単量体を含む非プロトン性溶媒に重合開始剤を添加後、重合条件に供することで実施され得る。
【0071】
重合反応で生成したフッ素ポリマーは、所望により、抽出、溶解、濃縮、フィルターろ過、析出、再沈、脱水、吸着、クロマトグラフィー等の慣用の方法、又はこれらの組み合わせにより精製してもよい。あるいは、重合反応により生成したフッ素ポリマーが溶解した液、当該液を希釈した液、これらの液に必要に応じて他の成分を添加した液等を、乾燥または加熱(例:30℃以上且つ150℃以下)して、フッ素ポリマーを含有する絶縁膜又は誘電膜を形成してもよい。
【0072】
絶縁膜又は誘電膜のフッ素ポリマー含有量は、絶縁膜又は誘電膜の全質量に対して、例えば50質量%以上且つ100質量%以下、好ましくは60質量%以上且つ100質量%以下、より好ましくは80質量%以上且つ100質量%以下、特に好ましくは90質量%以上且つ100質量%以下とできる。
【0073】
絶縁膜又は誘電膜は、前記フッ素ポリマーに加え、他の成分を含んでもよい。他の成分は、絶縁膜又は誘電膜の用途に応じた公知の成分、例えば、湿潤剤、レベリング剤、着色剤、光拡散剤、フィラー、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、耐光性安定化剤、反応抑制剤、接着促進剤などであってよい。
絶縁膜又は誘電膜は、他の成分を本開示の効果が得られる限りにおいて適宜の量で含有できる。他の成分の含有量は、絶縁膜又は誘電膜の全質量に対して、例えば0質量%以上且つ50質量%以下、好ましくは0質量%以上且つ40質量%以下、より好ましくは0質量%以上且つ20質量%以下、特に好ましくは0質量%以上且つ10質量%以下とできる。
【0074】
絶縁膜又は誘電膜は、例えば、溶媒にフッ素ポリマーが溶解又は分散した液から乾燥、加熱等により溶媒を除去することによって製造できる。絶縁膜又は誘電膜は、好適には、後述の本開示のコーティング剤から溶媒を除去することによって製造できる。
【0075】
絶縁膜又は誘電膜の厚みは、絶縁層又は誘電層に求められる機能等に応じて適宜選択することができ、例えば10nm以上、10nm以上且つ1000μm以下、30nm以上且つ500μm以下、50nm以上且つ500μm以下等とでき、好ましくは100nm以上且つ500μm以下、より好ましくは500nm以上且つ300μm以下、さらに好ましくは800nm以上且つ200μm以下、特に好ましくは10μm以上且つ200μm以下とできる。平均膜厚が前記範囲にあると、耐摩耗性の点で有利である。
【0076】
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける比誘電率は、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
絶縁膜又は誘電膜の10GHzにおける比誘電率は、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
絶縁膜又は誘電膜の20GHzにおける比誘電率は、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
絶縁膜又は誘電膜の28GHzにおける比誘電率は、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける比誘電率、10GHzにおける比誘電率、20GHzにおける比誘電率及び28GHzにおける比誘電率の少なくとも1つは、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける比誘電率、10GHzにおける比誘電率、20GHzにおける比誘電率及び28GHzにおける比誘電率の全ては、例えば1.5以上且つ2.5以下とでき、好ましくは1.7以上且つ2.3以下、より好ましくは1.8以上且つ2.2以下である。
【0077】
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける誘電正接は、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
絶縁膜又は誘電膜の10GHzにおける誘電正接は、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
絶縁膜又は誘電膜の20GHzにおける誘電正接は、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
絶縁膜又は誘電膜の28GHzにおける誘電正接は、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける誘電正接、10GHzにおける誘電正接、20GHzにおける誘電正接及び28GHzにおける誘電正接の少なくとも1つは、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
絶縁膜又は誘電膜の6GHzにおける誘電正接、10GHzにおける誘電正接、20GHzにおける誘電正接及び28GHzにおける誘電正接の全ては、例えば0.0002以下とでき、好ましくは0.00005以上且つ0.0002以下、より好ましくは0.00007以上且つ0.0002以下である。
【0078】
絶縁膜又は誘電膜の体積抵抗率は、例えば1.0×1015Ω・cm以上とでき、好ましくは1.0×1015以上且つ1.0×1017Ω・cm以下、より好ましくは1.0×1015以上且つ1.5×1016Ω・cm以下である。
【0079】
絶縁膜又は誘電膜はフッ素ポリマーを含有することによって押込み硬さが高い。絶縁膜又は誘電膜の押込み硬さは、例えば250N/mm以上且つ1000N/mm以下とでき、好ましくは300N/mm以上且つ800N/mm以下、より好ましくは350N/mm以上且つ600N/mm以下である。
【0080】
絶縁膜又は誘電膜の押込み弾性率は、例えば2.5GPa以上且つ10GPa以下とでき、好ましくは2.5GPa以上且つ8GPa以下、より好ましくは2.5GPa以上且つ6GPa以下である。
【0081】
前記フッ素ポリマーは透過性が高いため、絶縁膜又は誘電膜を光学材料として利用できる。絶縁膜又は誘電膜の全光線透過率は、例えば90%以上且つ99%以下、好ましくは92%以上且つ99%以下とでき、より好ましくは94%以上且つ99%以下である。
フッ素ポリマーは紫外光の透過率も高いため、絶縁膜又は誘電膜を紫外光用の光学材料としても利用できる。絶縁膜又は誘電膜の193nm以上且つ410nm以下の範囲における透過率は、例えば60%以上とでき、好ましくは70%以上である。
【0082】
絶縁膜は、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜、レジスト剥離及び洗浄後に形成される絶縁膜等の半導体用絶縁膜、プリント基板に積層される絶縁膜、セラミック配線基板の絶縁膜、フィルムコンデンサー、信号線(例えば電線)被覆材用の絶縁膜などとして使用できる。
【0083】
絶縁膜又は誘電膜は、高周波伝送路の誘電体絶縁層に使用可能である。高周波伝送路の例としては自動運転用ミリ波レーダー基板があげられる。絶縁膜又は誘電膜は、低誘電正接、低比誘電率であるため、車載レーダーの感度を向上できる。
【0084】
絶縁膜は、高速通信対応基板の絶縁体として使用できる。高周波電気信号の伝送損失を示す次の式から理解されるように、比誘電率又は誘電正接を低下させることによって伝送損失を低下できる。
【数2】
【0085】
特に、誘電正接が重要である。比誘電率をたとえ1/2にしても損失は0.7倍程度までしか低下しない。一方、誘電正接はリニアに反映されるため、誘電正接が1/2になれば伝送損失も1/2となり、低誘電正接材料は、より効果的に伝送損失を低下できる。本開示の絶縁膜は、誘電正接が低いため、高速対応基板の絶縁体として有利である。
【0086】
そのような高速通信対応基板としては、基地局アンテナ基板、アンテナ分配基板、無線基地局の無線部分であるRRH(Remote Radio Head)用基板、無線基地局の制御部又はベースバンド部(BBU:Base Band Unit)用基板、高速通信用トランシーバー基板、RNC(Radio Network Contoroler)用基板、高速トランスミッター用基板、高速レシーバー用基板、高速信号多重回路用基板、60GHz帯使用のWiFig用基板、データセンター用のサーバーで使用されるデーター転送用基板などがあげられる。
また、高速通信対応基板としては、アンテナ用基板、例えば5G以降の規格で求められる大容量通信に向けた、超多素子アンテナ(Massive MIMO)向けの基板等も例示できる。
【0087】
絶縁膜は、基板用の絶縁体のみならず、信号線被覆材用の絶縁体として使用できる。例えば、高速信号を伝送する導波管、高速LAN用のQSFPケーブル、高速通信対応用の同軸ケーブル(例;SFP+ケーブル、QSFP+ケーブルなど)、低損失用の同軸ケーブル等の絶縁被覆材(例;絶縁チューブ)として使用できる。
【0088】
こうした高周波を使用する場合、コネクタなどの電気部品、ケーシングなどの通信機器に使用される資材には、安定して低い比誘電率(εr)及び低い誘電正接(tan δ)といった電気的特性が求められる。絶縁膜は、そのような資材用の絶縁材料としても使用できる。
【0089】
絶縁膜は、ハンダ付けが必要となるコネクタプリント配線基板用の絶縁材料としても使用できる。絶縁体は優れた耐熱性を有しているので、ハンダ付け時の高温でも問題が生じにくい。
【0090】
誘電体導波線路においては、高周波のミリ波又はサブミリ波を低損失で伝送させために、低誘電損失な材料が求められている。誘電膜は、ミリ波、サブミリ波等を伝送する誘電体導波線路用の絶縁材料としても使用できる。誘電体導波線路としては、円柱状誘電体線路、方形状誘電体線路、だ円形状誘電体線路、チューブ状誘電体線路、イメージ線路、インシュラーイメージ線路、トラップドイメージ線路、リブガイド、ストリップ誘電体線路、逆ストリップ線路、Hガイド、非放射性誘電体線路(NRDガイド)等が挙げられる。
【0091】
電気物品
本開示の一実施態様は、前記絶縁膜又は誘電膜を含む電気物品である。本明細書中、電気物品は、電気製品及び電気製品を構成する部品(単に「構成部品」とも称する。)の総称である。構成部品は電子部品を包含する。
電気製品は、前記絶縁膜又は誘電膜を含むことにより、絶縁性に優れ、その結果、信頼性に優れた製品となり得る。構成部品は、前記絶縁膜又は誘電膜を含むことにより、高絶縁性とできる。構成部品は、前記絶縁膜又は誘電膜を含むことにより、高硬度とできる。構成部品は、前記絶縁膜又は誘電膜を含むことにより、高透明性とでき、このため、光学用の部品として使用できる。
【0092】
本開示の電気物品は、絶縁膜又は誘電膜を含む従来の電気製品及び構成部品において、絶縁膜又は誘電膜を前記絶縁膜又は誘電膜に置き換えたものであってよい。
【0093】
電気製品は、通電により一定の機能を発現する製品であればよく、特に限定されない。電気製品は、家庭用電気製品、業務用電気製品、事業用電気製品等を包含する。好ましい電気製品は、半導体又はプリント基板を備えた製品であり、例えば、家電機器、自動車用電気機器、OA用電気機器などが挙げられる。
【0094】
構成部品は、絶縁膜又は誘電膜による絶縁性が求められる部品であればよく、例えば、電子部品、タッチパネル用、太陽電池パネル用、ディスプレイ用各種部品、などが挙げられる。構成部品としては、具体的には、半導体、プリント基板、素子封止材、素子保護膜などが挙げられる。
【0095】
コーティング剤
本開示の一実施態様は、所定のフッ素ポリマーを含有する絶縁膜又は誘電膜形成用のコーティング剤である。
コーティング剤は、フッ素ポリマー及び非プロトン性溶媒を含有できる。
【0096】
コーティング剤におけるフッ素ポリマーは、前記絶縁膜又は誘電膜において説明したフッ素ポリマーであってよい。したがって、コーティング剤におけるフッ素ポリマーの詳細には、絶縁膜又は誘電膜におけるフッ素ポリマーの前記詳細が適用できる。
コーティング剤において、フッ素ポリマーの含有量は、コーティング剤全質量に対して、例えば5質量%以上且つ65質量%以下、10質量%以上且つ65質量%以下、20質量%以上且つ65質量%以下、30質量%以上且つ65質量%以下、30質量%超且つ65質量%以下、20質量%以上且つ40質量%以下などとできる。好ましくは20質量%超且つ65質量%以下、より好ましくは25質量%以上且つ60質量%以下、特に好ましくは30質量%以上且つ50質量%以下である。
【0097】
コーティング剤における非プロトン性溶媒は、前記絶縁膜又は誘電膜において説明した非プロトン性溶媒であってよい。したがって、コーティング剤における非プロトン性溶媒の詳細には、絶縁膜又は誘電膜における非プロトン性溶媒の前記詳細が適用できる。
コーティング剤において、非プロトン性溶媒の含有量は、コーティング剤全質量に対して、例えば35質量%以上且つ95質量%以下、35質量%以上且つ90質量%以下、35質量%以上且つ80質量%以下、35質量%以上且つ70質量%以下、35質量%以上且つ70質量%未満、60質量%以上且つ80質量%以下などとできる。好ましくは35質量%以上且つ80質量%未満、より好ましくは40質量%以上且つ75質量%以下、特に好ましくは50質量%以上且つ70質量%以下である。
【0098】
コーティング剤は、重合開始剤を含有してもよい。コーティング剤における重合開始剤は、前記絶縁膜又は誘電膜において説明した重合開始剤であってよい。したがって、コーティング剤における重合開始剤の詳細には、絶縁膜又は誘電膜における重合開始剤の前記詳細が適用できる。
コーティング剤において、重合開始剤の含有量は、コーティング剤全質量に対して、例えば0.00001質量%以上且つ10質量%以下であり、好ましくは0.00005質量%以上且つ10質量%以下であり、より好ましくは0.0001質量%以上且つ10質量%以下である。
【0099】
コーティング剤は、フッ素ポリマー、非プロトン性溶媒、任意に重合開始剤、及び任意に他の成分を、適宜の量で含んでもよい。他の成分の例は、着色剤、光拡散剤、フィラー、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、耐光性安定化剤、反応抑制剤、接着促進剤等であってよい。他の成分の含有量は、コーティング剤全質量に対して、例えば0.01質量%以上且つ50質量%以下、好ましくは0.01質量%以上且つ30質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上且つ20質量%以下とできる。
【0100】
コーティング剤は、フッ素ポリマー、非プロトン性溶媒、任意に重合開始剤、及び任意に他の成分を混合して製造できる。
コーティング剤は、上述の、フッ素ポリマーの溶液重合によって得られる重合反応液(当該液はフッ素ポリマー及び非プロトン性溶媒を少なくとも含む)に、必要に応じて非プロトン性溶媒及び/又は他の成分を混合することによって製造できる。溶液重合によって、重合反応液におけるフッ素ポリマー濃度又はフッ素ポリマー溶解量を高くできること、重合反応液からフッ素ポリマーを単離する工程を省略できることから、コーティング剤は溶液重合の重合反応液を含有することが好ましい。
【0101】
コーティング剤における溶液重合の重合反応液の含有量は、重合反応液中のフッ素ポリマー濃度、作製する絶縁膜又は誘電膜の機能、厚み等に応じて適宜選択できる。コーティング剤における溶液重合の重合反応液の含有量は、コーティング剤全質量に対して、例えば5質量%以上且つ100質量%以下、好ましくは20質量%以上且つ100質量%以下、より好ましくは30質量%以上且つ100質量%以下とできる。
【0102】
フッ素ポリマーを溶解又は分散した非プロトン性溶媒を含有するコーティング剤は、例えば、絶縁膜又は誘電膜の形成が求められる部分に適宜の方法(例:スプレーコーティング、ディップコーティング法、バーコート、グラビアコート、ロールコート、インクジェット、スピンコート等)で適用された後、乾燥、加熱等により溶媒が除去されることによって絶縁膜又は誘電膜を形成できる。コーティング剤適用後は加熱することが好ましい。乾燥又は加熱温度は、例えば30℃以上且つ150℃以下、好ましくは30℃以上且つ80℃以下である。
例えば、本開示のコーティング剤をコーティング後、80℃の乾燥機内で乾燥させることで絶縁膜又は誘電膜を形成できる。或いは、本開示のコーティング剤から絶縁膜又は誘電膜を形成後、この膜上に他の層等を形成できる。
【0103】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能であることが理解されるであろう。
【実施例
【0104】
以下、実施例によって本開示の一実施態様を更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0105】
実施例中の記号及び略称は、以下の意味で用いられる。
開始剤溶液(1):ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート(10時間半減期温度:40℃)を50質量%含有するメタノール溶液
フッ素ポリマー(1-11):単位(1-11)で構成されたポリマー
Mw:質量平均分子量
【0106】
GPC分析方法(フッ素ポリマーの質量平均分子量測定)
<サンプル調製法>
ポリマーをパーフルオロベンゼンに溶解させて2質量%ポリマー溶液を作製し、メンブレンフィルター(0.22μm)を通しサンプル溶液とした。
<測定法>
分子量の標準サンプル:ポリメチルメタクリレート
検出方法:RI(示差屈折計)
【0107】
ポリマー溶解の確認
液中のポリマーの溶解有無の判断は以下のように行った。
調製した液を目視で確認し、未溶解のポリマーが確認されず、かつ室温中で液全体が均一に流動する場合を溶解していると判断した。
【0108】
平均膜厚
平均膜厚は、マイクロメーターで厚みを5回測定した平均値とした。基板等の基材上に形成された膜をはがせない場合等、膜そのものの厚みを測定することが困難なときは、膜形成前の基材の厚みと膜形成された基材の厚み(膜厚及び基材厚の和)とをマイクロメーターで各5回測定し、膜形成後の厚みの平均値から膜形成前の厚みの平均値を控除することにより平均膜厚を算出した。
【0109】
比誘電率及び誘電正接
10、20、28、60、80GHzの比誘電率及び誘電正接はスプリットシリンダ共振器法で求めた。スプリットシリンダとして(株)関東電子応用開発社製の各周波数に対応する共振器を使用し、ネットワークスペクトルアナライザーとしてKeysight N5290Aを用いた。測定対象のサンプルとしては、10GHzの場合には厚み100μm、幅62mm、長さ75mmのフィルムを、20、28、60、80GHzの場合には厚み100μm、幅34mm、長さ45mmのフィルムを使用した。測定温度は25℃とした。
【0110】
6GHzでの比誘電率および誘電正接は(株)関東電子応用開発製の空洞共振器を用いて測定した。サンプルの形状は円柱状(2mmφ×110mm)とした。
空洞共振器により示される共振周波数の変化から複素比誘電率の実数部を求め、Q値の変化から複素比誘電率の虚数部をもとめ、下式により、比誘電率および誘電正接を算出した。
【数3】
式中、ε は複素比誘電率、ε’は比誘電率、ε’’は比誘電損率、tanδは誘電正接を示す。
【0111】
1kHzでの比誘電率及び誘電正接は次のようにして決定した。
真空中で膜の両面にアルミニウムを蒸着しサンプルとした。このサンプルをLCRメーターにて、25℃で、周波数1kHzでの静電容量及び誘電正接を測定した。得られた各静電容量から比誘電率を算出した。
【0112】
体積抵抗率
サンプルを恒温槽内に設置した下部電極および上部電極で挟みこみ、デジタル超絶縁/微小電流計(DSM-8104;日置電機社製)にて50V/μmの電界をフィルムに印加し、漏れ電流を計測し、25℃における体積抵抗率を算出する。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0113】
押込み硬さ及び押込み弾性率
ナノテック株式会社製超微小硬さ試験機ENT-2100を用いてサンプルのインデンテーション硬さ(HIT;押込み硬さ)を測定した。また、同時に押込み弾性率の測定をおこなった。押込み深さは厚みの1/10以下になるように調整して試験をおこなった。
【0114】
全光線透過率及びヘーズ測定方法
ヘーズメーターNDH 7000SPII(日本電色工業株式会社製)を使用し、JIS K7136(ヘーズ値)およびJIS K 7361-1(全光線透過率)に従い、全光線透過率及びヘーズを測定した。平均膜厚100μmの膜を測定対象のサンプルとして使用した。サンプルは、ガラス板に乾燥後の厚みが100μmになるようにコーティング剤をコートし、80℃で4時間乾燥して形成された平均膜厚100μmの膜をガラス板からはがすことで作製した。
【0115】
各波長における透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプル(平均膜厚100μmの膜)の所定の波長における透過率を測定した。検出器としては積分球検知器を用いた。
【0116】
吸水率(24℃)
あらかじめ、十分乾燥させたサンプルの重量を測定してW0とし、W0の100質量倍以上の24℃の水中にサンプルを完全浸漬させ、24時間後の重量を測定してW24とし、次式から吸水率を求めた。
吸水率(%)=100×(W24-W0)/W0
【0117】
吸水率(67℃)
あらかじめ、十分乾燥させたサンプルの重量を測定してW0とし、W0の100質量倍以上の60℃の水中にサンプルを完全浸漬させ、24時間後の重量を測定してW24とし、次式から吸水率を求めた。
吸水率(%)=100×(W24-W0)/W0
【0118】
引張弾性率
アイティー計測制御社製の動的粘弾性装置DVA220でサンプル(長さ30mm、巾5mm、厚み0.1mm)を引張モード、つかみ巾20mm、測定温度25℃から150℃、昇温速度2℃/分、周波数1Hzの条件で測定し、25℃における弾性率の値を引張弾性率とした。
【0119】
引張強度
島津製作所社製のオートグラフAGS-100NXを用いて、フィルムの引張強度を測定した。サンプルはJIS K 7162記載の5Bダンベル形状に切り抜いた。チャック間12mm、クロスヘッドスピード1mm/分、室温の条件で測定した。
【0120】
熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社 STA7200)を用い、空気雰囲気の条件で昇温速度10℃/分の条件で、サンプルの質量減少率が0.1%および5%となった時点の温度を測定した。
【0121】
ガラス転移温度(Tg)
DSC(示差走査熱量計:日立ハイテクサイエンス社、DSC7000)を用いて、30℃以上且つ200℃以下の温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)-降温-昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をガラス転移温度(℃)とした。
【0122】
線膨張係数
熱機械分析装置(TMA8310;株式会社 リガク製)を引張モード、チャック間15mmに設定し、幅5mm、長さ20mmに切り出したサンプルをチャックにはさんで、2℃/分の条件で室温から150℃へ昇温(1stUP)、室温へ降温し、さらに150℃まで昇温(2ndUP)した。2ndUPにおける25℃以上且つ80℃以下における平均線膨張率を求め、線膨張係数とした。
【0123】
調製例1:単位(1-11)を主成分として含むフッ素ポリマーの重合とポリマー溶解液(重合反応液)の製造
50mLのガラス製容器に、単量体(M1-11)の10gと、溶媒としてのエチルノナフルオロブチルエーテルの20g、開始剤溶液(1)の0.041gを仕込んだ後、内温が40℃になるように加熱しながら20時間重合反応を行い、フッ素ポリマー(1-11)9.0g(Mw:97533)を製造した。重合反応液中の当該フッ素ポリマーは溶解しており、濃度は31質量%であった。
組成物中のポリマーの重量は、重合反応終了後に未反応の原料や溶媒、開始剤残渣、モノマーに微量含まれる不純物を120℃の真空乾燥により留去して測定した。
【0124】
調製例2:単位(1-11)を主成分として含むフッ素ポリマーの重合とポリマー溶解液(重合反応液)の製造
20mLのガラス製容器に、単量体(M1-11)の10gと、溶媒としてのパーフルオロトリプロピルアミンの10g、開始剤溶液(1)の0.052gを仕込んだ後、内温が40℃になるように加熱しながら20時間重合反応を行い、フッ素ポリマー(1-11)9.5g(Mw:213475)を製造した。重合反応液中の当該フッ素ポリマーは溶解しており、濃度は49質量%であった。
組成物中のポリマーの重量は、重合反応終了後に未反応の原料や溶媒、開始剤残渣、モノマーに微量含まれる不純物を120℃の真空乾燥により留去して測定した。
【0125】
調製例3
調製例1で得られた重合反応液に、エチルノナフルオロブチルエーテルをさらに加えてフッ素ポリマー濃度10質量%の溶液とした。
【0126】
比較調製例1:テフロン(登録商標)溶解液の製造
市販のフッ素ポリマーであるテフロン(登録商標)AF1600の2.0g(Mw:229738)をメチルノナフルオロブチルエーテル8.0gに加えて室温で2日間攪拌して均一に溶解した溶解液を調製した。
なお、テフロン(登録商標)AF1600は下記式(10)で表される単量体単位と(20)で表される単量体単位を65:35(モル比)で含む。
【化9】
【0127】
実施例1
調製例1で得られた重合反応液をそのままコーティング剤として使用し、次のようにして膜を備えたシリコンウェハー製造した。
シリコンウェハー上に、コーティング剤をスピンコーターを用いてスピン速度500rpmで2秒間スピンコートし、さらに1000rpmで25秒間スピンコートした。次いで、80℃で2時間加熱し、均一で透明なフッ素ポリマー(1-11)の膜(平均膜厚0.85μm)がシリコンウェハー表面に形成された。
【0128】
実施例2
調製例1で得られた重合反応液をそのままコーティング剤として使用し、次のようにして膜を製造した。
ガラス基板上にコーティング剤を乾燥後の厚みが100μmになるようにコートし、80℃の条件で4時間乾燥し、透明な膜が形成された。その後、膜をガラス板よりはがすことで平均膜厚が100μmの含フッ素ポリマー(1-11)からなる膜を得た。得られた膜の電気特性を測定したところ、次の結果が得られた。
比誘電率(1kHz) 2.2
誘電正接(1kHz) 0.0001
比誘電率(6GHz) 1.99
誘電正接(6GHz) 0.00012
体積抵抗率 4×1015Ω・cm
さらに、次の項目も測定したところ以下の結果が得られた。
押込み硬さ 420N/mm
押込み弾性率 3.3GPa
吸水率(24℃) 0.00%
吸水率(60℃) 0.09%
引張弾性率 3.1GPa
引張強度 20.9MPa
熱分解温度(0.1%) 294.5℃
熱分解温度(5%) 439.4℃
ガラス転移温度 129℃
線膨張係数 80ppm
全光線透過率 96%
ヘーズ 0.34%
透過率(193nm) 74.4%
透過率(550nm) 94.6%
【0129】
実施例3
調製例2で得られた重合反応液をそのままコーティング剤として使用し、次のようにして膜を製造した。
ガラス基板上にコーティング剤を乾燥後の厚みが50μmになるようにコートし、80℃の条件で4時間乾燥し、透明な膜が形成された。その後、膜をガラス板よりはがすことで平均膜厚が50μmの含フッ素ポリマー(1-11)からなる膜を得た。得られた膜の電気特性性、押込み硬度及び押込み弾性率を測定したところ、次の結果が得られた。
比誘電率(1kHz) 2.3
誘電正接(1kHz) 0.0005
比誘電率(6GHz) 1.99
誘電正接(6GHz) 0.00011
比誘電率(10GHz) 2.02
誘電正接(10GHz) 0.00015
比誘電率(20GHz) 2.11
誘電正接(20GHz) 0.00016
比誘電率(28GHz) 2.09
誘電正接(28GHz) 0.00019
比誘電率(60GHz) 2.12
誘電正接(60GHz) 0.00036
比誘電率(80GHz) 2.10
誘電正接(80GHz) 0.00031
体積抵抗率 9×1015Ω・cm
押込み硬さ 415N/mm
押込み弾性率 3.5GPa
さらに、実施例1と同様に他の項目も測定したところ、実施例1と近似の結果が得られた。
【0130】
実施例4
調製例3で得られた重合反応液をそのままコーティング剤として使用し、次のようにして膜を製造した。
ガラス基板上にコーティング剤を乾燥後の厚みが25μmになるようにコートし、80℃の条件で4時間乾燥し、透明な膜が形成された。その後、膜をガラス板よりはがすことで平均膜厚が25μmの含フッ素ポリマー(1-11)からなる膜を得た。得られた膜の電気特性を測定したところ、次の結果が得られた。
比誘電率(1kHz) 2.3
誘電正接(1kHz) 0.0003
比誘電率(6GHz) 1.99
誘電正接(6GHz) 0.00011
体積抵抗率 1×1016Ω・cm
【0131】
比較例1
コーティング剤として比較調製例1で得られたフッ素ポリマー溶解液を使用したことを除き、実施例1と同様にして平均膜厚50μmのテフロン(登録商標)AF1600の膜を得た。得られた膜の電気特性、押込み硬度及び押込み弾性率を測定したところ、次の結果が得られた。
比誘電率(1kHz) 1.93
誘電正接(1kHz) 0.0002
比誘電率(6GHz) 1.99
誘電正接(6GHz) 0.00025
押込み硬さ 145N/mm
押込み弾性率 2GPa
【0132】
参考例1
ダイキン工業社製のネオフロン FEPフィルム NF-0100の電気物性、押込み硬度及び押込み弾性率を測定したところ、次の結果が得られた。
比誘電率(6GHz) 1.99
誘電正接(6GHz) 0.00031
押込み硬さ 9.7N/mm
押込み弾性率 0.02GPa