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  • 特許-改善された幹細胞組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】改善された幹細胞組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/545 20150101AFI20221219BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20221219BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20221219BHJP
【FI】
A61K35/545
A61K35/28
A61P9/00
A61P43/00 107
C12N5/0775
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021024189
(22)【出願日】2021-02-18
(62)【分割の表示】P 2017504259の分割
【原出願日】2015-04-07
(65)【公開番号】P2021080272
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】2014901247
(32)【優先日】2014-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
(72)【発明者】
【氏名】ポール・シモンズ
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512842(JP,A)
【文献】特表2008-514188(JP,A)
【文献】特表2006-521121(JP,A)
【文献】特表2012-528643(JP,A)
【文献】国際公開第2004/074494(WO,A1)
【文献】日大医誌, 2016, Vol.75, No.2, pp.61-66
【文献】あいみっく, 2011, Vol.32-3, pp.49-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養拡大した遺伝的に変更されていない間葉系前駆細胞(MPC)の集団を含む組成物であって、前記培養拡大した細胞が、アンジオポエチン-1(Ang1)と血管内皮増殖因子(VEGF)を[Ang1:VEGF」2:1から30:1の比率で発現し、前記MPCの集団が、STRO-1+MPCを、L-アスコルビン酸ナトリウム塩及び血清を含む培養培地中で培養拡大することにより得られ、血清が非胎児血清またはヒト血清から選択される組成物。
【請求項2】
前記培養拡大した細胞が、5:1から20:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記培養拡大した細胞が、0.1μg/10細胞から1μg/10細胞の量でAng1を発現する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記培養拡大した細胞が、約0.05μg/10細胞よりも少ない量で血管内皮増殖因子(VEGF)を発現する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記培養拡大した細胞が、約0.03μg/10細胞よりも少ない量でVEGFを発現する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記培養拡大した細胞が、少なくとも10:1の比率でAng1:VEGFを発現する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞培養培地が、L-アスコルビン酸ナトリウム塩及び非胎児血清を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記細胞培養培地が、L-アスコルビン酸ナトリウム塩、10%未満の非胎児血清を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記細胞培養培地が、ヒト血清で補充される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記細胞培養培地が、5%未満のヒト血清で補充される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記細胞培養培地が、3%のヒト血清で補充される、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
さらに薬学的に許容される担体を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
遺伝的に変更されていない間葉系前駆細胞(MPC)において、2:1から30:1のAng1:VEGF比率でAng1とVEGFの発現を誘導するためのインビトロでの方法であって、前記方法が、細胞培養培地でSTRO-1+MPCの集団を培養拡大することを含み、前記細胞培養培地が、L-アスコルビン酸ナトリウム塩及び血清を含み、血清が非胎児血清またはヒト血清から選択される、方法。
【請求項14】
Ang1:VEGFの比率を決定するためにAng1のレベルを測定することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養培地が、
-lα,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25D)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキンキン-1β(IL-1β)及び間質由来因子lα(SDF-lα)で構成されるグループから選択される1つまたは複数の刺激因子
新生児血清
ヒト血清、
-成人血清、
-ヒト成人血
1つまたは複数で補充される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養培地が、10%未満の非胎児血清を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養培地が、5%未満のヒト血清で補充される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培養培地が、3%ののヒト血清で補充される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
血管化及び/または血管新生の促進に使用するのに適した、遺伝的に変更されていない間葉系前駆細胞(MPC)を得るための方法であって、
少なくとも一人のドナーからの遺伝的に変更されていないSTRO-1+MPCを含む少なくとも1つの細胞集団を得ることと、
請求項14から18のいずれか一項の方法に従って、前記遺伝的に変更されていないSTRO-1+MPCを培養拡大し、遺伝的に変更されていないMPCにおいて、2:1から30:1の比率でAng1:VEGFを発現することと、
前記培養拡大したMPCによって発現されるAng1およびVEGFの量を決定することと、
2:1から30:1の比率でAng1:VEGFを発現する、培養拡大したMPCを選択することとを含む、方法。
【請求項20】
10:1から30:1の比率でAng1:VEGFを発現するMPCを選択する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
血管化及び/または血管新生の促進に使用するための、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
血管化及び/または血管新生を促進するための医薬の製造における、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高レベルのアンジオポエチン-1(Ang1)を発現する幹細胞及びその製造方法に関する。このような幹細胞は広範な治療用途で、たとえば、血管化及び/または血管新生を促進するために使用しても良い。
【背景技術】
【0002】
アンジオポエチンは、初期及び出生後の血管新生に関与する脈管増殖因子のファミリーの一部である。Ang1は、内皮細胞及び平滑筋細胞などのいくつかの非内皮細胞の遊走を促進する。Ang1はまた、尿細管内に内皮細胞の発芽や再編も誘導する。Ang1は内皮細胞の強力な抗炎症効果を発揮し、E-セレクチン、ICAM-1及びVCAM-1の上方制御を誘導する血管内皮増殖因子(VEGF)を抑制し、VEGF及びTNF-αに反応して白血球の接着及び遊出を阻害する(Kimら 2001a)。
【0003】
多くの研究で、Ang1の過剰発現、すなわち、補足のAng1の添加は、虚血を緩和し、手足、脳、関節、腎臓、及び最も重要な心臓内を含む、いくつかの臓器の機能を回復する際に有益な効果をもたらすことが示されている。その他の有益な効果は、血栓症を緩和することを含む(Kimら 2001b)。したがって、Ang1は、心血管疾患の治療薬としての有用性を示唆する多くの重要な特性を示す。
【0004】
機能性血管系の開発に必要な増殖因子のカスケードの中でも、Ang1及びVEGFは、中心的な役割を果たす。したがって、虚血心筋の処置における治療的血管新生のためのVEGFと組み合わせたAng1の使用も非常に有望な候補と見なされている。
【0005】
以前は、試験動物における心筋梗塞または梗塞ゾーンへのAng1とVEGF-Aを組み合わせた投与が、血管新生を増加させ、心筋のアポトーシスを減少させ、注射部位で心筋細胞の再生をもたらすだけでなく、血管灌流及び心機能を改善することが示されている。約20:1の比率のAng1とVEGFの最大下用量により、これらの効果が強化され、どちらかの因子を単独で使用するときよりも強力になる(Chaeら 2000)。これらの結果は、Ang1とVEGFの併用治療が、治療用血管新生を生成するために使用できる可能性を示す。
【0006】
最近では、幹細胞療法は、虚血性心疾患のための潜在的な治療法の一つとして浮上している(Huangら 2011; Lijieら 2007)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bongsoら 1889, Improved quality of human embryos when co-cultured with human ampullary cells.Human Reprod., 4(6), 706 ‐ 13.
【文献】Chaeら2000, Coadministration of angiopoietin-1 and vascular endothelial growth factor enhances collateral vascularization.Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.20, 2573 ‐ 2578.
【文献】Eisenberg & Bader, 1996, Establishment of the mesodermal cell line QCE-6.A model system for cardiac cell differentiation.Circ Res., 78(2), 205 ‐ 16.
【文献】Gnecchiら 2008, Paracrine mechanisms in adult stem cell signalling and therapy.Circ Res., 103(11), 1204 ‐ 1219.
【文献】Huangら 2011, Transplantation of Sendai Viral Angiopoietin-1-Modified Mesenchymal Stem Cells for Ischemic Heart Disease.Targets in Gene Therapy, Prof. Yongping You (版), ISBN:978-953-307-540-2, InTech, DOI:10.5772/19590.Available from: http://www.intechopen.com/books/targets-in-gene-therapy/transplantation-of-sendai-viral-angiopoietin-1-modified-mesenchymal-stem-cells-for-ischemic-heart-di.
【文献】Gronthos and Simmons 1995, The growth factor requirements of STRO-1-positive human bone marrow derived stromal precursors under serum-deprived conditions in vitro.Blood, 85, 929-940.
【文献】Gronthosら (2003) Molecular and cellular characterisation of highly purified stromal stem cells derived from human bone marrow.Journal of Cell Science 116:1827-1835
【文献】Kanatsu-Shinoharaら 2003, Long-term proliferation in culture and germline transmission of mouse male germline stem cells, Biol.Reprod., 69(2), 612 ‐ 616.
【文献】Kimら 2001a, Angiopoietin-1 reduces VEGF-stimulated leukocyte adhesion to endothelial cells by reducing ICAM-1, VCAM-1, and E-selectin expression.Circ Res., 89(6), 477-479.
【文献】Kimら 2001b, Angiopoietin-1 negatively regulates expression and activity of tissue factor in endothelial cells.FASEB J., 16(1), 126-128.
【文献】Lijieら 2007, Mesenchymal stem cells modified with angiopoietin-1 improve remodelling in a rat model of acute myocardial infarction.Biochem Biophys Res Commun., 357(3), 779 - 84.
【文献】Matsuiら 1992, Derivation of pluripotential embryonic stem cells from murine primordial germ cells in culture.Cell, 70(5):841 - 7.
【文献】Mummeryら 2002, Cardiomyocyte differentiation of mouse and human embryonic stem cells.J Anat., 200(3), 233 - 242.
【文献】Passier Rら 2005, Increased cardiomyocyte differentiation from human embryonic stem cells in serum-free cultures.Stem Cells, 23(6), pg 772 - 80.
【文献】Resnickら 1992, Long-term proliferation of mouse primordial germ cells in culture.Nature, 359(6395), 550 - 551.
【文献】Reubinoffら 2000, Embryonic stem cell lines from human blastocysts: somatic differentiation in vitro.Nat Biotechnol., 18(4), 399 - 404.
【文献】Shamblottら 1998, Derivation of pluripotent stem cells from cultured human primordial germ cells, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95(23), 13726 ‐ 31.
【文献】Shinoharaら 2004, Generation of pluripotent stem cells from neonatal mouse testis, Cell, 119(7), 1001 -1012.
【文献】Stannersら , 1971, Two Types of Ribosome in Mouse-Hamster Hybrid Cells.Nat New Biol., 230, 52 ‐ 54.
【文献】Takebayashiら 2008, Experimental Medicine, 26(5) (Suppl.), 41 -46, YODOSHA (Tokyo, Japan).
【文献】Thomsonら 1995, Isolation of a primate embryonic stem cell line, Proc.Natl.Acad.Sci USA, 92(17), 7844 - 8.
【文献】Thomsonら 1996, Pluripotent cell lines derived from common marmoset (Callithrix jacchus) blastocysts.Biol.Reprod., 55(254), 254 - 9.
【文献】Thomsonら 1998, Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts.Science, 282, 1145 ‐ 7.
【文献】Vacanti,ら 1991, Synthetic polymers seeded with chondrocytes provide a template for new cartilage formation.Plast.Reconstr.Surg.88, 753-9.
【文献】Yoshiakiら 2012, Human periodontal ligament fibroblasts are the optimal cell source for induced pluripotent stem cells.Histochemistry & Cell Biology, 137(6), 719 ‐ 732.
【文献】Zannettino, A.C.et al.1998, The Sialomucin CD164 (MGC-24v) Is an Adhesive Glycoprotein Expressed by Human Hematopoietic Progenitors and Bone Marrow Stromal Cells That Serves as a Potent Negative Regulator of Hematopoiesis.Blood 92:2613-2628.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
幹細胞の多くのタイプでの血管新生因子の発現が不十分なため、血管新生を促進する幹細胞単独の使用は、依然として制限されている。Ang1をコード化する核酸分子を使用する幹細胞のトランスフェクションを含む、幹細胞の遺伝子組み替えは、この制限に対処するために使用されている。しかし、遺伝子を組み替えた幹細胞の使用には、遺伝子組み替えプロセスによって引き起こされる技術の複雑さ及び潜在的に望ましくない影響に起因する欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、Ang1を発現する核酸を使用する細胞のトランスフェクションを必要とせずに高レベルでのAng1を発現する幹細胞の集団の予想外の生産に基づく。1つの実施例では、幹細胞のこの集団は、低レベルでVEGFも発現し、生成されたAng1とVEGFの比率は、Chaeら(2000)が血管新生を増強する上で特に効果があることを示した比率と一致した。
【0010】
したがって、本発明は、少なくとも0.1μg/10細胞の量でAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞を含む組成物を提供する。
【0011】
別の実施例では、組成物は、少なくとも0.5μg/10細胞の量でAng1を発現する幹細胞を含む。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも0.7μg/10細胞の量でAng1を発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも1μg/10細胞の量でAng1を発現する。
【0012】
別の実施例では、幹細胞は、約0.05μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.03μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、約0.02μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。
【0013】
別の実施例では、遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも約10:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約20:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約30:1の比率でAng1:VEGFを発現する。別の実施例では、幹細胞は、少なくとも約50:1の比率でAng1:VEGFを発現する。
【0014】
別の実施例では、幹細胞は、間葉系幹細胞である。別の実施例では、幹細胞は、間葉系前駆細胞である。別の実施例では、幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来する。
【0015】
別の実施例では、組成物は、許容される医薬担体をさらに含む。
【0016】
別の実施例では、組成物は、以下に記載される方法に従って、遺伝的に変更されていない幹細胞を培養することによって製造される。
【0017】
本開示はまた、幹細胞でのAng1の発現を誘導するためのインビトロでの方法を提供する。方法は、以下の細胞培養培地で幹細胞の集団を培養することを含む。
・短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。及び/または
・10%(v/v)未満のウシ胎児血清で補充される。
【0018】
本開示はまた、幹細胞でのAng1の発現を誘導するためのインビトロでの方法を提供する。方法は、以下の細胞培養培地で幹細胞の集団を培養することを含む。
・短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。及び/または
・10%(v/v)未満のウシ胎児血清で補充される。及び/または
・非胎児血清で補充される。
【0019】
1つの実施例では、上記方法は、Ang1の発現が誘導されることを決定するAng1のレベルを測定することをさらに含む。別の実施例では、幹細胞が少なくとも0.5μg/10細胞の量でAng1を発現するときに、Ang1の発現が誘導される。別の実施例では、幹細胞が少なくとも0.7μg/10細胞の量でAng1を発現するときに、Ang1の発現が誘導される。別の実施例では、幹細胞が少なくとも1μg/10細胞の量でAng1を発現するときに、Ang1の発現が誘導される。
【0020】
1つの実施例では、上記方法は、誘導されたAng1の発現を有する細胞を選択する。1つの実施例では、少なくとも0.5μg/10細胞の量でのAng1を発現する細胞が選択される。別の実施例では、少なくとも0.7μg/10細胞の量でのAng1を発現する細胞が選択される。別の実施例では、少なくとも1μg/10細胞の量でのAng1を発現する細胞が選択される。
【0021】
1つの実施例では、方法は、Ang1の発現が誘導されることを決定するAng1のレベルを測定することと、誘導されたAng1の発現を有する細胞を選択することとをさらに含む。
【0022】
1つの実施例では、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体は、L-アスコルビン酸塩である。
【0023】
1つの実施例では、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体は、L-アスコルビン酸ナトリウム塩である。
【0024】
1つの実施例では、細胞培養培地は、10%(v/v)未満のウシ胎児血清(FCS)で補充される。
【0025】
1つの実施例では、細胞培養培地は、8%(v/v)未満のウシ胎児血清(FCS)で補充される。
【0026】
1つの実施例では、細胞培養培地は、7%(v/v)未満のウシ胎児血清(FCS)で補充される。
【0027】
1つの実施例では、細胞培養培地は、6%(v/v)未満のウシ胎児血清(FCS)で補充される。
【0028】
1つの実施例では、細胞培養培地は、5%(v/v)未満のウシ胎児血清で補充される。
【0029】
1つの実施例では、細胞培養培地は、lα,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキンキン-1β(IL-1β)及び間質由来因子lα(SDF-lα)で構成されるグループから選択される1つまたは複数の刺激因子で補充される。
【0030】
1つの実施例では、細胞培養培地は、非胎児血清で補充される。
【0031】
1つの実施例では、細胞培養培地は、哺乳類非胎児血清で補充される。
【0032】
1つの実施例では、細胞培養培地は、ヒト非胎児血清で補充される。
【0033】
1つの実施例では、細胞培養培地は、新生児血清で補充される。
【0034】
1つの実施例では、細胞培養培地は、哺乳類新生児血清で補充される。
【0035】
1つの実施例では、細胞培養培地は、新生仔ウシ血清(NBCS)で補充される。
【0036】
1つの実施例では、細胞培養培地は、ヒト新生児血清で補充される。
【0037】
1つの実施例では、細胞培養培地は、臍帯血から得られたヒト新生児血清で補充される。
【0038】
1つの実施例では、細胞培養培地は、成人血清で補充される。
【0039】
1つの実施例では、細胞培養培地は、哺乳類成体血清で補充される。
【0040】
1つの実施例では、細胞培養培地は、成体ウシ血清で補充される。
【0041】
1つの実施例では、細胞培養培地は、ヒト成人血清で補充される。
【0042】
1つの実施例では、細胞培養培地は、ヒトAB血清で補充される。
【0043】
別の実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約5%(v/v)のNBCSで補充される。
【0044】
別の実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約2%(v/v)のNBCSで補充される。
【0045】
1つの実施例では、細胞培養培地は、NBCS及びFCSの混合物で補充される。たとえば、FCSとNBCSの比率は、約1:1で良い。
【0046】
1つの実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約5%(v/v)のFCS及び少なくとも約5%(v/v)のNBCSで補充される。
【0047】
1つの実施例では、細胞培養培地は、胎児血清で補充されない。
【0048】
本発明は、少なくとも1人のドナーからの幹細胞を含む少なくとも1つの細胞集団(複数可)を得ることと、幹細胞を培養することと、前記少なくとも1つの細胞集団のそれぞれの幹細胞によって発現されるAng1の量を決定することと、少なくとも0.1μg/10細胞の量でのAng1を発現する幹細胞を選択することとを含む、血管化及び/または血管新生を促進する際に使用するのに適した、遺伝的に変更されていない幹細胞を得るための方法も提供する。
【0049】
1つの実施例では、方法は、前記少なくとも1つの細胞集団(複数可)のそれぞれの幹細胞によって発現されるVEGFの量を決定することと、少なくとも2:1の比率または少なくとも10:1の比率または少なくとも20:1の比率、または少なくとも30:1の比率、または好きなくとも50:1の比率のAng1:VEGFを発現する幹細胞を選択することとさらに含む。
【0050】
本開示は、血管化及び/または血管新生を促進するための本明細書に記載の組成物の使用も提供する。本開示は、抗血栓として本明細書に記載の組成物の使用も提供する。本開示は、さらなるAng1の発現が望まれる状態を処置するための本明細書に記載の組成物の使用も提供する。
【0051】
本開示は、対象の血管化及び/または血管新生を促進するための方法も提供し、方法は、対象に本明細書に記載の組成物を投与することを含む。本開示は、対象の血栓形成を削減するための方法も提供し、方法は、対象に本明細書に記載の組成物を投与することを含む。本開示は、対象のさらなるAng1の発現が望まれる状態を処置するための方法を提供し、方法は、対象に本明細書に記載の組成物を投与することを含む。
【0052】
本開示は、血管化及び/または血管新生を促進するための薬剤の製造での本明細書に記載の組成物の使用も提供する。本開示は、血栓形成を削減するための薬剤の製造での本明細書に記載の組成物の使用も提供する。本開示は、さらなるAng1の発現が望まれる状態を処置するための薬剤の製造での本明細書に記載の組成物の使用も提供する。
【0053】
本開示に記載されている幹細胞は、任意の哺乳動物から得ることができる。たとえば、幹細胞は、霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、またはヤギに由来しても良い。1つの実施例では、幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0054】
別の実施例では、本開示は、本開示の方法に従って培養または本開示の方法によって得られた幹細胞の集団に関する。
【0055】
別の実施例では、本開示の方法は、血管化及び/または血管新生を促進するための薬剤の製造に使用される。
【0056】
別の実施例では、本開示の方法は、さらなるAng1の発現が望まれる状態を処置するための薬剤の製造に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】プロセスA及びプロセスBのMPC増殖。 Y軸は細胞数を示し、X軸は日単位の時間。
図2】プロセスA及びプロセスBのMPC倍加時間。細胞は、P3からP5まで継代させた。
図3】プロセスA及びプロセスBのMPCの集団倍加時間(PDL)。MPCは、P3からP5まで増殖させた。プロセスAで増殖したMPCは8PDLとなり、プロセスBで増殖したMPCは7.33PDLになった。
【発明を実施するための形態】
【0058】
[一般的技術及び定義]
本明細書を通じて、特に明記がないまたは文脈上必要とされない限り、単一の工程への参照、物質の組成物、工程の群または物質の組成物の群は、これらの工程、物質の組成物、工程の群または物質の組成物の群の複数(すなわち1つまたは複数)を包含すると解釈すべきである。
【0059】
当業者は、本明細書に記載の開示が、特に記載した以外の変形及び修正に影響されやすいことを理解するであろう。本開示がそのようなすべての変形及び修正を含むことを理解すべきである。本開示は、本明細書に個々または集合的に参照または示された、工程、特徴、組成物及び化合物のすべて、及び任意の組み合わせ及びすべての組み合わせまたは任意の2つ以上の前記工程または特徴も含む。
【0060】
本開示は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されるものではなく、例示の目的だけが意図される。機能的に等価な生産物、組成物及び方法は、明らかに、本明細書に記載される本開示の範囲内である。
【0061】
特に記載のない限り、本明細書に開示される、いかなる実施例も、他のいかなる実施例に準用するものと解釈すべきである。
【0062】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、(たとえば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞分化、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学及び生化学の)当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有するものと解釈すべきである。
【0063】
特に記載のない限り、本開示で利用される幹細胞、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley及びSons(1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、1巻及び2巻、IRL Press(1991)、D.M. Glover及びB.D. Hames(編)、及びF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates及びWiley-Interscience(1988、 including all updates until present)、Ed Harlow及びDavid Lane(編)Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、及びJ.E. Coliganら(編)Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons(現在に至るまで、すべての更新を含む)などの出典の文献を通じて記載及び説明される。
【0064】
用語「and/or」は、たとえば、「X and/or Y」は「X及びY」または「XまたはY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味またはいずれかの意味を明示的にサポートするものと解釈すべきである。
【0065】
本明細書で使用するとき、約という用語は、反対の記載がない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を意味する。
【0066】
体積%(v/v%)の定義は、[(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%である。体積%は、溶液の体積に比例する。たとえば、細胞培養培地を、5%(v/v)FCSで補充するとは、細胞培養培地の100 mlごとに約5ml FCSがあることを意味する。
【0067】
本明細書を通じて、単語「comprise」、または「comprises」もしくは「comprising」などの変形は、既定された要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群を包含するが、いかなる他の要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群をも排除することを意味するものではないことを理解されるだろう。
【0068】
[幹細胞]
本明細書で使用するとき、「幹細胞」の用語は、表現型的及び遺伝子型的に同一の娘及び少なくとも1つの他の最終的な細胞種(たとえば、最終的に分化した細胞)を生じさせ得る自己再生細胞を意味する。「幹細胞」の用語は、全能性、多能性及び多分化能の細胞ならびにそれらの分化由来の前駆細胞及び/または前駆体を含む。幹細胞は、成体または胚性幹細胞であっても良い。
【0069】
本明細書で使用するとき、「全能性細胞(totipotent cell)」または「全能性細胞(totipotential cell)」の用語は、完全な胚(たとえば、胞胚)を形成可能な細胞を意味する。
【0070】
本明細書で使用するとき、「多能性細胞(pluripotent cell)」または「多能性細胞(pluripotential cell)」の用語は、完全に分化した万能性、すなわち、哺乳類の身体のおおよそ260の細胞種のいずれかに成長する能力を有する細胞を意味する。多能性細胞は、自己再生することができ、組織内で休止または静止したままであることができる。
【0071】
「多分化能細胞(multipotential cell)」または「多分化能細胞(multipotent cell)」は、複数の成熟細胞種を生じ得る細胞を意味する。本明細書で使用するとき、この表現は、成体性前駆細胞及びこれらの細胞の多分化能子孫を包含する。多能性細胞と異なり、多分化能細胞は、細胞種のすべてを形成する能力を有していない。
【0072】
本明細書で使用するとき、「間葉系統前駆または幹細胞」の用語は、間葉系細胞種に分化することができる細胞を意味する。たとえば、間葉系統前駆細胞及び間葉前駆細胞は、骨組織、軟骨組織、筋肉組織及び脂肪細胞、及び線維性結合組織に分化することができる。
【0073】
1つの実施例では、本発明の幹細胞は、STRO-1+間葉系前駆細胞である。
【0074】
STRO-1+多分化細胞は、骨髄、血液、歯髄、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛嚢、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見られる細胞である。したがって、STRO-1+多分化細胞は、これらに限定されないが、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織及び繊維性結合組織を含む多数の細胞種に分化することができる。特定の分化系列決定及びこれらの細胞が入る分化経路は、機械的影響及び/または内在的生体活性因子、たとえば、増殖因子、サイトカイン及び/または宿主組織により確立された局所微小環境条件からの種々の影響により決まる。一実施形態では、STRO-1+多分化細胞は、表現型細胞を生じさせるのに不可逆的に分化するであろうタイミングで、幹細胞または前駆細胞のいずれかである娘細胞を生じさせるのに分割される非造血前駆細胞である。
【0075】
1つの実施例では、STRO-1+細胞は、対象、たとえば、処置する対象または関連する対象または無関係の対象(同じ種または異なる種かどうかを問わない)から取得された試料から濃縮される。「濃縮される(enriched)」、「濃縮(enrichment)」の用語またはそれらの変形例は、本明細書において、細胞(たとえば、自身の生来の環境にある細胞)の未処置の集合と比較して、1つの特定の細胞種の比率または数多くの特定の細胞種の比率が増加する細胞集合を説明するのに使用される。1つの実施例では、STRO-1+細胞の濃縮された集団は、少なくとも約0.1%または0.5%または1%または2%または5%または10%または15%または20%または25%または30%または50%または75%または85%または95%または99%のSTRO-1+細胞を含む。これに関連して、「STRO-1+細胞の濃縮された集団」の用語は、「X%のSTRO-1+細胞を含む細胞の集団」(ここで、X%は本明細書で記載される百分率である)の用語を明示的にサポートするものと解釈されるだろう。STRO-1+細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニー、たとえば、CFU-F(線維芽細胞)を形成することができ、またはそれらのサブセット(たとえば、50%または60%または70%または80%または90%または95%)はこの活性を有することができる。
【0076】
1つの実施例では、本発明の幹細胞は、選択可能な形式でSTRO-1+細胞を含む細胞標品から濃縮される。これに関連して、「選択可能な形式」の用語は、細胞がSTRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(たとえば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1とすることができるが、する必要はない。たとえば、本明細書に記載及び/または例示されるように、STRO-2及び/またはSTRO-3(TNAP)及び/またはSTRO-4及び/またはVCAM-1及び/またはCD146及び/または3G5を発現する細胞(たとえば、MPC)は、STRO-1も発現する(及びSTRO-1brightでも良い)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1の発現により選択されていることを意味するものではない。1つの実施例では、細胞は、少なくともSTRO-3の発現に基づいて選択される。たとえば、STRO-3+(TNAP+)などである。1つの実施例では、細胞は、少なくともSTRO-4の発現に基づいて選択される。たとえば、STRO-4+などである。
【0077】
細胞またはその集合の選択の参照は、特定の組織源からの選択を必ずしも必要とはしない。本明細書に記載するようにSTRO-1+細胞は、多種多様なソースから選択するか、単離するか濃縮することができる。それによると、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(たとえば、MPC)を含む組織、または血管化した組織、または周皮細胞(たとえば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織のいずれかから、または本明細書に記載される任意の1つ以上の組織から選択するためのサポートを提供する。
【0078】
1つの実施例では、本発明の幹細胞は、STRO-1+、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+、CC9またはそれらの任意の組み合わせから構成される群から個々にまたは集合的に選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0079】
「個々に(individually)」とは、本開示が、列挙されたマーカーまたはマーカー群を個別に包含すること、及び個々のマーカーまたはマーカー群が本明細書に個別に列挙されていなくても良いにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかるマーカーまたはマーカー群を互いに個別かつ可分的に定義して良いことを意味する。
【0080】
「集合的に(collectively)」とは、本開示が、列挙されたマーカーまたはペプチド群の任意の数または組み合わせを包含すること、及びかかるマーカーまたはマーカー群の数または組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていなくても良いにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかる組み合わせまたは部分的組み合わせ(sub-combinations)を、マーカーまたはマーカー群の任意の他の組み合わせから個別かつ可分的に定義して良いことを意味する。
【0081】
1つの実施例では、STRO-1+細胞は、STRO-1bright(syn.STRO-1bri)である。1つの実施例では、STRO-1bri細胞は、STRO-1dimまたはSTRO-1intermediate細胞と比較して優先的に濃縮されている。
【0082】
1つの実施例では、STRO-1bright細胞は、さらに1つまたは複数のTNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)及び/またはCD146+である。たとえば、細胞は、前述のマーカーの1つまたは複数のために選択され、及び/またはこれらのマーカーの1つまたは複数の発現を示す。これに関して、マーカーを発現することが示された細胞は、特にテストする必要はなく、逆に、以前に濃縮または単離された細胞を試験し、その後、使用することができる。また、単離または濃縮された細胞は、合理的に、同じマーカーを発現すると仮定することもできる。
【0083】
1つの実施例では、STRO-1brightは、免疫選択により単離される。1つの実施例では、STRO-1bright細胞は、TNAPを発現する細胞の免疫的選択によって単離される。本明細書で使用する用語「TNAP」は、組織非特異的アルカリホスファターゼのすべてのアイソフォームを包含することを意図する。たとえば、この用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。1つの実施例では、TNAPはBAPである。1つの実施例では、本明細書中で使用されるTNAPは、2005年12月19日にATCCに寄託された、ブダペスト条約の条項に基づいた寄託アクセッション番号PTA-7282に基づく、ハイブリドーマ細胞系統により産生されるSTRO-3抗体と結合し得る分子を意味する。
【0084】
1つの実施例では、間葉系前駆細胞または幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+間葉系幹細胞(たとえば、remestemcel-L)である。
【0085】
1つの実施例では、間葉系前駆細胞は、WO2004/85630で定義される血管周囲間葉系前駆細胞である。たとえば、間葉系前駆細胞は、血管周囲細胞のマーカーを発現する細胞である。たとえば、STRO-1+またはSTRO-1bright及び/または3G5+などである。1つの実施例では、細胞は、あるか以前にあったか、血管組織またはそれらの器官または部分から単離された細胞の子孫である。
【0086】
所定のマーカーについて「陽性」である細胞を意味する場合、そのマーカーが細胞表面上に存在する度合いに応じて、そのマーカーの低い(loもしくはdim)または高い(bright、bri)レベルのいずれかであり得、その用語は、細胞の選別プロセスに使用される蛍光強度またはその他のマーカーに関する。lo(またはdimもしくはdull)及びbriの区別は、選別される特定の細胞集合に使用されるマーカーの関連において理解されるであろう。所定のマーカーについて「陰性」である細胞を意味する場合、マーカーがその細胞によって全く発現していないことを意味するわけではない。この用語は、マーカーがその細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されること、及び検出可能に標識された場合、非常に低い信号を生成すること、またはバックグラウンドレベルを超えて検出されないことを意味する。たとえば、レベルは、アイソタイプ対照抗体を用いて検出する。
【0087】
本明細書で使用する用語「bright」は、検出可能に標識された場合の比較的高い信号を生成する細胞表面上のマーカーを意味する。理論によって限定されることは望まないが、「bright」細胞は、試料中の他の細胞よりも標的マーカー タンパク質(たとえば、STRO-1によって認識される抗原)を多く発現することが提案される。たとえば、STRO-1bri 細胞は、非bright細胞(STRO-1dull/dim)より、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によって測定されるようなFITCコンジュゲートSTRO-1抗体で標識されている場合、より大きな蛍光シグナルを生じる。1つの実施例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の実施例では、「bright」細胞は、出発試料に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、または少なくとも約2%を構成する。1つの実施例では、STRO-1bright 細胞は、「バックグラウンド」、すなわち、STRO-1-である細胞と比較して、STRO-1表面発現が2ログ マグニチュード(2 log magnitude)高い発現を有する。比較した場合、STRO-1dim及び/またはSTRO-1intermediate細胞は、STRO-1表面発現が2ログ マグニチュード未満の発現を有し、典型的には約1ログ未満または「バックグラウンド」未満である。
【0088】
1つの実施例では、STRO-1+多分化細胞のかなりの割合が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。多分化細胞が決定され得る系列の非限定的な例として、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞及び星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆細胞を生じることができる神経限定細胞;ニューロンへと進行する神経前駆細胞;心筋及び心筋細胞の前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵β細胞株が挙げられる。他の系列として、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、ならびに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、腎管上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞及び乏突起膠細胞、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
別の実施例では、STRO-1+細胞は、培養に際して、造血細胞を生じさせることができない。
【0090】
1つの実施例では、本明細書に記載の幹細胞は、間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は、均一な組成物であっても良いし、MSCが濃縮された混合細胞集団であっても良い。均一な間葉系幹細胞組成物は、接着性の骨髄または骨膜細胞を培養することによって得られても良いし、間葉系幹細胞は、固有のモノクローナル抗体を用いて同定される特定の細胞表面マーカーによって同定しても良い。間葉系幹細胞中で濃縮された細胞集団を得るための方法は、たとえば、米国特許第5,486,359号に記載されている。間葉系幹細胞の代替供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0091】
上述の細胞表面マーカーを運んでいる幹細胞の認識、選択及び精製は、多数の異なる方法によって達成することができる。たとえば、関係するマーカーに結合剤を適用し、それに続いて、高レベル結合、または低レベル結合、または結合なしのいずれかの結合を示すこれらの細胞を分離する。
【0092】
たとえば、結合剤は、モノクローナル抗体または抗体ベースの分子のような抗体を含むことができる。
【0093】
抗体及びその他の結合分子は、特定の細胞表面マーカーを発現する幹細胞を選択し、精製するために様々な技術に用いることができる。
【0094】
選択及び精製のための技術は、抗体コーティング磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティー クロマトグラフィー、及び固体マトリックスに結合した抗体での「パニング」、蛍光活性化細胞選別(FACS)を含んでも良いが、これらに限定されない。
【0095】
特定のマーカーを発現する本発明の幹細胞は、陽性免疫選択を介して、細胞集団から選択または精製されても良い。たとえば、間葉系前駆細胞は、STRO-1抗体の細胞表面発現に基づいて細胞集団から単離及び濃縮することができる(たとえば、Gronthos及びSimmons1995を参照)。
【0096】
本開示によれば、単離された幹細胞を培養することによりインビトロで拡大することができる。当業者によって理解されるように、幹細胞は、凍結保存し解凍し、続いて培養することによりインビトロで拡大することができる。1つの実施例では、幹細胞は、増殖培地中に播種し、37℃、20%Oで一晩培養容器に付着させる。その後、増殖培地を交換し、37℃、5%Oでさらに68~72時間、細胞を培養する。
【0097】
実施例では、単離された幹細胞は、血清を補充した増殖培地中に50,000細胞/cmで播種し、37℃、20%Oで一晩培養容器に付着させる。その後、増殖培地を、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を補充した軟骨基礎培地(Lonza社、メリーランド州ウォーカーCBM)と交換し、37℃、5%Oでさらに68~72時間、細胞を培養する。
【0098】
主要な幹細胞培養の様々なその他の方法は、当該分野で周知である。たとえば、主要な幹細胞培養は、Gronthos及びSimmons 1995に記載された方法を用いて行うことができる。
【0099】
培養された幹細胞は、インビボでの細胞と表現型的に異なる。たとえば、これらは、CD44を発現することができる。
【0100】
一実施形態では、培養幹細胞は、インビボでの細胞と生物学的に異なり、より速い再生速度を有する。
【0101】
培養幹細胞は、対象への投与前に凍結保存されても良い。たとえば、間葉系統前駆細胞は、対象への投与前に凍結保存されても良い。
【0102】
[遺伝的に変更されていない細胞]
本明細書で使用される場合、「遺伝的に変更されていない」という用語は、Ang1を発現またはコード化する核酸でトランスフェクションすることにより変更されていない細胞を指す。誤解を避けるために言及すると、本開示の文脈でのAng1をコード化する核酸でトランスフェクションされた幹細胞は、遺伝的に変更されたと考えられる。本開示の文脈では、「遺伝的に変更されていない」細胞は、天然のAng1をコード化する核酸でトランスフェクションすることなく、ある程度までAng1を発現する。
【0103】
[Ang1及び/またはVEGFの発現]
本発明の幹細胞は、遺伝的に変更されておらず、少なくとも0.1μg/10細胞の量でAng1を発現する。しかし、様々な実施形態では、本発明の幹細胞は、少なくとも0.2μg/10細胞、0.3μg/10細胞、0.4μg/10細胞、0.5μg/10細胞、0.6μg/10細胞、0.7μg/10細胞、0.8μg/10細胞、0.9μg/10細胞、1μg/10細胞、1.1μg/10細胞、1.2μg/10細胞、1.3μg/10細胞、1.4μg/10細胞、1.5μg/10細胞の量でAng1を発現し得ることが想定される。
【0104】
別の態様では、本発明の遺伝的に変更されていない幹細胞は、約0.05μg/10細胞未満の量でVEGFを発現する。しかし、様々な実施形態では、本発明の幹細胞は、約0.05μg/10細胞、0.04μg/10細胞、0.03μg/10細胞、0.02μg/10細胞、0.01μg/10細胞、0.009μg/10細胞、0.008μg/10細胞、0.007μg/10細胞、0.006μg/10細胞、0.005μg/10細胞、0.004μg/10細胞、0.003μg/10細胞、0.002μg/10細胞、0.001μg/10細胞未満の量でVEGFを発現し得ることが想定される。
【0105】
組成物または幹細胞の培養で発現する細胞のAng1及び/またはVEGFの量は、当業者に周知の方法によって決定しても良い。このような方法には、たとえば、定量的ELISAアッセイなどの定量的なアッセイが含まれるが、これらに限定されない。しかし、本開示の範囲が、本発明の幹細胞で発現するAng1またはVEGFの量またはレベルを決定するための任意の特定の方法に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0106】
1つの実施例では、組成物または幹細胞の培養によって発現するAng1またはVEGFのレベルは、ELISAアッセイによって決定される。このようなアッセイでは、幹細胞の培養からの細胞溶解物をELISAプレートのウェルに添加する。ウェルは、Ang1またはVEGFに対して、モノクローナルまたはポリクローナル抗体(複数可)のいずれかの一次抗体で被覆されても良い。次いで、ウェルを洗浄した後、一次抗体に対して、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(複数可)のいずれかの二次抗体と接触させる。二次抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの適切な酵素にコンジュゲートされる。次いで、ウェルはインキュベートさせても良く、一定時間インキュベーションした後に洗浄される。次いで、ウェルを、1つまたは複数の色原体などの、二次抗体にコンジュゲートした酵素に適した基質と接触させる。使用することができる色原体は、過酸化水素及びテトラメチルベンジジンを含むが、これらに限定されない。基質(複数可)を添加した後、ウェルを適切な一定時間インキュベートする。インキュベーションが完了したら、基質(複数可)と酵素の反応を停止させるために「停止」溶液をウェルに添加する。試料の光学密度(OD)を測定する。試料の光学密度は、試験される幹細胞の培養によって発現するAng1またはVEGFの量を決定するために、Ang1またはVEGFの既知量を含む試料の光学密度と相関している。
【0107】
別の態様では、本開示の遺伝的に変更されていない幹細胞は、少なくとも約2:1の比率でAng1:VEGFを発現する。しかし、様々な実施形態では、本発明の幹細胞は、少なくとも約10:1、15:1、20:1、21:1、22:1、23:1、24:1、25:1、26:1、27:1、28:1、29:1、30:1、31:1、32:1、33:1、34:1、35:1、50:1の比率でAng1:VEGFを発現し得ることが想定される。
【0108】
Ang1:VEGFの発現比率を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。Ang1及びVEGFの発現の比率を決定する方法の実施例では、上述のようにAng1及びVEGFの発現レベルは量的ELISAを介して定量される。このような例では、Ang1及びVEGFのレベルを定量した後、Ang1及びVEGFの定量レベルに基づいた比率を次のように表すことができる。(Ang1のレベル/VEGFのレベル)=Ang1:VEGFの比率。
【0109】
[細胞組成物]
本発明の1つの実施例では、幹細胞は組成物の形態で投与される。1つの実施例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を含む。
【0110】
用語「担体」及び「賦形剤」は、貯蔵、投与及び/または活性化合物の生物学的活性を促進にするために、当該技術分野で従来使用されている物質の組成物を指す(たとえば、レミントンの薬学、第16版、Mac Publishing Company(1980)参照)。担体はまた、活性化合物のあらゆる望ましくない副作用を低下させ得る。適切な担体は、たとえば、安定であり、たとえば、担体中の他の成分と反応することができない。1つの実施例では、担体は、治療に使用される投与量及び濃度において、重大な局所的または全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
【0111】
本開示のための適切な担体には、従来使用されるものが含まれる。たとえば、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロン酸及びグリコールは、特に液剤用(等張の場合)に、例示的な液体担体である。適切な医薬担体及び賦形剤には、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール、などが挙げられる。
【0112】
別の実施例では、担体は、たとえば、細胞が成長または懸濁している、培地組成物である。たとえば、培地組成は、それが投与される対象におけるいかなる有害な作用も誘発しない。
【0113】
例示的な担体及び賦形剤は、代謝症候群及び/または肥満を減らす、防止または遅延させる細胞の生存能及び/または細胞の能力に悪影響を与えることはない。
【0114】
1つの実施例では、担体または賦形剤は、たとえば、適切なpHで細胞及び/または可溶性因子を維持するための緩衝作用を提供し、それによって生物学的活性を発揮する。たとえば、担体または賦形剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体または賦形剤であるが、その理由は、本発明の組成物が、血流中、または組織中もしくは組織の周辺もしくは隣接する領域中へと直接適用(たえば、注入により)するための液体として製造されて良いような場合に、PBSは細胞及び因子と最小限しか相互作用せず、細胞及び因子の迅速な放出を可能とするからである。
【0115】
幹細胞及び/またはその子孫細胞はまた、レシピエント適合性があり、レシピエントに対して有害ではない産物に分解される足場に組み込まれるか、または包埋され得る。これらの足場は、レシピエント対象に移植される細胞のための支持及び保護を提供する。天然及び/または合成の生分解性足場は、このような足場の例である。
【0116】
様々な異なる足場が、本発明の実施において首尾よく使用されても良い。例示的な足場として、生物学的な、分解性の足場が挙げられるが、これに限定されない。天然の生分解性足場として、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンの足場が挙げられる。細胞移植の足場のための適切な合成材料は、広範な細胞増殖及び細胞機能をサポートできるべきである。そのような足場は吸収性であっても良い。適切な足場として、ポリグリコール酸足場、たとえば、Vacantiら J. P版 Surg. 23:3-9 1988;Cimaら Biotechnol. Bioeng. 38:145 1991; Vacantiら Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9 1991に記載されるようなもの、または、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの合成ポリマーが挙げられる。
【0117】
別の実施例では、細胞は(Upjohn CompanyのGelfoamなどの)ゲル状足場中で投与されても良い。
【0118】
本明細書に記載の細胞組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与されても良い。異なるタイプの細胞を、本発明の組成物と、投与の直前または投与の少し前に混合しても良く、または投与前にある一定期間、一緒に共培養しても良い。
【0119】
1つの実施例では、組成物は、有効量、または治療上もしくは予防上有効量の細胞を含む。たとえば、組成物は、高いAng1レベルを伴う約1×10個の幹細胞胞/kg~高いAng1レベルを伴う約1×10個の幹細胞/kg、または約1×10個の幹細胞/kg~約5×10個の幹細胞/kgを含む。投与されるべき細胞の正確な量は、患者の年齢、体重及び性別、ならびに処置される障害の程度及び重症度を含む様々な因子に応じて決定される。
【0120】
1つの実施例では、低用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.5×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.1×10~約0.5×10個の間の細胞、たとえば、1kgあたり約0.2×10個または0.3×10個または0.4×10個の細胞を含む。
【0121】
1つの実施例では、高用量の細胞が対象に投与される。例示的な投与量は、少なくとも約1.5×10個の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約1.5×10~約6×10個の間の細胞/kg、たとえば、約1.5×10~約5×10個の間の細胞/kg、たとえば、約1.5×10~約4×10個の間の細胞/kg、たとえば、約1.5×10~約3×10個の間の細胞/kgを含む。たとえば、高用量は、約1.5×10個または約2×10個の細胞/kgを含む。
【0122】
その他の例示的な用量は、少なくとも約1×10個の細胞を含む。たとえば、用量は、約1.0×10~約1×1010個の間の細胞、たとえば、約1.1×10~約1×10個の間の細胞、たとえば、約1.2×10~約1×10個の間の細胞、たとえば、約1.3×10~約1×10個の間の細胞、たとえば、約1.4×10~約9×10個の間の細胞、たとえば、約1.5×10~約8x10個の間の細胞、たとえば、約1.6×10~約7×10個の間の細胞、たとえば、約1.7×10~約6×10個の間の細胞、たとえば、約1.8×10~約5x10個の間の細胞、たとえば、約1.9×10~約4×10個の間の細胞、たとえば、約2×10~約3x10個の間の細胞を含む。
【0123】
1つの実施例では、用量は、約5×10~約2×10個の間の細胞、たとえば、約6×10個の細胞~約1.8×10個の間の細胞を含む。たとえば、用量は、約6×10個または約1.8×10個の細胞を含む。
【0124】
間葉系前駆体または幹細胞は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%の組成物の細胞集団を含む。
【0125】
いくつかの実施例では、細胞は、該細胞が対象の循環中に出て行くことは不可能であるが、細胞により分泌される因子が循環に進入することは可能であるチャンバー内に含まれる。このような方法では、可溶性因子は、細胞が対象の循環中に因子を分泌することを可能とすることにより、対象に投与されても良い。このようなチャンバーは、対象のある部位に同時に埋め込まれて、可溶性因子の局所レベルを増加させても良く、たとえば、心臓中またはその近くに埋め込まれても良い。
【0126】
本開示の幹細胞は、動物の疾患または障害を治療するのに有効な量で動物に投与される。動物は哺乳動物でも良く、哺乳動物は、ヒト及び非ヒト霊長類を含む霊長類であっても良い。幹細胞は、たとえば、静脈内、動脈内、または腹腔内投与などにより、全身投与することができる。投与される幹細胞の正確な用量は、患者の年齢、体重、及び性別、処置される疾患(複数可)または障害(複数可)、ならびにそれらの程度及び重症度を含む、様々な因子に依存するが、これらに限定されない。
【0127】
本開示の幹細胞を含む組成物は、凍結保存されても良い。幹細胞の凍結保存は、当技術分野で周知の低速の冷却方法または「高速」凍結手順を使用して行うことができる。好ましくは、凍結保存の方法は、凍結していない細胞と比較して、凍結保存した細胞の類似した表現型、細胞表面マーカー及び成長率を維持する。
【0128】
凍結保存した組成物は、凍結保存溶液を含んでも良い。凍結保存液のpHは、典型的には6.5~8、好ましくは7.4である。
【0129】
凍結保存液は、たとえば、無菌、非発熱性等張液のPlasmalyte A(登録商標)を含んでも良い。Plasmalyte A(登録商標)の100mLは、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C11NaO)、368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(CNaO・3HO)、37mgの塩化カリウム、USP(KCI)、及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl・6HO)を含む。抗菌剤は含まれていない。pHは、水酸化ナトリウムで調整される。pHは、7.4(6.5~8.0)である。
【0130】
凍結を促進するために、たとえば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結防止剤が通常、凍結保存溶液に添加される。理想的には、凍結防止剤は、細胞及び患者のために非毒性であり、化学的に不活性であり、非抗原性であり、解凍した後の高い生存率を提供し、洗浄することなく移植を可能にする必要がある。しかし、最も一般的に使用される凍結防止剤であるDMSOは、いくつかの細胞毒性を示す。 ヒドロキシエチル デンプン(HES)は、凍結保存溶液の細胞毒性を減少させるために、代替としてまたはDMSOと組み合わせて使用することができる。
【0131】
凍結保存溶液は、1つまたは複数のDMSO、ヒドロキシエチル デンプン、ヒト血清成分及びその他のタンパク質の増量剤を含むことができる。1つの実施例では、凍結保存溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。凍結保存溶液は、1つまたは複数のメチルセルロース、ポリビニル ピロリドン(PVP)、及びトレハロースをさらに含んでも良い。
【0132】
凍結保存した組成物を解凍し、対象に直接投与することもできる。また、凍結保存された組成物を解凍し、間葉系統前駆体または幹細胞を投与前に代替溶液に再懸濁しても良い。
【0133】
[細胞培養方法]
本開示の組成物は、様々な細胞培養方法によって製造することができる。
【0134】
したがって、本発明はまた、幹細胞のAng1の発現を誘導するためのインビトロ方法も提供する。驚くべきことに、本発明者らは、幹細胞でAng1の発現が誘導される細胞培養培地の条件を同定した。これらの条件はまた、VEGFの発現を低下させ、高いANG1:VEGFの比率を誘導することが分かっている。
【0135】
たとえば、これらの条件には、細胞培養培地の幹細胞の集団を培養することを含む。細胞培養培地は以下を含む。
i) 短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。及び/または
ii) 10%(v/v)未満のウシ胎児血清。
【0136】
別の実施例では、これらの条件には、細胞培養培地の幹細胞の集団を培養することを含む。細胞培養培地は以下を含む。
i) 短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。
ii) 10%(v/v)未満のウシ胎児血清。及び/または
iii) 非胎児血清。
【0137】
したがって、1つの実施形態では、本開示は、幹細胞のAng1の発現を誘導するためのインビトロ方法に関し、該方法が以下を含む。幹細胞の集団を細胞培養培地で培養することであって、細胞培養培地が、短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。及び/または10%(v/v)未満のウシ胎児血清で補充される。
【0138】
別の実施形態では、本開示は、幹細胞のAng1の発現を誘導するためのインビトロ方法に関し、該方法が以下を含む。幹細胞の集団を細胞培養培地で培養することであって、細胞培養培地が、短時間作用型L-アスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型L-アスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。及び/または非胎児血清で補充される。
【0139】
別の実施形態では、本開示は、幹細胞のAng1の発現を誘導するためのインビトロ方法に関し、該方法が以下を含む。幹細胞の集団を細胞培養培地で培養することであって、細胞培養培地が、細胞の成長を支持するのに十分な量のヒト成人血清(たとえば、ヒトAB血清)及びヒト血小板の細胞溶解物の形で非胎児血清を含む。
【0140】
細胞培養に関連して使用される用語「培地(media)」または「培地(medium)」は、細胞を取り巻く環境の構成要素を含む。培地は、Ang1発現の発現を誘導するのに十分な条件に寄与する及び/または条件を提供することが想定される。培地は、固体、液体、気体、または相及び物質の混合物であっても良い。培地には、液体増殖培地、及び細胞増殖を維持しない液体培地を含むことできる。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチン及びコラーゲン基質などのゼラチン質の培地も含む。例示的な気体培地は、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体の支持体上で増殖する細胞が暴露される気相を含む。用語「培地」とはまた、それが未だ細胞と接触していない場合であっても、細胞培養での使用を目的とした物質を指す。
【0141】
本開示の方法において使用される培養培地は、基礎培地として、幹細胞の培養に使用される培地を使用して調製することができる。基礎培地は、たとえば、イーグル最小必須(MEM)培地、α改変MEM培地、及びその混合培養培地を含み、幹細胞の培養のために使用することができるならば、特に制限されるものではない。
【0142】
さらに、本発明の培養培地は、脂肪酸または脂質、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、緩衝剤、無機塩などのような任意の成分を含むことができる。
【0143】
本開示で使用される細胞培養培地は、すべての必須アミノ酸を含み、非必須アミノ酸を含んでも良い。一般に、アミノ酸は、必須アミノ酸(トレオニン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、ヒスチジン)及び非必須アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、システイン、グルタミン、アスパラギン、アスパラギン酸、チロシン、アルギニン、プロリン)に分類される。
【0144】
[アスコルビン酸]
アスコルビン酸は、培養中の様々な細胞の増殖及び分化に必須のサプリメントである。特定のアスコルビン酸誘導体は、特に、中性pH及び37℃の通常の細胞培養条件下で、溶液中で安定していないため、「短時間作用型」であることが現在では理解されている。これらの短時間作用型誘導体は、急速にシュウ酸またはトレオン酸に酸化する。37℃の培養培地(pH7)では、酸化により、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体のレベルは、24時間後に約80~90%低下する。したがって、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体は、様々な細胞型の従来の細胞培養で、より安定した「長時間作用型」アスコルビン酸誘導体に置き換えられる。
【0145】
本開示の文脈では、用語「短時間作用性」とは、中性pH及び37℃の培養条件下の細胞培養が、24時間後に約80~90%酸化されるアスコルビン酸誘導体を含む。1つの実施例では、短時間作用型のL-アスコルビン酸誘導体は、L-アスコルビン酸塩である。たとえば、本開示の文脈では、L-アスコルビン酸ナトリウム塩は、「短時間作用型」アスコルビン酸誘導体である。
【0146】
対照的に、用語「長時間作用性」とは、中性pH及び37℃の培養条件下の細胞培養が、24時間後に約80~90%酸化されないアスコルビン酸誘導体を含む。1つの実施例では、本開示の文脈では、L-アスコルビン酸2-リン酸は、「長時間作用型」アスコルビン酸誘導体である。長時間作用型のアスコルビン酸誘導体のその他の例には、アスコルビン酸テトラヘキシルデシル、リン酸アスコルビルマグネシウム及び2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸が挙げられる。
【0147】
本発明者らは、驚くべきことに、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体と短時間作用性誘導体の置換により、幹細胞でのAng1の発現を誘導することができることを見出した。したがって、本開示の実施形態では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体で補充される。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.005g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.01g/Lを含んでも良い。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.02g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.03g/Lを含んでも良い。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.04g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.05g/Lを含んでも良い。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体の少なくとも約0.06g/Lを含んでも良い。この実施形態の1つの実施例では、細胞培養培地は、L-アスコルビン酸のナトリウム塩で補充される。
【0148】
別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含むが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の相当量を含まない。たとえば、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.04g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.03g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.02g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.01g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体の0.005g/L以下である。別の実施例では、細胞培養培地は、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体を含んでも良いが、長時間作用型のアスコルビン酸誘導体は含み得ない。
【0149】
別の実施例では、細胞培養培地は、L-アスコルビン酸ナトリウム塩を含むが、L-アスコルビン酸-2- phospahteの相当量は含まない。
【0150】
[血清]
本開示の培養方法で使用される培地は、血清含有培地または無血清培地であり得る。
【0151】
本開示の培養培地は、血清代替を含んでも良いし含まなくても良い。血清代替物は、たとえば、アルブミン(たとえば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノールまたは3’-チオールグリセロール、またはそれらを適切に含む血清同等物とすることができる。そのような血清代替物は、たとえば、国際特許出願第93/30679号に記載された方法で調製することができるし、市販品を使用することもできる。
【0152】
従来、幹細胞は、少なくとも約10~15%(v/v)の血清、一般に、ウシ胎児血清(FCS)で補充した培地を使用する細胞培養で維持される。しかし、本発明者らは、10%(v/v)未満のFCSで補充した細胞培養培地で幹細胞の集団を培養することにより、Ang1の発現を誘導できることも見出した。一実施形態では、幹細胞の集団は、少なくとも約9%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約1%(v/v)のFCSで補充した細胞培養培地で培養される。また、ウシ胎児血清(FCS)及びウシ胎児血清(FBS)の用語は、本発明の文脈では、同じ意味で使用し得ることが想定される。
【0153】
一実施形態では、細胞培養培地は、非胎児血清で補充される。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の非胎児血清で補充しても良いことが想定される。
【0154】
たとえば、培養培地は、哺乳動物の非胎児血清で補充することができる。
【0155】
たとえば、培養培地は、ヒトの非胎児血清で補充することができる。
【0156】
たとえば、培養培地は、新生児血清で補充することができる。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の新生児血清で補充しても良いことが想定される。
【0157】
一実施形態では、細胞培養培地は、哺乳動物の新生児血清を補充される。
【0158】
たとえば、培養培地は、新生仔ウシ血清(NBCS)で補充することができる。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)のNBCSで補充しても良いことが想定される。
【0159】
一実施形態では、細胞培養培地は、ヒト新生児血清で補充される。
【0160】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒト新生児血清で補充することができる。たとえば、ヒト新生児血清は、「臍帯血」から得られる。
【0161】
一実施形態では、培養培地は、成人血清で補充される。培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の成人血清で補充しても良いことが想定される。
【0162】
一実施形態では、細胞培養培地は、哺乳動物の成体血清で補充される。
【0163】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の哺乳動物の成体血清で補充することができる。
【0164】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の成体ウシ血清で補充することができる。
【0165】
一実施形態では、細胞培養培地は、ヒト成人血清で補充される。
【0166】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒト成人血清で補充することができる。
【0167】
たとえば、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)のヒトAB血清で補充することができる。
【0168】
1つの実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約3%のヒトAB血清で補充される。
【0169】
一実施形態では、培養培地は、FCS及びNBCSの混合物で補充される。
【0170】
たとえば、培養培地は、FCS:NBCSの比率が、少なくとも約0.4:1、少なくとも約0.5:1、少なくとも約0.6:1、少なくとも約0.7:1、少なくとも約0.8:1、少なくとも約0.9:1、少なくとも約1:1、少なくとも約1.5:1、少なくとも約2:1になるようなFCS及びNBCSの混合物で補充することができる。
【0171】
たとえば、FCSとNBCSの混合物は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%(v/v)の細胞培養培地を含み得ることが想定される。しかし、この実施例では、細胞培養培地は、少なくとも約1%(v/v)、少なくとも約2%(v/v)、少なくとも約3%(v/v)、少なくとも約4%(v/v)、少なくとも約5%(v/v)、少なくとも約6%(v/v)、少なくとも約7%(v/v)、少なくとも約8%(v/v)、少なくとも約9%(v/v)、10%(v/v)未満のFCSで補充される。
【0172】
一実施形態では、細胞培養培地は、無FCS血清である。
【0173】
一実施形態では、細胞培養培地は、無胎児血清である。
【0174】
一実施形態では、細胞培養培地は、非胎児血清で補充される。
【0175】
一実施形態では、培養培地は無胎児血清であり、非胎児血清で補充される。
【0176】
[刺激因子]
別の実施形態では、細胞培養培地は、lα,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D)、PDGF-BBなどの血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、間質由来因子lα(SDF-lα)及びEGFで構成されるグループから選択される1つまたは複数の刺激因子で補充される。
【0177】
別の実施形態では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量の少なくとも1つのサイトカインの存在下で培養することができる。
【0178】
別の実施形態では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量の血小板細胞溶解物の存在下で培養される。たとえば、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量のヒト血小板の細胞溶解物で培養することができる。
【0179】
1つの実施例では、細胞は、細胞の増殖を支持するのに十分な量のヒトAB血清及びヒト血小板の細胞溶解物で培養される。
【0180】
[細胞の治療的/予防的可能性を分析する]
疾患の発症または進行を処置または予防または遅延させる、本開示の細胞の能力を決定するための方法は、当業者には明らかであろう。たとえば、本発明の幹細胞は、Ang1のレベルを増加させるその能力について評価することができる。
【0181】
1つの実施例では、少なくとも0.1μg/10細胞の量でAng1を発現する遺伝的に変更されていない幹細胞は、心臓組織のインビトロで及び/またはインビボでのAng1のレベルを増加させるそれらの能力について試験される。これらの実施例では、Ang1のレベルは、本明細書に記載の幹細胞の投与後に細胞培養培地または組織において評価される。
【0182】
本開示はまた、疾患の治療、予防または遅延するための細胞を同定または単離するための以下の方法を提供することも、上記のことから当業者には明らかであろう。
(i)関連疾患に罹患している試験対象に細胞を投与し、対象の疾患の症状を評価する。
(ii)(i)の対象の障害の症状と、疾患を罹患しているが細胞を投与していない対照被験体の疾患または活性の症状とを比較し、対照被験体と比較した試験対象の症状の改善が、幹細胞が疾患を治療することを示す。細胞は、任意の実施例による、本開示に記載の任意の細胞であっても良い。
【0183】
多数の変形及び/または修正は、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上述した実施形態になされ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点において例示としてみなされるべきであり、限定的とみなされるべきではない。
【実施例
【0184】
実施例1:STRO-3細胞の選択によるMPCの免疫選択
骨髄(BM)を、健康な正常成人ボランティア(20~35歳)から採取する。簡潔には、40mlのBMを、後腸骨稜から、リチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
【0185】
BMMNCを、以前に記載されるように(Zannettinoら 1998)、Lymphoprep(商標)(Nycomed Pharma,Oslo,Norway)を用いて、密度勾配分離によって調製する。400×g、4℃、30分間の遠心分離後、淡黄色の層をホールピペットで除去し、5%ウシ胎児血清(FCS,CSL Limited,Victoria,Australia)を含有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Life Technologies,Gaithersburg,MD)からなる「HHF」中で3回洗浄する。
【0186】
続いて、STRO-3(またはTNAP)細胞を、以前に記載されるように(Gronthosら 2003; Gronthos及びSimmons 1995)、磁気活性化細胞選別により単離した。簡潔には、およそ1~3×10個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキング バッファー中で、20分間、氷上でインキュベートする。細胞を、ブロッキング バッファー中10μg/mlのSTRO-3mAb溶液(200μl)とともに、氷上で1時間インキュベートする。続いて、細胞を400×gでの遠心分離によってHHF中で2回洗浄する。HHFバッファー中1/50希釈のヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates,Birmingham,UK)を加え、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞を、上記と同様に、MACSバッファー(1%BSA、5mM EDTA及び0.01%アジ化ナトリウムを補充したCa2+及びMn2+を含まないPBS)中で2回洗浄し、最終体積0.9mlのMACSバッファー中に再懸濁する。
【0187】
100μlのストレプトアビジン マイクロビーズ(Miltenyi Biotec;Bergisch Gladbach,Germany)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を0.5mlのMACSバッファーで2回洗浄し、再懸濁した後、ミニMACSカラム(mini MACS column)(MS Columns,Miltenyi Biotec)上にロードし、0.5mlのMACSバッファーで3回洗浄して、STRO-3mAb(2005年12月19日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)にPTA-7282の受託番号で寄託;国際特許出願第2006/108229号を参照)と結合しなかった細胞を回収する。さらに1mlのMACSバッファーを加えた後、カラムを磁石から取り除き、TNAP細胞を陽圧で単離する。各画分からの細胞アリコートをストレプトアビジン-FITCで染色し、純度をフロー サイトメトリーで評価することができる。
【0188】
このようにして単離されたMPCは、STRO-1brightMPCである。
【0189】
実施例2:培地の開始 - プロセスA
一般にイーグルαMEMと称される、アール平衡塩を有するイーグル最小必須培地(MEM)のα修飾は、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、及び添付されたビタミンを含む。これらの修飾は、ハイブリッド マウス及びハムスター細胞(Stannersら 1971)を増殖させる際に使用するための最初に説明した。
【0190】
主要な幹細胞を培養するのに適したイーグルαMEM培地は、Life Technologies and Sigmaなどの様々な供給源から得ることができる。
【0191】
例示のプロセスで使用される必要な増殖因子を含む主要な幹細胞培養物を確立する詳細な方法は、Gronthos及びSimmons 1995に記載されている。
【0192】
プロセスAでは、10%ウシ胎児血清、L-アスコルビン酸-2-リン酸(100μM)、デキサメタゾン(10-7M)、及び/または無機リン酸塩(3mM)で補充されたイーグルαMEM培地が、幹細胞を培養するために使用された。
【0193】
実施例3:改変培養培地 - プロセスB
プロセスBでは、プロセスAで使用したイーグルαMEM培地は、以下によって改変(改変αMEM)された。
- 長時間作用型のアスコルビン酸誘導体 L-アスコルビン酸-2-リン酸を短期作用型のアスコルビン酸誘導体 L-アスコルビン酸ナトリウム(50mg/L)で置換する。
- FCSを10%(v/v)から5%(v/v)まで低減する。
- 非胎児血清(5% v/v)で補充する。
【0194】
【表1】
【0195】
実施例4:細胞培養
【0196】
間葉系前駆細胞(MPC)が、単一のドナーから得られ、以下の凍結保存法で保存される。
【0197】
一般に、細胞培養は、以下の工程を含む。
【0198】
凍結保存されたMPCを解凍し、10,000個の細胞/cmで播種し、培地の開始(プロセスA、n=3)または改変培養培地(プロセスB、n=3)のいずれかで90%のコンフルエンスまで20%のO、37℃で増殖させた。
【0199】
馴化培地を生成するために、増殖培地を200μlの培地/cmの量でFCSを補充したEBM-2基本培地(Lonza)と交換した。細胞はさらに3日間培養し、その後、培地を回収し、任意の細胞を除去するために遠心分離し、生じた上清を回収し、-80℃で保存した。
【0200】
増殖因子の濃度は、市販キット(Millipore)を使用したLuminexプラットフォームを使用して測定した。
【0201】
細胞培養に続いて、MPC増殖ダイナミクスを評価した(図1図3参照)。細胞増殖、MPC倍加時間または集団倍加時間の有意な変化は、細胞培養プロセスA及びBの後、観察されなかった。
【0202】
MPCはまた、STRO-1、CC9及びSTRO-4だけでなく、プロ血管新生増殖因子Ang1及びVEGFの細胞マーカーの発現レベルの点で特徴付けられる。
【0203】
STRO-1、CC9及びSTRO-4のレベルは、細胞培養プロセスA及びB後のMPCと同等だった。
【0204】
しかし、培養プロセスBは、
- Ang1レベルを増加させ、
- VEGFレベルを減少させ、
- 以前に血管新生を増強する上で特に効果があることを示したAng1:VEGF比率と一致するAng1:VEGFの比率を提供する。
【0205】
プロセスAまたはBで培養したMPCの馴化培地のAng1及びVEGFのレベル(μg/10細胞)の測定値を表2に示す。
【0206】
【表2】
【0207】
実施例5:改変培養条件 - プロセスC及びD
長時間作用アスコルビン酸誘導体、L-アスコルビン酸-2-リン酸の短時間作用型のアスコルビン酸誘導体L-アスコルビン酸ナトリウムとの交換を制御するために、3つの異なるドナーからのMPCは、α-MEM+10%FCS+50mg/LのL-アスコルビン酸ナトリウム(プロセスC)またはα-MEM+3%ヒトAB血清+50mg/LのL-アスコルビン酸ナトリウム(プロセスD)とPDGF及びEGFなどの増殖因子で連続的に伝播された。
【0208】
Ang1及びVEGFのレベルは、プロセスC及びDの細胞培養の後に評価した。プロセスCまたはDで培養したMPCの馴化培地のAng1及びVEGFのレベル(μg/ml)を表3に示す。
【0209】
プロセスCと比較して、培養プロセスDは、
- Ang1レベルを増加させ、
- VEGFレベルを減少させ、
- VEGF:Ang1の比率を増加させる。
【0210】
プロセスAと比較して、プロセスC及びDは、Ang1の発現レベルの進行性増加をもたらす。これは、短時間作用型のアスコルビン酸誘導体及び非胎児血清の存在が、それぞれ独立してAng1の発現の増加をもたらすと共にAng1の発現をさらに増加させる相乗効果を発揮することを示唆している。
【0211】
【表3】
【0212】
多数の変形及び/または修正を、広く記載された本開示の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示すように、本開示になされ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべて点において例示としてみなされるべきであり、限定的とみなされるべきではない。
【0213】
本開示は、2014年4月7日に提出されたAU2014901247号の優先権を主張し、その開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0214】
本明細書で考察及び/または参照したすべての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0215】
本明細書に含まれている、文書、行為、材料、装置、物品などの考察は、いずれも本発明についての状況を提供することを目的とするのみである。これらの事柄のいずれかまたは全部が、本出願の各特許請求の範囲の優先日前に存在していたので、本発明の関連分野において、先行技術基盤の一部を形成する、またはありふれた一般的な知識であるということの承認として理解すべきではない。
図1
図2
図3