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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20221219BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B62D25/08 L
B62D25/20 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021036243
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136566
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】河津 政裕
(72)【発明者】
【氏名】宮永 啓世
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康哲
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康一
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131264(JP,A)
【文献】特開2013-067201(JP,A)
【文献】特開2018-162036(JP,A)
【文献】特開2014-046840(JP,A)
【文献】特開2016-002783(JP,A)
【文献】特許第4368300(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08;25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口部を有するU字断面に形成された第1部材と、
第2開口部を有するU字断面に形成され、前記第1開口部および前記第2開口部が対向するように前記第1部材に対して配置される第2部材と、を備え、
前記第1部材および前記第2部材の一方の部材は、
前記第1開口部および前記第2開口部の一方の開口部に向けて開口が大きくなるように傾斜する拡開部と、
前記拡開部から前記一方の開口部まで開口が小さくなるように、前記拡開部に対して逆方向に傾斜する傾斜フランジと、を有し、
前記第1部材および前記第2部材の他方の部材は、
前記第1開口部および前記第2開口部の他方の開口部まで前記傾斜フランジに沿って傾斜された傾斜側壁を有し、
前記第1開口部および前記第2開口部の前記一方の開口部全域が前記他方の開口部に入り込むことにより、前記傾斜フランジおよび前記傾斜側壁が嵌合された状態で接合されている、
ことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記一方の部材は、
前記傾斜フランジと前記拡開部との交差部に形成された稜線部を有し、
前記他方の部材は、
前記稜線部に対応する部位に形成され、前記稜線部から離れる方向に張り出された補強フランジを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記補強フランジは、前記稜線部から前記他方の部材の外側へ向けて離れる方向に張り出されるように延びていることを特徴とする請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記他方の部材は、
前記傾斜側壁と前記補強フランジとの交差部に形成された他の稜線部を有し、
前記他の稜線部は、
前記第1部材および前記第2部材の接合方向において前記稜線部に重なる位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車体構造。
【請求項5】
前記他の稜線部は、前記一方の部材の前端部から後端部までの全周にわたって設けられていることを特徴とする請求項4に記載の車体構造。
【請求項6】
前記一方の部材は、ホイールハウスのうち車幅方向の内側部位を形成するホイールハウスインナパネルであり、
前記他方の部材は、前記ホイールハウスのうち車幅方向の外側部位を形成するホイールハウスアウタパネルであり、
前記傾斜フランジは、前記ホイールハウスの全周にわたって設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項7】
前記ホイールハウスが車幅方向の左右側に間隔をあけて設けられ、左右の前記ホイールハウスに接続されるパーセルクロスメンバを備え、
前記パーセルクロスメンバは、
前記ホイールハウスの上部において、前記傾斜フランジおよび前記傾斜側壁に重ね合わされた状態で接合されている、
ことを特徴とする請求項に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体構造のリヤホイールハウスとして、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの各フランジを接合し、ホイールハウスインナパネルとホイールハウスアウタパネルとをエクステンションパネルで接合する構成が知られている。ここで、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの各フランジは、いわゆる「拝み合わせ接合」により接合されている。
【0003】
この車体構造によれば、例えば、車両の走行中に車体の捩れなどによりリヤホイールハウスに車幅方向の荷重が入力することが考えられる。この場合に、エクステンションパネルにより、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの各フランジが剥離することを抑えることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4368300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の車体構造は、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの一部のみをエクステンションパネルで接合している。このため、車体の強度、剛性を確保するためには、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの各フランジの全周において剥離を抑制する必要がある。
しかし、ホイールハウスインナパネルおよびホイールハウスアウタパネルの各フランジの全周において剥離を抑制するためには、エクステンションパネル(補強部材)による接合を各フランジの全周に沿って適用する必要がある。このため、車体の組立てが非常に複雑になり、かつ、車体重量が増加する。
【0006】
本発明は、組立ての簡素化および車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係る車体構造は、第1開口部(例えば、実施形態のインナ開口部43)を有するU字断面に形成された第1部材(例えば、実施形態のホイールハウスインナパネル41、サイドシルインナパネル71、ダッシュボードアッパパネル92)と、第2開口部(例えば、実施形態のアウタ開口部51)を有するU字断面に形成され、前記第1開口部および前記第2開口部が対向するように前記第1部材に対して配置される第2部材(例えば、実施形態のホイールハウスアウタパネル42、サイドシルアウタパネル72、ダッシュボードロアパネル91)と、を備え、前記第1部材および前記第2部材の一方の部材(例えば、実施形態のホイールハウスインナパネル41、サイドシルインナパネル71、ダッシュボードアッパパネル92)は、前記第1開口部および前記第2開口部の一方の開口部(例えば、実施形態のインナ開口部43)に向けて開口が大きくなるように傾斜する拡開部(例えば、実施形態の拡開部44,74)と、前記拡開部から前記一方の開口部まで開口が小さくなるように、前記拡開部に対して逆方向に傾斜する傾斜フランジ(例えば、実施形態の傾斜フランジ45,75,95)と、を有し、前記第1部材および前記第2部材の他方の部材(例えば、実施形態のホイールハウスアウタパネル42、サイドシルアウタパネル72、ダッシュボードロアパネル91)は、前記第1開口部および前記第2開口部の他方の開口部(例えば、実施形態のアウタ開口部51)まで前記傾斜フランジに沿って傾斜された傾斜側壁(例えば、実施形態の傾斜側壁52,81,96)を有し、前記第1開口部および前記第2開口部の前記一方の開口部全域が前記他方の開口部に入り込むことにより、前記傾斜フランジおよび前記傾斜側壁が嵌合された状態で接合されている。
【0008】
この構成によれば、第1部材および第2部材をそれぞれU字断面に形成し、一方の部材に拡開部と傾斜フランジとを有し、他方の部材に傾斜側壁を有する。さらに、一方の部材の傾斜フランジと他方の部材の傾斜側壁とを嵌合した状態で接合する。
【0009】
ここで、第1部材と第2部材とを接合する際に、例えば、第1開口部と第2開口部とがずれている場合がある。この場合、傾斜フランジの一部と傾斜側壁の一部とが接触する。この状態で、第1部材と第2部材との接合を継続する。よって、接触した傾斜フランジの一部と傾斜側壁の一部とがガイドとなり、傾斜フランジの他の部位と傾斜側壁の他の部位とが互いに接触する方向に近づくように位置決めできる。
これにより、傾斜フランジと傾斜側壁との双方を全域において接触させることができ、傾斜フランジおよび傾斜側壁を正しい位置に接合できる。したがって、第1部材と第2部材との組立ての簡素化を図ることができる。
【0010】
ところで、第1部材および第2部材の接合方向に荷重が入力することが考えられる。この場合、傾斜フランジおよび傾斜側壁は、せん断荷重を受ける方向で接合されている。よって、第1部材および第2部材の接合方向に入力する荷重に対して、傾斜フランジおよび傾斜側壁が剥離しないように、傾斜フランジおよび傾斜側壁を、例えば、補強部材を使用することなく強固に接合できる。これにより、第1部材および第2部材を車体に使用することにより、車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる。
以下、せん断荷重を受ける方向による傾斜フランジおよび傾斜側壁の接合を、「せん断合わせ」による接合ということもある。
【0011】
(2)前記一方の部材は、前記傾斜フランジと前記拡開部との交差部に形成された稜線部(例えば、実施形態のインナ稜線部46,76)を有し、前記他方の部材は、前記稜線部に対応する部位に形成され、前記稜線部から離れる方向に張り出された補強フランジ(例えば、実施形態の補強フランジ53,82,97)を有してもよい。
(3)前記補強フランジは、前記稜線部から前記他方の部材の外側へ向けて離れる方向に張り出されるように延びていてもよい。
【0012】
この構成によれば、一方の部材の傾斜フランジと拡開部との交差部に稜線部を形成した。また、他方の部材に補強フランジを形成し、補強フランジを稜線部に対応する部位において稜線部から離れる方向に張り出した。よって、傾斜側壁を補強フランジで補強することにより、傾斜側壁を傾斜フランジに強固に接合できる。これにより、第1部材および第2部材を車体に使用することにより、車体の強度、剛性を簡単な構成で容易に高めることができる。
【0013】
)前記他方の部材は、前記傾斜側壁と前記補強フランジとの交差部に形成された他の稜線部(例えば、実施形態のアウタ稜線部54,83,98)を有し、前記他の稜線部は、前記第1部材および前記第2部材の接合方向において前記稜線部に重なる位置に設けられていてもよい。
(5)前記他の稜線部は、前記一方の部材の前端部から後端部までの全周にわたって設けられていてもよい。
【0014】
この構成によれば、他方の部材の傾斜側壁と補強フランジとの交差部に他の稜線部を形成した。さらに、第1部材および第2部材の接合方向に対して稜線部と重なる位置に配置した。よって、第1部材および第2部材を車体に使用することにより、例えば、他の稜線部を車幅方向において稜線部に重なる位置に配置できる。これにより、車両の走行中に受ける(入力する)車幅方向の振動を、他の稜線部および稜線部の双方で抑制でき、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0015】
)前記一方の部材は、ホイールハウス(例えば、実施形態のリヤホイールハウス14)のうち車幅方向の内側部位を形成するホイールハウスインナパネル(例えば、実施形態のホイールハウスインナパネル41)であり、前記他方の部材は、前記ホイールハウスのうち車幅方向の外側部位を形成するホイールハウスアウタパネル(例えば、実施形態のホイールハウスアウタパネル42)であり、前記傾斜フランジは、前記ホイールハウスの全周にわたって設けられていてもよい。
【0016】
この構成によれば、傾斜フランジをホイールハウスの全周にわたって設けた。よって、ホイールハウスの全周にわたって傾斜フランジと傾斜側壁とを接合できる。これにより、車両の走行中にサスペンションから車幅方向の振動が入力した際に、ホイールハウスの振動を傾斜フランジおよび傾斜側壁の接合部により抑制でき、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0017】
)前記ホイールハウスが車幅方向の左右側に間隔をあけて設けられ、左右の前記ホイールハウスに接続されるパーセルクロスメンバ(例えば、実施形態のアッパクロスメンバ33)を備え、前記パーセルクロスメンバは、前記ホイールハウスの上部(例えば、実施形態の上部14b)において、前記傾斜フランジおよび前記傾斜側壁に重ね合わされた状態で接合されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、左右のホイールハウスにパーセルクロスメンバを接続した。さらに、ホイールハウスの上部において、パーセルクロスメンバを傾斜フランジおよび傾斜側壁に重ね合わせて、重ね合わせた3部材(3枚)を接合した。よって、パーセルクロスメンバを傾斜フランジおよび傾斜側壁に強固に接合できる。また、左右のホイールハウスは、それぞれが、例えば、傾斜フランジおよび傾斜側壁がせん断合わせにより接合されることにより、車幅方向の振動に対して強度、剛性が高められている。
これにより、左右のホイールハウスの上部にパーセルクロスメンバを強固に接合して、左右のホイールハウスの上部をパーセルクロスメンバで強固に連結でき、車体の強度、剛性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、組立ての簡素化および車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る一実施形態の車体構造を示す平面図である。
図2】一実施形態の車体構造に備えたリヤホイールハウスを示す斜視図である。
図3図2のリヤホイールハウスをIII-III線で破断した断面図である。
図4図3に示すリヤホイールハウスの断面を示す模式図である。
図5】一実施形態の車体構造に備えたリヤホイールハウスを示す下面図である。
図6図5のリヤホイールハウスにおけるVI部を拡大した断面図である。
図7】一実施形態の車体構造をVII-VII線で破断した断面図である。
図8】一実施形態のリヤホイールハウスを組み立てる際に傾斜フランジの一部と傾斜側壁の一部とを接触させる手順を説明する断面図である。
図9】一実施形態の傾斜フランジと傾斜側壁との双方を全域において接触させて傾斜フランジおよび傾斜側壁を正しい位置に接合させる手順を説明する断面図である。
図10】本発明をサイドシルに適用した例を示す断面図である。
図11】本発明をカウル構造に適用した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて車体構造を説明する。なお、図面において、矢印FRは車両の前方、矢印UPは車両の上方、矢印LHは車両の左側方を示す。
<車体構造>
図1図2に示すように、車体構造10は、例えば、左右のリヤフレーム12,12と、左右のリヤホイールハウス(ホイールハウス)14,14と、リヤバルクヘッド15と、を備えている。
左右のリヤフレーム12,12は、左右のサイドシル17(図10参照)の後端部から車体後方に向けて延びる。左右のサイドシル17は、車室21の床部を形成するフロアパネル22の車幅方向両側部に沿って車体前後方向に延び、車体骨格の一部を構成する部材である。左右のリヤフレーム12,12は、荷室24の床部を形成するリヤフロアパネル25の車幅方向両側部に沿って車体前後方向に延び、車体骨格の一部を構成する部材である。
【0022】
左右のリヤホイールハウス14,14は、左右のリヤフレーム12,12およびリヤバルクヘッド15に設けられることにより車幅方向の左右側に間隔をあけて配置されている。この状態において左右のリヤホイールハウス14,14は、左右のリヤフレーム12,12の車幅方向外側に配置され、下端部14a,14aが左右のリヤフレーム12,12にそれぞれ設けられている。
左右のリヤホイールハウス14,14は、概ね左右対称の部材であり、以下、左リヤホイールハウス14について詳しく説明して、右リヤホイールハウス14の詳しい説明を省略する。また、左右のリヤホイールハウス14,14の各構成部材に同じ符号を付し、左リヤホイールハウス14を「リヤホイールハウス14」と略記する。リヤホイールハウス14については、後で詳しく説明する。
【0023】
リヤバルクヘッド15は、リヤフロアパネル25および左右のリヤフレーム12,12に設けられ、左右のリヤホイールハウス14,14の間に設置されている。リヤバルクヘッド15は、正面視四角環状に形成され、車体骨格の一部を構成する部材である。
リヤバルクヘッド15は、左右の縦メンバ(脚部)31,31と、ロアクロスメンバ(横メンバ)32と、アッパクロスメンバ(パーセルクロスメンバ、横メンバ)33と、を備えている。
【0024】
左右の縦メンバ31,31は、左右のリヤフレーム12,12からアッパクロスメンバ33の左右の端部まで車体後方に向うに従って上方に傾斜するように立ち上げられている。ロアクロスメンバ32は、左右の縦メンバ31,31のうち下端部の間において、リヤフロアパネル25に沿って車幅方向に沿って延びている。アッパクロスメンバ33は、左右の縦メンバ31,31のうち上端部の間において、パーセルシェルフ35の前端部に沿って車幅方向に沿って延びている。
【0025】
<リヤホイールハウス>
図3から図5に示すように、リヤホイールハウス14は、ホイールハウスインナパネル(第1部材および第2部材の一方の部材、インナ部材)41と、ホイールハウスアウタパネル(第1部材および第2部材の他方の部材、アウタ部材)42と、を備えている。
【0026】
ホイールハウスインナパネル41は、リヤホイールハウス14のうち車幅方向の内側部位を形成するパネルである。ホイールハウスインナパネル41は、略U字断面(U字断面を含む)に形成され、インナ開口部(第1開口部および第2開口部の一方の開口部)43と、拡開部44と、傾斜フランジ45と、インナ稜線部(稜線部)46と、を有する。
【0027】
インナ開口部43は、ホイールハウスインナパネル41のうち、車幅方向外側の端部に形成され、車幅方向外側に向けて開口されている。インナ開口部43は、ホイールハウスインナパネル41(すなわち、リヤホイールハウス14)の全周で形成されている。
拡開部44は、インナ開口部43寄りの部位において、インナ開口部43に向けて開口が徐々に大きく拡大するように傾斜されている。
【0028】
傾斜フランジ45は、拡開部44の外端からインナ開口部43まで開口が徐々に小さく縮小するように、拡開部44に対して逆方向に傾斜されている。拡開部44および傾斜フランジ45は、ホイールハウスインナパネル41の外側に突出するように断面がV字状に折り曲げられている。
インナ稜線部46は、傾斜フランジ45と拡開部44との交差部により、ホイールハウスインナパネル41の外側に突出する稜線状に形成されている。
【0029】
ここで、拡開部44、傾斜フランジ45、およびインナ稜線部46は、例えば、ホイールハウスインナパネル41の前端部41aから後端部41bまで、ホイールハウスインナパネル41(すなわち、リヤホイールハウス14)の全周にわたって設けられている。
【0030】
ホイールハウスアウタパネル42は、リヤホイールハウス14のうち車幅方向の外側部位を形成するパネルである。ホイールハウスアウタパネル42は、略U字断面(U字断面を含む)に形成され、アウタ開口部(第1開口部および第2開口部の他方の開口部)51と、傾斜側壁52と、補強フランジ53と、アウタ稜線部(他の稜線部)54と、を有する。
【0031】
アウタ開口部51は、ホイールハウスアウタパネル42のうち、車幅方向内側の端部に形成されている。アウタ開口部51は、ホイールハウスアウタパネル42(すなわち、リヤホイールハウス14)の全周で形成されている。アウタ開口部51は、インナ開口部43に対向するように車幅方向内側に向けて開口されている。具体的には、ホイールハウスアウタパネル42は、インナ開口部43およびアウタ開口部51が対向するようにホイールハウスインナパネル41に対して配置されている。また、アウタ開口部51は、インナ開口部43が差し込み可能にインナ開口部43より大きく開口されている。
傾斜側壁52は、傾斜フランジ45を外側から覆うように形成されている。具体的には、傾斜側壁52は、アウタ開口部51寄りの部位において、アウタ開口部51まで開口が徐々に拡大するように、傾斜フランジ45に沿って傾斜されている。すなわち、傾斜側壁52は、傾斜フランジ45に対して平行に傾斜されている。
【0032】
アウタ開口部51からホイールハウスインナパネル41のインナ開口部43(すなわち、傾斜フランジ45)が差し込まれることにより、ホイールハウスインナパネル41の傾斜フランジ45が傾斜側壁52に差し込まれる。傾斜側壁52の内周面に傾斜フランジ45の外周面が接触され、この状態で傾斜側壁52の内周面に傾斜フランジ45の外周面が接合されている。換言すれば、傾斜フランジ45および傾斜側壁52が嵌合された状態で、後述する「せん断合わせ」により接合されている。
【0033】
ここで、車両の走行中に、例えば、サスペンション(図示せず)からリヤホイールハウス14に車幅方向の振動による荷重が入力する。サスペンションは、例えば、リヤホイールハウス14の上部14bに上端部が支持されている。よって、傾斜フランジ45および傾斜側壁52の接合方向(X方向)に振動による荷重が概ね入力する。すなわち、傾斜フランジ45および傾斜側壁52は、せん断荷重を受ける方向で接合されている。以下、せん断荷重を受ける方向による傾斜フランジ45および傾斜側壁52の接合を、「せん断合わせ」による接合ということもある。また、車幅方向は、ホイールハウスインナパネル41およびホイールハウスアウタパネル42の接合方向と概ね一致している。
以下、構成の理解を容易にするために、便宜上、車幅方向をホイールハウスインナパネル41およびホイールハウスアウタパネル42の接合方向と一致しているとして説明する。
【0034】
図4から図6に示すように、補強フランジ53は、インナ稜線部46あるいはインナ稜線部46の近傍に対応する部位において、傾斜側壁52に対して交差するように折り曲げられることにより形成されている。補強フランジ53は、インナ稜線部46からリヤホイールハウス14の外側へ向けて離れる方向に張り出されるように延びている。補強フランジ53および傾斜側壁52は、断面がV字状に折り曲げられている。
アウタ稜線部54は、傾斜側壁52と補強フランジ53との交差部により稜線状に形成されている。アウタ稜線部54は、ホイールハウスインナパネル41およびホイールハウスアウタパネル42の接合方向(すなわち、車幅方向)においてインナ稜線部46に重なる位置に設けられている。
【0035】
ここで、傾斜側壁52、補強フランジ53、およびアウタ稜線部54は、例えば、ホイールハウスアウタパネル42の前端部42aから後端部42bまで、ホイールハウスアウタパネル42(すなわち、リヤホイールハウス14)全周にわたって設けられている。
【0036】
図1図7に示すように、左右のリヤホイールハウス14,14にはアッパクロスメンバ33が接続されている。具体的には、アッパクロスメンバ33は、左端部および右端部にそれぞれ左右のガセット61が設けられている。左右のガセット61,61は、左右のサスペンションから入力する荷重を受け止め、車両の左右側を連結するアッパクロスメンバ33に荷重を伝え、車両全体で剛性を保つ。
【0037】
具体的には、左ガセット61は、左縦メンバ31の上端部31aに接合されている。さらに、左ガセット61は、左リヤホイールハウス14の上部14bにおいて、傾斜フランジ45および傾斜側壁52の間に左端部61aは挟持されている。左ガセット61の左端部61a、傾斜フランジ45、および傾斜側壁52は、左リヤホイールハウス14の上部14bにおいて、3部材(3枚)が重ね合わされた状態で接合されている。
【0038】
右ガセット61は、左ガセット61と概ね左右対称の部材である。右ガセット61は、右縦メンバ31の上端部31aに接合されている。さらに、右ガセット61は、左ガセット61と同様に、右リヤホイールハウス14の上部14bにおいて、傾斜フランジ45および傾斜側壁52の間に右端部(図示せず)が挟持されている。右ガセット61の右端部、傾斜フランジ45、および傾斜側壁52は、右リヤホイールハウス14の上部14bにおいて、3部材(3枚)が重ね合わされた状態で接合されている。
【0039】
つぎに、リヤホイールハウス14を組み立てる手順を図8図9に基づいて説明する。
図8に示すように、ホイールハウスインナパネル41とホイールハウスアウタパネル42とを組み立てる(接合する)際に、例えば、インナ開口部43とアウタ開口部51とが車体前後方向や上下方向にずれている場合がある。
この場合、ホイールハウスインナパネル41の傾斜フランジ45の一部(一方)45aと、ホイールハウスアウタパネル42の傾斜側壁52の一部(一方)52aとが接触する。この状態で、ホイールハウスインナパネル41とホイールハウスアウタパネル42との接合を継続する。
【0040】
図9に示すように、傾斜フランジ45は、拡開部44の外端からインナ開口部43まで開口が徐々に小さく縮小するように傾斜されている。また、傾斜側壁52は、アウタ開口部51まで開口が徐々に拡大するように、傾斜フランジ45に沿って傾斜されている。
よって、接触した傾斜フランジ45の一部45aと傾斜側壁52の一部52aとがガイドとなり、傾斜フランジ45の他の部位45bと傾斜側壁52の他の部位52bとが互いに接触する方向に近づくように位置決めできる。
これにより、傾斜フランジ45と傾斜側壁52との双方を全域において接触させることができ、傾斜フランジ45および傾斜側壁52を正しい位置に接合できる。したがって、ホイールハウスインナパネル41とホイールハウスアウタパネル42との組立ての簡素化を図ることができる。
【0041】
以上説明したように、実施形態の車体構造10によれば、図3図4に示すように、ホイールハウスインナパネル41およびホイールハウスアウタパネル42は、それぞれU字断面に形成されている。また、ホイールハウスインナパネル41に拡開部44と傾斜フランジ45とが形成され、ホイールハウスアウタパネル42に傾斜側壁52が形成されている。さらに、ホイールハウスインナパネル41の傾斜フランジ45とホイールハウスアウタパネル42の傾斜側壁52とが嵌合した状態で、いわゆる「せん断合わせ」により接合されている。
【0042】
ここで、例えば、車両の走行中にサスペンション(図示せず)からリヤホイールハウス14に車幅方向の振動による荷重が入力する。よって、傾斜フランジ45および傾斜側壁52の接合方向に荷重が入力する。すなわち、傾斜フランジ45および傾斜側壁52は、せん断荷重を受ける方向で接合されている。
これにより、車幅方向の振動により入力する荷重に対して、傾斜フランジ45および傾斜側壁52が剥離しないように、傾斜フランジ45および傾斜側壁52を、例えば、補強部材を使用することなく強固に接合できる。したがって、車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0043】
また、ホイールハウスインナパネル41の傾斜フランジ45と拡開部44との交差部にインナ稜線部46が形成されている。また、ホイールハウスアウタパネル42に補強フランジ53が形成され、補強フランジ53がインナ稜線部46に対応する部位においてインナ稜線部46から離れる方向にリヤホイールハウス14の外側へ向けて張り出されている。よって、傾斜側壁52を補強フランジ53で補強することにより、傾斜側壁52を傾斜フランジ45に強固に接合できる。これにより、車体の強度、剛性を簡単な構成で容易に高めることができる。
【0044】
さらに、図6に示すように、ホイールハウスアウタパネル42の傾斜側壁52と補強フランジ53との交差部にアウタ稜線部54が形成されている。さらに、アウタ稜線部54をホイールハウスインナパネル41およびホイールハウスアウタパネル42の接合方向(すなわち、車幅方向)においてインナ稜線部46に重なる位置に配置した。これにより、例えば、車両の走行中に受ける(入力する)車幅方向の振動を、アウタ稜線部54およびインナ稜線部46の双方で抑制でき、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0045】
加えて、図5に示すように、傾斜フランジ45がリヤホイールハウス14の全周にわたって設けられている。よって、リヤホイールハウス14の全周にわたって傾斜フランジ45と傾斜側壁52とを接合できる。これにより、例えば、車両の走行中にサスペンションから車幅方向の振動が入力した際に、リヤホイールハウス14の振動を傾斜フランジ45および傾斜側壁52の接合部により抑制でき、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0046】
また、図1図7に示すように、左右のリヤホイールハウス14,14にアッパクロスメンバ33の左右のガセット61,61が接続されている。
ここで、左ガセット61の左端部61aは、左リヤホイールハウス14の上部14bにおいて、傾斜フランジ45および傾斜側壁52に挟持された状態で重ね合わされ、重ね合わせた3部材が接合されている。よって、アッパクロスメンバ33の左ガセット61は、傾斜フランジ45および傾斜側壁52に強固に接合されている。また、左リヤホイールハウス14は、例えば、傾斜フランジ45および傾斜側壁52がせん断合わせにより接合されている。
【0047】
また、右ガセット61の右端部61aは、左ガセット61の左端部61aと同様に、右リヤホイールハウス14の上部14bに接合されている。
よって、左右のリヤホイールハウス14,14は、車幅方向の振動に対して強度、剛性が高められている。これにより、左右のリヤホイールハウス14,14の上部14b,14bをアッパクロスメンバ33で強固に連結でき、車体の強度、剛性を一層高めることができる。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、ホイールハウスインナパネル41に拡開部44および傾斜フランジ45などを形成し、ホイールハウスアウタパネル42に傾斜側壁52および補強フランジ53などを形成した例について説明したが、これに限らない。その他の例として、例えば、ホイールハウスアウタパネル42に拡開部44および傾斜フランジ45などを形成し、ホイールハウスインナパネル41に傾斜側壁52および補強フランジ53などを形成してもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、本発明をリヤホイールハウス14に適用して例について説明したがこれに限らない。その他の例として、図10に示すように、本発明をサイドシル17に適用してもよい。
サイドシル17は、概ね上下対称に形成されているので、上側部と下側部とに同じ符号を付して上側部のみについて説明し、下側部の説明を省略する。
すなわち、サイドシル17は、サイドシルインナパネル(第1部材および第2部材の一方の部材、インナ部材)71と、サイドシルアウタパネル(第1部材および第2部材の他方の部材、アウタ部材)72と、を備えている。サイドシルインナパネル71は、上壁部71aに拡開部74、傾斜フランジ75、およびインナ稜線部(稜線部)76を有する。サイドシルアウタパネル72は、上壁部72aに傾斜側壁81、補強フランジ82、およびアウタ稜線部(他の稜線部)83を有する。
サイドシルインナパネル71の傾斜フランジ75とサイドシルアウタパネル72の傾斜側壁81とは、嵌合した状態で接合されている。
【0050】
ここで、例えば、車両の走行中にサイドシル17に車幅方向の振動による荷重が入力する。すなわち、傾斜フランジ75および傾斜側壁81の接合方向に荷重が入力する。よって、傾斜フランジ75および傾斜側壁81は、せん断荷重を受ける方向において、いわゆる「せん断合わせ」により接合されている。
これにより、車幅方向の振動により入力する荷重に対して、傾斜フランジ75および傾斜側壁81が剥離しないように、傾斜フランジ75および傾斜側壁81を、例えば、補強部材を使用することなく強固に接合できる。したがって、車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0051】
また、サイドシルインナパネル71とサイドシルアウタパネル72とを組み立てる際に、例えば、上壁部71aの傾斜フランジ75と上壁部72aの傾斜側壁81とがガイドとなる。よって、下壁部71bの傾斜フランジ75と下壁部72bの傾斜側壁81とが互いに接触する方向に近づくように位置決めできる。
これにより、上壁部71aの傾斜フランジ75および上壁部72aの傾斜側壁81を正しい位置に接合でき、下壁部71bの傾斜フランジ75および下壁部72bの傾斜側壁81を正しい位置に接合できる。したがって、サイドシルインナパネル71とサイドシルアウタパネル72との組立ての簡素化を図ることができる。
【0052】
さらに、図11に示すように、本発明をカウル構造18に適用してもよい。カウル構造18は、ダッシュボードロアパネル(第1部材および第2部材の他方の部材、アウタ部材)91と、ダッシュボードアッパパネル(第1部材および第2部材の一方の部材、インナ部材)92と、ウインドシールドロアサポート93と、を備えている。ダッシュボードアッパパネル92は、傾斜フランジ95を有する。ダッシュボードロアパネル91は、傾斜側壁96、補強フランジ97、およびアウタ稜線部(他の稜線部)98を有する。
ダッシュボードアッパパネル92の傾斜フランジ95とダッシュボードロアパネル91の傾斜側壁96とは接合されている。
【0053】
ここで、例えば、車両の走行中にカウル構造18に上下方向の振動による荷重が入力する。すなわち、傾斜フランジ95および傾斜側壁96の接合方向に荷重が入力する。よって、傾斜フランジ95および傾斜側壁96は、せん断荷重を受ける方向において、いわゆる「せん断合わせ」により接合されている。
これにより、上下方向の振動により入力する荷重に対して、傾斜フランジ95および傾斜側壁96が剥離しないように、傾斜フランジ95および傾斜側壁96を、例えば、補強部材を使用することなく強固に接合できる。したがって、車体の軽量化を図ることができ、かつ、車体の強度、剛性を高めることができる。
【0054】
また、ダッシュボードアッパパネル92とダッシュボードロアパネル91とを組み立てる際に、例えば、ダッシュボードロアパネル91の傾斜側壁96がガイドとなる。よって、ダッシュボードアッパパネル92の傾斜フランジ95を正しい位置に接合できる。これにより、ダッシュボードアッパパネル92とダッシュボードロアパネル91との組立ての簡素化を図ることができる。
【0055】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 車体構造
14 リヤホイールハウス(ホイールハウス)
14b ホイールハウスの上部
17 サイドシル
18 カウル構造
33 アッパクロスメンバ(パーセルクロスメンバ)
41 ホイールハウスインナパネル(第1部材および第2部材の一方の部材)
42 ホイールハウスアウタパネル(第1部材および第2部材の他方の部材)
43 インナ開口部(第1開口部および第2開口部の一方の開口部)
44,74 拡開部
45,75,95 傾斜フランジ
46 インナ稜線部(稜線部)
51 アウタ開口部(第1開口部および第2開口部の他方の開口部)
52,81,96 傾斜側壁
53,82,97 補強フランジ
54,83,98 アウタ稜線部(他の稜線部)
61 ガセット
71 サイドシルインナパネル(第1部材および第2部材の一方の部材)
72 サイドシルアウタパネル(第1部材および第2部材の他方の部材)
91 ダッシュボードロアパネル(第1部材および第2部材の他方の部材)
92 ダッシュボードアッパパネル(第1部材および第2部材の一方の部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11