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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ガスエンジンおよびこれを備えた船舶
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/04 20060101AFI20221219BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
F02M21/04 D
F02M21/02 S
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021112747
(22)【出願日】2021-07-07
(62)【分割の表示】P 2018049229の分割
【原出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2021175897
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】首藤 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 知宏
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐樹
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075642(JP,A)
【文献】特開2017-133491(JP,A)
【文献】特開2008-202463(JP,A)
【文献】特開2005-307904(JP,A)
【文献】特開平03-185266(JP,A)
【文献】特開平10-047166(JP,A)
【文献】国際公開第2004/106722(WO,A2)
【文献】特開2003-097359(JP,A)
【文献】特開平06-173828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
F02B 43/00
F02D 1/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が流れる吸気通路と、
該吸気通路が気体の流れ方向の下流の分岐部にて分岐され下流端にてシリンダに開口する複数の吸気管と、
前記吸気通路内において各前記吸気管に対して燃料ガスを噴射する燃料噴射手段と、
を備えるガスエンジンであって、
前記燃料噴射手段は、
前記分岐部よりも気体の流れ方向の上流に設けられるとともに、
複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち、流速が速い方の気体に対して、流速が遅い方の気体の流れに対して噴射する燃料よりも多量の燃料ガスを噴射することで、各前記吸気管を介して前記シリンダに供給される空気と燃料ガスとの混合気体の濃度を均一にするように構成されているガスエンジン。
【請求項2】
前記燃料噴射手段は、複数の噴射口を有する1本の噴射管を備え、複数の前記噴射口は複数の方向に向かってそれぞれ1つ以上形成され、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の総面積が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の総面積と異なる請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項3】
前記噴射管が有する複数の前記噴射口は、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の、面積が同一とされたそれぞれの面積が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の、面積が同一とされたそれぞれの面積と異なる請求項2に記載のガスエンジン。
【請求項4】
前記噴射管が有する複数の前記噴射口は面積が同一とされ、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の数が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の数と異なる請求項2に記載のガスエンジン。
【請求項5】
前記噴射管は、前記吸気通路において、複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち流速が速い気体の流れに寄せられて配置されている請求項2乃至4のいずれかに記載のガスエンジン。
【請求項6】
前記燃料噴射手段は、複数の噴射口を有する1本の噴射管を備え、
前記噴射管は、複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち、流速が速い気体の流れに寄せられて配置されている請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項7】
前記燃料噴射手段は、前記噴射管を軸線周りに回転可能な回転機構を備えている請求項2乃至6のいずれかに記載のガスエンジン。
【請求項8】
複数の前記噴射口は、気体の流れ方向の下流側に向かって形成されている請求項2乃至7のいずれかに記載のガスエンジン。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のガスエンジンを備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンおよびこれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンにおいては、燃料ガスと空気とを均一に混合した状態で燃焼させるために、シリンダの上流に位置する過給機の前に燃料ガスを供給して、予め燃料ガスと空気とを混合させることがある。
【0003】
前述のガスエンジンを舶用ガスエンジンとして使用する場合、防爆などの安全性を考慮して、燃料ガス系統を二重管にする必要があり、過給機の前に燃料ガスを供給する場合、ガスエンジン全体を二重管とする必要があり、装置の大型化やコストの増加が懸念される。
【0004】
特許文献1のように、シリンダの吸気弁の手前に配置される複数の通路それぞれに、複数の開口を有した燃料ガス用の噴射ノズルを配置することで、装置の大型化やコストの増加という課題は対処できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-138565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1においては、燃料ガス供給からシリンダまでの距離が短いために、燃料ガスと空気とが十分に混合されない可能性がある。また、各通路内を流通する気体の流速が通路ごとに異なる場合、空気に対する燃料ガスの濃度が通路ごとに不均一になり、シリンダ内における空気と燃料ガスの燃焼が不均一になる可能性がある。燃料ガスと空気とが十分に混合されなかったり、燃料ガスの濃度が通路ごとに不均一であったりした場合、シリンダ内で点火が行われたとき、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象が発生する可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであって、燃料と酸化剤とが混合可能な距離を確保し、更に、それぞれの吸気管に向かう気体の流速が異なる場合でも、酸化剤と燃料とを均一に混合することができるガスエンジンおよびこれを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のガスエンジンおよびこれを備えた船舶は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様に係るガスエンジンは、気体が流れる吸気通路と、該吸気通路が気体の流れ方向の下流の分岐部にて分岐され下流端にてシリンダに開口する複数の吸気管と、前記吸気通路内において各前記吸気管に対して燃料ガスを噴射する燃料噴射手段と、を備えるガスエンジンであって、前記燃料噴射手段は、前記分岐部よりも気体の流れ方向の上流に設けられるとともに、複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち、流速が速い方の気体に対して、流速が遅い方の気体の流れに対して噴射する燃料よりも多量の燃料ガスを噴射することで、各前記吸気管を介して前記シリンダに供給される空気と燃料ガスとの混合気体の濃度を均一にするように構成されている
【0009】
本態様に係るガスエンジンにおいて、燃料噴射手段は、分岐部よりも気体の流れ方向の上流に設けられている。これによれば、吸気通路の下流に位置する吸気管に燃料を噴射した場合と比べて、燃料(例えば、燃料ガス)と酸化剤(例えば、空気)とが混合し得る距離が長くなり、酸化剤と燃料とを均一に混合しやすくなる。また、燃料噴射手段は、複数の吸気管に対してそれぞれ異なる量の燃料を噴射できる。これによれば、例えば、気体(例えば、空気と燃料ガスとの混合気体)の流速が早くなる吸気管に対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管に対しては、燃料量を減少させることができる。これによって、それぞれの吸気管に向かう気体の流速が異なる場合でも、それぞれの吸気管を介してシリンダ内(燃焼室)に供給される混合気体の燃料濃度を吸気管によらず均一にすることができる。ひいては、燃焼室における酸化剤と燃料との混合気体の燃焼を均一化することができる。これにより、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前記燃料噴射手段は、複数の噴射口を有する1本の噴射管を備え、複数の前記噴射口は複数の方向に向かってそれぞれ1つ以上形成され、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の総面積が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の総面積と異なる。
【0011】
本態様に係るガスエンジンによれば、一の吸気管に向かう方向を向いている噴射口の総面積が、他の吸気管に向かう方向を向いている噴射口の総面積と異なるので、供給される燃料量を複数の方向ごと(複数の吸気管ごと)に調節することができる。例えば、気体(例えば、空気などの酸化剤と燃料ガスとの混合気体)の流速が早くなる吸気管に対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管に対しては、燃料量を減少させることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前記噴射管が有する複数の前記噴射口は、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の、面積が同一とされたそれぞれの面積が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の、面積が同一とされたそれぞれの面積と異なる。
【0013】
本態様に係るガスエンジンによれば、それぞれの方向に向かって形成された噴射口の総面積をそれぞれ異なるものとできる。例えば、吸気管を2つとした場合(即ち、吸気管に向かう方向の数を2方向とした場合)であって、それぞれの方向に向けられた噴射口の数が同じ場合(例えば3ずつとする)、一の吸気管に向かう方向の噴射口の全ての面積をそれぞれ1とし、他の吸気管に向かう方向の噴射口の全ての面積をそれぞれ2とすれば、一の吸気管に向かう方向を向く噴射口の総面積を3として、他の吸気管に向かう方向を向く噴射口の総面積を6とすることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前記噴射管が有する複数の前記噴射口は面積が同一とされ、一の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の数が、他の前記吸気管に向かう方向に向けられた1つ以上の前記噴射口の数と異なる。
【0015】
本態様に係るガスエンジンによれば、それぞれの方向に向かって形成された噴射口の総面積をそれぞれ異なるものとできる。例えば、吸気管を2つとした場合(即ち、方向の数を2方向とした場合)であって、全ての噴射口の面積が同一の場合(例えば1とする)、一の吸気管に向かう方向の噴射口の数を3つとし、他の吸気管に向かう方向の噴射口の数を2つとすれば、一の吸気管に向かう方向を向く噴射口の総面積を3として、他の吸気管に向かう方向を向く噴射口の総面積を2とすることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前記噴射管は、前記吸気通路において、複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち流速が速い気体の流れに寄せられて配置されている。
【0017】
本態様に係るガスエンジンによれば、それぞれの方向に向けて噴射される燃料量を、噴射管の配置によって調節することができる。例えば、複数の吸気管に向かう気体の流れのうち、流速の速い気体の流れに噴射管を寄せて配置することで、気体の流速が早くなる吸気管に対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管に対しては、燃料量を減少させることができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前記燃料噴射手段は、複数の噴射口を有する1本の噴射管を備え、前記噴射管は、複数の前記吸気管のそれぞれに向かう気体の流れのうち、流速が速い気体の流れに寄せられて配置されている。
【0019】
本態様に係るガスエンジンによれば、それぞれの方向に向けて噴射される燃料量を、噴射管の配置によって調節することができる。例えば、複数の吸気管に向かう気体の流れのうち、流速の速い気体の流れに噴射管を寄せて配置することで、流速が早くなる吸気管に対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管に対しては、燃料量を減少させることができる。これによって、それぞれの吸気管に向かう気体の流速が異なる場合でも、それぞれの吸気管を介してシリンダ内(燃焼室)に供給される混合気体の燃料濃度を吸気管によらず均一にすることができる。ひいては、燃焼室における酸化剤と燃料との混合気体の燃焼を均一化することができる。これにより、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前述の前記燃料噴射手段は、前記噴射管を軸線周りに回転可能な回転機構を備えている。
【0021】
本態様に係るガスエンジンにおいて、燃料噴射手段は、噴射管を軸線周りに回転可能な回転機構を備えている。これによれば、それぞれの方向に向けて供給される燃料量を、噴射管の回転によって調節することができる。これによって、酸化剤と燃料との混合を促進する最適な方向に燃料を噴射できる。このとき、噴射管の回転角度はガスエンジンの出力や回転数の変化に応じて決定されても良く、例えば、実験によって予め得られたデータから作成されたマップ(例えば、出力と回転数をパラメータとする)から決定される。
【0022】
また、本発明の一態様に係るガスエンジンにおいて、前述の複数の前記噴射口は、気体の流れ方向の下流側に向かって形成されている。
【0023】
本態様に係るガスエンジンによれば、ガスエンジンの低出力時に、シリンダ側から気体が逆流した場合でも、複数の噴射口から噴射される燃料は、気体の上流側に噴射されないので、複数の噴射口から噴射された燃料は逆流しにくくなる。これによって、燃料が気体の下流側に設置されているインタークーラ側に逆流することを防ぐことができる。
【0024】
また、本発明の参考例に係るガスエンジンは、気体が流れる吸気通路と、該吸気通路が、気体の流れ方向の下流の分岐部にて分岐され、下流端にてシリンダに開口する複数の吸気管と、前記吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射手段と備えるガスエンジンであって、前記燃料噴射手段は、前記分岐部よりも気体の流れ方向の上流に設けられるとともに、複数の前記吸気管に対して燃料を噴射する。
【0025】
本態様に係るガスエンジンにおいて、燃料噴射手段は、分岐部よりも気体の流れ方向の上流に設けられている。これによれば、吸気通路の下流に位置する吸気管に燃料を噴射した場合と比べて、燃料(例えば、燃料ガス)と酸化剤(例えば、空気)とが混合し得る距離が長くなり、酸化剤と燃料とを均一に混合しやすくなる。これにより、燃焼室における酸化剤と燃料との混合気体の燃焼を均一化することができるので、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る船舶は、前述のガスエンジンを備えている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、燃料と酸化剤とが混合可能な距離を確保し、更に、それぞれの吸気管に向かう気体の流速が異なる場合でも、酸化剤と燃料とを均一に混合することができるガスエンジンおよびこれを備えた船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係るガスエンジンのシリンダ付近の構成を示す縦断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るガスエンジンのシリンダヘッドの平面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るガスエンジンが備える吸気通路の斜視図である。
図4図3の平面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るガスエンジンが備える噴射管の(A)平面図、(B)展開図、(C)切断線I-Iにおける縦断面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るガスエンジンが備える噴射管の(A)平面図、(B)展開図、(C)切断線II-IIにおける縦断面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係るガスエンジンが備える吸気通路の平面図である。
図8】軸線周りに回転した噴射管の(A)平面図、(B)展開図、(C)切断線III-IIIにおける縦断面図である。
図9】回転数と出力に基づくマップの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の一実施形態に係るガスエンジンについて、図1乃至9を用いて説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係るガスエンジンについて、図1乃至5を用いて説明する。
まず、本実施形態に係るガスエンジン1の構成について説明する。
図1には、本実施形態のガスエンジン1が備えるシリンダ16付近の構成が示されている。シリンダ16は筒状とされ、その上部にシリンダヘッド16aが取り付けられ、シリンダ16内には、シリンダ16内を往復摺動するピストン(図示せず)が収められている。また、シリンダ16内には、シリンダ16の内壁とピストンとによって区画された燃焼室18が形成されている。
【0031】
シリンダ16に取り付けられているシリンダヘッド16aの上部に設けられた吸気口22A,22Bには、後述の吸気通路10と連通している曲管状の吸気管12A,12Bの一端(気体の流れの下流側の端部)が接続されている(図2参照)。
【0032】
シリンダヘッド16aの吸気口22A,22Bと吸気管12A,12Bとの接続部分には、外形が漏斗状とされた吸気バルブ20A,20Bが設置されている。吸気バルブ20A,20Bは、漏斗状のテーパ部分がシリンダヘッド16aに設けられた吸気口22A,22Bを図1で示す下側から塞ぐように、図示しない機構によって図1で示す上側に付勢されているが、必要に応じて(例えば、シリンダ16への吸気時)吸気バルブ20A,20Bをシリンダ16内に押し下げることで、吸気管12A,12Bと燃焼室18とを連通させることができる。
【0033】
吸気通路10は、図1で示す上下方向に延在する通路を形成している。また、吸気通路10内には、燃料ガスを噴射する燃料噴射手段31が設置されている。
【0034】
図1に示すように、吸気管12A,12Bは、吸気通路10が分岐部14にて2方向に分岐された曲管状の通路とされる。本実施形態においては、図1で示す経路が長い方の吸気管を吸気管12Aとし、経路が短い方の吸気管を吸気管12Bとする。
【0035】
次に、前述の燃料噴射手段31について説明する。
本実施形態において、燃料ガスを吸気通路10内に噴射する燃料噴射手段31は、吸気管12Aと吸気管12Bに対して、それぞれ異なる量の燃料ガスを噴射することができる。
【0036】
以下、燃料噴射手段31について詳細に説明する。
燃料噴射手段31は、図3,4に示すように、1本の噴射管40を備えている。噴射管40は、吸気通路10内の中心付近に位置するように軸線方向に沿って吸気通路10に直交するように挿入されて設けられている。
【0037】
噴射管40は、図5(A),(B),(C)に示すように、軸線方向に2列、軸線に対して対称に(図5(C)で示す水平面に対してなす角θを参照)、2つの方向にそれぞれ向けられた複数の噴射口42が穿設されている。図5(A),(B),(C)の場合、一の方向に向く複数の噴射口を噴射口42Aとし、他の方向を向く複数の噴射口を噴射口42Bとしている。なお、噴射口42Aの数と噴射口42Bの数は等しい。また、複数の噴射口42Aの面積は全て等しく、複数の噴射口42Bの面積は全て等しい。ここで言う一の方向とは、例えば、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く方向であり、他の方向とは、例えば、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く方向である。
【0038】
噴射口42Aの開口の面積は、噴射口42Bの開口の面積と比べて大きく設定されている。また、前述したように、噴射口42Aの数と噴射口42Bの数は等しい。また、前述したように、複数の噴射口42Aの面積は全て等しく、複数の噴射口42Bの面積は全て等しい。これにより、一の方向に向く複数の噴射口42Aの総面積と、他の方向を向く複数の噴射口42Bの総面積とを異なるものとしている。換言すれば、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Bの総面積よりも大きいものとしている。即ち、吸気管12Aに向かって流れる気体に対しては、より多くの燃料ガスを噴射できることになる。
【0039】
なお、前述の説明においては、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Bの総面積よりも大きく設定したが、特にこの組み合わせに限定するものではない。実際には、流速が早い方の吸気管に向く複数の噴射口の総面積を、他の方向に向く複数の噴射口の総面積よりも大きくすれば良い。これは、気体の流速が速い方が、単位時間あたりに流れる燃料ガスの量、即ち、必要な燃料ガスの量が多くなる、ということから明らかである。
【0040】
次に、本実施形態に係るガスエンジン1の気体の流れについて説明する。
吸気通路10の図1で示す下方には、図示しないインタークーラが設置されている。インタークーラによって冷却された空気が、吸気通路10の下方から吸気通路10内を流れて上方に位置する分岐部14側に向かう。このとき、吸気通路10に挿入された燃料噴射手段31から吸気通路10内を流れる空気に向かって燃料ガスが噴射される。空気と空気に向かって噴射された燃料ガスは、分岐部14に到達した後、吸気管12Aと吸気管12Bとに導かれる。
【0041】
前述の通り、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Bの総面積よりも大きいものとしているので、吸気管12Aに向かって流れる気体に対しては、より多くの燃料ガスを噴射していて、吸気管12Bに向かって流れる気体に対しては、より少ない燃料ガスを噴射している。
【0042】
空気と燃料ガスとは、吸気通路10内や吸気管12A,12B内を流れるにつれ徐々に混合される。吸気管12A,12B内で混合が進んだ混合気体は、吸気バルブ20A,20Bが押し下げられ吸気口22A,22Bが開状態となったときに燃焼室18に導かれる。このとき、吸気管12Aと吸気管12Bとは流路の形状が異なるので、流通する混合気体の流速は、吸気管12Aと吸気管12Bとで異なる。このため、吸気通路10内においても、吸気管12Aに向かう混合気体の流速と、吸気管12Bに向かう混合気体の流速とが異なる。なお、ここでは、吸気管12A内を流れる混合気体の流速が、吸気管12B内を流れる混合気体の流速よりも速いものと仮定している。即ち、吸気通路10内において、吸気管12Aに向かう混合気体の流速が、吸気管12Bに向かう混合気体の流速よりも速いものと仮定している。
【0043】
それぞれの吸気管12A,12Bを流れて燃焼室18に導かれた空気と燃料ガスとの混合気体は、図示しない点火装置によって着火されて燃焼する。このとき、それぞれの吸気管12A,12Bから導かれた混合気体に燃料濃度のばらつきがある場合、燃焼室18での燃焼が不均一なものになり、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの可能性が生じる。
【0044】
本実施形態においては、以下の効果を奏する。
燃料噴射手段31は、分岐部14よりも気体の流れ方向の上流に設けられている。これによれば、吸気通路10の下流に位置する吸気管12A,12Bのそれぞれに燃料を直に噴射した場合と比べて、空気と燃料ガスとが混合し得る距離が長くなり、空気と燃料ガスとを均一に混合しやすくなる。
【0045】
また、燃料噴射手段31は、複数の吸気管12A,12Bに対してそれぞれ異なる量の燃料を噴射できる。例えば、吸気通路10内において、吸気管12Aに向かう混合気体の流速が、吸気管12Bに向かう混合気体の流速よりも速いものとした場合、吸気管12Aに向かう気体の方向を向いている噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かう気体の方向を向いている噴射口42Bの総面積と比べて大きくすることができる。これにより、空気と燃料ガスとの混合気体の流速が早くなる吸気管12Aに対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管12Bに対しては、燃料量を減少させることができる。これによって、それぞれの吸気管12A,12Bを介して燃焼室18に供給される混合気体の燃料濃度を吸気管12A,12Bによらず均一にすることができる。ひいては、燃焼室18における空気と燃料ガスとの混合気体の燃焼を均一化することができるので、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0046】
〔第2実施形態〕
以下に、本発明の第2実施形態について図6を参照して説明する。本実施形態は第1実施形態に対して燃料噴射手段の形態が異なり、その他の点については同様である。したがって、第1実施形態と異なる点についてのみ説明し、その他は同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0047】
本実施形態の燃料噴射手段32が備える噴射管40は、図6(A),(B),(C)に示すように、軸線方向に2列、軸線に対して対称(図6(C)で示す水平面に対してなす角θを参照)に、2つの方向にそれぞれ向けられた複数の噴射口42が穿設されている。図6(A),(B),(C)の場合、一の方向に向く複数の噴射口を噴射口42Aとし、他の方向を向く複数の噴射口を噴射口42Bとしている。なお、噴射口42A,42Bの1つ当たりの面積は等しい。ここで言う一の方向とは、例えば、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く方向であり、他の方向とは、例えば、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く方向である。
【0048】
噴射口42Aの数は、噴射口42Bの数よりも多く穿設されている。また、前述したように、噴射口42A,42Bの1つ当たりの面積は等しい。これにより、一の方向に向く複数の噴射口42Aの総面積と、他の方向を向く複数の噴射口42Bの総面積とを異なるものとしている。換言すれば、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Bの総面積よりも大きいものとしている。即ち、吸気管12Aに向かって流れる気体に対しては、より多くの燃料ガスを噴射できることになる。
【0049】
なお、前述の説明においては、吸気管12Aに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かって流れる気体に向く複数の噴射口42Bの総面積よりも大きく設定したが、特にこの組み合わせに限定するものではない。実際には、流速が早い方の吸気管に向く複数の噴射口の総面積を、他の方向に向く複数の噴射口の総面積よりも大きくすれば良い。これは、気体の流速が速い方が、単位時間あたりに流れる燃料ガスの量、即ち、必要な燃料ガスの量が多くなる、ということから明らかである。ここでは、吸気管12A内を流れる混合気体の流速が、吸気管12B内を流れる混合気体の流速よりも速いものと仮定している。即ち、吸気通路10内において、吸気管12Aに向かう混合気体の流速が、吸気管12Bに向かう混合気体の流速よりも速いものと仮定している。
【0050】
本実施形態においては、以下の効果を奏する。
吸気通路10内において、吸気管12Aに向かう混合気体の流速が、吸気管12Bに向かう混合気体の流速よりも速いものとした場合、吸気管12Aに向かう気体の方向を向いている噴射口42Aの総面積を、吸気管12Bに向かう気体の方向を向いている噴射口42Bの総面積と比べて大きくすることができる。これにより、空気と燃料ガスとの混合気体の流速が早くなる吸気管12Aに対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管12Bに対しては、燃料量を減少させることができる。これによって、それぞれの吸気管12A,12Bを介して燃焼室18に供給される混合気体の燃料濃度を吸気管12A,12Bによらず均一にすることができる。ひいては、燃焼室18における空気と燃料ガスとの混合気体の燃焼を均一化することができるので、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0051】
〔第3実施形態〕
以下に、本発明の第3実施形態について図7を参照して説明する。本実施形態は第1及び第2実施形態に対して燃料噴射手段の形態が異なり、その他の点については同様である。したがって、第1及び第2実施形態と異なる点についてのみ説明し、その他は同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0052】
本実施形態の燃料噴射手段33は、複数の噴射口42が軸線方向に一列に穿設された1本の噴射管40を備えている。また、噴射管40は、吸気管12Aに向かって流れる気体と吸気管12Bに向かって流れる気体のうち、流れる気体の流速が速い方に寄せて配置されている。
【0053】
なお、ここでは、吸気管12Aに向かう混合気体の流速が、吸気管12Bに向かう混合気体の流速よりも速いものと仮定し、さらに、図7で示す吸気通路10内において、左右に延びる軸線より下側に、主として吸気管12Aに向かう気体が流れるものと仮定している。そのため、図7において、噴射管40は、主として吸気管12Aに向かう気体が流れる吸気通路10(左右に延びる軸線より下側の吸気通路10)に配置されている。
【0054】
本実施形態においては、以下の効果を奏する。
複数の吸気管12A,12Bに向かう気体の流れのうち、流速の速い気体の流れに噴射管40を寄せて配置することで、気体の流速が早くなる吸気管12Aに対しては、燃料量を増加させて、気体の流速が遅くなる吸気管12Bに対しては、燃料量を減少させることができる。これによって、それぞれの吸気管12A,12Bを介して燃焼室18に供給される混合気体の燃料濃度を吸気管12A,12Bによらず均一にすることができる。ひいては、燃焼室18における空気と燃料ガスとの混合気体の燃焼を均一化することができるので、NOxの発生、ノッキングの発生、未燃分の増加などの事象を抑制することができる。
【0055】
なお、第1乃至第3実施形態の燃料噴射手段31,32,33には、噴射管40を軸線周りに回転可能な回転機構(図示せず)を備えていても良い(図8参照)。これによって、空気と燃料ガスとの混合を促進する最適な方向に燃料ガスを噴射できる。このとき、回転機構の駆動は、噴射管40の回転角度を任意に調整でき、かつ、回転角度の情報を取得可能な、サーボモータ等が好ましい。回転角度は、例えば、予め得られたデータから作成されたガスエンジン1の出力と回転数のマップ(図9参照)を基に、実際のガスエンジン1の出力と回転数から図示しない制御部で一義的に決定される。
【0056】
また、第1乃至第3実施形態の燃料噴射手段31,32,33が備える噴射管40に穿設された噴射口42は、気体の流れ方向の下流側に向いて形成されていることが好ましい。具体的には、図5(C),図6(C),図8(C)で示す水平面に対してなす角θやφの範囲が、0°以上90°以下とされていれば良い。これによれば、ガスエンジン1の低出力時に、仮に、シリンダ16側から気体が逆流した場合でも、複数の噴射口42から噴射される燃料ガスは、気体の上流側に噴射されないので、複数の噴射口42から噴射された燃料ガスは上流側に逆流しにくくなる。これによって、燃料ガスが気体の下流側に設置されているインタークーラ(図示せず)側に逆流することを防ぐことができる。
【0057】
また、第1乃至第3実施形態の燃料噴射手段31,32,33の構成は、それぞれ組み合わせることができる。例えば、第1実施形態の燃料噴射手段31が備える噴射管40を、第3実施形態の燃料噴射手段33のように、気体の流速が速い方に寄せて配置しても良い。
【0058】
なお、ガスエンジン1を構成する他の部品(図示せず)の配置との関係で、吸気管12A,12Bを吸気口22A,22Bに向けて対称的に配置可能となり分岐後の流速が均一となる場合は、噴射口42A,42Bから噴射される燃料量を吸気管12A,12Bによって異なる量とする必要は無く、同量の燃料を噴射すればよい。
【符号の説明】
【0059】
1 ガスエンジン
10 吸気通路
12A,12B 吸気管
14 分岐部
16 シリンダ
16a シリンダヘッド
18 燃焼室
20A,20B 吸気バルブ
22A,22B 吸気口
31,32,33 燃料噴射手段
40 噴射管
42(42A,42B) 噴射口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9