(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ダイレクトイメージング露光装置及びダイレクトイメージング露光方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2021197722
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2016221962の分割
【原出願日】2016-11-14
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】300091670
【氏名又は名称】株式会社アドテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昌治
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-203697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0129397(US,A1)
【文献】特開2010-156901(JP,A)
【文献】特開2004-212471(JP,A)
【文献】特開2006-179921(JP,A)
【文献】国際公開第2005/022263(WO,A2)
【文献】国際公開第94/028574(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/122419(WO,A1)
【文献】特開2005-210112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光エリアに設計露光パターンに従ったパターンで光を照射する露光ユニットと、
臨界露光量以上の露光がされることによって感光する感光層が表面に形成されている対象物を露光エリアを通して相対的に且つ連続的に移動させる移動機構と
を備えており、
露光ユニットは、
光源と、光源からの光が照射される位置に配置され、露光エリアに向けて光を指向させる状態であるオン状態と露光エリアに向けて光を指向させない状態であるオフ状態のいずれかとされる多数の画素を有して露光エリアに照射される光が設計露光パターンに従ったパターンとなるように光源からの光を空間的に変調させる空間光変調器と、空間光変調器により空間的に変調された光を露光エリアに投影する光学系とを備えているダイレクトイメージング露光装置であって、
空間光変調器の各画素を制御する変調器コントローラと、
変調器コントローラによる各画素のオンオフ制御のためのデータである露光制御データを記憶した記憶部と
が設けられており、
空間光変調器は、直角格子状に配列された多数の画素から成るものであり、
露光エリアには、空間光変調器の各画素に対応した対応座標が設定され
ていて、各対応座標は、直角格子の各交点の位置に相当しており、
対象物の表面には、露光されるべき箇所を示すものとして要露光点が設定されており、各要露光点は露光点ピッチの距離で互いに隔てられた点であり、
移動機構は、光学系における光軸に垂直な移動方向に対象物を連続的に直線移動させる機構であって、移動の際に対象物の各露光点が移動するラインとして移動方向に沿ったスキャンラインが設定されており、
各要露光点は、移動方向に並んでいるとともに、光軸に対して垂直であって移動方向にも垂直な方向にも並んでいてスキャンラインは平行に複数設定されており、
光学系は、空間光変調器のオン状態である各画素に対応した各対応座標上に当該画素による画素パターンを投影するものであり、
各画素パターンは、互いに重なっておらず、
露光制御データは、各画素パターンの配列において、光軸に垂直なある方向をX方向、光軸に垂直であってX方向にも垂直な方向をY方向としたとき、X方向に並ぶ画素パターンの各列は、隣りのX方向の列の画素パターンに対してY方向において同一直線上ではなくずれて配列され、X方向の列における各画素パターンは、隣りのX方向の列において隣り合う二つの画素パターンの間のX方向の位置に位置するよう各画素のオンオフを行うデータであり、
前記移動方向は、X方向に沿った方向であり、
Y方向における各画素パターンの幅は、各スキャンラインの離間間隔の2倍よりも狭く且つ1倍より広くて、対象物が移動機構によって移動した際、要露光点を中心とし露光点ピッチを一辺とする方形の領域が当該要露光点を通るスキャンライン上の画素パターンによって露光されるとともに隣りのスキャンライン上の画素パターンの周辺部によっても重畳的に露光されるようになっており、
各画素パターンにおける照度分布は、中央部において高く周辺部において低くなる分布であり、
露光制御データにおいて、所定回数として、最大回数と、最大回数よりも少なく且つ1回及び2回を含む回数とが設定されており、露光制御データは、移動機構による対象物の移動に伴って、画素パターンが投影されている対応座標に対象物の表面の同一の要露光点が前記所定回数位置して露光がされるようにするものであり、
前記所定回数は、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ以上である要露光点であるにおいては最大回数であり、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ未満である要露光点においては境界までの距離(0を除く)に応じて設定された最大回数よりも少ない回数(0回を除く)であり、
前記所定回数における最大回数は、同一の要露光点が当該回数位置して露光がされた場合、隣接する要露光点が実効露光境界となる回数であり、実効露光境界は、その境界を境に露光量が臨界露光量を下回る境界であることを特徴とするダイレクトイメージング露光装置。
【請求項2】
前記空間光変調器は、デジタルミラーデバイスであることを特徴とする請求項1記載のダイレクトイメージング露光装置。
【請求項3】
露光エリアに向けて光を指向させる状態であるオン状態と露光エリアに向けて光を指向させない状態であるオフ状態のいずれかとされる多数の画素を有する空間光変調器に光源からの光を照射する変調器照射ステップと、
空間光変調器を制御して、露光エリアに照射される光が設計露光パターンに従ったパターンとなるように空間光変調器を制御する変調器制御ステップと、
空間光変調器からの光を光学系により露光エリアに投影する投影ステップと、
臨界露光量以上の露光がされることによって感光する感光層が表面に形成されている対象物を露光エリアを通して相対的に且つ連続的に移動させる移動ステップと
を備えたダイレクトイメージング露光方法であって、
空間光変調器は、直角格子状に配列された多数の画素から成るものであり、
露光エリアには、空間光変調器の各画素に対応した対応座標が設定され
ていて、各対応座標は、直角格子の各交点の位置に相当しており、
対象物の表面には、露光されるべき箇所を示すものとして要露光点が設定されており、各要露光点は露光点ピッチの距離で互いに隔てられた点であり、
移動ステップは、光学系における光軸に垂直な移動方向に対象物を連続的に直線移動させるステップであって、移動の際に対象物の各露光点が移動するラインとして移動方向に沿ったスキャンラインが設定されており、
各要露光点は、移動方向に並んでいるとともに、光軸に対して垂直であって移動方向にも垂直な方向にも並んでいてスキャンラインは平行に複数設定されており、
投影ステップは、空間光変調器のオン状態である各画素に対応した各対応座標上に当該
画素による画素パターンを投影するステップであり、
各画素パターンは、互いに重なっておらず、
変調器制御ステップは、各画素パターンの配列において、光軸に垂直なある方向をX方向、光軸に垂直であってX方向にも垂直な方向をY方向としたとき、X方向に並ぶ画素パターンの各列は、隣りのX方向の列の画素パターンに対してY方向において同一直線上ではなくずれて配列され、X方向の列における各画素パターンは、隣りのX方向の列において隣り合う二つの画素パターンの間のX方向の位置に位置するよう各画素のオンオフを行うステップであり、
前記移動方向は、X方向に沿った方向であり、
Y方向における各画素パターンの幅は、各スキャンラインの離間間隔の2倍よりも狭く且つ1倍より広くて、投影ステップ及び移動ステップは、要露光点を中心とし露光点ピッチを一辺とする方形の領域が、当該要露光点を通るスキャンライン上の画素パターンによって露光されるとともに隣りのスキャンライン上の画素パターンの周辺部によっても重畳的に露光されるステップであり、
各画素パターンにおける照度分布は、中央部において高く周辺部において低くなる分布であり、
変調器制御ステップ及び移動ステップにおいて、所定回数として、最大回数と、最大回数よりも少なく且つ1回及び2回を含む回数とが設定されており、変調器制御ステップ及び移動ステップは、移動機構による対象物の移動に伴って、画素パターンが投影されている対応座標に対象物の表面の同一の要露光点が前記所定回数位置して露光がされるようにするステップであり、
前記所定回数は、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ以上である要露光点においては最大回数であり、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ未満である要露光点においては境界までの距離(0を除く)に応じて設定された最大回数よりも少ない回数(0回を除く)であり、
前記所定回数における最大回数は、同一の要露光点が当該回数位置して露光がされた場合、隣接する要露光点が実効露光境界となる回数であり、実効露光境界は、その境界を境に露光量が臨界露光量を下回る境界であることを特徴とするダイレクトイメージング露光方法。
【請求項4】
前記空間光変調器は、デジタルミラーデバイスであることを特徴とする請求項3記載のダイレクトイメージング露光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、ダイレクトイメージング露光の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に感光層が形成されている対象物を露光して感光層を感光させる露光技術は、フォトリソグラフィの主要技術として各種微細回路や微細構造の形成等に盛んに利用されている。代表的な露光技術では、露光パターンと同様のパターンが形成されたマスクに光を照射し、マスクの像を対象物の表面に投影することで露光パターンの光が対象物に照射されるようにする。
【0003】
このようなマスクを使用した露光技術とは別に、空間光変調器を使用して対象物の表面に直接的に像を形成して露光する技術が知られている。以下、この技術を、本明細書において、ダイレクトイメージング露光と呼び、DI露光と略称する。
DI露光において、典型的な空間光変調器はDMD(Digital Mirror Device)である。DMDは、微小な方形のミラーが直角格子状に配設された構造を有する。各ミラーは、光軸に対する角度が独立に制御されるようになっており、光源からの光を反射して対象物に到達させる姿勢と、光源からの光を対象物に到達させない姿勢とを取り得るようになっている。DMDは、各ミラーを制御するコントローラを備えており、コントローラは、露光パターンに従って各ミラーを制御し、対象物の表面に露光パターンの光が照射されるようにする。
【0004】
DI露光の場合、マスクを使用しないので、多品種少量生産において優位性が発揮される。マスクを使用した露光の場合、品種毎にマスクを用意する必要があり、マスクの保管等のコストも含めて大きなコストがかかる。また、異品種の生産のためにマスクを交換する際には、装置の稼働を停止する必要があり、再開までに手間と時間を要する。このため、生産性が低下する要因となる。一方、DI露光の場合、品種毎に各ミラーの制御データを用意しておくだけで良く、異品種の製造の際には制御データの変更のみで対応できるので、コスト上、生産性上の優位性は著しい。また、必要に応じてワーク(露光対象物)毎に露光パターンを微調整することも可能であり、プロセスの柔軟性においても優れている。
【0005】
空間光変調器としては、反射型である上記DMDの他、透過型のものも検討されている。透過型の空間光変調器の典型的なものは、透過型の液晶表示素子を応用したもので、各セルの液晶の配列により光の透過・遮断を制御して対象物に露光パターンの光が照射されるようにするものである。
尚、以下の説明において、空間光変調器のうち、光を反射又は透過させて対象物に到達させる各部分を画素と呼ぶ。画素は、反射型の空間光変調器の場合には各ミラーということになるし、透過型の空間光変調器の場合、各セルということになる。また、各画素について、光を反射又は透過させて対象物に到達させる状態をオン状態といい、光を対象物に到達させない状態をオフ状態という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-355006号公報
【文献】特開2005-203697号公報
【文献】特開2010-156901号公報
【文献】特開2013-543647号公報
【文献】特開2008-76590号公報
【文献】特開2008-256730号公報
【文献】米国特許出願公開第2005/012937号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DI露光は、上記のような優位性を有するものの、デジタル技術特有の欠点も抱えている。その一つが、露光解像度の限界である。DI露光では、空間光変調器の各画素のピクセルサイズの投影倍率より細かい露光を行うことができない。この点は、設計情報としての露光パターン(製品の設計上対象物に露光したいパターン、以下、設計露光パターンという。)の通りに忠実に露光ができないということもできる。設計露光パターンは、例えば製造する製品がプリント基板である場合、基板上に形成する回路の設計上のパターンである。
【0008】
より具体的に説明すると、DI露光では、設計露光パターンに従ってラスタイメージ(ビットマップイメージ)が作成される。設計露光パターンはベクターイメージの場合が多いが、ベクターイメージデータでは空間光変調器の各画素のオンオフ制御ができないためである。この場合、ラスタイメージのデータ解像度は、空間光変調器の画素サイズ×投影倍率までしか細かくできない。それ以上データ解像度を高くしても、空間光変調器では表現できないため、意味がないからである。
【0009】
その一方、設計露光パターンのデータは、ラスタイメージの解像度より高い解像度のデータである場合が多い。この場合、設計露光パターンに従ってラスタイメージを生成する際、不可避的にイメージは“粗く”なることになる。これに伴い、幾つかの問題が派生する。
この点について、
図10及び
図11を使用して説明する。
図10及び
図11は、空間光変調器の制御用のイメージデータが設計露光パターンより粗くなることによる問題について示した図である。
【0010】
このうち、
図10には、ジャギー発生の問題が示されている。
図10(1)は設計露光パターンの一例を示し、
図10(2)は(1)の設計露光パターンから生成したラスタイメージを示す。
図10(1)に示すように設計露光パターンが斜めの境界を持つとする。「斜め」とは、空間光変調器の画素の配列方向に対して斜めということである。この場合、設計露光パターンを二値化してラスタイメージにする際、
図10(2)に示すように、斜めの境界においてジャギーが発生する。
ジャギーが発生すると、例えば露光が微細回路の形成のために行われる場合、形成された微細回路において不要輻射(ノイズ)が生じ易くなる問題がある。また一般的に、露光により形成されたパターンにジャギーがあると、見栄えが悪い。したがって、できるだけジャギーのない滑らかな輪郭形状のパターンを形成することが、DI露光において求められる。
【0011】
また、ラスタイメージへの変換に関連して、露光パターンの変更の自由度が低いという課題も存在している。これを模式的に示したのが
図11である。
設計露光パターンは、微細回路の形成のようにしばしば線状の部分を含んでいる。この場合、線幅は、ラスタイメージにおけるピクセルサイズの単位に丸められる。例えば、設計露光パターンの線幅が8.4ピクセルであった場合、8.4ピクセルにはできないので、
図11(1)に示すように、8ピクセルの線幅とされる。この場合、例えば線幅を設計露光パターンにおいて7.4ピクセルに変更したい場合、ラスタイメージでは丸められて7ピクセルとなる。そして、この場合、線路の中心位置(幅方向の中央位置)は変更するべきではない場合が多いので、そうすると、
図11(2)に示すように6ピクセルの線幅となってしまう。つまり、設計露光パターンよりも1.4ピクセル分細い線となってしまう。
【0012】
このように、DI露光では、設計露光パターンからラスタイメージデータを生成する際にどうしてもデータが粗くなるため、設計露光パターン又はそれに近い解像度で露光することができず、これに起因した問題が発生する。上記以外にも、詳細は省略するが、
図10(2)に示すような斜め45度に延びる線路のパターンの露光において線幅を補正しようとすると、補正単位が√(2)倍されるため、過剰補正が発生するといった問題もある。
【0013】
本願の発明は、このようなDI露光の課題を解決するために為されたものであり、設計露光パターンに従って空間光変調器を制御して露光を行う際、照射される光のパターンが設計露光パターンにできるだけ近づくよう、従来の解像度の限界を超えて解像度を実効的に高くすることができる優れた技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、この出願の請求項1記載の発明は、露光エリアに設計露光パターンに従ったパターンで光を照射する露光ユニットと、
臨界露光量以上の露光がされることによって感光する感光層が表面に形成されている対象物を露光エリアを通して相対的に且つ連続的に移動させる移動機構と
を備えており、
露光ユニットは、
光源と、光源からの光が照射される位置に配置され、露光エリアに向けて光を指向させる状態であるオン状態と露光エリアに向けて光を指向させない状態であるオフ状態のいずれかとされる多数の画素を有して露光エリアに照射される光が設計露光パターンに従ったパターンとなるように光源からの光を空間的に変調させる空間光変調器と、空間光変調器により空間的に変調された光を露光エリアに投影する光学系とを備えているダイレクトイメージング露光装置であって、
空間光変調器の各画素を制御する変調器コントローラと、
変調器コントローラによる各画素のオンオフ制御のためのデータである露光制御データを記憶した記憶部と
が設けられており、
空間光変調器は、直角格子状に配列された多数の画素から成るものであり、
露光エリアには、空間光変調器の各画素に対応した対応座標が設定されていて、各対応座標は、直角格子の各交点の位置に相当しており、
対象物の表面には、露光されるべき箇所を示すものとして要露光点が設定されており、各要露光点は露光点ピッチの距離で互いに隔てられた点であり、
移動機構は、光学系における光軸に垂直な移動方向に対象物を連続的に直線移動させる機構であって、移動の際に対象物の各露光点が移動するラインとして移動方向に沿ったスキャンラインが設定されており、
各要露光点は、移動方向に並んでいるとともに、光軸に対して垂直であって移動方向にも垂直な方向にも並んでいてスキャンラインは平行に複数設定されており、
光学系は、空間光変調器のオン状態である各画素に対応した各対応座標上に当該画素による画素パターンを投影するものであり、
各画素パターンは、互いに重なっておらず、
露光制御データは、各画素パターンの配列において、光軸に垂直なある方向をX方向、光軸に垂直であってX方向にも垂直な方向をY方向としたとき、X方向に並ぶ画素パターンの各列は、隣りのX方向の列の画素パターンに対してY方向において同一直線上ではなくずれて配列され、X方向の列における各画素パターンは、隣りのX方向の列において隣り合う二つの画素パターンの間のX方向の位置に位置するよう各画素のオンオフを行うデータであり、
前記移動方向は、X方向に沿った方向であり、
Y方向における各画素パターンの幅は、各スキャンラインの離間間隔の2倍よりも狭く且つ1倍より広くて、対象物が移動機構によって移動した際、要露光点を中心とし露光点ピッチを一辺とする方形の領域が当該要露光点を通るスキャンライン上の画素パターンによって露光されるとともに隣りのスキャンライン上の画素パターンの周辺部によっても重畳的に露光されるようになっており、
各画素パターンにおける照度分布は、中央部において高く周辺部において低くなる分布であり、
露光制御データにおいて、所定回数として、最大回数と、最大回数よりも少なく且つ1回及び2回を含む回数とが設定されており、露光制御データは、移動機構による対象物の移動に伴って、画素パターンが投影されている対応座標に対象物の表面の同一の要露光点が前記所定回数位置して露光がされるようにするものであり、
前記所定回数は、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ以上である要露光点であるにおいては最大回数であり、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ未満である要露光点においては境界までの距離(0を除く)に応じて設定された最大回数よりも少ない回数(0回を除く)であり、
前記所定回数における最大回数は、同一の要露光点が当該回数位置して露光がされた場合、隣接する要露光点が実効露光境界となる回数であり、実効露光境界は、その境界を境に露光量が臨界露光量を下回る境界である
という構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記空間光変調器は、デジタルミラーデバイスであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、露光エリアに向けて光を指向させる状態であるオン状態と露光エリアに向けて光を指向させない状態であるオフ状態のいずれかとされる多数の画素を有する空間光変調器に光源からの光を照射する変調器照射ステップと、
空間光変調器を制御して、露光エリアに照射される光が設計露光パターンに従ったパターンとなるように空間光変調器を制御する変調器制御ステップと、
空間光変調器からの光を光学系により露光エリアに投影する投影ステップと、
臨界露光量以上の露光がされることによって感光する感光層が表面に形成されている対象物を露光エリアを通して相対的に且つ連続的に移動させる移動ステップと
を備えたダイレクトイメージング露光方法であって、
空間光変調器は、直角格子状に配列された多数の画素から成るものであり、
露光エリアには、空間光変調器の各画素に対応した対応座標が設定されていて、各対応座標は、直角格子の各交点の位置に相当しており、
対象物の表面には、露光されるべき箇所を示すものとして要露光点が設定されており、各要露光点は露光点ピッチの距離で互いに隔てられた点であり、
移動ステップは、光学系における光軸に垂直な移動方向に対象物を連続的に直線移動させるステップであって、移動の際に対象物の各露光点が移動するラインとして移動方向に沿ったスキャンラインが設定されており、
各要露光点は、移動方向に並んでいるとともに、光軸に対して垂直であって移動方向にも垂直な方向にも並んでいてスキャンラインは平行に複数設定されており、
投影ステップは、空間光変調器のオン状態である各画素に対応した各対応座標上に当該
画素による画素パターンを投影するステップであり、
各画素パターンは、互いに重なっておらず、
変調器制御ステップは、各画素パターンの配列において、光軸に垂直なある方向をX方向、光軸に垂直であってX方向にも垂直な方向をY方向としたとき、X方向に並ぶ画素パターンの各列は、隣りのX方向の列の画素パターンに対してY方向において同一直線上ではなくずれて配列され、X方向の列における各画素パターンは、隣りのX方向の列において隣り合う二つの画素パターンの間のX方向の位置に位置するよう各画素のオンオフを行うステップであり、
前記移動方向は、X方向に沿った方向であり、
Y方向における各画素パターンの幅は、各スキャンラインの離間間隔の2倍よりも狭く且つ1倍より広くて、投影ステップ及び移動ステップは、要露光点を中心とし露光点ピッチを一辺とする方形の領域が、当該要露光点を通るスキャンライン上の画素パターンによって露光されるとともに隣りのスキャンライン上の画素パターンの周辺部によっても重畳的に露光されるステップであり、
各画素パターンにおける照度分布は、中央部において高く周辺部において低くなる分布であり、
変調器制御ステップ及び移動ステップにおいて、所定回数として、最大回数と、最大回数よりも少なく且つ1回及び2回を含む回数とが設定されており、変調器制御ステップ及び移動ステップは、移動機構による対象物の移動に伴って、画素パターンが投影されている対応座標に対象物の表面の同一の要露光点が前記所定回数位置して露光がされるようにするステップであり、
前記所定回数は、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ以上である要露光点においては最大回数であり、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ未満である要露光点においては境界までの距離(0を除く)に応じて設定された最大回数よりも少ない回数(0回を除く)であり、
前記所定回数における最大回数は、同一の要露光点が当該回数位置して露光がされた場合、隣接する要露光点が実効露光境界となる回数であり、実効露光境界は、その境界を境に露光量が臨界露光量を下回る境界である
という構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項3の構成において、前記空間光変調器は、デジタルミラーデバイスであるという構成を有する。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明する通り、この出願の発明によれば、同じ要露光点を複数回露光する多重露光を採用し、各要露光点の露光回数が、設計露光パターンの境界までの距離に応じて設定されるので、実効的な被露光領域の大きさをより細かく調整できる。このため、実効的な露光の解像度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のダイレクトイメージング露光装置の概略図である。
【
図2】
図1に示す装置が備える露光ユニットの概略図である。
【
図3】各露光ユニットによる露光エリアについて示した斜視概略図である。
【
図4】各画素パターン及び各画素パターンの照度分布を概略的に示した斜視図である。
【
図8】実施形態のDI露光装置における露光制御データについて模式的に示した図である。
【
図9】実施形態のDI露光装置における露光制御データの一例を示した概略図である。
【
図10】DI露光技術の課題について示した図である。
【
図11】DI露光技術の課題について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、この出願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、DI露光装置の発明の実施形態について説明する。
図1は、実施形態のDI露光装置の概略図である。
図1に示すDI露光装置は、露光エリアに設計露光パターンに従ったパターンの光を照射する露光ユニット1と、露光エリアを通して対象物Wを相対的に移動させる移動機構2とを備えている。
この実施形態のDI露光装置は、プリント基板製造用の装置となっている。したがって、対象物Wは、基板上に配線用の導電膜が形成され、その上に感光層が形成されたものとなっている。感光層は、塗布されたレジストフィルムである。
【0018】
図2は、
図1に示す装置が備える露光ユニット1について説明する。
図2は、
図1に示す装置が備える露光ユニット1の概略図である。
図2に示すように、露光ユニット1は、光源3と、光源3からの光を空間的に変調する空間光変調器4と、空間光変調器4により変調された光による像を投影する光学系(以下、投影光学系)5等を備えている。
【0019】
光源3は、対象物Wにおける感光層の感光波長に応じて最適な波長の光を出力するものが使用される。レジストフィルムの感光波長は可視短波長域から紫外域である場合が多く、光源3としては、405nmや365nmのような可視短波長域から紫外域の光を出力するものが使用される。また、空間光変調器4の性能を活かすには、コヒーレントな光を出力するものであることが好ましく、このためレーザー光源が好適に使用される。例えば、窒化ガリウム(GaN)系の半導体レーザーが使用される。
【0020】
空間光変調器4としては、この実施形態ではDMDが使用されている。前述したように、DMDでは、各画素は微小なミラー(
図2中不図示)である。ミラー(以下、画素ミラーという。)は、例えば13.68μm角程度の正方形のミラーであり、多数の画素ミラーが直角格子状に配列された構造とされる。配列数は、例えば1024×768個である。
【0021】
空間光変調器4は、各画素ミラーを制御する変調器コントローラ41を備えている。実施形態のDI露光装置は、全体を制御する主制御部7を備えている。変調器コントローラ41は、主制御部7からの信号に従って各画素ミラーを制御する。尚、各画素ミラーは、各画素ミラーが配列された平面を基準面とし、この基準面に沿った第一の姿勢と、この基準面に対して例えば11~13°程度に傾いた第二の姿勢とを取り得るようになっている。この実施形態では、第一の姿勢がオフ状態であり、第二の姿勢がオン状態である。
空間光変調器4は、各画素ミラーを駆動する駆動機構を含んでおり、変調器コントローラ41は、各画素ミラーについて、第一の姿勢を取るのか第二の姿勢を取るのかを独立して制御できるようになっている。このような空間光変調器4は、テキサス・インスツルメンツ社から入手できる。
【0022】
図2に示すように、露光ユニット1は、このような空間光変調器4に光源3からの光を照射する照射光学系6を備えている。この実施形態では、照射光学系6は光ファイバ61を含んでいる。より高い照度で像形成を行うため、一つの露光ユニット1は複数の光源3を備えており、各光源3について光ファイバ61が設けられている。光ファイバ61としては、例えば石英系のマルチモードファイバが使用される。
【0023】
DMDである空間光変調器4を使用して精度の良い像形成を行うためには、平行光を入射させて各画素ミラー42に反射させるのが望ましく、また各画素ミラー42に対して斜めに光を入射させることが望ましい。このため、照射光学系6は、
図2に示すように、各光ファイバ61から出射して広がる光を平行光にするコリメータレンズ62と、空間光変調器4に光を斜めに入射させるための反射ミラー63とを備えている。「斜めに」とは、空間光変調器4の基準面に対して斜めにということである。基準面に対する入射角θでいうと、例えば22~26°程度の角度とされる。
【0024】
投影光学系5は、二つの投影レンズ群51,52と、投影レンズ群51,52の間に配置されたマイクロレンズアレイ(以下、MLAと略す。)53等から構成されている。MLA53は、より形状精度の高い露光を行うため、補助的に配置されている。MLA53は、微小なレンズを直角格子状に多数配列した光学部品である。各レンズ素子は、空間光変調器4の各画素ミラーに1対1で対応している。
【0025】
上述した露光ユニット1において、光源3からの光は、光ファイバ61で導かれた後、照射光学系6により空間光変調器4に入射する。この際、空間光変調器4の各画素ミラーは、変調器コントローラ41により制御され、設計露光パターンに応じて選択的に傾斜した姿勢とされる。即ち、設計露光パターンに従い、光を露光エリアに到達させるべき位置に位置している画素ミラーは第二の姿勢(オン状態)とされ、それ以外の画素ミラーは、第一の姿勢(オフ状態)とされる。オフ状態の画素ミラーに反射した光は露光エリアには到達せず、オン状態の画素ミラーに反射した光のみが到達する。このため、設計露光パターンに従ったパターンの光が露光エリアに照射される。
【0026】
一方、
図1に示すように、実施形態のDI露光装置は、対象物Wが載置されるステージ21を備えている。移動機構2は、対象物Wが載置されたステージ21を直線移動させる機構となっている。
移動機構2としては、例えば
図1に示すように、ボールネジ22と、一対のリニアガイド23と、ボールネジ22を回転させるサーボモータ24等から成る直線移動機構が採用される。この他、リニアモーターステージのように磁気の作用を利用してステージ21を直線移動させるものが使用される場合もある。尚、ステージ21は、真空吸着等の方法で対象物Wが動かないように支持するものである。ワークWとの接触面積を少なくするため、表面に多数の突起を設けた構造のものが使用されることもある。
移動機構2による移動方向は水平方向である。移動機構2によるステージ21の移動ライン(スキャンライン)上に露光エリアが設定されている。
【0027】
尚、
図1に示すように、露光ユニット1は複数設けられている。各露光ユニット1は、同じ構成である。複数の露光ユニット1は、移動機構2による移動方向に対して垂直な方向に二列配列されている。一方の列は、他方の列に対して配列方向にずれて配置されている。これは、各露光ユニット1による露光エリアが対象物Wの表面を隙間なくカバーするためである。この点について、
図3を使用して説明する。
図3は、各露光ユニットによる露光エリアについて示した斜視概略図である。
【0028】
図3は、各露光ユニット1の下方に達した対象物Wが露光される様子が概略的に示されている。
図3において、各露光ユニット1による露光エリアEが、対象物Wの表面上に四角い枠で示されている。実際には、各露光エリアE内において、設計露光パターンに従ったパターンの光が照射されており、そのパターンで露光がされる。
対象物Wは
図3中矢印で示す方向(X方向)に移動しながら、各露光エリアEに形成されているパターンの光照射を受ける。この際、二列の露光ユニット1は互いにずれて配置されているので、移動方向に垂直な水平方向においても、隙間無く露光が行われる。
【0029】
さて、このような実施形態のDI露光装置において、従来のDI露光における解像度の限界を超えて解像度を実効的に高くする構成が採用されている。この構成は、主制御部7が変調器コントローラ41に送る空間光変調器4の制御用のデータ(以下、露光制御データという。)によって主として実現されている。以下、この点について説明する。
【0030】
露光制御データは、空間光変調器4の各画素ミラー42による光の照射パターン(以下、画素パターンという。)に密接に関連している。まず、画素パターン及び各画素パターンにおける照度分布について説明する。
図4は、各画素パターン及び各画素パターンの照度分布を概略的に示した斜視図である。
前述したように、実施形態のDI露光装置は、空間光変調器4としてDMDを使用しており、投影光学系5は、
図4に示すようにオン状態の各画素ミラー42により画素パターンSを投影する。各画素パターンSの投影位置は、露光エリアに設定された各対応座標Gの位置である。オン状態の画素ミラー42に対応した対応座標Gに画素パターンSが投影される。実施形態では、各画素ミラー42は正方形であるので、各対応座標は、縦横比が1である直角格子の各交点の位置に相当している。
【0031】
縦横での対応座標間の距離は、露光倍率による。1より大きい倍率の場合には、座標間距離は画素ミラー42の一辺よりも長く、1より小さい倍率の場合には座標間距離は画素ミラー42の一辺よりも短い。プリント基板製造用の露光の場合、1より大きい倍率の場合が多い。尚、実施形態において、各画素ミラー42の形状は方形であるが、投影光学系5による像(画素パターン)は、丸みを帯びた像(ほぼ円形の像)となる。
【0032】
対象物Wは、移動機構2により水平方向に移動する。この移動の際、対象物Wは各画素パターンSの照射箇所を通過し、露光される。対象物Wの要露光箇所は、対象物Wの表面上の特定の位置を基準としたXY座標で特定される。この座標を、以下、要露光点と呼び、Mで示す。各要露光点Mは、碁盤の目状であり、一定の間隔で隔てられている。以下、この間隔を露光点ピッチと呼ぶ。露光点ピッチは、前述したラスタイメージにおけるピクセルサイズに相当している。
各要露光点Mは、対象物Wが移動機構2により移動する際、各画素パターンSの中心を通り、この際に露光が行われる。以下、各要露光点Mが移動する線をスキャンラインと呼び、
図4に一点鎖線SLで示す。
図4の例では、スキャンラインSLは対象物WのX方向となっているが、これは必須ではなく、XY方向に対して斜めの方向の場合もある。
【0033】
図4に示すように、ある要露光点MがあるスキャンラインSLを通って移動して画素パターンSを通過する際、当該要露光点Mを中心とする露光単位領域は、隣りのスキャンラインSL上にある画素パターンS’によっても露光される。即ち、少しタイムラグはあるものの、隣りのスキャンラインSLの画素パターンS’の周辺部を通過するので、当該周辺部によっても露光される。つまり、移動機構2は、各露光単位領域がスキャンラインSL上の画素パターンによって露光されるとともに隣りのスキャンラインSL上の画素パターンの周辺部によっても重畳的に露光されるよう対象物Mを移動させる機構となっている。露光単位領域とは、要露光点Mで特定される対象物Wの表面の領域であり、要露光点Mを中心とする領域である。この領域は、露光点ピッチを一辺とする方形の領域である。
【0034】
図4には、画素パターンSによる照度分布がIとして示され、画素パターンS’による照度分布がI’として示されている。
図4に示すように、各画素パターンS,S’における照度分布I,I’は、重なり合っていない部分で高く、重なり合っている部分で低い分布となっている。より具体的には、一つの画素パターンの中央で大きく、周辺にいくに従って徐々に低くなる分布となっている。照度分布は、いわゆるガウス分布の場合もある。尚、照度分布Iは、画素パターンの中心(対応座標G)に対して対称であり、水平方向のどの方向でも、
図4に示すような分布となっている。
【0035】
各画素ミラーによる光の照射パターン及びその照度分布が上記のようなものであることを前提とし、実施形態のDI露光装置は、露光制御データを最適化している。より具体的には、対象物Wの表面のうち所定量以上の露光が必要な箇所(要露光箇所)について、1回及び2回以上を含む所定回数の露光(以下、多重露光という。)が行われるようにするとともに、実効的な解像度の向上のため、その露光回数を最適化している。
【0036】
図5及び
図6は、多重露光について概念的に示した図である。
図5(1)は、多重露光ではない従来の露光を示す。また、
図5(2)は露光回数が2回である2多重露光を示し、
図5(3)は露光回数が3回である3多重露光を示し、
図5(4)は露光回数が4回である4多重露光を示す。
図5(1)~(4)において、左側のグラフは、連続した(相互に重なり合った)各画素パターンによる個々の露光量を示し、右側のグラフは、画素パターンが連続している領域の全体の露光量を示す。また、
図5(2)~(4)において、左側のグラフの破線は、各回の露光により露光量が増加していく状態を示す。
【0037】
まず、比較のため、多重露光ではない通常の露光について説明する。
図5(1)は、
図4と同様の図であり、連続した要露光箇所に対して投影された各画素パターンによる露光量が示されている。1回の露光であるので、露光量は各画素パターンの照度分布Iと同様の分布である。
図5(1)の左側に示された各露光量を積算した露光量が実際の露光量であり、それが右側に示されている。以下、この露光量をエリア積算露光量という。
尚、この実施形態では、要露光箇所の幾つかは1回のみの露光がされる。1回のみの露光も「多重露光」の概念に含めるため、以下の説明では、1回のみの露光を「1多重」と呼ぶ。そして、2回の露光を「2重」、3回の露光を「3多重」、4回の露光を「4多重」とそれぞれ呼ぶ。
【0038】
対象物Wの表面に形成された感光層は、ある臨界的な量の露光がされることによって感光する。
図7は、感光層の感光特性の一例を示した図である。
図7では、一例としてネガ型レジストの場合が示されている。
図7に示すように、感光層は、ある臨界的な露光量E
Cにおいて現像液に対する可溶性がゼロ(不溶)になる。露光量をそれ以上多くしても、その特性は変化しない。以下、このような露光量E
Cを臨界露光量という。
【0039】
図5(1)において、エリア積算露光量は、画素パターンの光が照射されている対応座標において臨界露光量E
C以上となるようにされる。これは、各画素パターンにおける照度(平均照度又はピーク照度)を適宜調整することで達成される。
図6に示すように、要露光箇所のうち、端に位置する対応座標よりも外側の位置E
Bにおいてエリア積算露光量は臨界露光量を下回るので、この位置E
Bが、実効的な被露光領域の端(以下、実効露光境界という。)ということになる。
【0040】
図5(1)~(4)の多重露光の場合についても、同様に、各右側にエリア積算露光量が示されている。
図6は、
図5(1)~(4)の各右側に示されたエリア積算露光量を一つのグラフに示して解り易くした図である。
図6では、要露光箇所のうち最も右側に位置する要露光箇所の要露光点をG
1とする。G
1に達するまでの要露光箇所を1多重とした場合、2多重とした場合、3多重とした場合、4多重とした場合がそれぞれ示されている。また、露光点ピッチをDで示す。
【0041】
図6に示すように、1多重→4多重というように多重度を高くしていくに従って、実効露光境界E
Bの位置が外側にシフトする。この例では、4多重した場合に一つの隣りの要露光点(G
2)が臨界露光量E
Cに達するものとなっている。つまり、実効露光境界E
Bの数が4倍に増えた(間に三つの座標を選択することができる)ことになり、見かけ上、4倍の分解能で露光が行えることを意味する。
尚、この例では、1多重の場合、端に位置する要露光点(G
1)に対して露光点ピッチDの1/4離れた位置P
1が臨界露光量E
Cに達するものとなっている。したがって、G
1を実効露光境界にしたい場合、G
1に対して一つ手前の要露光点(G
0で示す)において4多重とし、要露光点G
1については露光回数0とすれば良いことになる。以下、露光回数0を、便宜上、「0多重」と呼ぶ。
【0042】
このように、実施形態のDI露光装置は、選択された要露光箇所に対する露光を2回以上とし、それによって実効露光境界E
Bを外側にシフトさせることで実効的な露光分解能を向上させる装置となっている。
上記の点を、露光制御データに即してより具体的に説明する。
図8は、実施形態のDI露光装置における露光制御データについて模式的に示した図である。
露光制御データは、対象物Wの表面における要露光箇所の情報を含んでいる。理解のため、投影光学系(
図8中不図示)の光軸は鉛直方向(Z方向)であるとする。また、対象物WはXY方向に沿って辺が延びる方形の板状物であるとする。また、移動機構2による移動方向はX方向であるとする。
【0043】
要露光点は、対象物Wの表面上の特定の位置を基準としたXY座標で特定される。いま、ある要露光点Mの座標(X
m,Y
m)が特定されるとする。そして、ある要露光点Mは、4多重(4回露光)をすべき箇所であるとする。
この場合、この要露光点Mが進む線(スキャンライン)SL上のうちの四つの対応座標G
1~G
4において要露光点Mは露光がされる。即ち、
図8(1)に示すように、スキャンラインSL上に位置する四つの対応座標G
1~G
4において画素パターンSの光が照射される。これは、四つの対応座標に対応する四つの画素ミラー42がオン状態であることを意味する。尚、
図8(1)では、同時期に四つの画素ミラー42がオン状態であるように描かれているが、これは理解のためであり、実際には、要露光点Mが各対応座標G
1~G
4に達したタイミングでオン状態になっていれば足りる。
【0044】
上記の例で、例えば要露光点Mに隣接した要露光点Nについては、3多重露光(3回露光)が必要であるとし、要露光点Nは、要露光点Mに対してスキャンラインSL上の後方に位置するとする。この場合、
図8(2)に示すように、要露光点Nが最後の対応座標G
4に達した段階では、この対応座標G
4に対応する画素ミラー42はオフ状態に変更されており、このため、4回目の露光がされない状態となる。
【0045】
このように、露光制御データは、各要露光点が各対応座標に達したタイミングで当該対応座標に対応した画素ミラー42がオン状態であるかオフ状態であるかというデータとして設定される。「各対応座標に達したタイミング」とは、移動機構2による移動に応じたものである。移動機構2における移動速度は一定の既知の値であり、それに応じた各画素ミラー42のオンオフのシーケンスが露光制御データということになる。
【0046】
多重露光を行う露光制御データについて、より具体的な例を説明する。
図9は、実施形態のDI露光装置における露光制御データの一例を示した概略図である。
図9(1)は、対象物Wの表面において露光したい形状の一部が示されている。この例は、斜めに延びる一定の幅の線(回路線)のパターンで露光する例となっている。グレーで塗りつぶされた領域が露光したい形状であり、これが設計露光パターンということになる。
図9(1)において、黒丸で示した箇所は、要露光点である。
図9(2)は、(1)のような形状で露光を行う場合の各スキャンラインSLで上の多重度を棒グラフで示したものである。
【0047】
実施形態において、各要露光点における露光回数は、設計露光パターンの境界(グレーの領域)までの距離に応じて設定される。境界までの距離が露光点ピッチ以上である要露光点については、全て最大の露光回数(4多重)とされる。そして、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ未満である要露光点については、境界までの距離に応じて最大回数よりも少ない露光回数とされる。
【0048】
具体的に説明すると、スキャンラインa上の各要露光点は、設計露光パターンの境界までの距離が露光点ピッチ以上であるため、全て最大回数(4多重)の露光とされる。スキャンラインe上の各露光点も同様である。
また、スキャンラインb上の要露光点のうち、中央の四つの露光点は境界まで露光点ピッチ以上であるため4多重(4回露光)とされ、左端の要露光点は1多重(1回露光)とされる。このため、
図9(1)に示すように露光点ピッチDの1/4だけ左側にはみ出して露光がされる。右端の要露光点では3多重(3回露光)とされ、このため、
図9(1)に示すように露光点ピッチDの3/4だけ右にはみ出して実効的に露光がされる。
【0049】
また、スキャンラインc上のうち、同様に中央の四つの要露光点は境界まで露光点ピッチ以上であるため4多重(4回露光)とされ、左右の端の要露光点ではそれぞれ2多重(2回露光)とされる。このため、左右各々、露光点ピッチDの1/2だけはみ出して実効的に露光がされる。
さらに、スキャンラインd上では、同様に中央の四つの要露光点は境界まで露光点ピッチ以上であるため4多重(4回露光)とされ、左端の要露光点は3多重(3回露光)、右端の要露光点は1多重(1回露光)とされる。このため、右端で露光点ピッチDの3/4だけはみ出し、右端で露光点ピッチDの1/4だけはみ出して実効的に露光される。
【0050】
図9(3)は、
図9(2)に示す多重度をデータとして制御データとして示した図である。
図9(3)に示すように各要露光点で多重度が選択されることにより、
図9(1)に示すように斜めに延びる一定の幅の回路線のパターンで露光がされる。
主制御部7の記憶部71には、露光制御データが組み込まれたシーケンスプログラムが実装されている。シーケンスプログラムは、変調器コントローラ41に送られ、空間光変調器4が多重度データに基づいたシーケンスで制御される。この結果、
図9に示すような多重度で各要露光点が露光される。シーケンスプログラムには、上記の他、ステージ21上の基準点に対する対象物Wの載置位置のデータ、ステージ21上の基準点に対する対象物Wの表面の各要露光点のデータ、ステージ21の移動速度のデータ等が組み込まれている。
【0051】
上述した多重度の選定について多少詳しく説明すると、設計露光パターンにおける各要露光点について、各要露光点を中心とし、露光点ピッチDの2倍を一辺とする方形の領域を観念する。そして、この領域内に、設計露光パターンの境界があるかどうか判断する。境界がある場合、その境界までの当該要露光点からの距離(X方向又はY方向の距離)を算出し、それが露光点ピッチDの1/4,1/2,3/4のいずれの値に最も近いか判断する。そして、その最も近い値に応じて多重度を選定する。即ち、1/4ならば1多重(1回露光)、1/2ならば2多重(2回露光)、3/4ならば3多重(3多重)とする。境界までの距離が露光点ピッチDに等しい場合か、又は領域内に設計露光パターンの境界がない要露光点は、すべて4多重とする。また、要露光点から境界までの距離が露光点ピッチDの1/8よりも小さい場合、要露光点は境界上であるとみなして0多重(0回露光)とする。このようにして、各要露光点について多重度を選定し、露光制御データに組み込む。
【0052】
次に、実施形態のDI露光装置の全体の動作について説明する。以下の説明は、DI露光方法の発明の実施形態の説明でもある。以下の説明では、前記同様、対象物Wはプリント基板製造用のワークであるとする。
図1において、対象物Wはロード位置においてステージ21に載置され、必要に応じてステージ21上に真空吸着される。次に、移動機構2が動作し、各露光ユニット1の下方の露光エリアE向けて水平移動する。この移動方向は、対応座標の一方の配列方向に精度良く一致している。
【0053】
移動機構2は、所定の速度でステージ21を移動させる。そして、ステージ21上の対象物Wの表面における要露光点が対応座標に到達する時点では当該対応座標に対応した画素ミラー42がオン状態とされており、要露光点が露光される。
移動機構2は、引き続き同じ向きにステージ21を移動させる。そして、当該要露光点が次の対応座標に到達した際、当該要露光点が2多重以上の要露光点であれば、当該対応座標に対応した画素ミラー42がオン状態とされ、2回目の露光が行われる。
【0054】
このようにして、各要露光点が対応座標に達した際に当該要露光箇所の多重度に応じて画素ミラー42がオン又はオフとされ、各要露光点が定められた多重度で露光される。対象物Wが各露光ユニット1の下方を通り過ぎると、各要露光点の露光が完了し、各露光点を含む対象物Wの表面は、
図9(1)に示すような所望の露光パターンでの露光がされたことになる。
その後、ステージ21がアンロード位置に達するとステージ21の移動は停止し、露光済みの対象物Wは、ステージ21から取り上げられる。そして、対象物Wは、次の処理(例えば現像処理)が行われる場所に搬送される。
【0055】
上述したDI露光装置及びDI露光方法によれば、同じ要露光点を複数回露光する多重露光を採用し、画素パターンの周辺部による複数回の露光により被露光領域の大きさを調整しているので、露光点ピッチDより細かく被露光領域の大きさが調整できる。即ち、露光の解像度が高くなる。したがって、設計露光パターンにより忠実な高精細のパターンで露光が行える。このため、ジャギーをできるだけ抑えて滑らかな輪郭形状の露光が可能になったり、線幅変更のような露光パターンの微調整がより細かくできるようになったりする効果が得られる。この際、空間光変調器4の画素を細かくする必要はないので、特にコストが上昇することはなく、導入は容易である。
また、対象物Wの移動速度を遅くする必要はなく、各要露光点が対応座標に到達した際の各画素ミラー42の制御データ(オンオフデータ)を変えるのみで良い。このため、生産性も何ら低下しない。尚、露光制御データのデータ量も特に増えることはなく、データ処理が煩雑になることはない。
【0056】
上記実施形態では、4多重(4回の露光)を行うとちょうど隣りの要露光点が実効露光境界EBとなる構成であり、そのような照度で各露光ユニット1が露光を行うものであった。しかしながら、これは一例であり、他の構成も当然にあり得る。例えば、画素パターンの照度を低くしておいてさらに多くの多重を行うようにすると、二つの対応座標間において取り得る実効露光境界EBの数が増え、より分解能を高くすることができる。
【0057】
尚、画素パターンにおける照度分布はガウス分布であるとして説明したが、完全なガウス分布である必要はなく、またガウス分布以外の分布であっても良い。必要なのは、二つの画素パターンが相互に重なり合う周辺部において低く、重なり合わない中央部において高く(周辺部より高く)なっていることであり、そのような分布であれば実施可能である。
【0058】
上記実施形態のDI露光装置及びDI露光方法において、対象物Wの移動は連続的であり、特に停止することなく各画素パターンによる露光が行われる。但し、所定位置に対象物Wを停止させながら間欠的に対象物Wを移動させて露光する場合もあり得る。例えば、要露光点が対応座標に一致した状態で対象物Wを停止させ、この状態で露光する場合もあり得る。
【0059】
また、ステージ21が、各露光ユニット1の下方を一回通過する際に露光が行われるように説明したが、ステージ21が露光ユニット1の下方を往復移動し、その双方で露光が行われる場合もあり得る。
尚、対象物Wの移動は、照射されている露光パターンの光に対して相対的であれば足り、上記のように対象物Wが移動する場合の他、静止した対象物Wに対して露光パターンが移動しても良い。例えば、静止した対象物Wに対して露光ユニット1が全体に移動する構成であっても良い。
【0060】
また、DI露光装置の構成において、露光ユニット1が複数あることは必須ではなく、1個のみの露光ユニット1であっても良い。対象物Wが小さい場合や大型の空間光変調器4を採用する場合等にあり得る構成である。
以上の説明において、対象物Wはプリント基板製造用のワークであるとしたが、本願発明のDI露光装置及びDI露光方法は、他の用途の露光技術においても採用できる。例えば、マイクロマシーンのような微細構造物の製造(いわゆるMEMS)の際のフォトリソグラフィにおいて、本願発明のDI露光技術は採用され得る。
【符号の説明】
【0061】
1 露光ユニット
2 移動機構
21 ステージ
3 光源
4 空間光変調器
41 変調器コントローラ
42 画素ミラー
5 投影光学系
6 照射光学系
7 主制御部
71 記憶部
W 対象物
S 画素パターン
EB 実効露光境界
D 露光点ピッチ