(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】光学積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2021501868
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004976
(87)【国際公開番号】W WO2020170874
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019030471
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 丈也
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-292727(JP,A)
【文献】特開2016-004142(JP,A)
【文献】特開2005-292732(JP,A)
【文献】特開2005-202313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折誘起材料からなる第一の光学異方性層と、
重合性液晶材料からなる第二の光学異方性層とが、隣接して積層された光学積層体であって、
第一の光学異方性層が、互いに遅相軸が異なる表面層と内部層とで構成され、前記表面層と第二の光学異方性層とが接しており、
第一の光学異方性層の内部層の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、交差して
おり、
前記複屈折誘起材料は、感光性基を有し、かつ液晶構造を形成可能な側鎖構造を有する液晶性高分子を含む、光学積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の光学積層体であって、第一の光学異方性層の内部層の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、非平行かつ非直交である角度で交差している、光学積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学積層体であって、重合性液晶材料が、複屈折誘起材料と架橋結合を形成できる官能基を有する架橋剤を含む、光学積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学積層体を製造する方法であって、
複屈折誘起材料からなる複屈折誘起材料層上に、位相差を発現するための第一の偏光を照射して、第一の光学異方性層を形成する第一の光照射工程と、
前記第一の光学異方性層の表面を、その内部層とは異なる配向を施すように配向処理し、第一の光学異方性層に表面層を形成する表面配向工程と、
配向処理した前記第一の光学異方性層の表面上に、重合性液晶材料を適用して第二の光学異方性層を形成する工程とを備える、光学積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法であって、前記表面配向工程が、前記第一の光学異方性層の表面に、前記第一の偏光とは異なる偏光軸方向を有する第二の偏光を照射して、第一の光学異方性層に表面層を形成する第二の光照射工程である、光学積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法であって、前記第一の光照射工程と前記第二の光照射工程との間に、前記第一の光学異方性層の表面を溶媒で処理する表面処理工程をさらに備える、光学積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学積層体と、直線偏光板とが積層されている円偏光板。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は2019年2月22日出願の特願2019-030471の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、任意の軸設定が可能である光学積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイ(LCD)や有機発光ダイオード(OLED)に代表される薄型の表示デバイスには、表示品質向上のため、各種位相差板が用いられている。例えば、有機EL表示装置などのOLEDでは、反射を抑制するために広帯域円偏光板が使用されている。
【0004】
このような広帯域円偏光板に用いられる位相差フィルムとして、特許文献1(特開2016-184013号公報)には、複屈折誘起材料からなる第一の光学異方性層と、重合性液晶からなる、第二の光学異方性層とが、粘着層を介さずに直接積層された位相差フィルムが開示されている。また、その製造方法として、支持基材上に、複屈折誘起材料を塗布し、複屈折誘起材料層を形成する工程と、前記複屈折誘起材料層上に、第一の偏光を照射する、第一の光照射工程と、前記第一の偏光を照射された、前記複屈折誘起材料層上に、重合性液晶を塗布して、前記複屈折誘起材料層上に重合性液晶材料層が積層された積層体を形成する工程と、前記積層体に第二の偏光を照射する第二の光照射工程とを含み、前記第一の偏光の偏光軸方向と、前記第二の偏光の偏光軸方向とが、異なることを特徴とする位相差フィルムの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の位相差フィルムの製造方法では、複屈折誘起材料層を配向させるための第二の偏光を照射する第二の光照射工程において、配向されている重合性液晶材料層を介して第二の偏光を照射することとなり、配向されている重合性液晶材料層を透過する際に第二の偏光の偏光状態が変換されてしまうため、複屈折誘起材料層に所望の偏光を照射することは困難であった。そのため、複屈折誘起材料層と重合性液晶材料層とで意図した遅相軸の関係とすることが困難であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、各光学異方性層において任意の遅相軸に設定することが可能である光学積層体および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、複屈折誘起材料層に第一の偏光を照射して配向した第一の光学異方性層を形成した後に、第一の光学異方性層の表面をその内部層とは異なる配向となるように配向処理し、その表面に重合性液晶材料を適用して第二の光学異方性層を形成することによって、(i)複屈折誘起材料から構成される内部層の光配向において別の層が影響を及ぼすことがなく、内部層に所望の配向を付与することができるとともに、(ii)配向膜としての役割を果たす表面層の配向を内部層とは独立して調整できるため、内部層の配向性との関係を考慮して、第二の光学異方性層に所望の配向を付与することができることを見出した。そして、得られる光学積層体は、第一の光学異方性層の遅相軸と第二の光学異方性層の遅相軸を任意に設定することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
複屈折誘起材料からなる第一の光学異方性層と、
重合性液晶材料からなる第二の光学異方性層とが、隣接して積層された光学積層体であって、
第一の光学異方性層が、互いに遅相軸が異なる表面層と内部層とで構成され、前記表面層と第二の光学異方性層とが接しており、
第一の光学異方性層の内部層の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、交差している、光学積層体。
〔態様2〕
態様1に記載の光学積層体であって、第一の光学異方性層の内部層の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、非平行かつ非直交である角度で交差している、光学積層体。
〔態様3〕
態様1または2に記載の光学積層体であって、重合性液晶材料が、複屈折誘起材料と架橋結合を形成できる官能基を有する架橋剤を含む、光学積層体。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の光学積層体を製造する方法であって、
複屈折誘起材料からなる複屈折誘起材料層上に、位相差を発現するための第一の偏光を照射して、第一の光学異方性層を形成する第一の光照射工程と、
前記第一の光学異方性層の表面を、その内部層とは異なる配向を施すように配向処理し、第一の光学異方性層に表面層を形成する表面配向工程と、
配向処理した前記第一の光学異方性層の表面上に、重合性液晶材料を適用して第二の光学異方性層を形成する工程とを備える、光学積層体の製造方法。
〔態様5〕
態様4に記載の製造方法であって、前記表面配向工程が、前記第一の光学異方性層の表面に、前記第一の偏光とは異なる偏光軸方向を有する第二の偏光を照射して、第一の光学異方性層に表面層を形成する第二の光照射工程である、光学積層体の製造方法。
〔態様6〕
態様5に記載の製造方法であって、前記第一の光照射工程と前記第二の光照射工程との間に、前記第一の光学異方性層の表面を溶媒で処理する表面処理工程をさらに備える、光学積層体の製造方法。
〔態様7〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の光学積層体と、直線偏光板とが積層されている円偏光板。
〔態様8〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の光学積層体であって、
複屈折誘起材料に、位相差を発現するための第一の偏光を照射して形成された第一の光学異方性層と、
前記第一の光学異方性層の表面を、その内部層とは異なる配向を施すように配向処理して、第一の光学異方性層に形成された表面層と、
前記表面層上に、重合性液晶材料が適用して形成された第二の光学異方性層とを備える、光学積層体。
【0010】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学積層体およびその製造方法によると、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層とで所望の遅相軸の組合せとすることができるため、互いの遅相軸の交差する角度を任意に設定可能であり、例えば、直線偏光板と積層させることにより円偏光板として使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
【
図1A】本発明の光学積層体の製造方法の一実施態様における第一の光照射工程前の概略断面図である。
【
図1B】本発明の光学積層体の製造方法の一実施態様における第一の光照射工程後の概略断面図である。
【
図1C】本発明の光学積層体の製造方法の一実施態様における表面配向工程後の概略断面図である。
【
図1D】本発明の光学積層体の製造方法の一実施態様における第二の光学異方性層形成工程後の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[光学積層体の製造方法]
本発明の光学積層体の製造方法は、複屈折誘起材料からなる複屈折誘起材料層上に、位相差を発現するための第一の偏光を照射して、配向した第一の光学異方性層を形成する第一の光照射工程と、前記第一の光学異方性層の表面を、その内部層とは異なる配向を施すように配向処理し、第一の光学異方性層に表面層を形成する表面配向工程と、配向処理した前記第一の光学異方性層の表面上に、重合性液晶材料を適用して第二の光学異方性層を形成する工程とを備える。
【0014】
以下、本発明の一実施態様について図面を参照しながら説明する。
図1A~
図1Dは、本発明の光学積層体の製造方法の一実施態様を説明するための概略断面図である。
図1A~
図1Dには、各層の断面が示されているが、これらは実際の厚さの比を示すものではない。
【0015】
図1Aは、基材10と複屈折誘起材料層20との積層体を示す概略断面図である。
図1Bは、第一の光照射工程後の状態を示し、基材10と、第一の偏光の照射により複屈折誘起材料層20の分子が配向して形成された第一の光学異方性層30との積層体を示す概略断面図である。
図1Cは、表面配向工程後の状態を示し、基材10と、前記第一の光学異方性層30と同じ配向を有する内部層31、および基材10とは反対側の表面の配向処理により内部層31とは異なる配向を施された表面層32からなる第一の光学異方性層30との積層体を示す概略断面図である。
図1Dは、第二の光学異方性層形成工程後の状態を示し、基材10と、内部層31および表面層32からなる第一の光学異方性層30と、重合性液晶材料を適用して形成された第二の光学異方性層40との光学積層体100を示す概略断面図である。
【0016】
図1Aに示す複屈折誘起材料からなる複屈折誘起材料層20上に、位相差を発現するための第一の偏光を照射することにより、複屈折誘起材料の分子配向を誘起することができる。これにより、
図1Bに示すように、光学的に等方である複屈折誘起材料層20から所定の遅相軸を有するように配向された第一の光学異方性層30が形成される。第一の光照射工程において、複屈折誘起材料層20の上には別の層がないため、照射された第一の偏光の偏光状態が変換されることなく、複屈折誘起材料層20に所望の偏光を照射することが可能である。
【0017】
次いで、
図1Bに示す第一の光学異方性層30の表面に、第一の光照射工程で付与された配向とは異なる配向を施すように配向処理することにより、第一の光学異方性層30に表面層32を形成することができる。これにより、
図1Cに示すように、第一の光学異方性層30は、元々形成されていた配向を有する内部層31と、それとは異なる配向を有する表面層32との2層が形成される。
【0018】
そして、
図1Cに示す表面層32上に、重合性液晶材料を適用すると、表面層32が配向膜の役割を果たし、表面層32の配向に対応して配向された第二の光学異方性層40を形成することができる。これにより、
図1Dに示すように、表面層32上に内部層31とは異なる遅相軸を有するように配向された第二の光学異方性層40が形成される。内部層31と表面層32とは独立して配向を調整できるため、内部層31の配向性との関係を考慮して、第二の光学異方性層40に所望の配向を付与することができ、互いに所望の遅相軸で交差できる。
【0019】
本発明の光学積層体の製造方法によると、複数のフィルムを所定の角度にカットし、精密に貼り合わせるなどの必要がないため、簡便に遅相軸の交差角度を調整することができる。また、長尺状に製造することも可能であるため、効率的に光学積層体を得ることができる。
【0020】
(複屈折誘起材料層)
複屈折誘起材料層は複屈折誘起材料から形成される。本発明において、複屈折誘起材料とは、光照射(好ましくは光照射と加熱冷却処理)による分子運動とそれに基づく分子配向により軸選択的に複屈折を誘起することができる材料をいう。
【0021】
例えば、複屈折誘起材料は、感光性基を有し、かつ液晶構造を形成可能な側鎖構造を有する液晶性高分子を含んでいてもよく、側鎖に有する感光性基の光反応により分子配向が誘起される性質を有していてもよい。光反応は、光二量化反応、光異性化反応、光フリース転位反応等が挙げられる。
【0022】
液晶性高分子が液晶構造を形成可能である場合、側鎖構造に液晶性を発揮する剛直な部位であるメソゲン基を有することにより液晶性を発現していてもよいし、または、他の重合体または同一重合体の他の側鎖等との水素結合による二量体を形成可能な構造を有しており、その二量化によりメソゲン構造を形成することにより、液晶性を発現していてもよい。
【0023】
メソゲン基またはメソゲン構造は、2つ以上の芳香族環または脂肪族環とこれを結合する連結基とで構成され、連結基は共有結合でも水素結合でもよい。
芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、複素環(例えば、フラン環、ピラン環等の酸素含有複素環;ピロール環、イミダゾール環等の窒素含有複素環)等が挙げられ、脂肪族環としては、シクロヘキサン環等が挙げられる。なお、これらの芳香族環または脂肪族環は、置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基(例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C1-6アルキルオキシ基、好ましくはC1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C1-6アルケニル基、好ましくはC1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C1-6アルキニル基、好ましくはC1-4アルキニル基)、ハロゲン原子等が挙げられる。
連結基としては、共有結合である場合、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、-N=N-、-NO=N-、-C=C-、-C≡C-、-CO-C=C-、-CH=N-、アルキレン基等が挙げられる。水素結合である場合、末端にカルボキシ基を有する側鎖構造等が挙げられ、この場合、カルボキシ基同士で水素結合を形成する。
【0024】
感光性基としては、光エネルギーにより光反応を起こすことが可能な官能基であれば特に制限されず、例えば、カルコン基、クマリン基、シンナモイル基、桂皮酸基、シンナミリデン酢酸基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、アゾベンゼン基、ベンジリデンアニリン基またはこれらの誘導体等が挙げられ、好ましくは、シンナモイル基であってもよい。
【0025】
液晶性高分子は、繰り返し単位中に、感光性基および液晶構造を形成可能な構造の両方を有している側鎖構造を少なくとも有しているが、感光性基は、メソゲン基またはメソゲン構造とは、側鎖構造の中で独立に存在していてもよいし、化学構造を共有して複合的に存在していてもよい。
【0026】
本発明の複屈折誘起材料は、下記式(1)および(2)で表される側鎖構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する液晶性高分子を含んでいてもよい。
【0027】
【0028】
(式中、tは1~3の整数であり、R1は水素原子、アルキル基(例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C1-6アルキルオキシ基、好ましくはC1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C1-6アルケニル基、好ましくはC1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C1-6アルキニル基、好ましくはC1-4アルキニル基)、およびハロゲン原子から選択される1種または2種以上を示す。)
【0029】
【0030】
(式中、kは0または1であり、kが0の場合、lは0、kが1の場合、lは1~12の整数;Xは、単結合、C1-3アルキレン基、-C=C-、-C≡C-、-O-、-N=N-、-COO-、または-OCO-;Wは、クマリン基、シンナモイル基、シンナミリデン酢酸基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体基;R2およびR3は、それぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基(例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C1-6アルキルオキシ基、好ましくはC1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C1-6アルケニル基、好ましくはC1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C1-6アルキニル基、好ましくはC1-4アルキニル基)、カルボキシ基およびハロゲン原子から選択される1種または2種以上を示す。)
【0031】
なお、上記式(1)および(2)で表される側鎖構造は、繰り返し単位における側鎖の末端の化学構造を表しており、本発明の効果を損なわない範囲において、これらの側鎖構造と主鎖構造との間に種々の化学構造を含んでいてもよい。
【0032】
液晶性高分子は、上記側鎖構造を含む同一繰り返し単位からなる単独重合体または上記側鎖構造を含む繰り返し単位以外に構造の異なる側鎖構造を含む繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。主鎖構造としては、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサン、マレイミド、N-フェニルマレイミド等が重合して形成される構造が挙げられる。
【0033】
液晶性高分子は、共重合体である場合、感光性基および/または液晶構造を形成可能な構造を有していない繰り返し単位を有していてもよい。
【0034】
また、本発明の複屈折誘起材料は、重合性液晶材料に架橋剤が含まれる場合に、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との密着性を向上させる観点から、架橋性官能基を有する側鎖構造を有する液晶性高分子を含んでいてもよい。架橋性官能基とは、後述の架橋剤と架橋反応を起こす官能基であれば特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。架橋性官能基を有する側鎖構造は、上記の感光性基を有し、かつ液晶構造を形成可能である側鎖構造を含む繰り返し単位に含まれていてもよく、当該繰り返し単位以外の繰り返し単位中に架橋性官能基を有していてもよい。
【0035】
例えば、架橋性官能基として水酸基、カルボキシ基が好ましく、液晶性高分子は、架橋性官能基を有する側鎖構造として、-(CH2)n-OH(式中、nは1~6の整数である)および-Ph-COOH(式中、Phは二価のフェニル基である)からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有していてもよい。なお、これらの側鎖構造は、繰り返し単位における側鎖の化学構造の少なくとも一部を表しており、本発明の効果を損なわない範囲において、これらの側鎖構造と主鎖構造との間に種々の化学構造を含んでいてもよい。
【0036】
また、本発明の複屈折誘起材料は、液晶性高分子の側鎖の配向性を促進するために、液晶性高分子とともに低分子化合物を含んでいてもよい。低分子化合物としては、メソゲン成分として知られているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン等の置換基を有し、このような置換基と、アリル、アクリレート、メタクリレート、桂皮酸基(またはその誘導体基)等の官能基を、スペーサー(例えば、炭素数1~15(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)の(オキシ)アルキレン基等)を介して結合した液晶性を有するものが好ましく用いられる。これらの低分子化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0037】
図1Aでは、基材10の上に複屈折誘起材料層20が積層されているが、基材10は省略してもよい。基材を用いる場合、光学的等方体からなる基材であってもよく、例えば、ガラスや、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)等の光学的等方相からなる透明基材であってもよい。また、基材としては、例えば、汎用ポリエステルフィルムなどの、複屈折誘起材料層(第一の光学異方性層)との密着性が低い材料からなる基材を、離型用基材として用いてもよい。離型用基材を用いる場合、本発明の光学積層体形成後に剥離することが可能であるため、基材自体の光学特性を考慮しなくてもよく、不透明な基材を用いてもよい。例えば、基材上に本発明の光学積層体を形成した後、粘着剤などを介して他の光学部材(例えば偏光板など)に接合し、その後離型用基材を剥離して使用することにより、光学積層体を、基材を持たない構成とし、厚みが実質的に光学異方性層の膜厚のみからなる、薄型の光学部材とすることができる。
【0038】
上述のような複屈折誘起材料からなる複屈折誘起材料層は、あらかじめ形成されていた複屈折誘起材料膜(基材に積層されていてもよく、積層されていなくてもよい)を用いてもよく、基材に塗膜して形成してもよい。複屈折誘起材料の塗膜を形成する場合、上述のような複屈折誘起材料を溶媒に溶解して溶液とし、この溶液を基材上に塗布する。溶媒は、複屈折誘起材料の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等)、プロピレングリコール誘導体(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート等)などが挙げられ、これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
溶媒の濃度は、特に限定されないが、例えば、複屈折誘起材料を5~50重量%含有するものであってもよく、好ましくは8~40重量%、より好ましくは10~25重量%であってもよい。基材への溶液の塗布には、例えば、スピンコート、ロールコート等、公知の塗工方法を用いることができる。
塗工後、必要に応じ、加熱して塗膜を乾燥させ、基材と複屈折誘起材料層とを有する積層体を形成してもよい。
【0039】
第一の光照射工程前において、複屈折誘起材料層は、実質的に光学的に等方であることが好ましく、すなわち、液晶高分子が実質的に配向されていないことが好ましい。
【0040】
(第一の光照射工程)
第一の光照射工程では、複屈折誘起材料層上に、位相差を発現するための第一の偏光を照射する。第一の光照射工程を行うことによって、複屈折誘起材料層の表面だけでなく内部にまで、分子の選択的な光反応が生じ、分子の配向性が誘起され、第一の光学異方性層が形成される。本発明の光学積層体の製造方法では、複屈折誘起材料層上に、別の層を介することなく第一の偏光を直接照射することができるため、照射した偏光により意図した遅相軸を形成することができる。
【0041】
第一の偏光は、赤外線、可視光線、紫外線(例えば、近紫外線、遠紫外線等)、X線、荷電粒子線(例えば、電子線等)等、液晶性高分子の感光性基が光反応を生じる波長の光であれば特に限定されず、液晶性高分子の側鎖構造の種類によっても異なるが、光の波長は、200~500nmであってもよい。第一の偏光は、例えば、紫外線の直線偏光であってもよく、この場合、例えば、光源として高圧水銀灯などの紫外線照射装置を用いて、グランテーラープリズムを介して直線偏光に偏光変換してもよい。
また、第一の偏光の照射量は、複屈折誘起材料層の表面だけでなく内部まで配向させる観点から、例えば10mJ/cm2~10J/cm2であってもよく、好ましくは50mJ/cm2~1J/cm2、より好ましくは100mJ/cm2~500mJ/cm2であってもよい。
【0042】
本発明の光学積層体の製造方法では、必要に応じて、第一の光照射工程後、形成された第一の光学異方性層を加熱する加熱工程を備えていてもよい。第一の光照射工程で照射された第一の偏光の照射方向と振動方向に依存して分子配向が誘起され、未配向の分子も配向した分子に従って配向するが、その後の加熱により液晶性高分子が分子運動を行うことが可能となり、未配向分子の配向を促進することができる。加熱後は、例えば放置することなどにより室温程度まで、冷却すればよい。
【0043】
加熱工程での加熱温度は、液晶性高分子が分子運動によって光反応を起こした側鎖に沿って未配向分子の配向が誘起される限り特に限定されないが、複屈折誘起材料の液晶相転移温度以上であり、等方相転移温度以下に設定することが好ましい。例えば、100~200℃であってもよく、好ましくは110~180℃、より好ましくは120~160℃であってもよい。
【0044】
また、加熱時間は、液晶性高分子が分子運動によって光反応を起こした側鎖に沿って未配向分子の配向が誘起される限り特に限定されないが、液晶性高分子の種類や、加熱温度などに応じて適宜設定することができ、例えば1分以上で行ってもよく、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であってもよい。上限は特に限定されないが、経済性の観点から、60分程度(好ましくは40分程度、より好ましくは30分程度)であってもよい。
【0045】
(表面配向工程)
表面配向工程では、第一の光学異方性層の表面を、その内部層とは異なる配向を施すように配向処理する。表面配向処理を行うことによって、第一の光学異方性層に表面層が形成され、互いに同一の複屈折誘起材料から構成されているが、配向状態の異なる内部層および表面層の2層が第一の光学異方性層内に形成される。なお、内部層とは、第一の光学異方性層のうち、表面層以外の部位を示していてもよい。
【0046】
配向処理の方法は、第一の光学異方性層の表面をその内部層とは異なる配向層を形成できる限り特に限定されないが、例えば、ラビング処理、第二の偏光照射による光配向処理等が挙げられる。ラビング処理では、セルロースやナイロン、ポリエステル等の布を巻きつけたローラーを一定圧力で押し込みながら回転させて第一の光学異方性層の表面を一定方向に擦ることにより配向方向を制御することができるため、所望の配向方向の表面層を形成することができるが、配向処理の方法は、偏光照射による光配向処理であることが好ましい。
【0047】
表面配向工程は、第一の光学異方性層の表面に、第一の偏光とは異なる偏光軸方向を有する第二の偏光を照射して、第一の光学異方性層に表面層を形成する第二の光照射工程であってもよい。第二の光照射工程では、第一の光照射工程(好ましくは、第一の光照射工程および加熱工程)により分子配向された後であっても、第一の偏光とは異なる偏光軸方向を有する第二の偏光を照射することにより、第一の光学異方性層の未反応の複屈折誘起材料を中心として軸選択的な光反応が表面近傍において選択的に生じるためか、その表面近傍に対して内部層とは異なる配向性を付与することができる。一方、第一の光学異方性層の内部層の分子は既に高配向度で配向しているためか、第二の光照射工程後であっても、第一の光学異方性層の内部層の配向自体は変換されることがない。
【0048】
第二の偏光は、第一の偏光として上記した種々の波長の光を用いることができ、例えば、紫外線の直線偏光を用いてもよい。また、第二の偏光は、第一の光照射工程で照射した第一の偏光と異なる種類の光を用いてもよく、同様の種類の光を用いてもよい。
【0049】
第二の偏光は、第一の偏光とは異なる偏光軸方向を有してもよく、例えば、第一の偏光の偏光軸とは軸角度が5~85°異なっていてもよく、好ましくは10~80°、より好ましくは20~70°異なっていてもよい。ここで、第二の偏光の偏光軸と第一の偏光の偏光軸との軸角度の差は、第一の光照射工程後の第一の光学異方性層の表面近傍の配向状態(未反応の複屈折誘起材料の存在割合など)を考慮して調整することにより、後に形成する第二の光学異方性層の遅相軸を任意に設定することができる。
【0050】
第二の偏光の照射量は、配向されている第一の光学異方性層の表面を再配向させる観点から、例えば50mJ/cm2~20J/cm2であってもよく、好ましくは100mJ/cm2~10J/cm2、より好ましくは150mJ/cm2~1J/cm2であってもよい。
【0051】
必要に応じて、本発明の光学積層体の製造方法では、第一の光照射工程の後に、前記複屈折誘起材料層の表面を溶媒で処理する表面処理工程をさらに備えていてもよい。表面処理工程の後、例えば、第二の偏光照射、ラビング処理などの表面配向工程を行うのが好ましい。また、第一の光照射工程の後に加熱工程が行われる場合には、表面処理工程は加熱工程の後に行われてもよい。
【0052】
表面処理工程では、第一の光学異方性層の表面に溶媒を適用して前記表面部分を溶解させることにより、第一の光照射工程により施された分子配向を緩和させてランダムな状態にできるためか、第一の偏光によって一旦形成された第一の光学異方性層の表面部分の配向性をなくすことができ、第一の光学異方性層の表面層の配向を等方性にすることができる。表面処理工程では、溶媒を第一の光学異方性層の表面に塗布した後に乾燥させてもよい。乾燥の方法は、塗布した溶媒を蒸発させることができる限り特に限定されないが、例えば、放置して自然乾燥させてもよい。溶媒が適用された表面のみを等方性にすることができる。
【0053】
表面が等方性になることにより、その後の第二の光照射工程において、表面の光配向がしやすくなるため、第二の偏光の照射量を小さくすることができる。表面処理工程を行った場合、第二の偏光の照射量は、例えば、0.1mJ/cm2~200mJ/cm2であってもよく、好ましくは0.5mJ/cm2~150mJ/cm2、より好ましくは1mJ/cm2~100mJ/cm2であってもよい。
また、表面処理工程を行った場合、第一の偏光の照射量と第二の偏光の照射量との比(第一の偏光/第二の偏光)は、1.5/1~100/1であってもよく、好ましくは2/1~80/1、より好ましくは2.5/1~50/1であってもよい。
【0054】
表面が等方性になることにより、その後の第二の光照射工程において、第一の光学異方性層の表面層の配向状態を考慮する必要がないため、第二の偏光の偏光軸の軸角度を第二の光学異方性層の遅相軸に直接反映させることができる。そのため、後に形成する第二の光学異方性層の遅相軸の設定に対して、第二の偏光の偏光軸の軸角度を容易に選択することができる。
【0055】
表面処理工程で用いる溶媒は、第一の光学異方性層を構成する複屈折誘起材料を溶解することができる溶媒であれば特に限定されず、複屈折誘起材料に対して良溶媒であってもよく、貧溶媒であってもよい。表面処理工程で用いる溶媒は、第一の光学異方性層の表面を等方性にすることおよび内部まで溶解してその配向を乱すことを抑制する観点から、例えば、複屈折誘起材料の良溶媒と貧溶媒とを混合した混合溶媒であってもよい。複屈折誘起材料の良溶媒と貧溶媒とを含む混合溶媒を用いる場合、用いる溶媒の複屈折誘起材料に対する溶解性に応じて適宜調整することができるが、例えば、これらの混合重量比(良溶媒/貧溶媒)は、1/100~100/1であってもよく、好ましくは1/50~50/1、より好ましくは1/10~10/1であってもよい。
【0056】
表面処理工程で用いる溶媒は、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、へキサノール等のアルコール系溶媒;ヘキサン、へプタン、オクタン、シクロへキサン等の脂肪族または脂環式の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒;グリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート等のグリコールエーテル系溶媒;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。なお、これらの溶媒は、複屈折誘起材料の種類によって溶解性が異なるため、使用する複屈折誘起材料に応じて、その良溶媒、貧溶媒のいずれであるかを考慮した上で使用することができる。
なお、本発明において、良溶媒とは、25℃において、溶質に対する溶解度が1質量%以上の溶媒をいい、貧溶媒とは、25℃において、溶質に対する溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。
【0057】
例えば、複屈折誘起材料に対する良溶媒として、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン等を用いてもよく、複屈折誘起材料に対する貧溶媒として、エタノール、メタノール、n-ヘキサン等を用いてもよい。これらの良溶媒と貧溶媒とを上述の混合重量比で混合して混合溶媒として用いてもよい。
【0058】
(第二の光学異方性層形成工程)
第二の光学異方性層形成工程では、配向処理した第一の光学異方性層の表面層上に、重合性液晶材料を適用して第二の光学異方性層を形成する。第二の光学異方性層形成工程を行うことによって、表面配向工程で配向された表面層が配向膜の役割を果たすため、その配向方向を利用して配向された第二の光学異方性層を形成することができる。
【0059】
本発明において、重合性液晶材料は、反応性官能基とメソゲン基とを少なくとも含む単官能もしくは二官能性の重合性液晶化合物を含む組成物であり、光や熱により重合または架橋剤との反応により架橋構造を形成した後の組成物を含む。
【0060】
重合性液晶化合物は、液晶性モノマーであってもよく、液晶性ポリマーであってもよい。例えば、重合性液晶化合物としては、光や熱により重合する重合性官能基を有する重合性液晶モノマーおよび/または重合性液晶ポリマーや、架橋剤との反応により架橋構造を導入可能な架橋性官能基を有する架橋性液晶モノマーおよび/または架橋性液晶ポリマー等が挙げられる。
【0061】
重合性液晶化合物は、メソゲン基を有するモノマーまたはメソゲン基で構成されたユニットを有するポリマーであって、液晶構造を形成可能であるとともに、重合性および/または架橋性を有する限り特に限定されず、各種重合性液晶化合物を利用することができる。重合性液晶化合物としては、例えば、シッフ塩基系、ビフェニル系、ターフェニル系、エステル系、チオエステル系、スチルベン系、トラン系、アゾキシ系、アゾ系、フェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系、トリメシン酸系、トリフェニレン系、トルクセン系、フタロシアニン系、ポルフィリン系分子骨格を有する液晶化合物、またはこれらの化合物の混合物等が挙げられ、ネマチック性、コレステリック性またはスメクチック性の液晶相を示す化合物であればいずれでもよい。一例として、重合性液晶化合物として、光重合性のネマチック液晶モノマーを用いてもよい。
【0062】
前記メソゲン基で構成されたユニットは、液晶ポリマーの主鎖にあってもよく、側鎖にあってもよい。主鎖型液晶ポリマーとしては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリベンズイミダゾール系、ポリベンズオキサゾール系、ポリベンズチアゾール系、ポリアゾメチン系、ポリエステルアミド系、ポリエステルカーボネート系、ポリエステルイミド系の液晶ポリマー、またはこれらの混合物等が挙げられる。また、側鎖型液晶性ポリマーとしては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系等の直鎖状又は環状構造の骨格鎖を有する高分子に側鎖としてメソゲン基が結合した液晶ポリマー、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0063】
また、重合性液晶材料は、重合性液晶化合物が重合性官能基を有する場合、光重合開始剤および/または熱重合開始剤を含有するものであってもよい。
【0064】
光重合開始剤としては、イルガキュア(Irgacure)907、イルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア819、イルガキュア250、イルガキュア369(以上、全てチバ・ジャパン(株)製)、セイクオールBZ、セイクオールZ、セイクオールBEE(以上、全て精工化学(株)製)、カヤキュアー(kayacure)BP100(日本化薬(株)製)、カヤキュアーUVI-6992(ダウ社製)、アデカオプトマーSP-152又はアデカオプトマーSP-170(以上、全て(株)ADEKA製)、TAZ-A、TAZ-PP(以上、日本シイベルヘグナー社製)及びTAZ-104(三和ケミカル社製)など、市販の光重合開始剤を用いることができる。
【0065】
熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過酸化水素、過硫酸塩、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
【0066】
重合開始剤の含有量は、重合性液晶材料の総重量に対して、0.01~20重量%が好ましく、0.03~10重量%がより好ましく、0.05~8重量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、重合性液晶化合物の配向を乱すことなく重合させることができる。
【0067】
なお、重合開始剤として光重合開始剤を用いる場合、光増感剤を併用してもよい。光増感剤としては、例えば、キサントン及びチオキサントン等のキサントン化合物(例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等);アントラセン及びアルコキシ基含有アントラセン(例えば、ジブトキシアントラセン等)等のアントラセン化合物;フェノチアジン;ルブレン等が挙げられる。
【0068】
また、重合性液晶材料は、重合性液晶化合物が架橋性官能基を有する場合、適切な架橋剤を含有するものであってもよい。この場合、重合性液晶化合物は、液晶状態あるいは液晶転移温度以下に冷却した状態で、架橋(熱架橋あるいは光架橋)等の手段により配向固定化できる液晶化合物でもよい。
【0069】
架橋性官能基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基及びオキセタニル基が好ましく、特にアクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0070】
重合性液晶材料が架橋剤を含有している場合、架橋性官能基を有する重合性液晶化合物との架橋を形成する以外に、複屈折誘起材料の液晶性高分子が架橋性官能基を有する場合、液晶性高分子が架橋結合を形成することができる。この場合、複屈折誘起材料から構成される第一の光学異方性層と、架橋剤を含む第二の光学異方性層との層間で架橋結合を形成させることが可能となるため、その層間の密着性を向上させることができる。
【0071】
架橋剤としては、分子内に2個以上の官能基を有する多官能性化合物が挙げられる。液晶性高分子に架橋結合を形成させる場合、多官能性化合物としては、液晶性高分子と架橋結合を形成できる官能基を有していれば特に制限されないが、例えば、液晶性高分子が架橋性官能基を有し、当該架橋性官能基が水酸基またはカルボキシ基の場合、イソシアネート基、カルボジイミド基、アジリジン基、アゼチジン基、オキサゾリン基、エポキシ基等を有する化合物が挙げられる。これらの架橋剤のうち、液晶性高分子が有する架橋性官能基と比較的温和な反応条件で反応する反応性の観点から、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する多官能性化合物であるポリイソシアネート系化合物が好ましく、ポリイソシアネート系化合物は公知のものが使用可能である。例えば、ポリイソシアネート系化合物としては、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物等が挙げられる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートとジオールとの縮合化合物等が挙げられる。また、トリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとメチロールプロパンとの付加体であるアダクト体等が挙げられる。これらの架橋剤のうち、トリイソシアネート化合物を好適に用いることができる。
【0072】
架橋剤がポリイソシアネート系化合物である場合、液晶性高分子は架橋性官能基として活性水素基を有していてもよい。活性水素基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、およびチオール基等が挙げられる。活性水素基が水酸基である場合はウレタン結合(-NH-CO-O-)が形成され、活性水素基がカルボキシ基である場合はアミド結合(-NH-CO-)が形成され、活性水素基がアミノ基である場合はウレア結合(-NH-CO-NH-)が形成され、活性水素基がチオール基である場合はチオウレタン結合(-NH-CO-S-)が形成される。液晶性高分子が有している活性水素基としては、水酸基、カルボキシ基が好ましい。
【0073】
本発明では、重合性液晶材料における架橋剤の含有量は、液晶性高分子との反応による第二の光学異方性層の配向性や光学特性の低下の抑制の観点から、重合性液晶材料の総重量に対して、0.01~5重量%であってもよく、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.1~1.5重量%であってもよい。
【0074】
第二の光学異方性層形成工程では、第一の光学異方性層の表面層上に上述のような重合性液晶材料が適用される。適用にあたっては、溶媒に溶解した重合性液晶材料を溶液としてスピンコート、ロールコート等の公知の塗工方法で塗布することによって行われてもよい。溶媒としては、重合性液晶材料の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、プロピレングリコール誘導体(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)などが挙げられ、これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0075】
重合性液晶材料の溶媒は、複屈折誘起材料および重合性液晶材料の種類の組合せだけでなく、表面層の配向状態に応じて選択することができる。例えば、表面層の分子の大部分が所望の配向である場合(例えば、表面処理工程を行った場合や、配向処理としてラビング処理を行った場合など)には、表面層の配向を第二の光学異方性層に付与しつつ、第一の光学異方性層の配向を乱すことを抑制する観点から、重合性液晶材料の溶媒は、複屈折誘起材料の貧溶媒であることが好ましい。一方、表面層の分子の一部のみが所望の配向である場合、重合性液晶材料の溶媒は、複屈折誘起材料の良溶媒と貧溶媒とを混合した混合溶媒であることが好ましい。この場合のメカニズムは定かではないが、重合性液晶材料の溶媒として複屈折誘起材料の貧溶媒を含有させると、第一の光学異方性層を侵すことがなく、その配向を乱すことを抑制することができる。一方、重合性液晶材料の溶媒として複屈折誘起材料の良溶媒を含有させると、溶液の表面層に対する濡れ性が向上するためか、表面層の分子の一部のみが有する配向に対して重合性液晶材料の分子を沿わせることでき、その結果、第二の光学異方性層を配向させることができる。重合性液晶材料の溶媒は、複屈折誘起材料および重合性液晶材料の種類の組合せならびに表面層の配向状態に応じて適宜調整することができるが、第一の光学異方性層の配向を維持する観点から、表面層を侵さないように複屈折誘起材料に対する貧溶媒を含んでいることが好ましく、例えば、複屈折誘起材料の良溶媒と貧溶媒との混合重量比(良溶媒/貧溶媒)は、0/100~100/1であってもよく、好ましくは0/100~50/1、より好ましくは0/100~10/1であってもよい。重合性液晶材料の溶媒としては、一般的な溶媒を目的に応じて使用できるが、例えば、トルエン、エチレングリコール誘導体、プロピレングリコール誘導体などを含んでいてもよい。
【0076】
溶液の塗布により塗膜を形成し、必要に応じて加熱して塗膜を乾燥させる。その際、下部に存在する第一の光学異方性層の表面層が配向膜(配向性付与膜)として機能し、液晶分子の配向が生じる。これにより所定の方向に液晶が配向した第二の光学異方性層が形成される。
【0077】
第二の光学異方性層形成工程では、重合性液晶材料の塗膜形成後に必要に応じて、加熱工程および/または光照射工程(例えば、非偏光照射工程)を備えていてもよい。重合性液晶材料は、塗膜を形成させることによって、第一の光学異方性層の表面層の配向に対応してすでに所定の方向に配向しており、その後の加熱工程および/または光照射工程(例えば、非偏光照射工程)で重合性液晶材料が重合および/または架橋することにより、配向性が固定される。
具体的には、重合性液晶材料が、熱重合性の材料からなる場合、加熱による重合により配向性が固定される。光重合性の材料からなる場合、光の照射時に重合が生じ、配向性が固定される。架橋性の材料からなる場合、加熱および/または光の照射時に架橋が生じ、配向性が固定される。
【0078】
また、重合性液晶材料が架橋剤を含有しており、架橋剤が複屈折誘起材料と架橋結合を形成できる官能基を有する場合、熱エネルギーおよび/または光エネルギーの付与により、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との層間で架橋結合を形成させることができる。
【0079】
第二の光学異方性層形成工程における加熱工程では、上記重合および/または架橋反応が進行する限り特に限定されないが、第一の光学異方性層の内部層の配向を乱すことを抑制する観点から、複屈折誘起材料の等方相転移温度以下の加熱温度で行うことが好ましい。例えば、70~180℃であってもよく、好ましくは80~150℃、より好ましくは100~140℃であってもよい。また、加熱時間は、例えば1分以上で行ってもよく、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であってもよい。上限は特に限定されないが、経済性の観点から、60分程度(好ましくは40分程度、より好ましくは30分程度)であってもよい。
【0080】
第二の光学異方性層形成工程における光照射工程では、上記重合および/または架橋反応が進行する限り特に限定されないが、照射する光としては非偏光が好ましい。非偏光としては、第一の偏光や第二の偏光として上記した種々の波長の光を用いることができ、例えば、非偏光紫外線でもよい。光の照射量は、10mJ/cm2~10J/cm2であってもよく、好ましくは50mJ/cm2~1J/cm2、より好ましくは100mJ/cm2~500mJ/cm2であってもよい。
【0081】
[光学積層体]
本発明の光学積層体は、複屈折誘起材料からなる第一の光学異方性層と、重合性液晶材料からなる第二の光学異方性層とが、隣接して積層された光学積層体であって、第一の光学異方性層が、互いに遅相軸が異なる表面層と内部層とで構成され、前記表面層と第二の光学異方性層とが接している。
【0082】
第一の光学異方性層は、表面層および内部層で構成されており、これらの層は同一の複屈折誘起材料から構成されている。例えば、第一の光学異方性層の厚さは、0.1~20μmであってもよく、好ましくは0.3~15μm、より好ましくは0.5~10μmであってもよい。表面層は、第二の光学異方性層と接する第一の光学異方性層の表面近傍であってもよい。例えば、表面層は、内部層とは異なる配向を施すように第一の光学異方性層の表面が配向処理されて形成されていてもよい。ここで、配向処理は、上述の製造方法における表面配向工程の態様により施されていてもよい。
【0083】
第二の光学異方性層を構成する重合性液晶材料が、複屈折誘起材料と架橋結合を形成できる官能基を有する架橋剤を含んでいてもよい。重合性液晶材料が含んでいる架橋剤が、第一の光学異方性層の複屈折誘起材料と架橋結合を形成することにより、第一の光学異方性層と第二の光学異方性との密着性が向上する。これにより、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との間に粘着層を設けなくてもよいため、光学積層体を薄層化することができるとともに、第一の光学異方性層の表面層と第二の光学異方性層とが接する構造にすることができる。なお、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との密着性は、後述の実施例に記載したクロスカット試験により確認することができる。
【0084】
第二の光学異方性層の厚さは、0.1~20μmであってもよく、好ましくは0.3~15μm、より好ましくは0.5~10μmであってもよい。また、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との厚さの比(第一の光学異方性層/第二の光学異方性層)は、1/10~10/1であってもよく、好ましくは1/8~8/1、より好ましくは1/5~5/1であってもよい。例えば、第二の光学異方性層は、配向処理した第一の光学異方性層の表面層上に、重合性液晶材料を適用して形成されていてもよい。ここで、重合性液晶材料の適用は、上述の製造方法における第二の光学異方性層形成工程の態様により施されていてもよい。
【0085】
本発明の光学積層体の厚さは、例えば、1~40μmであってもよく、好ましくは2~30μm、より好ましくは3~20μmであってもよい。
【0086】
本発明の光学積層体は、第一の光学異方性層の内部層の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、交差している。本発明の光学積層体は、上述の製造方法により製造されることによって、第一の光学異方性層(内部層)の遅相軸と第二の光学異方性層の遅相軸とのなす角を任意の角度に設定することが可能である。第一の光学異方性層(内部層)の遅相軸方向と第二の光学異方性層の遅相軸方向とが、非平行かつ非直交である角度で交差していてもよい。例えば、第一の光学異方性層(内部層)の遅相軸と第二の光学異方性層の遅相軸とのなす角は、5~85°であってもよく、好ましくは8~80°、より好ましくは10~75°であってもよい。なお、第一の光学異方性層の内部層の遅相軸は、表面層における配向の影響がごくわずかであるとみなせるため、第一の光学異方性層全体の遅相軸として測定されてもよい。
【0087】
本発明の光学積層体は、特に、第一の光学異方性層において、面内で遅相軸方向は一定であることが好ましい。本発明では、配向層を介して下側の層に偏光を照射することにより偏光状態が変換される(例えば、直線偏光から楕円偏光になる)ことがないためか、分子配向を乱すことなく、遅相軸方向を一定にすることが可能である。
【0088】
本発明の光学積層体は、上述の製造方法の態様により、所望の光学特性を発現させることが可能である。光学特性としては、例えば、リタデーション値(例えば、面内のリタデーション値:Re)等が挙げられる。これらの光学特性の下記に示す範囲は、光学積層体の測定値の範囲であってもよく、第一の光学異方性層または第二の光学異方性層の測定値の範囲であってもよい。
【0089】
面内のリタデーション値(Re)とは、フィルム上の直交する二軸の屈折率(nx、ny)の異方性(△Nxy=|nx-ny|)とフィルム厚さd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメータであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。本発明の光学積層体は、面内のリタデーション値(Re)が、例えば、1~600nmであってもよく、好ましくは3~500nm、より好ましくは5~400nmであってもよい。なお、面内のリタデーション値(Re)は、波長550nmの光に対する測定値であってもよい。
【0090】
本発明の光学積層体は、例えば、位相差フィルムとして使用することができ、各種光学部材(反射防止フィルム、光学補償フィルム等)に用いることが可能である。本発明の光学積層体は、例えば、位相差フィルムとして直線偏光板と積層させることにより有機EL表示装置などのOLEDに反射防止膜として利用される円偏光板として使用することが可能である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
【0092】
(単量体1)
p-クマル酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)桂皮酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、下記化学式に示される単量体1を合成した。
【0093】
【0094】
(単量体2)
4-ヒドロキシ安息香酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸を合成した。次いでこの生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、下記化学式に示される単量体2を合成した。
【0095】
【0096】
(共重合体1)
単量体1と単量体2のモル比が単量体1:単量体2=3:7となるように単量体1と単量体2をジオキサン中に溶解し、反応開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合することにより共重合体1を得た。この共重合体1は液晶性を呈した。
【0097】
(共重合体2)
単量体1、単量体2、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)のモル比が単量体1:単量体2:HEMA=3:7:2となるように単量体1、単量体2、およびHEMAをジオキサン中に溶解し、反応開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合することにより共重合体2を得た。この共重合体2は液晶性を呈した。
【0098】
以下の実施例及び比較例において、得られた光学積層体の光学特性(リタデーション値Reなど)は複屈折測定装置(AXOMETRICS社製、AxoScan)を用い、厚さは膜厚計(FILMETRICS社製、F20)を用いて測定した。
【0099】
(実施例1)
共重合体1をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、溶液を調製した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて2.4μmの厚さになるよう塗布して、25℃で乾燥させた。乾燥後の塗膜に、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光性に変換した偏光(第一の偏光)を塗膜に対して垂直に200秒間照射し(照射量200mJ/cm2)、第一の光学異方性層を形成した。第一の偏光照射後、130℃で3分間加熱し、室温まで冷却することにより配向を誘起した。得られた塗膜の光学特性は、面内位相差の軸方向が照射した偏光軸方向に対して90°であった。
【0100】
その後、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて、偏光軸方向が先に照射した偏光の偏光軸方向と45°異なる直線偏光性に変換した偏光(第二の偏光)を、塗膜に300秒間照射し(照射量300mJ/cm2)、第一の光学異方性層に表面層を形成した。
【0101】
重合性液晶化合物(BASF社製、LC-242)100重量部、および光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、イガルキュア907)5重量部を混合し、THFとプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PGMEA)との体積比(THF:PGMEA)が1:1の混合溶媒に溶解し、溶液を準備した。この溶液を、第二の偏光照射後に得られた塗膜上に、スピンコーターを用いて0.9μmの厚さになるよう塗布し、70℃まで加熱後、室温まで冷却し、第二の光学異方性層を形成した。さらに、非偏光性の紫外線を100秒間照射し(照射量400mJ/cm2)、重合性液晶化合物を重合させた。得られた光学積層体は、面内リタデーション値が242nm(Linear Retardance:228nm、Circular Retardance:-78nm)であった。
【0102】
得られた光学積層体の各層の光学特性を調査するために、第二の光学異方性層のみを粘着剤付の光学等方性フィルムに転写した。そして、剥離した第一の光学異方性層および第二の光学異方性層の光学特性をそれぞれ測定した。第一の光学異方性層は、面内リタデーション値Reが135nmであり、遅相軸方向は照射した第1の偏光照射の偏光軸方向に対して90°であった。第二の偏光の照射において、第一の光学異方性層自体は既に配向していたため、その配向自体が大きく影響を受けることは無く、軸方向は維持したままであった。第二の光学異方性層は、面内リタデーション値Reが115.3nmであり、遅相軸方向は照射した第1の偏光照射の偏光軸方向に対して77°であった。第二の偏光の照射において、第一の光学異方性層の表面近傍の配向状態を考慮して偏光軸方向を選択した結果、所望の第二の光学異方性層の遅相軸方向にすることができた。これにより、2層の光学異方性層が積層された光学積層体であることが確認され、各層の遅相軸のなす角は13°であった。また、第一の光学異方性層の面内で遅相軸方向は一定であった。
【0103】
(実施例2)
共重合体1をTHFに溶解し、溶液を調製した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて2.4μmの厚さになるよう塗布して、25℃で乾燥させた。乾燥後の塗膜に、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光性に変換した偏光(第一の偏光)を200秒間照射し(照射量200mJ/cm2)、第一の光学異方性層を形成した。偏光照射後、130℃で3分間加熱し、室温まで冷却することにより配向を誘起した。得られた塗膜の光学特性は、面内位相差の軸方向が照射した偏光軸方向に対して90°であった。
【0104】
その後、得られた塗膜にTHFとエタノールとの体積比(THF:エタノール)が1:6の混合溶媒をスピンコーターで塗布し、放置することにより乾燥させた。さらに、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて、偏光軸方向が先に照射した偏光の偏光軸方向と60°異なる直線偏光性に変換した偏光(第二の偏光)を、塗膜に70秒間照射し(照射量70mJ/cm2)、第一の光学異方性層に表面層を形成した。
【0105】
重合性液晶化合物(BASF社製、LC-242)100重量部、および光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、イガルキュア907)5重量部を混合し、トルエンに溶解し、溶液を準備した。この溶液を、第二の偏光照射後に得られた塗膜上に、スピンコーターを用いて0.9μmの厚さになるよう塗布し、70℃まで加熱後、室温まで冷却し、第二の光学異方性層を形成した。さらに、非偏光性の紫外線を100秒間照射し(照射量400mJ/cm2)、重合性液晶化合物を重合させた。得られた光学積層体は、面内リタデーション値が142.7nm(Linear Retardance:114.8nm、Circular Retardance:84.5nm)であった。
【0106】
得られた光学積層体の各層の光学特性を複屈折測定装置(AXOMETRICS社製、AxoScan)の解析ソフト(Multi-Layer Analysis)によりそれぞれ算出した。第一の光学異方性層は、面内リタデーション値Reが100nmであり、遅相軸方向は照射した第1の偏光照射の偏光軸方向に対して90°であった。第二の光学異方性層は、面内リタデーション値Reが180nmであり、遅相軸方向は照射した第1の偏光照射の偏光軸方向に対して28.5°であった。これにより、2層の光学異方性層が積層された光学積層体であることが確認され、各層の遅相軸のなす角は61.5°であった。また、第一の光学異方性層の面内で遅相軸方向は一定であった。
【0107】
(実施例3)
共重合体2をTHFに溶解し、溶液を調製した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて2.4μmの厚さになるよう塗布して、25℃で乾燥させた。乾燥後の塗膜に、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光性に変換した偏光(第一の偏光)を200秒間照射し(照射量200mJ/cm2)、第一の光学異方性層を形成した。第一の偏光照射後、130℃で3分間加熱し、室温まで冷却することにより配向を誘起した。得られた塗膜の光学特性は、面内位相差の軸方向が照射した偏光軸方向に対して90°であった。
【0108】
その後、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて、偏光軸方向が先に照射した偏光の偏光軸方向と45°異なる直線偏光性に変換した偏光(第二の偏光)を、塗膜に300秒間照射し(照射量300mJ/cm2)、第一の光学異方性層に表面層を形成した。
【0109】
重合性液晶化合物(BASF社製、LC-242)100重量部、光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、イガルキュア907)5重量部、およびポリイソシアネート(旭化成株式会社製、デュラネートTKA-100)0.6重量部を混合し、THFとPGMEAとの体積比(THF:PGMEA)が1:1の混合溶媒に溶解し、溶液を準備した。この溶液を、第二の偏光照射後に得られた塗膜上に、スピンコーターを用いて0.9μmの厚さになるよう塗布し、70℃まで加熱後、室温まで冷却し、第二の光学異方性層を形成した。さらに、非偏光性の紫外線を100秒間照射し(照射量400mJ/cm2)、重合性液晶化合物を重合させるとともに、共重合体2を架橋させた。得られた光学積層体は、面内リタデーション値が202nm(Linear Retardance:185nm、Circular Retardance:81nm)であった。更に、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との界面の密着性を確認するため、クロスカット試験を実施した。試験をJIS K 5600に準拠して実施した結果、第二の光学異方性層の剥離は観察されず、良好な密着性を有していることが確認された。
【0110】
得られた光学積層体の各層の光学特性は、実施例1と同程度の光学特性を示した。
【0111】
(比較例1)
共重合体1をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、溶液を調製した。この溶液をカバーガラス基板上にスピンコーターを用いて2.6μmの厚さになるよう塗布して、25℃で乾燥させた。乾燥後の塗膜に、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光性に変換した偏光を30秒間照射した(照射量30mJ/cm2)。
【0112】
その後、得られた塗膜上に、重合性液晶化合物(BASF社製、LC-242)100重量部、および光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、イガルキュア907)5重量部を混合し、トルエンに溶解した溶液を、スピンコーターを用いて1.2μmの厚さになるよう塗布し、70℃まで加熱後、室温まで冷却した。重合性液晶化合物は、照射した偏光軸方向に対して90°に配向していることが確認された。
【0113】
その後、高圧水銀灯からの紫外線を、グランテーラープリズムを用いて、偏光軸方向が先に照射した偏光の偏光軸方向と60°異なる直線偏光性に変換した偏光を、塗膜に100秒間照射した(照射量100mJ/cm2)。
【0114】
得られた光学積層体は、任意の点において面内リタデーション値が172.9nm(Linear Retardance:136.8nm、Circular Retardance:-105.7nm)であった。
【0115】
得られた光学積層体の各層の光学特性を調査するために、第二の光学異方性層のみを剥離した。第二の光学異方性層は、任意の点において面内リタデーション値Reが116.8nmであり、遅相軸方向は先に照射した偏光の偏光軸方向に対して39.8°であった。これにより、2層の光学異方性層が積層された光学積層体であることが確認されたが、各層の遅相軸のなす角は50.2°であり、第2回目の偏光照射時の偏光軸方向(=60°)と大幅に異なる。更には、面内で遅相軸方向が一定ではないこと、配向が乱れミクロドメイン発生によるヘイズが生じていることが確認された。これは、配向された第二の光学異方性を介して第2回目の偏光照射したことにより、共重合体1からなる第一の光学異方性に偏光が入射するときに、直線偏光から楕円偏光となってしまうこと、偏光軸方向(楕円偏光の長軸方向)も変わってしまうためと考えられる。よって、この比較例1では、所望の光学積層体を作製することが困難であった。
【0116】
実施例1~3の光学積層体は、特定の方法により製造したため、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層の各層の遅相軸を任意に調整することが可能であった。特に、実施例2では、第二の偏光を照射する前に、溶媒による表面処理を行ったため、より容易に表面の配向を施すことが可能であった。また、実施例3では、共重合体2のヒドロキシ基と架橋結合を形成できるイソシアネート基を有するポリイソシアネートを重合性液晶化合物とともに含有させたため、第一の光学異方性層と第二の光学異方性層との密着性が良好であった。
【0117】
一方、比較例1の光学積層体は、複屈折誘起材料層を配向させるための偏光を重合性液晶材料からなる層を介して照射したため、その偏光は重合性液晶材料からなる層により変換されてしまい、各層の遅相軸を所望のものに調整することができていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、互いの遅相軸の交差する角度を任意に設定可能である光学積層体を提供することができる。このような光学積層体は、液晶表示装置、有機EL表示装置へ利用される偏光板、光学補償フィルム等の用途で用いることができる。特に、直線偏光板と積層させることにより有機EL表示装置に利用される円偏光板として使用することが可能である。
【0119】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0120】
10・・・基材
20・・・複屈折誘起材料層
30・・・第一の光学異方性層
31・・・内部層
32・・・表面層
40・・・第二の光学異方性層
100・・・光学積層体