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特許7196285ろう付け用チューブおよびその製造方法と熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ろう付け用チューブおよびその製造方法と熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/32 20060101AFI20221219BHJP
   F28F 1/02 20060101ALI20221219BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20221219BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20221219BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20221219BHJP
   B23K 35/363 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
F28F1/32 B
F28F1/02 B
F28F21/08 A
F28D1/053 A
C22C21/00 J
B23K35/363 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021509596
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013693
(87)【国際公開番号】W WO2020196763
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019058262
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 靖憲
(72)【発明者】
【氏名】久米 淑夫
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147375(WO,A1)
【文献】特開2019-011922(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/32
F28F 1/02
F28F 21/08
F28D 1/053
C22C 21/00
B23K 35/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面と短側面を有する扁平型のチューブ本体からなり、前記表面側と前記裏面側と前記短側面側にろう付け組成物層が形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金製のろう付け用チューブであって、
前記短側面に厚さ5~30μmの第1のろう付け組成物層が形成され、
前記表面から前記短側面に至る表面側コーナー部分と前記裏面から前記短側面に至る部分の裏面側コーナー部分に、厚さ0.5~15μmの第2のろう付け組成物層が形成され、
前記表面と前記裏面に主ろう付組成物層が形成されるとともに、
前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層が、Si粉末とZn含有フラックスと非Zn含有フラックスをいずれか1種以上を含み、更に、バインダを含むろう付け組成物層であることを特徴とするろう付け用チューブ。
【請求項2】
前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層は、いずれもSi粉末:1~5g/mを含むことを特徴とする請求項1に記載のろう付け用チューブ。
【請求項3】
前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層は、いずれもZn含有フラックス:3~20g/mを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のろう付け用チューブ。
【請求項4】
前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層は、いずれも非Zn含有フラックス:1~10g/mを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のろう付け用チューブ。
【請求項5】
前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層は、いずれもバインダ:0.2~8.5g/mを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のろう付け用チューブ。
【請求項6】
前記チューブ本体がその内部に複数の流路を設けた押出多穴管からなることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のろう付け用チューブ。
【請求項7】
表面と裏面と短側面を有する扁平型のチューブ本体に対し、前記短側面に対向させて設置したエアースプレー装置から、
Si粉末とZn含有フラックスと非Zn含有フラックスをいずれか1種以上を含み、更に、バインダと溶剤を含むろう付け液状組成物を噴射し、前記短側面に厚さ5~30μmの第1のろう付け組成物層を形成し、前記表面から前記短側面に至る表面側コーナー部分と前記裏面から前記短側面に至る部分の裏面側コーナー部分に、厚さ0.5~15μmの第2のろう付け組成物層を形成することを特徴とするろう付け用チューブの製造方法。
【請求項8】
Si粉末:1~5g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする請求項7に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【請求項9】
Zn含有フラックス:3~20g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする請求項7または8に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【請求項10】
非Zn含有フラックス:1~10g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【請求項11】
バインダ:0.2~8.5g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする請求項7~10のいずれか一項に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【請求項12】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のろう付け用チューブと該ろう付用チューブを挿通する長孔を有するフィンとを有し、前記長孔に前記ろう付用チューブが挿通され、前記ろう付用チューブと前記フィンとがろう付けされた熱交換器であって、前記ろう付け組成物層の溶融凝固物であるフィレットにより前記ろう付用チューブと前記フィンとがろう付けされたことを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け用チューブおよびその製造方法と熱交換器に関する。
本願は、2019年3月26日に、日本に出願された特願2019-058262号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
扁平多穴管、フィン及びヘッダーパイプを主構成要素とし、これらをろう付けすることにより構成されるアルミニウム合金製熱交換器が知られている。
そして、この種の熱交換器を製造するため、ろう付け用のSi粉末と、フッ化物系フラックスに加え、樹脂と溶剤からなるバインダとの混合物とした粉末ろう組成物が提供されている。また、前記粉末ろう組成物を表裏面に塗布した扁平多穴管とフィン及びヘッダーパイプとをろう付けすることによって、安価に熱交換器を製造する方法が提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開平7-227695号公報(A)
【文献】日本国特開2004-330233号公報(A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載の粉末ろう組成物、熱交換器を用いることにより、扁平多穴管からなるチューブとフィンとのろう付け接合部に選択腐食を発生することがなく、信頼性の高い、工業上実用性の高い熱交換器が得られている。
上述の粉末ろう組成物を扁平多穴管に塗布する場合、扁平多穴管においてフィンに接する部分が表面もしくは裏面のため、表面もしくは裏面に粉末ろう組成物を塗布している。
扁平多穴管の表裏面に粉末ろう組成物を塗布することにより、粉末ろう組成物に含まれる成分の一部がろう付け時に扁平多穴管の表面側もしくは裏面側に拡散し、犠牲陽極層を形成する。この犠牲陽極層の存在により、犠牲防食効果を得ることができ、ろう付け部分の選択腐食を抑制できる。
【0005】
従来、粉末ろう組成物を扁平多穴管に塗布する場合、その表裏面にバーコーターやロールコーターなどの塗布装置を用いて塗布することが一般的である。これは、フィンに接触する部分が扁平管の表裏面であること、これら塗布装置によりろう付け組成物を目的のスピードで均一塗布できること、大量生産に好適であることなどによる。
【0006】
ところで、熱交換器には、更なる小型化、軽量化が進められており、ろう付け部分の信頼性のより一層の向上対策などが求められている。この見地から粉末ろう組成物を用いたろう付け部分の更なる信頼性向上について検討すると、扁平多穴管の側面側にろう付け組成物を塗布していないため、扁平多穴管の側面側において腐食が進行するおそれがある。
扁平多穴管の側面側は平坦な広い表裏面側とは異なり、曲面状の部分があり、幅狭の側面であるため、扁平多穴管の側面側にろう付け用組成物を均一に塗布することが困難な問題がある。
例えば、曲面を有し、幅狭の側面にバーコーターやロールコーターでろう付け組成物を均一には塗布できない問題がある。特に、扁平多穴管の表裏面と側面の境界部分であり、曲面でもあるコーナー部分にろう付け組成物を均一塗布することが難しい問題がある。
【0007】
また、熱交換器に適用される扁平多穴管とフィンとを接合する構造において、フィンに形成したスリット状の孔部に扁平多穴管を差し込んで両者を位置決めし、ろう付けする構造が知られている。この構造においては、スリット状の孔部に扁平多穴管を差し込む必要があるため、孔部内縁に沿って扁平多穴管を摺り合わせしながら差し込む必要がある。この場合、扁平多穴管の側面側に不均一な厚さのろう付け組成物が塗布されていると、孔部内面との摺り合わせ時にろう付け組成物が剥離する問題がある。
【0008】
本願発明は、これらの事情に鑑みなされたもので、扁平型のチューブ本体の短側面側におけるろう付け組成物の剥離を防止し、チューブ本体短側面側での確実なろう付け性を確保できるようにしたろう付け用チューブの提供およびその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、フィンの孔部に挿通してフィンと組み合わせ構造とする場合であっても、ろう付け組成物の剥離を生じ難いろう付け用チューブの提供およびその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、前述のろう付け用チューブを備えた熱交換器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は以下の態様を備える。
【0010】
(1)表面と裏面と短側面を有する扁平型のチューブ本体からなり、前記表面側と前記裏面側と前記短側面側にろう付け組成物層が形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金製のろう付け用チューブであって、前記短側面に厚さ5~30μmの第1のろう付け組成物層が形成され、前記表面から前記短側面に至る表面側コーナー部分と前記裏面から前記短側面に至る部分の裏面側コーナー部分に、厚さ0.5~15μmの第2のろう付け組成物層が形成され、前記表面と前記裏面に主ろう付組成物層が形成されるとともに、前記第1のろう付け組成物層と前記第2のろう付け組成物層と前記主ろう付け組成物層が、Si粉末とZn含有フラックスと非Zn含有フラックスをいずれか1種以上を含み、更に、バインダを含むろう付け組成物層であることを特徴とするろう付け用チューブ。
【0013】
)前記主ろう付け組成物層はSi粉末:1~5g/mを含むことを特徴とする前記(1)に記載のろう付け用チューブ。
【0014】
)前記主ろう付け組成物層はZn含有フラックス:3~20g/mを含むことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のろう付け用チューブ。
【0015】
)前記主ろう付け組成物層は非Zn含有フラックス:1~10g/mを含むことを特徴とする前記(1)~()のいずれか一つに記載のろう付け用チューブ。
【0016】
)前記主ろう付け組成物層はバインダ:0.2~8.5g/mを含むことを特徴とする前記(1)~()のいずれか一つに記載のろう付け用チューブ。
【0017】
)前記チューブ本体がその内部に複数の流路を設けた押出多穴管からなることを特徴とする前記(1)~()のいずれか一つに記載のろう付け用チューブ。
【0018】
)表面と裏面と短側面を有する扁平型のチューブ本体に対し、前記短側面に対向させて設置したエアースプレー装置から、Si粉末とZn含有フラックスと非Zn含有フラックスをいずれか1種以上を含み、更に、バインダと溶剤を含むろう付け液状組成物を噴射し、前記短側面に厚さ5~30μmの第1のろう付け組成物層を形成し、前記表面から前記短側面に至る表面側コーナー部分と前記裏面から前記短側面に至る部分の裏面側コーナー部分に、厚さ0.5~15μmの第2のろう付け組成物層を形成することを特徴とするろう付け用チューブの製造方法。
【0020】
)Si粉末:1~5g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする前記(7)に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【0021】
)Zn含有フラックス:3~20g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする前記(7)または(8)に記載のろう付け用チューブの製造方法。
【0022】
10)非Zn含有フラックス:1~10g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする前記()~()のいずれか一つに記載のろう付け用チューブの製造方法。
【0023】
11)バインダ:0.2~8.5g/mを含む主ろう付け組成物層を前記チューブ本体体の前記表面と前記裏面に形成することを特徴とする前記()~(10)のいずれか一つに記載のろう付け用チューブの製造方法。
【0024】
12)前記(1)~()のいずれか一つに記載のろう付け用チューブと該ろう付用チューブを挿通する長孔を有するフィンとを有し、前記長孔に前記ろう付用チューブが挿通され、前記ろう付用チューブと前記フィンとがろう付けされた熱交換器であって、前記ろう付け組成物層の溶融凝固物であるフィレットにより前記ろう付用チューブと前記フィンとがろう付けされたことを特徴とする熱交換器。
【発明の効果】
【0025】
本形態に係るろう付け用チューブであるならば、扁平型のチューブ本体の短側面側におけるろう付け組成物の剥離を防止し、チューブ本体短側面側での確実なろう付け性を確保できる。本形態は、フィンの孔部に挿通してフィンと組み合わせ構造とする場合であっても、ろう付け組成物の剥離を生じ難くして確実なろう付けができるようにしたろう付け用チューブを提供できる。
【0026】
本形態に係るろう付け用チューブは、表裏面と短側面との境界部分であるコーナー部分や短側面にそれぞれ好適な厚さのろう付け組成物層を設けた構成を採用した。これにより、フィンと扁平管との組み立て時におけるろう付け組成物の剥離を防止し、コーナー部分や短側面側において確実なろう付けを実現できる。また、チューブ本体を折り曲げて使用する場合においてもフィン倒れを生じない、ろう付け部分の品質の優れたろう付け構造を提供できる。
上述のような好適な厚さのろう付け組成物層を備えたろう付け用チューブを備え、ろう付けされた熱交換器であれば、ろう付け部分の品質が高く、フィンの挿通孔にチューブ本体を嵌合した構造としてもフィンに変形を生じ難く、チューブを折り曲げて使用したとしてもフィン倒れを生じ難い熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本形態に係る第1実施形態のろう付け用チューブの横断面図である。
図2図1に示すチューブにフィンがろう付けされた熱交換器の一例を示す斜視図である。
図3】同熱交換器におけるチューブとフィンの接合部分を示す部分断面図である。
図4図2に示す熱交換器においてろう付けする前の状態を示す部分断面図である。
図5図2に示す熱交換器においてろう付け後の状態を示す部分断面図である。
図6図2に示す熱交換器を組み立てる場合においてコーナー部分にろう付け組成物層を備えていないチューブをフィンの孔部に差し込む状態の一例を示す説明図である。
図7図2に示す熱交換器を組み立てる場合においてコーナー部分にろう付け組成物層を備えたチューブをフィンの孔部に差し込む状態の一例を示す説明図である。
図8図1に示すろう付け用チューブに対しエアスプレー装置によってろう付け組成物を塗布している状態を示す説明図である。
図9図7に示す状態においてチューブをフィンの孔部に挿入する際に生じる摩擦の一例を示すグラフである。
図10図6に示す状態においてチューブをフィンの孔部に挿入する際に生じる摩擦の一例を示すグラフである。
図11】エアスプレー装置によって扁平多穴管の短側面側に塗布したろう付け組成物の塗布状態の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際のチューブや熱交換器と同じであるとは限らない。
【0029】
「第1実施形態」
図1は、図2図3に示す熱交換器11に適用されている扁平型のチューブ22の断面構造を示すもので、このチューブ22はアルミニウムあるいはアルミニウム合金を押出することにより形成された押出材であるチューブ本体12からなる。
第1実施形態の熱交換器11は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるオールアルミニウム熱交換器である。
【0030】
図1に示すチューブ22はろう付けする前の状態を示しており、水平に設置されたチューブ本体12の外周面にろう付け組成物層が被覆された状態を示している。
チューブ本体12は、幅広の表面壁12Aと裏面壁12Bとそれらの左右両端側を個々に接続した背の低い側面壁12C、12Cとチューブ本体12の内部を複数の流路12Dに仕切る複数の隔壁12Eとから構成されている。この例において複数の流路12Dはいずれも矩形状の類似断面形状に形成され、図1に示す例においてはチューブ本体内に26個の流路12Dが形成されている。
なお、図1に示すチューブ本体12は1つの例であって、各部の幅、厚さ、扁平度(幅と厚さの比率)、流路12Dの形状や個数はいずれも任意に設定することができる。
【0031】
換言すると、チューブ本体12は、幅の広い平坦な表面(上面)12a及び裏面(下面)12bと、それらの両端側を個々に接続する平坦な短側面12c、12cとを有する扁平型に形成されている。また、チューブ本体12において表面12aの幅方向端部から短側面12cに至る部分には所定の曲率で円弧状に形成されたコーナー部12fが形成され、裏面12bの幅方向端部から短側面12cに至る部分にも所定の曲率で円弧状に形成されたコーナー部12gが形成されている。短側面12cにおいて上下のコーナー部12f、12gを除く部分は表面12aと裏面12bに対しほぼ直角に対向する平面状に形成されている。
なお、短側面12cの形状は特に制限されるものではなく、湾曲面や傾斜面であっても良い。
【0032】
図1に示すチューブ本体12においてその表面12aと裏面12bには後述する組成のろう付け組成物の塗膜からなる主ろう付け組成物層15が形成されている。また、チューブ本体12において短側面12cの外方に後述する組成を有する第1のろう付け組成物層16が形成され、コーナー部12f、12gの外方に後述する組成を有する第2のろう付け組成物層17が形成されている。
本実施形態において主ろう付け組成物層15と第1のろう付け組成物層16と第2のろう付け組成物層17は後述する同一組成のろう付け組成物からなり、それらの塗布量と厚さが異なっている。
【0033】
図2は、図1に示す複数のチューブ22をヘッダ管14にろう付けにより接合し、複数のチューブ22を複数のフィン13にろう付けにより接合して構成された熱交換器11の全体構造を示す。
この熱交換器11は、図2に示すように左右に離間し平行に立設配置された一対のヘッダ管14と、一対のヘッダ管14の間に上下に相互に間隔を保って水平に、かつ、ヘッダ管14に対してほぼ直角に接合された複数本のチューブ22(チューブ本体12)と、チューブ本体12の表面12aまたは裏面12bにろう付けされ、外気に熱を放散するための複数枚のフィン13とを備えている。
【0034】
左右一対のヘッダ管14のうち一方の上端部には、ヘッダ管14を介しチューブ22に冷媒を供給する供給管18Aが接続されている。また、他方のヘッダ管14の下端部には、チューブ22を経由した冷媒を回収する回収管18Bが接続されている。チューブ22、フィン13、ヘッダ管14、供給管18A、回収管18Bは、いずれもアルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。
【0035】
図3は、チューブ22の長さ方向に直交する面に沿って横断面をとった熱交換器11の部分断面図である。図3に示すように、チューブ22を構成するチューブ本体12の内部には幅方向に沿って並ぶ複数(本実施形態では26個)の冷媒流路12Dが形成されている。また、図3に示すようにフィン13には、チューブ22の断面形状に対応する形状のスリット状の孔部19が、上下に所定の間隔をあけて複数個々に水平に形成されている。これらの孔部19は図3に示すようにフィン13の左側端部から右側端部近くまで形成され、孔部19の最奥部はフィン13の右側端部より若干手前側に位置されている。
【0036】
これらの孔部19には、それぞれチューブ22が嵌合され、個々のチューブ22がろう付けにより複数のフィン13に固定されている。フィン13に形成された孔部19の長さ(図3に示す水平長さ)はフィン13の幅よりも若干短く、この孔部19に挿入されているチューブ22の幅方向一側の短側面12cは孔部19の最奥部まで挿入され、ろう付けされている。
【0037】
図4図5は、図2図3に示す熱交換器11において、チューブ22の長さ方向に沿って縦断面をとった部分断面図であり、図4はろう付け前の状態を示し、図5はろう付け後の状態を示す。フィン13は、チューブ22の長さ方向に沿って(図4図5の左右方向に沿って)複数枚、並列配置され、個々の孔部19にチューブ22が挿通されている。
複数のフィン13は、一定の間隔をおいて相互に平行に並列配置されている。フィン13は、孔部19の周縁部に沿ってフィン13の厚さ方向一側に屈曲した屈曲部20を有している。屈曲部20は、例えば、バーリング加工などの加工法により形成される。
【0038】
図5に示すようにチューブ22とフィン13は、一定間隔に並べた複数のフィン13をチューブ22が串刺し貫通するように配置され、フィン13とチューブ22が個々にろう付けにより固定されている。
図4に示すろう付け前の状態において、フィン13の孔部19に形成された屈曲部20とチューブ22の表面または裏面との隙間は10μm以下程度に形成されている。この隙間が大きすぎる場合は、後述するろう付け工程において溶融したろうの回り込み量が不足し、ろう付け不良を引き起こすおそれがある。
【0039】
本実施形態のフィン13は、図3に示すように孔部19に対しチューブ22を貫通させているが、孔部19に代えてフィン13の幅方向両端側に到達しない水平長さのスリット状の貫通孔を設け、これらの貫通孔にチューブ22を通した構成としても良い。この構成の場合、図3に示す状態に対比すると、貫通孔の内側にのみチューブ22が存在し、チューブ22の幅方向一端側がフィン13の外側には突出しない構成となる。
以上説明の如くフィン13に対するチューブ22の貫通位置に特に制限はなく、フィン13とチューブ22のろう付けにより良好な熱伝導性を確保できる接合位置や接合形状であれば良い。
【0040】
以下、熱交換器11の主な構成要素についてより詳細に説明する。
<<フィンとその構成材料>>
図4図5に拡大して示すようにフィン13は、板状の基材3と、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに被覆された親水性皮膜1を有していることが好ましい。
フィン13の基材3は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。また、基材3は、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で2%程度のZnを添加したアルミニウム合金からなるものであっても良い。
フィン13の基材3は、前記アルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程、プレス工程などを経て加工される。なお、基材3の製造方法は、本発明において特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0041】
<<ヘッダー管の構成材料>>
ヘッダー管14を構成するアルミニウム合金は、Al-Mn系をベースとしたアルミニウム合金が好ましい。例えば、Mn:0.05~1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05~0.8%、Zr:0.05~0.15%を含有することができる。
【0042】
<<チューブの構成>>
図1に示すように、ろう付け前のチューブ22は、チューブ本体12と、その外周面に形成されたろう付け組成物層15、16、17を有している。
チューブ本体12は、例えば、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。一例として、Si:0.10~0.60%、Fe:0.1~0.6質量%、Mn:0.1~0.6質量%、Ti:0.005~0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、これらのアルミニウム合金を押出することにより作製されたものである。
【0043】
<<主ろう付け組成物層15の構成材料>>
図1図4に示すろう付け前のチューブ本体12に形成されている主ろう付け組成物層15は、少なくともフィン3がろう付け接合される部分に対応して塗布された塗膜である。
主ろう付け組成物層15は、一例として、Si粉末:1~5g/mと、Zn含有フラックス(KZnF):3~20g/mと、非Zn含有フラックス:1~10g/mのいずれか一種類又は2種類以上を含み、更に、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.2~8.5g/mを含むろう付用塗膜であることが好ましい。なお、これらの成分に対し適切な量の溶剤を配合することでろう付け液状組成物が構成される。
【0044】
以下、主ろう付け組成物層15を構成するろう付け組成物の構成材料について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ本体12を構成するAlとろう付け時に反応し、フィン3とチューブ本体12を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。
このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、チューブ本体12の表面と裏面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これによりチューブ表面と裏面に均一なZn拡散がなされ、チューブ表面と裏面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、チューブ本体12の表面から深さ方向への拡散について見ると、SiはAlと共晶となって融点を下げるので、チューブ本体12の表面では共晶組成となった状態にZnが拡散しチューブ本体12の表面側と裏面側に所定厚さのZn溶融拡散層が生成する。このZn溶融拡散層が犠牲陽極層となるので、チューブ本体12の表面側と裏面側のろう付け部分の耐食性を向上できる。
なお、本実施形態ではチューブ本体12の短側面側にもろう付け組成物層16、17が形成されているので、これらろう付け組成物層16、17に含まれているZnとSiの拡散がなされ、チューブ本体12の短側面側にも犠牲陽極層が形成される。
【0045】
<Si粉末塗布量:1~5g/m
Si粉末の塗布量が1g/m未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、塗布量が5g/mを超えると、チューブ本体12の溶融量が増加してチューブ本体12の肉厚が減少して、好ましくない。このため、主ろう付け組成物層15におけるSi粉末の含有量は1~5g/mとすることが好ましい。
<Si粉末粒度:最大粒径:D(99):30μm以下>
Si粉末の粒度がD(99)において30μm以下であれば、均一なZn溶融拡散層を形成することが可能である反面、30μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一なZn溶融拡散層を形成できなくなるおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径D(99)において30μm以下が好ましい。なお、D(99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
【0046】
<Zn含有フラックス、非Zn含有フラックス>
Zn含有フラックスは、ろう付けに際し、チューブ本体12の表面側と裏面側にZn溶融拡散層を形成し、耐孔食性を向上させる効果がある。また、ろう付け時にチューブ3の外面の酸化膜を破壊し、ろうの広がり、ぬれを促進してろう付け性を向上させる作用を奏する。このZn含有フラックスは、Znを含まないフラックスに比べ活性度が高いので、比較的微細なSi粉末を用いても良好なろう付け性が得られる。Zn含有フラックスは、KZnF、ZnF、ZnClのうち、1種または2種以上を用いることができる。Zn含有フラックスに対し、非Zn含有フラックスを添加しても良い。
【0047】
非Zn含有フラックスとしてフッ化物系フラックスあるいはフルオロアルミン酸カリウム系のフラックスはKAlFを主成分とするフラックスであり、添加物を加えた種々の組成が知られている。KAlF+KAlF(K1-3AlF6-4)なる組成のもの、Cs(x)(y)(z)などを例示できる。他に、LiF、KF、CaF、AlF、KSiF等のフッ化物を添加したフッ化物系フラックス(例えば、フルオロアルミン酸カリウム系のフラックス)を用いることもできる。Znフラックスに加えてフッ化物系フラックス(例えばフルオロアルミン酸カリウム系のフラックス)を添加することでろう付け性向上に寄与する。
【0048】
<フラックス塗布量:3~20g/m
Zn含有フラックスの塗布量が3g/m未満であると、熱交換器11とした場合の電位差が低くなり、犠牲効果が発揮されないおそれがある。また、チューブ本体12の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招くおそれがある。一方、塗布量が20g/mを超えると、電位差が過大となり、腐食速度が増加し、Zn溶融拡散層の存在による防食効果が短時間になるおそれがある。このため、Zn含有フラックスの塗布量を3~20g/mとすることが好ましい。Zn含有フラックスは、一例としてKZnFを用いることができる。前述の非Zn含有フラックスは、Zn含有フラックスに加えて添加することができる。
【0049】
<バインダ塗布量:0.2~8.5g/m
ろう付け組成物層15には、Si粉末、Zn含有フラックスに加えてバインダを含むことができる。バインダの一例として、アクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダはZn溶融拡散層の形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスをチューブ22の表面と裏面に固着する作用があるが、バインダの塗布量が0.2g/m未満であると、ろう付け時にSi粉末やZnフラックスがチューブ本体12から脱落し、均一なZn溶融拡散層が形成されないおそれがある。一方、バインダの塗布量が8.5g/mを超えると、バインダ残渣によりろう付け性が低下し、均一なZn溶融拡散層が形成されないおそれがある。このため、バインダの塗布量は、0.2~8.5g/mとすることが好ましい。なお、バインダは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
【0050】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう付け組成物層15の形成方法は、本実施形態において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、バーコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。
【0051】
<<第1、第2のろう付け組成物層の構成材料>>
図1に示すチューブ本体12の側面側に形成されている第1のろう付け組成物層16、第2のろう付け組成物層17は、基本的に先の主ろう付け組成物層15を構成する材料と同等の材料からなる。即ち、Si粉末とZn含有フラックスと、非Zn含有フラックスのいずれか1種類又は2種類以上を含み、更に、バインダとを含む。あるいは、Si粉末とZn含有フラックスと、非Zn含有フラックスのいずれか1種類又は2種類以上を含み、更に、バインダと溶剤とを含む。
ただし、第1のろう付け組成物層16、第2のろう付け組成物層17は個々に以下に説明する望ましい厚さに形成されている。第1のろう付け組成物層16は、5~30μmの範囲の厚さに形成されていることが望ましい。第2のろう付け組成物層17は、0.5~15μmの範囲の厚さに形成されていることが望ましい。
【0052】
第1のろう付け組成物層16はチューブ本体12の短側面上に形成されたろう付け用塗膜である。ろう付け時にこの塗膜が溶融し、凝固してチューブ本体12の短側面側をフィン13の孔部19の最奥側にろう付け固定する。
第2のろう付け組成物層17はチューブ本体12の短側面側のコーナー部分に形成されたろう付け用塗膜である。ろう付け時にこの塗膜が溶融し、凝固してチューブ本体12の短側面コーナー部分をフィン13の孔部19の最奥側にろう付け固定する。
これら第1、第2のろう付け組成物層16、17が無い場合、チューブ本体12の短側面側をフィン13にろう付け固定する固定力が不足する。
【0053】
例えば、室外機の小型化、コンパクト化の要求に応じ、熱交換器の一部を平面視L字型に折り曲げて室外機に収容する構成が知られている。このように熱交換器の一部を平面視L字型に折り曲げる際、チューブ本体12の短側面側をフィン13の孔部19の最奥側にろう付け固定する力が不足していると、折り曲げ部分において複数のフィン13の一部が倒れるおそれがある。チューブ本体12の短側面側に設けた第1、第2のろう付け組成物層16、17を十分な厚さとしておくならば、フィン13のろう付け固定力を十分に確保することができる。このため、チューブ本体12を平面視L字型に折り曲げた場合であってもフィン倒れを起こすことなく折り曲げ加工ができる。
なお、チューブ本体12をL字型に折り曲げる構造の場合、例えば、チューブ本体12の座屈等を防止するためにチューブ本体12の冷媒流路数を少なくして扁平率の低い構成が採用される。
【0054】
また、前記第2のろう付け組成物層17が無い場合か、薄過ぎる場合、フィン13の孔部19にチューブ本体12を差し込み、孔部19の開口部分にチューブ本体12のコーナー部分が擦れると、挿入抵抗が大きくなり、孔部19にチューブ本体12の短側面側を挿入する場合に支障を生じるおそれがある。
【0055】
図2図3に示す熱交換器11を組み立てる場合、複数のフィン13を隣接配置した状態で全ての孔部19に図2に示す如く上下に並ぶ8本のチューブ体12を挿入する必要がある。ここで複数のフィン13を整列させて精密に配置していたとしても各フィン13の孔部19は製造誤差等も起因して多少上下にあるいは左右に位置ずれしているおそれがある。
また、図2に示す8本のチューブ本体12が精密に製造され、それらの厚さが全て均一に形成され、ヘッダ管14に形成したチューブ挿通用の孔部が全て均一に正確な位置に形成されていたとしても、それら各部の製造誤差等から、上下に隣接配置されたチューブ本体12が多少位置ずれしていることも考えられる。
【0056】
上述のようにフィン13の孔部19とチューブ本体12の端部が多少でも位置ずれしていると図6に示すように孔部19に対しチューブ本体12の端部を挿入する場合、チューブ本体12のコーナー部分は孔部19の開口部内周縁を擦りながらの挿入動作となる。
ここで、フィン13がアルミニウム又はアルミニウム合金製であり、チューブ12もアルミニウム又はアルミニウム合金製であると、アルミニウムどうしの擦り合いとなる。
アルミニウムどうしの擦り合いは金属どうし擦り合いの中でも、摩擦抵抗が大きい擦り合いであるので、孔部19に対するチューブ本体12の挿入時の摩擦抵抗の変動が大きくなり、状況によっては嵌合時に薄いフィン13を変形させるおそれがある。
この点において、図7に示すようにチューブ本体12のコーナー部に適度な厚さのろう付け組成物層17、17が設けられていると、塗膜とアルミニウムとの摩擦となるので、アルミニウムどうしの摩擦抵抗よりは抵抗が少なくなり、よりスムーズな挿入作業が可能となる。
【0057】
このため、第2のろう付け組成物層17は0.5~15μmの範囲の厚さに形成されていることが望ましい。ろう付け組成物層17の厚さが0.5μm未満では挿入時の摩擦抵抗を減少させる効果が不足する。ろう付け組成物層17の厚さが15μmを超えるとコーナー部分に厚すぎるろう付け組成物層17が存在することとなり、チューブ本体12を孔部19に挿入する際、ろう付け組成物層17が剥離する不具合を生じるおそれがある。
【0058】
図4は、チューブ本体12をフィン13の孔部19に挿入した状態の縦断面を示すが、チューブ本体12の主ろう付け組成物層15は、フィン13の屈曲部20のチューブ本体12と対向する部分(対向面20a)とチューブ本体12の間に位置する。主ろう付け組成物層15は、600℃前後の加熱(ろう付け加熱)後に冷却されることで、対向面20aとチューブ本体12との間に満たされた状態で固化し、図5に示すようにフィレット15Aを形成してフィン13とチューブ本体12を接合する。また、チューブ本体12の短側面側とそのコーナー部分に形成されているろう付け組成物層16、17はろう付け後にフィレット15Aとなって、孔部19の最奥側にチューブ本体12の短側面側とコーナー部分側を接合する。
【0059】
主ろう付け組成物層15は、フィン13と当接する領域に、即ち、チューブ本体12の表面12aと裏面12bに形成されている。また、ろう付け前の主ろう付け組成物層15に含まれていたSiとZnがろう付け温度でチューブ本体12側に拡散し、チューブ本体12の表裏面の表層部にSiとZnを含む犠牲陽極層を形成する。
また、ろう付け組成物層16、17に含まれていたSiとZnもろう付け時にチューブ本体12の短側面側とコーナー部分側に拡散し、これらの部分にSiとZnを含む犠牲陽極層を形成する。このため、ろう付け後、チューブ本体12の全周に犠牲陽極層を形成できる。
【0060】
<<ろう付け組成物層の形成方法>>
チューブ本体12に対し、主ろう付け組成物層15を形成し、更に、第1、第2のろう付け組成物層16、17を形成する方法について以下に説明する。
Si粉末、フラックス、バインダからなる主ろう付け組成物層15の形成方法は、本実施形態において特に限定されるものではない。Si粉末、フラックス、バインダに溶剤を添加してろう付け液状組成物とした塗料を以下の方法により塗布し、乾燥すればよい。
塗布は、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、バーコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって塗布することができる。これらの方法により必要な塗布量でチューブ本体12の表面12aと裏面12bの必要な範囲に主ろう付け組成物層15を形成することができる。
例えば、チューブ本体12の表面12aと裏面12bにおいてそれらのほぼ全面に主ろう付け組成物層15を形成することができる。
【0061】
次に、チューブ本体12の短側面12cから所定距離離れた位置に図8に示すようにエアースプレー方式の塗布装置30を設置し、短側面12cとコーナー部12f、12gにろう付け液状組成物をスプレー塗布する。
ここで用いるろう付け液状組成物とは、前述のSi粉末と、Zn含有フラックス(KZnF)と、バインダ(例えば、アクリル系樹脂)に必要量の溶剤を添加して液状としたろう付液状組成物を意味する。
あるいは、前述のSi粉末と、Zn含有フラックス(例えば、KZnF)と、非Zn含有フラックスと、バインダ(例えば、アクリル系樹脂)に必要量の溶剤を添加してエアースプレー方式に望ましい粘度の液状としたろう付液状組成物を意味する。
あるいは、前述のSi粉末と、非Zn含有フラックスと、バインダ(例えば、アクリル系樹脂)に必要量の溶剤を添加してエアースプレー方式に望ましい粘度の液状としたろう付液状組成物を意味する。
【0062】
図8に示す塗布装置30は、先端にノズル31を有するスプレーガン32を備え、スプレーガン32の流路の途中に液体供給用の導入管33を備え、スプレーガン32の後端部に図示略のエアー供給装置が接続されたエアースプレー方式の塗布装置である。
この塗布装置30を用いて図8に示すようにチューブ本体12の短側面側にろう付け液状組成物をスプレー塗布することで第1のろう付け組成物層16と第2のろう付け組成物層17を形成できる。塗布装置30の具体例として、株式会社サンエイテック製エアスプレーバルブ塗布装置などを用いることができる。
チューブ本体12の短側面12cに対しノズル31の上下位置調節および前後位置調節と噴射圧力の調節を行い、短側面12c上に対する塗膜量とコーナー部12f、12g上に対する塗膜量を目的の範囲に調整できる。
【0063】
この後、複数枚並列設置したフィン13の孔部19にチューブ本体12を差し込んで嵌合し、図2に近い状態に組み付け、ろう付けを行う。
ろう付けは、ろう付け組成物層15、16、17の融点以上の温度、例えば580~620℃に加熱炉において数分間程度加熱するろう付け工程を行う。加熱によって、ろう付け組成物層15、16、17が溶融し、ろう液となる。このろう液は、チューブ本体12とフィン13の屈曲部20との間の隙間に流れ、これらの隙間を満たす。また、上述のろう液は、孔部19の最奥位置に嵌合されているチューブ本体12の短側面側の隙間にも流れてこの隙間を満たす。
【0064】
続いて、冷却することで、図5に示すように、ろう液が固化し、フィレット15Aが形成される。これらのフィレット15Aにより、チューブ本体12とフィン13とが接合される。
ろう付け組成物層15、16、17が溶融した部分ではろう付けによってフラックス中のSiとZnが拡散し、チューブ本体12の表裏面に加え、短側面側にもZn溶融拡散層(犠牲陽極層)が形成される。
【0065】
なお、この形態では主ろう付け組成物層15を形成した後に第1、第2のろう付け組成物層16、17を形成したが、これらを形成する順番はいずれが先であっても良く、これらを同時に形成しても良い。
例えば、押出材からなる長いチューブ本体12を搬送途中で塗布装置30により短側面側にろう付け組成物層16、17を形成後、バーコーターやロールコーターを用いて表裏面に主ろう付け組成物層15を形成しても良い。また、バーコーターやロールコーターを用いて表裏面に主ろう付け組成物層15を形成するとともに、バーコーターやロールコーターに隣接させて設けた塗布装置30により連続的に短側面側にろう付け組成物層16、17を形成しても良い。押出材からなる長いチューブ本体12にこれらの組成物層を形成した後、チューブ本体12を必要な長さに切断することで、熱交換器用のろう付け用チューブ22を得ることができる。
【0066】
<<効果>>
本実施形態の構造によれば、ろう付け組成物層15、16、17を備えたチューブ22と複数枚のフィン13を組み合わせてろう付けすることにより熱交換器11を構成できる。この場合、チューブ本体12の表裏面側に設けたろう付け組成物層15により、チューブ本体12の表裏面側にフィン13を確実にろう付けできる。その上、チューブ本体12の短側面側に設けたろう付け組成物層16、17により、チューブ本体12の短側面側をフィン13に確実にろう付けできる。このため、チューブ本体12の全体をフィン13に対し十分な接合強度で確実にろう付け接合できる。即ち、熱交換器11において高品質なろう付け接合ができる。
また、フィン13の孔部19にチューブ本体12を挿入して組み立てる際、チューブ本体12のコーナー部に設けたろう付け組成物層17がフィン13の孔部内周縁を擦る際の摩擦を緩和し、孔部19に対するチューブ本体12のスムーズな挿入を可能とする。
このため、チューブ22とフィン13を組み立てる際、フィン13に変形を生じさせることなく組立が可能となる。また、フィン13の孔部19に対しチューブ本体12の嵌合作業を行う場合、ろう付け組成物層17の剥離を抑制しながら嵌合作業ができる。
【0067】
前述のろう付け組成物層15、16、17を用いてろう付けするならば、チューブ12の表面側と裏面側は勿論、短側面12c側とコーナー部12f側、コーナー部12g側に対しZnを拡散させることができ、チューブ12の全周に犠牲陽極層を形成することができる。犠牲陽極層の生成部分は孔食ではなく面食として腐食進行するので、チューブ12に腐食による貫通孔が生じ難い構造を提供できる。
また、チューブ本体12の全周に犠牲陽極層を形成することで、犠牲陽極層に隣接するろう付け部分の腐食を抑制できる防食構造の熱交換器11を提供できる。
【0068】
なお、主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、Si粉末及びZn含有フラックスを含んでもよい。
また、主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、Si粉末、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含んでもよい。
【0069】
主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、非Zn含有フラックスを含んでもよい。
主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、Zn含有フラックスを含んでもよい。
【0070】
また、主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含んでもよい。
【0071】
主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17は、それぞれ成分が異なっていてもよい。
主ろう付け組成物層15、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17のいずれかがSi粉末を含まない層として形成された場合、ブレージングシート、ブレージングロッド等の使用により、ろう材を接合部に供給することができる。
【0072】
主ろう付け組成物層15は、Si粉末及びZn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はZn含有フラックスを含んでもよい。
また、主ろう付け組成物層15は、Si粉末、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はZn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含んでもよい。
【0073】
主ろう付け組成物層15は、非Zn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はSi粉末及びZn含有フラックスを含んでもよい。
また、主ろう付け組成物層15は、非Zn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はSi粉末、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含んでもよい。
【0074】
主ろう付け組成物層15は、Zn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はSi粉末及びZn含有フラックスを含んでもよい。
また、主ろう付け組成物層15は、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含み、第1のろう付け組成物層16及び第2のろう付け組成物層17はSi粉末、Zn含有フラックス及び非Zn含有フラックスを含んでもよい。
【実施例
【0075】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<<サンプルの作製>>
Si:0.4~0.6質量%、Mn:1.0~2.0質量%、Zn:1.0~3.5質量%を含み、残部不可避不純物とAlからなるアルミニウム合金の板材からなるフィン縦100mm×横20mm×厚さ0.1mm)を10枚用意した。これらフィンにスリット状の孔部(幅1.6mm、長さ18mm)を25列、一定間隔で形成し、これらの孔部に以下に説明する扁平多穴管(チューブ)を嵌合し、熱交換器ミニコア体を作製した。
【0076】
Si:0.3~0.5質量%、Mn:0.2~0.4質量%を含み、残部不可避不純物とAlからなるアルミニウム合金の扁平多穴管を用意した。この扁平多穴管は、幅17mm、厚さ1.5mm、表裏面と短側面との境界のコーナー部分に曲率半径0.3mmのコーナー部を有する。
【0077】
実施例1~10、51~60及び比較例1~4、22~24では、扁平多穴管の表面と裏面にバーコーターを用いてSi粉末:3g/m、Zn含有フラックス(KZnF):6g/m、バインダとしてのアクリル系樹脂:1g/mを溶剤に分散させたろう付け液状組成物を塗布し、150℃にて5分間乾燥させて主ろう付け組成物層を形成した。
【0078】
実施例11~20、61~70及び比較例5~8、25~28では、扁平多穴管の表面と裏面にバーコーターを用いてSi粉末:3g/m、Zn含有フラックス(KZnF):5g/m、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4):1g/m、バインダとしてのアクリル系樹脂:1g/mを溶剤に分散させたろう付け液状組成物を塗布し、150℃にて5分間乾燥させて主ろう付け組成物層を形成した。
【0079】
実施例21~30、71~90及び比較例9~12、22~27では、扁平多穴管の表面と裏面にバーコーターを用いて非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4):9g/m、バインダとしてのアクリル系樹脂:1g/mを溶剤に分散させたろう付け液状組成物を塗布し、150℃にて5分間乾燥させて主ろう付け組成物層を形成した。
【0080】
実施例31~40、91~100及び比較例13~16、37~40では、扁平多穴管の表面と裏面にバーコーターを用いてZn含有フラックス(KZnF):9g/m、バインダとしてのアクリル系樹脂:1g/mを溶剤に分散させたろう付け液状組成物を塗布し、150℃にて5分間乾燥させて主ろう付け組成物層を形成した。
【0081】
実施例41~50、101~110及び比較例17~20、41~44では、扁平多穴管の表面と裏面にバーコーターを用いてZn含有フラックス(KZnF):5g/m、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4):4g/m、バインダとしてのアクリル系樹脂:1g/mを溶剤に分散させたろう付け液状組成物を塗布し、150℃にて5分間乾燥させて主ろう付け組成物層を形成した。
【0082】
次に、扁平多穴管の短側面側に対し、株式会社サンエイテック製エアスプレーバルブ装置を用いて図8に示すようにろう付け組成物を吹き付け塗布した。塗布に際しては、扁平多穴管を固定し、エアスプレーバルブ装置を移動させながら塗布しても良いし、エアスプレーバルブ装置を固定し、扁平多穴管を移動させながら塗布しても良い。尚、この時は扁平多穴管を固定し、エアスプレーバルブ装置を移動させながら塗布した。また、エアスプレーバルブ装置の吐出開口径は0.2mmのものを使用した。
【0083】
実施例1~10、71~80、91~100及び比較例1~4、29~32、37~40では、上述の方法で扁平多穴管の短側面にSi粉末、Zn含有フラックス(KZnF)、バインダとしてのアクリル系樹脂を溶剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物)に分散させたろう付け液状組成物を塗布後、乾燥(150℃×5分間)することにより、第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
塗布したろう付用液状組成物は、Si粉末(D(99)粒度10μm)30部と、Zn含有フラックス(KZnF粉末:D(50)粒度2.0μm)60部、アクリル系樹脂バインダ10部、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物100部からなるろう付け液状組成物である。
【0084】
実施例11~20、81~90、101~110及び比較例5~8、33~36、41~44では、上述の方法で扁平多穴管の短側面にSi粉末、Zn含有フラックス(KZnF)、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4)、バインダとしてのアクリル系樹脂を溶剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物)に分散させたろう付け液状組成物を塗布後、乾燥(150℃×5分間)することにより、第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
塗布したろう付用液状組成物は、Si粉末(D(99)粒度10μm)30部と、Zn含有フラックス(KZnF粉末:D(50)粒度2.0μm)50部、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4粉末:D(50)粒度2.0μm)10部、アクリル系樹脂バインダ10部、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物100部からなるろう付け液状組成物である。
【0085】
実施例21~30及び比較例9~12では、上述の方法で扁平多穴管の短側面に非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4)、バインダとしてのアクリル系樹脂を溶剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物)に分散させたろう付け液状組成物を塗布後、乾燥(150℃×5分間)することにより、第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
塗布したろう付用液状組成物は、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4粉末:D(50)粒度2.0μm)90部、アクリル系樹脂バインダ10部、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物100部からなるろう付け液状組成物である。
【0086】
実施例31~40、51~60及び比較例13~16、21~24では、上述の方法で扁平多穴管の短側面にZn含有フラックス(KZnF)、バインダとしてのアクリル系樹脂を溶剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物)に分散させたろう付け液状組成物を塗布後、乾燥(150℃×5分間)することにより、第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
塗布したろう付用液状組成物は、Zn含有フラックス(KZnF粉末:D(50)粒度2.0μm)90部、アクリル系樹脂バインダ10部、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物100部からなるろう付け液状組成物である。
【0087】
実施例41~50、61~70及び比較例17~20、25~28では、上述の方法で扁平多穴管の短側面にZn含有フラックス(KZnF)、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4)、バインダとしてのアクリル系樹脂を溶剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物)に分散させたろう付け液状組成物を塗布後、乾燥(150℃×5分間)することにより、第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
塗布したろう付用液状組成物は、Zn含有フラックス(KZnF粉末:D(50)粒度2.0μm)50部、非Zn含有フラックス(K1-3AlF6-4粉末:D(50)粒度2.0μm)40部、アクリル系樹脂バインダ10部、溶剤としての3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとイソプロピルアルコールの混合物100部からなるろう付け液状組成物である。
【0088】
表1~3に実施例1~50及び比較例1~15における、短側面へ塗布された塗布膜の厚さ及びコーナー部へ塗布された塗膜の厚さを示す。
【0089】
ろう付け液状組成物の塗布後、150℃に5分間加熱して乾燥し、溶剤を揮発させて先の主ろう付け組成物層と第1、第2のろう付け組成物層により外周面を被覆したろう付け用チューブを得た。
【0090】
ろう付け用チューブを製造する場合、前記エアスプレーバルブ装置により扁平多穴管の短側面上に形成した第1のろう付け組成物層の厚さ(μm)と、扁平多穴管の短側面側のコーナー部分に形成した第2のろう付け組成物層の厚さ(μm)について個々の厚さを変更して複数のろう付け用チューブを作製した。各ろう付け組成物層の厚さは、エアスプレーバルブ装置の噴射圧力と扁平多穴管の短側面側からのノズル間隔の大小と噴射位置により調整した。
前記のように25枚、並列配置したフィンに形成されている孔部に対しろう付け塗膜を被覆したろう付け用チューブを嵌合し、熱交換器ミニコア体を組み立てた。
この熱交換器ミニコア体を観察し、フィンの変形の有無を調査し、フィンとチューブの嵌合時に生じた塗膜剥離について調査した。
【0091】
フィン変形の有無は、熱交換器ミニコア体を組み立て後、フィンに全く変形を生じていないサンプルを合格Aと判断し、フィンの一部に(曲がりや折れ等の変形を生じている)サンプルを不合格Bと判定した。
フィンとチューブ嵌合時の塗膜剥離については、塗膜に全く剥離を生じていないサンプルを合格Aと判断し、面積として1mm角以上の程度塗膜剥離を確認できたサンプルを不合格Bと判断した。
【0092】
組み立てた熱交換器ミニコア体を窒素ガス雰囲気としたろう付け炉において600℃に3分間加熱し、ろう付けした。
ろう付けにより得られた熱交換器について、チューブの長さ方向中央部を平面視L字型になるように90°折り曲げ加工し、折り曲げ加工した部分においてフィンのろう付け部分がチューブから分離することによるフィン倒れ発生の有無を確認した。フィン倒れが発生していないサンプルは合格Aと判断し、1ヶ所でもフィン倒れを生じたサンプルは不合格Bと判断した。
以上の結果を以下の表1~6にまとめて示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
表1~6に示す結果が示す実施例1~110のサンプルのように、扁平多穴管の短側面に形成したろう付け組成物からなる塗膜の厚さについて、厚さ5~30μmの範囲であれば、曲げ加工時にフィン倒れを生じないことがわかった。比較例3、7、11、15、19、23、27、31、35、39、43のサンプルはろう付け組成物の塗膜厚さ3μmの試料であるが、ろう付け組成物層が薄すぎるため、ろう付け強度が不足し、曲げ加工時にフィン倒れを発生した。比較例4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44のサンプルはろう付け組成物の塗膜厚さ32μmの試料であるが、ろう付け組成物層が厚すぎるため、曲げ加工時にフィンに応力が掛かることにより、フィン倒れを発生した。
扁平多穴管の短側面側コーナー部分の塗膜については、0.5~15μmの範囲であれば、フィンと扁平多穴管の嵌合時にフィンの変形を生じないことがわかった。しかし、比較例2、6、10、14、18、22、26、30、34、38、42のサンプルのように17μmの塗膜厚では塗膜剥がれを生じ、比較例1、5、9、13、17、21、25、29、33、37、41のサンプルのように0.3μmの塗膜厚ではフィンと扁平多穴管の嵌合時にフィンの変形を生じた。
このことから、扁平多穴管の短側面側コーナー部分の塗膜については、塗膜剥がれを防止し、フィン変形を防止するために、0.5~15μmの範囲の厚さが好ましいと推定できる。
【0100】
これらの試験結果から、扁平多穴管の短側面に形成した第1のろう付け組成物層の厚さについて、厚さ5~30μmの範囲が望ましく、短側面側のコーナー部分に形成した第2のろう付け組成物層の厚さについて、厚さ0.5~15μmの範囲が望ましいことがわかった。
【0101】
図9は、摩擦測定装置(ブルカー株式会社製、型番:UMT Tribo)を用い、図7に示すようにコーナー部分にろう付け組成物層を塗布した状態のチューブを用いてチューブのコーナー部分のろう付け組成物層とフィンを構成するアルミニウム合金板とが擦れ合った場合の摩擦係数の変動状況について測定した結果を示すグラフである。
図10は摩擦測定装置(ブルカー株式会社製、型番:UMT Tribo)を用い、図6に示すようにコーナー部分にろう付け組成物層を塗布していない状態のチューブを用いてチューブのコーナー部分のアルミニウム合金とフィンを構成するアルミニウム合金とが擦れ合った場合の摩擦係数の変動状況について測定した結果を示すグラフである。
【0102】
図9に示す結果において、3本の測定結果を示す折れ線の内、一点鎖線が摩擦係数を示し、実線が垂直荷重を示し、点線が摩擦力を示す。
図10に示す結果において、3本の測定結果を示す折れ線の内、比較的安定した値を示す実線が垂直荷重を示し、大きく上下変動している一点鎖線と点線が、各々摩擦係数と摩擦力を示す。
【0103】
図9に示す結果と図10に示す結果を対比すると明らかなように、図7に示すようにコーナー部分にろう付け組成物層を設けたチューブをフィンの孔部に嵌合する方が、摩擦力と摩擦係数の両方で変動の少ない嵌合作業ができるとわかる。即ち、フィンを変形させることなくチューブの嵌合作業ができると想定できる。
これに対し、図10に示す結果から、コーナー部分にろう付け組成物層を有していないチューブをフィンの孔部に嵌合すると、大きな摩擦変動を生じるので、この摩擦変動に応じて無理な力を付加してチューブを孔部に嵌め込む動作が生じると思われ、この場合にフィンを変形させるおそれが高いことがわかる。
これらの対比から、フィン13の孔部19にチューブ本体12を嵌合する場合、チューブ本体12のコーナー部分に第2のろう付け用組成物層17を形成した方がスムーズに嵌合作業ができるとわかった。このため、チューブ本体12の嵌合時にフィン13に変形を生じさせることなくチューブ本体12の取り付けを実施できる効果がある。
【0104】
図11は、エアスプレー装置によって扁平多穴管の短側面側に塗布したろう付け組成物の塗布状態の一例を示す写真である。
図11に示すようにエアスプレー装置によって扁平多穴管の短側面側とコーナー部分側を完全に覆うことができるろう付け組成物層を形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の一態様のろう付け用チューブによれば、扁平型のチューブ本体の短側面側におけるろう付け組成物の剥離を防止し、チューブ本体短側面側での確実なろう付け性を確保できる。また、フィンの孔部に挿通してフィンと組み合わせ構造とする場合でも、ろう付け組成物の剥離を生じ難くして確実なろう付けができるようにしたろう付け用チューブを提供できる。
【符号の説明】
【0106】
11 熱交換器
12 チューブ本体
12A 表面壁
12a 表面(上面)
12B 裏面壁
12b 裏面(下面)
12C 側面壁
12c 短側面
12d コーナー部
12D 流路
12E 隔壁
13 フィン
14 ヘッダ管
15 主ろう付け組成物層
16 第1のろう付け組成物層
17 第2のろう付け組成物層
19 孔部
20 折曲部
22 ろう付け用チューブ
30 塗布装置
31 ノズル
32 スプレーガン
33 導入管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11