(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】巻線短絡診断装置および巻線短絡診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/72 20200101AFI20221219BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20221219BHJP
【FI】
G01R31/72
G01R31/34 C
(21)【出願番号】P 2021524498
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2019021901
(87)【国際公開番号】W WO2020245859
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000219820
【氏名又は名称】株式会社トーエネック
(74)【代理人】
【識別番号】100131406
【氏名又は名称】福山 正寿
(72)【発明者】
【氏名】中村 久栄
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特許第6404424(JP,B1)
【文献】特開2009-247203(JP,A)
【文献】特開平01-307677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/72
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡を診断する巻線短絡診断装置であって、
前記巻線の端子間に交流電圧を印加するよう構成された電圧発振部と、
前記交流電圧の印加に応じて前記ティース毎に巻かれた前記巻線に生じる磁界の強さを前記ティースの延出方向に沿って所定間隔毎に計測する磁界センサと、
前記交流電圧または該交流電圧に起因して前記巻線に流れる交流電流と、前記磁界の強さと、を記憶するメモリと、
前記交流電圧または前記交流電流と前記磁界の強さとに基づいて前記メモリに記憶された前記磁界の向きを計測位置毎に決定すると共に、決定した該磁界の向きの全てが第1方向である第1パターンの場合には、前記巻線には短絡が発生していないと判定し、前記磁界の向きが前記第1方向から該第1方向とは反対方向である第2方向に変化した後、該第2方向から前記第1方向に変化する第2パターンの場合には、前記ティースの前記延出方向に隣接する前記巻線間において短絡が発生したと判定し、前記磁界の向きが前記第1方向または前記第2方向から前記第2方向または前記第1に変化した後、該第2方向または該第1方向のまま推移する第3パターンの場合、および、前記磁界の向きの全てが第2方向である第4パターンの場合には、前記巻線の層間において短絡が発生したと判定するプロセッサと、
を備える巻線短絡診断装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記第3パターンの場合であって、前記第1方向または前記第2方向から前記第2方向または前記第1方向への前記磁界の向きの変化が前記ティースの前記延出方向の端部において生じている場合には、該第2方向の前記磁界の強さと閾値とを比較し、該磁界の強さが前記閾値以上である場合、および/または、前記磁界の向きが前記第1方向または前記第2方向から前記第2方向または前記第1方向に変化する際の前記磁界の強さの変化割合の絶対値と基準変化割合とを比較し、該変化割合の絶対値が該基準変化割合以上である場合には、前記ティースの長手向に隣接する前記巻線間において短絡が発生したと判定し、前記磁界の強さが前記閾値未満である場合、および/または、前記変化割合の絶対値が前記基準変化割合未満である場合には、前記巻線の層間において短絡が発生したと判定する
請求項1に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項3】
前記メモリは、前記磁界の強さを計測位置に紐づけて記憶可能であり、
前記プロセッサは、前記巻線の層間において短絡が発生していると判定した場合、前記磁界の向きが最初に前記第2方向となった前記計測位置において前記巻線に短絡が発生していると判定する
請求項1または2に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項4】
前記メモリは、前記磁界の強さを計測位置に紐づけて記憶可能であり、
前記プロセッサは、前記ティースの長手向に隣接する前記巻線間において短絡が発生していると判定した場合、前記第2方向の前記磁界の強さと第2閾値とを比較し、最初に前記第2閾値以上であると判定された前記磁界の強さに紐づけされた前記計測位置において前記巻線に短絡が発生していると判定する
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項5】
前記電圧発振部は、商用周波数よりも高い周波数を有する交流電圧を前記巻線の端子間に印加する
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項6】
前記電圧発振部は、200ボルト以下の交流電圧を前記巻線の端子間に印加する
請求項1ないし5のいずれ1項に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項7】
前記磁界センサは、前記磁界の強さを計測するサーチコイルを有しており、前記磁界の強さを計測する際、前記サーチコイルの軸線方向が前記ティースに巻かれた前記巻線の軸線方向と平行になるよう配置されている
請求項1ないし6のいずれ1項に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項8】
前記磁界センサは、前記磁界の強さを計測するサーチコイルを有しており、前記磁界の強さを計測する際、前記固定子または前記回転子の軸線方向の一方側から見たときの仮想投影面上における前記サーチコイルの軸線が、前記ティースに巻かれた前記巻線の軸線に重なるよう配置されている
請求項1ないし7のいずれ1項に記載の巻線短絡診断装置。
【請求項9】
円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における前記巻線の短絡を診断する巻線短絡診断方法であって、
(a)前記ティース毎に巻かれた前記巻線の端子間に交流電圧を印加し、
(b)前記交流電圧の印加に応じて前記ティース毎に巻かれた前記巻線に生じる磁界の強さを、前記ティースの延出方向に沿って所定間隔毎に計測し、
(c)前記交流電圧または該交流電圧に起因して前記巻線に流れる交流電流と、計測された前記磁界の強さと、を記憶し、
(d)前記交流電圧または前記交流電流と、前記磁界の強さと、に基づいて、記憶された前記所定間隔毎の前記磁界の向きを決定し、
(e)決定した前記磁界の向きの全てが第1方向である第1パターンの場合には、前記巻線には短絡が発生していないと判定し、
決定した前記磁界の向きが前記第1方向から該第1方向とは反対方向である第2方向に変化した後、該第2方向から前記第1方向に変化する第2パターンの場合には、前記ティースの前記延出方向に隣接する前記巻線間において短絡が発生していると判定し、
決定した前記磁界の向きが前記第1方向から前記第2方向に変化した後、該第2方向のまま推移する第3パターンの場合、または、前記磁界の向きの全てが第2方向である第4パターンの場合には、前記巻線の層間において短絡が発生していると判定する
巻線短絡診断方法。
【請求項10】
前記ステップ(e)は、前記第3パターンの場合であって、前記第1方向または前記第2方向から前記第2方向または前記第1方向への前記磁界の向きの変化が前記ティースの前記延出方向の端部において生じている場合には、該第2方向の前記磁界の強さと閾値とを比較し、該磁界の強さが前記閾値以上である場合、および/または、前記磁界の向きが前記第1方向または前記第2方向から前記第2方向または前記第1方向に変化する際の前記磁界の強さの変化割合の絶対値と基準変化割合とを比較し、該変化割合の絶対値が該基準変化割合以上である場合には、前記ティースの長手向に隣接する前記巻線間において短絡が発生したと判定し、前記磁界の強さが前記閾値未満である場合、および/または、前記変化割合の絶対値が前記基準変化割合未満である場合には、前記巻線の層間において短絡が発生したと判定するステップを含んでいる
請求項9に記載の巻線短絡診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡を診断する巻線短絡診断装置および巻線短絡診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平2009-115505号公報(特許文献1)には、電動機や発電機のような回転機の内部の巻線のうち任意の相の巻線の端子間にインパルス電圧を印加すると共に、当該インパルス電圧の印加によって巻線の端子間に発生する振動電圧の波形を検出し、当該検出した振動電圧の波形を予め作成しておいた正常巻線(短絡が発生していない巻線)の振動電圧の波形と比較することにより、巻線の短絡発生の有無を診断する巻線短絡診断装置が記載されている。
【0003】
当該巻線短絡診断装置では、どの相の巻線で短絡が発生しているのか、例えば、三相誘導電動機であれば、短絡がU相で発生しているのか、それともV相やW相で発生しているのかを特定することができる。
【0004】
ところで、電動機や発電機のような回転機の内部の巻線がどのような態様で短絡しているのかを特定できれば、当該短絡の態様情報を設計段階へフィードバックすることで、巻線の巻き方や巻線を巻くためのティースの構造などについて対策を施すことができるため、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、大きなメリットとなる。ここで、巻線の短絡の態様としては、例えば、ティースの長さ方向に隣接する巻線間において短絡が発生する態様や、巻線の層間において短絡が発生する態様が考えられる。
【0005】
なお、出願人も、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させるとう観点から、特許第6404424号公報(特許文献2)において、ティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線のどのあたりで短絡が発生しているのかを特定することができる巻線短絡診断装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-115505号公報
【文献】特許第6404424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡の態様を簡易に特定することができる巻線短絡診断装置および巻線短絡診断方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る巻線短絡診断装置の好ましい形態によれば、円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡を診断する巻線短絡診断装置が構成される。当該巻線短絡診断装置は、電圧発振部と、磁界センサと、メモリと、プロセッサと、を備えている。電圧発振部は、巻線の端子間に交流電圧を印加するように構成されている。磁界センサは、交流電圧の印加に応じてティース毎に巻かれた巻線に生じる磁界の強さをティースの延出方向に沿って所定間隔毎に計測する。メモリは、交流電圧または当該交流電圧に起因して巻線に流れる交流電流と磁界の強さとを記憶する。プロセッサは、交流電圧または交流電流と磁界の強さとに基づいてメモリに記憶された磁界の向きを計測位置毎に決定する。また、プロセッサは、決定した磁界の向きの全てが第1方向である第1パターンの場合には、巻線には短絡が発生していないと判定し、磁界の向きが第1方向から当該第1方向とは反対方向である第2方向に変化した後、当該第2方向から第1方向に変化する第2パターンの場合には、ティースの延出方向に隣接する巻線間において短絡が発生したと判定し、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向に変化した後、当該第2方向または第1方向のまま推移する第3パターンの場合、および、磁界の向きが全て第2方向である第4パターンの場合には、巻線の層間において短絡が発生したと判定する。
【0009】
ここで、本願発明における「磁界の強さ」とは、ティース毎に巻かれた巻線に生じる磁束密度の大きさ、あるいは、当該磁束密度の大きさに比例した電圧がこれに該当する。
【0010】
本発明者は、ティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡について鋭意研究を行った結果、ティースの延出方向に沿って所定間隔毎に求めた磁界の強さおよび磁界の向きの変化のパターンが、巻線の短絡の態様によって異なることを見出した。このような研究結果を踏まえて、本発明では、第1パターンの場合には、巻線に短絡が発生していないと判定し、第2パターンの場合には、ティースの延出方向に隣接する巻線間において短絡が発生したと判定し、第3パターンおよび第4パターンの場合には、巻線の層間において短絡が発生したと判定する構成であるため、巻線の短絡の態様を簡易に特定することができる。これにより、短絡の態様情報を設計段階へフィードバックすることができ、巻線の巻き方や巻線を巻くためのティースの構造などについての対策を施すことができる。この結果、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、品質向上に寄与し得る。
【0011】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、プロセッサは、第3パターンの場合であって、第1方向または第2方向から第2方向または第1方向への磁界の向きの変化がティースの延出方向の端部において生じている場合には、第2方向の磁界の強さと閾値とを比較し、当該磁界の強さが閾値以上である場合、および/または、当該磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向に変化する際の磁界の強さの変化割合の絶対値と基準変化割合とを比較し、当該変化割合の絶対値が当該基準変化割合以上である場合には、ティースの長手向に隣接する巻線間において短絡が発生したと判定し、磁界の強さが閾値未満である場合、および/または、変化割合の絶対値が基準変化割合未満である場合には、巻線の層間において短絡が発生したと判定する。
【0012】
本形態によれば、ティースの延出方向の端部であって、磁界の計測開始位置または計測終了位置において発生した巻線の短絡が、ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡か、巻線の層間の短絡か、を判定することができる。ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡であっても、ティースの延出方向の端部であって、磁界の計測開始位置または計測終了位置において巻線の短絡が生じている場合には、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向へ変化したままとなるため、当該第2方向の磁界の強さを予め設定した閾値と比較することによって、および/または、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向へと変化する際の磁界の強さの変化割合の絶対値を予め設定した基準変化割合と比較することによって、発生した当該短絡がティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡か、巻線の層間の短絡か、を判別するのである。ここで、同じ条件であれば、巻線の層間での短絡の方がティースの延出方向に隣接する巻線間での短絡よりも、磁界の強さが弱い、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値が小さいことから、巻線の層間で短絡が発生した場合の磁界の強さ、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値と、ティースの延出方向に隣接する巻線間で短絡が発生した場合の磁界の強さ、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値と、の間の適切な値に閾値または基準変化割合を設定することによって、ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡と、巻線の層間の短絡と、の判別が可能となる。
【0013】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、メモリは、磁界の強さを計測位置に紐づけて記憶可能である。そして、プロセッサは、巻線の層間において短絡が発生していると判定した場合、磁界の向きが最初に第2方向となった計測位置において巻線に短絡が発生していると判定する。
【0014】
本形態によれば、巻線の層間において短絡が発生している場合において、ティースに巻かれた巻線のどのあたりで短絡が発生しているのかを特定することができる。これにより、短絡が発生しやすい傾向にある箇所の情報を取得し得るため、当該情報を設計段階へフィードバックすることによって、短絡が起こりやすい箇所での構造的もしくは強度的な対策を施すことができ、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、品質向上に寄与し得る。
【0015】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、メモリは、磁界の強さを計測位置に紐づけて記憶可能である。そして、プロセッサは、ティースの長手向に隣接する巻線間において短絡が発生していると判定した場合、第2方向の磁界の強さと第2閾値とを比較し、最初に第2閾値以上であると判定された磁界の強さに紐づけされた計測位置において巻線に短絡が発生していると判定する。
【0016】
本形態によれば、ティースの長手向に隣接する巻線間に短絡が発生している場合において、ティースに巻かれた巻線のどのあたりで短絡が発生しているのかを特定することができる。これにより、短絡が発生しやすい傾向にある箇所の情報を取得し得るため、当該情報を設計段階へフィードバックすることによって、短絡が起こりやすい箇所での構造的もしくは強度的な対策を施すことができ、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、品質向上に寄与し得る。
【0017】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、電圧発振部は、商用周波数よりも高い周波数を有する交流電圧を巻線の端子間に印加する。
【0018】
本発明者らは、電圧発振部によって印加する交流電圧の周波数を上げていくことに伴って、巻線のインダクタンス成分の影響によって,計測される磁束密度は小さくなる一方で、巻線のうち短絡が発生している箇所において計測される磁束密度の低下割合は、短絡が発生していない箇所において計測される磁束密度の低下割合に対して大きくなる傾向にあることを見出した。即ち、電圧発振部によって印加する交流電圧の周波数を上げていくと、巻線において短絡が発生していない正常な箇所において計測される磁束密度の値と、短絡が発生している箇所において計測される磁束密度の値と、の間に大きな差異が生じることを見出した。このような研究結果を踏まえて、本実施形態では、巻線の端子間に印加する交流電圧の周波数を商用周波数よりも高い周波数とする構成であるため、短絡が発生の有無を特定し易くなる。
【0019】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、電圧発振部は、200ボルト以下の交流電圧を巻線の端子間に印加する。
【0020】
本形態によれば、電圧発振部に供給する電源を小型化することができると共に、電圧発振部の電子回路を安価に仕上げることができる。これにより、巻線短絡診断装置自体の小型化およびコスト低減を図ることができる。
【0021】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、磁界センサは、磁界の強さを計測するサーチコイルを有している。そして、当該磁界センサは、磁界の強さを計測する際、サーチコイルの軸線方向がティースに巻かれた巻線の軸線方向と平行になるように配置されている。
【0022】
本形態によれば、電圧発振部により巻線の端子間に印加された交流電圧によって当該巻線に発生する磁界の強さを精度よく計測することができる。
【0023】
本発明に係る巻線短絡診断装置の更なる形態によれば、磁界センサは、磁界の強さを計測するサーチコイルを有している。そして、当該磁界センサは、磁界の強さを計測する際、固定子または回転子の軸線方向の一方側から見たときの仮想投影面上におけるサーチコイルの軸線が、ティースに巻かれた巻線の軸線に重なるように配置されている。
【0024】
本形態によれば、磁界センサのサーチコイルの軸線をティースに巻かれた巻線の軸線に一致させた状態で磁界の強さを計測する構成であるため、ティースに巻かれた巻線の側縁、換言すれば、ティースに巻かれた巻線のうち軸線から径方向外方向に離れた位置にある部分によって作られる磁界の影響を小さく抑えることができる。これにより、より正確に巻線の短絡発生の有無を診断することができる。
【0025】
本発明に係る巻線短絡診断方法の好ましい形態によれば、円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における当該巻線の短絡を診断する巻線短絡診断方法が構成される。当該巻線短絡診断方法は、(a)ティース毎に巻かれた巻線の端子間に交流電圧を印加し、(b)交流電圧の印加に応じてティース毎に巻かれた巻線に生じる磁界の強さを、ティースの延出方向に沿って所定間隔毎に計測し、(c)交流電圧または当該交流電圧に起因して巻線に流れる交流電流と、計測された磁界の強さと、を記憶し、(d)交流電圧または交流電流と、磁界の強さと、に基づいて、記憶された所定間隔毎の磁界の向きを決定し、(e)決定した磁界の向きの全てが第1方向である第1パターンの場合には、巻線には短絡が発生していないと判定し、決定した磁界の向きが第1方向から当該第1方向とは反対方向である第2方向に変化した後、当該第2方向から第1方向に変化する第2パターンの場合には、ティースの延出方向に隣接する巻線間において短絡が発生していると判定し、決定メモリに記憶した磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向に変化した後、当該第2方向または第1方向のまま推移する第3パターンの場合、および、磁界の向きの全てが第2方向である第4パターンの場合には、巻線の層間において短絡が発生していると判定する。
【0026】
ここで、本願発明における「磁界の強さ」とは、ティース毎に巻かれた巻線に生じる磁束密度の大きさ、あるいは、当該磁束密度の大きさに比例した電圧がこれに該当する。
【0027】
本発明者は、ティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡について鋭意研究を行った結果、ティースの延出方向に沿って所定間隔毎に求めた磁界の強さおよび磁界の向きの変化のパターンが、巻線の短絡の態様によって異なることを見出した。このような研究結果を踏まえて、本発明では、第1パターンの場合には、巻線に短絡が発生していないと判定し、第2パターンの場合には、ティースの延出方向に隣接する巻線間において短絡が発生したと判定し、第3パターンおよび第4パターンの場合には、巻線の層間において短絡が発生したと判定する構成であるため、巻線の短絡の態様を簡易に特定することができる。これにより、短絡の態様情報を設計段階へフィードバックすることができ、巻線の巻き方や巻線を巻くためのティースの構造などについての対策を施すことができる。この結果、電動機や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、品質向上に寄与し得る。
【0028】
本発明に係る巻線短絡診断方法の更なる形態によれば、ステップ(e)は、第3パターンの場合であって、第1方向または第2方向から第2方向または第1方向への磁界の向きの変化がティースの延出方向の端部において生じている場合には、当該第2方向の磁界の強さと閾値とを比較し、当該磁界の強さが閾値以上である場合、および/または、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向に変化する際の磁界の強さの変化割合の絶対値と基準変化割合とを比較し、当該変化割合の絶対値が当該基準変化割合以上である場合には、ティースの長手向に隣接する巻線間において短絡が発生したと判定し、磁界の強さが閾値未満である場合、および/または、変化割合の絶対値が基準変化割合未満である場合には、巻線の層間において短絡が発生したと判定するステップを含んでいる。
【0029】
本形態によれば、ティースの延出方向の端部であって、磁界の計測開始位置または計測終了位置において発生した巻線の短絡が、ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡か、巻線の層間の短絡か、を判定することができる。ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡であっても、ティースの延出方向の端部であって、磁界の計測開始位置または計測終了位置において巻線の短絡が生じている場合には、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向へ変化したままとなるため、当該第2方向の磁界の強さを予め設定した閾値と比較することによって、および/または、磁界の向きが第1方向または第2方向から第2方向または第1方向へと変化する際の磁界の強さの変化割合の絶対値を予め設定した基準変化割合と比較することによって、発生した当該短絡がティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡か、巻線の層間の短絡か、を判別するのである。ここで、同じ条件であれば、巻線の層間での短絡の方がティースの延出方向に隣接する巻線間での短絡よりも、磁界の強さが弱い、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値が小さいことから、巻線の層間で短絡が発生した場合の磁界の強さ、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値と、ティースの延出方向に隣接する巻線間で短絡が発生した場合の磁界の強さ、あるいは、磁界の強さの変化割合の絶対値と、の間の適切な値に閾値または基準変化割合を設定することによって、ティースの延出方向に隣接する巻線間の短絡と、巻線の層間の短絡と、の判別が可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ティースに集中巻を施した回転機の固定子または回転子における巻線の短絡の態様を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施の形態に係る巻線短絡診断装置1の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】回転子32が取り外された状態の電動機2を軸線方向の一方側から見た状態を示す説明図である。
【
図3】固定子22の構成の概略を示す説明図である。
【
図4】U相巻線24Uと当該U相巻線24U上に設置されるサーチコイル62との位置関係を示す斜視説明図である。
【
図5】U相巻線24Uと当該U相巻線24U上に設置されるサーチコイル62との位置関係を、軸線CL1,CL2に直行する平面で切った断面で見た状態を示す説明図である。
【
図6】U相巻線24U上に設置されたサーチコイル62を、ティース22bの延出方向に沿って所定間隔d毎に移動させながら磁界を計測する際の様子を示す説明図である。
【
図7】U相巻線24Uの端子間に交流電圧を印加した際に、当該U相巻線24Uの周辺に生じる磁界の様子を模式的に示す説明図である。
【
図8】U相巻線24Uの一部に短絡Sが発生した際の当該U相巻線24Uの周辺に生じる磁界の様子を模式的に示す説明図である。
【
図9】位相差が所定範囲内である場合の交流電流と出力電圧Vsとの様子を示す説明図である。
【
図10】位相差が所定範囲外である場合の交流電流と出力電圧Vsとの様子を示す説明図である。
【
図11】ソレノイドコイルSLC1における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図12】ソレノイドコイルSLC2における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図13】ソレノイドコイルSLC3における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図14】ソレノイドコイルSLC4における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図15】ソレノイドコイルSLC5における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図16】ソレノイドコイルSLC6における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図17】ソレノイドコイルSLC7における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図18】ソレノイドコイルSLC8における出力電圧Vsの計測結果を示す実験結果である。
【
図19】ソレノイドコイルSLC1を模式的に示す説明図である。
【
図20】ソレノイドコイルSLC2を模式的に示す説明図である。
【
図21】ソレノイドコイルSLC3を模式的に示す説明図である。
【
図22】ソレノイドコイルSLC4を模式的に示す説明図である。
【
図23】ソレノイドコイルSLC5を模式的に示す説明図である。
【
図24】ソレノイドコイルSLC6を模式的に示す説明図である。
【
図25】ソレノイドコイルSLC7を模式的に示す説明図である。
【
図26】ソレノイドコイルSLC8を模式的に示す説明図である。
【
図27】変形例の磁界センサ106を用いて出力電圧Vsを計測する際の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0033】
本発明の実施の形態に係る巻線短絡診断装置1は、
図1に示すように、回転機としての電動機2(
図2参照)の後述する三相巻線24U,24V,24Wのいずれかの端子間に交流電圧を印加する電圧発振部4と、当該電圧発振部4によって交流電圧が印加されたことによって三相巻線24U,24V,24Wに発生する磁界を計測する磁界センサ6と、電圧発振部4および磁界センサ6に信号線L1,L2によって電気的に接続されたA/D変換部8と、当該A/D変換部8に信号線L3によって電気的に接続された診断部10と、当該診断部10に信号線L4によって電気的に接続された表示装置12と、を備えている。
【0034】
電動機2は、汎用三相誘導電動機として構成されており、
図2に示すように、主に、固定子22と、回転子32と、を備えている。
【0035】
固定子22は、薄い電磁鋼板(強磁性体)を積層して構成されており、
図3に示すように、略環状に構成されたヨーク22aと、当該ヨーク22aの内周面から当該ヨーク22aの中心に向かって延出する複数のティース22bと、を備えている。
【0036】
ティース22bは、ヨーク22aの内周面に円周方向に均等間隔で、例えば、18個設けられている。各ティース22bには、
図2に示すように、絶縁物(図示せず)を介して直接三相巻線24U,24V,24Wが施されている(所謂、集中巻方式)。即ち、18個のティース22bのうちの6個にU相巻線24Uが巻かれ、他の6個にV相巻線24Vが巻かれ、残りの6個にW相巻線24Wが巻かれている。なお、各三相巻線24U,24V,24Wの端部は、口出し線として電動機2の外部に引き出されて商用交流電源に接続される接続端子26を構成している。ここで、三相巻線24U,24V,24Wが集中巻方式で巻かれたティース22bを有する固定子22は、本発明における「円周方向に略等間隔で複数配置されたティースに集中巻を施した回転機の固定子」に対応する実施構成の一例である。
【0037】
電圧発振部4は、三相巻線24U,24V,24WのうちU相巻線24UおよびV相巻線24V間(以下、「U-V相間」という)、あるいは、V相巻線24VおよびW相巻線24W間(以下、「V-W相間」という)、あるいは、W相巻線24WおよびU相巻線24U間(以下、「W-U相間」という)に交流電圧を印加可能に構成されており、印加する交流電圧の周波数を変更可能なファンクションジェネレータとして構成されている。なお、電圧発振部4によってU-V相間、V-W相間、W-U相間それぞれに印加される交流電圧または当該交流電圧によって流れる交流電流ACIは、
図1に示すように、A/D変換部8によってデジタル化された後、信号線L3を介して診断部10に送信される。
【0038】
本実施の形態では、電圧発振部4によってU-V相間、V-W相間、W-U相間それぞれに印加される交流電圧は200ボルト以下とし、周波数は商用交流電圧発振部の周波数60Hz(あるいは200Hz)よりも高い1kHzとした。例えば、交流電圧を50ボルト以下とすることによって、電源を小型化することができると共に、電圧発振部4の電子回路を安価に仕上げることができる。この結果、巻線短絡診断装置1自体の小型化およびコスト低減を図ることができる。また、周波数を商用交流電源の周波数60Hz(あるいは50Hz)よりも高い1kHzとすることによって、三相巻線24U,24V,24Wに短絡が発生したことを特定し易くなる。当該理由についての詳細は後述する。
【0039】
磁界センサ6は、
図1に示すように、サーチコイル62と、当該サーチコイル62から出力される出力電圧Vsの大きさを増幅する増幅器64と、を備えている。サーチコイル62は、コイルを数ターンから数十ターン程度巻いた構成をしており、これにより磁束密度の大きさに比例した出力電圧Vsを出力する。サーチコイル62から出力されて増幅器64によって増幅されたアナログ信号である出力電圧Vsは、A/D変換部8によってデジタル化された後、信号線L3を介して診断部10に送信される。
【0040】
診断部10は、図示しないCPU70を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU70の他に処理プログラムを記憶する図示しないROM72と、データを一時的に記憶するRAM74と、信号線L3が接続される入力ポートと、信号線L4が接続される出力ポートと、を備えている。診断部10には、A/D変換部8からの出力電圧Vsや交流電圧、交流電流ACIが入力されており、診断部10からは、各三相巻線24U,24V,24Wの短絡診断結果が信号線L4を介して表示装置12に出力される。
【0041】
次に、こうして構成された本発明の実施の形態に係る巻線短絡診断装置1による電動機2の三相巻線24U,24V,24Wの短絡診断の際の動作について説明する。ここで、三相巻線24U,24V,24Wの短絡診断は、電動機2から回転子32を取り外した状態、即ち、集中巻の固定子22のみとした状態で行われる(
図2参照)。なお、当該診断は、三相巻線24U,24V,24Wのいずれかが巻かれた1つのティース22b毎に行うが、以下では、説明の便宜上、任意の1つのティース22bに巻かれたU相巻線24Uにおける短絡の診断を行う場合を例に挙げて説明をする。
【0042】
まず、
図2に示すように、電動機2から回転子32が取り外された状態の固定子22において、U相巻線24Uが巻かれた任意の1つのティース22b上に磁界センサ6を設置する。ここで、磁界センサ6は、
図2、
図4および
図5に示すように、サーチコイル62の軸線CL1がティース22bに巻かれたU相巻線24Uの軸線CL2(ティース22bの軸線CL2)に対して平行で、軸線CL1のU相巻線24Uの表面からの距離が所定距離h(例えば、5mm)となる位置関係となるように(
図5参照)、かつ、電動機2(固定子22、回転子32)の軸線方向の一方側から見たときに(
図2を紙面に垂直な方向から見たときに)、軸線CL1と軸線CL2とが重なる位置関係(
図2参照)となるように設置される。このとき、磁界センサ6は、
図6に示すように、サーチコイル62がティース22bの根元部(ティース22bのヨーク22aへの接続端部)に巻かれたU相巻線24U上、即ち、計測位置t
0に来るように設置される。
【0043】
そして、当該設置状態において、電圧発振部4からU相巻線24Uの端子間、より詳細には、U-V相間(あるいは、W-U相間)に周波数1kHzの交流電圧(200V以下)を印加して交流電流ACIを流す。ここで、交流電圧に起因してU相巻線24Uに流れる交流電流ACIは、A/D変換部8によってデジタル化された後、計測した計測位置t0に紐づけされて診断部10のRAM74に一時的に記憶される。
【0044】
U相巻線24Uの端子間(U-V相間、あるいは、W-U相間)に交流電圧が印加されると、U相巻線24U周辺に磁界が生じる。これにより、当該磁界の強さが磁束密度の大きさに比例した出力電圧Vsとしてサーチコイル62から出力される。サーチコイル62から出力された出力電圧Vsは、増幅器64によって増幅されると共にA/D変換部8によってデジタル化された後、当該出力電圧Vsを計測した計測位置t0に紐づけされて診断部10のRAM74に一時的に記憶される。交流電圧に起因してU相巻線24Uに流れる交流電流ACIおよび出力電圧Vsを計測した計測位置t0に紐づけして記憶するRAM74は、本発明における「メモリ」に対応する実施構成の一例である。
【0045】
ここで、U相巻線24Uに短絡が生じていない場合、即ち、U相巻線24Uが正常な状態の場合に当該U相巻線24Uの端子間に交流電圧を印加すると、
図7の実線矢印に示すように、U相巻線24Uには交流電流ACIが流れ、当該交流電流ACIによってU相巻線24U周辺には強さH
0の磁界が生じる。しかしながら、U相巻線24Uの一部に短絡Sが生じると、
図8に示すように、U相巻線24Uの中に短絡Sによって新たな閉ループ24Usが発生する。短絡Sでは抵抗がほとんど値0となるため、交流電流ACIは当該短絡Sを流れて閉ループ24Usには流れなくなる。
【0046】
一方、閉ループ24Usには、交流電流ACIによってU相巻線24U周辺に生じた磁界が通過することによって誘導起電力が発生し、当該誘導起電力に起因して電流I
Sが流れる(
図8参照)。これにより、閉ループ24Us周辺には、
図8に示すように、当該電流I
Sによって強さH
Sであって、交流電流ACIによってU相巻線24U周辺に生じた磁界の向きとは逆方向の磁界が発生する。即ち、サーチコイル62から出力される出力電圧Vsは、交流電流ACIによってU相巻線24U周辺に生じた磁界の強さH
0と電流I
Sによって閉ループ24Us周辺に生じた磁界の強さH
Sとの差に比例した大きさとなる。
【0047】
なお、誘導起電力は、U相巻線24Uの端子間に印加する交流電圧の周波数の関数として表すことができるため、U相巻線24Uの端子間に印加する交流電圧の周波数を高くすることによって、閉ループ24Us周辺に生じる磁界の強さHSを意図的に大きくすることができる。これにより、U相巻線24Uに短絡が生じたか否かの特定が容易となる。
【0048】
換言すれば、U相巻線24Uの端子間に印加する交流電圧の周波数を上げていくことに伴って、U相巻線24Uのインダクタンス成分の影響により、計測される磁束密度は、小さくなる一方で、短絡Sが発生している箇所において計測される磁束密度の低下割合が、短絡Sが発生していない箇所において計測される磁束密度の低下割合に対して大きくなる傾向にあるため、U相巻線24Uの端子間に印加する交流電圧の周波数を上げていくことに伴って、短絡Sが発生している箇所において計測される磁束密度の値と、短絡Sが発生していない正常な箇所において計測される磁束密度の値と、の間に大きな差異を生じさせることができ、以てU相巻線24Uに短絡が生じたか否かの特定が容易となるのである。
【0049】
ここで、
図8では、U相巻線24Uが当該U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間において短絡が発生した場合で説明したが、U相巻線24Uが巻線の層間において短絡が発生した場合でも同様に、U相巻線24Uの中に短絡Sによって新たな閉ループが発生し、当該閉ループに起因した誘導起電力が発生して、交流電流ACIによってU相巻線24U周辺に生じた磁界の向きとは逆方向の磁界が発生する。
【0050】
なお、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間において短絡が発生した場合の方が、U相巻線24Uが巻線の層間において短絡が発生した場合よりも、閉ループ24Usに流れる電流ISの値も大きくなる(次式(1)および(2)参照)。したがって、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間において短絡が発生した場合の方が、U相巻線24Uが巻線の層間において短絡が発生した場合よりも、閉ループ24Us周辺に生じる磁界の強さHSおよび磁界の変化割合の絶対値は大きくなる。
【0051】
(数1)
Is=1/√(R2+n2・ω2・L2)・dφ/dt・・・・・(1)
Is=1/√(R2+N2・ω2・L2)・dφ/dt・・・・・(2)
【0052】
ここで、式(1)は、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間において短絡が発生した場合の電流Isを求める式であり、式(2)は、U相巻線24Uが巻線の層間において短絡が発生した場合の電流Isを求める式であり、N>nである。なお、Rは、短絡S部分の抵抗、ωは、角周波数、Lは、短絡S部分のインダクタンス成分、φは、短絡S部分を通過する磁束、tは、時間、n,Nは、短絡Sの巻数である。
【0053】
出力電圧Vsを計測位置t
0とともにRAM74に一時的に記憶すると、続いて、診断部10のCPU70は、RAM74に記憶された交流電流ACIと出力電圧Vsとの関係に基づいて、磁界センサ6(サーチコイル62)によって計測された磁界の向きを決定する。具体的には、交流電流ACIと出力電圧Vsとの位相差を比較し、当該位相差に基づき磁界の向きを決定する。
図9に示すように、交流電流ACIと出力電圧Vsとの位相差が所定範囲内であれば、磁界の方向は正方向であると判定し、
図10に示すように、交流電流ACIと出力電圧Vsとの位相差が所定範囲外であれば負方向であると判定する。ここで、磁界の方向が正方向であるとは、磁界センサ6(サーチコイル62)によって計測された磁界の方向が、U相巻線24U周辺に生じる磁界の方向と同じ方向であると規定され、磁界の方向が負方向であるとは、磁界センサ6(サーチコイル62)によって計測された磁界の方向が、U相巻線24U周辺に生じる磁界の方向とは逆方向であると規定される。ここで、交流電流ACIと出力電圧Vsとの位相差を比較し、当該位相差に基づき磁界の向きを決定する診断部10のCPU70は、本発明における「プロセッサ」に対応する実施構成の一例である。磁界の方向が正方向である態様は、本発明における「第1方向」に対応し、磁界の方向が負方向である態様は、本発明における「第2方向」に対応する実施構成の一例である。
【0054】
このように、磁界センサ6(サーチコイル62)によって計測された磁界の向きを決定するのは、U相巻線24Uに短絡が発生したか否かをより精度よく診断するためである。即ち、集中巻きではティース22bの材質に強磁性体を用いる構成上、短絡のような軽微な短絡が発生した場合でも、短絡が発生していない他の部分が作る磁界の方向とは逆方向に強い磁界を発生するため、磁界の強さ(出力電圧Vsの大きさ)のみでは、短絡が発生している場合と短絡が発生していない場合との差異が不明確となる場合があり、短絡発生の判定が困難となる場合があるが、磁界の方向を考慮することにより、短絡が発生している場合と短絡が発生していない場合とで両者の差異が明確となるため、短絡の発生を確実に診断することができる。
【0055】
そして、判定した磁界の方向に関する正を、記憶した出力電圧Vsに付加する処理を実行する。即ち、先にRAM74に記憶した(正負情報が付加されていない)出力電圧Vsを、正負情報が付加された出力電圧Vsに置き換える処理を実行する。こうして計測位置t0における正負情報が付加された出力電圧VsをRAM74に記憶する処理が完了すると、サーチコイル62が計測位置t1に来るように磁界センサ6を移動して、当該計測位置t1において出力電圧Vsを計測すると共に、当該出力電圧Vsと交流電流ACIとの関係に基づいて磁界の向きを決定し、先にRAM74に記憶した(正負情報が付加されていない)出力電圧Vsを、正負情報が付加された出力電圧Vsに置き換える処理を実行する。
【0056】
こうした処理を計測位置tLまで所定間隔dずつ移動しながら繰り返し実行する。即ち、サーチコイル62の位置をティース22bの根元部(ティース22bのヨーク22aへの接続端部)からティース22bの先端部(固定子22の中心寄りの端部)に向かってティース22bの軸線CL2の延在方向に沿って所定間隔dずつ移動しながら上述した処理(正負情報が付加されていない出力電圧Vsを計測してから正負情報が付加された出力電圧Vsに置き換えるまでの処理)を実行する。なお、所定間隔dは、例えば、各三相巻線24U,24V,24Wを構成するコイルの中心間距離にほぼ等しい値に設定することができる。
【0057】
そして、正負の情報が付加された各計測位置ti(i=0~L)毎の出力電圧Vsの変化態様の判定を行う処理を実行する。具体的には、出力電圧Vsが全て正である第1パターンであるのか、出力電圧Vsが正から負に変化した後、再び負から正に変化する第2パターンであるのか、出力電圧Vsが正または負から負または正に変化したまま当該負または正のまま推移する第3パターンであるのか、あるいは、出力電圧Vsが負のまま推移する第4パターンであるのかの判定を行う。
【0058】
第1パターンの場合には、U相巻線24Uに短絡は発生していないと判定し、当該判定結果を表示装置12に送信する。第2パターンの場合には、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値と閾値Vsref1とを比較する処理を実行する。ここで、閾値Vsref1は、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間に短絡が発生している場合に、当該短絡の発生個所を決定するために設定される値であり、本実施の形態では、予め実験などによって求めておき、ROM72に記憶しておく構成とした。閾値Vsref1は、本発明における「第2閾値」に対応する実施構成の一例である。
【0059】
負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値と閾値Vsref1との比較の結果、閾値Vsref1以上であると判定された出力電圧Vsが存在する場合には、最初に閾値Vsref1以上であると判定された出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)において、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定し、当該判定結果を表示装置12に送信する。
【0060】
また、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンであると判定された場合には、正または負から負または正に変化した出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)が、ティース22bの端部(ティース22の延出端部あるいはティース22の固定子22への接続部側の端部)、即ち、計測位置t0あるいは計測位置tLであるか否かの判定を行う。正または負から負または正に変化した出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)が計測位置t0,tLでない場合には、出力電圧Vsが正から負に変化する態様であれば、最初に負の情報が付加された出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)において、U相巻線24Uの層間に短絡が発生していると判定し、出力電圧Vsが負から正に変化する態様であれば、出力電圧Vsが負から正に転じる直前の負の情報が付加された出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)において、U相巻線24Uの層間に短絡が発生していると判定して、当該判定結果を表示装置12に送信する。
【0061】
一方、正または負から負または正に変化した出力電圧Vsの計測位置ti(i=0~L)が計測位置t0,tLである場合には、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか否か、あるいは、正の情報が付加された出力電圧Vsのピーク値と負の情報が付加された出力電圧Vsのピーク値との差を、正の情報が付加された出力電圧Vsのピーク値の計測位置ti(i=0~L)と負の情報が付加された出力電圧Vsのピーク値の計測位置ti(i=0~L)との差で除して算出した変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR以上であるか否かの判定を行う。ここで、閾値Vsref2および基準変化割合BCRは、U相巻線24Uが軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間で短絡が発生しているのか、あるいは、U相巻線24Uが層間で短絡が発生しているのかを判定するために設定される値であり、本実施の形態では、予め実験などによって求めておき、ROM72に記憶しておく構成とした。閾値Vsref2は、本発明における「閾値」に対応する実施構成の一例である。
【0062】
負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上、あるいは、変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR以上であれば、計測位置t0,tLにおいて、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定し、当該判定結果を表示装置12に送信する。一方、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2未満、あるいは、変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR未満であれば、計測位置t0,tLにおいて、U相巻線24Uの層間に短絡が発生していると判定し、当該判定結果を表示装置12に送信する。
【0063】
さらに、出力電圧Vsの変化態様が第4パターンであると判定された場合には、U相巻線24Uの層間に短絡が発生していると判定し、当該判定結果を表示装置12に送信する。正負の情報が付加された各計測位置ti(i=0~L)毎の出力電圧Vsの変化態様(第1、第2、第3および第4パターン)に基づきU相巻線24Uに発生している短絡の態様、即ち、U相巻線24Uの軸線CL2方向に隣接する巻線間に短絡が発生しているのか、あるいは、当該巻線の層間に短絡が発生しているのかを判定するCPU70は、本発明における「プロセッサ」に対応する実施構成の一例である。
【0064】
次に、本実施の形態に係る本発明の巻線短絡診断装置1を用いて上述した第1、第2、第3および第4パターンの短絡発生の診断を行った実験結果について
図11ないし
図26を参照しながら説明する。当該実験では、長さ60mmの鉄の材質の直方体の長手方向の両端を5mmだけ残して長手方向の中央50mmの範囲に巻線を二層巻いたソレノイドコイルを用い、当該ソレノイドコイルの長手方向の一端(以下、「測定開始点」という)にサーチコイル62が配置されるように磁界センサ6を設置して、磁界センサ6をソレノイドコイルの軸線方向(直方体の長手方向)に2mm(巻線の中心間距離)ずつずらしながら、ソレノイドコイルの長手方向の他端(以下、「測定終了点」という)まで測定点を変えて磁界を計測した。
【0065】
なお、当該実験では、短絡を有さない2層巻線構造のソレノイドコイルSLC1(
図11および
図19)、測定開始点から30mmの箇所(計測位置t
30、
図12および
図20)においてソレノイドコイルの長手方向に隣接する巻線間に短絡を発生させた2層巻線構造のソレノイドコイルSLC2、測定開始点(計測位置t
0、
図13および
図21)においてソレノイドコイルの長手方向に隣接する巻線間に短絡を発生させた2層巻線構造のソレノイドコイルSLC3、測定終了点(計測位置t
50、
図14および
図22)においてソレノイドコイルの長手方向に隣接する巻線間に短絡を発生させた2層巻線構造のソレノイドコイルSLC4、測定開始点から37mmの箇所(
図15および
図23)において巻線の層間に短絡を発生させた2層巻線構造のソレノイドコイルSLC5、測定終了点(
図16、
図17、
図24および
図25)において巻線の層間に短絡を発生させた2層巻線構造のソレノイドコイルSLC6,SCL7(ソレノイドコイルSCL6とソレノイドコイルSCL7とは短絡箇所は同じで、測定開始値を異ならせている)、および、測定開始点(計測位置t
0、
図18および
図26)において巻線の層間に短絡を発生させた3層巻線構造のソレノイドコイルSLC8を用いるものとした。なお、ソレノイドコイルの端子間には、約70mAの交流電流ACIを通電するものとした(このときの周波数は1kHzである)。
【0066】
ソレノイドコイルSLC1(
図19参照)では、
図11に示すように、計測位置t
0(測定開始点)から計測位置t
50(測定終了点)までの全範囲で、出力電圧Vsは正の値を示した。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第1パターンの場合であれば、巻線に短絡は発生していないと判定することができることを確認できた。
【0067】
ソレノイドコイルSLC2(
図20参照)では、
図12に示すように、計測位置t
28(測定開始点から28mmの箇所)から出力電圧Vsが負となり、計測位置t
34(測定開始点から34mmの箇所)から出力電圧Vsが再び正となっている。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第2パターンの場合であれば、巻線の長手方向に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref1以上となった計測位置t
30(測定開始点から30mmの箇所)において、短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0068】
ソレノイドコイルSLC3(
図21参照)では、
図13に示すように、計測位置t
0(測定開始点)において出力電圧Vsが負となっており、計測位置t
4(測定開始点から4mmの箇所)において出力電圧Vsが正に転じて、計測位置t
50(測定終了点)まで出力電圧Vsは正のまま推移している。ここで、計測位置t
0(測定開始点)における出力電圧Vsの絶対値は、閾値Vsref2(
図13の一点鎖線)以上となっている。また、出力電圧Vsのうちの正のピーク値と負のピーク値とを結ぶ直線(
図13の二点鎖線)の傾きの絶対値(出力電圧Vsの変化割合CR)が基準変化割合BCR(
図13の実線)以上となっている。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部(ティース22bの延出端部あるいはティース22bの固定子22への接続部側の端部)において生じている場合には、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか、あるいは、出力電圧Vsの変化割合CRが基準変化割合BCR以上であれば、ティース22bの長手方向に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref1(
図13の破線)以上となった計測位置t
0(測定開始点)において、短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0069】
ソレノイドコイルSLC4(
図22参照)では、
図14に示すように、計測位置t
48(測定開始点から48mmの箇所)において出力電圧Vsが負に転じ、計測位置t
50(測定終了点)に至るまで出力電圧Vsは負のまま推移している。なお、計測位置t
50(測定終了点)において出力電圧Vsの絶対値が、閾値Vsref2(
図14の一点鎖線)以上となっている。また、出力電圧Vsのうちの正のピーク値と負のピーク値とを結ぶ直線(
図14の二点鎖線)の傾きの絶対値(出力電圧Vsの変化割合CR)が基準変化割合BCR(
図14の実線)以上となっている。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部(ティース22bの延出端部あるいはティース22bの固定子22への接続部側の端部)において発生している場合には、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか、あるいは、出力電圧Vsの変化割合CRが基準変化割合BCR以上であれば、ティース22bの長手方向に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref1(
図14の破線)以上となった計測位置t
50(測定終了点)において短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0070】
ソレノイドコイルSLC5(
図23参照)では、
図15に示すように、計測位置t
38(測定開始点から38mmの箇所)において出力電圧Vsが負に転じ、計測位置t
50(測定終了点)に至るまで出力電圧Vsは負のまま推移している。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部以外、即ち、計測位置t
0,t
50(測定終了点)以外において発生している場合であれば、巻線の層間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsが正から負に転じた計測位置t
38(測定開始点から38mmの箇所)において、短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0071】
ソレノイドコイルSLC6(
図24参照)では、
図16に示すように、計測位置t
50(測定開始点から50mmの箇所)において出力電圧Vsが負に転じている。なお、計測位置t
50(測定終了点)において出力電圧Vsの絶対値が、閾値Vsref2(
図16の一点鎖線)未満となっている。また、出力電圧Vsのうちの正のピーク値と負のピーク値とを結ぶ直線(
図16の二点鎖線)の傾きの絶対値(出力電圧Vsの変化割合CR)が基準変化割合BCR(
図16の実線)未満となっている。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部(ティース22bの延出端部あるいはティース22bの固定子22への接続部側の端部)において発生している場合には、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2未満であるか、あるいは、出力電圧Vsの変化割合CRが基準変化割合BCR未満であれば、巻線の層間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsが正から負に転じた計測位置t
50(測定終了点)において短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0072】
ソレノイドコイルSLC7は、
図25に示すように、基本的には、ソレノイドコイルSLC6と同じ箇所で短絡を発生させているが、測定開始点および測定終了点がソレノイドコイルSLC6とは逆となっている。即ち、ソレノイドコイルSLC7では、測定開始点が計測位置t
50となっており、測定終了点が計測位置
0となっている。ソレノイドコイルSLC7では、
図17に示すように、計測位置t
50(測定開始点)において出力電圧Vsが負を示し、その後、測定位置t
48(測定開始点から2mmの箇所)において出力電圧Vsが正に転じて、以降、出力電圧Vsは測定位置t
0(測定終了点)まで正のまま推移している。ここで、計測位置t
50(測定開始点)において出力電圧Vsの絶対値が、閾値Vsref2(
図17の一点鎖線)未満となっている。また、出力電圧Vsのうちの正のピーク値と負のピーク値とを結ぶ直線(
図17の二点鎖線)の傾きの絶対値(出力電圧Vsの変化割合CR)が基準変化割合BCR(
図17の実線)未満となっている。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部(ティース22bの延出端部あるいはティース22bの固定子22への接続部側の端部)において発生している場合には、出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2未満であるか、あるいは、出力電圧Vsの変化割合CRが基準変化割合BCR未満であれば、巻線の層間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、出力電圧Vsが正から負に転じた計測位置t
50(測定開始点)において短絡が発生していることを特定することができることも確認できた。
【0073】
ソレノイドコイルSLC8は、
図26に示すように、ソレノイドコイルSLC1~7とは異なり、3層の巻線構造となっている(ソレノイドコイルSLC1~7は2層の巻線構造)。ソレノイドコイルSLC8(
図26参照)では、
図18に示すように、計測位置t
0(測定開始点)から計測位置t
50(測定終了点)までの全範囲で、出力電圧Vsは負の値を示した。この結果、出力電圧Vsの変化態様が第4パターンの場合であれば、巻線の層間に短絡が発生していると判定することができることを確認できた。なお、この場合、短絡の発生箇所については特定できない。
【0074】
以上説明した本実施の形態に係る本発明の巻線短絡診断装置1によれば、ティース22b毎に巻かれた三相巻線24U,24V,24Wに生じる磁界を当該ティース22bの延出方向に沿って所定間隔d毎に計測すると共に、三相巻線24U,24V,24Wに流れる交流電流ACIと計測位置ti(i=0~L)毎の出力電圧Vsとの位相差を比較して磁界センサ6(サーチコイル62)により計測される磁界の向きを決定し、当該磁界の向きを考慮した出力電圧Vsの変化態様がパターン1ないし4のいずれに該当するのかによって、三相巻線24U,24V,24Wにティース22bの延出方向に隣接する巻線間において短絡が発生しているのか、あるいは、層間において短絡が発生しているのかを判定する構成であるため、ティース22bに巻かれた三相巻線24U,24V,24Wがどのような態様で短絡しているのかを特定することができる。これにより、短絡が発生しやすい傾向にある態様情報を取得し得るため、当該情報を設計段階へフィードバックすることによって、巻線の巻き方や巻線を巻くためのティースの構造などについての対策を施すことができる。この結果、電動機2や発電機といった回転機の短絡発生割合を低下させることにつながり、品質向上に寄与し得る。
【0075】
本実施の形態では、コイルを数ターンから数十ターン程度巻いた1つのサーチコイル62を有す磁界センサ6を、計測位置t
0から計測位置t
Lまで軸線CL2の延在方向に沿って移動しながら各計測位置t
i(i=0~L)での磁界(出力電圧Vs)を計測する構成としたが、これに限らない。例えば、
図27に例示する変形例の磁界センサ106に示すように、磁界センサ106がコイルを数ターンから数十ターン程度巻いたサーチコイル62を有し、当該サーチコイル62を各計測位置t
i(i=0~L)毎に配置して、一度に各計測位置t
i(i=0~L)での磁界(出力電圧Vs)を計測する構成としても良い。当該構成によれば、サーチコイル62を移動させる時間を省略することができるため、計測時間の短縮および計測の簡略化を図ることができる。
【0076】
本実施の形態では、交流電流ACIと出力電圧Vsとの位相差を比較し、当該位相差に基づき磁界の向きを決定する構成としたが、これに限らない。例えば、磁界の向きを決定するにあたり、交流電圧と出力電圧Vsとの位相差を比較し、当該位相差に基づき磁界の向きを決定する構成としても良い。
【0077】
本実施の形態では、ティース22bの根元部(ティース22bのヨーク22aへの接続端部)からティース22bの先端部(固定子22の中心寄りの端部)に向かって磁界の強さを測定すると共に、磁界の方向を決定する処理を行う構成としたが、これに限らない。例えば、本実施の形態とは逆に、ティース22bの先端部(固定子22の中心寄りの端部)からティース22bの根元部(ティース22bのヨーク22aへの接続端部)に向かって磁界の強さを測定すると共に、磁界の方向を決定する処理を行う構成としても良い。
【0078】
本実施の形態では、出力電圧Vsの変化態様が第3パターンの場合であって、短絡がティース22bの端部(ティース22の延出端部あるいはティース22の固定子22への接続部側の端部)にて生じている場合には、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか否か、および、出力電圧Vsの変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR以上であるか否か、の両方の判定を行う構成としたが、これに限らない。例えば、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか否か、あるいは、出力電圧Vsの変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR以上であるか否か、の一方のみを判定する構成としても良い。また、負の情報が付加された出力電圧Vsの絶対値が閾値Vsref2以上であるか否か、および、出力電圧Vsの変化割合CRの絶対値が基準変化割合BCR以上であるか否か、の両方の判定を行う場合、両方が「可」の場合のみ、U相巻線24Uの軸線CL2方向(ティース22bの軸線CL2方向、あるいは、ティース22bの延出方向)に隣接する巻線間に短絡が発生していると判定し、両方が「否」であれば、U相巻線24Uの層間に短絡が発生していると判定する構成としても良い。
【0079】
本実施の形態では、電圧発振部4によってU-V相間、V-W相間、W-U相間それぞれに印加する交流電圧の周波数を1kHzに設定したが、これに限らない。電圧発振部4によってU-V相間、V-W相間、W-U相間それぞれに印加する交流電圧の周波数は、商用交流電源の周波数60Hz(あるいは50Hz)よりも高い周波数であれば周波数は如何なる値であっても良い。
【0080】
本実施の形態では、電圧発振部4によってU-V相間、V-W相間、W-U相間それぞれに印加する交流電圧を200ボルト以下に設定したが、これに限らない。
【0081】
本実施の形態では、サーチコイル62を移動させる間隔である所定間隔dを各三相巻線24U,24V,24Wを構成するコイルの中心間距離にほぼ等しい値に設定する構成としたが、これに限らない。
【0082】
本実施の形態では、三相巻線24U,24V,24Wが直接巻回されたティース22bを有する固定子22における当該三相巻線24U,24V,24Wの短絡を診断する構成としたが、これに限らない。例えば、三相巻線24U,24V,24Wが直接巻回されたスロットを有する回転子32における当該三相巻線24U,24V,24Wの短絡を診断する構成としても良い。この場合、電動機2から固定子22を取り外して、回転子32のみとした状態で、三相巻線24U,24V,24Wの短絡を診断を行う構成とすれば良い。
【0083】
本実施の形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。なお、本実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。
【符号の説明】
【0084】
1 巻線短絡診断装置(巻線短絡診断装置)
2 電動機(回転機)
4 電圧発振部(電圧発振部)
6 磁界センサ(磁界センサ)
8 A/D変換部
10 診断部
22 固定子(固定子)
22a ヨーク
22b ティース(ティース)
24U U相巻線(巻線)
24Us 閉ループ
24V V相巻線(巻線)
24W W相巻線(巻線)
26 接続端子
32 回転子(回転子)
62 サーチコイル(サーチコイル)
64 増幅器
70 CPU(プロセッサ)
72 ROM
74 RAM(メモリ)
106 磁界センサ(磁界センサ)
ACI 交流電流(交流電流)
L1 信号線
L2 信号線
L3 信号線
L4 信号線
Vs 出力電圧(出力電圧)
CL1 軸線
CL2 軸線
H0 磁界の強さ
Hs 磁界の強さ
Is 電流
S 短絡
t0 計測位置
tL 計測位置
ti 計測位置
d 所定間隔
h 所定距離
Vsref1 閾値(第2閾値)
Vsref2 閾値(閾値)
SLC1 ソレノイドコイル
SLC2 ソレノイドコイル
SLC3 ソレノイドコイル
SLC4 ソレノイドコイル
SLC5 ソレノイドコイル
SLC6 ソレノイドコイル
SLC7 ソレノイドコイル
SLC8 ソレノイドコイル