(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ヘリコバクターピロリ連関疾患の予防又は治療用キムチ
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20221219BHJP
A23B 7/10 20060101ALI20221219BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20221219BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20221219BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221219BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
A23L33/135
A23B7/10 A
A61K35/744
A61K35/747
A61P1/04
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2021538032
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 KR2019018606
(87)【国際公開番号】W WO2020139020
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0171845
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCTC KCTC 13043BP
【微生物の受託番号】KCTC KCTC 11403BP
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ユン・リ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヘ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・オ
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526973(JP,A)
【文献】特表2012-533319(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0066297(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0053694(US,A1)
【文献】特表2004-524859(JP,A)
【文献】特開2008-266148(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0707102(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A23B 7/00-7/16
C12N 1/00-1/38
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜を塩に漬けた後、薬味を混合して乳酸菌で発酵させたキムチであって、
前記乳酸菌は、ロイコノストック・メセンテロイデス
KCTC13043BP及びラクトバチルス・プランタラム
KCTC11403BPを含む、キムチ。
【請求項2】
前記野菜は、白菜、大根、長ネギ、カラシナ、キュウリ及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項1に記載のキムチ。
【請求項3】
前記野菜は、白菜である、請求項2に記載のキムチ。
【請求項4】
前記白菜は、リコペン含量が高い白菜である、請求項3に記載のキムチ。
【請求項5】
前記リコペンは、白菜100g当たり0.05から5mgの含量で含まれる、請求項4に記載のキムチ。
【請求項6】
前記ロイコノストック・メセンテロイデス
KCTC13043BPは、キムチの全重量基準に0.01から5重量%含まれ、前記ラクトバチルス・プランタラム
KCTC11403BPは、キムチの全重量基準に0.01から5重量%含まれる、請求項1に記載のキムチ。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載のキムチ又はこの抽出物を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の改善用組成物。
【請求項8】
前記キムチ抽出物は、キムチを水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒を用いて抽出した抽出物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記有機溶媒は、アルコール、ヘキサン、エーテル、グリセロール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチルアセテート、メチルアセテート、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン及びこれらの混合溶媒よりなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記混合溶媒は、水、C
1-C
4のアルコール、及び前記C
1-C
4のアルコールと水の混合溶媒よりなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記混合溶媒は、メタノール水溶液又はエタノール水溶液である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記キムチ抽出物は、抽出物、前記抽出物の濃縮液、前記濃縮液の乾燥物及び粉末よりなる群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)連関疾患に対する予防及び治療に効果的に用いることができる乳酸菌を含むキムチに関する。
【背景技術】
【0002】
1983年、オーストラリアの微生物学者であるマーシャル(Marchall)とウォレン(Warren)は、初めてB型胃炎患者の胃粘膜生検組織で曲がった細菌を発見し、前記細菌を培養してカンピロバクター属(Campylobacter genus)と連関された新たな種の細菌であることを究明して以来、ヘリコバクターピロリと胃炎及び消化性潰瘍などの上部胃腸管疾患との間の連関性に対する活発な研究がなされてきた。ヘリコバクターピロリは、グラム陰性桿菌として薄い膜で覆われた鞭毛があり、多量のウレアーゼ(urease)を放出し、大便-口腔経路を介して伝播されるものと知られており、1994年には、世界保健機構(WHO)が確実な発癌因子であると明らかにして世界的に注目を浴びている病源菌である。
【0003】
現在、ヘリコバクターピロリによる疾病の発病メカニズムは、食物とともに胃内腔に入ってきた細菌が、強い運動性を有した鞭毛を用いて胃の粘液層を突き抜け、胃粘液層内の胃の上皮細胞層の上部と細胞間の接合部に生息しながら、多量のウレアーゼを分泌して粘液層をアルカリ性に変化させることにより、ガストリンによる胃酸分泌促進を異常に過多に誘導し、結局、炎症及び潰瘍をもたらすものと知られている。また、ヘリコバクターピロリが胃腺癌(gastric adenocarcinoma)発病の重要な危険要素であることを究明した最近の研究報道により、世界保健機構では、ヘリコバクターピロリを第1群発癌物質に指定した。
【0004】
特に、ヘリコバクターピロリによる感染は、韓国をはじめとした発展途上国で多く発生するものと報告されており、上部胃腸管の症状がない5,732名を対象に実施した全国疫学調査の結果によると、ヘリコバクターピロリ感染率は、全国民で46.6%であり、16歳以上の大人で69.4%、特に、40代において78.5%という高い感染率を示すことが確認された。また、消化性潰瘍患者1,031名を対象にヘリコバクターピロリ感染率を調査した結果、胃潰瘍患者の66%及び十二指膓潰瘍患者の79%がヘリコバクターピロリに感染したものと確認され、胃及び十二指膓同伴の潰瘍患者の71%がヘリコバクターピロリに感染したものと報告された。
【0005】
前記のようなヘリコバクターピロリ感染による疾病を治療するための方法として、現在、抗生剤を用いた化学療法が主に実施されている。しかし、この方法の広範囲な使用は、短期的な側面においては効果的であり得るが、抗生剤の持続的な使用による抗生剤耐性菌株の出現などの危険があるという問題点がある。また、抗菌療法の持続的な使用によって、下痢、逆流性食道炎の発生、腸内の正常的な菌叢の抑制、耐性菌株の出現などのような多様な副作用が発生するものと報告されている。
【0006】
したがって、前記のような人体内の副作用と耐性の原因となる薬物治療剤に代わりつつ、ヘリコバクターピロリを抑制することができる適切な抗菌物質又は食品に対する開発が要求されている。
【0007】
一方、伝統発酵食品であるキムチの発酵乳酸菌は、長年、人類が発酵食品とともに摂取していたGRAS(Generally Recognized As Safe)等級の細菌であって、このような乳酸菌の機能性と安全性に関する長所により、前記乳酸菌を用いた機能性食品や薬品の開発に対する関心が集中されている。例えば、本出願人は、ガス発生量が低いロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119菌株、及びこれを用いたキムチの製造方法と、ラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株、及びこれを含む組成物を含む腸疾患の治療及び免疫増強用組成物に関して報告したことがある(特許文献1から特許文献3)。しかし、キムチのようによく摂取する発酵食品を介してヘリコバクターピロリ感染により発病する疾患を予防したり治療することができる方法に対する研究は完全ではなく、依然として進行中であるとの実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国登録特許第1,807,995号公報
【文献】韓国登録特許第1,486,999号公報
【文献】韓国登録特許第1,406,168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願は、ヘリコバクターピロリに対する抑制効果がある乳酸菌を有効成分として含むキムチ、及び前記キムチ又はこの抽出物をヘリコバクターピロリ連関疾患に対する予防及び治療に用いる用途に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するため、本出願の一側面は、キムチ由来の乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ及びこの製造方法を提供する。
【0011】
本出願の他の側面は、前記キムチ又はこの抽出物を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の改善用組成物を提供する。
【0012】
本出願の他の側面は、前記キムチ又はこの抽出物を用いたヘリコバクターピロリ連関疾患の予防、治療又は改善方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本出願によるキムチ由来の乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ又はこの抽出物は、ヘリコバクターピロリに対する抑制活性があり、長期間投与時にヘリコバクターピロリによる萎縮性胃炎及び胃潰瘍の進行を予防、治療、又は遅延させることができ、ヘリコバクターピロリにより発生する胃癌の予防又は治療にも有用に用いることができる。
但し、本出願の効果は、前記で言及した効果に制限されるものではなく、言及されていないまた他の効果は、下記の記載から本技術分野の通常の技術者に明確に理解され得るであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本出願のキムチのヘリコバクターピロリ菌に対する抑制効果を示すグラフである。
【
図2】本出願のキムチが多様な血管成長因子の発現に及ぼす影響を示す電気泳動写真である。
【
図3】本出願のキムチが多様な炎症因子の発現に及ぼす影響を示す電気泳動写真である。
【
図4】本出願のキムチがヘリコバクターピロリ感染モデルにおいて細胞の密着結合(Tight Junction)に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図5】本出願のキムチが胃癌細胞株の成長に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図6】本出願のキムチが胃癌細胞株の細胞死滅(apoptosis)に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図7】本出願のキムチが胃癌細胞株の多様な細胞死滅因子の発現に及ぼす影響を示す電気泳動写真である。
【
図8】本出願のキムチが胃癌細胞株の細胞周期連関因子の発現に及ぼす影響を示す電気泳動写真である。
【
図9】本出願のキムチがヘリコバクターピロリ連関疾患に及ぼす影響を確認するための動物実験の設計を示した図である。
【
図10】本出願のキムチが、ヘリコバクターピロリが感染した動物モデルにおいて全体の総病変点数(Gross Lesion Index Score)に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図11】本出願のキムチが、ヘリコバクターピロリが感染した動物モデルにおいて胃癌の発生に及ぼす影響を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本出願の内容を具体的に説明する。
【0016】
1.ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ及びこの製造方法
本出願は、ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ及びこの製造方法を提供する。
【0017】
前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119は、韓国生命工学研究院の遺伝子バンクに受託番号KCTC 13043BPとして寄託された微生物菌株であって、前記菌株の分離及び同定の方法に対しては韓国登録特許第1,807,995号公報に具体的に開示されている。また、前記ラクトバチルス・プランタラムCJLP133は、韓国生命工学研究院の遺伝子バンクに受託番号KCTC 11403BPとして寄託された微生物菌株であって、前記菌株の分離及び同定の方法に対しては韓国登録特許第1,486,999号公報に具体的に開示されている。
【0018】
本出願において、「キムチ」は、野菜を塩に漬けた後、薬味を混合して発酵させた食品を制限なく含む意味で用いられる。本出願の一具現形態において、前記野菜は、白菜、大根、長ネギ、カラシナ、キュウリなどが用いられてよく、具体的に白菜が用いられてよいが、これら以外の任意の野菜がいずれも本出願の対象となるキムチの原料として用いられてよい。本出願の一具現形態において、前記野菜は、リコペンの含量が高い野菜であってよいが、これに限定されるものではない。本出願の他の具現形態において、前記リコペンは、野菜100g当たり0.05から5mg、例えば、0.1から3mg、0.2から2mg、0.3から1mg、0.5から0.8mgの含量で含まれてよいが、これに限定されるものではない。
前記リコペンの含量の高い野菜は、白菜、具体的に、The Han 1号(品種出願公開番号2015-688、2015年12月15日公開)の白菜品種を用いた白菜であってよい。前記リコペンの含量が高い野菜をロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を用いて発酵する場合、リコペン含量の減少が防止され、リコペンの癌予防機能を維持することができる。
【0019】
本出願の一具現形態において、前記薬味は、唐辛子粉、ニンニク、生姜、塩辛などの材料を混合して製造されるものであって、薬味を構成する材料はこれらの他にも個人の嗜好度、発酵方式、発酵期間などに応じて必要時に他の任意の材料が適切に追加又は除外されてよい。
本出願の一具現形態において、本出願のキムチは、通常のキムチの製造方法により塩に漬けた野菜、例えば、塩に漬けた白菜に薬味を和えた後に発酵させる方法により製造されてよい。前記野菜としては、リコペン含量が高い野菜を用いるのがより適切であるが、これに限定されるものではなく、通常の野菜が本出願のキムチの製造に制限なく用いられてよい。
【0020】
本出願の他の具現形態において、本出願のキムチは、食品に許容可能な公知の添加剤を追加で含んでよく、前記添加剤としては、梅香、レモン香、パイナップル香、ハーブ香などの各種天然香料;天然果汁、クロロフィリン、フラボノイドなどの各種天然色素;果糖、ハチミツ、糖アルコール、砂糖のような甘味成分;又はクエン酸、クエン酸ナトリウムのような酸味剤;などが本出願のキムチに制限なく含まれてよい。
【0021】
本出願の一具現形態において、本出願のキムチは、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119をキムチの全重量基準に0.01から5重量%、具体的に0.02から3重量%、より具体的に0.05から2.0重量%で含むことができる。
【0022】
本出願の他の具現形態において、本出願のキムチは、前記ラクトバチルス・プランタラムCJLP133をキムチの全重量基準に0.01から5重量%、具体的に0.02から3重量%、より具体的に0.05から2.0重量%で含むことができる。
【0023】
本出願の一具現形態において、本出願のキムチは、塩に漬けた野菜、例えば、リコペン含量が高い塩に漬けた野菜に、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119を0.01から5重量%、具体的に0.02から3重量%、より具体的に0.05から2.0重量%添加し、前記ラクトバチルス・プランタラムCJLP133を0.01から5重量%、具体的に0.02から3重量%、より具体的に0.05から2.0重量%添加した後、所定の温度で所定の期間の間発酵させることにより製造されてよい。
【0024】
前記発酵時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば、1℃から30℃、具体的に3℃から15℃、又は5℃から10℃で発酵を実施することができる。
【0025】
前記発酵期間は、特に限定されるものではないが、例えば、1日から365日、具体的に5日から180日、10日から90日、15日から60日、又は 20日から40日間行われてよい。
【0026】
本出願の一具現形態において、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133は、菌株自体で用いられてよいが、前記菌株を含む培養物として用いられてもよい。本出願の一具現形態において、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株は、生菌、死菌、又はこれらの混合物として用いられてよい。
【0027】
本出願において、「培養物」との用語は、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株を培地に接種して培養した結果物を意味する。例えば、前記培養物は、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株を培地で培養した培養物自体(すなわち、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株、培地又は菌株の代謝物を含むことができる)、前記培養物を濾過又は遠心分離して菌株を除去したろ液(例えば、遠心分離した上澄み液)などを含むことができる。また、本出願の培養液は、これを乾燥(例えば、凍結乾燥)した後、粉末化した形態も制限なく含むことができる。
【0028】
本出願の一具現形態において、前記菌株の培養は、10℃から30℃で6時間から48時間の間、具体的に20℃から30℃で12時間から36時間又は 18時間から30時間の間実施することができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
前記培地は、既知の乳酸菌用培地であれば、制限なく用いられてよい。前記培地は、炭素源及び窒素源を含むことができ、前記炭素源は、スクロース、グルコース、果糖などを1つ以上含むことができ、前記窒素源は、酵母抽出物、ペプトン、牛肉抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、クエン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどを1つ以上含むことができるが、これに限定されるものではない。また、前記培地は、ツイン80、クエン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸マグネシウム、蒸溜水などを1つ以上追加で含むことができる。
【0030】
2.本出願のキムチ又はこの抽出物を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の改善用組成物
本出願は、ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ又はこの抽出物を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の改善用組成物を提供する。
【0031】
本出願のキムチ及びこの製造方法は、前記「1.ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ及びこの製造方法」で言及したのと同一なので、その記載を省略する。
【0032】
本出願において、前記ヘリコバクターピロリ連関疾患としては、胃炎、胃潰瘍、胃癌などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本出願において、「キムチ抽出物」は、原料であるキムチから任意の方法で抽出された物質を示すものであって、このように抽出された抽出物、これから得ることができる濃縮液、前記濃縮液の乾燥物及び粉末などを制限なく全て含む意味で用いられる。
【0034】
前記抽出物を原料であるキムチから抽出して得るとき、抽出方法としては、溶媒抽出法、超音波抽出法、濾過法及び還流抽出法などのように、従来に知られている通常の抽出方法を制限なく用いることができ、具体的に、溶媒抽出法や還流抽出法を用いることにより製造することができるが、これに限定されるものではない。前記抽出過程は数回繰り返してよく、その後に濃縮又は凍結乾燥などの段階を追加的に経てよい。具体的に、得られたキムチ抽出物を減圧濃縮して濃縮液を得、前記濃縮液を凍結乾燥させた後、粉砕機を用いて高濃度のキムチ抽出物粉末を製造することができる。
【0035】
本出願の一具現形態において、前記キムチ抽出物は、キムチを水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒を用いて抽出した抽出物、前記抽出物の濃縮物又は粉末などを制限なく含む意味で用いられる。前記有機溶媒は、アルコール、具体的に、C1-C4の低級アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール又はブタノール、ヘキサン(n-ヘキサン)、エーテル、グリセロール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチルアセテート、メチルアセテート、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン及びこれらの混合溶媒よりなる群から選択される何れか1つであってよく、具体的に、抽出溶媒は、水、C1-C4のアルコール、及び前記C1-C4のアルコールと水の混合溶媒よりなる群から選択される何れか1つであってよく、例えば、メタノール水溶液又はエタノール水溶液であってよい。前記メタノール又はエタノールの水溶液は、10%(v/v)から99%(v/v)の水溶液であってよく、具体的に20%(v/v)から70%(v/v)の水溶液であってよく、より具体的に30%(v/v)から60%(v/v)の水溶液であってよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
本出願の一具現形態において、前記抽出は、5℃から100℃の温度で実施されてよく、具体的に20℃から95℃で実施されてよく、より具体的に50℃から90℃で実施されてよいが、これに限定されるものではない。また、前記抽出は、1時間から20時間の間実施されてよく、具体的に2時間から16時間の間実施されてよく、より具体的に3時間から12時間の間実施されてよいが、これに限定されるものではない。
【0037】
本出願の一具現形態において、前記抽出は、1回から8回実施されてよく、具体的に1回から6回実施されてよく、より具体的に1回から5回実施されてよいが、これに限定されるものではない。前記抽出物は、各抽出で得られた単独抽出物、又は各抽出で得られた抽出物の混合抽出物であってよく、具体的に各抽出で得られた抽出物の混合抽出物であってよい。
本出願において、「改善」という用語は、本出願のキムチ又はこの抽出物の投与により治療と連関されたパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させる全ての行為を制限なく示す意味として用いられる。本出願のヘリコバクターピロリ連関疾患の改善は、ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133自体の効果であってよく、前記菌株の野菜の発酵による効果であってよいが、メカニズムはこれに制限されない。
【0038】
本出願において、前記組成物は、健康機能食品組成物であってよい。
【0039】
前記健康機能食品(Functional Food)とは、特定保健用食品(Food for Special Health Use、FoSHU)と同一の用語であって、栄養供給の他にも生体調節機能が効率的に現われるように加工された医学的、医療的効果が高い食品を意味する。ここで、「機能」との用語は、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得ることを意味する。
【0040】
前記健康食品組成物は、本技術分野で通常用いられる方法により製造が可能であり、前記製造時には、本技術分野で通常添加する原料及び成分を添加して製造することができる。また、前記健康食品組成物の剤形もまた食品として認められる剤形であれば、制限なく含まれてよい。前記健康食品組成物は、多様な形態の剤形に製造されてよく、一般薬品とは異なり食品を原料とするため、薬品の長期服用時に発生し得る副作用などがないという長所があり、携帯性に優れるので、前記健康食品組成物は、ヘリコバクターピロリ連関疾患症状の改善効果を増進させるための補助剤として摂取が可能である。
【0041】
前記健康食品(Health Food)は、一般食品に比べて積極的な健康維持や増進効果を有する食品を意味し、健康補助食品(Health Supplement Food)は、健康補助目的の食品を意味する。場合に応じて、健康機能食品、健康食品、健康補助食品の用語は混用され得る。
【0042】
本出願において、本出願の組成物は、生理学的に許容可能な担体を追加で含むことができる。前記担体の種類は、特に制限されず、本技術分野で通常用いられる担体であれば何れも制限なく用いられてよい。また、本出願の組成物は、食品組成物に通常用いられ、におい、味、視覚などを向上させることができる追加成分を含むことができる。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン(Niacin)、ビオチン(Biotin)、フォレート(Folate)、パントテン酸(Panthotenic Acid)などを含むことができる。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、クロム(Cr)などのミネラル;及びリシン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含むことができる。
【0043】
また、本出願の組成物は、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、着色剤、発色剤、漂白剤、調味料、甘味料、香料、膨張剤、強化剤、乳化剤、増粘剤、被膜剤、泡抑制剤、溶剤、改良剤などの食品添加物を含むことができる。前記添加物は、食品の種類に応じて選別され適切な量で用いられてよい。このような添加剤の比率は大きく重要ではないが、本出願の組成物100重量部当たり0.01から5重量部の範囲で選択されるのが一般的である。
【0044】
本出願の組成物に含有されるキムチ又はこの抽出物の含量は、使用目的に応じて適宜決定されてよい。本出願の一具現形態において、本出願の組成物に含有されるキムチ又はこの抽出物の含量は、組成物の総重量に対して、例えば、0.0001から20.0重量%であってよく、具体的に0.001から1.0重量%であってよいが、これに限定されるものではない。前記キムチ又はこの抽出物の含量が前記含量である場合、経済的な量でヘリコバクターピロリ連関疾患症状に対する改善効果を得ることができる。しかし、健康及び衛生を目的とするか、又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は前記範囲以下であってよく、安全性の面において何ら問題がないため、前記キムチ又はこの抽出物は前記範囲以上の量でも用いられてよい。
【0045】
本出願の組成物は、本出願のキムチ又はこの抽出物以外にも食品製造時に通常添加される成分を追加で含むことができ、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味剤、香味剤などを含むことができる。前記炭水化物の例には、モノサッカロイド、例えば、ブドウ糖、果糖など;ジサッカロイド、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など;及びポリサッカロイド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールを挙げることができる。前記香味剤としては、天然香味剤のタウマチン、ステビア抽出物及び合成香味剤を用いることができる。例えば、本出願の健康食品組成物がドリンク剤に製造される場合には、本出願のキムチ抽出物以外にも、クエン酸、液状果糖、砂糖、ブドウ糖、酢酸、りんご酸、果汁、天然抽出液などが追加で含まれてよい。
【0046】
前記組成物の種類には特に制限はない。本出願のキムチ又はこの抽出物を添加することができる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康食品を全て含むことができる。
【0047】
本出願のキムチ又はこの抽出物には、ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119とラクトバチルス・プランタラムCJLP133が含まれており、これらの2つの乳酸菌は、ヘリコバクターピロリの活性を高い水準で抑制する特徴があるので、本出願のキムチ又はこの抽出物を含む組成物は、ヘリコバクターピロリにより発生する連関疾患の予防又は治療に有用に用いられ得る。
【0048】
3.本出願のキムチ又はこの抽出物を用いたヘリコバクターピロリ連関疾患の予防、治療又は改善の方法
本出願は、前記キムチ又はこの抽出物をヘリコバクターピロリ連関疾患が発病するか、又は発病する可能性がある個体に投与する段階を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の予防、治療又は改善の方法を提供する。
【0049】
本出願は、前記キムチ又はこの抽出物をヘリコバクターピロリ連関疾患の予防、治療、又は改善の用途を提供する。
【0050】
本出願は、前記キムチ又はこの抽出物をヘリコバクターピロリ連関疾患の予防、治療、又は改善のための組成物を製造する用途を提供する。
【0051】
本出願のキムチ又はこの抽出物及びこの製造方法は、前記「1.キムチ由来の乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133を含むキムチ及びこの製造方法」及び「2.本出願のキムチ又はこの抽出物を含むヘリコバクターピロリ連関疾患の改善用組成物」で言及したのと同一なので、その記載を省略する。
【0052】
本出願において、「予防」との用語は、本出願のキムチ又はこの抽出物の投与によってヘリコバクターピロリ連関疾患の症状を抑制させるか遅延させる全ての行為を含む意味として用いられる。
【0053】
また、本出願において、「治療」との用語は、本出願のキムチ又はこの抽出物の投与によってヘリコバクターピロリ連関疾患の症状が好転するかよく変更される全ての行為を制限なく含む意味として用いられる。
【0054】
また、本出願において、「投与」との用語は、適切な方法で個体に所定の物質を導入する意味として用いられる。
【0055】
また、本出願において、「個体」との用語は、ヒトを含んだラット、マウス、家畜などの全ての動物を示す意味として用いられる。具体的な例として、前記個体は、ヒトを含んだ哺乳動物であってよい。他の一例として、前記個体は、ヘリコバクターピロリ連関疾患が発病したか発病し得る個体であってよい。
【0056】
本出願の方法において、本出願のキムチ又はこの抽出物の投与経路及び投与方式は特に制限されず、目的とする当該部位に本出願のキムチ又はこの抽出物を含む組成物が到達することができる限り、任意の投与経路及び投与方式に従ってよい。具体的に、前記キムチ又はこの抽出物は、経口又は非経口の多様な経路を介して投与されてよいが、経口で投与されるのが一般的である。
【0057】
本出願の一具現形態において、ヘリコバクターピロリの感染に対する食餌調整用食品組成物として癌予防キムチの組成を新たに研究した。本出願の他の具現形態において、マウスモデルを用いた癌予防キムチの食餌調整を介して代表的に胃炎、胃潰瘍、胃癌などのようなヘリコバクターピロリ連関疾患を予防、改善又は治療することができるという仮説を立てた。前記癌予防キムチは、通常のキムチの製造方法において、リコペン含量が高い野菜;ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119菌株;及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株;を追加して製造されてよいが、これに限定されるものではない。本出願の一具現形態において、本出願によるキムチ又はこの抽出物は、ヘリコバクターピロリ連関疾患に対して優れた予防及び治療の効果を示し、特に胃炎、胃潰瘍及び胃癌で優れた効果を示す。
【0058】
本出願の一具現形態によると、出願のキムチの製造に用いられる乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株は、同一の種に属する他の菌株と比べ、ヘリコバクターピロリに対する顕著な抑制活性を示す。
【0059】
本出願の他の具現形態によると、ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株を含むキムチは、所定の濃度でヘリコバクターピロリに対する抑制効果を示す(
図1参照)。
【0060】
本出願の他の具現形態によると、本出願のキムチは、正常の胃細胞において血管成長因子及び炎症因子の発現を顕著に抑制し、細胞の密着結合を回復させることができる(
図2から
図4参照)。
【0061】
本出願の他の具現形態によれば、本出願のキムチは、胃癌細胞の成長を顕著に抑制させ、胃癌細胞の細胞死滅を誘導し(
図5及び
図6参照)、ヘリコバクターピロリ感染動物モデルにおける胃癌の形成を抑制させることができる(
図10参照)。
【0062】
このように、本出願のロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株を含むキムチは、ヘリコバクターピロリに対する顕著な抑制活性を示し、これを介してヘリコバクターピロリから誘発され得る多様な疾患、例えば、胃炎、胃潰瘍及び胃癌の予防、治療、又は改善に有用に用いられ得る。
【0063】
以下、本出願を実施形態により詳細に説明する。
【0064】
但し、下記実施形態は、本出願を具体的に例示するだけのものであって、本出願の内容が下記実施形態により限定されるものではない。
【0065】
先ず、本出願のキムチの製造過程、試験方法及び統計などについて説明する。統計分析は、グラフパッドプリズム(GraphPad Software,La Jolla,CA,USA)とSPSSソフトウェア(Version 12.0;SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)を用いて行い、グループ間の統計的有意性は、マン・ホイットニーのU検定(Mann-Whitney U test)により決定され、統計的有意性は、p<0.05で認定された。
【0066】
実施例1:ヘリコバクターピロリ菌の生育抑制能が高い菌株の分離
<1-1>菌株の分離及び同定
本出願のキムチの製造に用いられるキムチ由来の乳酸菌であるロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119は、韓国生命工学研究院の遺伝子バンクに受託番号KCTC 13043BPとして寄託された微生物菌株であって、前記菌株の分離及び同定の方法に対しては韓国登録特許第10-1807995号公報に具体的に開示されている。また、本出願のキムチの製造に用いられるキムチ由来の乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムCJLP133は、韓国生命工学研究院の遺伝子バンクに受託番号KCTC 11403BPとして寄託された微生物菌株であって、前記菌株の分離及び同定の方法に対しては韓国登録特許第10-1486999号公報に具体的に開示されているので、その具体的な記載を省略する。
【0067】
本出願においては、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株を用いて通常の製造方法によりキムチを製造した。
【0068】
<1-2>ヘリコバクターピロリ菌に対する抑制能が高い菌株の選別
前記実施例<1-1>で分離及び同定されたロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株と、対照群として用いられたロイコノストック・メセンテロイデスKCTC3100/KCTC3722、ラクトバチルス・プランタラムKCTC3108/DSM17853を用いてヘリコバクターピロリ抑制活性を測定した。
【0069】
その結果、前記ロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119及びラクトバチルス・プランタラムCJLP133菌株は、対照群として用いられた同一の種の他の菌株と比べ、ヘリコバクターピロリ菌に対する顕著な抑制活性を示した。
【0070】
実施例2:キムチの製造
対照群となる一般キムチ(以下、「sKimchi 」又は「SK」で示す場合がある)と、本出願による癌予防キムチ(以下、「CpKimchi 」又は「CPK 」で示す場合がある)は、下記のとおり製造した。
【0071】
<2-1>一般キムチの製造(sKimchi)
一般キムチは、世界キムチ研究所の一般化されたキムチ料理法に基づき、塩に漬けた白菜に唐辛子粉、ニンニク、生姜、イワシエキス、大根汁、長ネギ、モチ米糊、砂糖を含む薬味を和えた後、低温で発酵させて製造した。
【0072】
<2-2>癌予防キムチの製造(CpKimchi)
癌予防キムチは、リコペン含量が高い白菜を主原料として、一般の白菜にはないリコペン含量が高い白菜の品種である「The Han 1号」(品種出願公開番号2015-688、2015.12.15公開)の種子を購買し、白菜栽培農家と契約栽培を介して白菜を確保し、収穫された白菜をキムチ製造工程に合わせて漬けた後に用いた。白菜として前記リコペン含量が高い白菜を用い、実施例<1-1>で分離及び同定されたキムチ由来のロイコノストック・メセンテロイデスCJLM119、ラクトバチルス・プランタラムCJLP133の2種の乳酸菌を追加したことを除いては、前記一般キムチの製造と同一の方式で癌予防キムチを製造した。
【0073】
<2-3>キムチ抽出物の濃縮液の製造
前記実施例<2-1>及び<2-2>で製造されたキムチを凍結乾燥した後、粉砕して粉末として準備した。ここに20倍重量のメタノールを加えた後、攪拌機を用いて12時間抽出した。抽出された上澄み液を濾過紙で濾過し、残った沈殿物は再びメタノールを追加して12時間抽出した。前記抽出物を濃縮器で約40℃の温度で加温濃縮した濃縮物を製造した後、これを4℃で貯蔵して追加的な実験に用いた。
【0074】
実施例3:ヘリコバクターピロリ生育抑制効果の確認
<3-1>ヘリコバクターピロリ菌株の培養
ヘリコバクターピロリ菌株ATCC 43504(American Type Culture Collection、cagA+と、vacA s1-m1類型の菌株)は、5%のヒツジ血液とともにBBLのTrypticase soy(TS)寒天培地(TSAII;BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)で微好気性条件(BD GasPaK EZ Gas Generating Systems,BD Biosciences)、37℃で3日間培養した。前記ヘリコバクターピロリ菌株をTS培地で採取し、3000Xgで5分間遠心分離し、最後の濃度が109コロニー形成単位(Colony-Forming Unit,CFU)/mlとなるように培地に再び浮遊させた。全ての実験では、TS寒天培地で72時間成長された培養菌を用いた。
【0075】
<3-2>ヘリコバクターピロリ抑制能の確認
本出願のキムチのヘリコバクターピロリ抑制効果を確認するため、実施例<3-1>のヘリコバクターピロリ菌株が塗抹された培地に、前記実施例<2-3>で製造されたキムチ抽出物の濃縮液を濃度別に処理して培養した後、抑制域の大きさを測定した。
【0076】
その結果、本出願のキムチ抽出物の濃縮液は、濃度が500mg/ml以上においてヘリコバクターピロリ菌に対する抑制効果があることを確認した(
図1)。
【0077】
実施例4:一般の胃細胞株(RGM1;Normal gastric mucosa cell)におけるヘリコバクターピロリ連関疾患に対する効果の確認
<4-1>血管新生因子抑制能の確認
本出願のキムチが血管成長因子に及ぼす影響を確認するため、一般の胃細胞株であるRGM1細胞にヘリコバクターピロリを50MOIで処理した後、実施例<2-3>で製造したキムチ抽出物の濃縮液を5mg/mlの濃度で6時間処理した。処理後、培地成分を除去し、細胞をPBS(Dulbecco)溶液で2回洗浄した。その後、RT-PCRを行うために、RiboEX(500μl、GeneAll,Seoul,Korea)を4℃で10分間培養したプレートに添加した。RiboEXを収去して1.5mlチューブに入れた後、100μlのクロロホルムを入れてゆっくり混合した。氷で10分間インキュベーションした後、サンプルを10,000gで30分間遠心分離した。上澄み液を抽出し、200μlのイソプロパノールと混合し、混合物を4℃で1時間インキュベーションした。13,000gで30分間遠心分離した後、沈殿物を70%(vol/vol)のエタノールで洗浄した。エタノールを完全に蒸発させた後、ペレットを100μlのDEPC処理された水(Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA)に溶解させ、その後、PCRを行って関連遺伝子の変化を確認した。
【0078】
その結果、ヘリコバクターピロリの処理により増加した血管新生因子の指標であるVEGF及びbFGFの発現が癌予防キムチ処理群(CPK)において減少することを確認した(
図2)。
【0079】
<4-2>抗炎症効果の比較
本出願のキムチの抗炎症効果を確認するため、RGM1細胞にヘリコバクターピロリを50MOIで処理した後、実施例<2-3>で製造したキムチ抽出物の濃縮液を5mg/mlの濃度で処理し、実施例<4-1>のRT-PCR方法により関連遺伝子の変化を確認した。
その結果、ヘリコバクターピロリ処理により増加した炎症の指標であるCOX-2及びiNOSの発現が癌予防キムチ処理群(CPK)において減少することを確認した(
図3)。
【0080】
<4-3>細胞結合効果の比較
本出願のキムチが細胞の密着結合指標に及ぼす影響を確認するため、RGM1細胞にヘリコバクターピロリを100MOIで処理した後、実施例<2-3>で製造したキムチ抽出物の濃縮液を5g/ml及び10g/mlの濃度で6時間処理した。このとき、細胞の増殖により合流(confluent)状態となった単細胞層の上層部を冷たいD-PBS(-)0.5mlで3回洗浄した後、冷たいHBSS 0.5mlを満たし、1.5mlの冷たいHBSSを入れておいた新しいウェルに移した後、30分間放置後に上層部と下層部の間の電気抵抗度(Transepithelial Electrical Resistance,TERR%)を測定した。
【0081】
その結果、ヘリコバクターピロリ感染モデルにおいて、本出願の癌予防キムチを高濃度で処理するとき、細胞の密着結合が回復することを確認した(
図4)。
【0082】
実施例5:胃癌細胞株(MKN28;Gastric cancer cell)におけるヘリコバクターピロリ連関疾患に対する効果の確認
<5-1>胃癌細胞株の成長抑制効果の確認
本出願のキムチの胃癌細胞株の成長抑制効果を確認するために、MKN28細胞に一般キムチ及び癌予防キムチを、実施例<2-3>で製造したキムチ抽出方法で製造した濃縮液で10、20、50mg/mlの濃度でそれぞれ6時間処理した後、各処理群の細胞生存率を比較分析した。
【0083】
その結果、本出願の癌予防キムチは、一般キムチと比べて胃癌細胞株の成長を濃度依存的により顕著に抑制させ得ることを確認した(
図5)。
【0084】
<5-2>胃癌細胞株の細胞死滅誘導効果の確認
細胞自滅がない特性を有する癌細胞を対象に癌予防キムチ処理時の細胞死滅誘導効果を確認するために、一般キムチ及び癌予防キムチを、前記実施例<2-3>の方法で製造したキムチ抽出物の濃縮液を各細胞に適切な濃度で48時間処理した後、1%のFBSが添加された1X PBSで回収した。濃度別に回収された各細胞にAnnexin V & Dead Cell Reagentを1:1に分株した後、常温で暗い条件で20分間反応させて細胞死滅が誘発された細胞の比率を測定及び分析した。
【0085】
その結果、MKN28胃癌細胞株に本出願の癌予防キムチ処理時には、細胞の70%以上で細胞自滅が誘導されることを確認した(
図6)。
【0086】
<5-3>胃癌細胞株の細胞死滅調節因子の確認
本出願のキムチが胃癌細胞株の死滅調節因子に及ぼす影響を確認するため、MKN28胃癌細胞株に前記実施例<2-3>で製造したキムチ抽出物の濃縮液を20mg/mlの濃度で処理した後、培地成分を除去し、細胞をPBS(Dulbecco)溶液で2回洗浄した。細胞を1mMのPMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride,Sigma Aldrich,St Louis,MO)を含有する氷-冷たい細胞溶解緩衝液(Cell Signaling Technology,Denver,MA)で溶解した。反応20分後、各サンプルを10,000×gで10分間遠心分離した。次いで、上澄み液を獲得した。溶解物のタンパク質は、SDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)で分離し、PVDF(polyvinylidene fluoride)膜に移して1次抗体とともに反応させた後に洗浄し、ペルオキシダーゼ結合2次抗体と反応させた後に再洗浄し、ECLシステム(GE Healthcare,Buckinghamshire,UK)で確認した。
【0087】
その結果、細胞の死滅に関与する切断されたカスパーゼ3(Cleaved caspase 3)、切断されたカスパーゼ8及び切断されたPARPの発現が、本出願の癌予防キムチ処理群(CPK)において一般キムチ処理群(SK)に比べ顕著に増加していることを確認した(
図7)。
【0088】
<5-4>胃癌細胞株の細胞周期連関因子の確認
本出願のキムチが胃癌細胞株の細胞周期連関因子に及ぼす影響を確認するため、MKN28細胞株に前記実施例<2-3>で製造したキムチ抽出物の濃縮液を20mg/mlの濃度で処理した後、培地成分を除去し、細胞をPBS(Dulbecco)溶液で2回洗浄した。細胞を1mMのPMSF(Sigma Aldrich,St Louis,MO)を含有する氷-冷たい細胞溶解緩衝液(Cell Signaling Technology,Denver,MA)で溶解した。反応20分後、各サンプルを10,000×gで10分間遠心分離した。次いで、上澄み液を獲得した。溶解物のタンパク質はSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に移して1次抗体とともに反応させた後に洗浄し、ペルオキシダーゼ結合2次抗体と反応させた後に再洗浄し、ECLシステム(GE Healthcare,Buckinghamshire,UK)で細胞周期関連タンパク質の発現の変化を確認した。
【0089】
その結果、細胞周期に関与するサイクリン(cyclin)D1、CDK4、CDK2、サイクリンE及びサイクリンAの発現が、本出願の癌予防キムチ処理群(CPK)において一般キムチ処理群(SK)に比べ顕著に減少し、これを介して胃癌細胞株の死滅メカニズムが細胞周期の調節によるものであることを確認した(
図8)。
【0090】
実施例6:ヘリコバクターピロリ感染長期動物モデルにおけるヘリコバクターピロリ連関疾患に対する効果の確認
本出願のキムチがヘリコバクターピロリに感染した長期動物モデルにおいて病理学的指標を抑制する効果を確認するため、生後5週の雌C57BL/6マウス(Charles River Japan)に、滅菌された商業用ペレットダイエット(Biogenomics,South Korea)と無菌水を自由摂取するようにしながら、24℃の温度に調節される部屋に保管した。1週間の適応後、20mg/kgのパントプラゾール(pantoprazole)を3回注射し胃の酸度を下げてヘリコバクターピロリの群集を促進させた。その後、各動物に胃腸挿管針を用いてきれいなTSブロス(broth)及びヘリコバクターピロリ懸濁液(109 CFU/ml含有)をそれぞれ0.3mlずつ胃腸内に注射した。対照群はTSブロスを注射し、全ての実験群は1週間以内に総4回ヘリコバクターピロリ注射を打った。マウスに7.5%のNaClを含有するAIN76に基づいた特別なペレット試料を供給し、4週間胃炎を誘発した。
【0091】
その後、ヘリコバクターピロリ陽性マウスをランダムに4群に分けた(n=10)。7.5%のNaClを含有するペレット試料AIN76を24週間投与して感染した全ての動物においてヘリコバクターピロリによる発癌過程を促進させた。対照群及び実験群をそれぞれ
図9に説明した。グループ1:対照群、グループ2:ヘリコバクターピロリ感染群、グループ3:ヘリコバクターピロリ感染及び癌予防キムチ低濃度食餌群、グループ4:ヘリコバクターピロリ感染及び癌予防キムチ高濃度食餌群、グループ5:ヘリコバクターピロリ感染及び一般キムチ食餌群でそれぞれ実験した。
【0092】
その結果、対照群であるG2では、全体の総病変点数(gross lesion index)が相当増加したが、癌予防キムチ処理群であるG3及びG4では有意な減少を見せた(p<0.01)。また、ヘリコバクター感染対照群であるG2では、相当な大きさの胃癌が形成されたが、癌予防キムチ処理群であるG3及びG4では、胃癌の形成が減少することを確認した(
図10及び
図11)。
【0093】
前記では、本出願の好ましい実施形態を例示的に説明したが、本出願の範囲は前記のような特定の実施形態にのみ限定されず、当該分野で通常の知識を有する者であれば、本出願の特許請求の範囲に記載された範疇内において適切に変更が可能である。