(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】電気めっきシステム
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20221219BHJP
C25D 17/16 20060101ALI20221219BHJP
C25D 19/00 20060101ALI20221219BHJP
C25D 5/22 20060101ALI20221219BHJP
B24B 31/112 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C25D17/00 K
C25D17/16 B
C25D17/00 L
C25D19/00 A
C25D5/22
B24B31/112
(21)【出願番号】P 2021566616
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050715
(87)【国際公開番号】W WO2021130873
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 諒佑
(72)【発明者】
【氏名】岩田 芳一
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/075828(WO,A1)
【文献】特開平2-46710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/00- 9/12
C25D 13/00-21/22
B24B 3/00- 3/60
B24B 21/00-39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
前記めっき具(14,15,22)は、蓋(14)と、蓋(14)に対して取り付けられたメッシュ状の受容部(22)と、蓋(14)に対して取り付けられたホース(15)を含み、前記メッシュ状の受容部(22)は、金属塊を受容し、前記ホース(15)は、前記めっき場(P3,P4,P5)に置かれた前記めっき槽(10)内に前記電解液を供給することを特徴とする請求項7に記載の電気めっきシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気めっきシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ワークを収容した処理容器を一連の装置に順次搬送するシステムを開示する。同文献の
図10及び
図11に示す表面処理装置4では、保持部29で保持された処理容器9が水平な受板411上に載せられ、回転駆動機構42の作動で回転させられる。表面処理は、ニッケルめっきである(同文献の段落0018)。処理容器9は、着脱機構90によって受板411に着脱される(同文献の
図12)。供給機構44は、垂直柱441と、垂直柱441から水平に延びたアーム442と、表面処理液供給管443と、洗浄水供給管444を有する(同文献の
図11)。アーム442は、先端にヘッド部445を有している。ヘッド部445には、ケース4451と電極端子4452が設けられている。表面処理液供給管443の供給口及び洗浄水供給管444の供給口は、ヘッド部445に位置している。アーム442は、シリンダ機構446によって、垂直柱441に沿って上下動可能となっている(同文献の段落0045)。垂直柱441は、同文献の
図11の紙面の表裏方向に延びた水平レール447上を移動可能に設けられている。
【0003】
特許文献2は、電気めっき工程と同時に撹拌工程を行い、基材に対するめっき層の密着性を高めることを開示する。特許文献3は、磁石円盤上で研磨容器が移動する磁気研磨機を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5038024号公報
【文献】国際公開第2018/189916号
【文献】特開平6-312362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気めっきと研磨を同時に行う工程を一工程として含む電気めっきシステムを構築するに際して、めっき槽内のメディアが磁性回転体によって磁気的に吸引されることが、めっき槽からのメディアの取り出しを困難とし、またメディアにより拘束されためっき物の取り出しも同様に困難とする。電気めっきシステムの効率的な運用のためにめっき槽を動かす場合、めっき槽の移動のために両者間の磁気的吸引力に打ち勝つ動力(場合によっては、動力を生成するための電力)も必要になる。本願発明者は、このような非限定の一例の課題に照らし、所望又は効率的な運用のためにめっき槽が動かされる電気めっきシステムにおいて、めっき槽内のメディアが磁性回転体によって磁気的に吸引されることが支障になることを新たな課題として見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電気めっきシステムは、めっき物とメディアが沈降し、かつ陽極が浸される電解液を貯留する導電性のめっき槽が配置される少なくとも一つのめっき場にして、めっき槽の下方に磁性回転体が配置され、めっき槽と陽極が直流電源に接続される間、磁性回転体の回転に伴う磁気的吸引力及び磁気的反発力に応じてめっき槽内でメディアが運動して被めっき物が研磨される少なくとも一つのめっき場と、めっき場とめっき場とは異なる別の処理場との間でめっき槽を搬送する搬送機構を備え、めっき場から別の処理場にめっき槽を搬送するべく搬送機構によってめっき槽が上方に持ち上げられる時、メディアと磁性回転体の磁気的結合を弱めるべく磁性回転体が回転するように構成される。幾つかの場合、磁性回転体は、めっき槽の持ち上げに同期して停止状態から回転状態になる。
【0007】
幾つかの実施形態では、別の処理場は、少なくとも投入場と排出場を含み、投入場においてめっき槽に被めっき物とメディアが投入され、排出場においてめっき槽からめっき物とメディアが排出され、少なくとも投入場、めっき場、及び排出場の順番でめっき槽が搬送機構によって搬送されるサイクルが繰り返される。
【0008】
幾つかの実施形態では、めっき場としてM(Mは2以上の自然数を示す)以上のめっき場が設けられ、各めっき場には磁性回転体が個別に設けられる。
【0009】
幾つかの実施形態では、めっき場としてM(Mは2以上の自然数を示す)以上のめっき場が設けられ、排出場としてM-1以下の排出場が設けられる。
【0010】
幾つかの実施形態では、排出場に置かれためっき槽からメッシュ状回転筒にめっき物とメディアが移され、メッシュ状回転筒においてめっき物とメディアが分別される。
【0011】
幾つかの実施形態では、投入場は、上流移動路、上流移動路よりも鉛直方向下方に設けられた下流移動路、及び上流移動路から下流移動路にめっき槽を移送するための移送機構を備える。
【0012】
幾つかの実施形態では、上流移動路、下流移動路、及び移送機構は、各々、ローラーコンベヤを含む。
【0013】
幾つかの実施形態では、めっき槽は、横長な底部を有し、磁性回転体が底部の長手方向に沿って移動可能に設けられる。
【0014】
幾つかの実施形態では、めっき場から別の処理場にめっき槽を搬送するべく搬送機構によってめっき槽が上方に持ち上げられる時、磁性回転体が鉛直方向に直交する横方向に移動させられる。
【0015】
幾つかの実施形態では、めっき場に置かれためっき槽内にめっき具を配備するように構成された準備機構を更に備え、準備機構は、搬送機構によるめっき槽の持ち上げ時にめっき槽がめっき具に衝突しないようにめっき具を動かしてめっき槽から退避させるように構成される。幾つかの実施形態では、めっき具は、金属塊を受容するメッシュ状の受容部を含む。幾つかの実施形態では、めっき槽は、鉛直方向に直交する横方向に長尺に構成され、メッシュ状の受容部は、めっき槽の長手方向に沿って長尺に構成される。
【0016】
幾つかの実施形態では、めっき具は、蓋と、蓋に対して取り付けられたメッシュ状の受容部と、蓋に対して取り付けられたホースを含み、メッシュ状の受容部は、金属塊を受容し、ホースは、めっき場に置かれためっき槽内に電解液を供給する。幾つかの実施形態では、めっき槽は、鉛直方向に直交する横方向に長尺に構成され、搬送機構は、めっき槽の幅狭部分においてめっき槽のフランジ部を支持するように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一態様によれば、電気めっきシステムの所望又は効率的な運用を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一態様に係る電気めっきシステムの概略的なレイアウト図である。
【
図2】搬送機構の構成及び動作を示す概略図である。
【
図3】準備機構の構成及び動作を示す概略図である。
【
図4】準備機構によってめっき具がめっき槽にセットされた状態を示す概略図である。
【
図5】準備機構による準備に続いてめっき槽内に電解液が供給された状態を示す概略図である。
【
図6】めっき場の構成を示す概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第1端部の直下の第1位置に位置付けられる。めっき槽は、不図示の透磁性台座上に置かれている。
【
図7】めっき槽と磁性回転体の相対的な位置関係を主に示す上面模式図であり、磁性回転体がめっき槽の第1端部の直下の第1位置に位置付けられる。
【
図8】めっき場の構成を示す概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第2端部の直下の第2位置に位置付けられる。めっき槽は、不図示の透磁性台座上に置かれている。
【
図9】めっき槽と磁性回転体の相対的な位置を主に示す概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第2端部の直下の第2位置に位置付けられる。
【
図10】磁性回転体における永久磁石の配置例を示す概略的な上面図である。
【
図11】めっき物とメディアを分別機に投入するための置き場にめっき槽が置かれ、めっき槽が傾けられることを示す概略図である。
【
図13】電気めっきシステムの動作を示す概略的なフローチャートである。
【
図14】めっき槽がコンタクト部上に載置されて支持されることを示す概略図である。
【
図15】めっき槽の長手方向の両端に対応してコンタクト部が設けられることを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1乃至
図15を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示された電気めっきシステムにのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々な電気めっきシステムにも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0020】
図1に示すように、電気めっきシステム5は、投入場P1,P2、めっき場P3,P4,P5、及び排出場P6といった複数の処理場、異なる処理場間でめっき槽10を搬送する搬送機構80(
図2参照)、コントローラー90、準備機構70、貯留槽96、洗浄液供給槽97、及び廃液貯留槽98を備える。投入場P1,P2においてめっき槽10に被めっき物1とメディア2が投入される。めっき場P3~P5では、めっき槽10内で被めっき物1が電気めっきされ、かつメディア2により研磨される。排出場P6では、めっき槽10から電気めっきされためっき物1’が任意の方法で排出される。
【0021】
搬送機構80は、投入場P1,P2、めっき場P3,P4,P5、及び排出場P6といった複数の処理場間でめっき槽10を搬送するように構成される。搬送機構80は、コントローラー90により制御され、投入場P1,P2とめっき場P3,P4,P5の間、めっき場P3,P4,P5と排出場P6の間、及び排出場P6と投入場P1,P2の間で、めっき槽10を搬送する。典型的には、めっき槽10は、投入場P1,P2からめっき場P3,P4,P5に搬送され、続いて、めっき場P3,P4,P5から排出場P6に搬送され、続いて、排出場P6から投入場P1,P2に搬送される。このサイクルが繰り返され、電気めっきが効率的に実施される。
【0022】
複数のめっき場P3,P4,P5が設けられる場合、異なるめっき場P3,P4,P5において異なる条件で電気めっきを実施することができ、異なるめっき物、例えば、めっき色やめっき厚が異なるめっき物を得ることができる。言うまでもなく、同一のめっき物の量産のためにめっき場P3,P4,P5において同一条件で電気めっき処理をしても良い。搬送機構80の個数、移動軌跡、及び具体的構成等は、当業者によって自由に決定される。投入場P1,P2、めっき場P3,P4,P5、及び排出場P6が同一の軸線L1上に配列される場合、搬送機構80の搬送路の構築が簡素化される。
【0023】
めっき場の個数をM(Mは2以上の自然数を示す)とする時、排出場の個数は、M-1以下であり得る。すなわち、めっき場と排出場が一対一で対応していない。これによって一つの排出場を複数のめっき場で共用することができ、排出場の設備の利用効率が高められる。言うまでもなく、投入場、めっき場及び排出場の個数は当業者によって自由に決定されるものであり、めっき場の個数と排出場の個数が同一の形態も予期される。
【0024】
めっき場P3,P4,P5においてめっき槽10の下方に磁性回転体6が配置される(
図6参照)。例えば、めっき槽10が不図示の台座の台座面上に置かれ、台座の台座面の下に磁性回転体6が設けられる。台座は、めっき槽10の下面の全面を支持してもよく、或いは、めっき槽10の下面を部分的に支持しても良い。台座は、磁束を透過する任意の材料から成り、及び/又は、磁束を透過する開口を有する。めっき槽10と陽極が直流電源E1に接続される間、磁性回転体6の回転に伴う磁気的吸引力及び磁気的反発力に応じてめっき槽10内でメディア2が運動して被めっき物1が研磨される。このようにして同一のめっき槽10において電気めっき工程と研磨工程が同時に行われる。めっき場P3~P5において搬送機構80がめっき槽10を上方に持ち上げる時、磁性回転体6が回転することによってめっき槽10内のメディア2と磁性回転体6の磁気的結合が弱められる。なお、めっき場P3~P5に磁性回転体6を個別に設けることが有利である。幾つかの場合、磁性回転体6は、めっき槽10の持ち上げに同期して停止状態から回転状態になる。必要な期間に限定して磁性回転体6を回転させることによって消費電力が低減される。
【0025】
めっき槽10は、据え置き式ではなく、搬送機構80による搬送に適合される。めっき槽10は、導電性、例えば、金属製の槽であり、平坦な上下面により厚みが規定される底部11、底部11の外周から立ち上がる周壁12、及び周壁12の上端で外方に突出したフランジ部13を有する。めっき槽10は、鉛直方向に直交する横方向に長尺に構成される。搬送機構80は、めっき槽10の幅狭部分においてめっき槽10のフランジ部13を支持することができる。これによって搬送機構80の小型化及び/又は後述のシリンダー84(
図2参照)の伸縮距離の短縮化が促進される。鉛直方向(
図1の紙面の表裏方向)と軸線L1の両方に直交する横方向にめっき槽10の長手方向を一致させることにより軸線L1上においてめっき槽10をお互いに近接して配置することができる。めっき槽10の周壁12の上端により画定される投入口を介してめっき槽10内に被めっき物及びメディアを簡便に投入することができる。なお、めっき槽10への被めっき物及びメディアの投入は、作業員又は機械によって行われる。
【0026】
図2は、搬送機構80の一例を示すが、搬送機構80は、これに限られるべきではなく、例えば、2以上の多関節アーム、吸引装置、磁着装置から構成される形態も想定される。
図2に示す例では、搬送機構80は、軸線L1に沿って動く可動部81、可動部81から下方に延びるシリンダー82、シリンダー82のピストンの下端に固定された取付ベース83、取付ベース83に対して固定されたシリンダー84、シリンダー84のピストンの先端に取り付けられた支持具85を有する。可動部81は、例えば、ボールねじのナットであるが、他のリニアアクチュエータの可動部であっても良い。シリンダー82,84として任意の種類のシリンダー(電動シリンダー、エアーシリンダー)を用いることができる。支持具85は、めっき槽10のフランジ部13の下面を支持するように構成される。支持具85の個数は、2つに限らず、3つ、4つ設けられる形態も予期される。
【0027】
図2(a)に示すように、可動部81が軸線L1に沿って動かされてめっき槽10上に到達する。続いて、
図2(b)に示すように、シリンダー82が伸長して支持具85がめっき槽10のフランジ部13の横に配置される。続いて、
図2(c)に示すように、シリンダー84が収縮してフランジ部13の下方に支持具85が配される。この状態でシリンダー82が収縮することによってめっき槽10を持ち上げることができる。
【0028】
コントローラー90は、別のめっき槽10の上方を跨いでめっき槽10を搬送するように搬送機構80を制御し、これによって、めっき槽10の搬送距離が短縮化される。搬送機構80は、コントローラー90により制御され、投入場P2からめっき場P5へめっき槽10を搬送する。この時、このめっき槽10は、めっき場P3及び/又はP4に置かれた別のめっき槽10の上方を跨いで移動する。なお、めっき場P3及び/又はP4にめっき槽10が置かれていない場合も想定される。搬送機構80は、コントローラー90により制御され、めっき場P4から排出場P6へめっき槽10を搬送する。この時も同様、めっき場P5に置かれた別のめっき槽10の上方を跨いでめっき槽10が移動する。搬送機構80は、コントローラー90により制御され、排出場P6から投入場P1へめっき槽10を搬送する。この時も同様、めっき場P3~P5と投入場P2に置かれた別のめっき槽10の上方を跨いでめっき槽10が移動する。
【0029】
準備機構70は、めっき場P3~P5に置かれためっき槽10内にめっき具を配備するように構成される。めっき具は、電気めっきのために用いられる1以上の任意の用具である。幾つかの場合、めっき具は、蓋14と、蓋14に対して取り付けられたメッシュ状の受容部22と、蓋14に対して取り付けられたホース15を含む。メッシュ状の受容部22が電源E1(その正極)に電気的に接続され、メッシュ状の受容部22に受容された金属塊が電源E1に電気的に接続される。金属塊は、めっき槽10の電解液中で陽極として機能する。ホース15は、めっき場P3~P5に置かれためっき槽10内に電解液を供給する流路であり、その排出のためにも用いられる。なお、電解液は、例えば、シアン系めっき液であり、貯留槽96で貯留されている。言うまでも無く、電解液として様々な種類のものを使用可能である。不図示のポンプの作動に応じてホース15を介して貯留槽96からめっき槽10に電解液が供給される。めっき場P3~P5において電気めっきが終了した後、ポンプの作動によってめっき槽10内の電解液がホース15を介して貯留槽96に戻される。
【0030】
準備機構70は、軸線L3,L4,L5,L6,L7,L8に沿って動く可動部71、可動部71から上方に延びるシリンダー72を有する(
図3参照)。可動部71は、例えば、ボールねじのナットであるが、他のリニアアクチュエータの可動部であっても良い。シリンダー72として任意の種類のシリンダー(電動シリンダー、エアーシリンダー)を用いることができる。シリンダー72のピストンの上端に蓋14が固定される。可動部71は、待機位置とセット位置の間を往復する。可動部71が待機位置にある時、めっき場のめっき槽とめっき具が干渉しない。可動部71は、
図3に示すように待機位置からセット位置に移動し、続いてシリンダー72の作動(収縮)によってめっき槽10に対してめっき具がセットされる。
図4に示すように蓋14によってめっき槽10を閉鎖し、めっき槽10内へのゴミの進入を防止することが望ましい。蓋14に取り付けられたメッシュ状の受容部22は、めっき槽10の内部空間に配置され、その底部11及び周壁12から電気的に絶縁される。蓋14に取り付けられたホース15の排出端がめっき槽10の内部空間に配置される。ポンプの作動によって
図6に示すようにめっき槽10に電解液が供給され、メッシュ状の受容部22が電解液に浸される。
【0031】
めっき槽10に対してめっき具を安定に配備するために1つのめっき場において2つ又は2つ以上の可動部71が配備される。
図1に示す場合、1つのめっき場において2つの可動部71が配備される。2つの可動部71は、めっき場P3に置かれためっき槽10を挟んで平行に延びる軸線(例えば、L3,L4)に沿って動く。2つの可動部71によって蓋14が安定して支持される。蓋14に取り付けられたメッシュ状の受容部22とホース15も同様である。
【0032】
図6を参照して上述したようにめっき槽10の下方には磁性回転体6が配備される。磁性回転体6は、回転板68と回転板68の上面に設けられた複数の永久磁石69を有する。磁性回転体6の回転によって交番磁界が生成されるように永久磁石69が配置される。具体的には、
図10に示すように、周方向においてN極上向きの永久磁石69とS極上向きの永久磁石69が交互に配置される。磁束は、N極から出てS極に向かう。磁性回転体6の回転によってメディアは、第1及び第2磁化状態の間を任意のタイミングで反転し得る。第1磁化状態において、メディアの第1端がN極であり、その第2端がS極である。第2磁化状態において、メディアの第1端がS極であり、その第2端がN極である。メディアは、永久磁石69に磁気的に吸引されて周方向に流れ、また、その磁化状態の反転によって不規則に回転運動し得る。メディア2が被めっき物1に衝突して被めっき物1が磁性回転体6の回転方向に流動する。磁化状態の反転に伴うメディア2の不規則な回転運動によって被めっき物1がより均一に研磨される。
【0033】
被めっき物1は、典型的には、少なくとも部分的に導電性を有する導電性部品である。幾つかの場合、被めっき物1は、服飾用の金属製ボタン、又はスライドファスナー用の金属製スライダーであるが、これに限られない。メディア2は、典型的には、針、棒、立方体、直方体、ピラミッド形の強磁性体である。
【0034】
磁性回転体6は、主モーター66の回転軸67に軸着している。主モーター66は、ガイドレールG1に沿って可動に設けられる。具体的には、副モーター61の回転力がクランクアーム62,63を介して主モーター66に伝達してガイドレールG1沿いに動く(
図6及び
図8参照)。ガイドレールG1沿いの主モーター66の移動に応じてめっき槽10の横長の底部11の一端と他端の間で磁性回転体6が往復運動する(
図7及び
図9参照)。磁性回転体6がめっき槽10の底部11の長手方向に沿って移動可能である。めっき場P3~P5において搬送機構80がめっき槽10を上方に持ち上げる時、磁性回転体6がめっき槽10の底部11の長手方向に沿って移動することによってめっき槽10内のメディアと磁性回転体6の磁気的結合が弱められ得る。
【0035】
めっき場P3~P5における電気めっき及び研磨の後、搬送機構80によってめっき槽10が排出場P6に搬送される。排出場P6においてめっき槽10内のめっき物1’とメディア2が水洗され、続いてめっき槽10からめっき物1’とメディア2が排出される。ホースやポンプを用いて洗浄液供給槽97(
図1参照)からめっき槽10に洗浄液を供給し、めっき槽10内でめっき物1’とメディア2が洗浄される。この廃液は、ホースやポンプを用いてめっき槽10から廃液貯留槽98(
図1参照)に送られる。
【0036】
排出場P6においてめっき槽10からめっき物1’とメディア2を排出する態様は様々であるが、例えば、
図11に示すように行っても良い。具体的には、排出場P6においてめっき槽10が傾けられ、めっき物1’とメディア2がめっき槽10から重力に従って落下する。めっき槽10から排出されためっき物1’とメディア2が排出場P6に隣接して配備された分別機92に投入される。分別機92は、例えば、ある軸線AX6に関して回転可能に設けられたメッシュ状回転筒である。メッシュ状回転筒のメッシュ目を介してメディア2が落下するが、めっき物1’は落下しない。メッシュ状回転筒を通過しためっき物1’が箱93に蓄積される。めっき槽10からのめっき物1’とメディア2の排出を促進するため傾斜した状態のめっき槽10に水流を噴射することが望ましい。メッシュ状回転筒の回転のために1以上の電動モーターを用いることができる。なお、めっき物1’とメディア2を選別できれば方法は問わず、例えば、永久磁石又は電磁石を用いてメディア2を選択的に磁着してめっき物1’とメディア2を選別することも可能である。
【0037】
めっき物1’とメディア2の排出が完了すると、めっき槽10が水平姿勢に戻され、搬送機構80によって投入場P1,P2に戻される。幾つかの場合、
図12に示すように投入場が構成される。具体的には、投入場は、上流移動路101、上流移動路101よりも鉛直方向下方に設けられた下流移動路102、及び上流移動路101から下流移動路102へめっき槽10を移送するための移送機構103を有する。上流移動路101は、投入場の移動路の2階部分であり、下流移動路102は、投入場の移動路の1階部分である。移送機構103は、投入場P1の移動路の1階部分と2階部分の間を上下に往復する昇降部を有する。このような投入場の移動路としてローラーコンベヤの使用が簡便である。搬送機構80の移動路を軸線L1に沿う直線的なものに維持するため、上流移動路101を下流移動路102と重複して配置しても良い。搬送機構80によってめっき槽10が持ち上げられる下流移動路102の区域以外の区域において上流移動路101と下流移動路102が重畳する。上流移動路101と下流移動路102の間にはめっき槽10の移動のために十分な空間が設けられる。
【0038】
上述のように構成された投入場では、まず、搬送機構80によって上流移動路101上にめっき槽10が置かれる。上流移動路101におけるローラーの回転によってめっき槽10が上流移動路101から2階に位置する移送機構103の昇降部に移送される。続いて、移送機構103の昇降部が2階から1階に降下し、昇降部上のめっき槽10も同様に2階から1階に降下する。続いて、移送機構103におけるローラーの回転によって1階に位置する移送機構103の昇降部から下流移動路102にめっき槽10が移送される。続いて、下流移動路102のローラーの回転によって下流移動路102上をめっき槽10が移動し、搬送機構80によって支持される区域まで移動する。投入場の移動路上をめっき槽10が移動する過程で作業員又は機械によって被めっき物1とメディア2がめっき槽10に投入される。
【0039】
最後に
図13のフローチャートを参照して電気めっきシステム5の動作について説明する。まず、投入場においてめっき槽10に被めっき物1とメディア2が投入される(S1)。コントローラー90からの指令に応じて移動路のローラーが作動してめっき槽10が移動路の所定区域に位置付けられる(S1)。次に、搬送機構80によって投入場からめっき場にめっき槽10が搬送される(S2)。具体的には、コントローラー90からの指令に応じて搬送機構80が投入場の所定区域に置かれためっき槽10を持ち上げてめっき場まで搬送する。複数のめっき場がある場合、コントローラー90は、事前設定されためっき場にめっき槽10を搬送するべく搬送機構80を制御する。めっき場における空き状況(例えば、距離センサの出力やカメラの取得画像)に基づいて、コントローラー90がめっき槽10の行き先を自律的に決定することもできる。
【0040】
次に、準備機構70によって電気めっきのための準備が行われ(S3)、端的には、めっき槽10に対してめっき具が配備される。コントローラー90からの指令に応じて準備機構70の可動部71が待機位置からセット位置に移動し、続いてシリンダー72の作動(例えば、収縮)によってめっき槽10に対してめっき具がセットされる。コントローラー90からの指令によってポンプが作動して所定量の電解液がめっき槽10に供給される。
【0041】
次に、めっき場において電気めっきと研磨が同時に行われる(S4)。具体的には、コントローラー90からの指令に応じてスイッチSWがオンして電気めっきが開始し、またコントローラー90からの指令に応じて主モーター66及び副モーター61が作動する。主モーター66の作動によって磁性回転体6が回転する。副モーター61の作動によって磁性回転体6がめっき槽10の一端と他端の間を往復する。めっき槽10の電解液においてメッシュ状の受容部22に受容された可溶性陽極の金属塊から金属イオンが電解液に供給される。被めっき物1は、導電性のめっき槽10を介して直流電源E1の負極に接続されている。被めっき物1がめっき槽10の電解液において陰極として機能し、電解液中の金属イオンが還元されて析出する。なお、電気めっきにより形成されるめっき層は、単層に限らず複層であっても良い。無論、可溶性陽極の追加又は代替として不溶性陽極材を用いることもできる。
【0042】
次に、準備機構70によってめっき槽10からめっき具が撤退される(S5)。具体的には、コントローラー90からの指令に応じてシリンダー72が作動(例えば、伸長)し、続いて可動部71がセット位置から待機位置に移動する。また、コントローラー90からの指令によってポンプが作動してめっき槽10から電解液が吸い出される。吸い出した電解液は、貯留槽96に貯留され、必要な成分調整の後、次の電気めっき工程で用いられる。
【0043】
次に、搬送機構80によってめっき場から排出場にめっき槽10が搬送される(S6)。コントローラー90からの指令に応じて搬送機構80がめっき場に置かれためっき槽10を持ち上げて排出場まで搬送する。めっき場において搬送機構80によってめっき槽10が持ち上げられる時、コントローラー90からの指令に応じて主モーター66が作動する。磁性回転体6が回転することによって交番磁界が生成され、磁性回転体6とメディア2の間の磁気的結合が弱められ、又は消される。追加又は代替として、コントローラー90からの指令に応じて副モーター61が作動する。磁性回転体6が回転を維持したまま横方向に移動することによって磁性回転体6とメディア2の間の磁気的結合が弱められ、又は消される。
【0044】
搬送機構80によってめっき槽10がめっき場から排出場に搬送されると、めっき槽10からめっき物1’とメディア2の排出が行われる(S7)。コントローラー90からの指令に応じて、めっき槽10を傾斜させる機構が作動し、かつ、メッシュ状回転筒が回転を開始する。めっき物1’は、めっき槽10から落下し、メッシュ状回転筒の入口からメッシュ状回転筒内に進入し、メッシュ状回転筒が回転に応じてメッシュ状回転筒内を出口に向けて転動する。コントローラー90からの指令に応じて、傾斜しためっき槽10に向けて水流を噴出する水洗機構も作動する。十分な時間の経過後又はカメラによる観察結果に応じて、コントローラー90が停止信号を出力する。これに応じて、めっき槽10が水平姿勢に戻され、メッシュ状回転筒が回転を停止し、水洗機構も作動を停止する。
【0045】
次に、搬送機構80によって排出場から投入場にめっき槽10が搬送される。搬送機構80は、排出場でめっき槽10を持ち上げ、めっき場を越えて投入場まで搬送する(S8)。投入場におけるめっき槽10の移動が、コントローラー90によって制御され、又は、コントローラー90とは別の制御機構によって制御される。
図12に示した場合、上流移動路101上にめっき槽10が置かれたことの検出に応じて、上流移動路101のローラーが作動して上流移動路101から移送機構103の昇降部上にめっき槽10が移送される。移送機構103の昇降部上へのめっき槽10の移送が完了したことの検出に応じて、移送機構103の昇降部が下降する。移送機構103の昇降部の下降の完了の検出に応じて、移送機構103の昇降部のローラーが作動して移送機構103から下流移動路102上にめっき槽10が移送される。移送機構103の昇降部から下流移動路102へのめっき槽10の進入の検出に応じて、下流移動路102のローラーが作動してめっき槽10が下流側に移送される。なお、移送機構103の昇降部は、適切なタイミング、例えば、所定時間後に2階の元位置に復帰するように構成される。S8からS1に戻り、処理がくり返される。
【0046】
図14及び
図15を参照して更に説明する。幾つかの実施形態では、導電性のめっき槽10と直流電源E1の安定及び/又は安全な電気的接触のため、めっき槽10を直流電源E1に電気的に接続するための1以上のコンタクト部30が設けられる。コンタクト部30は、直流電源E1の負極に電気的に接続されている。めっき槽10がコンタクト部30に接触して支持されることにより、めっき槽10がコンタクト部30を介して直流電源E1の負極に電気的に接続される。幾つかの場合、めっき槽10の長手方向において同電位を維持するため、めっき槽10の長手方向における第1及び第2端部に対応して第1及び第2コンタクト部が設けられる。コンタクト部30に対するめっき槽10の接触場所は、例えば、めっき槽10のフランジ部13であるが、これに限らず、めっき槽10の底部11の下面であっても構わない。
【0047】
必ずしもこの限りではないが、コンタクト部30は、銅バーといった渡りパーツ31と、渡りパーツ31上に固定された複数の、例えば、銅製の板バネ32を含む。複数の板バネ32を設けることによってめっき槽10とコンタクト部30の間に複数の接触点をより確実に形成することができる。これによって、めっき槽10とコンタクト部30の間の接触抵抗が減じられ、抵抗加熱が発生してしまうことが効果的に回避又は抑制される。めっき槽10を安定して支持するために渡りパーツ31において一定ピッチで板バネ32が設けられ得る。
【0048】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0049】
1 被めっき物
1’ めっき物
2 メディア
6 磁性回転体
10 めっき槽
80 搬送機構
P1 投入場
P2 投入場
P3 めっき場
P4 めっき場
P5 めっき場
P6 排出場