(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】電気めっき装置及びめっき物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20221219BHJP
C25D 17/16 20060101ALI20221219BHJP
C25D 17/22 20060101ALI20221219BHJP
C25D 7/02 20060101ALI20221219BHJP
C25D 17/28 20060101ALI20221219BHJP
B24B 31/112 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C25D17/00 K
C25D17/16 B
C25D17/22
C25D7/02
C25D17/28
B24B31/112
(21)【出願番号】P 2021566617
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050716
(87)【国際公開番号】W WO2021130874
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 諒佑
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/075828(WO,A1)
【文献】特開平2-46710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/00- 9/12
C25D 13/00-21/22
B24B 3/00- 3/60
B24B 21/00-39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被めっき物(1)と磁性メディア(2)が沈降する電解液を貯留するめっき槽(10)と、
交番磁界を生成するべく前記めっき槽(10)の下方に回転可能に設けられた少なくとも一つの磁性回転体(6)を備える電気めっき装置(100)であって、
前記少なくとも一つの磁性回転体(6)は、前記磁性回転体(6)の上方の空間を占める第1空間(SP1)と前記第1空間(SP1)以外の空間を占める第2空間(SP2)に前記めっき槽(10)の槽内空間を区分するように設けられ、
前記少なくとも一つの磁性回転体(6)は、前記磁性回転体(6)の回転軸(AX66)に交差する横方向に移動可能に設けられ、これによって、前記被めっき物(1)が、前記第1空間(SP1)において前記電解液中にある状態と前記第2空間(SP2)において前記電解液中にある状態の間で切り替えられる、電気めっき装置。
【請求項2】
前記磁性回転体(6)は、当該磁性回転体(6)の外周部が前記横方向において前記めっき槽(10)から突出する位置に到達するまで前記横方向沿いに動かされることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項3】
前記めっき槽(10)は、前記第1空間(SP1)に対応する第1底面領域(111)と、前記第2空間(SP2)に対応する第2底面領域(112)を有し、前記第2底面領域(112)の面積は、前記第1底面領域(111)の面積よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気めっき装置。
【請求項4】
前記めっき槽(10)が第1及び第2端部(16,17)を有するべく長尺に形状付けられ、前記磁性回転体(6)は前記第1端部(16)の直下の第1末端位置と前記第2端部(17)の直下の第2末端位置の間を往復するように動かされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記磁性回転体(6)に回転力を供給する回転力供給部(65)と、
前記回転力供給部(65)を前記横方向に移動するべく構成された移動機構(M1)を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電気めっき装置。
【請求項6】
少なくとも被めっき物(1)と磁性メディア(2)が沈降した電解液を貯留するめっき槽(10)において前記被めっき物(1)を電気めっきする工程と、
磁気的吸引力及び磁気的反発力に応じて前記電解液中の磁性メディア(2)が運動するように前記めっき槽(10)の下方で磁性回転体(6)を回転する工程にして、前記めっき槽(10)の槽内空間が、前記磁性回転体(6)の上方の空間を占める第1空間(SP1)と前記第1空間(SP1)以外の空間を占める第2空間(SP2)に区分される、工程と、
前記磁性回転体(6)の回転軸(AX66)に交差する横方向に前記磁性回転体(6)を動かす工程にして、前記被めっき物(1)が、前記第1空間(SP1)において前記電解液中にある状態と前記第2空間(SP2)において前記電解液中にある状態の間で切り替えられる工程を含むめっき物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気めっき装置及びめっき物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電気めっき工程と同時に撹拌工程を行い、基材に対するめっき層の密着性を高めることを開示する。特許文献2は、磁気研磨方法及び装置に関し、特には、大型のワークを研磨するに際して複数の磁石円板を設けることを開示する(段落0001、段落0003、及び段落0030等参照)。磁石円板が動かされ、交番磁界のデッドゾーンが低減されることも開示されている(段落0032、段落0035、及び段落0036等参照)。特許文献3は、特許文献2と同様、大型の被研磨材を研磨することに関し(
図4参照)、磁石円盤及び回転用モーターを基盤で指示し、この基盤を揺動することにより、磁石円盤の回転軸周辺の交番磁界のデッドゾーンを解消することを開示する(段落0006、段落0035、及び段落0036等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/189916号
【文献】特開平10-180611号公報
【文献】特開2001-138208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気めっきと研磨を同槽で行う場合、電気めっきと研磨を上手く両立する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るめっき装置は、少なくとも被めっき物と磁性メディアが沈降する電解液を貯留するめっき槽と、交番磁界を生成するべくめっき槽の下方に回転可能に設けられた少なくとも一つの磁性回転体を備える。少なくとも一つの磁性回転体は、磁性回転体の上方の空間を占める第1空間と第1空間以外の空間を占める第2空間にめっき槽の槽内空間を区分するように設けられる。少なくとも一つの磁性回転体は、磁性回転体の回転軸に交差する横方向に移動可能に設けられ、これによって、被めっき物が、第1空間において電解液中にある状態と第2空間において電解液中にある状態の間で切り替えられる。
【0006】
幾つかの実施形態においては、磁性回転体は、当該磁性回転体の外周部が横方向においてめっき槽から突出する位置に到達するまで横方向沿いに動かされる。
【0007】
幾つかの実施形態においては、めっき槽は、第1空間に対応する第1底面領域と、第2空間に対応する第2底面領域を有し、第2底面領域の面積は、第1底面領域の面積よりも大きい。
【0008】
幾つかの実施形態においては、めっき槽が第1及び第2端部を有するべく長尺に形状付けられ、磁性回転体は第1端部の直下の第1末端位置と第2端部の直下の第2末端位置の間を往復するように動かされる。
【0009】
幾つかの実施形態においては、めっき装置は、磁性回転体に回転力を供給する回転力供給部と、回転力供給部を横方向に移動するべく構成された移動機構を更に備える
【0010】
本開示の別態様に係るめっき物の製造方法は、
少なくとも被めっき物と磁性メディアが沈降した電解液を貯留するめっき槽において被めっき物を電気めっきする工程と、
磁気的吸引力及び磁気的反発力に応じて電解液中の磁性メディアが運動するようにめっき槽の下方で磁性回転体を回転する工程にして、めっき槽の槽内空間が、磁性回転体の上方の空間を占める第1空間と第1空間以外の空間を占める第2空間に区分される、工程と、
磁性回転体の回転軸に交差する横方向に磁性回転体を動かす工程にして、被めっき物が、第1空間において電解液中にある状態と第2空間において電解液中にある状態の間で切り替えられる工程を含む。
【0011】
幾つかの実施形態においては、鋭利な先端を有しない磁性メディアが用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、電気めっきと研磨を上手く両立することが促進される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一態様に係る電気めっき装置の概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第1端部の直下の第1末端位置に位置付けられる。
【
図2】本開示の一態様に係る電気めっき装置におけるめっき槽と磁性回転体の相対的な位置関係を主に示す概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第1端部の直下の第1末端位置に位置付けられる。
【
図3】本開示の一態様に係る電気めっき装置の概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第2端部の直下の第2末端位置に位置付けられる。
【
図4】本開示の一態様に係る電気めっき装置におけるめっき槽と磁性回転体の相対的な位置関係を主に示す概略図であり、磁性回転体がめっき槽の第2端部の直下の第2末端位置に位置付けられる。
【
図5】磁性回転体における永久磁石の配置例を示す概略的な上面図である。
【
図7】めっき物の製造方法を示す概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1乃至
図7を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示された電気めっき装置及び方法にのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々な電気めっき装置及び方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0015】
図1に示すように、電気めっき装置100は、被めっき物1と磁性メディア2が沈降する電解液を貯留するめっき槽10と、交番磁界を生成するべくめっき槽10の下方に回転可能に設けられた少なくとも一つの磁性回転体6と、磁性回転体6に回転力を供給する回転力供給部65と、回転力供給部65を横方向に移動するべく構成された移動機構M1を有する。移動機構M1から回転力供給部65を介して伝達する力に応じて磁性回転体6が横方向に移動する。横方向は、磁性回転体6の回転軸AX66に交差(例えば、直交)する。横方向は、典型的には鉛直方向に直交する水平方向であるが、これに限られない。磁性回転体6の横方向移動のために回転力供給部65を介して磁性回転体6に力を伝達することは必須ではなく、他の機構も採用可能であることに留意されたい。
【0016】
めっき槽10は、導電性、例えば、金属製の槽である。めっき槽10は、横方向に長尺に構成され、第1及び第2端部16,17を有する(
図2参照)。めっき槽10は、上下面により厚みが規定される底部11、底部11の外周から上方に立ち上がる周壁12、及び周壁12の上端でめっき槽外方に突出したフランジ部13を有する。周壁12は、横方向に延びる横壁12a,12bと、横方向に交差するように延びる湾曲壁12c,12dを有する。めっき槽10の槽内空間は、底部11と周壁12により画定され、めっき槽10の第1及び第2端部16,17の間を延びる。周壁12は、底部11に対して垂直に設けられる場合に限られず、底部11に対して斜めに設けられても良い(
図6参照)。
【0017】
めっき槽10に貯留される電解液には、被めっき物1と磁性メディア2が投入されて沈降し、かつ陽極が浸される。電解液は、例えば、シアン系めっき液であるが、これに限られず、他の種類のめっき液も利用可能である。めっき槽10内にメッシュ状の導電性の受容部22が配置され、この受容部22内に金属塊23が受容される。金属塊23は、めっき槽10の電解液中で陽極として機能する。受容部22は、めっき槽10と同様、横方向に長尺であり、金属塊23から溶出した金属イオンの濃度差が横方向において生じることが抑制される。陽極として不溶性陽極を採用することもできる。めっき槽10と金属塊23(陽極)が直流電源E1に接続され、めっき槽10に電気的に接続された被めっき物1(陰極)が電気めっきされる。被めっき物1がめっき槽10に電気的に接続されることは、被めっき物1がめっき槽10に直接的に接触している状態に限られず、他の被めっき物1を介してめっき槽10に電気的に接続されている状態を含む。
【0018】
被めっき物1は、少なくとも部分的に導電性を有する導電性部品である。例えば、被めっき物1は、服飾用の金属製ボタン、又はスライドファスナー用の金属製スライダーといった金属製品であるが、これに限られない。被めっき物1は、磁性メディア2により電解液中で撹拌されるサイズを有するが、これに限られない。磁性メディア2は、被めっき物1を物理的に研磨するように形状づけられた磁性体である。例えば、磁性メディア2は、針、棒、立方体、直方体、ピラミッド形の強磁性体であるが、このような形状に限られない。メディア2は、鋭利な先端を有しないものであり得る。このような非鋭利な先端を有しないメディア2を用いることによって被めっき物1が過剰に研磨されてしまうことが回避又は抑制され、所望のめっき厚及び/又は色目のめっき物を得ることが促進される。購入したメディア2が鋭利な先端を有する場合、めっき槽10を研磨槽として用いてメディア2の鋭利な先端を事前に除去する。例えば、メディア2と砥石を研磨槽に投入し、磁性回転体6を回転させる。これによってメディア2の鋭利な先端が砥石によって研がれて除去される。このような研磨処理したメディアは、金属粉で汚れているため、界面活性剤を用いて洗浄することが望ましい。
【0019】
磁性回転体6は、その回転によって交番磁界を生成するように構成される。幾つかの場合、磁性回転体6は、回転円盤68と回転円盤68に設けられた複数の永久磁石69を有する。永久磁石69は、磁性回転体6の回転軸AX66から径方向外側にオフセットして配置される。磁性回転体6の回転に応じて、永久磁石69が、磁性回転体6の回転軸AX66に関する周方向に移動し、交番磁界が生成される。交番磁界の適切な形成のため、
図5に示すように周方向においてN極上向きの永久磁石69とS極上向きの永久磁石69が交互に配置される。永久磁石69の個数は任意に決定することができる。
【0020】
磁束は、N極から出てS極に向かう。磁性回転体6の回転によって磁性メディア2は、第1及び第2磁化状態の間を任意のタイミングで推移し得る。第1磁化状態において、磁性メディアの第1端がN極であり、その第2端がS極である。第2磁化状態において、磁性メディアの第1端がS極であり、その第2端がN極である。磁性メディアは、永久磁石69に磁気的に吸引されて周方向に流れ、また、その磁化状態の反転によって不規則に回転運動し得る。磁性メディア2が被めっき物1に衝突して被めっき物1が磁性回転体6の回転方向に流動する。磁化状態の反転に伴う磁性メディア2の不規則な回転運動によって被めっき物1がより均一に研磨される。
【0021】
めっき槽10の下方に磁性回転体6が配置される時、めっき槽10の槽内空間は、磁性回転体6の上方の空間を占める第1空間SP1と第1空間SP1以外の空間を占める第2空間SP2に区分される。磁性回転体6が横方向に移動するため、これに同調して第1空間SP1が移動する。第2空間SP2は、めっき槽10の槽内空間の全容積から第1空間SP1を差し引いた空間であり、第1空間SP1の移動に同調してめっき槽10の槽内空間における位置及び/又は範囲が変化する。言うまでもなく、第1空間SP1は、めっき槽10の槽内空間形状と、磁性回転体6の形状と、めっき槽10の槽内空間と磁性回転体6の相対的な配置関係に依存し、図示のものに限られない。
【0022】
回転力供給部65は、磁性回転体6に対して回転力を供給するように構成される。回転力供給部65の具体的な構成は任意であるが、直流又は交流電動機の採用が便利である。電動機のオン・オフ制御により研磨時間を制御することができ、電動機の回転子の回転速度の制御により研磨速度を制御することができる。図示例では、回転力供給部65は、電動モーター61を含み、その回転軸67に磁性回転体6が回転不能に軸着している。電動モーター61で生成される回転力が磁性回転体6に伝達し、磁性回転体6がその回転軸AX66を回転中心として回転する。磁性回転体6の回転速度は、適切な研磨速度が達成されるように当業者により決定される。電動モーター61で生成される回転力を無端ベルトを介して磁性回転体6に伝達する機構も想定される。
【0023】
必ずしもこの限りではないが、回転力供給部65は、移動機構M1によって横方向に動かされるべく設けられる。これによって磁性回転体6が横方向に動かされる。図示例では、回転力供給部65は、横方向に並走するガイドレールG1に実装されて支持される。ガイドレールG1は、不図示の筐体等により支持されている。ガイドレールG1の使用は必須ではなく、回転力供給部65に車輪を設けて床面上を移動可能としても良い。
【0024】
移動機構M1は、回転力供給部65(及び回転力供給部65を介して磁性回転体6)を横方向に動かすように構成される。図示例では、移動機構M1は、電動モーター61と、電動モーター61で生成される回転力を回転力供給部65の横方向の移動に変換するためのクランク機構を含む。クランク機構は、互いに枢動可能に連結した第1及び第2リンク62,63を含む。第1リンク62は、電動モーター61の回転軸61aに回転不能に軸着する第1端部と、第2リンク63に対して回転可能に軸着する第2端部を有する。第2リンク63は、第1リンク62に回転可能に軸着する第1端部と、回転力供給部65に回転可能に軸着する第2端部を有する。クランク機構の採用によって回転力供給部65の進行方向の反転が連続的に及び円滑に行われる。
【0025】
電動モーター61の回転軸61aの回転に応じて第1リンク62が時計回り又は反時計回りに回動する。第1リンク62の回動に応じて第2リンク63の姿勢が変化し、ガイドレールG1沿いの回転力供給部65の位置が変化する。回転力供給部65と一緒に磁性回転体6が横方向に移動する。図示例を含む幾つかの場合、電動モーター61の回転軸61aの180°の回転によって回転力供給部65がめっき槽10の第1端部16の直下の第1末端位置から第2端部17の直下の第2末端位置に移動する。電動モーター61の回転軸61aの更なる180°の回転によって回転力供給部65がめっき槽10の第2端部17の直下の第2末端位置から第1端部16の直下の第1末端位置に移動する。このような回転軸61aの回転の継続によって、回転力供給部65は、めっき槽10の第1端部16の直下の第1末端位置と第2端部17の直下の第2末端位置の間で往復運動する。回転力供給部65の回転軸61aに軸着した磁性回転体6についても同様であり、重複説明は省略する。
【0026】
上述のように、磁性回転体6は、磁性回転体6の回転軸AX66に交差する横方向に移動可能に設けられる。これによって、被めっき物1は、第1空間SP1において電解液中にある状態と第2空間SP2において電解液中にある状態の間で切り替え可能となる。第1空間SP1における電解液中では電気めっきよりも研磨が支配的である。他方、第2空間SP2における電解液中では研磨よりも電気めっきが支配的である。磁性回転体6の横方向の移動によって、被めっき物1に対する電気めっきと研磨が上手く両立できる。例えば、過剰な研磨によってめっき層の成長が阻害され過ぎることが回避又は抑制される。めっき槽10の槽内空間に第1及び第2空間SP1,SP2を割り当てることによって、より多くの被めっき物1に対して電気めっきすることも促進される。
【0027】
幾つかの場合、被めっき物1は、磁性回転体6の横方向の移動に応じて、第1空間SP1における電解液中で第1速度で電気めっきされる状態と第2空間SP2における電解液中で第1速度よりも大きい第2速度で電気めっきされる状態の間で切り替えられる。永久磁石69からの離間距離の二乗に比例して磁束密度が低下するため、第1空間SP1における電解液中での磁性メディア2による被めっき物1の研磨速度は、第2空間SP2における電解液中での磁性メディア2による被めっき物1の研磨速度よりも大きい。従って、第1空間SP1における電解液中での電気めっきの第1速度よりも第2空間SP2における電解液中での電気めっきの第2速度が大きくなる。なお、第1及び第2速度は、単位時間当たりに成膜されるめっき層の厚みとして表現され得る。被めっき物1は、第1空間SP1において電解液中にある状態と第2空間SP2において電解液中にある状態の間を何回も推移することが予期される。従って、被めっき物1上に形成されるめっき層の成膜速度は、第1速度と第2速度に応じた値、例えば、それらの平均値となり得る。第1空間SP1で電気めっきがほとんど進行しない、すなわち、第1速度≒0となる形態も想定される。
【0028】
第1空間SP1における電解液中では、磁性メディア2が被めっき物1に衝突することによって被めっき物1がめっき槽10の底部11から浮き上がってめっき槽10から絶縁される可能性が高い。もちろん、めっき槽10の底部11から浮き上がった被めっき物1は、その重力、又は、他の磁性メディア2や他の被めっき物1から受ける衝撃、又は、めっき槽10の電解液に生じる流れに応じて、めっき槽10の底部11又は周壁12に再び接触してめっき槽10に電気的に接続される可能性もある。
【0029】
磁性メディア2は、第1空間SP1における電解液中のみで運動するのではなく、第1空間SP1の周囲の第2空間SP2における電解液中でも運動する。しかしながら、永久磁石69からの離間距離の二乗に比例して磁束密度が低下するため、磁性メディア2の運動量(運動量=質量×速度)は、第1空間SP1よりも第2空間SP2において低下する。すなわち、磁性メディア2が被めっき物1に衝突することによって被めっき物1がめっき槽10の底部11から浮き上がる等によってめっき槽10から絶縁される可能性は、第1空間SP1よりも第2空間SP2において低くなる。例えば、磁性回転体6が第1末端位置(
図2)にある時、めっき槽10の第2端部17近傍に残留している被めっき物1は、磁性メディア2により研磨されず、ただ電気めっきされるのみである。被めっき物1が常に研磨されるか否かは、第1空間SP1に対する第2空間SP2の相対的な大きさに依存する。
【0030】
磁性メディア2の中には、磁性回転体6に磁気的に誘引されて横方向において磁性回転体6と同じ側に動く磁性メディア2が含まれる。被めっき物1の中には磁性メディア2から受ける衝撃によって同じ方向に動くものが含まれる。従って、磁性回転体6の移動に関わらず、被めっき物1の幾つかは、第1空間SP1における電解液中で研磨され続けることも想定される。しかしながら、被めっき物1が、第1空間SP1から脱しないことは想定していない。なぜなら、磁性メディア2は、交番磁界に晒されており、ランダムに運動するためである。磁性回転体6が横方向に動くとしても同じ方向に移動しない磁性メディア2及び被めっき物1があることは当然である。このような被めっき物1は、第1空間SP1における電解液中で研磨を受ける状態から第2空間SP2における電解液中であまり又は完全に研磨を受けない状態に推移し、過度な研磨から開放される。第1空間SP1を研磨空間と呼び、第2空間SP2を非研磨空間と呼ぶこともできる。
【0031】
図1乃至
図4を参照して第1空間SP1と第2空間SP2の変動についてより具体的に述べる。第1空間SP1と第2空間SP2の境界は、少なくとも部分的に、磁性回転体6の外周に対して設定された仮想面により画定される。図示例では、磁性回転体6が円形の外周を有する。仮想面は、磁性回転体6の円形の外周に等しい断面輪郭を有する中空円柱の外周面である。この仮想面は、めっき槽10の第1端部16側の第1領域V1と、めっき槽10の第2端部17側の第2領域V2に区分可能である。
図1及び
図2に示す時、仮想面の第2領域V2がめっき槽10の横壁12a,12bに交差し、仮想面の第2領域V2と湾曲壁12cの間で第1空間SP1が定められる。
図3及び
図4に示す時、仮想面の第1領域V1がめっき槽10の横壁12a,12bに交差し、仮想面の第1領域V1と湾曲壁12dの間で第1空間SP1が定められる。
【0032】
磁性回転体6が
図2に示す第1末端位置から
図4に示す第2末端位置に向けて移動するに応じて、仮想面の第2領域V2と湾曲壁12dの間の第2空間SP2が狭められる。また、この磁性回転体6の移動過程で、仮想面の第1領域V1が湾曲壁12c又は横壁12a,12bに交差し、第1領域V1と湾曲壁12cの間に新たな第2空間SP2が生成される。磁性回転体6の移動に応じた第2領域V2と湾曲壁12dの間の第2空間SP2の減少は、磁性回転体6の移動に応じた第1領域V1と湾曲壁12cの間の第2空間SP2の増加によって補償される。第2領域V2が湾曲壁12dを超えてめっき槽10外方まで移動すると、第2領域V2と湾曲壁12dの間の第2空間SP2が消滅する。
【0033】
磁性回転体6が
図4に示す第2末端位置から
図2に示す第1末端位置に向けて移動するに応じて、仮想面の第1領域V1と湾曲壁12cの間の第2空間SP2が狭められる。また、この磁性回転体6の移動過程で、仮想面の第2領域V2が湾曲壁12c又は横壁12a,12bに交差し、第2領域V2と湾曲壁12dの間に新たな第2空間SP2が生成される。磁性回転体6の移動に応じた第1領域V1と湾曲壁12cの間の第2空間SP2の減少は、磁性回転体6の移動に応じた第2領域V2と湾曲壁12dの間の第2空間SP2の増加によって補償される。第1領域V1が湾曲壁12cを超えてめっき槽10外方まで移動すると、第1領域V1と湾曲壁12cの間の第2空間SP2が消滅する。
【0034】
めっき槽10の底部11の底面は、第1空間SP1に対応する第1底面領域111と、第2空間SP2に対応する第2底面領域112に区分可能である。第1底面領域111は、第1空間SP1と同様、磁性回転体6の横方向の移動に応じて移動する。第2底面領域112の位置及び範囲は、第2空間SP2と同様、磁性回転体6の横方向の移動に応じて変化する。有利には、第2底面領域112の面積は、第1底面領域111の面積(例えば、その最大面積)よりも大きい。これによって、被めっき物1が磁性メディア2により過度に研磨され、めっき層の成長が過度に妨げられることが回避又は抑制される。
【0035】
磁性回転体6は、当該磁性回転体6の外周部が横方向においてめっき槽10から突出する位置に到達するまで横方向沿いに動かされる。これによって、めっき槽10において研磨のデッドスペースが生成されることが抑制される。必ずしもこの限りではないが、磁性回転体6の永久磁石69がめっき槽10とオーバーラップしない位置まで動かされ得る(
図2及び
図4参照)。永久磁石69は、めっき槽10の周壁12、例えば、横壁12a,12b及び湾曲壁12c,12dの直下を移動する。めっき槽10の第1及び第2端部16,17の周壁12を(例えば、湾曲壁12c,12dの如く弧状に)湾曲させると良い。めっき槽10の長手方向の端部において被めっき物1が滞留し、電気めっき及び研磨が不十分になることが回避又は抑制される。
【0036】
最後に
図7のフローチャートを参照してめっき物の製造方法について説明する。まず、めっき槽10に貯留された電解液に被めっき物1と磁性メディア2を投入する(S1)。次に受容部22に受容された電解液中の金属塊23(すなわち、陽極)とめっき槽10を直流電源E1に接続し、めっき槽10に対して電気的に接続された被めっき物1を電気めっきする(S2)。次に、回転力供給部65を作動させて磁性回転体6を回転させる(S3)。磁気的吸引力及び磁気的反発力に応じて電解液中の磁性メディア2が運動する。次に、移動機構M1を作動させて磁性回転体6を動かす(S4)。被めっき物1は、第1空間SP1において電解液中にある状態と第2空間SP2において電解液中にある状態の間を推移する。端的には、被めっき物1は、第1空間SP1における電解液中で第1速度で電気めっきされる状態と第2空間SP2における電解液中で第1速度よりも大きい第2速度で電気めっきされる状態の間を推移する。工程S1,S2,S3,S4は、順不同で行われる。S4,S3,S2,S1の順番、S3,S4,S1,S2の順番も可能である。
【0037】
所定時間経過すると、被めっき物1の表面上に十分な膜厚のめっき層が形成される。従って、電気めっきのための通電を停止し(S5)、磁性回転体6の回転を停止し(S6)、磁性回転体6の移動を停止する(S7)。電気めっきと研磨が同時に行われるため、密着性の高い緻密なめっき層が形成され、またその表面も滑らかである。S5~S7は、S2~S4と同じく順不同である。
【0038】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。横方向は、直線方向に限らず、湾曲した方向でも良い。めっき槽は、その全体が導電性を有するものに限られない。絶縁性の槽本体の内壁面に導電性皮膜を形成してめっき槽を導電性としても良い。
【符号の説明】
【0039】
1 被めっき物
2 磁性メディア
6 磁性回転体
10 めっき槽
100 電気めっき装置
SP1 第1空間
SP2 第2空間