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特許7196367複合シート及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに、パワーデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】複合シート及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに、パワーデバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20221219BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20221219BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20221219BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20221219BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B37/02 Z
C04B35/596
B32B15/04 B
H01L23/36 C
H01L23/36 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022542719
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035574
(87)【国際公開番号】W WO2022071293
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020163281
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】和久田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真也
(72)【発明者】
【氏名】山口 智也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111978(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196496(WO,A1)
【文献】特開2001-240476(JP,A)
【文献】特開2020-033451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10
B28B 1/00-1/54
B28B 11/00-11/24
B32B 15/04-15/12
C04B 41/83
H01L 23/36-23/373
H05K 1/03-1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体と、
前記セラミックス焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含み、
前記樹脂の硬化率が10~70%であり、
前記セラミックス焼結体が切断面を有しない、複合シート。
【請求項2】
前記樹脂の充填率が85~100体積%である、請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
前記セラミックス焼結体が有する前記気孔の平均細孔径が0.2~10μmである、請求項1又は2に記載の複合シート。
【請求項4】
前記セラミックス焼結体が窒化物焼結体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合シートと金属シートとが積層されている、積層体。
【請求項6】
厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸して樹脂組成物含浸体を得る含浸工程と、
前記樹脂組成物含浸体を70~160℃で加熱して前記気孔に充填された前記樹脂組成物を半硬化する硬化工程と、を有し、
前記含浸工程における前記樹脂組成物の硬化率が5~65%である、複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記硬化工程は、前記気孔に充填された前記樹脂組成物の硬化率が10~70%となるように半硬化する工程である、請求項6に記載の複合シートの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂の充填率が85~100体積%である、請求項6又は7に記載の複合シートの製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス焼結体が有する前記気孔の平均細孔径が0.2~10μmである、請求項6~8のいずれか一項に記載の複合シートの製造方法。
【請求項10】
前記セラミックス焼結体が窒化物焼結体である、請求項6~9のいずれか一項に記載の複合シートの製造方法。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか一項に記載の製造方法で得られた複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合シートと、前記複合シートに積層された金属シートと、を有する積層体を備える、パワーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合シート及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに、パワーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、放熱部材として、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体が用いられる。
【0003】
このような複合体として、多孔性のセラミックス焼結体(例えば、窒化ホウ素焼結体)に樹脂を含浸、複合化させた複合体が検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、金属回路と樹脂含浸窒化ホウ素焼結体とを有する積層体において、窒化ホウ素焼結体を構成する一次粒子と金属回路とを直接接触させて、積層体の熱抵抗を低減し、放熱性を改善することも検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/196496号
【文献】特開2016-103611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような樹脂を含浸させて複合体として用いるセラミックス焼結体は、一般に、原料粉末をブロック状に成形し、更に焼結させたものが用いられている。そして、樹脂を含浸させて複合化させた後に、所望の厚みのシートに切り出すことで複合シートとする。当該複合シートを金属回路等と接続することで積層体が製造されている。近年、歩留まり等を向上させる観点から、薄く焼き上げたセラミックス焼結体のシートを予め調製し、得られた焼結体シートに対して樹脂を含浸させて複合シートを製造することが検討されている。
【0006】
本発明者らは上述のように製造される複合シートを用いた積層体では、十分な放熱性を発揮しない場合があることが見いだした。
【0007】
そこで、本開示は、接着性及び放熱性に優れる積層体を製造可能な複合シート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本開示は、上述のような複合シートを用いることで、接着性及び放熱性に優れる積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、放熱性に優れるパワーデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のような課題に対して、本発明者らが鋭意検討したところ、あらかじめ薄く調製されたセラミックス焼結体に対して樹脂を含浸させることで製造された複合シートにおいては、従前のブロック状の複合体から切り出された複合シートとは異なり、複合シートの表面において樹脂による層が形成されることがあり、この樹脂の硬化率が高い場合には、金属回路との金属回路との接続の際にセラミックス焼結体と金属回路とが充分な接触を得ることができず、接触熱抵抗が上昇する傾向にあることを見出した。本開示は当該知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本開示の一側面は、厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体と、上記セラミックス焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含み、上記樹脂の硬化率が10~70%である、複合シートを提供する。
【0010】
上記複合シートは、比較的薄い、多孔質のセラミックス焼結体で構成されるものの、複合シートを構成する樹脂の硬化率が所定の範囲となるように調整されているため、金属回路と接着した場合に、金属回路がセラミックス焼結体と十分な接触を獲得することが可能であり、接触熱抵抗を低減できることから、放熱性に優れる積層体を調製できる。
【0011】
上記樹脂の充填率が85~100体積%であってよい。
【0012】
上記セラミック焼結体が有する前記気孔の平均細孔径が0.2~10μmであってよい。気孔の平均細孔径が上記範囲内であることによって、金属回路と接着する際の樹脂のしみ出し量を適度なものとし、接着性の低下も抑制できる。
【0013】
上記セラミックス焼結体が窒化物焼結体であってよい。
【0014】
本開示の一側面は、上述の複合シートと金属シートとが積層されている、積層体を提供する。
【0015】
上記積層体は、上述の複合シートを備えることから、複合シートと金属シートとが十分に接触することが可能であり、接触熱抵抗を低減できるため、放熱性に優れる。
【0016】
本開示の一側面は、厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸して樹脂組成物含浸体を得る含浸工程と、上記樹脂組成物含浸体を70~160℃で加熱して上記気孔に充填された上記樹脂組成物を半硬化する硬化工程と、を有し、上記含浸工程における上記樹脂組成物の硬化率が5~65%である、複合シートの製造方法を提供する。
【0017】
上記複合シートの製造方法では、厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体を用いるとともに、所定の硬化率の樹脂組成物を用いていることから、セラミックス焼結体の気孔に樹脂組成物を十分に含浸することができ、上記特定の条件で半硬化させることによって、金属回路と接着した場合に、金属回路がセラミックス焼結体と十分な接触を獲得することが可能であり、接触抵抗を低減可能な複合シートを得ることができる。
【0018】
上記硬化工程は、上記気孔に充填された上記樹脂組成物の硬化率が10~70%となるように半硬化する工程であってよい。
【0019】
上記樹脂の充填率が85~100体積%であってよい。
【0020】
上記セラミックス焼結体が有する上記気孔の平均細孔径が0.2~10μmであってよい。
【0021】
上記セラミックス焼結体が窒化物焼結体であってよい。
【0022】
本開示の一側面は、上述の製造方法で得られた複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法を提供する。
【0023】
上記積層体の製造方法は、上述の複合シートを用いることから、複合シートと金属シートとの接着面において、金属シートと複合シートを構成するセラミックス焼結体との接触を十分に図ることができ、接触抵抗を低減可能であり、放熱性に優れる積層体を製造することができる。
【0024】
本開示の一側面は、上述の複合シートと、上記複合シートに積層された金属シートと、を有する積層体を備える、パワーデバイスを提供する。
【0025】
上記パワーデバイスは、上述の複合シートを備えることから、放熱性に優れたものとなり得る。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、接着性及び放熱性に優れる積層体を製造可能な複合シート及びその製造方法を提供できる。また、本開示によればまた、上述のような複合シートを用いることで、接着性及び放熱性に優れる積層体及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、放熱性に優れるパワーデバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、複合シートの一例を示す斜視図である。
図2図2は、積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0029】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0030】
複合シートの一実施形態は、厚みが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体と、上記セラミックス焼結体の気孔に充填されている樹脂と、を含む。上記樹脂の硬化率が10~70%である。
【0031】
図1は、複合シート10の一例を示す斜視図である。複合シート10は、厚みtが2mm未満である多孔質のセラミックス焼結体20と、セラミックス焼結体20の気孔に充填されている樹脂と、を含む。セラミックス焼結体20は、例えば、窒化物焼結体であってよい。窒化物焼結体は、窒化物の一次粒子同士が焼結して構成される窒化物粒子と気孔とを含有する。
【0032】
本開示における「樹脂」は、主剤及び硬化剤を含む樹脂組成物の半硬化物(Bステージ)である。半硬化物は、樹脂組成物の硬化反応が一部進行したものである。したがって、樹脂は、樹脂組成物中の主剤及び硬化剤が反応して生成する熱硬化性樹脂等を含んでもよい。上記半硬化物は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂に加えて主剤及び硬化剤等のモノマーを含んでもよい。複合シートに含まれる樹脂が完全硬化(Cステージ)前の半硬化物(Bステージ)であることは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。
【0033】
樹脂の硬化の程度は、例えば、完全硬化の状態となったときの硬化率を100%とする樹脂組成物の硬化率を指標として確認できる。樹脂の硬化率は10~70%である。樹脂の硬化率の上限値は、例えば、68%以下、65%以下、63%以下、60%以下、50%以下、又は45%以下であってよい。樹脂の硬化率が上記範囲内であると、複合シートと金属シートとを接着する際にも樹脂が適度に軟化し移動できることから、複合シートを構成するセラミックス焼結体と金属シートとの接触を確保することができ、得られる積層体における複合シートと金属シートとの界面における接触抵抗を低減することができる。また樹脂の硬化率の下限値は、例えば、12%以上、13%以上、15%以上、17%以上、又は20%以上であってよい。樹脂の硬化率が上記範囲内であると、樹脂が複合シートから流れ出すことを抑制し、樹脂をセラミックス焼結体の気孔内に十分に保持することができる。
【0034】
樹脂組成物の硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定することができる。まず、未硬化の状態の樹脂組成物1gを完全に硬化させた際に生じる発熱量Qを測定する。そして、複合シートが備える樹脂から採取したサンプルを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる発熱量Rを求める。このとき、示差走査熱量計による測定に使用するサンプルの質量は、発熱量Qの測定に用いた樹脂組成物と同一とする。樹脂中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとすると、下記式(A)によって複合シートに含浸している樹脂組成物の硬化率が求められる。なお、樹脂が完全に硬化したか否かは、示差走査熱量測定によって得られる発熱曲線において、発熱が終了することで確認することができる。
含浸されている樹脂組成物の硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100・・・(A)
【0035】
樹脂組成物の半硬化物は、例えば、シアネート基に由来する構造単位、ビスマレイミド基に由来する構造単位、及びエポキシ基に由来する構造単位からなる群より選択される少なくとも1種の構造単位を有してよい。樹脂組成物の半硬化物が、シアネート基に由来する構造単位、ビスマレイミド基に由来する構造単位、及びエポキシ基に由来する構造単位を有することによって、複合シートの製造が容易になると共に、複合シートと金属シートとの接着性をより向上させることができる。
【0036】
シアネート基を有する構造単位としては、例えば、トリアジン環等が挙げられる。ビスマレイミド基に由来する構造単位としては、例えば、下記式(1)で示される構造等が挙げられる。エポキシ基に由来する構造単位としては、例えば、下記一般式(2)で示される構造等が挙げられる。これらの構造単位は、赤外線吸収スペクトル法(IR)を用いて検出することができる。プロトン核磁気共鳴分光法(H-NMR)及び炭素-13核磁気共鳴分光法(13C-NMR)を用いて検出することができる。上述の構造単位は、IR、又はH-NMR及び13C-NMRのいずれかで検出できればよい。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
上記一般式(2)において、Rは、水素原子又はその他の官能基を示す。その他の官能基としては、例えば、アルキル基等であってよい。
【0040】
上記半硬化物は、熱硬化性樹脂として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。上記半硬化物は、上記熱硬化性樹脂の他に、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等を含有してもよい。
【0041】
上記半硬化物は、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤を含有してもよい。上記半硬化物は、これらの硬化剤によって、樹脂組成物が含有する重合性化合物(例えば、シアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物等)が硬化され形成された硬化物であってよい。
【0042】
複合シート10における樹脂の充填率は、例えば、85~100体積%であってよい。樹脂の充填率が上記範囲内であることで、加熱及び加圧に金属シートと接着する際、樹脂成分のしみ出しを十分に多くすることができ、本実施形態の複合シートはより優れた接着性を有する。接着性を一層高くする観点から、樹脂の充填率の下限値は、88体積%以上であってよく、90体積%以上であってよく、92体積%以上であってもよく、94体積%以上であってもよい。
【0043】
複合シート10における樹脂の体積比率は、複合シート10の全体積を基準として、30~60体積%であってよく、35~55体積%であってもよい。複合シート10におけるセラミックス焼結体20を構成するセラミックス粒子の体積比率は、複合シート10の全体積を基準として、40~70体積%であってよく、45~65体積%であってもよい。このような体積比率の複合シート10は、優れた接着性と強度を高水準で両立することができる。
【0044】
セラミックス焼結体20の気孔の平均細孔径は、例えば、10μm以下、8μm以下、5μm以下、4μm以下、又は3.5μm以下であってよい。このようなセラミックス焼結体20は、気孔のサイズが小さいことから、セラミックス粒子の粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を高くすることができる。セラミックス焼結体20の気孔の平均細孔径は、例えば、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、又は1.5μm以上であってもよい。このようなセラミックス焼結体20は、接着する際に加圧すると十分に変形できるため、樹脂成分のしみ出し量を多くすることができる。このため、接着性を一層向上することができる。
【0045】
セラミックス焼結体20の気孔の平均細孔径は、以下の手順で測定することができる。まず、複合シート10を加熱して樹脂を除去する。そして、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながらセラミックス焼結体20を加圧したときの細孔径分布を求める。横軸を細孔径、縦軸を累積細孔容積としたときに、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径が平均細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。
【0046】
セラミックス焼結体20の気孔率、すなわち、セラミックス焼結体20における気孔の体積の比率は、30~65体積%であってよく、35~55体積%であってよい。気孔率が大きくなり過ぎるとセラミックス焼結体の強度が低下する傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると複合シート10が他部材と接着される際にしみ出す樹脂が少なくなる傾向にある。
【0047】
気孔率は、セラミックス焼結体20の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m)]を算出し、このかさ密度とセラミックスの理論密度[A(kg/m)]とから、下記式(1)によって求めることができる。セラミックス焼結体20が窒化物焼結体の例では、窒化物として、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、又は窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。窒化ホウ素の場合、理論密度Aは2280kg/mである。窒化アルミニウムの場合、理論密度Aは3260kg/mである。窒化ケイ素の場合、理論密度Aは3170kg/mである。
気孔率(体積%)=[1-(B/A)]×100 (1)
【0048】
セラミックス焼結体20が窒化ホウ素焼結体である場合、かさ密度Bは、800~1500kg/mであってよく、1000~1400kg/mであってもよい。かさ密度Bが小さくなり過ぎるとセラミックス焼結体20の強度が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが大きくなり過ぎると樹脂の充填量が減少して複合シート10が他部材と接着される際にしみ出す樹脂が少なくなる傾向にある。
【0049】
セラミックス焼結体20の厚みtは、2mm未満であってよく、1.6mm未満であってもよい。このような厚みを有するセラミックス焼結体20であることで、気孔への樹脂の充填がより容易なものとなり、充填率に優れる複合シートをより容易に調製することができる。したがって、複合シート10の小型化が可能であるとともに、複合シート10の接着性を向上することができる。このような複合シート10は、半導体装置の部品として好適に用いられる。セラミックス焼結体20作製の容易性の観点から、セラミックス焼結体20の厚みtは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。
【0050】
複合シート10の厚みは、セラミックス焼結体20の厚みtと同じであってもよいし、セラミックス焼結体20の厚みtよりも大きくてもよい。複合シート10の厚みは、2mm未満であってよく、1.6mm未満であってもよい。複合シート10の厚みは、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。複合シート10の厚みは、主面10a,10bに直交する方向に沿って測定される。複合シート10の厚みが一定ではない場合、任意の10箇所を選択して厚みの測定を行い、その平均値が上述の範囲であればよい。セラミックス焼結体20の厚みが一定でない場合も、任意の10箇所を選択して厚みの測定を行い、その平均値が厚みtとなる。複合シート10の主面10a,10bのサイズは特に限定はなく、例えば、500mm以上であってよく、800mm以上であってよく、1000mm以上であってもよい。
【0051】
複合シート10の主面10a及び主面10bは切断面ではないことが好ましい。これによって、主面10a及び主面10bに露出するセラミックス焼結体20の割合を低減し、樹脂による被覆率を十分に高くすることができる。その結果、主面10a及び主面10bに積層される他部材との接着性を向上することができる。本実施形態の複合シート10は、樹脂の硬化率が所定の範囲内となるように調整されていることから、複合シート10の表面が樹脂に被覆されている場合であっても、金属シートとの接着の際の加熱によって樹脂が軟化し移動できるため、金属シートと、セラミックス焼結体との接触を十分に得ることがき、得られる積層体における金属シートと複合シートとの界面の接触熱抵抗を抑制できる。これによって、他部材等との接着性及び放熱性を一層向上することができる。
【0052】
本実施形態の複合シート10の主面10a,主面10bは四角形であったが、このような形状に限定されない。例えば、主面は四角形以外の多角形であってもよいし、円形であってもよい。また、角部が面取りされた形状であってもよいし、一部を切り欠いた形状であってもよい。また、厚さ方向に貫通する貫通孔を有していてもよい。
【0053】
図2は、積層体の一例を厚さ方向に切断したときの断面図である。積層体100は、複合シート10と、複合シート10の主面10aに接着されている金属シート30と、複合シート10の主面10bに接着されている金属シート40とを備える。金属シート30,40は、金属板であってよく、金属箔であってもよい。金属シート30,40の材質は、アルミニウム、及び銅等が挙げられる。金属シート30,40の材質及び厚みは互いに同じであってよく、異なっていてもよい。また、金属シート30,40の両方備えることは必須ではなく、積層体100の変形例では、金属シート30,40の一方のみを備えていてもよい。
【0054】
積層体100は、本開示の趣旨に反しない範囲で、複合シート10と金属シート30,40の間に樹脂層を有していてもよい。この樹脂層は、複合シート10からしみ出した樹脂が硬化して形成されたものであってよい。積層体100における複合シート10と金属シート30,40とは、しみ出した樹脂によって十分強固に接着されていることから接着性に優れる。また積層体100は、樹脂の硬化率が所定の範囲内である複合シート(Bステージシート)を用いて製造されることから、セラミックス焼結体と金属シートとの接触が十分なものとなり、セラミックス焼結体と金属シートとの界面による接触熱抵抗が低く抑制されており、放熱性にも優れる。このような積層体は、薄型であるうえに接着性及び放熱性に優れるため、例えば放熱部材として、半導体装置等に好適に用いることができる。
【0055】
複合シートの製造方法の一実施形態は、多孔質のセラミックス焼結体を調製する焼結工程と、厚みが2mm未満であるセラミックス焼結体の気孔に樹脂組成物を含浸して樹脂組成物含浸体を得る含浸工程と、樹脂組成物含浸体を70~160℃で加熱して気孔に充填された樹脂組成物を半硬化する硬化工程と、を有する。以下、セラミックス焼結体が、窒化物焼結体の例で説明する。
【0056】
焼結工程で用いる原料粉末は、窒化物を含む。原料粉末に含まれる窒化物は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよい。窒化ホウ素を含有する場合、窒化ホウ素は、アモルファス状の窒化ホウ素であってよく、六方晶状の窒化ホウ素であってもよい。セラミックス焼結体20として窒化ホウ素焼結体を調製する場合、原料粉末として、例えば、平均粒径が0.5~10μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末、又は、平均粒径が3.0~40μmである六方晶窒化ホウ素粉末を用いることができる。
【0057】
焼結工程では、窒化物粉末を含む配合物を成形して焼結し窒化物焼結体を得てもよい。成形は、一軸加圧で行ってよく、冷間等方加圧(CIP)法で行ってもよい。成形の前に、焼結助剤を配合して配合物を得てもよい。焼結助剤としては、例えば、酸化イットリウム、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等が挙げられる。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の配合量は、例えば、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の配合量は、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。焼結助剤の添加量を上記範囲内とすることで、窒化物焼結体の平均細孔径を後述の範囲に調整し易くなる。
【0058】
配合物は、例えば、ドクターブレード法によってシート状の成形体としてよい。成形方法は特に限定されず、金型を用いてプレス成形を行って成形体としてもよい。成形圧力は、例えば5~350MPaであってよい。成形体の形状は、厚さが2mm未満のシート状であってよい。このようなシート状の成形体を用いて窒化物焼結体を製造すれば、窒化物焼結体を切断することなく、厚さが2mm未満のシート状の複合シートを製造することができる。また、ブロック状の窒化物焼結体を切断してシート状とする場合に比べて、成形体の段階からシート状にすることによって、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、高い歩留まりで複合シートを製造することができる。
【0059】
焼結工程の焼結温度は、例えば、1600℃以上であってよく、1700℃以上であってもよい。焼結温度は、例えば、2200℃以下であってよく、2000℃以下であってもよい。焼結時間は、例えば、1時間以上であってよく、30時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0060】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び大形連続炉等を挙げることができる。このようにして、窒化物焼結体を得ることができる。窒化物焼結体はブロック状であってよい。
【0061】
窒化物焼結体がブロック状である場合、2mm未満の厚さとなるように加工する切断工程を行う。切断工程では、窒化物焼結体を、例えばワイヤーソーを用いて切断する。ワイヤーソーは、例えば、マルチカットワイヤーソー等であってよい。このような切断工程によって、例えば厚みが2mm未満のシート状の窒化物焼結体を得ることができる。このようにして得られる窒化物焼結体は切断面を有する。
【0062】
窒化物焼結体の切断工程を行うと、切断面に、微細なクラックが生じ得る。一方、窒化物焼結体の切断工程を経ずに得られる複合シートは、切断面を有しないため、微細なクラックを十分に低減することができる。したがって、窒化物焼結体の切断工程を経ずに得られる複合シートは、十分に高い強度を維持しつつ、絶縁性及び熱伝導性を十分に向上することができる。すなわち、電子部品等の部材としての信頼性に優れる。また、切断等の加工を行うと、材料ロスが発生する。このため、窒化物焼結体の切断面を有しない複合シートは、材料ロスを低減することができる。これによって、窒化物焼結体及び複合シートの歩留まりを向上することができる。
【0063】
含浸工程では、厚みが2mm未満であるセラミックス焼結体20の気孔に樹脂組成物を含浸して樹脂組成物含浸体を得る。この際の含浸する樹脂組成物の硬化率は、5~65%である。窒化物焼結体(セラミックス焼結体20)は、厚みが2mm未満のシート状であるため、樹脂組成物が内部にまで含浸されやすい。また、窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の硬化率を所定の範囲にすることによって、含浸に適し、樹脂の充填率を十分に高くすることができると共に、得られる複合シートにおける樹脂の硬化率の調整を容易に行うことができる。
【0064】
窒化物焼結体に樹脂組成物を含浸する際の温度T1は、例えば、樹脂組成物を半硬化する温度T2とした場合に、温度T3(=T2-20℃)以上、且つ温度T4(=T2+20℃)未満であってよい。温度T3は、例えば、80~160℃であってよい。窒化物焼結体への樹脂組成物の含浸は、加圧下で行ってよく、減圧下で行ってもよく、大気圧下で行ってもよい。含浸する方法は特に限定されず、樹脂組成物中に窒化物焼結体を浸漬してもよいし、窒化物焼結体の表面に樹脂組成物を塗布することで行ってもよい。
【0065】
樹脂組成物の硬化率が適度な範囲であることによって、窒化物焼結体に十分に樹脂を充填することができる。樹脂の充填率は、例えば、85~100体積%であってよく、樹脂の充填率の下限値は、例えば、88体積%以上であってよく、90体積%以上であってよく、92体積%以上であってもよく、94体積%以上であってもよい。
【0066】
含浸工程は、減圧条件下、加圧条件下、又は大気圧下のいずれの条件下で行ってもよく、減圧条件下での含浸、加圧条件下での含浸、及び大気圧下での含浸の2以上を組み合わせて行ってもよい。減圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1000Pa以下、500Pa以下、100Pa以下、50Pa以下、又は20Pa以下であってよい。加圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。
【0067】
窒化物焼結体における気孔の細孔径を調整することによって、毛細管現象による樹脂組成物の含浸を促進することもできる。このような観点から、窒化物焼結体の平均細孔径は0.2~10μmであってよく、1~8μmであってもよい。
【0068】
樹脂組成物は、例えば、硬化又は半硬化反応によって上述の複合シートの説明で挙げた樹脂となるものを用いることができる。樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤の配合量を変えることで樹脂組成物の粘度を調整してもよいし、硬化反応を一部進行させて樹脂組成物の粘度を調整してもよい。溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン、トルエン、キシレン等の炭化水素が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0069】
樹脂組成物は、熱硬化性であってよく、例えば、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、硬化剤と、を含有してよい。
【0070】
シアネート基を有する化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、及びビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TACN(三菱ガス化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0071】
ビスマレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、及び4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミドは、例えば、BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0072】
エポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。例えば、HP-4032D(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン等であってもよい。
【0073】
硬化剤は、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤を含有してもよい。ホスフィン系硬化剤はシアネート基を有する化合物又はシアネート樹脂の三量化によるトリアジン生成反応を促進し得る。
【0074】
ホスフィン系硬化剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレートは、例えば、TPP-MK(北興化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0075】
イミダゾール系硬化剤はオキサゾリンを生成し、エポキシ基を有する化合物又はエポキシ樹脂の硬化反応を促進する。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾールは、例えば、2E4MZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0076】
ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、5質量部以下、4質量部以下又は3質量部以下であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上又は0.5質量部以上であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物含浸体の調製が容易であり、かつ、樹脂組成物含浸体から切り出される複合シートの他部材への接着に要する時間をより短縮することができる。
【0077】
イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以下、0.05質量部以下又は0.03質量部以下であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上又は0.005質量部以上であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物含浸体の調製が容易であり、かつ、樹脂組成物含浸体から切り出される複合シートの用いた被着体への接着に要する時間をより短縮することができる。
【0078】
樹脂組成物は、主剤及び硬化剤とは別の成分を含んでよい。その他の成分としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、並びに湿潤分散剤等を更に含んでもよい。これらのその他の成分の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、例えば、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0079】
含浸工程の後に、気孔内に含浸した樹脂組成物を半硬化させる硬化工程を有する。硬化工程は、上記気孔に充填されたうえ記樹脂組成物の硬化率が10~70%となるように半硬化する工程であってよい。硬化工程では、樹脂組成物(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射によって、樹脂組成物を半硬化させる。「半硬化」(Bステージともいう)とは、その後の硬化処理によって、更に硬化させることができるものをいう。半硬化の状態であることを利用し金属シート等の他部材と仮圧着して、その後加熱することによって複合シートと金属シートを接着してもよい。半硬化物にさらに硬化処理を施すことで「完全硬化」(Cステージともいう)の状態となる。
【0080】
硬化工程において、加熱によって樹脂組成物を半硬化させる場合の加熱温度は、例えば70~160℃であってよい。樹脂組成物の半硬化によって得られる半硬化物は、樹脂成分として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂、並びに硬化剤を含有してよい。半硬化物は、樹脂成分として、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。
【0081】
このようにして得られた複合シートは、例えば、2mm以下の厚みを有する。このため、薄型且つ軽量であり、半導体装置等の部品として用いられたときに装置の小型化及び軽量化を図ることができる。また、窒化物焼結体の気孔に樹脂が十分に充填されていることから、接着性のみならず、熱伝導性及び絶縁性にも優れる。また、上述の製造方法では、窒化物焼結体を切断することなく複合シートを製造することができる。したがって、信頼性に優れる複合シートを高い歩留まりで製造することができる。なお、複合シートに金属シートを積層して積層体とするほか、そのまま放熱部材として用いることもできる。
【0082】
積層体の製造方法の一実施形態は、複合シートと金属シートとを積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する。複合シートは上述の製造方法で製造することができる。金属シートは、金属板であってよく、金属箔であってもよい。
【0083】
積層工程では、複合シートの主面上に金属シートを配置する。複合シートと金属シートの主面同士を接触させた状態で、主面同士が対向する方向に加圧するとともに、加熱する。なお、加圧と加熱は必ずしも同時に行う必要はなく、加圧して圧着した後に加熱してもよい。加圧圧力は例えば2~10MPaであってよい。このときの加熱温度T5は、樹脂組成物が半硬化する温度をT2としたときに、T2+20℃以上であってよく、T2+40℃以上であってもよい。これによって、複合シートを構成する樹脂を軟化させ、セラミックス焼結体と金属シートとの接触を十分なものとすることができ、且つ複合シートからしみ出した樹脂組成物を複合シートと金属シートの界面で硬化させ、両者を強固に接着することができる。硬化した硬化物の分解を抑制する観点から、加熱温度T5は、T2+150℃以下であってよく、T2+100℃以下であってもよい。
【0084】
このようにして得られた積層体は、半導体装置、及びパワーデバイス等の製造に用いることができる。一方の金属シート上に半導体素子を設けてもよい。他方の金属シートは冷却フィンと接合されてもよい。
【0085】
パワーデバイスの一実施形態は、上述の複合シートと、上記複合シートに積層された金属シートと、を有する積層体を備える。
【0086】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0087】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
<窒化物焼結体(セラミックス焼結体)の作製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(BC)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。
【0089】
調製した粉砕粉を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得た。
【0090】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを50.0質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが17.5原子%であった。焼成物100質量部に対して焼結助剤を20質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を調製した。
【0091】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.30mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(四角柱状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは0.31mmであった。
【0092】
<平均細孔径の測定>
得られた窒化ホウ素焼結体について、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーター(装置名:オートポアIV9500)を用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増加しながら細孔容積分布を測定した。積算細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径を、「平均細孔径」とした。結果を表1に示す。
【0093】
<複合シートの作製>
市販のビスマレイミド(BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)10質量部エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)29.5質量部、及び市販のシアネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、商品名:TACN)60質量部に対し、市販の硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-84B)を0.5質量部配合して、樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を120℃で11時間加熱し、硬化率を64%に調整した。硬化率13%の樹脂組成物を、その温度を維持したまま、160℃に加熱された窒化ホウ素焼結体の主面に滴下した。大気圧下、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下した樹脂組成物をシリコンゴム製のヘラを用いて塗り伸ばし、主面全体に樹脂組成物を塗り広げて樹脂組成物含浸体を得た。
【0094】
樹脂組成物含浸体を、大気圧下、160℃で5分間加熱して樹脂組成物を半硬化させた。このようにして、四角柱状の複合シート(縦×横×厚さ=縦×横×厚み=50mm×50mm×0.31mm)を作製した。
【0095】
上記半硬化物に含まれている樹脂組成物の硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定した。まず、未硬化の状態の樹脂組成物1gを完全に硬化させた際に生じる発熱量Qを測定した。そして、複合体が備える半硬化物から採取したサンプルを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる発熱量Rを求めた。このとき、示差走査熱量計による測定に使用するサンプルの質量は、発熱量Qの測定に用いた樹脂組成物と同一とした。半硬化物中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとすると、下記式(A)によって複合体に含浸している樹脂組成物の硬化率が求められる。実施例1における含浸されている樹脂組成物の硬化率は45%であった。
含浸されている樹脂組成物の硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100・・・(A)
【0096】
<樹脂(半硬化物)の充填率の測定>
複合シートに含まれる樹脂の充填率を、以下の式(3)によって求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0097】
複合シートにおける樹脂の充填率(体積%)={(複合シートのかさ密度-窒化ホウ素焼結体のかさ密度)/(複合シートの理論密度-窒化ホウ素焼結体のかさ密度)}×100 …(3)
【0098】
窒化ホウ素焼結体及び複合シートのかさ密度は、JIS Z 8807:2012の「幾何学的測定による密度及び比重の測定方法」に準拠し、窒化ホウ素焼結体又は複合シートの各辺の長さ(ノギスにより測定)から計算した体積と、電子天秤により測定した窒化ホウ素焼結体又は複合シートの質量に基づいて求めた(JIS Z 8807:2012の9項参照)。複合シートの理論密度は、下記式(4)によって求めた。
【0099】
複合シートの理論密度=窒化ホウ素焼結体の真密度+樹脂の真密度×(1-窒化ホウ素焼結体のかさ密度/窒化ホウ素の真密度) … (4)
【0100】
窒化ホウ素焼結体及び樹脂の真密度は、JIS Z 8807:2012の「気体置換法による密度及び比重の測定方法」に準拠し、乾式自動密度計を用いて測定した窒化ホウ素焼結体及び樹脂の体積及び質量より求めた(JIS Z 8807:2012の11項の式(14)~(17)参照)。
【0101】
<積層体の作製>
シート状の銅箔(縦×横×厚み=100mm×20mm×0.035mm)と、シート状の銅板(縦×横×厚み=100mm×20mm×1mm)との間に、上述の複合シート(縦×横×厚み=50mm×20mm×0.31mm)を配置して、銅箔、複合シート及び銅板をこの順に備える積層体を作製した。当該積層体を200℃及び5MPaの条件下で5分間加熱及び加圧した後、200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱処理した。これによって積層体を得た。
【0102】
<接着性(接着強度)の評価>
上述の処理を施したのち、JIS K 6854-1:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法」に準拠して、90°はく離試験を、万能試験機(株式会社エーアンドディ製、商品名:RTG-1310)を用いて実施した。なお、はく離はシート状の銅箔と複合シートの接着界面において行った。試験速度:50mm/min、ロードセル:5kN、測定温度:室温(20℃)の条件で測定を行って、はく離面における凝集破壊部分の面積比率を測定した。測定結果から、以下の基準で接着性を評価した。結果を表1に示す。なお、凝集破壊部分とは、複合シートが破壊した部分の面積であり、この面積比率が大きい方が接着性に優れることを示している。
A:凝集破壊部分の面積比率が70面積%以上である。
B:凝集破壊部分の面積比率が50面積%以上70面積%未満である。
C:凝集破壊部分の面積比率が50面積%未満である。
【0103】
<接触熱抵抗の評価>
上述の処理を施したのち、ASTM D5470に記載の方法に準拠して、接触熱抵抗を測定した。測定結果から、以下の基準で接触熱抵抗を評価した。
A:接触熱抵抗が0.45K/W以下である。
B:接触熱抵抗が0.45K/W超0.65K/W以下である。
C:接触熱抵抗が0.65K/W超である。
【0104】
<放熱性(熱抵抗)の評価>
上述の処理を施したのち、ASTM D5470に記載の方法に準拠して、熱抵抗を測定した。測定結果から、以下の基準で熱抵抗を評価した。
A:熱抵抗が0.6K/W以下である。
B:熱抵抗が0.6K/W超0.8K/W以下である。
C:熱抵抗が0.8K/W超である。
【0105】
(実施例2)
樹脂組成物含浸体における樹脂組成物を半硬化させる際の条件を、70℃、300分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0106】
(実施例3)
セラミックス焼結体として表1に示す厚み及び平均細孔径を有する窒化ホウ素焼結体を用いたこと、及び、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を63%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0107】
(実施例4)
セラミックス焼結体として表1に示す厚み及び平均細孔径を有する窒化ホウ素焼結体を用いたこと、及び、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を30%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0108】
(実施例5)
窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を6%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0109】
(実施例6)
セラミックス焼結体として表1に示す厚み及び平均細孔径を有する窒化ホウ素焼結体を用いたこと、及び、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を25%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0110】
(実施例7)
セラミックス焼結体として表1に示す厚み及び平均細孔径を有する窒化ホウ素焼結体を用いたこと、及び、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を64%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0111】
(比較例1)
窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を2%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0112】
(比較例2)
窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を81%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0113】
(比較例3)
セラミックス焼結体として表1に示す厚み及び平均細孔径を有する窒化ホウ素焼結体を用いたこと、及び、窒化ホウ素焼結体の主面に滴下する樹脂組成物の硬化率を22%としたこと以外は、実施例1と同様にして、複合シート及び積層体を製造した。
【0114】
実施例2~7及び比較例1~3で得られた複合シート及び積層体について、実施例1と同様に、樹脂の硬化率、樹脂の充填率、接着性(接着強度)、接触熱抵抗及び放熱性(熱抵抗)を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示によれば、接着性及び放熱性に優れる積層体を製造可能な複合シート及びその製造方法を提供できる。また、本開示によればまた、上述のような複合シートを用いることで、接着性及び放熱性に優れる積層体及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、放熱性に優れるパワーデバイスを提供できる。
【符号の説明】
【0117】
10…複合シート、10a,10b…主面、20…セラミックス焼結体、30,40…金属シート、100…積層体。
図1
図2