(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20221220BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221220BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20221220BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20221220BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 652D
H01L29/78 652J
H01L29/78 652M
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L27/06 102A
H01L29/86 301D
(21)【出願番号】P 2018042674
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇介
(72)【発明者】
【氏名】大瀬 直之
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-210392(JP,A)
【文献】特開2012-169386(JP,A)
【文献】特開2012-049562(JP,A)
【文献】特開2017-191918(JP,A)
【文献】特開2016-009712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/8234
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンよりもバンドギャップの広い半導体からなる第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板のおもて面から所定深さで、かつ前記半導体基板のおもて面に平行な第1方向と直交する第2方向に
延在するストライプ状
で、所定ピッチに設けられた複数のトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記トレンチが隣り合う第1のトレンチ間に挟まれた第1メサ領域に、当該第1のトレンチ間にわたって設けられた第2導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の内部に選択的に設けられた第1導電型の第2半導体領域と、
前記第1メサ領域で、前記ゲート絶縁膜、前記ゲート電極、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域で構成されたMOSゲート構造と、
前記第1のトレンチ間と異なる第2のトレンチ間に挟まれた第2メサ領域の表面上に設けられた導電層と、
前記第2メサ領域で、前記導電層と前記半導体基板とのショットキー接合で構成されたショットキーバリアダイオードと、
前記半導体基板の内部に選択的に設けられ、
前記第1のトレンチ間から前記第2のトレンチ間にかけて前記第1方向に延在するストライプ状に配置され、前記トレンチの底面と接する第2導電型の第3半導体領域と、
前記第1メサ領域のみで、前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に、前記第1半導体領域および前記第3半導体領域に接して、かつ前記トレンチと離して選択的に設けられた第2導電型の第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域および前記導電層に電気的に接続された第1電極と、
前記半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備
えることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
1つの前記第1メサ領域に前記MOSゲート構造の1つの単位セルが設けられ、
前記MOSゲート構造の単位セルは、前記第1方向に所定ピッチで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ショットキーバリアダイオードの単位セルは、前記第2方向に所定ピッチで配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1方向に、2つの前記第1メサ領域が隣接して配置されるごとに1つの前記第2メサ領域が配置されることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板のおもて面の表面層に設けられ、前記半導体基板のおもて面から前記トレンチの底面よりも深い位置に達する、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第5半導体領域をさらに備え、
前記第1半導体領域、前記第3半導体領域および前記第4半導体領域は、前記第5半導体領域の内部に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(SiC)を用いた縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)では、低オン抵抗化を実現するために、炭化珪素からなる半導体基板(以下、炭化珪素基板(半導体チップ)とする)のおもて面上に平板状にMOSゲートを設けたプレーナゲート構造に比べて構造的に低オン抵抗特性を得やすいトレンチゲート構造が採用されている。トレンチゲート構造は、炭化珪素基板のおもて面に形成したトレンチ内にMOSゲートを埋め込んだMOSゲート構造であり、セルピッチ(単位セル(素子の構成単位)の繰り返し幅)の短縮により低オン抵抗化が可能である。
【0003】
また、トレンチゲート型MOSFETを配置した炭化珪素基板のおもて面上に平板状にショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)を配置することで、トレンチゲート型MOSFETのベース領域とドリフト領域とのpn接合で形成される寄生のpn接合ダイオード(ボディダイオード)の劣化を抑制可能である(例えば、下記特許文献1参照。)。このようにトレンチゲート型MOSFETを配置した炭化珪素基板のおもて面上に平板状にSBD(以下、平面SBDとする)を配置することで、同一の炭化珪素基板に平面SBDを内蔵した従来のトレンチゲート型MOSFETの構造について説明する。
【0004】
図7,8は、従来の炭化珪素半導体装置の構造の一例を示す断面図である。
図7,8には、
図9の切断線AA-AA’における断面構造を示す。
図7,8に示す従来の炭化珪素半導体装置には、それぞれ異なるセルピッチP112,P112’で平面SBD142を配置した一例を示す。
図7,8の平面SBD142のセルピッチP112以外の構成(トレンチゲート型MOSFET141の単位セルの構造、平面SBD142の単位セルの構造)は同様である。
図9は、
図7,8の要部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図9には、
図7,8のゲートトレンチ107および第1~3p
+型領域121~123のレイアウトを示す。
【0005】
図7,8に示す従来の炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる炭化珪素基板110のおもて面側に、トレンチゲート型MOSFET141のMOSゲートを埋め込んだトレンチ(以下、ゲートトレンチとする)107を所定のピッチP101で配置し、隣り合う各ゲートトレンチ107間にそれぞれトレンチゲート型MOSFET141の単位セルまたは平面SBD142の単位セルを配置した構成となっている。トレンチゲート型MOSFET141の単位セルおよび平面SBD142の単位セルは、それぞれ所定のセルピッチ(
図7では符号P111,P112、
図8では符号P111’,P112’で図示)で配置されている。炭化珪素基板110は、炭化珪素からなるn
+型出発基板101上にn
-型ドリフト領域102となるn
-型炭化珪素層131をエピタキシャル成長させたエピタキシャル基板である。
【0006】
トレンチゲート型MOSFET141は、隣り合うゲートトレンチ107間(メサ領域)103aにp型ベース領域104、n+型ソース領域105およびp+型コンタクト領域106を有する。p型ベース領域104、n+型ソース領域105およびp+型コンタクト領域106を挟んで隣り合うゲートトレンチ107の中心間に挟まれた部分で、トレンチゲート型MOSFET141の1つの単位セルが構成される。ゲートトレンチ107の底面は、第1p+型領域121で覆われている。メサ領域103aには、第1p+型領域121と離して、第2,3p+型領域122,123がそれぞれ選択的に配置されている。
【0007】
第2,3p+型領域122,123は、ゲートトレンチ107と離して配置されている。また、第2p+型領域122は、p型ベース領域104と離して配置され、p+型コンタクト領域106に深さ方向Zに対向する。第3p+型領域123は、p型ベース領域104と第2p+型領域122との間に配置され、p型ベース領域104、p+型コンタクト領域106および第2p+型領域122に接する。平面SBD142を配置したメサ領域103aには、p型ベース領域104、n+型ソース領域105、p+型コンタクト領域106および第3p+型領域123は設けられておらず、炭化珪素基板110のおもて面(n-型炭化珪素層131側の表面)にn型電流拡散領域103が露出されている。
【0008】
平面SBD142は、第1p
+型領域121間に挟まれた部分において、炭化珪素基板110のおもて面上に配置された導電層112とn型電流拡散領域103とのショットキー接合で1つの単位セルが構成される。ゲートトレンチ107は、炭化珪素基板110のおもて面に平行な方向(以下、第1方向)Xに所定のピッチP101で並列に配置されている。また、ゲートトレンチ107(濃いハッチング部分)は、炭化珪素基板110のおもて面側から見て炭化珪素基板110のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する方向(以下、第2方向とする)Yに延びるストライプ状のレイアウトに配置されている(
図9参照)。
【0009】
第1~3p
+型領域121~123(薄いハッチング部分)は、ゲートトレンチ107と同様に、第1方向Xに並列に配置され、かつ炭化珪素基板110のおもて面側から見て第2方向Yに延びるストライプ状のレイアウトに配置されている。このように、トレンチゲート型MOSFET141および平面SBD142ともに所定のセルピッチ(
図7では符号P111,P112、
図8では符号P111’,P112’で図示)で第1方向Xに並列に配置されている。符号111は、n
+型ソース領域105およびp
+型コンタクト領域106とオーミック接触する導電層である。符号113~115は、それぞれ層間絶縁膜、おもて面電極および裏面電極である。
【0010】
また、
図7に示すように、トレンチゲート型MOSFET141の単位セルと平面SBD142の単位セルとを第1方向Xに交互に繰り返し配置したとする。この場合、トレンチゲート型MOSFET141のセルピッチP111は、ゲートトレンチ107のピッチP101の2倍である(P111=2×P101)。平面SBD142のセルピッチP112は、ゲートトレンチ107のピッチP101とほぼ同じである(P112≒P101)。
【0011】
図8に示すように、トレンチゲート型MOSFET141の単位セルを第1方向Xに隣接して2つ配置するごとに、第1方向Xに隣接して平面SBD142の単位セルを1つ配置したとする。この場合、トレンチゲート型MOSFET141のセルピッチP111’は、ゲートトレンチ107のピッチP101の3/2倍である(P111’=(3/2)×P101)。平面SBD142のセルピッチP112’は、ゲートトレンチ107のピッチP101の略2倍である(P112’≒2×P101)。
【0012】
トレンチゲート型MOSFET141のセルピッチP111’を狭くした場合(
図8参照)、トレンチゲート型MOSFET141のオン抵抗が低減する。平面SBD142のセルピッチP112を狭くした場合(
図7参照)、トレンチゲート型MOSFET141のp型ベース領域104とn
-型ドリフト領域102およびn
+型出発基板101とのpn接合で形成されるpin(p-intrinsic-n)ダイオードの動作開始電流が高くなる。これによって、トレンチゲート型MOSFET141のボディダイオード(p型ベース領域104とn
-型ドリフト領域102とのpn接合で形成される寄生のpn接合ダイオード)の劣化抑制効果が向上する。
【0013】
従来のトレンチゲート型MOSFETとして、トレンチゲート型MOSFETと同一の半導体基板に配置したノーマリオフ型のJFET(Junction FET)を当該JFETに還流電流のみが流れるように動作させることで、低損失化およびボディダイオードの劣化抑制を実現した装置が提案されている(例えば、下記特許文献2(第0022,0050,0109段落、第5図)参照。)。
【0014】
同一の炭化珪素基板にSBDを内蔵した従来のトレンチゲート型MOSFETとして、ゲートトレンチと離して設けたトレンチの内部に金属層のみを埋め込み、トレンチの底面で金属層とn型ドリフト領域とのショットキー接合を形成することで、トレンチゲート型MOSFETのセルピッチを狭くして低オン抵抗化を実現した装置が提案されている(例えば、下記特許文献3(第0037,0126段落、第5図)参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2008-021930号公報
【文献】特開2015-162579号公報
【文献】特開2017-055005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述した従来の炭化珪素半導体装置では、トレンチゲート型MOSFET141のセルピッチP111’を狭くした場合(
図8参照)、平面SBD142のセルピッチP112’が広くなる。一方、平面SBD142のセルピッチP112を狭くした場合(
図7参照)、トレンチゲート型MOSFET141のセルピッチP111が広くなる。このため、トレンチゲート型MOSFET141のオン抵抗の低減とボディダイオードの劣化抑制効果向上とはトレードオフ関係にある。
【0017】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、同一の半導体基板に平面SBDを内蔵したトレンチゲート型MOSFETのオン抵抗の低減とボディダイオードの劣化抑制効果向上とのトレードオフ関係を改善することができる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。シリコンよりもバンドギャップの広い半導体からなる第1導電型の半導体基板のおもて面から所定深さで複数のトレンチが設けられている。複数の前記トレンチは、前記半導体基板のおもて面に平行な第1方向と直交する第2方向に延在するストライプ状で、所定ピッチに設けられている。前記トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。前記トレンチが隣り合う第1のトレンチ間に挟まれた第1メサ領域に、当該第1のトレンチ間にわたって第2導電型の第1半導体領域が設けられている。前記第1半導体領域の内部に、第1導電型の第2半導体領域が選択的に設けられている。前記第1メサ領域で、前記ゲート絶縁膜、前記ゲート電極、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域でMOSゲート構造が構成される。前記第1のトレンチ間と異なる第2のトレンチ間に挟まれた第2メサ領域の表面上に、導電層が設けられている。前記第2メサ領域で、前記導電層と前記半導体基板とのショットキー接合でショットキーバリアダイオードが構成される。前記半導体基板の内部に、第2導電型の第3半導体領域が選択的に設けられている。前記第3半導体領域は、前記トレンチの底面と接する。前記第3半導体領域は、前記第1のトレンチ間から前記第2のトレンチ間にかけて前記第1方向に延在するストライプ状に配置されている。前記第1メサ領域のみで、前記第1半導体領域と前記第3半導体領域との間に、第2導電型の第4半導体領域が選択的に設けられている。前記第4半導体領域は、前記第1半導体領域および前記第3半導体領域に接して、かつ前記トレンチと離して設けられている。第1電極は、前記第1半導体領域、前記第2半導体領域および前記導電層に電気的に接続されている。第2電極は、前記半導体基板の裏面に設けられている。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、1つの前記第1メサ領域に前記MOSゲート構造の1つの単位セルが設けられている。前記MOSゲート構造の単位セルは、前記第1方向に所定ピッチで配置されていることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記ショットキーバリアダイオードの単位セルは、前記第2方向に所定ピッチで配置されていることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記第1方向に、2つの前記第1メサ領域が隣接して配置されるごとに1つの前記第2メサ領域が配置されることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記半導体基板のおもて面の表面層に設けられ、前記半導体基板のおもて面から前記トレンチの底面よりも深い位置に達する、前記半導体基板よりも不純物濃度の高い第1導電型の第5半導体領域をさらに備える。前記第1半導体領域、前記第3半導体領域および前記第4半導体領域は、前記第5半導体領域の内部に設けられていることを特徴とする。
【0023】
上述した発明によれば、MOSゲート構造(トレンチゲート型MOSFET)のセルピッチと、ショットキーバリアダイオード(平面SBD)のセルピッチと、を互いにセルピッチに依らず、それぞれ個別に設定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる半導体装置によれば、同一の半導体基板に平面SBDを内蔵したトレンチゲート型MOSFETのオン抵抗の低減とボディダイオードの劣化抑制効果向上とのトレードオフ関係を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の要部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【
図2】
図1の切断線A-A’における断面構造を示す断面図である。
【
図3】
図1の切断線B-B’における断面構造を示す断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチゲート型MOSFETのオン抵抗とボディダイオードの動作開始電流との関係を示す特性図である(実施例1)。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチゲート型MOSFETのセルピッチとオン抵抗との関係を示す特性図である(実施例2)。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の平面SBDのセルピッチとトレンチゲート型MOSFETのボディダイオード動作開始時のドレイン電流密度との関係を示す特性図である(実施例3)。
【
図7】従来の炭化珪素半導体装置の構造の一例を示す断面図である。
【
図8】従来の炭化珪素半導体装置の構造の一例を示す断面図である。
【
図9】
図7,8の要部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
(実施の形態)
実施の形態にかかる半導体装置は、半導体材料としてシリコン(Si)よりもバンドギャップが広い半導体(ワイドバンドギャップ半導体とする)を用いて構成される。以下、実施の形態にかかる半導体装置の構造について、半導体材料として炭化珪素(SiC)を用いた場合を例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の要部を半導体基板のおもて面側から見たレイアウトを示す平面図である。
図1には、
図2,3のゲートトレンチ7および第1,2p
+型領域(第3,4半導体領域)21,22のレイアウトを示す。
図2は、
図1の切断線A-A’における断面構造を示す断面図である。
図3は、
図1の切断線B-B’における断面構造を示す断面図である。
【0028】
図1~3に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、トレンチゲート型MOSFET41を配置した炭化珪素からなる半導体基板(炭化珪素基板(半導体チップ))10のおもて面上に平板状にSBD(平面SBD)42を配置した構造となっている。炭化珪素基板10は、炭化珪素からなるn
+型出発基板1のおもて面上にn
-型ドリフト領域2となるn
-型炭化珪素層31をエピタキシャル成長させたエピタキシャル基板である。
【0029】
n-型炭化珪素層31の、n+型出発基板1側に対して反対側の表面層(炭化珪素基板10のおもて面の表面層)には、n-型炭化珪素層31の厚さよりも浅い深さでn型領域(以下、n型電流拡散領域(第5半導体領域)とする)3が設けられている。n型電流拡散領域3は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(Current Spreading Layer:CSL)である。n型電流拡散領域3は、炭化珪素基板10のおもて面に平行に一様に設けられている。
【0030】
n-型炭化珪素層31の、n型電流拡散領域3以外の部分(すなわちn型電流拡散領域3とn+型出発基板1とに挟まれた部分)がn-型ドリフト領域2である。n型電流拡散領域3には、トレンチゲート型MOSFET41のp型ベース領域(第1半導体領域)4、n+型ソース領域(第2半導体領域)5、p+型コンタクト領域6およびトレンチ(ゲートトレンチ)7と、第1,2p+型領域21,22と、がそれぞれ選択的に設けられている。n型電流拡散領域3を設けずに、n-型炭化珪素層31全体をn-型ドリフト領域2として、n-型ドリフト領域2に、p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6、ゲートトレンチ7および第1,2p+型領域21,22を設けてもよい。
【0031】
ゲートトレンチ7は、炭化珪素基板10のおもて面から、n型電流拡散領域3よりも浅い深さで設けられている。ゲートトレンチ7は、炭化珪素基板10のおもて面に平行な方向(第1方向)Xに所定のピッチP1で並列に配置されている。また、ゲートトレンチ7(濃いハッチング部分)は、炭化珪素基板10のおもて面側から見て炭化珪素基板10のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する方向(以下、第2方向とする)Yに延びるストライプ状のレイアウトに配置されている(
図1参照)。
【0032】
ゲートトレンチ7の内部には、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9が設けられている。ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で、トレンチゲート型MOSFET41のMOSゲートが構成される。隣り合う各ゲートトレンチ7間(メサ領域)3aには、それぞれトレンチゲート型MOSFET41の単位セルまたは平面SBD42の単位セルが配置されている。
【0033】
トレンチゲート型MOSFET41を配置したメサ領域(第1メサ領域)3aには、p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6が設けられている。p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびMOSゲート(ゲートトレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9)でMOSゲート構造が構成される。p型ベース領域4は、隣り合うゲートトレンチ7間にわたって設けられ、ゲートトレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8を挟んでゲート電極9に対向する。
【0034】
n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6は、それぞれp型ベース領域4の内部に選択的に設けられ、炭化珪素基板10のおもて面に露出されている。n+型ソース領域5は、ゲートトレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8を挟んでゲート電極9に対向する。p+型コンタクト領域6は、p型ベース領域4を深さ方向Zに貫通していてもよい。深さ方向Zとは、炭化珪素基板10のおもて面から裏面に向かう方向である。
【0035】
p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6を挟んで隣り合うゲートトレンチ7の中心間に挟まれた部分で、トレンチゲート型MOSFET41の1つの単位セルが構成される。トレンチゲート型MOSFET41の単位セルは、第1方向Xに所定のセルピッチP11で並列に配置されている。すなわち、トレンチゲート型MOSFET41を配置した各メサ領域3aには、それぞれトレンチゲート型MOSFET41の1つの単位セルが配置される。
【0036】
トレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11は可能な限り狭く設定される。例えば、第1方向Xに、トレンチゲート型MOSFET41の単位セルをそれぞれ配置した2つのメサ領域3aを隣接して配置するごとに、平面SBD42の単位セルを配置した1つのメサ領域3aを配置してもよい。この場合、トレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11は、ゲートトレンチ7のピッチP1の3/2倍となる(P11=(3/2)×P1)。
【0037】
第1p
+型領域21(薄いハッチング)は、炭化珪素基板10のおもて面側から見て第1方向Xに延在するストライプ状のレイアウトに配置されている(
図1参照)。すなわち、第1p
+型領域21のストライプ状のレイアウトを構成する各直線部21aは、ゲートトレンチ7のストライプ状のレイアウトと略直交するように配置され、すべてのゲートトレンチ7と深さ方向Zに対向し、かつ各ゲートトレンチ7の底面を選択的に覆う。
【0038】
第1p+型領域21の各直線部21aは、p型ベース領域4と離して配置されている。第1p+型領域21の各直線部21aとp型ベース領域4との間には、第2p+型領域22が選択的に設けられている。第2p+型領域22は、p型ベース領域4(p+型コンタクト領域6がp型ベース領域4を深さ方向Zに貫通している場合には、p型ベース領域4およびp+型コンタクト領域6)および第1p+型領域21に接する。
【0039】
第2p
+型領域22は、例えばp
+型コンタクト領域6に深さ方向Zに対向する。第2p
+型領域22は、トレンチゲート型MOSFET41を配置したメサ領域3aのみに、ゲートトレンチ7と離して配置されている。第2p
+型領域22は、例えば、第1p
+型領域21の各直線部21aとp型ベース領域4との間のみに、第2方向Yに所定の間隔で配置されている。
図1には、第2p
+型領域22を破線で示す。
【0040】
平面SBD42は、炭化珪素基板10のおもて面上に配置された導電層12とn型電流拡散領域3とのショットキー接合で構成される。平面SBD42を配置したメサ領域(第2メサ領域)3aには、p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6および第2p+型領域22は設けられていない。また、平面SBD42を配置したメサ領域3aには、炭化珪素基板10のおもて面(n-型炭化珪素層31側の表面)にn型電流拡散領域3が露出されている。
【0041】
平面SBD42のセルピッチP12は、第1p+型領域21の各直線部21aの幅および第2方向Yの配置間隔(ピッチ)で決まる。その理由は、平面SBD42の電気的特性への第1p+型領域21の広がり抵抗の影響が大きいからである。したがって、平面SBD42の単位セルが並列に配置される方向(第2方向Y)は、トレンチゲート型MOSFET41の単位セルが並列に配置される方向(第1方向X)と直交している。
【0042】
トレンチゲート型MOSFET41を配置したメサ領域3aにおいて、炭化珪素基板10のおもて面上には、コンタクトホール13aに露出するn
+型ソース領域5およびp
+型コンタクト領域6とオーミック接触する導電層11が設けられている。導電層11は、トレンチゲート型MOSFET41のソース電極として機能する。導電層11は、例えば、炭化珪素基板10のおもて面側から見て第2方向Yに延びる直線状に配置されている(
図1参照)。
図1では、トレンチゲート型MOSFET41および平面SBD42を配置した各メサ領域においてゲートトレンチ7間に図示した第2p
+型領域22よりも粗い2本の破線間が導電層11,12である。
【0043】
平面SBD42を配置したメサ領域3aにおいて、炭化珪素基板10のおもて面上には、コンタクトホール13bに露出するn型電流拡散領域3とショットキー接触する導電層12が設けられている。導電層12は、トレンチゲート型MOSFET41のソース電極として機能する。導電層11は、例えば、炭化珪素基板10のおもて面側から見て第2方向Yに延びる直線状に配置されている。導電層12は、例えば、炭化珪素基板10のおもて面側から見て第2方向Yに延びる直線状に配置されている(
図1参照)。
【0044】
各コンタクトホール13a,13bは、それぞれ、例えば炭化珪素基板10のおもて面側から見て第2方向Yに延びる直線状に配置されている。炭化珪素基板10のおもて面上には、コンタクトホール13a,13bに埋め込むように、おもて面電極(第1電極)14が設けられている。おもて面電極14は、導電層11,12に接し、これら導電層11,12に電気的に接続されるとともに、層間絶縁膜13によりゲート電極9と電気的に絶縁されている。炭化珪素基板10の裏面(n+型出発基板1の裏面)全面に、裏面電極(第2電極)15が設けられている。裏面電極15は、n+型ドレイン領域であるn+型出発基板1に電気的に接続されている。
【0045】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、ゲートトレンチの底面を覆う第1p+型領域を、炭化珪素基板のおもて面側から見てゲートトレンチがストライプ状に延びる方向(第2方向)と直交する方向(第1方向)に延びるストライプ状に配置する。これにより、トレンチゲート型MOSFETを所定のセルピッチで第1方向に並列に配置し、平面SBDを所定のセルピッチで第2方向に並列に配置することができる。このため、トレンチゲート型MOSFETのセルピッチと、平面SBDのセルピッチと、を互いにセルピッチに依らず、それぞれ個別に設定することができる。これによって、トレンチゲート型MOSFETのセルピッチを狭くしてトレンチゲート型MOSFETのオン抵抗を低減させることができるとともに、平面SBDのセルピッチを狭くしてトレンチゲート型MOSFETのボディダイオードの劣化抑制効果を向上させることができる。したがって、トレンチゲート型MOSFETのオン抵抗の低減とボディダイオードの劣化抑制効果向上とのトレードオフ関係を改善することができる。
【0046】
(実施例1)
次に、トレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗とボディダイオードの動作開始電流との関係について検証した。トレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードとは、トレンチゲート型MOSFET41のp型ベース領域4とn
-型ドリフト領域2およびn
+型出発基板1とのpn接合で形成される寄生のpinダイオードである。
図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチゲート型MOSFETのオン抵抗とボディダイオードの動作開始電流との関係を示す特性図である。
【0047】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置(以下、実施例1とする)におけるトレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗とボディダイオードの動作開始電流との関係を
図4に示す。また、
図4には、従来の炭化珪素半導体装置(以下、従来例とする:
図7~9参照)におけるトレンチゲート型MOSFET141のオン抵抗とボディダイオードの動作開始電流との関係も示す。従来例は、平面SBD142の単位セルの配置が実施例1と異なる以外は実施例1と同様である。
【0048】
図4に示す結果より、実施例1においては、トレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗が従来例のトレンチゲート型MOSFET141のオン抵抗と同じである場合(例えば実施例1の試料51と従来例の試料52)、トレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの動作開始電流を従来例のトレンチゲート型MOSFET141のボディダイオードの動作開始電流よりも高くすることができることが確認された。すなわち、実施例1は、従来例と比べて、トレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗低減とボディダイオードの劣化抑制効果向上とのトレードオフ関係を改善する方向(
図4の矢印Cの向き(左上方向))に変化させることができることが確認された。
【0049】
図4には、実施例1の1つの試料51のみを図示しているが、実施例1は、トレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗がトレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11を狭くするほど低減され(後述する
図5参照)、トレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの劣化抑制が平面SBD42のセルピッチP12を狭くするほど高くなることが確認されている(後述する
図6参照)。かつ、実施例1の試料51以外の試料についても、実施例1の試料51と同様の効果が得られることが確認されている。
【0050】
(実施例2)
次に、トレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11とオン抵抗との関係について検証した。
図5は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチゲート型MOSFETのセルピッチとオン抵抗との関係を示す特性図である。
図5には、横軸にゲートトレンチ7のピッチP1に対するトレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11(=トレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11/ゲートトレンチ7のピッチP1)を示し、縦軸にトレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗を示す。
【0051】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置(以下、実施例2とする)におけるトレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11とオン抵抗との関係を
図5に示す。トレンチゲート型MOSFET41は、耐圧1200Vクラス(1200V-class)とした。耐圧(耐電圧)とは、素子が誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。トレンチゲート型MOSFET41のオン抵抗の測定時、トレンチゲート型MOSFET41のp型ベース領域4とn
-型ドリフト領域2とのpn接合温度Tjを室温(RT:Room Temperature(例えば25℃程度))とした。
【0052】
図5に示す結果より、実施例2において、トレンチゲート型MOSFET41のセルピッチP11を狭くするほどオン抵抗を低減させることができることが確認された。
【0053】
(実施例3)
次に、平面SBD42のセルピッチP12とトレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの動作開始電流との関係について検証した。
図6は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の平面SBDのセルピッチとトレンチゲート型MOSFETのボディダイオード動作開始時のドレイン電流密度との関係を示す特性図である。
図6には、横軸にゲートトレンチ7のピッチP1に対する平面SBD42のセルピッチP12(=平面SBD42のセルピッチP12/ゲートトレンチ7のピッチP1)を示し、縦軸にトレンチゲート型MOSFET41のボディダイオード動作開始時のドレイン電流密度を示す。
【0054】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置(以下、実施例3とする)における平面SBD42のセルピッチP12とトレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの動作開始電流との関係を
図6に示す。トレンチゲート型MOSFET41は、耐圧1200Vクラスとした。トレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの動作開始電流の測定時、トレンチゲート型MOSFET41のp型ベース領域4とn
-型ドリフト領域2とのpn接合温度Tjを175℃とした。
【0055】
図6に示す結果より、実施例3において、平面SBD42のセルピッチP12を狭くするほど、トレンチゲート型MOSFET41のボディダイオードの動作開始電流を高くすることができることが確認された。
【0056】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した実施の形態および各実施例において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した実施の形態では、半導体基板(出発基板)上にエピタキシャル層を堆積したエピタキシャル基板を用いた場合を例に説明しているが、これに限らず、例えばデバイスを構成するすべての領域を半導体基板にイオン注入により形成した拡散領域としてもよい。
【0057】
また、本発明は、MOSFETを例に説明しているが、これに限らず、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のMOS型半導体装置や、SBD(Schottky Barrier Diode)等の整流半導体装置に適用可能である。また、本発明は、炭化珪素以外のワイドバンドギャップ半導体(例えばガリウム(Ga)など)に適用した場合においても同様の効果を奏する。また、本発明は、導電型(n型、p型)を反転させても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかる半導体装置は、同一の半導体基板に平面SBDを内蔵したトレンチゲート構造のMOS型半導体装置に有用であり、特にトレンチゲート構造のMOS型炭化珪素半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0059】
1 n+型出発基板
2 n-型ドリフト領域
3 n型電流拡散領域
3a メサ領域
4 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p+型コンタクト領域
7 ゲートトレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10 炭化珪素基板
11,12 導電層
13 層間絶縁膜
13a,13b コンタクトホール
14 おもて面電極
15 裏面電極
21 ゲートトレンチの底面を覆うp+型領域(第1p+型領域)
21a 第1p+型領域のストライプ状のレイアウトを構成する直線部
22 メサ領域のp+型領域(第2p+型領域)
31 n-型炭化珪素層
41 トレンチゲート型MOSFET
42 平面SBD
P1 ゲートトレンチのピッチ
P11 トレンチゲート型MOSFETのセルピッチ
P12 平面SBDのセルピッチ
X トレンチゲート型MOSFETの単位セルが並列に配置される方向(第1方向)
Y 炭化珪素基板のおもて面に平行な方向で、かつ第1方向と直交する方向(第2方向)
Z 深さ方向