(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20221220BHJP
C09D 153/02 20060101ALI20221220BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20221220BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20221220BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20221220BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20221220BHJP
B32B 5/10 20060101ALI20221220BHJP
B32B 25/04 20060101ALI20221220BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20221220BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C09J153/02
C09D153/02
C08L53/02
C08L23/26
C08L91/00
C08L23/10
B32B5/10
B32B25/04
B62D29/04 A
C08J5/12 CFC
(21)【出願番号】P 2018045733
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017052359
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】盛 弘之
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-256725(JP,A)
【文献】特表2012-523334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 153/
C09D 153/
C08L 53/
B32B 5/
B32B 25/
B32B 27/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックよりなる層に積層される接着層に含まれる、炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーであって、
少なくとも下記成分(a)、(b)、(c)及び(d)と
α,β-不飽和カルボン酸による変性率が0.2~10質量%のα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンとを含み、
成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対する成分(c)の含有量が20~300質量部で、成分(d)の含有量が10~100質量部であり、成分(a)と成分(b)との合計100質量%に占める成分(a)の割合が20~80質量%で成分(b)の割合が80~20質量%であり、
該炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー
100質量%に対し、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの
含有率と変性率から算出されるα,β-不飽和カルボン酸濃度が、0.01~10質量%であることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)ブロック共重合体および/または(A)-(B)-(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物がスチレンであり、
共役ジエン重合体ブロック(B)が、ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンの1種又は2種以上、あるいはイソプレンとこれらの共役ジエン単量体の1種又は2種以上の組み合わせで構成され、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されており、
重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(c):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物がスチレンであり、
共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
成分(d):オレフィン系結晶性樹脂
【請求項2】
α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーが無水マレイン酸変性ポリプロピレンである、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【請求項3】
成分(a)の水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が10~50質量%である、請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【請求項4】
成分(c)の水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が10~50質量%で、重量平均分子量が3万~30万であり、水素添加によりイソプレン部分の二重結合の少なくとも50%が飽和されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【請求項5】
成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤が、重量平均分子量300~2,000のパラフィン系オイルである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【請求項6】
前記成分(d)のオレフィン系結晶性樹脂を含み、該オレフィン系結晶性樹脂が、メルトフローレート(230℃、21.2N荷重)が0.01~100g/10分の、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種又は2種以上である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【請求項7】
炭素繊維強化プラスチックよりなる層と熱可塑性エラストマーよりなる層を含む積層成形体であって、該熱可塑性エラストマーが、
少なくとも下記成分(a)、(b)、(c)及び(d)と
α,β-不飽和カルボン酸による変性率が0.2~10質量%のα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンとを含み、
成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対する成分(c)の含有量が20~300質量部で、成分(d)の含有量が10~100質量部であり、成分(a)と成分(b)との合計100質量%に占める成分(a)の割合が20~80質量%で成分(b)の割合が80~20質量%であり、
該熱可塑性エラストマー
100質量%に対し、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの
含有率と変性率から算出されるα,β-不飽和カルボン酸濃度が、0.01~10質量%であることを特徴とする積層成形体。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)ブロック共重合体および/または(A)-(B)-(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物がスチレンであり、
共役ジエン重合体ブロック(B)が、ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンの1種又は2種以上、あるいはイソプレンとこれらの共役ジエン単量体の1種又は2種以上の組み合わせで構成され、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されており、
重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(c):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物がスチレンであり、
共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
成分(d):オレフィン系結晶性樹脂
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマー層の前記炭素繊維強化プラスチックとは反対側の面に摺動性材料層が積層されている、請求項7に記載の積層成形体。
【請求項9】
請求項7又は8の積層成形体からなる自動車部品構造体。
【請求項10】
請求項7又は8の積層成形体からなる船舶部品構造体。
【請求項11】
請求項7又は8の積層成形体からなる動力部品構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック積層体において、炭素繊維強化プラスチックの間にもしくは表皮として接着積層するために用いられる熱可塑性エラストマーと、この熱可塑性エラストマーを用いた積層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維として炭素繊維を用いた複合材料は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Crabon Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれ、航空部材をはじめ、ゴルフシャフト、テニスラケット等のスポーツ・レジャー用品、船舶部材などの工業材料などに使用され、近年はその軽量性と強度の特性を活かして自動車用部品としても実用化されはじめている。
【0003】
炭素繊維強化プラスチックは、軽量性に優れ、金属の代替として注目されつつも、強いエネルギーが加わるような衝撃、振動時においては、そのエネルギーを吸収できず、粉々に破壊してしまうという欠点がある。そのため、炭素繊維強化プラスチックは、そのままでは構造部材等への応用は困難である。
【0004】
その改良として、特許文献1には、炭素繊維強化プラスチックに熱可塑性エラストマー層を積層する提案がなされており、その熱可塑性エラストマー層が、過酸化物、アミン及び/又はビスフェノールのグループから選択された少なくとも1つの架橋剤を含み、且つ、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-アクリレートゴム(EAM)、フッ素ゴム(FCM)、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、必要に応じて混合するポリ塩化ビニル(PVC)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、カルボン酸ニトリルゴム(XNBR)、水素化カルボン酸ニトリルゴム(XHNBR)、天然ゴム(NR)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、クロロスルホニル-ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、ブチルゴム(BIIR))またはハロブチルゴム、シリコーンゴム(VMQ、MVQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ、MFQ)、クロロヒドリンゴム(CO)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、ポリクロロプレンゴム(CR)、一液形ポリウレタン(PU)または前記物質の組み合わせまたは混合物から構成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に例示されている、炭素繊維強化プラスチック/熱可塑性エラストマー積層体には、以下のような問題がある。
即ち、例えばプリプレグにおける炭素繊維強化プラスチックには、一般的に未反応のエポキシ樹脂が含浸されており、成形時にエポキシ樹脂の反応温度領域で加熱加圧されることでエポキシ樹脂が固化して構造体として成形される。一方、熱可塑性エラストマーは成形時に溶融することで、溶融ポリマー同士が接着に寄与して接着効果を発揮する。このため、熱可塑性エラストマーは、基本的にエポキシ樹脂との相溶性や反応性を有する成分で構成され、かつなるべくエポキシ樹脂の成形温度領域で溶融接着することが望まれる。しかし、特許文献1に記載されている、一般的な熱可塑性エラストマーの溶融温度はエポキシ樹脂の成形温度領域に比べ高い。そのような熱可塑性エラストマーは、エポキシ樹脂の成形温度では溶融していないため、溶融接着には適さない場合があった。また、エポキシ樹脂との反応性がないと、ほとんどの熱可塑性エラストマーはエポキシ樹脂に対して接着せず簡単に剥離してしまう。
【0007】
一方、炭素繊維強化プラスチックの成形体を成形した後、接着剤を塗布して炭素繊維強化プラスチックの表面に熱可塑性エラストマーシートを貼り合わせる方法もあるが、構造体が複雑な形状であると接着剤を均一に塗布することが難しく、また、接着剤を塗布する分工程数が増えると共に、製造に要する時間が長くなる問題がある。
【0008】
炭素繊維強化プラスチックよりなる構造体の耐衝撃性を安定に維持するためには、複雑な炭素繊維強化プラスチックの構造体であっても熱可塑性エラストマーシートを密着性よく均一に貼り合わせることができ、経時後も安定し剥がれない高い密着性が必要となる。しかし、特許文献1に記載の熱可塑性エラストマーを構成する材料の中には、保管の期間が長ければ長いほど、架橋が進んでしまうものもあるため、長期保管後の熱可塑性エラストマーシートとしての接着性が発現しないこともあった。
【0009】
また、更に、製造の自由度の向上の面から、熱可塑性エラストマーシートを保管した後も、通常のプリプレグを用いた成形において、工法を変えることなく、また成形時間を延長することなく、炭素繊維強化プラスチックとの積層体を密着性よく成形することができる熱可塑性エラストマーの開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、炭素繊維強化プラスチックとの積層成形を容易に行え、炭素繊維強化プラスチックとの密着性が高く、炭素繊維強化プラスチックとの一体成形で炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を十分に改良することができ、しかも、長期保管後の成形においても密着性がよく炭素繊維強化プラスチックと積層成形することが可能な炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーと、この熱可塑性エラストマーを用いた積層成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、スチレン系熱可塑性エラストマーと、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとを所定のα,β-不飽和カルボン酸濃度となるように含む熱可塑性エラストマーが、複雑な構造であっても、炭素繊維強化プラスチックに追随性よく均一かつ密着性よく容易に一体成形することができ、積層により炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を向上させることができ、しかも、保管後においてもこの成形性、密着性が損なわれることのない熱可塑性エラストマーとなることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 炭素繊維強化プラスチックよりなる層に積層される接着層に含まれる、炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーであって、スチレン系熱可塑性エラストマーとα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとを含み、該スチレン系熱可塑性エラストマーが少なくとも下記成分(c)を含み、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー由来のα,β-不飽和カルボン酸濃度が0.01~10質量%であることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
成分(c):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
【0013】
[2] 前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、下記成分(a)、(b)及び(d)を含み、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対する成分(c)の含有量が20~300質量部で、成分(d)の含有量が10~100質量部であり、成分(a)と成分(b)との合計100質量%に占める成分(a)の割合が20~80質量%で成分(b)の割合が80~20質量%である、[1]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)ブロック共重合体および/または(A)-(B)-(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されており、重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(d):オレフィン系結晶性樹脂
【0014】
[3] α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーが無水マレイン酸変性ポリプロピレンである、[1]又は[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0015】
[4] 成分(a)の水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が10~50質量%である、[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0016】
[5] 成分(c)の水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が10~50質量%で、重量平均分子量が3万~30万であり、水素添加によりイソプレン部分の二重結合の少なくとも50%が飽和されている、[1]ないし[4]のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0017】
[6] 成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤が、重量平均分子量300~2,000のパラフィン系オイルである、[2]又は[4]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0018】
[7] 前記成分(d)のオレフィン系結晶性樹脂を含み、該オレフィン系結晶性樹脂が、メルトフローレート(230℃、21.2N荷重)が0.01~100g/10分の、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種又は2種以上である、[2]、[4]又は[6]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0019】
[8] 炭素繊維強化プラスチックよりなる層と熱可塑性エラストマーよりなる層を含む積層成形体であって、該熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマーとα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとを含み、該スチレン系熱可塑性エラストマーが少なくとも下記成分(c)を含み、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー由来のα,β-不飽和カルボン酸濃度が0.01~10質量%であることを特徴とする積層成形体。
成分(c):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
【0020】
[9] 前記熱可塑性エラストマー層の前記炭素繊維強化プラスチックとは反対側の面に摺動性材料層が積層されている、[8]に記載の積層成形体。
【0021】
[10] [8]又は[9]の積層成形体からなる自動車部品構造体。
【0022】
[11] [8]又は[9]の積層成形体からなる船舶部品構造体。
【0023】
[12] [8]又は[9]の積層成形体からなる動力部品構造体。
【発明の効果】
【0024】
本発明の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーは、炭素繊維強化プラスチックに対して、複雑な構造であっても、追随性よく、均一にかつ密着性よく積層一体成形することができ、炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を改善することができる。
しかも、本発明の熱可塑性エラストマーは、長期保管後であっても、上記の成形性、密着性、耐衝撃性の改善効果が損なわれることなく、これらの効果を十分に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0026】
[炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー]
本発明の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー(以下、「本発明の熱可塑性エラストマー」と称す。)は、炭素繊維強化プラスチックと熱可塑性エラストマーとの積層成形体の該熱可塑性エラストマーとして用いられる熱可塑性エラストマーであって、スチレン系熱可塑性エラストマーとα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとを含み、該スチレン系熱可塑性エラストマーが少なくとも下記成分(c)を含み、該α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー由来のα,β-不飽和カルボン酸濃度が0.01~10質量%であることを特徴とする。
成分(c):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック共重合体
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマーに含まれるスチレン系熱可塑性エラストマー(以下、「本発明のスチレン系熱可塑性エラストマー」と称す場合がある。)は、上記成分(c)に加え、下記成分(a)、(b)及び(d)を含むことが好ましい。
【0028】
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)とイソプレン単独を除く共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)ブロック共重合体および/または(A)-(B)-(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されており、重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(d):オレフィン系結晶性樹脂
【0029】
<成分(a):水添ブロック共重合体>
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーの構成成分である成分(a)は、ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)とイソプレン単独を除く共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)ブロック共重合体および/または(A)-(B)-(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により共役ジエン部分の二重結合の少なくとも90%が飽和されており、重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体(以下、「水添ブロック共重合体(a)」と称す場合がある。)である。
【0030】
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、o-、m-、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの1種又は2種以上が挙げられ、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0031】
共役ジエン重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン単量体としては、例えばブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1、3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン等の1種又は2種以上、あるいはイソプレンとこれらの共役ジエン単量体の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられ、特にブタジエン、或いはブタジエン/イソプレンの2/8~6/4の質量割合の混合物が好ましい。
【0032】
共役ジエン単量体がブタジエンのみで構成される場合、ポリブタジエンブロックのミクロ構造中の1,2-付加構造が全体の20~80%のものを水素添加したブロック共重合体が好ましく、特に1,2-付加構造が30~60%のものが好ましい。
【0033】
成分(a)の上記ブロック共重合体の分子構造は、直鎖上、分岐上、放射状あるいはこれらの組み合わせのいずかであってもよい。
【0034】
成分(a)は、上記ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であり、その水素添加率は、ブロック(B)である共役ジエン重合体ブロックの共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が80%以上、好ましくは90~100%となるような割合である。
なお、成分(a)において、上述の「水素添加率が80%以上であること」と、上述の「水素添加により共役ジエン重合体ブロック(B)の共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されていること」は同義である。
【0035】
また、水添ブロック共重合体(a)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~45質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が、10質量%未満では、引っ張り強さなどの機械物性や耐熱性が劣る傾向となり、50質量%超過では、柔軟性、ゴム弾性が劣り、後述する成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが生じ易い傾向となる。
【0036】
また、水添ブロック共重合体(a)の重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量として、8万~100万であるが、好ましくは8万~60万、さらに好ましくは8万~40万である。重量平均分子量が8万未満では、ゴム弾性、機械的強度が低下し、また後述する成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが発生し易くなる。一方、重量平均分子量が100万超過の場合は、流動性が劣り成形が困難になる。
【0037】
このような水添ブロック共重合体(a)の製造方法は、上記構造・物性が得られる限りいかなる方法であってもよい。例えば特公昭40-23798号に掲載された方法、リチウム触媒の存在下に不活性溶媒中でブロック重合を行う方法を採用することができる。また、これらのブロック共重合体の水素添加処理は、例えば特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭60-79005号公報などに掲載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下で行うことができる。
【0038】
なお、成分(a)の水添ブロック共重合体は、カップリング剤残基を介して、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。この場合に用いられるカップリング剤としては、例えばアジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、1,2-ジブロモエタン、1,4-クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロスシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4-ベンゼントリイソシアネート等が挙げられる。
【0039】
このような水素添加ブロック共重合体(a)の市販品としては「KRATON-G」(クレイトンポリマー社製)、「セプトン」(株式会社クラレ製)、「タフテック」(旭化成ケミカルズ株式会社製)等の商品が例示できる。
【0040】
水添ブロック共重合体(a)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
<成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーの構成成分である成分(b)は、炭化水素系ゴム用軟化剤(以下、「炭化水素系ゴム用軟化剤(b)」と称す場合がある。)である。
【0042】
炭化水素系ゴム用軟化剤(b)としては、重量平均分子量が通常300~2,000、好ましくは500~1,500の炭化水素が使用され、鉱物油系炭化水素または合成樹脂系炭化水素が好適である。なお、ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量である。
【0043】
一般に鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素の混合物である。全炭素量に対し、芳香族炭化水素の炭素の割合が35質量%以上のものは芳香族系オイル、ナフテン系炭化水素の炭素の割合が30から45質量%のものはナフテン系オイル、パラフィン系炭化水素の炭素の割合が50質量%以上のものはパラフィン系オイルと呼ばれる。本発明では、パラフィン系オイルが好適に使用される。
【0044】
炭化水素系ゴム用軟化剤(b)は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
<成分(c):水添ブロック共重合体>
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーの構成成分である成分(c)は、ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなる(A)-(C)-(A)トリブロック共重合体からなり、共役ジエン重合体ブロック(C)が、イソプレンで構成され、イソプレンに基づく炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水素ブロック共重合体(以下、「水添ブロック共重合体(c)」と称す場合がある。)である。
【0046】
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)におけるビニル芳香族化合物としては、成分(a)におけるビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と同様に、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、o-、m-、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられ、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0047】
共役ジエン重合体ブロック(C)を構成する単量体は、イソプレンである。
【0048】
成分(c)の上記ブロック共重合体の分子構造は、直鎖上、分岐上、放射状あるいはこれらの組み合わせのいずかであってもよい。
【0049】
成分(c)は、上記ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であり、その水素添加率は、構成する単量体がイソプレンである共役ジエン重合体ブロック(C)のイソプレン部分の二重結合の水素添加率が好ましくは50%以上、より好ましくは70~100%となるような割合である。
なお、成分(c)において、上述の「水素添加率が50%以上であること」と、上述の「水素添加によりイソプレン部分の二重結合の少なくとも50%が飽和されていること」は同義である。
【0050】
また、水添ブロック共重合体(c)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量は、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%である。ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が、10質量%未満では、引っ張り強さなどの機械物性や耐熱性が劣る傾向となり、50質量%超過では、柔軟性、ゴム弾性が劣り、前述の成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが生じ易い傾向となる。
【0051】
また、水添ブロック共重合体(c)の重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量として、3万~30万であることが好ましく、より好ましくは5万~25万である。重量平均分子量が5万未満では、ゴム弾性、機械的強度が低下し、また前述の成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが発生し易くなる。一方、重量平均分子量が30万超過の場合は、流動性が劣り成形が困難になる。
【0052】
このような水添ブロック共重合体(c)は、前述の成分(a)の水添ブロック共重合体と同様の方法で製造することができる。
【0053】
水添ブロック共重合体(c)の市販品としては、「ハイブラー」(株式会社クラレ製)等の商品が例示できる。
【0054】
水添ブロック共重合体(c)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
<成分(d):オレフィン系結晶性樹脂>
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーは、密着性に影響しない程度に、オレフィン系結晶性樹脂を含有していてもよく、オレフィン系結晶性樹脂を配合することで耐熱性を向上することができる。
【0056】
成分(d)のオレフィン系結晶性樹脂(以下、「オレフィン系結晶性樹脂(d)」と称す場合がある。)としては、エチレン単独重合体、エチレンとα-オレフィンまたは酢酸ビニル、エチレンアクリルレート等のビニルモノマーとの共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体、プロピレンとα-オレフィンとのランダム共重合体、1-ブテン単独重合体、1-ブテンとα-オレフィンとのランダム共重合体、4-メチル-1-ペンテン単独重合体、4-メチルー1-ペンテンとα-オレフィンとのランダム共重合体が挙げられる。コモノマーとしての他のα-オレフィンとしては、例えばエチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられ、これらの1種以上選択して用いることができる。
【0057】
これらのオレフィン系結晶性樹脂(d)のうち、耐熱性および相溶性の観点から結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましく、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0058】
オレフィン系結晶性樹脂(d)は、メルトフローレート(MFR:JIS K7210に従い、230℃、21.2N荷重の条件下で測定)は、好ましくは0.01~100g/10分、より好ましくは0.1~70g/分である。MFRが上記下限未満のものを用いた場合、流動性が劣るために成形が難しくなる傾向があり、上記上限を超えるものを用いた場合は、溶融粘度が下がりシート成形が難しくなる傾向がある。
【0059】
オレフィン系結晶性樹脂(d)は、1種のみを用いてもよく、単量体組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
<成分(d)~(d)の配合比率>
本発明のスチレン系熱可塑性エラストマーを構成する各成分の配合比率は、下記成分(a)~(d)を含み、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対する成分(c)の含有量が20~300質量部で、成分(d)の含有量が10~100質量部であることが好ましい。
【0061】
成分(c)の含有量が上記上限を超えるとオイルのブリードが生じ粘着性が高くなり作業性が悪化し、上記下限未満であると炭素繊維強化プラスチックとの接着性が悪化する。成分(c)の含有量は、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対して40~200質量部であることがより好ましい。
【0062】
前述の通り、成分(d)を含むことで耐熱性を向上することができるが、成分(d)の含有量が上記下限以上であるとこの効果を十分に得ることができ、上記上限を超えると接着性が劣り柔軟性が悪化する。成分(d)の含有量は、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対して10~80質量部であることがより好ましい。
【0063】
また、成分(a)と成分(b)の構成比は、これらの合計100質量%中に成分(a)が20~80質量%で成分(b)が80~20質量%であることが好ましく、より好ましくは成分(a)が25~75質量%で、成分(b)が75~25質量%である。この範囲よりも成分(a)が少なく、成分(b)が多いと、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性が劣ったり、ブリードが生じたりする。一方、この範囲よりも成分(a)が多く、成分(b)が少ないと柔軟性、成形加工性が悪化する。
【0064】
<α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー>
本発明の熱可塑性エラストマーに含まれるα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーの変性剤のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。変性剤としては、これらのα,β-不飽和カルボン酸の誘導体を用いてもよく、誘導体としては、これらのα,β-不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル等が例示され、更には、酸ハロゲン化物、アミド、イミドなどの誘導体であってもよい。これらの中では、特にマレイン酸又はその無水物が好適である。
【0065】
α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーの変性用基材のポリマーとしては、ポリオレフィンが望ましく、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、3-メチルブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、デセン-1などの炭素数2以上のα-オレフィンの単独重合体、これら2種類上のモノマーのランダムまたはブロック共重合体、もしくは、炭素数2以上のα-オレフィンを主成分とし、他のモノマーとのランダムまたはブロック、グラフトなどの共重合体、或いは、これらの混合物を用いることができる。特に好ましいポリオレフィンは、JIS K7210準拠のメルトフローレート(MFR:エチレンを主成分とする樹脂においては190℃、2.16kg荷重の条件下で測定、プロピレンを主成分とする樹脂においては230℃、2.16kg荷重の条件下で測定)が0.01~200g/10分、好ましくは0.1~100g/10分であるエチレン系樹脂、又はプロピレン系樹脂である。
なお、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーとして最も好ましいものは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンである。
【0066】
本発明で用いるα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーは、ポリマー100質量部に対して、α,β-不飽和カルボン酸0.1~20質量部、特に0.2~10質量部の範囲でグラフト変性されたポリマー、即ち、ポリマー100質量%に対するα,β-不飽和カルボン酸による変性率が0.1~20質量%、特に0.2~10質量%のα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーであることが好ましく、この変性率が0.1質量%未満では十分な接着性を有する熱可塑性エラストマーを製造することができず、一方20質量%超過では未反応物や副生成物の混入が多くなり、接着性が低下する。
【0067】
なお、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーのα,β-不飽和カルボン酸による変性率は、例えば、1H-NMR、赤外吸収スペクトル、高周波プラズマ発光分析装置を用いたICP発光分析法等により確認することができる。即ち、例えば、α,β-不飽和カルボン酸がマレイン酸であった場合、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中のマレイン酸特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。
このようにして測定されるα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー中のα,β-不飽和カルボン酸量は、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーの変性用基材のポリマーにグラフトしたα,β-不飽和カルボン酸量とこのポリマーにグラフトしていないα,β-不飽和カルボン酸成分の合計である。本発明では、上記の測定方法で測定される変性用基材のポリマーにグラフトしたα,β-不飽和カルボン酸とグラフトしていないα,β-不飽和カルボン酸成分の合計をα,β-不飽和カルボン酸量或いは変性率とする。
【0068】
α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーの製造方法には特に制限はなく、変性方法についても特に制限はなく、有機溶媒中で反応させる溶液変性方法や押出機内において変性させる溶融変性法を採用することができる。
【0069】
このようなα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーは、1種のみを用いてもよく、変性剤としてのα,β-不飽和カルボン酸、変性用基材ポリマーや変性率等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマーは、熱可塑性エラストマー中のα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー由来のα,β-不飽和カルボン酸濃度(α,β-不飽和カルボン酸含有量)が0.1~10質量%となるように、前述のスチレン系熱可塑性エラストマーにα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーを配合してなる。このα,β-不飽和カルボン酸濃度が0.01質量%未満では、炭素繊維強化プラスチックに対する密着性が劣り接着性を十分に得ることができず、10質量%を超えると接着性が低下する。本発明の熱可塑性エラストマーのα,β-不飽和カルボン酸濃度は、好ましくは0.01~8質量%であり、より好ましくは0.01~6質量%である。
【0071】
<有機過酸化物>
本発明の熱可塑性エラストマーは、上記の成分(a)~成分(d)とα,β-不飽和カルボン酸変性ポリマーを、押出機などの混合機を用いて加熱混合することにより製造することができるが、その際に、有機過酸化物や架橋助剤を混合して架橋処理を行っても構わない。
【0072】
有機過酸化物としては、具体的にはジメチルペルオキシド、ジーt-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4,-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t--ブチルクミルペルオキシド等が挙げられ、好ましくは、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4,-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレートである。これらの有機過酸化物は、1種を単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
有機過酸化物は、例えば、成分(a)~成分(d)の成分を含む場合は、それらすべての成分の合計100質量部に対して、通常0.05~3質量部、好ましくは0.1~2質量部の範囲で使用される。
【0074】
これら有機過酸化物による架橋処理に際し、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N-4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン-N,N’-m-フェニレンジマレイミドのようなペルオキシ架橋用助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のような多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルアセテートのような多官能性ビニルモノマーを配合することができる。
【0075】
上記の架橋助剤、多官能性メタクリレートもしくは多官能性ビニルポリマーは、例えば、成分(a)~成分(d)をすべて含む場合は、それらすべての成分の合計量100質量部に対して、通常0.1~5質量部、好ましくは0.2~4質量部で用いられる。
【0076】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマーには、必要に応じて、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、着色剤、充填剤等の各種添加剤や、必須成分以外のその他の熱可塑性樹脂やゴムを配合してもよい。
【0077】
これらのうち、特に安定剤として酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。酸化防止剤として、例えばモノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、フェニレンジアミン系のものが挙げられる。これらの中では、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系の酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を配合する場合、その添加量は、本発明のスチレン系熱可塑性エラストマー、即ち、例えば、成分(a)~(d)をすべて含む場合は、そのすべての成分の合計100質量部に対して、通常0.01~5質量部、好ましくは0.05~3質量部である。この添加量が0.01質量部未満では酸化防止剤の効果が得られにくく、また5質量部を超えても添加量に見合う向上効果は得られず、コスト面で好ましくない。
【0078】
必須成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、生分解性樹脂、植物由来原料樹脂などを挙げることができる。
また、ゴムとしては、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムなどのオレフィン系ゴム、ポリブタジエンゴムや、必須成分以外のスチレン系共重合体ゴムを挙げることができる。
【0079】
<熱可塑性エラストマーの製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマーは、成分(a):水添ブロック共重合体、成分(b):炭化水素系軟化剤、成分(c):水添ブロック共重合体、成分(d):オレフィン系結晶樹脂、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー、更に必要に応じて有機過酸化物、架橋助剤、各種添加剤を含む熱可塑性エラストマーのブレンド物を加熱混練することにより製造される。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマーの製造において、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダーなどが使用され、混練装置としては、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、単軸押出機または二軸押出機等が使用される。
【0081】
<熱可塑性エラストマーの成形>
本発明の熱可塑性エラストマーは、射出成形機、単軸押出成形機、二軸押出成形機、圧縮成形機、カレンダー加工機等の成形機で成形することができ、その成形物をプリプレグCFRPと積層一体成形して複合化することにより、各種構造物を得ることができる。
【0082】
[積層成形体]
本発明の積層成形体は、炭素繊維強化プラスチックと、該炭素繊維強化プラスチックに積層された本発明の熱可塑性エラストマーよりなる熱可塑性エラストマー層とを有するものであり、炭素繊維強化プラスチックと炭素繊維強化プラスチックとの間に中間層として熱可塑性エラストマー層が積層されたものであってもよく、炭素繊維強化プラスチック上に表皮として熱可塑性エラストマー層が積層されたものであってもよい。
また、炭素繊維強化プラスチック上に積層された熱可塑性エラストマー層上に、更に摺動性材料の層が積層されたものであってもよい。
【0083】
炭素繊維強化プラスチックとしては、通常炭素繊維強化エポキシ樹脂が用いられるが、炭素繊維強化プラスチックの樹脂種は何らエポキシ樹脂に限定されるものではない。
【0084】
また、表層に用いられる摺動性材料としては、シラン架橋ポリエチレン等を用いることができる。
【0085】
このような本発明の積層成形体は、炭素繊維強化プラスチックに密着性よく積層された熱可塑性エラストマーによりその耐衝撃性が大幅に改善されており、各種自動車部品構造体をはじめ、船舶部品構造体、動力部品構造体、建築部品構造体等の幅広い分野に適用可能であるが、なかでも軽量化が強く望まれる自動車用途に好適であり、これらの用途において、本発明の耐衝撃性改善の効果が充分に発揮される。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0087】
[原材料]
以下の諸例では次の原材料を使用した。
【0088】
<成分(a):水添ブロック共重合体>
SEBS-1:スチレンブロック-ブタジエンブロック-スチレンブロックの共重合体の水素添加物
スチレン含有量:33質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約26万
SEBS-2:スチレンブロック-ブタジエンブロック-スチレンブロックの共重合体の水素添加物
スチレン含有量:29質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約9万
【0089】
<成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤>
OIL-1:パラフィン系オイル(出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW-90」)
重量平均分子量:550
40℃の動粘度:96mm2/sec
【0090】
<成分(c):水添ブロック共重合体>
SEPS-1:スチレンブロック-イソプレンブロック-スチレンブロックの共重合体の水素添加物
スチレン含有量:20質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約10万
【0091】
<成分(d):オレフィン系結晶性樹脂>
PP-1:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製)
メルトフローレート:5g/10分(230℃、21.2N荷重)
PP-2:プロピレン・エチレンランダム共重合体(日本ポリプロ(株)製)
メルトフローレート:1g/10分(230℃、21.2N荷重)
【0092】
<α,β-不飽和カルボン酸変性ポリマー>
MAH-PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン
無水マレイン酸含有量(変性率):1.0質量%
【0093】
<評価方法>
得られた熱可塑性エラストマーの評価は次の方法で行った。
実施例及び比較例における、熱可塑性エラストマーの各種評価方法を以下に示す。なお、下記(2)の測定においては、インラインスクリュータイプの射出成形機(東芝機械社製、商品番号:IS130)を用い、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下にて、各熱可塑性エラストマーを射出成形して厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシートを成形した。また、下記(3)の引張試験においては、JIS K6251に準拠し、試験片打抜刃(JIS 3号形 ダンベル状)を用いて、得られたシート(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mm)からダンベル状の試験片を打ち抜き、この試験片を用いて測定した。
【0094】
(1)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠し、230℃、荷重21.2Nで測定した。
【0095】
(2)硬度デュロA
JIS K6253(JIS-A)に準拠し、硬度(15秒後)を測定した。
【0096】
(3)切断時引張強さ/切断時伸び(引張試験)
JIS K6251に準拠し、試験速度:500mm/分で測定した。
【0097】
<最大剥離強度>
エポキシ樹脂を含浸したCFRPのプリプレグ(20cm角、厚さ0.35mm)の2枚のシートの間に、各例で得られた熱可塑性エラストマーシートを挟み、オートクレーブ中で130℃、圧力0.5MPaにて4時間加熱圧着させ、CFRPシート間に熱可塑性エラストマーシートが積層された積層成形体を得た。
得られた積層成形体の一方のCFRPシートと熱可塑性エラストマーシートに、カッターで幅25mmで切り込みを入れ、他方のCFRPシートと熱可塑性エラストマーの間を剥がし、そのCFRPシートの端とCFRPシートと熱可塑性エラストマーシートが積層された端を各々オートグラフのチャックに取付け、180゜剥離することによって最大剥離強度を測定した。
【0098】
<衝撃試験>
上記の密着強度の評価におけると同様にして作成した積層成形体のシート面に対して、デュポン衝撃試験を用いて、撃ち型φ0.625インチにて、常温で1kgの錘を30cmの高さから落とし、積層成形体の割れ具合を観察し、下記基準で評価した。
また、比較例2として、熱可塑性エラストマーシートを用いず、CFRPのプリプレグのみを用いて、上記の最大剥離強度におけると同様に積層成形体を得、このCFRPのみの積層成形体についても、同様に衝撃試験を行って評価した。
○:CFRPシートが割れずに残っていた。
×:CFRPシートが割れてしまっていた。
【0099】
<長期保管後の最大剥離強度>
各例で得られた熱可塑性エラストマーシートを室温で3カ月放置した後、上記の最大剥離強度の評価におけると同様にして積層成形体を作成し、得られた積層成形体について、上記の最大剥離強度と同様に180°の最大剥離強度を測定した。
【0100】
<総合評価>
上記結果に基づき、以下の基準にて総合評価をした
◎:最大剥離強度が10.0N/cm以上で、衝撃試験でCFRPシートが割れずに残っていた。
○:最大剥離強度が1.0N/cm以上10.0N/cm未満で、衝撃試験でCFRPシートが割れずに残っていた。
×:最大剥離強度が1.0N/cm未満で、衝撃試験でCFRPシートが割れずに残っていた。
××:最大剥離強度が1.0N/cm未満で、衝撃試験でCFRPシートが割れてしまった。
【0101】
[実施例1~5、比較例1]
<熱可塑性エラストマーの調製>
表-1に示す配合量に対して、安定剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャルティーケミカルズ(株)製「イルガノックス1010」)0.1質量部を添加してヘンシェルミキサーで混合し、重量式フィーダーを用いてJSW製二軸押出機「TEX30」にて、210℃、スクリュー回転数400rpmで押し出しを行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0102】
<熱可塑性エラストマーシートの作製>
この熱可塑性エラストマーをプレスにて、温度200℃の条件でプレス成形し、厚さ1mmのシートを作製した。
【0103】
得られた熱可塑性エラストマーシートを用いて、各々評価を行い、結果を表-1に示した。
【0104】
【0105】
表-1より本発明の熱可塑性エラストマーにより、炭素繊維強化プラスチックとの積層成形を容易に行って、密着性の高い積層成形体を得ることができ、炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を大幅に改善することができることが分かる。また、本発明の熱可塑性エラストマーは、長期保管後の成形においても密着性を確保でき、密着性が高く耐久用途に使用可能な炭素繊維強化プラスチック積層成形体を提供することができることが分かる。
【0106】
これに対して、熱可塑性エラストマーを積層していない比較例2の積層成形体は耐衝撃性が悪い。熱可塑性エラストマーに成分(c)を含まない比較例1では、CFRPに対する密着性が悪い。