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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】直噴エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20221220BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20221220BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20221220BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F02D41/04
F02B23/10 N
F02B23/10 V
F02B23/10 310B
F02B23/10 M
F02D41/02
F02D41/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018045747
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019157767
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】乃生 芳尚
(72)【発明者】
【氏名】太田 統之
(72)【発明者】
【氏名】陰山 明
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025116(JP,A)
【文献】特開2016-217312(JP,A)
【文献】特開平10-317972(JP,A)
【文献】特開2007-032560(JP,A)
【文献】特開平10-159568(JP,A)
【文献】特開平11-002158(JP,A)
【文献】特開平10-054245(JP,A)
【文献】特開2003-254067(JP,A)
【文献】特開平10-131758(JP,A)
【文献】国際公開第96/030633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/04
F02B 23/10
F02D 41/02
F02D 41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を構成する気筒を有する直噴エンジンであって、
頂部から吸気側に傾斜してなる吸気側傾斜面と、排気側に傾斜してなる排気側傾斜面とを有するペントルーフ形の面で構成され、前記燃焼室の天井を構成する天井面と、
前記気筒内を、気筒軸方向に摺動し、冠面が前記燃焼室の前記気筒軸方向の下面を構成するとともに、前記冠面における前記気筒軸が交差する領域に前記気筒軸方向下側に凹んだキャビティを有するピストンと、
前記吸気側傾斜面に開口された吸気側開口部を有し、当該吸気側開口部で前記燃焼室に連続する吸気ポートと、
前記排気側傾斜面に開口された排気側開口部を有し、当該排気側開口部で前記燃焼室に連続する排気ポートと、
前記天井から前記燃焼室を臨むように設けられた燃料噴射弁と、
を備え、
前記吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、当該吸気ポートの中心軸は、前記吸気側開口部から空気の流れ方向の上流側における所定領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向外側を向くように配設されており、
前記気筒軸に対して直交する仮想平面を仮定するとき、当該仮想平面に対して前記排気側傾斜面がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側傾斜面がなす傾斜角よりも小さくなっており、
前記燃料噴射弁からは、所定のエンジン負荷領域において、圧縮行程の後期で前記燃焼室内に燃料が噴射され、
前記ピストンの前記冠面は、前記キャビティの周縁であって、前記吸気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した吸気側斜面部と、前記排気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した排気側斜面部と、を有し、
前記仮想平面に対して前記排気側斜面部がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さい、
直噴エンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の直噴エンジンであって、
前記ピストンの前記冠面における前記吸気側斜面部は、前記天井面における前記吸気側傾斜面に沿っており、
前記ピストンの前記冠面における前記排気側斜面部は、前記天井面における前記排気側傾斜面に沿っている、
直噴エンジン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直噴エンジンであって、
前記吸気ポートは、
前記吸気側傾斜面に開口された第1吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立吸気ポートと、
前記吸気側傾斜面に対して前記第1吸気側開口部とは間隔を空けて開口された第2吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立吸気ポートと、
を有し、
前記第1独立吸気ポートおよび前記第2独立吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、
前記第1独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第1吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における一方の外側を向くように配設されており、
前記第2独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第2吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における他方の外側を向くように配設されている、
直噴エンジン。
【請求項4】
燃焼室を構成する気筒を有する直噴エンジンであって、
頂部から吸気側に傾斜してなる吸気側傾斜面と、排気側に傾斜してなる排気側傾斜面とを有するペントルーフ形の面で構成され、前記燃焼室の天井を構成する天井面と、
前記気筒内を、気筒軸方向に摺動し、冠面が前記燃焼室の前記気筒軸方向の下面を構成するとともに、前記冠面における前記気筒軸が交差する領域に前記気筒軸方向下側に凹んだキャビティを有するピストンと、
前記吸気側傾斜面に開口された吸気側開口部を有し、当該吸気側開口部で前記燃焼室に連続する吸気ポートと、
前記排気側傾斜面に開口された排気側開口部を有し、当該排気側開口部で前記燃焼室に連続する排気ポートと、
前記天井から前記燃焼室を臨むように設けられた燃料噴射弁と、
を備え、
前記吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、当該吸気ポートの中心軸は、前記吸気側開口部から空気の流れ方向の上流側における所定領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向外側を向くように配設されており、
前記気筒軸に対して直交する仮想平面を仮定するとき、当該仮想平面に対して前記排気側傾斜面がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側傾斜面がなす傾斜角よりも小さくなっており、
前記燃料噴射弁からは、所定のエンジン負荷領域において、圧縮行程の後期で前記燃焼室内に燃料が噴射され、
前記吸気ポートは、
前記吸気側傾斜面に開口された第1吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立吸気ポートと、
前記吸気側傾斜面に対して前記第1吸気側開口部とは間隔を空けて開口された第2吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立吸気ポートと、
を有し、
前記第1独立吸気ポートおよび前記第2独立吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、
前記第1独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第1吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における一方の外側を向くように配設されており、
前記第2独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第2吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における他方の外側を向くように配設されており、
前記排気ポートは、
前記排気側傾斜面に開口された第1排気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立排気ポートと、
前記排気側傾斜面に対して前記第1排気側開口部とは間隔を空けて開口された第2排気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立排気ポートと、
を有し、
前記ピストンの前記冠面は、
前記第1吸気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、前記第2吸気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、の間の領域に、前記仮想平面に沿う吸気バルブ間平面部と、
前記第1排気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、前記第2排気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、の間の領域に、前記仮想平面に沿う排気バルブ間平面部と、
を有する、
直噴エンジン。
【請求項5】
請求項4に記載の直噴エンジンであって、
前記ピストンの前記冠面は、前記キャビティの周縁であって、前記吸気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した吸気側斜面部と、前記排気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した排気側斜面部と、を有し、
前記仮想平面に対して前記排気側斜面部がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さい、
直噴エンジン。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の直噴エンジンであって、
前記燃料噴射弁からは、前記所定のエンジン負荷領域において、前記圧縮行程の後期で前記燃焼室内に対して燃料が間欠的に複数回噴射される、
直噴エンジン。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の直噴エンジンであって、
前記吸気側開口部の開閉を行う吸気バルブを更に備え、
前記吸気バルブは、前記吸気ポートの上壁を挿通し、当該吸気ポート内に挿入された軸部と、前記軸部の前記燃焼室側の先端部に設けられた傘部と、を有し、
前記吸気ポートにおける前記上壁の内面は、前記吸気バルブの前記軸部が挿通した部分に対して前記空気の流れ方向の上流側に隣接する部分が、前記吸気側開口部側を指向する
よう傾斜面を以って構成されている、
直噴エンジン。
【請求項8】
請求項7に記載の直噴エンジンであって、
前記吸気ポートにおける前記内面の前記傾斜面を以って構成された部分は、当該部分よりも前記空気の流れ方向の上流側の部分に対して滑らかな曲面で接続されている、
直噴エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直噴エンジンに関し、特に燃焼室および吸気ポートの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用等の直噴エンジンでは、吸気ポートを介して燃焼室に空気を吹き込むとともに、天井面に配設された燃料噴射弁から燃料を噴射し、燃焼室内で混合気を形成する。
【0003】
このような直噴エンジンに対しては、熱効率の向上が求められている。熱効率の向上を図るための一方策として、冷却損失の低減を図ることが重要となる。冷却損失の低減を図るため、特許文献1に開示の技術では、ピストンの冠面に対して混合気が直接接触しないように、ピストンの冠面と混合気との間に空気層を設けるための構成が開示されている。
【0004】
特許文献1では、ピストンの冠面と混合気との間に設けた空気層が断熱層として機能し、熱効率の改善を図ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-194712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、直噴エンジンにおいては、吸気ポートから燃焼室内に導入された空気が、排気ポート開口部側に向けて進み、燃焼室内で正タンブル流を形成するが、当該正タンブル流が強すぎると冷却損失が増大し、熱効率の更なる向上を図ることが困難となる。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、燃焼室内に適切なタンブル流を生成することにより、冷却損失の低減を図ることで更なる熱効率の向上を図ることができる直噴エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る直噴エンジンは、燃焼室を構成する気筒を有する直噴エンジンであって、頂部から吸気側に傾斜してなる吸気側傾斜面と、排気側に傾斜してなる排気側傾斜面とを有するペントルーフ形の面で構成され、前記燃焼室の天井を構成する天井面と、前記気筒内を、気筒軸方向に摺動し、冠面が前記燃焼室の前記気筒軸方向の下面を構成するとともに、前記冠面における前記気筒軸が交差する領域に前記気筒軸方向下側に凹んだキャビティを有するピストンと、前記吸気側傾斜面に開口された吸気側開口部を有し、当該吸気側開口部で前記燃焼室に連続する吸気ポートと、前記排気側傾斜面に開口された排気側開口部を有し、当該排気側開口部で前記燃焼室に連続する排気ポートと、前記天井から前記燃焼室を臨むように設けられた燃料噴射弁と、を備え、前記吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、当該吸気ポートの中心軸は、前記吸気側開口部から空気の流れ方向の上流側における所定領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向外側を向くように配設されており、前記気筒軸に対して直交する仮想平面を仮定するとき、当該仮想平面に対して前記排気側傾斜面がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側傾斜面がなす傾斜角よりも小さくなっており、前記燃料噴射弁からは、所定のエンジン負荷領域において、圧縮行程の後期で前記燃焼室内に燃料が噴射され、前記ピストンの前記冠面は、前記キャビティの周縁であって、前記吸気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した吸気側斜面部と、前記排気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した排気側斜面部と、を有し、前記仮想平面に対して前記排気側斜面部がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さい。
【0009】
上記態様に係る直噴エンジンでは、吸気ポートの中心軸における、空気の流れ方向の上流側から吸気側開口部にかけての領域が、気筒の上記軸線に対して径方向外側を向くように配設されているので、吸気側開口部から燃焼室に導入された空気は、気筒の径方向外側に向けて進むことになる。そして、燃焼室内において、導入された空気は、気筒の内周面に当たって旋回し、燃焼室中央側へと進む。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内で小さく旋回する正タンブル流を生成することができる。
【0010】
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、導入された空気を気筒の内周面に当てることにより、正タンブル流の強さを弱めることができ、逆タンブル流(吸気側開口部から排気側とは逆向きに導入された空気により生成されるタンブル流)との相対的な関係で渦の拡散を促進することができる。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室の中央部分での混合気の成層化が可能となる。
【0011】
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、上記仮想平面に対する排気側傾斜面の傾斜角が、上記仮想平面に対する吸気側傾斜面の傾斜角よりも小さく設定されているので、吸気側開口部から燃焼室内に導入された空気は、排気側傾斜面から剥離して行く。即ち、上記態様に係る直噴エンジンでは、排気側傾斜面の傾斜角を上記のように設定することにより、吸気側開口部から排気側に向けて導入された空気が、排気側傾斜面に沿い難くなり、小さく旋回する正タンブル流を生成することができる。これによっても、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内において、正タンブル流と逆タンブル流との強さのバランスをとることができ、燃焼室の中央部分での混合気の成層化が可能となる。
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、ピストンの冠面において、上記仮想平面に対して排気側斜面部がなす傾斜角が、上記仮想平面に対して吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さく設定されているので、圧縮行程時に生成されるスキッシュ流の水平成分(気筒軸に直交する方向の成分)について、吸気側よりも排気側で大きくなる。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、上記のようなスキッシュ流の強弱をつけることによって、正タンブル流と逆タンブル流との強さのバランスを更に良好なものとすることが可能となる。
【0012】
従って、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内に適切なタンブル流を生成することにより、冷却損失の低減を図ることで更なる熱効率の向上を図ることができる。
【0013】
なお、上記態様における「吸排気方向」とは、気筒軸に対して直交する仮想平面内において、吸気側開口部の中心と排気側開口部の中心とを結ぶ方向である。なお、気筒あたりに2つの吸気側開口部と2つの排気側開口部とが設けられており、2つの吸気側開口部同士の間隔と2つの排気側開口部同士の間隔とが異なるような場合にあっては、2つの吸気側開口部同士の中点と2つの排気側開口部同士の中点とを結ぶ方向である。
【0016】
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記ピストンの前記冠面における前記吸気側斜面部は、前記天井面における前記吸気側傾斜面に沿っており、前記ピストンの前記冠面における前記排気側斜面部は、前記天井面における前記排気側傾斜面に沿っている。
【0017】
上記態様に係る直噴エンジンでは、ピストンの吸気側斜面部と天井面の吸気側傾斜面と
が互いに沿い、ピストンの排気側斜面部と天井面の排気側傾斜面とも互いに沿っているので、圧縮行程時にスキッシュ流を生成するのに優位である。また、上記態様に係る直噴エンジンでも排気側からのスキッシュ流と吸気側からのスキッシュ流とに強弱をつけているので、正タンブル流と逆タンブル流との強さのバランスを更に良好なものとすることが可能となる。
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記吸気ポートは、前記吸気側傾斜面に開口された第1吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立吸気ポートと、前記吸気側傾斜面に対して前記第1吸気側開口部とは間隔を空けて開口された第2吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立吸気ポートと、を有し、前記第1独立吸気ポートおよび前記第2独立吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、前記第1独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第1吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における一方の外側を向くように配設されており、前記第2独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第2吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における他方の外側を向くように配設されている。
上記態様に係る直噴エンジンでは、第1独立吸気ポートの中心軸と、第2独立吸気ポートの中心軸とが、互いに気筒の径方向における反対となる外側を向くように構成されているので、第1吸気側開口部から燃焼室に導入された空気と、第2吸気側開口部から燃焼室
に導入された空気と、のそれぞれが気筒の内周面に当たって、互いに対向する成分を有する状態で旋回する。このため、上記態様に係る直噴エンジンでは、2つの正タンブル流同士で力を打ち消し合い、渦の拡散を促進するのに更に優位である。
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、燃焼室を構成する気筒を有する直噴エンジンであって、頂部から吸気側に傾斜してなる吸気側傾斜面と、排気側に傾斜してなる排気側傾斜面とを有するペントルーフ形の面で構成され、前記燃焼室の天井を構成する天井面と、前記気筒内を、気筒軸方向に摺動し、冠面が前記燃焼室の前記気筒軸方向の下面を構成するとともに、前記冠面における前記気筒軸が交差する領域に前記気筒軸方向下側に凹んだキャビティを有するピストンと、前記吸気側傾斜面に開口された吸気側開口部を有し、当該吸気側開口部で前記燃焼室に連続する吸気ポートと、前記排気側傾斜面に開口された排気側開口部を有し、当該排気側開口部で前記燃焼室に連続する排気ポートと、前記天井から前記燃焼室を臨むように設けられた燃料噴射弁と、を備え、前記吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、当該吸気ポートの中心軸は、前記吸気側開口部から空気の流れ方向の上流側における所定領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向外側を向くように配設されており、前記気筒軸に対して直交する仮想平面を仮定するとき、当該仮想平面に対して前記排気側傾斜面がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側傾斜面がなす傾斜角よりも小さくなっており、前記燃料噴射弁からは、所定のエンジン負荷領域において、圧縮行程の後期で前記燃焼室内に燃料が噴射され、前記吸気ポートは、前記吸気側傾斜面に開口された第1吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立吸気ポートと、前記吸気側傾斜面に対して前記第1吸気側開口部とは間隔を空けて開口された第2吸気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立吸気ポートと、を有し、前記第1独立吸気ポートおよび前記第2独立吸気ポートを前記気筒軸方向から平面視するとき、前記第1独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第1吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における一方の外側を向くように配設されており、前記第2独立吸気ポートの中心軸は、空気の流れ方向の上流側から前記第2吸気側開口部にかけての領域が、前記気筒の中心軸を通り吸排気方向に沿う軸線に対して前記気筒の径方向における他方の外側を向くように配設されており、前記排気ポートは、前記排気側傾斜面に開口された第1排気側開口部で前記燃焼室に連続する第1独立排気ポートと、前記排気側傾斜面に対して前記第1排気側開口部とは間隔を空けて開口された第2排気側開口部で前記燃焼室に連続する第2独立排気ポートと、
を有し、前記ピストンの前記冠面は、前記第1吸気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、前記第2吸気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、の間の領域に、前記仮想平面に沿う吸気バルブ間平面部と、前記第1排気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、前記第2排気側開口部に対して前記気筒軸方向の下方の部分と、の間の領域に、前記仮想平面に沿う排気バルブ間平面部と、を有する。
上記態様に係る直噴エンジンでは、吸気ポートの中心軸における、空気の流れ方向の上流側から吸気側開口部にかけての領域が、気筒の上記軸線に対して径方向外側を向くように配設されているので、吸気側開口部から燃焼室に導入された空気は、気筒の径方向外側に向けて進むことになる。そして、燃焼室内において、導入された空気は、気筒の内周面に当たって旋回し、燃焼室中央側へと進む。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内で小さく旋回する正タンブル流を生成することができる。
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、導入された空気を気筒の内周面に当てることにより、正タンブル流の強さを弱めることができ、逆タンブル流(吸気側開口部から排気側とは逆幹に導入された空気により生成されるタンブル流)との相対的な関係で渦の拡散を促進することができる。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室の中央部分での混合気の成層化が可能となる。
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、上記仮想平面に対する排気側傾斜面の傾斜角が、上記仮想平面に対する吸気側傾斜面の傾斜角よりも小さく設定されているので、吸気側開口部から燃焼室内に導入された空気は、排気側傾斜面から剥離して行く。即ち、上記態様に係る直噴エンジンでは、排気側傾斜面の傾斜角を上記のように設定することにより、吸気側開口部から排気側に向けて導入された空気が、排気側傾斜面に沿い難くなり、小さく旋回する正タンブル流を生成することができる。これによっても、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内において、正タンブル流と逆タンブル流との強さのバランスをとることができ、燃焼室の中央部分での混合気の成層化が可能となる。
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、第1独立吸気ポートの中心軸と、第2独立吸気ポートの中心軸とが、互いに気筒の径方向における反対となる外側を向くように構成されているので、第1吸気側開口部から燃焼室に導入された空気と、第2吸気側開口部から燃焼室に導入された空気と、のそれぞれが気筒の内周面に当たって、互いに対向する成分を有する状態で旋回する。このため、上記態様に係る直噴エンジンでは、2つの正タンブル流同士で力を打ち消し合い、渦の拡散を促進するのに更に優位である。
また、上記態様に係る直噴エンジンでは、ピストンの冠面において、上記のように吸気バルブ間平面部と排気バルブ間平面部とを設けているので、圧縮行程時に吸気バルブ平面部および排気バルブ平面部と天井面との間でのスキッシュ流の生成が抑制される。このため、上記態様に係る直噴エンジンでは、圧縮行程から燃焼中に至る過程での成層化された混合気の乱れ発生を抑制することが可能である。
従って、上記態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内に適切なタンブル流を生成することにより、冷却損失の低減を図ることで更なる熱効率の向上を図ることができる。
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記ピストンの前記冠面は、前記キャビティの周縁であって、前記吸気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した吸気側斜面部と、前記排気側傾斜面に対向し、前記仮想平面に対して傾斜した排気側斜面部と、を有し、前記仮想平面に対して前記排気側斜面部がなす傾斜角は、前記仮想平面に対して前記吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さい。
上記態様に係る直噴エンジンでは、ピストンの冠面において、上記仮想平面に対して排気側斜面部がなす傾斜角が、上記仮想平面に対して吸気側斜面部がなす傾斜角よりも小さく設定されているので、圧縮行程時に生成されるスキッシュ流の水平成分(気筒軸に直交する方向の成分)について、吸気側よりも排気側で大きくなる。よって、上記態様に係る直噴エンジンでは、上記のようなスキッシュ流の強弱をつけることによって、正タンブル流と逆タンブル流との強さのバランスを更に良好なものとすることが可能となる。
【0018】
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記燃料噴射弁からは、前記所定のエンジン負荷領域において、前記圧縮行程の後期で前記燃焼室内に対して燃料が間欠的に複数回噴射される。
【0019】
上記態様に係る直噴エンジンでは、圧縮行程の後期で燃料噴射を間欠的に複数回行うこととしているので、燃料噴射の噴射速度が速くなり過ぎず、噴射された燃料がピストンの冠面に直接接するのを抑制することができ、冷却損失の更なる低減を図ることが可能である。
【0020】
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記吸気側開口部の開閉を行う吸気バルブを更に備え、前記吸気バルブは、前記吸気ポートの上壁を挿通し、当該吸気ポート内に挿入された軸部と、前記軸部の前記燃焼室側の先端部に設けられた傘部と、を有し、前記吸気ポートにおける前記上壁の内面は、前記吸気バルブの前記軸部が挿通した部分に対して前記空気の流れ方向の上流側に隣接する部分が、前記吸気側開口部側を指向するよう傾斜面を以って構成されている。
【0021】
上記態様に係る直噴エンジンでは、吸気ポートの内面における上記隣接する部分に傾斜面を構成しているので、吸気側開口部から燃焼室に対して導入される空気の流れを、気筒軸方向の下向きとすることができ、小さく旋回する正タンブル流を生成するのに更に優位である。
【0022】
本発明の別態様に係る直噴エンジンは、上記態様であって、前記吸気ポートにおける前記内面の前記傾斜面を以って構成された部分は、当該部分よりも前記空気の流れ方向の上流側の部分に対して滑らかな曲面で接続されている。
【0023】
上記態様に係る直噴エンジンでは、吸気ポートの内面において、傾斜面を以って構成された部分とその上流側の部分とが滑らかな曲面を以って構成されているので、当該部分での空気流れの損失を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
上記の各態様に係る直噴エンジンでは、燃焼室内に適切なタンブル流を生成することにより、冷却損失の低減を図ることで更なる熱効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1に係る直噴エンジンの構成を示す模式断面図である。
図2】直噴エンジンにおける気筒の構成を示す模式平面図である。
図3】燃焼室における天井面の構成を示す模式断面図である。
図4】吸気ポートの構成を示す模式断面図である。
図5図4のV-V断面を示す図であって、独立吸気ポートにおける傾斜面が設けられた部分を示す模式断面図である。
図6図2のVI-VI断面を示す図であって、天井面における外縁部およびピストン冠面における外縁部の構成を示す模式断面図である。
図7】ピストン冠面を示す模式平面図である。
図8】燃焼室内における空気の流れを示す模式図である。
図9】圧縮行程中に生成されるスキッシュ流を示す模式図である。
図10】燃料噴射弁の一部構成を示す模式断面図である。
図11】燃料噴射期間を示すタイミングチャートである。
図12】ピストンのキャビティに対する噴射燃料を状態を示す模式図である。
図13】実施形態2に係る直噴エンジンにおける気筒の構成を示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0031】
なお、以下で用いる図面において、「In」は吸気側、「Ex」は排気側を示し、また、「Up」は気筒軸方向上側、「Lo」は気筒軸方向下側を示し、「OP」は機関出力軸方向の一方側、「OP」は機関出力軸方向の他方側を示す。
【0032】
[実施形態1]
1.直噴エンジン1の構成
本実施形態に係る直噴エンジン(以下では、単に「エンジン」と記載する。)1の構成について、図1および図2を用い説明する。
【0033】
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3とを備える。シリンダブロック2には、気筒1aごとに燃焼室10が構成されている。シリンダブロック2内には、円筒形状を有するシリンダライナ5が嵌入されている。シリンダライナ4の内周が燃焼室10の側周面を構成する。
【0034】
シリンダライナ4の内方には、ピストン5が上下方向(Up-Lo方向)に摺動自在の状態で配されている。ピストン5の冠面5bには、気筒軸方向の下側(Lo側)に向けて凹んだキャビティ5aが設けられている。ピストン5の冠面5bに対するキャビティ5aの配置形態については、後述する。
【0035】
ピストン5には、コネクティングロッド(コンロッド)18が連結されている。コネクティングロッド18は、気筒軸方向の下側(Lo側)の部分で機関出力軸(図示を省略。)に連結されている。
【0036】
シリンダヘッド3には、吸気側(In側)に吸気ポート6が設けられ、排気側(Ex側)に排気ポート7が設けられている。図2に示すように、吸気ポート6は、独立吸気ポート61,62と集合吸気ポート63との組み合わせを以って構成されている。
【0037】
独立吸気ポート61は、燃焼室10に対して吸気ポート開口部6aで連続され、独立吸気ポート62は、燃焼室10に対して吸気ポート開口部6bで連続されている。集合吸気ポート63は、独立吸気ポート61と独立吸気ポート62とが、吸気側(In側)で集合されてなる部分である。
【0038】
図2に示すように、排気ポート7は、独立排気ポート71,72を有する。独立排気ポート71は、燃焼室10に対して排気ポート開口部7aで連続されている。独立排気ポート72は、燃焼室10に対して排気ポート開口部7bで連続されている。
【0039】
続いて図2に示すように、シリンダヘッド3には、気筒軸Ax1aに合致する箇所、即ち、気筒1aの中心に燃料噴射弁15が取り付けられている。
【0040】
図2において、気筒軸Ax1aを通り、機関出力軸方向(OP-OP方向)に延びる仮想線Ax1Yを引く。シリンダヘッド3には、仮想線Ax1Y上において、燃料噴射弁15を間に挟んだそれぞれの位置に点火栓16,17が取り付けられている。点火栓16,17は、一方がアーク放電プラグであり、他方が低温プラズマプラグである。
【0041】
なお、点火栓16,17のそれぞれとして、アーク放電プラグおよび低温プラズマプラグの機能を兼ね添えたプラグ採用することとしてもよい。
【0042】
図1に戻って、シリンダヘッド3では、吸気ポート開口部6a,6bに対してバルブシート8が嵌入され(図1では、吸気ポート開口部6aに対して嵌入されたバルブシート8のみを図示)、排気ポート開口部7a,7bに対してバルブシート9が嵌入されている(図1では、排気ポート開口部7aに対して嵌入されたバルブシート8のみを図示)。
【0043】
また、シリンダヘッド3には、吸気ポート開口部6a,6bの開閉を行う吸気バルブ11が設けられ(図1では、吸気ポート開口部6aの開閉を行う吸気バルブ11のみを図示)、排気ポート開口部7a,7bの開閉を行う排気バルブ12が設けられている(図1では、排気ポート開口部7aの開閉を行う排気バルブ11のみを図示)。
【0044】
吸気バルブ11は、傘部11aと軸部11bとで構成されており、軸部11bが円筒状のバルブガイド13の内方を上下方向(Up-Lo方向)に摺動可能とされている。排気バルブ12も、傘部12aと軸部12bとで構成されており、軸部12bが同じく円筒状のバルブガイド14の内方を上下方向(Up-Lo方向)に摺動可能とされている。
【0045】
図1に示すように、気筒1aの燃焼室10は、シリンダヘッド3の下側(Lo側)の面である天井面3aと、吸気バルブ11における傘部11aの下面と、排気バルブ12における傘部12aの下面と、シリンダライナ4の内周面4aと、ピストン5の冠面5bと、で囲まれて構成されており、ペントルーフ形の燃焼室である。
【0046】
2.吸気ポート6における独立吸気ポート61,62の配設形態
吸気ポート6における独立吸気ポート61,62の配設形態について、引き続き図2を用い説明する。
【0047】
図2に示すように、気筒軸Ax1aから吸排気方向(In-Ex方向)に仮想線Ax1Xを引く。このとき、独立吸気ポート61は、その中心軸Ax61が仮想線Ax1Xに対して角度θ61を以って傾いた状態で設けられている。換言すると、本実施形態では、独立吸気ポート61の中心軸Ax61を、集合吸気ポート63との接続側から吸気ポート開口部6aの側に向けて、気筒1aの断面径方向の外側(OP側)に向けて指向するように積極的に(意図的に)構成している。
【0048】
一方、独立吸気ポート62は、その中心軸Ax62が仮想線Ax1Xに対して角度θ62を以って傾いた状態で設けられている。換言すると、本実施形態では、独立吸気ポート62の中心軸Ax62を、集合吸気ポート63との接続側から吸気ポート開口部6bの側に向けて、気筒1aの断面径方向の外側(OP側)に向けて指向するように積極的に(意図的に)構成している。
【0049】
以上のような配設形態の独立吸気ポート61,62を有するエンジン1では、吸気バルブ11が開状態であるときに、図2の矢印F~F13で示すような空気の流れが形成される。即ち、集合吸気ポート63中を流れてきた空気Fは、独立吸気ポート61と独立吸気ポート62とに分流される(F,F)。空気Fは、独立吸気ポート61の中心軸Ax61に沿って吸気ポート開口部6aに向けて流れる。同様に、空気Fは、独立吸気ポート62の中心軸Ax62に沿って吸気ポート開口部6bに向けて流れる。
【0050】
吸気ポート開口部6aに達した空気Fは、吸気バルブ11の傘部11aの上面に沿って、燃焼室10に対して一部は排気側(Ex側)へと導出され(F)、一部は逆側(In側)へと導出される(F)。同様に、吸気ポート開口部6bに達した空気Fは、吸気バルブ11の傘部11aの上面に沿って、燃焼室10に対して一部は排気側(Ex側)へと導出され(F)、一部は逆側(In側)へと導出される(F13)。
【0051】
吸気ポート開口部6aから燃焼室10に導出された空気Fは、排気側(Ex側)であって、且つ、機関出力軸方向の一方側(OP側)に向けて進む(F)。そして、空気Fは、シリンダライナ4の内周面4aに当たって(F)、機関出力軸方向の他方側(OP側)に向きを変える(F)。
【0052】
一方、吸気ポート開口部6bから燃焼室10に導出された空気Fは、排気側(Ex側)であって、且つ、機関出力軸方向の他方側(OP側)に向けて進む(F10)。そして、空気F10は、シリンダライナ4の内周面4aに当たって(F11)、機関出力軸方向の一方側(OP側)に向きを変える(F12)。
【0053】
本実施形態に係るエンジン1では、吸気ポート開口部6aから燃焼室10に導入された空気Fと、吸気ポート開口部6bから燃焼室10に導入された空気Fとが、互いにシリンダライナ4の内周面に当たることによって向きを変え(F,F11)、互いに対向する成分を有することとなる(F,F12)。
【0054】
以上より、エンジン1の気筒1aでは、燃焼室10内における正タンブル流の強さを弱め、小渦化を図ることができ、燃焼室10の中央部分での混合気の成層化を図ることができる。
【0055】
3.燃焼室10における天井面3aの構成
エンジン1の燃焼室10における天井面3aの構成について、図3を用い説明する。図3は、燃焼室10における天井面3aの構成を示す模式断面図である。
【0056】
図3に示すように、シリンダヘッド3では、気筒軸Ax1a(頂部に相当)から吸気側(In側)に向けて気筒軸方向の下方側(Lo側)に向けて下がる状態で傾斜する吸気側傾斜面3dと、気筒軸Ax1a(頂部に相当)から排気側(Ex側)に向けて気筒軸方向の下方側(Lo側)に向けて下がる状態で傾斜する排気側傾斜面3eと、を有する天井面3aが形成されている。
【0057】
吸気ポート開口部6a,6b(図3では、吸気ポート開口部6aだけを図示)が開口された箇所では、当該吸気ポート開口部6a,6bのLo側の部分が吸気側傾斜面3dに一致する。同様に、排気ポート開口部7a,7b(図3では、排気ポート開口部7aだけを図示)が開口された箇所では、当該排気ポート開口部7a,7bのLo側の部分が排気側傾斜面3eに一致する。
【0058】
ここで、図3に示すように、吸気バルブ11(図3では、図示を省略)の中心軸Ax11と吸気側傾斜面3dとの交点Pを通り、気筒軸Ax1aに対して直交する仮想平面Lを仮定する。同様に、排気バルブ12(図3では、図示を省略)の中心軸Ax12と排気側傾斜面3eとの交点Pを通り、気筒軸Ax1aに対して直交する仮想平面Lを仮定する。
【0059】
そして、仮想平面Lに対して吸気側傾斜面3dがなす傾斜角をθInとし、仮想平面Lに対して排気側傾斜面3eがなす傾斜角をθExとする。このとき、エンジン1では、次の関係を満たす。
【0060】
θEx<θIn ・・(数1)
即ち、本実施形態に係るエンジン1では、吸気側傾斜面3dと排気側傾斜面3eとで傾きが異なる天井面3aを有する燃焼室10が設けられている。
【0061】
4.吸気ポート6の構成
吸気ポート6の構成について、図4および図5を用い説明する。図4は、吸気ポート6の構成を示す模式断面図であり、図5は、図4のV-V断面を示す模式断面図である。なお、図4では、吸気ポート6における吸気ポート開口部6aに繋がる部分(独立吸気ポート61)だけを図示している。図4において、吸気ポート6の周囲の壁面のうち、上側の壁面を上面6cとし、下側の壁面を下面6dとする。
【0062】
また、図5では、独立吸気ポート61,62の内の一方を抜き出して図示している。
【0063】
図4に示すように、エンジン1における吸気ポート6に対しては、上面6cを挿通してバルブガイド13が設けられている。バルブガイド13は、吸気バルブ11(図4では、図示を省略)の中心軸Ax11が吸気ポート開口部6aの径中心を指向するように配されている。
【0064】
図4のA部に示すように、吸気ポート6の上面6cにおいては、バルブガイド13が突出した箇所の上流側(空気の流れの上流側)に傾斜面6eが設けられている。傾斜面6eに接する接線を延長した仮想線(仮想延長線)L6eを引くとき、当該仮想延長線L6eは、吸気バルブ11の中心軸Ax11を指向している。
【0065】
より詳細には、仮想延長線L6eは、バルブシート8の上面8aと下面8bとの間において、吸気バルブ11の中心軸Ax11と交差する。
【0066】
即ち、吸気ポート6の傾斜面6eは、上面6cにおける傾斜面6eが設けられた部分よりも上流側の部分に対して、傾斜が急な斜面となっている。なお、傾斜面6eは、上面6cにおける傾斜面6eが設けられた部分よりも上流側の部分に対して滑らかな曲面を以って構成されている。
【0067】
なお、吸気ポート開口部6bに繋がる独立吸気ポート62においても、上記と同様の構成となっている。
【0068】
図5に示すように、吸気ポート6では、バルブガイド13の外周面に円錐状の形状で沿う傾斜面6eが形成されている。図2に示すように、独立吸気ポート61,62は、その中心軸Ax61,Ax62が仮想線Ax1Xに対して角度θ61,θ62を以って傾いた状態で設けられているため、傾斜面6eが設けられた部分に対して、仮想線Ax1X側とは反対側に形成される空気の通路部分6fは、機関出力軸方向OP-OP方向)での通路幅が狭く、当該通路部分6fを通過する空気F140の流速が上がる。
【0069】
他方、傾斜面6eが設けられた部分に対して、仮想線Ax1X側に形成される空気の通路部分6gは、通路部分6fよりも機関出力軸方向(OP-OP方向)での通路幅が広く、当該通路部分6gを通過する空気F141の流速は相対的に下がるようになっている。
【0070】
なお、仮想線Ax1X側において、傾斜面6eと同一の平面を形成することとしてもよいし、機関出力軸方向(OP-OP方向)における仮想線Ax1X側とは反対側に、傾斜面6eと同一の平面を形成することとしてもよい。
【0071】
5.天井面3aにおける外縁部3b,3cおよび最外縁部3e,3fと、ピストン5における外縁部5c,5dおよび最外縁部5e,5f
天井面3aにおける外縁部3b,3cおよび最外縁部3e,3fと、ピストン5における外縁部5c,5dおよび最外縁部5e,5fの各形態について、図6を用い説明する。図6は、図2のVI-VI断面を示す模式断面図である。
【0072】
図6に示すように、天井面3aの外縁部3b,3cは、曲面を以ってなだらかに傾斜している。即ち、外縁部3b,3cは、吸気側傾斜面3dや排気側傾斜面3eよりも緩やかな傾斜となっている。
【0073】
また、外縁部3bよりOP側の最外縁部3e、および外縁部3cよりもOP側の最外縁部3fは、外縁部3b,3cや吸気側傾斜面3dおよび排気側傾斜面3eよりも立上った傾斜面となっている。
【0074】
ピストン5の冠面5bでは、キャビティ5aが設けられた部分の外縁部5c,5dが、天井面3aの外縁部3b,3cに沿うようになだらかな曲面を以って構成されている。
【0075】
また、ピストン5の冠面5bにおいても、外縁部5cより径方向外側の最外縁部5e、および外縁部5dより径方向外側の最外縁部5fは、天井面3aにおける最外縁部3e,3fに沿うように立上った傾斜面となっている。
【0076】
このように、天井面3aの外縁部3b,3cをなだらかな曲面で構成するとともに、ピストン5の冠面5bにおける外縁部5c,5dもなだらかな曲面を以って構成することにより、圧縮行程にピストン5が上昇する場合に、そのピストン5の上昇速度に伴い、ピストン5における冠面5bの表層の空気が、冠面5bで押し上げられることにより上昇流が形成されるが、ピストン5の外縁部5c,5dのなだらかな曲面においては、各々OP側およびOP側を指向する上昇流となり、その流速の鉛直方向Up側への速度成分を抑制することができるとともに、キャビティ5a側に向かい冠面5bを圧縮する流れも抑制することが可能となる。
【0077】
また、天井面3aにおける最外縁部3e,3fと、ピストン5における最外縁部5e,5fと、を立上った傾斜面とすることにより、シリンダライナ4の内周面4aとピストン5における最外縁部5e,5fとの間で形成される幾何学容積を小さくすることで、圧縮行程中におけるピストン5の外縁領域での圧縮を低減することができ、天井面3aの外縁部3b,3cとピストン5の外縁部5c,5dとで囲まれる空間や、吸気側傾斜面3dと吸気側斜面部5k,5iおよび平面部5gとで囲まれる空間、排気側傾斜面3eと排気側斜面部5l,5jおよび平面部5hとで囲まれる空間、並びにキャビティ5aの空間に対して、その圧縮に伴う噴流として噴出すスキッシュ流を抑えることが可能となり、結果として、燃焼室10内における空気流れの乱れを低減することができる。
【0078】
なお、上記説明で用いたピストン5の冠面5bの構成について、次に説明する。
【0079】
6.ピストン5の冠面5bの構成
ピストン5の冠面5bの構成について、図7を用い説明する。なお、上述の説明と重複する部分については、以下での説明を省略する。
【0080】
図7に示すように、立上った傾斜面である最外縁部5e,5fは、ピストン5の冠面5bにおけるOP側およびOP側に設けられている。最外縁部5e,5fは、周方向にIn側およびEx側へと行くのに従って径方向に幅が漸減している。
【0081】
冠面5bにおける吸気ポート開口部6a,6bに対向する部分は、スキッシュ流生成部の一部として機能する吸気側斜面部5kとなっている。吸気側斜面部5kは、天井面3aにおける吸気側傾斜面3dに沿う部分である。
【0082】
冠面5bにおける排気ポート開口部7a,7bに対向する部分も、スキッシュ流生成部の一部として機能する排気側斜面部5lとなっている。排気側斜面部5lは、天井面3aにおける排気側傾斜面3eに沿う部分である。よって、排気側斜面部5lは、吸気側斜面部5kよりも傾斜角が緩くなっている(小さくなっている)。
【0083】
冠面5bにおけるIn側の外縁部には、気筒軸Ax1aに対して仮想直交する平面に沿う平面部5gが形成されている。同様に、冠面5bにおけるEx側の外縁部にも、気筒軸Ax1aに対して直交する仮想平面に沿う平面部5hが形成されている。
【0084】
平面部5gとキャビティ5aとの間であって、吸気側斜面部5k同士の間に挟まれる領域には、気筒軸Ax1aに対して仮想直交する平面に沿うバルブ間平面部5iが形成されている。同様に、平面部5hとキャビティ5aとの間であって、排気側斜面部5l同士の間に挟まれる領域には、気筒軸Ax1aに対して仮想直交する平面に沿うバルブ間平面部5jが形成されている。
【0085】
バルブ間平面部5iは、平面部5gと段差なく連続し、バルブ間平面部5jは、平面部5hと段差なく連続している。
【0086】
このように、エンジン1では、ピストン5の冠面5bにおいて、バルブ間平面部5i,5jを設けることにより、排気側のバルブ間平面部5jから平面部5hへの折れ曲がりと比較して、吸気側のバルブ間平面部5iから平面部5gへの折れ曲がりは、吸気側の傾斜面の傾斜角が大きく(きつく)折れ曲がっているため、気流の抵抗が増加し減衰が進む。
【0087】
吸気側開口部6a,6bでのスキッシュ流(図9で示す流れF30)、逆スキッシュ流(図9の流れF30とは逆向きの流れ)の生成と比較して、排気側開口部7a,7b間でのスキッシュ流(図9の流れF31)、逆スキッシュ流(図9の流れF31とは逆向きの流れ)の生成よりも抑制することができる。これにより、エンジン1では、吸気側の燃焼室面で生成されるスキッシュ流、逆スキッシュ流による燃焼の乱れ増大を抑えることができるため、排気側の燃焼室面に比べ比較的低温の壁面となる吸気側の燃焼室面での冷却損失を抑えることが可能となる。
【0088】
7.燃焼室10内におけるタンブル流
燃焼室10内に取り込まれた空気により生成されるタンブル流について、図8を用い説明する。図8は、燃焼室10内における空気の流れを示す模式図である。
【0089】
図8に示すように、吸気バルブ11が開状態となった場合に、吸気ポート6を流れてきた空気Fは、バルブガイド13の上流側に設けられた傾斜面6eによりLo側へと一部の向きが変えられる(F14)。なお、吸気ポート6におけるLo側を流れる空気F15図2のF,F)においては、傾斜面6eの影響を受けてLo側へと指向しつつ、吸気バルブ11が挿通する領域で圧縮された状態の流れとなる(F16)。
【0090】
上記[4.吸気ポート6の構成]の欄で説明したように、傾斜面6eの両側に空気の通路部分6f,6gが形成される場合には、機関出力軸方向(OP-OP方向)における仮想線Ax1Xとは反対側の通路部分6fで通路幅が狭く、ここを通過する空気F140は流速が上がり、バルブシート8と吸気バルブ11の傘部11aとの間の隙間から燃焼室10内へと空気が導入される(F17)。なお、図8における空気の流れF17は、図2のF,Fに相当する。
【0091】
燃焼室10内に導入された空気の流れは、図6に示したシリンダヘッド3の天井面3aの外縁部3b,3cと、それに沿うようにピストン5のキャビティ5aの外縁部5c,5dとの両方で挟まれた面で囲まれる領域に導入され、それらの面に沿うように、各々OP側およびOP側を指向しつつ、徐々にLo側を指向する流れとなる(F18)。なお、空気の流れF18は、図2のF,F10に相当する。
【0092】
空気の流れF18は、図2で示したように、シリンダライナ4の内周面4aに当たることによって向きを変え(図2のF,F11)、互いに対向する成分を有することとなる(F19)。なお、空気の流れF19は、図2のF,F12に相当する。
【0093】
また、吸気ポート6を流れてきた空気F16は、バルブシート8と吸気バルブ11の傘部11aとの間の隙間から燃焼室10内へと導入される(F17,F22)。このうち、排気側(Ex側)の排気バルブ12へと指向して導入された空気F17は、図3を用い説明した排気側傾斜面3eの傾斜設定により、排気側傾斜面3eのコアンダ効果を強く受けることなく、排気側傾斜面3eに沿わず剥離した状態となる(F18)。
【0094】
そして、排気側傾斜面3eから剥離した空気F18は、上述のように、シリンダライナ4の内周面4aに当たって径方向内側に向けて進行方向を変えながら、ピストン5の側(Lo側)へと進む(F19)。そして、空気F19は、ピストン5のキャビティ5aの底面に対して隙間を空けた状態で沿って進み(F20)、その後、Up側へと旋回する(F21)。
【0095】
このように排気側(Ex側)へと導入された空気F17は、小さく旋回する正タンブル流を構成する。
【0096】
一方、バルブシート8と吸気バルブ11の傘部11aとの隙間からEx側とは反対側のIn側に導入された空気F22図2のF,F13に相当)は、シリンダライナ4の内周面4aに沿って下降する(F23)。そして、ピストン5の冠面5bに当たった空気F23は、一部が吸気側斜面部5k(図7を参照)に対して隙間を空けた状態で沿って進み、Up側へと旋回する(F24,F25)。
【0097】
このようにEx側とは反対側(In側)に導入された空気F22は、正タンブル流に対して対向する逆タンブル流を構成する。
【0098】
本実施形態に係るエンジン1では、正タンブル流と逆タンブル流とのバランスをとることにより、詳しくは、燃焼室10内で小さく旋回する正タンブル流を生成することにより、正タンブル流の強さを抑え、燃焼室内における乱れの低減を図り、燃焼室10の中央部分での混合気の成層化を図ることが可能となっている。
【0099】
8.吸気側傾斜面3dおよび排気側傾斜面3eの傾斜角の設定とスキッシュ流
吸気側傾斜面3dおよび排気側傾斜面3eの傾斜角の設定と生成されるスキッシュ流との関係について、図9を用い説明する。図9は、圧縮行程中に天井面3aとピストン5の冠面5bとの間で生成されるスキッシュ流を示す模式図である。
【0100】
図9に示すように、圧縮行程において、ピストン5がUp側へと上昇してくるのに伴い、天井面3aとピストン5の冠面5bとの間にスキッシュ流が生成される。ここで、図3を用い説明したように、天井面3aにおける吸気側傾斜面3dと排気側傾斜面3eとは上記(数1)の関係を満たし、また、ピストン5の冠面5bの対向部分(吸気側斜面部5k、排気側斜面部5l)が吸気側傾斜面3dおよび排気側傾斜面3eに沿うように設けられている。
【0101】
よって、図9のB部に示すように、圧縮行程においては、天井面3aにおける吸気側傾斜面3dとピストン5における吸気側斜面部5kとが近接して行くことで、スキッシュ流F30が生成される。同様に、図9のC部に示すように、天井面3aにおける排気側傾斜面3eとピストン5における排気側斜面部5lとが近接して行くことで、スキッシュ流F31が生成される。
【0102】
ここで、スキッシュ流F30,F31をUp-Lo方向およびIn-Ex方向のベクトル成分で示す場合に、スキッシュ流F30は、成分F30ULと成分F30IEとの合成ベクトルということとなる。また、スキッシュ流F31は、成分F31ULと成分F31IEとの合成ベクトルということとなる。
【0103】
本実施形態では、上記(数1)の関係を満たすように天井面3aが形成されているので、スキッシュ流F30,F31は、次の関係を満たすことになる。
【0104】
31IE>F30IE ・・(数2)
上記(数2)の関係を満たすことにより、エンジン1では、圧縮行程中において、正タンブル流をシリンダライナ4の内周面4aにおける排気側の部分から離間させることができ、正タンブル流の流動し構成を低減することが可能である。
【0105】
吸気側から排気側に向けてのスキッシュ流F30の水平成分F30IEよりも、排気側から吸気側に向かう強いスキッシュ流F31の水平成分F31IEにより、正タンブル流の吸気側から排気側に向かう流れを押え込むことが可能である。
【0106】
9.燃料噴射弁15の構成と燃料噴射タイミング
燃料噴射弁15の構成と燃料噴射タイミングについて、図10および図11を用い説明する。図10は、燃料噴射弁15の一部(ヘッド部およびその近傍)の構成を示す模式断面図であり、図11は、燃料噴射期間を示すタイミングチャートである。
【0107】
図10に示すように、燃料噴射弁15は、中心軸Ax15に沿って筒軸が配された外筒部151と、当該筒軸151の内方に収容され、一部がLo側から突出した針弁部152と、を有する。外筒部151と針弁部152との間には、燃料通路15aが形成されている。
【0108】
また、針弁部152がLo側に押下げられて開弁した状態では、燃料通路15aに連続する燃料通路15bも形成される。
【0109】
燃料通路15aの燃料F40は、針弁部152が押し下げられて開弁状態となった場合に、燃料通路15bを通り(F41)、Lo側に噴射される(F42)。ここで、噴射される燃料F42は、燃料噴射弁15の中心軸Ax15回りに環状(ドーナッツ状)に広がる。
【0110】
図11に示すように、本実施形態に係るエンジン1では、燃料噴射タイミングが圧縮行程の後期に設定されている。具体的には、燃料噴射期間TFIは、圧縮行程における後期のタイミングtからタイミングtに至る期間に設定されている。
【0111】
なお、図11に示すように、本実施形態に係るエンジン1では、燃料噴射を連続的に1回行うのではなく、間欠的に複数回行う(燃料噴射FI,FI,FI)。本実施形態では、3回の燃料噴射を間欠的に行うこととしている。
【0112】
本実施形態に係るエンジン1では、燃料噴射を複数回に分けて間欠的に行うことにより、噴射される燃料の速度を抑制することができる。即ち、連続的に燃料を噴射する場合に比べて、間欠的に複数回の燃料噴射を行うことで、後続の燃料噴射FI,FIにより全体としての噴射燃料の速度が増速されるのを抑制することができる。
【0113】
なお、燃料の噴射については、2回に分けて間欠的に行うようにしてもよいし、4回以上に分けて間欠的に行うようにしてもよい。
【0114】
10.キャビティ5aに対する噴射燃料I
キャビティ5aに対する噴射燃料Iの形態について、図12を用い説明する。図12は、キャビティ5aに対する噴射燃料Iの状態を示す模式図である。
【0115】
上記のように間欠的に3回噴射された燃料(噴射燃料I)は、ピストン5のキャビティ5aの内方に収容される。図12のD部に示すように、噴射燃料Iとピストン5の冠面5bにおけるキャビティ5aの底面との間には、空気層Lが形成される。
【0116】
このように本実施形態に係るエンジン1では、噴射燃料Iがピストン5の冠面5bに接触する前に燃焼させるようにしているので、冷却損失の低減を図ることができる。
【0117】
[実施形態2]
実施形態2に係る直噴エンジンの構成について、図13を用いて説明する。図13は、上記実施形態1の図2に対応する図であって、直噴エンジンにおける気筒19aの構成を示す模式平面図である。
【0118】
なお、本実施形態に係る直噴エンジンは、上記実施形態1に係る直噴エンジン1に対して、吸気ポート20の構成が異なっていることを除いて、上記実施形態1に係る直噴エンジン1と同じ構成を有する。よって、以下では、吸気ポート20の構成についてのみ説明する。
【0119】
図13に示すように、吸気ポート20は、独立吸気ポート201と独立吸気ポート202との組み合わせを以って構成されている。本実施形態に係る直噴エンジンにおいては、吸気ポート20の構成に集合吸気ポートは含まれていない。
【0120】
独立吸気ポート201は、燃焼室10に対して吸気ポート開口部20aで連続され、独立吸気ポート202は、燃焼室10に対して吸気ポート開口部20bで連続されている。吸気ポート開口部20aは、仮想線Ax19Xに対してOP側に設けられており、吸気ポート開口部20bは、仮想線Ax19Xに対してOP側に設けられている。
【0121】
このため、独立吸気ポート201は、仮想線Ax19Xに対してOP側に設けられ、独立吸気ポート202は、仮想線Ax19Xに対してOP側に設蹴られている。
【0122】
図13に示すように、本実施形態においても、気筒軸Ax19aから吸排気方向(In-Ex方向)に仮想線Ax19Xを引く。このとき、独立吸気ポート201は、その中心軸Ax201が仮想線Ax19Xに対して角度θ201を以って傾いた状態で設けられている。換言すると、本実施形態でも、独立吸気ポート201の中心軸Ax201を、In側から吸気ポート開口部20aの側に向けて、気筒19aの断面径方向の外側(OP側)に向けて指向するように積極的に(意図的に)構成している。
【0123】
一方、独立吸気ポート202は、その中心軸Ax202が仮想線Ax19Xに対して角度θ202を以って傾いた状態で設けられている。換言すると、本実施形態でも、独立吸気ポート202の中心軸Ax202を、In側から吸気ポート開口部20bの側に向けて、気筒19aの断面径方向の外側(OP側)に向けて指向するように積極的に(意図的に)構成している。
【0124】
以上のような配設形態の独立吸気ポート201,202を有する直噴エンジンでは、吸気バルブ11が開状態であるときに、図13の矢印F~F13,F51~F53で示すような空気の流れが形成される。即ち、独立吸気ポート201および独立吸気ポート202を流れてきた空気F51は、各独立吸気ポート201,202の向きに沿って流れる(F52,F53)。即ち、独立吸気ポート201の空気F52は、中心軸Ax201に沿って吸気ポート開口部20aに向けて流れる。同様に、独立吸気ポート202の空気F53は、中心軸Ax202に沿って吸気ポート開口部20bに向けて流れる。
【0125】
吸気ポート開口部20aに達した空気F52は、吸気バルブ11の傘部11aの上面に沿って、燃焼室10に対して一部は排気側(Ex側)へと導出され(F)、一部は逆側(In側)へと導出される(F)。同様に、吸気ポート開口部20bに達した空気F53は、吸気バルブ11の傘部11aの上面に沿って、燃焼室10に対して一部は排気側(Ex側)へと導出され(F)、一部は逆側(In側)へと導出される(F13)。
【0126】
燃焼室10内に導入された空気の流れについては、上記実施形態1と同様である。
【0127】
上記のよな構成を有する直噴エンジンにおいても、上記実施形態1に係る直噴エンジン1と同様の効果を奏することができる。
【0128】
[変形例]
上記実施形態1,2では、気筒1a,19aに対して2つの独立吸気ポート61,62,201,202を接続することとしたが、本発明は、これに限定受けるものではない。例えば、気筒に対して1つの独立排気ポートを接続する形態や、気筒に対して3つ以上の独立吸気ポートを接続する形態などを採用することもできる。同様に、排気ポートについても、気筒に対して1つ接続する形態や、3つ以上接続する形態等を採用することもできる。
【0129】
また、上記実施形態1,2では、エンジン1の形式などについての具体例については特に言及しなかったが、種々の形式を採用することができる。例えば、単気筒エンジンや、2気筒以上のマルチ気筒エンジンなどに適用することができる。また、エンジンの形式に関し、直列タイプのエンジンだけでなく、V型やW型、さらには水平対向型のエンジンを採用することもできる。
【0130】
また、上記実施形態1,2では、シリンダブロック2にシリンダライナ4が嵌入された形態を一例としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、シリンダブロックに開けられたボア内面に溶射層が設けられたような形態を採用することもできる。
【符号の説明】
【0131】
1 直噴エンジン
1a,19a 気筒
3 シリンダヘッド
3a 天井面
3d 吸気側傾斜面
3e 排気側傾斜面
4 シリンダライナ
4a 内壁面
5 ピストン
5a キャビティ
5k 吸気側斜面部
5l 排気側斜面部
6,20 吸気ポート
6a 吸気側開口部(第1吸気側開口部)
6b 吸気側開口部(第2吸気側開口部)
6e 傾斜面
7 排気ポート
7a 排気側開口部(第1排気側開口部)
7b 排気側開口部(第2排気側開口部)
10 燃焼室
11 吸気バルブ
12 排気バルブ
61,201 独立吸気ポート(第1独立吸気ポート)
62,202 独立吸気ポート(第2独立吸気ポート)
71 独立排気ポート(第1独立排気ポート)
72 独立排気ポート(第2独立排気ポート)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13