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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】推定装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20221220BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20221220BHJP
   G08G 1/13 20060101ALI20221220BHJP
   G08G 1/137 20060101ALI20221220BHJP
   G01C 21/26 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
B60L3/00 S
G08G1/01 A
G08G1/13
G08G1/137
G01C21/26 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018062698
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019176630
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】河野 雅樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-066542(JP,A)
【文献】特開2016-049922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0129803(US,A1)
【文献】特開2014-202635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0066958(US,A1)
【文献】特開2013-070515(JP,A)
【文献】特開2014-054124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
G08G 1/01
G08G 1/13
G08G 1/137
G01C 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車(10)の走行する予定である予定経路を走行した先行車両から前記予定経路における環境情報として、前記予定経路における大気の状態を示す大気情報と、舗装の種類に対応した転がり抵抗係数を示す路面情報とを少なくとも取得する環境取得部(113)と、
前記環境情報に基づいて前記予定経路における前記電気自動車のバッテリ温度を推定する温度推定部(114)と、
前記環境情報に含まれる前記路面情報に少なくとも基づいて、前記予定経路における走行抵抗を推定する抵抗推定部(116)と、
前記バッテリ温度と、前記走行抵抗とに基づいて前記予定経路における前記電気自動車の電力残量による航続可能距離に関連する航続情報を推定する航続推定部(117)と、を備える推定装置。
【請求項2】
前記環境情報に基づいて、前記予定経路における前記電気自動車の空調装置の空調消費
電力を推定する空調推定部(115)を更に備え、
前記航続推定部は、前記空調消費電力に基づいて前記航続情報を推定する請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記環境取得部は、前記予定経路を構成する複数の道路区間ごとの前記環境情報を、当
該道路区間を走行した前記先行車両から取得する請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記環境取得部は、前記道路区間のうち前記先行車両から前記環境情報を取得できない
空白道路区間の前記環境情報として、前記空白道路区間に隣接する隣接道路区間の前記環
境情報を取得する請求項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記環境取得部は、前記先行車両から渋滞中の前記環境情報を取得しない請求項1~
のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記環境取得部は、前記予定経路を走行した前記先行車両のうち、前記予定経路を走行
してからの経過時間が閾値以上の前記先行車両からの前記環境情報を取得しない請求項1
のいずれか1項に記載の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気自動車の電力残量で航続可能な航続可能距離に関連する航続情報を推定する推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気自動車の走行による消費電力に対応するコスト値を推定する推定装置が開示されている。特許文献1に記載の推定装置は、停止回数推定部と、処理部とを有する。停止回数推定部は、各道路区間について電気自動車の停止回数を推定する。処理部は、電気自動車の速度の時間変化を示す複数の走行モデルから、停止回数に対応する特定走行モデルを選択する。処理部は、選択した特定走行モデルを用いて、電気自動車が走行するために要するコスト値を推定する。推定装置は、推定したコスト値により示される消費電力を電気自動車のバッテリの電力残量から差し引いて道路区間の航続可否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6205919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電気自動車の電力残量による航続可能距離は、予定経路の環境に影響されやすい。故に予定経路の環境を考慮しない特許文献1に記載の推定装置では、航続可能距離に関連する航続情報の推定精度が低下するおそれがあった。
【0005】
本開示は、航続可能距離に関連する航続情報の推定精度低下を抑制可能な推定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、本開示の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するための本開示の推定装置は、電気自動車(10)の走行する予定である予定経路を走行した先行車両から予定経路における環境情報として、予定経路における大気の状態を示す大気情報と、舗装の種類に対応した転がり抵抗係数を示す路面情報とを少なくとも取得する環境取得部(113)と、環境情報に基づいて予定経路における電気自動車のバッテリ温度を推定する温度推定部(114)と、環境情報に含まれる路面情報に少なくとも基づいて、予定経路における走行抵抗を推定する抵抗推定部(116)と、バッテリ温度と、走行抵抗とに基づいて予定経路における電気自動車の電力残量による航続可能距離に関連する航続情報を推定する航続推定部(117)と、を備える。
【0008】
以上の構成によれば、予定経路を走行した先行車両から取得する環境情報に基づいて、予定経路における電気自動車のバッテリ温度が推定される。こうしたバッテリ温度に基づいて航続情報を推定する航続推定部は、予定経路におけるバッテリ温度の変動に起因する航続可能距離の変動を補正しうる。従って推定装置は、航続可能距離に関連する航続情報の推定精度低下を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】交通情報システムの構成を示す図である。
図2】サーバ装置の作動を示すフローチャートである。
図3】推定装置の作動を示すフローチャートである。
図4】環境情報を取得する先行車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の実施形態による推定装置110は、図1に示すように交通情報システム1を構成する車両システム100に用いられている。交通情報システム1は、電気自動車10を含む複数の自動車で走行中に取得された環境情報や、道路の渋滞情報などを含む交通情報を収集する。交通情報システム1は、収集した交通情報を電気自動車10などの自動車に提供する。交通情報システム1は、サーバ装置200を上述した車両システム100に加えて備えている。
【0015】
サーバ装置200は、データセンタなどに電気自動車10などの自動車と基地局および公衆回線網を介して通信可能に設けられている。サーバ装置200は、電気自動車10などの自動車から送信された環境情報を格納するデータベースを含んでいる。サーバ装置200は、電気自動車10からの要求信号に従い、格納した環境情報を電気自動車10に送信する。またサーバ装置200は、道路を撮像するカメラなどを備えた監視装置との通信に基づいて判断した渋滞の有無を、渋滞情報として電気自動車10に周期的に送信する。
【0016】
車両システム100は、電気自動車10で用いられている。車両システム100は、ロケータ101、HMI部102、空調ECU103、MGECU104、バッテリECU105、センサ群106、および通信部107を上述した推定装置110に加えて備えている。
【0017】
ロケータ101は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機、および地図データベースなどを備えている。GNSS受信機は、GNSSを構成する測位衛星が送信する測位信号を受信する受信機である。地図データベースは、リンクデータおよびノードデータなどを含む地図データを格納している不揮発性の記憶装置である。
【0018】
リンクデータは、道路を分割した道路区間に対応するリンクに関するデータである。リンクデータには、リンクを特定するリンクID、リンクの端点に相当するノードのノードID、および道路形状などが含まれている。ノードデータは、道路を道路区間に分割している地点に対応するノードに関するデータである。ノードデータには、ノードを特定するノードID、ノードに接続しているリンクのリンクID、およびノードの位置などが含まれている。ロケータ101は、測位信号や道路形状などの組み合わせにより、自車の現在位置を逐次特定する。ロケータ101は、特定した自車位置に基づいて、自車の位置しているリンク、および自車の通過したノードを特定する。
【0019】
HMI部102は、自車のユーザに各種の情報を提示する表示部、および自車のユーザからの各種の入力を受け付ける入力部を備えている。表示部には、インストルメントパネルの車幅方向中央付近に設けられたセンターディスプレイが含まれている。センターディスプレイには、経路案内などを行うためのナビゲーション画像が表示される。ナビゲーション画像には、自車のバッテリの電力残量による航続可能距離が示される。
【0020】
入力部には、センターディスプレイに重畳されたタッチパネル、およびセンターディスプレイ周辺に設けられた空調スイッチが含まれている。タッチパネルは、目的地の設定操作や、経路の選択操作などの入力操作を受け付ける。空調スイッチは、自車の空調装置に対する設定温度、内気循環や外気導入などの吸入モード、およびフェイス吹き出しやデフロスタなどの吹出モードの設定操作を受け付ける。
【0021】
空調ECU103は、自車の空調装置を制御する電子制御装置である。空調ECU103は、自車に搭載された各センサから、車外の気温および湿度を示す外気情報と、車内の気温および湿度を示す内気情報とを取得する。また空調ECU103は、HMI部102で設定された設定温度や吸入モード、吹出モードなどの設定情報を取得する。空調ECU103は、外気情報、内気情報、および設定情報に従って、空調装置の内外気切替ドア、ブロワ、コンプレッサ、ヒータ、エアミックスドア、吹き出し口ドアなどを制御する。
【0022】
MGECU104は、自車の走行駆動に用いられているモータジェネレータを制御する電子制御装置である。MGECU104は、自車に搭載されたアクセルポジションセンサやブレーキ踏力センサから、ドライバのアクセル操作やブレーキ操作などの運転操作を示す操作信号を取得する。MGECU104は、自車に搭載された車輪速センサや加速度センサから、自車の速度や加減速度などの挙動を示す挙動信号を取得する。MGECU104は、操作信号および挙動信号に従って算出した駆動力をモータジェネレータに出力させる。
【0023】
バッテリECU105は、自車のバッテリの充放電を制御する電子制御装置である。バッテリECU105は、自車のバッテリに関するバッテリ情報として、出力電圧、入出力電流、温度などを取得する。バッテリECU105は、取得したバッテリ情報とあらかじめ設定されている自車のバッテリの充放電特性とに基づいて、バッテリから出力された電力量、バッテリの電力残量を算出する。
【0024】
センサ群106は、自車の状態、および自車の走行する道路の状態を取得する各種のセンサである。センサ群106には、風速センサ、気圧センサ、カメラ、および着座センサが含まれる。風速センサは、自車の後方に向かう相対的な風速を取得する。風速センサは、例えば自車のフロントグリルを通じて流入した風について風速を取得する。気圧センサは、自車の走行する道路における大気圧を取得する。気圧センサは、例えばエンジンルーム内などの実質的に大気圧と一致する気圧となる位置に設けられている。カメラは、自車の走行する道路の路面を撮像する。カメラは、例えばフロントグリルなどに設けられている。着座センサは、自車のユーザを検知するためのセンサである。着座センサは、自車の各座席に設けられ、その座席にユーザが着座しているか否かを検知する。
【0025】
通信部107は、自車の外部との間で無線通信する通信装置である。通信部107は、基地局および公衆回線網を介してサーバ装置200と通信する。通信部107は、推定装置110からのプローブ情報、および要求信号をサーバ装置200に送信する。通信部107は、要求信号に応じてサーバ装置200から送信された環境情報を受信し、推定装置110へ出力する。
【0026】
推定装置110は、例えばプロセッサ、メモリ、入出力インターフェースなどよりなるコンピュータを主体として構成された電子制御装置である。プロセッサは、CPUやGPUなどを含んで構成されている。メモリには、プロセッサで実行されるプログラムが格納されている。メモリに格納されたプログラムには、HMI部102のセンターディスプレイにナビゲーション画像を表示させるナビゲーションプログラムが含まれている。推定装置110は、プログラムの実行により、環境送信部111、経路設定部112、環境取得部113、温度推定部114、空調推定部115、抵抗推定部116、および航続推定部117としての機能を発揮する。なお、推定装置110の機能の一部または全部が、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に実現されてもよい。
【0027】
環境送信部111は、自車で取得された環境情報を含むプローブ情報をサーバ装置200に送信する。環境送信部111は、例えば自車がノードを通過する際に、通過前に走行していたリンクの環境情報を含むプローブ情報を送信する。プローブ情報には、時刻情報、位置情報、および信頼度情報が環境情報に加えて含まれている。
【0028】
時刻情報は、環境情報の取得された時刻を特定するための情報である。時刻情報は、例えばノードを通過してリンクから退出した時刻が用いられている。位置情報は、環境情報の取得されたリンク、および走行した方向を特定するための情報である。位置情報には、例えば走行していたリンクのリンクID、および退出したノードのノードIDなどが用いられている。
【0029】
信頼度情報は、渋滞やセンサの異常などによる信頼度低下の可能性を判別するための情報である。環境送信部111は、例えば自車の位置しているリンクが渋滞している状態である場合、渋滞中の環境情報であり信頼度低下のおそれがある旨を信頼度情報として付加して送信する。自車の位置しているリンクが渋滞している状態であるか否かは、サーバ装置200から取得した直近の渋滞情報に基づいて判断される。
【0030】
環境情報には、大気情報、および路面情報が含まれる。大気情報は、大気の状態に起因する空気抵抗、空調装置の稼働状況、およびバッテリの温度変化に関する情報である。大気情報には、例えば気温、湿度、大気圧、および風速が含まれている。気温および湿度には、空調ECU103で外気情報として取得された外気の気温および湿度が用いられている。大気圧には、センサ群106の気圧センサで取得された気圧が用いられている。風速には、センサ群106の風速センサで取得された相対的な風速から、MGECU104で取得された車速を差し引いた速度が用いられている。
【0031】
路面情報は、路面状況に起因する転がり抵抗の大きさに関する情報である。路面情報には、例えばセンサ群106のカメラで撮像された画像などに基づいて推定された転がり抵抗係数が用いられる。転がり抵抗係数は、あらかじめ設定されている路面状況と転がり抵抗係数との対応関係に基づいて決定される。路面状況には、多孔質舗装やコンクリート舗装などの舗装の種類、ひび割れなどの凹凸の有無、水たまりの有無などが含まれる。
【0032】
経路設定部112は、自車の走行する予定である予定経路を設定する。経路設定部112は、HMI部102で設定された目的地に基づく経路探索により得られた経路をHMI部102に表示させる。経路設定部112は、表示させた経路のうちHMI部102で選択された経路を自車の予定経路として設定する。予定経路は、例えば目的地までに自車の走行する予定のリンク、および各リンクから退出する予定のノードにより構成されている。また経路設定部112は、各リンクにおける自車の速度の変動パターンを示す予測速度、および各リンクの走行に要する予測走行時間を設定する。
【0033】
環境取得部113は、予定経路を走行した先行車両から予定経路における環境情報を取得する。環境取得部113は、例えば経路設定部112により予定経路が設定された場合に、設定された予定経路を構成するリンクごとの環境情報を、そのリンクを走行した先行車両から取得する。
【0034】
環境取得部113は、サーバ装置200に格納された環境情報のうち、送信を要求する環境情報を設定する要求信号をサーバ装置200に送信する。環境取得部113は、要求信号に従ってサーバ装置200から返送される環境情報を取得する。要求信号には、抽出情報、および形式情報などが含まれている。抽出情報は、サーバ装置200に格納されている環境情報の中から返送される環境情報を抽出させるための情報である。抽出情報には、区間指定情報、時間指定情報、除外設定情報などが含まれる。
【0035】
区間指定情報は、環境情報の送信を要求するリンク、およびリンクを走行する方向を指定するための情報である。区間情報には、例えば要求する各リンクのリンクID、およびそのリンクから退出するノードのノードIDが含まれている。
【0036】
指定時間情報は、送信を要求する環境情報から、予定経路を走行してからの経過時間が閾値以上の先行車両から送信された環境情報を除外するための情報である。環境取得部113は、例えば閾値を30分として閾値以上の経過時間となる時刻情報を付加された環境情報の除外を要求する。
【0037】
除外設定情報は、信頼度情報として信頼度低下のおそれがある旨を記録されている環境情報を送信する環境情報から除外するか否かを指示するための情報である。環境取得部113は、例えば渋滞中の環境情報であり信頼度低下のおそれがある旨の信頼度情報を付加されている環境情報の除外を要求する。
【0038】
形式情報は、返送される環境情報の形式を指定するための情報である。環境取得部113は、一つのリンクについて複数の環境情報が抽出された場合の返送の形式として、例えば平均値、中央値、最頻値などを指定する。また環境取得部113は、環境情報を抽出されなかった空白リンクが存在する場合の返送の形式として、例えば空白リンクに隣接する隣接リンクの環境情報を空白リンクの環境情報の代替として返送させる。
【0039】
温度推定部114は、取得された環境情報に基づいて予定経路における自車のバッテリ温度を推定する。温度推定部114は、例えば予定経路におけるバッテリ温度として、予定経路の各ノードにおけるバッテリ温度を推定する。各ノードにおけるバッテリ温度は、直前のノードにおけるバッテリ温度、直前のノードからのリンクの気温、およびリンクの走行時間に基づいて推定される。温度推定部114は、推定装置110のメモリなどにテーブルや関数などとしてあらかじめ記憶されている気温と経過時間に従う自車のバッテリ温度の推移を用いて各ノードにおけるバッテリ温度を推定する。
【0040】
空調推定部115は、取得された環境情報に基づいて予定経路における自車の空調装置による空調消費電力を推定する。空調推定部115は、環境情報に含まれる気温および湿度に基づいて空調消費電力を推定する。空調推定部115は、予定経路における空調消費電力として、各リンクについて進入してから退出するまでに空調装置で消費される空調消費電力量を推定する。
【0041】
空調推定部115は、例えば各リンクに予測走行時間と、各リンクにおけるブロワやコンプレッサ、ヒータなどの稼働率とに基づいて各リンクの空調消費電力量を算出する。各リンクにおける稼働率は、環境情報として受信した気温および湿度と、空調ECU103で取得された内気情報、および設定情報に基づいて推定する。
【0042】
抵抗推定部116は、取得された環境情報に基づいて予定経路における自車の走行抵抗を推定する。走行抵抗は、加速抵抗、傾斜抵抗、空気抵抗、転がり抵抗などを含む自車に作用する後方への力である。加速抵抗は、自車の加速に伴う慣性力による抵抗である。傾斜抵抗は、路面の傾斜により生じる抵抗である。抵抗推定部116は、走行抵抗のうち、空気抵抗、および転がり抵抗の少なくとも一方を環境情報に基づいて推定する。抵抗推定部116は、気温、気圧、および風速に基づいて空気抵抗を推定する。抵抗推定部116は、路面情報に基づいて転がり抵抗を推定する。
【0043】
空気抵抗Faは、相対風速V、空気密度ρ、空気抵抗係数Cd、および投影面積Sを用いてFa=ρ×V×V×Cd×S/2で表される。相対風速Vは、リンクの風速および予測速度に基づいて算出されるリンクにおける自車の後方に向かう相対的な風速である。空気密度ρは、リンクの気温および気圧に基づいて算出されるリンクにおける空気の密度である。空気抵抗係数Cdは、自車の形状および後方に投影した面積に基づいてあらかじめ設定されている空気抵抗を算出するための係数である。投影面積Sは、自車を後方に投影した面積である。
【0044】
転がり抵抗Frは、自車の重量mおよびリンクの転がり抵抗係数Crを用いてFr=m×Crで表される。重量mは、例えばあらかじめ設定されている自車の車体重量、および着座センサで検知されたユーザの人数に従う乗員重量に基づいて算出される。
【0045】
航続推定部117は、航続可能距離に関連する航続情報を推定する。航続可能距離は、自車のバッテリの電力残量により航続可能な残り距離である。例えば航続推定部117は、航続可能なノードまでの各リンクの距離を積算した距離を航続可能距離として推定する。航続可能なノードは、バッテリの電力残量が所定の閾値以上と予測される最後のノードである。航続推定部117は、推定した航続可能距離をナビゲーション画像として表示させる。電力残量は、バッテリ容量から、各ノードまでの空調消費電力量および走行消費電力量を積算した電力量を差し引いて推定される。
【0046】
バッテリの容量は、バッテリ温度の低下に伴うバッテリの内部抵抗の増加によって減少する。航続推定部117は、例えば推定された各ノードにおけるバッテリ温度に基づいてあらかじめ設定されている自車のバッテリの定格容量を補正することにより、各ノードにおけるバッテリ容量を推定する。
【0047】
走行消費電力量は、各リンクにおいてモータジェネレータで駆動力の出力に消費される電力量である。モータジェネレータから出力される駆動力は、自車に加わる走行抵抗に基づいて推定する。走行消費電力は、推定した駆動力に対応した消費電力を、リンクの走行時間に従って積算することにより求められる。
【0048】
サーバ装置200および推定装置110の作動を、図2および図3のフローチャートに沿って説明する。サーバ装置200は、図2に示す処理をステップS11(以下、ステップを省略)から周期的に実行する。
【0049】
S11では、電気自動車10からのプローブ情報を受信したか否かを判断する。受信した場合はS11に進み、受信していない場合はS13に進む。S12では、受信したプローブ情報を、データベースに格納する。
【0050】
S13では、電気自動車10から要求信号を受信したか否かを判断する。受信した場合はS14に進み、受信していない場合は図2に示す処理を終了する。S14では、受信した要求信号の示す区間情報、時間情報、除外情報に従ってデータベースに記憶されたプローブ情報に含まれる環境情報を抽出し、形式情報に従う統計処理などにより電気自動車に送信する環境情報を生成する。S15では、要求信号を送信した電気自動車10にS14の処理で得られた環境情報を送信し、図2に示す処理を終了する。
【0051】
推定装置110は、自車のアクセサリスイッチオンなどにより電源が投入されると、図3に示す処理をS21から実行する。S21では、予定経路の設定を行い、自車の走行する予定のリンク、および各リンクを退出する予定のノードを特定する。
【0052】
S22では、S21で設定した予定経路に従って、要求信号をサーバ装置200に送信する。S23では、S22で送信した要求信号に従ってサーバ装置200から返送された環境情報を取得する。
【0053】
S24では、取得された環境情報に従って、予定経路におけるバッテリ温度の推定を行う。S25では、取得された環境情報に従って、予定経路における空調消費電力を推定する。S26では、取得された環境情報に従って、予定経路における空気抵抗および転がり抵抗の大きさを推定する。S27では、推定したバッテリ温度、空調消費電力、空気抵抗、および転がり抵抗に基づいて、航続距離の推定を行う。
【0054】
S28では、走行中の自車がノードを通過したか否かの判断を行う。通過した場合はS29に進み、通過していない場合はS30に進む。S29では、ノードの通過前に走行していたリンクの環境情報を含むプローブ情報をサーバ装置200に送信する。
【0055】
S30では、目的地への到着などにより自車が走行を終了したか否かを判断する。終了した場合には図3に示す処理を終了し、終了していない場合にはS28の処理を再び行う。
【0056】
[実施形態のまとめ]
以上、説明した実施形態によれば、予定経路を走行した先行車両から取得する環境情報に基づいて、予定経路における電気自動車10のバッテリ温度が推定される。こうしたバッテリ温度に基づいて航続情報を推定する航続推定部117は、予定経路におけるバッテリ温度の変動に起因する航続可能距離の変動を補正しうる。従って、推定装置110は、航続可能距離に関連する航続情報の推定精度低下を抑制可能である。
【0057】
また本実施形態によれば、予定経路を走行した先行車両から取得する環境情報に基づいて、予定経路における電気自動車10の空調装置の空調消費電力が推定される。こうした空調消費電力に基づいて航続情報を推定する航続推定部117は、予定経路における空調消費電力の変動に起因する航続可能距離の変動を補正しうる。従って推定装置110は、航続可能距離に関連する航続情報の推定精度低下を抑制可能である。
【0058】
また本実施形態によれば、予定経路を走行した先行車両から取得する環境情報に基づいて、予定経路における空気抵抗および転がり抵抗の少なくとも一方が走行抵抗として推定される。こうした走行抵抗に基づいて航続情報を推定する航続推定部117は、予定経路における走行抵抗の変動に起因する航続可能距離の変動を補正しうる。従って、推定装置110は航続可能距離に関連する航続情報の推定精度低下を抑制可能である。
【0059】
さらに本実施形態では、環境取得部113は、図4に示すように、予定経路を構成する各リンクL2、L4の環境情報を、各リンクL2、L4を走行した先行車両からそれぞれ取得する。故に航続推定部117は、リンクごとの環境情報に基づいて、より正確に航続可能距離の変動を補正しうる。従って、推定装置110は、航続情報の推定精度低下をより抑制可能である。
【0060】
加えて本実施形態では、環境取得部113は、図4に示すように、空白リンクであるリンクL1の環境情報として、隣接リンクであるリンクL2またはリンクL3の環境情報を取得する。故に航続推定部117は、予定経路を構成する複数のリンクに環境情報を取得可能な先行車両が走行していない空白リンクが含まれる場合であっても、隣接リンクの環境情報に基づいて航続可能距離の変動を補正しうる。
【0061】
また本実施形態では、環境取得部113は、予定経路を走行した先行車両のうち、各予定経路を走行してからの経過時間が閾値以上の先行車両からの環境情報を取得しない。故に、推定装置110は、時間の経過に伴う走行環境の変化によって航続可否の推定精度低下を生じにくい。
【0062】
また本実施形態では環境取得部113は、渋滞中の環境情報を取得しない。故に環境取得部113により取得された環境情報は、先行車両以外の車両による誤差を抑制される。
【0063】
また本実施形態では、リンクが「道路区間」に、空白リンクが「空白道路区間」に、隣接リンクが「隣接道路区間」に相当する。
【0064】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。なお、以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0065】
上述の実施形態において、推定装置110が航続可能距離を推定するための機能を発揮していた。しかし、機能の一部または全てを推定装置110以外の装置が発揮していてもよい。例えば、バッテリECU105が温度推定部114としての機能を発揮し、空調ECU103が空調推定部115としての機能を発揮し、MGECU104が抵抗推定部116としての機能を発揮する構成であってもよい。また、サーバ装置200が航続可能距離を推定するための機能を発揮する構成であってもよい。
【0066】
上述の実施形態において、推定装置110では、バッテリ温度、空調消費電力、走行抵抗のすべてを環境情報に基づいて推定し、航続可能距離の補正に用いていた。しかし、例えばいずれか一つのみを環境情報に基づいて推定し、航続可能距離の推定に用いてもよい。
【0067】
上述の実施形態において、環境送信部111としての機能は、走行駆動源としてモータジェネレータのみが用いられている電気自動車10において発揮されていた。しかし、環境送信部111としての機能は、走行駆動源として内燃機関が用いられている車両で発揮されていてもよい。すなわち、交通情報システム1において環境情報の収集に用いられる自動車は、電気自動車10に限られない。またこのような車両における環境送信部111は、内燃機関を制御するエンジンECUで空燃比制御のために算出された空気密度を、気圧に替えて空気抵抗を算出するための大気情報として用いてもよい。
【0068】
上述の実施形態において、環境送信部111は、センサ群106で取得された風速や気圧、路面の画像などを用いて空気抵抗および転がり抵抗を推定するための環境情報を生成していた。しかし、空気抵抗および転がり抵抗を推定するための環境情報の生成方法はこれに限られない。例えば、車両の加速度とモータジェネレータに要求された駆動力との関係から推定した空気抵抗および転がり抵抗の合計を環境情報として送信してもよい。また、推定した空気抵抗や転がり抵抗などを、空気抵抗および転がり抵抗を算出する関数に代入し、空気密度や風速、転がり抵抗係数などを推定してもよい。
【0069】
上述の実施形態において、環境取得部113は、自車の進行方向と同一の方向に走行した場合の環境情報を取得していた。しかし、取得する環境情報に、進行方向と反対方向に走行した場合の環境情報が含まれていてもよい。またこの場合、例えば進行方向と反対方向に走行した車両から送信された風速は、正負を逆として扱えばよい。
【0070】
上述の実施形態において、推定装置110は、ノードの通過ごとにサーバ装置200に環境情報を送信し、予定経路の設定時にサーバ装置200からの環境情報の取得、および航続情報の推定を行う構成であった。しかし、環境情報の送受信タイミング、および環境情報の車両間での送受信方法は適宜変更可能である。また推定装置110は、予定経路の走行中においても、周期的に環境情報の取得および航続情報の推定を行う構成でもよい。この構成によれば、予定経路の設定後に取得された環境情報に基づく推定により、より正確に航続可能距離の変動を補正しうる。
【0071】
上述の実施形態において、推定装置110では、空白リンクが存在する場合、隣接リンクの環境情報で空白リンクの環境情報を代替していた。しかし、標準的なリンクの環境状態としてあらかじめ設定されている標準環境情報で空白リンクの環境情報を代替してもよい。
【0072】
上述の実施形態において、航続推定部117は、航続可能なノードまでの航続可能距離を推定してナビゲーション画像に表示させていた。しかし、航続可能距離の推定および表示に替えて、航続可能距離を示す範囲として予定経路のうち航続可能なノードまでのリンクをナビゲーション画像に表示させてもよい。
【0073】
上述の実施形態において、環境取得部113は渋滞中の環境情報などを取得しないとしていた。しかし、渋滞中などに係わらず環境状況を取得し、取得した環境情報に基づいてバッテリ温度や空調消費電力、走行抵抗の推定に用いるか否かを判断するとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 電気自動車、 110推定装置、 113 環境取得部、 114 温度推定部、 115 空調推定部、 116 抵抗推定部、 117 航続推定部
図1
図2
図3
図4